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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052441
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】抗ウイルス繊維および抗ウイルス生地
(51)【国際特許分類】
   D01F 1/10 20060101AFI20240404BHJP
   D01F 6/92 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
D01F1/10
D01F6/92 301M
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159156
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】305037123
【氏名又は名称】KBセーレン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】角谷 啓太
【テーマコード(参考)】
4L035
【Fターム(参考)】
4L035AA05
4L035BB31
4L035EE09
4L035EE11
4L035JJ04
4L035JJ05
(57)【要約】
【課題】 洗濯耐久性が高く、ヨウ素などの有害な化合物の発生がない、抗ウイルス繊維を提供する。
【解決手段】 銀を担持したリン酸ジルコニウムを主成分とする化合物を含む抗ウイルス繊維であり、前記化合物は銀含有量が4質量%以上、13質量%以下であり、繊維中の前記化合物の含有量が2.5質量%以上、15質量%未満含む抗ウイルス繊維である。繊維中の銀含有量が0.20質量%以上、1.50質量%未満であることが好ましい。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀を担持したリン酸ジルコニウムを主成分とする化合物を含む抗ウイルス繊維であり、前記化合物は銀含有量が4質量%以上、13質量%以下であり、繊維中の前記化合物の含有量が2.5質量%以上、15質量%未満含む抗ウイルス繊維。
【請求項2】
繊維中の銀含有量が0.20質量%以上、1.50質量%未満である請求項1記載の抗ウイルス繊維。
【請求項3】
破断強度が3cN/dtex以上、破断伸度が30%以上である請求項1または2記載の抗ウイルス繊維。
【請求項4】
ネコカリシウイルスの抗ウイルス活性値が3.0以上である請求項1または2記載の抗ウイルス繊維。
【請求項5】
30質量%以上、100質量%以下の割合で請求項1または2記載の繊維を含む抗ウイルス生地。
【請求項6】
ネコカリシウイルスの抗ウイルス活性値が3.0以上である請求項5記載の抗ウイルス生地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はウイルスを不活化する繊維および生地に関し、特にエンベロープの無いウイルスに対して抗ウイルス効果の高い繊維および生地に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、SARS(重症急性呼吸器症候群)やノロウイルス、鳥インフルエンザなどウイルス感染による死者が報告されている。さらに現在、新型コロナウイルスのSARS-CoV-2によるパンデミック(感染爆発)が発生しており、ウイルスの突然変異によって収束がみられていない。新型コロナウイルスに対する緊急対策も必要であるが、新たなウイルスの突然変異によって別のパンデミックが発生する可能性も大いに考えられる。
ウイルスによる感染性胃腸炎は一年を通じて発生が確認され、罹患者数・死亡者数の多さから世界的社会問題となっている。感染性胃腸炎を起こす原因ウイルスには、ノロウイルス、ロタウイルス、サポウイルス、アデノウイルス等がある。特にノロウイルスは、ウイルス粒子が10~100個という少量で感染が成立するという非常に高い感染力に加え、高い残留性により感染が拡大するという特徴がある。
【0003】
ノロウイルスの主な感染経路は、ウイルスが蓄積したカキ等の二枚貝を食することによる経口感染や、家庭や公共施設において、感染者の糞便・汚物から人の手指や調理器具、食器等を伝播した経口感染である。
【0004】
ノロウイルスは環境耐性が高いことが知られ、長期にわたり生残する。そのため、感染の拡大を予防するためには確実にウイルスを不活化させることが必要である。通常、ノロウイルスの不活化には、加熱・次亜塩素酸消毒が行われている(米国疾病管理予防センター ノロウイルス対策ガイドライン)。また、食品製造現場では、ノロウイルスを含む非エンベロープウイルス対策製品としてエタノール製剤が用いられている。しかし、既存の消毒方法は、薬剤特性から使用において制限が生じ、エタノール製剤はノロウイルスの不活化効果の点で充分であるとは云えず、これらに代わる有効なノロウイルス対策技術が求められている。
【0005】
これらの問題を解決する手段として、ウイルスによる感染や、感染者からの感染による被害の拡大を防ぐために、抗ウイルス効果のある繊維製品の開発が進められている。たとえば、特許文献1では、マレイン酸成分を含む、金属イオンが担持した共重合高分子を抗ウイルスの有効成分として繊維に含有させたビスコースレーヨン繊維、特許文献2では、抗ウイルス性能を有するアミノ基含有有機化合物で処理したアクリル系繊維が提案されている。特許文献3では、ヨウ化銅を抗ウイルスの有効成分として含む繊維が提案されており、特許文献4では、H型カルボキシル基含有架橋アクリレート系繊維を含有する繊維構造物の表面にH型カルボキシル基含有粒子が付着されている抗ウイルス性繊維構造体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4584339号公報
【特許文献2】特許第5088581号公報
【特許文献3】特許第6063666号公報
【特許文献4】特開2019-173202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1は具体的には酢酸ビニル―無水マレイン酸共重合体が混合されたビスコースレーヨン繊維が記載されている。抗ウイルス成分であるマレイン酸成分を含む共重合高分子は水分を保持できるセルロースなどの素材に担持していることが好ましく、セルロース繊維には適用できるが、ポリエステル樹脂やポリアミド樹脂に練り込んで溶融紡糸をすると抗ウイルス成分に含まれる水分で樹脂が劣化して紡糸が困難であるため、この抗ウイルス成分をポリエステル樹脂やポリアミド樹脂に用いることができない。
また、特許文献2に記載の抗ウイルス成分はアクリル系繊維に対しアミノ基含有有機化合物を反応させることにより得られるものであるため、ポリエステル樹脂やポリアミド樹脂に直接抗ウイルス成分を練り込んだ繊維とすることはできない。
また、特許文献3のヨウ化銅のウイルス不活性化効果は、銅および遊離したヨウ素による作用であり、遊離したヨウ素が昇華して拡散されるため、実用性や安全性に問題がある。
また、特許文献4には抗ウイルス成分であるH型カルボキシル基を有する重合体からなる粒子を、浸漬方法により繊維構造物の表面へ付着させるが、この方法では洗濯耐久性が低いことが問題であった。
【0008】
したがって、本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、洗濯耐久性が高く、ヨウ素などの有害な化合物の発生がない、抗ウイルス繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、様々な抗ウイルス成分をポリエステル樹脂に練り込んで繊維化した結果、リン酸銀ジルコニウム化合物を含有する繊維の抗ウイルス効果が高く、ノロウイルス等のエンベロープを持たないウイルスに対して特に有効であることを見出した。
すなわち、本発明は、第1に、銀を担持したリン酸ジルコニウムを主成分とする化合物を含む抗ウイルス繊維であり、前記化合物は銀含有量が4質量%以上、13質量%以下であり、繊維中の前記化合物の含有量が2.5質量%以上、15質量%未満含む抗ウイルス繊維である。
本発明は、第2に、繊維中の銀含有量が0.20質量%以上、1.50質量%未満である第1の抗ウイルス繊維である。
本発明は、第3に、破断強度が3cN/dtex以上、破断伸度が30%以上である第1または第2の抗ウイルス繊維である。
本発明は、第4に、筒編地としたときのネコカリシウイルスの抗ウイルス活性値が3.0以上である第1~第3いずれかの抗ウイルス繊維である。
本発明は、第5に、30質量%以上100質量%以下の割合で第1~第4の繊維を含む抗ウイルス生地である。
本発明は、第6に、30質量%以上100質量%以下の割合で第1~第4の繊維を使用し、ネコカリシウイルスの抗ウイルス活性値が3.0以上である抗ウイルス生地である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の抗ウイルス繊維は、工業的に容易にかつ安価に製造することが出来、ノロウイルス等のエンベロープを持たないウイルスに対して高い抗ウイルス性能を発揮する。洗濯耐久性が高く、他素材と混合した生地でも抗ウイルス性を発揮し、意匠性の高い抗ウイルス生地の提供が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、銀を担持したリン酸ジルコニウムを主成分とする化合物を含む抗ウイルス繊維である。
【0012】
本発明における銀を担持したリン酸ジルコニウム化合物は、例えば、下記一般式〔1〕で示されるハフニウムを含有している銀イオン含有のリン酸ジルコニウムであることが好ましい。
[化1]
AgZrHf(PO・nHO 〔1〕
式〔1〕において、Mはアルカリ金属イオン、水素イオン、およびアンモニウムイオンから選ばれる少なくとも1種のイオンであり、a、b、cおよびdは正数であり、nは0または2以下の正数である。
【0013】
本発明における銀を担持したリン酸ジルコニウム化合物は、また、下記一般式〔2〕で示されるハフニウムを含有している銀イオン含有のリン酸ジルコニウムであることが好ましい。
[化2]
AgZrHf(PO・nHO 〔2〕
式〔2〕において、Mはアルカリ金属イオン、水素イオン、およびアンモニウムイオンから選ばれる少なくとも1種のイオンであり、a、b、cおよびdは正数であり、cおよびdは、1.75<(c+d)<2.25であり、a+b+4(c+d)=9を満たす数であり、nは0または2以下の正数である。
ハフニウムを含有する銀系リン酸ジルコニウムは、ハフニウムが含有されていない銀系リン酸ジルコニウムと比較して、抗ウイルス性および耐変色防止性に優れるものであるが、抗ウイルス性能はあまり変わらない。
【0014】
また、本発明における銀を担持したリン酸ジルコニウム化合物は、湿式合成法または水熱合成法で作製したリン酸ジルコニウムに銀イオンをイオン交換により担持させた銀系無機抗ウイルス剤であることが好ましい。
【0015】
式〔2〕において、aは、正数であり、好ましくは0.01以上であり、より好ましくは0.03以上であり、そしてaは、1以下が好ましく、0.6以下がより好ましい。式〔2〕においてaが0.01未満では、抗ウイルス性が十分発現しないおそれがあり好ましくない。
【0016】
式〔2〕において、Mとしては、アルカリ金属イオン、水素イオン、およびアンモニウムイオンからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、アルカリ金属イオンおよび水素イオンを有しているものが銀イオンとのイオン交換性および合成の容易さから更に好ましい。
【0017】
式〔2〕において、Mで示されるアルカリ金属イオンとしては、Li、Na、K、Rb、およびCsが例示され、これらは単独でも複数混合されていてもよい。なかでも好ましいアルカリ金属イオンは、銀イオンとのイオン交換性および合成の容易さなどよりNaイオンまたはKイオンであり、より好ましくはNaイオンである。
【0018】
式〔2〕において、bは、アルカリ金属イオン、水素イオン、アンモニウムイオンの合計数である。アンモニウムイオンを有する場合、水素イオンを有しないことも有るが、アルカリ金属イオンと水素イオンとを比べると、水素イオンが多いほうが好ましい。
アンモニウムイオンを有しない場合、水素イオンを有しないことも有るが、アルカリ金属イオンと水素イオンとを比べると、水素イオンが多いほうが好ましい。なお、アンモニウムイオンを有しない場合は、水素イオンを有することが好ましい。
【0019】
式〔2〕において、bは、正数であり、好ましくは0.1以上であり、より好ましくは
0.3以上である。なお、bが0.1未満では、変色しやすくなる場合があるため好ましくない。またbは、好ましくは2未満であり、より好ましくは1.8以下であり、更に好ましくは1.72以下であり、特に好ましくは1.5以下である。
【0020】
式〔2〕において,ハフニウムは抗ウイルス性および耐変色防止性を向上させるため、少量含有している方が好ましい。
cおよびdは、1.75<(c+d)<2.25であり、1.8以上が好ましく、1.85以上がより好ましい。また、cは、2.2未満が好ましく、2.1以下がより好ましく、2.05以下が更に好ましい。
c+dが1.75以下のものは、式〔2〕で表されるリン酸ジルコニウムの均質なものが得られ難いことがあるため好ましくない。また、式〔2〕においてdは、0.2以下が好ましく、0.001~0.15がより好ましく、更に好ましくは0.005~0.1である。この範囲であると、本発明の抗ウイルス剤が得られるので好ましい。
【0021】
式〔2〕においてnは、1以下が好ましく、より好ましくは0.01~0.5であり、0.03~0.3の範囲が更に好ましい。nが2を超えると、本発明の銀系無機抗菌剤に含まれる水分の絶対量が多く、加工時等に発泡や加水分解などを生じるおそれがあり好ましくない。
【0022】
本発明における銀を担持したリン酸ジルコニウム化合物として下記のものが例示できる。
Ag0.21.2Zr1.88Hf0.02(PO・0.05H
Ag0.11.14Zr1.92Hf0.02(PO・0.15H
Ag0.2Na0.4(NH0.84Zr1.87Hf0.02(PO・0.3H
Ag0.3Na0.11.04Zr1.87Hf0.02(PO・0.2H
Ag0.5Na0.20.3(NH0.32Zr1.90Hf0.02(PO・0.2H
Ag0.40.60.36Zr1.89Hf0.02(PO・0.1H
【0023】
本発明における銀を担持したリン酸ジルコニウム化合物は、他の好適な例として、下記一般式〔3〕で示されるハフニウムを含有している銀イオン含有のリン酸ジルコニウムであることが好ましい。
[化3]
AgZrHf(PO 〔3〕
式〔3〕において、Mはアルカリ金属イオン、水素イオン、およびアンモニウムイオンから選ばれる少なくとも1種のイオンであり、a、b、cおよびdは正数であり、cおよびdは、1.75<(c+d)<2.25であり、a+b+4(c+d)=7~10を満たす数であり、nは0または2以下の正数である。
例えば、Ag0.48Na0.22Zr1.93Hf0.02(PO4)が挙げられる。
【0024】
本発明において、銀を担持したリン酸ジルコニウム化合物の銀含有量は、4質量%以上、13質量%以下であり、4質量%未満であると十分な抗ウイルス性が発揮されず、13質量%を超えると、銀イオン含有のリン酸ジルコニウムの安定性が低下するおそれがある。より好ましくは、6質量%以上、12質量%以下である。
【0025】
本発明において、銀を担持したリン酸ジルコニウム化合物中の銀以外の元素の好ましい含有量は、ジルコニウムが30質量%以上、50質量%以下、リンが10質量%以上、30質量%以下、ハフニウムが0.5質量%以上、2.0質量%以下である。
【0026】
本発明において、銀を担持したリン酸ジルコニウム化合物は微粒子の形態であることが好ましく、平均粒子径は、0.1μm以上、5.0μm以下が好ましい。0.1μm未満であると、樹脂に添加する際に再凝集を起こして粗大化し、紡糸時の糸切れや毛羽が発生しやすくなり、安定的に糸を生産しにくくなる。5.0μmを超える場合も、同様の問題が生じる。より好ましくは、0.2μm以上、3.0μm以下、より好ましくは、0.3μm以上、2.0μm以下である。
【0027】
本発明の抗ウイルス繊維において、銀を担持したリン酸ジルコニウム化合物の含有量は、2.5質量%以上、15質量%未満であることが好ましい。2.5質量%未満では、十分な抗ウイルス性能が発揮されず、15質量%以上であると、抗ウイルス繊維の糸質物性だけでなく、紡糸性が低下する。より好ましくは、3質量%以上、12質量%以下であり、さらに好ましくは、4質量%以上、10質量%以下である。
【0028】
本発明の抗ウイルス繊維において、銀の含有量は、0.20質量%以上、1.50質量%未満であることが好ましく、より好ましくは、0.25質量%以上、1.30質量%以下であり、さらに好ましくは0.35質量%以上、1.20質量%以下である。
【0029】
本発明の抗ウイルス繊維の、JIS L 1922(繊維製品の抗ウイルス性試験方法)でネコカリシウイルスを用いて測定した抗ウイルス活性値は、3.3以上が好ましく、より好ましくは、3.5以上である。
このような範囲とすることで、他の繊維を混用して、繊維製品を製造した場合でも、抗ウイルス性が優れたものを得ることができる。
本発明においては、後述の実施例1記載のように作製した筒編地を試料として測定した値が上記の範囲であることが好ましい。
【0030】
本発明の抗ウイルス繊維の破断強度は、3cN/dtex以上であることが好ましく、破断伸度は、30%以上であることが好ましい。破断強度が3cN/dtex未満、または、破断伸度が30%未満の場合、繊維内の含まれる剤の粒子径が大きい場合や、濃度が高い場合、織編工程、加工工程での断糸など後工程での不具合が出るおそれがある。
【0031】
本発明の抗ウイルス繊維を構成する樹脂としては、ポリアミド6、ポリアミド12、ポリアミド66等の重合体又はこれらの共重合体であるポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと称することがある)、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、全芳香族ポリエステル等の重合体又はこれらの共重合体である芳香族ポリエステル樹脂、ポリ乳酸やポリブチレンサクシネート等の重合体又はこれらの共重合体である脂肪族ポリエステル樹脂等が、特に、衣料用途に用いる場合は、好適に挙げられる。
本発明の構成する樹脂として、ポリエステル樹脂やポリアミド樹脂を用いて安定的に繊維を製造して抗ウイルス性能を得ることができるため、有用である。
【0032】
本発明の抗ウイルス繊維は、例えば、上記記載の樹脂に抗ウイルス剤を高濃度で練り込み作製したマスターバッチと、上記記載の樹脂を混合して単独紡糸することにより好適に製造することができる。
【0033】
抗ウイルス剤を含むマスターバッチの作製方法としては、樹脂は重量フィーダーを用いて、抗ウイルス剤は重量フィーダーとサイドフィーダーを用いて、それぞれを混練機に一定量投入し、樹脂を溶融しながら混練する方法が好適に挙げられる。混練温度としては、160℃以上、300℃以下が好ましい。マスターバッチ中の抗ウイルス剤濃度は20質量%以上、40質量%以下が好ましい。
【0034】
抗ウイルス繊維の単独紡糸方法としては、抗ウイルス剤含有マスターバッチと樹脂を混合した後、押出機でそれぞれ溶融し、ギヤポンプを用いてそれぞれの樹脂を定量しながら口金から吐出し、冷却後巻き取る、溶融紡糸法が好適に挙げられる。紡糸温度としては、160℃以上、300℃以下が好ましい。巻き取り方法としては、例えば、400~1,200m/分程度の低速で未延伸糸を一度巻取り、延撚機を用いて熱延伸し延伸糸を得る方法(コンベンショナル法)や、3,000~5,000m/分の高速で巻き取り、半延伸糸を得る方法(POY法)や、800~1,200m/分の第一ローラ(GR1)と3,000~3,800m/分程度の第二ローラー(GR2)を用いてGR1とGR2の間で熱延伸を行い、直接延伸糸を得る方法(直接延伸法)等が好適に挙げられる。延伸倍率としては、特に限定されるものではないが、通常、2~4倍が好ましい。
【0035】
本発明の抗ウイルス繊維の繊度および構成本数に関しては、特に限定されるものではないが、衣料用途では総繊度が200dtex以下が好ましく、より好ましくは150dtex以下であり、さらに好ましくは100dtex以下である。また繊維製品としての取り扱い易さから、総繊度の下限は、15dtex程度である。
【0036】
また本発明の抗ウイルス繊維の単糸繊度は、6dtex以下であることが好ましく、5dtex以下がより好ましく、3dtex以下がさらに好ましい。また、剤の粒径に近くなると延伸などで断糸するおそれがあること等を考えると、単糸繊度の下限は、1.0dtex以上であることが好ましい。
【0037】
単糸繊度が、6dtexを超える場合、繊維の表面積が小さくなり、繊維表面層に配される剤の粒子密度が下がるため、抗ウイルス性が十分発揮できなくなるおそれがある。
【0038】
本発明の抗ウイルス生地は、本発明の抗ウイルス繊維を用いて得ることができる。この抗ウイルス生地としては、織物、編物、不織布などいずれの形態のものでもよい。
【0039】
織物としては、平織、綾織、朱子織など、組織は特に限定するものではない。平織であれば、オックスフォード、シャンブレー、ブローブクロス、シーチング、ウェザークロス、キャンバス等の生地でもよい。
【0040】
編物としては、平編み、ゴム編み、パール編等のよこ編みや、デンビー編み、コード編み、アトラス編み等のたて編など組織は特に限定するものではない。よこ編みであれば、サーマル、鹿の子編み、スムース編み、裏パイル等の生地でもよい。
【0041】
本発明の抗ウイルス生地は、本発明の抗ウイルス繊維を用いて得ることができる。抗ウイルス生地には、少なくとも一部に本発明の抗ウイルス繊維を用いる。抗ウイルス性を良好に持たせる点からは、30質量%以上用いることが好ましい。抗ウイルス生地は100質量%本発明の抗ウイルス繊維を用いてもよい。
【0042】
本発明の抗ウイルス繊維を用いた生地の、JIS L 1922(繊維製品の抗ウイルス性試験方法)でネコカリシウイルスを用いて測定した抗ウイルス活性値は、3.0以上であることが好ましい。より好ましくは3.3以上であり、さらに好ましくは3.5以上である。
【0043】
本発明の抗ウイルス繊維を用いた生地は、洗濯10回後における、JIS L 1922(繊維製品の抗ウイルス性試験方法)でネコカリシウイルスを用いて測定した抗ウイルス活性値は、3.0以上であることが好ましく、より好ましくは、3.3以上である。
また洗濯前後の抗ウイルス活性値の差は0に近いほど洗濯耐久性が高いといえる。洗濯前後の抗ウイルス活性値の差としては、0.5以下が好ましく、より好ましくは、0.3以下である。
【実施例0044】
以下、実施例および具体例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれに限られるものではない。
【0045】
(1)破断強度、破断伸度
JIS L 1013(化学繊維フィラメント糸試験方法)に準じ、島津製作所製のAGS-1KNGオートグラフ(登録商標)引張試験機を用い、試料糸長20cm、定速引張速度20cm/minの条件で測定する。荷重-伸び曲線での荷重の最高値を繊度で除した値を破断強度(cN/dtex)とし、そのときの伸び率を破断伸度(%)とした。
(2)紡糸性評価
エクストルーダ型単独紡糸機を用いて、抗ウイルス繊維の単独紡糸を行った。以下の基準により紡糸性評価を行った。
○:24時間連続紡糸時、糸切れが発生せず、得られた繊維について毛羽等の不良は発生しない。
Δ:24時間連続紡糸時、糸切れが2回以下で発生し、得られた繊維の毛羽数は、5個未満/100万mである。
×:24時間連続紡糸時、糸切れが3回以上で発生し、紡糸性が不良である。得られた繊維の毛羽数は5個以上/100万mである。
(3)繊維中の銀含有量の測定
抗ウイルス繊維1gを白金るつぼ中でガスバーナーを使用して煙が出なくなるまで炭化させ、電気炉(600℃、2時間)で灰化処理を実施した。得られた灰分をアメテック製ICP発光分析装置CIROS CCDを用いて、銀の定量分析を実施し、灰分の重量から糸中の銀含有量を算出した。
(4)抗ウイルス活性値測定
本発明の抗ウイルス活性値の算出方法は、JIS L 1922(繊維製品の抗ウイルス性試験方法)に準拠した方法で行った。ウイルスはネコカリシウイルスを用い、ウイルス感染価をプラーク法により測定した。
下記の計算式で、抗ウイルス活性値を算出した。
抗ウイルス活性値=Log(標準布・2時間作用後感染価)―Log(加工試料・2時間作用後感染価)
以下の基準により抗ウイルス性評価を行った。
◎:抗ウイルス活性値が4.0以上である。
〇:抗ウイルス活性値が3.0以上、4.0未満である。
△:抗ウイルス活性値が2.0以上、3.0未満である。
×:抗ウイルス活性値が2.0未満である。
【0046】
<抗ウイルス剤を含むマスターバッチの作製例>
銀含有のリン酸ジルコニウム化合物(東亜合成製、グレード:AG1100、剤中銀濃度:10質量%)を5.0kg/hrにてサイドフィーダーで二軸押出混練機に添加しながら、PET樹脂(KBセーレン製)を、フィーダーによって15.0kg/hrで二軸押出混練機に供給して、270℃にて溶融混練した。索状溶融物を水冷してペレタイザーによりペレット化してマスターバッチを得た。
ここで得られたマスターバッチ中の銀含有量をアメテック製ICP発光分析装置CIROS CCDを用いて測定したところ、2.5質量%であった。
【0047】
〔実施例1〕
銀含有のリン酸ジルコニウム化合物を含むマスターバッチ(以下、抗ウイルスMBと称する)と、PET樹脂(KBセーレン製)を紡糸原料として、エクストルーダ型単独紡糸機を用いて温度290℃で単独紡糸を行った。
繊維中の銀濃度が0.25質量%になるようにPET樹脂ペレットと抗ウイルスMBペレットを混合したペレットを同時に溶融してから、290℃の温度で単独紡糸用口金より紡出し、冷却後、90℃で2.9倍に熱延伸して、130℃で熱セットし、オイリングしつつ紡速3800m/分で捲取り、84dtex/48fの延伸糸である抗ウイルス繊維を得た。
得られた抗ウイルス繊維中の銀含有量をアメテック製ICP発光分析装置CIROS CCDを用いて測定したところ、0.25質量%であった。
得られた抗ウイルス繊維を筒編試験機(英光産業株式会社製CR-B、24ゲージ)にて幅8cmの筒編地を作製した。得られた筒編地を70℃で精練後、ボーケン品質評価機構にてネコカリシウイルスを用いJIS L 1922(繊維製品の抗ウイルス性試験方法)に準拠した方法で抗ウイルス活性値を算出すると、3.5であった。
【0048】
〔実施例2〕
抗ウイルス繊維中の銀含有量を0.50質量%とする以外は、実施例1と同様に抗ウイルス繊維を得た。
得られた抗ウイルス繊維で作製した筒編地の抗ウイルス活性値は、4.2であった。
【0049】
〔実施例3〕
抗ウイルス繊維中の銀含有量を1.00質量%とする以外は、実施例1と同様に抗ウイルス繊維を得た。
得られた抗ウイルス繊維で作製した筒編地の抗ウイルス活性値は、4.2であった。
【0050】
〔実施例4〕
抗ウイルス繊維中の銀含有量と1.20質量%とすること以外は、実施例1と同様に抗ウイルス繊維を得た。
得られた抗ウイルス繊維で作製した筒編地の抗ウイルス活性値は、4.2であった。
【0051】
〔実施例5〕
抗ウイルス剤として、銀含有のリン酸ジルコニウム化合物(東亜合成製、グレード:AG300、剤中銀濃度:4質量%)を用い、抗ウイルス繊維中の銀含有量を0.20質量%とする以外は、実施例1と同様に抗ウイルス繊維を得た。
得られた抗ウイルス繊維で作製した筒編地の抗ウイルス活性値は、3.3であった。
【0052】
〔実施例6〕
抗ウイルス剤として、銀含有のリン酸ジルコニウム化合物(東亜合成製、グレード:AG300、剤中銀濃度:4質量%)を用い、抗ウイルス繊維中の銀含有量を0.40質量%とする以外は、実施例1と同様に抗ウイルス繊維を得た。
得られた抗ウイルス繊維で作製した筒編地の抗ウイルス活性値は、3.8であった。
【0053】
〔比較例1〕
抗ウイルス剤として、銀含有のリン酸ジルコニウム化合物(東亜合成製、グレード:IV1000、剤中銀濃度:0.5質量%)を用い、抗ウイルス繊維中の銀含有量を0.03質量%とする以外は、実施例1と同様に抗ウイルス繊維を得た。
抗ウイルス繊維中の銀含有量が少なかったため、得られた抗ウイルス繊維で作製した筒編地の抗ウイルス活性値は、0.6であり、抗ウイルス効果は低かった。
【0054】
〔比較例2〕
抗ウイルス剤として、銀含有のリン酸ジルコニウム化合物(東亜合成製、グレード:IV1000、剤中銀濃度:0.5質量%)を用いたことと、抗ウイルス繊維中の銀含有量が0.05質量%であること以外は、実施例1と同様の抗ウイルス繊維を得た。
抗ウイルス繊維中の銀含有量が少なかったため、得られた抗ウイルス繊維で作製した筒編地の抗ウイルス活性値は、0.9であり、抗ウイルス効果は低かった。
【0055】
〔比較例3〕
抗ウイルス繊維中の銀含有量が0.10質量%であること以外は、実施例1と同様の抗ウイルス繊維を得た。
抗ウイルス繊維中の銀含有量が少なかったため、得られた抗ウイルス繊維で作製した筒編地の抗ウイルス活性値は、1.2であり、抗ウイルス効果は低かった。
【0056】
〔比較例4〕
抗ウイルス繊維中の銀含有量が1.50質量%であること以外は、実施例1と同様の抗ウイルス繊維を得た。
抗ウイルス繊維中の銀含有量が多すぎたため、糸質物性が低く糸切れが多発し長期間での紡糸は困難であった。得られた抗ウイルス繊維で作製した筒編地の抗ウイルス活性値は、4.3であった。
【0057】
【表1】
【0058】
上述の結果から、実施例1~6から得られた抗ウイルス繊維は、操業性、糸質物性が良好で、抗ウイルス性能も良好であった。比較例1と2では、抗ウイルス剤中の銀濃度が低いため、抗ウイルス性能は十分ではなかった。比較例3では繊維中の抗ウイルス剤濃度が低い為、抗ウイルス性能は十分ではなかった。比較例4では、繊維中の抗ウイルス剤濃度が高すぎたため、操業性が不良であった。以上のことから、銀を担持したリン酸ジルコニウムを主成分とする化合物を含有する抗ウイルス繊維において、抗ウイルス繊維中の抗ウイルス剤濃度が2.5質量%以上、15質量%未満であり、抗ウイルス繊維中に含有する銀量が0.20質量%以上、1.50質量%未満であると、操業性、糸質物性、抗ウイルス性能が良好な、抗ウイルス繊維を得ることができることが理解できる。
【0059】
〔実施例7〕
実施例2と同様に得られた抗ウイルス繊維(抗ウイルス繊維中の銀含有量が0.50質量%)と、84dtex/48fのPET単独糸を用いて、抗ウイルス繊維とPET単独糸が30:70(質量%)の比率で、筒編試験機(英光産業株式会社製CR-B、24ゲージ)にて幅8cmの筒編地を作製した。得られた筒編地を70℃で精練した生地と、精練後にJIS L 0217(繊維製品の家庭洗濯試験方法)に準拠した方法で、洗濯10回を実施した生地を準備し、それぞれを、ボーケン品質評価機構にてネコカリシウイルスを用いJIS L 1922(繊維製品の抗ウイルス性試験方法)に準拠した方法で抗ウイルス活性値を算出した。抗ウイルス活性値は、精練後の生地が3.3、洗濯10回後の生地が3.1であった。
【0060】
〔実施例8〕
生地中の抗ウイルス繊維の比率が60質量%であること以外は、実施例7と同様に、抗ウイルス活性値を算出した。抗ウイルス活性値は、精練後生地で4.0、洗濯10回後で3.7であった。
【0061】
〔実施例9〕
生地中の抗ウイルス繊維の比率が100質量%であること以外は、実施例7と同様に、抗ウイルス活性値を算出した。抗ウイルス活性値は、精練後の生地が4.2、洗濯10回後の生地が4.0であった。
【0062】
〔実施例10〕
抗ウイルス繊維として、抗ウイルス繊維中の銀濃度が1.0質量%である実施例3の繊維を用いる以外は、実施例7と同様に、抗ウイルス活性値を算出した。抗ウイルス活性値は、精練後の生地が4.2、洗濯10回後の生地が3.9であった。
【0063】
〔実施例11〕
抗ウイルス繊維として、抗ウイルス繊維中の銀濃度が1.0質量%である実施例3の繊維を用いる以外は、実施例8と同様に、抗ウイルス活性値を算出した。抗ウイルス活性値は、精練後の生地が4.2、洗濯10回後の生地が4.0であった。
【0064】
〔実施例12〕
抗ウイルス繊維として、抗ウイルス繊維中の銀濃度が1.0質量%である実施例3の繊維を用いる以外は、実施例9と同様に、抗ウイルス活性値を算出した。抗ウイルス活性値は、精練後の生地が4.3、洗濯10回後の生地が4.1であった。
【0065】
〔比較例5〕
生地中の抗ウイルス繊維の比率を10質量%とする以外は、実施例7と同様に、抗ウイルス活性値を算出した。抗ウイルス活性値は、精練後の生地が2.1、洗濯10回後の生地が1.7であった。生地中の抗ウイルス繊維の比率が低かったため、抗ウイルス性能は十分ではなかった。
【0066】
〔比較例6〕
抗ウイルス繊維として、抗ウイルス繊維中の銀濃度が1.0質量%である実施例3の繊維を用いる以外は、比較例5と同様に、抗ウイルス活性値を算出した。抗ウイルス活性値は、精練後の生地が2.9、洗濯10回後の生地が2.6であった。生地中の抗ウイルス繊維の比率が低かったため、抗ウイルス性能は十分ではなかった。
【0067】
【表2】
【0068】
上述の結果から、実施例7~12から得られた生地の抗ウイルス性能は良好であった。比較例5と6では、生地中の抗ウイルス繊維の比率が低いため、抗ウイルス性能は十分ではなかった。以上のことから、銀を担持したリン酸ジルコニウムを主成分とする化合物を含有する抗ウイルス繊維を含む生地において、生地中の抗ウイルス繊維の比率が30質量%以上、100質量%以下である場合は、抗ウイルス性能が良好な生地となることが理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の抗ウイルス繊維および抗ウイルス生地は、抗ウイルス性能に優れているため、シャワ-カ-テン、布団綿、エアコンフィルタ-、パンティストッキング、靴下、おしぼり、シ-ツ、布団カバー、枕、手袋、エプロン、カ-テン、オムツ、包帯、マスク、スポ-ツウェア等の繊維製品、ならびに車両内装材等の使用に好適なものである。