(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052354
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】超高分子ガンマ-ポリグルタミン酸、該ポリグルタミン酸を産生するバチルス属細菌変異株及び該バチルス属細菌変異株のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/01 20060101AFI20240404BHJP
C07K 14/32 20060101ALI20240404BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20240404BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20240404BHJP
【FI】
C12N15/01 Z
C07K14/32 ZNA
C12N1/20 A
C12N15/31
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159018
(22)【出願日】2022-09-30
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(先端的低炭素化技術開発)「枯草菌増殖制御技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 周
(72)【発明者】
【氏名】山本 純也
(72)【発明者】
【氏名】チュムサクル オヌマ
【テーマコード(参考)】
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA15X
4B065AB10
4B065AC10
4B065AC14
4B065BA21
4B065BC03
4B065CA24
4B065CA41
4B065CA44
4H045AA10
4H045BA10
4H045CA11
4H045EA01
4H045EA20
4H045FA73
(57)【要約】
【課題】平均分子量2000万以上の超高分子ガンマ-ポリグルタミン酸を提供する。該超高分子γ-PGAを産生可能なバチルス属細菌変異株を提供する。該超高分子γ-PGAを産生可能なバチルス属細菌変異株のスクリーニング方法等を提供する。
【解決手段】バチルス属細菌変異株を作製し、平均分子量2000万以上のガンマ-ポリグルタミン酸を産生させる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均分子量2000万以上のガンマ-ポリグルタミン酸。
【請求項2】
次の工程(I)~(III)を含む、平均分子量2000万以上のガンマ-ポリグルタミン酸を産生するバチルス属細菌変異株のスクリーニング方法:
(I)次の工程(I-1)又は(1-2)
(I-1)PgsBCA及びPgdSを発現可能なバチルス属細菌を培地で培養する工程、
(I-2)バチルス属細菌とポリヌクレオチドとを混合し、培地で培養する工程、
(II)前記工程(I)で培養して得た培養物を平板培地に接種し、コロニーを形成させる工程、
(III)前記工程(II)で形成させたコロニーから光沢を有するコロニーを選択する工程、
ここで、工程(I-2)において、
バチルス属細菌とポリヌクレオチドの少なくとも一方が、バチルス属細菌由来pgsA断片をコードする塩基配列を有し、
バチルス属細菌とポリヌクレオチドの少なくとも一方が、バチルス属細菌由来pgsB断片をコードする塩基配列を有し、
バチルス属細菌とポリヌクレオチドの少なくとも一方が、バチルス属細菌由来pgsC断片をコードする塩基配列を有し、且つ、
バチルス属細菌とポリヌクレオチドの少なくとも一方が、バチルス属細菌由来PgdS断片をコードする塩基配列を有する、及び/又は、工程(II)においてバチルス属細菌由来PgdSタンパク質存在下でコロニーを形成させる。
【請求項3】
更に、前記工程(III)で選択したコロニーを培養し、培養物中のガンマ-ポリグルタミン酸の平均分子量を決定する工程を含む、
請求項2に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
バチルス属細菌が枯草菌である、請求項2又は3に記載するスクリーニング方法。
【請求項5】
請求項2又は3に記載するスクリーニング方法により得られたバチルス属細菌変異株を培養する工程を含む、平均分子量2000万以上のガンマ-ポリグルタミン酸の製造方法。
【請求項6】
平均分子量2000万以上のガンマ-ポリグルタミン酸を産生するバチルス属細菌変異株。
【請求項7】
バチルス属細菌変異株が、以下の(A)及び(B)を備える枯草菌変異株である、請求項6に記載のバチルス属細菌変異株:
(A)PgsBCAを発現する、
(B)PgsAが次の(B1)~(B4)のいずれかに示すアミノ酸配列からなる、
(B1)配列番号1で表されるアミノ酸配列の1番目から56番目までのアミノ酸配列、
(B2)前記(B1)に記載する1番目から56番目までのアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列、
(B3)配列番号1で表されるアミノ酸配列の1番目から368番目までのアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列、
(B4)配列番号1で表されるアミノ酸配列の1番目から380番目までのアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
超高分子ガンマ-ポリグルタミン酸、該ポリグルタミン酸を産生するバチルス属細菌変異株及び該バチルス属細菌変異株のスクリーニング方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
納豆菌をはじめとする一部のバチルス属(Bacillus)細菌は、γ-ポリグルタミン酸(γ-PGA)を産生できることが知られている。γ-PGAは、L体とD体のγ-グルタミン酸からなるγ-LD-ポリグルタミン酸(γ-LD-PGA)である。バチルス属細菌がγ-PGA生産する目的のひとつとして高塩条件等の外部ストレスへの適応が挙げられる。γ-PGAは粘性を有しており、細胞の周囲に粘性のあるγ-PGAを排出することで、外部ストレスから細胞を保護しているといわれている。代表的なバチルス属細菌の一種である枯草菌(Bacillus subtilis)は、グラム陽性菌のモデル微生物として知られており、その安全性と遺伝子操作の簡便性から研究が進んでいる。
【0003】
このようなバチルス属細菌では、PgsB、PgsC、PgsA及びPgsEの4つのタンパク質から構成されるγ-PGA合成酵素複合体PgsBCAEによってγ-PGAが産生されることが知られている。しかし、γ-PGA産生には、これらのうちPgsEは必須ではなく、PgsBCAの発現で十分であることが確認されている。一方、PgsBCAのうちPgsAの必要性については矛盾した報告が散見され、例えば、γ-PGA生産には、PgsB、PgsC及びPgsAの全てが必須であるとの報告ある一方で、PgsAは必須ではないという報告もある。PgsAは必須ではないという報告の例として、特許文献1には、プラスミドを用いてPgsBCのみを発現する組換え微生物を作製したところ、γ-PGAが生産されたことが報告されている。
【0004】
特許文献2には、平均分子量500万以上の超高分子γ-PGAが得られたこと、特に平均分子量1500万の超高分子γ-PGAも得られたことが報告されているが、一般的には、γ-PGAの平均分子量は数万~500万程度であるとの報告が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
平均分子量2000万以上の超高分子ガンマ-ポリグルタミン酸(γ-PGA)を提供することを目的とする。また、平均分子量2000万以上の超高分子γ-PGAを産生可能なバチルス属細菌変異株を提供することを目的とする。また、平均分子量2000万以上の超高分子γ-PGAを産生可能なバチルス属細菌変異株のスクリーニング方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、かねてよりバチルス属細菌やγ-PGAについて鋭意検討を重ねていたところ、γ-PGAを生産するバチルス属細菌において、D体グルタミン酸とL体グルタミン酸、あるいは、L体グルタミン酸とL体グルタミン酸との間の結合を切断する機能を持つ分解酵素PgdSを過剰発現させると、γ-LD-PGAが分解されるためにコロニーは光沢を失うものの、光沢を失わないコロニーが出現することを見出した。また、このように出現したコロニーについて更に調べたところ、PgdSの欠失によりコロニーが出現したと思われる株もみられたが、それ以外に、PgdSが欠失していないにもかかわらずコロニーを形成可能であると思われる株が認められ、これらは全てγ-L-PGAを生産可能であり且つPgsAをコードするアミノ酸配列又は塩基配列に変異を持つ変異株であることを見出した。本発明は該知見に基づき更に検討を重ねて完成されたものであり、本開示は例えば下記に代表される発明を包含する。
項1.平均分子量2000万以上のガンマ-ポリグルタミン酸。
項2.次の工程(I)~(III)を含む、平均分子量2000万以上のガンマ-ポリグルタミン酸を産生するバチルス属細菌変異株のスクリーニング方法:
(I)次の工程(I-1)又は(1-2)
(I-1)PgsBCA及びPgdSを発現可能なバチルス属細菌を培地で培養する工程、
(I-2)バチルス属細菌とポリヌクレオチドとを混合し、培地で培養する工程、
(II)前記工程(I)で培養して得た培養物を平板培地に接種し、コロニーを形成させる工程、
(III)前記工程(II)で形成させたコロニーから光沢を有するコロニーを選択する工程、
ここで、工程(I-2)において、
バチルス属細菌とポリヌクレオチドの少なくとも一方が、バチルス属細菌由来pgsA断片をコードする塩基配列を有し、
バチルス属細菌とポリヌクレオチドの少なくとも一方が、バチルス属細菌由来pgsB断片をコードする塩基配列を有し、
バチルス属細菌とポリヌクレオチドの少なくとも一方が、バチルス属細菌由来pgsC断片をコードする塩基配列を有し、且つ、
バチルス属細菌とポリヌクレオチドの少なくとも一方が、バチルス属細菌由来PgdS断片をコードする塩基配列を有する、及び/又は、工程(II)においてバチルス属細菌由来PgdSタンパク質存在下でコロニーを形成させる。
項3.更に、前記工程(III)で選択したコロニーを培養し、培養物中のガンマ-ポリグルタミン酸の平均分子量を決定する工程を含む、
項2に記載のスクリーニング方法。
項4. バチルス属細菌が枯草菌である、項2又は3に記載するスクリーニング方法。
項5.項2~4のいずれか一項に記載するスクリーニング方法により得られたバチルス属細菌変異株を培養する工程を含む、平均分子量2000万以上のガンマ-ポリグルタミン酸の製造方法。
項6.平均分子量2000万以上のガンマ-ポリグルタミン酸を産生するバチルス属細菌変異株。
項7.バチルス属細菌変異株が、以下の(A)及び(B)を備える枯草菌変異株である、項6に記載のバチルス属細菌変異株:
(A)PgsBCAを発現する、
(B)PgsAが次の(B1)~(B4)のいずれかに示すアミノ酸配列からなる、
(B1)配列番号1で表されるアミノ酸配列の1番目から56番目までのアミノ酸配列、
(B2)前記(B1)に記載する1番目から56番目までのアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列、
(B3)配列番号1で表されるアミノ酸配列の1番目から368番目までのアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列、
(B4)配列番号1で表されるアミノ酸配列の1番目から380番目までのアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列。
【発明の効果】
【0009】
平均分子量2000万以上の超高分子γ-PGA及びその製造方法を提供することができる。平均分子量2000万以上の超高分子γ-PGAを産生するバチルス属細菌変異株のスクリーニング方法を提供することができる。平均分子量2000万以上の超高分子γ-PGAを産生するバチルス属細菌変異株を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図7】
図7は、試験例1で作製した変異株が産生するγ-PGAの平均分子量を示す。
【
図8】
図8は、試験例2のDNA断片の構築手順を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示に包含される実施形態について更に詳細に説明する。なお、本開示において「含有する」は、「実質的にからなる」、「からなる」という意味も包含する。
【0012】
平均分子量2000万以上のガンマ-ポリグルタミン酸
本開示は、平均分子量2000万以上のガンマ-ポリグルタミン酸(γ-PGA)を包含する。従来、γ-PGA(γ-DL-PGA)の平均分子量は数十万~300万程度であることが一般的に知られており、特許文献2に示される通り、大きくても平均分子量1500万であることが報告されているにすぎない。本開示は、平均分子量2000万以上という非常に分子量の大きいγ-PGAを提供する。
【0013】
本開示の超高分子γ-PGAは、平均分子量2000万以上である限り制限されないが、好ましくは平均分子量2000万~8000万等が例示される。本開示を制限するものではないが、これらにおいて下限値として2100万、2200万、2300万、2400万、2500万、2600万等が例示される。また、本開示を制限するものではないが、これらにおいて上限値として7000万、6000万、5000万、4500万、4000万、3500万、3200万等が例示される。平均分子量は、これらにおいていずれの範囲でもよいが、更に好ましくは平均分子量2000万~5000万、2000万~4500万等が例示される。
【0014】
ポリグルタミン酸(PGA)は、グルタミン酸を重合単位とするポリペプチドの一種である。バチルス属細菌が産生するγ-PGAは、グルタミン酸のγ位のカルボキシル基とα位のアミノ基がペプチド結合を形成した化合物であり、ポリ-γ-グルタミン酸と称される場合もある。また、バチルス属細菌が産生するγ-PGAは、通常、L体とD体のγ-グルタミン酸からなるγ-LD-ポリグルタミン酸(γ-LD-PGA)の形態にある。L体のグルタミン酸のみからなるγ-PGAは、γ-L-ポリグルタミン酸(γ-L-PGA)、D体のグルタミン酸のみからなるγ-PGAは、γ-D-ポリグルタミン酸(γ-D-PGA)と称することができる。後述の試験例では、γ-PGAとしてγ-L-PGAの分子量を測定しているところ、このように本試験例では少なくとも平均分子量2000万以上のγ-L-PGAを産生できたことを確認した。また、後述の試験例1において述べるように、本発明者らはバチルス属細菌変異株を用いてγ-D-PGAに対してγ-L-PGAの含有割合が非常に高いPGA群を得ることができた。このように本開示は、平均分子量2000万以上のγ-PGA、特に平均分子量2000万以上のγ-L-PGAを提供するが、ポリグルタミン酸にはD体のγ-グルタミン酸が混じっていてもよく混じっていなくてもよく、すなわち、D体のγ-グルタミン酸が混じっていることを否定するものではない。また、D体のγ-ポリグルタミン酸の分子量も問わない。
【0015】
本開示において平均分子量とは重量平均分子量(Mw)を意味し、重量平均分子量は、後述の試験例に示す通り、測定、決定される。具体的には、γ-L-PGAを生産可能な変異株をLB寒天培地に接種し、30℃で30時間培養後、光沢(粘性)を持つコロニーを回収して蒸留水に懸濁する。遠心分離により細胞を除去し、得られたγ-L-PGAを含む上清をコスモスピンフィルターH(0.45 μm; Nacalai Tesque, Kyoto, Japan)で濾過する。得られた濾液を0.1M Na2SO4により50℃、1.0mL/minの流速で溶出し、UV検出器を用いて波長210nmでγ-L-PGAを検出する。γ-PGA含有量は、食品グレードのPGA(明治フードマテリア、東京、日本)を用いて作成した検量により算出する。γ-PGAの分子量は、サイズ排除クロマトグラフィ用標準試料プルランSTANDARD P-82 (Showa Denko, Tokyo, JPN)を用いて測定する。この際、サイズ排除クロマトグラフィ(SEC)カラム (TSKgel G6000PWXL + G4000PWXL; TOHSO, Tokyo, JPN)を備えたHPLC(LC-2030C Plus; Shimadzu, Kyoto, Japan)を用いて、分子量検定を行う。標準試料には、プルラン (Shodex STANDARD P-82; Showa, Tokyo, Japan) を用いて、予め重量平均分子量(Mw)を求めた各種分子量の異なる4種類のγ-PGA(γ-DL-グルタミン酸)、ポリ-L-グルタミン酸ナトリウム塩(分子量15000-50000及び分子量50000-100000; Merck, Darmstadt, Germany)、ポリ-γ-グルタミン酸(分子量200000-500000及び分子量1500000-2500000; Fujifilm Wako, Tokyo, Japan)を用いる。分子量の検定には、島津HPLC用LabSolutions GPCソフトウェアを用いる。このように、クロマトグラフィーを用いて分画し、プルランスタンダード等の分子量標品の保持時間と比較することにより、重量平均分子量(Mw)は決定される。
【0016】
なお、実質的に同様に平均分子量を決定できる限り、例えば、LB寒天培地に代えて他の平板培地(最少培地等)を用いてもよく、平板培地に代えて液体培地を用いてもよい。また、液体培地を用いる場合、液体(蒸留水等)への懸濁は必須ではない。
【0017】
本開示を制限するものではないが、平均分子量2000万以上のγ-PGAは、後述の実施例に示すバチルス属細菌変異株を培養することにより簡便に製造することができる。培養、製造方法は後述の通りである。また、平均分子量2000万以上のγ-PGAは、後述のスクリーニング方法を実施することによっても容易に得ることができる。
【0018】
平均分子量2000万以上のγ-PGAを産生するバチルス属細菌変異株のスクリーニング方法
本開示は、次の工程(I)~(III)を含む、2000万以上のガンマ-ポリグルタミン酸(γ-PGA)を産生するバチルス属細菌変異株のスクリーニング方法を包含する。
(I)次の工程(I-1)又は(1-2)
(I-1)PgsBCA及びPgdSを発現可能なバチルス属細菌を培地で培養する工程、
(I-2)バチルス属細菌とポリヌクレオチドとを混合し、培地で培養する工程、
(II)前記工程(I)で培養して得た培養物を平板培地に接種し、コロニーを形成させる工程、
(III)前記工程(II)で形成させたコロニーから光沢を有するコロニーを選択する工程、
ここで、工程(I-2)において、
バチルス属細菌とポリヌクレオチドの少なくとも一方が、バチルス属細菌由来pgsA断片をコードする塩基配列を有し、
バチルス属細菌とポリヌクレオチドの少なくとも一方が、バチルス属細菌由来pgsB断片をコードする塩基配列を有し、
バチルス属細菌とポリヌクレオチドの少なくとも一方が、バチルス属細菌由来pgsC断片をコードする塩基配列を有し、且つ、
バチルス属細菌とポリヌクレオチドの少なくとも一方が、バチルス属細菌由来PgdS断片をコードする塩基配列を有する、及び/又は、工程(II)においてバチルス属細菌由来PgdSタンパク質存在下でコロニーを形成させる。
【0019】
本発明者らは、前述の通り、長年検討を重ねていたところ、γ-PGAを生産するバチルス属細菌において、D体グルタミン酸とL体グルタミン酸、あるいは、L体グルタミン酸とL体グルタミン酸との間の結合を切断する機能を持つ分解酵素PgdSを過剰発現させると、γ-LD-PGAが分解されるためにコロニーは光沢を失うものの、光沢を失わないコロニーが出現することを見出した。また、該コロニーについて更に調べたところ、PgdSの欠損によりコロニーが出現したと思われる株の他に、後述の試験例に示す通り、PgdSが欠損していないにもかかわらずコロニーを形成可能であると思われる株が認められ、これらはγ-L-PGAを生産可能であり且つPgsAをコードするアミノ酸配列又は塩基配列に変異を持つ変異株であることを見出した。また、このような変異株を用いることにより、特に驚くべきことに、平均分子量2000万以上の超高分子γ-L-PGAを製造できることを見出した。バチルス属細菌では、複合体PgsBCAE又はPgsBCAによってγ-PGAが産生されることが知られている。これらのことから、PgdSタンパク質存在下においても光沢を失わないコロニーを形成できることを指標として、平均分子量2000万以上のγ-PGAを産生するバチルス属細菌変異株のスクリーニングできることを見出した。このことから、本開示は、前記工程(I)~(III)を含む、2000万以上のガンマ-ポリグルタミン酸(γ-PGA)を産生するバチルス属細菌変異株のスクリーニング方法を包含する。
【0020】
工程(I)
本開示のスクリーニング方法は、工程(I)として、次の工程(I-1)又は(1-2)を含む。
(I-1)PgsBCA及びPgdSを発現可能なバチルス属細菌を培地で培養する工程。
(I-2)バチルス属細菌とポリヌクレオチドとを混合し、培地で培養する工程。
【0021】
・工程(I-1)
工程(I)において「PgsBCA及びPgdSを発現可能なバチルス属細菌」は、本開示において親株1と称する場合がある。
【0022】
一部のバチルス属細菌はγ-LD-PGAを産生することができ、γ-LD-PGAは、PgsB、PgsC及びPgsAの3つのタンパク質から構成されるγ-PGA合成酵素複合体PgsBCAによって産生されることが知られている。また、γ-LD-PGAの産生にはPgsAは必要なく、複合体PgsBCによって、γ-LD-PGAが産生されるとの報告もある。PgdSは、γ-LD-PGAにおいて、D体グルタミン酸とL体グルタミン酸、又は、L体グルタミン酸とL体グルタミン酸との間の結合を切断する機能を持つことが知られている。本開示において「PgsBCA及びPgdSを発現可能なバチルス属細菌」は、好ましくは、γ-LD-PGAを産生可能なバチルス属細菌の培養に従来一般的に使用される培地においてPgsBCAを発現可能であり且つPgdSを発現可能である。
【0023】
このような培地として、本開示を制限するものではないが、LB寒天培地(トリプトン、酵母エキス、塩化ナトリウム、寒天を含む、pH7)等が例示される。また、培養条件として、本開示を制限するものではないが、30~37℃で12~24時間が例示される。培養は、明所、暗所を問わず、また、培地の種類により静置培養、振とう培養等を問わず、従来公知の培養手順に従えばよい。このように、該発現及びその確認を行うことができる。
【0024】
バチルス属細菌としては、γ-LD-PGAを発現可能である限り制限されず本開示を制限するものではないが、納豆菌(Bacillus subtilis var. natto)等の枯草菌(Bacillus subtilis)、バチルス アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)、バチルス リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス メガテリウム(Bacillus megaterium)等が例示される。バチルス属細菌として好ましくは枯草菌、バチルス アミロリケファシエンス等が例示され、より好ましくは枯草菌が例示される。
【0025】
親株1において、PgsA、PgsB、PgsC及びPgdSの各配列は制限されない。本開示を制限するものではないが、バチルス属細菌の一種である枯草菌のPgsAをコードするアミノ酸配列として、配列番号1で表されるアミノ酸配列が例示される。PgsAは、PgsAA、CapA又はYwtBと称される場合がある。配列番号1で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列として、配列番号2で表される塩基配列が例示される。pgsA遺伝子は、pgsAA、capA又はywtB遺伝子と称される場合がある。これらの配列を
図1に示す。
【0026】
また、枯草菌のPgsBをコードするアミノ酸配列として、配列番号3で表されるアミノ酸配列が例示され、配列番号3で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列として、配列番号4で表される塩基配列が例示される。これらの配列を
図2に示す。
【0027】
また、枯草菌のPgsCをコードするアミノ酸配列として、配列番号5で表されるアミノ酸配列が例示され、配列番号5で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列として、配列番号6で表される塩基配列が例示される。これらの配列を
図3に示す。
【0028】
また、枯草菌のPgdSをコードするアミノ酸配列として、配列番号7で表されるアミノ酸配列が例示され、配列番号7で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列として、配列番号8で表される塩基配列が例示される。該配列を
図4に示す。
【0029】
また、親株がPgsBCA及びPgdSを発現可能である限り、PgsA、PgsB、PgsC及びPgdSの各タンパク質は、前述の配列において改変を有してもよい。
【0030】
該改変として、PgsAについては、配列番号1で表されるアミノ酸配列と95%以上、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、99.5%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列が例示される。PgsBについては、配列番号3で表されるアミノ酸配列と95%以上、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、99.5%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列が例示される。PgsCについては、配列番号5で表されるアミノ酸配列と95%以上、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、99.5%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列が例示される。PgdSについては、配列番号7で表されるアミノ酸配列と95%以上、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、99.5%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列が例示される。
【0031】
また、該改変として、PgsAについては、配列番号1で表されるアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列が例示される。PgsBについては、配列番号3で表されるアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列が例示される。PgsCについては、配列番号5で表されるアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列が例示される。PgdSについては、配列番号7で表されるアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列が例示される。これらの配列において1又は複数個とは、それぞれ独立して、1~30個、好ましくは1~25個、1~20個、1~15個、1~10個、1~8個、1~5個、1~4個、1~3個、1又は2個等が例示される。
【0032】
前述の通り、親株1は、複合体PgsBCA及びPgdSを発現可能であることから、各改変は、PgsBCA及びPgdSを発現可能であることを限度とする改変である。この観点から、改変は、配列番号1、3、5及び7で表される各アミノ酸配列と比較して、アミノ酸の保存的置換が生じる改変が好ましく例示される。
【0033】
本開示においてアミノ酸配列の同一性は、2以上の対比可能なアミノ酸配列の、お互いに対するアミノ酸配列の一致の程度をいう。アミノ酸配列の同一性のレベルは、例えば、 配列分析用ツールであるFASTAを用い、デフォルトパラメータを用いて決定できる。また、Karlin及びAltschulによるアルゴリズムBLAST(Karlin S,Altschul SF.“Method s for assessing the statistical significance of molecular sequence features by u s ing general scoringschemes” Proc Natl Acad Sci USA.87:2264-2268 1990)、Kar 整理番号:09592021JP 特願2022-016421 (Proof) 提出日:令和4年2月4日 8 lin S,Altschul SF.“Applications and statistics for multiple high-scoring seg ments in molecular sequences.”Proc Natl Acad Sci USA.90:5873-7(1993))に基づいて決定できる。このようなBLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている。これらの解析方法の具体的な手法は公知であり、National Center of Biotechnology Information(NCBI)のウェエブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih. gov/)を参照すればよい。
【0034】
本開示において、保存的置換は、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基に置換されることを意味する。例えば、アルギニン、リジン、ヒスチジンといった塩基性側鎖を有するアミノ酸残基同士で置換されることが保存的な置換にあたる。また、そのほかの例として、アスパラギン酸、グルタミン酸といった酸性側鎖を有するアミノ酸残基同士で置換されること;グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システインといった非帯電性極性側鎖を有するアミノ酸残基同士で置換されること;アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンといった非極性側鎖を有するアミノ酸残基同士で置換されること;スレオニン、バリン、イソロイシンといったβ分枝側鎖を有するアミノ酸残基同士で置換されること;チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジンといった芳香族側鎖を有するアミノ酸残基同士で置換されることも、保存的な置換にあたる。
【0035】
配列番号2で表される塩基配列は、配列番号1のアミノ酸配列の改変の範囲内において、改変されていてもよい。配列番号4で表される塩基配列は、配列番号3のアミノ酸配列の改変の範囲内において、改変されていてもよい。配列番号6で表される塩基配列は、配列番号5のアミノ酸配列の改変の範囲内において、改変されていてもよい。配列番号8で表される塩基配列は、配列番号7のアミノ酸配列の改変の範囲内において、改変されていてもよい。
【0036】
また、本開示を制限するものではないが、バチルス属細菌の一種であるBacillus amyloliquefaciens(ゲノム配列:アクセッション番号CP002634(Bacillus amyloliquefaciens LL3))について例示すると、PgsAをコードするアミノ酸配列として、配列番号9で表されるアミノ酸配列が例示される。PgsBをコードするアミノ酸配列として、配列番号10で表されるアミノ酸配列が例示され、これはデータベースGenBank、アクセッション番号AEB65253で示されるアミノ酸配列(アミノ酸残基数393個、最終更新日2014年1月30日)が例示される。PgsCをコードするアミノ酸配列として、配列番号11で表されるアミノ酸配列が例示され、これはデータベースGenBank、アクセッション番号AEB65252で示されるアミノ酸配列(アミノ酸残基数149個、最終更新日2014年1月30日)が例示される。Bacillus amyloliquefaciens LL3のPgdSをコードするアミノ酸配列として、配列番号12で表されるアミノ酸配列が例示され、これはデータベースGenBank、アクセッション番号AEB65249で示されるアミノ酸配列(アミノ酸残基数411個、最終更新日2014年1月30日)が例示される。
【0037】
枯草菌以外のバチルス属細菌も各配列において改変を有していてもよく、改変は前述と同様に説明される。
【0038】
前述の通り、バチルス属細菌ではγ-PGA合成酵素複合体PgsBCAEによってもγ-LD-PGAが産生されることが従来知られている。このことから、親株1が発現可能なPgsBCAは、更にPgsEを含むものであってもよい。すなわち、親株1が発現するPgsBCAは、少なくともPgsB、PgsC及びPgsAの3つのタンパク質を有していればよく、更にPgsEを含む複合体であってもよい。このように、PgsBCA及びPgdSを発現可能なバチルス属細菌は、PgsBCAEを発現可能であり且つPgdSを発現可能なバチルス属細菌を包含する。バチルス属細菌のPgsEをコードするアミノ酸配列も公知であり、枯草菌のPgsEをコードするアミノ酸配列として、例えば配列番号13で表されるアミノ酸は配列が例示され、配列番号13で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列として、配列番号14で表される塩基配列が例示される。また、配列番号13においても、前述と同様に改変を有してもよく、例えば、配列番号13で表されるアミノ酸配列と95%以上、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、99.5%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列が例示され、また、配列番号13で表されるアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列が例示される。これらの変異は前述と同様にして説明される。
【0039】
工程(I-1)では、親株1を培地で培養する。該培地として、本開示を制限するものではないが、前述のγ-LD-PGAを産生可能なバチルス属細菌の培養に従来一般的に使用される培地が例示されるがこれらに制限されない。後述の工程(I-2)において例示する培地であってもよい。該培地は、液体培地、平板培地を問わず、好ましくは液体培地が例示される。また、培地中への親株1の接種量も問わず、従来公知の培養手順に従い行えばよい。また、培養条件として、30~37℃で2~5時間が例示される。培養は、明所、暗所を問わず、また、静置培養、振とう培養等を問わない。
【0040】
該培地は、変異を誘導する形質転換物質を含んでもよい。形質転換物質として、DNA断片等が例示される。培地中の該物質の濃度は制限されず、適宜決定すればよい。また、培地での培養時、光、熱等の刺激を親株1に与えてもよい。これらの物資や刺激はそれぞれ、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、親株1及び/または形質転換物質は、遺伝子マーカー等の任意の遺伝子、プロモーター等の任意の配列を含んでいてもよい。任意の遺伝子等も後述の工程(I-2)と同様にして説明される。また、該培養を繰り返し行ってもよい(継代培養、形質転換物質共存下における2回以上の培養等)。
【0041】
該培養は、親株1において自然突然変異等による形質転換が誘導され、親株1の形質転換体(変異株)が得られやすくなることを目的として行うものである。後述の通り、平均分子量2000万以上のγ-PGAを産生するバチルス属細菌変異株においては、PgsAタンパク質をコードするアミノ酸配列又は塩基配列に多くの変異が認められた。このことから、該培養は、好ましくは、PgsAタンパク質をコードするアミノ酸配列又は塩基配列に変異を有する変異株への形質転換が誘導されることを目的として行うものである。このようにして培養して得た培養物を、次の工程(II)において用いればよい。
【0042】
・工程(I-2)
本開示のスクリーニング方法は、工程(I-2)として、バチルス属細菌とポリヌクレオチドとを混合し、培地で培養する工程を含む。工程(I-2)において、バチルス属細菌とポリヌクレオチドの少なくとも一方は、バチルス属細菌由来pgsA断片をコードする塩基配列を有し、バチルス属細菌とポリヌクレオチドの少なくとも一方は、バチルス属細菌由来pgsB断片をコードする塩基配列を有し、また、バチルス属細菌とポリヌクレオチドの少なくとも一方は、バチルス属細菌由来pgsC断片をコードする塩基配列を有する。工程(I-2)においてポリヌクレオチドと混合するバチルス属細菌を親株2と称する場合がある。
【0043】
本開示を制限するものではないが、親株2として、従来公知のγ-LD-PGAを産生可能なバチルス属細菌が好ましく例示され、γ-LD-PGAを産生可能なバチルス属細菌は前述と同様に、納豆菌等の枯草菌、バチルス アミロリケファシエンス等が例示される。バチルス属細菌として好ましくは枯草菌、バチルス アミロリケファシエンス等が例示され、より好ましくは枯草菌が例示される。これらの従来公知のγ-LD-PGAを産生可能なバチルス属細菌は、通常、pgsBCAE遺伝子及びpgdS遺伝子を有する。
【0044】
親株2として、このようなバチルス属細菌から、例えば、pgsA遺伝子を欠損させた株、pgsB遺伝子を欠損させた株、pgsC遺伝子を欠損させた株のいずれを用いてもよい。親株2は、これらの遺伝子のうち2種以上の欠損を有する株であってもよい。また、親株2は、遺伝子工学的手法を利用して、例えば、pgsA遺伝子を一旦欠損させたのち、バチルス属細菌由来のpgsA断片をコードする塩基配列を導入した親株であってもよい。pgsB、pgsCの各遺伝子についても同様に説明される。
【0045】
親株2とポリヌクレオチドの少なくとも一方は、バチルス属細菌由来pgsA断片をコードする塩基配列を有する。親株2とポリヌクレオチドの両方が該断片をコードする塩基配列を有していてもよく、好ましくは親株2とポリヌクレオチドの一方のみが該断片をコードする塩基配列を有する。
【0046】
同様に、親株2とポリヌクレオチドの少なくとも一方は、バチルス属細菌由来pgsB断片をコードする塩基配列をする。親株2とポリヌクレオチドの両方が該断片をコードする塩基配列を有していてもよく、好ましくは親株2とポリヌクレオチドの一方のみが該断片をコードする塩基配列を有する。
【0047】
同様に、親株2とポリヌクレオチドの少なくとも一方は、バチルス属細菌由来pgsC断片をコードする塩基配列を有する。親株2とポリヌクレオチドの両方が該断片をコードする塩基配列を有していてもよく、好ましくは親株2とポリヌクレオチドの一方のみが該断片をコードする塩基配列を有する。
【0048】
なお、本開示においては、遺伝子工学的手法により改変が施されていないバチルス属細菌(親株2)が有するpgsA遺伝子も、バチルス属細菌由来pgsA断片をコードする塩基配列と説明する。pgsB遺伝子等の他の遺伝子についても同様に説明される。
【0049】
本開示の一実施態様を例示すると、親株2として、pgsA遺伝子を欠損させた株を用いる場合、ポリヌクレオチドは、バチルス属細菌由来pgsA断片をコードする塩基配列を含む。親株2として、pgsB遺伝子を欠損させた株を用いる場合、ポリヌクレオチドは、バチルス属細菌由来pgsB断片をコードする塩基配列を含む。親株2として、pgsBC遺伝子を欠損させた株を用いる場合、ポリヌクレオチドは、バチルス属細菌由来pgsB断片をコードする塩基配列及びバチルス属細菌由来pgsC断片をコードする塩基配列を含む。親株2として、pgsBCA遺伝子を欠損させた株を用いる場合、ポリヌクレオチドは、バチルス属細菌由来pgsB断片をコードする塩基配列、バチルス属細菌由来pgsC断片をコードする塩基配列及びバチルス属細菌由来pgsA断片をコードする塩基配列を含む。
【0050】
また、γ-LD-PGAを産生可能なバチルス属細菌は、通常、pgdS遺伝子を含有する。このことから、親株2は、pgdS遺伝子を有するものであってもよく、pgdS遺伝子を欠損した株でもあってもよい。ポリヌクレオチドは、バチルス属細菌由来pgdS断片をコードする塩基配列を有していてもよく、有していなくてもよい。pgdS遺伝子を欠損させた親株2を用いる場合、ポリヌクレオチドは、好ましくはバチルス属細菌由来pgdS断片をコードする塩基配列を有する。また、後述の工程(II)においてバチルス属細菌由来PgdSタンパク質存在下でコロニーを形成させる場合は、工程(I-2)において、親株2とポリヌクレオチドは共にpgdS遺伝子(PgdS断片をコードする塩基配列)を有していなくてもよい。
【0051】
また、γ-LD-PGAを産生可能なバチルス属細菌は、通常、pgsE遺伝子を含有する。このことから、親株2は、pgsE遺伝子を有するものであってもよく、pgsE遺伝子を欠損した株でもあってもよい。pgsE遺伝子を有する親株2を用いる場合、ポリヌクレオチドは、バチルス属細菌由来pgsE断片をコードする塩基配列を有していてもよく、有していなくてもよい。pgsE遺伝子を欠損させた親株2を用いる場合も、ポリヌクレオチドは、該pgsE断片をコードする塩基配列を有していてもよく、有していなくてもよいが、好ましくは該pgsE断片をコードする塩基配列を有する。
【0052】
γ-LD-PGAを産生可能なバチルス属細菌における前記遺伝子の欠損処理は、従来公知の遺伝子工学的手法を用いて行えばよい。また、前記ポリヌクレオチドも従来公知の遺伝子工学的手法を用いて作製すればよい。
【0053】
親株2及びポリヌクレオチドにおいてpgsA、pgsB、pgsC、pgdS及びpgsEの各遺伝子(断片)をコードする塩基配列はバチルス属細菌由来である限り制限されない。本開示を制限するものではないが、このような配列として、前記配列番号1、3、5、7又は13で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列が例示され、該塩基配列として配列番号2、4、5、8又は14で表される塩基配列が例示される。また、本開示を制限するものではないが、pgsA、pgsB、pgsC、pgdSの各遺伝子(断片)をコードする塩基配列として、配列番号9、10、11、又は12で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列が例示される。
【0054】
pgsA、pgsB、pgsC、pgdS及びpgsEの各遺伝子(断片)をコードする塩基配列は、前記配列において改変を有していてもよい。
【0055】
本開示のスクリーニング方法は、工程(I-2)において親株2とポリヌクレオチドを混合し、培養することにより、親株2において形質転換を誘導し、親株2の形質転換体(変異株)が得られやすくなることを目的として行うものである。後述の工程(II)は、工程(I-2)を経て得られる変異株のうち、PgdSタンパク質の存在下で光沢のあるコロニーを選択するものである。このことから、工程(I-2)において単に形質転換体を得る観点からは、親株2及ポリヌクレオチドにおいて、各遺伝子(断片)をコードする塩基配列は、前記配列において如何なる改変を有してもよい。このように、工程(I-2)は、前記工程(I-1)と同様に、形質転換が誘導され、親株の形質転換体(変異株)が得られやすくなることを目的として行うものである。
【0056】
なお、この限りにおいて制限されないが、より効率良く平均分子量2000万以上のγ-PGAを産生するバチルス属細菌変異株をスクリーニングする観点からは、改変の一例として、塩基配列2において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列が挙げられる。また、該改変の一例として、塩基配列4において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列が挙げられる。また、該改変の一例として、塩基配列6において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列が挙げられる。また、該改変の一例として、塩基配列8において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列が挙げられる。また、該改変の一例として、塩基配列14において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列が挙げられる。これらにおいて1又は複数個として、それぞれ独立して、1~30、1~20、1~15、1~10、1~5、1~4、1~3、1又は2のいずれであってもよい。
【0057】
この観点からは、改変した塩基配列は、改変前の各塩基配列(DNA配列)からなるポリヌクレオチドと相補的なDNA配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする。ここで、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするとは、標準的なハイブリダイゼーション条件下に、2つのポリヌクレオチドが互いにハイブリダイズできることを意味し、本条件は、Sambrook et al., Molecular Cloning : A laboratory manual (1989) Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, USAに記載されている。より具体的には、「ストリンジェントな条件」とは、6.0xSSC中、約45℃にてハイブリダイゼーションを行い、そして2.0xSSCによって50℃にて洗浄することを意味する。
【0058】
また、後述の通り、平均分子量2000万以上のγ-PGAを産生するバチルス属細菌変異株においては、PgsAタンパク質をコードするアミノ酸配列又は塩基配列に多くの変異が認められた。例えば、後述の試験例1から理解できる通り、配列番号1に示すアミノ酸配列において57番目から380番目のアミノ酸を欠失させた場合(実施例1)であっても、平均分子量2000万以上の超高分子γ-PGAを産生する変異体が得られた。このことから、該改変の一例として、配列番号2に示すアミノ酸配列において1~972個の範囲内で任意の個数の塩基が欠失した塩基配列が挙げられる。また、後述の試験例から理解できる通り、例えば、実施例2~5においても複数のアミノ酸を欠失させた場合、平均分子量2000万以上の超高分子γ-PGAを産生する変異体が得られた。このことから、該改変は後述の試験例を考慮して適宜行えばよい。また、このことから、本開示のスクリーニング方法において、pgsA断片をコードする塩基配列は、配列番号2において如何なる改変を有するものであってもよい。
【0059】
pgsAをコードする塩基配列、pgsBをコードする塩基配列、pgsCをコードする塩基配列、pgdSをコードする塩基配列、pgsEをコードする塩基配列の5つの配列のうち、1つの配列のみが改変を有するものであってもよく、2つ以上の配列が改変を有するものであってもよい。前述の通り、平均分子量2000万以上のγ-PGAを産生するバチルス属細菌変異株においてPgsAをコードするアミノ酸配列において多くの変異が認められたことから、少なくともpgsAをコードする塩基配列において改変を有する親株及び/またはポリヌクレオチドを用いることが好ましく例示される。
【0060】
前述の通り、γ-PGAを産生するバチルス属細菌変異株は、通常、PgsB、PgsC及びPgsAの3つのタンパク質が協働して構成される複合体PgsBCA(又は4つのタンパク質が協働して構成される複合体PgsBCAE)によってγ-PGAが産生される。このことから、平均分子量2000万以上のγ-PGAを産生するバチルス属細菌変異株を一層効率良くスクリーニングする観点からは、改変した塩基配列は、これによりコードされるアミノ酸配列がそれぞれγ-PGA合成酵素複合体として有用なPgsBCA(又はPgsBCAE)の対応する各タンパク質を構成可能である改変である。
【0061】
この限りにおいて制限されないが、親株2及び/またはポリヌクレオチドに含まれる前記塩基配列によりコードされるPgsA、PgsB、PgsC、PgsEをコードするアミノ酸配列として、それぞれ前述の配列番号1で表されるアミノ酸配列、配列番号3で表されるアミノ酸配列、配列番号5で表されるアミノ酸配列、配列番号13で表されるアミノ酸配列が例示され、また、これらの配列において改変を有してもよい。また、親株及び/又はポリヌクレオチドに使用可能な前記塩基配列によりコードされるPsdSについても、配列番号7で表されるアミノ酸配列が例示され、また、該配列において改変を有していてもよい。
【0062】
改変は前述と同様に説明される。具体的には、PgsAについては、配列番号1で表されるアミノ酸配列と95%以上、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、99.5%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列が例示され、また、配列番号1で表されるアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列が例示される。これらの変異は前述と同様にして説明される。PgsB、PgsC、PgsE、PgdSについても同様にして説明される。
【0063】
また、本開示において平均分子量2000万以上のγ-PGAを産生するバチルス属細菌変異株を一層効率良くスクリーニングする観点から好ましい変異株は、PgsB、PgsC及びPgsA(更にはPgsE)が協働して構成される複合体PgsBCA(又はPgsBCAE)を発現可能であることから、各改変として好ましくは、配列番号1、3、5及び/又は13で表される各アミノ酸配列と比較して、アミノ酸の保存的置換が生じる改変が好ましく例示される。
【0064】
また、同様の観点から、親株2及び/又はポリヌクレオチドに使用可能なpsdS断片をコードする塩基配列も、PsdSタンパク質において従来知られている、D体グルタミン酸とL体グルタミン酸、あるいは、L体グルタミン酸とL体グルタミン酸との間の結合を切断する機能を持つことが好ましい。この観点から、PsdSに関する改変も、配列番号7で表される各アミノ酸配列と比較して、アミノ酸の保存的置換が生じる改変が好ましく例示される。
【0065】
これらにおいて、アミノ酸配列の同一性は前述と同様にして説明され、保存的置換も前述と同様にして説明される。
【0066】
また、配列番号2で表される塩基配列は、配列番号1のアミノ酸配列の改変の範囲内において、改変されていてもよい。配列番号4で表される塩基配列は、配列番号3のアミノ酸配列の改変の範囲内において、改変されていてもよい。配列番号6で表される塩基配列は、配列番号5のアミノ酸配列の改変の範囲内において、改変されていてもよい。配列番号8で表される塩基配列は、配列番号7のアミノ酸配列の改変の範囲内において、改変されていてもよい。配列番号14で表される塩基配列は、配列番号13のアミノ酸配列の改変の範囲内において、改変されていてもよい。
【0067】
但し、前述の通り、平均分子量2000万以上のγ-PGAを産生するバチルス属細菌変異株においては、PgsAタンパク質をコードするアミノ酸配列又は塩基配列に多くの変異が認められた。例えば、後述の試験例1から理解できる通り、配列番号1に示すアミノ酸配列において57番目から380番目のアミノ酸を欠失させた場合(実施例1)であっても、平均分子量2000万以上の超高分子γ-PGAを産生する変異体が得られた。このことから、該改変の一例として、配列番号1に示すアミノ酸配列において1~324個のアミノ酸が欠失した塩基配列も挙げられ、すなわち、配列番号2に示すアミノ酸配列において1~972個の範囲内で任意の個数の塩基が欠失した塩基配列が挙げられる。また、後述の試験例から理解できる通り、例えば、実施例2~5においても複数のアミノ酸配を欠失させた場合、平均分子量2000万以上の超高分子γ-PGAを産生する変異体が得られた。このことからも、該改変は後述の試験例を考慮して適宜行えばよい。また、このことから、本開示のスクリーニング方法において、pgsA断片をコードする塩基配列は、配列番号2において如何なる改変を有するものであってもよい。
【0068】
枯草菌以外のバチルス属細菌についてもPgsA、PgsB、PgsC、PgdS、PgsEの各タンパク質をコードするアミノ酸配列やその塩基配列は公知であり、同様に説明される。また、枯草菌以外のバチルス属細菌も各配列において改変を有していてもよく、改変は前述と同様に説明される。
【0069】
親株2及び/又はポリヌクレオチドには、本開示の効果が得られる限り、更に、遺伝子マーカー等の任意の遺伝子、プロモーター等の任意の配列を含んでいてもよい。
【0070】
任意の遺伝子として、遺伝子マーカーの一例を挙げると、クロラムフェニコール耐性遺伝子(cat)、カナマイシン耐性遺伝子(kan)、エリスロマイシン耐性遺伝子(erm)、スペクチノマイシン耐性遺伝子(spcm)等の薬剤耐性遺伝子、栄養要求性マーカー等が例示される。また、任意の遺伝子としてα-アミラーゼ遺伝子(amyE)、アルカリプロテアーゼ遺伝子(aprE)、rpsI遺伝子、tufA遺伝子等が例示される。これらの遺伝子及びその塩基配列は公知である。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよく、任意の場所に配置されていればよい。
【0071】
本開示を制限するものではないが、親株2の好ましい例として、後述の試験例に記載する株が例示されるが、本開示はこれらに制限されない。また、親株2は、何らかの遺伝子操作が行われたものであってもよく、遺伝子操作は自然形質転換、プラスミドを用いる手法、CRISPR-Cas等の従来公知の手法を利用できる。一例として、親株2は、PgdSタンパク質を高いレベルで発現する(PgdSを過剰発現する)組換え株であってもよく、例えばpgdS遺伝子を発現する形でプラスミドにクローニングし、それを導入する手法、本来あるpgdSのプロモーターを高いレベルで構成的に(常時)活性化しているプロモーターに置き換える手法等により、PgdSタンパク質を高いレベルで発現する株が得られる。なお、通常、γ-DL-PGAを産生する株は水滴のような光沢のあるコロニーを形成するが、PgdSを高いレベルで発現する株では光沢が失われ、更にはコロニーの形態が平たくなる。これらは、該親株がPgdSを高いレベルで発現する株の指標の一つとできる。
【0072】
本開示を制限するものではないが、ポリヌクレオチドの好ましい例として、バチルス属細菌のpgsB断片をコードする塩基配列、pgsC断片をコードする塩基配列、pgsA断片をコードする塩基配列及びpgsE断片をコードする塩基配列が連結した塩基配列(以下、pgsBCAE塩基配列と称する場合がある)を含むポリヌクレオチドが例示される。
【0073】
これらの塩基配列の各連結は、それぞれ独立して、直接連結していてもよく、リンカーを介して連結していてもよく、又はこれらの塩基配列とは異なる任意の遺伝子(rpsI遺伝子等)をコードする塩基配列を介して連結していてもよい。リンカー及び任意の遺伝子は、本開示の効果を妨げない限り、任意のリンカー及び/または遺伝子を使用ができる。
【0074】
本開示を制限するものではないが、好ましくは、5’末端側から3’末端側に向かって、バチルス属細菌のpgsB断片をコードする塩基配列、pgsC断片をコードする塩基配列、pgsA断片をコードする塩基配列、PgsE断片をコードする塩基配列が順に連結したポリヌクレオチドが好ましく例示される。
【0075】
また、該ポリヌクレオチドにおいて、pgsE断片をコードする塩基配列が含まれていなくてもよい。該ポリヌクレオチドにおいて、pgsB断片をコードする塩基配列が含まれていなくてもよい。該ポリヌクレオチドにおいて、pgsC断片をコードする塩基配列をコードする塩基配列が含まれていなくてもよい。該ポリヌクレオチドにおいて、pgsA断片をコードする塩基配列が含まれていなくてもよい。このように、ポリヌクレオチドにおいてはこれらの断片の組み合わせは制限されないが、後述の通り、平均分子量2000万以上のγ-L-PGAを産生するバチルス属細菌変異株においてPgsAに変異を有する変異株が多数確認されたことから、該ポリヌクレオチドが、少なくともpgsA断片をコードする塩基配列を含むことは、平均分子量2000万以上のγ-L-PGAを産生するバチルス属細菌変異株を一層効率良くスクリーニングする観点から好ましく例示される。また、これらにおいてチルス属細菌のpgdS断片をコードする塩基配列が含まれていてもよい。
【0076】
ポリヌクレオチドは、好ましくは更に遺伝子マーカーをコードする塩基配列を有することが例示される。遺伝子マーカーとして、前述のクロラムフェニコール耐性遺伝子(cat)等の薬剤耐性遺伝子、栄養要求性マーカー等が例示される。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、遺伝子マーカーは、該ポリヌクレオチドの任意の場所に配置されていればよい。
【0077】
また、本開示を制限するものではないが、ポリヌクレオチドは変異株の染色体DNAでもよく、また、遺伝伝子マーカーに直接又は任意のリンカーを介して隣接する変異を有する株の染色体DNAであってもよい。ポリヌクレオチドは、例えば、PCR等より合成する場合などは大きさには制限はないが、相同組換え領域の塩基数は0.2~3kbpが例示され、好ましくは0.2~1.5kbp、より好ましくは1.5~3kbpが例示される。
【0078】
本開示を制限するものではないが、親株2やポリヌクレオチドの好ましい例として、後述の試験例に記載する株が例示されるが、本開示はこれらに制限されない。
【0079】
工程(I-2)では、前述の通り、バチルス属細菌とポリヌクレオチドとを混合し、培地で培養する。該混合時、ポリヌクレオチドは、DNA断片(PCR産物等)であってもよく、ベクター(プラスミド)に組み込まれた状態にあるものであってもよく、その形態は問わない。好ましくはDNA断片が例示される。以下、該ポリヌクレオチドをDNA断片等と記載する場合がある。
【0080】
親株とDNA断片等とを混合できる限りその手段は制限されないが、簡便である点からは、液体培地中で親株とDNA断片等とを混合すればよい。
【0081】
工程(I-2)に使用される培地は、バチルス属細菌が生育可能である限り制限されず、液体培地、平板培地を問わず、好ましくは液体培地が例示される。本開示を制限するものではないが、液体培地としてC-I培地、C-II培地等が例示される。なお、C-I培地、C-II培地等は本分野において公知の培地であるが、その組成の一例として後述の試験例に示す組成が例示される。
【0082】
親株2とDNA断片等との混合量は、本開示の効果が得られる限り制限されず、適宜決定すればよい。例えば、液体培地中、親株2を、好ましくは1×106~1×109cells/mL程度、より好ましくは5~10×108cells/mL程度として、DNA断片(例えば、0.1~1μg/mL程度)と混合することができる。固体培地を用いる場合は、該混合量を参考にすればよい。
【0083】
このようにして親株2とDNA断片等とを混合後、培地中、DNA断片等存在下で親株を培養する。好ましくは、親株2を前記培地中でコンピテントセルとしたのち、該セルとDNA断片等とを混合後、培地中、DNA断片等存在下で親株を培養する。また、親株2を培養できる限り培養条件は制限されないが、培養条件として、好ましくは30~37℃で2~8時間、より好ましくは2~5時間が例示される。培養は、明所、暗所を問わず、また、静置培養、振とう培養等を問わない。例えば、バチルス属細菌は自然形質転換により外来DNAを取り込む性質を有するため、該培養により親株を形質転換することができる。
【0084】
本開示を制限するものではないが、該形質転換においては、枯草菌のゲノム改変時の相同組換え原理を利用してもよく、例えばamyEに前述の遺伝子(pgsA断片等)をコードする塩基配列を挿入する場合、amyEの5’領域、プロモーター領域、該塩基配列、遺伝子マーカー、amyEの3’領域をそれぞれPCRで増幅後、overextension PCR (recombinant PCR)、ギブソンアッセンブリー等によりDNA断片を連結すること、又はこれらの配列を人工合成遺伝子等により部分的に合成した後に連結すること、あるいは全てのDNA断片を合成することができ、これを自然形質転換能を利用して親株2に導入させることにより、amyEの真ん中付近に、amyE5’/プロモーター/該塩基配列/遺伝子マーカー/amyE 3’が挿入されることが想定される。後述の試験例においてtufA下流にpgdSを挿入する場合も同様の原理を利用するものである。このようにポリヌクレオチドの取得方法等は制限されず、本分野で公知の手段に従い行えばよく、一例としてPCR法に従い取得することが例示される。目的とするポリヌクレオチド等の配列に応じてプライマー等を適宜決定すればよい。プライマーの一例として、後述の試験例に示すプライマーが好ましく例示される。
【0085】
親株2の由来とポリヌクレオチド(より具体的にはポリヌクレオチドを構成する前述の遺伝子(pgsA断片等)をコードする塩基配列の由来)はいずれもバチルス属細菌である限り制限されない。バチルス属細菌として、前述の通り、枯草菌、バチルス アミロリケファシエンス、バチルス リケニフォルミス等が例示され、例えば、親株2が枯草菌であり、ポリヌクレオチドが枯草菌以外のバチルス属細菌由来(例えばバチルス アミロリケファシエンス由来)であってもよく、親株2が枯草菌以外のバチルス属細菌であり、ポリヌクレオチドが枯草菌由来であってもよく、親株2とポリヌクレオチドとが共に枯草菌由来であってもよく、親株2とポリヌクレオチドとが共に枯草菌以外のバチルス属細菌由来であってもよい。好ましくは、親株2とポリヌクレオチドとは同種(由来)が例示され、より好ましくはいずれも枯草菌(由来)が例示される。また、ポリヌクレオチドは一種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0086】
このように、工程(I-2)においてバチルス属細菌(親株2)とポリヌクレオチドとを混合し、培地で培養することによって、親株において形質転換が誘導される。該工程は、好ましくは、PgsAタンパク質をコードするアミノ酸配列又は塩基配列に変異を有する組換え体(変異株)への形質転換が誘導されることを目的として行うものである。このようにして得た培養物を、次の工程(II)において用いればよい。
【0087】
工程(II)
工程(II)では、前記工程(I)で培養して得た培養物を平板培地に接種し、コロニーを形成させる。
【0088】
前述の通り、工程(I-1)では親株としてPgsBCA及びPgdSを発現可能なバチルス属細菌を用いる。また。工程(I-2)においてバチルス属細菌とポリヌクレオチドの少なくとも一方が、バチルス属細菌由来PgdS断片をコードする塩基配列を有する、及び/または、工程(II)においてバチルス属細菌由来PgdSタンパク質存在下でコロニーを形成させる。このように、工程(II)は、バチルス属細菌由来PgdSタンパク質存在下でコロニーを形成させる。該PgdSタンパク質は平板培地に添加(外添)してもよい。外添する場合、培地中の該PgdSタンパク質の含有量は問わず、適宜決定すればよい。また、工程(I)で得た変異株がバチルス属細菌由来PgdS断片をコードする塩基配列を有する場合、該変異株は、それ自身が産生するPgdSタンパク質存在下で培養されてもよい。工程(II)おいてPgdSタンパク質存在下でコロニーを形成させることにより、後述の工程(III)において、PgdSが欠失していないにもかかわらずコロニーを形成可能な株を容易に選択できるようになる。
【0089】
本開示を制限するものではないが、平板培地として、従来公知のγ-DL-PGAを産生するバチルス属細菌を培養可能である培地が例示され、好ましくはLB寒天培地(トリプトン、酵母エキス、塩化ナトリウム、寒天を含む、pH7)等の平板培地が例示される。培養条件として、30~37℃で12~24時間が例示される。培養は、明所、暗所を問わず、通常、静置培養を行う。これによりコロニーが培地に形成される。
【0090】
前述の通り、工程(I)で得た変異株は遺伝子マーカーをコードする塩基配列を含んでもよい。この場合、変異体が形成するコロニーをより簡便且つ選択的に取得する観点から、平板培地は、該遺伝子マーカーに応じた組成を有する選択培地が好ましく例示される。本開示を制限するものではないが、遺伝子マーカーとして薬剤耐性遺伝子を用いる場合であって、薬剤耐性遺伝子がクロラムフェニコール遺伝子である場合、選択培地は薬剤としてクロラムフェニコールを含むことが好ましく例示され、該薬剤耐性遺伝子がカナマイシン遺伝子である場合、選択培地は薬剤としてカナマイシンを含むことが好ましく例示され、該薬剤耐性遺伝子がエリスロマイシン遺伝子である場合、選択培地は薬剤としてエリスロマイシンを含むことが好ましく例示される。
【0091】
また、選択培地の好ましい例示として、従来公知のγ-DL-PGAを産生するバチルス属細菌を培養可能である培地と前記薬剤とを混合して得た培地が例示される。従来公知のγ-DL-PGAを産生するバチルス属細菌を培養可能である培地として、本開示を制限するものではないが、LB寒天培地等の平板培地が例示される。培地中の薬剤の含有量は制限されず、薬剤の種類等により適宜決定すればよいが、一例としてクロラムフェニコール5~10μg/mlが例示される。培養条件として、30~37℃で12~24時間が例示される。培養は、明所、暗所を問わず、通常、静置培養を行う。これによりコロニーが選択培地に形成される。
【0092】
工程(III)
前記工程(II)で形成させたコロニーから、光沢を有するコロニーを選択する。前記工程(II)で用いた平板培地には光沢があるコロニーと無いコロニーとが存在する場合がある。工程(III)では、平板培地に形成したコロニーのうち、光沢のあるコロニーを選択する。
【0093】
ここで、「光沢がある」とは、水滴のような光沢が認められることを意味する。γ-LD-PGAを産生する従来公知のバチルス属細菌を、該細菌の培養に一般的に使用されている平板培地(LB平板培地等)で培養した場合、該細菌は細胞外に粘性を有するγ-LD-PGAを生産するために水滴のような光沢のあるコロニーを形成する。工程(III)において光沢のあるコロニーを選択する際、γ-LD-PGAを産生する従来公知のバチルス属細菌を培養した場合に認められるコロニーの光沢を指標として、これと同様の光沢のあるコロニー選択すればよい。
【0094】
ここで、γ-LD-PGAを産生する従来公知のバチルス属細菌とは、配列番号2で表される塩基配列、配列番号4で表される塩基配列、配列番号6で表される塩基配列、配列番号14で表される塩基配列を有する株であって、該株をLB平板培地で30~37℃で12~24時間培養することにより発現、形成される複合体pgsBCAEを構成するPgsAタンパク質が配列番号1で表されるアミノ酸配列でコードされ、PgsBタンパク質が配列番号3で表されるアミノ酸配列でコードされ、PgsCタンパク質が配列番号5で表されるアミノ酸配列でコードされ、PgsEタンパク質が配列番号13で表されるアミノ酸配列コードされる株を意味する。該株の好ましい例として、後述の比較例3の株が例示される。
【0095】
前記工程(III)で選択したコロニーを培養し、培養物中のγ-L-PGAの平均分子量を決定することにより、平均分子量2000万以上の超高分子γ-PGAを産生するバチルス属細菌変異株を取得することができる。γ-PGAの平均分子量の決定は、前述と同様にして重量平均分子量を測定することにより決定される。該培養に用いる培地として、前述のLB培地、MMOPS培地(1.5g/l K2HPO4, 6g/l NH4Cl, 0.35g/l MgSO4・7H2O, 0.05g/l MnSO4・5H2O, 10.5g/l 3-morpholinopropanesulfonic acid, 13.5mg/l FeCl3・6H2O, 7.3mg/l CaCl2・2H2O, 3.6mg/l ZnSO4・7H2O, 0.65mg/l CuSO4・5H2O, 0.6mg/l CoCl2・6H2O, and 0.6mg/l Na2MoO4・2H2O)、MYC培地(MMOPS medium supplemented with 10g/l glucose, 1g/l Bacto yeast extract (Difco Laboratories, Franklin Lakes, NJ, USA), and 0.4 g /l casamino acids (Difco Laboratories))等が例示され、例えばこれらの培地に更に前記薬剤等は含有されていてもよく含有されていなくてもよい。該培地はPGA生産において使用されている従来公知の培地であり、例えばMMOPS培地は従来公知の最小培地の一種であり、MYC培地は、MMOPS培地に酵母エキスとカザミノ酸を加えた培地である。培養条件として、30~37℃で12~24時間が例示される。培養は、明所、暗所を問わず、通常、静置培養を行う。
【0096】
このようにして決定した平均分子量が2000万以上の場合、平均分子量2000万以上の超高分子γ-PGAを産生するバチルス属細菌変異株を取得できたと決定される。一方、このようにして決定した平均分子量が2000万未満の場合、平均分子量2000万以上の超高分子γ-PGAを産生するバチルス属細菌変異株を取得できなかったと決定される。このように本開示のスクリーニング方法によれば、平均分子量が2000万以上のγ-PGAが産生されたかどうか容易に決定することができ、また、平均分子量2000万以上の超高分子γ-PGAを産生するバチルス属細菌変異株を取得できたかどうかを容易に決定することができる。このことから、本開示のスクリーニング方法によれば、平均分子量2000万以上の超高分子γ-PGAを産生するバチルス属細菌変異株を容易にスクリーニングすることができる。また、このことから、本開示のスクリーニング方法によれば平均分子量2000万以上の超高分子γ-PGAを産生するバチルス属細菌変異株を容易に作製できるともいえる。
【0097】
バチルス属細菌がγ-DL-PGA生産する目的の一つとして外部ストレスへの適応が挙げられ、γ-DL-PGAは粘性を有しており、細胞の周囲に粘性のあるγ-DL-PGAを排出することで、外部ストレスから細胞を保護しているといわれている。粘性を示す場合、コロニーには水滴のような光沢が認められる。一方、PgdSは、D体グルタミン酸とL体グルタミン酸、又は、L体グルタミン酸とL体グルタミン酸との間の結合を切断する機能を持ち、γ-DL-PGA生産株においてPgdSを過剰発現すると、細胞外に排出されたγ-DL-PGAは分解されるため、コロニーは低い粘性しか示さず、コロニーは光沢を失う。本発明者らは、これらの性質に着目し、バチルス属細菌が、外部ストレスに適応するためにγ-L-PGAを生産する変異を獲得してPgdSの影響を回避できれば、PgdS発現下においてもコロニーは粘性を示すのではないかとの仮説を立てた。この仮説をもとに、γ-L-PGAを生産する枯草菌変異株のスクリーニングを試みたところ、PgdS発現下においてもでも光沢を失わないコロニーが出現し、特に驚くべきことに、平均分子量2000万以上の超高分子γ-PGAを製造できることを見出した。本開示においては、このようにして、平均分子量2000万以上の超高分子γ-PGAを製造することができ、また、平均分子量2000万以上の超高分子γ-PGAを産生するバチルス属細菌変異株を作製することができる。なお、平均分子量2000万以上の超高分子γ-PGAは前述と同様に説明され、平均分子量2000万以上のγ-PGA、特に平均分子量2000万以上のγ-L-PGAを本開示は提供するが、ポリグルタミン酸にはD体のγ-グルタミン酸が混じっていてもよく混じっていなくてもよい。
【0098】
また、このことから、例えば、必要に応じて、このようにして得た変異株に対して、PgdS産生能を欠損させる処理(例えばpgdSをコードする塩基配列を欠損する処理)を更に行ってもよい。一例を説明すると、PgdS産生能は、得られた変異株におけるγ-PGA産生自体には必須ではないため、ひとたび平均分子量2000万以上のガンマ-PGAを産生するバチルス属細菌変異株が得られれば、該変異株からPgdS産生能を欠損させても、平均分子量2000万以上のガンマ-PGAを産生できるためである。
【0099】
平均分子量2000万以上のガンマ-ポリグルタミン酸を産生するバチルス属細菌変異株
前述のスクリーニング方法によれば、平均分子量2000万以上のγ-PGAを産生するバチルス属細菌変異株を作製することができる。このことから、前述のスクリーニング方法は、平均分子量2000万以上のγ-PGAを産生するバチルス属細菌変異株の作製方法と言い換えることもできる。また、本発明者らは、後述の通り、平均分子量2000万以上のγ-PGAを産生するバチルス属細菌変異株を作製することに成功した。
【0100】
このことから、本開示は、平均分子量2000万以上の超高分子γ-PGAを産生するバチルス属細菌変異株を提供する。ここで、平均分子量2000万以上の超高分子γ-PGAは前述と同様に説明され、平均分子量2000万以上のγ-L-PGAにおいて、D体のγ-グルタミン酸が混じっていてもよく混じっていなくてもよい。
【0101】
本開示の平均分子量2000万以上のγ-PGAを産生するバチルス属細菌変異株は、好ましくは、γ-PGA合成酵素複合体PgsBCAを構成する3つのタンパク質(又はγ-PGA合成酵素複合体PgsBCAEを構成する4つのタンパク質)のうち、PgsAをコードする配列に変異を有する。
【0102】
後述の試験例から、平均分子量2000万以上のγ-L-PGAを産生するバチルス属細菌変異株は、複合体PgsBCA(又はPgsBCA)を発現可能であって、PgsAが膜貫通能を有し且つL-グルタミン酸をD-グルタミン酸に変換する活性を低減又は失う変異を有することが好ましいことが考えられる。具体的には、細胞質でPgsBがL-グルタミン酸を連結してγ-L-PGAを合成し、PgsCとPgsAのN末端、PgsBのC末端で形成される輸送装置によりγ-L-PGAが細胞外へ運ばれ、細胞外ではPgsAが、その一部をD-グルタミン酸に変換することが考えられる。そのために、PgsBCだけではPGAは細胞外へとは排出されず、結果としてγ-L-PGAが産生されない。これらのことから、該変異株において、複合体PgsBCAを構成するPgsAは、PGAを細胞外へ排出するために必要なPgsAのN末端領域(例えば配列番号1で表される1~56番目のアミノ酸配列、前述の通り、改変を有していてもよい)を最低でも備えている必要があり、且つ、L-グルタミン酸をD-グルタミン酸に変換する活性を低減又は失う変異を有することが必要であると考えられる。このことから、本開示の変異体として好ましくは、複合体PgsBCAにおいて、γ-DL-PGAを産生するバチルス属細菌が本来の有するPgsB及びPgsCの前記機能を維持しつつ、PgsAについては、γ-L-PGAを細胞外へ排出するために必要なPgsAのN末端領域を備えつつ、細胞外でL-グルタミン酸をD-グルタミン酸に変換する活性を低減又は失う変異を有する。複合体PgsBCAが更にPgsEを含む場合も同様に説明され、この場合、本開示の変異体は、複合体PgsBCA(PgsBCAE)において、γ-DL-PGAを産生するバチルス属細菌が本来の有するPgsEの機能も維持することが好ましい。
【0103】
該変異株は、γ-DL-PGAを産生するバチルス属細菌において形質転換を行わせることにより作製することができ、その作製方法は、自然突然変異、ポリヌクレオチドの導入等の如何なる手段で行ってもよく、これらは従来公知の遺伝子工学的手法に従い行うことができる。作製方法の好ましい例示として前記スクリーニング方法を実施することによる作製等が挙げられる。
【0104】
また、前述の通り、変異株は、好ましくはγ-L-PGAを生産可能であり且つPgsAをコードするアミノ酸配列又は塩基配列に変異を持つ変異株である。すなわち、変異株は、複合体PgsBCA(又はPgsBCAE)を発現可能であり、PgsAをコードするアミノ酸配列又は塩基配列において変異を有することが好ましく例示される。ここで、複合体PgsBCA(又はPgsBCAE)を発現可能であるとは、変異株をLB寒天培地で30℃、30時間培養した際、該複合体を発現できる限り制限されない。また、PgsAをコードするアミノ酸配列又は塩基配列の変異としては、本開示を制限するものではないが、次の変異が例示され、更には、後述の試験例に示す変異が例示される。なお、本開示の変異株について、PgsB、PgsCをコードする各アミノ酸配列又は塩基配列、更に、PgsEをコードするアミノ酸配列又は塩基配列は、前述と同様に説明され、改変等についても同様に説明される。また、前述と同様に、変異株はPgdSを発現可能であるものであってもよく、PgdSをコードする各アミノ酸配列又は塩基配列も、前述と同様に説明され、改変等についても同様に説明される。なお、PgdSを発現可能であるとは、変異株をLB寒天培地で30℃、30時間培養した際、PgdSを発現できる限り制限されない。
【0105】
本開示を制限するものではないが、平均分子量2000万以上のγ-PGAを産生するバチルス属細菌変異株の一例として、次の変異株が好ましく例示される。
【0106】
以下の(A)及び(B)を備える枯草菌変異株:
(A)PgsBCAを発現する、
(B)PgsAが次の(B1)~(B4)のいずれかに示すアミノ酸配列からなる、
(B1)配列番号1で表されるアミノ酸配列の1番目から56番目までのアミノ酸配列、
(B2)前記(B1)に記載する1番目から56番目までのアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列、
(B3)配列番号1で表されるアミノ酸配列の1番目から368番目までのアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列、
(B4)配列番号1で表されるアミノ酸配列の1番目から380番目までのアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列。
【0107】
これらにおいて、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加という改変は、そのアミノ酸の数を超えない範囲で、前述と同様に説明される。また、1又は複数個として、例えば、配列番号1で表されるアミノ酸配列の1番目から56番目までのアミノ酸配列、配列番号1で表されるアミノ酸配列の1番目から368番目までのアミノ酸配列、配列番号1で表されるアミノ酸配列の1番目から380番目までのアミノ酸配列の各アミノ酸配列において、それぞれ独立して、1~30個、好ましくは1~25個、1~20個、1~15個、1~10個、1~8個、1~5個、1~4個、1~3個、1又は2個等が例示される。後述の変異株についても同様である。
【0108】
本開示を制限するものではないが、枯草菌変異株は、更に以下の(1)~(3)のうち少なくとも1つを有する枯草菌変異株であってもよい。
【0109】
(1)前記(B2)~(B4)に記載する1番目から56番目までのアミノ酸配列において、次の(1-1)~(1-5)からなる群より選択される少なくとも1種の変異を有する。
(1-1)F7S、(1―2)K20R、(1―3)V33A、(1―4)V35A、(1―5)K50R。
【0110】
ここで、例えば「F7S」は、配列番号1に記載するアミノ酸配列において、7番目のアミノ酸残基がFからSに置換したことを意味する。他の記載についても同様に説明される。以下同様である。これらのアミノ酸の一文字表記は本分野の一般的な表記に従う。
【0111】
(2)前記(B3)及び(B4)に記載する57番目から368番目までのアミノ酸配列において、次の(2-1)~(2-98)からなる群より選択される少なくとも1種の変異を有する。
(2-1)D66V、(2-2)G70R、(2-3)F86V、(2-4)Q87*、(2-5)M69T、(2-6)R71R、(2-7)K75K、(2-8)Q79P、(2-9)K80E、(2-10)G81E、(2-11)E90K、(2-12)F93C、(2-13)F93L、(2-14)Y98Y、(2-15)N102S、(2-16)E104K、(2-17)E104V、(2-18)E104D、(2-19)E104G、(2-20)N105Y、(2-21)P106S、(2-22)P106L、(2-23)V107I、(2-24)N112D、(2-25)D117G、(2-26)K118E、(2-27)L122P、(2-28)L122Q、(2-29)T124P、(2-30)E127G、(2-31)K133R、(2-32)L140P、(2-33)N145S、(2-34)N145D、(2-35)H146Q、(2-36)H146R、(2-37)D149Y、(2-38)D149G、(2-39)D149N、(2-40)G151S、(2-41)V152V、(2-42)V152A、(2-43)Q153R、(2-44)T158R、(2-45)A163V、(2-46)F163S、(2-47)D168N、(2-48)G171V、(2-49)G171R、(2-50)A172V、(2-51)L176L、(2-52)S177R、(2-53)A179T、(2-54)K182A、(2-55)S184P、(2-56)K187R、(2-57)A194V、(2-58)G197D、(2-59)T199A、(2-60)A208T、(2-61)G214S、(2-62)L216L、(2-63)P217L、(2-64)M226T、(2-65)H233H、(2-66)H242Y、(2-67)H242R、(2-68)H242L、(2-69)E246E、(2-70)Y247H、(2-71)D250D、(2-72)M262V、(2-73)A265V、(2-74)V271A、(2-75)H274R、(2-76)P275L、(2-77)H276R、(2-78)H276Y、(2-79)L278L、(2-80)Y284H、(2-81)Y284C、(2-82)F298L、(2-83)D299G、(2-84)D299V、(2-85)D299G、(2-86)Q300R、(2-87)W302R、(2-88)L310Q、(2-89)L315P、(2-90)K316R、(2-91)K317E、(2-92)N318I、(2-93)G321E、(2-94)F323L、(2-95)T334A、(2-96)V338A、(2-97)T347A、(2-98)D355N。
【0112】
ここで、「Q87*」は、87番目のアミノ酸残基をコードするコドンがストップコドンとなったこと(87番目のQをコードするコドンCAAがTAAへ置換)を意味する。
【0113】
(3)前記(B4)に記載する369番目から380番目までのアミノ酸配列において、次の(3-1)~(3-4)からなる群より選択される少なくとも1種の変異又は(3-5)の欠失を有する。
(3-1)D370V、(3-2)H373R、(3-3)D375N、(3-4)K376E、(3-5)369番目から380番目までのアミノ酸残基が欠失。
【0114】
また、これらにおいて好ましくは、配列番号1の1番目から380番目におけるアミノ酸残基の置換数は1~30個が例示され、好ましくは1~20、1~15、1~10、1~9、1~8、1~7、1~6、1~5、1~4、1~3、1又は2個等が例示される。
【0115】
また、より好ましくは、配列番号1の1番目から56番目におけるアミノ酸残基の置換数は0~7個が例示され、更に好ましくは0~6、0~5、0~4、0~3、0~2、0又は1個等が例示される。
【0116】
また、より好ましくは、配列番号1の57番目から368番目におけるアミノ酸残基の置換数は0~15個が例示され、更に好ましくは0~12、1~10、1~8、1~5、1~4、1~3、1~2、1又は2個等が例示される。
【0117】
また、より好ましくは、配列番号1の369番目から380番目におけるアミノ酸残基の置換数は0~8個が例示され、好ましくは0~7、0~6、0~5、0~4、0~3、0~2、0又は1個等が例示される。
【0118】
また、好ましくは、前記(2-4)Q87*の変異及び/又は(3-5)369番目から380番目までのアミノ酸残基の欠失を少なくとも有することが例示される。
【0119】
また、好ましくは、配列番号1の7番目、93~122番目、145~187番目、213~250番目、270~302番目、310~323番目及び330~338番目のアミノ酸から選択される少なくとも1つのアミノ酸において変異を有することが例示される。これらにおいてより好ましくは、配列番号1の7番目、93番目、104番目、122番目、145番目、146番目、149番目、152番目、163番目、171番目、242番目、247番目、276番目、299番目、300番目、317番目及び338番目のアミノ酸から選択される少なくとも1つのアミノ酸において変異を有することが例示される。
【0120】
また、本開示の変異株の一例として、後述の試験例により得た各種変異株(例えば
図7、9及び表5~9等)が例示される。
【0121】
また、変異株は、サイレント変異(塩基配列は変化するが、アミノ酸配列は変化しない変異)を有するものであってもよく、このような変異は平均分子量2000万以上のγ-PGAを産生できる限り如何なる変異であってもよく、好ましくは後述の試験例により得た変異(例えば
図7、9及び表5~9等)が例示される。
【0122】
枯草菌以外のバチルス アミロリケファシエンス等の変異株も前述の限り制限されず、また、枯草菌の例示を参考にして適宜作製すればよい。
【0123】
平均分子量2000万以上のガンマ-ポリグルタミン酸の製造方法
これらのことから、本開示はまた、バチルス属細菌変異株を培養する工程を含む、平均分子量2000万以上のγ-PGAの製造方法を提供するともいえる。
【0124】
前述の通り、本開示は、平均分子量2000万以上のγ-PGAを産生するバチルス属細菌変異株を提供する。該変異株を培養することにより、平均分子量2000万以上のγ-PGAを製造することができる。
【0125】
培養は、本開示のバチルス属細菌変異株を培養できる限り制限されないが、例えば、γ-LD-PGAを産生可能な従来公知のバチルス属細菌の培養に一般的に使用される培地が好ましく例示される。
【0126】
このような培地として、LB培地、MMOPS培地、MYC培地等が例示される。また、培養条件として、30~37℃で12~48時間が例示される。培養は、明所、暗所を問わず、また、静置培養、振とう培養等を問わず、従来公知の手順に従えばよい。また、培養後、必要に応じて、本分野の従来公知の手順に従い、得られた培養物から平均分子量2000万以上のγ-PGAを取得すればよい。平均分子量は前述と同様にして測定すればよい。
【0127】
このように、本開示によれば、平均分子量2000万以上という非常に分子量の大きいγ-PGAを製造することができる。γ-PGAは前述と同様にして説明される。
【0128】
従来、γ-DL-PGAはバイオプラスチック原料として着目されているが、実用化が十分に進んでいない。本開示によれば、平均分子量2000万以上の超高分子γ-PGAを取得でき、特に平均分子量2000万以上のγ-L-PGAを取得できる。また、従来、γ-L-PGAを生産する微生物として古細菌Natrialba aegyptiacaが知られているが、古細菌の培養にはカザミノ酸等のリッチな栄養源を必要とするなど手間を有する。また、本発明者らが確認したところ、古細菌N. aegyptiacagaが産生するγ-L-PGAの分子量は非常に小さく5085kDaにすぎなかった。これに対して、本開示によれば、平均分子量2000万以上という超高分子のγ-PGA、特にγ-L-PGAを、例えば一般的な培養手順により容易に提供できる。このことから、バイオプラスチック分野の更なる発展が期待される。
【実施例0129】
以下、例を示して本開示の実施形態をより具体的に説明するが、本開示の実施形態は下記の例に限定されるものではない。
【0130】
試験例1
1)試験手順
次の手順に従い、平均分子量2000万以上のγ-PGAを産生するバチルス属細菌変異株を作製した。また、平均分子量2000万以上のγ-PGAを製造した。
【0131】
なお、本試験例で用いたプライマーは次の表1の通りである。
【0132】
【0133】
また、本試験例に記載するpgsA、pgsB、pgsC、pgsS及びpgsEの各遺伝子(断片)をコードする塩基配列として、それぞれ配列番号2で表される塩基配列、配列番号4で表される塩基配列、配列番号6で表される塩基配列、配列番号8で表される塩基配列、配列番号14で表される塩基配列を用いた。
【0134】
1-1)枯草菌(B. subtilis)変異株の作製1
・枯草菌OA222(MGB874:tufA-pgdS(spc), amyE::P
rrnO
-pgsBCE (cat), ΔpgsBCAE-pgdS):pgsA遺伝子完全欠損株の作製
枯草菌A-278(MGB874:tufA-pgdS(spc), amyE::P
rrnO-pgsBCAE (cat), ΔpgsBCAE-pgdS)株のゲノムを鋳型として、pgsAを含まない上流領域(amyEの5’からpgsCまで)をamyE-UF/DpgsA2-1rで増幅し、pgsAを含まない下流領域(cat(クロラムフェニコール耐性遺伝子)を含む、pgsEからamyEの3’まで)をDpgsA2-2f/amyE-DR2で増幅した。これらの断片をamyE-UF/amyE-DR2を用いてOE (Overlap extension)-PCRにより連結した断片を増幅した。(
図5)
【0135】
A-278株の作製過程で、pgsBCAE-pgdS領域がマーカーレスで削除され、pgdS遺伝子がtufA遺伝子下流に転写融合した形で挿入された公知の株(MGB874:tufA-pgdS (spc),ΔpgsBCAE-pgdS)を用いた(Yamamoto J, et al. (2022) Constitutive expression of the global regulator AbrB restores the growth defect of a genome-reduced Bacillus subtilis strain and improves its metabolite production. DNA Res 29: dsac015)。この株に、上記OE-PCRにより増幅した断片を導入し、クロラムフェニコール含有LB寒天培地でクロラムフェニコール耐性のコロニーを選択後、変異の無い(上記OE-PCRにより増幅した断片が導入された)正しいクローンをOA222株とした。OA222株は、pgdS遺伝子(pgdS断片をコードする塩基配列、以下同じ)がtufA遺伝子下流に転写融合した形で挿入され、pgsB遺伝子、pgsC遺伝子、pgsE遺伝子及び薬剤耐性遺伝子(cat)を有する親株といえる。
【0136】
・rpsI-pgsA(mut)株の作製
リボゾームタンパク質をコードするrpsIは構成的に(常時)高いレベルで転写される必須遺伝子であり、その下流に野生型又は変異型のpgsA遺伝子を転写融合の形で挿入した株を作成した。
【0137】
1回目のPCRは、枯草菌ゲノムを鋳型として挿入部位の上流域をrpsI-1s/rpsI-1r-pgsAで増幅し、下流域をrpsI-2f/rpsI-2sで増幅した。一方、pgsA遺伝子についてはpgsA-f-SD/pgsA380-r(又はpgsA369-r, pgsA368-r, pgsA310-r, pgsA180-r, pgsA61-r, pgsA56-r, pgsA55-r, pgsA48-r, pgsA38-r)で増幅した。テトラサイクリン耐性遺伝子カセットは、pUC19 tet-を鋳型としてrPCR-tetF/rPCR-tetR2で増幅した。これらの断片をOE-PCRにより連結し、親株に導入するポリヌクレオチド(DNA断片)とした(
図6)。該DNA断片は、rpsI遺伝子及びpgsA遺伝子を有する。次いで、該DNA断片をOA222株に導入し、テトラサイクリン含有LB寒天培地でテトラサイクリン耐性のコロニーを選択後、変異の無い(前記pgsA遺伝子が導入された)正しいクローン(変異株)を獲得した。
【0138】
1-2)枯草菌(B. subtilis)変異株の作製2
形質転換の過程で、γ‐L-PGAを生産する自然変異体が頻繁に出現した。そこでまず、次に述べる形質転換により、γ‐L-PGA生産株を得た。PgdSを過剰発現するγ‐DL-PGA生産株A-278株を、OA193株 (ΔkinA and PabrB(ΔSA)) のゲノム DNAで形質転換し、カナマイシン及びエリスロマイシンで選抜して A-308株を取得した。また、A-278の派生株でalsS-alsD(アセトイン合成用オペロン)の欠損を有するA-327株もOA193株のゲノムDNAで形質転換し、カナマイシンで選択し、OA203株を取得した。pgdS遺伝子に変異がないことを確認した後、各株からL-PGA生産株の特徴を持つクローンを2つ選び、次世代シーケンサーの一つイルミナシーケンサーで全ゲノム配列を決定し、変異を同定した。その結果、すべての株がpgsAに変異を有することが明らかとなった(表2)。ここで、alsSD欠損は公知であり(Toya Y, et al., (2015) Enhanced dipicolinic acid production during the stationary phase in Bacillus subtilis by blocking acetoin synthesis. Biosci, Biotechnol, Biochem 79: 2073-2080)、また、kinA欠損も公知である。
【0139】
【0140】
獲得したpgsA遺伝子に変異を持つ4つのγ-L-PGA生産変異株のうち、pgsA* (His274Asp(配列番号1において274番目のHisがAspに変異)を持つOA203-1-L1株が最もγ-PGA由来の粘性が見られた。この変異株は、ΔalsSD, ΔkinAの変異も有するため、pgsBCA*E遺伝子をSA400N (MGB874 Trp+, ΔpgsBCAE, ΔpgdS)株に導入した。具体的には、SA400N株にOA203-1-L1株のゲノムDNA(DNA断片)を導入し、クロラムフェニコール耐性のコロニーを選択することにより、OA217株(MGB874 Trp+, ΔpgsBCAE, ΔpgdS, pgsBCA*E(cat))を作成した。このようにして得た変異株を後述の
図7中では「PgsBCA*E」とする。SA400N株は、pgdS遺伝子、pgsB遺伝子、pgsC遺伝子、pgsA遺伝子及びpgsE遺伝子が欠損した親株といえる。また、該DNA断片(ポリヌクレオチド)は、pgdS遺伝子、pgsB遺伝子、pgsC遺伝子、pgsA遺伝子及びpgsE遺伝子を有する。
【0141】
1-3)γ-PGAの製造及び平均分子量の測定
前述のようにして作製した変異株を、LB寒天培地に接種し、30℃で30時間培養し、コロニーを形成させた。得られた光沢(粘性)を持つコロニーを回収して蒸留水に懸濁した。遠心分離により細胞を除去し、得られた上清をコスモスピンフィルターH(0.45 μm; Nacalai Tesque, Kyoto, Japan)で濾過した。得られた濾液を0.1M Na2SO4により50℃、1.0mL/minの流速で溶出し、UV検出器を用いて波長210nmでγ-L-PGAを検出した。サイズ排除クロマトグラフィ(SEC)カラム (TSKgel G6000PWXL + G4000PWXL; TOHSO, Tokyo, JPN)を備えたHPLC(LC-2030C Plus; Shimadzu, Kyoto, Japan)を用いて、分子量検定を行った。γ-PGA含有量は、食品グレードのPGA(明治フードマテリア、東京、日本)を用いて作成した検量により算出した。γ-PGAの分子量は、サイズ排除クロマトグラフィ用標準試料プルランSTANDARD P-82 (Showa Denko, Tokyo, JPN)を用いて測定した。詳細には記の通りとした。詳細には次の通りとした。プルラン (Shodex STANDARD P-82; Showa, Tokyo, Japan)、及び、予め重量平均分子量(Mw)がわかっている4種類のγ-PGA、ポリ-L-グルタミン酸ナトリウム塩(分子量15000-50000及び分子量50000-100000; Merck, Darmstadt, Germany)、ポリ-γ-グルタミン酸(分子量200000-500000及び分子量1500000-2500000; Fujifilm Wako, Tokyo, Japan)を分子量の標品として用い、島津HPLC用LabSolutions GPCソフトウェアを用いて、γ-L-PGAの重量平均分子量(Mw)を決定した。
【0142】
参考例として、古細菌Natrialba aegyptiacaが産生するγ-L-PGAの平均分子量を測定した。古細菌は従来公知の一般的な手順に従い培養してコロニーを形成させ、得られたコロニーを用いて、上記手順と同様にして平均分子量を測定した。古細菌N. aegyptiacagaが産生するγ-L-PGAの分子量は非常に小さく平均分子量は約509万(5085kDa)であった。
【0143】
【0144】
図7中、変異株「PgsA(56aa)」(実施例1)は、PgsAをコードする配列番号1で表されるアミノ酸配列の(N末端側の)1番目から56番目までのアミノ酸配列でコードされるタンパク質を、PgsAとして有する変異株を意味する。この変異株において、PgsB及びPgsCをコードする各アミノ酸配列に親株との相違は認められなかった。この変異株が産生したγ-L-PGAの重量平均分子量(Mw)は2980万であった。
【0145】
親株(図中、PgsBCAE)を培養した場合、産生されたγ-L-PGAの重量平均分子量(Mw)は1885万(18849kDa)であった。このことから、変異株「PgsA(56aa)」では、重量平均分子量(Mw)は2980万という、親株の約1.6倍の大きさの超高分子γ-L-PGAが得られることが分かった。
【0146】
同様に、
図7中、変異株「PgsA(61aa)」(実施例2)は、PgsAをコードする配列番号1で表されるアミノ酸配列の1番目から61番目までのアミノ酸配列でコードされるタンパク質を、PgsAとして有する変異株を意味する。この変異株においても、PgsB及びPgsCをコードする各アミノ酸配列に親株との相違は認められなかった。この変異株が産生したγ-L-PGAの重量平均分子量(Mw)は2624万であった。このことから、該変異株においても、親株よりも分子量の大きい20000万を超えるγ-L-PGAが得られることが分かった。
【0147】
図7中、変異株「PgsA(180aa)」(実施例3)、変異株「PgsA(310aa)」(実施例4)、変異株「PgsA(368aa)」(実施例5)についても同様に説明される。
【0148】
また、変異株「PgsBCA*E」(実施例6)が産生したγ-L-PGAの重量平均分子量(Mw)は3020万(30201kDa)であった。このことから、該変異株においても、親株よりも分子量の大きい20000万を超えるγ-L-PGAが得られることが分かった。
【0149】
一方、
図7中、変異株「PgsA(369aa)」(比較例1)、変異株「PgsA(380aa)」(比較例2)は、枯草菌よりも非常に子量の大きいγ-L-PGAは得られたが、その平均分子量は2000万を超えるものではなかった。変異株「PgsA(369aa)」は、PgsAをコードする配列番号1で表されるアミノ酸配列の1番目から369番目までのアミノ酸配列でコードされるタンパク質を、PgsAとして有する変異株である。変異株「PgsA(380aa)」は、PgsAをコードする配列番号1で表されるアミノ酸配列の1番目から380番目までのアミノ酸配列(すなわち、配列番号1で表されるアミノ酸配列)でコードされるタンパク質を、PgsAとして有する変異株である。これに対して、前記変異株「PgsA(368aa)」は、PgsAをコードする配列番号1で表されるアミノ酸配列の1番目から368番目までのアミノ酸配列でコードされるタンパク質を、PgsAとして有する変異株である。これらのことから、2000万を超えるγ-L-PGAの産生には、PgsAをコードするアミノ酸配列として、配列番号1で表されるアミノ酸配列の369番目から380番目までのアミノ酸配列は必須ではなく、むしろ369番目から380番目までのアミノ酸配列が欠損している場合に2000万を超えるγ-L-PGAが得られやすいことが分かった。
【0150】
なお、結果には示さないが、PgsAとして、配列番号1において1~38番目からなるアミノ酸配列を用いてもコロニーは粘性を示さなかった。また、PgsAとして、配列番号1において1~48番目又は1~55番目からなるアミノ酸配列を用いてもγ-L-PGAは産生されなかった。これらはPgsAにおける膜貫通領域を部分的に欠失した配列である。一方、前述の通り、PgsAとして、配列番号1において1~56番目からなるアミノ酸配列を用いた場合は2000万を超えるγ-L-PGAを産生できた。これはPgsAにおける膜貫通領域を維持させた配列である。これらのことから、2000万を超えるγ-L-PGAを産生には、少なくとも複合体PgsBCA(又はPgsBCAE)において、PgsAの膜貫通領域を含むN末端領域が必要であることが分かった。
【0151】
また、結果には示さないが、PgsA、PgsB、PgsC、PgsEのいずれにおいても変異を有していない株ではγ-D-PGAとγ-L-PGAとの比(D/L比)は68~69:31~32(約7:3)であったのに対して、前述の変異株PgsA(56aa)、PgsA(61aa)、PgsA(310aa)、変異株PgsBCA*Eではその比が0~2:98~100であり、変異株PgsA(180aa)ではその比が0~1:99~100であり、変異株PgsA(368aa)ではその比が1~3:97~99であり、γ-D-PGAに対してγ-L-PGAの含有割合が非常に高いPGA群を得ることができた。このことから、このような変異体は、産生されるPGA中のγ-D-PGAに対するγ-L-PGAの比率も高いという特徴も有することが分かった。なお、該比の算出においてはN. aegyptoaca由来のL体比率が100%と実証されているγ-L-PGA(東洋紡績株式会社)をコントロールとして使用し、同様に解析したところ、そのL体比率は98%であった(配位子交換型キラルカラムを使用)。このことから、PgsA(56aa)等のこれらの変異株は、γ-D-PGAに対してγ-L-PGAを効率良く産生可能であることが分かった。γ-L-PGAを効率良く産生する観点から、このような変異株がより好ましいともいえる。
【0152】
試験例2
次の手順に従い、平均分子量2000万以上のγ-L-PGAを産生するバチルス属細菌変異株のスクリーニングを行った。なお、本試験例の菌株とプライマーは次の通りである。
【0153】
【0154】
【0155】
また、本試験例に記載するpgsA、pgsB、pgsC、pgsS及びpgsEの各遺伝子(断片)をコードする塩基配列として、試験例1と同じ配列を用いた。
【0156】
・試験手順
[バチルス属細菌(親株)]
親株として、前記表に示す枯草菌YU30-2株を用いた。YU30-2株は、枯草菌168株由来の株が持っているpgsBCDEとその下流のpgdS遺伝子を欠損しているためPGAを生産することはないが、pgdS遺伝子は常に高いレベルで転写されているtufA下流に転写融合として挿入されているので、PgdSは高レベルで発現することができる。
【0157】
[ポリヌクレオチド(DNA断片)]
DNA断片は次のようにして作製した。本試験例では、遺伝子マーカーとして薬剤耐性遺伝子を用いた。
1)pgsBCAEに変異が入っていないことを確認済みの枯草菌A-278株を鋳型にしてPCR断片を作成した。その際、プライマーセットamyE-1s/pgsC-1r及びpgsE-1f/amyE-2sを用いたPCRには、KOD One(商標)PCR Master Mix(TOYOBO)を使用した。pgsA領域には、プライマーセットpgsA-1f/pgsA-1rを用いて、TaKaRa Ex Taq(商標)(タカラバイオ)を使用した。
2)各領域のPCR断片をWizard(商標)SV Gel and PCR Clean-Up System(Promega)で精製した後、NEBuilder(商標)HiFi DNA Assemblyで連結し、KOD One(商標)PCR Master Mix(TOYOBO)を用いてamyE-1f/amyE-2rのプライマーセットで2nd PCRを行った。このようにして得たPCR産物(DNA断片)をバチルス属細菌由来pgsBCAE断片をコードするポリヌクレオチドとし、形質転換に使用した。(
図8)
3)後述の形質転換に使用したPCR断片のDNA濃度は3.5 μg/μlとした。
【0158】
・形質転換
前述の親株とPCR断片とを混合し、液体培地中で培養することにより、自然形質転換法で親株にPCR断片を導入した。具体的には、次の手順に従った。
【0159】
5mlのC-I培地にOD600が0.1以下になるように殖菌し、OD600が1.5になるまで37℃で振とう培養し、得られた培養液を遠心(8000rpm、1分間、室温(20℃))により集菌した。上清を捨て、菌体を10mlのC-IIに懸濁し、37℃で40分間培養し、コンピテントセルとした。このようにして得た培養液(1mlのコンピテントセル)にPCR産物を50μl(DNA量5μg)加え、37℃で2時間培養した。得られた培養物を、選択培地にまいた。選択培地にはLB寒天培地(スペクチノマイシン100μg/ml、クロラムフェニコール7μg/ml)を用いた。なお、本試験例で用いたC-I培地及びC-IIの組成は次の通りである。
【0160】
A液(/L)
K2HPO4 28 g
KH2PO4 12 g
(NH4)2SO4 4 g
クエン酸ナトリウム・2H2O 2 g
【0161】
B液(/L)
MgSO4・7H2O 2.5 g
D-glucose 10 g
0.1 mg/ml MnSO4 400 μl
2 mg/ml FeCl3 400 μl
100 xTrace Element 2 ml
(下記のMnSO4&FeCl3を含まないもの)
【0162】
100 xTrace Element(MnSO
4
&FeCl
3
を含まない)(/L)
CaCl2 550 mg
ZnCl2 170 mg
CuCl2・2H2O 43 mg
CoCl2・6H2O 60 mg
Na2Mo4・2H2O 60 mg
【0163】
C-I培地
A液 2.5 ml
B液 2.5 ml
5%Yeast Extract 50 μl
10%CAA 10 μl
5 mg/ml L-Tryptophan 50 μl
【0164】
C-II培地
A液 5 ml
B液 5 ml
5%Yeast Extract 10 μl
10% カザミノ酸 10 μl
5 mg/ml L-Tryptophan 10 μl
【0165】
スペクチノマイシン100μg/mlによって、PgdSを発現する株を選択できる。PgdSはγ-PGAのD-Glu-D-Glu間の結合及びD-Glu-L-Glu間の結合を加水分解する酵素である。このことから、選択培地で37℃で20時間静置培養し、コロニーを形成させた。形成したコロニーのうち、光沢のあるコロニーを選択した。
【0166】
なお、光沢を有するコロニー95個回収した。選択培地上に確認できたコロニーは20~30個/枚であった。光沢を有するコロニーは、いずれも粘性があった。回収した95個のコロニーを番号付けし、YU31-VB01~YU31-VB95と名付けた。得られたコロニーを一旦、-80℃でストックし、その後、LB寒天培地(スペクチノマイシン100μg/ml、クロラムフェニコール7μg/ml)に殖菌し、前述と同様にして培養した。ヘテロコロニーが確認できたため、シングルコロニーアイソレーションを行い、光沢のあるコロニーを選択した。
【0167】
このようにして得たコロニーを用いて、従来公知の手順に従い、得られた変異株についてサンガーシーケンスによりpgsAの変異を特定した。
【0168】
【0169】
また、
図9に示す変異は次の表5~9の通り示すことができる。
【0170】
【0171】
【0172】
【0173】
【0174】
【0175】
図9及び表5~9に示す通り、pgsBCAEを構成する複合タンパク質において、PgsAをコードするアミノ酸配列や塩基配列に変異を有する変異株を多数作製できた。本試験例では、pgsAにランダムに変異を導入していることから、得られた変異株においてもPgsAをコードするアミノ酸配列や塩基配列に変異を有する変異株を多数作製できることが想定された。その結果、想定通り、PgsAをコードするアミノ酸配列や塩基配列に変異を有する変異株を多数作製することができた。このことから、該方法によれば、所望の変異株を容易にスクリーニングすることができ、また、所望の変異株を容易に作製することができる。得られた変異株が産生するγ-L-PGAについて前述と同様にして平均分子量を測定することにより、平均分子量2000万以上のγ-PGA、更にはγ-L-PGAが産生されていることを確認できる。
【0176】
これらのことから、γ-PGAを産生可能なバチルス属細菌において、γ-PGA合成酵素複合体PgsBC(又はPgsBCAE)を発現可能であって、PgsAが膜貫通能を有し且つL-グルタミン酸をD-グルタミン酸に変換する活性を低減又は失うアミノ酸配列又は塩基配列の変異をPgsAにおいて生じさせることにより、平均分子量2000万以上のγ-PGAを産生可能なバチルス属細菌変異株を作製できることが分かった。また、このようなバチルス属細菌変異株を容易に作製できることから、本開示に従えば、平均分子量2000万以上のγ-L-PGAも容易に製造できることが分かった。