(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052160
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】鞍乗型車両の運転支援システム
(51)【国際特許分類】
B62J 50/25 20200101AFI20240404BHJP
B62J 45/00 20200101ALI20240404BHJP
B62J 27/00 20200101ALI20240404BHJP
B62K 21/00 20060101ALI20240404BHJP
G08G 1/09 20060101ALI20240404BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20240404BHJP
B62J 45/412 20200101ALI20240404BHJP
B62J 45/414 20200101ALI20240404BHJP
【FI】
B62J50/25
B62J45/00
B62J27/00
B62K21/00
G08G1/09 H
G08G1/16 A
B62J45/412
B62J45/414
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158687
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】高木 悠至
(72)【発明者】
【氏名】秋元 一志
【テーマコード(参考)】
3D013
5H181
【Fターム(参考)】
3D013CA00
5H181AA05
5H181BB04
5H181LL06
(57)【要約】
【課題】進行方向を変更する鞍乗型車両とその周囲の交通参加者との間の事故を防止することにより、交通の安全性を向上できる鞍乗型車両の運転支援システムを提供すること。
【解決手段】鞍乗型車両の運転支援システム1は、車体に設けられた方向指示器6L,6Rと、車速を検出する車速センサ2と、車体に対して定められた3軸の各軸に沿った軸加速度及び各軸周りでの軸角速度を検出する慣性計測装置3と、車速センサ2による車速検出値と、慣性計測装置3による各軸加速度検出値及び各軸角速度検出値と、に基づいて、車体の進行方向変更挙動を検出する進行方向変更挙動検出部81と、方向指示器6L,6Rが作動していない状態で進行方向変更挙動が検出された場合、方向指示器6L,6Rを作動させることによって車体の進行方向を周囲交通参加者に通知する方向指示器制御部82と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鞍乗型車両の車体に設けられた方向指示器と、
前記車体の車速を検出する車速検出手段と、
前記車体に対して定められた3軸の各軸に沿った軸加速度及び各軸周りでの軸角速度を検出する慣性検出手段と、を備える鞍乗型車両の運転支援システムであって、
前記車速検出手段による車速検出値と、前記慣性検出手段による軸加速度検出値及び軸角速度検出値と、に基づいて、前記車体の進行方向変更挙動を検出する進行方向変更挙動検出手段と、
前記方向指示器が作動していない状態で前記進行方向変更挙動が検出された場合、前記車体の進行方向を前記車体の周囲に存在する周囲交通参加者に通知する通知手段と、を備えることを特徴とする鞍乗型車両の運転支援システム。
【請求項2】
前記進行方向変更挙動検出手段は、
前記車速検出値、前記軸加速度検出値、及び前記軸角速度検出値に基づいて、前記車体の操舵角推定値を算出する操舵角推定部と、
前記操舵角推定値に基づいて前記進行方向変更挙動を検出する挙動検出部と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の鞍乗型車両の運転支援システム。
【請求項3】
前記進行方向変更挙動検出手段は、前記車速検出値、前記軸加速度検出値、及び前記軸角速度検出値に基づいて、前記車体に跨るライダの重心移動によって生じるライダ印加トルク推定値を算出するライダ印加トルク推定部をさらに備え、
前記挙動検出部は、前記操舵角推定値及び前記ライダ印加トルク推定値に基づいて前記進行方向変更挙動を検出することを特徴とする請求項2に記載の鞍乗型車両の運転支援システム。
【請求項4】
前記通知手段は、前記方向指示器を作動させることによって前記進行方向を前記周囲交通参加者に通知することを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の鞍乗型車両の運転支援システム。
【請求項5】
前記通知手段は、前記周囲交通参加者と共に移動する車載通信装置へ前記進行方向に関する情報を送信することによって前記進行方向を前記周囲交通参加者に通知することを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の鞍乗型車両の運転支援システム。
【請求項6】
前記ライダ印加トルク推定値の絶対値が所定の制限値を超えた場合、前記ライダに報知する報知手段をさらに備えることを特徴とする請求項3に記載の鞍乗型車両の運転支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞍乗型車両の運転支援システムに関する。より詳しくは、車速検出手段及び慣性検出手段を備える鞍乗型車両の運転支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、走行中の車体の姿勢を把握するため、慣性計測装置を搭載する自動二輪車が数多く提案されている(例えば、特許文献1参照)。慣性計測装置とは、車体の運動を司る3軸の各軸に沿った加速度及び各軸周りでの角加速度を検出する加速度センサやジャイロ等を組み合わせて構成される。このような自動二輪車では、慣性計測装置によって得られた情報をエンジンや車体挙動を制御する制御装置にフィードバックすることによって、車体の姿勢に応じたトラクションコントロールやサスペンション制御を行うことが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで
図6に示すように、自動二輪車V1を運転するライダは、うっかりして方向指示器を作動させないまま前走車V2の追い越しを行ってしまう場合がある。しかしながらこの場合、自動二輪車V1の後方を走行する後続車V3の運転者は、進行方向を突然変更しようとする自動二輪車V1の認識が遅れてしまい、事故を引き起こしてしまう場合がある。
【0005】
本発明は、進行方向を変更する鞍乗型車両とその周囲の交通参加者との間の事故を防止することにより、交通の安全性を向上できる鞍乗型車両の運転支援システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明に係る鞍乗型車両の運転支援システム(例えば、後述の運転支援システム1)は、鞍乗型車両の車体に設けられた方向指示器(例えば、後述の方向指示器6L,6R)と、前記車体の車速を検出する車速検出手段(例えば、後述の車速センサ2)と、前記車体に対して定められた3軸の各軸に沿った軸加速度及び各軸周りでの軸角速度を検出する慣性検出手段(例えば、後述の慣性計測装置3)と、前記車速検出手段による車速検出値と、前記慣性検出手段による軸加速度検出値及び軸角速度検出値と、に基づいて、前記車体の進行方向変更挙動を検出する進行方向変更挙動検出手段(例えば、後述の進行方向変更挙動検出部81)と、前記方向指示器が作動していない状態で前記進行方向変更挙動が検出された場合、前記車体の進行方向を前記車体の周囲に存在する周囲交通参加者に通知する通知手段(例えば、後述の方向指示器制御部82、方向指示器6L,6R、車車間通信制御部83、及び車載通信装置5)と、を備えることを特徴とする。
【0007】
(2)この場合、前記進行方向変更挙動検出手段は、前記車速検出値、前記軸加速度検出値、及び前記軸角速度検出値に基づいて、前記車体の操舵角推定値を算出する操舵角推定部(例えば、後述の操舵角推定部812)と、前記操舵角推定値に基づいて前記進行方向変更挙動を検出する挙動検出部(例えば、後述の挙動検出部814)と、を備えることが好ましい。
【0008】
(3)この場合、前記進行方向変更挙動検出手段は、前記車速検出値、前記軸加速度検出値、及び前記軸角速度検出値に基づいて、前記車体に跨るライダの重心移動によって生じるライダ印加トルク推定値を算出するライダ印加トルク推定部(例えば、後述のライダ印加トルク推定部813)をさらに備え、前記挙動検出部は、前記操舵角推定値及び前記ライダ印加トルク推定値に基づいて前記進行方向変更挙動を検出することが好ましい。
【0009】
(4)この場合、前記通知手段は、前記方向指示器を作動させることによって前記進行方向を前記周囲交通参加者に通知することが好ましい。
【0010】
(5)この場合、前記通知手段は、前記周囲交通参加者と共に移動する車載通信装置へ前記進行方向に関する情報を送信することによって前記進行方向を前記周囲交通参加者に通知することが好ましい。
【0011】
(6)この場合、前記運転支援システムは、前記ライダ印加トルク推定値の絶対値が所定の制限値を超えた場合、前記ライダに報知する報知手段(例えば、後述の報知制御部84、及びHMI7)をさらに備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
(1)本発明に係る鞍乗型車両の運転支援システムにおいて、進行方向変更挙動検出手段は、車速検出値、軸加速度検出値及び軸角速度検出値に基づいて鞍乗型車両の車体の進行方向変更挙動を検出し、通知手段は、方向指示器が作動していない状態で進行方向変更挙動が検出された場合、この車体の進行方向を周囲交通参加者に通知する。これによりライダが方向指示器を作動させずに車体の進行方向を変更させた場合であっても、周囲交通参加者は進行方向を変更する鞍乗型車両の存在を速やかに認識できるため、進行方向を変更する鞍乗型車両と周囲交通参加者との間の事故を防止し、ひいては交通の安全性を向上することができる。
【0013】
(2)進行方向変更挙動検出手段は、車速検出値、軸加速度検出値、及び軸角速度検出値に基づいて、車体の操舵角推定値を算出する操舵角推定部と、操舵角推定値に基づいて進行方向変更挙動を検出する挙動検出部と、を備える。よって本発明によれば、車体の進行方向変更挙動を速やかに検出できるので、周囲交通参加者は進行方向を変更する鞍乗型車両の存在をより速やかに認識することができ、ひいては交通の安全性を向上することができる。
【0014】
(3)進行方向変更挙動検出手段は、車速検出値、軸加速度検出値、及び軸角速度検出値に基づいて、車体に跨るライダの重心移動によって生じるライダ印加トルク推定値を算出するライダ印加トルク推定部をさらに備える。よって本発明によれば、挙動検出部は、操舵角推定値及びライダ印加トルク推定値に基づいて進行方向変更挙動を検出することにより、より速やかにかつ精度良く進行方向変更挙動を検出することができ、ひいては交通の安全性を向上することができる。
【0015】
(4)本発明において、通知手段は、方向指示器が作動していない状態で進行方向変更挙動が検出された場合、方向指示器を作動させることによって車体の進行方向を周囲交通参加者に通知する。よって本発明によれば、簡易な構成で周囲交通参加者に車体の進行方向を通知することができ、ひいては交通の安全性を向上することができる。
【0016】
(5)本発明において、通知手段は、方向指示器が作動していない状態で進行方向変更挙動が検出された場合、周囲交通参加者と共に移動する車載通信装置へ進行方向に関する情報を送信することによって車体の進行方向を周囲交通参加者に通知する。よって本発明によれば、周囲交通参加者は、目視できない位置から現れる鞍乗型車両の存在を速やかに認識することができ、ひいては交通の安全性を向上することができる。
【0017】
(6)報知手段は、ライダ印加トルク推定値の絶対値が所定の制限値を超えた場合、すなわちライダが極端な重心移動によって車体の進行方向を変更しようとしている場合、ライダに報知することにより、転倒を防止することができ、ひいては交通の安全性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る運転支援システムの構成を示す図である。
【
図2】進行方向変更挙動検出部の構成を示す機能ブロック図である。
【
図3】直進姿勢で静止した状態における自動二輪車を側面から視た図である。
【
図5】ライダ印加外力オブザーバの制御回路の構成を示す図である。
【
図6】追い越し時における自動二輪車及びその後続車の移動経路を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態に係る運転支援システムについて図面を参照しながら説明する。
【0020】
図1は、本実施形態に係る運転支援システム1の構成を示す図である。この運転支援システム1は、図示しない鞍乗型車両としての自動二輪車に搭載される。なおこの自動二輪車の駆動源は、内燃機関でもよいし回転電機でもよいし、これらを組み合わせたものでもよい。また回転電機の電源は、二次電池でもよいし、キャパシタでもよいし、あるいは燃料電池でもよい。なお以下では、運転支援システム1を自動二輪車に適用した場合について説明するが、本発明はこれに限らない。本発明は、自動二輪車の他、鞍乗型三輪車両、鞍乗型四輪車両、及び原動機付自転車等の鞍乗型車両に適用できる。
【0021】
運転支援システム1は、ライダによる自動二輪車の安全な運転を支援するものである。以下では、この運転支援システム1によって実現される様々な運転支援機能のうち、自車の車体の進行方向を、自車の周囲に存在する周囲交通参加者に通知する進行方向通知機能について説明する。
【0022】
運転支援システム1は、車速センサ2と、慣性計測装置3と、方向指示器スイッチ4L,4Rと、車載通信装置5と、方向指示器6L,6Rと、マンマシンインターフェース(Human Machine Interface)7(以下、「HMI7」との略称を用いる)と、運転支援制御装置8と、を備える。
【0023】
車速センサ2は、車体の進行方向に沿った移動速度(以下、「車速」という)を検出し、車速検出値に応じた信号を運転支援制御装置8へ送信する。この車速センサ2には、例えば図示しない後輪の回転速度に応じた信号を出力するロータリーエンコーダが用いられる。
【0024】
慣性計測装置3は、車体を基準として定められたxyz直交座標系(以下、ローカル座標系)における3軸(x軸、y軸、及びz軸)の各軸に沿った軸加速度を検出する複数の加速度センサと、各軸周りでの軸角速度を検出する複数の角速度センサと、これら加速度センサ及び角速度センサを収容する筐体と、を備える。
【0025】
慣性計測装置3は、車体の任意の位置に取り付けられる。以下では、車体の直進方向(すなわち、車体の前後方向)に沿って延びる軸をローカル座標系におけるx軸とし、車体の車幅方向に沿って延びる軸をローカル座標系におけるy軸とし、車体の上下方向に沿って延びる軸をz軸とした場合について説明するが、本発明はこれに限るものではない。また以下では、ローカル座標系におけるx軸、y軸、及びz軸に沿った車体の加速度をx軸加速度、y軸加速度、及びz軸加速度といい、x軸、y軸、及びz軸周りの車体の角速度をx軸角速度、y軸角速度、及びz軸角速度という。慣性計測装置3は、複数の加速度センサ及び複数の角速度センサを用いることによって、x軸加速度、y軸加速度、z軸加速度、x軸角速度、y軸角速度、及びz軸角速度を検出し、これらの検出値に応じた信号を運転支援制御装置8へ送信する。
【0026】
左方向指示器スイッチ4L及び右方向指示器スイッチ4Rは、車体の進行方向を対向車や後続車等の周囲の交通参加者(以下、「周囲交通参加者」ともいう)に知らせるためにライダが操作可能な操作子であり、例えばライダが左手で把持する左ハンドルグリップの付け根に設けられている。図示しない方向指示器駆動回路は、ライダによって左方向指示器スイッチ4Lがオンにされると、ライダから視て車体の左側に設けられた左方向指示器6Lを作動(すなわち、点滅)させる。また方向指示器駆動回路は、ライダによって右方向指示器スイッチ4Rがオンにされると、ライダから視て車体の右側に設けられた右方向指示器6Rを作動(すなわち、点滅)させる。
【0027】
HMI7は、ライダに対して各種情報を音声や画像等によって提示したり、ライダによる入力操作を受け付けたりする複数のインターフェースによって構成される。
【0028】
車載通信装置5は、周囲交通参加者と共に移動する車載通信装置と無線による車車間通信を行うことによって、これら周囲交通参加者の車載通信装置へ各種情報を送信する。
【0029】
運転支援制御装置8は、運転支援機能に関わる制御を担うコンピュータである。運転支援制御装置8は、複数の運転支援機能の中の進行方向通知機能を実現するモジュールとして、進行方向変更挙動検出部81と、方向指示器制御部82と、車車間通信制御部83と、報知制御部84と、を備える。
【0030】
進行方向変更挙動検出部81は、車速検出値、x軸、y軸、z軸加速度検出値(以下、これらをまとめて「各軸加速度検出値」ともいう)、及びx軸、y軸、z軸角速度検出値(以下、これらをまとめて「各軸角速度検出値」ともいう)に基づいて、車体の進行方向変更挙動を検出する。ここで進行方向変更挙動とは、例えば車線変更時、左折時、右折時、及び追い越し時等において車体の進行方向が変化する際に生じる車体の挙動をいう。より具体的には、進行方向変更挙動とは、平面視における車体の進行方向が、直進方向と平行な状態から直進方向に対し傾斜する状態へ向けて変化する際における車体の挙動をいう。以下では、車体の進行方向が直進方向に対しライダの左手側へ変化する際における進行方向変更挙動を左側移動挙動ともいい、車体の進行方向が直進方向に対しライダの右手側へ変化する際における進行方向変更挙動を右側移動挙動ともいう。
【0031】
図2は、進行方向変更挙動検出部81の構成を示す機能ブロック図である。進行方向変更挙動検出部81は、車体状態パラメータ算出部811と、操舵角推定部812と、ライダ印加トルク推定部813と、挙動検出部814と、を備え、これらを用いることによって車体の進行方向変更挙動を検出する。
【0032】
車体状態パラメータ算出部811は、車速検出値、各軸加速度検出値、及び各軸角速度検出値に基づいて、現在の車体の走行路面に対する姿勢や状態を特徴付ける複数の車体状態パラメータの値を算出する。より具体的には、車体状態パラメータ算出部811は、走行路面を基準として定められる直交座標系をグローバル座標系として定義するとともに、このグローバル座標系の下で定義される複数の車体状態パラメータの値を算出する。ここでグローバル座標系のX軸は、ローカル座標系のx軸を走行路面に投影して得られる軸と同方向の軸であり、グローバル座標系のY軸は、ローカル座標系のy軸を走行路面に投影して得られる軸と同方向の軸であり、グローバル座標系のZ軸は、走行路面と直交する鉛直方向に沿って延びる軸である。従って車体が直進姿勢で静止した状態では、ローカル座標系のx軸方向、y軸方向、及びz軸方向は、それぞれグローバル座標系のX軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向と一致する。
【0033】
車体状態パラメータ算出部811は、車速検出値、各軸加速度検出値、及び各軸角速度検出値に基づいて、複数の車体状態パラメータとして、ロール角(グローバル座標系で視た車体のX軸周りの傾斜角)、ピッチ角(グローバル座標系で視た車体のY軸周りの傾斜角)、ヨー角(グローバル座標系で視た車体のZ軸周りの回転角)、ロール角速度(ロール角の時間変化率)、ピッチ角速度(ピッチ角の時間変化率)、ヨー角速度(ヨー角の時間変化率)、及び横加速度(グローバル座標系で視た車体のY軸方向の加速度)等の値を算出する。車体状態パラメータ算出部811は、例えば本願出願人による特開2015-189300号公報等に記載の既知の方法に基づいて複数の車体状態パラメータの値を算出する。
【0034】
操舵角推定部812は、車体状態パラメータ算出部811によって算出された複数の車体状態パラメータの値に基づいて、車体の前輪操舵角に対する推定値に相当する操舵角推定値を算出する。
【0035】
図3は、直進姿勢で静止した状態における自動二輪車を側面から視た図である。ここで
図3において“δf”は、前輪操舵角を示し、“φ”はロール角を示す。また、“θcf”はキャスター角を示し、“L”は軸間距離を示す。この場合、車速を“Vox”とし、ヨー角速度を“ωz”とすると、前輪操舵角δfは、幾何学的な計算によって下記式(1)によって表すことができる。そこで操舵角推定部812は、下記式(1)に基づいて操舵角推定値を算出する。この際、下記式(1)の右辺において、“Vox”には車速検出値が用いられ、“ωz”には車体状態パラメータ算出部811によって算出されたヨー角速度の値が用いられ、“φ”には車体状態パラメータ算出部811によって算出されたロール角の値が用いられ、“L”及び“θcf”として予め定められた値が用いられる。なお以下では、操舵角推定部812において下記式(1)に基づいて算出される操舵角推定値を“δf_hat”と表記する。
【数1】
【0036】
図2に戻り、ライダ印加トルク推定部813は、操舵角推定部812によって算出された操舵角推定値、及び車体状態パラメータ算出部811によって算出された複数の車体状態パラメータの値に基づいて、車体に跨るライダの重心移動によって生じるライダ印加トルクの推定値に相当するライダ印加トルク推定値を算出する。
【0037】
ライダ印加トルク推定部813は、ライダ印加トルク推定値を算出するにあたり、車体及び車体に跨るライダの挙動を2つの質点によって表す2質点モデルを用いる。なおこの2質点モデルの詳細は、例えば本願出願人による特開2014-91386号公報に記載されているので、ここでは簡易な説明に留める。
【0038】
図4は、2質点モデルを模式的に示す図である。2質点モデルは、
図4に示すように、車体が接する走行路面Sの上方において、車体のロール角φ及び前輪操舵角δfに応じてY軸方向へ水平に移動する質点である倒立振子質点91と、車体のロール角φに依存せずに前輪操舵角δfに応じて走行路面Sの上方をY軸方向に水平に移動する質点である路面上質点92と、によって構成される。
【0039】
図5は、ライダ印加トルクを推定するために、2質点モデルに基づいて構築されたライダ印加外力オブザーバの制御回路の構成を示す図である。ライダ印加トルク推定部813は、
図5に示すようなライダ印加外力オブザーバを利用することによってライダ印加トルク推定値を算出する。なお2質点モデルに基づいて各種物理量の推定値を算出する詳細な手順は、例えば本願出願人による特開2016-179710号公報や特開2017-7550号公報等に記載されているので、ここでは簡易な説明に留める。
【0040】
図5に示す制御回路において、“m1”は倒立振子質点91の質量を示し、“h´”は倒立振子質点91の走行路面Sからの高さに相当し、“K”はオブザーバゲインに相当し、“1/s”は積分演算を示す。また
図5に示す制御回路において、“φdot”は倒立振子質点91のロール角速度に相当し、“τg”は倒立振子質点91に作用する重力によって発生するモーメントに相当し、“τs”は前輪の操舵に応じて発生するモーメントに相当し、“τr”はライダの重心移動によって発生するライダ印加トルクに相当する。すなわち
図5に示すライダ印加外力オブザーバでは、前輪への操舵入力及び重力による車体転倒力から予測されるロール角速度φ_dot_hatと実際のロール角速度φ_dotとの差は、ライダの体重移動に起因するものと仮定することによって、ライダ印加トルク推定値を算出する。
【0041】
ライダ印加トルク推定部813は、以上のようなライダ印加外力オブザーバを利用することによってライダ印加トルク推定値を算出する。この際、ライダ印加外力オブザーバに対する入力“φdot”には車体状態パラメータ算出部811によって算出されたロール角速度の値が用いられ、ライダ印加外力オブザーバに対する入力“τg”及び“τs”には所定の演算を行うことによって算出される推定値が用いられる。ここで“τg”及び“τs”の推定値は、車体状態パラメータ算出部811によって算出された複数の車体状態パラメータの値や操舵角推定部812によって算出された操舵角推定値を図示しない演算式に入力することによって得られる値が用いられる。また以下では、ライダ印加トルク推定部813において
図5に示すライダ印加外力オブザーバを利用することによって算出されるライダ印加トルク推定値を“τr_hat”と表記する。
【0042】
図2に戻り、挙動検出部814は、操舵角推定部812によって算出される操舵角推定値δf_hat及びライダ印加トルク推定部813によって算出されるライダ印加トルク推定値τr_hatに基づいて、車体の進行方向変更挙動を検出する。車体が直進状態である場合、すなわち車体の進行方向が直進方向と略平行である場合、操舵角推定値δf_hat及びライダ印加トルク推定値τr_hatは、何れも略0である。これに対し車体が左側移動挙動を示す場合、操舵角推定値δf_hatやライダ印加トルク推定値τr_hatは正側へ変化し、車体が右側移動挙動を示す場合、操舵角推定値δf_hatやライダ印加トルク推定値τr_hatは負側へ変化する。
【0043】
そこで挙動検出部814は、操舵角推定値δf_hatが正の操舵角閾値より大きくかつライダ印加トルク推定値τr_hatが正のトルク閾値より大きい場合、車体の左側移動挙動を検出する。また挙動検出部814は、操舵角推定値δf_hatが負の操舵角閾値より小さくかつライダ印加トルク推定値τr_hatが負のトルク閾値より小さい場合、車体の右側移動挙動を検出する。
【0044】
なお本実施形態では、挙動検出部814は、上述のように操舵角推定値δf_hat及びライダ印加トルク推定値τr_hatの両方に基づいて、車体の進行方向変更挙動を検出する場合について説明するが、本発明はこれに限らない。挙動検出部は、操舵角推定値δf_hatのみに基づいて、車体の進行方向変更挙動を検出してもよい。すなわち、挙動検出部は、操舵角推定値δf_hatが正の操舵角閾値より大きい場合、車体の左側移動挙動を検出し、操舵角推定値δf_hatが負の操舵角閾値より小さい場合、車体の右側移動挙動を検出してもよい。
【0045】
また本実施形態では、挙動検出部814は、操舵角推定値δf_hatやライダ印加トルク推定値τr_hatと所定の閾値との比較に基づいて車体の進行方向変更挙動を検出する場合について説明するが、本発明はこれに限らない。車体が進行方向変更挙動を示す際における操舵角推定値δf_hatやライダ印加トルク推定値τr_hatの変化幅は、車速に応じて変化する。このため操舵角推定値δf_hatに対する操舵角閾値やライダ印加トルク推定値τr_hat対するトルク閾値は、車速に応じて変化させてもよい。
【0046】
図1に戻り、方向指示器制御部82は、方向指示器6L,6Rが作動していない状態で進行方向変更挙動検出部81によって進行方向変更挙動が検出された場合、方向指示器6L,6Rを作動させることによって、車体の進行方向を周囲交通参加者に通知する。より具体的には、方向指示器制御部82は、左方向指示器6Lが作動していない状態で進行方向変更挙動検出部81によって左側移動挙動が検出された場合、左方向指示器6Lを作動させることによって、車体の進行方向は左側であることを周囲交通参加者に通知する。また方向指示器制御部82は、右方向指示器6Rが作動していない状態で進行方向変更挙動検出部81によって右側移動挙動が検出された場合、右方向指示器6Rを作動させることによって、車体の進行方向は右側であることを周囲交通参加者に通知する。
【0047】
車車間通信制御部83は、方向指示器6L,6Rが作動していない状態で進行方向変更挙動検出部81によって進行方向変更挙動が検出された場合、車載通信装置5を用いることによって周囲交通参加者と共に移動する車載通信装置へ車体の進行方向に関する情報を送信し、周囲交通参加者と共に移動する車載HMIを介して車体の進行方向に関する情報を周囲交通参加者に通知する。より具体的には、車車間通信制御部83は、左方向指示器6Lが作動していない状態で進行方向変更挙動検出部81によって左側移動挙動が検出された場合、車体の進行方向は左側であることを示す情報を車載通信装置5から周囲交通参加者の車載通信装置へ送信する。また車車間通信制御部83は、右方向指示器6Rが作動していない状態で進行方向変更挙動検出部81によって右側移動挙動が検出された場合、車体の進行方向は右側であることを示す情報を車載通信装置5から周囲交通参加者の車載通信装置へ送信する。
【0048】
以上より、本実施形態において通知手段は、方向指示器制御部82、方向指示器6L,6R、車車間通信制御部83、及び車載通信装置5によって構成される。
【0049】
報知制御部84は、進行方向変更挙動検出部81によって算出されるライダ印加トルク推定値τr_hatの絶対値が所定の制限値を超えた場合、すなわちライダが極端な重心移動によって車体の進行方向を変更しようとしている場合、HMI7を介して所定の警告メッセージをライダに報知する。以上より、本実施形態において報知手段は、報知制御部84、及びHMI7によって構成される。
【0050】
本実施形態に係る運転支援システム1によれば、以下の効果を奏する。
(1)運転支援システム1において、進行方向変更挙動検出部81は、車速検出値、各軸加速度検出値及び各軸角速度検出値に基づいて自動二輪車の車体の進行方向変更挙動を検出し、方向指示器制御部82や車車間通信制御部83は、方向指示器6L,6Rが作動していない状態で進行方向変更挙動が検出された場合、この車体の進行方向を周囲交通参加者に通知する。これによりライダが方向指示器6L,6Rを作動させずに車体の進行方向を変更させた場合であっても、周囲交通参加者は進行方向を変更する自動二輪車の存在を速やかに認識できるため、進行方向を変更する自動二輪車と周囲交通参加者との間の事故を防止し、ひいては交通の安全性を向上することができる。
【0051】
(2)進行方向変更挙動検出部81は、車速検出値、各軸加速度検出値、及び各軸角速度検出値に基づいて、車体の操舵角推定値δf_hatを算出する操舵角推定部812と、操舵角推定値δf_hatに基づいて進行方向変更挙動を検出する挙動検出部814と、を備える。よって運転支援システム1によれば、車体の進行方向変更挙動を速やかに検出できるので、周囲交通参加者は進行方向を変更する自動二輪車の存在をより速やかに認識することができ、ひいては交通の安全性を向上することができる。
【0052】
(3)進行方向変更挙動検出部81は、車速検出値、各軸加速度検出値、及び各軸角速度検出値に基づいて、車体に跨るライダの重心移動によって生じるライダ印加トルク推定値τr_hatを算出するライダ印加トルク推定部813をさらに備える。よって運転支援システム1によれば、挙動検出部814は、操舵角推定値δf_hat及びライダ印加トルク推定値τr_hatに基づいて進行方向変更挙動を検出することにより、より速やかにかつ精度良く進行方向変更挙動を検出することができ、ひいては交通の安全性を向上することができる。
【0053】
(4)方向指示器制御部82は、方向指示器6L,6Rが作動していない状態で進行方向変更挙動が検出された場合、方向指示器6L,6Rを作動させることによって車体の進行方向を周囲交通参加者に通知する。よって運転支援システム1によれば、簡易な構成で周囲交通参加者に車体の進行方向を通知することができ、ひいては交通の安全性を向上することができる。
【0054】
(5)車車間通信制御部83は、方向指示器6L,6Rが作動していない状態で進行方向変更挙動が検出された場合、車載通信装置5から周囲交通参加者と共に移動する車載通信装置へ進行方向に関する情報を送信することによって車体の進行方向を周囲交通参加者に通知する。よって運転支援システム1によれば、周囲交通参加者は、目視できない位置から現れる自動二輪車の存在を速やかに認識することができ、ひいては交通の安全性を向上することができる。
【0055】
(6)報知制御部84は、ライダ印加トルク推定値τr_hatの絶対値が所定の制限値を超えた場合、すなわちライダが極端な重心移動によって車体の進行方向を変更しようとしている場合、HMI7を介して警告メッセージをライダに報知することにより、転倒を防止することができ、ひいては交通の安全性を向上することができる。
【0056】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限らない。本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜変更してもよい。
【符号の説明】
【0057】
1…運転支援システム
2…車速センサ(車速検出手段)
3…慣性計測装置(慣性検出手段)
5…車載通信装置(通知手段)
6L,6R…方向指示器(通知手段)
7…HMI(報知手段)
8…運転支援制御装置
81…進行方向変更挙動検出部(進行方向変更挙動検出手段)
811…車体状態パラメータ算出部
812…操舵角推定部(操舵角推定部)
813…ライダ印加トルク推定部(ライダ印加トルク推定部)
814…挙動検出部(挙動検出部)
82…方向指示器制御部(通知手段)
83…車車間通信制御部(通知手段)
84…報知制御部(報知手段)