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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052174
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】水位管理システムおよび水位管理方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 25/00 20060101AFI20240404BHJP
【FI】
A01G25/00 501D
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158711
(22)【出願日】2022-09-30
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】397036309
【氏名又は名称】株式会社インターネットイニシアティブ
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100195408
【弁理士】
【氏名又は名称】武藤 陽子
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 透
(57)【要約】
【課題】稲の生育ステージに合わせたより適切な圃場の水位管理を自動で行うことを目的とする。
【解決手段】
管理対象の水田Pにおける気象に関する第1データを取得する第1データ取得部10Aと、水田Pの水位を示す第2データを取得する第2データ取得部10Bと、第1データに基づいて稲の生育指数(DVI)を算出し、かつ、算出された生育指数に応じた水田Pの理想水位を求める第1処理部11と、求められた理想水位に基づいて、水田Pにおける目標水位を設定する第2処理部12と、第2データに基づいて、設定された目標水位に応じた給水または排水を指示する水位制御信号を生成して、水田Pへの給水を行う給水装置3または排水を行う排水装置4に送出する水位制御部13とを備え、第1データは水田Pまたは水田P周辺の気温、または、水温、または、気温および水田Pにおける日長時間を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
管理対象の圃場における気象に関する第1データを取得する第1データ取得部と、
前記圃場の水位を示す第2データを取得する第2データ取得部と、
前記第1データに基づいて稲の生育指数(DVI)を算出し、かつ、算出された前記生育指数に応じた前記圃場の理想水位を求める第1処理部と、
求められた前記理想水位に基づいて、前記圃場における目標水位を設定する第2処理部と、
前記第2データに基づいて、設定された前記目標水位に応じた給水または排水を指示する水位制御信号を生成して、前記圃場への給水を行う給水装置または排水を行う排水装置に送出する水位制御部と
を備え、
前記第1データは、前記圃場もしくは前記圃場周辺の気温、または、水温、または、前記気温および前記圃場における日長時間を含む
ことを特徴とする水位管理システム。
【請求項2】
請求項1に記載の水位管理システムにおいて、
前記第2処理部は、前記生育指数ごとに規定された、前記理想水位に対して許容できる水位の範囲を考慮して、前記目標水位を設定する
ことを特徴とする水位管理システム。
【請求項3】
請求項2に記載の水位管理システムにおいて、
前記第2処理部は、前記圃場において水深が最も浅い位置での水位が前記理想水位となるように、前記目標水位を設定する
ことを特徴とする水位管理システム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の水位管理システムにおいて、
さらに、前記圃場に設置され、前記圃場における水位を測定するセンサを備え、
前記第2データ取得部は、前記センサから前記第2データを取得する
ことを特徴とする水位管理システム。
【請求項5】
請求項4に記載の水位管理システムにおいて、
前記センサは、さらに、前記圃場における気温を測定し、
前記第1データ取得部は、前記第1データに含まれる前記気温を、前記センサから取得する
ことを特徴とする水位管理システム。
【請求項6】
請求項5に記載の水位管理システムにおいて、
前記第1データ取得部は、前記圃場の位置データと暦データとから算出された日長時間を、前記第1データに含まれる前記日長時間として取得する
ことを特徴とする水位管理システム。
【請求項7】
請求項4に記載の水位管理システムにおいて、
前記センサは、さらに、前記圃場における水温を測定し、
前記第1データ取得部は、前記第1データに含まれる前記水温を、前記センサから取得する
ことを特徴とする水位管理システム。
【請求項8】
請求項1から3のいずれか1項に記載の水位管理システムにおいて、
前記理想水位は、稲の生育ステージに応じた値である
ことを特徴とする水位管理システム。
【請求項9】
請求項1から3のいずれか1項に記載の水位管理システムにおいて、
前記給水装置は、前記水位制御信号に基づいて、前記圃場への給水または止水を行う
ことを特徴とする水位管理システム。
【請求項10】
管理対象の圃場における気象に関する第1データを取得する第1ステップと、
前記圃場の水位を示す第2データを取得する第2ステップと、
前記第1データに基づいて稲の生育指数(DVI)を算出し、かつ、算出された前記生育指数に応じた前記圃場の理想水位を求める第3ステップと、
求められた前記理想水位に基づいて、前記圃場における目標水位を設定する第4ステップと、
前記第2データに基づいて、設定された前記目標水位に応じた給水または排水を指示する水位制御信号を生成して、前記圃場への給水を行う給水装置または排水を行う排水装置に送出する第5ステップと
を備え、
前記第1データは、前記圃場もしくは前記圃場周辺の気温、または、水温、または、前記気温および前記圃場における日長時間を含む
ことを特徴とする水位管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圃場における水位管理システムおよび水位管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、水田などの圃場における水位の管理を自動的に行う技術が提案されている。例えば、特許文献1は、前日の気温、水温、日照度値の実測定値と、当日の気温、水温、日照度値の予想値とを比較して、基準となる実測定値と予想値との差に応じた補正係数を算出して、水田における排水側のゲートの高さを調節する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-009123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示される水位管理技術では、気温、水温、および日照度のみに対応付けられた所定の水位を基準としており、稲の生育ステージは考慮されていない。そのため、稲の生育ステージに応じた適切な水位を管理しようとした場合、管理を行う人間が、経験等に基づいて稲の生育ステージに応じたより細かい水位を調節することになる。したがって、従来の技術によれば、稲の生育ステージに合わせた適切な圃場の水位管理を自動で行うことが困難であった。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、稲の生育ステージに合わせたより適切な圃場の水位管理を自動で行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本発明に係る水位管理システムは、管理対象の圃場における気象に関する第1データを取得する第1データ取得部と、前記圃場の水位を示す第2データを取得する第2データ取得部と、前記第1データに基づいて稲の生育指数(DVI)を算出し、かつ、算出された前記生育指数に応じた前記圃場の理想水位を求める第1処理部と、求められた前記理想水位に基づいて、前記圃場における目標水位を設定する第2処理部と、前記第2データに基づいて、設定された前記目標水位に応じた給水または排水を指示する水位制御信号を生成して、前記圃場への給水を行う給水装置または排水を行う排水装置に送出する水位制御部とを備え、前記第1データは、前記圃場もしくは前記圃場周辺の気温、または、水温、または、前記気温および前記圃場における日長時間を含むことを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る水位管理システムにおいて、前記第2処理部は、前記生育指数ごとに規定された、前記理想水位に対して許容できる水位の範囲を考慮して、前記目標水位を設定してもよい。
【0008】
また、本発明に係る水位管理システムにおいて、前記第2処理部は、前記圃場において水深が最も浅い位置での水位が前記理想水位となるように、前記目標水位を設定してもよい。
【0009】
また、本発明に係る水位管理システムにおいて、さらに、前記圃場に設置され、前記圃場における水位を測定するセンサを備え、前記第2データ取得部は、前記センサから前記第2データを取得してもよい。
【0010】
また、本発明に係る水位管理システムにおいて、前記センサは、さらに、前記圃場における気温を測定し、前記第1データ取得部は、前記第1データに含まれる前記気温を、前記センサから取得してもよい。
【0011】
また、本発明に係る水位管理システムにおいて、前記第1データ取得部は、前記圃場の位置データと暦データとから算出された日長時間を、前記第1データに含まれる前記日長時間として取得してもよい。
【0012】
また、本発明に係る水位管理システムにおいて、前記センサは、さらに、前記圃場における水温を測定し、前記第1データ取得部は、前記第1データに含まれる前記水温を、前記センサから取得してもよい。
【0013】
また、本発明に係る水位管理システムにおいて、前記理想水位は、稲の生育ステージに応じた値であってもよい。
【0014】
また、本発明に係る水位管理システムにおいて、前記給水装置は、前記水位制御信号に基づいて、前記圃場への給水または止水を行ってもよい。
【0015】
上述した課題を解決するために、本発明に係る水位管理方法は、管理対象の圃場における気象に関する第1データを取得する第1ステップと、前記圃場の水位を示す第2データを取得する第2ステップと、前記第1データに基づいて稲の生育指数(DVI)を算出し、かつ、算出された前記生育指数に応じた前記圃場の理想水位を求める第3ステップと、求められた前記理想水位に基づいて、前記圃場における目標水位を設定する第4ステップと、前記第2データに基づいて、設定された前記目標水位に応じた給水または排水を指示する水位制御信号を生成して、前記圃場への給水を行う給水装置または排水を行う排水装置に送出する第5ステップとを備え、前記第1データは、前記圃場もしくは前記圃場周辺の気温、または、水温、または、前記気温および前記圃場における日長時間を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、圃場もしくは圃場周辺の気温、または、水温、または、気温および圃場における日長時間を含む第1データに基づいて、稲の生育指数(DVI)を算出し、算出された生育指数に応じた圃場の理想水位を求めるので、稲の生育ステージに合わせたより適切な圃場の水位管理を自動で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の実施の形態に係る水位管理システムの構成を示すブロック図である。
図2図2は、本実施の形態に係る水位管理システムが備える水田センサの構成を示すブロック図である。
図3図3は、本実施の形態に係る水位管理システムが備える給水装置の構成を示すブロック図である。
図4図4は、本実施の形態に係る水位管理システムが備える水位管理装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
図5図5は、本実施の形態に係る水位管理システムによって設定される稲の生育ステージに応じた理想水位を説明するための図である。
図6図6は、本実施の形態に係る水位管理システムの動作を説明するためのシーケンス図である。
図7図7は、変形例に係る水位管理システムによる目標水位の設定を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図1から図7を参照して詳細に説明する。
【0019】
[実施の形態]
図1は、本発明の実施の形態に係る水位管理システムの構成を示すブロック図である。本実施の形態に係る水位管理システムは、水田Pの水位を自動で管理するシステムである。
【0020】
[水位管理システムの構成]
まず、本発明の実施の形態に係る水位管理システムの概要について説明する。図1に示すように、水位管理システムは、水位管理装置1と、管理対象の水田Pに設置された水田センサ(センサ)2と、給水装置3と、排水装置4とが、基地局GWを介してネットワーク接続されている。
【0021】
例えば、水位管理システムは、水田センサ2、給水装置3、および排水装置4が、基地局GWを介して、網側にある水位管理装置1とLTE/3G無線回線やEthernet(登録商標)等の回線で接続されている。端末側の水田センサ2、給水装置3、および排水装置4と基地局GWとは、例えば、LoRaWAN(登録商標)等の低消費電力かつ長距離通信に対応した無線通信を行うことができる。基地局GWには、LTE/3G通信およびLoRaWAN(登録商標)等に対応する通信モジュールが搭載され、水田センサ2からのセンサデータをクラウドシステムである水位管理装置1に転送する。
【0022】
また、水位管理システムにおいて、水位管理装置1がAPI(Application Programming Interface)を介して、図示されないユーザのスマートフォンやタブレット端末などの通信端末UEに情報を提供することができる。ユーザのスマートフォン等において、水位管理システムのアプリケーションプログラムを予めインストールすることで、管理対象の水田Pにおける水位管理情報、気温、水温、水位等をユーザが遠隔でモニタすることができると共に、水位管理装置1に対する操作を行うことができる。
【0023】
稲が栽培される水田Pには、給水路Iおよび排水路Dが設けられており、水田P単位での給水および排水を行う。給水路Iには、用水を水田Pに供給する給水装置3が設けられている。また、排水路Dには、水田Pの排水を行う排水装置4が設けられている。なお、本実施の形態では、水田P内に一つの水田センサ2が設置されている場合を例に挙げて説明するが、水田センサ2の数は、管理対象の水田Pの面積等に応じて複数配置することができる。
【0024】
[水田センサの構成]
水田センサ2は、水田Pに設置され、例えば、水田Pにおける気温、水温、および水位を測定する。水田センサ2は、例えば、水田Pに打ち込んだ支柱の地面側に固定されているセンサ部と、支柱の他端側に固定された通信部とが配線により接続された構造を有する。図2に示すように、水田センサ2は、例えば、基板温度計20、水温計21、水位計22、バッテリ23、および通信インターフェース24を備える。基板温度計20、水温計21、および水位計22により水田センサ2のセンサ部が構成される。
【0025】
また、通信インターフェース24は水田センサ2の通信部を構成する。通信インターフェース24は、例えば、LoRaWAN(登録商標)等の通信規格に準拠する無線通信インターフェースである。なお、基板温度計20は、支柱の他端側、つまり、外気側に設けられる。
【0026】
水田センサ2においては、リチウムイオン二次電池や二酸化マンガンリチウム一次電池などのバッテリ23によってセンサ部および通信部に電力が供給される。水田センサ2は、基板温度計20、水温計21、および水位計22でそれぞれ測定された、基板温度、水田Pの水温、および水位を、例えば、30分などの所定の周期で水位管理装置1に送出する。なお、水田センサ2の基板温度計20で測定される基板温度は、水田Pの気温を示す。
【0027】
基板温度計20、水温計21、および水位計22は、データの送出周期のタイミングで基板温度、水温、および水位を測定することができる。また、センサデータには、水田センサ2の識別情報、測定日時などの情報が含まれる。本実施の形態では、水田センサ2が、水田Pの気温(基板温度)、水温、および水位を測定する場合を例示して説明するが、水田センサ2の構成はこれに限定されない。水田センサ2は、少なくとも水位を測定すればよく、設計に応じて気温および/または水温を測定する構成とすればよい。
【0028】
[給水装置の構成]
給水装置3は、水位管理装置1からの水位制御信号に基づいて、水田Pへの給水または止水を行う。給水装置3は、図3に示すように、例えば、アクチュエータ30、ゲート31、バッテリ32、および通信インターフェース33を備える。給水装置3は、水位管理装置1による水位制御信号に基づいて、アクチュエータ30がゲート31を開閉操作し、ゲート31の開度に応じた量の用水を水田Pに取り込む。給水装置3は、ゲート31の開閉による一定量の給水および止水を行う場合だけでなく、ゲート31の開度の調整や給水周期、および給水時間に応じて給水量を可変に制御する給水処理を行ってもよい。
【0029】
給水装置3は、例えば、リチウムイオン二次電池などのバッテリ32によって電源が確保されるが、太陽電池などによって電力を供給する構成を採用してもよい。通信インターフェース33は、例えば、LoRaWAN(登録商標)等の通信規格に準拠する無線通信インターフェースを用いることができる。
【0030】
なお、給水装置3は、ゲートの開閉操作により給水を行う方式に限らず、水位制御信号に応じて自動で水田Pに給水を行うことができれば、バルブの開閉操作による給水方式等、他の方式を採用してもよい。
【0031】
排水装置4は、例えば、アクチュエータ、ゲート、バッテリ、および通信インターフェースを備える。排水装置4は、アクチュエータがゲートの開閉操作を行い、ゲートの開度に応じた量の水を水田Pから排水する。排水装置4は、水位管理装置1からの水位制御信号に応じて、排水処理を行うことができる。
【0032】
[水位管理装置の構成]
次に、水位管理装置1の機能ブロックについて、図1を参照して説明する。水位管理装置1は、図1に示すように、データ取得部10、第1処理部11、第2処理部12、水位制御部13、記憶部14、および提示部15を備える。
【0033】
データ取得部10は、第1データ取得部10Aおよび第2データ取得部10Bを備える。第1データ取得部10Aは、管理対象の水田Pにおける気象に関する第1データを取得する。第1データには、水田Pもしくは水田P周辺の気温、または、水温、または、気温(水田Pの気温もしくは水田P周辺の気温)および水田Pにおける日長時間が含まれる。第2データ取得部10Bは、水田Pの水位を示す第2データを取得する。第2データ取得部10Bは、水田センサ2から第2データ、すなわち水田Pの水位を取得する。
【0034】
なお、第1データに含まれる水田Pの気温とは、以下に説明するように水田センサ2から取得される気温であるのに対し、水田P周辺の気温とは、特に、後述する外部の気象サーバなどから取得される気温をいう。以下においては、これらの水田Pの気温および水田P周辺の気温を総称して「気温」と呼ぶことがある。
【0035】
例えば、第1データ取得部10Aは、第1データに含まれる水田Pの気温を、水田センサ2から取得する。また、第1データ取得部10Aは、第1データに含まれる水田Pの水温を、水田センサ2から取得する。また、第1データ取得部10Aは、第1データに含まれる水田Pにおける日長時間を、水田Pの位置データと暦データとから算出し、取得する。具体的には、第1データ取得部10Aは、後述の記憶部14に記憶されている水田センサ2の位置データに含まれる緯度と暦データとに基づいて日長時間を算出することができる。
【0036】
第1データ取得部10Aは、水田センサ2によって30分毎の周期で測定された基板温度から、1日の平均気温を算出する。同様に、第1データ取得部10Aは、水田センサ2によって30分毎の周期で測定された水温から1日の平均水温を算出する。
【0037】
第1処理部11は、第1データ取得部10Aによって取得された、水田Pもしくは水田P周辺の気温、または、水温、または、気温(水田Pの気温もしくは水田P周辺の気温)および水田Pにおける日長時間を含む第1データに基づいて、稲の生育指数(DVI:DeVelopmental Index)を算出し、かつ、算出した生育指数に応じた水田Pの理想水位を求める。具体的には、第1処理部11は、水田Pもしくは水田P周辺の1日の平均気温、または、水田Pの1日の平均水温、または、水田Pもしくは水田P周辺の1日の平均気温および水田Pにおける日長時間に基づいて、DVR値を算出し、積算することで、DVI値を算出する。
【0038】
DVI値は、稲の出芽、幼穂形成期、出穂期の各生育ステージをそれぞれ生育指数0,1,2と規定し、発芽後の日々の発育速度(DVR:DeVelopmental Rate)を積算して得られる値である。DVR値は、気温に対する1日あたりの稲の発育速度である。DVR値は、気温のみ、水温のみ、または、気温および日長時間を用いて算出することが一般的である。なお、DVI値は、稲の品種や稲が栽培される地域の気候に応じて事前に調整される既知の値である。
【0039】
第1処理部11がDVR値の算出およびDVI値を求める際に、気温、水温、および、気温と日長時間のうちのどの気象データを用いるかについては、設計に応じて定めればよい。例えば、第1処理部11は、水田センサ2の構成に応じた気象データを選択し、DVR値およびDVI値を算出することができる。
【0040】
第1処理部11は、後述の記憶部14に記憶されている、稲の生育ステージと、DVI値と、理想水位とが関連付けられたテーブルT1を参照し、管理対象の水田Pにおける稲のDVI値に対応する理想水位を取得する。図5は、稲の生育ステージと、DVI値と、理想水位との関係を説明するための図である。本実施の形態における水田Pの理想水位とは、冷害から幼穂を保護する観点から適切とされる水位である。図5のテーブルT1に示すように、生育ステージは、発芽から、幼穂形成期、前歴期間、穂ばらみ期、および出穂期までの各ステージで構成される。
【0041】
また、DVI値は、生育ステージごとに値が規定され、発芽時の「0」から始まり、幼穂形成期「1.0」、前歴期間「1.1」「1.2」「1.3」、穂ばらみ期「1.4」「1.5」「1.6」、および出穂期「2.0」と規定される。さらに、水田Pの理想水位[cm]は、幼穂形成期では「4cm」、前歴期間ではDVI値「1.1」に対しては「7cm」、前歴期間のDVI値「1.2」「1.3」に対しては「10cm」、穂ばらみ期のDVI値「1.4」に対しては「15cm」、DVI値「1.5」「1.6」「1.7」に対しては「20cm」がそれぞれ関連付けられている。穂ばらみ期に続くDVI値「1.8」に対しては「中干し」、DVI値「1.9」では「間断灌漑」を行うため、理想水位の値は規定されていない。さらに、出穂期のDVI値「2.0」に対しても、「間断灌漑」を行うことから、理想水位の値は規定されていない。
【0042】
特にDVI値1.4~1.7の穂ばらみ期は、幼穂における冷害危険期であり、この生育ステージにおいては、水位15cm~20cmが幼穂の冷害保護の観点から理想とされる。また、図5に示すように、幼穂形成期の幼穂yp1に対しては理想水位d1(4cm)とされ、前歴期間の幼穂yp2に対しては理想水位d2(10cm)、および穂ばらみ期の幼穂yp3に対しては理想水位d3(20cm)が冷害からの保護に適切な水位としてそれぞれ規定されている。
【0043】
第2処理部12は、第1処理部11によって求められた理想水位に基づいて、水田Pにおける目標水位を設定する。第2処理部12は、DVI値ごとに規定された、理想水位に対して許容できる水位の範囲を考慮して、実際の水位である目標水位を設定する。具体的には、第2処理部12は、理想水位に対する水位の許容幅に方向指定を定め、水位の上限値および下限値の範囲を目標水位として設定する。なお、理想水位に対して許容できる水位の範囲、すなわち水位の許容幅(以下、「水位幅」という。)は、DVI値ごとに予め規定された値が用いられる。
【0044】
表1は、稲の生育ステージおよびDVI値ごとの、理想水位、許容される水位幅、水位の上限値、および水位の下限値を示すテーブルT2である。
【0045】
【表1】
【0046】
第2処理部12は、後述の記憶部14に記憶されている表1に示すテーブルT2を参照し、第1処理部11が求めた水田Pの理想水位に対応する、水位の上限値および下限値を取得する。さらに、第2処理部12は、取得した水位の上限値および下限値の範囲を、目標水位として設定する。例えば、第1処理部11において求められた水田Pの理想水位が、穂ばらみ期のDVI値1.4に対応する15cmであるとする。この場合、第2処理部12は、表1のテーブルT2を参照し、許容される水位幅±2cmに対応する水位の上限値17cmから下限値13cmの範囲を目標水位として設定する。
【0047】
水位制御部13は、第2データ取得部10Bによって取得された第2データ、すなわち水田Pの水位に基づいて、第2処理部12によって設定された目標水位に応じた給水または排水を指示する水位制御信号を生成して、水田Pへの給水を行う給水装置3または排水を行う排水装置4に送出する。水位制御部13が生成する水位制御信号は、水田Pの水位が、第2処理部12によって設定された目標水位まで上昇するように、給水装置3に対して給水あるいは止水を行うように指示する信号である。同様に、水位制御信号は、水田Pの水位が、目標水位まで減少するように、排水装置4に対して排水を行うように指示する信号でもある。
【0048】
より具体的には、水位制御部13は、水田センサ2によって測定された水田Pの水位と、第2処理部12によって設定された目標水位とを比較して、水田Pの水位が目標水位よりも低い場合には、水田Pに給水を行うことを示す水位制御信号を生成する。一方、水位制御部13は、水田センサ2によって測定された水田Pの水位が、目標の水位よりも高い場合には、水田Pの排水を行うことを示す水位制御信号を生成する。
【0049】
ここで、前述の例を用いると、例えば、現状の水田Pの水位が10cmであった場合には、実際の水位を上限値17cmから下限値13cmの範囲とするために、+3cmから+7cmの範囲で水位の上昇が必要である。この場合、水位制御部13は、+3cmから+7cmの範囲で水位を上昇させるための水位制御信号を給水装置3に送出する。
【0050】
具体的には、水位制御信号を受信した給水装置3は、+3cmから+7cmの範囲など、所定の水位の上昇を得るために、水田Pの面積および給水量等に応じてアクチュエータ30が一定の時間にわたってゲート31を開操作する構成とすることができる。あるいは、水位制御部13が水田センサ2の水位を監視して、実際の水位に到達したか否かを確認し、到達した場合には、給水装置3に対して給水停止を指示する水位制御信号を送出する構成としてもよい。
【0051】
具体的には、水位制御部13は、水田センサ2が30分毎に水田Pの水位を測定するタイミングに合わせて、水田Pの水位が、第2処理部12によって設定された水位の上限値および下限値の範囲内、すなわち目標水位に到達しているか否かを判定する。水田Pの水位が、目標水位に到達している場合には、水位制御部13は、給水処理を停止することを指示する水位制御信号を生成し、給水装置3に送出する。一方、目標水位に到達していない場合には、水位制御部13は、給水を指示する水位制御信号を再度、給水装置3に送出する。
【0052】
なお、水位制御部13が、排水を示す水位制御信号を生成する場合には、排水装置4に対して水位制御信号を送出する。この場合、排水装置4は、アクチュエータにゲートの開操作をさせて水田Pの排水を行う。
【0053】
記憶部14は、稲の生育ステージと、DVI値と、理想水位とが関連付けられたテーブルT1を記憶する。また、記憶部14は、許容される水位幅と、水位の上限値と、下限値とがさらに関連付けられたテーブルT2を記憶する。記憶部14は、管理対象の水田Pに関する情報、水田センサ2、給水装置3、および排水装置4の識別情報等を記憶する。さらに、記憶部14は、水田センサ2の緯度および経度を含む位置データ、および暦データを記憶する。
【0054】
提示部15は、管理対象の水田Pの水位管理に関する情報を提示する。例えば、提示部15は、ユーザの端末装置に対して、水田Pの現状の水位、DVI値、理想水位、および給水装置3に対する給水指示の有無等の水位管理に関する情報を提示することができる。
【0055】
[水位管理装置のハードウェア構成]
次に、上述した機能を有する水位管理装置1を実現するハードウェア構成の一例について、図4を用いて説明する。
【0056】
図4に示すように、水位管理装置1は、例えば、バス101を介して接続されるプロセッサ102、主記憶装置103、通信インターフェース104、補助記憶装置105、入出力I/O106を備えるコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。また、水位管理装置1は、バス101を介して接続される表示装置107を備えることができる。
【0057】
主記憶装置103には、プロセッサ102が各種制御や演算を行うためのプログラムが予め格納されている。プロセッサ102と主記憶装置103とによって、図1に示したデータ取得部10、第1処理部11、第2処理部12、水位制御部13など、水位管理装置1の各機能が実現される。
【0058】
通信インターフェース104は、水位管理装置1と基地局GW、および各種外部電子機器との間をネットワーク接続するためのインターフェース回路である。通信インターフェース104は、例えば、LPWA(Low Power Wide Area)、LPWAN(Low-Power Wide Area Network)、WiFi(登録商標)等により無線通信をすることができる。また、通信インターフェース104は、LTE/3G/4Gなどの携帯電話通信網またはデータ通信網などにより無線通信を行うことができる。通信インターフェース104によって図1で示したデータ取得部10、および提示部15が実現される。
【0059】
補助記憶装置105は、読み書き可能な記憶媒体と、その記憶媒体に対してプログラムやデータなどの各種情報を読み書きするための駆動装置とで構成されている。補助記憶装置105には、記憶媒体としてハードディスクやフラッシュメモリなどの半導体メモリを使用することができる。
【0060】
補助記憶装置105は、水位管理装置1が実行する給水管理プログラムを格納するプログラム格納領域を有する。補助記憶装置105によって、図1で説明した記憶部14が実現される。さらには、補助記憶装置105は、例えば、上述したデータやプログラムやなどをバックアップするためのバックアップ領域などを有していてもよい。
【0061】
入出力I/O106は、外部機器からの信号を入力したり、外部機器へ信号を出力したりするI/O端子により構成される。
【0062】
表示装置107は、液晶ディスプレイなどによって構成される。表示装置107によっても図1で説明した提示部15を実現することができる。
【0063】
[水位管理システムの動作シーケンス]
次に、上述した構成を有する水位管理システムの動作について、図6のシーケンス図を用いて説明する。なお、以下においては、水田Pの水位が理想水位よりも低い場合の水位管理を例に挙げて説明する。また、水田センサ2が測定するセンサデータは、基板温度、水温、および水位である場合を例示して説明する。
【0064】
まず、ユーザの通信端末UEにおいて、初期設定を行う操作入力が受け付けられると、水位管理システムにおいて水位管理の初期設定が行われる(ステップS1)。より具体的には、設定情報が水位管理装置1によって受信されると、水位管理装置1において、水田Pの水位管理のための初期設定が行われる。通信端末UEからの設定情報には、水田センサ2の位置データが含まれる。また、設定情報には、管理対象の水田Pの識別情報や、水田Pに設置されている給水装置3に関する情報等が含まれる。
【0065】
次に、水田Pに設置された水田センサ2は、水田Pの気温を示す基板温度、水温、および水位を測定する(ステップS2)。次に、水田センサ2は、測定した基板温度、水温、および水位を含むデータを、水位管理装置1に送信する(ステップS3)。
【0066】
続いて、水位管理装置1のデータ取得部10は、水田Pにおける気温、水温、および水位を含むデータを水田センサ2から取得する(ステップS4)。より詳細には、第1データ取得部10Aは、水田Pにおける気象に関する第1データを取得する。第1データには、水田Pもしくは水田P周辺の気温、または、水温、または、気温および水田Pにおける日長時間が含まれる。
【0067】
図6に例示する水位管理システムでは、第1データ取得部10Aは、第1データに含まれる気温および水温を、水田センサ2から取得する。また、第1データ取得部10Aは、通信端末UEから受信した、水田センサ2の位置データ、および記憶部14に記憶されている暦データに基づいて、水田Pにおける日長時間を算出して、第1データに含まれる日長時間として取得することができる。さらに、第2データ取得部10Bは、水田センサ2から水田Pの水位を示す第2データを取得する。
【0068】
次に、水位管理装置1の第1処理部11は、ステップS4で取得された第1データに基づいてDVR値を算出し、積算することで、稲のDVI値を算出し、かつ、算出されたDVI値に応じた水田Pの理想水位を求める(ステップS5)。具体的には、第1処理部11は、事前の設定にしたがって、第1データに含まれる、水田Pもしくは水田P周辺の気温、または、水温、または、気温および水田Pにおける日長時間を用いてDVR値を算出し、積算することでDVI値を求める。さらに、第1処理部11は、記憶部14に記憶されているテーブルT1を参照し、算出されたDVI値に対応する理想水位を取得する。
【0069】
次に、水位管理装置1の第2処理部12は、ステップS5で求められた水田Pの理想水位に基づいて、水田Pにおける目標水位を設定する(ステップS6)。具体的には、第2処理部12は、記憶部14に記憶されている、生育ステージおよびDVI値と、許容される水位幅と、水位の上限値と、下限値とが対応付けられているテーブルT2を参照し、上限値と下限値とを有する水田Pの目標水位を設定する。
【0070】
次に、水位管理装置1の水位制御部13は、ステップS4で水田センサ2から取得された水位と、ステップS6で設定された水田Pの目標水位とに基づいて、水田Pへの給水を指示する水位制御信号を生成して、水田Pへの給水を行う給水装置3に送出する(ステップS7)。次に、給水装置3は、給水開始を指示する水位制御信号を水位管理装置1から受信し、アクチュエータ30にゲート31の開操作をさせる(ステップS8)。例えば、給水装置3は、水位制御信号に基づいて、ゲートを一定時間開き、水田Pが設定された水位の上限値および下限値の範囲内となるように給水することができる。
【0071】
ここで、水田センサ2は、給水装置3による給水が開始された後においても、例えば、30分毎などの一定の周期で水田Pの水位を測定し、水位管理装置1に送信する(ステップS9)。そして、水位管理装置1は、水田センサ2で測定された水位を取得し、実際の水位が上限値と下限値との範囲内となったか否かを判定する(ステップS10)。具体的には、水位制御部13は、水田センサ2から受信した水田Pの水位と、目標水位とを比較して、水位が目標水位に到達している場合には、給水停止を指示する水位制御信号を生成し、給水装置3に送出する(ステップS11)。一方、水位が目標水位に到達していない場合には、再度、給水を指示する水位制御信号を生成し、給水装置3に送出する。
【0072】
その後、給水停止を指示する水位制御信号を受信した給水装置3は、アクチュエータ30にゲート31の閉操作をさせる(ステップS12)。
【0073】
その後、水位管理装置1の提示部15は、水田Pの水位管理情報を提示する(ステップS8)。例えば、提示部15は、ユーザのスマートフォンやタブレット端末に係る端末装置UEに、水田Pの給水状況や、水田Pにおける気温、水温、水位、稲の生育ステージやDVI値などを含む水位管理情報を表示させることができる。
【0074】
以上説明したように、本実施の形態に係る水位管理システムによれば、水田Pもしくは水田P周辺の気温、または、水温、または、気温および日長時間を含む水田Pの気象に関する第1データに基づいて、日々の発育速度(DVR値)を算出し、積算することでDVI値を算出し、かつ、算出されたDVI値に応じた水田Pの理想水位を求める。そのため、稲の生育ステージに合わせた、定量的でより適切な圃場の水位管理を自動で行うことができる。
【0075】
なお、上述の実施の形態では、水位管理前の水田Pの水位が理想水位よりも低い場合に、給水処理をおこなって水位を上昇させる場合について説明した。しかし、水田Pの水位が理想水位よりも高い場合には、水位管理装置1の水位制御部13が、排水を指示する水位制御信号を排水装置4に対して送出し、排水装置4が排水処理を行うことにより目標水位を得る。この場合においても、水田センサ2の測定した水田Pの水位を水位管理装置1が取得して、水田Pの水位を監視することで、水位管理装置1は、水田Pにおいて目標水位が得られたことを確認することができる。
【0076】
また、説明した実施の形態では、水田センサ2が、基板温度、水温、および水位の3つのデータを測定する場合について説明した。しかし、水田センサ2の構成は、これら全てのデータを測定する場合に限定されない。すなわち、第1データ取得部10AにおいてDVR値およびDVI値を算出するために必要となる、水田Pもしくは水田P周辺の気温、または、水温、または、気温および日長時間を取得することができれば、各データの取得元および取得経路は上述の構成に限定されない。
【0077】
例えば、水田センサ2は、水位のみ、または、水位および基板温度の2つのデータ、あるいは、水位および水温の2つのデータを測定する構成とすることができる。水田センサ2が水位のみを測定する場合、第1データ取得部10Aは、外部の気象サーバなどから水田P周辺の気温を取得することができる。あるいは、水田センサ2は水位のみを測定し、水田Pに設置された別のセンサによって水田Pの気温、および/または水温を測定する構成としてもよい。
【0078】
例えば、第1処理部11は、上記のように外部の気象サーバから取得された水田P周辺の気温、および算出された水田Pにおける日長時間に基づいて、DVR値を算出し、積算することでDVI値を求めることができる。あるいは、第1処理部11は、外部の気象サーバから取得された水田P周辺の気温のみに基づいて、DVR値を算出し、DVI値を求めることもできる。
【0079】
また、説明した実施の形態では、第1データ取得部10Aが、水田Pの日長時間を位置データと暦データとから算出する場合を例示した。しかし、日長時間の算出は、第1データ取得部10Aが行う場合に限らず、例えば、第1処理部11が行う構成としてもよい。この場合、第1データ取得部10Aは、水田Pの日長時間の算出に必要な位置データをユーザの端末装置UEから取得し、暦データを記憶部14から読み出して第1処理部11に渡す構成とすればよい。
【0080】
[変形例]
次に、本実施の形態の変形例について図7を参照して説明する。上述の実施の形態に係る水位管理システムでは、理想水位に一定の水位幅を許容し、水位の上限値と下限値とにより、水田Pの目標水位を設定する場合について説明した。これに対して、本変形例では、さらに、水田P内の作土表面の起伏によって水田Pの深さにバラつきが存在する場合に、水田Pの水深が最も浅い位置、すなわち水田Pの深さが最も浅い位置での水位が理想水位となるように、目標水位を設定する。
【0081】
なお、本変形例における水位管理装置1、水田センサ2、給水装置3、および排水装置4を含む水位管理システムの構成は、上述の実施の形態と同様である。
【0082】
図7は、本実施の形態の変形例に係る、水位管理システムにおける目標水位の設定を説明するための図である。図7では、水田Pを断面図で模式的に示している。水田Pの作土表面psは、起伏があり、水田P内でその高さにバラつきがある。上述した実施の形態では、水田センサ2が設置されている位置の作土表面の高さを基準とした水面までの位置を水田P全体の水位として用いた。しかし、例えば、水田P内の位置sでは、他の位置と比較して作土がせり上がっており、重力方向に沿った高さが最も高くなっている。図7に示すように、水田センサ2の設置位置における作土表面の高さは、位置sでの作土表面の高さよりも高さcだけ低い。そのため、水田センサ2の設置位置で理想水位dを適用し、水田P全体の目標水位を設定した場合、位置sでの水位は、高さc分だけ低くなってしまう。
【0083】
本変形例では、水位管理装置1の第2処理部12が、実際の水位設定を行う際に、水田Pにおいて水深が最も浅い位置での水位が理想水位となるように、実際の水位設定を行う。より具体的には、第2処理部12は、水田Pにおける目標水位である上限値および下限値を設定する際に、水位の計測基準である水田センサ2の位置での作土表面の高さを、水田P内において最も高い作土表面の高さで補正する。つまり、図7において、位置sの作土表面の高さと、水田センサ2が設置されている位置での作土表面の高さとの差分cを補正値として用いる。
【0084】
第2処理部12は、次の式(1)(2)にしたがって、水位の上限値および下限値を決定する。
(上限値)=(理想水位)+(補正値)+(水位幅) ・・・(1)
(下限値)=(理想水位)+(補正値)-(水位幅) ・・・(2)
なお、上式(1)(2)において、補正値は、(水田P内において最も高い作土表面の高さ)-(水田センサ2の設置位置における作土表面の高さ)である。
【0085】
このように、本変形例によれば、水田Pの水位設定を行う際に、水田Pの深さが最も浅い場所の水位が理想水位となるように水位を調整するので、より適切に、幼穂を冷害から守ることができる。
【0086】
以上、本発明の水位管理システムおよび給水管理方法における実施の形態について説明したが、本発明は説明した実施の形態に限定されるものではなく、請求項に記載した発明の範囲において当業者が想定し得る各種の変形を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0087】
1…水位管理装置、2…水田センサ、3…給水装置、4…排水装置、10…データ取得部、10A…第1データ取得部、10B…第2データ取得部、11…第1処理部、12…第2処理部、13…水位制御部、14…記憶部、15…提示部、20…基板温度計、21…水温計、22…水位計、23,32…バッテリ、30…アクチュエータ、31…ゲート、101…バス、102…プロセッサ、103…主記憶装置、24、33、104…通信インターフェース、105…補助記憶装置、106…入出力I/O、107…表示装置、NW…ネットワーク、GW…基地局、P…水田。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2023-11-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
管理対象の圃場における気象に関する第1データを取得する第1データ取得部と、
前記圃場の水位を示す第2データを取得する第2データ取得部と、
前記第1データに基づいて稲の生育指数(DVI)を算出し、かつ、算出された前記生育指数に関連付けられた稲の育成ステージに応じた前記圃場の理想水位を求める第1処理部と、
求められた前記理想水位に基づいて、前記圃場における目標水位を設定する第2処理部と、
前記第2データに基づいて、設定された前記目標水位に応じた給水または排水を指示する水位制御信号を生成して、前記圃場への給水を行う給水装置または排水を行う排水装置に送出する水位制御部と
を備え、
前記第1データは、前記圃場もしくは前記圃場周辺の気温、または、水温、または、前記気温および前記圃場における日長時間を含み、
前記第2処理部は、前記生育指数ごとに規定された、前記理想水位に対して許容できる水位の範囲を考慮して、前記目標水位を設定する
ことを特徴とする水位管理システム。
【請求項2】
請求項に記載の水位管理システムにおいて、
前記第2処理部は、前記圃場において水深が最も浅い位置での水位が前記理想水位となるように、前記目標水位を設定する
ことを特徴とする水位管理システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の水位管理システムにおいて、
さらに、前記圃場に設置され、前記圃場における水位を測定するセンサを備え、
前記第2データ取得部は、前記センサから前記第2データを取得する
ことを特徴とする水位管理システム。
【請求項4】
請求項に記載の水位管理システムにおいて、
前記センサは、さらに、前記圃場における気温を測定し、
前記第1データ取得部は、前記第1データに含まれる前記気温を、前記センサから取得する
ことを特徴とする水位管理システム。
【請求項5】
請求項に記載の水位管理システムにおいて、
前記第1データ取得部は、前記圃場の位置データと暦データとから算出された日長時間を、前記第1データに含まれる前記日長時間として取得する
ことを特徴とする水位管理システム。
【請求項6】
請求項に記載の水位管理システムにおいて、
前記センサは、さらに、前記圃場における水温を測定し、
前記第1データ取得部は、前記第1データに含まれる前記水温を、前記センサから取得する
ことを特徴とする水位管理システム。
【請求項7】
請求項1または2に記載の水位管理システムにおいて、
前記給水装置は、前記水位制御信号に基づいて、前記圃場への給水または止水を行う
ことを特徴とする水位管理システム。
【請求項8】
管理対象の圃場における気象に関する第1データを取得する第1ステップと、
前記圃場の水位を示す第2データを取得する第2ステップと、
前記第1データに基づいて稲の生育指数(DVI)を算出し、かつ、算出された前記生育指数に関連付けられた稲の育成ステージに応じた前記圃場の理想水位を求める第3ステップと、
求められた前記理想水位に基づいて、前記圃場における目標水位を設定する第4ステップと、
前記第2データに基づいて、設定された前記目標水位に応じた給水または排水を指示する水位制御信号を生成して、前記圃場への給水を行う給水装置または排水を行う排水装置に送出する第5ステップと
を備え、
前記第1データは、前記圃場もしくは前記圃場周辺の気温、または、水温、または、前記気温および前記圃場における日長時間を含み、
前記第4ステップは、前記生育指数ごとに規定された、前記理想水位に対して許容できる水位の範囲を考慮して、前記目標水位を設定する
ことを特徴とする水位管理方法。