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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052234
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】煙突
(51)【国際特許分類】
   F23J 13/02 20060101AFI20240404BHJP
【FI】
F23J13/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158813
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】503304360
【氏名又は名称】コーキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082083
【弁理士】
【氏名又は名称】玉田 修三
(72)【発明者】
【氏名】小林 文明
(72)【発明者】
【氏名】菅原 広史
(72)【発明者】
【氏名】板野 稔久
(72)【発明者】
【氏名】岩成 真一
(72)【発明者】
【氏名】小林 公武
【テーマコード(参考)】
3K070
【Fターム(参考)】
3K070BA01
3K070BA04
3K070BA13
(57)【要約】
【課題】煙突が円筒形であっても四角筒形であっても、さらには横断面長円形の煙突であっても、同様に容易に適用することが可能であって、偏流板や排気案内羽根を余分に必要とせずに排気流の排気効率を高めることのできる煙突を提供することを目的としている。
【解決手段】煙突100は、外壁10と内壁20と断熱層30とを有し、排気流を煙道に導く横引き管200を備える。内壁20の内面に、軸線方向に対し交差する方向に延びる溝条24を設ける。内壁20を円筒形とし、螺旋方向に延びる溝条24を設ける。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外壁と薄肉鋼板でなる内壁との間に断熱層が介在されていると共に、排気発生源から送出された排気流を上記内壁の内部空間によって形成された煙道に導く横引き管を備える煙突であって、
内壁の内面に、この内壁の軸線方向に対し交差する方向に延びる溝条が上記軸線方向の多数箇所に平行に設けられていることを特徴とする煙突。
【請求項2】
内壁を構成している上記薄肉鋼板が円筒形であって、上記溝条が螺旋方向に延びている請求項1に記載した煙突。
【請求項3】
内壁が、螺旋状に巻回された上記薄肉鋼板により形成され、この内壁の軸線方向に並んだ排ガス流れ方向下流側及び排ガス流れ方向上流側の上記薄肉鋼板同士が螺旋状に延びるハゼ継ぎによる結合部を介して連設されていると共に、軸線方向で相隣接する2箇所の結合部の相互間複数箇所に上記溝条が設けられている請求項2に記載した煙突。
【請求項4】
内壁を構成している上記薄肉鋼板が四角筒形であって、上記溝条が内壁の軸線に対し直交する方向に延びている請求項1に記載した煙突。
【請求項5】
内壁を構成している上記薄肉鋼板が横断面長円形であって、上記溝条が内壁の軸線に対し直交する方向に延びている請求項1に記載した煙突。
【請求項6】
上記溝条の溝深さが3~5mmである請求項1に記載した煙突。
【請求項7】
上記溝条の溝幅が16~18mm、上記軸線方向で相隣接する溝条の相互間ピッチが30~40mmである請求項6に記載した煙突。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気発生源から送出された排気流を上記内壁の内部空間によって形成された煙道に導く横引き管を備える煙突に関する。
【背景技術】
【0002】
建物内に設置される大規模な煙突、たとえば非常用発電機を駆動するガスタービンやディーゼルエンジン、ボイラー、産業廃棄物焼却炉などの排気発生源から送出された排気流を建物外に導いて放出させるために構築される煙突では、煙道を上昇する排気流の排気効率を高めることが求められている。そして、この種の煙突にあっては、円筒形や四角筒形のものが多く採用されていて、一般的には、鋼板でなる外壁と薄肉鋼板でなる内壁との間に断熱層が介在されていると共に、排気発生源から送出された排気流を煙道に導く横引き管を備えている。
【0003】
煙突の排気効率を高めるための対策として、先行例では、円筒形の煙突に関して、排気発生源から送出された排気流を煙道に導入するための横向きの導入管の出口に偏流板を配置し、この偏流板の作用によって排気流を煙道内で旋回させるように工夫したものが提案されている(特許文献1参照)。また、他の先行例では、円筒形の煙突の煙道内に配備した螺旋形状の排気案内羽根の作用により排気流を旋回させるように工夫したものが提案されている(特許文献2参照) 。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実公昭63-44667号公報
【特許文献2】実登3226204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1や特許文献2によって提案されている先行例は、排気流を円筒形の煙突の煙道内でその内周面に沿って旋回させることを意図していることから、四角筒形の煙突に対してはそのままでは適用することに困難が伴う。また、特許文献1では偏流板が余分に必要になり、特許文献2では排気案内羽根が余分に必要になることなどからコスト高になったり施工が面倒になったりするという問題があった。
【0006】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたもので、煙突が円筒形であっても四角筒形であっても、さらには横断面長円形の煙突であっても、同様に容易に適用することが可能であり、しかも偏流板や排気案内羽根を余分に必要としないにもかかわらず、煙道を通じて上昇する排気流の排気効率を高めることのできる煙突を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る煙突は、外壁と薄肉鋼板でなる内壁との間に断熱層が介在されていると共に、排気発生源から送出された排気流を上記内壁の内部空間によって形成された煙道に導く横引き管を備える煙突であって、内壁の内面に、この内壁の軸線方向に対し交差する方向に延びる溝条が上記軸線方向の多数箇所に平行に設けられている、というものである。
【0008】
煙突がこのように構成されていると、後述する「煙道内の圧力分布を検証するシミュレーション」に基づく分析結果により、煙道を流れる排気流の圧力損失が少なくなって排出速度が速くなり、排気効率が向上することが予測できた。そして、このことから、細い煙突を用いてその設置スペースを狭く抑えることが可能になる結果、建物の床面積を拡大することも可能になることが予測できた。また、この発明に係る煙突は、内壁に薄肉鋼板が用いられていることに着目し、このことを利用して一定方向に延びる溝条を内壁に形成したものであることから、内壁に曲げ加工などの一定の板金加工を施すことによって溝条を容易に形成することができることになる、という有益性を備えているだけでなく、冒頭で説明した特許文献1の偏流板や特許文献2の排気案内羽根を余分に設ける必要がなくなるというコスト面や施工性についての利点を有している。また、内壁の軸線方向に対して交差する溝条は傾斜していてもよく、溝条の傾斜角度は、円筒形の内壁の軸線方向に直交する仮想平面に対して略直角、具体的には0~20度の範囲内で傾斜していてもよい。ここで、「溝条の傾斜角度」の意味については、後述する実施形態の説明の中で定義する。
【0009】
本発明は、円筒形の煙突であっても四角筒形の煙突であっても、さらには横断面長円形の煙突であっても、同様に容易に適用することが可能である。そして、円筒形の煙突については、内壁を構成している上記薄肉鋼板が円筒形であって、上記溝条が螺旋方向に延びている、という構成を採用することができる。この構成によると、螺旋状の溝条を内壁の全周に亘って一様に配備することが容易であり、このことが、煙道を流れる排気流の圧力分布を一様にして排気効率を向上させやすくすることに役立つ。螺旋方向に延びる溝条については、特に、円筒形の内壁の軸線方向に直交する仮想平面に対して略直角、具体的には0~20度の範囲内で傾斜していてもよい。
【0010】
同様に、円筒形の煙突については、内壁が、螺旋状に巻回された上記薄肉鋼板により形成され、この内壁の軸線方向に並んだ排ガス流れ方向下流側及び排ガス流れ方向上流側の上記薄肉鋼板同士が螺旋状に延びるハゼ継ぎによる結合部を介して連設されていると共に、軸線方向で相隣接する2箇所の結合部の相互間複数箇所に上記溝条が設けられている、という構成を採用することができる。この構成であると、薄肉鋼板が螺旋状に巻回されていること、薄肉鋼板に螺旋状の溝条が形成されていること、及び、結合部がハゼ継ぎにより形成されていること、が相まって、排気流の温度の影響による影響が内壁の軸線方向での伸縮作用によって吸収されやすく、しかも、内壁の撓み変形が抑制されやすい。このことにより、外壁と内壁との間に介在される断熱層として軽量で安価なロックウールを問題なく採用することが可能になる。
【0011】
次に、四角筒型の煙突にあっては、内壁を構成している上記薄肉鋼板が四角筒形であって、上記溝条が内壁の軸線に対し直交する方向に延びている、という構成を採用することが好ましい。この構成であると、内壁の軸線に対し直交する方向に延びている溝条が内壁を補強する補強リブとしての作用を発揮し、薄肉鋼板でなる内壁の抗撓み変形性を高めることに役立つため、外壁と内壁との間に介在される断熱層として軽量で安価なロックウールを採用しやすくすることに役立つ。
【0012】
さらに、横断面長円形の煙突にあっては、内壁を構成している上記薄肉鋼板が横断面長円形であって、上記溝条が内壁の軸線に対し直交する方向に延びている、という構成を採用することが好ましい。この構成であると、内壁の軸線に対し直交する方向に延びている溝条が内壁を補強する補強リブとしての作用を発揮し、薄肉鋼板でなる内壁の抗撓み変形性を高めることに役立つため、外壁と内壁との間に介在される断熱層として軽量で安価なロックウールを採用しやすくすることに役立つ。
【0013】
本発明では、上記溝条の溝深さが3~5mmであることが好ましい。薄肉鋼板でなる内壁の内面に設けられる溝条の溝深さが深すぎると排気流の圧力損失を増大させることが予測され、逆に、溝深さが浅すぎると溝条を設けることの意味が希釈されてしまうと考えられる。後述する「煙道内の圧力分布を検証するシミュレーション」に基づく分析結果により、溝条の溝深さが3~5mmであれば、圧力損失が減少することが予測できた。
【0014】
本発明では、上記溝条の溝幅が16~18mm、上記軸線方向で相隣接する溝条の相互間ピッチが30~40mmであることが望ましい。溝条の溝幅や相隣接する溝条の相互間ピッチは、内壁の口径などを勘案して定められるべきである。内壁の口径が500~1500mm程度の煙突であれば、溝条の溝幅を16~18mm、相隣接する溝条の相互間ピッチを30~40mmにしておくことが有益である。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明に係る煙突によれば、煙道を流れる排気流の圧力損失を少なくして排出速度を速くし、排気効率を向上させることが可能になるという効果が得られやすい。そして、このことに基づき、細い煙突を用いてその設置スペースを狭く抑えることが可能になり、建物の床面積を拡大することも可能になる。また、本発明に係る煙突は、内壁に薄肉鋼板が用いられていることに着目し、このことを利用して一定方向に延びる溝条を内壁に形成したものであることから、内壁に曲げ加工などの一定の板金加工を施すことによって溝条を容易に形成することができるという有益性を備えているだけでなく、冒頭で説明した特許文献1の偏流板や特許文献2の排気案内羽根を余分に設ける必要がなくなるというコスト面や施工性についての利点を有している。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る円筒形の煙突の基本構成を例示した概略横断平面図である。
図2図1の円筒形の煙突内壁を示した部分側面図である。
図3図2のIII部を示した一部破断拡大図である。
図4図3のIV-IV線端面図である。
図5】(A)(B)(C)は内壁に設けられる溝条の種々の形状を提示した断面図である。
図6】「煙道内の圧力分布を検証するシミュレーション」に基づく分析結果を比較画像で示した説明図である。
図7】本発明の他の実施形態に係る四角筒形の煙突の基本構成を例示した概略横断平面図である。
図8】パネル状の薄肉鋼板の内面を示した正面図である。
図9図8のIX-IX線端面図である。
図10】本発明のさらに他の実施形態に係る横断面長円形の煙突の基本構成を例示した概略横断平面図である。
図11】横断面長円形の内壁の一部を示した部分破断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は本発明の実施形態に係る円筒形の煙突の基本構成を例示した概略横断平面図である。この煙突100は、たとえば、建物躯体の煙突構築用スペースとしての吹き抜けに垂直姿勢で設置される。この種の煙突100では、下端部が、建物に設置されたガスタービンやディーゼルエンジン、ボイラー、廃棄物焼却炉といった排気発生源から延び出た横向きの導入管(以下、「横引き管」という。図1に示されていない。)の出口に接続されているのに対して、上端部が建物の屋上などに突出されている。
【0018】
図1の煙突100は、形状保持が可能な厚さ4~9mm程度の鋼板でなる外壁10と薄肉ステンレス鋼板のような薄肉鋼板でなる内壁20との間に、厚さ50~100mm程度の断熱層30が介在されている。断熱層30にはロックウールが採用されている。断熱層30には、熱収縮が小さく、断熱性、耐熱性、耐酸性、耐摩耗性などに優れているゾノライト系珪酸カルシウム板を用いることも可能であるけれども、円筒形の煙突100では、円筒形の内壁20により発揮される形状的特性によって得られる優れた抗撓み変形性を勘案すると、コスト面や施工面や軽量化の面からロックウールを単独で、あるいは、ロックウールとセラミックファイバーとの複合体の形で組み合わせて使用することが有益である。
【0019】
図2は円筒形の煙突の内壁20を示した部分側面図、図3図2のIII部を示した一部破断拡大図、図4図3のIV-IV線端面図である。
【0020】
図2及び図3に示した円筒形の内壁20には薄肉鋼板が使用されている。この薄肉鋼板には、たとえば厚さが0.6~2mm程度の薄肉ステンレス鋼板を好適に用いることができる。内壁20の口径は500~1500mm程度に定められ、この内壁20の内部空間が煙道を形成する。円筒形の内壁20は、筒形になるように螺旋状に巻回された薄肉鋼板によって形成されている。図2のように、螺旋状に巻回されている薄肉鋼板では、軸線方向に並んでいる排ガス流れ方向下流側(図例では上位)の薄肉鋼板21a及び排ガス流れ方向上流側(図例では下位)の薄肉鋼板21b同士が螺旋状に延びるハゼ継ぎによる結合部22を介して連設されている(図3及び図4に排ガス流れ方向を矢印Fで示してある。)。図4のように、ハゼ継ぎによる結合部22では、排ガス流れ方向下流側の薄肉鋼板21aの端部を外側に折り返して形成した外向き折返し片部22aと排ガス流れ方向上流側の薄肉鋼板21bの端部を外側に折り返して形成した外向き折返し片部22bとが互いに摺動可能に噛み合わされている。この噛み合わせ構造により、結合部22が内壁20の膨張収縮の吸収作用を発揮する。また、図例の結合部22では、排ガス流れ方向下流側の薄肉鋼板21a及び排ガス流れ方向上流側の薄肉鋼板21bの両者の内面が面一に連続するようにして雨水や結露水が滞ることなく伝い落ちるようにしてあり、そうすることによって、雨水や結露水が断熱層30の内部に浸入して断熱性能を低下させるという事態を防いでいる。
【0021】
また、内壁20には、上記したハゼ継ぎによる結合部22に対して平行に螺旋状に延びる断面山形の線状膨出部23が設けられている。この実施形態では、内壁20に板金加工などの機械加工を容易に施しやすい薄肉鋼板が用いられていることから線状膨出部23を容易に形成することが可能である。そして、この線状膨出部23の溝形の内面が図3に示した溝条24として形成されている。したがって、この内壁20にあっては、軸線方向(排ガス流れ方向Fに一致する。)に対し交差する方向に延びる溝条24が内壁20の軸線方向の多数箇所に平行に設けられていることになる。図3の事例では、相隣接する2箇所の結合部22,22の相互間の3箇所に溝条24…が設けられているけれども、この点は、相隣接する2箇所の結合部22,22の相互間の2箇所又は1箇所に溝条24…を設けておいても、3箇所より多い箇所に設けておいてもよい。
【0022】
図5(A)(B)(C)には内壁20に設けられる溝条24の種々の形状を提示してある。同図(A)に示した溝条24は断面円弧状であり、同図(B)に示した溝条24は断面角形状であり、同図(C)に示した溝条24は断面V字形状である。溝条24の断面形状は図示以外の形状、たとえば半長円形状などであってもよい。このような溝条24において、溝深さdは3~5mm、溝幅wは16~18mm、軸線方向で相隣接する溝条24,24の相互間ピッチpが30~40mmであることが望ましい。溝条24の溝幅wや相隣接する溝条の相互間ピッチpは、内壁の口径D(図2参照)などを勘案して定められるべきであり、内壁の口径が500~1500mm程度の煙突であれば、溝条の溝幅を16~18mm、相隣接する溝条の相互間ピッチを30~40mmにしておくことが有益である。
【0023】
ところで、円筒形の煙突100においては、煙道の入り口に導入される排気流に生じる圧力損失(負圧度)が少ないほど、煙道での排気流の排出速度が速くなり、排気効率が向上することが知られている。そこで、本願発明者は、横引き管から煙道に導入される排気流に生じる圧力分布を様々な煙突モデルについて検証した。その結果を図6に示してある。
【0024】
図6は「煙道内の圧力分布を検証するシミュレーション」に基づく分析結果を比較画像で示した説明図である。同図(A)(B)(C)は、横引き管200と煙突の内壁20との接続箇所で煙道に導入される排気流に生じる圧力分布を示していて、同図(A)は、内壁20が溝条を有しない場合、同図(B)は、相隣接する2箇所の結合部22,22の相互間の2箇所に溝条24…が設けられている場合、同図(C)は、相隣接する2箇所の結合部22,22の相互間の3箇所に溝条24…が設けられている場合、をそれぞれ示している(結合部22や溝条24については図3参照。)。シミュレーションを風速35m/secの条件下で行ったところ、藍色領域I、濃青色領域B、緑色領域G、黄色領域Y、オレンジ色領域Oなどの着色された領域で負圧度が示された。なお、負圧度は、藍色領域I>濃青色領域B>緑色領域G>黄色領域Y>オレンジ色領域Oの順に小さくなっている。
【0025】
同図(A)では、濃青色領域Bの中に渦流でなる藍色領域Iの存在することが煙道入り口の直上の範囲で観察されたのに対して、同図(B)では、緑色領域Gの中に小さな渦流でなる濃青色領域Bの存在することが観察された。さらに、同図(C)では、緑色領域Gの中に小さな渦流でなる輪郭のぼやけた濃青色領域Bの存在することが観察された。これらの分析結果から、煙道入り口で発生する圧力損失は、内壁20が溝条を有しない場合(同図(A))、相隣接する2箇所の結合部22,22の相互間の2箇所に溝条24…が設けられている場合(同図(B))は、相隣接する2箇所の結合部22,22の相互間の3箇所に溝条24…が設けられている場合(同図(C))の順に減衰することが判る。したがって、実施形態に係る煙突100は、内壁20が溝条24を有しないものに比べて、煙道での排気流の流速が速くなり、排気効率が改善されることが判る。また、相隣接する溝条24,24の相互間ピッチpが狭いほど、煙道での排気流の流速が速くなり、排気効率が改善されることが判る。
【0026】
以上では、円筒形の内壁20に螺旋状に延びる溝条24が設けられている煙突100について説明した。煙突100において、溝条24については、円筒形の内壁20の軸線方向に直交する仮想平面に対して略直角、具体的には0~20度の範囲内で傾斜していてもよく、特に、傾斜角が上記仮想平面に対して0度に近いほど望ましい。ここで、「溝条24の傾斜角度」とは、溝条24が3次元曲線を示すことから、3次元曲線である溝条24の周方向の一部の短い部分をそれに近似する直線状の溝条である、とみなすことによって認識することのできる直線状の溝条の傾斜角度を意味するものと定義した。図2のように、円筒形の内壁20の軸線を符号Y、上記仮想平面を符号P、みなされた直線状の溝条24(図3参照)を符号Gで示すと、上記傾斜角度が符号θで表される。
【0027】
ところで、建物内に設置される大規模な煙突100のように、円筒形の内壁20として大口径のものを採用することを要する煙突100では、上述したように薄肉鋼板を螺旋状に巻回することによって内壁20を形成する場合のほか、薄肉鋼板を円筒形に丸めて周方向端部同士の突き合わせ箇所を溶接で接合することによっても形成することが可能である。このようにして作られた内壁20にあっては、軸線方向に対して直交する無端環状の溝条を軸線方向の多数箇所に平行に設けておくことが望ましい。この構成を採用することにより製作が容易になる。
【0028】
図7は本発明の他の実施形態に係る四角筒形の煙突100の基本構成を例示した概略横断平面図である。この煙突100では、形状保持が可能な厚さ4~9mm程度の鋼板が四角筒形に組み合わされた外壁10と厚さ0.6~2mm程度の薄肉ステンレス鋼板のようなパネル状の薄肉鋼板が四角筒形に組み合わされた内壁20との間に、厚さ50~100mm程度の断熱層30が介在されている。断熱層30には通常はゾノライト系珪酸カルシウム板が用いられる。
【0029】
図8は四角筒形の内壁20に用いられているパネル状の薄肉鋼板25の内面を示した正面図、図9図8のIX-IX線に沿う部分の端面図である。
【0030】
図8及び図9に示したように、内壁20を構成しているパネル状の薄肉鋼板25の内面側には、横方向に延びる多数の溝条26…が上下方向に間隔を隔てて多数形成されている。したがって、パネル状の薄肉鋼板25を四角筒形に組み合わせてなる四角筒形の内壁20の内面には、この内壁20の軸線方向に対し直角に交差する方向に延びる溝条26が軸線方向の多数箇所に平行に設けられていることになる。この実施形態においても、内壁20に板金加工などの機械加工を容易に施しやすい薄肉鋼板が用いられていることから上記した溝条26を容易に形成することが可能である。
【0031】
このように、軸線方向に対し直角に交差する方向に延びる溝条26が軸線方向の多数箇所に平行に設けられている内壁20を採用した四角筒形の煙突100においても、煙道の入り口に導入される排気流に生じる圧力損失が少ないほど、煙道での排気流の排出速度が速くなり、排気効率が向上することが知られている。また、図6を参照して説明した「煙道内の圧力分布を検証するシミュレーション」に基づく分析結果は、四角筒形の煙突100においても同様に適用することができるものと考えられる。したがって、この実施形態に係る四角筒形の煙突100においても、内壁20が溝条26を有しない四角筒形の煙突に比べて、煙道での排気流の流速が速くなり、排気効率が改善される。また、相隣接する溝条26,26の相互間ピッチが狭いほど、煙道での排気流の流速が速くなり、排気効率が改善される。
【0032】
このほか、実施形態に係る四角筒形の煙突100では、内壁20に設けられている溝条26がパネル状の薄肉鋼板を補強する補強リブとしても作用する。このため、内壁20が優れた抗撓み変形性を発揮するようになる。通常は内壁の撓み防止のために成形体であるゾノライト系珪酸カルシウム板を断熱層に用いて、この成形体に重ねるように内壁を配置することにより内壁の撓みを防止するが、前記のように内壁20に設けられている溝条26がパネル状の薄肉鋼板を補強する補強リブとしても作用して、内壁20が優れた抗撓み変形性を発揮するようになるために、断熱層30を、ゾノライト系珪酸カルシウム板に代えて、コスト面や施工面や軽量化の面で有利なロックウールを単独で使用したり、あるいは、ロックウールとセラミックファイバーとの複合体の形で組み合わせて使用したりすることが可能になる。
【0033】
この実施形態において、内壁20に断面円弧状の溝条26を形成したものを図示したけれども、溝条26の形状は、断面角形状であっても断面V字形状であってもよい。また、溝深さは3~5mm、溝幅は16~18mm、軸線方向で相隣接する溝条26,26の相互間ピッチは30~40mmであることが望ましい。溝条26の溝幅や相隣接する溝条の相互間ピッチは、内壁の口径などを勘案して定められるべきである。
【0034】
図10は本発明のさらに他の実施形態に係る横断面長円形の煙突100の基本構成を例示した概略横断平面図である。図例の横断面長円形の煙突100は、2つの等幅の平壁部分101,101とこれらの平壁部分101の両側の2つの半円形状の円弧壁部分102,102とを有している。この煙突100においても、形状保持が可能な厚さ4~9mm程度の平坦な鋼板によって製作された横断面長円形の外壁10と、厚さ0.6~2mm程度の薄肉ステンレス鋼板のような薄肉鋼板でなる横断面長円形の内壁20との間に、厚さ50~100mm程度の断熱層30が介在されている。断熱層30には通常はゾノライト系珪酸カルシウム板が用いられる。
【0035】
図11は横断面長円形の内壁20の一部を示した部分破断側面図である。この実施形態において、横断面長円形の内壁20には、無端長円形状の多数の溝条27…が上下方向に間隔を隔てて多数形成されている。したがって、横断面長円形の内壁20の内面には、この内壁20の軸線方向に対し直角に交差する方向に延びる溝条27が軸線方向の多数箇所に平行に設けられていることになる。この実施形態においても、内壁20に板金加工などの機械加工を容易に施しやすい薄肉鋼板が用いられていることから上記した溝条27を容易に形成することが可能である。
【0036】
このように、軸線方向に対し直角に交差する方向に延びる溝条27が軸線方向の多数箇所に平行に設けられている内壁20を採用した横断面長円形の煙突100においても、煙道の入り口に導入される排気流に生じる圧力損失が少ないほど、煙道での排気流の排出速度が速くなり、排気効率が向上することが知られている。また、図6を参照して説明した「煙道内の圧力分布を検証するシミュレーション」に基づく分析結果は、横断面長円形の煙突100においても同様に適用することができるものと考えられる。したがって、この実施形態に係る横断面長円形の煙突100においても、内壁20が溝条27を有しない横断面長円形の煙突に比べて、煙道での排気流の流速が速くなり、排気効率が改善される。また、相隣接する溝条27,27の相互間ピッチが狭いほど、煙道での排気流の流速が速くなり、排気効率が改善される。
【0037】
このほか、実施形態に係る横断面長円形の煙突100では、内壁20に設けられている溝条27が内壁20を形成している薄肉鋼板を補強する補強リブとしても作用する。このため、内壁20が優れた抗撓み変形性を発揮するようになる。通常は内壁の撓み防止のために成形体であるゾノライト系珪酸カルシウム板を断熱層に用いて、この成形体に重ねるように内壁を配置することにより内壁の撓みを防止するが、前記のように内壁20に設けられている溝条26がパネル状の薄肉鋼板を補強する補強リブとしても作用して、内壁20が優れた抗撓み変形性を発揮するようになるために、断熱層30を、ゾノライト系珪酸カルシウム板に代えて、コスト面や施工面や軽量化の面で有利なロックウールを単独で使用したり、あるいは、ロックウールとセラミックファイバーとの複合体の形で組み合わせて使用したりすることが可能になる。
【0038】
この実施形態においては、内壁20に断面円弧状の溝条27を形成したものを図示したけれども、溝条27の形状は、断面角形状であっても断面V字形状であってもよい。また
、溝深さは3~5mm、溝幅は16~18mm、軸線方向で相隣接する溝条27,27の相互間ピッチは30~40mmであることが望ましい。溝条27の溝幅や相隣接する溝条の相互間ピッチは、内壁の口径などを勘案して定められるべきである。
【符号の説明】
【0039】
10 外壁
20 内壁
22 結合部
24,26,27 溝条
30 断熱層
100 煙突
200 横引き管
F 排気流の流れ方向(軸線方向)
d 溝条の溝深さ
w 溝条の溝幅
p 溝条の相互間ピッチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11