IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社島津製作所の特許一覧

<>
  • 特開-質量分析装置および電源装置 図1
  • 特開-質量分析装置および電源装置 図2
  • 特開-質量分析装置および電源装置 図3
  • 特開-質量分析装置および電源装置 図4
  • 特開-質量分析装置および電源装置 図5
  • 特開-質量分析装置および電源装置 図6
  • 特開-質量分析装置および電源装置 図7
  • 特開-質量分析装置および電源装置 図8
  • 特開-質量分析装置および電源装置 図9
  • 特開-質量分析装置および電源装置 図10
  • 特開-質量分析装置および電源装置 図11
  • 特開-質量分析装置および電源装置 図12
  • 特開-質量分析装置および電源装置 図13
  • 特開-質量分析装置および電源装置 図14
  • 特開-質量分析装置および電源装置 図15
  • 特開-質量分析装置および電源装置 図16
  • 特開-質量分析装置および電源装置 図17
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052245
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】質量分析装置および電源装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/02 20060101AFI20240404BHJP
   H01J 49/42 20060101ALN20240404BHJP
【FI】
H01J49/02 200
H01J49/42 150
H01J49/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158829
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【弁理士】
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【弁理士】
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】水谷 司朗
【テーマコード(参考)】
5C038
【Fターム(参考)】
5C038JJ07
(57)【要約】
【課題】保守の手間およびコストを低減することが可能な質量分析装置および電源装置を提供する。
【解決手段】電源装置100は、四重極質量フィルタ130に電圧を印加する。電源装置100は、主基板101および検波基板102を有する。主基板101は、検出部80を含む。検波基板102は、検波部10および識別部70を含む。検波部10は、整流素子を用いて、四重極質量フィルタ130に印加される電圧の交流成分を検波電圧として検波する。識別部70は、検波部10の整流素子の構成に対応して定められた検波部10の識別情報を出力する。検出部80は、識別部70により出力された識別情報を検出し、検出された識別情報を、整流素子の漏れ電流に起因する電圧のずれを補正する補正部90に与える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
印加された電圧に対応する質量電荷比を有するイオンを選択する質量フィルタと、
第1の基板および第2の基板を有し、前記質量フィルタに電圧を印加する電源装置と、
補正部とを備え、
前記第1の基板は、整流素子を用いて、前記質量フィルタに印加される電圧の交流成分を検波電圧として検波する検波部と、前記検波部の前記整流素子の構成に対応して定められた前記検波部の識別情報を出力する識別部とを含み、
前記第2の基板は、前記識別部により出力された前記識別情報を検出する検出部を含み、
前記補正部は、前記検出部により検出された前記識別情報に基づいて、前記整流素子の漏れ電流に起因する電圧のずれを補正する、質量分析装置。
【請求項2】
前記識別部は、
第1の端子と、
1以上の第2の端子とを含み、
前記識別情報は、前記第1の端子と前記1以上の第2の端子との間の電気的な接続状態に対応して定められる、請求項1記載の質量分析装置。
【請求項3】
前記識別部は、前記第1の端子と前記1以上の第2の端子との間に接続されたスイッチをさらに含み、
前記識別情報は、前記スイッチの開閉状態に対応して定められる、請求項2記載の質量分析装置。
【請求項4】
前記識別部は、
第1の端子と、
第2の端子と、
前記第1の端子と前記第2の端子との間に接続された第1の電気抵抗とを含み、
前記識別情報は、前記第1の電気抵抗の抵抗値に対応して定められる、請求項1記載の質量分析装置。
【請求項5】
前記検出部は、
前記第1の端子に対応する第3の端子と、
前記第2の端子に対応する第4の端子と、
前記第3の端子と前記第4の端子との間に接続された電源部および第2の電気抵抗とを含み、前記識別情報は、前記第1の電気抵抗の分圧に対応して定められる、請求項4記載の質量分析装置。
【請求項6】
前記補正部は、
前記識別情報と電圧のずれを補正するための補正電圧との対応関係を示す対応情報を予め記憶した記憶部と、
前記記憶部に記憶された前記対応情報に基づいて補正電圧を決定する電圧決定部と、
前記電圧決定部により決定された補正電圧を生成する電圧生成部とを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の質量分析装置。
【請求項7】
前記補正部は、前記第2の基板に設けられる、請求項6記載の質量分析装置。
【請求項8】
前記第2の基板には、前記質量フィルタに印加される電圧を制御するための制御電圧が入力され、
前記電圧生成部は、生成された補正電圧を前記制御電圧に加算する、請求項6記載の質量分析装置。
【請求項9】
前記電圧生成部は、生成された補正電圧を前記検波電圧に加算する、請求項6記載の質量分析装置。
【請求項10】
前記第2の基板には、前記質量フィルタに印加される電圧を制御するための制御電圧が入力され、
前記電圧生成部は、生成された補正電圧を前記制御電圧と前記検波電圧との加算電圧に加算する、請求項6記載の質量分析装置。
【請求項11】
前記補正部は、前記識別情報、または当該識別情報の演算値を補正電圧として生成する、請求項1~5のいずれか一項に記載の質量分析装置。
【請求項12】
前記第2の基板には、前記質量フィルタに印加される電圧を制御するための制御電圧が入力され、
前記補正部は、生成された補正電圧を前記制御電圧に加算する、請求項11記載の質量分析装置。
【請求項13】
前記補正部は、生成された補正電圧を前記検波電圧に加算する、請求項11記載の質量分析装置。
【請求項14】
前記第2の基板には、前記質量フィルタに印加される電圧を制御するための制御電圧が入力され、
前記補正部は、生成された補正電圧を前記制御電圧と前記検波電圧との加算電圧に加算する、請求項11記載の質量分析装置。
【請求項15】
印加された電圧に対応する質量電荷比を有するイオンを選択する質量フィルタに電圧を印加する電源装置であって、
第1の基板と、
第2の基板とを備え、
前記第1の基板は、整流素子を用いて、前記質量フィルタに印加される電圧の交流成分を検波電圧として検波する検波部と、前記検波部の前記整流素子の構成に対応して定められた前記検波部の識別情報を出力する識別部とを含み、
前記第2の基板は、前記識別部により出力された前記識別情報を検出し、検出された前記識別情報を、当該識別情報に基づいて前記整流素子の漏れ電流に起因する電圧のずれを補正するための補正部に与える検出部を含む、電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析装置および電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試料に含まれる成分の質量を分析する分析装置として質量分析装置が知られている。例えば、特許文献1に記載された四重極質量分析装置においては、イオン源により試料から生成された各種イオンが四重極フィルタに導入される。四重極フィルタの4本のロッド電極には、四重極電源部により高周波電圧および直流電圧が印加される。特定の質量電荷比を有するイオンのみが選択的に四重極フィルタを通過し、検出器により検出される。四重極フィルタを通過するイオンの質量電荷比は、各ロッド電極に印加される高周波電圧および直流電圧に依存する。
【0003】
四重極電源部においては、各ロッド電極に印加される高周波電圧は、コンデンサを通して検波電流に変換され、検波部のダイオードに流れる。検波電流は、抵抗を流れることにより直流電圧に変換され、変換された電圧と、目標電圧との差がフィードバックされる。目標電圧は、任意の質量電荷比に対応して設定される。したがって、目標電圧を掃引することにより、各ロッド電極に印加される高周波電圧を掃引して、四重極フィルタを通過するイオンの質量電荷比を走査することができる。
【0004】
直流電圧は、高周波電圧が掃引される際に、高周波電圧との比が一定になるように制御される。ここで、イオンが四重極フィルタを安定的に通過し得る安定領域(Mathieu方程式の解の安定条件に基づく安定領域)は、特許文献2の図7(a)および図7(b)の略三角形状の枠により示される。この安定領域は、質量電荷比が増加するに伴い、質量電荷比の増加方向と同方向に移動しつつその面積が拡大する。
【0005】
特許文献2においては、質量電荷比に対する直流電圧の変化を示す直線が、質量電荷比に対応して相似的に変化する安定領域の同一部分を横切るように変化される。これにより、質量電荷比の範囲の全般にわたって四重極フィルタの質量分解能が均一に維持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-33075号公報
【特許文献2】特許5556890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ダイオードに比較的大きい検波電流が流れる場合、ダイオードにおける漏れ電流により、検波電圧は、本来変換されるべき電圧よりも小さい電圧に変換され、フィードバック回路において、出力される電圧は目標電圧よりも大きく出力される。この場合、質量電荷比が大きい範囲において、出力される電圧と目標電圧との差が増大するため、質量電荷比のずれが発生する。また、特許文献2記載の制御を行った場合でも、質量電荷比が大きい範囲において、直流電圧の変化を示す直線が安定領域の所望の部分を横切ることにはならず、質量分解能の均一性が低下することとなる。
【0008】
ダイオードの特性が既知である場合、ダイオードの上記の非直線性に起因する質量電荷比のずれを補正する制御回路を四重極電源部に実装することが可能である。しかしながら、近年、市場で入手可能なダイオードは短期間で変動する。そのため、四重極電源部の保守において、ダイオードの交換の必要が生じた場合、代替品または互換品を容易に入手することができない。また、四重極電源部は高価であるところ、ダイオードの代替品または互換品を入手できない場合、制御回路を含む四重極電源部の全体を交換する必要が生じる。その結果、保守に要するコストが増大する。
【0009】
本発明の目的は、保守の手間およびコストを低減することが可能な質量分析装置および電源装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、印加された電圧に対応する質量電荷比を有するイオンを選択する質量フィルタと、第1の基板および第2の基板を有し、前記質量フィルタに電圧を印加する電源装置と、補正部とを備え、前記第1の基板は、整流素子を用いて、前記質量フィルタに印加される電圧の交流成分を検波電圧として検波する検波部と、前記検波部の前記整流素子の構成に対応して定められた前記検波部の識別情報を出力する識別部とを含み、前記第2の基板は、前記識別部により出力された前記識別情報を検出する検出部を含み、前記補正部は、前記検出部により検出された前記識別情報に基づいて、前記整流素子の漏れ電流に起因する電圧のずれを補正する、質量分析装置に関する。
【0011】
本発明の他の態様は、印加された電圧に対応する質量電荷比を有するイオンを選択する質量フィルタに電圧を印加する電源装置であって、第1の基板と、第2の基板とを備え、前記第1の基板は、整流素子を用いて、前記質量フィルタに印加される電圧の交流成分を検波電圧として検波する検波部と、前記検波部の前記整流素子の構成に対応して定められた前記検波部の識別情報を出力する識別部とを含み、前記第2の基板は、前記識別部により出力された前記識別情報を検出し、検出された前記識別情報を、当該識別情報に基づいて前記整流素子の漏れ電流に起因する電圧のずれを補正するための補正部に与える検出部を含む、電源装置に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電源装置の保守の手間およびコストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施の形態に係る質量分析装置の構成を示す図である。
図2図1の電源装置の構成を示す図である。
図3図2の検波部の構成を示す図である。
図4】1つの整流部を含む検波部を用いて測定されたマススペクトルを示す図である。
図5】実施例で使用された整流素子の特性を示す図である。
図6】実施例1におけるマススペクトルを示す図である。
図7】実施例2におけるマススペクトルを示す図である。
図8】実施例3におけるマススペクトルを示す図である。
図9】実施例4におけるマススペクトルを示す図である。
図10】識別部および検出部の第1の例を示す図である。
図11】識別情報の一例を示す図である。
図12】対応情報の一例を示す図である。
図13】識別部および検出部の第2の例を示す図である。
図14】識別部および検出部の第3の例を示す図である。
図15】第1の変形例に係る電源装置の構成を示す図である。
図16】第2の変形例に係る電源装置の構成を示す図である。
図17】他の実施の形態における補正部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(1)質量分析装置の構成
以下、本発明の実施の形態に係る質量分析装置および電源装置について図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の一実施の形態に係る質量分析装置の構成を示す図である。図1に示すように、質量分析装置200は、電源装置100、イオン源110、イオン輸送部120、四重極質量フィルタ130、イオン検出器140および処理装置150を含む。イオン源110、イオン輸送部120、四重極質量フィルタ130およびイオン検出器140は、図示しない真空容器内に収容される。
【0015】
イオン源110は、例えば紫外領域の光源を含み、分析対象の試料にパルス光を照射することにより、試料に含まれる各種成分のイオンを生成する。イオン輸送部120は、例えばイオンレンズを含み、イオン源110により生成されたイオンを収束させつつ、点線で示すイオン光軸201に沿って四重極質量フィルタ130に導入する。
【0016】
四重極質量フィルタ130は、4本のロッド電極131~134を含む。ロッド電極131~134は、イオン光軸201を中心とする仮想的な円筒に内接するように互いに平行に配置される。したがって、ロッド電極131とロッド電極133とは、イオン光軸201を挟んで対向する。ロッド電極132とロッド電極134とは、イオン光軸201を挟んで対向する。
【0017】
電源装置100は、直流電圧+Uと高周波電圧+Vcosωtとの加算電圧+U+Vcosωtをロッド電極131,133に印加する。また、電源装置100は、直流電圧-Uと高周波電圧-Vcosωtとの加算電圧-U-Vcosωtをロッド電極132,134に印加する。これにより、四重極質量フィルタ130に導入されたイオンのうち、直流電圧Uと高周波電圧の振幅Vとにより定まる特定の質量電荷比を有するイオンのみが四重極質量フィルタ130を通過する。電源装置100の構成については後述する。
【0018】
イオン検出器140は、例えば二次電子増倍管を含む。イオン検出器140は、四重極質量フィルタ130を通過したイオンを検出し、検出量を示す検出信号を処理装置150に出力する。
【0019】
処理装置150は、例えばCPU(中央演算処理装置)および記憶部を含むパーソナルコンピュータ等の情報処理装置により実現される。処理装置150は、電源装置100、イオン輸送部120、四重極質量フィルタ130およびイオン検出器140の動作を制御する。また、処理装置150は、イオン検出器140により出力された検出信号を処理することにより、イオンの質量電荷比と検出量との関係を示すマススペクトルを生成する。
【0020】
(2)電源装置の構成
図2は、図1の電源装置100の構成を示す図である。図2に示すように、電源装置100は、検波部10、電圧制御部20、高周波電圧発生部30、直流電圧発生部40、加算部50、コイル部60、識別部70、検出部80および補正部90を含む。検波部10は、整流素子を含む整流部を有する。検波部10の詳細については後述する。
【0021】
また、電源装置100は、主基板101および検波基板102を含む。検波基板102が第1の基板の例であり、主基板101が第1の基板の例である。電圧制御部20、高周波電圧発生部30、直流電圧発生部40、加算部50、検出部80および補正部90は、主基板101に実装される。検波部10および識別部70は、検波基板102に実装される。検波基板102は、質量分析装置200の図示しない真空容器の近傍に配置されてもよい。
【0022】
電圧制御部20、高周波電圧発生部30、直流電圧発生部40および加算部50は、例えば電気抵抗、演算増幅器または論理回路等の回路素子により構成される。コイル部60は、例えば変圧器により構成される。本例では、コイル部60は、電源装置100の図示しないケーシングに固定されるが、主基板101または検波基板102に実装されてもよい。
【0023】
電圧制御部20には、図1の処理装置150により制御電圧が与えられるとともに、検波部10から検波電圧がフィードバックされる。制御電圧は、四重極質量フィルタ130に印加される高周波電圧が任意の目標電圧に一致するように高周波電圧を制御するための電圧である。検波部10によりフィードバックされる検波電圧については後述する。
【0024】
電圧制御部20は、制御電圧および検波電圧に比較、変調、増幅および加算等の種々の処理を適宜実行することにより2系統の電圧を生成し、高周波電圧発生部30および直流電圧発生部40にそれぞれ与える。高周波電圧発生部30は、電圧制御部20により与えられた電圧に基づいて、位相が互いに180°異なる高周波電圧±Vcosωtを生成する。直流電圧発生部40は、電圧制御部20により与えられた電圧に基づいて、極性が互いに異なる直流電圧±Uを生成する。
【0025】
加算部50は、高周波電圧発生部30により生成された高周波電圧±Vcosωtと、直流電圧発生部40により生成された直流電圧±Uとを加算することにより、電圧+U+Vcosωtおよび電圧-U-Vcosωtを生成する。コイル部60は、加算部50により生成された電圧±U±Vcosωtを増幅する。また、コイル部60は、増幅された電圧+U+Vcosωtを一方の出力端子からロッド電極131,133に印加し、増幅された電圧-U-Vcosωtを他方の出力端子からロッド電極132,134に印加する。
【0026】
識別部70は、検波部10の整流素子の構成に対応して定められた検波部10の識別情報を出力する。ここで、整流素子の構成とは、検波部10の整流部の数(並列接続数)、または整流素子の特性を意味する。本実施の形態においては、整流素子の品名(メーカおよび型番)が同じである場合、整流素子の特性が同じであるとする。したがって、同じ種類の整流素子(例えば高速ダイオード)であっても、整流素子の品名が異なる場合、整流素子の特性は異なる。
【0027】
検出部80は、識別部70により出力された識別情報を検出する。補正部90は、検出部80により検出された識別情報に基づいて、整流素子の漏れ電流に起因する高周波電圧と目標電圧とのずれ(以下、高周波電圧のずれ、または単にずれと呼ぶ。)を補正する。図2の例では、補正部90は、高周波電圧のずれを打ち消すための補正電圧を生成し、生成された補正電圧を制御電圧に加算する。識別部70および検出部80の詳細については後述する。
【0028】
(3)検波部
検波部10は、コイル部60の出力端子間に接続され、コイル部60から出力される高周波電圧を検波電圧に変換する。図3は、図2の検波部10の構成を示す図である。図3に示すように、検波部10は、1以上の整流部11、検波コンデンサ12,13、検出抵抗14および平滑コンデンサ15を含む。
【0029】
整流部11は、4つの整流素子D1~D4を含む。整流素子D1~D4は、例えば高速ダイオードまたはショットキーバリアダイオードである。整流素子D1のカソードおよびアノードは、ノードN1,N3にそれぞれ接続される。整流素子D2のカソードおよびアノードは、ノードN2,N3にそれぞれ接続される。整流素子D3のカソードおよびアノードは、ノードN4,N1にそれぞれ接続される。整流素子D4のカソードおよびアノードは、ノードN4,N2にそれぞれ接続される。
【0030】
検波部10に複数の整流部11が設けられる場合、複数の整流部11は並列に接続される。具体的には、複数の整流部11のノードN1は互いに接続され、複数の整流部11のノードN2は互いに接続される。また、複数の整流部11のノードN3は互いに接続され、複数の整流部11のノードN4は互いに接続される。複数の整流部11のノードN3は、接地端子に接続される。
【0031】
検波コンデンサ12,13は、例えばセラミックコンデンサである。検波コンデンサ12は、電圧+U+Vcosωtを出力するコイル部60(図2)の一方の出力端子と、ノードN1との間に接続される。検波コンデンサ13は、電圧-U-Vcosωtを出力するコイル部60の他方の出力端子と、ノードN2との間に接続される。検出抵抗14と平滑コンデンサ15とは、互いに並列に接続された状態で、ノードN4と接地端子との間に接続される。
【0032】
上記の構成によれば、コイル部60の出力端子の高周波電圧が検波コンデンサ12または検波コンデンサ13により検波電流に変換され、複数の整流部11を流れることにより整流される。整流された電流は、検出抵抗14を流れることにより検波電圧に変換され、図2の電圧制御部20にフィードバックされる。
【0033】
図3の例では、検波部10は複数の整流部11を含むが、実施の形態はこれに限定されない。検波部10に設けられる整流部11の数は、1つであってもよい。基本的に、整流素子D1~D4における漏れ電流の直線性がよい場合、検波部10には1つの整流部11が設けられる。漏れ電流は、整流素子D1~D4において、整流方向とは逆方向に流れる電流である。
【0034】
漏れ電流は、逆電圧印加時における直流的な成分、アノードとカソードとの間の接合容量による交流的な成分、および逆回復時間に起因する成分を含む。直線性がよいことは、整流素子D1~D4に流れる検波電流の大きさに関わらず、整流素子D1~D4に流れる漏れ電流の大きさが略一定であることを意味する。直線性が悪いことは、整流素子D1~D4に所定値以上の検波電流が流れる場合、整流素子D1~D4に流れる漏れ電流が急激に大きくなることを意味する。
【0035】
図4は、1つの整流部11を含む検波部10を用いて測定されたマススペクトルを示す図である。図4においては、複数の特定の質量電荷比近傍のピークが拡大表示されている。複数のピークの拡大率はそれぞれ異なる。後述する図6図9においても同様である。
【0036】
図4の上段のマススペクトルの測定に用いられた検波部10の整流部11は、漏れ電流の直線性が比較的よい整流素子D1~D4により構成される。この場合、全体的に各ピークの幅が増大することなく、各ピークが他のピークから分離される。図4の下段のマススペクトルの測定に用いられた検波部10の整流部11は、漏れ電流の直線性が比較的悪い整流素子D1~D4により構成される。この場合、質量電荷比が大きい範囲において、ピークの幅が増大する。また、質量電荷比が大きい範囲では、各ピークが他のピークから分離されない。
【0037】
検波部10における整流部11の並列接続数を増やすことにより、整流素子D1~D4の漏れ電流の直線性が改善される。これにより、質量電荷比が比較的大きい範囲においても、各ピークを他のピークから分離するようにマススペクトルを補正することができる。一方で、整流部11の並列接続数が増えるほど、高周波電圧のずれが大きくなる。この場合でも、適切に定められた補正電圧が制御電圧に加算されることにより、高周波電圧のずれを打ち消すことができる。
【0038】
(4)実施例
以下の実施例1~4では、それぞれ異なる特性の整流素子D1~D4を使用してマススペクトルを補正した。具体的には、実施例1では、Broadcom,Inc.製のHSMS-281を使用した。実施例2では、Vishay Intertechnology,Inc.製のBAT81Sを使用した。実施例3では、ローム株式会社製のRB706F-40を使用した。実施例4では、Nexperia B.V.製のBAV99Wを使用した。
【0039】
図5は、実施例1~4で使用された整流素子D1~D4の特性を示す図である。図5の横軸は質量電荷比を示し、縦軸は高周波電圧のずれを示す。図5に示すように、実施例1の整流素子D1~D4においては、広い質量電荷比(0~2000)の範囲で、ずれが0近傍の略一定値であった。実施例2,3の整流素子D1~D4においては、質量電荷比0~1200の範囲ではずれは比較的小さい一定値であったが、質量電荷比1200以上の範囲でずれが増加した。実施例4の整流素子D1~D4においては、全体的にずれが大きかった。
【0040】
図6は、実施例1におけるマススペクトルを示す図である。図7は、実施例2におけるマススペクトルを示す図である。図8は、実施例3におけるマススペクトルを示す図である。図9は、実施例4におけるマススペクトルを示す図である。図6図9の各々においては、上段に補正前のマススペクトルが示され、下段に補正後のマススペクトルが示される。
【0041】
実施例1においては、図6の上段に示すように、マススペクトルの補正を行わない場合でも、全体的に各ピークが他のピークから分離されている。この場合、質量分解能を均一にするためのソフトウエア上の補正を行うことにより、図6の下段に示すように、良好なマススペクトルが得られる。
【0042】
一方、実施例2~4においては、図7図9の上段にそれぞれ示すように、所定の質量電荷比の範囲で、各ピークが他のピークから分離されていない。この場合、各ピークを他のピークから分離するために、並列接続された複数の整流部11を含む検波部10をマススペクトルの測定に用いる。また、必要に応じて適切な補正電圧を制御電圧に加算する。これにより、図7および図8の下段にそれぞれ示すように、補正された良好なマススペクトルが得られる。
【0043】
マススペクトルの補正に要する整流部11の数は、整流素子D1~D4の特性により異なる。また、マススペクトルの補正に要する補正電圧は、整流部11の接続数または整流素子D1~D4の特性により異なる。したがって、図2の電源装置100の製造時には、整流素子D1~D4の特性に応じて適切に定められた数の整流部11が検波基板102に実装される。また、整流部11の接続数または整流素子D1~D4の特性に応じて適切に定められた補正電圧が設定される。
【0044】
このように、主基板101は、検波基板102における整流素子D1~D4の構成に対応付けて製造される。しかしながら、電源装置100の保守において、整流素子D1~D4の交換が必要になることがある。この場合において、交換前の整流素子D1~D4とは異なる特性を有する整流素子D1~D4を交換用の整流素子D1~D4として用いると、検波基板102と主基板101との対応関係が破綻する。これを防止するために、検波基板102および主基板101には、識別部70および検出部80がそれぞれ実装される。以下、識別部70および検出部80の詳細について説明する。
【0045】
(5)識別部および検出部
(a)第1の例
図10は、識別部70および検出部80の第1の例を示す図である。図10に示すように、識別部70は、接地端子71、1以上の出力端子72および1以上のスイッチ73を含む。接地端子71が第1の端子の例であり、出力端子72が第2の端子の例である。1以上のスイッチ73は、1以上の出力端子72にそれぞれ対応する。各スイッチ73は、対応する出力端子72と、接地端子71との間に接続される。
【0046】
検波基板102の製造時に、検波基板102に実装された検波部10の整流素子D1~D4の構成に対応するように1以上のスイッチ73が開閉されている。この場合、任意の識別情報を容易に出力することができる。整流素子D1~D4の構成と、1以上のスイッチ73を開閉状態との関係は予め定められている。
【0047】
例えば、品名“X”が付与された整流素子D1~D4を含む整流部11が2つ並列接続されている場合には、第1および第2のスイッチ73を閉状態にし、第3のスイッチ73を開状態にするように対応付けられていてもよい。また、品名“Y”が付与された整流素子D1~D4を含む整流部11が1つ並列接続されている場合には、第1のスイッチ73を閉状態にし、第2および第3のスイッチ73を開状態にするように対応付けられていてもよい。
【0048】
検出部80は、接地端子81、1以上の入力端子82および1以上の演算増幅器83を含む。補正部90は、記憶部91、電圧決定部92および電圧生成部93を含む。本例では、主基板101にCPUが実装される。電圧決定部92は、CPUにより実現される機能部である。電圧生成部93は、所定範囲の直流電圧を生成可能な電源部を含む。接地端子81は、接地端子71に対応し、接地電位に維持される。1以上の入力端子82は、1以上の出力端子72にそれぞれ対応する。また、1以上の演算増幅器83は、1以上の入力端子82にそれぞれ接続される。
【0049】
接地端子71および1以上の出力端子72は、配線により接地端子81および1以上の入力端子82にそれぞれ接続される。これにより、接地端子71は接地電位に維持される。接地端子71が直接的に接地電位に維持される場合には、接地端子71は接地端子81に接続されなくてもよい。識別部70と検出部80とが接続されることにより、1以上のスイッチ73の状態が識別情報として1以上の演算増幅器83により検出される。
【0050】
図11は、識別情報の一例を示す図である。図11の例では、各スイッチ73の開状態が“0”と記され、閉状態が“1”と記される。複数のスイッチ73の状態により、識別情報が“0”,“1”,“2”,“3”,“4”・・・のいずれかに一意的に定まる。
【0051】
例えば、第1および第2のスイッチ73が閉状態であり、第3のスイッチ73が開状態である場合、識別情報は“3”となる。第1のスイッチ73が閉状態であり、第2および第3のスイッチ73が開状態である場合、識別情報は“3”となる。第1のスイッチ73が閉状態であり、第2および第3のスイッチ73が開状態である場合、識別情報は“1”となる。
【0052】
出力された識別情報は、1以上の演算増幅器83により電圧として容易に特定することができる。識別部70の出力端子72の数をnとすると、識別情報の種類は2となる。したがって、本例では、識別部70は複数の出力端子72を含むが、実施の形態はこれに限定されない。識別情報の種類が2である場合、識別部70は1つの出力端子72を含む。
【0053】
高周波電圧のずれを補正するために適した補正電圧は、識別情報に対応して定まる。そこで、記憶部91には、識別情報と、高周波電圧のずれを補正するための補正電圧との対応関係を示す対応情報が予め記憶される。図12は、対応情報の一例を示す図である。図12における補正電圧は、電源装置100の製造時に、種々の整流素子D1~D4を用いた実験等が行われることにより特定される。
【0054】
電圧決定部92は、演算増幅器83により検出された識別情報を取得する。また、電圧決定部92は、取得された識別情報と、記憶部91に記憶された対応情報とに基づいて補正電圧を決定し、決定された補正電圧を生成するように電圧生成部93を制御する。この場合、整流素子D1~D4の構成に対応した補正電圧を容易に生成することができる。電圧生成部93は、生成された補正電圧を制御電圧に加算する。これにより、検波基板102に実装された整流素子D1~D4の漏れ電流に起因する高周波電圧のずれが補正される。
【0055】
(b)第2の例
識別部70の第1の例においては、接地端子71と各出力端子72との間にスイッチ73が接続されるが、実施の形態はこれに限定されない。図13は、識別部70および検出部80の第2の例を示す図である。図13に示すように、本例においては、スイッチ73に代えて、極めて小さい抵抗値を有する電気抵抗74が用いられる。電気抵抗74は、ジャンパ線であってもよい。
【0056】
具体的には、第1の例において、閉状態にするべきスイッチ73が接続されていた出力端子72と接地端子71との間には、電気抵抗74が接続される。一方、第1の例において、開状態にするべきスイッチ73が接続されていた出力端子72と接地端子71との間には、電気抵抗74が接続されない。この場合、図11の識別情報において、電気抵抗74が接続されない開状態が“0”と記され、電気抵抗74が接続された開状態が“1”と記される。この構成においても、識別部70の第1の例と同様に、識別部70から検出部80に識別情報を出力することができる。
【0057】
このように、識別部70の第1の例または第2の例においては、識別情報は、接地端子71と1以上の出力端子72との間の電気的な接続状態に対応して定められる。この場合、識別情報を容易に定めることができる。特に、第1の例においては、識別情報は、スイッチ73の状態に対応して定められる。そのため、スイッチ73の状態を切り替えることにより、任意の識別情報を容易に出力することができる。
【0058】
(c)第3の例
識別部70および検出部80の第3の例について、第1の例と異なる点を説明する。図14は、識別部70および検出部80の第3の例を示す図である。図14に示すように、識別部70は、複数ではなく1つの出力端子72を含む。また、識別部70は、スイッチ73に代えて、電気抵抗75を含む。電気抵抗75は、接地端子71と出力端子72との間に接続される。
【0059】
検出部80は、複数ではなく1つの入力端子82および演算増幅器83を含む。接地端子81が第3の端子の例であり、入力端子82が第4の端子の例である。また、検出部80は、電気抵抗84および電源部85をさらに含む。電源部85は、例えば直流電源である。演算増幅器83は、入力端子82に接続される。電気抵抗84は、入力端子82と電源部85のプラス極との間に接続される。電源部85のマイナス極は接地端子81に接続される。
【0060】
接地端子71および出力端子72は、配線により接地端子81および入力端子82にそれぞれ接続される。識別部70と検出部80とが接続されることにより、電源部85による電圧が直列接続された電気抵抗75,84に印加される。電気抵抗75と電気抵抗84との間の電位が識別情報として演算増幅器83により検出される。すなわち、識別情報は、電気抵抗75の分圧として定められる。
【0061】
本例では、電源部85の電圧および電気抵抗84の抵抗値は一定である。例えば、電源部85の出力電圧が5Vであり、電気抵抗84の抵抗値が1kΩであるとする。一方、電気抵抗75としては、整流素子D1~D4の構成に応じて異なる抵抗値を有する電気抵抗が用いられる。したがって、識別情報は、電気抵抗75の抵抗値に対応して一意的に定まる。
【0062】
検波基板102の製造時に、検波基板102に実装された検波部10の整流素子D1~D4の構成に対応するように、接地端子71と出力端子72との間に電気抵抗75が接続されている。整流素子D1~D4の構成と、電気抵抗75の抵抗値との関係は予め定められている。
【0063】
例えば、品名“X”が付与された整流素子D1~D4を含む整流部11が2つ並列接続されている場合には、抵抗値1kΩの電気抵抗75を接続するように対応付けられていてもよい。この場合、識別情報は2.5Vとなる。また、品名“Y”が付与された整流素子D1~D4を含む整流部11が1つ並列接続されている場合には、抵抗値100Ωの電気抵抗75を接続するように対応付けられていてもよい。この場合、識別情報は約0.5Vとなる。
【0064】
本例では、1つの電気抵抗75により所望の識別情報を選択可能である。そのため、検波基板102の実装面積を大型化する必要がない。これにより、電源装置100を小型化することができる。なお、本例では、電気抵抗75は抵抗値を調整可能な可変抵抗であってもよい。この場合、整流素子D1~D4の構成に応じた電気抵抗75の抵抗値の調整が容易になる。
【0065】
電圧決定部92は、演算増幅器83により検出された識別情報を取得する。また、電圧決定部92は、取得された識別情報と、記憶部91に記憶された対応情報とに基づいて補正電圧を決定し、決定された補正電圧を生成するように電圧生成部93を制御する。電圧生成部93は、生成された補正電圧を制御電圧に加算する。これにより、検波基板102に実装された整流素子D1~D4の漏れ電流に起因する高周波電圧のずれが補正される。
【0066】
(6)変形例
本実施の形態において、補正部90は生成された補正電圧を制御電圧に加算するが、実施の形態はこれに限定されない。図15は、第1の変形例に係る電源装置100の構成を示す図である。図15に示すように、補正部90は、生成された補正電圧を検波電圧に加算してもよい。図16は、第2の変形例に係る電源装置100の構成を示す図である。図16に示すように、補正部90は、生成された補正電圧を制御電圧と検波電圧との加算電圧に加算してもよい。これらの場合でも、図2の電源装置100と同様に、高周波電圧のずれを容易に補正することができる。
【0067】
(7)効果
本実施の形態に係る質量分析装置200においては、電源装置100により四重極質量フィルタ130に直流電圧と高周波電圧との加算電圧が印加される。印加された電圧に対応する質量電荷比を有するイオンが四重極質量フィルタ130により選択される。電源装置100においては、四重極質量フィルタ130に印加される電圧の交流成分である高周波電圧が検波部10により検波電圧として検波される。また、整流素子D1~D4の漏れ電流に起因する高周波電圧のずれが補正部90により補正される。
【0068】
電源装置100においては、検波部10が検波基板102に実装される。また、検波部10により出力された識別情報を検出する検出部80が主基板101に実装される。そのため、電源装置100の保守において、検波部10の整流素子D1~D4の交換の必要が生じた場合には、検波基板102のみを交換すればよく、検波基板102および主基板101を含めた電源装置100の全体を交換する必要がない。
【0069】
また、保守において、交換前の整流素子D1~D4と同等の特性を有する整流素子D1~D4を入手できない場合には、交換前の整流素子D1~D4と異なる特性を有する整流素子D1~D4が用いられることとなる。この場合でも、整流部11の接続数を変更する等、整流素子D1~D4の特性に応じて漏れ電流の直線性が改善されるように整流素子D1~D4を構成することが可能である。
【0070】
ここで、整流素子D1~D4の構成を変更すると、高周波電圧のずれが変化する。この場合でも、検波基板102に実装された識別部70からは、整流素子D1~D4の構成に対応して定められた検波部10の識別情報が出力される。そのため、主基板101において、整流素子D1~D4の構成に対応する識別情報に基づいて、補正部90により高周波電圧のずれが適切に補正される。
【0071】
このように、上記の構成によれば、電源装置100の保守時に、交換前の整流素子D1~D4と同等の特性を有する整流素子D1~D4を入手する必要がないので、交換用の整流素子D1~D4の選定が容易になる。また、検波基板102における整流素子D1~D4の構成を変更した場合でも、整流素子D1~D4の構成と対応付けて主基板101を交換する必要がない。その結果、電源装置100の保守の手間およびコストを低減することができる。
【0072】
本実施の形態においては、電源装置100の製造時に、入手可能な種々の整流素子D1~D4の構成に対応する識別情報が予め定められる。そのため、電源装置100の製造時点で入手可能な任意の整流素子D1~D4が検波基板102に実装された場合に、当該整流素子D1~D4の構成に対応して高周波電圧のずれを補正することが可能である。
【0073】
一方で、電源装置100の保守において、電源装置100の製造時以降に販売された整流素子D1~D4等、識別情報に対応付けられていない新規の整流素子D1~D4を交換用に用いる可能性がある。このような場合には、まず、交換用の整流素子D1~D4の構成に適した、高周波電圧のずれを補正するための補正電圧が実験等により特定される。そして、特定された補正電圧に対応付けられた識別情報を出力する識別部70が実装された検波基板102が交換用の基板として選択される。これにより、新規の整流素子D1~D4が交換用に用いられる場合でも、当該整流素子D1~D4の構成に対応して高周波電圧のずれを補正することができる。
【0074】
(8)他の実施の形態
(a)上記実施の形態において、電源装置100は補正部90を含み、補正部90は主基板101に実装される。この場合、検出部80と補正部90とを接続するための配線をコンパクトにすることができる。しかしながら、実施の形態はこれに限定されない。補正部90は、図1の処理装置150等に設けられてもよい。この場合、電源装置100は、補正部90を含まない。したがって、補正部90は、主基板101に実装されなくてもよい。
【0075】
(b)上記実施の形態において、補正部90は記憶部91および電圧決定部92を含むが、実施の形態はこれに限定されない。図17は、他の実施の形態における補正部90を示す図である。本実施の形態における補正部90について、図14の補正部90と異なる点を説明する。
【0076】
図17に示すように、本実施の形態においては、補正部90は、記憶部91、電圧決定部92および電圧生成部93を含まず、演算増幅器83により識別情報として出力される電圧が補正電圧として用いられる。したがって、演算増幅器83は、補正部90として動作する。
【0077】
本実施の形態においても、整流素子D1~D4の構成に対応した補正電圧を容易に生成することができる。これにより、整流素子D1~D4の構成に対応した高周波電圧のずれが補正される。また、本実施の形態では、記憶部91、電圧決定部92および電圧生成部93を用いる必要がないので、高周波電圧のずれを補正するための構成を比較的安価に実現することができる。
【0078】
なお、本実施の形態において、演算増幅器83から識別情報として出力される電圧の演算値が補正電圧として用いられてもよい。例えば、演算増幅器83から出力される電圧が増幅または減衰されることにより、補正電圧として用いられてもよい。
【0079】
また、図10または図14の検出部80においても、識別情報は、1以上の演算増幅器83により所定の電圧として検出される。そのため、識別情報に対応する電圧が、当該識別情報に対応する補正電圧として適している場合には、1以上の演算増幅器83から出力される識別情報またはその演算値が補正電圧として用いられてもよい。
【0080】
(c)上記実施の形態において、整流部11のノードN3が接地端子に接続され、各整流部11のノードN4が検出抵抗14と平滑コンデンサ15とに接続されるが、実施の形態はこれに限定されない。各整流部11のノードN4が接地端子に接続され、各整流部11のノードN3が検出抵抗14と平滑コンデンサ15とに接続されてもよい。
【0081】
(d)上記実施の形態において、整流部11は全波整流回路を構成する4つの整流素子D1~D4を含むが、実施の形態はこれに限定されない。整流部11は半波整流回路を構成する1つの整流素子を含んでもよい。
【0082】
(e)上記実施の形態において、整流素子D1~D4の漏れ電流に起因する高周波電圧(交流電圧)のずれが補正されるが、実施の形態はこれに限定されない。整流素子D1~D4の漏れ電流に起因する高周波電圧のずれが直流電圧により補正されてもよい。
【0083】
この構成においては、識別情報と、上記の高周波電圧のずれを補正するための補正電圧との対応関係を示す対応情報が予め記憶されてもよい。これにより、電圧決定部92は、取得された識別情報と、記憶部91に記憶された対応情報とに基づいて補正電圧を決定し、決定された補正電圧を生成するように電圧生成部93を制御することができる。
【0084】
(9)態様
上記の複数の例示的な実施の形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0085】
(第1項)一態様に係る質量分析装置は、
印加された電圧に対応する質量電荷比を有するイオンを選択する質量フィルタと、
第1の基板および第2の基板を有し、前記質量フィルタに電圧を印加する電源装置と、
補正部とを備え、
前記第1の基板は、整流素子を用いて、前記質量フィルタに印加される電圧の交流成分を検波電圧として検波する検波部と、前記検波部の前記整流素子の構成に対応して定められた前記検波部の識別情報を出力する識別部とを含み、
前記第2の基板は、前記識別部により出力された前記識別情報を検出する検出部を含み、
前記補正部は、前記検出部により検出された前記識別情報に基づいて、前記整流素子の漏れ電流に起因する電圧のずれを補正してもよい。
【0086】
この質量分析装置においては、電源装置により質量フィルタに電圧が印加される。印加された電圧に対応する質量電荷比を有するイオンが質量フィルタにより選択される。電源装置においては、質量フィルタに印加される電圧の交流成分が検波部により検波電圧として検波される。また、整流素子の漏れ電流に起因する電圧のずれが補正部により補正される。
【0087】
電源装置においては、検波部が第1の基板に含まれる。また、検波部により出力された識別情報を検出する検出部が第2の基板に含まれる。そのため、質量分析装置の保守において、検波部の整流素子の交換の必要が生じた場合には、第1の基板のみを交換すればよく、第1の基板および第2の基板を含めた電源装置の全体を交換する必要がない。
【0088】
また、保守において、交換前の整流素子と同等の特性を有する整流素子を入手できない場合には、交換前の整流素子と異なる特性を有する整流素子が用いられることとなる。この場合でも、整流素子の数を変更する等、整流素子の特性に応じて漏れ電流の直線性が改善されるように整流素子を構成することが可能である。
【0089】
ここで、整流素子の構成を変更すると、電圧のずれが変化する。この場合でも、第1の基板に含まれる識別部からは、整流素子の構成に対応して定められた検波部の識別情報が出力される。そのため、第2の基板において、整流素子の構成に対応する識別情報に基づいて、補正部により電圧のずれが適切に補正される。
【0090】
このように、上記の構成によれば、質量分析装置の保守時に、交換前の整流素子と同等の特性を有する整流素子を入手する必要がないので、交換用の整流素子の選定が容易になる。また、第1の基板における整流素子の構成を変更した場合でも、整流素子の構成と対応付けて第2の基板を交換する必要がない。その結果、質量分析装置の保守の手間およびコストを低減することができる。
【0091】
(第2項)第1項に記載の質量分析装置において、
前記識別部は、
第1の端子と、
1以上の第2の端子とを含み、
前記識別情報は、前記第1の端子と前記1以上の第2の端子との間の電気的な接続状態に対応して定められてもよい。
【0092】
この場合、識別情報を容易に定めることができる。
【0093】
(第3項)第2項に記載の質量分析装置において、
前記識別部は、前記第1の端子と前記1以上の第2の端子との間に接続されたスイッチをさらに含み、
前記識別情報は、前記スイッチの開閉状態に対応して定められてもよい。
【0094】
この場合、任意の識別情報を容易に出力することができる。また、出力された識別情報を容易に特定することができる。
【0095】
(第4項)第1項に記載の質量分析装置において、
前記識別部は、
第1の端子と、
第2の端子と、
前記第1の端子と前記第2の端子との間に接続された第1の電気抵抗とを含み、
前記識別情報は、前記第1の電気抵抗の抵抗値に対応して定められてもよい。
【0096】
この場合、識別情報を容易に定めることができる。また、識別情報の種類が多い場合でも、第1の基板に多数の素子を設ける必要がないので、第1の基板の大型化が防止される。これにより、電源装置を小型化することができる。
【0097】
(第5項)第4項に記載の質量分析装置において、
前記検出部は、
前記第1の端子に対応する第3の端子と、
前記第2の端子に対応する第4の端子と、
前記第3の端子と前記第4の端子との間に接続された電源部および第2の電気抵抗とを含み、前記識別情報は、前記第1の電気抵抗の分圧に対応して定められてもよい。
【0098】
この場合、出力された識別情報を容易に特定することができる。
【0099】
(第6項)第1項~第5項のいずれか一項に記載の質量分析装置において、
前記補正部は、
前記識別情報と電圧のずれを補正するための補正電圧との対応関係を示す対応情報を予め記憶した記憶部と、
前記記憶部に記憶された前記対応情報に基づいて補正電圧を決定する電圧決定部と、
前記電圧決定部により決定された補正電圧を生成する電圧生成部を含んでもよい。
【0100】
この場合、整流素子の構成に対応した補正電圧を容易に生成することができる。これにより、整流素子の構成に対応した電圧のずれが補正される。
【0101】
(第7項)第6項に記載の質量分析装置において、
前記補正部は、前記第2の基板に設けられてもよい。
【0102】
この場合、検出部と補正部とを接続するための配線をコンパクトにすることができる。
【0103】
(第8項)第6項に記載の質量分析装置において、
前記第2の基板には、前記質量フィルタに印加される電圧を制御するための制御電圧が入力され、
前記電圧生成部は、生成された補正電圧を前記制御電圧に加算してもよい。
【0104】
この場合、電圧のずれを容易に補正することができる。
【0105】
(第9項)第6項に記載の質量分析装置において、
前記電圧生成部は、生成された補正電圧を前記検波電圧に加算してもよい。
【0106】
この場合、電圧のずれを容易に補正することができる。
【0107】
(第10項)第6項に記載の質量分析装置において、
前記第2の基板には、前記質量フィルタに印加される電圧を制御するための制御電圧が入力され、
前記電圧生成部は、生成された補正電圧を前記制御電圧と前記検波電圧との加算電圧に加算してもよい。
【0108】
この場合、電圧のずれを容易に補正することができる。
【0109】
(第11項)第1項~第5項のいずれか一項に記載の質量分析装置において、
前記補正部は、前記識別情報、または当該識別情報の演算値を補正電圧として生成してもよい。
【0110】
この場合、整流素子の構成に対応した補正電圧を容易に生成することができる。これにより、整流素子の構成に対応した電圧のずれが補正される。また、電圧のずれを補正するための構成を比較的安価に実現することができる。
【0111】
(第12項)第11項に記載の質量分析装置において、
前記第2の基板には、前記質量フィルタに印加される電圧を制御するための制御電圧が入力され、
前記補正部は、生成された補正電圧を前記制御電圧に加算してもよい。
【0112】
この場合、電圧のずれを容易に補正することができる。
【0113】
(第13項)第11項に記載の質量分析装置において、
前記補正部は、生成された補正電圧を前記検波電圧に加算してもよい。
【0114】
この場合、電圧のずれを容易に補正することができる。
【0115】
(第14項)第11項に記載の質量分析装置において、
前記第2の基板には、前記質量フィルタに印加される電圧を制御するための制御電圧が入力され、
前記補正部は、生成された補正電圧を前記制御電圧と前記検波電圧との加算電圧に加算してもよい。
【0116】
この場合、電圧のずれを容易に補正することができる。
【0117】
(第15項)電源装置は、
印加された電圧に対応する質量電荷比を有するイオンを選択する質量フィルタに電圧を印加する電源装置であって、
第1の基板と、
第2の基板とを備え、
前記第1の基板は、整流素子を用いて、前記質量フィルタに印加される電圧の交流成分を検波電圧として検波する検波部と、前記検波部の前記整流素子の構成に対応して定められた前記検波部の識別情報を出力する識別部とを含み、
前記第2の基板は、前記識別部により出力された前記識別情報を検出し、検出された前記識別情報を、当該識別情報に基づいて前記整流素子の漏れ電流に起因する電圧のずれを補正するための補正部に与える検出部を含んでもよい。
【0118】
この電源装置によれば、保守時に、交換前の整流素子と同等の特性を有する整流素子を入手する必要がないので、交換用の整流素子の選定が容易になる。また、第1の基板における整流素子の構成を変更した場合でも、整流素子の構成と対応付けて第2の基板を交換する必要がない。その結果、電源装置の保守の手間およびコストを低減することができる。
【符号の説明】
【0119】
10…検波部,11…整流部,12,13…検波コンデンサ,14…検出抵抗,15…平滑コンデンサ,20…電圧制御部,30…高周波電圧発生部,40…直流電圧発生部,50…加算部,60…コイル部,70…識別部,71,81…接地端子,72…出力端子,73…スイッチ,74,75,84…電気抵抗,80…検出部,82…入力端子,83…演算増幅器,85…電源部,90…補正部,91…記憶部,92…電圧決定部,93…電圧生成部,100…電源装置,101…主基板,102…検波基板,110…イオン源,120…イオン輸送部,130…四重極質量フィルタ,131~134…電極,140…イオン検出器,150…処理装置,200…質量分析装置,201…イオン光軸,D1~D4…整流素子,N1~N4…ノード
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17