(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052324
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】自動分液装置及び自動分液方法
(51)【国際特許分類】
B01D 17/12 20060101AFI20240404BHJP
G01N 27/06 20060101ALI20240404BHJP
G01N 27/22 20060101ALI20240404BHJP
B01D 17/025 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
B01D17/12 B
G01N27/06 Z
G01N27/22 B
B01D17/025
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022158972
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】591057522
【氏名又は名称】旭化成ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(72)【発明者】
【氏名】澤田 拓男
【テーマコード(参考)】
2G060
【Fターム(参考)】
2G060AA05
2G060AC01
2G060AC02
2G060AE31
2G060AF08
2G060AF10
2G060FA11
(57)【要約】
【課題】種々の液体に対して耐食性に優れ、液体同士の界面検出の精度も高い、自動分液装置を提供することを目的とする。
【解決手段】上記目的を達成するべく、本発明は、液体同士の界面を検出する界面検出手段10と、前記界面検出手段10によって得られた界面の情報に基づいて、分液条件を決定する分液条件決定手段と、前記分液条件決定手段によって決定された分液条件に従って前記液体の分液を実施する分液手段30と、を備え、前記界面検出手段10が、非接液式の、静電容量界面センサ又は導電度界面センサであることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体同士の界面を検出する界面検出手段と、
前記界面検出手段によって得られた界面の情報に基づいて、分液条件を決定する分液条件決定手段と、
前記分液条件決定手段によって決定された分液条件に従って前記液体の分液を実施する分液手段と、を備え、
前記界面検出手段が、非接液式の、静電容量界面センサ又は導電度界面センサであることを特徴とする、自動分液装置。
【請求項2】
前記自動分液装置は、前記液体が流れる流路を備え、
前記流路が、フッ素樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素ゴム及びシリコーンゴムからなる群より選択される少なくとも一種から構成されることを特徴とする、請求項1に記載の自動分液装置。
【請求項3】
前記分液手段は、(A)前記液体が流れる流路に形成されたバルブの開閉による分液、
(B)分離する液体ごとに設けられた受け取り容器の交換による分液、又は、
(C)チャンバ内にある液体をポンプによって抜き取る分液、を実施することを特徴とする、請求項1又は2に記載の自動分液装置。
【請求項4】
前記分液条件が、前記液体の流れる時期又は位置に基づいて決定されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の自動分液装置。
【請求項5】
前記分液条件決定手段は、下記式(1)によって、分液する時期taを決定することを特徴とする、請求項4に記載の自動分液装置。
ta= V/Q+tb ・・・(1)
V:センサ部から分岐部までの流路の体積(cm3)、
Q:液体の流量(mL/sec)、
ta:センサ部を界面が通過してから、バルブを切り替えるまでの時間(sec)、
tb:装置や分液の形態によって異なるパラメーター
【請求項6】
前記界面検出手段は、フランジ接続によって取り付けられていないことを特徴とする、請求項1又は2に記載の自動分液装置。
【請求項7】
実験用の小型分液装置であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の自動分液装置。
【請求項8】
液体同士の界面を検出する界面検出工程と、
前記界面検出手段によって得られた界面の情報に基づいて、分液条件を決定する分液条件決定工程と、
前記分液条件決定手段によって決定された分液条件に従って前記液体の分液を実施する分液工程と、を含み、
前記界面検出工程において、非接液式の、静電容量界面センサ又は導電度界面センサによって、前記液体同士の界面を検出することを特徴とする、自動分液方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非相溶性の二種以上の液体を自動的に分液する、自動分液装置及び自動分液方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、層分離された相溶しない2種類の溶液からなる溶液相より各溶液を分離するための分液処理は、例えば、有機合成反応等により得られる反応液中から特定化合物を分離するための抽出処理においてよく用いられ、かかる分液処理には分液ロートがよく使用されてきた。
分液ロートを用いて分液処理を行う場合、操作者は層分離した溶液相を目視してその液面および2つの溶液層の界面を確認した後、確認した液面および界面に基づいて、溶液相中の一方の溶液を分液ロートから取り出し、必要に応じて分液ロートに残った他方の溶液をさらに別の容器に取り出すことによって、両溶液を分離している。
【0003】
近年、このような溶液の分液作業は、作業時間の短縮等の観点から、装置を用いて自動で行われることが望まれている。ここで、溶液の分液を自動で行う際には、重液と軽液の界面を検出する界面検出手段が必要となる。
溶液同士の界面を検出する技術としては、例えば、特許文献1には、界面検出手段として、超音波センサ、光電センサ又は静電容量センサを用いた自動分液装置が開示されている。また、特許文献2には、界面検出手段として、超音波センサを用いた自動分液装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60-161705号公報
【特許文献2】特開平1-25609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2の中で挙げられている超音波センサや、特許文献1の中で挙げられている静電容量センサは、センサ本体を配管中に挿入し、分液操作の際には、対象の溶液に接液させる必要があり、使用する溶液の種類によっては耐食性が問題となっていた。なお、挿入式のセンサは、フッ素樹脂によるコーティングを施すことにより耐食性を向上させる手法も知られているが、分液する溶液として塩酸等の揮発性の酸を用いた場合には、フッ素樹脂コーティング中を酸が透過し、センサ部が腐食するおそれもあった。
【0006】
また、溶液との接液を防ぐべく、界面検出センサとして、光電センサやCCDカメラを使用する場合、センサ部は非接液であるものの、光線を十分に透過させつつ、耐食性の高いフローサイトを選定しなければならない、という課題がある。加えて、フローサイトを理化学ガラス等から製作した場合には、苛性ソーダ等のアルカリ性溶液やフッ酸を用いた場合に腐食するおそれもあった。さらに、フローサイトをフッ素樹脂とした場合は、フッ素樹脂が半透明性であるために、分液の感度が低下し、十分な測定ができないことや、光電センサやCCDカメラでは、非相溶の2種類以上の液体の判別に、色、透過率、屈折率の違いを用いているが、非相溶の2種類の液体の種類によってこれらの組み合わせは様々であるため、分液対象毎にセンサを校正する必要がある、という問題があった。
【0007】
そのため、従来の方法では、使用する薬液に応じて流路及びセンサを交換する必要があり、交換の度に装置の組立て、調整、センサの校正といった作業を伴い、煩雑であるだけでなくコストもかかることから、様々な薬液を取り扱う可能性のあるファインケミカルプロセスでは、単一の装置で且つ一度の校正で、様々な薬液に対して使用できる自動分液装置の提供が望まれていた。
【0008】
以上のようなことから、本発明は、種々の液体に対して耐食性に優れ、液体同士の界面検出の精度が高い、自動分液装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するべく検討を行った結果、自動分液装置に、液体同士の界面を検出する界面検出手段と、前記界面検出手段によって得られた界面の情報に基づいて、分液条件を決定する分液条件決定手段と、前記分液条件決定手段によって決定された分液条件に従って前記液体の分液を実施する分液手段と、を設けることで、コンパクトな構成な自動分液装置とすることが可能となり、さらに、前記界面検出手段について、非接液式の、静電容量界面センサ又は導電度界面センサを用いることで、界面検出の際に液体とセンサとが接触することがないため、耐食性についても改善でき、界面検出の精度についても低下しないことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、以上の知見に基づきなされたものであり、その要旨は以下の通りである。
1.液体同士の界面を検出する界面検出手段と、
前記界面検出手段によって得られた界面の情報に基づいて、分液条件を決定する分液条件決定手段と、
前記分液条件決定手段によって決定された分液条件に従って前記液体の分液を実施する分液手段と、を備え、
前記界面検出手段が、非接液式の、静電容量界面センサ又は導電度界面センサであることを特徴とする、自動分液装置。
2.前記自動分液装置は、前記液体が流れる流路を備え、
前記流路が、フッ素樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素ゴム及びシリコーンゴムからなる群より選択される少なくとも一種から構成されることを特徴とする、前記1に記載の自動分液装置。
3.前記分液手段は、(A)前記液体が流れる流路に形成されたバルブの開閉による分液、
(B)分離する液体ごとに設けられた受け取り容器の交換による分液、又は、
(C)チャンバ内にある液体をポンプによって抜き取る分液、を実施することを特徴とする、前記1又は2に記載の自動分液装置。
4.前記分液条件が、前記液体の流れる時期又は位置に基づいて決定されることを特徴とする、前記1~3のいずれかに記載の自動分液装置。
5.前記分液条件決定手段は、下記式(1)によって、分液する時期taを決定することを特徴とする、前記4に記載の自動分液装置。
ta=V/Q+tb ・・・(1)
V:センサ部から分岐部までの流路の体積(cm3)、
Q:液体の流量(mL/sec)、
ta:センサ部を界面が通過してから、バルブを切り替えるまでの時間(sec)、
tb:装置や分液の形態によって異なるパラメーター
6.前記界面検出手段は、フランジ接続によって取り付けられていないことを特徴とする、前記1~5のいずれかに記載の自動分液装置。
7.実験用の小型分液装置であることを特徴とする、前記1~6のいずれかに記載の自動分液装置。
8.液体同士の界面を検出する界面検出工程と、
前記界面検出手段によって得られた界面の情報に基づいて、分液条件を決定する分液条件決定工程と、
前記分液条件決定手段によって決定された分液条件に従って前記液体の分液を実施する分液工程と、を含み、
前記界面検出工程において、非接液式の、静電容量界面センサ又は導電度界面センサによって、前記液体同士の界面を検出することを特徴とする、自動分液方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、種々の液体に対して耐食性に優れ、液体同士の界面検出の精度も高い、自動分液装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の自動分液装置の一実施形態について、模式的に示した断面図である。
【
図2】分液する時期と、流路内の液体との関係を模式的に示した図である。
【
図3】分液手段の他の実施形態を模式的に示した断面図である。
【
図4】分液手段の他の実施形態を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について、詳細に説明する。
なお、本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はその実施の形態のみに限定されるものではない。すなわち、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
図1は、本実施形態の自動分液装置の断面を模式的に示した図である。
【0014】
本実施形態の自動分液装置はバッチ式分液に用いられる。本実施形態の自動分液装置は、
図1に示すように、液体同士の界面を検出する界面検出手段10と、
前記界面検出手段によって得られた界面の情報に基づいて、分液条件を決定する分液条件決定手段(図示せず)と、
前記分液条件決定手段によって決定された分液条件に従って前記液体の分液を実施する分液手段30と、を備える。
【0015】
(界面決定手段)
本実施形態の自動分液装置は、
図1に示すように、液体同士の界面を検出する界面検出手段10を備える。
そして、本実施形態では、前記界面検出手段10が、非接液式の、静電容量界面センサ又は導電度界面センサであることを要する。
前記界面検出手段10を、非接液式とすることで、前記液体同士の界面検出を行う際、液体とセンサ本体とが接触しないため、耐食性について大きく改善できる。また、前記界面検出手段10を、静電容量界面センサ又は導電度界面センサとすることで、煩雑な作業やコスト高騰を招くことなく、高精度な界面検出が可能となる。
【0016】
ここで、本実施形態で分液対象となる液体については、非相溶の液体であり、その種類については特に限定はされず、要求に応じて適宜選択できるものである。例えば、高誘電率液体として水、水溶液、グリセリン、エチレングリコール等を用いることができ、低誘電率液体として、ジエチルエーテル、ヘキサン、トルエン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、塩化メチレン、クロロホルム等を用いることが可能である。
【0017】
前記界面検出手段として用いられる静電容量センサは、液体の誘電率を測定し、その差異から、液体同士の界面を検出するセンサである。非接触式の静電容量センサでは、電極板から直流又は交流の電圧を印加し、電場を発生させる。高誘電率の媒体が存在する場合、電極板をコンデンサに見立てた場合の電気容量が増大するため、この電気容量を測定することで、流路の外側からであっても、流路の内部に存在する液体の誘電率を把握することが可能である。
【0018】
なお、前記静電容量センサでは、液体の着色や流路の透明度の影響を受けないだけでなく、多くの場合、非相溶の2種以上の液体は誘電率が大幅に異なっていることから、一度校正すれば多くの非相溶の液体同士の界面を検出することが可能である。
【0019】
前記非接触式界面センサとして静電容量センサを用いた場合、感度の観点から、前記液体が流れる流路は、材質の誘電率と厚みが重要となる。誘電率が高い物質は、電場を遮蔽する効果があり、感度を低下させる。また、流路の厚みが大きいほどこの効果が大きいため、強度の観点から許容される範囲で厚みが小さい方が好ましい。
【0020】
また、前記界面検出手段として用いられる非接触式の導電度センサは、励磁コイルにより変動する磁界を発生させ、電磁誘導の原理で測定する媒体に誘導電流を発生させる。発生した誘導電流の大きさを検出コイルにより検出することで媒体の導電度を測定するものである。
前記導電度センサを用いる場合、流路の材質は非導体であれば任意のものを用いることができる。
【0021】
なお、前記界面検出手段として導電度センサも好適に用いることができるが、前記導電度センサは前記静電容量センサに比べてやや高価である。また、非相溶の二種類の液体として、純水および有機溶剤を用いた場合、どちらも導電度が低いために検出できないことがある。そのため、前記界面検出手段として、静電容量センサを用いることがより好ましい。
【0022】
前記非接触式界面センサとして静電容量センサを用いた場合、感度の観点から、前記液体が流れる流路は、材質の誘電率と厚みが重要となる。誘電率が高い物質は、電場を遮蔽する効果があり、感度を低下させる。また、流路の厚みが大きいほどこの効果が大きいため、強度の観点から許容される範囲で厚みが小さい方が好ましい。
なお、ガラスは一般に樹脂に比して誘電率が大きく、ガラスはその脆さから流路の厚みを薄く製作することが困難であるため、前記液体が流れる流路は、樹脂製であることがより好ましい。
【0023】
また、
図1に示すように、前記界面検出手段10は、前記流路20の外周面に設けられているが、前記界面検出手段10は、フランジ接続によって取り付けられていないことが好ましい。フランジ接続では小径配管であっても大きくなってしまい、流路の内容積が増大し、他層の混入量が増大するためである。
【0024】
(流路)
本実施形態の自動分液装置は、
図1に示すように、液体が流れる流路20を備える。
なお、前記流路20は、前記流体が通る部材のことを意味し、
図1に示すような円筒状の流路だけでなく、チャンバ等のように内径が膨らんだ形状を有する場合も、本実施形態では流路20の一種として扱われる。
【0025】
前記流路を構成する材料については、特に限定はされないが、前記非接触式界面センサとして静電容量センサを用いた場合には、十分な強度とセンサの感度の両立を図る観点からは、フッ素樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素ゴム及びシリコーンゴムからなる群より選択される少なくとも一種から構成されることが好ましく、フッ素樹脂を用いることがより好ましく、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)又はPFA(パーフルオロアルコキシアルカン)を用いることがさらに好ましい。
【0026】
また、前記流路の厚みは、特に限定はされないが、前記非接触式界面センサとして静電容量センサを用いた場合、感度の観点から、できるだけ薄くすることが好ましく、具体的には、3mm以下とすることが好ましく、2mm以下とすることがより好ましい。
【0027】
なお、前記流路は、市販のチューブや配管、チャンバ等を適宜選択し、用いることが可能である。
【0028】
(界面検出手段)
本実施形態の自動分液装置は、前記界面検出手段によって得られた界面の情報に基づいて、分液条件を決定する分液条件決定手段を備える。
前記分液条件決定手段としては、特に限定はされず、例えば、コンピュータや計算機を用いることができる。
【0029】
また、前記分液条件決定手段は、分液条件を、前記流路中の液体の流れる時期又は位置に基づいて決定することができる。
前記分液条件決定手段は、分液する対象の液体の種類によって、前記液体の流れる時期又は位置の閾値を設けることで、分液条件を決定できる。
【0030】
前記分液条件として、前記液体の流れる時期に基づいて決定する場合、前記界面検出手段によって液体同士の界面が検出された後、どのくらいの時間において分液を開始するかが重要である。前記界面検出手段としてのセンサの出力が変化したと同時にバルブの切替を実施すると、センサ部から、流路の分岐部までは下層の液体が残ってしまうために、続く上層の抜出によって、本来上層を回収すべき容器に、下層が混入してしまう。そこで、センサの出力が変化してから、一定の遅延時間の後に、バルブを切り替える方法が考えられる。
例えば、
図2(a)~(d)は、分液する時期と、流路内の液体との関係を示した図である。前記液体同士の界面を決定してすぐの時期(
図2(a))では、下のバルブ30を開いて一方の液体のみを回収する(分液する)。前記液体同士の界面を決定して少し経った時期(
図2(a))も、下のバルブ30を開いて一方の液体のみを回収する(分液する)。そして、前記液体同士の界面を決定して一定時間経過した時期(
図2(c))になると、右のバルブ30を開いて、もう一方の液体の回収(分液)を開始する。その後、前記液体同士の界面を決定して長時間経過した時期(
図2(d))では、右のバルブ30のみを開いて、もう一方の液体のみを回収(分液)する。
【0031】
上記のように、前記分液条件として、前記液体の流れる時期に基づいて決定する場合、より高精度な制御を行う観点から、下記式(1)によって、分液する時期taを決定することが好ましい。
ta=V/Q+tb ・・・(1)
Q:液体の流量(mL/sec)、
ta:センサ部を界面が通過してから、バルブを切り替えるまでの時間(sec)、
tb:装置や分液の形態によって異なるパラメーター
なお、tbは中間層を分けて抜き取る必要がある場合や、制御装置に一定の遅延がある場合、受取容器への他層の混入度合いの許容量、等から、必要に応じて調整する。tbは、例えば、-10sec以上10sec以下であることが好ましい。
【0032】
(分液手段)
本実施形態の自動分液装置は、
図1に示すように、前記分液条件決定手段によって決定された分液条件に従って前記液体の分液を実施する分液手段(
図1では、バルブ30)を備える。
ここで、前記分液手段については、決定した分液条件に基づいて前記流路20から分液できる(液体を分けて回収できる)手段であれば特に限定はされない。
【0033】
例えば、前記分液手段30は、
(A)前記液体が流れる流路に形成されたバルブの開閉による分液、
(B)分離する液体ごとに設けられた受け取り容器の交換による分液、又は、
(C)チャンバ内にある液体をポンプによって抜き取る分液、
とすることができる。
【0034】
(A)前記液体が流れる流路に形成されたバルブの開閉による分液については、例えば
図1に示すように、流路20を2本に分岐させ、分岐した流路20のそれぞれに分液手段としてバルブ30を設け、バルブ30を開くことで分液した液体を回収するような方法が挙げられる。なお、分岐させた配管20については、他層の混入量を低減させるため水平を避けることが好ましく、斜め上方向に分岐・延在させることが好ましい。
さらに、分液する液体が3種類の場合は、流路20を3本に分岐させ、分岐した流路20のそれぞれに分液手段としてバルブ30を設けることで、分液することが可能である。
【0035】
また、(B)分離する液体ごとに設けられた受け取り容器の交換による分液については、例えば
図3に示すように、受取容器40をバルブ30の動きに合わせて自動的に交換する方法を用いることができる。回転台(図示せず)の上に、3本のボトル41、42、43を並べ、流路には自動バルブ30を取り付け、液体の排出口をボトルの上部にする。自動バルブを開き、下層となる液体αを1つ目の受取容器41に抜き取る。一度自動バルブ30を閉めた後、台を回転させ、その後自動バルブ30を再び開き、真ん中の層の液体βを2つ目の受取容器42に抜き取る。同様に、上層の液体γは、3つ目の受取容器43に抜き取る。このような受取容器41、42、43を交換する方法は、受取容器を3つ以上に増やして多数回の分液を行った際の各回の液体を分けて回収する場合や、中間層を分けて抜き取る形態にも好適である。また、受取容器の交換方法は回転台の他にも、直動機構やXYステージ、ロボットなどを用いることもできる。
【0036】
さらに、(C)チャンバ内にある液体をポンプによって抜き取る分液については、例えば
図4に示すように、分層した液体の一方をポンプ50により抜き取り、受取容器60で回収する方法が挙げられる。なお、前記流路20にセンサを設けてもよく、分液する各液体を別々のポンプによって抜き取ることもできる。
【0037】
なお、分液操作においては、上層・下層の液体のうち両方を抜き出すだけでなく、下層のみを抜き出し、そのまま次工程に進んでもよい。例えば、次工程を再び分液操作とした場合には、任意の回数、重液により抽出もくしは洗浄を実施することができる。
【0038】
(その他)
なお、本実施形態の自動分液装置では、溶質が非相溶の溶液の間で液液平衡を達成するため、撹拌機を設けた分液槽を備えることもできる。この分液槽は、槽中で化学反応を行うこともでき、反応後に自動的に分液操作を行うことにより、化学合成において、合成反応と精製工程をまとめて自動化することもできる。
【0039】
また、本実施形態に自動分液装置は、界面検出手段、分液条件決定手段及び分液手段と最小限の装置構成であるため、小型の自動分液装置とすることができる。また、流路を細くすることで、分液後に発生するコンタミネーションを最小とすることも可能である。
【実施例0040】
以下、具体的な実施例、比較例を挙げて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
[実施例1]
分液槽として、底部に抜出口(外径φ12)を備えた300mL製フラスコを用い、撹拌機を取り付けた。また、分液槽下部にはPFAで出来た外径12mm、内径10mmのチューブを取り付け、分岐部でチューブを分岐させ、分岐後の2本の配管はそれぞれ内径4.35 mm、外径6.35mmのPFAで出来たチューブとした。分岐配管それぞれにフッ素樹脂製バルブを取り付けた。分岐側の配管は水平面に対して8.5°の上り勾配を設けた。界面検出手段については、非接液式の静電容量センサで、チューブに十分接触するよう電極部が曲面となっているものを使用した。
これらの装置は、実験室で使用される標準的なドラフトチャンバー内に設置した。センサ部から分岐部までの体積は、6.5mLであった。予め目視により純水をセンサの検出部まで満たし、続いて酢酸エチルを加え、センサ検出部に界面が来る状態とした。この状態でセンサを校正した。
水100mLおよび酢酸エチル100mLを分液槽に仕込み、撹拌回転数100rpmで10分間撹拌した後、10分間静置し、その後プログラムにより自動的に分層した。プログラムは、5つのステップからなり、第1のステップでは、界面センサが水を検出している間、自動バルブを開き受取容器に下層である水を回収する。第2のステップでは、界面センサが水を検出しなくなってから、600msの間、引き続き自動バルブを開く。第3のステップでは、自動バルブを閉じ、乱れた界面を整えるため10秒間待つ。第4のステップでは、100秒間、自動バルブを開き、上層の酢酸エチルを受取容器9に回収する。第5のステップでは、分岐部とバルブの間に残った液体を排出するため、10秒間、自動バルブを開いたまま、自動バルブを開く。この時、水層を回収したボトルには2.0 mLの酢酸エチルが混入していたが、酢酸エチルを回収したボトルには水は混入していなかった。このときの下層抜出流量は11.02mL/sであった。
【0042】
[実施例2]
分液の時期をセンサが水を検出しなくなってから250msとしたこと以外は、実施例1と同様の条件で分液実験を行った。このとき、水層には1.0 mLの酢酸エチルが混入し、酢酸エチル層には2.8 mLの水分が混入していた。
また、分液の時期を種々の値に変更した際の、各受取容器に回収された水と酢酸エチルの量を表1に示す。
【0043】
【0044】
[実施例3]
分液の時期を1000 msとし、下層をバルブから抜き出し、上層をバルブから抜き出すことにしたこと以外は、実施例1と同様の条件で分液実験を行った。このとき、水層を回収したボトルには酢酸エチルの混入が見られなかったが、酢酸エチルを回収したボトルには、1.8 mLの水分が混入していた。
また、分液の時期を種々の値に変更した際の、各受取容器に回収された水と酢酸エチルの量を表2に示す。
【0045】
【0046】
[実施例4]
センサの校正は水と酢酸エチルの界面で実施した時点から変更せずに、非相溶の2種類の液体を水およびトルエンとしたこと以外は、実施例1と同様に分液実験を行った。
このとき、水層には1.9 mLのトルエンが混入していたが、トルエン層には水の混入は見られなかった。
【0047】
[実施例5]
流路の材質を、ガラスパイプ(外径12mm、内径8mm)としたこと以外は、実施例1と同様の条件で分液実験を行った。このとき、非相溶の2種類の液体を水及び酢酸エチルとした場合には、センサが反応しなかった。
また、水-トルエンで校正し、水-トルエンを分液とした場合には分液することできた。
【0048】
実施例1~5の結果から、本実施形態の自動分液装置を用いることで、良好な精度で分液を行うことができたことがわかる。
また、液体同士の界面を検出した後、分液までの時期や流路の材料、液体の種類によっては、分液精度が変わってくることもわかる。
なお、実施例1~5では、界面検出手段が非接液式のセンサであるため、仮にフッ酸等の液体の分液を行うことがあったとしても、センサが腐食することはないと考えられ、優れた耐食性を有することがわかる。
本発明によれば、種々の液体に対して耐食性に優れ、液体同士の界面検出の精度も高い、自動分液装置を提供できる。本発明の自動分液装置は、化学品製造の分野で好適に利用できる。