(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052240
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】コモンモード電流検出器及びアクティブノイズキャンセラ
(51)【国際特許分類】
H02M 1/12 20060101AFI20240404BHJP
H02M 1/00 20070101ALI20240404BHJP
【FI】
H02M1/12
H02M1/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158824
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100206405
【弁理士】
【氏名又は名称】岸 真太郎
(72)【発明者】
【氏名】小山 義次
(72)【発明者】
【氏名】奥園 広大
【テーマコード(参考)】
5H740
【Fターム(参考)】
5H740BA11
5H740BB05
5H740BB09
5H740BC01
5H740BC02
5H740JA01
5H740JB01
5H740MM11
5H740NN08
(57)【要約】
【課題】一種類のコアを用いた場合に不足するインピーダンス特性及び位相特性の改善により補償性能の向上を可能にする。
【解決手段】ノイズ検出器31は、第1の磁性材料からなるトロイダルコア41と、第1の磁性材料とは周波数特性が異なる第2の磁性材料からなるトロイダルコア42と、トロイダルコア41及びトロイダルコア42を貫通する主回路配線43と、トロイダルコア41及びトロイダルコア42に巻いてコモンモード電流を検知するための2次巻線44と、を備え、2次巻線44に発生する信号で主回路配線43に流れるコモンモード電流を検出する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の磁性材料からなる第1環状コアと、
前記第1の磁性材料とは周波数特性が異なる第2の磁性材料からなる第2環状コアと、
前記第1環状コア及び前記第2環状コアを貫通する主回路配線と、
前記第1環状コア及び前記第2環状コアに巻いてコモンモード電流を検知するための検知線と、
を備え、前記検知線に発生する信号で前記主回路配線に流れるコモンモード電流を検出する、
コモンモード電流検出器。
【請求項2】
前記検知線は、前記第1環状コア及び前記第2環状コアをまとめて巻いたものである、
請求項1に記載のコモンモード電流検出器。
【請求項3】
前記検知線は、前記第1環状コアのみを巻く部分と前記第2環状コアのみを巻く部分とが直列に接続されている、
請求項1に記載のコモンモード電流検出器。
【請求項4】
前記第1環状コアと前記第2環状コアのインピーダンスの周波数特性が9kHz~30MHzの間で交差する、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のコモンモード電流検出器。
【請求項5】
前記第1環状コアと前記第2環状コアの位相の周波数特性が9kHz~30MHzの間で交差する、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のコモンモード電流検出器。
【請求項6】
前記第1の磁性材料がMn-Znフェライトから成り、
前記第2の磁性材料がNi-Znフェライトから成る、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のコモンモード電流検出器。
【請求項7】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のコモンモード電流検出器を備えるアクティブノイズキャンセラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コモンモード電流検出器及びアクティブノイズキャンセラに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、交流電源と整流回路と平滑用コンデンサとインバ-タ回路とから成るインバ-タ装置に負荷として電動機を接続し、交流電源と整流回路との間に洩れ電流検出器を接続し、平滑用コンデンサの一端と電動機のケ-スとの間にNPN型の第1のトランジスタを接続し、電動機のケ-スと平滑用コンデンサの他端との間にPNP型の第2のトランジスタを接続し、第1及び第2のトランジスタを洩れ電流検出器の出力で駆動してコモンモ-ドノイズを打ち消すための電流を注入する、電力変換装置のノイズ低減装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、トロイダルコア(環状コア)ではインピーダンス及び位相に関して磁性材料に起因する周波数特性を有する。このため、一種類のトロイダルコアを検出コアとして用いたコモンモード電流検出器を備えるアクティブノイズキャンセラでは、補償性能が不足する周波数帯域が存在する。
【0005】
本開示は、一種類のコアを用いた場合に不足するインピーダンス特性及び位相特性の改善により補償性能の向上を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のコモンモード電流検出器は、第1の磁性材料からなる第1環状コアと、前記第1の磁性材料とは周波数特性が異なる第2の磁性材料からなる第2環状コアと、前記第1環状コア及び前記第2環状コアを貫通する主回路配線と、前記第1環状コア及び前記第2環状コアに巻いてコモンモード電流を検知するための検知線と、を備え、前記検知線に発生する信号で前記主回路配線に流れるコモンモード電流を検出する。この場合、一種類のコアを用いた場合に不足するインピーダンス特性及び位相特性の改善により補償性能の向上を可能にする。
ここで、前記検知線は、前記第1環状コア及び前記第2環状コアをまとめて巻いたものであるとしてよい。この場合、第1環状コア及び第2環状コアをまとめて巻いたものである構成を採用しない場合に比べて、製造コストが抑制される。
また、前記検知線は、前記第1環状コアのみを巻く部分と前記第2環状コアのみを巻く部分とが直列に接続されているとしてよい。この場合、第1環状コアのみを巻く部分と第2環状コアのみを巻く部分とが直列に接続されている構成を採用しない場合に比べ、第1環状コアと第2環状コアの組合せの自由度が向上する。
さらに、前記第1環状コアと前記第2環状コアのインピーダンスの周波数特性が9kHz~30MHzの間で交差するとしてよい。この場合、インピーダンスの周波数特性が9kHz~30MHzの間で交差する構成を採用しない場合に比べ、インピーダンス特性の改善が図られる。
また、前記第1環状コアと前記第2環状コアの位相の周波数特性が9kHz~30MHzの間で交差するとしてよい。この場合、位相の周波数特性が9kHz~30MHzの間で交差する構成を採用しない場合に比べ、位相特性の改善が図られる。
さらにまた、前記第1の磁性材料がMn-Znフェライトから成り、前記第2の磁性材料がNi-Znフェライトから成るとしてよい。この場合、Mn-ZnフェライトとNi-Znフェライトの組合せを採用しない場合に比べ、製造コストの上昇が抑制される。
【0007】
他の観点から捉えると、本開示のアクティブノイズキャンセラは、第1の磁性材料からなる第1環状コアと、前記第1の磁性材料とは周波数特性が異なる第2の磁性材料からなる第2環状コアと、前記第1環状コア及び前記第2環状コアを貫通する主回路配線と、前記第1環状コア及び第2環状コアに巻いてコモンモード電流を検知するための検知線と、を備え、前記検知線に発生する信号で前記主回路配線に流れるコモンモード電流を検出するコモンモード電流検出器を備える。この場合、一種類のコアを用いた場合に不足するインピーダンス特性及び位相特性の改善により補償性能の向上を可能にする。
かかるアクティブノイズキャンセラでは、前記検知線は、前記第1環状コア及び前記第2環状コアをまとめて巻いたものであるとしてよく、前記第1環状コアのみを巻く部分と前記第2環状コアのみを巻く部分とが直列に接続されているとしてよく、前記第1環状コアと前記第2環状コアのインピーダンスの周波数特性が9kHz~30MHzの間で交差するとしてよく、前記第1環状コアと前記第2環状コアの位相の周波数特性が9kHz~30MHzの間で交差するとしてよく、前記第1の磁性材料がMn-Znフェライトから成り、前記第2の磁性材料がNi-Znフェライトから成るとしてよい。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施の形態における電力変換システムの回路構成を示す図である。
【
図2】材料が異なるトロイダルコアのインピーダンス特性を示すグラフであり、縦軸がインピーダンス(Ω)、横軸が周波数(Hz)である。
【
図3】第1の実施の形態に係るアクティブノイズキャンセラの構成を説明する図である。
【
図4】異なる2つのコア材の単独及び組合せについての周波数特性を示すグラフであり、(a)は縦軸がインピーダンス(Ω)であり、インピーダンス特性を示し、(b)は縦軸が位相(deg)であり、位相特性を示す。
【
図5】アクティブノイズキャンセラがコモンモード電流を検出してキャンセル信号を流す簡単化した回路を示す回路図である。
【
図6】
図5の回路図におけるIaに電流を流した時のAM1とAM2のシミュレーション結果を示すグラフであり、(a)は100kHzの場合、(b)は1MHzの場合を示す。
【
図7】シミュレーションに用いた検出コアのインピーダンスと位相の周波数特性を示すグラフである。
【
図8】トロイダルコアについての周波数特性を示すグラフであり、(a)の縦軸がインピーダンス(Ω)であり、(b)の縦軸が位相(deg)であり、横軸はいずれも周波数(Hz)である。
【
図9】トロイダルコアとしてMn-ZnフェライトとNi-Znフェライトを用いた場合の周波数特性を示すグラフであり、(a)の縦軸がインピーダンス(Ω)であり、(b)の縦軸が位相(deg)であり、横軸はいずれも周波数(Hz)である。
【
図10】第2の実施の形態に係るノイズ検出部の構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施の形態について詳細に説明する。
[電力変換システム1]
図1は、本実施の形態における電力変換システム1の回路構成を示す図である。図示するように、電力変換システム1は、交流電源100と、モータ200と、電力変換装置300とを含む。
【0010】
交流電源100は、例えば、三相3線式の商用の交流電源であり、電力変換装置300に交流を供給する。ここでは、第一相から第三相を、R相、S相、T相と表記する。また、R相、S相及びT相を供給する電力ラインを、R相、S相、T相の電力ラインと表記する。相を区別しない場合は電力ラインと表記する。尚、以下では、三相3線式交流を用いる場合について説明するが、三相4線式や単相交流を用いる場合であっても同様の考え方で構成できる。
【0011】
モータ200は、電力変換装置300に接続され、負荷として三相交流で制御されるモータである。モータ200は、例えば、DCブラシレスモータであってよい。或いは、モータ200は、他の三相交流モータであってもよい。
【0012】
電力変換装置300は、電源端子台10と、インバータ基板20と、ノイズ低減回路30とを含む。
【0013】
電源端子台10は、交流電源100から交流を入力するための配線を接続する部分である。電源端子台10は、図示しないR相入力端子、S相入力端子及びT相入力端子を備える。また、電源端子台10は、図中、電源端子台10から離れた位置に示しているが外部アース線が接続されるアース端子E0も備えている場合もある。
【0014】
インバータ基板20は、整流部21と、平滑コンデンサ22と、インバータ部23と、を備える。インバータ基板20において、交流電源100側から整流部21、平滑コンデンサ22、インバータ部23の順に接続されている。そして、インバータ部23がモータ200に接続されている。
【0015】
整流部21は、交流電源100から供給される交流を整流し、平滑コンデンサ22が直流にする。インバータ部23は、整流部21から出力された直流を三相交流に変換して、モータ200に供給する。平滑コンデンサ22の両端子間の直流電圧がDCリンク電圧である。インバータ部23は、図示しないが、スイッチング素子を備える。スイッチング素子としては、例えば絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor))等を用いるとよい。
【0016】
ノイズ低減回路30は、ノイズ検出部31と補償回路部35とを備えるコモンモードノイズ低減回路と、ノイズフィルタ32とを備える。コモンモードノイズ低減回路は、コモンモードノイズを検出し、フィードバックして抑制するアクティブ型のコモンモードノイズ低減回路であって、アクティブノイズキャンセラ50(
図3参照)を構成するものである。
【0017】
ノイズ検出部31は、コモンモードノイズ電流を検出する。ノイズ検出部31の一例として検出コアがある。検出コアは、トロイダルコアに電源ラインがコイル状に巻き回されていてもよい。トロイダルコアは、例えば、断面が円形の円環状(ドーナツ形状)のフェライト等の磁性体で構成されている。トロイダルコアは鉄心と呼ばれることがある。尚、トロイダルコアは、円環状でなくともよく、四角形、三角形等の多角形の枠状であってもよい。また、断面形状も四角形、三角形等の形状であってもよい。
【0018】
ここでは、電源ラインのトロコイダルコアに巻き回されたコイル状の部分をコイル(巻線)L1r、L1s、L1t、L1aとして説明する。これらのコイルL1r、L1s、L1tは、電力ラインの一部を構成する導線(ワイヤ)である。
ここで、コイルとは、インダクタを構成するように螺旋(ループ)状に巻かれた導線をいう。なお、電源ラインがトロコイダルコアを貫通するだけの導線であってもよい。
ノイズ検出部31は、コモンモード電流検出器の一例である。
【0019】
トロコイダルコアには、検出用のコイルL1aが、電源ラインのコイルL1r、L1s、L1tに隣接するように巻き回されている。すなわち、電源ラインのコイルL1r、L1s、L1tとコイルL1aとは、磁気的に結合(磁気結合)するように設けられている。
尚、電源ラインL1r、L1s、L1tは、
図1に“・”で示す極性になるように巻き回されている。すなわち、電源ラインL1r、L1s、L1tに例えば図の右方向に電流が流れた場合に、コイルL1r、L1s、L1t、L1aに図の左方向に電流が流れるように、コイルL1aは巻き回されている。よって、上記の“・”で示す極性とは、電流が流れ込む向きに従った極性である。
【0020】
コモンモードノイズ電流は、インバータ部23のスイッチング素子のスイッチングにより、モータ200等の浮遊容量を介して、接地に対して漏れた高周波の電流である。よって、コモンモードノイズ電流は、R相、S相、T相の電力ラインと接地(アース)との間で流れる。
【0021】
コモンモードノイズ電流が電源ラインL1r、L1s、L1tに流れると、トロイダルコアを介してコイルL1aにコモンモードノイズ電流に比例した電流を誘起する。この場合、電源ラインL1r、L1s、L1tとコイルL1aとは、電流トランスとして機能し、コモンモードノイズ電流を検出する検出トランスを構成する。
【0022】
また、ノイズ検出部31は、ベース抵抗Rbを備える。ベース抵抗Rbは、補償回路部35に流れるベース電流を制限するための抵抗である。ここでは、検出コアの接続部からベース抵抗Rbの間に接続される回路を検出回路とする。
【0023】
補償回路部35は、第1のトランジスタTr1と、第2のトランジスタTr2と、第1のダイオ-ドD1と、第2のダイオ-ドD2と、出力コンデンサCoとを備える。
【0024】
第1のトランジスタTr1はPNP型であり、第2のトランジスタTr2はNPN型であり、第1及び第2のトランジスタTr1、Tr2は互いに逆の極性を有する。第1のトランジスタTr1と第2のトランジスタTr2は、直列接続されている。つまり、第1のトランジスタTr1のエミッタと第2のトランジスタTr2のエミッタとが接続されている。
第1のトランジスタTr1のコレクタと第2のトランジスタTr2のコレクタとの間にDCリンク電圧Vが印加される。
【0025】
第1のトランジスタTr1は、DCリンク電圧Vの一端(マイナス側)と出力コンデンサCoとの間に接続されている。第2のトランジスタTr2は、DCリンク電圧Vの他端(プラス側)と出力コンデンサCoとの間に接続されている。第1及び第2のトランジスタTr1、Tr2のベ-ス(制御端子)はコイルL1aの一方の出力ラインに接続され、第1及び第2のトランジスタTr1、Tr2の相互接続点はコイルL1aの他方の出力ラインに接続されている。これにより、第1及び第2のトランジスタTr1、Tr2は互いに逆に動作する。
【0026】
第1及び第2のダイオ-ドD1、D2は、第1及び第2のトランジスタTr1、Tr2を保護するためにこれ等に逆並列に接続されている。尚、第1及び第2のダイオ-ドD1、D2は、設けられていなくてもよい。ここでは、補償回路部35の電源は、整流部21のDCリンクから供給されているとしたが、整流部21以外に電源を設けて供給してもよい。
【0027】
出力コンデンサCoは、一端は第1及び第2のトランジスタTr1、Tr2のエミッタ側にある接続点に接続され、他端は補償経路接続端子を介して筐体のアース端子E1に接続されている。
【0028】
ノイズフィルタ32は、電源ラインのそれぞれに直列に接続されたコイルと、電源ラインのそれぞれと筐体のアース端子E2に接続されたコンデンサCyで構成されている。これにより、高周波ノイズを除去するフィルタが構成されている。なお、電力変換装置300は、ノイズフィルタ32を備えなくてもよい。
【0029】
尚、ここでは、補償回路部35として、トランジスタを含むものを用いたが、トランジスタに限らず、オペアンプを含むものを用いてもよい。
また、出力コンデンサCoが存在しない形態や、出力コンデンサCoに加えてこれと直接に接続された抵抗を有する形態を採用してもよい。或いは、出力コンデンサCoが電力ラインに接続され、直流電源部33が直接又はカップリングコンデンサを介してアースに接続される形態を採用してもよい。
【0030】
ここで、本実施の形態における電力変換システム1の動作を説明する。
【0031】
商用の交流電源100は、電源端子台10を介して、交流電圧をインバータ基板20に供給する。インバータ基板20において、整流部21は、交流電源100から供給された交流電流を直流に整流する。インバータ部23は、スイッチング素子のオンオフの制御により、モータ200に対して交流電圧を供給する。
【0032】
その際、インバータ部23からパルス的に電圧が印加される毎に、図示するように、モータ200からコモンモードノイズ電流Icが流れる。ノイズ検出部31はインバータ基板20に入力する電力ラインにおいてコモンモードノイズ電流を検出し、補償回路部35の第1及び第2のトランジスタTr1、Tr2を駆動する。ノイズ検出部31による検出電流が第1及び第2のトランジスタTr1、Tr2のベ-スに流入すると、これが第1及び第2のトランジスタTr1、Tr2で増幅される。
【0033】
第1のトランジスタTr1がオンの時(正のコモンモードノイズ電流Icが発生した時)には、補償電流Ioは、DCリンク電圧Vから供給され、プラス側端子から、整流部21、ノイズ検出部31、ノイズフィルタ32、交流電源100、出力コンデンサCo、第1のトランジスタTr1を経由してマイナス側端子へと繋がる電流経路(補償経路)を流れる。この場合、コモンモードノイズ電流Ic、補償電流Io及び補償後のコモンモードノイズ電流Igは、図の矢印の方向に流れる。そして、補償電流Ioは、モータ200からのコモンモードノイズ電流Icからマイナスされることでコモンモードノイズ電流Icを低減する。言い換えれば、補償電流Ioは、コモンモードノイズ電流Icを補償する。
【0034】
第2のトランジスタTr2がオンの時(負のコモンモードノイズ電流Icが発生した時)には、補償電流Ioは、DCリンク電圧Vから供給され、プラス側端子から、第2のトランジスタTr2、出力コンデンサCo、交流電源100、ノイズフィルタ32、ノイズ検出部31、整流部21を経由してマイナス側端子へと繋がる電流経路(補償経路)を流れる。この場合、コモンモードノイズ電流Ic、補償電流Io及び補償後のコモンモードノイズ電流Igは、図の矢印とは逆の方向に流れる。そして、負の補償電流Ioは、モータ200からの負のコモンモードノイズ電流Icからマイナスされることでコモンモードノイズ電流Icを低減する。言い換えれば、補償電流Ioは、コモンモードノイズ電流Icを補償する。
【0035】
以上説明したように、第1のトランジスタTr1がオンの場合及び第2のトランジスタTr2がオンの場合の何れにおいても、交流電源100には、補償後のコモンモードノイズ電流Igが流れる。
【0036】
ここで、検出コアとしてのトロイダルコアは、通常、線路のインピーダンスを大きくし、ノイズを流れにくくするために挿入する。そのインピーダンスは材料、形状に応じて周波数特性を持っている。
図2は、材料が異なるトロイダルコアのインピーダンス特性(各1ターン)を示すグラフであり、縦軸がインピーダンス(Ω)、横軸が周波数(Hz)である。
図2では、コア材1~コア材6について縦方向に0.1~1000Ω、横方向に9kHz~100MHzの範囲を示している。コア材1~コア材6においてインピーダンスの周波数特性は様々で、低減したいノイズの帯域に合わせて、例としてコア材1~6の中から選択して使用する。
【0037】
[第1の実施の形態]
図3は、第1の実施の形態に係るアクティブノイズキャンセラ50の構成を説明する図である。
同図に示すアクティブノイズキャンセラ50は、ノイズ検出部31及び補償回路部35(
図1参照)を含む。
【0038】
ノイズ検出部31は、周波数特性が互いに異なる環状のトロイダルコア41、42の組合せを備えている。トロイダルコア41、42には、上述の電源ラインL1r、L1s、L1t(
図1参照)を含む主回路配線43が貫通している。上述のコイルL1a(同図参照)を含む2次巻線44は、トロイダルコア41、42に巻かれており、その電圧が検出信号として用いられる。2次巻線44は補償回路部35に接続される。
【0039】
図3に示す第1の実施の形態では、2次巻線44はトロイダルコア41、42を合わせて巻いている形態であり、2次巻線44をトロイダルコア41、42にまとめて巻いている。これにより、2次巻線44を巻く作業が効率的になり、製造コストを抑制することができる。
【0040】
第1の実施の形態では、2つのトロイダルコア41、42の組合せを説明したが、これに限られず、3つ又はそれ以上の組合せを用いてもよい。また、トロイダルコア41、42の組合せは、ボビンに実装されるなど外観上コアが1つに見えるものでもよく、また、トロイダルコア41、42同士が互いに接着されている構成であってもよい。
【0041】
主回路配線43は主回路配線の一例である。かかる主回路配線43は、上述したように、トロイダルコア41、42を貫通するものであるが、主回路配線43が直線状の場合のほか、2次巻線44のように、トロイダルコア41、42に巻かれる構成でもよい。
2次巻線44は検知線の一例である。トロイダルコア41は、第1環状コアの一例であり、トロイダルコア42は、第2環状コアの一例である。
【0042】
ここで、トロイダルコア41、42の組合せで使用した場合の周波数特性について説明する。その一例として、
図2に示すコア材1~6のうちコア材1とコア材4を組み合わせた場合を説明する。
図4は、異なる2つのコア材1とコア材4の単独及び組合せについての周波数特性を示すグラフであり、(a)は縦軸がインピーダンス(Ω)であり、インピーダンスの周波数特性を示し、(b)は縦軸が位相(deg)であり、位相の周波数特性を示す。
図4(a)、(b)の横軸はいずれも周波数(Hz)である。グラフ中の実線はコア材1、点線はコア材4、破線はコア材1、4を組み合わせた場合の合成である。(a)、(b)に示す周波数の範囲は9kHz~100MHzである。
フェライトコア等のトロイダルコアを用いた電流検出器では、インピーダンス、位相に関して磁性材料に起因する周波数特性を持っている。
【0043】
検出器としては、インピーダンスは高い方が有利であり、位相は0度に近い方が有利である。しかしながら、150kHz~30MHzの周波数帯域で補償性能が不足する帯域がある。
図4(a)、(b)に示すように、実線で示すコア材1では、300kHz以下の周波数帯域でインピーダンスが低く、位相は0度から離れている。また、点線で示すコア材4の場合、300kHz以上の周波数帯域ではインピーダンスは低く、8MHz付近で位相が0度から離れてしまう。
トロイダルコア41、42をコア材1とコア材4の組合せにする場合、その合成の結果は、(a)の破線で示すように、広い周波数帯域で高いインピーダンスを得ることができる。
【0044】
また、コア材1では、100kHz付近で90°位相がずれているものの、コア材4と直列で用いることで、合成の結果が(b)の破線で示す位相の特性となり、高域の位相0°付近を維持しつつ、低域の位相を0°に近づけることが可能である。
このように、コア材1、4の組合せで用いると、
図4(a)、(b)に破線で示すように、広い帯域で検出のゲインが上がり、位相ずれが小さくなり、アクティブノイズキャンセラの補償性能が改善される。
【0045】
ここで、トロイダルコア41、42の位相のキャンセラの性能への影響を説明する。
図5は、アクティブノイズキャンセラ50がコモンモード電流を検出してキャンセル信号を流す簡単化した回路を示す回路図である。
図6は、
図5の回路図におけるIaに電流を流した時のAM1とAM2のシミュレーション結果を示すグラフであり、
図6(a)は、100kHzの場合、(b)は1MHzの場合を示す。
図7は、シミュレーションに用いた検出コアのインピーダンスと位相の周波数特性を示すグラフである。
【0046】
図5に示す回路において、
図6(a)、(b)に示すように、検出コアの位相によって、検出した電流に対する補償電流の位相ずれが発生する。
図6(a)と(b)との対比により明らかなように、位相ずれは、100kHzよりも1MHzの方が小さい。コアの特性に依存するものである。
【0047】
また、
図7に示すように、周波数が100kHzでは、位相差が80度である一方で、周波数が1MHzでは-5度の位相差であり、ほとんど位相ずれがない。インピーダンスの周波数特性からわかるように、周波数が高くなるほど位相が0度に近づく。
【0048】
なお、検出コアを理想Lとしたときの各部波形をシミュレーションしたところ、
図5に示すIaとVBinの間に90度位相がずれる。よって、コアは、理想Lでないことがよい。コアの位相特性が0度であればIaとVBinの間の位相ずれはなくなり、IoはVBinと同位相の電流になるため、IaとIoの位相が合う。
【0049】
図8は、トロイダルコア41、42についての周波数特性を示すグラフであり、(a)は縦軸がインピーダンス(Ω)であり、インピーダンス特性を示し、(b)は縦軸が位相(deg)であり、位相特性を示す。
図8(a)、(b)の横軸はいずれも周波数(Hz)である。なお、実線で示すトロイダルコア41は、コア材4(
図2参照)であり、点線で示すトロイダルコア42は、コア材2(同図参照)である。
図8(a)に示すように、トロイダルコア41とトロイダルコア42のインピーダンスの周波数特性は、9kHz~30MHzの間の位置60aで交差し、また、同図(b)に示すように、位相の周波数特性も9kHz~30MHzの間の位置60bで交差する。かかる位置60a、60bは、EMI対策としては、9kHz~30MHzの間にあることが好ましい。
【0050】
このように互いに交差する磁性材料の組合せを採用することで、インピーダンスと位相の周波数特性を改善することができる。また、いずれか一方で交差する磁性材料の組合せを採用することで、インピーダンス又は位相の周波数特性を改善することができる。
【0051】
図9は、トロイダルコア41、42としてMn-ZnフェライトとNi-Znフェライトを用いた場合の周波数特性を示すグラフであり、(a)は縦軸がインピーダンス(Ω)であり、インピーダンス特性を示し、(b)は縦軸が位相(deg)であり、位相特性を示す。(a)、(b)の横軸はいずれも周波数(Hz)である。
図9(a)に示すトロイダルコア41、42の組合せは、Mn-Znフェライトから成る磁性材料とNi-Znフェライトから成る磁性材料を用いる場合である。このような比較的安価な磁性材料を用いる組合せを採用する場合、製造コストの上昇を抑制することができる。
【0052】
なお、トロイダルコア41、42として、いずれもMn-Znフェライトから成り周波数特性が異なる磁性材料を用いる場合でもよく、また、いずれもNi-Znフェライトから成り周波数特性が異なる磁性材料を用いる場合でもよい。
【0053】
[第2の実施の形態]
図10は、第2の実施の形態に係るノイズ検出部31の構成を説明する図であり、第1の実施の形態のノイズ検出部31(
図3参照)に対応するものである。
図10に示すノイズ検出部31において、トロイダルコア41、42には、第1の実施の形態の場合と同じく、主回路配線43が貫通している。また、トロイダルコア41、42に巻かれる2次巻線44は、トロイダルコア41のみを巻く2次巻線部分44aとトロイダルコア42のみを巻く2次巻線部分44bとが直列に接続されている。
【0054】
2次巻線部分44aが巻かれた状態のトロイダルコア41と、2次巻線部分44bが巻かれた状態のトロイダルコア42が販売されている場合を考える。周波数特性が向上する磁性材料の組合せの巻線付きトロイダルコア41、42を購入し、2次巻線部分44aと2次巻線部分44bとを互いに接続する作業により、ノイズ検出部31の製造が可能になる。
このように、トロイダルコア41、42にそれぞれ独立に巻き線を巻く構成を採用することで、組合せの自由度を向上させることができる。
なお、ここでは、トロイダルコア41とトロイダルコア42を分けて説明したが、外見上一体となった構造であってもよい。
【0055】
[実施の形態の作用効果]
本実施の形態のノイズ検出部31は、第1の磁性材料からなるトロイダルコア41と、第1の磁性材料とは周波数特性が異なる第2の磁性材料からなるトロイダルコア42と、トロイダルコア41及びトロイダルコア42を貫通する主回路配線43と、トロイダルコア41及びトロイダルコア42に巻いてコモンモード電流を検知するための2次巻線44と、を備える。そして、ノイズ検出部31は、2次巻線44に発生する信号で主回路配線43に流れるコモンモード電流を検出する。
このノイズ検出部31によれば、一種類のトロイダルコアを用いた場合に不足するインピーダンス特性及び位相特性の改善により補償性能の向上を可能にする。
【0056】
本実施形態において、2次巻線44は、トロイダルコア41及びトロイダルコア42をまとめて巻いたものであってよい。
このようにすれば、トロイダルコア41及びトロイダルコア42をまとめて巻いたものである構成を採用しない場合に比べて、製造コストが抑制される。
【0057】
本実施形態において、2次巻線44は、トロイダルコア41のみを巻く2次巻線部分44aとトロイダルコア42のみを巻く2次巻線部分44bとが直列に接続されているとしてよい。
このようにすれば、トロイダルコア41のみを巻く2次巻線部分44aとトロイダルコア41のみを巻く2次巻線部分44bとが直列に接続されている構成を採用しない場合に比べ、トロイダルコア41とトロイダルコア42の組合せの自由度が向上する。
【0058】
本実施形態において、トロイダルコア41とトロイダルコア42のインピーダンスの周波数特性が9kHz~30MHzの間で交差するとしてよい。
このようにすれば、インピーダンスの周波数特性が9kHz~30MHzの間で交差する構成を採用しない場合に比べ、インピーダンス特性の改善が図られる。
【0059】
本実施形態において、トロイダルコア41とトロイダルコア42の位相の周波数特性が9kHz~30MHzの間で交差するとしてよい。
このようにすれば、位相の周波数特性が9kHz~30MHzの間で交差する構成を採用しない場合に比べ、位相特性の改善が図られる。
【0060】
本実施形態において、第1の磁性材料がMn-Znフェライトから成り、第2の磁性材料がNi-Znフェライトから成るとしてよい。
このようにすれば、Mn-ZnフェライトとNi-Znフェライトの組合せを採用しない場合に比べ、製造コストの上昇が抑制される。
【0061】
本実施の形態のアクティブノイズキャンセラ50は、第1の磁性材料からなるトロイダルコア41と、第1の磁性材料とは周波数特性が異なる第2の磁性材料からなるトロイダルコア42と、トロイダルコア41及びトロイダルコア42を貫通する主回路配線43と、トロイダルコア41及びトロイダルコア42に巻いてコモンモード電流を検知するための2次巻線44とを備えるノイズ検出部31を備える。そして、ノイズ検出部31は、2次巻線44に発生する信号で主回路配線43に流れるコモンモード電流を検出する。
このアクティブノイズキャンセラ50によれば、一種類のトロイダルコアを用いた場合に不足するインピーダンス特性及び位相特性の改善により補償性能の向上を可能にする。
【0062】
本実施の形態のアクティブノイズキャンセラ50では、2次巻線44は、トロイダルコア41及びトロイダルコア42をまとめて巻いたものであるとしてよく、2次巻線44は、トロイダルコア41のみを巻く2次巻線部分44aとトロイダルコア42のみを巻く2次巻線部分44bとが直列に接続されているとしてよい。
また、アクティブノイズキャンセラ50では、トロイダルコア41とトロイダルコア42のインピーダンスの周波数特性が9kHz~30MHzの間で交差するとしてよく、トロイダルコア41とトロイダルコア42の位相の周波数特性が9kHz~30MHzの間で交差するとしてよい。
さらに、アクティブノイズキャンセラ50では、第1の磁性材料がMn-Znフェライトから成り、第2の磁性材料がNi-Znフェライトから成るとしてよい。
【0063】
以上、実施の形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【符号の説明】
【0064】
31…ノイズ検出部、41、42…トロイダルコア、43…主回路配線、44…2次巻線、44a、44b…2次巻線部分、50…アクティブノイズキャンセラ