(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052293
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】誘電体磁器組成物
(51)【国際特許分類】
C04B 35/468 20060101AFI20240404BHJP
C01G 23/00 20060101ALI20240404BHJP
C01G 33/00 20060101ALI20240404BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
C04B35/468 200
C01G23/00 C
C01G33/00 A
H01G4/30 515
H01G4/30 201L
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158898
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【弁理士】
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐田 貴生
【テーマコード(参考)】
4G047
4G048
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
4G047CA07
4G047CB05
4G047CC02
4G047CD01
4G047CD08
4G048AA04
4G048AA05
4G048AB02
4G048AC02
4G048AD01
4G048AD08
4G048AE05
5E001AB03
5E001AE02
5E001AE03
5E001AE04
5E082AB03
5E082FF05
5E082FG26
(57)【要約】
【課題】DCバイアス印加を増大させても、誘電体材料の比誘電率が低下しにくい誘電体磁器組成物を提供する。
【解決手段】 BaTiO
3ペロブスカイト相及びNaNbO
3ペロブスカイト相が併存している誘電体磁器組成物であり、BaTiO
3及び(1-x)NaNbO
3-xABO
3を有する誘電体磁器組成物であって、BaTiO
3の含有量αが65モル%以上100モル%未満、(1-x)NaNbO
3-xABO
3の含有量βが0モル%を超え35モル%以下であり、xは0を超え0.1以下であり、Aは、Ba、Ca、及びSrの群から選択される少なくとも1種の元素を示し、BはZr、Hf、及びSnの群から選択される少なくとも1種の元素を示す、誘電体磁器組成物である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
BaTiO3ペロブスカイト相及びNaNbO3ペロブスカイト相が併存している、誘電体磁器組成物。
【請求項2】
前記NaNbO3ペロブスカイト相は、下記A、Bの元素を含みABO3で表される化合物を含有している、請求項1に記載の誘電体磁器組成物。
A:Ba、Ca、及びSrの群から選択される少なくとも1種の元素を示す。
B:Zr、Hf、及びSnの群から選択される少なくとも1種の元素を示す。
【請求項3】
前記NaNbO3ペロブスカイト相には、更にDy2O3、Gd2O3、Tb2O3、Ho2O3、Eu2O3、Sm2O3の群から選択されるいずれか1種の希土類が固溶している、請求項2に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項4】
BaTiO3及び(1-x)NaNbO3-xABO3を有する誘電体磁器組成物であって、
BaTiO3の含有量αが65モル%以上100モル%未満であり、(1-x)NaNbO3-xABO3の含有量βが0モル%を超え35モル%以下であり、
xは0を超え0.1以下であり、
Aは、Ba、Ca、及びSrの群から選択される少なくとも1種の元素を示し、BはZr、Hf、及びSnの群から選択される少なくとも1種の元素を示す、誘電体磁器組成物。
【請求項5】
Dy2O3、Gd2O3、Tb2O3、Ho2O3、Eu2O3、Sm2O3の群から選択されるいずれか1種の希土類を0.5モル%以上5モル%以下で含有させる、請求項4に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項6】
(1-x)NaNbO3-xABO3の含有量βが1モル%以上20モル%以下である、請求項4または5記載の誘電体磁器組成物。
【請求項7】
(1-x)NaNbO3-xABO3の含有量βが5モル%以上20モル%以下である、請求項4または5に記載の誘電体磁器組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、誘電体磁器組成物に関する。詳しくは、誘電体材料としてBaTiO3ペロブスカイト相及びNaNbO3ペロブスカイト相が併存している誘電体磁器組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、積層セラミックコンデンサは種々の電子機器に搭載され、この積層セラミックコンデンサに使用される誘電体材料について、研究開発が盛んである。誘電体材料としてチタン酸バリウムBaTiO3の研究が多く報告され、BaTiO3の誘電特性を変化させるために異種材料を添加する研究もなされている。添加される異種材料として、たとえば、ニオブ酸ナトリウムNaNbO3がある。BaTiO3にNaNbO3を添加して焼結した誘電体材料は、NaNbO3がBaTiO3に固溶しているという報告がある(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Journal of the European Ceramic Society 24(2004)1493-1496、Dielectric properties of BaTiO3-NaNbO3 composites
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このNaNbO3がBaTiO3に固溶した誘電体材料は、DCバイアス特性が悪いという問題がある。具体的には、DCバイアス印加を5[V/μm]、10[V/μm]と増大させると、誘電体材料の比誘電率が低下するという問題がある。
【0005】
したがって、DCバイアス印加を5[V/μm]、10[V/μm]と増大させても、誘電体材料の比誘電率が低下しにくい誘電体磁器組成物が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の誘電体磁器組成物は、BaTiO3ペロブスカイト相及びNaNbO3ペロブスカイト相が併存している。
【0007】
また、本開示の誘電体磁器組成物は、BaTiO3及び(1-x)NaNbO3-xABO3を有する誘電体磁器組成物であって、
BaTiO3の含有量αが65モル%以上100モル%未満であり、(1-x)NaNbO3-xABO3の含有量βが0モル%を超え35モル%以下であり、
xは0を超え0.1以下であり、
Aは、Ba、Ca、及びSrの群から選択される少なくとも1種の元素を示し、BはZr、Hf、及びSnの群から選択される少なくとも1種の元素を示す。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、DCバイアス印加を5[V/μm]、10[V/μm]と増大させても、比誘電率が低下しにくい誘電体磁器組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の誘電体磁器組成物の結晶構造のXRD測定装置を用いて解析したグラフである。
【
図2】薄片化試料の分析透過型電子顕微鏡によるBaの分析結果を示す図である。
【
図3】NaNbO
3ペロブスカイト相の形成の有無と比誘電率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(誘電体磁器組成物)
本開示の誘電体磁器組成物は、BaTiO3ペロブスカイト相及びNaNbO3ペロブスカイト相が併存している。
【0011】
本開示において、BaTiO3ペロブスカイト相は、ペロブスカイト型化合物としてBaTiO3のみを含むぺロブスカイト相であり、aTiO3ペロブスカイト型化合物などは含まない。NaNbO3ペロブスカイト相は、ペロブスカイト化合物としてNaNbO3を含むぺロブスカイト相である。本開示の誘電体磁器組成物は、BaTiO3ペロブスカイト相及びNaNbO3ペロブスカイト相を同時に含んでいる。
【0012】
本開示の誘電体磁器組成物において、NaNbO3はBaTiO3ペロブスカイト相に固溶しておらず、NaNbO3ペロブスカイト相を形成している。BaTiO3ペロブスカイト相は誘電率が高い上に、NaNbO3ペロブスカイト相は反強誘電性を示すことから、本開示の誘電体磁器組成物は、DCバイアス印加が5[V/μm]、10[V/μm]と増大した場合でも高い比誘電率を示すことができる。
【0013】
ここで、BaTiO3ペロブスカイト相とNaNbO3ペロブスカイト相とが併存するとは、誘電体磁器組成物に対してX線回折の測定を行った場合に、BaTiO3ペロブスカイト相のピークと、NaNbO3ペロブスカイト相のピークを双方とも確認できる、ということを意味する。詳細については後述する。
【0014】
また、上記NaNbO3ペロブスカイト相は、下記A、Bの元素を含み、ABO3で表される化合物を含有してもよい。
A:Ba、Ca、及びSrの群から選択される少なくとも1種の元素を示す。
B:Zr、Hf、及びSnの群から選択される少なくとも1種の元素を示す。
ABO3としては、たとえば、CaZrO3、CaHfO3、CaSnO3、BaSnO3、SrZrO3、SrSnO3などが挙げられる。
【0015】
ABO3が誘電体磁器組成物中に存在することにより、NaNbO3ペロブスカイト相が確実に形成でき、そして安定して反強誘電特性を発揮する。その結果、本開示の誘電体磁器組成物はDCバイアス印加が5[V/μm]、10[V/μm]と増大した場合でも、安定して高い比誘電率を示すことができる。
【0016】
また、上記NaNbO3ペロブスカイト相には、更にDy2O3、Gd2O3、Tb2O3、Ho2O3、Eu2O3、Sm2O3の群から選択されるいずれか1種の希土類が固溶していてもよい。
【0017】
上記の希土類がNaNbO3ペロブスカイト相に固溶すると、NaNbO3がBaTiO3ペロブスカイト相に固溶しにくくなり、NaNbO3ペロブスカイト相としてさらに安定に存在できるようになる。その結果、NaNbO3ペロブスカイト相は、安定して反強誘電特性を発揮できるので、本開示の誘電体磁器組成物は、DCバイアス印加が5、10[V/μm]と増大した場合でも、さらに安定して高い比誘電率を示すことができる。
【0018】
また、本開示の誘電体磁器組成物は、BaTiO3及び(1-x)NaNbO3-xABO3を有し、BaTiO3の含有量αが65モル%以上100モル%未満であり、(1-x)NaNbO3-xABO3の含有量βが0モル%を超え35モル%以下であり、xは0を超え0.1以下であり、Aは、Ba、Ca、及びSrの群から選択される少なくとも1種の元素を示し、BはZr、Hf、及びSnの群から選択される少なくとも1種の元素を示す。
【0019】
BaTiO3の含有量αが65モル%未満であると、高い誘電率を示さない。BaTiO3の含有量αが100モル%であるとNaNbO3相はない。xが0であると、NaNbO3ペロブスカイト相は安定して反強誘電特性を発揮できにくい。xが0.1を超えると、DCバイアス印加10[V/μm]以下で反強誘電特性を示さない。
【0020】
αが65モル%以上100モル%未満であり、βが0モル%を超え35モル%以下であり、xが、0を超え0.1以下であると、NaNbO3ペロブスカイト相が確実に形成でき、反強誘電特性を安定させることができるので、誘電体磁器組成物はDCバイアス印加が5[V/μm]、10[V/μm]と増大した場合でも、安定して高い比誘電率を示すことができる。
【0021】
また、BaTiO3及び(1-x)NaNbO3-xABO3を有し、BaTiO3の含有量αが65モル%以上100モル%未満、(1-x)NaNbO3-xABO3の含有量βが0モル%を超え35モル%以下であり、xは0を超え0.1以下である誘電体磁器組成物が、Dy2O3、Gd2O3、Tb2O3、Ho2O3、Eu2O3、Sm2O3の群から選択されるいずれか1種の希土類を0.5モル%以上5モル%以下で含有してもよい。
【0022】
上記希土類が0.5モル%以上5モル%以下であると、NaNbO3がBaTiO3ペロブスカイト相に固溶せずにNaNbO3ペロブスカイト相としてさらに安定に存在できる。その結果、NaNbO3ペロブスカイト相は安定して反強誘電特性を発揮できるので、本開示の誘電体磁器組成物は、DCバイアス印加が5[V/μm]、10[V/μm]と増大した場合でもさらに安定して高い比誘電率を示すことができる。
【0023】
また、上記誘電体磁器組成物中で、(1-x)NaNbO3-xABO3の含有量βが1モル%以上20モル%以下であってもよい。
【0024】
(1-x)NaNbO3-xABO3の含有量βがこの範囲であると、DCバイアス印加が5[V/μm]のとき比誘電率は1400以上と高い値を示すことができる。
【0025】
また、上記誘電体磁器組成物中で、(1-x)NaNbO3-xABO3の含有量βが5モル%以上20モル%以下であってもよい。
【0026】
(1-x)NaNbO3-xABO3の含有量βがこの範囲であると、DCバイアス印加が10[V/μm]のとき比誘電率は900以上と高い値を示すことができる。
【0027】
(誘電体磁器組成物の製造法)
BaTiO3ペロブスカイト相及びNaNbO3ペロブスカイト相が併存している誘電体磁器組成物は、以下のようにして製造することができる。
【0028】
(1)セラミック素原料として、Baを含有したBa化合物、Tiを含有したTi化合物、Naを含有したNa化合物、Nbを含有したNb化合物、Caを含有したCa化合物、Zrを含有したZr化合物、Liを含有したLi化合物、Siを含有したSi化合物、Alを含有したAl化合物、希土類を含有した希土類化合物を準備する。化合物の形態は特に限定しない。
【0029】
(2)次に、本焼成後の誘電体磁器組成物がBaTiO3、(1-x)NaNbO3-xCaZrO3を所定の比率で含むようにセラミック素原料を所定量秤量する。
【0030】
これらの秤量物をボールミルにより湿式混合した後、得られた混合物を空気中において所定温度(たとえば、800~1100℃)で仮焼し、仮焼物粉末を得る。
【0031】
(3)次に、目的とする誘電体磁器組成物の組成を満たすように上記仮焼粉末を秤量する。更に、助剤として、誘電体磁器組成物製造の際に通常使用されるSi化合物、Li化合物、Al化合物を主成分に対し、所定の量、たとえば合計2vol%となるように秤量する。更に有機バインダー、分散剤を加え、ボールミルにより湿式混合する。
【0032】
(4)十分に混合後、得られたスラリーを乾燥させ、乾燥粉末を所定の大きさ、たとえば直径12mm、厚さ1mm程度の円板状成形体に成形する。
【0033】
(5)得られた成形体を焼成温度900~1200℃、焼成時間1~4時間の範囲で本焼成を行う。得られた誘電体磁器組成物の試料の両面に金電極をスパッタし、誘電体素子を作製する。
【0034】
上記のようにして得られる誘電体磁器組成物の内部電極を除くセラミック素体の組成は、誘導結合プラズマ質量分析法(Inductively Coupled Plasma Mass Spectroscopy:ICPMS)や誘導結合プラズマ発光分光分析法(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy:ICP-AES)で分析できる。
【0035】
上記の製造法によって、BaTiO3ペロブスカイト相及びNaNbO3ペロブスカイト相が併存している誘電体磁器組成物が製造できる。
【0036】
すなわち、焼結温度を900~1200℃とすることにより、NaNbO3ペロブスカイト相を誘電体磁器組成物中に形成することが可能であるが、上記の希土類を加えることによって、安定してNaNbO3ペロブスカイト相を緻密化した状態でも形成することができるようになる。その結果、本開示の誘電体磁器組成物は、DCバイアス印加電圧が5[V/μm]、10[V/μm]と増大した場合であっても、高い比誘電率を示すことができる。
【0037】
また、ABO3、希土類の種類の選択、その添加量を検討することにより、DCバイアス印加電圧が5[V/μm]、10[V/μm]と増大した場合の比誘電率をさらに高めることができる。
【実施例0038】
以下、実施例によって本開示をさらに説明するが、これに限定されない。
【0039】
(実施例)
セラミック素原料として、BaCO3、TiO2、Na2CO3、Nb2O5、CaCO3、ZrO2、Li2O、SiO2、Al2O3、Dy2O3を準備した。
【0040】
次に、本焼成後の誘電体磁器組成物がBaTiO3、(1-x)NaNbO3-xCaZrO3(x=0.03)となるようにセラミック素原料を秤量した。これら秤量物をボールミルにより湿式混合した後、得られた混合物を空気中において1100℃で仮焼し、仮焼物粉末を得た。
【0041】
次に、下の表1の組成を満たすように上記仮焼粉末を秤量した。更に、助剤として、SiO2、Li2O、Al2O3を主成分に対し合計2vol%となるように秤量した。更に有機バインダー、分散剤を加え、ボールミルにより湿式混合した。十分に混合後、得られたスラリーを乾燥させ、乾燥粉末を直径12mm、厚さ1mm程度の円板状成形体に成形した。
【0042】
さらに得られた成形体を焼成温度1100\~℃、焼成時間1時間で本焼成を行った。得られた誘電体磁器組成物試料の両面に金電極をスパッタし、誘電体素子を作製した。
【0043】
【0044】
表1において、比較のため、No.8,9,16については、焼結温度を900~1200℃に代えて焼結温度を1400~1500℃で実施した。
【0045】
また、得られた焼成後の誘電体磁器組成物試料を溶剤により溶解し、誘導結合プラズマ発光分光分析法で分析したところ、表1の値と組成が等しいことを確認した。
【0046】
(BaTiO
3ペロブスカイト相及びNaNbO
3ペロブスカイト相の確認)
BaTiO
3(平均粒子径:150nm)80mol%にNaNbO
3(平均粒子径:~200nm)20mol%を混合して、大気雰囲気下、昇温速度10℃/minとして950℃で焼成して、誘電体層を作製し、その結晶構造をX線回折(XRD)測定装置を用いて解析した。その結果を
図1に示した。
図1は、本開示の誘電体磁器組成物の結晶構造のXRD測定装置を用いて解析したグラフである。
【0047】
図1において示される、2θ=31°~31.5°のピークはBaTiO
3ペロブスカイト相に由来するピークであり、2θ=32°~32.6°のピークはNaNbO
3ペロブスカイト相に由来するピークであり、誘電体層はBaTiO
3ペロブスカイト相とNaNbO
3ペロブスカイト相が併存していることが確認できた。
【0048】
また、FIB(集束イオンビーム)により薄片化試料を準備して分析透過電子顕微鏡(STEM)により粒子を観察した結果を
図2に示す。Baが少ない粒子を特定することにより、NaNbO
3ペロブスカイト相(
図2中の暗く写っている部分)が存在することを確認できる。詳細は図によって確認することができる。
【0049】
以上より、本開示の誘電体磁器組成物は、BaTiO3ペロブスカイト相およびNaNbO3ペロブスカイト相が併存していることがわかる。
【0050】
表1において、No.2~No.7は、NaNbO3ペロブスカイト相を形成している。No.1はNaNbO3を含まないのでNaNbO3ペロブスカイト相を形成していない。NaNbO3ペロブスカイト相を形成しているもの(No.2~No.7)はNaNbO3ペロブスカイト相を形成していないもの(No.1)に比較して、DCバイアス10[V/μm]印加での比誘電率が大きい。
【0051】
したがって、本開示の誘電体磁器組成物において、NaNbO3ペロブスカイト相を形成している(BaTiO3ペロブスカイト相及びNaNbO3ペロブスカイト相が併存している)と、DCバイアス印加が増大した場合でも高い比誘電率を示すことがわかる。
【0052】
No.4,6は、NaNbO3およびABO3を含んでおり、NaNbO3ペロブスカイト相を形成している。No.8,9は、No.4,6と同じ含有量のNaNbO3をそれぞれ含有しているが、ABO3を含んでいなく、NaNbO3ペロブスカイト相を形成していない。No.4とNo.8、No.6とNo.9を比較すると、DCバイアス5[V/μm]印加、10[V/μm]印加の場合とも、NaNbO3およびABO3を含んでいるNo.4,6の方が高い比誘電率を示している。また、NaNbO3ペロブスカイト相を形成していると、DCバイアス印加が増大した場合でも高い比誘電率を示すことがわかる。
【0053】
したがって、ABO3が誘電体磁器組成物中に存在することにより、NaNbO3ペロブスカイト相を形成しやすくなり、そしてNaNbO3ペロブスカイト相は安定して反強誘電特性を発揮する。その結果、NaNbO3ペロブスカイト相を形成していると、DCバイアス印加が5[V/μm]、10[V/μm]と増大した場合でも高い比誘電率を示すことがわかる。
【0054】
表1において、No.2~No.7は、NaNbO3に加えて、ABO3及び希土類を含んでおり、いずれもNaNbO3ペロブスカイト相を形成し、DCバイアス印加が5[V/μm]、10[V/μm]の場合でも安定して高い比誘電率を示している。すなわち、ABO3に加えて希土類が含まれると、NaNbO3ペロブスカイト相はさらに安定して形成され、安定して反強誘電特性を発揮する。その結果、DCバイアス印加が増大した場合でも高い比誘電率を示すことができる。
【0055】
また、表1において、No.2~No.7、No.10~No.15は、(1-x)NaNbO3-xABO3の含有量(β)が0mol%を超え35mol%以下であって、xが0を超え0.1以下であり、NaNbO3ペロブスカイト相を形成しており、DCバイアス印加が5[V/μm]、10[V/μm]の場合にも安定して高い比誘電率を示している。
【0056】
したがって、BaTiO3の含有量αが65モル%以上100モル%未満であり、(1-x)NaNbO3-xABO3の含有量βが0モル%を超え35モル%以下であり、xは0を超え0.1以下であると、NaNbO3ペロブスカイト相を形成しやすくなり、このNaNbO3ペロブスカイト相が安定して反強誘電性を示すことができるので、誘電体磁器組成物はDCバイアス印加が5、10[V/μm]と増大した場合でも安定して高い比誘電率を示すことができる。
【0057】
表1において、No.2~No.7、No.10~No.14は、Dy2O3、Gd2O3、Tb2O3、Ho2O3、Eu2O3、Sm2O3の群から選択されるいずれか一つの希土類を0.5モル%以上5モル%以下で含有しており、誘電体磁器組成物中で、BaTiO3ペロブスカイト相とNaNbO3ペロブスカイト相は併存することができ、DCバイアス印加が増大した場合でも安定して高い比誘電率を示すことができる。No.15は、Dy2O3を6モル%含有しており、NaNbO3ペロブスカイト相を形成しているが、希土類を0.5モル%以上5モル%以下で含有している上記のものに比較して、DCバイアス印加が増大した場合比誘電率はやや低い値となっている。したがって、上記の希土類は0.5モル%以上5モル%以下で含有してもよい。
【0058】
表1において、No.2~No.6は、(1-x)NaNbO3-xABO3の含有量βが1モル%以上20モル%以下であり、DCバイアス印加が5[V/μm]のとき比誘電率は1400以上と高い値を示している。
【0059】
表1において、No.4~No.6は、(1-x)NaNbO3-xABO3の含有量βが5モル%以上20モル%以下であり、DCバイアス印加が10[V/μm]のとき比誘電率は900以上と高い値を示している。
【0060】
図3は、NaNbO
3ペロブスカイト相の形成の有無と比誘電率との関係を示すグラフである。表1における試料N0.1~No.9のDCバイアスのデータを0[V/μm]、5[V/μm]、10[V/μm]印加別に示したものである。横軸は(1-x)NaNbO
3-xABO
3のモル数(β)を、縦軸は比誘電率を表す。
【0061】
試料N0.1~No.9において、黒丸(●)はNaNbO3ペロブスカイト相を形成しているものを示し、灰色丸はNaNbO3ペロブスカイト相を形成していないものを示している。DCバイアス5[V/μm]印加、10[V/μm]印加の場合に、全体として黒丸の方が灰色丸より上にあり、NaNbO3ペロブスカイト相を形成しているものの方が比誘電率が高いことがわかる。また、DCバイアス5[V/μm]印加、10[V/μm]印加の場合においても、(1-x)NaNbO3-xABO3の同じ含有量における比較でもNaNbO3ペロブスカイト相を形成しているもの(黒丸)がNaNbO3ペロブスカイト相を形成していないもの(灰色丸)より安定して高い比誘電率を示している。
【0062】
以上より、NaNbO3ペロブスカイト相を形成しているもの(黒丸)、すなわち、BaTiO3ペロブスカイト相及びNaNbO3ペロブスカイト相が併存している誘電体磁器組成物は、DCバイアス印加を5[V/μm]、10[V/μm]と増大させても、誘電体材料の比誘電率が低下しにくい誘電体材料である。
【0063】
本開示は、以下の構成(1)~(7)の態様で実施可能である。
【0064】
(1)BaTiO3ペロブスカイト相及びNaNbO3ペロブスカイト相が併存している、誘電体磁器組成物。
【0065】
(2)前記NaNbO3ペロブスカイト相は、下記A、Bの元素を含みABO3で表される化合物を含有している、上記構成(1)に記載の誘電体磁器組成物。
A:Ba、Ca、及びSrの群から選択される少なくとも1種の元素を示す。
B:Zr、Hf、及びSnの群から選択される少なくとも1種の元素を示す。
【0066】
(3)前記NaNbO3ペロブスカイト相には、更にDy2O3、Gd2O3、Tb2O3、Ho2O3、Eu2O3、Sm2O3の群から選択されるいずれか1種の希土類が固溶している、上記構成(2)に記載の誘電体磁器組成物。
【0067】
(4)BaTiO3及び(1-x)NaNbO3-xABO3を有する誘電体磁器組成物であって、
BaTiO3の含有量αが65モル%以上100モル%未満であり、(1-x)NaNbO3-xABO3の含有量βが0モル%を超え35モル%以下であり、
xは0を超え0.1以下であり、
Aは、Ba、Ca、及びSrの群から選択される少なくとも1種の元素を示し、BはZr、Hf、及びSnの群から選択される少なくとも1種の元素を示す、誘電体磁器組成物。
【0068】
(5)Dy2O3、Gd2O3、Tb2O3、Ho2O3、Eu2O3、Sm2O3の群から選択されるいずれか1種の希土類を0.5モル%以上5モル%以下で含有させる、上記構成(4)に記載の誘電体磁器組成物。
【0069】
(6)(1-x)NaNbO3-xABO3の含有量βが1モル%以上20モル%以下である、上記構成(4)または(5)に記載の誘電体磁器組成物。
【0070】
(7)(1-x)NaNbO3-xABO3の含有量βが5モル%以上20モル%以下である、上記構成(4)~(6)のいずれか1つに記載の誘電体磁器組成物。