(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052483
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】最適配電網導出システム及び最適配電網導出方法
(51)【国際特許分類】
H02J 3/00 20060101AFI20240404BHJP
G06N 10/60 20220101ALI20240404BHJP
【FI】
H02J3/00 170
G06N10/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039181
(22)【出願日】2023-03-14
(31)【優先権主張番号】P 2022157344
(32)【優先日】2022-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】木村 雄喜
(72)【発明者】
【氏名】杉村 修平
(72)【発明者】
【氏名】栗原 世治
(72)【発明者】
【氏名】田邊 隆之
【テーマコード(参考)】
5G066
【Fターム(参考)】
5G066AA03
5G066AE04
5G066AE09
(57)【要約】
【課題】開閉器の開閉状態を最適化し、電力損失を最小に抑える配電網の構成を導出することが可能な最適配電網導出システム及び最適配電網導出方法を提供する。
【解決手段】ネットワーク解析部11は、電力の供給点と需要点との接続関係を表す木構造を抽出する。電力損失条件算出部13は、木構造を用いて電力損失条件を算出する。電圧降下条件算出部15は、木構造を用いて電圧降下条件を算出する。電流容量条件算出部17は、木構造を用いて電流容量条件を算出する。無停電条件算出部19は、木構造を用いて無停電条件を算出する。放射状条件算出部21は、木構造を用いて放射状条件を算出する。次数削減条件算出部23は、5つの制約条件の次数を2次まで削減する次数削減条件を算出する。制約条件統合部25は、6つの制約条件から評価関数を構築する。最適配電網算出部26は、量子コンピュータに評価関数を渡して最適配電網を導出させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子コンピュータを用いて配電網の最適化を行う最適配電網導出システムであって、
配電網データを解析し、電力を供給する供給点と電力を受け取る需要点との間のリンクの接続/非接続を表し、前記配電網に含まれるすべての供給点をルートとした木構造を抽出するネットワーク解析部と、
前記ネットワーク解析部による木構造を用いて、前記リンクの「抵抗値」×「電流値の二乗」を総和することにより、前記配電網内の電力損失条件を算出する電力損失条件算出部と、
前記ネットワーク解析部の木構造を用いて、前記配電網内における前記リンクのいずれもが一定の電圧値を超えないようにするための電圧降下条件を算出する電圧降下条件算出部と、
前記ネットワーク解析部の木構造を用いて、前記配電網内における前記リンクの各々に流れる電流量が一定値以下とするための電流容量条件を算出する電流容量条件算出部と、
前記ネットワーク解析部の木構造を用いて、前記配電網内のどの需要点においても停電が起こらないことを保証する無停電条件を算出する無停電条件算出部と、
前記ネットワーク解析部の木構造を用いて、前記配電網内の2つ以上の供給点から電力を供給されてはいけないという放射状条件を算出する放射状条件算出部と、
前記電力損失条件、前記電圧降下条件、前記電流容量条件、前記無停電条件、及び前記放射状条件に含まれる3次以上の項について2次まで次数削減を行い、それに伴って発生する変数間の関係を規定する次数削減条件を算出する次数削減条件算出部と、
前記電力損失条件、前記電圧降下条件、前記電流容量条件、前記無停電条件、前記放射状条件、及び次数削減条件から最終的に量子コンピュータに渡す評価関数を導出する制約条件統合部と、
前記制約条件統合部により導出された評価関数を前記量子コンピュータに渡して電力損失を最小に抑える最適配電網を導出させる最適配電網算出部と、
を備えることを特徴とする最適配電網導出システム。
【請求項2】
前記最適配電網の導出は、時間毎、季節毎、時期毎に行われる、ことを特徴とする請求項1に記載の最適配電網導出システム。
【請求項3】
前記電力損失条件算出部は、前記供給点をルートとした木構造の下流から上流に向かって累計した電流値に基づいて、有効電流成分と無効電流成分との和として表わされる電力損失条件を算出する、ことを特徴とする請求項1に記載の最適配電網導出システム。
【請求項4】
前記電圧降下条件算出部は、前記供給点をルートとした木構造の下流から上流に向かって累計した電流値を用いて、前記木構造の上流から下流に向かって電圧を累計することによって前記電圧降下条件を算出する、ことを特徴とする請求項1に記載の最適配電網導出システム。
【請求項5】
量子コンピュータを用いて配電系統の最適化を行う最適配電網導出方法であって、
配電網データを解析し、電力を供給する供給点と電力を受け取る需要点との間のリンクの接続/非接続を表し、前記配電網に含まれるすべての供給点をルートとした木構造を抽出すること、
前記木構造を用いて、前記リンクの「抵抗値」×「電流値の二乗」を総和することにより、前記配電網内の電力損失条件を算出すること、
前記木構造を用いて、前記配電網内における前記リンクのいずれもが一定の電圧値を超えないようにするための電圧降下条件を算出すること、
前記木構造を用いて、前記配電網内における前記リンクの各々に流れる電流量が一定値以下とするための電流容量条件を算出すること、
前記木構造を用いて、前記配電網内のどの需要点においても停電が起こらないことを保証する無停電条件を算出すること、
前記木構造を用いて、前記配電網内の2つ以上の供給点から電力を供給されてはいけないという放射状条件を算出すること、
前記電力損失条件、前記電圧降下条件、前記電流容量条件、前記無停電条件、及び前記放射状条件に含まれる3次以上の項について2次まで次数削減を行い、それに伴って発生する変数間の関係を規定する次数削減条件を算出すること、
前記電力損失条件、前記電圧降下条件、前記電流容量条件、前記無停電条件、前記放射状条件、及び次数削減条件から最終的に量子コンピュータに渡す評価関数を導出すること、
前記導出された評価関数を前記量子コンピュータに渡して電力損失を最小に抑える最適配電網を導出させること、
を含むことを特徴とする最適配電網導出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、最適配電網導出システム及び最適配電網導出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、配電網を構築するには、配電線を区分開閉器により複数の区間に分割し、それぞれの区間を隣接する他の区間と開閉器により接続したり切断したりすることで、通過電流の許容値に収めたり、規定された電圧に保持する等の制約条件を満たすように、最適なネットワーク構成となるような組み合わせを求める。
【0003】
特許文献1には、開閉器で区切られた区間をブロック、複数の開閉器の開閉状態を任意の整数a、bとして{a,b}の2値変数で表し、電力損失の評価関数を2値変数を用いて定式化し、アニーリングマシンへ適用して電力損失が少ない開閉器の組み合わせによる供給経路を求める技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、4ブロック以上離れている供給点からは電力を供給しないことを前提としている。しかしながら、実際の配電網を考えた場合、この条件は制約が強すぎるため、ほとんどの配電網には適用することができないという問題がある。
【0006】
また、特許文献1では、
図10に示すように、その内部に複数の供給点を含むブロックB1~B6を1つの単位として、ブロックB1~B6ごとに電気抵抗、電流値が割り当てられることを前提に電力損失を求めている。したがって、ブロック内に含まれる供給点間を結ぶリンクq
12、q
14、q
23、q
25、q
36、q
46、q
56ごとに電気抵抗、電流値が与えられている場合には、特許文献1による技術を適用することができない。例えば、図示のブロックB4内では、電流及び抵抗(I
41,R
41)、(I
42,R
42)、(I
43,R
43)...(I
4k,R
4k)というように、区間1つ1つに与えられるが、電流及び抵抗(I
4,R
4)のようにブロック(連結成分)単位では与えられない。
【0007】
具体的に言うと、電力損失の計算は、供給点から見て末端から累積した電流値を利用するため、電力損失の計算はブロック内での需要点同士の繋がり方(供給点から見てどちらが上流でどちらが下流か)に依存する。ブロック内での供給点同士の関係(どちらが上流でどちらが下流か)は、ブロック間を結ぶ開閉器の開閉状態によって入れ替わってしまうため、単純にブロック内の電気抵抗、電流値のそれぞれ総和だけでは、電力損失を求めることはできないという問題がある。
【0008】
図11は、特許文献1で生じる問題を説明するための概念図である。図示の例では、開閉器C1を閉じている場合(Case1)と開閉器C2を閉じている場合(Case2)とで、上流/下流が入れ替わるため、電力損失計算におけるブロックB2の寄与の仕方が異なる。すなわち、ブロックB2に含まれる電気抵抗、電流値の総和のようなブロック単位で割り当てられた数値を用いることを前提とした場合、電力損失を計算することは不可能である。以上から、ブロック単位で抵抗値、電流値が与えられていることを前提としている技術は適用することができないという問題がある。
【0009】
また、特許文献1では、最大電流条件、最高許容電圧条件として、十分大きなLに対し、L乗の演算を行うとしている。しかしながら、量子アニーリングマシンにより計算を実行するには、2次形式の形で評価関数を定義する必要があり、この場合、次数下げの方法を少なくとも(L-2)回適用する必要がある。次数下げの方法を1回適用するごとに制約項が1つ追加されるため、Lが大きい場合、制約項の数は膨大になり、実質、量子アニーリングを適用して最適解を導出することが困難になるという問題がある。
【0010】
【0011】
但し、ここで、Ii
11、Viは開閉状態0/1を変数とする多項式である。L乗しているため、PcurrentおよびPhighの次数は非常に大きな数値となる。この状態で2次式になるまで次数下げの方法を適用すると制約項が膨大な数に膨れ上がるという問題がある。
また、汎用量子コンピュータ(ゲート方式)においても量子近似最適化アルゴリズム(QAOA:Quantum Approximate Optimization Algorithm)などの組合せ最適化手法が提案されているが、汎用量子コンピュータであっても、評価関数の次元が高い場合、CNOTゲートというビット間を橋渡しするゲートが多数必要になり、CNOTゲートを多く含んだ量子回路はノイズが入り易くなるという問題がある。したがって、量子アニーリングマシン、汎用量子コンピュータいずれにおいても、評価関数の次元が高い場合、最適解の導出は困難になる。
【0012】
そこで本発明は、開閉器の開閉状態を最適化し、電力損失を最小に抑える配電網の構成を導出することが可能な最適配電網導出システム及び最適配電網導出方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明の最適配電網導出システムは、量子コンピュータを用いて配電網の最適化を行う最適配電網導出システムであって、配電網データを解析し、電力を供給する供給点と電力を受け取る需要点との間のリンクの接続/非接続を表し、前記配電網に含まれるすべての供給点をルートとした木構造を抽出するネットワーク解析部と、前記ネットワーク解析部による木構造を用いて、前記リンクの「抵抗値」×「電流値の二乗」を総和することにより、前記配電網内の電力損失条件を算出する電力損失条件算出部と、前記ネットワーク解析部の木構造を用いて、前記配電網内における前記リンクのいずれもが一定の電圧値を超えないようにするための電圧降下条件を算出する電圧降下条件算出部と、前記ネットワーク解析部の木構造を用いて、前記配電網内における前記リンクの各々に流れる電流量が一定値以下とするための電流容量条件を算出する電流容量条件算出部と、前記ネットワーク解析部の木構造を用いて、前記配電網内のどの需要点においても停電が起こらないことを保証する無停電条件を算出する無停電条件算出部と、前記ネットワーク解析部の木構造を用いて、前記配電網内の2つ以上の供給点から電力を供給されてはいけないという放射状条件を算出する放射状条件算出部と、前記電力損失条件、前記電圧降下条件、前記電流容量条件、前記無停電条件、及び前記放射状条件に含まれる3次以上の項について2次まで次数削減を行い、それに伴って発生する変数間の関係を規定する次数削減条件を算出する次数削減条件算出部と、前記電力損失条件、前記電圧降下条件、前記電流容量条件、前記無停電条件、前記放射状条件、及び次数削減条件から最終的に量子コンピュータに渡す評価関数を導出する制約条件統合部と、前記制約条件統合部により導出された評価関数を前記量子コンピュータに渡して電力損失を最小に抑える最適配電網を導出させる最適配電網算出部と、を備えることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の最適配電網導出方法は、量子コンピュータを用いて配電系統の最適化を行う最適配電網導出方法であって、配電網データを解析し、電力を供給する供給点と電力を受け取る需要点との間のリンクの接続/非接続を表し、前記配電網に含まれるすべての供給点をルートとした木構造を抽出すること、前記木構造を用いて、前記リンクの「抵抗値」×「電流値の二乗」を総和することにより、前記配電網内の電力損失条件を算出すること、前記木構造を用いて、前記配電網内における前記リンクのいずれもが一定の電圧値を超えないようにするための電圧降下条件を算出すること、前記木構造を用いて、前記配電網内における前記リンクの各々に流れる電流量が一定値以下とするための電流容量条件を算出すること、前記木構造を用いて、前記配電網内のどの需要点においても停電が起こらないことを保証する無停電条件を算出すること、前記木構造を用いて、前記配電網内の2つ以上の供給点から電力を供給されてはいけないという放射状条件を算出すること、前記電力損失条件、前記電圧降下条件、前記電流容量条件、前記無停電条件、及び前記放射状条件に含まれる3次以上の項について2次まで次数削減を行い、それに伴って発生する変数間の関係を規定する次数削減条件を算出すること、前記電力損失条件、前記電圧降下条件、前記電流容量条件、前記無停電条件、前記放射状条件、及び次数削減条件から最終的に量子コンピュータに渡す評価関数を導出すること、前記導出された評価関数を前記量子コンピュータに渡して電力損失を最小に抑える最適配電網を導出させること、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、開閉器の開閉状態を最適化し、電力損失を最小に抑える配電網の構成を導出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態による最適配電網導出システム1の構成を示すブロック図である。
【
図2】本実施形態による最適配電網導出システム1の動作を説明するためのフローチャートである。
【
図3】本実施形態による最適配電網導出システム1での配電網のネットワーク解析を説明するための概念図である。
【
図4】本実施形態による最適配電網導出システム1での配電網の木構造の抽出方法におけるブロック間の関係のみに着目した場合の木構造を示す概念図である。
【
図5】本実施形態による最適配電網導出システム1での配電網の木構造の抽出方法の説明するための概念図である。
【
図6】本実施形態による最適配電網導出システム1での配電網の木構造の抽出方法の説明するための概念図である。
【
図7】本実施形態による最適配電網導出システム1での配電網全体から抽出した木構造と各ブロック内での木構造との対応関係を示す概念図である。
【
図8】本実施形態による最適配電網導出システム1での電力損失の算出方法を説明するための概念図である。
【
図9】本実施形態による最適配電網導出システム1での次数削減条件の算出で用いる制約項を示す概念図である。
【
図10】従来技術による電力損失を求める手法を説明するための概念図である。
【
図11】従来技術による問題を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
本発明は、量子コンピュータを用いて電力損失を最小化する配電網の導出方法を示すものである。なお、量子コンピュータは先述の通り、アニーリングマシン、汎用量子コンピュータのどちらかを限定するものではない。アニーリングマシンの場合は、量子アニーリングを意味し、汎用量子コンピュータの場合は、量子近似最適化アルゴリズムなどの組合せ最適化アルゴリズムによる導出を意味する。
配電網は、電力を供給する供給点と、送られてきた電力を受け取る需要点から構成される大きなネットワークである。以下、供給点と需要点をまとめてノードと呼び、ノード間を結ぶ辺のことをリンクと呼ぶことにする。リンクには開閉器と呼ばれる「つなぐ」/「つながない」を制御できるリンクがあり、開閉器はネットワーク上に点在している。これら開閉器の開閉状態を最適化し、電力損失を最小に抑えるネットワークの構成を導出することが本発明の目的である。
【0018】
図1は、本発明の実施形態による最適配電網導出システム1の構成を示すブロック図である。最適配電網導出システム1は、配電系統データ蓄積部10、ネットワーク解析部11、ネットワーク解析結果蓄積部12、電力損失条件算出部13、電力損失条件蓄積部14、電圧降下条件算出部15、電圧降下条件蓄積部16、電流容量条件算出部17、電流容量条件蓄積部18、無停電条件算出部19、無停電条件蓄積部20、放射状条件算出部21、放射状条件蓄積部22、次数削減条件算出部23、次数削減条件蓄積部24、制約条件統合部25、及び最適配電網算出部(量子組合せ最適化)26を備えている。
【0019】
配電系統データ蓄積部10は、配電網データ30として、配電網の供給点や需要点を表すノード番号、ノード間を結ぶ各リンクのレジスタンス(電気抵抗)、リアクタンス、電流容量値(有効電流/無効電流)、各リンクの操作可能(開閉可能)のフラグ(操作可能なリンクが開閉器である)、送り出し(供給点(供給源):1、需要点:0)など配電網の情報を蓄積している。ネットワーク解析部11は、配電網データ30に基づいて、供給点をルートとし、配電網内のノードや、ブロック間などの接続関係を表す木構造を抽出する。ネットワーク解析結果蓄積部12は、ネットワーク解析部11により抽出された木構造(解析結果)を蓄積する。
【0020】
電力損失条件算出部13は、ネットワーク解析結果蓄積部12に蓄積された木構造(ネットワーク解析結果)を用いて電力損失条件(条件1)を算出する。電力損失条件蓄積部14は、電力損失条件算出部13によって算出された電力損失条件(条件1)を蓄積する。電圧降下条件算出部15は、ネットワーク解析結果蓄積部12に蓄積された木構造(ネットワーク解析結果)を用いて電圧降下条件(どのリンクも一定の電圧値を超えないための条件;条件2)を算出する。電圧降下条件蓄積部16は、電圧降下条件算出部15によって算出された電圧降下条件(条件2)を蓄積する。
【0021】
電流容量条件算出部17は、ネットワーク解析結果蓄積部12に蓄積された木構造(ネットワーク解析結果)を用いて電流容量条件(各リンクに流れる電流量が一定値以下となる条件;条件3)を算出する。電流容量条件蓄積部18は、電流容量条件算出部17によって算出された電流容量条件(条件3)を蓄積する。無停電条件算出部19は、ネットワーク解析結果蓄積部12に蓄積された木構造(ネットワーク解析結果)を用いて、停電が起こらない(どの需要点も必ず1つ以上の供給点につながっている)ことを保証する無停電条件(条件4)を算出する。無停電条件蓄積部20は、無停電条件算出部19によって算出された無停電条件(条件4)を蓄積する。
【0022】
放射状条件算出部21は、ネットワーク解析結果蓄積部12に蓄積された木構造(ネットワーク解析結果)を用いて、ネットワークにサイクルが発生しない(1つの需要点は2つ以上の辺から供給を受けてはならない)ことを保証する放射状条件(条件5)を算出する。放射状条件蓄積部22は、放射状条件算出部21によって算出された放射状条件(条件5)を蓄積する。
【0023】
次数削減条件算出部23は、各制約条件を蓄積する電力損失条件蓄積部14、電圧降下条件蓄積部16、電流容量条件蓄積部18、無停電条件蓄積部20、放射状条件蓄積部22に蓄積されている、上記5つの制約条件に含まれる、例えば3次以上の項について2次まで次数削減を行い、それに伴って発生する変数間の関係を規定する次数削減条件(条件6)を算出する。以下の説明では、5つの制約条件に含まれる3次以上の項について2次まで次数削減を行い、それに伴って発生する変数間の関係を規定する次数削減条件(条件6)を算出する場合を例に説明する。次数削減条件蓄積部24は、次数削減条件算出部23によって算出された、次数削減に伴って発生した次数削減条件(条件6)を蓄積する。
【0024】
制約条件統合部25は、次数削減条件蓄積部24に蓄積された6つの制約条件(条件1~6)から最終的に量子コンピュータ(不図示)に渡す評価関数を構築する。最適配電網算出部26は、量子コンピュータ(不図示)に評価関数を渡して最適配電網を計算させる。そして、量子コンピュータ(不図示)は、開閉器の開閉状態を最適化し、電力損失を最小に抑える最適配電網40を算出する。
【0025】
量子コンピュータに計算させるためには、評価関数を定義する必要がある。定義した評価関数は、クラウドを経由するなどして量子コンピュータに送られる。量子コンピュータは、受け取った評価関数を最小化するように配電網に含まれる開閉器の開閉状態の組合せを探索し、その結果を返す。
【0026】
ここで評価関数とは、開閉器の状態を変数とした数式である。開閉器の状態は開:0/閉:1のように2値で表され、評価関数自体はこれら開閉状態を変数とする2次の多項式で表される。本発明は、この2次の多項式をいかに構築するのかを示すものである。
【0027】
図2は、本実施形態による最適配電網導出システム1の動作を説明するためのフローチャートである。最適配電網導出システム1は、まず、ネットワーク解析部11は、配電網データ30に基づいて、ネットワークを解析し、供給点をルートとし、配電網内のノードや、ブロック間などの接続関係を表す木構造31を抽出する(ステップS10)。
【0028】
次に、最適配電網導出システム1は、電力損失条件算出部13、電圧降下条件算出部15、電流容量条件算出部17、無停電条件算出部19、及び放射状条件算出部21により、5つの制約条件(電力損失(条件1)、電圧降下条件(条件2)、電流容量条件(条件3)、無停電条件(条件4)、放射状条件(条件5))32を算出する(ステップS12)。
【0029】
すなわち、電力損失条件算出部13は、ネットワーク解析結果(木構造)31を用いて電力損失条件(条件1)を算出する。電圧降下条件算出部15は、ネットワーク解析結果(木構造)31を用いて電圧降下条件(条件2)を算出する。電流容量条件算出部17は、ネットワーク解析結果(木構造)31を用いて電流容量条件(条件3)を算出する。無停電条件算出部19は、ネットワーク解析結果(木構造)31を用いて、どの需要点においても停電が起こらないことを保証する無停電条件(条件4)を算出する。放射状条件算出部21は、ネットワーク解析結果(木構造)31を用いて、ネットワークにサイクルが発生しないことを保証する放射状条件(条件5)を算出する。
【0030】
次に、最適配電網導出システム1は、次数削減条件算出部23により、5つの制約条件(電力損失条件(条件1)、電圧降下条件(条件2)、電流容量条件(条件3)、無停電条件(条件4)、放射状条件(条件5))32に含まれる3次以上の項について2次まで次数削減を行い、それに伴って発生する変数間の関係を規定する制約条件(次数削減条件;条件6)33を算出する(ステップS14)。
【0031】
次に、最適配電網導出システム1は、制約条件統合部25により、5つの制約条件(条件1~5)32及び制約条件(次数削減条件;条件6)33(合計6の制約条件)から最終的に量子コンピュータ(不図示)に渡す評価関数34を導出する(ステップS16)。次に、最適配電網導出システム1は、最適配電網算出部26により、量子コンピュータ(不図示)に評価関数34を渡して最適配電網を計算させ、量子コンピュータ(不図示)により、開閉器の開閉状態を最適化し、電力損失を最小に抑える最適配電網40を導出させる(ステップS18)。
【0032】
なお、上述した最適配電網導出システム1による電力損失を最小に抑える最適配電網40の導出処理は、時間毎、時期毎、季節毎に算出するようにしてもよい。
【0033】
以下、各構成要素の詳細について説明する。
(1)配電網のネットワーク解析
図3は、本実施形態による最適配電網導出システム1での配電網のネットワーク解析を説明するための概念図である。配電網は、供給点および需要点をノードとするネットワークの構造を持つ。配電網上のノード間のリンクは、つなぐことが確定しているリンクと、「つなぐ」/「つながない」を開閉器の開閉により変更可能なリンクがあり、つなぐことが確定しているリンクでつながっているノードの集合は1つのブロックとみなすことができる。
図3に示す場合、B
1~B
6がそのブロックにあたる。またq
14,q
24,q
34,q
15,q
36はブロック間をつなぐ開閉器である。
【0034】
ネットワーク解析処理では、まず、開閉器を辺とし、ブロックを点としたブロック間の繋がりを表すネットワーク構造を抽出する。
図3において、ブロック間の関係のみに着目すると、
図4に示すようになる。どのブロックに供給点が含まれるか、ブロック間がどの開閉器でつながれているか、供給点を含むブロック同士をつなぐ経路、供給点を含まないブロックから供給点を含むブロックまでの経路等を後で参照できるようにする。ブロック間の関係の解析結果は、後に、無停電条件の算出、放射状条件の算出で用いる。
【0035】
(2)木構造の抽出
電力損失の計算では、正確な表現は後述するとして、概略だけ示すと、以下のように「抵抗値」×「電流値の二乗」の総和として計算される。
【0036】
【0037】
ここで、Aは電力の供給点全体の集合、F(a)は供給点aをルートノードとした木構造とする。また、Rlはリンクlの抵抗値、Il[F(a)]は供給点aをルートとした木構造F(a)上において下流のリンクからリンクlまで電流値を累計した値、すなわちIl[F(a)]は以下で与えられることを意味する。
【0038】
【0039】
ここでIlはリンクlに流れる電流値、
【0040】
【0041】
は供給点aをルートとした木構造F(a)においてリンクiがリンクlより下流に位置することを意味するものとする。すなわち、電力損失の計算では、供給点をルートとした木構造の下流から電流値を累計していくことが必要になる。しかしながら、各需要点は、量子組合せ最適化の結果を得るまでは、どの供給点から電力が供給されるのか定まらない(どの供給点をルートとした木構造上で電流値を累計すればいいか定まらない)。このため、予め配電網に含まれるすべての供給点に対して、その供給点をルートとした木構造を抽出しておく必要がある。
図3に示す配電網に対して抽出した木構造を
図5に示す。
【0042】
図3に示す配電網からは、
図5に示すように、F(a
8),F(a
5),F(a
10)の3つの木構造が得られる。ここで注意点として、配電網内の各需要点は「2つ以上の供給点から電力を供給されてはいけない」という放射状条件を満たす必要がある。したがって、各木構造の中に含まれる供給点は、ルートノード1点のみである。すなわち、木構造の抽出結果としては、供給点を含むブロックに辿り着く手前までとなる。例えば、
図5に示す木構造F(a
5)では、ノードa
5が供給点であるが、開閉器q
15,q
36を閉状態にしてブロックB
5,B
6をつなげてしまうと、放射状条件に反するため、木構造F(a
5)にブロックB
5,B
6は含まれない(木構造の抽出結果としては、ブロックB
5の手前のブロックB
1まで、ブロックB
6の手前のブロックB
3までとなる)。F(a
8),F(a
10)についても同様である。
【0043】
■ブロック内のノード間の木構造
後の電力損失の計算のために、各ブロック内のノード間の関係からなる木構造について記号を導入する。ブロック内のノード間の関係を表す木構造は、
図5からも分かる通り、そのブロックがどこから電力を供給されるかによって変化する。例えば、
図5に示すブロックB
4内に注目した場合、F(a
8)ではs
1がルートノードとなっているが、F(a
5)ではs
2が、F(a
10)ではs
3がルートノードになっている。
【0044】
ここで、ブロックB内において供給点もしくは開閉器の端点sをルートとした木構造をT
B(s)と表わすものとする。例えばブロックB
4内での木構造は
図6に示すようになる。
【0045】
図5に示す木構造の抽出結果について、配電網全体から抽出した木構造F(a)と各ブロック内での木構造T
B(s)の対応を整理すると
図7に示すようになる。
図7から分かる通り、配電網全体から抽出した木構造F(a)は、各ブロック内での木構造T
B(s)から構成される。
図7に示す場合、F(a
8)は、
【0046】
【0047】
から構成され、F(a5)は
【0048】
【0049】
から構成され、F(a10)は
【0050】
【0051】
から構成される。
【0052】
(3)電力損失条件の算出
上記ネットワークの解析結果、特に木構造の抽出結果を用いて電力損失条件を算出する。先にも述べたとおり、電力損失は、基本的にはノード間をつなぐリンクの「抵抗値」×「電流値の二乗」の総和で算出され(式1を参照)、その際の電流値には、(式2)に示すように電力供給点をルートとした木構造の下流から上流に向かって累計した値が用いられる。このとき、どの木構造に沿って累計すべきかについては、各ブロックがどこから電力を供給されるかに依存するため、周辺ブロックとの繋がり方(開閉器の開閉状態)により変化する。
【0053】
以下、電力損失の算出方法について説明する。
図8は、本実施形態による最適配電網導出システム1での電力損失の算出方法を説明するための概念図である。
図8には、
図3に示す配電網に対して、各リンクに対する抵抗値、有効電流値、無効電流値の情報を付与したものを示している。
【0054】
【0055】
は(抵抗値、有効電流値、無効電流値)を表わす。電流値は有効/無効の2種類があり、電力損失の計算にはその両方を考慮する必要がある。すなわち、式1をより正確に記述すると、以下のように、電力損失は、有効電流成分と無効電流成分との和として表わされる。
【0056】
【0057】
但し、Il[F(a)],Jl[F(a)]は、それぞれ有効電流、無効電流について木構造F(a)に沿って下流からリンクlまで累計した値である。
ここで、
【0058】
【0059】
と定義すれば、
【0060】
【0061】
と表すことができる。例えば、
図3に示す配電網の場合、供給点は、a
8,a
5,a
10の3点であるので、
【0062】
【0063】
となる。
【0064】
そこで、以下、配電網から抽出した木構造F(a)について、F(a)に沿った電力損失の評価関数P(F(a))を求める方法について説明する。ここでは、特に、
図7に示すブロックの木構造F(a
8)を例にして説明する。
【0065】
配電網の木構造F(a8)に沿って電力損失を計算する場合、ブロックB5内の供給点a8がルートノードになる。これに伴ってブロックB1内ではs7が、ブロックB4内ではs1が、ブロックB3ではs6がルートとなる。すなわち、各ブロック内では、それぞれ、
【0066】
【0067】
に沿って電流値を累計することになる。
【0068】
ここで、次のように記号を導入する。ブロックB内の木構造TB(s)においてノードnより下流について末端から累計した有効電流の値を以下の記号で表すものとする。
【0069】
【0070】
ここで、
【0071】
【0072】
は木構造TB(s)においてノードnから見てリンクlが下流にあることを意味するものとする。無効電流についても同様に、
【0073】
【0074】
と定義する。例えば、
図8に示すブロックB
4において
図6の木構造
【0075】
【0076】
に従って電流値を累計した場合、
【0077】
【0078】
と計算することができる。他にも、例えば、
図6に示す解析結果
【0079】
【0080】
に従って、ブロックB4内の電流値を累計した場合、
【0081】
【0082】
などとなる。さらに、ここで、記号の簡略化のために、
【0083】
【0084】
の引数のノードnが開閉器の端点s自身の場合、木構造を示すTは省略するものとする。すなわち、
【0085】
【0086】
と表すことにする。上記のように各ブロック内の木構造に沿った電流値の累計を定義した上で、それらを用いてブロック間の木構造F(a)に沿った電力損失P(F(a))を計算する。以下、P(F(a8))を例として計算方法を示す。関数P(F(a))は、配電網内の各需要点がブロックB5内の供給点a8から電力を供給される場合を表現した評価関数の部分を表すものである。ブロックB3に属する末端のn9,s9から最終的にブロックB5内の供給点a8に到達するまでの全てのノードnについて、下流からノードnまでの電流値の累計と抵抗値とを用いて損失計算を積み上げていく。そこで、その計算過程が分かるように、特にブロックB4内のリンクで電流値の累計がどのように計算されるのかを以下に説明する。
【0087】
F(a8)は、木構造
【0088】
【0089】
から構成されブロックとしては、B3→B4→B1→B5の順で下流から上流に向かう。したがって、ブロックB4内のリンクs3n3の電流累計値を木構造F(a8)に沿って計算する場合、ブロックB3に含まれるリンクは、すべてリンクs3n3から見て下流になる。そのため、開閉器q34が閉じていれば、ブロックB3全体で累計した電流値を加算する必要があり、開閉器q34が開いていれば、寄与しないことになる。ブロックB3がブロックB4に接続する直前までの電流の累計値は、木構造
【0090】
【0091】
に従ってブロックB3内で累計した電流値
【0092】
【0093】
として表わされるので、リンクs3n3の電流累計値は、
【0094】
【0095】
と表される。但し、ここで、q34はB3とB4の間の開閉器が閉じていれば1、開いている場合は0となる2値変数である。(式1)~(式3)にあるIl[F(a)]の記号を使えば、
【0096】
【0097】
ということになる。同様に、リンクn1n3の電流累計値は、
【0098】
【0099】
となる。さらに、リンクs1n1の電流累計値は、s2からn1にかけての電流値I2+I4も加算されるので、
【0100】
【0101】
と表わされる。この値が有効電流について木構造F(a8)に沿ってブロックB3からブロックB4まで累計した値である。さらに、木構造F(a8)を遡ってブロックB1内のリンクについて累計値を求める場合、例えば、ブロックB1内のリンクs4n4の電流値の累計は、開閉器q14が閉じていれば、そこまでに累計した電流値がすべて加算されることから、
【0102】
【0103】
と表される。同様にして、最終的にブロックB5内のs8a8を結ぶリンクまで累計した電流値は、
【0104】
【0105】
となる。このように、電流値の累計は、木構造に沿って下流から開閉器を介すたびに開閉状態を表す0/1の2値変数qijの掛け算が再帰的に現れる形で表される。最終的に木構造F(a8)に沿った電力損失の評価関数P(F(a8))は、上記のように計算した
【0106】
【0107】
を用いて、以下のように計算される。
【0108】
【0109】
ここで、さらに注意が必要なのは、上記P(F(a))は、下流から再帰的に計算を行うため、開閉器の開閉を表す2値変数qijに対して次数が3以上になり得る点である。実際、式4では、展開すると、
【0110】
【0111】
のようにqijについて3次の項が現れている。量子組合わせ最適化では、2次の多項式で扱うことが一般的である。この次数についての解決方法は、後述する(8)次数削減条件の算出で説明する。
【0112】
(4)無停電条件の算出
次に、無停電条件の算出について
図4を参照して説明する。無停電条件は、どの需要点も必ず1つ以上の供給点とつながっていることを保証するための条件である。供給点を含むブロックB
2,B
5,B
6に含まれる需要点については、既に供給点につながっているため停電の心配はない。しかし、供給点を含まないブロックB
1,B
3,B
4については、供給点を含むブロックB
2,B
5,B
6のどれかとつながっている必要がある。例えば、ブロックB
4の場合、ブロックB
2とつながるには、開閉器q
24が閉じている必要があり、ブロックB
6とつながるには、開閉器q
34,q
36の両方が閉じている必要がある。また、ブロックB
5とつながるには、開閉器q
14,q
15の両方が閉じている必要がある。量子コンピュータは、評価関数を最小化する組合せを解として返すので、上記状態を表現するには、条件を満たす場合は0、満たさない場合はある正数となるように定義する必要がある。したがって、ブロックB
4について無停電条件を表現しようとした場合、以下のように評価関数を定義すればよい。
【0113】
【0114】
実際、ブロックB4がどれか1つでも供給点とつながっていれば0、どれも満たされない場合はCpenaltyとなる。これは、ブロックB4に着目した場合の評価関数であるが、ブロックB1,B3も同様に考えればよい。
これを一般の形で表すと以下のようになる。
【0115】
【0116】
ここで、Aは供給点を含むブロック全体の集合、ACはAの補集合、すなわち、供給点を含まないブロック全体の集合、Ω(b,a)はブロックbとブロックaを結ぶ経路全体の集合(経路の途中に供給点を含まない)、Q(p)は経路p上の開閉器の集合とする。ここで、注意点としては、電力損失条件と同様、
【0117】
【0118】
の部分で3次以上になる可能性がある。この次数についての解決方法は、後述する(8)次数削減条件の算出で説明する。
【0119】
(5)放射状条件の算出
次に、放射状条件の算出について
図4を参照して説明する。放射状条件は、各需要点は、2つ以上の供給点から電力を供給されてはいけないという条件である。ブロックB
2,B
5,B
6の供給点を含むブロック同士が繋がらないように、開閉器の開閉を制限する必要がある。例えば、ブロックB
2とブロックB
5とを結ぶ経路上の開閉器はq
24,q
14,q
15であり、これらがすべて閉状態であると、放射状条件に違反する。したがって、開閉器q
24,q
14,q
15が同時に1になる場合に、ペナルティが課されるように評価関数を設計する必要がある。これは、例えば、以下のようにすればよい。
【0120】
【0121】
実際、開閉器q
24,q
14,q
15のどれか1つでも0の場合(開の場合)、上式は0となり、開閉器q
24,q
14,q
15がすべて1(すべて閉)の場合のときのみ、C
penaltyとなる。ブロックB
5とブロックB
6、ブロックB
2とブロックB
6も同様に考えると、
図4の場合の放射状条件を表す評価関数は、以下のようになる。
【0122】
【0123】
これを一般化した形で表せば、以下のように表される。
【0124】
【0125】
但し、ここで、Aは供給点を含むブロック全体の集合、Ω(a,a’)はAの2つの元a,a’を結ぶ経路全体の集合(経路の途中に供給点を含まない)、Q(p)は経路p上の開閉器の集合を表わすものとする。ここでも、
【0126】
【0127】
のように、経路p上に3つ以上の開閉器がある場合には、評価関数に3次以上の項が現れてしまう可能性があるが、これについても、上記(3)電力損失条件の算出、上記(4)無停電条件の算出の場合と同様、後述する(8)次数削減条件の算出で説明する方法により2次まで次数を下げることができる。
【0128】
(6)電流容量条件の算出
電流容量条件は、各リンクに流れる電流値が一定値以下になることを規定する制約である。例えば、
図8に示す配電網において、ブロックB
5内のs
8a
8を結ぶリンクに流れる有効電流は、以下のように表される。
【0129】
【0130】
無効電流についても同様に、
【0131】
【0132】
と計算される。ここで、例えば、電流容量が300[A]であった場合、以下を満たす必要がある。
【0133】
【0134】
すなわち、上記条件を満たすように、開閉器q15,q14、q34の開閉状態を決定する必要がある。そこで、
【0135】
【0136】
の場合には、ペナルティを課すように評価関数を設計する。ここで、
【0137】
【0138】
と定義する。例えば、開閉器がすべて閉状態(q15=1,q14=1,q34=1)であったと仮定すると、
【0139】
【0140】
と計算され、
【0141】
【0142】
の場合には、電流容量を超えてしまうので、開閉器q15,q14、q34のどれか1つは必ず開状態である必要がある。そこで、評価関数を
【0143】
【0144】
のように定義する。実際、このように評価関数を定義すると、開閉器q15,q14、q34がすべて1(閉状態)の場合には、Cpenaltyとなり、どこか1つでも開状態の場合には、0となる。これを一般化すると以下のようになる。
【0145】
Il[F(a)]を(式2)で定義した通り、木構造F(a)に沿って末端からリンクlまで累計した有効電流値、Jl[F(a)]も同様に木構造F(a)に沿って末端からリンクlまで累計した無効電流値とする。木構造[F(a)]上に含まれる開閉器の開閉を表す2値変数を
【0146】
【0147】
で表し、
【0148】
【0149】
と定義する。このとき、
(6-1)開閉器がすべて閉状態であると仮定した場合の
【0150】
【0151】
の値がリンクlの電流容量θlを超えるリンクについて、リンク上の開閉器の集合
【0152】
【0153】
をとってくる。
【0154】
(6-2)それら開閉器がすべて閉状態であった場合にペナルティを課すよう以下のように評価関数を定義する。
【0155】
【0156】
(7)電圧降下条件の算出
電圧降下条件では、下流から累計した電流値を用いて、各リンク上での電圧を下流からではなく上流から累計していく。
図7に示す木構造F(a
8)に沿って累計する方法を説明する。リンクa
8n
8の抵抗、リアクタンスおよび有効電流値、無効電流値が(R
15,S
15,I
15,J
15)で与えられている場合、リンクa
8n
8までの電圧降下V
15[F(a
8)]は、
【0157】
【0158】
としたときに
【0159】
【0160】
で与えられる。
【0161】
次に、リンクs7n4の電圧降下V7[F(a8)]は、同様に
【0162】
【0163】
を用いて、
【0164】
【0165】
としたとき、
【0166】
【0167】
で与えられる。これをリンクn6s9まで繰り返したとき、リンクn6s9の電圧降下は、
【0168】
【0169】
を用いて、
【0170】
【0171】
と表わされる。このように、再帰的に上流から下流に向かって累計した電圧降下
【0172】
【0173】
は、木構造F(a)上にある開閉器の開閉状態を表す2値変数
【0174】
【0175】
の関数である。そこで、Vl[F(a)]を
【0176】
【0177】
と書くことにすれば、電流容量条件と同じように、電圧降下条件は、以下のように表される。
【0178】
【0179】
ここで、θlはリンクlに対する電圧の閾値である。
【0180】
【0181】
の項があるため、3次以上になり得ることは電流容量条件と同じである。
【0182】
(8)次数削減条件の算出
上記(1)電力損失条件の算出から(7)電圧降下条件の算出までにおける評価関数に現れる3次以上の項について、2次まで次数を下げる方法について説明する。量子組合せ最適化では評価関数は2次の多項式で扱うことが一般的である。但し、最近では、HUBO(Higher Order Unconstrained Binary Optimization)の形式で3次以上の項を持った多項式の評価関数をそのまま最適化する手法も提案されており、必ずしも2次まで次元を削減することが必要というわけではない。評価関数を2次の多項式で扱う場合、qAqBqCのような3次以上の項は、次のような変数変換で次数を下げる。
【0183】
【0184】
qD=qAqBと置き、変数qDを1つ増やすことで2次に削減したが、単純に、この置換だけでは不十分である。qDは、純粋に独立な自由に0/1を取れる変数でなく、qD=qAqBという制約を満たす必要がある。そこで、qD=qAqBに縛るようなペナルティを課すために、以下のような制約項を考える。
【0185】
【0186】
この制約項は、
図9に示すような値を取る。すなわち、q
D=q
Aq
Bが満たされているときは0、それ以外の場合は1以上である。そのため、この制約項を評価関数に追加すると、評価関数を最小化して得られる解は、q
D=q
Aq
Bを満たすものが得られることになる。
【0187】
高次の場合は、この変換を繰り返して2次にまで持っていく。例えば、電力損失条件に現れる、
【0188】
【0189】
のような3次の項は、この方法を1回適用することで2次まで次数を削減することができる。放射状条件で現れたq15q14q34q36のような4次の項があれば、2回適用することで2次まで次数を削減することができる。但し、この方法は、1回適用するごとに1つ制約条件が追加されることになり、比較的高次の多項式に対して適用すると、制約項が膨大な数になり、実質、最適解が得られないような状況に陥ってしまう。
【0190】
(9)制約条件の統合
最後に、2次まで次数を削減した電力損失条件、電圧降下条件、電流容量条件、無停電条件、放射状条件及び次数削減条件を統合して、量子コンピュータに渡す全体の評価関数を構築する。
【0191】
【0192】
量子コンピュータは、この評価関数
【0193】
【0194】
を最小にするように、最適な配電網
【0195】
【0196】
を以下のように決定する。
【0197】
【0198】
上述した実施形態によれば、電力損失条件を求める際に、はじめに供給点をルートにした木構造を抽出しておき、その後、供給点の下流から上流に向かって「再帰的に」加算を行っているため、既存技術のように、連結ブロック数に制限を設ける必要がない。このため、実際の大規模な配電網にも適用することができる。
【0199】
また、上述した実施形態によれば、配電網に含まれるすべての供給点に対し、あらかじめ各供給点をルートとする木構造を抽出するようにしたので、開閉器の開閉状態によって変化する各ブロックの電力損失への寄与の変化に対応することができる。
【0200】
また、上述した実施形態によれば、特に、電圧降下条件、電流容量条件の算出において、次数を大きくしなくても、電圧及び電流値が閾値を超えないことを保証するように制約条件を定義するようにしたので、量子アニーリングマシンに渡せるように次数を2次まで下げても制約項の数が膨大になることを防ぐことができる。また汎用量子コンピュータで計算する場合は、量子回路に含まれるCNOTゲートの数を抑えることができる。
【0201】
なお、以上の説明では、評価関数を2次の多項式で扱う場合を例に説明したが、評価関数の次数は2次に限定されない。例えば、HUBO(Higher Order Unconstrained Binary Optimization)の形式で3次以上の項を持った多項式の評価関数をそのまま最適化する手法も提案されており、必ずしも2次まで次元を削減することが必要というわけではない。そのため、評価関数が扱える次数であれば、2次まで次元を削減せずに、3次以上の項を含んだままの電力損失条件、電圧降下条件、電流容量条件、無停電条件、放射状条件及び次数削減条件を統合して、量子コンピュータに渡す全体の評価関数を構築してもよい。
つまり、次数削減条件算出部が、電力損失条件、電圧降下条件、電流容量条件、無停電条件、及び放射状条件に含まれる項の次数を、評価関数が扱える次数まで次数削減を行い、それに伴って発生する変数間の関係を規定する次数削減条件を算出するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0202】
1 最適配電網導出システム
10 配電系統データ蓄積部
11 ネットワーク解析部
12 ネットワーク解析結果蓄積部
13 電力損失条件算出部
14 電力損失条件蓄積部
15 電圧降下条件算出部
16 電圧降下条件蓄積部
17 電流容量条件算出部
18 電流容量条件蓄積部
19 無停電条件算出部
20 無停電条件蓄積部
21 放射状条件算出部
22 放射状条件蓄積部
23 次数削減条件算出部
24 次数削減条件蓄積部
25 制約条件統合部
26 最適配電網算出部(量子組合せ最適化)
30 配電網データ
31 解析結果(木構造)
32 制約条件
33 次数削減条件
34 評価関数
40 最適配電網