(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052378
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】スタフィロコッカス・ホミニス(Staphylococcus hominis)を増加させる菌量増加工程を含む、美容方法
(51)【国際特許分類】
A61K 8/9789 20170101AFI20240404BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240404BHJP
A61K 36/185 20060101ALI20240404BHJP
A61K 36/752 20060101ALI20240404BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240404BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240404BHJP
A61K 35/74 20150101ALI20240404BHJP
A61K 8/97 20170101ALI20240404BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61Q19/00
A61K36/185
A61K36/752
A61P17/00
A61P43/00 105
A61K35/74
A61K8/97
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159057
(22)【出願日】2022-09-30
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000113470
【氏名又は名称】ポーラ化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100196313
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】森岡 紀子
(72)【発明者】
【氏名】岡田 渓太郎
(72)【発明者】
【氏名】笠原 薫
(72)【発明者】
【氏名】大島 宏
【テーマコード(参考)】
4C083
4C087
4C088
【Fターム(参考)】
4C083AA031
4C083AA032
4C083AA111
4C083AA112
4C083AC122
4C083BB51
4C083CC02
4C083EE12
4C083FF01
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC70
4C087MA63
4C087NA14
4C087ZA89
4C087ZB21
4C088AB12
4C088AB62
4C088BA08
4C088CA06
4C088MA02
4C088MA07
4C088MA63
4C088NA14
4C088ZA89
4C088ZB21
(57)【要約】
【課題】新規な美容方法を提供すること。
【解決手段】スタフィロコッカス・ホミニス(Staphylococcus hominis)を増加させる菌量増加工程を含む、美容方法(ただし、医療行為を除く)。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肌上のスタフィロコッカス・ホミニス(Staphylococcus hominis)量を増加させる菌量増加工程を含む、美容方法(ただし、医療行為を除く)。
【請求項2】
肌における乳酸量の減少、短鎖脂肪酸量の増加、及びマロン酸量の増加から選ばれる1又は2以上を促進する、請求項1に記載の美容方法。
【請求項3】
前記の短鎖脂肪酸がプロピオン酸及び/又は酢酸である、請求項2に記載の美容方法。
【請求項4】
表皮のTER値の向上及び/又はタイトジャンクション構造形成促進をする、請求項1~3の何れか一項に記載の美容方法。
【請求項5】
前記のタイトジャンクション構造形成促進は、CLD1(Claudin 1)及び/又はOCL(Occludin)発現量を増加させることによるものである、請求項4に記載の美容方法。
【請求項6】
前記菌量増加工程は、スタフィロコッカス・ホミニス(Staphylococcus hominis)菌量促進剤を肌に適用する工程を含む、請求項1~3の何れか一項に記載の美容方法。
【請求項7】
前記スタフィロコッカス・ホミニス(Staphylococcus hominis)菌量促進剤が、キウイ抽出物及び/又はユズ抽出物である、請求項6に記載の美容方法。
【請求項8】
前記菌量増加工程は、スタフィロコッカス・ホミニス(Staphylococcus hominis)を肌に適用することを含む、請求項1~3の何れか一項に記載の美容方法。
【請求項9】
スタフィロコッカス・ホミニス(Staphylococcus hominis)を有効成分とする、肌における乳酸量の減少剤。
【請求項10】
スタフィロコッカス・ホミニス(Staphylococcus hominis)を有効成分とする、肌における短鎖脂肪酸量の増加剤。
【請求項11】
スタフィロコッカス・ホミニス(Staphylococcus hominis)を有効成分とする、肌におけるマロン酸量の増加剤。
【請求項12】
スタフィロコッカス・ホミニス(Staphylococcus hominis)を有効成分とする、表皮のTER値の向上剤。
【請求項13】
スタフィロコッカス・ホミニス(Staphylococcus hominis)を有効成分とする、肌のタイトジャンクション構造形成促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタフィロコッカス・ホミニス(Staphylococcus hominis)を増加させる菌量増加工程を含む、美容方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人体に有用な作用を有する菌体を有効成分として含む化粧料が提案されている(特許文献1)。
例えば、特許文献2には、スタフィロコッカス・ホミニス(Staphylococcus hominis)を有効成分とした、アトピー性皮膚炎の治療用途が開示されている。
【0003】
そして、肌状態に良い効果を示す特定の菌体を、特異的にコントロールする技術も注目を集めている。
【0004】
ここで、バリア機能の指標としては、TER値(Transepithelial electrical resistance)が用いられており、TER値を向上させることにより、バリア機能を向上・改善する技術が提案されている(非特許文献1)。
【0005】
また、TER値に関与する接着タンパク質には、TJP1(Tight Junction Protein 1)、CLD1(Claudin 1)、OCL(Occludin)、ZO1(Zonula Occludens Protein 1)などがある(非特許文献2)。
【0006】
また、従来技術として、例えば、特許文献3には、コラーゲン等を含有する化粧料を、顔面に塗布しながらマッサージを行うステップを含む、肌のハリを改善する美容方法(医療行為を除く)が開示されている。
さらに、特許文献4にはニキビ予防効果を発揮し得る、ニキビ予防とクレンジングを同時に行う美容方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平09-020638号公報
【特許文献2】特表2018-515488号公報
【特許文献3】特許6824850号公報
【特許文献4】特許6656553号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】The Journal of Nutrition, 2011 Jan;141(1):87-94
【非特許文献2】Frontiers in Immunology, December 2015, Volume 6, Article 612
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記先行技術のあるところ、本発明者らは、スタフィロコッカス・ホミニス(Staphylococcus hominis)を増加させることによる美容効果を発見し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、スタフィロコッカス・ホミニス(Staphylococcus hominis)を増加させることによる美容方法(医療行為を除く)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る美容方法(医療行為を除く)は、
スタフィロコッカス・ホミニス(Staphylococcus hominis)を増加させる菌量増加工程を含むことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の好ましい実施の形態では、肌における乳酸量の減少、短鎖脂肪酸量の増加及びマロン酸量の増加から選ばれる1又は2以上を促進する。
【0013】
また、本発明の好ましい実施の形態では、前記の短鎖脂肪酸がプロピオン酸及び/又は酢酸である。
【0014】
また、本発明の好ましい実施の形態では、表皮のTER値の向上及び/又はタイトジャンクション構造形成促進をする。
【0015】
また、本発明の好ましい実施の形態では、前記のタイトジャンクション構造形成促進は、CLD1(Claudin 1)及び/又はOCL(Occludin)発現量を増加させることによるものである。
【0016】
また、本発明の好ましい実施の形態では、前記菌量増加工程は、スタフィロコッカス・ホミニス(Staphylococcus hominis)菌量促進剤を肌に適用する工程を含む。
【0017】
また、本発明の好ましい実施の形態では、前記スタフィロコッカス・ホミニス(Staphylococcus hominis)菌量促進剤が、キウイ抽出物及び/又はユズ抽出物である。
【0018】
また、本発明の好ましい実施の形態では、前記菌量増加工程は、スタフィロコッカス・ホミニス(Staphylococcus hominis)を肌に適用することを含む。
【0019】
また、本発明は、スタフィロコッカス・ホミニス(Staphylococcus hominis)を有効成分とする、肌における乳酸量の減少剤でもある。
また、本発明は、スタフィロコッカス・ホミニス(Staphylococcus hominis)を有効成分とする、肌における短鎖脂肪酸量の増加剤でもある。
また、本発明は、スタフィロコッカス・ホミニス(Staphylococcus hominis)を有効成分とする、肌におけるマロン酸量の増加剤でもある。
また、本発明は、スタフィロコッカス・ホミニス(Staphylococcus hominis)を有効成分とする、表皮のTER値の向上剤でもある。
また、本発明は、スタフィロコッカス・ホミニス(Staphylococcus hominis)を有効成分とする、肌のタイトジャンクション構造形成促進剤でもある。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、スタフィロコッカス・ホミニス(Staphylococcus hominis)を増加させることによる美容方法(医療行為を除く)を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】<試験例1>の(1)TER値測定試験の結果を示す図である。
【
図2】<試験例1>の(2)タイトジャンクション構造形成促進効果の評価結果を示す図である。
【
図3】<試験例2>の(2-1)Staphylococcus hominis(S.hominis)培養後の乳酸量の測定結果を示す図である。
【
図4】<試験例2>の(2-2)Staphylococcus hominis(S.hominis)培養後のプロピオン酸量の測定結果を示す図である。
【
図5】<試験例2>の(2-3)Staphylococcus hominis(S.hominis)培養後の酢酸量の測定結果を示す図である。
【
図6】<試験例2>の(2-4)Staphylococcus hominis(S.hominis)培養後のマロン酸量の測定結果を示す図である。
【
図7】<試験例3>の塗布試験における、Staphylococcus hominis(S.hominis)量の結果を示すグラフである。
【
図8】<試験例3>の実施例:1%キウイ抽出物含有802培地と比較例の対比結果を示すグラフである。
【
図9】<試験例3>の実施例:0.1%キウイ抽出物含有802培地と比較例の対比結果を示すグラフである。
【
図10】<試験例3>の実施例:1%ユズ抽出物含有802培地と比較例の対比結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の説明に限定されないことはいうまでもない。
【0023】
<1> 美容方法
本実施形態にかかる美容方法は、スタフィロコッカス・ホミニス(Staphylococcus hominis;以下、単にS.hominis)を増加させる菌量増加工程を含むことを特徴とする。
ここで、本実施形態にかかる美容方法は、医療行為を含まない。
また、本発明にかかる美容方法は、非治療的方法である。
上記の菌量増加工程を行うことで、美容効果を得ることができる。
【0024】
本発明において、菌量増加工程とは、菌量増加工程にかかる手段を行う前のS.hominisの菌量よりも、菌量増加工程にかかる手段を行った後のS.hominisの菌量を多くする工程をいう。
【0025】
ここで、本発明の好ましい実施の形態では、菌量増加工程は、菌量増加工程にかかる手段を行った後のS.hominis量を、菌量増加工程にかかる手段を行う前のS.hominisの菌量よりも、好ましくは1.2倍、より好ましくは1.5倍、より好ましくは2倍、より好ましくは5倍、さらに好ましくは10倍、さらに好ましくは50倍、特に好ましくは100倍に増やす工程である。
【0026】
以下、本発明の美容方法による効果に関し、より詳細を説明する。
【0027】
後述する実施例に示す通り、肌上のS.hominis量を増やすことで、肌における乳酸量減少を促進することができる。
【0028】
本発明の美容方法によれば、肌における乳酸量を減少させることで、敏感肌を予防又は改善することができる。
なお、本明細書において、敏感肌とは、弱い刺激によっても、かゆみや赤み、ピリピリ感を感じる症状を有する肌状態をいう。
また、本発明の美容方法によれば、肌における乳酸量を減少させることで、肌の赤み、刺激による痛み、ひりひり感を抑制及び/又は低減させることができる。
【0029】
また、後述する実施例に示す通り、肌上のS.hominis量を増やすことで、肌における短鎖脂肪酸量を増加することができる。
【0030】
そして、肌における短鎖脂肪酸量増加を促進することで、肌の炎症の抑制をすることができる。また、肌の赤み、乾燥、シミ、シワ、毛穴の開大等の抑制をすることができる。
【0031】
ここで、本発明の好ましい実施の形態では、前記の短鎖脂肪酸は、プロピオン酸及び/又は酢酸である。
【0032】
また、後述する実施例に示す通り、肌上のS.hominis量を増やすことで、肌におけるマロン酸の量を増加させることができる。
【0033】
マロン酸は、線維芽細胞の増殖を促進することが知られている(Tsitologiia. 1993;35(2):68-70.)。
さらに、マロン酸は、UVBを照射した表皮のケラチノサイトにおいて、抗酸化酵素等の遺伝子発現の促進、炎症性サイトカインの減少、UVB照射によるコラーゲン分解酵素の活性化抑制・コラーゲン産生促進等の作用を有することが知られている(Polymers (Basel). 2021 Mar 7;13(5):816.)。
すなわち、肌におけるマロン酸量の増加を促進することで、線維芽細胞の増殖促進による抗老化作用の促進、抗酸化作用の促進、肌の炎症の抑制、並びに、コラーゲンの分解抑制及び産生促進等の効果を得ることができる。
【0034】
また、後述する実施例に示す通り、肌上のS.hominis量を増やすことで、表皮のTER値の向上及び/又はタイトジャンクション構造形成促進をすることができる。なお、本発明において「TER値」とは、経上皮細胞電気抵抗値(Transepithelical Electronic Resistance)のことをいう。
ここで、本発明の好ましい実施の形態では、CLD1(Claudin 1)及び/又はOCL(Occludin)発現量を増加させることによるものである。
【0035】
そして、本発明の美容方法によれば、表皮のTER値の向上及び/又はタイトジャンクション構造形成促進をすることで、皮膚のバリア機能を向上させることができる。
【0036】
すなわち、本発明の美容方法は、皮膚のバリア機能の低下により引き起こされる皮膚の状態の予防又は改善に特に有用である。
ここで、バリア機能の低下により引き起こされる皮膚の状態としては、乾燥肌、肌荒れ、シワ、色素沈着、タルミなどを挙げることができる。
【0037】
以下、本発明の美容方法における菌量増加工程について、詳細を説明する。
【0038】
菌量増加工程は、S.hominisを肌に適用する工程、S.hominis菌量促進剤を肌に適用する工程の何れであってもよい。
【0039】
(i)S.hominisを肌に適用する工程である形態について
以下、S.hominisを肌に適用する工程である形態について、より詳細を説明する。
【0040】
本発明においてS.hominisは、S.hominisの生息環境として報告されている種々の環境より採取された試料から分離して用いることもできるし、市販菌株や寄託菌株を用いることもできる。
【0041】
寄託菌株としては、スタフィロコッカス・ホミニス(Staphylococcus hominis)GTC485株(以下、単にS.hominisGTC485株とも表記する)を使用することができる。
【0042】
S.hominisGTC485株は、岐阜大学医学部 岐阜大学研究推進・社会連携機構 微生物遺伝資源保存センター(GCMR、郵便番号:501-1194、住所:岐阜市柳戸1-1)に寄託がなされており、一般に入手することができる。
【0043】
ここで、S.hominisGTC485株は、日本細菌学会(郵便番号:170-0003、住所:東京都豊島区駒込1-43-9 駒込TSビル (一財)口腔保健協会内)においてList No238が付与されており、日本細菌学会を通じても入手することができる(「別表1 細菌学教育用菌株機関別リスト - 日本細菌学会」、[pdf]、日本細菌学会、インターネット〈URL:http://jsbac.org/material/strain_kikan.pdf〉 参照)。
【0044】
また、同菌株は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection; ATCC)から、受託番号ATCC 27844の下で入手することもできる。
【0045】
S.hominisGTC485株は、常法により培養することができる。例えば、SCDや802寒天培地を用いて、温度30~37℃(好ましくは37℃)、pH5~9(好ましくはpH7.0)、好気条件で培養することが可能である。
【0046】
適用形態としては、患者の症状等に応じて皮膚外用組成物としての適用(皮膚への塗布)とすることができる。
【0047】
皮膚外用組成物としては、例えば、化粧料、医薬部外品、皮膚外用医薬等を挙げることができる。ここで、皮膚外用組成物は、継続的に使用可能である、化粧料の形態とすることが好ましい。
中でも、本発明は、化粧水、美容液、乳液、クリーム、ジェル、サンケア品とすることが好ましい。
【0048】
皮膚外用組成物におけるS.hominisの菌体の配合量は、皮膚外用組成物の剤形によって異なるが、1回あたりの塗布により、好ましくは0.5×109CFU個以上、より好ましくは0.8×109CFU個以上の肌への適用量となるよう設計することができる。
また、本発明の皮膚外用組成物におけるS.hominisの菌体の配合量は、好ましくは2.0×109CFU個以下、より好ましくは1.5×109CFU個以下の肌への適用量となるよう設計することができる。
【0049】
皮膚外用組成物におけるS.hominisの菌体の配合量は、皮膚外用組成物の剤形によって異なるが、好ましくは3×109CFU/mL以上、より好ましくは4×109CFU/mL以上を目安とすることができる。
また、皮膚外用組成物におけるS.hominisの菌体の配合量は、好ましくは8×109CFU/mL以下、より好ましくは6×109CFU/mL以下を目安とすることができる。
【0050】
皮膚外用組成物のヒトを含む哺乳動物への適用(菌量増加工程に相当)は1週間に1回又は数回に分けて行うことができる。
また、皮膚外用組成物のヒトを含む哺乳動物への適用(菌量増加工程に相当)は継続する形態とすることが好ましい。
【0051】
皮膚外用組成物を継続して適用する場合の、皮膚外用組成物の適用期間は、好ましくは2週間以上、より好ましくは3週間以上、さらに好ましくは4週間以上である。
また、皮膚外用組成物を上記期間継続して適用する場合の、適用頻度は、1週間あたり1回以上、好ましくは2回以上とすることができる。
【0052】
皮膚外用組成物の形態として提供する場合、その組成も特に限定されず、本発明の効果を損ねない限度において、通常使用される任意成分を含有することもできる。
かかる任意成分は、後述の(ii)S.hominis菌量促進剤を肌に適用する工程である形態の内容を援用することができる。
【0053】
(ii)S.hominis菌量促進剤を肌に適用する工程である形態について
以下、S.hominis菌量促進剤を肌に適用する工程である形態について、より詳細を説明する。
【0054】
本発明の美容方法において、S.hominisの菌量促進剤を肌に適用することで、S.hominis量を増加させる形態とすることもできる。
【0055】
ここで、「S.hominisの菌量促進剤」に関し、候補物質を添加した試料におけるS.hominisの菌量が、候補物質を添加しない比較群におけるS.hominisの菌量の1倍より大きい場合に、前記候補物質がS.hominisの菌量促進剤であるといえる。
【0056】
ここで、S.hominisの菌量促進剤は、上記の効果を奏するものであればよく、たとえば、市販の化合物(ペプチドを含む)、公知化合物(ペプチドを含む)、コンビナトリアル・ケミストリー技術によって得られた化合物群、植物や海洋生物由来の天然成分、動物組織抽出物などを有効成分とすることができる。
【0057】
ここで、動植物由来の抽出物は、動物又は植物由来の抽出物自体のみならず、抽出物の画分、精製した画分、抽出物乃至は画分、精製物の溶媒除去物の総称を意味する。
また、植物由来の抽出物は、自生若しくは生育された植物、漢方生薬原料等として販売されるものを用いた抽出物、市販されている抽出物等を挙げることができる。
【0058】
S.hominisの菌量促進剤の有効成分としては、植物由来の抽出物を好ましく挙げることができる。
中でも、S.hominisの菌量促進剤の有効成分として、キウイ抽出物及び/又はユズ抽出物を挙げることができる。
【0059】
以下、S.hominisの菌量促進剤の有効成分として、キウイ抽出物及び/又はユズ抽出物を用いる場合の、より好ましい実施の形態を説明する。
【0060】
キウイ抽出物は、植物原料を扱う会社より販売されている市販のキウイ抽出物を購入し、使用することもできる。また、キウイ抽出物は、日本において自生又は生育されたキウイの果実を抽出することで、作製することができる。
【0061】
キウイ抽出物の抽出に際し、キウイの果実は予め、粉砕或いは細切して抽出効率を向上させるように加工することが好ましい。
【0062】
抽出物は、以下の方法で得ることができる。キウイの果実又はその乾燥物1質量部に対して、溶媒を1~30質量部加え、室温であれば数日間、沸点付近の温度であれば数時間浸漬する。浸漬後は、室温まで冷却し、所望により不溶物を除去した後、溶媒を減圧濃縮するなどにより除去する。しかる後、シリカゲルやイオン交換樹脂を充填したカラムクロマトグラフィ-などで分画精製し、所望の抽出物を得ることができる。
【0063】
抽出溶媒としては、極性溶媒が好ましく、水、エタノ-ル、イソプロピルアルコ-ル、ブタノ-ルなどのアルコ-ル類、1,3-ブタンジオ-ル、ポリプロピレングリコ-ル、1,3-ブチレングリコールなどの多価アルコ-ル類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、ジエチルエ-テル、テトラヒドロフランなどのエ-テル類から選択される1種乃至は2種以上が好適に例示できる。
中でも、抽出溶媒として1,3-ブチレングリコールを好ましく挙げることができる。
【0064】
ユズ抽出物は、植物原料を扱う会社より販売されている市販のユズ抽出物を購入し、使用することもできる。また、ユズ抽出物は、日本において自生又は生育されたユズの果実又はその乾燥物を抽出することで、作製することができる。
【0065】
また、ユズ抽出物の抽出に際し、ユズの果実又はその乾燥物は、予め、粉砕或いは細切して抽出効率を向上させるように加工することが好ましい。
【0066】
抽出物は、以下の方法で得ることができる。ユズの果実又はその乾燥物又はその乾燥物1質量に対して、溶媒を1~30質量部加え、室温であれば数日間、沸点付近の温度であれば数時間浸漬する。浸漬後は、室温まで冷却し、所望により不溶物を除去した後、溶媒を減圧濃縮するなどにより除去する。しかる後、シリカゲルやイオン交換樹脂を充填したカラムクロマトグラフィ-などで分画精製し、所望の抽出物を得ることができる。
【0067】
抽出溶媒としては、極性溶媒が好ましく、水、エタノ-ル、イソプロピルアルコ-ル、ブタノ-ルなどのアルコ-ル類、1,3-ブタンジオ-ル、ポリプロピレングリコ-ル、1,3-ブチレングリコールなどの多価アルコ-ル類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、ジエチルエ-テル、テトラヒドロフランなどのエ-テル類から選択される1種乃至は2種以上が好適に例示できる。
中でも、抽出溶媒として1,3-ブチレングリコールを好ましく挙げることができる。
【0068】
ここで、菌量促進剤は、皮膚外用組成物又は経口用組成物の形態とすることができる。
中でも、菌量促進剤は、皮膚外用組成物の形態とすることが好ましい。
【0069】
皮膚外用組成物としては化粧料、医薬品などが好適に例示できる。
中でも、継続的に使用できる化粧料の形態とすることが好ましく、例えば化粧水、乳液、美容液、クリーム、ジェル、サンケア品等の形態とすることができる。
【0070】
皮膚外用組成物におけるキウイ抽出物及び/又はユズ抽出物の含有量は、0.05質量%以上、好ましくは0.08質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上である。
また、皮膚外用組成物におけるキウイ抽出物及び/又はユズ抽出物の含有量は、好ましくは2質量%以下、好ましくは1.5質量%以下、より好ましくは1.2質量%以下である。
【0071】
皮膚外用組成物のヒトを含む哺乳動物への適用は1週間に1回又は数回に分けて行うことができ、本発明の菌量促進剤を継続して適用する形態とすることが好ましい。
【0072】
皮膚外用組成物を継続して適用する場合の、皮膚外用組成物の適用期間は、好ましくは2週間以上、より好ましくは3週間以上、さらに好ましくは4週間以上である。
また、皮膚外用組成物を上記期間継続して適用する場合の、適用頻度は、1週間あたり1回以上、好ましくは2回以上とすることができる。
【0073】
皮膚外用組成物の形態として提供する場合、その組成も特に限定されず、本発明の効果を損ねない限度において、通常使用される任意成分を含有することもできる。
【0074】
このような任意成分としては、例えば、マカデミアナッツ油、アボカド油、トウモロコシ油、オリーブ油、ナタネ油、ゴマ油、ヒマシ油、サフラワー油、綿実油、ホホバ油、ヤシ油、パーム油、液状ラノリン、硬化ヤシ油、硬化油、モクロウ、硬化ヒマシ油、ミツロウ、キャンデリラロウ、カルナウバロウ、イボタロウ、ラノリン、還元ラノリン、硬質ラノリン、ホホバロウ等のオイル、ワックス類;流動パラフィン、スクワラン、プリスタン、オゾケライト、パラフィン、セレシン、ワセリン、マイクロクリスタリンワックス等の炭化水素類;オレイン酸、イソステアリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、ウンデシレン酸等の高級脂肪酸類;セチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、オクチルドデカノール、ミリスチルアルコール、セトステアリルアルコール等の高級アルコール等;イソオクタン酸セチル、ミリスチン酸イソプロピル、イソステアリン酸ヘキシルデシル、アジピン酸ジイソプロピル、セバチン酸ジ-2-エチルヘキシル、乳酸セチル、リンゴ酸ジイソステアリル、ジ-2-エチルヘキサン酸エチレングリコール、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、ジ-2-ヘプチルウンデカン酸グリセリン、トリ-2-エチルヘキサン酸グリセリン、トリ-2-エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、テトラ-2-エチルヘキサン酸ペンタンエリトリット等の合成エステル油類等の油剤類;脂肪酸セッケン(ラウリン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム等)、ラウリル硫酸カリウム、アルキル硫酸トリエタノールアミンエーテル等のアニオン界面活性剤類;塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、ラウリルアミンオキサイド等のカチオン界面活性剤類;イミダゾリン系両性界面活性剤(2-ココイル-2-イミダゾリニウムヒドロキサイド-1-カルボキシエチロキシ2ナトリウム塩等)、ベタイン系界面活性剤(アルキルベタイン、アミドベタイン、スルホベタイン等)、アシルメチルタウリン等の両性界面活性剤類;ソルビタン脂肪酸エステル類(ソルビタンモノステアレート、セスキオレイン酸ソルビタン等)、グリセリン脂肪酸類(モノステアリン酸グリセリン等)、プロピレングリコール脂肪酸エステル類(モノステアリン酸プロピレングリコール等)、硬化ヒマシ油誘導体、グリセリンアルキルエーテル、POEソルビタン脂肪酸エステル類(POEソルビタンモノオレエート、モノステアリン酸ポリオキエチレンソルビタン等)、POEソルビット脂肪酸エステル類(POE-ソルビットモノラウレート等)、POEグリセリン脂肪酸エステル類(POE-グリセリンモノイソステアレート等)、POE脂肪酸エステル類(ポリエチレングリコールモノオレート、POEジステアレート等)、POEアルキルエーテル類(POE2-オクチルドデシルエーテル等)、POEアルキルフェニルエーテル類(POEノニルフェニルエーテル等)、プルロニック(登録商標)型類、POE・POPアルキルエーテル類(POE・POP2-デシルテトラデシルエーテル等)、テトロニック類、POEヒマシ油・硬化ヒマシ油誘導体(POEヒマシ油、POE硬化ヒマシ油等)、ショ糖脂肪酸エステル、アルキルグルコシド等の非イオン界面活性剤類;ポリエチレングリコール、グリセリン、エリスリトール、ソルビトール、マルチトール、プロピレングリコール、2,4-ヘキサンジオール等の多価アルコール類;ピロリドンカルボン酸ナトリウム、乳酸、乳酸ナトリウム等の保湿成分類;パラアミノ安息香酸系紫外線吸収剤;アントラニル酸系紫外線吸収剤;サリチル酸系紫外線吸収剤;桂皮酸系紫外線吸収剤;ベンゾフェノン系紫外線吸収剤;糖系紫外線吸収剤;2-(2'-ヒドロキシ-5'-t-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、4-メトキシ-4'-t-ブチルジベンゾイルメタン等の紫外線吸収剤類などが好ましく例示できる。
【0075】
経口組成物とする場合、有効成分を含む食品用組成物とすることが好ましい。
具体的には、一般食品、錠剤、顆粒剤、ドリンク剤等の剤形を有するサプリメントの形態とすることができる。
【0076】
ここで、経口組成物におけるキウイ抽出物及び/又はユズ抽出物の含有量、及び含有量比については、前述の皮膚外用組成物の好ましい実施の形態の記載を準用することができる。
【0077】
また、経口組成物とする場合、本発明の効果を損なわない範囲において、任意成分を適宜配合してもよい。
【0078】
<2> スタフィロコッカス・ホミニス(Staphylococcus hominis)を有効成分とする、肌状態改善剤
後述する実施例に示す通り、肌上のS.hominis量を増やすことで、肌における乳酸量の減少を促進することができる。
すなわち、S.hominisは、肌における乳酸量減少用途として用いることができる。
また、S.hominisは、肌の赤み、刺激による痛み、ひりひり感を抑制及び/又は低減させるために用いることができる。
【0079】
そして、S.hominisを有効成分とする、肌における乳酸量の減少剤の形態とすることができる。
【0080】
また、後述する実施例に示す通り、肌上のS.hominis量を増やすことで、肌における短鎖脂肪酸量を増加することができる。
すなわち、S.hominisは、肌における短鎖脂肪酸量増加用途として用いることができる。
また、S.hominisは、肌の赤み、乾燥、シミ、シワ、毛穴の開大等の抑制のために用いることができる。
【0081】
そして、S.hominisを有効成分とする、肌における短鎖脂肪酸量の増加剤の形態とすることができる。
【0082】
また、後述する実施例に示す通り、肌上のS.hominis量を増やすことで、肌におけるマロン酸量を増加することができる。
すなわち、S.hominisは、肌におけるマロン酸量増加用途として用いることができる。
また、S.hominisは、線維芽細胞の増殖促進による抗老化作用の促進、抗酸化作用の促進、肌の炎症の抑制、並びに、コラーゲンの分解抑制及び産生促進等のために用いることができる。
【0083】
そして、S.hominisを有効成分とする、肌におけるマロン酸量の増加剤の形態とすることができる。
【0084】
また、後述する実施例に示す通り、肌上のS.hominis量を増やすことで、表皮のTER値の向上及び/又はタイトジャンクション構造形成促進をすることができる。
ここで、本発明の好ましい実施の形態では、CLD1(Claudin 1)及び/又はOCL(Occludin)発現量を増加させることによるものである。
【0085】
そして、S.hominisは、表皮のTER値の向上及び/又はタイトジャンクション構造形成促進用途として用いることができる。
すなわち、本発明は、S.hominis)を有効成分とする、表皮のTER値の向上剤の形態とすることができる。また、本発明は、S.hominisを有効成分とする、肌のタイトジャンクション構造形成促進剤の形態とすることができる。
【0086】
なお、S.hominisを有効成分とする肌状態改善剤における好ましい実施の形態には、前述した内容を適用することができる。
【実施例0087】
<菌株の培養>
後述する試験例に使用したスタフィロコッカス・ホミニス(Staphylococcus hominis)GTC485株(以下、単にS.hominisとも表記する)は、日本細菌学会(郵便番号:170-0003、住所:東京都豊島区駒込1-43-9 駒込TSビル (一財)口腔保健協会内)から購入した。また、スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)は、独立行政法人製品評価技術基盤機構から購入した。
【0088】
購入した細菌は、それぞれに適した寒天培地又は液体培地を用いて培養し、続く試験において使用する菌株とした。
【0089】
<試験例1:バリア機能向上効果の評価>
以下の方法により、S.hominisのバリア機能向上効果を評価した。
【0090】
(1)TER値測定試験
まず、正常ヒト表皮角化細胞(NHEK)(クラボウ社製)を12穴トランズウェルプレートに播種(70,000cells/well)した。その後、播種したNHEKを37℃、5%CO2環境下で3日間培養した。3日間の培養後、培養液を高カルシウム培地(1.45mM)に置換した。ここへ、最終的に7,500CFU/wellとなるように培地で濃度を調整したS.hominis菌株の懸濁液を添加した。
なお、スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)菌株の懸濁液を添加した試料、菌株を含まない試料を比較例として用意した。
【0091】
6時間の培養後、Millicell ERS2(ミリポア社製)を用いてTER値を測定した。結果を
図1に示す。
図1において、縦軸は、TER値(Ω・cm
2)の初期値との差を表す。
【0092】
図1の結果より、S.hominis菌株の懸濁液を添加したNHEKは、比較例に比して有意なTER値の上昇を示した。
この結果は、S.hominisが、優れたバリア機能向上作用を発揮することを示す。
【0093】
(2)タイトジャンクション構造形成促進効果の評価
以下の方法で、タイトジャンクション構造の形成を可視化し、S.hominisのタイトジャンクション構造形成促進効果を評価した。
【0094】
まず、正常ヒト表皮角化細胞(NHEK)(クラボウ社製)を4穴チャンバープレートに播種(30,000cells/well)した。その後、播種したNHEKを37℃、5%CO2環境下で3日間培養した。3日間の培養後、培養液を高カルシウム培地(1.45mM)に置換した。ここへ、最終的に2,300CFU/wellとなるように培地で濃度を調整した各菌株の懸濁液を添加した。なお、菌株を含まない試料を比較対照として用意した。
【0095】
6時間の培養後、培地を除去し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)により一度洗浄した。次に、細胞を固定するため、4℃、15分間のエタノール処理、その後室温で1分間のアセトン処理を行った。その後、0.1%Tween20/PBS溶液を用いて5分間処理し、さらに0.5%TritonX100/PBS溶液を用いて20分間処理した。そして、非特異的反応を阻止するため、10%ブロックエース/PBS溶液を用いて室温で30分間処理した。
【0096】
その後、100倍希釈したマウス抗Occludin抗体(Invitrogen社製)、及び200倍希釈したウサギ抗Claudin-1抗体(Invitrogen社製)を一次抗体として4穴チャンバープレート内に添加し、4℃で一晩反応させた。0.1%Tween20/PBS溶液を用いて洗浄した後、250倍希釈したヤギ抗マウスIgG抗体Alexa Fluor 488(Invitrogen社製)、及び250倍希釈したヤギ抗ウサギIgG抗体Alexa Fluor 555(Invitrogen社製)を二次抗体として4穴チャンバープレート内に添加し、室温で45分間反応させた。洗浄後、Fluoromount-G(Diagnostic BioSystems社製)を用いて封入した。調製した試料は、共焦点顕微鏡(LSM510:Carl Zeiss社製)を用いて観察した。
【0097】
図2は、共焦点顕微鏡によるNHEKの免疫染色画像を示す。画像中、白矢頭はOccludin及びClaudin-1が連続的に共染色されている箇所を示す(
図2)。
【0098】
図2に示すように、S.hominisを添加したNHEKは細胞間隙の強い発色を示した。
また、
図2に示すように、S.hominisを添加したNHEKでは、Occludin及びClaudin-1が細胞間隙に多く局在していることを確認することができた。
また、
図2に示すように、Occludin及びClaudin-1を統合した画像において、Occludin及びClaudin-1が連続的に共染色された箇所を多く確認することができた。これらの結果は、S.hominisが、優れたタイトジャンクション構造形成促進効果を有することを示している。
【0099】
(3)まとめ
以上の結果より、肌上のS.hominis量を増加させる菌量増加工程を含む美容方法とすることで、表皮のTER値の向上をできることがわかった。
また、肌上のS.hominis量を増加させる菌量増加工程を含む美容方法とすることで、タイトジャンクション構造の形成を促進できることがわかった。
【0100】
<試験例2:乳酸量減少、短鎖脂肪酸量増加、及びマロン酸量増加の評価>
以下の方法により、S.hominisの物質消費、及び、物質生産能を評価した。
【0101】
(1)細菌懸濁液の用意
まず、S.hominisGTC485株を37℃の好気条件で、pH7.0の802培地(下記表1参照)を用いて培養した。
なお、スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)菌株の懸濁液を添加した試料及び/又は菌株を含まない試料を比較例として用意した。
【0102】
【0103】
(2)測定
(2-1)乳酸について
8時間培養後の培養液中の乳酸量をLC-MS/MSにより解析した。結果を
図3に示す。
図3に示すように、S.hominisにより、乳酸が消費されることがわかった。
ここで、乳酸は、敏感肌をもたらす因子として知られている。
すなわち、肌上のS.hominis量を増加させる菌量増加工程を含む美容方法とすることで、敏感肌の予防又は改善をすることができる。
【0104】
(2-2)プロピオン酸について
8時間培養した後培養液中のプロピオン酸量をLC-MS/MSにより解析した。結果を
図4に示す。
図4に示すように、S.hominisにより、プロピオン酸が生産されることがわかった。
ここで、プロピオン酸は、炎症抑制作用を有することが知られている。
すなわち、肌上のS.hominis量を増加させる菌量増加工程を含む美容方法とすることで、肌の炎症抑制をすることができる。
【0105】
(2-3)酢酸について
8時間培養した後培養液中の酢酸量をLC-MS/MSにより解析した。結果を
図5に示す。
図5に示すように、S.hominisにより、酢酸が生産されることがわかった。
ここで、酢酸は、炎症抑制作用を有することが知られている。
すなわち、肌上のS.hominis量を増加させる菌量増加工程を含む美容方法とすることで、肌の炎症抑制をすることができる。
【0106】
(2-4)マロン酸について
8時間培養した後培養液中のマロン酸量をLC-MS/MSにより解析した。結果を
図6に示す。
図6に示すように、S.hominisにより、マロン酸が生産されることがわかった。
ここで、マロン酸は、線維芽細胞の増殖促進による抗老化作用の促進、抗酸化作用の促進、肌の炎症の抑制、並びに、コラーゲンの分解抑制及び産生促進等に寄与することが知られている。
すなわち、肌上のS.hominis量を増加させる菌量増加工程を含む美容方法とすることで、肌の抗老化作用の促進、抗酸化作用の促進、肌の炎症の抑制、並びに、コラーゲンの分解抑制及び産生促進を誘導することができる。
【0107】
(3)まとめ
以上の結果より、肌上のS.hominis量を増加させる菌量増加工程を含む美容方法とすることで、乳酸量減少、短鎖脂肪酸量増加、マロン酸量増加を促進できることがわかった。
【0108】
<試験例3:肌上のS.hominis菌量増加試験>
以下の方法により、肌上のS.hominis菌量の増加試験を行った。
【0109】
<3-1>S.hominisを肌に適用する工程の検証
以下、S.hominisを肌に適用することによる、肌上のS.hominis量の増加を確認した。
【0110】
(1)被験者
被験者となる女性は30代のアトピーなどの疾患を有しない健常日本人女性11名である。
【0111】
(2)試験方法
(2-1)S.hominis含有化粧料(実施例)及びS.hominis非含有化粧料(比較例、プラセボ化粧料)の製造
前述のS.hominis凍結乾燥物を10mL蒸留水に懸濁させ懸濁液(S.hominis含有量:約1010CFU/mL)を調製した。
調製した懸濁液1mLと、化粧水(ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、水酸化カリウム、水を含む)1mLを混和し、S.hominis含有化粧料(実施例、S.hominis含有量:約5×109CFU/mL)を製造した。
併せて、S.hominis非含有スキムミルク凍結乾燥品をS.hominis凍結乾燥物の代わりに用い、S.hominis含有化粧料と同様の方法により、S.hominis非含有化粧料(比較例、プラセボ化粧料)を製造した。
【0112】
(2-2)化粧料の塗布
被験者の左右頬部の一方にS.hominis含有化粧料(実施例)を、他方にS.hominis非含有化粧料(比較例、プラセボ化粧料)を、一回あたり0.2mL(一回あたりのS.hominis適用量:109CFU個)、週2回、1ヶ月間塗布した。
化粧料の塗布開始から1ヶ月後に、以下の方法により、頬部における肌状態及びS.hominis量の測定を行った。
【0113】
(3) S.hominis量及び肌状態の測定
(3-1) 頬部におけるS.hominis量の測定及び評価
化粧料塗布開始前及び、化粧料塗布期間中、化粧料塗布試験終了時(化粧料の塗布開始から1ヶ月後)に、以下の方法により、各頬部におけるS.hominis量を測定した。
【0114】
被験者の女性頬部から菌採取用のシール又は綿棒(Swab法)にて、細菌叢を採取した。次に、採取した細菌叢よりDNAの抽出を行い、S.hominisについて、OTU(Operational Taxonomic Unit)解析を行い、各OTUに属するリード数を計測することにより、S.hominis量の測定を行った。
【0115】
そして、各被験者の、「各化粧料塗布試験時点のS.hominis量は、化粧料の塗布前のS.hominisのリード数を1とし、各塗布1週目、塗布2週目、塗布3週目、塗布1ヶ月後のリードの比率を算出した。
なお、結果は各被験者(N=11)の平均±標準誤差(s.e:standard error)で表した。また、統計処理は二元配置分散分析に基づいて行った(*P<0.05)。
【0116】
【0117】
【0118】
表2及び
図7に示す通り、S.hominis含有化粧料を継続使用した被験者には、S.hominis量が多くなることが分かった。
すなわち、S.hominisを肌に適用することで、肌上のS.hominis量を増加させることができる。
【0119】
<3-2>S.hominis菌量促進剤を肌に適用する形態の検討
以下、S.hominis菌量促進剤を肌に適用することによる、S.hominis量の増加を検証した。
具体的には、キウイ抽出物、ユズ抽出物によるS.hominis量の推移の検討を行った。
【0120】
(1)細菌懸濁液の用意
まず、S. hominis GTC485株(以下、単にS.hominisとも表記する)を37℃の好気条件で、pH7.0の802培地(上記表1 参照)を用いて培養した。
【0121】
培養した細菌懸濁液のOD660を、濁度測定器(NovaspecII(Amercham Pharmacia Biotech社製))を用いて測定し、細菌濃度を算出した。
【0122】
(2)試験の方法及び結果
前述の方法で用意した細菌懸濁液を下記表3に示す測定用培地(実施例用培地(表3 実施例)及び比較例用培地(表3 比較例))に、その全体量が5mLとなるよう、添加した。
細菌添加後の培地における、菌体の量は5×107cellsであった。
【0123】
ここで、実施例として、以下の3種を用意した。
・1%キウイ抽出物含有802培地
・0.1%キウイ抽出物含有802培地
・1%ユズ抽出物含有802培地
ここで、キウイ抽出物としては、ファルコレックス(登録商標)キウイB(キウイ1,3-ブチレングリコール抽出物、一丸ファルコス)を用いた。
また、ユズ抽出物としては、ユズセラミドB(ユズ1,3-ブチレングリコール抽出物、一丸ファルコス)を用いた。
【0124】
【0125】
添加後、37℃の好気条件下、振とう培養を行った。
【0126】
振とう培養開始から、1時間ごとに濁度測定器(NovaspecII(Amercham Pharmacia Biotech社製))を用いてOD660を測定した。
計測した時間のOD660の測定値を、振とう培養開始時のOD660の測定値で引くことにより、OD660の測定値の変化量(OD660Δ初期値)を算出した。
結果を、
図8~
図10、表4に示す。
【0127】
【0128】
(3) 考察
実施例の結果から、キウイ抽出物には、S.hominisの菌量促進作用があることがわかった。また、実施例の結果から、ユズ抽出物を用いることで、S.hominisの菌量促進ができることがわかった。
【0129】
(4)まとめ
以上の結果より、S.hominisの菌量促進剤を肌に適用することで、肌上のS.hominis量を増加させることができる。