(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052462
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】目地様模様形成用積層体、およびそれを用いた目地様模様を有する塗工部材の作製方法
(51)【国際特許分類】
E04F 13/02 20060101AFI20240404BHJP
【FI】
E04F13/02 F
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193037
(22)【出願日】2022-12-01
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-09-26
(31)【優先権主張番号】P 2022158182
(32)【優先日】2022-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】598160889
【氏名又は名称】アシュフォードジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(74)【代理人】
【識別番号】100150326
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 知久
(72)【発明者】
【氏名】小川 久
(72)【発明者】
【氏名】小林 研二朗
(57)【要約】
【課題】 カルシウム系無機質部材などの種々の塗工用部材に対して、間隙の発生を低減した状態で任意の目地様模様を形成することのできる、目地様模様形成用積層体、およびそれを用いた目地様模様を有する塗工部材の作製方法を提供すること。
【解決手段】 本発明の積層体は、第1粘着層と該第1粘着層上に配置された第1の繊維製基材層とを含む第1積層部と、第2粘着層と第2粘着層上に配置された第2の繊維製基材層とを含む第2積層部とを備える。ここで、第2積層部の第2粘着層は、第1積層部の第1基材層上に配置されており、第2積層部を第1積層部から剥離可能である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
目地様模様形成用積層体であって、
第1粘着層と該第1粘着層上に配置された第1の繊維製基材層とを含む第1積層部と、第2粘着層と第2粘着層上に配置された第2の繊維製基材層とを含む第2積層部とを備え、
該第2積層部の該第2粘着層が、該第1積層部の該第1の繊維製基材層上に配置されており、該第2積層部を該第1積層部から剥離可能である、積層体。
【請求項2】
前記第1の繊維製基材層および前記第2の繊維製基材層がそれぞれ独立して、繊維性材料の絡合体から構成されている、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記繊維性材料が、パルプ繊維、綿繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アセテート繊維およびプロミックス繊維からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項2に記載の積層体。
【請求項4】
前記繊維性材料の絡合体が、紙および不織布からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の積層体。
【請求項5】
前記第2粘着層が弱粘着性接着剤層で構成されている、請求項1に記載の積層体。
【請求項6】
目地様模様を有する塗工部材の作製方法であって、
(a)塗工用部材に請求項1から5のいずれかに記載の積層体を配置する工程、
(b)該塗工用部材の該積層体の配置面側に塗膜を形成する工程、および
(c)該塗膜から該積層体の該第2積層部を分離する工程、
を含む、方法。
【請求項7】
前記(c)の工程の後、前記塗膜にクリア塗料を付与する工程を含む、請求項6に記載の塗工部材の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目地様模様形成用積層体、およびそれを用いた目地様模様を有する塗工部材の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート、セメント、石膏、石材などのカルシウム系無機質部材を建築物等の所定の位置に取り付ける際、互いに隣接する部材の間には、1つまたはそれ以上の直線状の目地が設けられることがある。目地は、部材間の隣接部分の目隠しとして機能するとともに配置された部材平面に新たな意匠性を付与できるという役割を果たす。このような部材はまた、所定の塗料により塗膜が設けられる場合もある。
【0003】
しかし、一般にこうした部材(以下、塗工用部材ということがある)上に塗膜を設けつつ所定の目地を設けるには煩雑な作業が必要とされている。例えば、目地部分を避けながら塗膜を形成し、目地部分にはコーキング材などの別材料の配置が求められるからである。
【0004】
これに対し、下面に強粘着層を備えた合成樹脂フィルムの表面にマスキングテープを一体に貼り合わせた目地テープが提案されている(特許文献1)。特許文献1の目地テープは、塗膜の形成を目的とする塗工用部材上に強粘着層を配置するように貼着され、その後周囲に塗料を吹き付け、その後マスキングテープを剥離除去することにより、形成された塗膜表面の一部に合成樹脂フィルムの目地部を目地模様として現出させるものである。
【0005】
しかし、当該目地テープでは、塗工用部材がコンクリートのようなカルシウム系無機質部材である場合、塗工用部材の表面の微細な凹凸によって塗工用部材と合成樹脂フィルムとの間に所望でない間隙が「浮き」となって形成され、両者の接着が不十分となることがあった。こうした「浮き」は、経年劣化による目地模様を構成する合成樹脂フィルムの剥離や外観の低下を引き起こすことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、カルシウム系無機質部材などの種々の塗工用部材に対して、間隙の発生を低減した状態で任意の目地様模様を形成することのできる、目地様模様形成用積層体、およびそれを用いた目地様模様を有する塗工部材の作製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、目地様模様形成用積層体であって、
第1粘着層と該第1粘着層上に配置された第1の繊維製基材層とを含む第1積層部と、第2粘着層と第2粘着層上に配置された第2の繊維製基材層とを含む第2積層部とを備え、
該第2積層部の該第2粘着層が、該第1積層部の該第1の繊維製基材層上に配置されており、該第2積層部を該第1積層部から剥離可能である、積層体である。
【0009】
1つの実施形態では、上記第1の繊維製基材層および上記第2の繊維製基材層はそれぞれ独立して、繊維性材料の絡合体から構成されている。
【0010】
さらなる実施形態では、上記繊維性材料は、パルプ繊維、綿繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アセテート繊維およびプロミックス繊維からなる群から選択される少なくとも1種である。
【0011】
1つの実施形態では、上記繊維性材料の絡合体は、紙および不織布からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0012】
1つの実施形態では、上記第2粘着層は弱粘着性接着剤層で構成されている。
【0013】
本発明はまた、目地様模様を有する塗工部材の作製方法であって、
(a)塗工用部材に上記積層体を配置する工程、
(b)該塗工用部材の該積層体の配置面側に塗膜を形成する工程、および
(c)該塗膜から該積層体の該第2積層部を分離する工程、
を含む、方法である。
【0014】
1つの実施形態では、上記(c)の工程の後、上記塗膜にクリア塗料を付与する工程を含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、カルシウム系無機質部材などの種々の塗工用部材に対して所望の目地様模様を簡便に形成することができる。その際、目地様模様と塗工用部材との間に所望でない間隙が形成されることが低減される一方で、直線状に加え曲線状の目地様模様も形成できる。本発明では、目地様模様の形成のためのカッター入れ(溝切り)や、コーキング材の配置および乾燥を特に必要とせず、コーキング材を使用する場合と比較して施工時間を大幅に短縮することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の目地様模様形成用積層体の一例を説明するための図であって、(a)はロール状の形態を有する本発明の積層体を模式図であって、(b)は(a)にてLで示される部分の断面図である。
【
図2】第1積層部上の第2積層部の端部にタグが設けられた本発明の目地様模様形成用積層体の他の例を説明するための断面図である。
【
図3】本発明の目地様模様形成用積層体を用いて目地様模様を有する塗工部材を作製する手順を説明するための図である。
【
図4】本発明の目地様模様形成用積層体を用いて目地様模様を有する塗工部材を作製する手順を説明するための図であって、
図3の(a)~(d)に対応する断面図である。
【
図5】本発明の目地様模様形成用積層体を用いて作製された塗工部材を用いて現れる目地様模様の一例を説明するための図である。
【
図6】(a)は実施例で作製した直線状の目地様模様を有する塗工部材の写真であり、(b)は(a)の目地様模様の一部を拡大した写真である。
【
図7】実施例で作製した曲線状の目地模様を有する塗工部材の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳述する。
【0018】
(目地様模様形成用積層体)
図1は、本発明の目地様模様形成用積層体の一例を説明するための図である。
【0019】
ここで、本明細書に用いられる用語「目地様模様」とは、2つの部材を隣接して配置した際にその間に形成されている直線状、曲線状またはそれらの組み合わせでなる継ぎ目(いわゆる目地);1つの部材の表面または連続して配置された複数の部材の表面に亘って形成されている直線状、曲線状またはそれらの組み合わせでなる目地に擬態した模様(いわゆる目地模様);および1つの部材の表面または連続して配置された複数の部材の表面に亘って形成されている文字、図形、またはその他任意の幾何学的形状の輪郭に沿って、当該部材の表面にて凹凸または段差を生じるように高低差が設けられた模様(いわゆる、凹凸模様または段差模様);ならびにそれらの組み合わせ;を包含していう。
【0020】
図1の(a)に示すように本発明の目地様模様形成用積層体100は、例えば、略一定の幅を有する長尺のテープの形態を有する。本発明の目地様模様形成用積層体100は例えばこれを長さ方向に沿って巻回して構成されている。目地様模様形成用積層体100の幅Wは、後述の作製される塗工部材に形成される目地様模様の幅に相当する長さであり、例えば0.5mm~30mm、好ましくは1mm~10mmである。
【0021】
図1の(b)は、
図1の(a)にてLで示される部分の断面図である。
【0022】
本発明の目地様模様形成用積層体100は、第1積層部110および第2積層部120を備える。
【0023】
第1積層部110は第1粘着層112および第1の繊維製基材層114を含む。第2積層部120は第2粘着層122および第2の繊維製基材層124を含む。
【0024】
第1粘着層112は後述する塗工用部材に対して接着可能な粘着性接着剤で構成される層であり、当該塗工用部材に対して強粘着性または弱粘着性のいずれの性質を有するものであってもよい。
【0025】
第1粘着層112を構成し得る接着剤としては、特に限定されないが、例えば合成系接着剤、天然系接着剤およびそれらの組み合わせが挙げられる。合成系接着剤の具体的な例としては、アクリル樹脂系接着剤、α-オレフィン系接着剤、ウレタン樹脂系接着剤、ウレタン樹脂系接着剤、エチレン-酢酸ビニル樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、塩化ビニル系接着剤、酢酸ビニル樹脂系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、シリコーン系接着剤、ニトロセルロース系接着剤、フェノール樹脂系接着剤、ポリイミド系接着剤、ポリスチレン系接着剤、ポリビニルアルコール系接着剤、ポリビニルピロリドン樹脂系接着剤、ポリビニルブチラール樹脂系接着剤、メラミン樹脂系接着剤、ユリア樹脂系接着剤、レゾルシノール系接着剤、およびゴム系接着剤(例えば、クロロプレンゴム系接着剤、スチレン-ブタジエンゴム系接着剤、およびニトリルゴム系接着剤)、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。天然接着剤の具体的な例としては、カゼイン接着剤、ゴム系接着剤(例えば、天然ゴム系接着剤および天然ゴムラテックス接着剤)、デンプン接着剤、膠、および松脂、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0026】
これに対し、第2粘着層122は、第1積層部110から剥離可能な粘着性接着剤で構成される層であり、好ましくは第1積層部110の第1の繊維製基材層114に対して弱粘着性の性質を有するもの(すなわち、弱粘着性接着剤層)で構成されている。
【0027】
第2粘着層122を構成し得る接着剤としては、特に限定されないが、例えば、アクリル系接着剤、ゴム系接着剤(例えば、クロロプレンゴム系接着剤、スチレン-ブタジエンゴム系接着剤、ニトリルゴム系接着剤、天然ゴム系接着剤および天然ゴムラテックス接着剤)、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0028】
第1の繊維製基材層114および第2の繊維製基材層124は、1つまたはそれ以上の種類の繊維性材料を含む層であり、長さ方向、幅方向および厚さ方向のいずれにおいても適度な柔軟性および伸縮性を有する。
【0029】
第1の繊維製基材層114および第2の繊維製基材層124が繊維性材料を含むことにより、例えば凹凸を有する塗工用部材に積層した際に、塗工用部材表面の凹凸を各基材層の裏面側(すなわち、第1の繊維製基材層114では第1粘着層112が設けられた側、第2の繊維製基材層124では第2粘着層122が設けられた側)で吸収し、その反対側となる表面側に当該凹凸が現出され難くすることができる。本明細書において、このような各繊維製基材層の表面側に凹凸が現出され難い性質を「凹凸吸収性を有する」ともいう。特に、第1の繊維製基材層114を、このような凹凸を有する塗工用部材に積層した際には、当該凹凸吸収性によって、第1の繊維製基材層114の表面側では当該凹凸が現出され難くなる。また、その裏面側では間隙の形成が防止または低減され、その結果、塗工用部材と第1の繊維製基材層114(および第1粘着層112)との間での接着不良を防止することができる。
【0030】
さらに第1の繊維製基材層114および第2の繊維製基材層124が繊維性材料を含むことにより、これら基材層114,124は、例えば任意の方向に幾分湾曲したとしても、その繊維性材料が当該湾曲にかかる応力を吸収し、各基材層の表面での皺の形成を防止または低減することができる。本明細書において、このような各繊維製基材層が応力を吸収して、皺の形成を防止または低減する性質を「応力吸収性を有する」という。
【0031】
本発明において、第1の繊維製基材114および第2の繊維製基材層124が上記凹凸吸収性と応力吸収性との両方を有することにより、それらを含む本発明の積層体は、塗工用部材上に目地様模様を配置する際に所望でない間隙の形成を防止または低減することができ、直線状に加え曲線状の目地様模様も形成できる。このような第1の繊維製基材層114および第2の繊維製基材層124は、互いに同一のものであってもよく、異なるものであってもよい。
【0032】
第1の繊維製基材層114および第2の繊維製基材層124はそれぞれ独立して、例えば、繊維性材料の絡合体から構成されている。繊維性材料の絡合体は、繊維性材料が互いに絡み合った状態で所定の厚みを有する繊維性材料の集合体であり、例えば抄紙やニードルパンチのような方法を通じて得られたものである。繊維性材料の絡合体は単層で構成されるものであってもよく、複数層(積層体)で構成されるものであってもよい。繊維性材料の絡合体の例としては、紙(例えば、和紙、クリープ紙)、不織布、およびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0033】
絡合体を構成し得る繊維性材料の例としては、パルプ繊維、綿繊維、麻繊維などの植物繊維;ウール、カシミヤ、シルクなどの動物繊維;レーヨンなどの再生繊維;ガラス繊維、炭素繊維、岩石繊維、スラッグ繊維、金属繊維などの無機繊維;ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アセテート繊維、プロミックス繊維、ポリウレタン繊維、アラミド繊維、アクリル繊維、ポリビニルアルコール繊維などの合成繊維;ならびにそれらの組み合わせ;が挙げられる。比較的入手が容易であり、かつ
図1に示すような長尺のテープの形態に容易に加工することができるとの理由から、繊維性材料は、パルプ繊維、綿繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アセテート繊維、およびプロミックス繊維、ならびにそれらの組み合わせであることが好ましい。
【0034】
第1の繊維製基材層114および第2の繊維製基材層124の表面には、必要に応じて別途シリコーン樹脂やフッ素樹脂などの撥水性を有する被膜が配置されていてもよい。さらに、最終的に剥離により破棄されかつマスキングの性能にも優れているとの理由から、第2の繊維製基材層124は紙で構成されていてもよい。他方、第1の繊維製基材層114は目地様模様の表面を構成する部分となることから、意匠性が良好であるものを選択することが好ましい。
【0035】
第1積層部110および第2積層部120はそれぞれ独立して、第1粘着層112と第1の繊維製基材層114との間、および第2粘着層122と第2の繊維製基材層124との間には図示しない他の中間層を含んでいてもよい。中間層は、上記第1の繊維製基材層114および第2の繊維製基材層124が有する凹凸吸収性および応力吸収性を著しく損なわない材料、例えば、紙、布、金属メッシュなどの材料で構成されている。中間層は、上記第1の繊維製基材層114および/または第2の繊維製基材層124を構成する材料と同一の材料で構成されていてもよく、異なる材料で構成されていてもよい。
【0036】
なお、本発明の積層体100において、第1積層部110および第2積層部120はいずれも市販の繊維製マスキングテープ類であってもよい。特に本発明においては、第1積層部110からの剥離を容易に行うことができるという理由から、第2積層部120は繊維製マスキングテープ類であることが好ましい。
【0037】
繊維製マスキングテープ類は、形態の観点から言えば、例えば、細長いテープ状のもの(いわゆる、マスキングテープ)、ならびに文字、記号、その他幾何学的形状からなるシール状またはラベル状のもの、ならびにそれらの組み合わせが包含される。
【0038】
なお、繊維製マスキングテープ類はまた、
図2に示すように、例えば、繊維製マスキングシールやラベルの形態を有する目地様模様形成用積層体100’として構成される場合、第1積層部110’上に配置された第2積層部120’の端部にタグ121’が設けられていてもよい(ここで、
図2では、第1積層部110’が第1粘着層および第1の繊維製基材層を有する点、ならびに第2積層部120’が第2粘着層および第2の繊維製基材層を有する点が簡略化して表されている点に留意すべきである)。タグ121’は、例えば、第2積層部120’の一部が折り返された形態を有し、第2積層部120’上の突起物として指で容易につまむことができる。その結果、第1積層部110’からの第2の積層部120’の剥離が一層容易になる。
【0039】
本発明において、繊維製マスキングテープ類は、例えば塗装用の繊維製マスキングテープ類および装飾用の繊維製マスキングテープ類のいずれであってもよい。
【0040】
塗装用マスキングテープ類には、塗装やシーリング作業に用いられる繊維製マスキングテープが挙げられ、養生テープとも呼ばれる。塗装用の繊維製マスキングテープ類には、例えば基材層に和紙を使用し、粘着層にゴム系接着剤やアクリル系接着剤を使用したものがある。
【0041】
装飾用の繊維製マスキングテープ類には、様々な模様や色彩を印刷し、従来のマスキングとは異なる目的で使用される装飾目的の繊維製テープ、シールおよびラベルが挙げられる。装飾用の繊維製マスキングテープ類には、例えば基材層に和紙を使用し、粘着層にゴム系接着剤やアクリル系接着剤を使用したものがある。
【0042】
再び
図1の(b)を参照すると、本発明においては、第1積層部110および第2積層部120として、塗装用の繊維製マスキングテープ類および装飾用の繊維製マスキングテープ類のいずれをも使用することができる。
【0043】
例えば、繊維製マスキングテープ類として繊維製マスキングテープを使用する場合について説明すると、本発明では、第1積層部110として装飾用の繊維製マスキングテープを使用し、その上に第2積層部120として塗装用の繊維製マスキングテープを配置してもよい。あるいは、第1積層部110として塗装用の繊維製マスキングテープを使用し、その上に第2積層部120として塗装用の繊維製マスキングテープを配置してもよい。
【0044】
例えば、繊維製マスキングテープ類として繊維製のマスキングシールまたはラベルを使用する場合について説明すると、本発明では、第1積層部110として装飾用または塗装用の繊維製マスキングシールまたはラベルを使用し、その上に第2積層部120として第1積層部110と同一の装飾用または塗装用の繊維製マスキングシールまたはラベルを配置してもよい。使用する装飾用または塗装用の繊維製マスキングシールまたはラベルを第1積層部110および第2積層部120の両方について同一にすることにより、繊維製マスキングシールまたはラベルの形状が複雑であっても、同該形状に伴った目地様模様を塗工部材に形成することができる。
【0045】
本発明の目地様模様形成用積層体は、第1積層部および第2積層部が予め積層された状態で製造されたものであってもよく、あるいは後述の塗工部材を作製する前に、市販の繊維製マスキングテープ類を用いて作製したものであってもよい。
【0046】
(目地様模様を有する塗工部材の作製方法)
次に、本発明の目地様模様を有する塗工部材の作製方法について説明する。なお、以下では
図1に示す目地様模様形成用積層体100を使用する場合について
図3および
図4を用いて説明する。
【0047】
本発明においては、まず
図3の(a)に示すように塗工用部材210に上記積層体100が配置される。
【0048】
塗工用部材は、目地様模様の形成が所望される部材であり、例えば板状、柱状、円盤状、その他の立体的形状のいずれであってもよい。塗工用部材の例としては、コンクリート、セメント、石膏、石材、人工スレート(単にスレートと呼ぶことがある)などのカルシウム系無機質部材;タイル、ブロック、石膏または木質ボード、床材(例えば木製、石材製、合成樹脂製のいずれをも包含する)、ガラス板、合成樹脂板(例えば、ポリエチレン製、ポリプロピレン製、ポリ塩化ビニル製、ポリスチレン製、ABS(アクリトニトリル・ブタジエン・スチレン)樹脂製のいずれをも包含する)、木製または金属製の柱類、門扉、外壁材、内壁材などの建築用の外装材および内装材;自動車、列車、船舶、航空機などの乗物用の外装材および内装材;冷蔵庫、洗濯機、テレビ、電子レンジなどの家庭用電化製品の筐体;滑り台、ジャングルジムなどの遊具;自動車おもちゃ、ミニハウスおもちゃ(例えばドールハウス)などの玩具;などが挙げられる。塗工用部材には、シーラーやフィラーなどのプライマー、錆止め剤、その他の当業者に公知の下塗り塗料が予め付与されていてもよい。
【0049】
塗工用部材210への積層体100の配置は、積層体100を構成する第1積層部110の第1粘着層側を塗工用部材210と合わせることにより行われる。例えば塗工用部材210が平板状のタイルである場合、積層体100は、塗工用部材210の平面212から突出した状態で配置される(
図4の(a))。
【0050】
次いで、
図3の(b)に示すように、塗工用部材210の積素体100の配置面側に塗膜220が形成される。
【0051】
塗膜220は、例えば塗工用部材210に配置した積層体100と略同じ高さとなるように設けられてもよい(
図4の(b))が、本発明における塗膜の配置はこれに限定されない。例えば、塗膜の表面が積層体の表面よりも低くなるように配置されてもよく、あるいは塗膜の表面が積層体の表面よりも高くなるように配置されてもよい。
【0052】
このような塗膜220を形成し得る塗料の種類は特に限定されないが、厚塗りまたは適度な膜厚を形成し得る塗料であることが好ましい。このような厚塗りまたは適度な膜厚を形成し得る塗料の例としては、アクリル系塗料、スチレン-アクリル系塗料、ウレタン系塗料、エポキシ系塗料、およびホビー用塗料(例えば、ラッカーやエナメル塗料)、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。例えば、カルシウム系無機質部材への塗膜形成に有用な、特開2011-084439号公報に記載の表面改質用組成物が塗料として用いられてもよい。
【0053】
その後、
図3の(c)に示すように、塗膜220から積層体100の第2積層部120が分離される。
【0054】
具体的には、塗膜220が形成された後、積層体100の第1積層部110を塗工用部材210に配置した状態で、第2積層部120のみがゆっくりと剥離される。
【0055】
例えば、
図4の(b)のように塗膜220が積層体100の第2積層部120の最上面と略同じ高さとなるように形成された場合、この第2積層部120の剥離によって、塗工用部材210上に残った第1積層部110の最上面と塗膜220の最上面とは、剥離した第2積層部120の厚みに相当する高さの相違が生じる。また、第1積層部110の最上面には、当該第1積層部110を構成する第1基材層114が現われる。
【0056】
これにより、塗工用部材210の表面には、塗膜220と、剥離した第2積層部120の厚みに相当する深さの目地224が形成され(
図4の(c))、当該目地224が模様(目地様模様)となって
図3の(d)に示すように塗工用部材210の表面に現われる。
【0057】
その後、塗膜220および目地224には、所望の光沢を提供しかつ表面保護の目的で必要に応じて当業者に公知のクリア塗料が付与され、クリアコート層230が付与されてもよい(
図4の(d))。
【0058】
このようにして、目地様模様を有する塗工部材200を作製することができる。
【0059】
上記のようにして作製された目地様模様を有する塗工部材200は、例えば
図5に示すように、その表面に現れた目地224を利用して複数配置される。
【0060】
本発明の方法では、カッター入れ(溝切り)やコーキング材のような目地形成のための特別な作業および/または材料を使用することなく簡単に塗膜上に目地様模様を形成することができる。
【0061】
なお、上記
図3および
図4では、目地様模様形成用積層体としてテープ状の積層体を直線状に配置して用いる場合について説明したが、本発明は当該実施形態にのみ限定されない。
【0062】
本発明の目地様模様形成用積層体は、上記凹凸吸収性および応力吸収性を有する第1の繊維製基材層および第2の繊維製基材層を有していることにより、例えば、テープ状の積層体を曲線状に配置して、または直線状と曲線状とを組み合わせて配置して使用されてもよい。この場合、形成された目地様模様には塗工用部材との間の間隙の形成が防止または低減されている。あるいは、例えば、テープ状の目地様模様形成用積層体に代えて、第1積層部および第2積層部として、文字や記号、その他の任意の幾何学的形状を有する繊維製マスキングシールまたはラベルの積層体を用いた場合、上記塗工用部材上には、この繊維製マスキングシールまたはラベルの形状(例えば輪郭)に対応する目地様模様(いわゆる、凹凸模様または段差模様)も簡単に作成することができる。さらに第1積層部の第1基材層として装飾用の繊維製マスキングシールまたはラベルを使用した場合には、当該第1基材層の装飾用の繊維製マスキングシールまたはラベルに施された色彩や図形、模様が、当該目地様模様の一部を構成するものとして表面に現れることも可能である。
【実施例0063】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0064】
(実施例1:目地様模様形成用積層体(E1)の作製)
表面(基材層)が紙製の模型作製用のマスキングテープ(株式会社タミヤ製ITEM87033;テープ幅6mm)をおよそ25cmの長さに2本切り出し、切り出した1本のマスキングテープ(以下「テープA」という)の基材層上に、切り出した他方のマスキングテープ(以下「テープB」という)の粘着層が配置されるように、重ね合わせることにより、試験用の目地様模様形成用積層体(E1)を得た。当該試験用の目地様模様形成用積層体(E1)を合計2本準備した。
【0065】
なお、作製した試験用の目地様模様形成用積層体(E1)は、外側にはテープAの粘着層とテープBの基材層が現われる構成を有していた。
【0066】
(実施例2:目地様模様を有する塗工部材(TE1)の作製)
20cm×20cmの正方形のコンクリートタイルの上面に、実施例1で作製した試験用の目地様模様形成用積層体(E1)2本を十字状に交差させて貼り付けた。なお、この交差によって目地様模様形成用積層体(E1)が重なる部分については、予めカッターナイフで切断し、下段の目地様模様形成用積層体(E1)のみを残存させた。
【0067】
次いで、このタイルの目地様模様形成用積層体(E1)を配置した面に、カルシウム系無機質部材用塗料(アシュフォードジャパン株式会社製「ペイントクリート彩」を刷毛塗り3回にて塗布し、25℃の室温下で十分乾燥させることにより、コンクリートタイル上に約0.5mmの厚みを有する塗膜を形成した。コンクリートタイル上でこの塗膜と目地様模様形成用積層体(E1)との高さは目視で略同様であることを確認した。
【0068】
その後、コンクリートタイル上の目地様模様形成用積層体(E1)から、下方に配置されたテープAを残したまま、上方に配置されたテープBをゆっくりと剥離した。テープBをすべて剥離した後、コンクリートタイルの塗膜形成面を目視観察したところ、テープBを剥離した部分では、表面にテープAが現われておりかつ剥離したテープBの厚みに相当する深さが周囲の塗膜よりも下がった状態で目地が形成されていることを確認した。
【0069】
さらに、このコンクリートタイルの塗膜形成面(テープAが現われた部分を含む)の全体にクリア塗料(アシュフォードジャパン株式会社製「アクアカラー・マットコート」を刷毛塗り1回にて塗布し、25℃の室温下で十分乾燥させることにより、表面に目地様模様が形成された塗工部材(TE1)を得た。
【0070】
この塗工部材(TE1)の表面を写真撮影した。得られた写真を
図6に示す。
【0071】
図6の(a)に示すように、塗工部材(TE1)には、塗膜520および十字模様の目地524が形成されていた。また、
図6の(b)に示すように、目地524が現われた部分の一部を拡大したところ、目地524が模様となって現われた部分は塗膜520よりも窪んでおりかつ略平坦であったことを確認した。
【0072】
(実施例3:目地様模様を有する塗工部材(TE2)の作製)
20cm×20cmの正方形のコンクリートタイルの上面に、実施例1で作製した試験用の目地様模様形成用積層体(E1)2本をそれぞれ湾曲させ、かつ十字状に交差させて貼り付けたこと以外は実施例2と同様にして、表面に目地様模様が形成された塗工部材(TE2)を得た。この塗工部材(TE2)の表面を写真撮影した。得られた写真を
図7に示す。
【0073】
図7に示すように、塗工部材(TE2)には、塗膜620および湾曲した十字模様の目地624が形成されていた。目地624にはコンクリートタイルからの浮きや皺が発生しておらず、むしろコンクリートタイルに強固に接着されていたことを確認した。
本発明の目地様模様形成用積層体は、様々な塗工用部材に塗膜を形成する際に所望の形状で構成される目地様模様を形成することができ、例えば、建築分野、自動車分野、電気分野などの技術分野において有用である。
前記繊維性材料が、パルプ繊維、綿繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アセテート繊維およびプロミックス繊維からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項2に記載の積層体。