(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052302
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】マスク方法及びマスク部材
(51)【国際特許分類】
B05D 1/36 20060101AFI20240404BHJP
H05K 3/28 20060101ALI20240404BHJP
B05B 12/20 20180101ALI20240404BHJP
【FI】
B05D1/36 B
H05K3/28 C
B05B12/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158920
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】313001332
【氏名又は名称】積水ポリマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106220
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 正悟
(72)【発明者】
【氏名】川口 亜星ウイリアム
【テーマコード(参考)】
4D073
4D075
5E314
【Fターム(参考)】
4D073DB03
4D073DB06
4D073DB13
4D073DB21
4D073DB31
4D075AA01
4D075AD11
4D075BB05Z
4D075BB56Y
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA06
4D075DB48
5E314AA24
5E314BB02
5E314BB11
5E314CC03
5E314EE09
5E314GG24
(57)【要約】
【課題】塗装の対象となる被塗装部材に塗装を施す場合に、塗液の付着を避けるべき部位に塗液が付着することを防止するための方法と、それに用いるマスク部材を得ること。
【解決手段】被塗装部材10の支持具30と前記被塗装部材10との間にマスク部材20を介在させて、前記被塗装部材10の非塗装面部への塗装を防ぐマスク方法であって、前記マスク部材20は、厚みが0.3mm以上10mm以下であり、硬度がA20以下であり、ヘプタン、酢酸ブチル又はシクロペンタノンの少なくとも何れかの溶剤への室温での10分間浸漬後の重量増加率が30%以上300%以下の溶剤吸収性を有するゴム状弾性体であり、前記非塗装面部の少なくとも外縁を前記マスク部材20に対向して配置するマスク方法、及びそれに用いるマスク部材20とした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗装部材の支持具と前記被塗装部材との間にマスク部材を介在させて、前記被塗装部材の非塗装面部への塗装を防ぐマスク方法であって、
前記マスク部材は、厚みが0.3mm以上10mm以下であり、硬度がA20以下であり、ヘプタン、酢酸ブチル又はシクロペンタノンの少なくとも何れかの溶剤への室温での10分間浸漬後の重量増加率が30%以上300%以下の溶剤吸収性を有するゴム状弾性体であり、
前記非塗装面部の少なくとも外縁を前記マスク部材に対向して配置するマスク方法。
【請求項2】
前記マスク部材の外縁は、前記非塗装面部の外縁と同じか又はその外縁よりも広い
請求項1記載のマスク方法。
【請求項3】
前記マスク部材に対して前記被塗装部材と前記支持具の挟持力を付与する工程を設けた
請求項1記載のマスク方法。
【請求項4】
前記マスク部材は、その表裏両面を貫通する通気孔を備えるものであり、
前記支持具は、前記マスク部材の支持面と前記支持具の外側を連通する連通孔を備えるものであり、
前記挟持力はバキューム減圧吸引で付与する
請求項3記載のマスク方法。
【請求項5】
厚みが0.3mm以上10mm以下であり、
硬度がA20以下であり、
ヘプタン、酢酸ブチル又はシクロペンタノンの少なくとも何れかの溶剤への室温での10分間浸漬後の重量増加率が30%以上300%以下の溶剤吸収性を有するゴム状弾性体であるマスク部材。
【請求項6】
前記ゴム状弾性体が、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、シリコーンゴム、エピクロルヒドリンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム又はアクリルゴムの少なくとも何れかである
請求項5記載のマスク部材。
【請求項7】
表裏両面を貫通する通気孔を備える
請求項5記載のマスク部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装の対象となる被塗装部材の塗装面以外に塗液が付着することを防止するためのマスク方法と、この方法に用いるマスク部材に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品等の表面に何らかの機能性膜を形成する方法としては、マスキング機能を発揮する高粘度樹脂材をディスペンサーで塗装する方法、又は静電気力によって粉体塗料を電子部品に塗装する方法等が知られている。前者の例としては例えば特開平11-121914号公報(特許文献1)に、後者の例としては例えば公開2011-92872号公報(特許文献2)に、それぞれその技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-121914号公報
【特許文献2】特開2011-92872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特開平11-121914号公報(特許文献1)に記載の技術は、既に基板上に実装された電子部品の表面全体を高粘度樹脂で覆う技術であり、高粘度樹脂で覆ってはいけない部位が存在せず、塗布する目的箇所以外へ高粘度樹脂が回り込む、といった課題が存在しなかった。また、公開2011-92872号公報(特許文献2)に記載の技術は、静電塗装法であり、所望の部位とそれ以外の部位を導電性と非導電性部位とに分ける必要があり、一部材の中でのそうした区分を行うのは困難であった。このような技術が存在する一方で、電子部品等の被塗装部材を塗装する場合に、塗装すべきでない部位への塗料等の塗装材の回り込みを防止する有効な手段はなかった。
【0005】
例えば、金属製又は樹脂製の導電性又は非導電性の電子部品(被塗装部材)にスプレー塗装を施す場合に、塗装を欲する部位は電子部品の表面及び側面であるが、塗液が裏面に回り込み、塗装を欲しない電子部品の裏面の一部が塗装される不具合が生じることがあった。本発明は、塗装の対象となる被塗装部材に塗装を施す場合に、塗液の付着を避けるべき部位に塗液が付着することを防止するための方法と、それに用いるマスク部材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、被塗装部材の支持具と前記被塗装部材との間にマスク部材を介在させて、前記被塗装部材の非塗装面部への塗装を防ぐマスク方法であって、前記マスク部材は、厚みが0.3mm以上10mm以下であり、硬度がA20以下であり、ヘプタン、酢酸ブチル又はシクロペンタノンの少なくとも何れかの溶剤への室温での10分間浸漬後の重量増加率が30%以上300%以下の溶剤吸収性を有するゴム状弾性体であり、前記非塗装面部の少なくとも外縁を前記マスク部材に対向して配置するマスク方法である。
【0007】
本開示の一態様によれば、被塗装部材の支持具と前記被塗装部材との間にマスク部材を介在させて、前記被塗装部材の非塗装面部への塗装を防ぐマスク方法について、前記マスク部材を、厚みが0.3mm以上10mm以下であり、硬度がA20以下であり、ヘプタン、酢酸ブチル又はシクロペンタノンの少なくとも何れかの溶剤への室温での10分間浸漬後の重量増加率が30%以上300%以下の溶剤吸収性を有するゴム状弾性体としたため、被塗装部材の非塗装面部への少なくとも外縁がマスク部材に密着することで、塗装時に非塗装面部への塗液の流入を阻止することができる。
【0008】
本開示の一態様は、前記マスク部材の外縁は、前記非塗装面部の外縁と同じか又はその外縁よりも広いマスク方法である。
本開示の一態様について、前記マスク部材の外縁を前記非塗装面部の外縁と同じか又はその外縁よりも広くしたため、非塗装面部の外縁が前記マスク部材によって覆うことができ、非塗装面部の周囲に塗液の流入箇所を生じ難くすることができる。
【0009】
本開示の一態様は、前記マスク部材に対して前記被塗装部材と前記支持具の挟持力を付与する工程を設けたマスク方法である。
本開示の一態様を、前記マスク部材に対して前記被塗装部材と前記支持具の挟持力を付与する工程を設けたため、被塗装部材とマスク部材を密着させることができる。そのため、塗装時等に被塗装部材がマスク部材から剥がれることを防止できる。
【0010】
本開示の一態様は、前記マスク部材は、その表裏両面を貫通する通気孔を備えるものであり、前記支持具は、前記マスク部材の支持面と前記支持具の外側を連通する連通孔を備えるものであり、前記挟持力はバキューム減圧吸引で付与するマスク方法とすることができる。
【0011】
本開示の一態様を、前記マスク部材は、その表裏両面を貫通する通気孔を備えるものであり、前記支持具は、前記マスク部材の支持面と前記支持具の外側を連通する連通孔を備えるものであり、前記挟持力はバキューム減圧吸引で付与するマスク方法としたため、被塗装部材とマスク部材との密着力をバキューム減圧吸引で行うことができる。したがって、被塗装部材とマスク部材との密着性を高めることができ、バキューム減圧吸引の吸引力を調整することで、被塗装部材とマスク部材との密着力を調整することができる。
【0012】
本開示の一態様は、厚みが0.3mm以上10mm以下であり、硬度がA20以下であり、ヘプタン、酢酸ブチル又はシクロペンタノンの少なくとも何れかの溶剤への室温での10分間浸漬後の重量増加率が30%以上300%以下の溶剤吸収性を有するゴム状弾性体であるマスク部材とすることができる。
本開示の一態様を、厚みが0.3mm以上10mm以下であり、硬度がA20以下であり、ヘプタン、酢酸ブチル又はシクロペンタノンの少なくとも何れかの溶剤への室温での10分間浸漬後の重量増加率が30%以上300%以下の溶剤吸収性を有するゴム状弾性体であるマスク部材としたため、被塗装部材の非塗装面部への少なくとも外縁がマスク部材に密着することで塗装時に非塗装面部への塗液の流入を阻止することができる。
【0013】
本開示の一態様は、前記ゴム状弾性体が、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、シリコーンゴム、エピクロルヒドリンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム又はアクリルゴムの少なくとも何れかであるマスク部材とすることができる。
【0014】
本開示の一態様を、前記ゴム状弾性体が、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、シリコーンゴム、エピクロルヒドリンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム又はアクリルゴムの少なくとも何れかであるマスク部材としたため、硬度がA20以下であり、ヘプタン、酢酸ブチル又はシクロペンタノンの少なくとも何れかの溶剤への室温での10分間浸漬後の重量増加率が30%以上300%以下の溶剤吸収性を有する性質を得られやすい。
【0015】
本開示の一態様は、表裏両面を貫通する通気孔を備えるマスク部材とすることができる。本開示の一態様を、表裏両面を貫通する通気孔を備えるマスク部材としたため、バキューム減圧吸引を採用することができ、被塗装部材とマスク部材との密着性の調整が容易である。
【発明の効果】
【0016】
本開示の一態様によれば、被塗装部材の非塗装面部への塗液の付着を防止することができる。
本開示の一態様によれば、被塗装部材への塗液の塗装が容易であり、生産効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】第1実施形態によるマスク方法の一工程で出現する被塗装部材の載置構造の模式図であり、分
図1Aはその平面図、分
図1Bはその正面図である。
【
図4】第2実施形態によるマスク方法の一工程で出現する被塗装部材の載置構造の模式図であり、分
図4Aはその平面図、分
図4Bはその正面図である。
【
図5】第3実施形態によるマスク方法の一工程で出現する被塗装部材の載置構造の模式図であり、分
図5Aはその正面図、分
図5Bはその底面図である。
【
図8】本開示の一態様によるマスク部材を模式的に示した平面図である。
【
図9】本開示の別の一態様によるマスク部材を模式的に示した平面図である。
【
図10】本開示のまた別の一態様によるマスク部材を模式的に示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示を実施形態に基づいて説明する。以下に説明する実施形態は、本開示の一態様であり、特許請求の範囲の記載を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0019】
本開示の一態様にて示す「範囲」は、下限及び上限の形式で限定され、「所定範囲」は、範囲の境界を特定する1つの下限値と1つの上限値を選定することにより限定される。そのように限定される範囲は、端値を含んでもよく含まなくてもよい。即ち、任意の下限値と任意の上限値とを組み合わせて1つの範囲を形成してもよい。例えば、特定のパラメータに対して5~10と6~9の範囲がリストアップされた場合、5~9と6~10の範囲も理解され得る。列挙された最小範囲値が1と2で、かつリストアップされた最大範囲値が3、4と5である場合、1~3、1~4、1~5、2~3、2~4と2~5の範囲は、全て想定し得る。本開示の中に別段の記載がない限り、数値範囲「a~b」「a以上b以下」は、aないしbの間の全ての実数の組み合わせを簡略に表すものであり、ここでaとbは何れも実数である。例えば、数値範囲「0~5」は、本明細書で「0~5」の間の全ての実数がリストアップされていることを意味し、「0~5」はこれら数値の組み合わせの省略表示にすぎない。また、あるパラメータ≧2の整数であると記述している場合、このパラメータは例えば、整数2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12などであることを開示していることに相当する。
【0020】
本開示に含む全ての実施形態及び選択可能な実施形態は、互いに組み合わせて新たな技術案を形成してもよい。
【0021】
本出願の全ての技術的特徴及び選択可能な技術的特徴は、互いに組み合わせて新たな技術案を形成してもよい。
【0022】
特に説明されていない限り、本開示の方法における全てのステップは、順次又はランダムに行われてもよい。例えば前記方法がステップSaとステップSbとを含むことは、前記方法が順次行われるステップSaとステップSbとを含んでもよく、順次行われるステップSbとステップSaとを含んでもよい。例えば前記方法がステップScをさらに含んでもよいことは、ステップScを任意の順で前記方法に追加できることでもある。例えば前記方法は、ステップSa、Sb、Scを含んでもよく、ステップSa、Sc、Sbを含んでもよく、ステップSc、SaとSbなどを含んでもよい。
【0023】
本開示で使用する「含む」と「包含」は、開放型を表し、閉鎖型であってもよい。例えば、前記「含む」と「包含」は、リストアップされていない他の成分をさらに含み又は包含してもよく、リストアップされた成分のみを含み又は包含してもよい。
【0024】
本開示で使用する用語「又は」は包括的である。例えば、「A又はB」という語句は、「A、B、又はAとBの両方」を表す。より具体的には、Aが真であり(又は存在し)且つBが偽であり(又は存在せず)、Aが偽であり(又は存在せず)且つBが真であり(又は存在し)、又はAとBが何れも真である(又は存在する)、という3つの条件は、何れもそれぞれが「A又はB」を満たす。
【0025】
本明細書及び特許請求の範囲において「第1」及び「第2」と記載する場合、それらは、異なる構成要素を区別するために用いるものであり、特定の順序や優劣等を示すために用いるものではない。また、各実施形態で共通する構成で同一の効果を奏するものについては、同一符号を付して重複説明を省略する。
【0026】
<マスク部材>
本実施形態で説明するマスク部材20は、電子部品等の被塗装部材10を塗装する際に、塗装しない部位への塗液の付着を防止するために用いる部材であり、厚みが0.3mm以上10mm以下で、硬度がA20以下のゴム状弾性体からなり、ヘプタン、酢酸ブチル又はシクロペンタノンの少なくとも何れかの溶剤への室温で10分間浸漬後の重量増加率が30%以上300%以下の溶剤吸収性を有するものである。
【0027】
マスク部材20の厚みは、0.3mm以上10mm以下であることが好ましく、0.8mm以上8mm以下であることがより好ましい。厚みが0.3mm以上10mm以下であると、被塗装部材10の非塗装面に凹凸があってもその形状に追従して密着し易く、マスク部材20からの被塗装部材10の取り外しもまた容易だからである。厚みが0.3mmより薄いと千切れやすく取扱いにくい。そして、マスク部材20の厚みが0.8mm以上8mm以下であれば、より取り扱い性に優れる。
【0028】
マスク部材20の硬度は、A20以下であることが好ましく、A15以下がより好ましい。硬度がA20以下であると、被塗装部材10の非塗装面の凹凸形状にマスク部材20が追従し易いからである。A15以下であれば前記追従性が高まるからである。なお、A硬度は、JIS K 6253-3:2012に準拠して、温度23℃にてタイプAデュロメータを用いて測定した結果とすることができる。
【0029】
マスク部材20が低硬度で柔軟である指標として針入度を挙げると、針入度が5以上150以下であることが好ましい。針入度が5以上であると、被塗装部材10の裏面(底面)に凹凸があってもその形状に追従して密着し易く、10以上であるとより密着し易い。また、針入度が150以下、好ましくは130以下であれば、被塗装部材10の裏面の凹凸形状に追従して凹凸に入り込んでも、マスク部材20から被塗装部材10を取り外してマスク部材20を除去することができる。針入度が150を超えると柔らかすぎて千切れやすく取り扱いにくい。
【0030】
マスク部材20は、前記低硬度で柔軟性があるという特徴に加えて、圧縮永久歪みが小さいことが好ましい。例えば、70℃で22時間圧縮時の圧縮永久歪みは50%以下であると好ましい。
【0031】
マスク部材20は、塗液に用いられている溶剤に対して溶剤吸収性があることが好ましい。具体的には、塗液に含まれる溶剤に対して、マスク部材20を室温で10分間浸漬した後の重量増加率が300%以下であることが好ましい。重量増加率が300%を超えると、マスク部材20が溶剤を吸収しすぎて膨潤しすぎることで、接している被塗装部材10を汚す可能性がある。また、被塗装部材10にマスク部材20が密着して、マスク部材20を被塗装部材10から引き剥がし難くなる。
【0032】
そうした一方で、マスク部材20は、塗液に含まれる溶剤に対して適量の吸収を起こすことが好ましい。例えば、塗液に含まれる溶剤に対してマスク部材20を室温で10分間浸漬した後の重量増加率が30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましい。適量の溶剤吸収を生じることで、被塗装部材10とマスク部材20との間隙が埋まり塗液の周り込みを生じ難くするからである。したがって、塗液に含まれる溶剤に対してマスク部材20を室温で10分間浸漬した後の重量増加率が30%以上300%以下である材質が好ましく、その重量増加率が40%以上300%以下である材質がより好ましい。
【0033】
なお「溶剤吸収性」は、マスク部材20に対して塗液に含まれる溶剤が適量浸み込んで吸収することだけでもよく、マスク部材20は必ずしも膨潤して膨らむことを必要としない。マスク部材20に溶剤が浸み込んで吸収されることで、塗液が粘度上昇して流動性が低下し、間隙への浸入や回り込み防止の効果が得られるからである。さらに吸収が進むとマスク部材20が膨潤して膨らむため、被塗装部材10とマスク部材20との間隙が埋まり易くなり、塗液の周り込みをより生じ難くすることができる。
【0034】
塗液に含まれる溶剤としては、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、メタノール、IPA、ブタノール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート等のエステル類、アセトン、MEK、MIBK、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン類、ブチルセロソルブ等のグリコールエーテル類、パークロルエチレン等の塩素化炭化水素、その他の溶剤、シンナー類、混合溶剤などが挙げられる。
【0035】
前記溶剤の中でも代表的な溶剤に対する浸漬での所定の重量増加率を規定すれば、汎用性の高いマスク部材20を得ることができることから、ヘプタン、酢酸ブチル又はシクロペンタノンの少なくとも何れかの溶剤への室温で10分間浸漬後の重量増加率が30%以上300%以下である性質を有するゴム状弾性体としている。
【0036】
前記性質を有するマスク部材20の材質は、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、シリコーンゴム、エピクロルヒドリンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム又はアクリルゴムの少なくとも何れかの架橋したゴム状弾性体であることが好ましい。これらの材質は、硬度がA20以下の柔軟性を有し、所定の溶剤に対する所定の重量増加率を30%以上300%以下にすることができるからである。そうした一方で、ニトリルゴムやフッ素ゴムは硬度が高く除外され、熱可塑性エラストマーは耐溶剤性に劣るため除外される。
【0037】
マスク部材20にはゴム状弾性体を主に含む他、次の各種成分を副成分として含有することができる。
一つには、主成分であるゴム状弾性体を軟化させるための軟化剤又は可塑剤が挙げられる。軟化剤又は可塑剤としては、パラフィンワックス又はパラフィンオイル等のワックス類又はオイル類、フタル酸エステル等のフタル酸系可塑剤、クエン酸エステル等のクエン酸系可塑剤、アジピン酸系可塑剤を例示できる。
また、すべり性を良くするための滑剤が挙げられ、例えばステアリン酸又はステアリン酸アミド等の脂肪酸、脂肪酸アミド等を例示できる。
【0038】
また、モノマー成分や未架橋ゴム材料を架橋させる架橋剤が挙げられる。架橋剤としては、硫黄架橋剤、過酸化物架橋剤、脱塩素架橋剤等を例示できる。さらにまた、チキソ性を高めたり粘度調整をしたりする充填剤が挙げられる。充填剤としては、カーボンブラック、炭酸カルシウム又はカオリン等を例示できる。そしてまた、粘度調整材として、ゴム状弾性体の中でも熱可塑性エラストマーを挙げることができる。これらの成分を含め、それ以外の添加剤として、老化防止剤、オゾン劣化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、酸化亜鉛等の加硫促進剤、加硫促進助剤、受酸剤等を必要に応じて含有させることもできる。なお、主成分であるゴム状弾性体100重量部に対して、前記副成分の合計は1重量部以上200重量部以下とすることができる。
【0039】
マスク部材20の形状は、後述する
図1から
図4で示す平板状のマスク部材20aとすることができ、その外縁は被塗装部材10の非塗装面部の外縁と同じか又はその外縁よりも広くすることが好ましい。ここで非塗装面部とは、非塗装面の中でも塗装を排除すべき部位をいう。例えば、被塗装部材10が直方体形状であるとして、その表面及び側面を塗装面とし、裏面を非塗装面として塗装する場合に、裏面全体に対する塗装を排除すべきであれば、その裏面全体が非塗装面部であるが、その裏面のうち縁側を除く内側中央部分に電子部品の端子部等を有するのでそうした部分の塗装を排除すべきなのであれば、裏面のうちの内側中央部分が非塗装面部となる。
【0040】
被塗装部材10の裏面全体を非塗装面部とすれば、非塗装面部の外縁、即ち、裏面の外縁と同じか又はその外縁よりも広く裏面の外縁を網羅する大きさにマスク部材20を形成することが好ましい。
図1から
図3には被塗装部材10の裏面の外縁よりも広い大きさに形成したマスク部材20aを、
図4には被塗装部材10の裏面の外縁と同じ大きさに形成したマスク部材20bをそれぞれ示す。このようにすれば、非塗装面部の外縁とマスク部材20(20a,20b)の境界から塗液が非塗装面部に浸入することを防止し、非塗装面部が塗装されるのを防ぎ易いからである。
【0041】
マスク部材20の内側の形状は、特に制限されるものではなく、前記外縁に囲まれる形状である他、一部に貫通孔22を有する形状とすることもできる。
図5から
図10には貫通孔22を設けたマスク部材20(20C,20D,20E)を示す。こうした貫通孔22を有する形状であっても、少なくとも、非塗装面部の外縁にマスク部材20が配置されれば、その用途を発揮し得るからである。
【0042】
<マスク方法>
以下の各実施形態では、被塗装部材10の支持具30(30a,又は30c)と前記被塗装部材10との間にマスク部材20(20a,320b,20c,20d,又は20e)を介在させて、前記被塗装部材10の非塗装面部への塗装を防ぐマスク方法について説明する。ここでは何れの実施形態においても、支持具30の上にマスク部材20を載置し、マスク部材20の上に被塗装部材10を載置して、塗液を被塗装部材10に塗布することで、被塗装部材10の表面及び側面を塗装し、その裏面には塗装しない態様である。
【0043】
第1実施形態:
本実施形態で説明するマスク方法は、前記マスク部材20a(20)を利用する方法である。そしてまた、マスク部材20aを載置した支持具30aの上に被塗装部材10を載置して、その被塗装部材10を押圧する方法である。押圧力は、被塗装部材10の自重によるもの、又は被塗装部材10をマスク部材20a上に載置する際に、被塗装部材10をマスク部材20aに押し込む力である。この押圧力が、被塗装部材10と支持具30aとの間でマスク部材20aを挟持する挟持力となって、マスク部材20aが被塗装部材10に密着する。その後、スプレー塗布等の方法で塗液を被塗装部材10に塗布することで、被塗装部材10の表面10a及び側面10bが塗装されるが、その裏面10cはマスク部材20aに覆われることで、非塗装面部のある裏面10cが塗装されることを防止する。塗液の塗布後に塗液を乾燥させた後、被塗装部材10をピックアップすることで所望の部分が塗装された被塗装部材10を得ることができる。被塗装部材10とマスク部材20aとの密着は押圧力によるので、ピックアップの際にマスク部材20aを被塗装部材10から引き剥がす過剰な力は不要である。被塗装部材10への押圧は、押圧パッドのような部材を用い、被塗装部材10からマスク部材20a方向に押しつけることで行うことができる。
【0044】
支持具30は金属製であってもプラスチック製であっても良く、マスク部材と被塗装部材を載置し得るものであればその形状、構造は限定されない。
図1及び
図4には、マスク部材20aとの接触面が平面状に表れる支持具30aを示す。被塗装部材10は、その一部に塗装を施す対象となるものであり、電子部品等が挙げられる。塗液は、被塗装部材10に塗装されてその一部を被覆するものであり溶剤を含有する塗料等を例示できる。塗装する手段はスプレー塗装、ディスペンサー塗装、インクジェット塗装、その他の塗装手段を挙げることができるが、被塗装部材10の表面10aや側面10bの全体を塗装するような比較的広範囲を一度に塗装できる塗装方法を好適に利用できる。
【0045】
マスク部材20aは、厚みが0.3mm以上10mm以下の平板状であり、硬度がA20以下であり、ヘプタン、酢酸ブチル又はシクロペンタノンの少なくとも何れかの溶剤への室温での10分間浸漬後の重量増加率が30%以上300%以下の溶剤吸収性を有する前記マスク部材を好適に用いることができる。こうした材質のものを用いれば、被塗装部材10を押圧することで撓み、被塗装部材10に密着させることができるからである。
【0046】
マスク部材20aの形状を図面で説明すると次のとおりである。
図1には、支持具30aの上にマスク部材20aを載置し、さらにその上に被塗装部材10を載置した状態、即ちマスク方法の一工程で出現する被塗装部材10の載置構造1、を模式的に表した平面図と正面図を示す。これらの図面で示すように、被塗装部材10の裏面10cの外縁よりも、マスク部材20aの外縁のほうが大きく、さらにマスク部材20aの外縁よりも支持具30aの外縁のほうが大きくなるように形成されている。
【0047】
本実施形態では被塗装部材10の非塗装面が裏面10cであるので、その裏面10cの外縁よりも広幅のマスク部材20aを用いている。マスク部材20aの外縁を被塗装部材10の裏面10cの外縁よりも広くすることで、被塗装部材10とマスク部材20aを密着させれば、被塗装部材10の裏面への塗液の回り込みを防ぐことができるからである。ここで、マスク部材20aに前記範囲の重量増加率となる材質を用いているので、塗液が塗布されると、
図1Aの部分拡大図で示すように、被塗装部材10とマスク部材20aの境界より外側で溶剤を吸収し、さらにややマスク部材20aが膨らみ、膨らみ部21を形成して、塗液の浸入をより防止できると考えられる。
【0048】
第2実施形態:
本実施形態で説明するマスク方法も、前記マスク部材20b(20)を利用する方法の一態様である。
図4には、支持具30a(30)の上にマスク部材20b(20)を載置し、さらにその上に被塗装部材10を載置した状態、即ちマスク方法の一工程で出現する被塗装部材10の載置構造2、を模式的に表した平面図と正面図を示す。
本実施形態では、
図4で示すように、被塗装部材10の裏面10cの外縁と、マスク部材20bの外縁とを同じ外形とし、マスク部材20bの外縁よりも支持具30aの外縁のほうが大きくなるように形成されている。
本実施形態では被塗装部材10の非塗装面が裏面10cであるので、その裏面10cの外縁と同じ外形のマスク部材20bを用いている。マスク部材20bの外縁を被塗装部材10の裏面10cの外縁と同じにすることで、被塗装部材10とマスク部材20bを密着させれば、被塗装部材10の裏面への塗液の回り込みを防ぐことができるからである。ここで、マスク部材20bに前記範囲の重量増加率となる材質を用いているので、塗液が塗布されると、
図4の部分拡大図で示すように、被塗装部材10とマスク部材20bの境界より下側で溶剤吸収し、さらにややマスク部材20bが膨らみ、膨らみ部21を形成して、塗液の浸入をより防止できると考えられる。
【0049】
第3実施形態:
本実施形態で説明するマスク方法も、前記マスク部材20c(20)を利用する方法の一態様である。
本実施形態では、マスク部材20cを載置した支持具30cの上に被塗装部材10を載置して、その後、バキューム減圧吸引によって、マスク部材20cに対して被塗装部材10と支持具30cとの間で挟む挟持力が付与され、マスク部材20cは被塗装部材10に密着する。その後の塗装方法は前記実施形態で説明した方法と同じであるが、被塗装部材10の取り出しの際には、バキューム吸引を停止して被塗装部材10とマスク部材20cの密着を解く必要がある。
【0050】
本実施形態のマスク部材20cも前記と同様の材質のものを用いることができるが、その形状は、マスク部材20cの表裏両面を貫通する貫通孔22を備えるものが必要である。塗装雰囲気内で吸引して被塗装部材10をマスク部材20cに対して引きつけるためである。そのため、貫通孔22の数や形状は適宜定めることができるが、その大きさは、被塗装部材10をマスク部材20cに密着させるのに必要な吸引ができる程度には大きく形成する必要がある。
【0051】
貫通孔22を有するマスク部材20cの形状の一態様を、図面を用いて説明する。
図5には、支持具30cの上にマスク部材20cを載置し、さらにその上に被塗装部材10を載置した状態、即ちマスク方法の一工程で出現する被塗装部材10の載置構造3、を模式的に表した平面図と正面図を示す。
図6は
図5AのVI-VI線断面図であり、
図7は
図5AのVII-VII線断面図である。
図6で示すように、マスク部材20cの外形は、被塗装部材10の裏面の外縁と同形状の略正方形で、被塗装部材10裏面の外縁より一回り大きくした外縁を有している。また、被塗装部材10の裏面の外縁より一回り小さくした外縁を有する貫通孔22を有している。よって、マスク部材20cは中央に貫通孔22を有する環状に形成されている。
図8にはこのマスク部材20cの平面図を示す。
【0052】
前記貫通孔22を有するマスク部材20cは環状となるため、支持具30c上に載置する際の取り扱い性に劣ることから、マスク部材20cの外環25を支える骨部23を備える形状とすることもできる。この骨部23を備えるマスク部材20dを
図9に示す。さらに、被塗装部材10の端子等が集中する非塗装面部が貫通孔22の開口に臨むのを避けたり、骨部23の補強としたりするために、中央に広面部24を備える形状とすることもできる。この広面部24を備えるマスク部材20eを
図10に示す。
【0053】
支持具30cもまた、塗装雰囲気内で吸引して被塗装部材10とマスク部材20c,20d,20eとを支持具30cに対して引きつける必要があるため、支持具30cの形状は、マスク部材20c,20d,20eを載置する面となるマスク部材20c,20d,20eの支持面と、支持具30cの外側とを連通する連通孔32を備えるものが必要である。連通孔32の数や形状は適宜定めることができるが、その大きさは、被塗装部材10とマスク部材20c,20d,20eを支持具30cに密着させるのに必要な吸引ができる程度には大きく形成する必要がある。
図5には連通孔32を設けた支持具30cを示している。
【0054】
連通孔32の形状を例示すると、マスク部材20c,20d,20eの支持面となる表面と、裏面(底面)とに開口部を設けて筒状に形成されたコレット(図示せず)や、支持部以外の開口部を側面に設けた構造の支持具(図示せず)とすることができる。
【0055】
そしてバキューム減圧吸引を行うには、減圧チャンバー(図示せず)内に支持具30cを置き、その上にマスク部材20c,20d,20e、被塗装部材10を順次載置する。そしてコンプレッサー等(図示せず)によりエアーを吸引しチャンバー内を減圧し、その減圧状態をキープする。このとき、その減圧力によって、被塗装部材10はマスク部材20c,20d,20eに密着する。その後の塗液の塗布方法は前記実施形態で説明した方法と同様である。塗装が完了すれば、チャンバー内を開放し減圧を解くことで被塗装部材10をマスク部材20c,20d,20eから取り外すことができる。
【0056】
バキューム減圧吸引で被塗装部材10がマスク部材20c,20d,20eに引きつけられるには、大気圧以下(760mmHg以下)に減圧されること、好ましくは0.5気圧以下(380mmHg以下)に減圧されることが好ましく、そうした減圧による密着力が得られる。
【0057】
第4実施形態:
本実施形態で説明するマスク方法(図示せず)は、前記マスク部材と被塗装部材の密着のために粘着テープ等の両面テープを利用する方法である。
本実施形態では、被塗装部材の裏面の外縁に沿って両面テープを貼り付け、被塗装部材の裏面の外縁よりも大きなマスク部材を貼り付ける。こうして、粘着テープの粘着力により被塗装部材にマスク部材が密着する。その後の塗装工程は前記実施形態と同じであるが、塗装部材を支持具から取り外すには、被塗装部材を両面テープが貼り付いたマスク部材から剥がす必要がある。被塗装部材側に両面テープが残ると、マスク部材の取り外しに加え、両面テープを取り外すことになり余分な手間がかかるからである。そのため、マスク部材から被塗装部材を取り外すには、両面テープが被塗装部材側に残らないように注意する必要がある。
【0058】
よって、両面テープの選定には、被塗装部材に対する粘着よりもマスク部材に対する粘着力が高い材質の両面テープとするか、被塗装部材に対する粘着よりもマスク部材に対する粘着力が高くなるように両面の材質の異なる両面テープとするか、被塗装部材に対する粘着よりもマスク部材に対する粘着力が高くなるような両面テープに対する粘着性の高いマスク部材を選定するか、何れかの選定をすることが好ましい。
【0059】
被塗装部材の裏面の外縁に沿って両面テープを貼り付ける場合として、その外縁よりも両面テープがはみ出すように貼り付ける場合と、その外縁よりも内側に入り混むように貼り付ける場合の2通りが考えられる。しかしながら、両面テープが前記外縁よりはみ出すように貼り付けることはできない。両面テープの表面が外側に露出すると、塗液に含まれる溶剤が両面テープを浸食することで、その成分が被塗装部材の側面に付着する可能性があり、良好な塗装面が得られないおそれがあるからである。
【0060】
しかしながら、被塗装部材の裏面全体を非塗装面とするのではなく、その裏面の外縁を除く内側を非塗装面部として保護すれば足りる場合には、前記外縁よりも内側に入り込むように両面テープを貼り付ける手法は有効である。塗液に含まれる溶剤が両面テープにまでは到達し難く、到達したとしても溶剤によって浸食された両面テープの成分が被塗装部材の側面に付着する可能性はほとんどないからであり、良好な側面塗装が行えるからである。
【0061】
前記外縁よりも入り込むように両面テープを貼り付ける場合には、マスク部材側に先に両面テープを貼り付けても良いし、被塗装部材側に先に両面テープを貼り付けても良い。両面テープの貼り付け作業の困難性は、最初にマスク部材側に取り付けても、被塗装部材側に取り付けても変わらないからである。
【0062】
塗装後の被塗装部材をマスク部材から取り外すには、両面テープごとマスク部材から被塗装部材を取り外すようにし、両面テープの付いたマスク部材は使い捨てとして、新たな被塗装部材に塗装を行う都度、マスク部材も交換して行うことが好ましい。
【0063】
本実施形態のマスク方法によれば、両面テープを用いることで、被塗装部材とマスク部材との密着性を高くすることができる点で優れている。しかしながら、両面テープを貼り付ける工程が必要となり、その工程の実施には厳密な位置合わせが必要となるなど容易ではなく、さらには両面テープに対するコストがかかること、両面テープが被塗装部材に残るおそれがあること等のデメリットがあり、両面テープを用いずに行う他の実施形態で示すマスク方法のほうが好ましい。
【0064】
なお、マスク部材と支持具との間を密着させるには、両面テープを用いる必要はない。支持具はマスク部材を載置することができれば良く、両者の間での高い密着性は不要だからである。高い密着性がないことにより、使い回しを行う支持具に対して使い捨てとなるマスク部材を容易に除去し易い。したがって、前記実施形態で示した押圧や、吸引による支持具に対するマスク部材の密着性があれば足りる。
【0065】
また、マスク部材に代えて両面テープを用いる方法は、支持具を何度も使い回ししようとする場合に、被塗装部材を取り外すたびに、被塗装部材及び支持具の双方から両面テープを取り外す必要があり、その取り外し作業がし難いという作業性悪化の問題がある。両面テープを、被塗装部材だけでなく、支持具からも取り外す必要性があるのは、塗装による溶剤に対する耐性が両面テープには無いため、被塗装部材と支持具との間の所定も密着性を保つためには、常に新しい両面テープを使わざるを得ないからである。
【実施例0066】
<試料1~試料7の作製>
次に実施例(比較例)に基づいて本発明をさらに説明する。以下の表1に示す架橋したゴム状弾性体(架橋剤以外の添加剤を含まず)又は熱可塑性エラストマーを、縦20mm、横20mm、厚み1mmの大きさに切り取って、試料1~試料7とした。
【0067】
【0068】
<各種試験>
前記各試料について、以下に説明する各種試験を行った。
【0069】
〔浸漬試験〕溶剤吸収性(膨潤性又は溶解性): マスク部材の主材料となるゴム材の溶剤に対する吸収性を試験した。表1のア~カで示す6種類の溶剤に各試料を室温で10分間浸漬させた際に、浸漬前の試料の重量と10分浸漬後の試料の重量とを測定し重量増加率を算出して表1に示した。また、浸漬後の試料について肉眼で観察した際に何らかの特徴があればその結果も表1の「特徴」欄に示し、特に何も変化がなかった場合に「A」とした。但し、ニトリルゴム及びフッ素ゴムについてはこの試験を行わなかった。
【0070】
表1において、「ア」はn-ヘプタンを、「イ」はシクロペンタノンを、「ウ」は酢酸ブチルを、「エ」はヘプタンとシクロペンタノンをそれぞれ同重量混合した混合溶剤を、「オ」はシクロペンタノンと酢酸ブチルをそれぞれ同重量混合した混合溶剤を、「カ」は酢酸ブチルとヘプタンをそれぞれ同重量混合した混合溶剤を、それぞれ示す。
【0071】
〔塗装試験〕塗装適正: 浸漬試験で用いたア~カの6種類の溶剤をそれぞれ含有する塗液を製造し、そのそれぞれの塗液をア~カとした。一方、ポリカーボネート板の上に試料1~試料7を載置し、さらに各試料の上に、各試料の外形よりも小さな重量50gの重りを置いた。そして、スプレー塗布によりア~カの塗液を塗布した。塗液の乾燥後、各試料の表面、即ち重りに接していた面の外縁に塗液が付着しているか否かを肉眼にて観察した。その結果を表1の「塗装試験」の欄に示した。
塗装試験の結果は、塗液の付着が全く見られなかった場合を「A」、塗液が付着したと認められる場合を「C」とした。
【0072】
〔硬度試験〕硬度:前記各試料について、JIS K 6253-3:2012に準拠して、温度23℃にてタイプAデュロメータを用いて硬度を測定した。その結果を表1に示す。
【0073】
<考察>
前記各試験の結果に基づいて以下の考察を行った。
【0074】
浸漬試験の結果と塗装試験の結果を対比すると、重量増加率が30%を超える場合は塗装試験の結果が「A」と良好である一方で、重量増加率が30%未満である場合は塗装試験の結果が「C」と悪いことがわかった。このことから、マスク部材としての適正を浸漬試験の結果で評価できることがわかった。
また、A硬度が20を超える場合についても塗装試験の結果が「C」となることから、マスク部材の適正をA硬度によって評価できることもわかった。
なお、スチレン系熱可塑性エラストマーは、重量増加率はn-ヘプタンに対しては大きいが、他はそれほどでもなく、また、全ての溶剤に対して溶けはしなかったが、溶剤吸収と膨潤によって粘土状に脆くなり簡単に爪で削れるものになった。そのため、削れて被塗装部材を汚す可能性があることがわかった。