(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052300
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】フルオロポリエーテル化合物、潤滑剤、磁気ディスク、およびフルオロポリエーテル化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 65/331 20060101AFI20240404BHJP
C10M 105/54 20060101ALI20240404BHJP
G11B 5/82 20060101ALI20240404BHJP
G11B 5/725 20060101ALI20240404BHJP
C10N 40/18 20060101ALN20240404BHJP
C10N 30/08 20060101ALN20240404BHJP
【FI】
C08G65/331
C10M105/54
G11B5/82
G11B5/725
C10N40:18
C10N30:08
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158913
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000146180
【氏名又は名称】株式会社MORESCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】木村 彰憲
(72)【発明者】
【氏名】相方 良介
【テーマコード(参考)】
4H104
4J005
5D006
【Fターム(参考)】
4H104CD04A
4H104LA04
4H104PA16
4J005AA00
4J005AA09
4J005AB00
4J005BA00
4J005BD03
5D006AA03
5D006FA06
(57)【要約】
【課題】HAMR等のエネルギーアシスト方式の磁気ディスク装置において、酸素が含まれる雰囲気中で酸化分解を抑制でき、高い耐熱性を維持することのできる潤滑剤を提供する。
【解決手段】分子中に少なくとも1個のエーテル結合を含むフルオロポリエーテル化合物において、分子中のエーテル結合の酸素原子に結合する炭素原子に結合する少なくとも1個の水素原子が、フッ素置換されているフルオロポリエーテル化合物により課題を解決する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるフルオロポリエーテル化合物。
【化1】
(式(1)中、Rfは、それぞれ独立して、パーフルオロポリエーテル基であり、
R
1は、2個以上のOH基を有する炭化水素基、または、1個以上の環式炭化水素基を有する炭化水素基であり、
R
2およびR
3は、それぞれ独立して、1個以上のOH基を有する炭化水素基、または、1個以上の環式炭化水素基を有する炭化水素基であり、
L
1、L
2、L
3、およびL
4は、それぞれ独立して炭化水素基であり、当該炭化水素基は、それぞれ独立して、OH基および/または、エーテル結合を含んでもよく、
R
4は、水素原子、または炭化水素基であり、当該炭化水素基は、OH基および/またはエーテル結合を含んでもよく、
p=0~1の整数であり、q=0~10の実数であり、p=1のとき、x=1かつy=1、または、x=2かつy=0であり、
分子中、炭化水素基に含まれる炭素原子に結合している水素原子はフッ素原子に置換されていてもよく、
R
1、R
2およびR
3の少なくともいずれかは、少なくとも1個の炭素原子が酸素原子によって置換されているエーテル結合を含んでもよく、当該エーテル結合の酸素原子に隣接する炭素原子に結合する少なくとも1個の水素原子が、フッ素原子に置換されている)
【請求項2】
R1は、2個以上のOH基を有する炭素数2~10の炭化水素基、または、1個以上の環式炭化水素基を有する炭素数3~25の炭化水素基であり、
R2およびR3は、それぞれ独立して、1個以上のOH基を有する炭素数1~10の炭化水素基、または、1個以上の環式炭化水素基を有する炭素数3~25の炭化水素基であり、
R1、R2およびR3の少なくともいずれかは、少なくとも1個の炭素原子が酸素原子によって置換されているエーテル結合を含んでもよい、請求項1に記載のフルオロポリエーテル化合物。
【請求項3】
L1、L2、L3、およびL4は、炭素数1~25の炭化水素基であり、
当該炭化水素基は、それぞれ独立して、1個以上のOH基を有するか、および/または、エーテル結合を含んでもよい、請求項1に記載のフルオロポリエーテル化合物。
【請求項4】
R1、R2およびR3の少なくともいずれかにエーテル結合を含んでいる場合、少なくとも1つの当該エーテル結合の酸素原子に隣接する炭素原子に結合するすべての水素原子が、フッ素原子に置換されている、請求項1に記載のフルオロポリエーテル化合物。
【請求項5】
R1、R2およびR3の少なくともいずれかにエーテル結合を含んでいる場合、すべての当該エーテル結合の酸素原子に隣接する炭素原子に結合するすべての水素原子が、フッ素原子に置換されている、請求項1に記載のフルオロポリエーテル化合物。
【請求項6】
L1、L2、L3、L4、およびR4の少なくともいずれかにエーテル結合を含んでいる場合、すべての当該エーテル結合の酸素原子に隣接する炭素原子に結合するすべての水素原子が、フッ素原子に置換されている、請求項1に記載のフルオロポリエーテル化合物。
【請求項7】
R1、R2、R3、R4、L1、L2、L3、およびL4のOH基に結合する炭素原子以外の炭素原子に結合するすべての水素原子が、フッ素原子に置換されている、請求項1に記載のフルオロポリエーテル化合物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のフルオロポリエーテル化合物を含む、潤滑剤。
【請求項9】
記録層、保護層および潤滑層がこの順に積層された磁気ディスクであって、前記潤滑層は、請求項8に記載の潤滑剤を含む、磁気ディスク。
【請求項10】
下記式(2)で表される化合物にエステルを導入するエステル化工程と、
前記エステル化工程で得られたエステルをフッ素化するフッ素化工程と、前記フッ素化工程で得られた、フッ素化されたエステルを還元する還元工程と、を含む、フルオロポリエーテル化合物の製造方法。
【化2】
(式(2)中、Rf’は、それぞれ独立して、パーフルオロポリエーテル基であり、
R
11、R
12およびR
13は、それぞれ独立して、1個以上のOH基を有する炭化水素基であり、
L
11、L
12、L
13、およびL
14は、それぞれ独立して炭化水素基であり、当該炭化水素基は、それぞれ独立して、OH基および/または、エーテル結合を含んでもよく、
R
14は、炭化水素基、または水素原子であり、当該炭化水素基は、OH基を有していてもよく、および/または、エーテル結合を含んでもよく、
R
11、R
12およびR
13の少なくともいずれかは、少なくとも1個の炭素原子が酸素原子によって置換されているエーテル結合を含み、
p=0~1の整数であり、q=0~10の実数であり、p=1のとき、x=1かつy=1、または、x=2かつy=0である)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフルオロポリエーテル化合物、潤滑剤、磁気ディスク、およびフルオロポリエーテル化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブ(HDD)等の磁気ディスク装置の記憶容量を大容量化するため、熱アシスト磁気記録方式(HAMR)等のエネルギーアシスト方式の磁気ディスク装置の開発が進められている。
【0003】
エネルギーアシスト方式の磁気ディスク装置では、磁気ディスクの磁性をコントロールするために、データ記録時に磁性層にレーザー又はマイクロウェーブ等でエネルギーが与えられ、当該エネルギーにより、磁性層が加熱されることとなる。
【0004】
磁気ディスク用表面潤滑剤は、磁気ディスク最表面に表面保護の目的のために塗布される。エネルギーアシスト方式の磁気ディスク装置では、磁気ディスク用表面潤滑剤も高熱に曝される。そのため、高温下でも表面保護層を維持することのできる、耐熱性の高い潤滑剤が求められている。
【0005】
HAMR等のエネルギーアシスト方式の磁気ディスク装置に使用される磁気ディスク用潤滑剤としては、ヒドロキシ基を有するエーテル基含有炭化水素基をパーフルオロポリエーテル基の末端に導入した潤滑剤が知られており(例えば、特許文献1-3参照)、これらの潤滑剤は、ディスクとの高い親和性と高い耐熱性を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2009/066784号
【特許文献2】国際公開第2021/002178号
【特許文献3】国際公開第2016/084781号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
HAMR等のエネルギーアシスト方式では、磁気ディスクが高温に曝されるが、従来の潤滑剤は、HAMRによる加熱に耐えうる耐熱性に改良の余地があった。
【0008】
通常、磁気ディスクはヘリウム等の不活性ガス中で書き込みが行われる。不活性ガス中においても微量の酸素が含まれうる。かかる場合に潤滑剤の酸化分解が生じることで潤滑剤の消失や潤滑剤の構造変化等により、潤滑作用が低下することを、本発明者らは独自に見出した。そこで本発明者らは、HAMR等のエネルギーアシスト方式の磁気ディスク装置において、ディスク加熱時においても分解を抑制できる潤滑剤を提供することを課題とした。
【0009】
すなわち、本発明の一態様は、酸素が含まれる雰囲気中において分解を抑制でき、高い耐熱性を維持することのできるフルオロポリエーテル化合物、潤滑剤、および磁気ディスク、ならびにフルオロポリエーテル化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明は以下の態様を含む。
【0011】
〔1〕下記式(1)で表されるフルオロポリエーテル化合物。
【化1】
(式(1)中、Rfは、それぞれ独立して、パーフルオロポリエーテル基であり、
R
1は、2個以上のOH基を有する炭化水素基、または、1個以上の環式炭化水素基を有する炭化水素基であり、
R
2およびR
3は、それぞれ独立して、1個以上のOH基を有する炭化水素基、または、1個以上の環式炭化水素基を有する炭化水素基であり、
L
1、L
2、L
3、およびL
4は、それぞれ独立して炭化水素基であり、当該炭化水素基は、それぞれ独立して、OH基および/または、エーテル結合を含んでもよく、
R
4は、水素原子、または炭化水素基であり、当該炭化水素基は、OH基および/またはエーテル結合を含んでもよく、
p=0~1の整数であり、q=0~10の実数であり、p=1のとき、x=1かつy=1、または、x=2かつy=0であり、
分子中、炭化水素基に含まれる炭素原子に結合している水素原子はフッ素原子に置換されていてもよく、
R
1、R
2およびR
3の少なくともいずれかは、少なくとも1個の炭素原子が酸素原子によって置換されているエーテル結合を含んでもよく、当該エーテル結合の酸素原子に隣接する炭素原子に結合する少なくとも1個の水素原子が、フッ素原子に置換されている)
〔2〕R
1は、2個以上のOH基を有する炭素数2~10の炭化水素基、または、1個以上の環式炭化水素基を有する炭素数3~25の炭化水素基であり、
R
2およびR
3は、それぞれ独立して、1個以上のOH基を有する炭素数1~10の炭化水素基、または、1個以上の環式炭化水素基を有する炭素数3~25の炭化水素基であり、R
1、R
2およびR
3の少なくともいずれかは、少なくとも1個の炭素原子が酸素原子によって置換されているエーテル結合を含んでもよい、〔1〕に記載のフルオロポリエーテル化合物。
【0012】
〔3〕L1、L2、L3、およびL4は、炭素数1~25の炭化水素基であり、当該炭化水素基は、それぞれ独立して、1個以上のOH基を有するか、および/または、エーテル結合を含んでもよい、〔1〕または〔2〕に記載のフルオロポリエーテル化合物。
【0013】
〔4〕R1、R2およびR3の少なくともいずれかにエーテル結合を含んでいる場合、少なくとも1つの当該エーテル結合の酸素原子に隣接する炭素原子に結合するすべての水素原子が、フッ素原子に置換されている、〔1〕から〔3〕のいずれかに記載のフルオロポリエーテル化合物。
【0014】
〔5〕
R1、R2およびR3の少なくともいずれかにエーテル結合を含んでいる場合、すべての当該エーテル結合の酸素原子に隣接する炭素原子に結合するすべての水素原子が、フッ素原子に置換されている、〔1〕から〔4〕のいずれかに記載のフルオロポリエーテル化合物。
【0015】
〔6〕L1、L2、L3、L4、およびR4の少なくともいずれかにエーテル結合を含んでいる場合、すべての当該エーテル結合の酸素原子に隣接する炭素原子に結合するすべての水素原子が、フッ素原子に置換されている、〔1〕から〔5〕のいずれかに記載のフルオロポリエーテル化合物。
【0016】
〔7〕R1、R2、R3、R4、L1、L2、L3、およびL4のOH基に結合する炭素原子以外の炭素原子に結合するすべての水素原子が、フッ素原子に置換されている、〔1〕から〔6〕のいずれかに記載のフルオロポリエーテル化合物。
【0017】
〔8〕〔1〕から〔7〕のいずれかに記載のフルオロポリエーテル化合物を含む、潤滑剤。
【0018】
〔9〕記録層、保護層および潤滑層がこの順に積層された磁気ディスクであって、前記潤滑層は、〔8〕に記載の潤滑剤を含む、磁気ディスク。
【0019】
〔10〕下記式(2)で表される化合物にエステルを導入するエステル化工程と、
前記エステル化工程で得られたエステルをフッ素化するフッ素化工程と、前記フッ素化工程で得られた、フッ素化されたエステルを還元する還元工程と、を含む、フルオロポリエーテル化合物の製造方法。
【化2】
(式(2)中、Rf’は、それぞれ独立して、パーフルオロポリエーテル基であり、
R
11、R
12およびR
13は、それぞれ独立して、1個以上のOH基を有する炭化水素基であり、
L
11、L
12、L
13、およびL
14は、それぞれ独立して炭化水素基であり、当該炭化水素基は、それぞれ独立して、OH基および/または、エーテル結合を含んでもよく、
R
14は、炭化水素基、または水素原子であり、当該炭化水素基は、OH基を有していてもよく、および/または、エーテル結合を含んでもよく、
R
11、R
12およびR
13の少なくともいずれかは、少なくとも1個の炭素原子が酸素原子によって置換されているエーテル結合を含み、
p=0~1の整数であり、q=0~10の実数であり、p=1のとき、x=1かつy=1、または、x=2かつy=0である)
【発明の効果】
【0020】
本発明の一態様によれば、酸素が含まれる雰囲気中において分解を抑制でき、高い耐熱性を維持することのできるフルオロポリエーテル化合物、潤滑剤、および前記潤滑剤を含む潤滑層が形成された磁気ディスクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態における磁気ディスクの構成を示す断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態における磁気ディスクの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意図する。
【0023】
〔1.フルオロポリエーテル化合物〕
本発明者らは前記課題に鑑み鋭意検討を行う中で、特許文献1-3に記載されているような、ヒドロキシ基を有するエーテル基含有炭化水素基をパーフルオロポリエーテル基の末端に導入した潤滑剤では、高温且つ酸素が含まれる雰囲気中において、エーテル部位の酸化分解が起こりやすいのではないかと考えた。そこで、分子中のエーテル結合の酸素原子に結合する炭素原子に結合する水素原子をフッ素置換したフルオロポリエーテル化合物を合成して、酸化安定性を評価したところ、高温且つ酸素が含まれる雰囲気中においても、分解が起こりにくいことを見出し、本発明を完成させるに至った。さらには、かかるフルオロポリエーテル化合物を潤滑剤として用いて、磁気ディスク上に潤滑層を形成した磁気ディスクにおいては、高温且つ酸素が含まれる雰囲気中において加熱処理を行った後も潤滑層の残存率が高いことが見出された。また、フルオロポリエーテル化合物を潤滑剤として用いて、磁気ディスク上に潤滑層を形成した磁気ディスクにおいては、当該潤滑層は、紫外線を照射した後の残存率も高いことが示された。
【0024】
すなわち、本発明の一実施形態に係るフルオロポリエーテル化合物は、下記式(1)で表されるフルオロポリエーテル化合物である。
【化3】
(式(1)中のRf)
式(1)中、Rfは、それぞれ独立して、パーフルオロポリエーテル基である。前記、パーフルオロポリエーテル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、下記式(4)で示されるパーフルオロポリエーテル基を挙げることができる。
-(CF
2)
g-O-(CF
2O)
b(CF
2CF
2O)
c(CF
2CF
2CF
2O)
d(CF
2CF
2CF
2CF
2O)
e(CF
2CF(CF
3)O)
f-(CF
2)
h-
・・・(4)
式(4)中、b、c、d、e、およびfは、それぞれのRfにおいて独立して0~30の実数であり、より好ましくは0~25の実数である。ただし、b、c、d、e、およびfの少なくともいずれか1つは1以上の実数である。また、gおよびhは、それぞれのRfにおいて独立して0~3の整数である。ここでb、c、d、e、およびfの値は日本電子製JNM-ECX400を用いた
19F-NMR測定によって算出された値である。NMRの測定において、試料は溶媒を使用せず、試料そのものを測定した。ケミカルシフトの基準は、フルオロポリエーテルの骨格構造の一部である既知のピークをもって代用した。
【0025】
前記Rfとしては、例えば、デムナム骨格(C3骨格):-(CF2CF2CF2O)d-、フォンブリン骨格(C1C2骨格):-(CF2O)b(CF2CF2O)c-、C2骨格:-(CF2CF2O)c-、C4骨格:-(CF2CF2CF2CF2O)e-、およびクライトックス骨格:-(CF2CF(CF3)O)f-から選択される少なくとも1種を含むパーフルオロポリエーテル基が挙げられる。
【0026】
前記Rfのより好ましい一例としては、式(4)中、b、c、d、e、およびfが下記(i)~(v)のいずれかである基を挙げることができる。下記の構成により、分子鎖がより平坦となるため好ましい。
【0027】
(i)b=2~12の実数、且つ、c=2~12の実数、且つ、d~f=0
(ii)c=4~14の実数、且つ、bおよびd~f=0
(iii)d=2~12の実数、且つ、b、c、eおよびf=0
(iv)e=1~9の実数、且つ、b~dおよびf=0
(v)f=2~12の実数、且つ、b~e=0
なお、フォンブリン骨格においてCF2OとCF2CF2Oとはランダムに繰り返され得る。
【0028】
(式(1)中のR1)
式(1)中、R1は、2個以上のOH基を有する炭化水素基、または、1個以上の環式炭化水素基を有する炭化水素基である。R1が2個以上のOH基、または1個以上の環式炭化水素基を有することにより、式(1)で表されるフルオロポリエーテル化合物と磁気ディスクとの付着力が向上するため好ましい。
【0029】
前記2個以上のOH基を有する炭化水素基としては、これに限定されるものではないが、2個以上のOH基を有する、炭素数2~10、より好ましくは炭素数2~5、さらに好ましくは炭素数2~3の炭化水素基である。前記炭化水素基は、直鎖状であっても分枝状であってもよい。前記2個以上のOH基を有する炭化水素基のOH基の数は、2個以上であればこれに限定されるものではないが、例えば2個~8個であり、より好ましくは2個~6個であり、さらに好ましくは2個~4個である。磁気ディスクとの付着性の観点から、1級OH基を含むことが好ましい。前記2個以上のOH基を有する炭化水素基は、炭化水素基の炭素原子が酸素原子によって置換されているエーテル結合を含んでいてもよい。エーテル結合を含む場合、エーテル結合の数は例えば0~10個であり、より好ましくは0~5個であり、さらに好ましくは0~3個である。前記2個以上のOH基を有する炭化水素基のより好ましい一例としては、例えば、下記式(5)または(6)で示される基を挙げることができる。
-(CH2)r-O-(CH2)s-CH(OH)-CH2(OH) ・・・(5)
-(CH2)t-O-(CH2)u-CH((CH2)v-OH)((CH2)w -OH) ・・・(6)
式(5)中、rは0~3の整数であり、sは0~3の整数であり、式(6)中、tは0~3の整数であり、uは0~4の整数であり、vは1~5の整数であり、wは1~5の整数である。前記式(5)または(6)で示される基のより好ましい一例としては、-CH2OCH2CH(OH)CH2OH、-CH2OCH2CH2CH(CH2-OH)2を挙げることができる。
【0030】
また、前記2個以上のOH基を有する炭化水素基の他の例としては、-CH2OCH2CH(OH)CH2OCH2CH(OH)CH2OH、-CH2OCH2CH(OH)CH2OCH2C(CH2CH3)(CH2OH)2、および-CH2OCH2CH(OH)CH2OCH2CH2OH等を挙げることができる。
【0031】
前記1個以上の環式炭化水素基を有する炭化水素基としては、これに限定されるものではないが、1個以上の環式炭化水素基を有する、炭素数3~25、より好ましくは炭素数3~18、さらに好ましくは炭素数7~12の炭化水素基である。当該炭化水素基は、炭化水素基の炭素原子が酸素原子によって置換されているエーテル結合を含んでいてもよい。前記炭化水素基は、1個以上の環式炭化水素基を有していれば、当該環式炭化水素基以外の部分は直鎖状であっても分枝状であってもよい。
【0032】
前記1個以上の環式炭化水素基を有する炭化水素基は、1個以上の環式炭化水素基を有していればその数はこれに限定されるものではないが、例えば1個~5個であり、より好ましくは1個~3個であり、さらに好ましくは1個~2個である。前記環式炭化水素基は、例えば炭素数3~10、より好ましくは炭素数3~8、さらに好ましくは炭素数5~6の環式炭化水素基であり、1置換であっても2置換であっても、それ以上の多置換であってもよい。また、前記環式炭化水素基は、脂環式炭化水素基であってもよいし、芳香族炭化水素基であってもよく、単環系炭化水素基であってもよいし、縮合多環系炭化水素基であってもよい。前記環式炭化水素基としては、例えば、フェニル基、フェニレン基、ナフチル基、ナフチレン基、シクロヘキシル基、シクロヘキシレン基、シクロペンチル基、シクロペンチレン基等を挙げることができる。
【0033】
前記1個以上の環式炭化水素基を有する炭化水素基に含まれるエーテル結合の数もこれに限定されるものではないが、例えば0~10個であり、より好ましくは0個~5個であり、さらに好ましくは0個~3個である。
【0034】
R1が1個以上の環式炭化水素基を有する炭化水素基である場合、当該炭化水素基は、1個以上のOH基を有することがより好ましい。すなわち、先述の1個以上の環式炭化水素基を有する炭化水素基は、1個以上のOH基と1個以上の環式炭化水素基とを有する炭化水素基であることがより好ましい。R1が1個以上のOH基と1個以上の環式炭化水素基とを有することにより、環式炭化水素基が脂環式炭化水素基であっても、式(1)で表されるフルオロポリエーテル化合物と磁気ディスクとの付着力が向上するため好ましい。
【0035】
前記1個以上のOH基と1個以上の環式炭化水素基とを有する炭化水素基が有するOH基の数は、1個以上であればその数は限定されるものではないが、例えば1個~10個であり、より好ましくは1個~5個であり、さらに好ましくは1個~3個である。
【0036】
前記1個以上の環式炭化水素基を有する炭化水素基としては、例えば、下記式(7)で示される基を挙げることができる。
-(CH2)i-O-(CH2)j-CH(OH)-(CH2)k-O-A-R5 ・・・(7)
式(7)中、iは1~3の整数であり、jは1~3の整数であり、kは1~3の整数であり、mは1~10の整数であり、Aは前記環式炭化水素基であり、R5は、-H、-OH、-NO2、炭素数1~10のパーフルオロアルキル基(例えば、-CF3)、炭素数1~10のアルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基)等である。好ましい一例としては、-CH2OCH2CH(OH)CH2OC6H5、-CH2OCH2CH(OH)CH2OC10H7、-CH2OCH2CH(OH)CH2O(C6H4)NO2、および-CH2OCH2CH(OH)CH2O(C6H5)OH、-CH2OCH2CH(OH)CH2O(C6H10)OCH3を挙げることができる。
【0037】
(式(1)中のR2およびR3)
式(1)中、R2およびR3は、それぞれ独立して、1個以上のOH基を有する炭化水素基、または、1個以上の環式炭化水素基を有する炭化水素基である。R2およびR3が1個以上のOH基、または1個以上の環式炭化水素基を有することにより、式(1)で表されるフルオロポリエーテル化合物と磁気ディスクとの付着力が向上するため好ましい。
【0038】
前記1個以上のOH基を有する炭化水素基としては、これに限定されるものではないが、1個以上のOH基を有する、炭素数1~10、より好ましくは炭素数1~5、さらに好ましくは炭素数1~3の炭化水素基である。前記炭化水素基は、直鎖状であっても分枝状であってもよい。前記1個以上のOH基を有する炭化水素基は、1個以上のOH基を有していればその数は限定されるものではないが、例えば1個~8個であり、より好ましくは2個~6個であり、さらに好ましくは2個~4個である。磁気ディスクとの付着性の観点から、1級OH基を含むことが好ましい。当該炭化水素基は、炭化水素基の炭素原子が酸素原子によって置換されているエーテル結合を含んでいてもよい。前記1個のOH基を有する炭化水素基に含まれるエーテル結合の数もこれに限定されるものではないが、例えば0~10個であり、より好ましくは0~5個であり、さらに好ましくは0~3個である。前記1個のOH基を有する炭化水素基がOH基を1個有する場合、より好ましい一例としては、例えば、下記式(8)で示される基を挙げることができる。
-(CH2)n-OH ・・・(8)
式(8)中、nは0~3の整数である。前記1個のOH基を有する炭化水素基がOH基を2個以上有する場合のより好ましい一例は、R1について説明した、前記2個以上のOH基を有する炭化水素基と同じである。
【0039】
前記1個以上の環式炭化水素基を有する炭化水素基は、R1について説明した基と同じである。
【0040】
(式(1)中のL1、L2、L3、およびL4)
式(1)中、L1、L2、L3、およびL4は、それぞれ独立して、OH基および/またはエーテル結合を含んでもよい炭化水素基である。L1、L2、L3、およびL4は、それぞれ独立して、1個以上のOH基を有していることが好ましい。L1、L2、L3、およびL4が1個以上のOH基を有することにより、式(1)で表されるフルオロポリエーテル化合物と磁気ディスクとの付着力が向上するため好ましい。エーテル結合を含んでもよい炭化水素基とは、炭化水素基の炭素原子が酸素原子によって置換されているエーテル結合を含んでいる炭化水素基である。
【0041】
前記炭化水素基としては、これに限定されるものではないが、炭素数1~25、より好ましくは炭素数2~18、さらに好ましくは炭素数2~12の炭化水素基である。当該炭化水素基の炭素原子は酸素原子で置換されてエーテル結合を形成していてもよい。前記炭化水素基は、直鎖状であっても分枝状であってもよい。前記炭化水素基が1個以上のOH基を有する場合、OH基の数は例えば1個~8個であり、より好ましくは1個~5個であり、さらに好ましくは1個~3個である。前記炭化水素基がエーテル結合を含む場合、エーテル結合の数は、例えば1個~10個であり、より好ましくは1個~5個であり、さらに好ましくは1個~3個である。
【0042】
(式(1)中のR4)
式(1)中、R4は、炭化水素基または水素原子である。前記炭化水素基は、好ましくは炭素数1~15、より好ましくは炭素数1~10、さらに好ましくは炭素数1~5の炭化水素基である。当該炭化水素基は、炭化水素基の炭素原子が酸素原子によって置換されているエーテル結合を含んでいてもよい。前記炭化水素基は、直鎖状であっても分枝状であってもよい。前記炭化水素基は、OH基を有していても良く、OH基の数は例えば0~8個であり、より好ましくは0~5個であり、さらに好ましくは0~2個である。前記炭化水素基に含まれるエーテル結合の数は例えば0~8個であり、より好ましくは0~5個であり、さらに好ましくは0~3個である。
【0043】
(式(1)中のp、q、x、y)
式(1)中、p=0~1の整数であり、q=0~10の実数であり、p=1のとき、x=1かつy=1、または、x=2かつy=0である。qは前述した方法で日本電子製JNM-ECX400を用いた1H-NMR測定によって算出された平均値であり、実数である。
【0044】
(フッ素置換)
前記式(1)で表されるフルオロポリエーテル化合物は、R1、R2およびR3の少なくともいずれかが、少なくとも1個の炭素原子が酸素原子によって置換されているエーテル結合を含んでもよく、かかる場合、R1、R2およびR3の当該エーテル結合の酸素原子に隣接する炭素原子に結合する少なくとも1個の水素原子が、フッ素原子に置換されている。なお、ここで、「エーテル結合の酸素原子に隣接する炭素原子」とは、エーテル結合の酸素原子に結合する炭素原子を意図する。かかる構成を備えたフルオロポリエーテル化合物を、潤滑剤として用いる場合、高温且つ酸素が含まれる雰囲気中においても、潤滑剤の分解が起こりにくいことが見出された。その理由としては、分子中のエーテル結合の酸素原子に隣接する炭素原子に結合する少なくとも1個の水素原子が、フッ素原子に置換されていることにより、高温且つ酸素が含まれる雰囲気中における、エーテル部位の酸化分解が起こりにくくなったためであると考えられる。
【0045】
前記式(1)で表されるフルオロポリエーテル化合物は、前述のR1、R2およびR3のエーテル結合の酸素原子に隣接する炭素原子に結合する少なくとも1個の水素原子が、フッ素原子に置換されていればよいが、OH基を2個以上有する炭化水素基、または、環状炭化水素基を有する炭化水素基に存在するエーテル結合に隣接する炭素原子に結合する少なくとも1個の水素原子が、フッ素原子に置換されていることがより好ましい。この構成とすることにより、高温かつ酸素が含まれる雰囲気下において、潤滑剤の分解が起こりにくくなり、潤滑剤と磁気ディスクが強く結合している状態が維持されるため好ましい。また、エーテル部位の酸化分解が起こりやすい部分が存在しないことから、R1、R2およびR3の少なくとも1つのエーテル結合の酸素原子に隣接する炭素原子に結合するすべての水素原子が、フッ素原子に置換されていることがより好ましい。さらに好ましくは、R1、R2およびR3のすべてのエーテル結合の酸素原子に隣接する炭素原子に結合するすべての水素原子が、フッ素原子に置換されている。かかる構造を有するフルオロポリエーテル化合物を潤滑剤として用いる場合、高温且つ酸素が含まれる雰囲気中においても、潤滑剤の分解がより起こりにくい。
【0046】
前記式(1)で表されるフルオロポリエーテル化合物は、前述のR1、R2およびR3のエーテル結合の酸素原子に隣接する炭素原子に結合する少なくとも1個の水素原子が、フッ素原子に置換されていればよいが、分子中のその他の水素原子がフッ素原子に置換されていてもよい。
【0047】
中でも、前記式(1)で表されるフルオロポリエーテル化合物は、さらに、R4、L1、L2、L3、およびL4の少なくともいずれかがエーテル結合を含む場合、当該エーテル結合の酸素原子に隣接する炭素原子に結合する少なくとも1個の水素原子が、フッ素原子に置換されていることが好ましい。当該エーテル結合の酸素原子に隣接する炭素原子に結合するすべての水素原子が、フッ素原子に置換されていることがさらに好ましい。この構成のパーフルオロポリエーテル化合物は、酸素が存在する雰囲気下において酸化分解しにくくなる。
【0048】
また、前記式(1)で表されるフルオロポリエーテル化合物は、R1、R2、R3、R4、L1、L2、L3、およびL4のOH基に結合する炭素原子以外の炭素原子に結合するすべての水素原子が、フッ素原子に置換されていることが、酸素が存在する雰囲気下において酸化分解しにくくなることからさらに好ましい。
【0049】
(本発明の一実施形態に係るフルオロポリエーテル化合物)
本発明の一実施形態に係るフルオロポリエーテル化合物は、前記式(1)で表されるフルオロポリエーテル化合物であれば特に限定されるものではないが、例えば、下記式(1-1)、(1-2)、(1-3)、または(1-4)で表されるフルオロポリエーテル化合物であり得る。下記式(1-1)~(1-4)中、Rf、R
1、R
2、R
3、R
4、L
1、L
2、L
3、およびL
4ならびにフッ素置換については前述したとおりである。
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
本発明の一実施形態に係るフルオロポリエーテル化合物のより具体的な一例としては、例えば、下記式で表される化合物1~6を挙げることができる。
【化8】
化合物1は前記式(1)において、p=0、q=0である(上記式(1-1)に相当)。なお、化合物1におけるパーフルオロポリエーテルの繰り返し単位の数c’は、化合物1の合成に用いたパーフルオロポリエーテルの繰り返し単位の数である(以下の化合物2~5についても同じである)。化合物1においては、式(1)のRfに相当する部分のcは、フッ素原子による置換のため、c’より2大きくなっている。
【化9】
化合物2は前記式(1)において、p=0、q=0である(上記式(1-1)に相当)。
【化10】
化合物3は前記式(1)において、p=0、q=1である(上記式(1-2)に相当)。
【化11】
化合物4は前記式(1)において、p=1、q=0、x=1、y=1である(上記式(1-3)に相当)。
【化12】
化合物5は前記式(1)において、p=1、q=0、x=2、y=0である(上記式(1-4)に相当)。
【化13】
化合物6は前記式(1)において、p=0、q=1である(上記式(1-2)に相当)。なお、化合物6におけるパーフルオロポリエーテルの繰り返し単位の数d’は、化合物6の合成に用いたパーフルオロポリエーテルの繰り返し単位の数である。
【0050】
本発明の一実施形態に係るフルオロポリエーテル化合物は、常態で液体または固体であることが好ましく、数平均分子量は600~10,000であることが好ましい。潤滑剤の蒸発性の観点から、数平均分子量は1,000以上であることがより好ましい。本発明の一実施形態に係るフルオロポリエーテル化合物は潤滑剤として好適に用いられる。なお、数平均分子量は、前述した日本電子製JNM-ECX400を用いた1Hおよび19F-NMR測定によって算出された値である。
【0051】
〔2.フルオロポリエーテル化合物の製造方法〕
本発明の一実施形態に係るフルオロポリエーテル化合物の製造方法は、本発明の一実施形態に係るフルオロポリエーテル化合物を製造することができる方法であれば特に限定されるものではない。本発明の一実施形態に係るフルオロポリエーテル化合物は、パーフルオロポリエーテル誘導体エステルまたはポリアルキレングリコール誘導体エステルをフッ素化することにより製造することができる。
【0052】
〔2.1 パーフルオロポリエーテル誘導体エステルをフッ素化する方法〕
以下に、パーフルオロポリエーテル誘導体エステルをフッ素化する、フルオロポリエーテル化合物の製造方法について説明する。本実施形態に係るフルオロポリエーテル化合物の製造方法は、例えば、下記式(2)で表される化合物(以下、「パーフルオロポリエーテル誘導体」と称することがある)にエステルを導入するエステル化工程と、前記エステル化工程で得られたエステル(以下、「パーフルオロポリエーテル誘導体エステル」と称することがある)をフッ素化するフッ素化工程と、前記フッ素化工程で得られた、フッ素化されたエステル(以下、「フッ素化されたパーフルオロポリエーテル誘導体エステル」と称することがある)を還元する還元工程と、を含む。
【化14】
式(2)中、Rf’は、それぞれ独立して、パーフルオロポリエーテル基であり、R
11、R
12およびR
13は、それぞれ独立して、1個以上のOH基または1個以上の環式炭化水素基を有する炭化水素基であり、L
11、L
12、L
13、およびL
14は、それぞれ独立して、炭化水素基であり、R
14は、炭化水素基、または水素原子であり、p=0~1の整数であり、q=0~10の実数であり、p=1のとき、x=1かつy=1、または、x=2かつy=0である。
【0053】
R11、R12およびR13の少なくともいずれかは、少なくとも1個の炭素原子が酸素原子によって置換されているエーテル結合を含む。L11、L12、L13、およびL14は、それぞれ独立して、OH基を有していてもよく、および/または、エーテル結合を含んでもよい。R14が炭化水素基である場合、当該炭化水素基は、1個以上のOH基を有していてもよく、および/または、エーテル結合を含んでもよい。
【0054】
通常、フッ素化によりフルオロポリエーテル化合物を製造する方法としては、ポリアルキレングリコールなどの炭化水素化合物をフッ素化する方法が用いられていた。しかし、分子量の大きいフルオロポリエーテル化合物を製造する場合、分子量の大きい化合物はフッ素化が困難であった(特開2018-90492参照)。本発明者らは、分子量の大きいフルオロポリエーテル化合物をフッ素化する製造方法を見出した。
【0055】
式(2)中のRf’は、それぞれ独立して、パーフルオロポリエーテル基である。前記、パーフルオロポリエーテル基としては、例えば、下記式(4’)で示されるパーフルオロポリエーテル基を挙げることができる。
-(CF2)g’-O-(CF2O)b’CF2CF2O)c’(CF2CF2CF2O)d’(CF2CF2CF2CF2O)e’(CF2CF(CF3)O)f’-(CF2)h’-
・・・(4’)
式(4’)中、b’、c’、d’、e’、およびf’は、それぞれのRf’において独立して0~30の実数であり、より好ましくは0~25の実数である。ただし、b’、c’、d’、e’、およびf’の少なくともいずれか1つは1以上の実数である。また、g’およびh’は、それぞれのRf’において独立して0~3の整数である。ここでb’、c’、d’、e’、およびf’の値は、前述の式(4)におけるb、c、d、e、およびfの値と同様にして算出された値である。
【0056】
前記Rf’としては、例えば、デムナム骨格(C3骨格):-(CF2CF2CF2O)d’-、フォンブリン骨格(C1C2骨格):-(CF2O)b’(CF2CF2O)c’-、C2骨格:-(CF2CF2O)c’-、C4骨格:-(CF2CF2CF2CF2O)e’-、およびクライトックス骨格:-(CF2CF(CF3)O)f’-から選択される少なくとも1種を含むパーフルオロポリエーテル基が挙げられる。
【0057】
前記Rf’のより好ましい例としては、前述の式(1)のRfにおいて例示した(i)~(v)のいずれかである基と同様の基を挙げることができる。ここで、式(1)のRfに相当する部分が、前記フッ素化工程でフッ素置換により生じたフルオロエーテル基および/またはパーフルオロアルキル基を含む場合は、前述の式(1)のRfと、前記Rf’とは同じではない場合がある。
【0058】
式(2)中のR11、R12およびR13は、それぞれ独立して、1個以上のOH基または1個以上の環式炭化水素基を有する、炭化水素基であれば特に限定されるものではない。前記1個以上のOH基を有する炭化水素基は、1個のOH基を有する炭化水素基であってもよいし、2個以上のOH基を有する炭化水素基であってもよい。また、前記炭化水素基は、1個以上のOH基と1個以上の環式炭化水素基とを含んでもよい。
【0059】
式(2)中のR11は、前述の式(1)のR1と同じであり得る。また、式(2)中のR12およびR13は、前述の式(1)のR2およびR3と同じであり得る。
【0060】
式(2)中のL11、L12、L13、およびL14は、前述の式(1)のL1、L2、L3、およびL4と同じであり得、R14は、前述の式(1)のR4と同じであり得、式(2)のp、q、x、およびyは、式(1)のp、q、x、およびyと同じである。
【0061】
<パーフルオロポリエーテル誘導体の製造方法>
(製造方法(1))
前記パーフルオロポリエーテル誘導体の製造方法は特に限定されるものではないが、式(2)においてpおよびqが0であるパーフルオロポリエーテル誘導体R11-Rf-R12は、例えば、分子の両末端にOH基を有するパーフルオロポリエーテル(A)と、OH基および/または環式炭化水素基を有するエポキシド誘導体とを反応させることにより製造することができる。
【0062】
前記分子の両末端にOH基を有するパーフルオロポリエーテル(A)は、前記Rf’の両末端にOH基を有する化合物であればこれに限定されるものではないが、例えば、HO-CH2-Rf’-CH2-OHを挙げることができる。ここで、Rf’は前述の式(2)のRf’と同じである。前記分子の両末端にOH基を有するパーフルオロポリエーテル(A)のより具体的な一例としては、これに限定されるものではないが、例えば、HOCH2CF2O(CF2CF2O)c’CF2CH2OH、HOCH2CF2CF2O(CF2CF2CF2O)d’CF2CF2CH2OH等を例示できる。ここで、c’の値は好ましくは1~25であり、より好ましくは4~14であり、d’の値は好ましくは1~20であり、より好ましくは2~12である。c’およびd’の値は、前述した方法で日本電子製JNM-ECX400を用いた19F-NMR測定によって算出された値である。
【0063】
前記分子の両末端にOH基を有するパーフルオロポリエーテル(A)の数平均分子量は、これに限定されるものではないが、150~6000であることが好ましく、400~2500であることがより好ましく、500~1200であることがさらに好ましい。ここで、前記数平均分子量は、前述した方法で日本電子製JNM-ECX400による19F-NMRによって測定された値である。
【0064】
上記分子の両末端にOH基を有するパーフルオロポリエーテル(A)は、分子量分布を有する化合物であり、重量平均分子量/数平均分子量で示される分子量分布(PD)として、好ましくは1.0~1.5であり、より好ましくは1.0~1.3であり、さらに好ましくは1.0~1.1である。なお、当該分子量分布は、東ソー製HPLC-8220GPCを用いて、ポリマーラボラトリー製のカラム(PLgel Mixed E)、溶離液としてはHCFC系代替フロン、基準物質としては無官能のパーフルオロポリエーテルを使用して得られる特性値である。
【0065】
前記OH基および/または環式炭化水素基を有するエポキシド誘導体としては、前記分子の両末端にOH基を有するパーフルオロポリエーテル(A)と反応して、R11-Rf’-R12を形成するエポキシド誘導体であれば特に限定されるものではない。前記OH基を有するエポキシド誘導体としては、例えば、グリシドール、3-(2-オキシラニルメトキシ)-1,2-プロパンジオール、2-(2-オキシラニルメトキシ)エタノール等を挙げることができる。また、前記環式炭化水素基を有するエポキシド誘導体としては、2-[(4-メトキシフェノキシ)メチル]―オキシラン、2-[(4-エトキシフェノキシ)メチル]―オキシラン、2-[(4-プロポキシフェノキシ)メチル]―オキシラン、2-[(4-ブトキシフェノキシ)メチル]―オキシラン、2-[(4-ニトロフェノキシ)メチル]―オキシラン、2-[(フェノキシ)メチル]―オキシラン等を挙げることができる。
【0066】
ここで、OH基および/または環式炭化水素基を有するエポキシド誘導体の使用量は、分子の両末端にOH基を有するパーフルオロポリエーテル(A)に対して、好ましくは150モル%~300モル%であり、より好ましくは200モル%~250モル%である。OH基および/または環式炭化水素基を有するエポキシド誘導体の使用量が前記範囲であれば、所望のパーフルオロポリエーテル誘導体を得ることができる。
【0067】
分子の両末端にOH基を有するパーフルオロポリエーテル(A)と、OH基および/または環式炭化水素基を有するエポキシド誘導体との反応は、塩基の存在下で行うことが好ましい。前記塩基としてはカリウムt-ブトキシド、ナトリウムt-ブトキシド、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を用いることができる。また、前記反応の反応温度は、好ましくは25℃~110℃、より好ましくは40℃~80℃である。反応時間は、好ましくは2時間~48時間、より好ましくは10時間~24時間である。
【0068】
前記反応は、アルゴン、窒素、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気下で行うことがより好ましい。また、前記反応は、溶媒中で行ってもよい。前記溶媒としては、ジクロロメタン、t-ブチルアルコール、トルエン、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン等を用いることができる。
【0069】
前記分子の両末端にOH基を有するパーフルオロポリエーテル(A)と、OH基および/または環式炭化水素基を有するエポキシド誘導体とを反応させた後、例えば塩酸、硝酸、硫酸等の酸で中和して、水洗および脱水し、シリカゲルクロマトグラフィー等によって精製することにより、式(2)においてpおよびqが0であるパーフルオロポリエーテル誘導体を得ることができる。
【0070】
(製造方法(2))
式(2)においてpが0、qが1以上であるパーフルオロポリエーテル誘導体R11-Rf’-(L13-Rf’)q-R12の製造方法としては、例えば、(i)分子の両末端にOH基を有するパーフルオロポリエーテル(A)と、所定量のOH基および/または環式炭化水素基を有するエポキシド誘導体とを反応させることにより、前記パーフルオロポリエーテル(A)の片方の末端のOH基と前記エポキシド誘導体とが反応して、前記パーフルオロポリエーテル(A)の片方の末端にR11が結合した化合物と、前記パーフルオロポリエーテル(A)の片方の末端にR12が結合した化合物と、を得る工程と、(ii)(i)で得られた化合物と、連結基L13の両末端にOH基と反応して結合する構造を有する化合物とを反応させ、パーフルオロポリエーテル誘導体R11-Rf’-(L13-Rf’)q-R12を得る工程、とを含む製造方法が挙げられる。以下に、工程(i)および工程(ii)について説明する。
【0071】
工程(i)において、分子の両末端にOH基を有するパーフルオロポリエーテル(A)と、所定量のOH基および/または環式炭化水素基を有するエポキシド誘導体との反応は、塩基の存在下で行うことが好ましい。工程(i)において、原料の分子の両末端にOH基を有するパーフルオロポリエーテル(A)、OH基および/または環式炭化水素基を有するエポキシド誘導体、塩基、反応温度、反応時間、反応の雰囲気、および溶媒については、前記「製造方法(1)」と同じである。
【0072】
工程(i)において、OH基および/または環式炭化水素基を有するエポキシド誘導体の使用量は、分子の両末端にOH基を有するパーフルオロポリエーテル(A)に対して、好ましくは10モル%~80モル%であり、より好ましくは20モル%~60モル%である。OH基および/または環式炭化水素基を有するエポキシド誘導体の使用量が前記範囲であれば、所望の前記パーフルオロポリエーテル(A)の片方の末端にR11またはR12が結合したパーフルオロポリエーテル誘導体を得ることができる。
【0073】
工程(ii)において使用される、連結基L13の両末端にOH基と反応して結合する構造を有する化合物としては、例えば、前記連結基L13である炭化水素基の両末端にエポキシド構造を有するジエポキシド化合物、α, ω-ジハロアルキルアルコール化合物等を挙げることができる。前記ジエポキシド化合物としては、例えば、1,3-ブタジエンジエポキサイド、1,4-ペンタジエンジエポキサイド、1,5-ヘキサジエンジエポキサイド、1,6-ヘプタジエンジエポキサイド、1,7-オクタジエンエポキサイド、1,8-ノナンジエンジエポキサイド、1,9-デカンジエンジエポキサイド等を挙げることができる。ここで、連結基L13の両末端にOH基と反応して結合する構造を有する化合物の使用量は、(i)で得られたパーフルオロポリエーテル誘導体に対して、好ましくは40モル%~280モル%であり、より好ましくは80モル%~240モル%である。連結基L13の両末端にOH基と反応して結合する構造を有する化合物の使用量が前記範囲であれば、所望のパーフルオロポリエーテル誘導体を得ることができる。
【0074】
工程(ii)において、(i)で得られた化合物と、連結基L13の両末端にOH基と反応して結合する構造を有する化合物との反応は、塩基の存在下で行うことが好ましい。前記塩基としてはカリウムt-ブトキシド、ナトリウムt-ブトキシド、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を用いることができる。また、前記反応の反応温度は、好ましくは25℃~110℃、より好ましくは40℃~80℃である。反応時間は、好ましくは2時間~48時間、より好ましくは10時間~24時間である。
【0075】
前記反応は、アルゴン、窒素、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気下で行うことがより好ましい。また、前記反応は、溶媒中で行ってもよい。前記溶媒としては、t-ブタノール、トルエン、キシレン等を用いることができる。
【0076】
前記(i)で得られたパーフルオロポリエーテル誘導体と、連結基L13の両末端にOH基と反応して結合する構造を有する化合物とを反応させた後、例えば塩酸、硝酸、硫酸等の酸で中和して、水洗および脱水し、シリカゲルクロマトグラフィー等によって精製することにより、式(2)においてpが0、qが1以上であるパーフルオロポリエーテル誘導体R11-Rf’-(L13-Rf’)q-R12を得ることができる。qの値は前述した方法で日本電子製JNM-ECX400を用いた1H-NMR測定によって算出された平均値であり、実数である。
【0077】
(製造方法(3))
式(2)においてp=1、q=0であって、x=1かつy=1、または、x=2かつy=0であるパーフルオロポリエーテル誘導体の製造方法としては、例えば、(i)分子の両末端にOH基を有するパーフルオロポリエーテル(A)と、所定量のOH基および/または環式炭化水素基を有するエポキシド誘導体とを反応させることにより、前記パーフルオロポリエーテル(A)の片方の末端のOH基と前記エポキシド誘導体とが反応して、前記パーフルオロポリエーテル(A)の片方の末端にR11、R12またはR13がそれぞれ結合した化合物を得る工程と、(ii)(i)で得られた化合物と、連結基L11-C(L14)x(R14)y-L12の、L11、L14およびL12の各末端にOH基と反応して結合する構造を有する化合物とを反応させ、パーフルオロポリエーテル誘導体R11-Rf’-L11-C(L14)x(R14)y-L12-Rf’-R12を得る工程、とを含む製造方法が挙げられる。以下に、工程(i)および工程(ii)について説明する。
【0078】
工程(i)において、分子の両末端にOH基を有するパーフルオロポリエーテル(A)と、所定量のOH基および/または環式炭化水素基を有するエポキシド誘導体との反応は、塩基の存在下で行うことが好ましい。工程(i)において、原料の分子の両末端にOH基を有するパーフルオロポリエーテル(A)、OH基および/または環式炭化水素基を有するエポキシド誘導体、塩基、反応温度、反応時間、反応の雰囲気、および溶媒については、前記「製造方法(1)」と同じである。
【0079】
工程(i)において、OH基および/または環式炭化水素基を有するエポキシド誘導体の使用量は、分子の両末端にOH基を有するパーフルオロポリエーテル(A)に対して、10モル%~80モル%であり、より好ましくは20モル%~60モル%である。OH基および/または環式炭化水素基を有するエポキシド誘導体の使用量が前記範囲であれば、所望の前記パーフルオロポリエーテル(A)の片方の末端にR11、R12またはR13が結合したパーフルオロポリエーテル誘導体を得ることができる。
【0080】
工程(ii)において使用される、連結基L
11-C(L
14)
x(R
14)
y-L
12の、L
11、L
14およびL
12の各末端にOH基と反応して結合する構造を有する化合物としては、これに限定されるものではないが、例えば、下記式(9)
【化15】
で表される2,2’-[[2-エチル-2-[(2-オキシラニルメトキシ)メチル]-1,3-プロパンジイル]ビス(オキシメチレン)]ビス-オキシラン、下記式(10)
【化16】
で表される2,2’―[[2,2-ビス[(2-オキシラニルメトキシ)メチル]―1,3-プロパンジイル]ビス(オキシメチレン)]ビス-オキシラン等を挙げることができる。ここで、連結基L
11-C(L
14)
x(R
14)
y-L
12の、L
11、L
14およびL
12の各末端にOH基と反応して結合する構造を有する化合物の使用量は、(i)で得られた化合物に対して、好ましくは10モル%~150モル%であり、より好ましくは10モル%~50モル%である。当該使用量が前記範囲であれば、所望のパーフルオロポリエーテル誘導体を得ることができる。
【0081】
工程(ii)においては、(i)で得られた化合物と、連結基L11-C(L14)x(R14)y-L12の、L11、L14およびL12の各末端にOH基と反応して結合する構造を有する化合物との反応は、塩基の存在下で行うことが好ましい。前記塩基としてはカリウムt-ブトキシド、ナトリウムt-ブトキシド、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を用いることができる。また、前記反応の反応温度は、好ましくは25℃~110℃、より好ましくは40℃~80℃である。反応時間は、好ましくは2時間~48時間、より好ましくは10時間~24時間である。
【0082】
前記反応は、アルゴン、窒素、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気下で行うことがより好ましい。また、前記反応は、溶媒中で行ってもよい。前記溶媒としては、t-ブタノール、トルエン、キシレン、メタキシレンヘキサフルオライド等を用いることができる。
【0083】
前記(i)で得られた化合物と、連結基L11-C(L14)x(R14)y-L12の、L11、L14およびL12の各末端にOH基と反応して結合する構造を有する化合物とを反応させた後、例えば塩酸、硝酸、硫酸等の酸で中和して、水洗および脱水し、シリカゲルクロマトグラフィー等によって精製することにより、式(2)においてp=1、q=0であって、x=1かつy=1、または、x=2かつy=0であるパーフルオロポリエーテル誘導体を得ることができる。
【0084】
<エステル化工程>
本工程では、前記式(2)で表される化合物(パーフルオロポリエーテル誘導体)にエステルを導入して、パーフルオロポリエーテル誘導体エステルを得る。エステルを導入する方法としては、例えば、前記パーフルオロポリエーテル誘導体と酸無水物とを塩基の存在下で反応させる方法を挙げることができる。
【0085】
前記酸無水物としては、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸等を用いることができる。また、前記塩基としては、ピリジン、トリエチルアミン等を用いることができる。
【0086】
前記パーフルオロポリエーテル誘導体と、酸無水物とを塩基の存在下で反応させることにより、パーフルオロポリエーテル誘導体のOH基をエステル化し、これにより後述するフッ素化工程においてパーフルオロポリエーテル誘導体のOH基を保護することができる。
【0087】
前記反応の反応温度は、例えば0℃~60℃、より好ましくは15℃~40℃である。また、前記反応の反応時間は、好ましくは3時間~48時間、より好ましくは5時間~20時間である。
【0088】
前記パーフルオロポリエーテル誘導体と、酸無水物と反応させた後、例えば塩基と酸を減圧留去することにより、得られたパーフルオロポリエーテル誘導体エステルを精製することができる。減圧留去の温度は、好ましくは60℃~80℃、より好ましくは65℃~75℃である。
【0089】
<フッ素化工程>
本工程では、前記エステル化工程で得られたパーフルオロポリエーテル誘導体エステルをフッ素化する。本工程において、前記パーフルオロポリエーテル誘導体エステルをフッ素化する方法は特に限定されるものではないが、例えば、前記パーフルオロポリエーテル誘導体エステル、フッ素ガス、不活性ガス、および溶媒を反応器に導入して反応させる工程(工程I)と、前記工程Iの後に、アルコールを前記反応器に導入する工程(工程II)と、を含む方法を挙げることができる。
【0090】
前記方法では、フッ素化は、液相フッ素置換反応器中で行われると言うこともできる。ここで、フッ素化、すなわち、フッ素置換反応は、完全ハロゲン置換された液体、例えばパーフルオロカーボン類、完全ハロゲン置換されているクロロフルオロカーボン、または完全ハロゲン置換されているクロロフルオロエーテルを溶媒として用いて行うことが好ましい。かかる溶媒としては、これに限定されるものではないが、例えば、1,1,2―クロロトリフルオロエタンを用いることができる。
【0091】
工程Iは、前記パーフルオロポリエーテル誘導体エステル、フッ素ガス、不活性ガス、および溶媒を反応器に導入して反応させる工程であれば、特に限定されないが、例えば、以下の手順で行うことができる。
i)反応器に前記溶媒を導入する。
ii)パーフルオロポリエーテル誘導体エステルを前記溶媒にて希釈し、適切な速度で前記反応器に導入する。
iii)フッ素ガスおよび不活性ガスを前記反応器に導入する。
【0092】
前記i)では、反応を始める前に、前記反応器を不活性ガスでパージすることにより、反応器内の空気を不活性ガスで置換することがより好ましい。前記不活性ガスは、特に限定されるものではないが、例えば、窒素、ヘリウム、アルゴン等を挙げることができる。また、前記反応器をパージする時間もこれに限定されるものではないが、例えば10分~2時間であり、より好ましくは20分~40分である。
【0093】
前記反応器内の温度は、反応時、好ましくは-40℃~150℃であり、より好ましくは-10℃~50℃である。前記反応器内の温度は、フッ素置換反応の間を通して、上記範囲内に保持することがより好ましい。
【0094】
前記ii)では、パーフルオロポリエーテル誘導体エステルを希釈する溶媒は、前記溶媒であればどの溶媒であってもよい。また、パーフルオロポリエーテル誘導体エステルを希釈する溶媒と、前記i)にて、反応器に導入する溶媒とは同じであっても異なっていてもよいが、除去の容易さの観点から、同じ溶媒であることがより好ましい。
【0095】
パーフルオロポリエーテル誘導体エステルを前記溶媒で希釈する希釈率も特に限定されるものではないが、例えば、希釈後のパーフルオロポリエーテル誘導体エステルと溶媒との合計量に対する、パーフルオロポリエーテル誘導体エステルの量が、10質量%~80質量%であり、より好ましくは、20質量%~50質量%である。
【0096】
また、前記溶媒にて希釈したパーフルオロポリエーテル誘導体エステルを、前記反応器に導入する速度も特に限定されるものではなく、反応器の大きさ、前記パーフルオロポリエーテル誘導体エステル、フッ素ガス、不活性ガス、および溶媒の量に応じて適宜選択すればよい。
【0097】
前記iii)において導入されるフッ素ガスの量も特に限定されるものではないが、フッ素置換されるべき水素に対し、例えば1~5等量、より好ましくは1~1.5等量である。通常、本工程は分子中のすべての水素原子をフッ素置換するために用いられるが、分子中の一部の水素原子をフッ素置換する場合、フッ素置換したい水素原子と等量程度のフッ素ガスを導入することによって、分子中の一部の水素原子をフッ素置換したフルオロポリーテル化合物を得ることができる。
【0098】
工程Iでは、反応中に生成するフッ化水素の捕捉剤を用いてもよい。前記フッ化水素の捕捉剤としては、例えば、フッ化ナトリウム等を用いることができる。前記フッ化水素の捕捉剤の添加方法も特に限定されるものではないが、例えば、上記i)において反応器に前記溶媒とともに導入することができる。
【0099】
工程IIでは、前記工程Iの後に、アルコールを前記反応器に導入する。より具体的には、例えば、工程Iでフッ素ガスの導入が完了した後、前記反応器にアルコールを導入する。前記アルコールとしては、これに限定されるものではないが、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール等が挙げられ、精製の容易さなどから、メタノールが特に好ましい。前記アルコールの導入量は、例えば、パーフルオロポリエーテル誘導体エステルに対して、体積基準で、2~20倍、より好ましくは、2~5倍である。
【0100】
工程IIでアルコールを前記反応器に導入した後、例えば、反応混合物を濾過して固体成分を除き、液体成分を濃縮することにより、精製したフッ素化されたパーフルオロポリエーテル誘導体エステルを得ることができる。
【0101】
<還元工程>
本工程では、前記フッ素化工程で得られた、フッ素化されたパーフルオロポリエーテル誘導体エステル(以下、単に「フッ素化されたエステル」と称することがある)を還元する。前記フッ素化工程で得られたフッ素化されたエステルを還元する方法としては、これに限定されるものではないが、例えば、フッ素化されたエステルを水素化ホウ素金属によって還元する方法を挙げることができる。
【0102】
フッ素化されたエステルを水素化ホウ素金属によって還元する方法も特に限定されるものではないが、例えば、アルコールおよび水素化ホウ素金属化合物の混合物に、前記フッ素化工程で得られた、フッ素化されたエステルを滴下する方法を挙げることができる。前記フッ素化されたエステルの滴下は、アルコールおよび水素化ホウ素金属化合物の混合物の撹拌下で行うことがより好ましい。また、フッ素化されたエステルは、フッ素溶媒で希釈した状態で滴下されることがより好ましい。
【0103】
還元工程の反応温度は、例えば-10℃~80℃、より好ましくは0℃~50℃であり、反応時間は、例えば、2時間~24時間、より好ましくは10~20時間である。
【0104】
前記フッ素溶媒としては、例えば、3M社製Novec7100、Novec7200、PF―5060、PF―5080;三井・ケマーズ フロロプロダクツ社製VertrelXF等を好適に用いることができる。中でも、基質の溶解性や化学的安定性の面からNovec7100が特に好ましい。
【0105】
前記アルコールとしては、例えば、炭素数1~10のアルコールから選択でき、基質の溶解性や取り扱いの点からエタノールが特に好ましい。
【0106】
前記水素化ホウ素金属としては、例えば、水素化ホウ素アルカリ金属塩および水素化ホウ素アルカリ土類金属塩から選択でき、水素化ホウ素ナトリウムが安全性の面から特に好ましい。
【0107】
得られた生成物は、前記フッ素化されたエステルを水素化ホウ素金属と反応させた後、例えば、塩酸を加えて反応を停止し、フッ素溶媒を用いて水層から抽出することができる。このフッ素系溶媒層を濃縮し、蒸留および/またはシリカゲルクロマトグラフィーによって精製することにより、末端基がアルコールに還元された、目的化合物であるフルオロポリエーテル化合物を得ることができる。
【0108】
<2.2 ポリアルキレングリコール誘導体エステルをフッ素化する方法>
以下に、ポリアルキレングリコール誘導体エステルをフッ素化する、本発明の他の実施形態に係るフルオロポリエーテル化合物の製造方法について説明する。本実施形態に係るフルオロポリエーテル化合物の製造方法は、例えば、下記式(3)で表される化合物(以下、「ポリアルキレングリコール誘導体」と称することがある)にエステルを導入するエステル化工程と、前記エステル化工程で得られたエステルをフッ素化するフッ素化工程と、前記フッ素化工程で得られた、フッ素化されたエステルを還元する還元工程と、を含む。
【化17】
式(3)中、Rf’’は、ポリオキシアルキレン基であり、R
21およびR
22は、それぞれ1個以上のOH基を有するエーテル結合を含んでもよい炭化水素基、またはOH基である。
【0109】
式(3)中のRf’’は、前述の式(2)のRf’のフッ素原子がすべて水素原子で置換された基である。
【0110】
前記ポリアルキレングリコール誘導体は、式(3)で表される化合物であれば特に限定されるものではない。前記式(3)で表される化合物におけるR21およびR22がOH基である場合、前記式(3)で表される化合物は、メチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等のポリアルキレングリコールであり得る。R21およびR22は、前述の式(1)および式(2)のR1、R2、R11、またはR12と同じであり得る。
【0111】
<エステル化工程>
本工程では、前記ポリアルキレングリコール誘導体にエステルを導入して、ポリアルキレングリコール誘導体エステルを得る。エステルを導入する方法としては、例えば、前記ポリアルキレングリコール誘導体のOH基を脱離基に置換し、マロン酸ジエステルを反応させる方法、または、前記ポリアルキレングリコール誘導体と酸無水物とを塩基の存在下で反応させる方法を挙げることができる。
【0112】
前記ポリアルキレングリコール誘導体のOH基を置換する脱離基としては、例えば、p-トルエンスルホニル基、トリフルオロメチルスルホニル基、メタンスルホニル基、ヨード基、ブロモ基、およびクロロ基等を挙げることができる。ポリアルキレングリコール誘導体への脱離基の導入方法も特に限定されるものではなく、従来公知の方法を適宜用いることができる。前記ポリアルキレングリコール誘導体の両末端に脱離基を導入した化合物としては、例えば、Ts-CH2CH2O(CH2CH2O)zCH2CH2-Tsで示される化合物を例示できる。ここで、Tsはトシル基である。zは好ましくは1~25の実数であり、より好ましくは4~14の整数である。zは日本電子製JNM-ECX400を用いた1H-NMR測定によって算出された平均値である。NMRの測定において、試料は重クロロホルムで希釈し測定に使用した。
【0113】
前記ポリアルキレングリコール誘導体の両末端に脱離基を導入した化合物とマロン酸ジエステルとを反応させる方法は、特に限定されるものではないが、塩基存在下で、前記ポリアルキレングリコール誘導体とマロン酸ジエステルとを反応させる方法を挙げることができる。前記マロン酸ジエステルとしては、例えば、マロン酸ジエチル、マロン酸ジメチル等を用いることができる。前記塩基としてはカリウムt-ブトキシド、ナトリウムt-ブトキシド、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を用いることができる。また、前記反応の反応温度は、好ましくは0℃~100℃、より好ましくは40℃~80℃である。反応時間は、好ましくは2時間~24時間、より好ましくは5時間~20時間である。これにより、前記ポリアルキレングリコール誘導体の脱離基が脱離し、エステルが導入される。
【0114】
前記反応は、アルゴン、窒素、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気下で行うことがより好ましい。また、前記反応は、溶媒中で行ってもよい。前記溶媒としては、ジクロロメタン、t-ブチルアルコール、トルエン、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン等を用いることができる。
【0115】
前記ポリアルキレングリコール誘導体の両末端に脱離基を導入した化合物とマロン酸ジエステルとを反応させてポリアルキレングリコール誘導体エステルを得た後、例えば、塩化アンモニウム等の酸で中和して、水洗および脱水し、シリカゲルクロマトグラフィー等によって精製することができる。
【0116】
前記ポリアルキレングリコール誘導体と酸無水物とを塩基の存在下で反応させる方法は前述の〔2.1 パーフルオロポリエーテル誘導体エステルをフッ素化する方法〕のエステル化工程と同じである。
【0117】
<フッ素化工程、還元工程>
フッ素化工程および還元工程は、〔2.1 パーフルオロポリエーテル誘導体エステルをフッ素化する方法〕の場合と同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0118】
〔3.潤滑剤〕
本発明の一実施形態に係る潤滑剤は、前述の本発明の一実施形態に係るフルオロポリエーテル化合物を含む。前述のフルオロポリエーテル化合物単独で潤滑剤として用いることもできるし、潤滑剤はその性能を損なわない範囲でフルオロポリエーテル化合物とその他の成分とを任意の比率で混合して用いることもできる。
【0119】
前記その他の成分としては、Fomblin(登録商標) Zdol(Solvay Solexis製)、Ztetraol(Solvay Solexis製)、Demnum(登録商標)(ダイキン工業製)、Krytox(登録商標)(Dupont製)等の公知の磁気ディスク用潤滑剤、MORESCO PHOSFAROL A20H(MORESCO製)、MORESCO PHOSFAROL D-4OH(MORESCO製)等が挙げられる。
【0120】
当該潤滑剤は、磁気ディスクの摺動特性を向上させるための記録媒体用潤滑剤として用いられ得る。また、磁気ディスク以外にも磁気テープ等の記録媒体とヘッドとの間に摺動が伴う他の記録装置における記録媒体用潤滑剤としても用いられ得る。さらに、記録装置に限らず、摺動を伴う部分を有する機器の潤滑剤としても用いられ得る。
【0121】
〔4.磁気ディスク〕
本発明の一実施形態に係る磁気ディスク1は、
図1に示されるように、非磁性基板8の上に配置された記録層4、保護膜層(保護層)3および潤滑層2を含む。前記潤滑層2は、前述の潤滑剤を含んでいる。
【0122】
また実施形態においては、磁気ディスクは、
図2に示される磁気ディスク1のように、記録層4の下に配置される下層5、下層5の下に配置される1層以上の軟磁性下層6、および1層以上の軟磁性下層6の下に配置される接着層7を含むことができる。これらの層のすべては、一実施形態においては、非磁性基板8の上に形成することができる。
【0123】
潤滑層2以外の磁気ディスク1の各層は、磁気ディスクの個別の層に好適であると当該技術分野において知られている材料を含むことができる。例えば、記録層4の材料としては、鉄、コバルト、ニッケル等の強磁性体を形成可能な元素にクロム、白金、タンタル等を加えた合金、又はその酸化物が挙げられる。また、保護層3の材料としては、カーボン、Si3N4、SiC、SiO2等が挙げられる。非磁性基板8の材料としては、アルミニウム合金、ガラス、ポリカーボネート等が挙げられる。
【0124】
〔5.磁気ディスクの製造方法〕
本発明の一態様に係る磁気ディスクの製造方法は、記録層と保護層とが積層されてなる積層体の、当該保護層の露出表面に本発明の一実施形態に係る潤滑剤を積層して潤滑層を形成する工程を含んでいる。
【0125】
記録層と保護層とが積層されてなる積層体の、当該保護層の露出表面に前記潤滑剤を積層して潤滑層を形成する方法としては、特に限定されるものではない。保護層の露出表面に潤滑剤を積層する方法としては、前記潤滑剤を溶剤で希釈した液に磁気ディスクを浸漬する等して積層する方法が好ましい。溶剤としては、例えば3M製PF-5060、PF-5080、Novec7100、Novec7200、DuPont製Vertrel-XF(登録商標)等が挙げられる。前記溶剤で希釈した後の潤滑剤の濃度は、0.001重量%~1重量%が好ましく、0.005重量%~0.5重量%がより好ましく、0.005重量%~0.1重量%がさらに好ましい。前記溶剤で希釈した後の潤滑剤の濃度が、0.005重量%~0.1重量%であれば、潤滑剤分子同士の相互作用を弱めることができ、均一な潤滑膜を形成しやすい。
【0126】
記録層と保護層とをこの順に形成し、前記潤滑剤を前記保護層の露出表面に積層した後、紫外線照射又は熱処理を行ってもよい。
【0127】
紫外線照射又は熱処理を行うことで、潤滑層と保護層の露出表面との間に、より強固な結合を形成し、加熱による潤滑剤の蒸発を防ぐことができる。紫外線照射を行う場合には、185nm又は254nmの波長を主波長とする紫外線を用いることが好ましい。熱処理を行う場合の温度は、60~170℃であることが好ましく、80~170℃がより好ましく、80~150℃がさらに好ましい。
【0128】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0129】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0130】
〔実施例1:HOCH
2CH(OH)CF
2OCF
2CF
2O(CF
2CF
2O)
c’CF
2CF
2OCF
2CH(OH)CH
2OH(化合物1)の合成〕
アルゴン雰囲気下、HOCH
2CF
2O(CF
2CF
2O)
c’CF
2CH
2OH(数平均分子量1048)500gとグリシドール94gとを、カリウムt-ブトキシド11gの存在下、溶媒(t-ブチルアルコール243g)中、70℃で22時間撹拌し、粗生成物を得た。その後、得られた粗生成物含有混合物に、3%硝酸水溶液60gを加えて中和し、水洗、脱水を行った。得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィーによって精製し、パーフルオロポリエーテルの末端のOH基がジヒドロキシプロポキシ基で置き換えられた下記化合物1-2を513g得た。
【化18】
この化合物(化合物1-2)500gをナスフラスコへ入れておき、撹拌しながらピリジン380gを加えた。得られた混合物に、無水酢酸440gを滴下し、室温で一晩攪拌した。その後、エバポレーターを用いて反応混合物を濃縮乾燥して、OH基がアセチル化された化合物510gを得た。
【0131】
5Lの反応槽に1.9Lの1,1,2-トリクロロトリフルオロエタン、および1320gのフッ化ナトリウムを入れた。前記OH基がアセチル化された化合物300gを、1,1,2-トリクロロトリフルオロエタンで、希釈後の体積が710mLとなるように希釈した。前記反応槽に導入する窒素の流れを3400mL/min、前記反応槽に導入するフッ素の流れを800mL/minにセットした。反応槽の温度を0℃に保ちながら、1,1,2-トリクロロトリフルオロエタンで希釈した前記OH基がアセチル化された化合物を、前記反応槽に、0.5mL/minの速度で加えた。希釈液を加えた後、窒素の流れを1500mL/minに下げ、フッ素の流れを300mL/minに下げた。反応槽の温度を0℃に保ちながら、30分間これらの窒素およびフッ素の流れを保持しながら、適量のフッ素を導入した後、フッ素の導入を停止した。続いて前記反応槽を窒素でパージし、その後、この反応槽へ112gのメタノールを加えた。得られた反応混合物から固体を濾別して、濾液を濃縮し、蒸留により精製して、末端がメチルエステル化されたパーフルオロ化合物を420g得た。
【0132】
4Lの4つ口フラスコに水素化ホウ素ナトリウム91g、およびエタノール800gの混合溶液を入れた。800gのNovec7100(3M社製)で希釈した、末端がメチルエステル化されたパーフルオロ化合物400gを、5g/minの速度で、前記の4つ口フラスコへ滴下した後、40℃で16時間撹拌した。4つ口フラスコ内に、3%塩酸400gを加えて反応を停止させ、Novec7100に溶解している目的化合物を水層から分離、抽出した。抽出層を濃縮乾燥させることにより、粗生成物を得た。その後カラムクロマトグラフィーおよび蒸留による粗生成物の精製を行い、末端基が還元されてアルコール基となった化合物1を118g得た。化合物1は白色ワックス状の固体であり、20℃での密度は1.7g/cm3であった。化合物1のNMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
19F-NMR(溶媒:重メタノール、基準:生成物中のOCF2CF2Oを-89.1ppmとする。)
δ=-80.6ppm〔2F〕、δ=-81.5ppm〔2F〕、δ=-89.1ppm〔31F〕
19F-NMRの結果、化合物1において、c=6.1であることが分かった。
【0133】
1H-NMR(溶媒:重メタノール、基準物質:重メタノール中の残留プロトン)
δ=3.6ppm〔2H〕、δ=3.7ppm〔2H〕、δ=4.0ppm〔2H〕。
なお、化合物1の式(4)における繰り返し単位cは、原料である化合物1-2の式(4’)における繰り返し単位c’よりも2大きくなっている。
【0134】
〔実施例2:(HOCH2)2CFCF2CF2OCF2CF2O(CF2CF2O)c’CF2CF2OCF2CF2CF(CH2OH)2(化合物2)の合成〕
アルゴン雰囲気下、溶媒(ジクロロメタン600g)中に、HO(CH2CH2O)c’H(数平均分子量533)300gと、トリエチルアミン171gとを0℃で混合した系に、ジクロロメタン800gで希釈したp-トルエンスルホニルクロリド255gを滴下した。適下後、得られた混合物を15時間室温で反応させた後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液300mLを加えた。その後、得られた粗生成物を水洗、脱水し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、トシル基末端のポリエチレングリコールを345g得た。
【0135】
アルゴン雰囲気下、t-ブチルアルコール675g、カリウムt-ブトキシド43g、およびマロン酸ジエチル59gの混合液に、トシル基末端のポリエチレングリコール300gを滴下した後、70℃で15時間撹拌した。得られた反応混合物に、飽和塩化アンモニウム水溶液600mL、およびジクロロメタン525gを加え、水洗、脱水し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、ポリエチレングリコール誘導体エステルを154g得た。
【0136】
3Lの反応槽に900mLの1,1,2-トリクロロトリフルオロエタン、および615gのフッ化ナトリウムを入れた。前記ポリエチレングリコール誘導体エステル140gを1,1,2-トリクロロトリフルオロエタンで、希釈後の体積が350mLとなるように希釈した。前記反応槽に導入する窒素の流れを3400mL/min、前記反応槽に導入するフッ素の流れを800mL/minにセットした。反応槽の温度を0℃に保ちながら、1,1,2-トリクロロトリフルオロエタンで希釈した前記ポリエチレングリコール誘導体エステルを、前記反応槽に、0.5mL/minの速度で加えた。希釈液を加えた後、窒素の流れを1500mL/minに下げ、フッ素の流れを300mL/minに下げた。反応槽の温度を0℃に保ちながら、30分間これらの窒素およびフッ素の流れを保持しながら、適量のフッ素を導入した後、フッ素の導入を停止した。続いて前記反応槽を窒素でパージし、その後、この反応槽へ53gのメタノールを加えた。得られた反応混合物から固体を濾別して、濾液を濃縮し、蒸留により精製して、末端がメチルエステル化されたパーフルオロ化合物を95g得た。
【0137】
1Lの4つ口フラスコに水素化ホウ素ナトリウム21g、およびエタノール190g入れた。200gのNovec7100で希釈した、末端がメチルエステル化されたパーフルオロ化合物95gを、5g/minの速度で、前記の4つ口フラスコへ滴下した後、40℃で16時間撹拌した。4つ口フラスコに、3%塩酸95gを加えて反応を停止させ、Novec7100に溶解している目的化合物を水層から分離、抽出した。抽出層を濃縮乾燥させることにより、粗生成物を得た。その後カラムクロマトグラフィーおよび蒸留による粗生成物の精製を行い、末端基が還元されてアルコール基となった化合物2を33g得た。得られた化合物2は白色ワックス状の固体であり、20℃での密度は1.7g/cm3であった。化合物2のNMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
【0138】
19F-NMR(溶媒:なし、基準:生成物中のOCF2CF2Oを-89.1ppmとする)
δ=-83.0ppm〔4F〕、δ=-89.1ppm〔44F〕、δ=-123.7ppm〔4F〕、δ=-184.1ppm〔2F〕
19F-NMRの結果、化合物2において、c=9.2であることが分かった。
【0139】
1H-NMR(溶媒:なし、基準物質:重水中の残留プロトン)
δ=3.0-3.9ppm〔6H〕
〔実施例3:HOCH
2CH(OH)CF
2OCF
2CF
2O(CF
2CF
2O)
c’CF
2CF
2OCF
2CH(OH)CF
2CF
2CF
2CF
2CH(OH)CF
2OCF
2CF
2O(CF
2CF
2O)
c’CF
2CF
2OCF
2CH(OH)CH
2OH(化合物3)の合成〕
アルゴン雰囲気下、HOCH
2CF
2O(CF
2CF
2O)
c’CF
2CH
2OH(数平均分子量980)1968gと、グリシドール70gとを、カリウムt-ブトキシド10gの存在下、溶媒(t-ブチルアルコール410g)中、70℃で14時間撹拌し、粗生成物を得た。その後、得られた粗生成物を、水洗、脱水し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、一方の末端に1つのヒドロキシ基を有しもう一方の末端に2つのヒドロキシ基を有する(出発物質であるパーフルオロポリエーテルの片方の末端のOH基がジヒドロキシプロポキシ基で置き換えられた)パーフルオロポリエーテルを950g得た。このパーフルオロポリエーテル940gと、1,7-オクタジエンジエポキサイド63gとを、溶媒(t-ブチルアルコール410g)中、ナトリウムt-ブトキシド10gの存在下、70℃で14時間撹拌し、粗生成物を得た。その後、得られた粗生成物を、水洗、脱水した後、蒸留により精製し、パーフルオロポリエーテル誘導体(下記化合物3-2)を610g得た。
【化19】
このパーフルオロポリエーテル誘導体(化合物3-2)512gをナスフラスコへ入れ、撹拌しながらピリジン385gを加えた。得られた混合物に、無水酢酸445gを滴下し、室温で一晩攪拌した。その後、エバポレーターを用いて反応混合物を濃縮乾燥して、OH基がアセチル化された化合物519gを得た。
【0140】
10Lの反応槽に3.2Lの1,1,2-トリクロロトリフルオロエタン、および2200gのフッ化ナトリウムを入れた。前記OH基がアセチル化された化合物500gを、1,1,2-トリクロロトリフルオロエタンで、希釈後の体積が1200mLとなるように希釈した。前記反応槽に導入する窒素の流れを3400mL/min、前記反応槽に導入するフッ素の流れを800mL/minにセットした。反応槽の温度を0℃に保ちながら、1,1,2-トリクロロトリフルオロエタンで希釈した前記OH基がアセチル化された化合物を、前記反応槽に、0.5mL/minの速度で加えた。希釈液を加えた後、窒素の流れを1500mL/minに下げ、フッ素の流れを300mL/minに下げた。反応槽の温度を0℃に保ちながら、30分間これらの窒素およびフッ素の流れを保持しながら、適量のフッ素を導入した後、フッ素の導入を停止した。続いて前記反応槽を窒素でパージし、その後、この反応槽へ188gのメタノールを加えた。得られた反応混合物から固体を濾別して、濾液を濃縮し、蒸留により精製して、末端がメチルエステル化されたパーフルオロ化合物を296g得た。
【0141】
4Lの4つ口フラスコに水素化ホウ素ナトリウム49g、およびエタノール580gの混合溶液を入れた。580gのNovec7100で希釈した、末端がメチルエステル化されたパーフルオロ化合物290gを5g/minの速度で、前記の4つ口フラスコへ滴下した後、40℃で16時間撹拌を行った。4つ口フラスコに、3%塩酸290gを加えて反応を停止させ、Novec7100に溶解している目的化合物を水層から分離、抽出した。抽出層を濃縮乾燥させることで、粗生成物を得た。その後カラムクロマトグラフィーおよび蒸留による粗生成物の精製を行い、末端基が還元されてアルコール基となった化合物3を145g得た。化合物3は、白色ゲル状であり、20℃での密度は、1.8g/cm3であった。化合物3のNMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
【0142】
19F-NMR(溶媒:なし、基準物質:生成物中のOCF2CF2Oを-89.1ppmとする。)
δ=-77.8~-80.1ppm〔4F〕、δ=-82.7~-84.3ppm〔4F〕、δ=-89.1ppm〔80F〕、δ=-120.6~-128.2ppm〔8F〕
19F-NMRの結果、化合物3はc=8.1であることが分かった。
【0143】
1H-NMR(溶媒:なし、基準物質:重水中の残留プロトン)
δ=2.5~5.0ppm〔14H〕
〔実施例4:HOCH
2CH(OH)CF
2OCF
2CF
2O(CF
2CF
2O)
c’CF
2CF
2OCF
2CH(OH)CF
2OCF
2C(CF
2CF
3)(CF
2OCF
2CH(OH)CF
2OCF
2CF
2O(CF
2CF
2O)
c’CF
2CF
2OCF
2CH(OH)CH
2OH)CF
2OCF
2CH(OH)CF
2OCF
2CF
2O(CF
2CF
2O)
c’CF
2CF
2OCF
2CH(OH)CH
2OH(化合物4)の合成〕
アルゴン雰囲気下、HOCH
2CF
2O(CF
2CF
2O)
c’OCF
2CH
2OH(数平均分子量980)103gと、グリシドール7gとを、カリウムt-ブトキシド1gの存在下、溶媒(t-ブチルアルコール44g)中、70℃で14時間撹拌し、粗生成物を得た。その後、得られた粗生成物を水洗し、次いで脱水し、さらにシリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いて精製することにより、一方の末端に1つのOH基を有しもう一方の末端に2つのOH基を有する(出発物質であるパーフルオロポリエーテルの片方の末端のOH基がジヒドロキシプロポキシ基で置き換えられた)パーフルオロポリエーテルを得る。このパーフルオロポリエーテルと、2,2’-[[2-エチル-2-[(2-オキシラニルメトキシ)メチル]-1,3-プロパンジイル]ビス(オキシメチレン)]ビス-オキシランとを、溶媒(t-ブチルアルコール)中、ナトリウムt-ブトキシド1gの存在下、70℃で14時間撹拌して粗生成物を得る。その後、得られた粗生成物を水洗し、次いで脱水し、さらに蒸留により精製し、パーフルオロポリエーテル誘導体(下記化合物4-2)を得る。
【化20】
得られた化合物4-2を、実施例3と同様の方法を用いてセチル化し、エステルを導入してフッ素化を行い、その後に還元することにより化合物4を得る。
【0144】
〔実施例5:HOCH
2CH(OH)CF
2OCF
2CF
2O(CF
2CF
2O)
c’CF
2CF
2OCF
2CH(OH)CF
2OCF
2C(CF
2OCF
2CH(OH)CF
2OCF
2CF
2O(CF
2CF
2O)
c’CF
2CF
2OCF
2CH(OH)CH
2OH)
2CF
2OCF
2CH(OH)CF
2OCF
2CF
2O(CF
2CF
2O)
c’CF
2CF
2OCF
2CH(OH)CH
2OH(化合物5)の合成〕
2,2’-[[2-エチル-2-[(2-オキシラニルメトキシ)メチル]-1,3-プロパンジイル]ビス(オキシメチレン)]ビス-オキシランの代わりに、2,2’―[[2,2-ビス[(2-オキシラニルメトキシ)メチル]―1,3-プロパンジイル]ビス(オキシメチレン)]ビス-オキシランを用いたこと以外は実施例4と同様にして、パーフルオロポリエーテル誘導体(下記化合物5-2)および化合物5を得る。
【化21】
〔実施例6:CF
3OC
6F
10OCF
2CH(OH)CF
2OCF
2CF
2CF
2O(CF
2CF
2CF
2O)
d’CF
2CF
2CF
2OCF
2CH(OH)CF
2CF
2CF
2CF
2CH(OH)CF
2OCF
2CF
2CF
2O(CF
2CF
2CF
2O)
d’CF
2CF
2CF
2OCF
2CH(OH)CF
2OC
6F
10OCF
3(化合物6)の合成〕
グリシドールの代わりに、下記構造を有する2-[(4-メトキシフェノキシ)メチル]―オキシランを用い、HOCH
2CF
2O(CF
2CF
2O)
c’OCF
2CH
2OHの代わりに、HOCH
2CF
2CF
2O(CF
2CF
2CF
2O)
d’CF
2CF
2CH
2OHを用いたこと以外は実施例3と同様にして、パーフルオロポリエーテル誘導体(下記化合物6-2)および化合物6を得る。
【化22】
【化23】
〔比較例1:HOCH
2CH(OH)CH
2OCH
2CF
2O(CF
2CF
2O)
c’CF
2CH
2OCH
2CH(OH)CH
2OH(化合物1-2)の合成〕
実施例1の合成中間体として得られたパーフルオロポリエーテルの各末端がジヒドロキシプロポキシ基で修飾された化合物1-2を比較例1の化合物として用いた。化合物1-2は白色ワックス状の固体であり、20℃での密度は1.7g/cm
3であった。化合物1-2のNMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
19F-NMR(溶媒:なし、基準:生成物中のOCF
2CF
2Oを-89.1ppmとする。)
δ=-78.0ppm〔4F〕、δ=-89.1ppm〔25F〕
19F-NMRの結果、化合物1-2においてc=6.3であることが分かった。
【0145】
1H-NMR(溶媒:なし、基準物質:重水中の残留プロトン)
δ=3.2-3.9ppm〔14H〕、δ=4.1ppm〔4H〕
〔比較例2:(HOCH
2)
2CHCH
2CH
2OCH
2CF
2O(CF
2CF
2O)
c’CF
2CH
2OCH
2CH
2CH(CH
2OH)
2(化合物2-2)の合成〕
アルゴン雰囲気下、HOCH
2CF
2O(CF
2CF
2O)
c’CF
2CH
2OH(数平均分子量1590)211gと、2-(2-ブロモエチル)-1,3-プロパンジオール58gとを、カリウムt-ブトキシド33gの存在下、溶媒(t-ブチルアルコール95g)中、70℃で14時間撹拌し、粗生成物を得た。その後、得られた粗生成物を水洗、脱水し、シリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、下記化合物2-2を18g得た。
【化24】
化合物2-2は白色ワックス状の固体であり、20℃での密度は1.7g/cm
3であった。化合物2-2のNMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
19F-NMR(溶媒:なし、基準:生成物中のOCF
2CF
2Oを-89.1ppmとする。)
δ=-78.3ppm〔4F〕、δ=-89.1ppm〔36F〕
19F-NMRの結果、化合物2-2においてc=9.0であることが分かった。
【0146】
1H-NMR(溶媒:なし、基準物質:重水中の残留プロトン)
δ=1.7ppm〔4H〕、δ=2.0ppm〔2H〕、δ=3.1-3.9ppm〔20H〕
〔比較例3:HOCH2CH(OH)CH2OCH2CF2O(CF2CF2O)c’CF2CH2OCH2CH(OH)CH2CH2CH2CH2CH(OH)CH2OCH2CF2O(CF2CF2O)c’CF2CH2OCH2CH(OH)CH2OH(化合物3-2)の合成〕
実施例3の合成時の中間体であるパーフルオロポリエーテル誘導体(化合物3-2)を比較例3の化合物として用いた。
【0147】
化合物3-2は、白色ワックス状の固体であり、20℃での密度は、1.7g/cm3であった。化合物3-2のNMR測定を行い、以下の結果により構造を同定した。
19F-NMR(溶媒:なし、基準物質:生成物中のOCF2CF2Oを-89.1ppmとする。)
δ=-79.0ppm〔8F〕、δ=-89.1ppm〔64F〕
19F-NMRの結果、化合物3-2において、c=8.4であることが分かった。
【0148】
1H-NMR(溶媒:なし、基準物質:重水中の残留プロトン)
δ=1.3ppm〔8H〕、δ=2.5~5.0ppm〔30H〕
〔比較例4:HOCH2CH(OH)CH2OCH2CF2O(CF2CF2O)c’CF2CH2OCH2CH(OH)CH2OCH2C(CH2CH3)(CH2OCH2CH(OH)CH2OCH2CF2(OCF2CF2)c’OCF2CH2OCH2CH(OH)CH2OH)CH2OCH2CH(OH)CH2OCH2CF2O(CF2CF2O)c’CF2CH2OCH2CH(OH)CH2OH(化合物4-2)の合成〕
実施例4の中間体であるパーフルオロポリエーテル誘導体(化合物4-2)を比較例4の化合物として用いる。
【0149】
〔比較例5:HOCH2CH(OH)CH2OCH2CF2(OCF2CF2)c’OCF2CH2OCH2CH(OH)CH2OCH2C(CH2OCH2CH(OH)CH2OCH2CF2(OCF2CF2)c’OCF2CH2OCH2CH(OH)CH2OH)2CH2OCH2CH(OH)CH2OCH2CF2(OCF2CF2)c’OCF2CH2OCH2CH(OH)CH2OH(化合物5-2)の合成〕
実施例5の中間体であるパーフルオロポリエーテル誘導体(化合物5-2)を比較例5の化合物として用いる。
【0150】
〔比較例6:CH3OC6H4OCH2CH(OH)CH2OCH2CF2CF2O(CF2CF2CF2O)d’CF2CF2CH2OCH2CH(OH)CH2CH2CH2CH2CH(OH)CH2OCH2CF2CF2O(CF2CF2CF2O)d’CF2CF2CH2OCH2CH(OH)CH2OC6H4OCH3(化合物6-2)の合成〕
実施例6の中間体であるパーフルオロポリエーテル誘導体(化合物6-2)を比較例6の化合物として用いる。
【0151】
〔TGによる酸化安定性評価〕
熱重量測定装置(日立ハイテクサイエンス製、STA200)を使用して、実施例および比較例で得られたフルオロポリエーテル化合物の酸化安定性評価を行った。各フルオロポリエーテル化合物をそれぞれ5mgとり、プラチナ製容器に入れて、窒素雰囲気下および空気雰囲気下でそれぞれ、昇温速度2℃/分で550℃まで加熱した。窒素雰囲気下において潤滑剤の質量が20%質量減少したときの温度<1>、空気雰囲気下において潤滑剤の質量が20%質量減少したときの温度<2>、および、温度<1>と温度<2>との差を表1に示す。
【表1】
表1より、実施例1~3のフルオロポリエーテル化合物は窒素中と酸素が含まれる雰囲気中における20%質量減少温度に差がなかった。一方、比較例1~3のフルオロポリエーテル化合物は、窒素中と比較して酸素が含まれる空気雰囲気中における20%質量減少温度が低下した。また、空気雰囲気下においてフルオロポリエーテル化合物が20%質量減少したときに加熱を止め、プラチナ製容器中に残っている化合物を分析したところ、比較例のフルオロポリエーテル化合物では炭化水素エーテル部位で分解している構造を有する化合物が確認されたが、実施例ではそのような化合物は確認されなかった。これらの結果より、比較例のフルオロポリエーテル化合物は空気中に含まれる酸素による酸化分解を受けるが、実施例のフルオロポリエーテル化合物は酸素による酸化分解を受けないことがわかった。したがって、実施例のフルオロポリエーテル化合物を、潤滑剤として用いる場合、高温且つ酸素が含まれる雰囲気中においても、潤滑剤の分解が起こりにくいと言える。なお、本試験により、フルオロポリエーテル化合物自体の酸化安定性を評価した。磁気ディスクに塗布した場合の安定性については後述する。
【0152】
〔磁気ディスク上に形成した潤滑層の安定性評価〕
実施例1および比較例1で得られたフルオロポリエーテル化合物を潤滑剤として用いて磁気ディスク上に形成した潤滑層の安定性評価を行った。具体的には、実施例1および比較例1で得られたフルオロポリエーテル化合物を、それぞれVETREL XF(三井・ケマーズ・フロロプロダクツ製)に溶解させて希釈した。こうして希釈した潤滑剤を、ディップ法にて、磁気ディスクに、潤滑層の膜厚が0.7nmになるように塗布した。潤滑層の膜厚はFT-IR(Bruker製、VERTEX70)を用いて測定した。潤滑剤が塗布された磁気ディスクに、窒素雰囲気下で紫外線(254nmと185nmの混合波長)を任意の時間(実施例1の潤滑剤は40秒間、比較例1の潤滑剤は20秒間)照射した。その後、磁気ディスクをVERTREL-XFとメタノールの混合溶液(VERTREL-XF:メタノール=66:33v/v)に3分間浸漬し、磁気ディスクと結合していない潤滑剤分子を洗い流し(リンス)、潤滑剤膜が形成された磁気ディスクを得た。なお、紫外線の照射時間はリンス後の潤滑剤の膜厚が同じになるように設定した。この磁気ディスクを空気雰囲気下、150℃のオーブン(ヤマト科学製、Clean Oven DE42)で加熱し、加熱時間ごとの膜厚を測定し膜厚残存率を算出した。加熱時間と各潤滑剤膜の膜厚残存率を表2に示す。
【表2】
表2より、比較例1の潤滑剤に比べて実施例1の潤滑剤は60分後も高い膜厚残存率を示すことがわかった。なお、TGによる酸化安定性評価では、空気雰囲気下での20%質量減少温度は実施例1より比較例1の方が高かった。TGによる20%質量減少温度は、潤滑剤の酸化安定性だけではなく潤滑剤の沸点が影響するためである。しかし、磁気ディスクに潤滑剤を塗布し紫外線処理を行った場合、ディスク上の潤滑剤分子はディスク表面と結合した状態の膜を形成するため、実施例1の潤滑層は磁気ディスク上において、高い酸化安定性および耐熱性を示すことが示された。
【0153】
〔紫外線に対する潤滑層の安定性評価〕
実施例1および比較例1で得られたフルオロポリエーテル化合物を潤滑剤として用いて磁気ディスク上に形成した潤滑層の紫外線に対する安定性評価を行った。具体的には、実施例1および比較例1で得られたフルオロポリエーテル化合物をそれぞれVETREL-XF(三井・ケマーズ・フロロプロダクツ製)に溶解させて希釈した。こうして希釈した潤滑剤を、ディップ法にて、磁気ディスクに潤滑層の膜厚が8Åになるように塗布した。潤滑層の膜厚はFT-IR(Bruker製、VERTEX70)を用いて測定した。潤滑剤が塗布されたディスクに窒素雰囲気下で紫外線(254nmと185nmの混合波長)を20秒間照射した。その後、ディスク上の膜厚を測定し、紫外線照射前と比べて紫外線照射後に減少した膜厚の割合を算出した。その結果を表3に示す。
【表3】
表3より実施例1の潤滑剤は、比較例1の潤滑剤よりも紫外線照射前後の膜厚の減少が少ないことがわかった。すなわち、実施例1の潤滑剤は優れた紫外線耐性を持つことが示された。