(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052135
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】水性液剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/454 20060101AFI20240404BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240404BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240404BHJP
A61P 27/06 20060101ALI20240404BHJP
A61K 33/22 20060101ALI20240404BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240404BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
A61K31/454
A61P27/02
A61P43/00 121
A61P27/06
A61K33/22
A61K9/08
A61K47/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158637
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000199175
【氏名又は名称】千寿製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100183678
【弁理士】
【氏名又は名称】丸島 裕
(72)【発明者】
【氏名】中村 祐輝
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076BB24
4C076CC10
4C076DD22Q
4C076FF37
4C076FF63
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC21
4C086GA07
4C086GA08
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA06
4C086MA17
4C086MA58
4C086NA03
4C086NA05
4C086ZA33
4C086ZC75
(57)【要約】
【課題】1-(6-(3,5-ジフルオロ-2-((2-メチル-4-(1-(2,2,2-トリフルオロエチル)ピペリジン-4-イル)ベンジル)オキシ)フェニル)ピリジン-2-イル)ピぺリジン-4-カルボン酸及び/又はその塩を含む水性液剤に関する製剤技術を提供する。
【解決手段】1-(6-(3,5-ジフルオロ-2-((2-メチル-4-(1-(2,2,2-トリフルオロエチル)ピペリジン-4-イル)ベンジル)オキシ)フェニル)ピリジン-2-イル)ピぺリジン-4-カルボン酸及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩とを含む、水性液剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1-(6-(3,5-ジフルオロ-2-((2-メチル-4-(1-(2,2,2-トリフルオロエチル)ピペリジン-4-イル)ベンジル)オキシ)フェニル)ピリジン-2-イル)ピぺリジン-4-カルボン酸及び/又はその塩と、
ホウ酸及び/又はその塩と
を含む、水性液剤。
【請求項2】
前記1-(6-(3,5-ジフルオロ-2-((2-メチル-4-(1-(2,2,2-トリフルオロエチル)ピペリジン-4-イル)ベンジル)オキシ)フェニル)ピリジン-2-イル)ピぺリジン-4-カルボン酸及び/又はその塩の濃度が、約0.01w/v%~約1w/v%である、請求項1に記載の水性液剤。
【請求項3】
前記1-(6-(3,5-ジフルオロ-2-((2-メチル-4-(1-(2,2,2-トリフルオロエチル)ピペリジン-4-イル)ベンジル)オキシ)フェニル)ピリジン-2-イル)ピぺリジン-4-カルボン酸及び/又はその塩の濃度が、約0.03w/v%~約0.3w/v%である、請求項1に記載の水性液剤。
【請求項4】
前記ホウ酸及び/又はその塩の濃度が、ホウ素濃度換算で約10mM~約1000mMである、請求項2に記載の水性液剤。
【請求項5】
前記ホウ酸及び/又はその塩の濃度が、ホウ素濃度換算で約50mM~約200mMである、請求項3に記載の水性液剤。
【請求項6】
温度25℃におけるpHが、約8.0~約9.0である、請求項4又は請求項5に記載の水性液剤。
【請求項7】
前記水性液剤が、ろ過滅菌水性液剤である、請求項6に記載の水性液剤。
【請求項8】
前記水性液剤が、透明性容器に収容されたものである、請求項7に記載の水性液剤。
【請求項9】
眼科用組成物である、請求項8に記載の水性液剤。
【請求項10】
点眼剤である、請求項9に記載の水性液剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性液剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)の活性剤として、下記一般式で表される化合物及び/又はその塩が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、該化合物及び/又はその塩が、緑内障又は高眼圧症の治療に使用できることが記載されている。
【0003】
【0004】
上記一般式中におけるR1~R5、A、X及びYの定義は、それぞれ、特許文献1に記載されているとおりである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記一般式で表される化合物及び/又はその塩を含む水性液剤、特に1-(6-(3,5-ジフルオロ-2-((2-メチル-4-(1-(2,2,2-トリフルオロエチル)ピペリジン-4-イル)ベンジル)オキシ)フェニル)ピリジン-2-イル)ピぺリジン-4-カルボン酸及び/又はその塩を含む水性液剤に関する製剤技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、1-(6-(3,5-ジフルオロ-2-((2-メチル-4-(1-(2,2,2-トリフルオロエチル)ピペリジン-4-イル)ベンジル)オキシ)フェニル)ピリジン-2-イル)ピぺリジン-4-カルボン酸及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩と、を含む水性液剤が、該カルボン酸及び/又はその塩の光安定性に優れることを見出した。
【0008】
また、本発明者は、1-(6-(3,5-ジフルオロ-2-((2-メチル-4-(1-(2,2,2-トリフルオロエチル)ピペリジン-4-イル)ベンジル)オキシ)フェニル)ピリジン-2-イル)ピぺリジン-4-カルボン酸及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩と、を含む水性液剤が、該カルボン酸及び/又はその塩のフィルターへの吸着を抑制できることを見出した。
【発明の効果】
【0009】
1-(6-(3,5-ジフルオロ-2-((2-メチル-4-(1-(2,2,2-トリフルオロエチル)ピペリジン-4-イル)ベンジル)オキシ)フェニル)ピリジン-2-イル)ピぺリジン-4-カルボン酸及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩と、を含む本発明の水性液剤は、該カルボン酸及び/又はその塩の光安定性に優れる。
【0010】
1-(6-(3,5-ジフルオロ-2-((2-メチル-4-(1-(2,2,2-トリフルオロエチル)ピペリジン-4-イル)ベンジル)オキシ)フェニル)ピリジン-2-イル)ピぺリジン-4-カルボン酸及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩と、を含む本発明の水性液剤は、該カルボン酸及び/又はその塩のフィルターへの吸着を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.定義
本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての専門用語及び科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。両者が矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0012】
本明細書において、「約」とは、特に断らない限り、「約」の後に続く数値の±10%を意味する。
【0013】
本明細書において、数値範囲「約n1~約n2」は、約n1以上約n2以下の数値範囲を意味する。ここでn1及びn2は、n1<n2を満たす任意の数である。
【0014】
本明細書において、「水性液剤」とは、水を基剤として含む液体状である製剤を意味し、1-(6-(3,5-ジフルオロ-2-((2-メチル-4-(1-(2,2,2-トリフルオロエチル)ピペリジン-4-イル)ベンジル)オキシ)フェニル)ピリジン-2-イル)ピぺリジン-4-カルボン酸及び/又はその塩、又はホウ酸及び/又はその塩は、水に溶解している状態となる。
【0015】
本明細書において、「水性液剤」は、滅菌処理された水性液剤と、滅菌処理されていない水性液剤と、の両方を包含し、例えば、ろ過滅菌された水性液剤と、ろ過滅菌されていない水性液剤と、の両方を包含する。本明細書において、「ろ過滅菌水性液剤」とは、ろ過滅菌された水性液剤を特に意味し、ウイルス又は細菌や真菌等の微生物が実質的に除去、殺菌又は非活性化された状態のものを指す。
【0016】
1-(6-(3,5-ジフルオロ-2-((2-メチル-4-(1-(2,2,2-トリフルオロエチル)ピペリジン-4-イル)ベンジル)オキシ)フェニル)ピリジン-2-イル)ピぺリジン-4-カルボン酸は、下記式(1)で表される化合物である。本明細書において、1-(6-(3,5-ジフルオロ-2-((2-メチル-4-(1-(2,2,2-トリフルオロエチル)ピペリジン-4-イル)ベンジル)オキシ)フェニル)ピリジン-2-イル)ピぺリジン-4-カルボン酸を、「化合物(A)」とも記載する。
【化2】
【0017】
本明細書において、「ホウ酸」とは、ホウ素のオキソ酸である。
【0018】
本明細書において、「化合物(A)及び/又はその塩の濃度」とは、特に明記しない限り、化合物(A)のフリー体に換算された濃度である。「化合物(A)及び/又はその塩の含有量」とは、特に明記しない限り、化合物(A)のフリー体に換算された含有量である。
【0019】
本明細書において、「光安定性」とは、水性液剤を光曝露したときにおける、水性液剤中の化合物(A)及び/又はその塩の含有量が維持される度合いを指す。本明細書において、「光安定化」とは、水性液剤を光曝露したときにおける、水性液剤中の化合物(A)及び/又はその塩の含有量の低下が抑制されることを意味する。
【0020】
本明細書において、「フィルターへの吸着抑制性」とは、水性液剤における化合物(A)及び/又はその塩のフィルターへの吸着が抑制されている性質を指す。
【0021】
本明細書において、「透明性容器」とは、不溶性異物検査法の試験に支障をきたさず内部が視認できる程度の透明性を有する容器を指す。本明細書において、「無色透明」の容器とは、不溶性異物検査法の試験に支障をきたさず内部が視認できる程度の透明性を有する容器を指す。「不溶性異物検査法」とは、第十八改正日本薬局方「一般試験法 6.製剤試験法」の「6.11 点眼剤の不溶性異物検査法」(該検査法において、白色光源の明るさは4,000(lx)とする)を指す。
【0022】
本明細書において、「フィルター」とは、水性液剤を通過させるが、ウイルス又は細菌や真菌等の微生物の通過が抑制された多孔性膜を指す。フィルターの孔径は、例えば約5μm以下、好ましくは約0.1μm~約2.5μm、より好ましくは約0.2μm~約1μmである。
【0023】
本明細書において、「フィルター付き容器」とは、水性液剤を収容する容器であって、容器内部と容器外部とがフィルターで隔離されており、使用時に容器内部の水性液剤がフィルターを通過して容器外部に注出される構造を有する容器を指す。フィルター付き容器の一実施形態として、開口部を有する容器本体と、水性液剤を容器外部に注出するための流路が設けられたノズルとを有し、容器本体の開口部にノズルが装着されており、該ノズルの流路を塞ぐようにフィルターが設けられている容器が挙げられる。
【0024】
本明細書において、「ポリエチレン製容器」とは、水性液剤を収容する容器であって、少なくとも、収容した水性液剤と接触する内壁がポリエチレンで形成されている容器である。
【0025】
本明細書において、「ポリプロピレン製容器」とは、水性液剤を収容する容器であって、少なくとも、収容した水性液剤と接触する内壁がポリプロピレンで形成されている容器である。
【0026】
本明細書において、「マルチドーズ型容器」とは、複数回分の使用量の水性液剤が充填され、繰返し点眼するための容器を指す。本明細書において、「ユニットドーズ型容器」とは、単回分の使用量の水性液剤が充填され、1回の点眼で使い終わる容器を指す。
【0027】
本明細書において、「医薬製品」とは、化合物(A)及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩と、を含む水性液剤が、容器に収容されている状態にある製品を指す。
【0028】
2.態様
[1.水性液剤及び医薬製品]
本発明は、以下の態様の水性液剤及び医薬製品を提供する。
項1-1. 化合物(A)及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩とを含む、水性液剤。
項1-2. 前記化合物(A)及び/又はその塩の濃度が、約0.01w/v%~約1w/v%である、前記項に記載の水性液剤。
項1-3. 前記化合物(A)及び/又はその塩の濃度が、約0.03w/v%~約0.3w/v%である、前記のいずれか一項に記載の水性液剤。
項1-4. 前記ホウ酸及び/又はその塩の濃度が、ホウ素濃度換算で約10mM~約1000mMである、前記のいずれか一項に記載の水性液剤。
項1-5. 前記ホウ酸及び/又はその塩の濃度が、ホウ素濃度換算で約50mM~約200mMである、前記のいずれか一項に記載の水性液剤。
項1-6. 温度25℃におけるpHが、約8.0~約9.0である、前記のいずれか一項に記載の水性液剤。
項1-7. 前記水性液剤が、ろ過滅菌水性液剤である、前記のいずれか一項に記載の水性液剤。
項1-8. 前記水性液剤が、透明性容器に収容されたものである、前記のいずれか一項に記載の水性液剤。
項1-9. 眼科用組成物である、前記のいずれか一項に記載の水性液剤。
項1-10. 点眼剤である、前記のいずれか一項に記載の水性液剤。
項1-11. 前記ろ過滅菌水性液剤が、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、及び酢酸セルロース(CA)から選択される少なくとも1種の膜フィルターを用いてろ過して調製される、前記のいずれか一項に記載の水性液剤。
項1-12. 前記透明性容器の材質が、ポリエチレン又はポリプロピレンである、前記のいずれか一項に記載の水性液剤。
項1-13. 前記透明性容器が、マルチドーズ型容器である、前記のいずれか一項に記載の水性液剤。
項1-14. 前記透明性容器が、フィルター付き容器である、前記のいずれか一項に記載の水性液剤。
項1-15. 前記フィルターを構成する材料が、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、及び酢酸セルロース(CA)から選択される少なくとも1種である、前記のいずれか一項に記載の水性液剤。
項1-16. 前記化合物(A)及び/又はその塩の下記式(E1)で表される含有量の維持率が、約90%以上である、前記のいずれか一項に記載の水性液剤。
含有量の維持率(%) = (A1/A2)×100 …(E1)
[前記式(E1)中、A1は、容量5mLの無色透明のガラス容器に前記水性液剤5mLを収容した遮光されていない試験体に、温度25℃の条件下にて、白色蛍光灯を光源として照度3,000(lx)の光を17時間照射した後の、前記水性液剤における前記化合物(A)及び/又はその塩の濃度(w/v%)を示す。A2は、容量5mLの無色透明のガラス容器に前記水性液剤5mLを収容した遮光された試験体に、温度25℃の条件下にて、白色蛍光灯を光源として照度3,000(lx)の光を17時間照射した後の、前記水性液剤における前記化合物(A)及び/又はその塩の濃度(w/v%)を示す。]
項1-17. 前記化合物(A)及び/又はその塩の下記式(E2)で表される回収率が、約95%以上である、前記のいずれか一項に記載の水性液剤。
回収率(%) = (A3/A4)×100 …(E2)
[前記式(E2)中、A3は、孔径0.22μmのポリエーテルスルホン製の膜フィルター(Millex-GP、型番:SLGP033NB、メルクミリポア社)通過後の前記水性液剤における前記化合物(A)及び/又はその塩の濃度(w/v%)を示す。A4は、前記ポリエーテルスルホン製の膜フィルター通過前の前記水性液剤における前記化合物(A)及び/又はその塩の濃度(w/v%)を示す。]
項1-18. 化合物(A)及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩とを含む水性液剤であって、
前記化合物(A)及び/又はその塩の濃度が、約0.01w/v%~約1w/v%であり、
前記ホウ酸及び/又はその塩の濃度が、ホウ素濃度換算で約10mM~約1000mMであり、
前記水性液剤の温度25℃におけるpHが、約8.0~約9.0である、水性液剤。
項1-19. 化合物(A)及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩とを含むろ過滅菌水性液剤であって、
前記化合物(A)及び/又はその塩の濃度が、約0.01w/v%~約1w/v%であり、
前記ホウ酸及び/又はその塩の濃度が、ホウ素濃度換算で約10mM~約1000mMであり、
前記水性液剤の温度25℃におけるpHが、約8.0~約9.0である、ろ過滅菌水性液剤。
項1-20. 化合物(A)及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩とを含む水性液剤、並びに透明性容器を含む、医薬製品であって、
前記化合物(A)及び/又はその塩の濃度が、約0.01w/v%~約1w/v%であり、
前記ホウ酸及び/又はその塩の濃度が、ホウ素濃度換算で約10mM~約1000mMであり、
前記水性液剤の温度25℃におけるpHが、約8.0~約9.0であり、
前記水性液剤は、前記透明性容器に収容されている、医薬製品。
項1-21. 化合物(A)及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩とを含むろ過滅菌水性液剤、並びに透明性容器を含む、医薬製品であって、
前記化合物(A)及び/又はその塩の濃度が、約0.01w/v%~約1w/v%であり、
前記ホウ酸及び/又はその塩の濃度が、ホウ素濃度換算で約10mM~約1000mMであり、
前記ろ過滅菌水性液剤の温度25℃におけるpHが、約8.0~約9.0であり、
前記ろ過滅菌水性液剤は、前記透明性容器に収容されている、医薬製品。
【0029】
[2.ろ過滅菌水性液剤及び医薬製品]
本発明は、以下の態様のろ過滅菌水性液剤及び医薬製品を提供する。
項2-1. 化合物(A)及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩とを含む水性液剤を、膜フィルターを用いてろ過して調製される、ろ過滅菌水性液剤。
項2-2. 前記ろ過滅菌水性液剤における前記化合物(A)及び/又はその塩の濃度が、約0.01w/v%~約1w/v%である、前記項に記載のろ過滅菌水性液剤。
項2-3. 前記ろ過滅菌水性液剤における前記化合物(A)及び/又はその塩の濃度が、約0.03w/v%~約0.3w/v%である、前記のいずれか一項に記載のろ過滅菌水性液剤。
項2-4. 前記ろ過滅菌水性液剤における前記ホウ酸及び/又はその塩の濃度が、ホウ素濃度換算で約10mM~約1000mMである、前記のいずれか一項に記載のろ過滅菌水性液剤。
項2-5. 前記ろ過滅菌水性液剤における前記ホウ酸及び/又はその塩の濃度が、ホウ素濃度換算で約50mM~約200mMである、前記のいずれか一項に記載のろ過滅菌水性液剤。
項2-6. 温度25℃におけるpHが、約8.0~約9.0である、前記のいずれか一項に記載のろ過滅菌水性液剤。
項2-7. 前記膜フィルターを構成する材料が、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、及び酢酸セルロース(CA)から選択される少なくとも1種である、前記のいずれか一項に記載のろ過滅菌水性液剤。
項2-8. 透明性容器及び水性液剤を含む医薬製品であって、
前記水性液剤が、前記のいずれか一項に記載のろ過滅菌水性液剤であり、前記透明性容器に収容されている、医薬製品。
項2-9. 前記透明性容器の材質が、ポリエチレン又はポリプロピレンである、前記項に記載の医薬製品。
項2-10. 前記透明性容器が、フィルター付き容器である、前記のいずれか一項に記載の医薬製品。
項2-11. 前記フィルターを構成する材料が、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、及び酢酸セルロース(CA)から選択される少なくとも1種を含む、前記のいずれか一項に記載の医薬製品。
項2-12. 化合物(A)及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩とを含む水性液剤を、膜フィルターを用いてろ過して調製される、ろ過滅菌水性液剤であって、
前記膜フィルターを構成する材料が、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、及び酢酸セルロース(CA)から選択される少なくとも1種であり、
前記ろ過滅菌水性液剤における前記化合物(A)及び/又はその塩の濃度が、約0.01w/v%~約1w/v%であり、
前記ろ過滅菌水性液剤における前記ホウ酸及び/又はその塩の濃度が、ホウ素濃度換算で約10mM~約1000mMであり、
前記ろ過滅菌水性液剤の温度25℃におけるpHが、約8.0~約9.0であり、
前記ろ過滅菌水性液剤が、透明性容器に収容されている、ろ過滅菌水性液剤。
項2-13. ろ過滅菌水性液剤及び透明性容器を含む医薬製品であって、
前記ろ過滅菌水性液剤は、化合物(A)及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩とを含む水性液剤を、膜フィルターを用いてろ過して調製されたものであり、
前記膜フィルターを構成する材料が、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、及び酢酸セルロース(CA)から選択される少なくとも1種であり、
前記ろ過滅菌水性液剤における前記化合物(A)及び/又はその塩の濃度が、約0.01w/v%~約1w/v%であり、
前記ろ過滅菌水性液剤における前記ホウ酸及び/又はその塩の濃度が、ホウ素濃度換算で約10mM~約1000mMであり、
前記ろ過滅菌水性液剤の温度25℃におけるpHが、約8.0~約9.0であり、
前記ろ過滅菌水性液剤が、透明性容器に収容されている、医薬製品。
【0030】
[3.水性液剤の製造方法及び医薬製品の製造方法]
本発明は、以下の態様の水性液剤の製造方法及び医薬製品の製造方法を提供する。
項3-1. 化合物(A)及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩と、水とを混合する工程を含む、水性液剤の製造方法。
項3-2. 化合物(A)及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩と、水とを混合して、水性液剤を調製する工程と、
前記水性液剤を、膜フィルターを用いてろ過して、ろ過滅菌水性液剤を調製する工程とを含む、ろ過滅菌水性液剤の製造方法。
項3-3. 前記膜フィルターを構成する材料が、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、及び酢酸セルロース(CA)から選択される少なくとも1種である、前記のいずれか一項に記載の水性液剤の製造方法。
項3-4. 前記化合物(A)及び/又はその塩の下記式(E3)で表される回収率が、約95%以上である、前記のいずれか一項に記載の水性液剤の製造方法。
回収率(%) = (A5/A6)×100 …(E3)
[前記式(E3)中、A5は、膜フィルター通過後の前記水性液剤における前記化合物(A)及び/又はその塩の濃度(w/v%)を示す。A6は、膜フィルター通過前の前記水性液剤における前記化合物(A)及び/又はその塩の濃度(w/v%)を示す。]
項3-5. 前記化合物(A)及び/又はその塩の濃度が、約0.01w/v%~約1w/v%である、前記のいずれか一項に記載の水性液剤の製造方法。
項3-6. 前記化合物(A)及び/又はその塩の濃度が、約0.03w/v%~約0.3w/v%である、前記のいずれか一項に記載の水性液剤の製造方法。
項3-7. 前記ホウ酸及び/又はその塩の濃度が、ホウ素濃度換算で約10mM~約1000mMである、前記のいずれか一項に記載の水性液剤の製造方法。
項3-8. 前記ホウ酸及び/又はその塩の濃度が、ホウ素濃度換算で約50mM~約200mMである、前記のいずれか一項に記載の水性液剤の製造方法。
項3-9. 前記水性液剤の温度25℃におけるpHが、約8.0~約9.0である、前記のいずれか一項に記載の水性液剤の製造方法。
項3-10. 化合物(A)及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩と、水とを混合して、水性液剤を調製する工程と、前記水性液剤を、膜フィルターを用いてろ過して、ろ過滅菌水性液剤を調製する工程と、ろ過滅菌水性液剤を透明性容器に充填する工程とを含む、医薬製品の製造方法。
項3-11. 前記透明性容器の材質が、ポリエチレン又はポリプロピレンである、上記に記載の医薬製品の製造方法。
項3-12. 前記化合物(A)及び/又はその塩の下記式(E1)で表される含有量の維持率が、約90%以上である、前記のいずれか一項に記載の医薬製品の製造方法。
含有量の維持率(%) = (A1/A2)×100 …(E1)
[前記式(E1)中、A1は、容量5mLの無色透明のガラス容器に前記水性液剤5mLを収容した遮光されていない試験体に、温度25℃の条件下にて、白色蛍光灯を光源として照度3,000(lx)の光を17時間照射した後の、前記水性液剤における前記化合物(A)及び/又はその塩の濃度(w/v%)を示す。A2は、容量5mLの無色透明のガラス容器に前記水性液剤5mLを収容した遮光された試験体に、温度25℃の条件下にて、白色蛍光灯を光源として照度3,000(lx)の光を17時間照射した後の、前記水性液剤における前記化合物(A)及び/又はその塩の濃度(w/v%)を示す。]
【0031】
[4.光安定化剤]
本発明は、以下の態様の光安定化剤を提供する。
項4-1. 化合物(A)及び/又はその塩を含む水性液剤における前記化合物(A)及び/又はその塩の光安定性を向上させるために用いられる、ホウ酸及び/又はその塩を含む光安定化剤。
項4-2. 前記水性液剤における前記化合物(A)及び/又はその塩の濃度が、約0.01w/v%~約1w/v%である、前記項に記載の光安定化剤。
項4-3. 前記水性液剤における前記ホウ酸及び/又はその塩の濃度が、ホウ素濃度換算で約10mM~約1000mMである、前記のいずれか一項に記載の光安定化剤。
【0032】
[5.光安定化方法]
本発明は、以下の態様の光安定化方法を提供する。
項5-1. 化合物(A)及び/又はその塩を含む水性液剤における前記化合物(A)及び/又はその塩の光安定性を向上させる方法であって、前記水性液剤中で、前記化合物(A)及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩とを共存させる、方法。
項5-2. 化合物(A)及び/又はその塩を含む水性液剤における光曝露による前記化合物(A)及び/又はその塩の分解を抑制する方法であって、前記水性液剤中で、前記化合物(A)及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩とを共存させる、方法。
項5-3. 前記化合物(A)及び/又はその塩の濃度が、約0.01w/v%~約1w/v%である、前記のいずれか一項に記載の方法。
項5-4. 前記ホウ酸及び/又はその塩の濃度が、ホウ素濃度換算で約10mM~約1000mMである、前記のいずれか一項に記載の方法。
【0033】
[6.吸着抑制剤]
本発明は、以下の態様の吸着抑制剤を提供する。
項6-1. 化合物(A)及び/又はその塩を含む水性液剤における前記化合物(A)及び/又はその塩の膜フィルターへの吸着を抑制するために用いられる、ホウ酸及び/又はその塩を含む吸着抑制剤。
項6-2. 前記水性液剤における前記化合物(A)及び/又はその塩の濃度が、約0.01w/v%~約1w/v%である、前記項に記載の吸着抑制剤。
項6-3. 前記水性液剤における前記ホウ酸及び/又はその塩の濃度が、ホウ素濃度換算で約10mM~約1000mMである、前記のいずれか一項に記載の吸着抑制剤。
項6-4. 前記膜フィルターを構成する材料が、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、及び酢酸セルロース(CA)から選択される少なくとも1種である、前記のいずれか一項に記載の吸着抑制剤。
【0034】
[7.吸着抑制方法]
本発明は、以下の態様の吸着抑制方法を提供する。
項7-1. 化合物(A)及び/又はその塩を含む水性液剤における前記化合物(A)及び/又はその塩の膜フィルターへの吸着を抑制する方法であって、前記水性液剤中で、前記化合物(A)及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩とを共存させる、方法。
項7-2. 前記化合物(A)及び/又はその塩の濃度が、約0.01w/v%~約1w/v%である、前記項に記載の方法。
項7-3. 前記ホウ酸及び/又はその塩の濃度が、ホウ素濃度換算で約10mM~約1000mMである、前記のいずれか一項に記載の方法。
項7-4. 前記膜フィルターを構成する材料が、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、及び酢酸セルロース(CA)から選択される少なくとも1種を含む、前記のいずれか一項に記載の方法。
【0035】
3.各態様の説明
以下に各態様の実施形態について記載するが、これらの実施形態は本発明の例示であり、本発明の範囲はそのような好ましい実施形態に限定されないことが理解されるべきである。当業者はまた、以下のような好ましい実施形態を参考にして、本発明の範囲内にある改変、変更などを容易に行うことができることが理解されるべきである。これらの実施形態について、当業者は適宜、任意の実施形態を組み合わせることができる。
【0036】
[水性液剤]
本発明者は、化合物(A)及び/又はその塩を含む水性液剤において、化合物(A)及び/又はその塩の含有量が光曝露により経時的に低下することを見出した。このような化合物(A)及び/又はその塩の含有量の低下は、化合物(A)及び/又はその塩の薬理効果を減弱させる。このため、水性液剤中の化合物(A)及び/又はその塩の含有量の低下を抑制し、化合物(A)及び/又はその塩の含有量を安定して維持する製剤技術を開発することは重要である。
【0037】
このような状況の下、本発明者は、化合物(A)及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩と、を含む水性液剤が、光曝露による化合物(A)及び/又はその塩の分解等を抑制し、化合物(A)及び/又はその塩の含有量の光曝露による低下を抑制できることを見出した。すなわち本発明者は、化合物(A)及び/又はその塩を含む水性液剤における、化合物(A)及び/又はその塩の含有量の光曝露による低下を、ホウ酸及び/又はその塩が抑制できることを見出した。
【0038】
このように本発明の水性液剤の一態様では、化合物(A)及び/又はその塩を含む水性液剤において化合物(A)及び/又はその塩の含有量が光曝露により低下するという課題が解決される。化合物(A)及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩と、を含む水性液剤は、化合物(A)及び/又はその塩の光安定性に優れる。したがって、本発明の水性液剤の一態様は、化合物(A)及び/又はその塩に基づく所望の薬理効果を長期間維持できる。
【0039】
点眼剤及び洗眼剤等の水性液剤は、微生物の繁殖を抑制するために、通常は製造時に膜フィルターを用いた滅菌工程に供されている。本発明者は、化合物(A)及び/又はその塩を含む水性液剤が膜フィルターを通過すると、該膜フィルターに化合物(A)及び/又はその塩が吸着して、化合物(A)及び/又はその塩の含有量が低下することを見出した。また、水性液剤をフィルター付き容器に収容して使用する場合にも、容器からの注出時に化合物(A)及び/又はその塩がフィルターに吸着する。このような化合物(A)及び/又はその塩のフィルターへの吸着は、水性液剤中の化合物(A)及び/又はその塩の含有量を低下させ、化合物(A)及び/又はその塩の薬理効果を減弱させる。このため、水性液剤中の化合物(A)及び/又はその塩のフィルターへの吸着を抑制し、化合物(A)及び/又はその塩の含有量をフィルター通過の前後で維持する製剤技術を開発することは重要である。
【0040】
このような状況の下、本発明者は、化合物(A)及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩と、を含む水性液剤が、フィルター通過時に化合物(A)及び/又はその塩のフィルターへの吸着を抑制でき、フィルター通過による水性液剤中の化合物(A)及び/又はその塩の含有量の低下を抑制できることを見出した。すなわち本発明者は、化合物(A)及び/又はその塩を含む水性液剤における、化合物(A)及び/又はその塩のフィルターへの吸着を、ホウ酸及び/又はその塩が抑制できることを見出した。
【0041】
このように本発明の水性液剤の一態様では、化合物(A)及び/又はその塩を含む水性液剤において化合物(A)及び/又はその塩がフィルターに吸着するという課題が解決される。化合物(A)及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩と、を含む水性液剤は、化合物(A)及び/又はその塩のフィルターへの吸着抑制性に優れる。
【0042】
したがって、本発明の水性液剤をその製造時に膜フィルターを用いた滅菌工程に供しても、滅菌工程時における水性液剤中の化合物(A)及び/又はその塩の含有量の低下を抑制できる。あるいは、本発明の水性液剤をフィルター付き容器に収容した場合に、使用時にフィルターを通過して容器外に注出された水性液剤における化合物(A)及び/又はその塩の含有量の低下を抑制できる。したがって、本発明の水性液剤の一態様は、化合物(A)及び/又はその塩に基づく所望の薬理効果を維持できる。
【0043】
以下、本発明の水性液剤について具体的に説明する。
【0044】
<化合物(A)及び/又はその塩>
本発明の水性液剤は、化合物(A)及び/又はその塩を含む。
化合物(A)の塩としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されない。化合物(A)は、好適な塩基と反応させることにより薬学的に許容可能な塩を形成できる。好適な塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム又は水酸化カルシウム等の水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム又は炭酸カルシウム等の炭酸塩、水素化ナトリウム又は水素化カリウム等の水素化物、及びアンモニウム塩が挙げられる。化合物(A)の塩としては、例えば、ナトリウム塩及びカリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩及びマグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;並びにアンモニウム塩が挙げられる。化合物(A)の塩は、水和物等の溶媒和物の形態でもよい。
【0045】
化合物(A)の塩としては、具体的には、1-(6-(3,5-ジフルオロ-2-((2-メチル-4-(1-(2,2,2-トリフルオロエチル)ピペリジン-4-イル)ベンジル)オキシ)フェニル)ピリジン-2-イル)ピペリジン-4-カルボン酸,ナトリウム塩が挙げられる。
【0046】
化合物(A)及び/又はその塩の製造方法は特に限定されない。化合物(A)及び/又はその塩は、例えば、国際公開第2016/042536号(特表2017-527602号公報)に記載されている方法により製造できる。
【0047】
水性液剤は、化合物(A)及びその塩のいずれか一方を単独で含んでもよく、化合物(A)及びその塩の両方を含んでもよい。水性液剤は、化合物(A)の塩を2種以上含んでもよい。化合物(A)及びその塩の中でも、化合物(A)が好ましい。
【0048】
水性液剤における化合物(A)及び/又はその塩の濃度は、好ましくは約0.01w/v%~約1w/v%、より好ましくは約0.02w/v%~約0.3w/v%、さらに好ましくは約0.03w/v%~約0.3w/v%、特に好ましくは約0.03w/v%~約0.2w/v%である。
【0049】
<ホウ酸及び/又はその塩>
本発明の水性液剤は、ホウ酸及び/又はその塩を含む。
ホウ酸及び/又はその塩は、従来、緩衝剤として用いられている成分である。本発明者は、驚くべきことに、ホウ酸及び/又はその塩が、緩衝剤としての作用だけでなく、化合物(A)及び/又はその塩の光安定性の向上作用と、化合物(A)及び/又はその塩のフィルターへの吸着抑制性とを有することを見出した。
【0050】
ホウ酸としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、オルトホウ酸、メタホウ酸及びテトラホウ酸が挙げられる。ホウ酸の中でも、オルトホウ酸及びテトラホウ酸が好ましく、オルトホウ酸がより好ましい。水性液剤は、ホウ酸を1種含んでもよく、2種以上含んでもよい。
【0051】
ホウ酸の塩としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、ナトリウム塩及びカリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩及びマグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩;並びにトリエチルアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピペラジン及びピロリジン等の有機アミン塩が挙げられる。ホウ酸の塩は、ホウ砂等のように、水和物等の溶媒和物の形態でもよい。水性液剤は、ホウ酸の塩を1種含んでもよく、2種以上含んでもよい。
【0052】
水性液剤は、ホウ酸及びその塩のいずれか一方を単独で含んでもよく、ホウ酸及びその塩の両方を含んでもよい。ホウ酸及びその塩の中でも、化合物(A)及び/又はその塩の光安定性及びフィルターへの吸着抑制性をより一層向上させるという観点から、ホウ酸が好ましく、オルトホウ酸がより好ましい。
【0053】
水性液剤におけるホウ酸及び/又はその塩の濃度は、ホウ素濃度換算で、好ましくは約10mM~約1000mM(mmol/L)、より好ましくは約50mM~約200mM、さらに好ましくは約70mM~約170mMである。ホウ酸及び/又はその塩を上記濃度で含む水性液剤は、化合物(A)及び/又はその塩の光安定性及びフィルターへの吸着抑制性により一層優れる。本明細書において、「ホウ素濃度換算」とは、ホウ酸及び/又はその塩の濃度を、ホウ酸及び/又はその塩に由来するホウ素原子の濃度に換算することを指す。
【0054】
<添加剤>
本発明の水性液剤は、必要に応じて、添加剤を含んでもよい。
添加剤としては、例えば、界面活性剤、粘稠剤、ホウ酸及びその塩以外の緩衝剤、等張化剤、キレート剤、防腐剤又は保存剤、安定化剤並びにpH調整剤が挙げられる。
【0055】
界面活性剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、チロキサポール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル及びオクトキシノール等の非イオン性界面活性剤;アルキルジアミノエチルグリシン及びラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン等の両性界面活性剤;アルキル硫酸塩、N-アシルタウリン塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩及びポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩等の陰イオン界面活性剤;並びにアルキルピリジニウム塩及びアルキルアミン塩等の陽イオン界面活性剤が挙げられる。水性液剤は、界面活性剤を1種含んでもよく、2種以上含んでもよい。
【0056】
水性液剤が界面活性剤を含有する場合、界面活性剤の濃度は、例えば約0.005w/v%~約3w/v%、好ましくは約0.005w/v%~約2w/v%、より好ましくは約0.01w/v%~約2w/v%、さらに好ましくは約0.01w/v%~約1w/v%、特に好ましくは約0.01w/v%~約0.1w/v%である。
【0057】
粘稠剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、キサンタンガム、コンドロイチン硫酸ナトリウム及びヒアルロン酸ナトリウム等の水溶性高分子;並びにヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びカルボキシメチルセルロースナトリウム等のセルロース類が挙げられる。水性液剤は、粘稠剤を1種含んでもよく、2種以上含んでもよい。
【0058】
水性液剤が粘稠剤を含有する場合、粘稠剤の濃度は、例えば約0.1w/v%~約1w/v%、好ましくは約0.1w/v%~約0.5w/v%、より好ましくは約0.3w/v%~約0.5w/v%である。
【0059】
本明細書において、「緩衝剤」とは、水性液剤の水素イオン濃度(pH)の変動を和らげる作用を持つ化合物又は混合物のことを指す。緩衝剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、クエン酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、トリス緩衝剤、酒石酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、炭酸緩衝剤及びアミノ酸緩衝剤が挙げられる。水性液剤は、緩衝剤を1種含んでもよく、2種以上含んでもよい。
【0060】
本発明の水性液剤において、ホウ酸及び/又はその塩は緩衝剤としても機能しえる。したがって、水性液剤は、ホウ酸及びその塩以外の上記緩衝剤を含まなくともよい。
【0061】
水性液剤は、一実施形態において、ホウ酸及び/又はその塩を含み、ホウ酸及びその塩以外の他の緩衝剤を実質的に含まなくともよい。他の緩衝剤を実質的に含まないとは、他の緩衝剤の濃度が、好ましくは約10mM未満、より好ましくは約1mM以下、さらに好ましくは約0.1mM以下であることを意味する。
【0062】
等張化剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ブチレングリコール及びポリエチレングリコール等の多価アルコール;並びに塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム及びリン酸二水素ナトリウム等の金属塩が挙げられる。水性液剤は、等張化剤を1種含んでもよく、2種以上含んでもよい。
【0063】
キレート剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、エデト酸、クエン酸、コハク酸、アスコルビン酸、トリヒドロキシメチルアミノメタン、ニトリロトリ酢酸、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸、ポリリン酸、メタリン酸及びヘキサメタリン酸、並びにこれらの塩が挙げられる。塩の形態としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、ナトリウム塩及びカリウム塩等のアルカリ金属塩が挙げられる。水性液剤は、キレート剤を1種含んでもよく、2種以上含んでもよい。
【0064】
防腐剤又は保存剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、ソルビン酸又はその塩、安息香酸又はその塩、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、クロロブタノール、塩化ベンザルコニウム、クロルヘキシジン塩酸塩、クロルヘキシジングルコン酸塩、クロルヘキシジン酢酸塩、デヒドロ酢酸又はその塩、塩化ベンゼトニウム、ベンジルアルコール、塩化亜鉛、パラクロルメタキシレノール、クロルクレゾール、フェネチルアルコール、塩化ポリドロニウム、チメロサール及びジブチルヒドロキシトルエンが挙げられる。水性液剤は、防腐剤を1種含んでもよく、2種以上含んでもよい。水性液剤は、保存剤を1種含んでもよく、2種以上含んでもよい。
【0065】
安定化剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、ポリビニルピロリドン、亜硫酸塩、モノエタノールアミン、シクロデキストリン、デキストラン、アスコルビン酸、タウリン、トコフェロール及びジブチルヒドロキシトルエンが挙げられる。水性液剤は、安定化剤を1種含んでもよく、2種以上含んでもよい。
【0066】
pH調整剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、塩酸、酢酸、アミノエチルスルホン酸及びイプシロン-アミノカプロン酸等の酸;並びに水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、炭酸水素ナトリウム及び炭酸ナトリウム等のアルカリが挙げられる。水性液剤は、pH調整剤を1種含んでもよく、2種以上含んでもよい。
【0067】
各添加剤の濃度は、使用する添加剤の種類及び水性液剤に付与すべき特性等に応じて適宜設定すればよい。
【0068】
<pH>
本発明の水性液剤の温度25℃におけるpHは、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば約5.0~約9.0、好ましくは約6.0~約9.0、より好ましくは約7.0~約9.0、さらに好ましくは約8.0~約9.0、特に好ましくは約8.2~約8.8である。水性液剤が、点眼剤及び洗眼剤等の眼科用組成物の場合であれば、眼粘膜に適用可能である眼への刺激をより緩和するという観点から、pH約8.0~約9.0の範囲が好ましい。
【0069】
<浸透圧比>
本発明の水性液剤の浸透圧比は、特に制限されないが、例えば約0.5~約4、好ましくは約0.7~約2、より好ましくは約0.9~約1.5である。浸透圧比は、0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液の浸透圧に対する、水性液剤の浸透圧の比率であり、浸透圧は第十八改正日本薬局方に規定されている「浸透圧測定法(オスモル濃度測定法)」に従って測定される。
【0070】
<含有量の維持率>
本発明の水性液剤の一実施形態において、化合物(A)及び/又はその塩の下記式(E1)で表される含有量の維持率は、好ましくは約90%以上であり、より好ましくは約91%以上、さらに好ましくは約92%以上である。このような水性液剤は、化合物(A)及び/又はその塩の光安定性により優れる。該維持率は、高いほど好ましいが、例えば約99%以下、約98%以下、又は約95%以下でもよい。
含有量の維持率(%) = (A1/A2)×100 …(E1)
【0071】
式(E1)中、A1は、容量5mLの無色透明のガラス容器に水性液剤5mLを収容した遮光されていない試験体(以下「曝光品」ともいう)に、温度25℃の条件下にて、白色蛍光灯を光源として照度3,000(lx)の光を17時間照射した後の、水性液剤における化合物(A)及び/又はその塩の濃度(w/v%)を示す。A2は、容量5mLの無色透明のガラス容器に水性液剤5mLを収容した遮光された試験体(以下「遮光品」ともいう)に、温度25℃の条件下にて、白色蛍光灯を光源として照度3,000(lx)の光を17時間照射した後の、水性液剤における化合物(A)及び/又はその塩の濃度(w/v%)を示す。
【0072】
光曝露後の遮光品及び曝光品に含まれる水性液剤における化合物(A)及び/又はその塩の濃度は、以下に示す条件で高速液体クロマトグラフシステム(HPLC、株式会社島津製作所)によって測定される。
【0073】
HPLC条件
・検出器:紫外吸光光度計(測定波長:270nm)
・カラム:ACQUITY UPLC BEH C18、1.7μm、
内径2.1mm×長さ50mm、Waters社
・カラム温度:35℃
・移動相A:0.05%ギ酸水溶液
・移動相B:0.05%ギ酸アセトニトリル溶液
・流速:0.4mL/min
【0074】
<回収率>
本発明の水性液剤の一実施形態において、化合物(A)及び/又はその塩の下記式(E2)で表される回収率は、好ましくは約95%以上であり、より好ましくは約95.5%以上、さらに好ましくは約96%以上である。このような水性液剤は、化合物(A)及び/又はその塩のフィルターへの吸着抑制性により優れる。
回収率(%) = (A3/A4)×100 …(E2)
【0075】
式(E2)中、A3は、孔径0.22μmのポリエーテルスルホン製の膜フィルター(Millex-GP、型番:SLGP033NB、メルクミリポア社)通過後の水性液剤における化合物(A)及び/又はその塩の濃度(w/v%)を示す。A4は、上記ポリエーテルスルホン製の膜フィルター通過前の水性液剤における化合物(A)及び/又はその塩の濃度(w/v%)を示す。本回収率の算出において、水性液剤の膜フィルターの通過(ろ過)は、25℃において行う。上記濃度は、上述したHPLCによって測定される。
【0076】
水性液剤の一実施形態において、ポリエーテルスルホン(PES)製の膜フィルターにかえて、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)製の膜フィルター、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製の膜フィルター、又は酢酸セルロース(CA)製の膜フィルターを用いた場合においても、上記回収率が約95%以上であることが好ましい。
【0077】
<ろ過滅菌水性液剤>
本発明の水性液剤は、一態様において、ろ過滅菌水性液剤である。ろ過滅菌水性液剤は、例えば、化合物(A)及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩とを含む水性液剤を、膜フィルターを用いてろ過して調製される。
【0078】
膜フィルターを構成する材料としては、例えば、PES、PVDF、PTFE、及びCAが挙げられ、これらの中でもPES及びPVDFが好ましく、PESがより好ましい。膜フィルターは、該材料を1種含んでもよく、2種以上含んでもよい。膜フィルターとしては、具体的には、PES製の膜フィルター、PVDF製の膜フィルター、PTFE製の膜フィルター、及びCA製の膜フィルターが挙げられ、これらの中でもPES製の膜フィルター、及びPVDF製の膜フィルターが好ましい。膜フィルターの孔径は、例えば約5μm以下、好ましくは約0.1μm~約2.5μm、より好ましくは約0.2μm~約1μmである。
【0079】
ろ過滅菌水性液剤における化合物(A)及び/又はその塩の濃度は、好ましくは約0.01w/v%~約1w/v%、より好ましくは約0.02w/v%~約0.3w/v%、さらに好ましくは約0.03w/v%~約0.3w/v%、特に好ましくは約0.03w/v%~約0.2w/v%である。
【0080】
ろ過滅菌水性液剤におけるホウ酸及び/又はその塩の濃度は、ホウ素濃度換算で、好ましくは約10mM~約1000mM、より好ましくは約50mM~約200mM、さらに好ましくは約70mM~約170mMである。
【0081】
ろ過滅菌水性液剤は本発明の水性液剤の一態様であることから、水性液剤について説明した事項(例えば、化合物(A)及び/又はその塩、ホウ酸及び/又はその塩、並びに添加剤の具体例や濃度、pH、含有量の維持率、回収率)は、ろ過滅菌水性液剤にも適用できる。
【0082】
<製剤形態、用途、用量及び用法>
本発明の水性液剤の製剤形態については、液状を呈していれば特に制限されず、例えば、水溶液状、懸濁液状及び乳液状が挙げられ、これらの中でも水溶液状が好ましい。
【0083】
水性液剤は、例えば、眼科用、歯科用、耳鼻科用及び皮膚科用等の様々な用途の医薬組成物として調製され、一実施形態において局所投与製剤として使用される。水性液剤としては、例えば、眼科用、歯科用、耳鼻科用又は皮膚科用の組成物が挙げられ、これらの中でも眼科用組成物が好ましい。眼科用組成物としては、例えば、点眼剤、洗眼剤、コンタクトレンズ用剤及び注射剤が挙げられ、これらの中でも点眼剤が好ましい。
【0084】
水性液剤に含まれる化合物(A)及び/又はその塩は、ヒトを含む哺乳動物種の動物において眼内圧(IOP)を低下させるために有用であり、緑内障又は高眼圧症に対する有効成分として効果を奏し得る。したがって、水性液剤の一態様は、点眼剤として提供され、緑内障又は高眼圧症の治療用途に好適に使用できる。
【0085】
<容器>
本発明の水性液剤は、一態様において、容器に収容されている。
水性液剤は、ろ過滅菌水性液剤でもよい。
水性液剤を収容する容器は、例えば、医薬組成物を収容している従来の容器であればよい。例えば、本発明の水性液剤が点眼剤の場合であれば、従来の点眼剤用容器として使用されている容器を使用できる。
【0086】
水性液剤を収容する容器の材質は、例えば、ガラスでもよく、プラスチックでもよい。水性液剤を収容する容器として、プラスチック製容器を使用する場合、プラスチックとしては、例えば、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン及びポリイミドのいずれか1種、又は2種以上のブレンドポリマーが挙げられる。化合物(A)及び/又はその塩の含有量の経時的な低下をより効率的に抑制するという観点から、容器本体(収容部を形成している部材)を構成するプラスチックは、好ましくはポリエチレン又はポリプロピレン、より好ましくはポリエチレンである。ポリエチレンとしては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)及び高密度ポリエチレン(HDPE)が挙げられ、低密度ポリエチレン(LDPE)が好ましい。
【0087】
容器は、好ましくは透明性容器であり、より好ましくはポリエチレン製の透明性容器である。透明性容器は、内部視認性に優れ、不溶性異物検査法の実施や残存液量の確認を容易にする一方、光暴露により化合物(A)及び/又はその塩が分解しやすくなる。しかしながら、本発明の水性液剤は、上述したように光安定性に優れる。したがって、該水性液剤を透明性容器に収容した医薬製品は、優れた内部視認性と、化合物(A)及び/又はその塩の光暴露による分解の抑制効果とを両立できる。また、本発明の水性液剤は上述したように光安定性に優れることから、医薬製品を遮光袋に収容しなくてもよく、さらなる光安定性を考慮して遮光袋に収容してもよい。
【0088】
透明性容器において、透明な領域は、容器全体に設けられていてもよいが、不溶性異物検査法の実施や残存液量の確認等に必要な内部視認性を確保できることを限度として、容器の少なくとも一部に設けられていてもよい。透明性容器は、透明である領域が確保できていることを限度として、シュリンクラベル及びタックラベル等の被覆部材によって被覆されていてもよい。例えば、透明性容器は、その一部に、商品名、成分名、使用期限及び注意書き等の表示等の目的として透明でない領域を備えてもよい。透明性容器の一実施形態として、透明な領域は、容器の側面(蓋により覆われる領域を除く本体部外周面)の好ましくは約5%以上、より好ましくは約7%以上、さらに好ましくは約10%以上、特に好ましくは約15%以上の領域を占める。
【0089】
ポリエチレン製容器において、少なくとも、収容した水性液剤と接触する内壁がポリエチレンで形成されていればよく、ノズル及び蓋等の他の部材は、ポリエチレン以外の材料で形成されていてもよい。ポリエチレン製容器は、内壁がポリエチレンで形成され、且つ透明であることを限度として、ポリエチレン層に他の材料の層が積層された積層体によって容器本体が形成されていてもよい。
【0090】
ポリプロピレン製容器において、少なくとも、収容した水性液剤と接触する内壁がポリプロピレンで形成されていればよく、ノズル及び蓋等の他の部材は、ポリプロピレン以外の材料で形成されていてもよい。ポリプロピレン製容器は、内壁がポリプロピレンで形成され、且つ透明であることを限度として、ポリプロピレン層に他の材料の層が積層された積層体によって容器本体が形成されていてもよい。
【0091】
容器は、マルチドーズ型容器及びユニットドーズ型容器のいずれでもよく、これらは透明性容器でもよい。マルチドーズ型容器は、繰り返し使用され、使用の度に残存液量の確認等が必要になることがあるため、内部視認性が高いことが好ましい。したがって、マルチドーズ型容器としては、透明性容器が好ましく、ポリエチレン製の透明性容器がより好ましい。
【0092】
容器は、フィルター付き容器でもよく、フィルター付き透明性容器でもよい。フィルター付き容器は、マルチドーズ型容器及びユニットドーズ型容器のいずれでもよく、マルチドーズ型容器が好ましい。
【0093】
フィルター付き容器におけるフィルターを構成する材料としては、例えば、PES、PVDF、PTFE、及びCAが挙げられ、これらの中でもPES及びPVDFが好ましく、PESがより好ましい。フィルターは、該材料を1種含んでもよく、2種以上含んでもよい。フィルターとしては、具体的には、PES製のフィルター、PVDF製のフィルター、PTFE製のフィルター、及びCA製のフィルターが挙げられ、これらの中でもPES製のフィルター、及びPVDF製のフィルターが好ましい。
【0094】
[医薬製品]
本発明の医薬製品は、水性液剤及び容器を含み、水性液剤は、化合物(A)及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩とを含む。水性液剤は、容器に収容されている。水性液剤は、ろ過滅菌水性液剤でもよい。容器は、透明性容器でもよい。本発明の医薬製品は、例えば、ろ過滅菌水性液剤及び透明性容器を含み、ろ過滅菌水性液剤は、透明性容器に収容されている。
【0095】
水性液剤、ろ過滅菌水性液剤及び容器の詳細については[水性液剤]の欄において上述したとおりであり(例えば、化合物(A)及び/又はその塩、ホウ酸及び/又はその塩、並びに添加剤の具体例や濃度、pH、含有量の維持率、回収率、容器の具体例)、本欄での詳細な説明は省略する。
【0096】
医薬製品としては、具体的には、フィルターを備えないマルチドーズ型容器と、該容器に収容されたろ過滅菌水性液剤とを含む医薬製品、フィルターを備えるマルチドーズ型容器と、該容器に収容されたろ過滅菌水性液剤とを含む医薬製品、が挙げられる。
【0097】
[水性液剤の製造方法及び医薬製品の製造方法]
本発明の水性液剤は、その用途に応じて、公知の調製法に従って製造すればよく、例えば、第十八改正日本薬局方製剤総則に記載された方法を用いて製造することができる。
【0098】
水性液剤の製造方法は、一態様において、化合物(A)及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩と、必要に応じてその他の成分と、水とを混合する工程(混合工程)を含む。上記水の他、薬学的に許容される水性媒体をさらに用いてもよい。
【0099】
ろ過滅菌水性液剤の製造方法は、一態様において、化合物(A)及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩と、必要に応じてその他の成分と、水とを混合して、水性液剤を調製する工程(混合工程)と、該水性液剤を、膜フィルターを用いてろ過して、ろ過滅菌水性液剤を調製する工程(ろ過工程)とを含む。
【0100】
医薬製品は、その用途に応じて、公知の調製法に従って製造すればよい。
医薬製品の製造方法は、一態様において、化合物(A)及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩と、必要に応じてその他の成分と、水とを混合して、水性液剤を調製する工程(混合工程)と、該水性液剤を容器に充填する工程(充填工程)とを含む。容器は、好ましくは透明性容器である。
【0101】
医薬製品の製造方法は、他の態様において、化合物(A)及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩と、必要に応じてその他の成分と、水とを混合して、水性液剤を調製する工程(混合工程)と、該水性液剤を、膜フィルターを用いてろ過して、ろ過滅菌水性液剤を調製する工程(ろ過工程)と、該ろ過滅菌水性液剤を容器に充填する工程(充填工程)とを含む。容器は、好ましくは透明性容器である。
【0102】
混合工程において、その他の成分としては、例えば、添加剤が挙げられる。水性液剤の詳細については[水性液剤]の欄において上述したとおりであり、本欄での詳細な説明は省略する。
【0103】
ろ過工程において、膜フィルターを構成する材料としては、例えば、PES、PVDF、PTFE、及びCAが挙げられ、これらの中でもPES及びPVDFが好ましく、PESがより好ましい。膜フィルターは、該材料を1種含んでもよく、2種以上含んでもよい。膜フィルターとしては、具体的には、PES製の膜フィルター、PVDF製の膜フィルター、PTFE製の膜フィルター、及びCA製の膜フィルターが挙げられ、これらの中でもPES製の膜フィルター、及びPVDF製の膜フィルターが好ましい。膜フィルターの孔径は、例えば約5μm以下、好ましくは約0.1μm~約2.5μm、より好ましくは約0.2μm~約1μmである。
【0104】
ろ過工程において、化合物(A)及び/又はその塩の下記式(E3)で表される回収率は、好ましくは約95%以上であり、より好ましくは約95.5%以上、さらに好ましくは約96%以上である。このような態様であると、ろ過工程前後において水性液剤は、化合物(A)及び/又はその塩の含有量を良好に維持できる。
回収率(%) = (A5/A6)×100 …(E3)
【0105】
式(E3)中、A5は、膜フィルター通過後の水性液剤(ろ過滅菌水性液剤)における化合物(A)及び/又はその塩の濃度(w/v%)を示す。A6は、上記膜フィルター通過前の水性液剤における化合物(A)及び/又はその塩の濃度(w/v%)を示す。
【0106】
ろ過滅菌水性液剤の詳細については[水性液剤]の欄において上述したとおりであり、本欄での詳細な説明は省略する。
【0107】
充填工程において、容器の詳細については[水性液剤]の欄において上述したとおりであり、本欄での詳細な説明は省略する。
【0108】
上記医薬製品の製造方法において、容器として透明性容器を用い、得られた医薬製品に対して、出荷前に、透明性容器に収容された水性液剤の性状(色調等)を確認する工程(検査工程)を設けてもよい。内部視認性が高い透明性容器を用いる場合は、品質管理の側面において、不溶性異物検査が容易になり、検査工程の自動化も簡便となり得る。また、このような検査工程時等に、水性液剤が容器に収容された状態でも色調(色相・濃淡)等を含む性状の検査や確認が可能となる。
【0109】
例えば、化合物(A)及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩とを含む水性液剤を透明性容器に収容した場合に、化合物(A)及び/又はその塩の光暴露による分解を抑制できる。したがって、上記製造方法によって、化合物(A)及び/又はその塩の含有量を所定期間安定に維持できる医薬製品を提供できる。また、当該医薬製品を出荷前に容器に収容された状態で水性液剤の性状(色調等)を容器の外から容易に確認できる。したがって、例えば不溶性異物検査法を簡易に行うことができ、品質管理上において非常に安全性の高い医薬製品を提供できるとともに、水性液剤の残存量を容器外部から容易に視認でき、使用者の利便性を高めることもできる。
【0110】
例えば、化合物(A)及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩とを含む水性液剤を、膜フィルターを用いてろ過して、ろ過滅菌水性液剤を調製した場合に、化合物(A)及び/又はその塩の膜フィルターへの吸着を抑制できる。したがって、上記製造方法によって、化合物(A)及び/又はその塩を略設計通りの量で含む医薬製品を提供できる。
【0111】
[光安定化剤及び分解抑制剤]
本発明の光安定化剤は、ホウ酸及び/又はその塩を含む。本発明の光安定化剤は、化合物(A)及び/又はその塩を含む水性液剤における化合物(A)及び/又はその塩の光安定性を向上させるために用いられる。本発明の光安定化剤は、化合物(A)及び/又はその塩を含む水性液剤に添加される剤である。
【0112】
本発明の分解抑制剤は、ホウ酸及び/又はその塩を含む。本発明の分解抑制剤は、化合物(A)及び/又はその塩を含む水性液剤における化合物(A)及び/又はその塩の光曝露による分解を抑制するために用いられる。本発明の分解抑制剤は、化合物(A)及び/又はその塩を含む水性液剤に添加される剤である。
【0113】
光安定化剤及び分解抑制剤は、一実施形態において、上記水性液剤におけるホウ酸及び/又はその塩の濃度が、ホウ素濃度換算で、好ましくは約10mM~約1000mM、より好ましくは約50mM~約200mM、さらに好ましくは約70mM~約170mMとなる量で、化合物(A)及び/又はその塩を含む水性液剤に添加される。
【0114】
光安定化剤及び分解抑制剤によれば、化合物(A)及び/又はその塩を含む水性液剤に対して、化合物(A)及び/又はその塩の光曝露による含有量の経時的な低下を抑制する効果を付与でき、化合物(A)及び/又はその塩の含有量を安定して維持できる水性液剤を提供できる。
【0115】
化合物(A)及び/又はその塩、ホウ酸及び/又はその塩、添加剤等の各成分並びに水性液剤における各成分の濃度の詳細については[水性液剤]の欄にて上述したとおりであり、本欄での詳細な説明は省略する。
【0116】
[光安定化方法及び分解抑制方法]
本発明の光安定化方法は、化合物(A)及び/又はその塩を含む水性液剤における化合物(A)及び/又はその塩の光安定性を向上させる方法であって、水性液剤中で、化合物(A)及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩とを共存させる方法である。
【0117】
本発明の分解抑制方法は、化合物(A)及び/又はその塩を含む水性液剤における光曝露による化合物(A)及び/又はその塩の分解を抑制する方法であって、水性液剤中で、化合物(A)及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩とを共存させる方法である。
【0118】
化合物(A)及び/又はその塩、ホウ酸及び/又はその塩、添加剤等の各成分並びに水性液剤における各成分の濃度の詳細については[水性液剤]の欄にて上述したとおりであり、本欄での詳細な説明は省略する。
【0119】
[吸着抑制剤および吸着抑制方法]
本発明の吸着抑制剤は、ホウ酸及び/又はその塩を含む。本発明の吸着抑制剤は、化合物(A)及び/又はその塩を含む水性液剤における化合物(A)及び/又はその塩のフィルターへの吸着を抑制するために用いられる。本発明の吸着抑制剤は、化合物(A)及び/又はその塩を含む水性液剤に添加される剤である。
【0120】
吸着抑制剤は、一実施形態において、上記水性液剤におけるホウ酸及び/又はその塩の濃度が、ホウ素濃度換算で、好ましくは約10mM~約1000mM、より好ましくは約50mM~約200mM、さらに好ましくは約70mM~約170mMとなる量で、化合物(A)及び/又はその塩を含む水性液剤に添加される。
【0121】
本発明の吸着抑制方法は、化合物(A)及び/又はその塩を含む水性液剤における化合物(A)及び/又はその塩のフィルターへの吸着を抑制する方法であって、水性液剤中で、化合物(A)及び/又はその塩と、ホウ酸及び/又はその塩とを共存させる方法である。
【0122】
本発明の吸着抑制剤によれば、化合物(A)及び/又はその塩を含む水性液剤に対して、化合物(A)及び/又はその塩のフィルターへの吸着を抑制する効果を付与でき、フィルターを用いたろ過前後における化合物(A)及び/又はその塩の含有量を維持できる水性液剤を提供できる。本発明の吸着抑制方法によれば、フィルターを通過させる水性液剤において、化合物(A)及び/又はその塩のフィルターへの吸着を抑制できる。上記フィルターは、ろ過工程で使用される膜フィルターでもよく、フィルター付き容器のフィルターでもよい。すなわち、フィルターを通過させる水性液剤は、水性液剤の製造時のろ過工程でフィルターを通過させる水性液剤でもよく、フィルター付き容器に収容され、使用時に容器のフィルターを通過させて容器外に注出される水性液剤でもよい。
【0123】
化合物(A)及び/又はその塩、ホウ酸及び/又はその塩、添加剤等の各成分並びに水性液剤における各成分の濃度の詳細や、フィルターの詳細については[水性液剤]の欄にて上述したとおりであり、本欄での詳細な説明は省略する。
【実施例0124】
以下に、実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されない。以下の試験例において、ホウ酸として、全てオルトホウ酸を使用した。
【0125】
試験例A
1A.水性液剤の製造
1A-1.予備溶解液の調製
1A-1-1.緩衝剤
精製水にホウ酸(小堺製薬株式会社、日本薬局方グレード)を加え、ホウ酸予備溶解液を調製した。同様の手順で、リン酸水素ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社、日本薬局方グレード)、トロメタモール(関東化学株式会社、局外規グレード)、及び酢酸ナトリウム水和物(富士フイルム和光純薬株式会社、日本薬局方グレード)の予備溶解液をそれぞれ調製した。
【0126】
1A-1-2.溶解補助剤
精製水にチロキサポール(AMRI社、USPグレード)(界面活性剤)を加え、チロキサポールの予備溶解液を調製した。
【0127】
1A-1-3.化合物(A)
水酸化ナトリウム(関東化学株式会社、日本薬局方グレード)を水に溶かし、水酸化ナトリウム水溶液を調製した。水酸化ナトリウム水溶液に化合物(A)を加え、化合物(A)の予備溶解液を調製した。化合物(A)は、特表2017-527602号公報の実施例に記載された手順に準じて合成した。
【0128】
1A-2.水性液剤の調製
表1に示す組成に従って、各予備溶解液及び精製水を混合し、塩酸(関東化学株式会社、日本薬局方グレード)又は水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを調整した。得られた液を、孔径0.22μmのポリエーテルスルホン(PES)製の膜フィルター(Millex-GP、型番:SLGP033NB、メルクミリポア社)でろ過した。これを水性液剤とした。なお、各緩衝剤の濃度は、安定性を比較するために、任意の濃度においてモル濃度として統一した。
【0129】
1A-3.容器への収容
前項で得られた水性液剤5mLを、無色ガラスアンプル(広口5mLアンプル 無色、大和特殊硝子株式会社)に収容した。
【0130】
2A.化合物(A)の光安定性の評価
前項で得られた、水性液剤をガラスアンプルに収容した試験体を、2本用意した。2本のうち1本のガラスアンプル全体にアルミホイルを巻き、遮光品とした。2本のうちもう1本のガラスアンプルにはアルミホイルを巻かずに、曝光品とした。遮光品及び曝光品に対し、光安定性試験装置(LT-120A-WCD型、ナガノサイエンス株式会社)を用いて、温度25℃、白色蛍光灯(ラピッド蛍光灯、FLR20S・W/M、パナソニック株式会社)の条件下にて照度3,000(lx)の光を17時間照射し、総照度51,000(lx・h)の光を曝露した。
【0131】
日本産業規格 証明基準総則(JIS Z 9110:2010)によると、書斎の維持照度推奨値は50(lx)と記載されている。総照度51,000(lx・h)は、書斎における約42日間の総照度に相当する。また、水性液剤を、例えば薬液を5mL収容した点眼剤として、1回0.03mL、1日2回、両眼に使用する場合、本点眼剤の薬液をすべて使い切るのは約42日後である。したがって、総照度51,000(lx)は、薬液を5mL収容した点眼剤を書斎で使い切る際に想定される光の曝露量に相当する。
【0132】
光曝露後の遮光品及び曝光品に含まれる化合物(A)の濃度を、以下に示す条件で高速液体クロマトグラフシステム(HPLC、株式会社島津製作所)によって測定し、下記算出式に従って、化合物(A)の含有量の維持率(%)を算出した。
【0133】
HPLC条件
・検出器:紫外吸光光度計(測定波長:270nm)
・カラム:ACQUITY UPLC BEH C18、1.7μm、
内径2.1mm×長さ50mm、Waters社
・カラム温度:35℃
・移動相A:0.05%ギ酸水溶液
・移動相B:0.05%ギ酸アセトニトリル溶液
・流速:0.4mL/min
【0134】
化合物(A)の含有量の維持率(%)
= 曝光品中の化合物(A)の濃度/遮光品中の化合物(A)の濃度×100
【0135】
3A.結果
表1に、化合物(A)の含有量の維持率(%)の算出結果を示した。ホウ酸を含む水性液剤は、ホウ酸以外の緩衝剤を含む水性液剤よりも、化合物(A)の含有量の維持率が高く、光安定性に優れていた。
【0136】
【0137】
試験例B
1B.水性液剤の製造
1B-1.予備溶解液の調製
試験例Aと同様の手順にて、各予備溶解液を調製した。炭酸ナトリウムの予備溶解液の調製には、乾燥炭酸ナトリウム(高杉製薬株式会社、日本薬局方グレード)を使用した。
【0138】
1B-2.水性液剤の調製
表2に示す組成に従って、各予備溶解液及び精製水を混合し、塩酸(関東化学株式会社、日本薬局方グレード)又は水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを調整した。これを水性液剤とした。
【0139】
2B.フィルターろ過後の化合物(A)の回収率の評価
前項で得られた水性液剤の一部(3mL)を、孔径0.22μmのポリエーテルスルホン(PES)製の膜フィルター(Millex-GP、型番:SLGP033NB、メルクミリポア社)でろ過し、ろ液を回収した。また、ろ過実施前の水性液剤(原液)を別に取り分けた。
【0140】
原液及びろ液中に含まれる化合物(A)の濃度を上記HPLCによって測定し、下記計算式に従って、フィルターろ過後の化合物(A)の回収率(%)を算出した。HPLCの測定条件は試験例Aと同じ条件を用いた。
【0141】
フィルターろ過後の化合物(A)の回収率(%)
= ろ液の化合物(A)の濃度/原液の化合物(A)の濃度×100
【0142】
3B.結果
表2に、フィルターろ過後の化合物(A)の回収率(%)の算出結果を示した。なお、比較例12及び比較例14は、水性液剤の調製時に液全体が白濁し、ろ過できなかったため、試験を実施しなかった。ホウ酸を含む水性液剤は、ホウ酸以外の緩衝剤を含む水性液剤よりも、化合物(A)の回収率が高く、化合物(A)のフィルター吸着が抑制されていた。
【0143】
【0144】
試験例C
1C.水性液剤の製造
1C-1.予備溶解液の調製
試験例A及び試験例Bと同様の手順にて、各予備溶解液を調製した。
【0145】
1C-2.水性液剤の調製
表3に示す組成に従って、各予備溶解液及び精製水を混合し、塩酸(関東化学株式会社、日本薬局方グレード)又は水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを調整した。これを水性液剤とした。
【0146】
2C.フィルターろ過後の化合物(A)の回収率の評価
前項で得られた水性液剤の一部を、孔径0.22μmの膜フィルター(材質:PVDF、PTFE又はCA)でろ過し、ろ液を回収した。PVDF製の膜フィルターの場合のろ過量は10mLとし、PTFE製の膜フィルターの場合のろ過量は3mLとし、CA製の膜フィルターの場合のろ過量は20mLとした。PVDF製の膜フィルターには、Millex-GV、型番:SLGVR33RS、メルクミリポア社を用いた。PTFE製の膜フィルターには、Millex-LG、型番:SLLGH25NS、メルクミリポア社を用いた。CA製の膜フィルターには、ASFILシリンジフィルター、型番:033022SO-SFCA、アズワン株式会社を用いた。また、ろ過実施前の水性液剤(原液)を別に取り分けた。
【0147】
原液及びろ液中に含まれる化合物(A)の濃度を上記HPLCによって測定し、フィルターろ過後の化合物(A)の回収率(%)を算出した。HPLCの測定条件及びフィルターろ過後の化合物(A)の回収率の計算式は、試験例A及び試験例Bと同じ条件及び計算式を用いた。
【0148】
3C.結果
表3に、フィルターろ過後の化合物(A)の回収率(%)の算出結果を示した。試験例Bと同様、ホウ酸を含む水性液剤は、ホウ酸以外の緩衝剤を含む水性液剤よりも、化合物(A)の回収率が高かった。ホウ酸を含む水性液剤で化合物(A)のフィルター吸着が抑制されることが、PVDF製の膜フィルター、PTFE製の膜フィルター及びCA製の膜フィルターでも確認された。
【0149】
【0150】
試験例D
1D.水性液剤の製造
1D-1.予備溶解液の調製
試験例Aと同様の手順にて、各予備溶解液を調製した。
【0151】
1D-2.水性液剤の調製
表4に示す組成に従って、各予備溶解液及び精製水を混合し、塩酸(関東化学株式会社、日本薬局方グレード)又は水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを調整した。これを水性液剤とした。
【0152】
2D.フィルターろ過後の化合物(A)の回収率の評価
前項で得られた水性液剤の一部を、孔径0.22μmの膜フィルター(材質:PES又はPVDF)でろ過し、ろ液を回収した。PES製の膜フィルターの場合のろ過量は、3mL(化合物(A)の濃度が0.1g/100mLのとき)又は1.5mL(化合物(A)の濃度が0.2g/100mLのとき)とし、PVDF製の膜フィルターの場合のろ過量は、5mLとした。PES製の膜フィルターには、Millex-GP、型番:SLGP033NB、メルクミリポア社を用いた。PVDF製の膜フィルターには、Millex-GV、型番:SLGVR33RS、メルクミリポア社を用いた。また、ろ過実施前の水性液剤(原液)を別に取り分けた。
【0153】
原液及びろ液中に含まれる化合物(A)の濃度を上記HPLCによって測定し、フィルターろ過後の化合物(A)の回収率(%)を算出した。HPLCの測定条件及びフィルターろ過後の化合物(A)の回収率の計算式は、試験例A及び試験例Bと同じ条件及び計算式を用いた。
【0154】
3D.結果
表4に、フィルターろ過後の化合物(A)の回収率(%)の算出結果を示した。試験例B及び試験例Cと同様、ホウ酸を含む水性液剤は、ホウ酸以外の緩衝剤を含む水性液剤よりも、化合物(A)の回収率が高かった。ホウ酸を含む水性液剤で化合物(A)のフィルター吸着が抑制されることが、化合物(A)の濃度を変えた場合やpHを変えた場合でも確認された。
【0155】