(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052555
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】紡糸設備
(51)【国際特許分類】
D01D 5/088 20060101AFI20240404BHJP
【FI】
D01D5/088
【審査請求】未請求
【請求項の数】25
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023140136
(22)【出願日】2023-08-30
(31)【優先権主張番号】P 2022158252
(32)【優先日】2022-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 淳平
【テーマコード(参考)】
4L045
【Fターム(参考)】
4L045AA05
4L045BA03
4L045DA21
(57)【要約】
【課題】徐冷空間の上下方向における長さの意図しない変化を長期間抑制し、かつ、徐冷空間において必要な気密性を長期間維持する。
【解決手段】紡糸設備1は、紡糸装置2と、稼働位置とメンテナンス位置との間で移動可能な冷却装置3とを備える。紡糸設備1は、冷却装置3に上側への力を加えるエアシリンダ28と、紡糸装置2の紡糸口金13と冷却装置3の冷却筒21との間に形成された徐冷空間Ssの上下方向における長さを規定する筒状部42と、徐冷空間Ssと外部空間Soとの間に形成された隙間を密閉するシール部30とをさらに備える。シール部30は、接触部53と、接触部53を筒状部42へ付勢する付勢部54と、接触部53及び付勢部54によって形成される隙間を密閉する第1取付部51及び内側取付板58と、を有する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸材料をそれぞれ吐出可能に構成された複数の紡糸口金、を有する紡糸装置と、
前記複数の紡糸口金から吐出された前記糸材料をそれぞれ冷却可能に構成された複数の冷却部を有し、前記紡糸装置の下側に配置された冷却装置と、を備える紡糸設備であって、
前記冷却装置を、前記糸材料が紡出されるときの稼働位置と、前記稼働位置よりも下側のメンテナンス位置との間で移動させることが可能に構成され、且つ、前記冷却装置が前記稼働位置に位置しているときに前記冷却装置に対して上側への力を加えるように構成された移動機構と、
前記冷却装置が前記稼働位置に位置しているときに上下方向において前記複数の紡糸口金と前記複数の冷却部との間にそれぞれ形成された複数の徐冷空間の上下方向における長さを規定する、上下方向において前記複数の紡糸口金と前記複数の冷却部との間にそれぞれ配置された複数の規制部と、
前記冷却装置が前記稼働位置に位置しているときに、前記複数の徐冷空間と、上下方向と垂直な水平方向において前記複数の徐冷空間の外側に配置された外部空間との間に形成された隙間を密閉するように構成された複数のシール部と、をさらに備え、
前記複数のシール部の各々は、
前記紡糸装置及び前記冷却装置のうち一方に取り付けられ、前記複数の徐冷空間のうち対応する1つの徐冷空間の周囲に配置され且つ前記紡糸装置及び前記冷却装置のうち他方に接触するように構成された接触部と、
前記紡糸装置及び前記冷却装置のうち前記一方に取り付けられ且つ前記移動機構とは別に設けられ、前記接触部を所定の付勢方向において前記紡糸装置及び前記冷却装置のうち前記他方に向けて付勢するように構成された付勢部と、
前記紡糸装置及び前記冷却装置のうち前記一方に固定され、前記接触部及び前記付勢部によって形成される前記隙間を密閉するように構成された、前記1つの徐冷空間と前記外部空間とを隔てる隔壁部と、を有することを特徴とする紡糸設備。
【請求項2】
前記複数の規制部の温度が前記紡糸装置及び前記冷却装置の稼働時の温度であるときに、前記複数の規制部の材料のヤング率は、10GPa以上であることを特徴とする請求項1に記載の紡糸設備。
【請求項3】
前記複数の規制部の材料は、金属材料であることを特徴とする請求項1又は2に記載の紡糸設備。
【請求項4】
前記接触部の温度が前記紡糸装置及び前記冷却装置の稼働時の温度であるときに、前記接触部の材料のヤング率は、10GPa以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の紡糸設備。
【請求項5】
前記接触部の材料は、金属材料であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の紡糸設備。
【請求項6】
前記付勢部は、バネ部材を有することを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の紡糸設備。
【請求項7】
前記バネ部材は、圧縮コイルバネであることを特徴とする請求項6に記載の紡糸設備。
【請求項8】
前記紡糸装置及び前記冷却装置のうち前記一方は、前記冷却装置であることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の紡糸設備。
【請求項9】
前記紡糸装置及び前記冷却装置のうち前記他方は、
上下方向から見たときに前記複数の徐冷空間をそれぞれ囲むように配置され、且つ上下方向に延びた複数の延在部、を有し、
前記接触部は、前記複数の延在部のうち対応する1つの延在部の周面に接触するように配置され、
前記付勢方向は、上下方向と交差する方向であることを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の紡糸設備。
【請求項10】
前記複数の規制部は、前記複数の延在部をそれぞれ含み、
前記複数の延在部によって、前記複数の徐冷空間の上下方向における前記長さがそれぞれ規定されることを特徴とする請求項9に記載の紡糸設備。
【請求項11】
前記紡糸装置及び前記冷却装置のうち前記一方に対して上下方向における位置が固定され、前記冷却装置が前記稼働位置に位置しているときに前記複数の延在部の各々の上下方向における先端と接触するように構成された規制面、を有し、
前記規制面は、前記水平方向に沿って平坦であるように配置されていることを特徴とする請求項10に記載の紡糸設備。
【請求項12】
前記接触部は、前記冷却装置が前記メンテナンス位置から前記稼働位置へ移動するときに、前記1つの延在部と当接することにより、前記付勢部による付勢力に抗して少なくとも水平方向に移動可能であることを特徴とする請求項9~11のいずれかに記載の紡糸設備。
【請求項13】
各延在部の前記周面は、各延在部の内周面を含み、
前記接触部は、
前記1つの延在部の周方向に並べて配置され、且つ、前記1つの延在部の前記内周面に接触するように配置された複数の内側接触片を有し、
前記付勢部は、
前記複数の内側接触片を前記内周面に向けてそれぞれ付勢する複数の内側付勢部材を有し、
前記周方向において前記複数の内側接触片の間に形成された複数の隙間である複数の内側隙間は、前記1つの延在部と前記複数の内側接触片とが互いに接触しているときに、各延在部と前記複数の内側接触片とが互いに離隔しているときと比べて、前記周方向において狭いことを特徴とする請求項9~12のいずれかに記載の紡糸設備。
【請求項14】
前記複数の内側接触片の各々は、上下方向及び前記周方向の両方と直交する径方向における外側の端部に形成された内側押圧面、を有し、
前記内側押圧面は、
各延在部と前記複数の内側接触片とが互いに離隔しているときに、
上下方向において前記1つの延在部と少なくとも部分的に重なり、且つ、前記径方向における外側且つ上下方向における前記1つの延在部側を向いていることを特徴とする請求項13に記載の紡糸設備。
【請求項15】
前記紡糸装置及び前記冷却装置のうち前記他方は、
上下方向において前記複数の延在部とそれぞれ隣接配置され、且つ、上下方向において前記複数の延在部よりも前記紡糸装置及び前記冷却装置の前記他方に近い側に配置された複数の円板部、を有し、
前記複数の円板部のうち対応する1つの円板部は、
上下方向において前記複数の内側接触片と少なくとも部分的に重なっていることを特徴とする請求項13又は14に記載の紡糸設備。
【請求項16】
前記1つの円板部は、前記隔壁部と上下方向において向かい合っていることを特徴とする請求項15に記載の紡糸設備。
【請求項17】
各延在部の前記周面は、各延在部の外周面を含み、
前記接触部は、
前記1つの延在部の周方向に並べて配置され、且つ、前記1つの延在部の前記外周面に接触するように配置された複数の外側接触片を有し、
前記付勢部は、
前記複数の外側接触片を前記外周面に向けてそれぞれ付勢する複数の外側付勢部材を含むことを特徴とする請求項13~16のいずれかに記載の紡糸設備。
【請求項18】
前記複数の外側接触片の各々は、上下方向及び前記周方向の両方と直交する径方向における内側の端部に形成された外側押圧面、を有し、
前記外側押圧面は、
各延在部と前記複数の外側接触片とが互いに離隔しているときに、
上下方向において前記1つの延在部と少なくとも部分的に重なり、且つ、前記径方向における内側且つ上下方向における前記1つの延在部側を向いていることを特徴とする請求項17に記載の紡糸設備。
【請求項19】
前記周方向において前記複数の外側接触片の間に形成された複数の隙間である複数の外側隙間は、前記周方向において前記複数の内側隙間と異なる位置に配置されていることを特徴とする請求項17又は18に記載の紡糸設備。
【請求項20】
前記複数の延在部の各々は、上下方向から見たときに円環形状を有することを特徴とする請求項9~19のいずれかに記載の紡糸設備。
【請求項21】
前記接触部は、前記複数の徐冷空間のうち対応する徐冷空間を囲む囲み部を有し、
前記付勢部は、前記囲み部を上下方向に付勢するように構成され、
前記隔壁部は、前記囲み部の径方向において、前記囲み部及び前記付勢部の内側、並びに前記囲み部及び前記付勢部の外側のうち、少なくとも一方に配置され、
前記囲み部は、上下方向において前記紡糸装置及び前記冷却装置のうち前記他方側を向いた端面を有することを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の紡糸設備。
【請求項22】
前記紡糸装置及び前記冷却装置のうち前記他方は、前記囲み部の前記端面と接触するように配置された接触面を有し、
上下方向から見たときに、前記端面及び前記接触面のうち一方が、前記端面及び前記接触面のうち他方の領域の内側に収まっていることを特徴とする請求項21に記載の紡糸設備。
【請求項23】
前記紡糸装置及び前記冷却装置が稼働している状態において、前記複数の徐冷空間の各々の圧力と、前記外部空間の圧力との差の絶対値が20Pa未満であることを特徴とする請求項1~22のいずれかに記載の紡糸設備。
【請求項24】
前記複数の規制部は、1つの共通部材によって形成されていることを特徴とする請求項1~23のいずれかに記載の紡糸設備。
【請求項25】
前記接触部は、前記複数の規制部とは別に設けられていることを特徴とする請求項1~24のいずれかに記載の紡糸設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡糸設備に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、合成繊維からなる糸の紡出から巻取までの処理を行う紡糸設備が開示されている。より具体的には、紡糸設備は、紡糸装置と冷却装置とを有する。紡糸装置は、複数の紡糸口金を有し、各紡糸口金から液状の溶融ポリマーを糸材料として吐出する。冷却装置は、複数の紡糸口金に対応して設けられた複数の冷却筒を有し、各冷却筒を介して冷却風を糸材料に供給する。糸材料は、冷却風により固化されて、1以上のフィラメントからなる糸になる。
【0003】
上下方向において、紡糸装置と冷却装置との間には、降下する糸材料を徐冷するための空間(徐冷空間)が形成されている。また、徐冷空間から、徐冷空間の外側の外部空間に気体が漏れることを抑制するためのシール部材(シール部)が、上下方向において紡糸装置と冷却装置との間に挟まれるように設けられている。上記シール部は、徐冷空間の上下方向における長さを規定するための規制部材(規制部)としても用いられている。以下、説明の便宜上、規制部としても用いられているシール部を「シール部兼規制部」と呼ぶ。
【0004】
一方、特許文献2には、互いに別の部材で形成されたシール部及び規制部を有する紡糸設備が開示されている。より具体的には、紡糸装置側のシール部として筒状の上側フードとその側面に嵌合されたOリングとが設けられ、冷却装置側のシール部として筒状の下側フードが設けられている。下側フードが上側フードの径方向における内側に配置されることにより、Oリングと下側フードとが接触し、徐冷空間が密閉される。また、紡糸装置側の規制部として上側クランプ式ストッパーが設けられ、冷却装置側の規制部としてスライダープレートが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-138301号公報
【特許文献2】特開2016-108698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には記載されていないが、徐冷空間の気密性を高めるため、可撓性を有するゴムがシール部兼規制部の材料として一般的に使用されている。紡糸装置及びその近傍の温度は約260~300℃と高いので、熱によってシール部兼規制部が劣化及び変形しやすく、徐冷空間の上下方向における長さが変わってしまうおそれがある。
【0007】
この点、特許文献2に記載のように、シール部と規制部とを別々に設けることで、規制部をゴム以外の材料で形成することは可能である。しかし、特許文献2に記載の構成においても、熱い上側フードに取り付けられ且つ下側フードと接触するOリングとして、一般的にゴム製のOリングが用いられている。このため、熱によるOリングの劣化(すなわち、シール部の劣化)が起こり、必要な気密性を長期間維持できなくなるおそれがある。
【0008】
本発明の目的は、徐冷空間の上下方向における長さの意図しない変化を長期間抑制し、かつ、徐冷空間において必要な気密性を長期間維持することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明の紡糸設備は、糸材料をそれぞれ吐出可能に構成された複数の紡糸口金、を有する紡糸装置と、前記複数の紡糸口金から吐出された前記糸材料をそれぞれ冷却可能に構成された複数の冷却部を有し、前記紡糸装置の下側に配置された冷却装置と、を備える紡糸設備であって、前記冷却装置を、前記糸材料が紡出されるときの稼働位置と、前記稼働位置よりも下側のメンテナンス位置との間で移動させることが可能に構成され、且つ、前記冷却装置が前記稼働位置に位置しているときに前記冷却装置に対して上側への力を加えるように構成された移動機構と、前記冷却装置が前記稼働位置に位置しているときに上下方向において前記複数の紡糸口金と前記複数の冷却部との間にそれぞれ形成された複数の徐冷空間の上下方向における長さを規定する、上下方向において前記複数の紡糸口金と前記複数の冷却部との間にそれぞれ配置された複数の規制部と、前記冷却装置が前記稼働位置に位置しているときに、前記複数の徐冷空間と、上下方向と垂直な水平方向において前記複数の徐冷空間の外側に配置された外部空間との間に形成された隙間を密閉するように構成された複数のシール部と、をさらに備え、前記複数のシール部の各々は、前記紡糸装置及び前記冷却装置のうち一方に取り付けられ、前記複数の徐冷空間のうち対応する1つの徐冷空間の周囲に配置され且つ前記紡糸装置及び前記冷却装置のうち他方に接触するように構成された接触部と、前記紡糸装置及び前記冷却装置のうち前記一方に取り付けられ且つ前記移動機構とは別に設けられ、前記接触部を所定の付勢方向において前記紡糸装置及び前記冷却装置のうち前記他方に向けて付勢するように構成された付勢部と、前記紡糸装置及び前記冷却装置のうち前記一方に固定され、前記接触部及び前記付勢部によって形成される前記隙間を密閉するように構成された、前記1つの徐冷空間と前記外部空間とを隔てる隔壁部と、を有することを特徴とする。
【0010】
本発明では、シール部において、移動機構とは別に設けられた付勢部によって、接触部を紡糸装置及び冷却装置のうち他方に押し付けることができる。また、接触部及び付勢部によって徐冷空間と外部空間との間に隙間が形成されていても、当該隙間を隔壁部によって塞ぐことができる。徐冷空間の圧力と外部空間の圧力との差は一般的に小さいため、必要な気密性をこのようなシール部によって確保できる。これにより、接触部、付勢部及び隔壁部の各々を構成する部材として、ゴム材料からなる部材を用いなくても、徐冷空間と外部空間との間に形成される隙間をある程度密閉できる。
【0011】
また、シール部が設けられているため、規制部は徐冷空間と外部空間との間の隙間を密閉するように構成されていなくても良い。このため、規制部を構成する部材として、ゴム材料からなる部材とは異なる部材を適用できる。これにより、紡糸装置から発せられる熱による規制部の劣化、及び変形を抑制できる。したがって、徐冷空間の上下方向における長さの意図しない変化を抑制できる。
【0012】
以上より、徐冷空間の上下方向における長さの意図しない変化を長期間抑制しつつ、徐冷空間において必要な気密性を長期間維持できる。
【0013】
第2の発明の紡糸設備は、前記第1の発明において、前記複数の規制部の温度が前記紡糸装置及び前記冷却装置の稼働時の温度であるときに、前記複数の規制部の材料のヤング率は、10GPa以上であることを特徴とする。
【0014】
本発明では、紡糸装置及び冷却装置の稼働時における規制部の材料のヤング率が10GPaと高い。したがって、冷却装置が移動機構によって上側に押されることにより規制部に圧力が加えられても、規制部の変形を効果的に抑制できる。
【0015】
第3の発明の紡糸設備は、前記第1又は第2の発明において、前記複数の規制部の材料は、金属材料であることを特徴とする。
【0016】
金属材料は、一般的に、ゴム材料と比べて熱に強いなどの特性を有し、ゴム材料と比べて劣化及び変形が抑制される。本発明では、規制部の材料が金属材料であるため、規制部を早期交換する必要が生じることを効果的に抑制できる。
【0017】
第4の発明の紡糸設備は、前記第1~第3のいずれかの発明において、前記接触部の温度が前記紡糸装置及び前記冷却装置の稼働時の温度であるときに、前記接触部の材料のヤング率は、10GPa以上であることを特徴とする。
【0018】
本発明では、接触部が硬い材料によって形成されており、歪むことが抑制されるため、接触部を早期交換する必要が生じることを抑制できる。
【0019】
第5の発明の紡糸設備は、前記第1~第4のいずれかの発明において、前記接触部の材料は、金属材料であることを特徴とする。
【0020】
本発明では、接触部の材料が一般的に劣化しにくい金属材料であるため、接触部を早期交換する必要が生じることを効果的に抑制できる。
【0021】
第6の発明の紡糸設備は、前記第1~第5のいずれかの発明において、前記付勢部は、バネ部材を有することを特徴とする。
【0022】
バネ部材は、一般的に、劣化しにくい金属部材によって形成されている。したがって、本発明では、付勢部を早期交換する必要が生じることを効果的に抑制できる。
【0023】
第7の発明の紡糸設備は、前記第6の発明において、前記バネ部材は、圧縮コイルバネであることを特徴とする。
【0024】
本発明では、一般的に安価な圧縮コイルバネを用いることにより、部品コストの増大を抑制できる。
【0025】
第8の発明の紡糸設備は、前記第1~第7のいずれかの発明において、前記紡糸装置及び前記冷却装置のうち前記一方は、前記冷却装置であることを特徴とする。
【0026】
シール部を構成する部材が紡糸装置に取り付けられていても良いが、この場合、シール部を構成する多くの部材が、紡糸装置から発せられる熱によって劣化しやすくなるおそれがある。本発明では、シール部を構成する部材が冷却装置に取り付けられているため、これらの部材が過熱されることを抑制できる。
【0027】
第9の発明の紡糸設備は、前記第1~第8のいずれかの発明において、前記紡糸装置及び前記冷却装置のうち前記他方は、上下方向から見たときに前記複数の徐冷空間をそれぞれ囲むように配置され、且つ上下方向に延びた複数の延在部、を有し、前記接触部は、前記複数の延在部のうち対応する1つの延在部の周面に接触するように配置され、前記付勢方向は、上下方向と交差する方向であることを特徴とする。
【0028】
一般的に、徐冷空間の上下方向における長さは、良好な糸品質を確保するために、所定の長さ以下である必要がある。このため、シール部の上下方向におけるサイズに対して厳しい制約が課される。また、一般的に、付勢部は、付勢方向に伸縮し又は移動するため、付勢方向においてある程度の設置スペースを確保する必要がある。したがって、例えば付勢方向が上下方向と略平行である場合、付勢部の設計の自由度が著しく低下するおそれがある。この点、本発明では、付勢方向が上下方向と交差している(つまり、水平方向における成分を有する)。これにより、シール部の上下方向におけるサイズに厳しい制約が課された構成においても、水平方向において付勢部の設置スペースを確保できる。したがって、付勢部の設計の自由度を高くすることができる。
【0029】
また、徐冷空間の上下方向における長さは、細い糸が紡出される場合に特に短くする必要がある。徐冷空間は、紡糸装置と冷却装置との間に設けられた比較的不安定な領域である。このため、徐冷空間が上下方向において長すぎると、外乱の影響を特に受けやすい細い糸において、糸ムラが生じる懸念がある。この点、本発明では、シール部の上下方向におけるサイズを小さくすることができるので、細い糸を製造する場合において特に有効である。
【0030】
第10の発明の紡糸設備は、前記第9の発明において、前記複数の規制部は、前記複数の延在部をそれぞれ含み、前記複数の延在部によって、前記複数の徐冷空間の上下方向における前記長さがそれぞれ規定されることを特徴とする。
【0031】
本発明では、延在部が、接触部と接触し、且つ規制部としても機能する。したがって、接触部と接触する部材と、規制部を構成する部材とが別々に設けられた構成と比べて、部材の数を削減できる。
【0032】
第11の発明の紡糸設備は、前記第10の発明において、前記紡糸装置及び前記冷却装置のうち前記一方に対して上下方向における位置が固定され、前記冷却装置が前記稼働位置に位置しているときに前記複数の延在部の各々の上下方向における先端と接触するように構成された規制面、を有し、前記規制面は、前記水平方向に沿って平坦であるように配置されていることを特徴とする。
【0033】
規制部と接触する規制面が水平方向に対して傾きを有している構成では、規制部と規制面との水平方向における相対位置が変わると、規制部と規制面との上下方向における相対位置が変わるおそれがある。これにより、徐冷空間の上下方向における長さが変わってしまうおそれがある。本発明では、規制面が水平方向に沿って平坦であるように配置されているので、このような問題の発生を抑制できる。
【0034】
第12の発明の紡糸設備は、前記第9~第11のいずれかの発明において、前記接触部は、前記冷却装置が前記メンテナンス位置から前記稼働位置へ移動するときに、前記1つの延在部と当接することにより、前記付勢部による付勢力に抗して少なくとも水平方向に移動可能であることを特徴とする。
【0035】
本発明では、冷却装置がメンテナンス位置から稼働位置へ移動するときに、接触部の水平方向における位置が延在部の水平方向における位置に対して多少ずれていても、接触部が延在部に押されて移動できる。したがって、延在部と接触部とを密着させつつ、延在部と接触部との水平方向における位置ずれを補償できる。
【0036】
第13の発明の紡糸設備は、前記第9~第12のいずれかの発明において、各延在部の前記周面は、各延在部の内周面を含み、前記接触部は、前記1つの延在部の周方向に並べて配置され、且つ、前記1つの延在部の前記内周面に接触するように配置された複数の内側接触片を有し、前記付勢部は、前記複数の内側接触片を前記内周面に向けてそれぞれ付勢する複数の内側付勢部材を有し、前記周方向において前記複数の内側接触片の間に形成された複数の隙間である複数の内側隙間は、前記1つの延在部と前記複数の内側接触片とが互いに接触しているときに、各延在部と前記複数の内側接触片とが互いに離隔しているときと比べて、前記周方向において狭いことを特徴とする。
【0037】
接触部が延在部の周面に接触する構成では、接触部を構成する部材によって徐冷空間を完全に囲うことは難しい。しかしながら、本発明では、延在部と接触部とが接触しているときに、周方向において複数の内側接触片の間に生じる隙間を狭くすることができる。したがって、徐冷空間の気密性の低下を極力抑制できる。
【0038】
第14の発明の紡糸設備は、前記第13の発明において、前記複数の内側接触片の各々は、上下方向及び前記周方向の両方と直交する径方向における外側の端部に形成された内側押圧面、を有し、前記内側押圧面は、各延在部と前記複数の内側接触片とが互いに離隔しているときに、上下方向において前記1つの延在部と少なくとも部分的に重なり、且つ、前記径方向における外側且つ上下方向における前記1つの延在部側を向いていることを特徴とする。
【0039】
本発明では、延在部と内側接触片とが接触させられた際に、延在部が内側押圧面に当接することにより、内側接触片が径方向における内側へ押される。これにより、互いに接触した延在部と内側接触片とを上下方向にスムーズに相対移動させ、且つ、内側接触片を径方向における内側へ移動させることができる。したがって、延在部と内側接触片を上下方向に相対移動させるという単純な動作によって、延在部の内周面と内側接触片とを接触させることができる。
【0040】
第15の発明の紡糸設備は、前記第13又は第14の発明において、前記紡糸装置及び前記冷却装置のうち前記他方は、上下方向において前記複数の延在部とそれぞれ隣接配置され、且つ、上下方向において前記複数の延在部よりも前記紡糸装置及び前記冷却装置の前記他方に近い側に配置された複数の円板部、を有し、前記複数の円板部のうち対応する1つの円板部は、上下方向において前記複数の内側接触片と少なくとも部分的に重なっていることを特徴とする。
【0041】
本発明では、延在部と内側接触片とが接触しているときに、円板部によって複数の内側接触片の近傍の空間を上下方向において狭くすることができる。これにより、徐冷空間の気密性をより高めることができる。
【0042】
第16の発明の紡糸設備は、前記第15の発明において、前記1つの円板部は、前記隔壁部と上下方向において向かい合っていることを特徴とする。
【0043】
本発明では、円板部及び隔壁部によって、複数の内側接触片の近傍の空間を上下方向において狭くすることができる。これにより、徐冷空間の気密性をより高めることができる。
【0044】
第17の発明の紡糸設備は、前記第13~第16のいずれかの発明において、各延在部の前記周面は、各延在部の外周面を含み、前記接触部は、前記1つの延在部の周方向に並べて配置され、且つ、前記1つの延在部の前記外周面に接触するように配置された複数の外側接触片を有し、前記付勢部は、前記複数の外側接触片を前記外周面に向けてそれぞれ付勢する複数の外側付勢部材を含むことを特徴とする。
【0045】
本発明では、外側接触片によって、徐冷空間の気密性をさらに高めることができる。
【0046】
第18の発明の紡糸設備は、前記第17の発明において、前記複数の外側接触片の各々は、上下方向及び前記周方向の両方と直交する径方向における内側の端部に形成された外側押圧面、を有し、前記外側押圧面は、各延在部と前記複数の外側接触片とが互いに離隔しているときに、上下方向において前記1つの延在部と少なくとも部分的に重なり、且つ、前記径方向における内側且つ上下方向における前記1つの延在部側を向いていることを特徴とする。
【0047】
本発明では、延在部と外側接触片を上下方向に相対移動させるという単純な動作によって、延在部の外周面と外側接触片とを接触させることができる。
【0048】
第19の発明の紡糸設備は、前記第17又は第18の発明において、前記周方向において前記複数の外側接触片の間に形成された複数の隙間である複数の外側隙間は、前記周方向において前記複数の内側隙間と異なる位置に配置されていることを特徴とする。
【0049】
本発明では、複数の外側隙間と複数の内側隙間との間に、気体の通路が意図せず形成された場合でも、当該通路を長くすることができる。これにより、気体が徐冷空間と徐冷空間の外側の空間との間で出入りしてしまうことをさらに抑制できる。したがって、徐冷空間の気密性をさらに高めることができる。
【0050】
第20の発明の紡糸設備は、前記第9~第19のいずれかの発明において、前記複数の延在部の各々は、上下方向から見たときに円環形状を有することを特徴とする。
【0051】
本発明では、延在部の形状を単純にすることができる。
【0052】
第21の発明の紡糸設備は、前記第1~第8のいずれかの発明において、前記接触部は、前記複数の徐冷空間のうち対応する徐冷空間を囲む囲み部を有し、前記付勢部は、前記囲み部を上下方向に付勢するように構成され、前記隔壁部は、前記囲み部の径方向において、前記囲み部及び前記付勢部の内側、並びに前記囲み部及び前記付勢部の外側のうち、少なくとも一方に配置され、前記囲み部は、上下方向において前記紡糸装置及び前記冷却装置のうち前記他方側を向いた端面を有することを特徴とする。
【0053】
本発明では、端面を紡糸装置及び冷却装置のうち他方と接触させることによって、徐冷空間の気密性を確保出来る。このような構成では、接触部を1つの部材で形成でき、且つ、付勢方向を1つの方向に設定できる。したがって、シール部の構造をシンプル化できる。
【0054】
第22の発明の紡糸設備は、前記第21の発明において、前記紡糸装置及び前記冷却装置のうち前記他方は、前記囲み部の前記端面と接触するように配置された接触面を有し、上下方向から見たときに、前記端面及び前記接触面のうち一方が、前記端面及び前記接触面のうち他方の領域の内側に収まっていることを特徴とする。
【0055】
本発明では、接触部の水平方向における位置が紡糸装置及び冷却装置のうち他方の水平方向における位置に対して多少ずれていても、位置ずれを気にすることなく徐冷空間の気密性を確保できる。
【0056】
第23の発明の紡糸設備は、前記第1~第22のいずれかの発明において、前記紡糸装置及び前記冷却装置が稼働している状態において、前記複数の徐冷空間の各々の圧力と、前記外部空間の圧力との差の絶対値が20Pa未満であることを特徴とする。
【0057】
本発明では、徐冷空間の圧力と外部空間の圧力との差が小さいため、接触部が紡糸装置及び冷却装置のうち他方に対してある程度密着していれば、気体の漏れを容易に抑制できる。したがって、徐冷空間において必要な気密性をシール部によって容易に確保できる。
【0058】
第24の発明の紡糸設備は、前記第1~第23のいずれかの発明において、前記複数の規制部は、1つの共通部材によって形成されていることを特徴とする。
【0059】
複数の規制部が別々の部材によって形成されている場合、規制部の製造ばらつきによって複数の徐冷空間の上下方向における長さがばらつくおそれがある。本発明では、複数の規制部が共通部材によって形成されているので、複数の徐冷空間の上下方向における長さのばらつきを抑制できる。
【0060】
第25の発明の紡糸設備は、前記第1~第24のいずれかの発明において、前記接触部は、前記複数の規制部とは別に設けられていることを特徴とする。
【0061】
本発明では、接触部が摩耗又は変形しても、規制部によって徐冷空間の長さを一定に維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【
図2】冷却装置がメンテナンス位置に位置している状態を示す説明図である。
【
図4】(a)は、徐冷部及びその近傍部分の側断面図であり、(b)は、(a)の一部の拡大図である。
【
図6】(a)、(b)は、シールユニットの動作を示す説明図である。
【
図7】(a)は、冷却装置が稼働位置に位置しているときのシールユニット及びその近傍部分の側断面図であり、(b)は、(a)の一部の拡大図である。
【
図8】
図7(a)のVIII-VIII線断面図である。
【
図9】(a)、(b)は、変形例に係るシールユニット及びその近傍の側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0063】
次に、本発明の実施の形態について説明する。説明の便宜上、
図1に示す方向を上下方向及び前後方向とする。上下方向(
図1の紙面上下方向)は、重力が作用する鉛直方向である。前後方向(
図1の紙面左右方向)は、上下方向と直交する方向である。上下方向及び前後方向の両方と直交する方向(
図1の紙面垂直方向)を左右方向とする。
【0064】
(紡糸設備)
本実施形態に係る紡糸設備1の概略について、
図1の概略図を参照しつつ説明する。紡糸設備1は、合成繊維からなる糸Yを生成するための設備である。紡糸設備1は、紡糸装置2と、冷却装置3と、徐冷部4と、油剤付与部5とを備える。
【0065】
紡糸装置2は、溶融ポリマーからなる複数の糸Yを紡出可能に構成された溶融紡糸装置である。紡糸装置2は、概ね直方体形状のフレーム10と、フレーム10に形成された複数のパックハウジング11と、複数のパックハウジング11にそれぞれ装着された複数の紡糸パック12とを有する。複数の紡糸パック12は、例えば、左右方向に沿ってジグザグ状に配列されている(図示省略。水平方向における配置については、例えば
図3に示す後述の冷却筒21を参照)。各紡糸パック12には、図示しない配管から、高温の液状の溶融ポリマー(糸材料)が供給される。各紡糸パック12の下端部には、略円板状の紡糸口金13が配置されている。紡糸口金13は、例えば複数のノズル(不図示)を有する。紡糸パック12は、糸材料を紡糸口金13の複数のノズルからそれぞれ吐出する(言い換えると、糸Yを紡出する)。複数のノズルから吐出された糸材料は、冷却装置3で冷却されて、複数のフィラメントfからなる糸Yとなる。つまり、1つの紡糸口金13から1本の糸Yが紡出される。或いは、各紡糸口金13はノズルを1つのみ有していても良い。この場合、糸Yはモノフィラメント糸として生成される。なお、紡糸口金13から吐出された直後の(冷却されて固化される前の)糸材料も、本発明の糸に相当する。また、紡糸装置2は、上側シール部材31を有する(詳細については後述する)。
【0066】
冷却装置3は、複数の紡糸口金13から吐出された糸材料を冷却風により冷却して固化させるように構成されている。冷却装置3は、紡糸装置2の下側に配置されている。
図1に示すように、冷却装置3は、箱体20と、複数の冷却筒21(本発明の冷却部)とを有する。なお、
図1においては、冷却筒21は1つのみ図示されている。
【0067】
箱体20は、複数の冷却筒21が取り付けられた略直方体形状の中空の部材である。箱体20の上端には、略水平に延びた略平坦な上面20aが形成されている。箱体20の内部空間は、例えば、
図1に示すように、略水平に配置された整流板26によって上下に仕切られている。整流板26は、パンチングメタルなどの整流機能を有する材料で形成されている。
【0068】
複数の冷却筒21は、糸材料に冷却風を導くように構成されている。複数の冷却筒21は、箱体20の中に収容され、箱体20に固定されている。複数の冷却筒21は、上下方向に延びている。複数の冷却筒21は、複数の紡糸口金13の真下にそれぞれ配置されている。つまり、冷却筒21は、上下方向から見たときに、紡糸口金13から紡出された糸材料を囲うように配置されている。各冷却筒21は、パンチングフィルタ22と冷却フィルタ23とを有する。パンチングフィルタ22は、略円筒状の部材である。パンチングフィルタ22は、整流板26と同様、パンチングメタル等の整流機能を有する材料で形成されている。パンチングフィルタ22は、箱体20の上部空間(整流板26よりも上側の空間)の下端部の位置から、箱体20の上端部の位置まで延びている。冷却フィルタ23は、略円筒状の部材である。冷却フィルタ23の周壁部は、例えば、整流機能を有するメッシュ状の材料で形成されている。冷却フィルタ23は、パンチングフィルタ22の径方向内側に配置されている。冷却フィルタ23は、パンチングフィルタ22と同様に、箱体20の上部空間の下端部の位置から、箱体20の上端部の位置まで延びている。
【0069】
箱体20の下部空間(整流板26よりも下側の空間)の、複数の冷却筒21の真下の位置には、複数の仕切筒24が配置されている。仕切筒24は、空気を仕切筒24の径方向に透過させないように構成されている。ある紡糸口金13から吐出されて降下する糸材料は、当該紡糸口金13の真下に配置された冷却筒21の内部空間及び仕切筒24の内部空間をこの順に通過する。
【0070】
箱体20の下部の後側部分には、ダクト27が接続されている。ダクト27は、圧空源(図示省略)に接続されている。圧空源によって、糸材料を冷却するための空気がダクト27内に送られる。冷却用の空気は、ダクト27内を通って箱体20の下部空間内に供給される。以下、箱体20内における空気の流れについて説明する(
図1に記載された複数の矢印を併せて参照されたい)。箱体20の下部空間に流入した空気は、整流板26を通過して上向きに整流され、箱体20の上部空間へ流れる。なお、仕切筒24の壁は空気を透過させないため、箱体20の下部空間から仕切筒24内には、空気は直接的には流れ込まない。箱体20の上部空間に流入した空気は、冷却筒21を通過する際に整流されて、冷却筒21の径方向内側へ流れ込む。これにより、冷却筒21の外側全周から糸材料に空気が吹き付けられ、糸材料が冷却されて糸Yになる。
【0071】
冷却装置3は、エアシリンダ28(本発明の移動機構)によって上下方向に移動可能に構成されている。より詳細には、エアシリンダ28は、例えば工場の床面に立設されている。ピストンロッド28aは上下方向に延びている。箱体20の下端には、下側へ延びたカバー部材29が固定されている。カバー部材29の側面には、ピストンロッド28aの先端部が固定されている。このような構成において、箱体20を含む冷却装置3全体が、エアシリンダ28の動作によって、紡糸設備1が稼働しているときの稼働位置(
図1参照)と、稼働位置よりも下側のメンテナンス位置(
図2参照)との間で移動可能である。冷却装置3が稼働位置に位置しているとき、糸Yが生成されることが可能である。冷却装置3が稼働位置に位置しているとき、冷却装置3(及び徐冷部4)は、エアシリンダ28によって上側(紡糸装置2側)に向かう力を加えられている。冷却装置3がメンテナンス位置に位置しているとき、上下方向において紡糸装置2と冷却装置3との間に作業空間Swが形成されている。作業空間Swは、紡糸装置2から糸Yが紡出されていないときに、作業者が紡糸口金13の清掃等の作業を行うための空間である。
【0072】
徐冷部4は、上下方向において紡糸装置2と冷却装置3との間に配置されている。徐冷部4は、紡糸装置2から吐出された糸材料が冷却装置3によって冷却されるまでの間に、糸材料を徐々に冷やす(徐冷する)ように構成されている。徐冷部4には、糸材料を徐冷するための徐冷空間Ssが形成されている。紡糸設備1が稼働しているとき、徐冷空間Ssの圧力と、水平方向において徐冷空間Ssの外側に配置された外部空間So(
図1参照)の圧力との差は、例えば0Pa以上20Pa未満と小さい。言い換えると、徐冷空間Ssは、外部空間Soに対して微陽圧となっている。徐冷部4の詳細については後述する。
【0073】
油剤付与部5は、複数の糸Yに油剤を付与するためのものである。油剤付与部5は、冷却装置3の下側に配置される。油剤付与部5は、冷却装置3で冷却された複数の糸Yがそれぞれ接触する複数の油剤ガイド(不図示)を有する。複数の油剤ガイドは、複数の糸Yに対してそれぞれ油剤を吐出して、糸Yに油剤を付与する。油剤付与部5によって油剤が付与された複数の糸Yは、引取ローラ(不図示)によって引き取られる。さらに、複数の糸Yは巻取装置(不図示)へ送られる。複数の糸Yは、巻取装置において複数のボビン(不図示)にそれぞれ巻き取られる。
【0074】
(徐冷部の詳細構成)
次に、徐冷部4の詳細構成について、
図3~
図5を参照しつつ説明する。
図3は、冷却装置3が稼働位置に位置しているときの徐冷部4及びその近傍部分の斜視図である。図面の煩雑化を回避するため、
図3において紡糸装置2の図示を省略している。
図4(a)は、冷却装置3がメンテナンス位置に位置しているときの徐冷部4及びその近傍部分の側断面図である。
図4(b)は、
図4(a)の一部(二点鎖線で囲まれた領域R1)の拡大図である。
図5は、
図4(a)のV-V線断面図である。徐冷部4は、徐冷空間Ssの上下方向における長さの意図しない変化を長期間抑制しつつ、徐冷空間Ssにおいて必要な気密性を長期間維持するため、以下のように構成されている。
【0075】
徐冷部4は、複数の徐冷空間Ssを密閉するように構成されたシール部30を有する。シール部30は、複数の下側シール機構32(
図4(a)、(b)参照)を有する。複数の下側シール機構32は、上側シール部材31(本発明の共通部材。
図3及び
図4(a)、(b)参照)とともに複数の徐冷空間Ssを密閉するためのものである。上側シール部材31は、紡糸装置2に設けられている。複数の下側シール機構32は、冷却装置3に取り付けられている。紡糸装置2は、本発明の「紡糸装置及び冷却装置のうち他方」に相当する。冷却装置3は、本発明の「紡糸装置及び冷却装置のうち一方」に相当する。冷却装置3がメンテナンス位置に位置しているとき、上側シール部材31と複数の下側シール機構32は上下方向において互いに離隔している(
図4(a)、(b)参照)。
【0076】
上側シール部材31は、複数の徐冷空間Ssを密閉するために共通に設けられた部材である。上側シール部材31は、上下方向において、複数の紡糸口金13と複数の冷却筒21との間に配置されている。
図3に示すように、上側シール部材31は、水平方向に沿って延びている。上側シール部材31は、例えば不図示の複数のボルトによって紡糸装置2の下面に固定されている。つまり、上側シール部材31は、紡糸装置2に対して上下方向における位置が固定されている。上下方向において、上側シール部材31と紡糸装置2との間には、例えば断熱部材33が挟まれている。上側シール部材31は、例えば金属材料で形成されている。上側シール部材31を構成する材料のヤング率は、上側シール部材31の温度が紡糸装置2及び冷却装置3の稼働時の温度であるときに、例えば10GPa以上である。
図4(a)、(b)に示すように、上側シール部材31は、水平方向に沿って延びる略平板状の板部41と、板部41と一体的に設けられた略円筒状の複数の筒状部42とを有する。「一体的に設けられた」とは、板部41と複数の筒状部42とが以下のいずれのように構成されていても良いことを意味する。すなわち、板部41と複数の筒状部42とが一つの部材で形成されていても良い。或いは、板部41と複数の筒状部42とがそれぞれ別々の部材で形成されており、溶接又はネジ止め等により互いに固定されていても良い。筒状部42は、本発明の延在部及び規制部に相当する。言い換えると、規制部は筒状部42によって形成されており、延在部に含まれている。
【0077】
板部41には、それぞれ上下方向に貫通する複数の貫通孔43が形成されている(
図3及び
図4(a)参照)。複数の貫通孔43は、複数の紡糸口金13及び複数の冷却筒21にそれぞれ対応して配置されている。各貫通孔43は、上下方向から見たときに略円状である。各貫通孔43は、対応する紡糸口金13及び冷却筒21と上下方向において重なる位置に配置されている。複数の筒状部42は、複数の貫通孔43の近傍にそれぞれ配置されている。複数の筒状部42の各々は、対応する紡糸口金13の径方向において、貫通孔43よりも外側に設けられている。すなわち、板部41は、各貫通孔43の径方向において貫通孔43の外側且つ筒状部42の内側に配置された、複数の略円板状の部分を有する。当該略円板状の部分を、以下、円板部44と呼ぶ。より具体的には、複数の円板部44の各々は、
図3に示された板部41のうち、複数の二点鎖線の各々で囲まれた部分である。円板部44は、上下方向において、対応する筒状部42と隣接配置されている。各筒状部42は、板部41の下面から下側に突出しており、上下方向に延びている。各筒状部42は、対応する徐冷空間Ssの全周を囲むように設けられている(言い換えると、対応する徐冷空間Ssの周りに配置されている)。各筒状部42は、上下方向から見たときに略円環形状を有する。各筒状部42は、内周面45と、外周面46と、下面47(
図4(b)参照)とを有する。内周面45は、後述する複数の内側接触片61と接触する面である。外周面46は、後述する複数の外側接触片62と接触する面である。内周面45及び外周面46は、上下方向から見たときに円状である。内周面45及び外周面46は、本発明の周面に含まれる。下面47は、筒状部42の上下方向における下側の端(すなわち、上下方向における先端)に形成されている。下面47は、後述する第1取付部51と接触することにより、徐冷空間Ssの上下方向における長さを規定する面である。下面47は、上下方向と平行な断面において、例えばU字状に湾曲している(
図4(a)、(b)参照)。但し、下面47の形状はこれに限られない。
【0078】
複数の下側シール機構32は、上側シール部材31の複数の筒状部42(及び複数の円板部44)にそれぞれ対応して設けられている。複数の下側シール機構32は、複数の紡糸口金13の真下にそれぞれ配置されている。複数の下側シール機構32の各々は、
図4(a)、(b)に示すように、第1取付部51と、第2取付部52と、接触部53と、付勢部54とを有する。概要として、上下方向に並べて略水平に配置された第1取付部51と第2取付部52との間に、接触部53及び付勢部54が配置されている。第1取付部51及び第2取付部52は、接触部53及び付勢部54によって形成される隙間を密閉するように構成されている。第1取付部51及び第2取付部52は、本発明の隔壁部に相当する。接触部53は、対応する筒状部42と接触するように構成されている。接触部53は、筒状部42とは別に設けられている。付勢部54は、接触部53を筒状部42へ向けて付勢するように構成されている。
【0079】
以下、
図4(a)、(b)及び
図5に示された下側シール機構32に着目して説明を続ける。説明の便宜上、当該下側シール機構32に対応する筒状部42の周方向を、単に周方向と呼ぶ(
図5参照)。筒状部42の径方向を、単に径方向と呼ぶ。径方向は、上下方向及び周方向と直交する方向である。
【0080】
第1取付部51は、略水平に配置された部材である。第1取付部51は、例えば金属材料で形成されている。第1取付部51を構成する材料のヤング率は、第1取付部51の温度が紡糸装置2及び冷却装置3の稼働時の温度であるときに、例えば10GPa以上である。第1取付部51は、例えば略円板形状である。
図4(b)に示すように、第1取付部51は、上面51a(本発明の規制面)を有する。上面51aは、筒状部42の下面47と接触することにより、徐冷空間Ssの上下方向における長さを規定する面である。上面51aは、略平面状であり、水平方向に沿って略平坦であるように配置されている。第1取付部51の径方向における略中央部には、第1取付部51を上下方向に貫通する貫通孔51bが形成されている(
図4(b)参照)。貫通孔51bは、徐冷空間Ssの上下方向における一部を形成している孔である。第1取付部51は、例えば不図示の複数のボルトによって箱体20の上端部に固定されている。つまり、第1取付部51は、冷却装置3に対して上下方向における位置が固定されている。上下方向において、第1取付部51と箱体20の上端部との間には、例えば板状のシール部材55(
図4(b)参照)が設けられている。シール部材55は、上下方向において紡糸装置2から比較的遠い位置に配置されている。このため、シール部材55は、例えばゴム材料で形成されていても良い。
【0081】
第1取付部51の、貫通孔51bの近傍部分には、略円環形状を有する内側固定リング56(
図4(a)、(b)及び
図5参照)が取り付けられている。内側固定リング56は、例えば金属材料で形成されている。内側固定リング56は、略水平に配置され、例えば不図示の複数のボルトによって第1取付部51の上面51a(
図4(b)参照)に固定されている。内側固定リング56には、径方向における内側が開口した複数の凹部56aが形成されている。また、内側固定リング56において、各凹部56aの径方向における外側には、径方向に平行な方向に貫通した貫通孔56bが形成されている。複数の凹部56a及び複数の貫通孔56bには、複数のボルト部材B1がそれぞれ挿通されている。複数のボルト部材B1は、後述の複数の内側接触片61に固定される部材である。ボルト部材B1は、例えば公知の半ねじの(先端側部分にのみ雄ねじが形成された)ボルトである。ボルト部材B1の先端部は、径方向(
図4(a)、(b)参照)における外側へ延びている。ボルト部材B1の頭部は、内側固定リング56のうち貫通孔56bの周縁部によって、径方向における外側への移動が規制されている。
【0082】
内側固定リング56の径方向における外側(より具体的には、第1取付部51の径方向における外側の端部近傍)には、略円環形状を有する外側固定リング57(
図4(a)、(b)及び
図5参照)が設けられている。外側固定リング57は、例えば金属材料で形成されている。外側固定リング57は、略水平に配置され、例えば不図示の複数のボルトによって第1取付部51の上面51aに固定されている。外側固定リング57には、径方向における外側が開口した複数の凹部57aが形成されている。また、外側固定リング57において、各凹部57aの径方向における内側には、径方向に平行な方向に貫通した貫通孔57bが形成されている。複数の凹部57a及び複数の貫通孔57bには、複数のボルト部材B2がそれぞれ挿通されている。複数のボルト部材B2は、後述の複数の外側接触片62に固定される部材である。ボルト部材B2は、ボルト部材B1と同様の、例えば公知の半ねじのボルトである。ボルト部材B2の先端部は、径方向(
図4(a)、(b)参照)における内側へ延びている。ボルト部材B2の頭部は、外側固定リング57のうち貫通孔57bの周縁部によって、径方向における内側への移動が規制されている。
【0083】
第2取付部52は、内側取付板58と外側取付板59とを有する(
図4(a)、(b)参照)。第2取付部52は、例えば金属材料で形成されている。内側取付板58は、略円板形状を有する。内側取付板58には、内側取付板58を上下方向に貫通する貫通孔58aが形成されている(
図4(b)参照)。貫通孔58aは、徐冷空間Ssの上下方向における一部を形成している孔である。上下方向から見たときに、貫通孔58aの中心位置は、貫通孔51bの中心位置と略等しい。内側取付板58は、例えば不図示の複数のボルトによって内側固定リング56の上端面に固定されている。内側取付板58は、上下方向において円板部44と少なくとも部分的に重なっている(
図4(a)参照)。つまり、内側取付板58は、上下方向において円板部44と向かい合っている。外側取付板59は、略円板形状を有する。外側取付板59は、例えば不図示の複数のボルトによって外側固定リング57の上端面に固定されている。外側取付板59は、径方向において内側取付板58の外側に配置されている。外側取付板59の上下方向における位置は、内側取付板58の上下方向における位置と略等しい。径方向において、外側取付板59と内側取付板58との間には隙間Gが形成されている(
図4(a)、(b)参照)。
【0084】
接触部53は、上下方向において第1取付部51と第2取付部52との間に配置されている。接触部53は、複数の内側接触片61と、複数の外側接触片62とを有する(
図4(a)、(b)及び
図5参照)。冷却装置3がメンテナンス位置に位置しているとき、筒状部42と接触部53は上下方向において互いに離隔している(以下、この状態を離隔状態と呼ぶ)。接触部53は、冷却装置3の上下方向における移動に伴い、筒状部42に対して上下方向に移動可能である。言い換えると、筒状部42と接触部53とは、上下方向において相対移動可能である。これにより、筒状部42及び接触部53は、離隔状態と、互いに接触する接触状態(詳細は後述)との間で状態が切り替えられることが可能である。
【0085】
複数の内側接触片61は、筒状部42の内周面45と接触するように構成されている(詳細については後述する)。複数の内側接触片61の各々は、例えば金属材料で形成されている。各内側接触片61を構成する材料のヤング率は、各内側接触片61の温度が紡糸装置2及び冷却装置3の稼働時の温度であるときに、例えば10GPa以上である。
図4(a)~
図5に示すように、複数の内側接触片61は、内側固定リング56の径方向における外側に配置されている。複数の内側接触片61の各々は、略円環形状のリング部材(不図示)が周方向において分割された形状を有する。本実施形態では、接触部53は3つの内側接触片61を有する。より詳しくは、各内側接触片61の径方向における外側の面(外周面61a)は、上下方向から見たときに、円が三等分されて形成された円弧の形状を有する(
図5参照)。外周面61aの曲率半径は、筒状部42の内周面45の半径と略等しい。各内側接触片61の内周面には、周方向において互いに離れて配置された複数の雌ねじ(不図示)が形成されている。上述したボルト部材B1の雄ねじが当該雌ねじに螺合されている。複数の内側接触片61は、上下方向において円板部44と少なくとも部分的に重なっている。複数の内側接触片61は、径方向に移動可能に構成されている。より具体的には、各内側接触片61は、第1取付部51及び第2取付部52に対して径方向に摺動可能に配置されている。各内側接触片61の下面は、例えば第1取付部51の上面51aと接触している。各内側接触片61の上面と第2取付部52の下面との上下方向における距離は、約0.2mmである。各内側接触片61の周方向における両端に形成された面(端面61b)は、周方向において隣接する内側接触片61の端面61bと接触可能に配置されている(詳細については後述する)。互いに対向する2つの端面61bの間には、内側隙間G1が形成されている。
【0086】
各内側接触片61の径方向における外側の端部には、内側押圧面61c(
図4(b)参照)が形成されている。筒状部42及び接触部53が上記の離隔状態にあるとき、内側押圧面61cは、上下方向において筒状部42と少なくとも部分的に重なる。筒状部42及び接触部53が上記の離隔状態にあるとき、内側押圧面61cは、径方向における外側且つ上下方向における筒状部42側(本実施形態では上側)を向いている。
【0087】
複数の外側接触片62は、筒状部42の外周面46と接触するように構成されている(詳細については後述する)。複数の外側接触片62の各々は、例えば金属材料で形成されている。各外側接触片62を構成する材料のヤング率は、各外側接触片62の温度が紡糸装置2及び冷却装置3の稼働時の温度であるときに、例えば10GPa以上である。複数の外側接触片62は、複数の内側接触片61の径方向における外側且つ外側固定リング57の径方向における内側に配置されている。複数の外側接触片62の各々は、略円環形状のリング部材(不図示)が周方向において分割された形状を有する。本実施形態では、接触部53は3つの外側接触片62を有する。より詳しくは、各外側接触片62の径方向における内側の面(内周面62a)は、上下方向から見たときに、例えば、円が三等分されて形成された円弧の形状を有する(
図5参照)。内周面62aの曲率半径は、筒状部42の外周面46の半径と略等しい。各外側接触片62の外周面には、周方向において互いに離れて配置された複数の雌ねじ(不図示)が形成されている。上述したボルト部材B2の雄ねじが当該雌ねじに螺合されている。複数の外側接触片62は、径方向に移動可能に構成されている。より具体的には、各外側接触片62は、第1取付部51及び第2取付部52に対して径方向に摺動可能に配置されている。各外側接触片62の下面は、例えば第1取付部51の上面51aと接触している。各外側接触片62の上面と第2取付部52の下面との上下方向における距離は、約0.2mmである。各外側接触片62の周方向における両端に形成された面(端面62b)は、周方向において端面61bと異なる位置に配置されている。つまり、互いに対向する2つの端面62bの間に形成された外側隙間G2は、周方向において内側隙間G1と異なる位置に配置されている。
【0088】
各外側接触片62の径方向における内側の端部には、外側押圧面62c(
図4(b)参照)が形成されている。筒状部42及び接触部53が離隔状態にあるとき、外側押圧面62cは、上下方向において筒状部42と少なくとも部分的に重なる。筒状部42及び接触部53が離隔状態にあるとき、外側押圧面62cは、径方向における内側且つ上下方向における筒状部42側(すなわち、上側)を向いている。
【0089】
付勢部54は、複数のバネ部材71(付勢部材)を有する。複数のバネ部材71の各々は、例えば金属材料からなる圧縮コイルバネである。
図4(a)~
図5に示すように、複数のバネ部材71は、複数の内側バネ部材72(本発明の内側付勢部材)と複数の外側バネ部材73(本発明の外側付勢部材)とを含む。複数の内側バネ部材72は、径方向において内側固定リング56の外側且つ複数の内側接触片61の内側に配置されている。例えば本実施形態では、複数の内側バネ部材72として6つの内側バネ部材72が設けられている(
図5参照)。2つの内側バネ部材72が1つの内側接触片61に対応して設けられている。各内側バネ部材72には、ボルト部材B1の頭部と雄ねじとの間の部分が挿通されている。内側バネ部材72の一端は、内側固定リング56の外周面に接触している。内側バネ部材72の他端は、対応する内側接触片61の内周面に接触している。これにより、各内側バネ部材72は、対応する内側接触片61を径方向における外側へ付勢する。
【0090】
複数の外側バネ部材73は、径方向において複数の外側接触片62の外側且つ外側固定リング57の内側に配置されている。例えば本実施形態では、複数の内側バネ部材72として6つの外側バネ部材73が設けられている(
図5参照)。2つの外側バネ部材73が1つの外側接触片62に対応して設けられている。各外側バネ部材73には、ボルト部材B2の頭部と雄ねじとの間の部分が挿通されている。外側バネ部材73の一端は、外側固定リング57の内周面に接触している。外側バネ部材73の他端は、対応する外側接触片62の外周面に接触している。これにより、各外側バネ部材73は、対応する外側接触片62を径方向における内側へ付勢する。筒状部42及び接触部53が離隔状態にあるとき、内側接触片61の外周面61aと外側接触片62の内周面62aとが当接している。
【0091】
筒状部42及び接触部53が離隔状態にあるとき、作業者は、筒状部42と接触部53との間に形成された隙間を通して、清掃道具(不図示)を紡糸口金13等に近づけることができる。これにより、作業者は、紡糸口金13等の清掃作業を含むメンテナンス作業を行うことができる。
【0092】
(シール機構の動作)
次に、冷却装置3がメンテナンス位置から稼働位置へ上昇させられるときのシール部30の動作について、
図6(a)~
図8を参照しつつ説明する。
図6(a)は、接触部53が筒状部42に接触し始めたときの下側シール機構32の動作を示す説明図である。
図6(b)は、
図6(a)に示す状態から下側シール機構32がさらに上昇した状態を示す説明図である。
図7(a)は、冷却装置3が稼働位置に位置しているときの徐冷部4及びその近傍部分の側断面図である。
図7(b)は、
図7(a)の一部(二点鎖線で囲まれた領域R2)の拡大図である。
図8は、
図7(a)のVIII-VIII線断面図である。
【0093】
メンテナンス位置に位置している冷却装置3をエアシリンダ28が上方へ移動させることにより、冷却装置3が稼働位置まで上昇させられる。これに伴い、冷却装置3に取り付けられた下側シール機構32も上昇する(
図6(a)の矢印参照)。下側シール機構32が上昇する過程において、
図6(a)に示すように、筒状部42の下部が内側取付板58と外側取付板59との間を相対的に通過し、接触部53の内側接触片61及び外側接触片62が筒状部42に接触する。より具体的には、内側接触片61の内側押圧面61c及び外側接触片62の外側押圧面62cが、筒状部42の下面47と当接する。このとき、内側接触片61及び外側接触片62に対し、エアシリンダ28による上向きの力が作用している。このため、作用反作用の法則により、内側接触片61及び外側接触片62に対して筒状部42によって下向きの力が作用する。内側押圧面61cは上側且つ径方向における外側を向いているため、内側押圧面61cに対して下側且つ径方向における内側への力が作用する(
図6(a)の矢印参照)。これにより、内側接触片61は筒状部42によって径方向における内側へ移動させられる。また、外側押圧面62cは上側且つ径方向における内側を向いているため、外側押圧面62cに対して下側且つ径方向における外側への力が作用する(
図6(a)の矢印参照)。これにより、外側押圧面62cは筒状部42によって径方向における外側へ移動させられる。下側シール機構32がさらに上昇すると、内側接触片61及びボルト部材B1が径方向においてさらに内側へ移動し、外側接触片62及びボルト部材B2が径方向においてさらに外側へ移動する(
図6(b)の矢印参照)。このとき、内側バネ部材72及び外側バネ部材73は筒状部42によって径方向に押圧され、弾性変形する。
【0094】
このように、接触部53は、冷却装置3がメンテナンス位置から稼働位置へ移動するときに、筒状部42と当接することにより、付勢部54による付勢力に抗して少なくとも水平方向に移動可能である。
【0095】
冷却装置3の稼働位置への移動が完了したとき、
図7(a)、(b)に示すように、内側接触片61の外周面61aと筒状部42の内周面45とが接触し、外側接触片62の内周面62aと筒状部42の外周面46とが接触している(接触状態)。内側接触片61は、内側バネ部材72の弾性復元力によって径方向における外側へ(すなわち、筒状部42に向けて)付勢されている。また、外側接触片62は、外側バネ部材73の弾性復元力によって径方向における内側へ(すなわち、筒状部42に向けて)付勢されている。言い換えると、内側接触片61及び外側接触片62は、上下方向と略直交する方向(交差する方向)に付勢されている。当該径方向は、本発明の付勢方向に相当する。また、接触部53及び付勢部54によって形成される隙間は、第1取付部51及び第2取付部52によって密閉されている。
【0096】
また、冷却装置3が稼働位置に位置しているとき、
図7(a)、(b)に示すように、筒状部42の下面47が第1取付部51の上面51aに接触している。これにより、筒状部42と第1取付部51との上下方向における移動が規制される。つまり、互いに接触している筒状部42と第1取付部51とによって、徐冷空間Ssの上下方向における長さが規定される。また、冷却装置3が稼働位置に位置しているとき、板部41の円板部44の下面と内側取付板58の上面との上下方向における距離は、例えば約1.1mmである。このように、円板部44と内側取付板58との間に形成される隙間が狭くなっている。但し、隙間の具体的な大きさは、上記の具体的な値に限られない。
【0097】
上述したように、内側接触片61の外周面61aの曲率半径は、筒状部42の内周面45の半径と略等しい。これにより、冷却装置3が稼働位置に位置しているとき(つまり、筒状部42と接触部53が接触状態であるとき)、
図8に示すように、外周面61aが内周面45に沿って密着する。
【0098】
また、筒状部42と接触部53が接触状態であるとき、内側接触片61は、筒状部42と接触部53が離隔状態であるときと比べて径方向における内側に位置している。このとき、互いに隣接する2つの端面61bは、近接して向かい合い又は互いに接触している。内側隙間G1は、筒状部42及び接触部53が接触状態にあるとき、筒状部42及び接触部53が離隔状態にあるときと比べて周方向において狭い。これにより、徐冷空間Ssの気密性が向上する。
【0099】
また、上述したように、外側接触片62の内周面62aの曲率半径は、筒状部42の外周面46の半径と略等しい。これにより、筒状部42と接触部53が接触状態であるとき、
図8に示すように、内周面62aが、外周面46に沿って密着する。
【0100】
また、内側隙間G1と外側隙間G2との周方向における位置が互いに異なっている。このため、徐冷空間Ssと、徐冷空間Ssの径方向における外側の空間との間で気体が移動することが抑制される。
【0101】
(密閉性の評価)
次に、以上のような構成を有するシール部30の密閉性の評価内容及びその結果について説明する。本願発明者は、シール部30と概ね同じ構造を有する試験用チャンバー(不図示)を準備した。より具体的に説明すると、本願発明者は、上下方向から見たときに接触部53よりもやや大きい箱型の部材(以下、箱部材)を準備した。箱部材は、概ね立方体形状の金属製の中空部材である。本願発明者は、箱部材の下面を不図示の板部材によって密封した。本願発明者は、箱部材の4つの側面のうち1つ(第1側面)に空気の入口を形成した。本願発明者は、第1側面と対向する側面(第2側面)に空気の出口(第1出口)を形成した。本願発明者は、残り2つの側面のうち一方にもう一つの空気の出口(第2出口)を形成し、他方に差圧計を取り付けた。差圧計は、試験用チャンバーの内部空間と外部空間との間の差圧を計測するための公知の計器である。本願発明者は、箱部材の上面に接触部53と同じ構造のシール部を設け、当該シール部に以下の蓋部材を装着した。蓋部材は、上述した筒状部42と同じ形状の筒と、上述した円板部44と同じ形状の円板とを有する。本願発明者は、当該円板の貫通孔(上述した貫通孔43と同じ形状)をテープにより密閉した。
【0102】
以上の構成を有する試験用チャンバーにおいて、上記入口から注入された空気は、原則として第1出口及び第2出口から排出される。その上で、本願発明者は、公知のスモークテスターを用いて空気の流れを視認することにより、シール部と蓋部材との間の密閉性が十分か否か確認した。内部空間の圧力が外部空間の圧力よりも約50Pa高い(すなわち、差圧が約50Paである)とき、シール部と蓋部材との間での空気漏れは視認されなかった。上述したように、紡糸設備1が稼働しているとき、徐冷空間Ssの圧力と外部空間の圧力との差は20Pa未満である。したがって、試験用チャンバーにおいて十分な密閉性が得られることが確認された。
【0103】
以上のように、シール部30において、エアシリンダ28とは別に設けられた付勢部54によって、接触部53を紡糸装置2(筒状部42)に押し付けることができる。また、接触部53及び付勢部54によって徐冷空間Ssと外部空間Soとの間に隙間が形成されていても、当該隙間を第1取付部51及び第2取付部52によって塞ぐことができる。徐冷空間Ssの圧力と外部空間Soの圧力との差は一般的に小さいため、必要な気密性をこのようなシール部30によって確保できる。これにより、接触部53、付勢部54、第1取付部51及び第2取付部52の各々を構成する部材として、ゴム材料からなる部材を用いなくても、徐冷空間Ssと外部空間Soとの間に形成される隙間をある程度密閉できる。
【0104】
また、接触部53が摩耗又は変形しても、付勢部54によって接触部53を筒状部42にしっかり接触させることができるので、必要な気密性を確保できる。
【0105】
また、付勢部54によって、複数の紡糸口金13間の設計誤差(例えば複数の紡糸口金13のサイズ及び/又は位置関係の誤差)を容易に吸収できる。
【0106】
また、シール部30が設けられているため、筒状部42は徐冷空間Ssと外部空間Soとの間の隙間を密閉するように構成されていなくても良い。このため、筒状部42を構成する部材として、ゴム材料からなる部材とは異なる部材を適用できる。これにより、紡糸装置2から発せられる熱による筒状部42の劣化、及び変形を抑制できる。したがって、徐冷空間Ssの上下方向における長さの意図しない変化を抑制できる。以上より、徐冷空間Ssの上下方向における長さの意図しない変化を長期間抑制しつつ、徐冷空間Ssにおいて必要な気密性を長期間維持できる。
【0107】
また、紡糸装置2及び冷却装置3の稼働時における筒状部42の材料のヤング率が10GPaと高い。したがって、冷却装置3がエアシリンダ28によって上側に押されることにより筒状部42に圧力が加えられても、筒状部42の変形を効果的に抑制できる。
【0108】
また、筒状部42の材料が金属材料であるため、筒状部42を早期交換する必要が生じることを効果的に抑制できる。
【0109】
また、紡糸装置2及び冷却装置3の稼働時における接触部53の材料のヤング率が10GPaと高い。つまり、接触部53が硬い材料によって形成されており、歪むことが抑制されるため、接触部53を早期交換する必要が生じることを抑制できる。
【0110】
また、接触部53の材料が劣化しにくい金属材料であるため、接触部53を早期交換する必要が生じることを効果的に抑制できる。
【0111】
また、付勢部54は、複数のバネ部材71を有する。バネ部材71は、一般的に、劣化しにくい金属部材によって形成されている。したがって、付勢部54を早期交換する必要が生じることを効果的に抑制できる。
【0112】
また、バネ部材71は、圧縮コイルバネである。一般的に安価な圧縮コイルバネを用いることにより、部品コストの増大を抑制できる。
【0113】
また、シール部30を構成する部材が冷却装置3に取り付けられている。したがって、シール部30を構成する部材が紡糸装置2に取り付けられている構成と比べて、これらの部材が過熱されることを抑制できる。
【0114】
また、複数のバネ部材71が接触部53を付勢する付勢方向が、上下方向と交差している(つまり、水平方向における成分を有する)。これにより、シール部30の上下方向におけるサイズに厳しい制約が課された構成においても、水平方向において付勢部54の設置スペースを確保できる。したがって、付勢部54の設計の自由度を高くすることができる。
【0115】
また、徐冷空間Ssの上下方向における長さは、細い糸Yが紡出される場合に特に短くする必要がある。徐冷空間Ssは、紡糸装置2と冷却装置3との間に設けられた比較的不安定な領域である。このため、徐冷空間Ssが上下方向において長すぎると、外乱の影響を特に受けやすい細い糸Yにおいて、糸ムラが生じる懸念がある。この点、本実施形態では、シール部30の上下方向におけるサイズを小さくすることができるので、細い糸Yを製造する場合において特に有効である。
【0116】
また、筒状部42が接触部53と接触し、且つ本発明の規制部としても機能する。したがって、接触部53と接触する部材と、規制部を構成する部材とが別々に設けられた構成と比べて、部材の数を削減できる。
【0117】
また、筒状部42と接触する上面51aが水平方向に対して傾きを有している構成では、筒状部42と上面51aとの水平方向における相対位置が変わると、筒状部42と上面51aとの上下方向における相対位置が変わるおそれがある。これにより、徐冷空間Ssの上下方向における長さが変わってしまうおそれがある。本実施形態では、上面51aが水平方向に沿って平坦であるように配置されているので、このような問題の発生を抑制できる。
【0118】
また、接触部53は、冷却装置3がメンテナンス位置から稼働位置へ移動するときに、筒状部42と当接することにより、付勢部54による付勢力に抗して少なくとも水平方向に移動可能である。これにより、接触部53の水平方向における位置が筒状部42の水平方向における位置に対して多少ずれていても、接触部53が筒状部42に押されて移動できる。したがって、筒状部42と接触部53とを密着させつつ、筒状部42と接触部53との水平方向における位置ずれを補償できる。
【0119】
また、周方向において複数の内側接触片61の間に形成される内側隙間G1は、筒状部42及び接触部53が接触状態にあるとき、筒状部42及び接触部53が離隔状態にあるときと比べて周方向において狭い。したがって、徐冷空間Ssの気密性の低下を極力抑制できる。
【0120】
また、内側接触片61は内側押圧面61cを有する。このような構成では、筒状部42と接触部53が離隔状態から接触状態に切り換えられる際に、筒状部42の下面47が内側押圧面61cに当接することにより、内側接触片61が径方向における内側へ押される。これにより、互いに接触した筒状部42と内側接触片61とを上下方向にスムーズに相対移動させ、且つ、内側接触片61を径方向における内側へ移動させることができる。したがって、筒状部42及び接触部53を上下方向に相対移動させるという単純な動作によって、筒状部42の内周面45と内側接触片61とを接触させることができる。
【0121】
また、円板部44は、上下方向において複数の内側接触片61(及び内側取付板58)と少なくとも部分的に重なっている。このため、筒状部42及び接触部53が接触状態にあるときに、円板部44によって複数の内側接触片61の近傍の空間を上下方向において狭くすることができる。これにより、徐冷空間Ssの気密性をより高めることができる。
【0122】
また、円板部44は、隔壁部(より具体的には、第2取付部52の内側取付板58)と上下方向において向かい合っている。これにより、円板部44及び内側取付板58によって、複数の内側接触片の近傍の空間を上下方向において狭くすることができる。これにより、徐冷空間の気密性をより高めることができる。
【0123】
また、複数のバネ部材71は、複数の外側接触片62を筒状部42の外周面46に向けてそれぞれ付勢する複数の外側バネ部材73を含む。したがって、外側接触片62によって、徐冷空間Ssの気密性をさらに高めることができる。
【0124】
また、外側接触片62は外側押圧面62cを有する。このような構成では、筒状部42と接触部53が離隔状態から接触状態に切り換えられる際に、筒状部42の下面47が外側押圧面62cに当接することにより、外側接触片62が径方向における外側へ押される。したがって、筒状部42及び接触部53を上下方向に相対移動させるという単純な動作によって、筒状部42の外周面46と外側接触片62とを接触させることができる。
【0125】
また、複数の外側隙間G2と複数の内側隙間G1との間に、気体の通路が意図せず形成された場合でも、当該通路を長くすることができる。これにより、気体が徐冷空間Ssと徐冷空間Ssの外側の空間との間で出入りしてしまうことをさらに抑制できる。したがって、徐冷空間Ssの気密性をさらに高めることができる。
【0126】
また、筒状部42は、上下方向から見たときに略円環形状を有する。したがって、延在部の形状を単純にすることができる。
【0127】
また、紡糸装置2及び冷却装置3が稼働している状態において、徐冷空間Ssの圧力と外部空間Soの圧力との差が20Pa未満である。これにより、徐冷空間Ssにおいて必要な気密性をシール部30によって容易に確保できる。
【0128】
また、複数の筒状部42が、1つの上側シール部材31に含まれている。板部41と複数の筒状部42とが一つの部材で形成されていると好ましい。これにより、複数の筒状部42が別々の部材によって形成されている場合と比べて、複数の徐冷空間Ssの上下方向における長さのばらつきを抑制できる。
【0129】
また、接触部53は筒状部42(規制部)とは別に設けられている。このため、接触部53が摩耗又は変形しても、筒状部42によって徐冷空間Ssの長さを一定に維持できる。
【0130】
次に、前記実施形態に変更を加えた変形例について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0131】
(1)前記実施形態において、筒状部42が上下方向から見たときに略円環形状を有するものとした。すなわち、筒状部42の内周面45及び外周面46が、上下方向から見たときに円状であるものとした。しかしながら、これには限られない。筒状部42は、上下方向から見たときに略円環形状以外の形状を有していても良い。内周面45及び外周面46のうち少なくとも一方が、上下方向から見たときに例えば複数の直線を有する多角形状であっても良い(不図示)。これに応じて、複数の内側接触片61の外周面61a及び/又は外側接触片62の内周面62aが、上下方向から見たときに直線状に形成されていても良い。
【0132】
(2)前記までの実施形態において、外側隙間G2が周方向において内側隙間G1と異なる位置に配置されているものとした。しかしながら、これには限られない。外側隙間G2が周方向において内側隙間G1と略同じ位置に配置されていても良い。
【0133】
(3)前記までの実施形態において、外側接触片62に外側押圧面62cが形成されているものとした。しかしながら、これには限られない。外側押圧面62cは形成されていなくても良い。例えば、外側接触片62の上端部且つ径方向における内側端部に角が形成されていても良い。このような場合、例えば、筒状部42の下端部の上下方向に沿った断面が薄く形成されていても良い。そして、冷却機構がメンテナンス位置から稼働位置へ上昇しているときに、筒状部42の下端部が相対移動することにより、内側接触片61と外側接触片62との径方向における隙間に割り込んでも良い。このようにして、筒状部42が内側接触片61及び外側接触片62を径方向に移動させても良い。同様に、内側押圧面61cが内側接触片61に形成されていなくても良い。
【0134】
(4)前記までの実施形態において、接触部53が外側接触片62を有しているものとした。しかしながら、これには限られない。接触部53は外側接触片62を有していなくても良い。
【0135】
(5)前記までの実施形態において、内側接触片61の上側に内側取付板58が設けられているものとした。これによって、円板部44と内側取付板58とが上下方向において互いに重なっており、複数の内側接触片61の近傍の空間が上下方向において狭くなっているものとした。しかしながら、これには限られない。内側取付板58は、上下方向において円板部44と重なるように配置されていなくても良い。
【0136】
(6)前記までの実施形態において、上側シール部材31が複数の円板部44を有しているものとした。これによって、複数の内側接触片61の近傍の空間が上下方向において狭くなっているものとした。しかしながら、これには限られない。上側シール部材31は、円板部44を有していなくても良い。
【0137】
(7)前記までの実施形態において、複数の内側隙間G1は、筒状部42及び接触部53が接触状態にあるときに、筒状部42及び接触部53が離隔状態にあるときと比べて周方向において狭いものとした。しかしながら、これには限られない。接触部53は、筒状部42及び接触部53が接触状態にあるときと、筒状部42及び接触部53が離隔状態にあるときとで複数の内側隙間G1の大きさが変化しないように構成されていても良い。
【0138】
(8)前記までの実施形態において、接触部53が内側接触片61を有しているものとした。しかしながら、これには限られない。接触部53は内側接触片61を有していなくても良い。接触部53は、外側接触片62のみを有していても良い。
【0139】
(9)前記までの実施形態において、複数のバネ部材71が接触部53を径方向に付勢しているものとした。しかしながら、これには限られない。複数のバネ部材71は、接触部53を、例えば径方向且つ上下方向の成分を有する方向に付勢するように配置されていても良い。或いは、例えば、シール部30とは別のシール部81(
図9(a)、(b)参照)が紡糸設備1に設けられていても良い。以下、より具体的に説明する。
【0140】
図9(a)、(b)に示すように、シール部81は、上述した上側シール部材31と、冷却装置3に取り付けられた下側シール機構82とを有する。下側シール機構82は、第1取付部83と、第2取付部84と、固定リング85と、接触部86(本発明の囲み部)と、付勢部87とを有する。第1取付部83は、上下方向に延びた筒状の部材である。第1取付部83は、冷却筒21の真上に配置され且つ箱体20の上面20aに固定されている。第1取付部83は、接触部86及び付勢部87の径方向における外側に配置され、接触部86及び付勢部87によって形成される隙間を密閉するように構成されている。第2取付部84は、上下方向に延びた筒状の部材である。第2取付部84は、第1取付部83の径方向における外側に配置され且つ箱体20の上面20aに固定されている。第2取付部84は、接触部86及び付勢部87の径方向における内側に配置され、接触部86及び付勢部87によって形成される隙間を密閉するように構成されている。第1取付部83及び第2取付部84の少なくとも一方が、本発明の隔壁部に相当する。径方向において、第1取付部83と第2取付部84との間に隙間が形成されている。固定リング85は、略水平に配置された略円環形状の部材であり、当該隙間に配置されている。固定リング85は、箱体20の上面20aに固定されている。固定リング85は、上下方向において第1取付部83及び第2取付部84よりも短い。固定リング85には、下側が開口した複数の凹部(図示省略)が形成されている。複数の凹部の上側には、固定リング85を上下方向に貫通した貫通孔(図示省略)が形成されている。複数の凹部及び複数の貫通孔には、ボルト部材B1及びB2と同じ構成を有する複数のボルト部材B3がそれぞれ挿通されている。ボルト部材B3の先端部は、上側へ延びている。ボルト部材B3の頭部は、固定リング85のうち貫通孔の周縁部によって、上側への移動が規制されている。
【0141】
接触部86は、例えば略円環形状の部材である。接触部86の材料は、例えば金属材料である。接触部86の材料のヤング率は、接触部86の温度が紡糸装置2及び冷却装置3の稼働時の温度であるときに、例えば10GPa以上である。接触部86は、上側シール部材31の円板部44の真下に配置されている。接触部86は、上側を向いた上面86a(本発明の端面)を有する。また、円板部44は、下側を向いた下面44a(本発明の接触面)を有する。上面86aは、下面44aと上下方向において対向するように配置されている。上面86a(本発明の端面及び接触面のうち一方)は、上下方向から見たときに、下面44a(本発明の端面及び接触面のうち他方)の領域の内側に収まっていても良い。接触部86は、固定リング85の真上に配置されている。接触部86は、固定リング85と同様に、第1取付部83と第2取付部84との間の隙間に配置されている。接触部86の下面には雌ねじが形成されている。ボルト部材B3の雄ねじが当該雌ねじに螺合されている。付勢部87は、例えば複数のバネ部材88を有する。各バネ部材88は、例えば内側バネ部材72及び外側バネ部材73と同様の圧縮コイルバネである。バネ部材88は、上下方向に伸縮可能に配置されている。バネ部材88には、ボルト部材B3の頭部と雄ねじとの間の部分が挿通されている。これにより、各バネ部材88は、接触部86を上側へ付勢する。接触部86は、第1取付部83及び第2取付部84に対して上下方向に摺動可能である。当該変形例では、筒状部42は、本発明の規制部に相当する。
【0142】
円板部44及び接触部86は、円板部44の下面44aと接触部86の上面86aとが互いに離隔した離隔状態(
図9(a)参照)と、下面44aと上面86aとが互いに接触した接触状態(
図9(b)参照)との間で状態を切り替え可能である。円板部44及び接触部86が接触状態にあるとき、上側シール部材31の筒状部42の下面47は、箱体20の上面20aに接触している。上面20aが本発明の規制面に相当する。本発明の構成においても、徐冷空間Ssの気密性を確保できる。また、接触部86の水平方向における位置が円板部44の水平方向における位置に対して多少ずれていても、位置ずれを気にすることなく徐冷空間Ssの気密性を確保できる。但し、徐冷空間Ssの上下方向における長さを所定の長さ以下にするための工夫が求められる。なお、シール部81においては、筒状部42の代わりに、例えば上下方向に延びた複数のポール状の部材(不図示)が周方向に並べて配置されていても良い。この場合、複数のポール状の部材の各々が本発明の規制部に相当する。
【0143】
(10)前記までの実施形態において、複数の筒状部42及び複数の円板部44の全てが1つの上側シール部材31に含まれるものとした。しかしながら、これには限られない。上側シール部材31は、複数の部材に分割されていても良い。
【0144】
(11)前記までの実施形態において、第1取付部51の上面51aが平坦であるものとした。或いは、箱体20の上面20aが平坦であるものとした。しかしながら、これには限られない。上面51aのうち筒状部42と接触する部分が、傾斜或いは湾曲していても良い。上面20aのうち筒状部42と接触する部分が、傾斜或いは湾曲していても良い。
【0145】
(12)冷却装置3を上下方向に移動させる移動機構として、エアシリンダ28の代わりに、例えば油圧シリンダ(不図示)が設けられていても良い。或いは、例えば不図示の油圧ジャッキが移動機構として設けられていても良い。
【0146】
(13)前記までの実施形態において、下側シール機構32及び付勢部54が冷却装置3に取り付けられ、上側シール部材31が紡糸装置2に取り付けられているものとした。しかしながら、これには限られない。例えば、上側シール部材31と上下方向において略対称の部材が冷却装置3に取り付けられていても良い。それとともに、下側シール機構32及び付勢部54と上下方向において略対称の構造物が、紡糸装置2に取り付けられていても良い。
【0147】
(14)前記までの実施形態において、接触部の材料が金属材料であるものとした。しかしながら、これには限られない。接触部の材料は、例えばセラミック等の、金属以外の材料であっても良い。同様に、規制部の材料も、金属以外の材料であっても良い。
【0148】
(15)前記までの実施形態において、接触部の温度が紡糸装置2及び冷却装置3の稼働時の温度であるときに、接触部の材料のヤング率が10GPa以上であるものとした。しかしながら、これには限られない。接触部の温度が紡糸装置2及び冷却装置3の稼働時の温度であるときに、接触部の材料のヤング率は、10GPa未満であっても良い。同様に、規制部の温度が紡糸装置2及び冷却装置3の稼働時の温度であるときに、規制部の材料のヤング率は、10GPa未満であっても良い。
【0149】
(16)前記までの実施形態において、複数のバネ部材71、88の各々が圧縮コイルバネであるものとしたが、これには限られない。これらのバネ部材は、例えば板バネ(不図示)又はねじりバネ(不図示)等の、圧縮コイルバネとは別のバネ部材であっても良い。
【0150】
(17)本発明の付勢部は、バネ部材とは別の弾性体を有していても良い。例えば上述したシール部81において、ボルト部材B3及びバネ部材88の代わりに、断熱部材(不図示)及びゴム部材(不図示)が設けられていても良い。つまり、例えば、断熱部材が接触部86の下側に配置され、ゴム部材が断熱部材の下側且つ箱体20の上側に配置されていても良い。このようにすることで、紡糸装置2から発せられる熱がゴム部材に伝わることを極力抑制しつつ、接触部86を上側へ付勢できる。
【0151】
(18)前記までの実施形態において、紡糸装置2が複数の紡糸口金13を有するものとした。冷却装置3が複数の冷却筒21を有するものとした。これにより、複数の徐冷空間Ssが形成されているものとした。しかしながら、これには限られない。紡糸口金13、冷却筒21及び徐冷空間Ssの数は1つでも良い。シール部30又はシール部81において、接触部及び付勢部の数は1つでも良い。このような構成において、規制部の数は1つでも良い。
【0152】
(19)前記までの実施形態において、徐冷空間Ssが外部空間Soに対して陽圧であるものとした。より具体的には、徐冷空間Ssの圧力と外部空間Soの圧力との差が0Paよりも大きく、且つ20Pa未満であるものとした。しかしながら、これには限られない。例えば、上記圧力差が20Pa以上、且つ、例えば上述した50Pa以下であっても良い。或いは、圧力差は実質的にゼロであっても良い、或いは、徐冷空間Ssが外部空間Soに対して陰圧になっていても良い。この場合、圧力差の絶対値が例えば20Pa未満であっても良く、20Pa以上であっても良い。
【0153】
(20)前記までの実施形態において、シール部30の接触部53が筒状部42(規制部)とは別に設けられているものとした。しかしながら、これには限られない。同一の部材が本発明の接触部及び規制部の両方として機能するように構成されていても良い。例えば、上述したシール部81において、接触部86の上下方向における長さが、筒状部42の上下方向における長さと略同じであっても良い。この場合、接触部86が規制部としても機能しうる。また、この場合、徐冷空間において必要な気密性を長期間維持できるのであれば、筒状部42が設けられていなくても良い。
【符号の説明】
【0154】
1 紡糸設備
2 紡糸装置
3 冷却装置
4 徐冷部
13 紡糸口金
20a 上面(規制面)
21 冷却筒(冷却部)
28 エアシリンダ(移動機構)
30 シール部
31 上側シール部材(共通部材)
42 筒状部(延在部、規制部)
44 円板部
44a 下面(接触面)
45 内周面(周面)
46 外周面(周面)
51 第1取付部
51a 上面(規制面)
53 接触部
54 付勢部
61 内側接触片
61c 内側押圧面
62 外側接触片
62c 外側押圧面
71 バネ部材
72 内側バネ部材(内側付勢部材)
73 外側バネ部材(外側付勢部材)
81 シール部
86 接触部(囲み部)
86a 上面(端面)
87 付勢部
88 バネ部材
G1 内側隙間
G2 外側隙間
So 外部空間
Ss 徐冷空間
Y 糸