(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052229
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】複合体、分散液、導電性塗料、導電性材料、電子機器、複合体を生産する方法、共重合体、及び、共重合体を生産する方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20240404BHJP
C08L 101/06 20060101ALI20240404BHJP
C08F 212/14 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L101/06
C08F212/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158807
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000226666
【氏名又は名称】日信化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川畑 成吾
【テーマコード(参考)】
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4J002AA00W
4J002BC12X
4J002BG07X
4J002BQ00X
4J002CE00W
4J002FD11W
4J002FD11X
4J002GH01
4J002GQ02
4J002HA06
4J002HA07
4J002HA08
4J100AB07P
4J100BA56P
4J100CA04
4J100JA45
(57)【要約】
【解決手段】 複合体が、π共役系ポリマーと、第1繰り返し単位及び第2繰り返し単位を含む共重合体を有するドーパントポリマーとを含む。第1繰り返し単位は、スルホン酸基又はその塩及び重合性ビニル基を有する第1モノマーに由来する構造を有する。第2繰り返し単位は、炭素数12以上の置換又は非置換のアルキル基、炭素数12以上の置換又は非置換の芳香族環基、及び、炭素数12以上の置換又は非置換の脂環式環基の少なくとも1つを有するラジカル重合性モノマーである第2モノマーに由来する構造を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
π共役系ポリマーと、
第1繰り返し単位及び第2繰り返し単位を含む共重合体を有するドーパントポリマーと、
を含む複合体であって、
前記第1繰り返し単位は、スルホン酸基又はその塩及び重合性ビニル基を有する第1モノマーに由来する構造を有し、
前記第2繰り返し単位は、炭素数12以上の置換又は非置換のアルキル基、炭素数12以上の置換又は非置換の芳香族環基、及び、炭素数12以上の置換又は非置換の脂環式環基の少なくとも1つを有するラジカル重合性モノマーである第2モノマーに由来する構造を有する、
複合体。
【請求項2】
前記第2モノマーは、親水性基を実質的に有しない、
請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
前記第2モノマーは、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基、水酸基及びアミノ基からなる群から選択される少なくとも1つの官能基を実質的に有しない、
請求項1に記載の複合体。
【請求項4】
前記第2モノマーは、
(メタ)アクリル酸の誘導体、(メタ)アクリル酸エステル及びその誘導体、並びに、(メタ)アクリルアミドの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の化合物、又は、ビニル化合物であって、
炭素数12以上の置換又は非置換のアルキル基、炭素数12以上の置換又は非置換の芳香族環基、及び、炭素数12以上の置換又は非置換の脂環式環基からなる群から選択される少なくとも1つの官能基を有する、
請求項1に記載の複合体。
【請求項5】
前記第2モノマーの親水性の度合いは、前記第1モノマーの親水性の度合いよりも小さい、
請求項1に記載の複合体。
【請求項6】
前記第1モノマーは、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、N-t-ブチルアクリルアミドスルホン酸、2-スルホエチルメタクリレート、及び、これらの誘導体、並びに、これらの塩からなる群から選択される少なくとも1種の化合物である、
請求項1に記載の複合体。
【請求項7】
請求項1から請求項6までの何れか一項に記載の複合体と、
前記複合体の分散媒としての水と、
を含む、
分散液。
【請求項8】
請求項1から請求項6までの何れか一項に記載の複合体と、
前記複合体の分散媒としての有機溶媒と、
を含む、
分散液。
【請求項9】
前記分散媒は、水及び分散剤を実質的に含まない、
請求項8に記載の分散液。
【請求項10】
請求項1から請求項6までの何れか一項に記載の複合体と、
前記複合体を分散させて保持する分散媒と、
を含む、導電性塗料。
【請求項11】
請求項1から請求項6までの何れか一項に記載の複合体を含む導電性材料であって、
フィルム状若しくはシート状、糸状若しくは繊維状、又は、網目状の形状を有する、
導電性材料。
【請求項12】
請求項1から請求項6までの何れか一項に記載の複合体を含む導電性材料を備える、
電子機器。
【請求項13】
スルホン酸基又はその塩及び重合性ビニル基を有する第1モノマーの前記スルホン酸基又はその塩を変性して、前記第1モノマーに油溶性を付与する油溶化段階と、
前記油溶性を付与された前記第1モノマーと、ラジカル重合性モノマーである第2モノマーとをラジカル重合させる第1重合段階と、
前記第1重合段階で得られた共重合体に水溶性を付与する水溶化段階と、
前記水溶性を付与された前記共重合体の水溶液中で、π共役系ポリマーを形成する第3モノマーを重合させて、前記π共役系ポリマー及び前記共重合体を含む複合体を得る第2重合段階と、
を有する、複合体を生産する方法。
【請求項14】
前記油溶化段階は、
前記第1モノマーの前記スルホン酸基又はその塩と、アルキルアミン塩とを反応させる段階、
を含む、
請求項13に記載の複合体を生産する方法。
【請求項15】
前記第1重合段階は、
有機溶媒中で、前記油溶性を付与された前記第1モノマーと、油溶性の前記第2モノマーとをラジカル重合させて、油溶性の前記共重合体を作製する段階、
を含む、
請求項13に記載の複合体を生産する方法。
【請求項16】
前記第1モノマーは水溶性のモノマーであり、
前記第2モノマーは油溶性のモノマーであり、
前記第1重合段階は、
前記第1モノマーとは異なる水溶性のモノマーが実質的に存在しない条件下で、前記第1モノマー及び前記第2モノマーをラジカル重合させる段階、
を含む、
請求項13に記載の複合体を生産する方法。
【請求項17】
第1繰り返し単位及び第2繰り返し単位を含む水溶性の共重合体を準備する準備段階と、
前記水溶性の前記共重合体の水溶液中で、π共役系ポリマーを形成する第3モノマーを重合させて、前記π共役系ポリマー及び前記共重合体を含む複合体を得る重合段階と、
を有し、
前記第1繰り返し単位は、スルホン酸基又はその塩及び重合性ビニル基を有する第1モノマーに由来する構造を有し、
前記第2繰り返し単位は、炭素数12以上の置換又は非置換のアルキル基、炭素数12以上の置換又は非置換の芳香族環基、及び、炭素数12以上の置換又は非置換の脂環式環基の少なくとも1つを有するラジカル重合性モノマーである第2モノマーに由来する構造を有する、
複合体を生産する方法。
【請求項18】
第1繰り返し単位及び第2繰り返し単位を含む油溶性の共重合体を準備する準備段階と、
前記油溶性の前記共重合体に水溶性を付与する水溶化段階と、
前記水溶性を付与された前記共重合体の水溶液中で、π共役系ポリマーを形成する第3モノマーを重合させて、前記π共役系ポリマー及び前記共重合体を含む複合体を得る重合段階と、
を有し、
前記第1繰り返し単位は、スルホン酸基又はその塩及び重合性ビニル基を有する第1モノマーに由来する構造を有し、
前記第2繰り返し単位は、炭素数12以上の置換又は非置換のアルキル基、炭素数12以上の置換又は非置換の芳香族環基、及び、炭素数12以上の置換又は非置換の脂環式環基の少なくとも1つを有するラジカル重合性モノマーである第2モノマーに由来する構造を有する、
複合体を生産する方法。
【請求項19】
第1繰り返し単位及び第2繰り返し単位を含む共重合体であって、
前記第1繰り返し単位は、スルホン酸基又はその塩及び重合性ビニル基を有する第1モノマーに由来する構造を有し、
前記第2繰り返し単位は、炭素数12以上の置換又は非置換のアルキル基、炭素数12以上の置換又は非置換の芳香族環基、及び、炭素数12以上の置換又は非置換の脂環式環基の少なくとも1つを有するラジカル重合性モノマーである第2モノマーに由来する構造を有し、
前記第2モノマーの親水性の度合いは、前記第1モノマーの親水性の度合いよりも小さい、
共重合体。
【請求項20】
スルホン酸基又はその塩及び重合性ビニル基を有する水溶性の第1モノマーの前記スルホン酸基又はその塩を変性して、前記第1モノマーに油溶性を付与する油溶化段階と、
有機溶媒中で、前記油溶性を付与された前記第1モノマーと、油溶性のラジカル重合性モノマーである第2モノマーとをラジカル重合させて、油溶性の共重合体を得る重合段階と、
前記油溶性の前記共重合体に水溶性を付与し、水溶性の共重合体を得る水溶化段階と、
を有する、
共重合体を生産する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合体、分散液、導電性塗料、導電性材料、電子機器、複合体を生産する方法、共重合体、及び、共重合体を生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び特許文献2には、π共役系ポリマーと、ドーパントポリマーとを含む導電性ポリマー複合体が開示されている。非特許文献1には、原料ポリマーの質量の18.4倍の濃硫酸を用いてポリスチレンをスルホン化する技術が開示されている。非特許文献2には、スチレンスルホン酸エチルエステルが開示されている。
[先行技術文献]
[特許文献]
[特許文献1]特開2022-068178号公報
[特許文献2]国際公開第2010/095649号
[非特許文献]
[非特許文献1]高橋彰、下山奏一、香川毓美、「ポリスチレンスルホン酸の調整とその二、三の性状」、工業化学雑誌、公益社団法人日本化学会、昭和33年2月20日受理、第61巻、第12号、p.1617-1619
[非特許文献2]江口久雄、西山正一、石川真一、「東ソーの有機合成技術と有機中間体製品群」、東ソー研究・技術報告、東ソー株式会社、2003年、第47巻、p.85-89
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明の第1の態様においては、複合体が提供される。上記の複合体は、例えば、π共役系ポリマーを含む。上記の複合体は、例えば、第1繰り返し単位及び第2繰り返し単位を含む共重合体を有するドーパントポリマーを含む。上記の複合体において、第1繰り返し単位は、例えば、スルホン酸基又はその塩及び重合性ビニル基を有する第1モノマーに由来する構造を有する。上記の複合体において、第2繰り返し単位は、例えば、炭素数12以上の置換又は非置換のアルキル基、炭素数12以上の置換又は非置換の芳香族環基、及び、炭素数12以上の置換又は非置換の脂環式環基の少なくとも1つを有するラジカル重合性モノマーである第2モノマーに由来する構造を有する。
【0004】
上記の何れかの複合体は、第2モノマーは、親水性基を実質的に有しなくてよい。上記の何れかの複合体において、第2モノマーは、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基、水酸基及びアミノ基からなる群から選択される少なくとも1つの官能基を実質的に有しなくてよい。
【0005】
上記の何れかの複合体において、第2モノマーは、(メタ)アクリル酸の誘導体、(メタ)アクリル酸エステル及びその誘導体、並びに、(メタ)アクリルアミドの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の化合物、又は、ビニル化合物であってよい。上記の何れかの複合体において、第2モノマーは、炭素数12以上の置換又は非置換のアルキル基、炭素数12以上の置換又は非置換の芳香族環基、及び、炭素数12以上の置換又は非置換の脂環式環基からなる群から選択される少なくとも1つの官能基を有してよい。
【0006】
上記の何れかの複合体において、第2モノマーの親水性の度合いは、第1モノマーの親水性の度合いよりも小さくてよい。上記の何れかの複合体において、第1モノマーは、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、N-t-ブチルアクリルアミドスルホン酸、2-スルホエチルメタクリレート、及び、これらの誘導体、並びに、これらの塩からなる群から選択される少なくとも1種の化合物であってよい。
【0007】
本発明の第2の態様においては、複合体の分散液が提供される。上記の分散液は、例えば、第1の態様に係る何れかの複合体を含む。上記の分散液は、例えば、複合体の分散媒としての水を含む。
【0008】
本発明の第3の態様においては、複合体の分散液が提供される。上記の分散液は、例えば、第1の態様に係る何れかの複合体を含む。上記の分散液は、例えば、複合体の分散媒としての有機溶媒を含む。上記の分散媒は、水及び分散剤を実質的に含まなくてもよい。
【0009】
本発明の第4の態様においては、導電性塗料が提供される。上記の導電性塗料は、例えば、第1の態様に係る何れかの複合体を含む。上記の分散液は、例えば、複合体を分散させて保持する分散媒を含む。
【0010】
本発明の第5の態様においては、導電性材料が提供される。上記の導電性材料は、例えば、第1の態様に係る何れかの複合体を含む。上記の導電性材料は、例えば、フィルム状若しくはシート状、糸状若しくは繊維状、又は、網目状の形状を有する。
【0011】
本発明の第6の態様においては、電子機器が提供される。上記の電子機器は、例えば、第1の態様に係る何れかの複合体を含む導電性材料を備える。
【0012】
本発明の第7の態様においては、複合体を生産する方法が提供される。上記の生産方法は、例えば、スルホン酸基又はその塩及び重合性ビニル基を有する第1モノマーのスルホン酸基又はその塩を変性して、第1モノマーに油溶性を付与する油溶化段階を有する。上記の生産方法は、例えば、油溶性を付与された第1モノマーと、ラジカル重合性モノマーである第2モノマーとをラジカル重合させる第1重合段階を有する。上記の生産方法は、例えば、第1重合段階で得られた共重合体に水溶性を付与する水溶化段階を有する。上記の生産方法は、例えば、水溶性を付与された共重合体の水溶液中で、π共役系ポリマーを形成する第3モノマーを重合させて、π共役系ポリマー及び共重合体を含む複合体を得る第2重合段階を有する。
【0013】
上記の何れかの生産方法において、油溶化段階は、第1モノマーのスルホン酸基又はその塩と、アルキルアミン塩とを反応させる段階を含んでよい。上記の何れかの生産方法において、第1重合段階は、有機溶媒中で、油溶性を付与された第1モノマーと、油溶性の第2モノマーとをラジカル重合させて、油溶性の共重合体を作製する段階を含んでよい。上記の何れかの生産方法において、第1モノマーは水溶性のモノマーであってよい。上記の何れかの生産方法において、第2モノマーは油溶性のモノマーであってよい。上記の何れかの生産方法において、第1重合段階は、第1モノマーとは異なる水溶性のモノマーが実質的に存在しない条件下で、第1モノマー及び第2モノマーをラジカル重合させる段階を含んでよい。
【0014】
本発明の第8の態様においては、複合体を生産する方法が提供される。上記の生産方法は、例えば、第1繰り返し単位及び第2繰り返し単位を含む水溶性の共重合体を準備する準備段階を有する。上記の生産方法は、例えば、水溶性の共重合体の水溶液中で、π共役系ポリマーを形成する第3モノマーを重合させて、π共役系ポリマー及び共重合体を含む複合体を得る重合段階を有する。上記の生産方法において、第1繰り返し単位は、例えば、スルホン酸基又はその塩及び重合性ビニル基を有する第1モノマーに由来する構造を有する。上記の生産方法において、第2繰り返し単位は、例えば、炭素数12以上の置換又は非置換のアルキル基、炭素数12以上の置換又は非置換の芳香族環基、及び、炭素数12以上の置換又は非置換の脂環式環基の少なくとも1つを有するラジカル重合性モノマーである第2モノマーに由来する構造を有する。
【0015】
本発明の第9の態様においては、複合体を生産する方法が提供される。上記の生産方法は、例えば、第1繰り返し単位及び第2繰り返し単位を含む油溶性の共重合体を準備する準備段階を有する。上記の生産方法は、例えば、油溶性の共重合体に水溶性を付与する水溶化段階を有する。上記の生産方法は、例えば、水溶性を付与された共重合体の水溶液中で、π共役系ポリマーを形成する第3モノマーを重合させて、π共役系ポリマー及び共重合体を含む複合体を得る重合段階を有する。上記の生産方法において、第1繰り返し単位は、例えば、スルホン酸基又はその塩及び重合性ビニル基を有する第1モノマーに由来する構造を有する。上記の生産方法において、第2繰り返し単位は、例えば、炭素数12以上の置換又は非置換のアルキル基、炭素数12以上の置換又は非置換の芳香族環基、及び、炭素数12以上の置換又は非置換の脂環式環基の少なくとも1つを有するラジカル重合性モノマーである第2モノマーに由来する構造を有する。
【0016】
本発明の第10の態様においては、共重合体が提供される。上記の共重合体は、例えば、第1繰り返し単位及び第2繰り返し単位を含む。上記の共重合体において、第1繰り返し単位は、例えば、スルホン酸基又はその塩及び重合性ビニル基を有する第1モノマーに由来する構造を有する。上記の共重合体において、第2繰り返し単位は、例えば、炭素数12以上の置換又は非置換のアルキル基、炭素数12以上の置換又は非置換の芳香族環基、及び、炭素数12以上の置換又は非置換の脂環式環基の少なくとも1つを有するラジカル重合性モノマーである第2モノマーに由来する構造を有する。上記の共重合体において、第2モノマーの親水性の度合いは、例えば、第1モノマーの親水性の度合いよりも小さい。
【0017】
本発明の第11の態様においては、共重合体を生産する方法が提供される。上記の生産方法は、例えば、スルホン酸基又はその塩及び重合性ビニル基を有する水溶性の第1モノマーのスルホン酸基又はその塩を変性して、第1モノマーに油溶性を付与する油溶化段階と、上記の生産方法は、例えば、有機溶媒中で、油溶性を付与された第1モノマーと、油溶性のラジカル重合性モノマーである第2モノマーとをラジカル重合させて、油溶性の共重合体を得る重合段階を有する。上記の生産方法は、例えば、油溶性の共重合体に水溶性を付与し、水溶性の共重合体を得る水溶化段階を有する。
【0018】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。本明細書において、数値範囲が「A~B」と表記される場合、当該表記はA以上B以下を意味する。
【0020】
近年、(i)電子部品、当該電子部品を含む電気製品などの電子機器、(ii)当該電子部品、電磁波シールド、帯電防止フィルムなどに用いられる導電性材料、(iii)当該導電性材料の作製、物品の帯電防止処理又は防汚処理などに用いられる導電性塗料の材料として、導電性ポリマー組成物が注目されている。導電性ポリマー組成物は、例えば、π共役系ポリマーと、当該π共役系ポリマーをドーピングするドーパントポリマーとを含む。
【0021】
従来、導電性の向上、電気特性の安定性の向上、溶剤への溶解性の向上などを目的として、π共役系ポリマー又はドーパントポリマーを構成するモノマーの構造に関する様々な検討が行われている。これに対して、本発明者らは、π共役系ポリマー及び/又はドーパントポリマーを構成するモノマーを機能化することで、π共役系ポリマー及びドーパントポリマーの複合体に、導電性以外の新たな機能を付与することを想到した。
【0022】
本発明者らは、鋭意検討した結果、ドーパントポリマーを構成するモノマーを機能化することで、電子機器、導電性材料、導電性塗料などの用途に適した電気的特性を有しつつ、新たな機能を有する複合体が得られることを見出した。また、本発明者らは、新規なドーパントポリマー及びその製造方法を見出した。具体的には、本発明者らは、極性の小さな溶媒に対する溶解性の大きなドーパントポリマー及びその製造方法を見出した。例えば、本発明者らは、導電性ポリマー組成物のドーパントポリマーとして一般的に用いられているポリスチレンスルホン酸と比較して、エタノール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール及びトルエンの少なくとも1つに対する溶解度の大きなドーパントポリマー及びその製造方法を見出した。
【0023】
(A.複合体)
本実施形態によれば、π共役系ポリマーと、ドーパントポリマーとを含む複合体が提供される。本実施形態において、ドーパントポリマーは、第1繰り返し単位及び第2繰り返し単位を含む共重合体を有する。
【0024】
本実施形態において、第1繰り返し単位は、スルホン酸基又はその塩及び重合性ビニル基を有する第1モノマーに由来する構造を有する。本実施形態において、第2繰り返し単位は、ラジカル重合性モノマーである第2モノマーに由来する構造を有する。
【0025】
本実施形態において、第2モノマーの親水性の度合いは、第1モノマーの親水性の度合いよりも小さくてよい。第1モノマーは水溶性のモノマーであってよく、第2モノマーは油溶性のモノマーであってよい。第1モノマー及び第2モノマーの詳細は後述される。
【0026】
油溶性のモノマーは、親水性基を実質的に有しない化合物であってよい。油溶性のモノマーは、親水性基を有しない化合物であってよい。上記の親水性基は、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基、水酸基及びアミノ基からなる群から選択される少なくとも1つの官能基であってよい。親水性基を実質的に有しない化合物としては、当該化合物のうち親水性基を除いた構造に含まれる炭素の個数に対する、当該化合物に含まれる親水性基の個数の割合が10%未満である化合物が例示される。親水性基を実質的に有しない化合物は、上記の割合が5%未満の化合物であってもよい。
【0027】
複合体は、導電性複合体であってよい。複合体は、疎水性の導電性複合体であってよい。複合体の疎水性の程度は、例えば、水接触角により示される。本実施形態に係る複合体は、第2繰り返し単位を有することにより、例えば、20°以上の水接触角を有する。複合体は、30°以上の水接触角を有してもよく、40°以上の水接触角を有してもよく、50°以上の水接触角を有してもよく、60°以上の水接触角を有してもよく、70°以上の水接触角を有してもよく、80°以上の水接触角を有してもよく、90°以上の水接触角を有してもよく、100°以上の水接触角を有してもよく、100°より大きな水接触角を有してもよい。
【0028】
水接触角は、例えば、下記の手順により測定される。まず、複合体の被膜を有するフィルムのサンプルが作製される。具体的には、バーコーターNo.4を用いて、東レ株式会社製PETフィルム「ルミラー188T60」の表面に、複合体を含む塗工液を塗工する。塗工液は、塗工量が15×10-3~55×10-3 g-複合体/m2であり、乾燥後の被膜の厚さが0.02~0.05μmとなるように塗工される。次に、塗工液が塗工された「ルミラー188T60」に対して、105℃の条件で1分間の乾燥処理を実行する。乾燥処理は、熱風乾燥機を用いて実行される。これにより、上記のフィルムのサンプルが作製される。
【0029】
次に、上記の手順により作製されたフィルムのサンプルを用いて、複合体の水接触角が測定される。具体的には、上記のフィルムの表面に、20μLのイオン交換水を着滴させる。イオン交換水の着滴から30秒後に、接触角計(共和界面科学社製、DMo-601)を用いて接触角を測定する。
【0030】
(分散液)
本実施形態によれば、上記の複合体の分散液が提供される。上記の分散液は、水分散液であってもよく、非水分散液であってもよい。水分散液は、非水分散液と比較して、例えば、親水性基材への塗工性、環境安全性などに優れる。非水分散液は、例えば、水性分散液と比較して、例えば、疎水性の基材への塗布性、乾燥性、油溶性化合物との混和性などに優れる。
【0031】
例えば、分散液を基材の表面に塗布した後、当該分散液を乾燥させることで、当該基材の表面に導電性被膜が形成される。基材の形状は特に限定されない。基材の形状としては、板状、フィルム状若しくシート状、糸状若しくは繊維状、網目状などが例示される。板状、フィルム状又はシート状の基材は、多孔質膜であってもよい。繊維状又は網目状の基材は、不織布であってもよい。
【0032】
分散液を塗布する方法としては、スピンコーター、バーコーター、浸漬、コンマコート、スプレーコート、ロールコート、スクリーン印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷などが例示される。分散液を乾燥する方法としては、熱風循環炉、ホットプレートなどによる加熱が例示される。
【0033】
一実施形態において、分散液は、上記の複合体と、当該複合体の分散媒としての水とを含む。この場合において、分散媒は、分散剤を実質的に含まなくてよい。分散剤の含有量は、水100質量部に対して30質量部未満であってよく、水100質量部に対して10質量部未満であってもよい。
【0034】
分散剤としては、低分子型界面活性剤、高分子型界面活性剤などが例示される。界面活性剤は、アニオン性であってもよく、ノニオン性であってもよく、カチオン性であってもよく、両性であってもよい。
【0035】
上記の水系分散液の粘度は、常温で100mPa・s以下であってよい。上記の粘度は、50mPa・s以下であってよく、30mPa・s以下であってもよい。
【0036】
他の実施形態において、分散液は、上記の複合体と、当該複合体の分散媒としての有機溶媒とを含む。この場合において、分散媒は、実質的に水を含まなくてよい。水の含有量は、有機溶媒100質量部に対して30質量部未満であってよく、有機溶媒100質量部に対して20質量部未満であってもよい。分散媒は、実質的に分散剤を含まなくてよい。分散剤の含有量は、有機溶媒100質量部に対して30質量部未満であってよく、有機溶媒100質量部に対して10質量部未満であってもよい。
【0037】
有機溶媒としては、水溶性有機溶剤、非水溶性有機溶剤、水溶性有機溶剤及び非水溶性有機溶剤の混合溶剤などが例示される。水溶性有機溶剤は、例えば、20℃の水100gに対する溶解量が1g以上の有機溶剤である。非水溶性有機溶剤は、例えば、20℃の水100gに対する溶解量が1g未満の有機溶剤である。1種の水溶性有機溶剤が単独で使用されてもよく、2種以上の水溶性有機溶剤が併用されてもよい。1種の非水溶性有機溶剤が単独で使用されてもよく、2種以上の非水溶性有機溶剤が併用されてもよい。
【0038】
水溶性有機溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、窒素原子含有溶剤、エステル系溶剤などが例示される。アルコール系溶剤としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール(イソプロパノール)、2-メチル-2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、アリルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルなどが例示される。エーテル系溶剤としては、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルなどが例示される。ケトン系溶剤としては、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルエチルケトン、アセトン、ジアセトンアルコールなどが例示される。窒素原子含有溶剤としては、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドなどが例示される。エステル系溶剤としては、エステル系溶剤としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチルなどが例示される。
【0039】
非水溶性有機溶剤としては、炭化水素系溶剤が例示される。炭化水素系溶剤としては、脂肪族炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤などが例示される。脂肪族炭化水素系溶剤としては、ヘキサン、シクロヘキサン、ペンタン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカンなどが例示される。芳香族炭化水素系溶剤としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼンなどが例示される。
【0040】
分散剤としては、低分子型界面活性剤、高分子型界面活性剤などが例示される。界面活性剤は、アニオン性であってもよく、ノニオン性であってもよく、カチオン性であってもよく、両性であってもよい。
【0041】
(導電性塗料)
本実施形態によれば、上記の複合体を含む導電性塗料が提供される。導電性塗料は、水系塗料であってもよく、溶剤系塗料であってもよく、反応硬化型塗料であってもよい。
【0042】
一実施形態において、導電性塗料は、例えば、(i)導電剤と、(ii)導電剤を分散又は溶解させて保持する分散媒又は溶媒とを含む。導電剤は、例えば、上記の複合体を含む。導電剤は、上記の複合体であってもよい。
【0043】
他の実施形態において、導電性塗料は、(i)導電剤と、(ii)高導電化剤及び被膜形成剤の少なくとも一方と、(iii)導電剤、並びに、高導電化剤及び被膜形成剤の少なくとも一方を分散又は溶解させて保持する分散媒又は溶媒とを含む。導電剤は、例えば、上記の複合体を含む。導電剤は、上記の複合体であってもよい。高導電化剤は、例えば、水溶性有機溶剤を含む。高導電化剤は、水溶性有機溶剤であってもよい。水溶性有機溶剤としては、ジメチルスルホキシド、エチレングリコールなどが例示される。被膜形成剤としては、任意の樹脂が例示される。上記の樹脂としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアルコールなどが例示される。
【0044】
導電性塗料は、例えば、分散媒又は溶媒100質量部に対して0.001質量部以上2質量部以下の導電剤を含む。導電性塗料は、分散媒又は溶媒100質量部に対して0.01質量部以上1質量部以下の導電剤を含んでもよい。
【0045】
上記の分散媒又は溶媒としては、ゾル、ゲル、液体などが例示される。上記の分散媒又は溶媒は、水であってもよく、有機溶媒であってよい。上記の分散媒又は溶媒は、単一の有機溶媒を含んでもよく、複数の種類の有機溶媒を含んでもよい。有機溶媒としては、上述された分散液に関連して説明された化合物と同様の化合物が使用され得る。
【0046】
導電性塗料は、分散剤をさらに含んでもよい。導電性塗料は、単一の分散剤を含んでもよく、複数の種類の分散剤を含んでもよい。分散剤としては、上述された分散液に関連して説明された化合物と同様の化合物が使用され得る。
【0047】
導電性塗料は、例えば、分散媒又は溶媒100質量部に対して0.0001質量部以上10質量部以下の分散剤を含む。導電性塗料は、分散媒又は溶媒100質量部に対して0.001質量部以上5質量部以下の分散剤を含んでもよい。
【0048】
導電性塗料は、導電性を大きく損なわない範囲で、各種の材料をさらに含んでよい。上記の材料としては、(i)ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビリニデン、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-マレイン酸樹脂、スチレン-ブタジエン樹脂、ブタジエン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン樹脂、ポリ(メタ)アクリロニトリル樹脂、(メタ)アクリルアミド樹脂、酸変性されていないポリエチレン樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、変性ナイロン樹脂、ロジン系やテルペン系などの粘着付与樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂などの樹脂材料;(ii)炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウム、炭化タンタル、炭化ニオブ、炭化タングステン、炭化クロム、炭化モリブテン、炭化カルシウム、ダイヤモンドカーボンラクタムなどの炭化物;(iii)窒化ホウ素、窒化チタン、窒化ジルコニウムなどの窒化物;(iv)ホウ化ジルコニウムなどのホウ化物;(v)酸化チタン(チタニア)、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化銅、酸化アルミニウム、シリカ、コロイダルシリカなどの酸化物;(vi)チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸ストロンチウムなどのチタン酸化合物;(vii)二硫化モリブデンなどの硫化物;(viii)フッ化マグネシウム、フッ化炭素などのフッ化物;(xi)ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウムなどの金属石鹸;(x)滑石、ベントナイト、タルク、炭酸カルシウム、ベントナイト、カオリン、ガラス繊維、雲母などの無機材料などが例示される。
【0049】
上記の材料は、単独で用いられてもよく、複数の材料が併用されてもよい。導電性塗料における上記の材料の含有量は特に限定されるものではないが、当該含有量は、導電性塗料100質量%に対して50質量%以下であってよい。上記の含有量は、30質量%以下であってもよく、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0050】
導電性塗料は、導電性を大きく損なわない範囲で、各種の添加剤をさらに含んでよい。上記の添加剤としては、チキソ性付与剤、消泡剤、ブロッキング防止剤、難燃剤、粘着付与剤、加水分解防止剤、レベリング剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、顔料、染料などが例示される。
【0051】
上記の添加剤は、単独で用いられてもよく、複数の添加剤が併用されてもよい。導電性塗料における添加剤の含有量は特に限定されるものではないが、当該含有量は、導電性塗料100質量%に対して50質量%以下であってよい。上記の含有量は、30質量%以下であってもよく、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0052】
一実施形態において、導電性塗料が物品の表面に塗布されることで、当該物品に導電性が付与される。導電性塗料は、例えば、後述される導電性材料又は電子機器の作製に用いられる。他の実施形態において、導電性塗料が物品の表面に塗布されることで、当該物品に防汚機能又は撥水機能若しくは撥油機能が付与される。さらに他の実施形態において、導電性塗料が物品の表面に塗布されることで、当該物品に電磁波遮蔽機能が付与される。
【0053】
(導電性材料)
本実施形態によれば、上記の複合体を含む導電性材料が提供される。上記の導電性材料は、例えば、板状又は線状の形状を有する。板状の導電性材料は、例えば、電子基板として用いられる。線状の導電性材料は、例えば、配線として用いられる。上記の導電性材料は、例えば、フィルム状若しくはシート状、糸状若しくは繊維状、又は、網目状の形状を有する。フィルム状又はシート状の導電性材料は、例えば、フレキシブル基板、偏光板、保護フィルム、キャリアテープ、指紋防止フィルムなどとして用いられる。糸状又は繊維状の導電性材料は、例えば、テキスタイル、カーペット、ベッドなどに用いられる。網目状の導電性材料は、例えば、電極、太陽電池などに用いられる。
【0054】
(電子機器)
本実施形態によれば、上記の導電性材料を備える電子機器が提供される。電子機器としては、電子部品、当該電子部品を含む電気製品などが例示される。電子部品としては、有機EL素子、色素増感太陽電池パネル、電解コンデンサーなどが例示される。例えば、上記の複合体は、有機EL素子の透明電極層又は正孔注入層として機能する。電気製品としては、有機ELディスプレイ、太陽光発電装置、家電製品、携帯機器、通信機器などが例示される。
【0055】
(B.π共役系ポリマー)
π共役系ポリマーは、例えば、π共役系連鎖を形成する第3モノマーの重合体である。π共役系ポリマーは、単一重合体であってもよく、共重合体であってもよい。上記のπ共役系連鎖は、単結合と二重結合が交互に連続した構造を示す。
【0056】
(第3モノマー)
第3モノマーとしては、(i)ピロール類、チオフェン類、チオフェンビニレン類、セレノフェン類、テルロフェン類、フェニレン類、フェニレンビニレン類、アニリン類などの単環式芳香族類、(ii)アセン類などの多環式芳香族類、(iii)アセチレン類などが例示される。第3モノマーは、単環式芳香族類、多環式芳香族類及びアセチレン類からなる群から選択される1種又は2種以上の化合物又はその塩であってよい。
【0057】
第3モノマーとして用いられる上記の化合物は、アルキル基、カルボキシ基、スルホ基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、シアノ基及びハロゲン原子からなる群から選択される1種又は2種以上の官能基により置換されてよい。これにより、π共役系ポリマーの導電性がさらに向上する。
【0058】
ピロール類の具体例としては、ピロール、N-メチルピロール、3-メチルピロール、3-エチルピロール、3-n-プロピルピロール、3-ブチルピロール、3-オクチルピロール、3-デシルピロール、3-ドデシルピロール、3,4-ジメチルピロール、3,4-ジブチルピロール、3-カルボキシピロール、3-メチル-4-カルボキシピロール、3-メチル-4-カルボキシエチルピロール、3-メチル-4-カルボキシブチルピロール、3-ヒドロキシピロール、3-メトキシピロール、3-エトキシピロール、3-ブトキシピロール、3-ヘキシルオキシピロール、3-メチル-4-ヘキシルオキシピロールなどが挙げられる。チオフェン類の具体例としては、チオフェン、3-メチルチオフェン、3-エチルチオフェン、3-プロピルチオフェン、3-ブチルチオフェン、3-ヘキシルチオフェン、3-ヘプチルチオフェン、3-オクチルチオフェン、3-デシルチオフェン、3-ドデシルチオフェン、3-オクタデシルチオフェン、3-ブロモチオフェン、3-クロロチオフェン、3-ヨードチオフェン、3-シアノチオフェン、3-フェニルチオフェン、3,4-ジメチルチオフェン、3,4-ジブチルチオフェン、3-ヒドロキシチオフェン、3-メトキシチオフェン、3-エトキシチオフェン、3-ブトキシチオフェン、3-ヘキシルオキシチオフェン、3-ヘプチルオキシチオフェン、3-オクチルオキシチオフェン、3-デシルオキシチオフェン、3-ドデシルオキシチオフェン、3-オクタデシルオキシチオフェン、3,4-ジヒドロキシチオフェン、3,4-ジメトキシチオフェン、3,4-ジエトキシチオフェン、3,4-ジプロポキシチオフェン、3,4-ジブトキシチオフェン、3,4-ジヘキシルオキシチオフェン、3,4-ジヘプチルオキシチオフェン、3,4-ジオクチルオキシチオフェン、3,4-ジデシルオキシチオフェン、3,4-ジドデシルオキシチオフェン、3,4-エチレンジオキシチオフェン、3,4-プロピレンジオキシチオフェン、3,4-ブテンジオキシチオフェン、3-メチル-4-メトキシチオフェン、3-メチル-4-エトキシチオフェン、3-カルボキシチオフェン、3-メチル-4-カルボキシチオフェン、3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン、3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェンなどが挙げられる。アニリン類の具体例としては、アニリン、2-メチルアニリン、3-イソブチルアニリン、2-メトキシアニリン、2-エトキシアニリン、2-アニリンスルホン酸、3-アニリンスルホン酸などが挙げられる。
【0059】
第3モノマーは、ピロール、チオフェン、N-メチルピロール、3-メチルチオフェン、3-メトキシチオフェン、及び、3,4-エチレンジオキシチオフェンからなる群から選択される1種又は2種以上の化合物又はその塩であることが好ましい。これらの化合物又はその塩は、例えば、反応性及び反応生成物の抵抗値の観点から、第3モノマーとして好適に用いられる。第3モノマーは、ピロール、及び/又は、3,4-エチレンジオキシチオフェンであることがさらに好ましい。第3モノマーは、ピロール又は3,4-エチレンジオキシチオフェンの何れか一方であることがさらに好ましい。
【0060】
π共役系ポリマーは、ポリチオフェン系導電性高分子であってよい。π共役系ポリマーは、ピロール、チオフェン、セレノフェン、テルロフェン、アニリン、多環式芳香族化合物及びこれらの誘導体からなる群から選択される1種又は2種以上の化合物又はその塩の重合体であってよい。π共役系ポリマーは、ポリピロール、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)又はこれらの誘導体であってよい。π共役系ポリマーは、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)又はその誘導体であってよい。π共役系ポリマーは、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)であってよい。
【0061】
(π共役系ポリマーの製造方法)
π共役系ポリマーは、公知の任意の重合方法を用いて作製される。π共役系高分子の重合方法としては、電解性基質溶媒中での化学酸化重合法が例示される。より具体的には、ドーパントポリマーの水溶液中で、酸化剤を用いて、π共役系ポリマーの原料モノマー(上述された第3モノマーである。)を重合させる。これにより、π共役系ポリマーと、ドーパントポリマーとを含む複合体が得られる。具体的には、ドーパントポリマーがドープしたπ共役系ポリマーの水分散体が得られる。π共役系ポリマーの製造方法の詳細は、複合体の製造方法として後述される。
【0062】
(C.ドーパントポリマー)
本実施形態において、ドーパントポリマーは、第1繰り返し単位及び第2繰り返し単位を含む共重合体を有する。ドーパントポリマーは、第1繰り返し単位及び第2繰り返し単位を含む共重合体であってよい。
【0063】
上述されたとおり、本実施形態において、第1繰り返し単位は、スルホン酸基又はその塩及び重合性ビニル基を有する第1モノマーに由来する構造を有する。本実施形態において、第2繰り返し単位は、ラジカル重合性モノマーである第2モノマーに由来する構造を有する。上述されたとおり、第2モノマーの親水性の度合いは、第1モノマーの親水性の度合いよりも小さくてよい。
【0064】
ドーパントポリマーを構成する共重合体の分子量は、特に限定されない。溶液重合法によれば、例えば、重量平均分子量が3、000~2、000、000程度の共重合体が得られる。共重合体の重量平均分子量は、10、000~1、000、000であってよい。重量平均分子量が10、000以上である場合、複合体の分散性が向上する。重量平均分子量が1、000、000以下である場合、π共役系ポリマーへのドープ率が向上し、優れた導電性を有する複合体が得られる。
【0065】
(第1モノマー)
上述されたとおり、第1モノマーは、スルホン酸基又はその塩及び重合性ビニル基を有する。第1モノマーは、スルホン酸基又はその塩及び重合性ビニル基を有する水溶性のモノマーであってよい。
【0066】
第1モノマーとしては、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、N-t-ブチルアクリルアミドスルホン酸、2-スルホエチルメタクリレート、及び、これらの誘導体からなる群から選択される1種又は2種以上の化合物又はその塩であることが好ましい。第1モノマーは、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、N-t-ブチルアクリルアミドスルホン酸、及び、2-スルホエチルメタクリレートからなる群から選択される1種又は2種以上の化合物又はその塩であってもよい。
【0067】
第1モノマーとしては、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸及びこれらの塩が好適に用いられる。より好適には、第1モノマーとして、スチレンスルホン酸又はビニルスルホン酸の何れか一方の塩が用いられる。上記の化合物の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩などが例示される。上記の化合物の塩は、ナトリウム塩であってよい。第1モノマーは、スチレンスルホン酸ナトリウム、又は、ビニルスルホン酸ナトリウムであってよい。
【0068】
(第2モノマー)
上述されたとおり、第2モノマーは、ラジカル重合性モノマーである。ラジカル重合性モノマーとしては、(メタ)アクリル酸の誘導体、(メタ)アクリル酸エステル及びその誘導体、並びに、(メタ)アクリルアミドの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の化合物又はそのビニル化合物が例示される。
【0069】
第2モノマーは、油溶性のラジカル重合性モノマーであってよい。本実施形態においては、第2モノマーとして、第1モノマーよりも親水性の度合いの小さな化合物が用いられる。例えば、第1モノマーとして水溶性のモノマーが用いられ、第2モノマーとして油溶性のモノマーが用いられる。
【0070】
第2モノマーは、炭素数6以上の置換又は非置換のアルキル基、炭素数6以上の置換又は非置換の芳香族環基、及び、炭素数6以上の置換又は非置換の脂環式環基からなる群から選択される少なくとも1つの官能基を有するラジカル重合性モノマーであってよい。上記の官能基は疎水性を示すことから、第2モノマーが油溶性を有し得る。これにより、第2モノマーの親水性の度合いが、第1モノマーの親水性の度合いよりも小さくなる。
【0071】
第2モノマーは、炭素数12以上の置換又は非置換のアルキル基、炭素数12以上の置換又は非置換の芳香族環基、及び、炭素数12以上の置換又は非置換の脂環式環基の少なくとも1つの官能基を有するラジカル重合性モノマーであってよい。油溶性のラジカル重合性モノマーは、炭素数が12以上30以下の置換又は非置換のアルキル基、炭素数が12以上30以下の置換又は非置換の芳香族環基、及び、炭素数が12以上30以下の置換又は非置換の脂環式環基の少なくとも1つの官能基を有するラジカル重合性モノマーであってよい。上記の官能基は疎水性を示すことから、第2モノマーが油溶性を有する。これにより、第2モノマーの親水性の度合いが、第1モノマーの親水性の度合いよりも小さくなる。
【0072】
上記のアルキル基は、直鎖アルキル基であってもよく、分岐アルキル基であってもよい。アルキル基は、第1級アルキル基であってもよく、第2級アルキル基であってもよく、第3級アルキル基であってもよい。上記のアルキル基としては、ドデシル基(ラウリル基と称される場合がある)、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、オクタデシル基(ステアリル基と称される場合がある)、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリアコンチル基、テトラコンチル基などが例示される。
【0073】
上記の芳香族環基は、ベンゼン環であってもよく、ナフタレン環であってもよく、アントラセン環であってもよい。上記の芳香族環基としては、ドデシルベンゼン、ノニルフェニルの様なアルキルベンゼン、および、アルキルナフタレンなどが例示される。
【0074】
上記の脂環式環基は、シクロヘキシル環であってもよく、ジシクロペンタニル環であってもよく、アダマンチル環であってもよい。上記の脂環式環基としては、ジメチルアダマンタン、ジシクロペンタニルオキシエチルなどが例示される。
【0075】
第2モノマーとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリルアミドアルキルが好適に用いられる。第2モノマーは、炭素数が6以上30以下の非置換のアルキル基を有する、(メタ)アクリル酸アルキルエステル又は(メタ)アクリルアミドアルキルであってよい。第2モノマーは、炭素数が12以上30以下の非置換のアルキル基を有する、(メタ)アクリル酸アルキルエステル又は(メタ)アクリルアミドアルキルであってよい。
【0076】
第2モノマーは、(メタ)アクリル酸の誘導体、(メタ)アクリル酸エステル及びその誘導体、並びに、(メタ)アクリルアミドの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の化合物、又は、ビニル化合物であってよい。上記の化合物は、置換又は非置換のアルキル基、置換又は非置換のアルキル基、及び、置換又は非置換の脂環式環基からなる群から選択される少なくとも1つの官能基を有してよい。一実施形態において、炭素数6以上の置換又は非置換のアルキル基、炭素数6以上の置換又は非置換のアルキル基、及び、炭素数6以上の置換又は非置換の脂環式環基からなる群から選択される少なくとも1つの官能基を有する。他の実施形態において、第2モノマーは、炭素数12以上の置換又は非置換のアルキル基、炭素数12以上の置換又は非置換の芳香族環基、及び、炭素数12以上の置換又は非置換の脂環式環基からなる群から選択される少なくとも1つの官能基を有する。
【0077】
上記の官能基の炭素数の上限は特に限定されるものではないが、当該炭素数の上限は30であってもよい。官能基の炭素数が30以下である場合、当該官能基による立体障害などが比較的抑制され得る。また、官能基の炭素数が30以下である場合、当該炭素数が30を超える場合と比較して、第2モノマーの融点が低くなり得る。その結果、第2モノマーの溶解性及び/又はハンドリング性が向上する。また、第2モノマー及び/又はドーパントポリマーの高純度化が容易になる。
【0078】
第2モノマーは、親水性基を実質的に有しない化合物であってよい。第2モノマーは、上述されたアルキル基、芳香族環基及び/又は脂環式環基を有し、且つ、親水性基を実質的に有しない化合物であってよい。親水性基を実質的に有しない化合物は、親水性基を有しない化合物であってよい。これにより、第2モノマーが油溶性を有する。その結果、第2モノマーの親水性の度合いが、第1モノマーの親水性の度合いよりも小さくなる。上記の親水性基は、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基、水酸基及びアミノ基からなる群から選択される少なくとも1つの官能基であってよい。親水性基を実質的に有しない化合物としては、当該化合物のうち親水性基を除いた構造に含まれる炭素の個数に対する、当該化合物に含まれる親水性基の個数の割合が10%未満である化合物が例示される。親水性基を実質的に有しない化合物は、上記の割合が5%未満の化合物であってもよい。
【0079】
(ドーパントポリマーの製造方法)
上述されたとおり、本実施形態においては、第2モノマーとして、第1モノマーよりも親水性の度合いの小さな化合物が用いられる。例えば、第1モノマーとして水溶性のモノマーが用いられ、第2モノマーとして油溶性のモノマーが用いられる。
【0080】
第1モノマー及び第2モノマーの重合法は、特に限定されるものではなく、公知の任意の重合法が用いられる。上記の重合法としては、溶液重合法、リビングラジカル重合法などが例示される。溶液重合法によれば、共重合体の原料モノマーを親溶媒中で均一に重合させることができる。その結果、比較的均一な組成物が得られる。リビングラジカル重合法によれば、ドーパントポリマーの構造の均一性がさらに向上しうる。リビングラジカル重合法としては、金属錯体を用いる方法(ATRP法)、チオカルボニル化合物を用いる方法(RAFT法)、ニトロキシド化合物を用いる方法(NMP法)などが例示される。
【0081】
第1モノマー及び第2モノマーの親水性の度合いが比較的大きく異なる場合、第1モノマー及び第2モノマーを重合させるときに、第1モノマー及び第2モノマーが重合系で分離しやすくなる。第1モノマー及び第2モノマーが重合系で分離すると、それぞれのモノマーが異なる重合場において重合したり、ポリマーの一部又は全部が重合系から析出したりすることがある。その結果、第1モノマー及び第2モノマーが重合して得られたドーパントポリマーの組成が不均一になり得る。
【0082】
不均一な組成を有するドーパントポリマーの存在下でπ共役系ポリマーを合成すると、π共役系高分子の重合安定性が悪化し、π共役系ポリマー及びドーパントポリマーを含む導電性ポリマー組成物の品質に影響する。例えば、導電性ポリマー組成物を用いて作製された導電性被膜の性能が予め定められた基準に達しない、当該導電性被膜が十分に機能しないなどの現象が発生する。そのため、共重合体の原料モノマーを親溶媒中で均一に重合させることが好ましい。
【0083】
共重合体の原料モノマーを親溶媒中で均一に重合させるための手法としては、ドーパントポリマーを構成する共重合体のモノマーを、親水性の度合いが比較的近い複数のモノマーの中から選択する手法が考えられる。しかしながら、上記の手法によれば、本実施形態のように親水性の度合いが比較的大きく異なる複数のモノマーを共重合させることができない。
【0084】
共重合体の原料モノマーを親溶媒中で均一に重合させるための他の手法としては、親水性の度合いの異なる複数のモノマーと、親水性基及び重合性ビニル基を有する極性モノマーとを水溶液中で重合させる手法が考えられる。しかしながら、上記の手法によれば、例えば、上述された第2モノマーが炭素数6以上のアルキル基、炭素数6以上の芳香族環基又は炭素数6以上の脂環式環基を有する場合のように、親水性の度合いが比較的大きく異なる複数のモノマーを共重合させることができない。特に、上記の手法によれば、上述された第2モノマーが炭素数12以上のアルキル基、炭素数12以上の芳香族環基又は炭素数12以上の脂環式環基を有する場合のように、親水性の度合いが大きく異なる複数のモノマーを共重合させることができない。
【0085】
本発明者らは、第1モノマーを油溶化した後、油溶化された第1モノマーと、第2モノマーとを重合させることで、略均一な組成を有する共重合体が得られることを見出した。本実施形態によれば、共重合体を生産する方法は、第1モノマーのスルホン酸基又はその塩を変性して、第1モノマーに油溶性を付与する油溶化段階と、油溶性を付与された第1モノマーと、第2モノマーとをラジカル重合させて、油溶性の共重合体を得る重合段階を有する。共重合体を生産する方法は、油溶性の共重合体に水溶性を付与し、水溶性の共重合体を得る水溶化段階をさらに有してもよい。
【0086】
上記の油溶化段階は、水溶性の第1モノマーのスルホン酸基又はその塩を変性して、第1モノマーに油溶性を付与する段階であってよい。上記の重合段階は、有機溶媒中で、油溶性を付与された第1モノマーと、油溶性の第2モノマーとをラジカル重合させて、油溶性の共重合体を得る段階であってよい。
【0087】
本実施形態において、第2モノマーは、炭素数6以上の置換又は非置換のアルキル基、炭素数6以上の置換又は非置換の芳香族環基、及び、炭素数6以上の置換又は非置換の脂環式環基からなる群から選択される少なくとも1つの官能基を有するラジカル重合性モノマーであってよい。第2モノマーは、炭素数12以上の置換又は非置換のアルキル基、炭素数12以上の置換又は非置換の芳香族環基、及び、炭素数12以上の置換又は非置換の脂環式環基からなる群から選択される少なくとも1つの官能基を有するラジカル重合性モノマーであってもよい。上記の官能基の炭素数の上限は特に限定されるものではないが、当該炭素数の上限は30であってもよい。
【0088】
(重合溶媒)
ドーパントポリマーを構成する共重合体の重合反応において、公知の任意の溶媒が用いられてよい。例えば、第1モノマー及び第2モノマー並びにこれらの共重合体を溶解可能な溶媒が用いられる。これにより、略均一な組成を有する共重合体が得られる。
【0089】
上記の溶媒としては、プロトン性極性溶媒、非プロトン性極性溶媒及びそれらの混合溶媒が例示される。プロトン性極性溶媒としては、メタノール、エタノール、2-メトキシエタノールなどが例示される。非プロトン性極性溶媒としては、アセトニトリル、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどが例示される。
【0090】
(重合開始剤)
ドーパントポリマーを構成する共重合体の重合反応において、公知の任意の重合開始剤が用いられてよい。例えば、重合方法、重合条件、並びに、重合系及び/又は溶媒への溶解性に応じて、適宜好適な重合開始剤が用いられる。重合開始剤の10時間半減期温度は、50~110℃程度であってよい。10時間半減期温度が50℃以上である場合、重合効率の低下が抑制される。10時間半減温度が110℃以下である場合、エネルギー効率の低下が抑制される。
【0091】
上記の重合開始剤としては、アゾビス化合物、有機過酸化物、無機過酸化物及びレドックス開始剤系からなる群から選択される1種又は2種以上が例示される。アゾビス化合物としては、2,2'-アゾビス-イソブチロニトリルが例示される。有機過酸化物としては、過酸化ベンゾイルが例示される。無機過酸化物としては、過硫酸ナトリウムが例示される。レドックス開始剤系としては、アゾビス化合物、有機過酸化物、無機過酸化物などと、アミン類等との組み合わせが例示される。
【0092】
(連鎖移動剤)
ドーパントポリマーを構成する共重合体の重合反応において、公知の任意の連鎖移動剤が用いられてよい。これにより、ドーパントポリマーの分子量が調整され得る。連鎖移動剤としては、アルコール類、メルカプタン類、ハロゲン化炭素などが例示される。アルコール類としては、カテコールなどが例示される。メルカプタン類としては、n-ドデシルメルカプタンなどが例示される。ハロゲン化炭素としては、四塩化炭素などが例示される。
【0093】
(ドーパントポリマーの精製)
上記の重合により得られた共重合体(単に、ドーパントポリマーと称される場合がある。)は、公知の任意の精製手法を用いて精製されてよい。精製手法は、精製の目的に応じて適切に選択される。
【0094】
一実施形態において、低分子量成分の除去を目的とする場合には、(i)ドーパントポリマーを析出させ、析出したドーパントポリマーを洗浄する手法、(ii)限外濾過膜を用いて低分子量成分を除去する手法などが用いられる。低分子量成分としては、化学酸化重合触媒、残存モノマー、開始剤残渣などが例示される。
【0095】
他の実施形態において、イオン性の不純物の除去を目的とする場合には、(i)酸性試薬及び/又はアルカリ性試薬を用いて、ドーパントポリマーを洗浄する手法、(ii)カチオン性及び/又はアニオン性のイオン交換樹脂を用いて、イオン性の不純物を除去する方法などが例示される。さらに他の実施形態において、溶媒の除去又は置換を目的とする場合には、真空乾燥、減圧留去などにより溶媒を除去又は置換する方法が例示される
【0096】
(D.複合体の製造方法)
本実施形態において、複合体の製造方法は、例えば、ドーパントポリマーを準備する段階を有する。複合体の製造方法は、例えば、ドーパントポリマーの水溶液中で、π共役系ポリマーの原料モノマー(上述された第3モノマーである。)を重合させる段階とを有する。これにより、ドーパントポリマーがドープしたπ共役系ポリマーの水分散体が得られる。上記の重合は、酸化重合であってよい。
【0097】
本実施形態によれば、ドーパントポリマーが、親水性の度合いが比較的大きく異なる複数のモノマーを重合して得られる新規な共重合体を含む。これにより、ドーパントポリマー及びπ共役系ポリマーを含む複合体に導電性以外の新たな機能が付与される。新たな機能としては、撥水性、溶剤分散性、離型性、粘着性などが例示される。
【0098】
より具体的には、本実施形態において、複合体を生産する方法は、例えば、(a)第1繰り返し単位及び第2繰り返し単位を含む水溶性の共重合体を準備する準備段階を有する。複合体を生産する方法は、例えば、(b)水溶性の共重合体の水溶液中で、π共役系ポリマーを形成する第3モノマーを重合させて、π共役系ポリマー及び共重合体を含む複合体を得る重合段階とを有する。
【0099】
上述されたとおり、第1繰り返し単位は、第1ポリマーに由来する構造を有する。第2繰り返し単位は、第2ポリマーに由来する構造を有する。水溶性の共重合体は、水溶性のドーパントポリマーであってよい。
【0100】
第1モノマーは水溶性のモノマーであってよい。第2モノマーは油溶性のモノマーであってよい。第2モノマーの親水性の度合いは、第1モノマーの親水性の度合いより小さくてよい。
【0101】
第2モノマーは、炭素数6以上の置換又は非置換のアルキル基、炭素数6以上の置換又は非置換の芳香族環基、及び、炭素数6以上の置換又は非置換の脂環式環基からなる群から選択される少なくとも1つの官能基を有するラジカル重合性モノマーであってよい。第2モノマーは、炭素数12以上の置換又は非置換のアルキル基、炭素数12以上の置換又は非置換の芳香族環基、及び、炭素数12以上の置換又は非置換の脂環式環基の少なくとも1つの官能基を有するラジカル重合性モノマーであってよい。上記の官能基の炭素数の上限は特に限定されるものではないが、当該炭素数の上限は30であってもよい。
【0102】
(a.水溶性共重合体の準備段階)
本実施形態において、上記の水溶性の共重合体を準備する準備段階は、例えば、上記の水溶性の共重合体を取得する段階を含む。上記の水溶性の共重合体を取得する段階は、例えば、上記の水溶性の共重合体を購入する段階、又は、上記の水溶性の共重合体を作製する段階を含む。
【0103】
(水溶性のドーパントポリマー)
本実施形態において、上記の水溶性の共重合体を作製する段階は、第1繰り返し単位及び第2繰り返し単位を含む油溶性の共重合体を準備する準備段階と、油溶性の共重合体に水溶性を付与する水溶化段階とを含む。上述されたとおり、第1繰り返し単位は、第1ポリマーに由来する構造を有する。第2繰り返し単位は、第2ポリマーに由来する構造を有する。油溶性の共重合体は、油溶性のドーパントポリマーであってよい。
【0104】
(油溶性のドーパントポリマー)
上記の油溶性の共重合体を準備する準備段階は、例えば、上記の油溶性の共重合体を取得する段階を含む。上記の油溶性の共重合体を取得する段階は、例えば、上記の油溶性の共重合体を購入する段階、又は、上記の油溶性の共重合体を作製する段階を含む。
【0105】
本実施形態において、上記の油溶性の共重合体を作製する段階は、例えば、スルホン酸基又はその塩及び重合性ビニル基を有する第1モノマーのスルホン酸基又はその塩を変性して、第1モノマーに油溶性を付与する油溶化段階と、油溶性を付与された第1モノマーと、第2モノマーとをラジカル重合させる重合段階とを含む。これにより、共重合体が得られる。より具体的には油溶性の共重合が得られる。
【0106】
本実施形態において、上記の油溶化段階は、例えば、第1モノマーのスルホン酸基又はその塩と、アルキルアミン塩とを反応させる段階を含む。アルキルアミン塩は、第1級アミン塩であってもよく、第2級アミン塩であってもよく、第3級アミン塩であってもよい。
【0107】
後述されるとおり、複合体は、イオン交換樹脂を用いて精製され得る。第1級アミン塩は、第2級アミン塩及び第3級アミン塩と比較してイオン交換樹脂に吸着されやすい。また、第2級アミン塩は第3級アミン塩と比較してイオン交換樹脂に吸着されやすい。そのため、アルキルアミン塩として第1級アミン塩又は第2級アミン塩が用いられることで、複合体が容易に精製され得る。アルキルアミン塩として第1級アミン塩が用いられた場合、複合体の精製が非常に容易になる。
【0108】
1級アミンとしては、モノ-n-オクチルアミン、モノ-2エチルへキシルアミン、モノ-n-ドデシルアミンなどが例示される。2級アミンとしては、ジ-n-ブチルアミン、ジ-n-オクチルアミン、ジ-n-ドデシルアミンなどが例示される。3級アミンとしては、トリ-n-ブチルアミン、トリ-n-へキシルアミン、トリ-n-オクチルアミンなどが例示される。
【0109】
本実施形態において、上記の重合段階は、例えば、有機溶媒中で、油溶性を付与された第1モノマーと、油溶性の第2モノマーとをラジカル重合させて、油溶性の共重合体を作製する段階を含む。上記の重合段階は、例えば、第1モノマーとは異なる水溶性のモノマーが実質的に存在しない条件下で、第1モノマー及び第2モノマーをラジカル重合させる段階を含む。第1モノマーとは異なる水溶性のモノマーは、親水性基及び重合性ビニル基を有する極性モノマーであってよい。上記の重合段階は、第1モノマー及び第2モノマーとは異なるモノマーが実質的に存在しない条件下で、第1モノマー及び第2モノマーをラジカル重合させる段階を含んでもよい。
【0110】
この場合、第1モノマーは水溶性のモノマーであってよく、第2モノマーは油溶性のモノマーであってよい。第2モノマーは、炭素数6以上の置換又は非置換のアルキル基、炭素数6以上の置換又は非置換の芳香族環基、及び、炭素数6以上の置換又は非置換の脂環式環基からなる群から選択される少なくとも1つの官能基を有するラジカル重合性モノマーであることが好ましい。第2モノマーは、炭素数12以上の置換又は非置換のアルキル基、炭素数12以上の置換又は非置換の芳香族環基、及び、炭素数12以上の置換又は非置換の脂環式環基からなる群から選択される少なくとも1つの官能基を有するラジカル重合性モノマーであることがさらに好ましい。上記の官能基の炭素数の上限は特に限定されるものではないが、当該炭素数の上限は30であってもよい。
【0111】
(油溶性のドーパントポリマーの性質)
本実施形態において、油溶性のドーパントポリマーは、上述された第2モノマーに由来する第2繰り返し単位を有する。これにより、低極性溶媒に可溶なドーパントポリマーが得られる。
【0112】
一実施形態によれば、導電性ポリマー組成物のドーパントポリマーとして一般的に用いられているポリスチレンスルホン酸と比較して、エタノール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール及びトルエンの少なくとも1つに対する溶解度の大きなドーパントポリマーが得られる。他の実施形態によれば、メチルエチルケトン(MEK)及び/又はトルエンに可溶なドーパントポリマーが得られる。
【0113】
例えば、第2ポリマーがメタクリル酸ラウリルである場合、油溶性のドーパントポリマーは、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、n-ブタノール(nBuOH)及びトルエンに溶解する。例えば、第2ポリマーがメタクリル酸ステアリルである場合、油溶性のドーパントポリマーは、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、n-ブタノール(nBuOH)、メチルエチルケトン(MEK)及びトルエンに溶解する。
【0114】
一実施形態において、油溶性のドーパントポリマーは、水よりも極性の小さな溶媒に対して比較的大きな溶解性を示す。他の実施形態おいて、油溶性のドーパントポリマーは、メタノールよりも極性の小さな溶媒に対して比較的大きな溶解性を示す。
【0115】
各種の溶媒の極性の程度は、例えば、Rohrschneiderの極性パラメータにより決定される。上記の極性が小さな溶媒は、Rohrschneiderの極性パラメータが5未満であってよい。上記の極性が小さな溶媒は、Rohrschneiderの極性パラメータが4.4未満であってよい。例えば、水の極性パラメータは10.2であり、エタノールの極性パラメータは4.3である。イソプロピルアルコールの極性パラメータは3.9であり、トルエンの極性パラメータは2.4である。
【0116】
上記の極性が小さな溶媒としては、アルコール、ケトン、芳香族炭化水素などが例示される。上記のアルコールとしては、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール(IPA)、ブタノール、n-ブタノール(nBuOH)などが例示される。上記のケトンとしては、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトンなどが例示される。上記の芳香族炭化水素としては、トルエン、ベンゼン、キシレンなどが例示される。
【0117】
(水溶化処理)
本実施形態において、油溶性の共重合体は、油溶性を付与された第1モノマーに由来する構造を有する。油溶性を付与された第1モノマーは、例えば、上述された油溶化段階において、スルホン酸基又はその塩及び重合性ビニル基を有する第1モノマーのスルホン酸基又はその塩を変性することで得られる。本実施形態において、水溶化段階は、例えば、上記の油溶化段階において変性された第1モノマーのスルホン酸基に由来する構造を変性する段階を含む。水溶化段階は、例えば、(i)上記の油溶性の共重合と、(ii)上記の油溶化段階においてスルホン酸基又はその塩を変性するために用いられた化合物よりも塩基性の度合いの大きな化合物であって、スルホン酸基との塩が水溶性を有する化合物とを反応させる段階を含む。上記の化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの強塩基性アルカリ金属水酸化物が例示される。
【0118】
例えば、上記の油溶化段階において、第1モノマーのスルホン酸基又はその塩がアルキルアミン塩を用いて変性された場合、水溶化段階において、第1モノマーのスルホン酸基に由来する構造からアルキルアミン基が脱離する。これにより、油溶性の共重合が水溶化される。
【0119】
(b.複合体の重合段階)
本実施形態によれば、上記の準備段階において準備された水溶性の共重合体(例えば、上記の水溶性を付与された共重合体である)の水溶液中で、第3モノマーを重合させる段階を含む。これにより、π共役系ポリマー及び共重合体を含む複合体の水分散体が得られる。第3モノマーの重合方法としては、π共役系ポリマーの製造方法として公知の任意の重合方法が用いられる。上述されたとおり、π共役系高分子の製造方法としては、電解性基質溶媒中での化学酸化重合法が例示される。
【0120】
ドーパントポリマー及び第3モノマーの比率は特に制限されるものではないが、第3モノマーの質量に対するドーパントポリマーの質量の割合は、0,5~10倍であることが好ましく、1~5倍であることがさらに好ましい。第3モノマーの質量に対するドーパントポリマーの質量の割合が0.5倍以上であれば、複合体又は複合体を含む組成物の安定性が向上する。上記の割合が1倍以上であれば、複合体又は複合体を含む組成物の安定性がさらに向上する。第3モノマーの質量に対するドーパントポリマーの質量の割合が10倍以下であれば、複合体又は複合体を含む組成物の導電性が向上する。上記の割合が5倍以下であれば、複合体又は複合体を含む組成物の導電性がさらに向上する。
【0121】
上記の酸化剤としては、公知の任意の化学酸化重合触媒が用いられる。より具体的には、酸化剤は、鉄化合物、銅化合物及び過硫酸塩からなる群から選択される1種又は2種以上の化合物であってよい。鉄化合物としては、(i)塩化鉄(III)、硫酸鉄(III)などが例示される。銅化合物としては、塩化銅(II)、硫酸銅(II)、テトラフルオロホウ酸銅(II)、ヘキサフルオロリン酸銅(II)などが例示される。過硫酸塩としては、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどが例示される。
【0122】
(複合体の精製)
上記の重合により得られた複合体は、公知の任意の精製手法を用いて精製されてよい。精製手法は、精製の目的に応じて適切に選択される。一実施形態において、低分子量成分の除去を目的とする場合には、(i)複合体を析出させて、析出した複合体を洗浄する手法、(ii)限外濾過膜を用いて低分子量成分を除去する手法などが用いられる。低分子量成分としては、化学酸化重合触媒、残存モノマー、開始剤残渣などが例示される。
【0123】
他の実施形態において、イオン性の不純物の除去を目的とする場合には、(i)酸性試薬及び/又はアルカリ性試薬を用いて、複合体を洗浄する手法、(ii)カチオン性及び/又はアニオン性のイオン交換樹脂を用いて、イオン性の不純物を除去する方法などが例示される。さらに他の実施形態において、溶媒の除去又は置換を目的とする場合には、真空乾燥、減圧留去などにより溶媒を除去又は置換する方法が例示される
【0124】
(複合体の微粒子化)
上記の重合により得られた複合体又は上記の精製された複合体は、公知の任意の微粒子化処理により微粒子化されてよい。これにより、複合体又はπ共役系ポリマーの溶媒安定性が向上する。微粒子化処理としては、ジルコニアビーズなどのメディアを混合してからペイントシェーカーなどを用いて振とうする方法、ホモジナイザーを用いて撹拌する方法、高圧ホモジナイザーを用いて高圧処理する方法、超音波ホモジナイザーを用いて超音波処理する方法などが例示される。
【実施例0125】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、下記の製造例・合成例又は実施例に限定されるものではない。また、特に断りの無い限り、「部」は「質量部」を表し、「%」は「質量%」を表す。
【0126】
(製造例1)
製造例1においては、第1モノマーの一例であるp-スチレンスルホン酸モノ-n-オクチルアミン(MOASSと称される場合がある。)を調整した。MOASSは、下記の手順により調整された。
【0127】
まず、ガラスビーカーに、10%塩酸155部を計量した。氷浴中でPTFE撹拌子を用いて塩酸を撹拌しながら、当該塩酸中にモノ-n-オクチルアミン54.9部をゆっくりと添加した。これにより、モノ-n-オクチルアミン塩酸塩水溶液が調整された。
【0128】
次に、別のガラスビーカーに、p-スチレンスルホン酸ナトリウム(東ソー・ファインケム社製、スピノマーNaSS。単に、NaSSと称される場合がある。)100部、イオン交換水900部を計量した。室温下でPTFE撹拌子を用いて溶液を撹拌し、NaSSを完全に溶解させた。
【0129】
次に、上記のNaSS水溶液の撹拌を継続しながら、当該NaSS水溶液中に上記のモノ-n-オクチルアミン塩酸塩水溶液をゆっくりと添加した。その後、上記の反応溶液を室温で1時間攪拌した。反応の進行に伴い、反応生成物であるMOASSが反応溶液から析出した。攪拌が終了した後、反応溶液を濾過することで、析出したMOASSを回収した。
【0130】
回収されたMOASSを水洗して、副生したNaClを除去した。また、恒量になるまで室温下で乾燥させた。その結果、MOASS110部が得られた。
【0131】
(合成例1)
合成例1においては、第1モノマーの一例であるMOASSと、第2ポリマーの一例であるメタクリル酸ステアリル(SMAと称される場合がある。)とを重合させて、ドーパントポリマーを作製した。ドーパントポリマーは、下記の手順により作製された。
【0132】
まず、温度計、攪拌機、還流管、滴下ロート、窒素導入管を備えた4つ口フラスコに、MOASS15部、SMA15部、及び、溶媒としてのN,N-ジメチルホルムアミド(DMFと称される場合がある。)50部を計量した。フラスコ内に窒素ガスを導入しながら攪拌を開始し、内温が80℃に達するまで加温した。これにより、MOASS及びSMAがDMFに溶解した。
【0133】
次に、ガラスビーカーに、2,2'-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBNと称される場合がある。)0.45部と、DMF20部とを計量した。AIBNがDMFに溶解したことを確認した後、AIBNのDMF溶液を滴下ロートに移し、内温を80℃に保った4つ口フラスコに4時間かけて滴下した。AIBNのDMF溶液の滴下が終了した後、内温を80℃に保った状態で撹拌を3時間継続した。これにより、ドーパントポリマーのDMF溶液(Ds-1と称される場合がある。)が得られた。
【0134】
次に、下記の手順に従ってドーパントポリマーを精製した。まず、ガラスビーカーにメチルエチルケトン(MEKと称される場合がある。)450部を計量した。MEKを撹拌しながら、MEKにドーパントポリマーのDMF溶液(Ds-1)50部をゆっくりと添加すると、析出物が発生した。反応溶液を濾過することで、析出物を回収した。回収された析出物に新たにMEK200部を加えて攪拌した後、濾過により析出物を回収する操作を2回繰り返した。これにより、精製された回収物が得られた。
【0135】
次に、下記の手順に従ってドーパントポリマーを水溶化した。まず、上記の精製された回収物に、イオン交換水300部、水酸化ナトリウム1部を加えて攪拌した。上記の回収物が水酸化ナトリウム水溶液に溶解したことを確認した後、当該水溶液をナスフラスコに液を移し、ロータリーエバポレーターを用いて当該水溶液から液体150部を減圧留去した。次に、ナスフラスコに残留している水溶液を別のビーカーに移し、当該水溶液を攪拌しながら、当該水溶液中にデュオライトC255LFH(住化ケムテックス社製、陽イオン交換樹脂。以下、C255LFHと表記する。)45部を添加した。その後、水溶液を1時間攪拌した。攪拌が終了した後、濾過により水溶液からイオン交換樹脂を除去した。イオン交換樹脂が除去された水溶液にイオン交換水を添加して、ポリマー分が5%となるように調整した。これにより、ドーパントポリマーの水溶液(Dw-1と称される場合がある。)が得られた。
【0136】
(合成例2~4)
モノマーの組成を表1のとおりに変更した以外は、合成例1と同様の手順により、合成例2~4のドーパントポリマーのDMF溶液(Ds-2、Ds-3、Ds-4)と、ドーパントポリマーの水溶液(Dw-2、Dw-3、Dw-4)を作製した。また、合成例1と同様の手順により合成例5のドーパントポリマーのDMF溶液及び水溶液を作製した。なお、表1において、数字は重量分率を示し、括弧内の数字はモル分率を示す。
【0137】
【0138】
表2に、合成例1~3において作製されたドーパントポリマーにおける第1モノマー及び第2モノマーの共重合比を示す。また、表2に、合成例1~3において作製されたドーパントポリマーの酸価(mgNaOH/g)を示す。上記の酸価は、自動滴定装置(HIRANUMA社製COM-1750)を用いて、0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液を標準溶液として、各ドーパントポリマー水溶液のサンプルの等電点を測定することで決定された。各ドーパントポリマー水溶液のサンプルは、各ドーパントポリマー水溶液をポリマー分1gとなる様に精秤した後、イオン交換水で総量が50gとなる様に希釈することで調整された。
【0139】
各ドーパントポリマー水溶液の酸価の測定において、何れのドーパントポリマー水溶液も等電点は1点であった。これにより、重合反応において第2モノマーが加水分解していないことが推定される。
【0140】
共重合比(モル分率)は、酸価測定値を用いて下記の数式(1)及び数式(2)により算出した。数式(1)及び数式(2)において、M1は第1モノマーのモル分率であり、M2は第2モノマーのモル分率である。W1は第1モノマーの分子量(g/mol)であり、W2は第2モノマーの分子量(g/mol)である。WNは水酸化ナトリウムの分子量(g/mol)である。Avはドーパントポリマーの酸価(mgNaOH/g)である。
【0141】
【0142】
M2 = 100-M1 (数式2)
【0143】
【0144】
表2に示されるとおり、各ドーパントポリマーの共重合比は、原料モノマーの組成と略同一である。これにより、第1モノマー及び第2モノマーが略均一に共重合していることがわかる。また、合成例1~3の合成実験において、各ドーパントポリマー水溶液は透明な水溶液として得られた。これにより、第1モノマー及び第2モノマーが略均一に共重合していることがわかる。合成例1~3の結果から、合成例5のドーパントポリマーについても、第1モノマー及び第2モノマーが略均一に共重合していることが推定される。
【0145】
(実施例1)
実施例1においては、合成例1で得られたドーパントポリマーの水溶液(Dw-1)の存在下でπ共役系ポリマーの原料モノマー(上述された第3モノマーである。)としての3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDTと称される場合がある。)を重合させて、水系導電性ポリマー組成物を作製した。水系導電性ポリマー組成物は、下記の手順により作製された。
【0146】
(水系導電性ポリマー組成物の重合及び精製)
まず、温度計、攪拌機、還流管、滴下ロート、窒素導入管を備えた4つ口フラスコに、硫酸鉄(III)n水和物0.5部、EDT1部、合成例1で得られたドーパントポリマーの水溶液(Dw-1)60部、及び、イオン交換水180部を計量した。フラスコ内に窒素ガスを導入しながら攪拌を開始し、内温を30℃に調整した。
【0147】
次に、ガラスビーカーに、過硫酸ナトリウム2.5部と、イオン交換水20部とを計量した。過硫酸ナトリウムがイオン交換水に溶解したことを確認した後、過硫酸ナトリウム水溶液を滴下ロートに移し、内温を30℃に保った4つ口フラスコに4時間かけて滴下した。過硫酸ナトリウム水溶液の滴下が終了した後、内温を30℃に保った状態で攪拌を3時間継続した。
【0148】
次に、反応溶液にC255LFH(住化ケムテックス社製、陽イオン交換樹脂)30部と、デュオライトA368S(住化ケムテックス社製、陰イオン交換樹脂。A368Sと称される場合がある。)30部とを添加して、撹拌を1時間継続した。攪拌が終了した後、濾過により反応溶液からイオン交換樹脂を除去した。これにより、水系導電性ポリマー組成物(Cw-1と称される場合がある。)が得られた。
【0149】
(実施例2~3及び比較例1~2)
原材料の組成を表3のとおりに変更した以外は、実施例1と同様の手順により、実施例2~3及び比較例1~2の水系導電性ポリマー組成物(Cw-2、Cw-3、Cw-4、Cw-5)を作製した。なお、表3において、仕込量の行の数字はポリマー分5%のドーパントポリマー水溶液の仕込み重量部を示す。仕込量の行の括弧内の数字はドーパントポリマー水溶液中のポリマー分の仕込み重量部を示す。
【0150】
(実施例4)
(溶剤系導電性ポリマー組成物の調整)
まず、温度計、攪拌機、還流管を備えた4つ口フラスコに、MEK65部、メタノール5部を計量した。溶媒を攪拌しながら、内温が60℃に達するまで加温した。次に、攪拌下の4つ口フラスコに、水系導電性ポリマー組成物(Cw-1)30部をゆっくりと添加し、導電性ポリマー組成物を析出させた。
【0151】
反応溶液を濾過することで、析出物を回収した。回収された析出物に新たにMEK100部を加えて攪拌した後、濾過により析出物を回収する操作を2回繰り返した。これにより、精製された回収物が得られた。
【0152】
次に、精製された回収物に、分散溶剤として2-プロパノール(IPAと称される場合がある。)を添加して、ポリマー分0.2%のスラリーを調整した。高圧ホモジナイザーを用いてスラリー中に精製された回収物を分散させた。これにより、溶剤系導電性ポリマー組成物(Cs-1と称される場合がある。)が得られた。
【0153】
(実施例5~7及び比較例3~5)
原材料の組成を表4のとおりに変更した以外は、実施例4と同様の手順により、実施例5~7及び比較例3~5の溶剤系導電性ポリマー組成物(Cs-2、Cs-3、Cs-4、Cs-5、Cs-6、Cs-7)を作製した。なお、表4において、表面抵抗率の行における「測定不可」は、表面抵抗計の測定上限よりも表面抵抗率が高く、測定値が得られなかったことを示す。また、「全光線透過率」及び「ヘイズ」の行における「測定不可」は、均一な膜が得られず、測定位置によって測定値が大きく異なることを示す。
【0154】
(評価)
実施例1~7及び比較例1~5の各導電性ポリマー組成物について、表面抵抗率、全光線透過率、及び、ヘイズを測定した。水系導電性ポリマー組成物についは、さらに水接触角を測定した。溶剤系導電性ポリマー組成物については、分散状態、水分量を下記の手順により測定した。これらの評価結果を表3及び表4に示す。
【0155】
(表面抵抗率)
まず、導電性ポリマー組成物を含む塗工液を調整した。水系導電性ポリマー組成物については、ポリマー分1.2%の水系導電性ポリマー組成物100部に対して、メタノール100部、濡れ剤(日信化学社製界面活性剤「オルフィンEXP.4200」)0.8部を加えて混合することで得られた希釈液を、塗工液として用いた。溶剤系導電性ポリマー組成物については、ポリマー分0.2%の高圧ホモジナイザー処理液を、塗工液として用いた。
【0156】
次に、各塗工液を、PETフィルム(東レ株式会社製、ルミラー188T60)の表面に、No.4バーコータ―を用いて塗工した。塗工液が塗工されたPETフィルムを、熱風乾燥機を用いて105℃1分間の条件で乾燥させた。これにより、各導電性ポリマー組成物の被膜が形成されたサンプルフィルムが作製された。表面抵抗率計(三菱化学アナリテック社製、Hiresta-UP MCP-HT450、プルーブURS)を用いて、各サンプルフィルムの表面抵抗率を印加電圧10Vの条件で測定した。
【0157】
(全光線透過率及びヘイズ)
ヘイズメーター(日本電色社製、NDH5000)を用いて、表面抵抗率の測定に用いられたサンプルフィルムの全光線透過率及びヘイズを測定した。
【0158】
(水接触角)
表面抵抗率の測定に用いられたサンプルフィルムの表面に、イオン交換水20μLを着滴させた。イオン交換水が着滴してから30秒経過後の接触角を、接触角計(共和界面科学社製、DMo-601)を用いて測定した。
【0159】
(分散状態)
ポリマー分0.2%の高圧ホモジナイザー処理液を容量が50mLのガラス瓶中に注入し、23℃環境下において1日間静置した。その後、沈殿及び分離の有無を目視にて確認した。
【0160】
(水分量)
各溶剤系導電性ポリマー組成物を捕集粒子径5μmのメンブレンフィルターで濾過し、ガスクロマトグラフィー(島津製作所社製、GC-2014)にて分離した揮発分を、TCD検出器によって外部標準法を用いて定量した。なお、水分量は全揮発分中に占める水の重量分率である。
【0161】
【0162】
【0163】
表3によれば、実施例1~3の水系導電性ポリマー組成物の被膜が優れた撥水性を有することがわかる。また、表4によれば、実施例4~7の溶剤系導電性ポリマー組成物が溶媒中での分散性と被膜の導電性に優れることがわかる。
【0164】
(ドーパントポリマーの溶解性)
合成例1のドーパントポリマー(MOASS及びSMAの共重合体)について、下記の手順により、エタノール、IPA、n-ブタノール、MEK及びトルエンのそれぞれに対する溶解性を調べた。まず、合成例1の油溶性ドーパントポリマーの7・1%水溶液を調整した。次に、油溶性ドーパントポリマーの水溶液を60℃の乾燥機中で12時間乾燥させて、厚さが約200μmのフィルムを作製した。次に、上記のフィルム0.5gと、各溶媒15gとを20mLスクリュー管瓶の内部に投入し、1日静置した。その後、超音波洗浄機(エスエヌディ株式会社製、US-3)を用いて、高周波電力150W及び発振周波数38kHzの条件での超音波処理を1時間実施した。
【0165】
超音波処理後のフィルムの溶解状態を目視にて観察した。その結果、サンプルが全ての溶媒に対して溶解していることが確認された。なお、導電性ポリマー組成物のドーパントポリマーとして一般的に用いられているポリスチレンスルホン酸は、上記と同様の条件下では、エタノール、IPA、n-ブタノール、MEK及びトルエンに対して溶解しない。
【0166】
同様の手順により、合成例2のドーパントポリマー(MOASS及びLMAの共重合体)の各種溶媒に対する溶解性を調べた。その結果、エタノール、IPA、n-ブタノール及びトルエンに投入されたサンプルが溶解していることが確認された。一方、MEKに投入されたサンプルの一部が溶媒に溶解せずに残存していることが確認された。
【0167】
同様の手順により、合成例3のドーパントポリマー(MOASS及びMMAの共重合体)の各種溶媒に対する溶解性を調べた。その結果、全ての溶媒に投入されたサンプルが残存していることが確認された。
【0168】
同様の手順により、合成例5のドーパントポリマー(MOASS及びHMAの共重合体)の各種溶媒に対する溶解性を調べた。その結果、エタノール、IPA及びn-ブタノールに投入されたサンプルが溶解していることが確認された。一方、トルエン及びMEKに投入されたサンプルの一部が溶媒に溶解せずに残存していることが確認された。
【0169】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0170】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階などの各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」などと明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」などを用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。