(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052428
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】鉄-ポリフェノール複合材を含有する農園芸用殺菌剤および該農園芸用殺菌剤を用いる病害防除方法
(51)【国際特許分類】
A01N 59/16 20060101AFI20240404BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20240404BHJP
A01G 13/00 20060101ALI20240404BHJP
A01C 1/08 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
A01N59/16 Z
A01P3/00
A01G13/00 A
A01C1/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159130
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005315
【氏名又は名称】保土谷化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】森山 亮一
(72)【発明者】
【氏名】田中 健一
【テーマコード(参考)】
2B051
4H011
【Fターム(参考)】
2B051BA09
2B051BB01
4H011AA01
4H011BB18
(57)【要約】
【課題】二価鉄の殺菌機能を簡便に、かつ長時間安定的に発揮させ、実用性の高い農園芸用殺菌剤を提供すること、および、該農園芸用殺菌剤を用いる、穀物や野菜などの植物の種子の細菌病または糸状菌病の病害防除方法を提供すること。
【解決手段】鉄または鉄化合物と、ポリフェノール源(PP)とを反応させて得られる鉄-ポリフェノール複合材(鉄PP)を含有する農園芸用殺菌剤であって、前記鉄-ポリフェノール複合材(鉄PP)中の鉄濃度が1~20質量%であり、前記農園芸用殺菌剤中の鉄濃度が0.1~20質量%である、農園芸用殺菌剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄または鉄化合物と、ポリフェノール源(PP)とを反応させて得られる
鉄-ポリフェノール複合材(鉄PP)を含有する農園芸用殺菌剤であって、
前記鉄-ポリフェノール複合材(鉄PP)中の鉄濃度が1~20質量%であり、
前記農園芸用殺菌剤中の鉄濃度が0.1~20質量%である、農園芸用殺菌剤。
【請求項2】
有効成分として、鉄-ポリフェノール複合材(鉄PP)を含有する農園芸用殺菌剤であって、前記農園芸用殺菌剤中の鉄濃度が0.1~20質量%である、請求項1に記載の農園芸用殺菌剤。
【請求項3】
前記農園芸用殺菌剤中の鉄濃度が1~20質量%である、請求項1または請求項2に記載の農園芸用殺菌剤。
【請求項4】
ポリフェノール源(PP)がコーヒーまたは茶である、請求項1または請求項2に記載の農園芸用殺菌剤。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の農園芸用殺菌剤を用いる、細菌病または糸状菌病の病害防除方法。
【請求項6】
前記細菌病が、イネもみ枯細菌病、イネ褐条病またはイネ苗立枯細菌病である、
請求項5に記載の細菌病の病害防除方法。
【請求項7】
前記糸状菌病が、イネばか苗病、イネいもち病またはイネごま葉枯病である、
請求項5に記載の糸状菌病の病害防除方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄-ポリフェノール複合材を含有する農園芸用殺菌剤および該殺菌剤を用いる病害防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、殺菌剤として、二価鉄の殺菌機能を利用した技術が農業用途などの分野で期待されている。具体的には、例えば特許文献1には、コーヒー豆の粉砕焙煎物(特にコーヒー粕)や茶葉(特に茶殻)を還元作用成分の供給原料として用い、当該還元作用成分の供給原料と二価もしくは三価を含む鉄供給原料とを水存在下で混合し、得られた反応生成物(鉄-ポリフェノール)を活性成分としてなるフェントン反応触媒、このフェントン反応触媒を用いて過酸化水素からヒドロキシルラジカル(・OH)を発生させることを特徴とする殺菌方法が開示されている。
【0003】
特許文献2には、3価鉄イオン、過酸化水素などを含むキュウリうどんこ病の防除薬が記載されており、光フェントン反応によりOHラジカルを多量に発生させる技術として開示されている。
【0004】
非特許文献1には、アスコルビン酸鉄(II)を用いた殺菌作用やファージの不活性化が開示されており、アスコルビン酸鉄(II)に含まれる二価鉄により菌細胞の内外でフリーラジカルが生成し、それが作用すると考察されている。
【0005】
特許文献1に記された殺菌方法の直接の主体であるヒドロキシルラジカル(・OH)は、もっとも強力な酸化作用を持つ化学物質として知られているが、その生成のためには過酸化水素または過酸化水素の発生源となる物質が必須となり、鉄-ポリフェノール単独で発生させることはできない。したがって、実際の使用場面において、一剤で殺菌しうるという簡便さに欠ける。かつ、過酸化水素やその発生源となる物質は過酸化物であり、保管等の取り扱いにも配慮が必要となる。
【0006】
しかしながら、非特許文献1に記された殺菌方法では、二価鉄は不安定で酸化されやすく、水中や湿気の多い環境下では極めて短時間で三価鉄に変化し、殺菌活性を容易に失ってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011-212518号公報
【特許文献2】特開2014-94895号公報
【特許文献3】特開2020-158448号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】村田 晃、日高 敏勝、神田 康三、加藤 富民雄 著、「2価鉄の殺菌作用と作用機構」、佐賀大学農学部彙報、佐賀大学農学部 編、2008年、第93巻、141-155頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、二価鉄の殺菌機能を簡便に、かつ長時間安定的に発揮させ、実用性の高い農園芸用殺菌剤を提供すること、および、該農園芸用殺菌剤を用いる、穀物や野菜などの植物細菌病または糸状菌病の病害防除方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
穀物種子などの殺菌剤として、鉄-ポリフェノール複合材(鉄PP)を用いる殺菌剤を調製し、有効な殺菌活性を有し、かつ、植物への薬害の認められない農園芸用殺菌剤を見出し、該殺菌剤を用いる細菌病または糸状菌病の病害防除方法を開発した。すなわち、本発明は以下を要旨とする。
【0011】
1.鉄または鉄化合物と、ポリフェノール源(PP)とを反応させて得られる
鉄-ポリフェノール複合材(鉄PP)を含有する農園芸用殺菌剤であって、
前記鉄-ポリフェノール複合材(鉄PP)中の鉄濃度が1~20質量%であり、
前記農園芸用殺菌剤中の鉄濃度が0.1~20質量%である、農園芸用殺菌剤。
【0012】
2.有効成分として、鉄-ポリフェノール複合材(鉄PP)を含有する農園芸用殺菌剤であって、前記農園芸用殺菌剤中の鉄濃度が0.1~20質量%である農園芸用殺菌剤。
【0013】
3.前記農園芸用殺菌剤中の鉄濃度が1~20質量%である農園芸用殺菌剤。
【0014】
4.ポリフェノール源(PP)がコーヒーまたは茶である農園芸用殺菌剤。
【0015】
5.前記農園芸用殺菌剤を用いる、細菌病または糸状菌病の病害防除方法。
【0016】
6.前記細菌病が、イネもみ枯細菌病、イネ褐条病またはイネ苗立枯細菌病である細菌病の病害防除方法。
【0017】
7.前記糸状菌病が、イネばか苗病、イネいもち病またはイネごま葉枯病である糸状菌病の病害防除方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の農園芸用殺菌剤は、二価鉄の殺菌機能を簡便に、かつ長時間安定的に発揮させることができる殺菌剤であり、薬害の少なく、細菌病または糸状菌病の病害防除方法に用いる殺菌剤として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で様々な形態で実施することができる。
【0020】
本発明の農園芸用殺菌剤は、鉄または鉄化合物と、ポリフェノール源(PP)とを反応させて得られる鉄-ポリフェノール複合材(鉄PP)を含有する。
【0021】
本発明の「鉄-ポリフェノール複合材」(鉄PP)は、公知の「鉄-ポリフェノール」または「鉄-ポリフェノール」を含有する組成物もしくは複合材を用いることができるが、特許文献3に詳細に記載された方法で製造、調製された鉄-ポリフェノール複合材を用いるのが好ましい。
【0022】
本発明の鉄-ポリフェノール複合材(鉄PP)の原料である「鉄または鉄化合物」は、任意の鉄または鉄化合物を用いることができる。例えば、金属鉄;塩化鉄(III)、硫酸鉄(III)などの水溶性鉄化合物;酸化鉄(III)、硝酸鉄(III)、水酸化鉄(III)などの水不溶性鉄化合物;黄鉄鉱、白鉄鉱、菱鉄鉱、磁鉄鉱、針鉄鉱など天然の鉄鉱石;鉄分を含む土壌、ヘム鉄、貝殻などの天然物;およびこれらを酸に溶解したものがあげられる。これらのうち、塩化鉄(III)、硫酸鉄(III)などの三価鉄の化合物が好ましく、塩化鉄(III)がより好ましい。
【0023】
本発明において用いるポリフェノール源(PP)は、ポリフェノールを含有する素材、またはポリフェノールを生成し得る素材であれば、特に限定されない。例えば、木質材もしくは草質材またはその処理物、麦芽、大麦、小麦などの穀物原料、コーヒー豆、茶葉、ホップ、ぶどう酒かす、などがあげられる。コーヒー豆、茶葉が好ましい。また、これらを混合して用いることもできる。
【0024】
コーヒー豆としては、原料コーヒー豆、乾燥コーヒー豆、焙煎コーヒー豆、焙煎粉砕コーヒー豆、これを水浸漬して得られる抽出成分(飲用に供されるコーヒー)、抽出成分を乾燥粉末化したもの、コーヒー粕などがあげられる。茶葉としては、原料茶葉、乾燥茶葉、発酵茶葉、これらを水浸漬して得られる抽出成分(飲用に供される緑茶、紅茶、ウーロン茶など)、抽出成分を乾燥粉末化したもの、茶殻などがあげられる。
【0025】
コーヒー粕や茶殻は、抽出前のものでも抽出後でもよく、抽出前後に加熱等の操作により水分を調整したものであってもよい。抽出前のものを使用する場合は、飲料用に供されるものよりも、資源の有効利用の観点から、飲料として供されない規格外品を本発明に用いるポリフェノール源(PP)として使用することが好ましい。
【0026】
本発明の鉄-ポリフェノール(鉄PP)複合材は、例えば、
鉄または鉄化合物の水溶液または分散液と、ポリフェノール源(PP)とを接触させ、反応生成物を得た後、前記反応生成物を、一定時間加熱(例えば70℃以上200℃以下)して、水分を一定濃度以下(例えば20質量%以下、好ましくは15質量%以下)に乾燥することによって製造される。具体的な製造方法は、特許文献3に記載されている方法が好ましい。
【0027】
本発明の鉄-ポリフェノール複合材(鉄PP)は、上記製造方法によって製造された後、前記鉄または鉄化合物由来の三価鉄が還元された二価鉄イオン(水溶性鉄イオン)を有するものである。鉄-ポリフェノール複合材が安定に合成されているかどうかは、生成物をpH安定性試験に供することによって確かめることができる。
【0028】
本発明の鉄-ポリフェノール複合材(鉄PP)は、製造時の乾燥時間、製造後の保存状況および保存期間によって変動するため、適時、保存の過程や運搬時、農園芸用殺菌剤として使用する前などに、乾燥や水分の補給を行ってよい。
【0029】
製造した鉄-ポリフェノール複合材(鉄PP)において、含まれる二価鉄の濃度は、公知のフェナントロリン銀比色定量法などの方法で分析することができる(特許文献3)。鉄-ポリフェノールが生成されることによって、三価鉄がほぼ二価鉄に還元される。
【0030】
製造した鉄-ポリフェノール複合材において、含まれるポリフェノール量の測定は、公知のフォーリンデニス法などの方法で分析することができる(特許文献3)。
【0031】
本発明の鉄-ポリフェノール複合材(鉄PP)は、鉄-ポリフェノール複合材(鉄PP)中の鉄濃度が、1~20質量%であることが好ましい。2~10質量%であることがより好ましい。
【0032】
本発明の鉄-ポリフェノール複合材(鉄PP)を含有する農園芸用殺菌剤は、前記農園芸用殺菌剤中の鉄濃度が0.1~20質量%となることが好ましい。
【0033】
本発明の鉄-ポリフェノール複合材(鉄PP)を含有する農園芸用殺菌剤は、有効成分として、前記農園芸用殺菌剤中の鉄濃度が0.1~20質量%となることがより好ましく、前記農園芸用殺菌剤中の鉄濃度が1~20%であることがさらに好ましい。
【0034】
本発明の農園芸用殺菌剤は、固体担体または液体担体を混合してもよく、その他の成分としては、水、必要に応じて、界面活性剤、分散剤、浸透剤、展着剤、増粘剤、凍結防止剤、結合剤、固結防止剤、分解防止剤、防腐剤、沈降防止剤、消泡剤などを添加剤(補助剤)として含んでいてもよい。
【0035】
本発明の農園芸用殺菌剤は、上記の添加剤(補助剤)を添加し、種々の製剤形態をとることができる。具体的な殺菌剤の製剤形態としては、液剤、乳剤、水和剤、懸濁剤(水性懸濁製剤)、顆粒水溶剤、顆粒水和剤、乳濁剤、サスポエマルジョン、粉剤、粒剤、ゲル剤など、任意の剤型の製剤で使用でき、水溶性包装体に封入して使用することもでき、また、湿粉衣としても使用できる。
【0036】
本発明の農園芸用殺菌剤は、実際の使用時には、具体的には、鉄-ポリフェノール複合材(鉄PP)濃度として、10倍希釈~1000倍希釈、好ましくは、10倍希釈~200倍希釈で、含有するように水で希釈することによって使用することができる。
希釈液中の鉄濃度として、0.001質量%~2質量%(10ppm~20000ppm)が好ましい。
【0037】
本発明の鉄-ポリフェノール複合体(鉄PP)の殺菌効果は、鉄-ポリフェノール複合体(鉄PP)の濃度と処理時間、温度、また対象とする病害細菌やカビの種類に依存するため、それらを勘案して適切な濃度、処理時間、処理温度を設定する必要がある。これは鉄-ポリフェノール複合体(鉄PP)に含有する2価鉄の殺菌メカニズムによる。鉄-ポリフェノール複合体(鉄PP)中の二価鉄は、病害細菌等の細胞表層に作用し、活性酸素種が関与するフリーラジカル反応機構によりDNAを損傷、低分子化させて殺菌効果を発揮すると考えられる。ポリフェノールは、その還元作用により二価鉄を安定的に維持する。
【0038】
本発明の鉄-ポリフェノール複合材(鉄PP)を含有する農園芸用殺菌剤を使用する作物としては、特に限定されないが、穀物、野菜、その他の様々な植物の種子の殺菌処理に用いることができ、イネ、コムギ、オオムギなどの穀物種子の殺菌処理に用いることがより好ましい。
【0039】
本発明の鉄-ポリフェノール複合材(鉄PP)は、希釈して穀物種子の殺菌処理方法において用いる場合、浸種前処理または催芽時処理に用いることが好ましい。浸種前処理を行う場合の温度は、10~15℃が好ましい。浸種前処理を行う時間は、60分~48時間が好ましく、60分~24時間がより好ましい。
【0040】
本発明の鉄-ポリフェノール複合材(鉄PP)は、催芽処理時に処理を行う場合は、30℃~32℃程度の温水での催芽処理時で行うことが好ましい。催芽処理時を行う時間は、60分~24時間が好ましい。
【0041】
本発明における、穀物種子の病害の種類としては、細菌病、糸状菌病によるものに対して効果が高い。細菌病としては、イネもみ枯細菌病、イネ褐条病、または、イネ苗立枯細菌病などがあげられ、イネもみ枯細菌病に対してより効果が高い。糸状菌病としては、イネばか苗病、イネいもち病、イネごま葉枯病があげられ、イネばか苗病に効果が高い。
【0042】
本発明の鉄-ポリフェノール複合材(鉄PP)を含有する農園芸用殺菌剤での殺菌処理方法において、種子をそのままで鉄-ポリフェノール複合材中に浸漬処理してもよいが、布袋やネットなどに入れて処理を行なってもよい。
【0043】
本発明の農園芸用殺菌剤の殺菌効果に関しては、防除価を用いて評価する。防除価は無処理区における細菌や糸状菌などによる病害の被害に対する処理区の防除効果の程度を表す指数であり、一般的に、防除価が高いほど防除効果があることを示す。一般的に、
防除価=(100-(処理区の発病度/無処理区の発病度)×100)の式によって計算する。防除価が高いほど防除効果があることを示す。
【実施例0044】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0045】
[製造実施例1]
<鉄-ポリフェノール複合材(鉄PP)の製造>
コーティングマシン(株式会社啓文社製作所製、型式:KC-152(S))のドラムに、ポリフェノール源(PP)として規格外品の前記コーヒー(使用前)(以下、比較例で使用)を仕込んだ。コーティングマシンを運転し、ドラムを回転させながら、農薬散布用スプレー容器から塩化鉄(III)(関東化学工業株式会社)の10質量%水溶液をコーヒーに、水溶液全量を約10分以内で、スプレーした。このコーヒーをポリ袋に入れたバットに移し、45Lポリ袋でバットごと包み、ポリ袋の口を縛った。この包みを95℃に設定した熱風乾燥機に入れ、3時間加温した。加温時間経過後、ポリ袋をはずし、バット上のコーヒーを95℃で約2日間、熱風乾燥機内で乾燥し、鉄-ポリフェノール複合材(鉄PP)を得た。この鉄-ポリフェノール複合材(鉄PP)の含水率を水分計(株式会社ケット科学研究所製、赤外水分計、型式:FD-220)を用いて、含水率が6質量%以下になることを確認した。
【0046】
<Fe(II)/[Fe(II)+Fe(III)]濃度比の測定>
鉄-ポリフェノール複合材試料を水に分散し、水中に溶出した鉄-ポリフェノールの溶出液水溶液中のFe(II)とFe(III)の合計量に対するFe(II)の濃度比の測定を、分光光度計(U-1800、日立ハイテクノロジーズ)を用いて、フェナントロリン比色定量法により行った。濃度比測定の結果、Fe(II)/[Fe(II)+Fe(III)]が約90%~95%の鉄(二価鉄を多く含む)を含有する鉄-ポリフェノール複合材(鉄PP)を、約3kg得た。
【0047】
[製剤実施例1~3、および、製剤比較例1~3]
鉄-ポリフェノール複合材(鉄PP)に含有する鉄濃度(質量%)が、それぞれ表1に記載した組成になるように調製し、製剤実施例1(鉄PP 2%)、製剤実施例2(鉄PP 4%)、製剤実施例3(鉄PP 8%)を用意した。また、比較対照として、製剤比較例1(硫化鉄(II))、製剤比較例2(ポリフェノール源(PP))および製剤比較例3(市販のイネ種子消毒剤(商品名:テクリードCフロアブル、成分:イプコナゾール、水酸化第二銅))を用意した。
【0048】
【0049】
[実施例1]
<イネもみ枯細菌病防除試験>
[催芽時処理]
表1の製剤実施例1および2のそれぞれの鉄-ポリフェノール複合材(鉄PP)を水でそれぞれ60倍および120倍に希釈して希釈液を調製した。製剤比較例1の硫化鉄(II)は水で1800倍に希釈した。これらの各希釈液45mLを100mL容ビーカーに入れ、これにイネもみ枯細菌病に汚染されたイネ籾12gを浸漬(催芽時処理)し、防除効果を調べた。イネ籾は15℃で浸種されたものを用いた。浸漬(催芽時処理)は、32℃で24時間行った。
発芽した籾を育苗箱の1/12サイズのプラスチックケースに培土を入れて播種し、32℃で2日間保った後、温室内で管理した。
播種23日後に、発病苗率を調べ、発病度から防除価を算出した。
薬害は、発芽数を計測し、無処理区の発芽数を100として、以下の式から
発芽阻害率(%)を算出した。
発芽阻害率(%)=(1-(処理区の発芽数/無処理区の発芽数))×100 (%)
防除価による効果判定、および、発芽阻害率(%)による薬害判定は、表2の基準で評価した。試験結果を表3に示す。
【0050】
【0051】
【0052】
表3より、本発明の鉄-ポリフェノール複合材(鉄PP)を含有する農園芸用殺菌剤は、比較例1より効果が高い。
【0053】
[実施例2]
<イネもみ枯細菌病防除試験>
[催芽時処理]
表1の製剤実施例2および3のそれぞれの鉄-ポリフェノール複合材(鉄PP)を、水でそれぞれ40倍および120倍に希釈して希釈液を調製した。製剤比較例2のポリフェノール源(PP)PPは水で60倍に希釈した。製剤比較例3のテクリードCフロアブルは水で200倍に希釈した。これらの各希釈液45mLを100mL容ビーカーに入れ、これにイネもみ枯細菌病に汚染されたイネ籾12gを浸漬(催芽時処理)し、防除効果を調べた。イネ籾は15℃で浸種されたものを用いた。浸漬(催芽時処理)は、32℃で24時間行った。
発芽した籾を育苗箱の1/12サイズのプラスチックケースに培土を入れて播種し、32℃で2日間保った後、温室内で管理した。
播種23日後に、発病苗率を調べ、発病度から防除価を算出した。
薬害は、発芽数を計測し、無処理区の発芽数を100として、以下の式から
発芽阻害率(%)を算出した。
発芽阻害率(%)=(1-(処理区の発芽数/無処理区の発芽数))×100 (%)
防除価による効果判定、および、発芽阻害率(%)による薬害判定は、表2の基準で評価した。試験結果を表4に示す。
【0054】
【0055】
表4から、本発明の鉄-ポリフェノールを用いた含有する農園芸用殺菌剤は、市販品と同等かそれ以上の防除効果であることがわかった。
【0056】
[実施例3]
<イネばか苗菌病防除試験>
[催芽時処理]
表1の製剤実施例2および3のそれぞれの鉄-ポリフェノール複合材(鉄PP)を水で、それぞれ40倍および120倍に希釈して希釈液を調製した。製剤比較例2のポリフェノール源(PP)PPは水で60倍に希釈した。製剤比較例3のテクリードCフロアブルは水で200倍に希釈した。これらの各希釈液45mLを100mL容ビーカーに入れ、これにイネばか苗病に汚染されたイネ籾12gを浸漬(催芽時処理)し、防除効果を調べた。イネ籾は15℃で浸種したものを用いた。浸漬(催芽時処理)は、32℃で24時間行った。
発芽した籾を育苗箱の1/12サイズのプラスチックケースに培土を入れて播種し、32℃で2日間保った後、温室内で管理した。
播種23日後に、発病苗数を調べ、発病苗率から防除価を算出した。
薬害は、発芽数を計測し、無処理区の発芽数を100として、以下の式から
発芽阻害率(%)を算出した。
発芽阻害率(%)=(1-(処理区の発芽数/無処理区の発芽数))×100 (%)
防除価による効果判定、および、発芽阻害率(%)による薬害判定は、表2の基準で評価した。試験結果を表5に示す。
【0057】
【0058】
表5から、本発明の鉄-ポリフェノールを用いた含有する農園芸用殺菌剤は、市販品と同等の防除効果であることがわかった。
本発明の鉄-ポリフェノール複合材を含有する農園芸用殺菌剤は、二価鉄の殺菌機能を活用し、簡便かつ長期間安定に使用可能な殺菌剤として有用であり、また、該殺菌剤を使用する本発明の病害防除方法は、穀物などの植物に対する薬害の少なく、穀物種子に対して糸状菌病または細菌病などの種子感染性病害を防除し、穀物などの植物に対する薬害の認められない病害防除方法として有効である。本発明の農園芸用殺菌剤は、野菜、果樹、果物などにも応用可能である。