(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052560
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】成膜装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20240404BHJP
【FI】
C23C14/34 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023142405
(22)【出願日】2023-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2022158269
(32)【優先日】2022-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002428
【氏名又は名称】芝浦メカトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】大塚 博司
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029AA06
4K029AA07
4K029AA08
4K029AA09
4K029AA24
4K029BA05
4K029BA07
4K029BB02
4K029CA05
4K029DA04
4K029DC03
4K029DC16
4K029DC35
4K029JA03
4K029JA06
4K029KA02
4K029KA09
(57)【要約】 (修正有)
【課題】複数の成膜対象物に対して、同時に均一な膜厚分布による成膜ができる成膜装置を提供する。
【解決手段】実施形態の成膜装置1は、軸部420を中心にトレイ41を公転させるとともに、軸部420の回転に従って、トレイ41を支持する支持軸422を中心にトレイ41を自転させる自公転ユニット42と、自公転ユニット42に接離可能に設けられ、自公転ユニット42に接して付勢することにより、自公転ユニット42を搬送体から分離させて、ワークWを搭載したトレイ41を成膜室110に収容する収容位置と、自公転ユニット42から離れることにより、自公転ユニット42を搬送体に搭載させて、成膜室110から離隔させる離隔位置との間で移動させるプッシャユニット43と、ワークWを搭載したトレイ41を成膜室110に収容した状態で、軸部420を回転させることにより、トレイ41を公転させるとともに自転させる回転ユニット44と、を有する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットを有する成膜室において、トレイに搭載されたワークに対して、スパッタリングによる成膜を行う成膜部と、
軸部を中心に前記トレイを公転させるとともに、前記軸部の回転に従って、前記トレイを支持する支持軸を中心に前記トレイを自転させる自公転ユニットと、
前記自公転ユニットとともに、前記ワークを搭載した前記トレイを、前記成膜部に対向する位置に搬送する搬送体と、
前記自公転ユニットに接離可能に設けられ、前記自公転ユニットに接して付勢することにより、前記自公転ユニットを前記搬送体から分離させて、前記ワークを搭載した前記トレイを前記成膜室に収容する収容位置と、前記自公転ユニットから離れることにより、前記自公転ユニットを前記搬送体に搭載させて、前記成膜室から離隔させる離隔位置との間で移動させるプッシャユニットと、
前記ワークを搭載した前記トレイを前記成膜室に収容した状態で、前記軸部を回転させることにより、前記トレイを公転させるとともに自転させる回転ユニットと、
を有することを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記自公転ユニットは、前記軸部の回転を、前記支持軸の回転に変換する変換機構を
有することを特徴とする請求項1記載の成膜装置。
【請求項3】
前記変換機構は、
前記軸部の回転を伝達する伝達部と、
前記伝達部により前記軸部の回転が伝達されて前記支持軸を回転させる回転部材と、
を有することを特徴とする請求項2記載の成膜装置。
【請求項4】
前記自公転ユニットは、前記トレイを複数搭載可能に設けられ、
前記回転ユニットは、複数の前記トレイを前記成膜室に収容した状態で、前記軸部を回転させることにより、複数の前記トレイを公転させるとともに、それぞれの前記トレイを自転させることを特徴とする請求項1記載の成膜装置。
【請求項5】
前記自公転ユニットは、前記トレイに前記ワークを載置した状態で、前記搬送体に対して搬入、搬出可能に設けられていることを特徴とする請求項1記載の成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
基板などの成膜対象物の表面に成膜を行う装置として、スパッタリングによる成膜装置が広く用いられている。スパッタリングは、真空引きされたチャンバ内に導入したガスをプラズマ化することによりイオンを発生させ、発生したイオンが、成膜材料であるターゲットの表面に衝突することにより、成膜材料が飛び出して基板に付着することを利用した技術である。
【0003】
このような成膜装置においては、基板の表面に形成される膜の厚さが均一となるようにすることが望ましい。スパッタリングにおいては、例えば、複数のターゲットを配設して、成膜材料が基板に降り注ぐ分布を均等に近づけることが行われる。このとき、さらに膜厚分布を均等とするために、各ターゲットへの印加電力を調整する、ターゲットと成膜対象物との距離や向きを調整する等の方法により、膜厚の面内均一化を図ることが行われていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記方法では、多くのターゲットを必要とする。このため、印加電力を調整する方法では、電力制御が複雑となる。また、ターゲットと基板との距離を調整する方法でも、基板に近づけたターゲットが他のターゲットから飛び出す成膜材料の粒子を遮蔽してしまうため、基板に近づけることにも限界がある。つまり、ターゲットへの印加電圧の調整や、ターゲットと基板との距離の調整によっても、膜厚の均一化を図ることが困難な場合もある。
【0006】
また、基板に対してターゲットの傾斜角度を付けることによって、膜厚分布を改善できる場合がある。しかし、ターゲットを保持する機構、ターゲットを冷却する機構、成膜効率を向上させるために利用する磁石等、他の構成部材の配置が必要なため、最適な傾斜角度の選択ができない場合があり、膜厚を最適にすることが困難である。
【0007】
これに対処するため、複数のターゲットに対向する基板を回転させて、基板の成膜対象面を、順次異なるターゲットに対向させることにより、複数のターゲットの成膜レートのばらつきを相殺することが行われている(例えば、特許文献1)。この特許文献1には、さらに、複数の基板を、各基板の外側に設けた回転軸を中心に回転(公転)させながら、同時に成膜することも記載されている。しかし、この場合、各基板の表面の各箇所は、いつも同じ軌道を通過し、ターゲットとの距離が不均一なまま変わらないので、成膜材料の堆積に偏在が生じることにつながり、個々の基板内の膜厚分布にばらつきが生じていた。このため、各基板の表面の各箇所が、公転での同じ軌道を通過しないように、公転に加え、各基板毎に、各基板の内側に設けた回転軸を中心に回転(自転)させることも考えられている。
【0008】
ここで、成膜や、成膜された膜に対して酸化又は窒化する膜処理等を、一つのチャンバ内で行うために、成膜を行う成膜室や膜処理を行う処理室が同じチャンバ内に複数配置された成膜装置がある。このような成膜装置では、搬送体に成膜対象物となる基板を載置し、成膜室に対向する位置に基板を移動させた後、プッシャによって搬送体から基板を分離させ、ターゲットに基板を近づけた状態で成膜を行い、再び搬送体に基板を載置して次の成膜室や処理室に移動させる。このような成膜装置においては、プッシャによって基板を上昇させた状態で成膜を行うが、上述の課題に対応するため、プッシャの昇降機構に加えて複数の基板の自転及び公転を行う機構が求められていた。
【0009】
本発明の実施形態は、上記のような従来技術の問題点を解決するために提案されたものであり、その目的は、複数の成膜対象物に対して、同時に均一な膜厚分布による成膜ができる成膜装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、実施形態の成膜装置は、ターゲットを有する成膜室において、トレイに搭載されたワークに対して、スパッタリングによる成膜を行う成膜部と、軸部を中心に前記トレイを公転させるとともに、前記軸部の回転に従って、前記トレイを支持する支持軸を中心に前記トレイを自転させる自公転ユニットと、前記自公転ユニットとともに、前記ワークを搭載した前記トレイを、前記成膜部に対向する位置に搬送する搬送体と、前記自公転ユニットに接離可能に設けられ、前記自公転ユニットに接して付勢することにより、前記自公転ユニットを前記搬送体から分離させて、前記ワークを搭載した前記トレイを前記成膜室に収容する収容位置と、前記自公転ユニットから離れることにより、前記自公転ユニットを前記搬送体に搭載させて、前記成膜室から離隔させる離隔位置との間で移動させるプッシャユニットと、前記ワークを搭載した前記トレイを前記成膜室に収容した状態で、前記軸部を回転させることにより、前記トレイを公転させるとともに自転させる回転ユニットと、を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施形態によれば、複数の成膜対象物に対して、同時に均一な膜厚分布による成膜ができる成膜装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】治具を示す分解斜視図(A)、ワークを示す斜視図(B)、(B)のB-B矢視断面図(C)である。
【
図3】自公転ユニットを示す平面図(A)、(A)のC-C矢視断面図(B)、回転テーブル及び自公転ユニットを示す平面図(C)である。
【
図4】成膜部及びワーク回転部の待機時を示す
図1のA-A矢視断面図である。
【
図5】成膜部及びワーク回転部の成膜時を示す
図1のA-A矢視断面図である。
【
図6】搬入搬出部とチャンバの内部構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態(以下、本実施形態と呼ぶ)について、図面を参照して具体的に説明する。なお、
図4、
図5の断面図は、理解を容易にするため、自公転ユニット42のみが、
図3(B)と同様に、2本の支持軸422を通る鉛直方向の断面図となっている。
[概要]
本実施形態は、
図1に示すように、個々の成膜対象物であるワークWの成膜対象面に、プラズマを利用して成膜を行う成膜装置1である。本実施形態の成膜装置1は、真空とすることが可能なチャンバ2内に、ワークWが搭載されたトレイ41を支持する自公転ユニット42(
図3(A)、(B)参照)を保持して、90°ずつ間欠回転する回転テーブル3を有する。成膜装置1は、回転テーブル3が停止する4つの停止ポジションのうち、3つの停止ポジションにおいて、ワークWに対して各種の処理を行う。3つの停止ポジションには、成膜部100、反転部200、搬入搬出部300が割り当てられている。
【0014】
成膜部100は、ターゲット10を有する成膜室110において、スパッタリングにより、複数のワークWに対して同時に成膜を行う。つまり、スパッタガスGをプラズマ化させることにより発生するイオンを、ターゲット10(
図4参照)に衝突させ、ターゲット10を構成する成膜材料の粒子を、複数のワークWの成膜対象面に付着させる。本実施形態の成膜部100は、2つのターゲット10A、10Bを備えている。なお、この2つのターゲット10A、10Bを区別しない場合には、単にターゲット10と呼ぶ。
【0015】
反転部200は、ワークWの両面に成膜するために、成膜部100において一方の面を成膜した後のワークWを、反転部200内の反転機構により反転して、成膜部100において他方の面も成膜できるようにする。搬入搬出部300は、ロードロック室25を介して、チャンバ2の内部の真空を維持した状態で、外部から未処理のワークWが搭載されたトレイ41を支持する自公転ユニット42をチャンバ2の内部に搬入し、処理済みのワークWが搭載されたトレイ41を支持する自公転ユニット42をチャンバ2の外部へ搬出する。
【0016】
[成膜対象物]
本実施形態では、成膜対象物の例として、円形のワークWを用いる。ワークWは、後述する基板Sと治具Jが一体となった部材である。さらに、複数のワークWが自公転ユニット42のトレイ41に搭載されて、回転テーブル3により搬送される。基板Sは円形であり、例えば、水晶振動子、水晶発振器などの水晶デバイスに用いられる水晶基板である。基板Sは、水晶基板の両面に、電極となるAu層が成膜される。また、このAu層の水晶基板表面への密着性を向上させるための密着層となるCr層が、水晶基板表面とAu層の間に成膜される。したがって、水晶基板の両面に密着層となるCr層、電極となるAu層の2層が成膜される。ただし、これに限られるものではなく、シリコン(Si)ウェーハ、シリコンカーバイド(SiC)ウェーハ、サファイヤ基板、ガラス基板であってもよい。
【0017】
治具Jは、基板Sが装着される部材である。本実施形態の治具Jは、
図2(A)の分解斜視図、
図2(B)の斜視図、
図2(C)の断面図(
図2(B)のB-B矢視断面図)に示すように、上治具Ju、下治具Jd、スペーサJs、ピンJpを有する。上治具Ju、下治具Jdは、リング状の板体で、内径が基板Sの外径よりも小さく、外径が基板Sの外径よりも大きい。スペーサJsは、リング状の板体で、内径が基板Sの外径よりも大きく、外径が上治具Ju、下治具Jdと同等な大きさとなっている。上治具Ju、下治具Jd、スペーサJsは金属製とすることができる。
【0018】
上治具Juと下治具Jdとの間にスペーサJsを挟み、このスペーサJsの内縁側に基板Sを挟むことにより、基板Sが治具Jに装着される。したがって、
図2(C)に示すように、基板Sの外側にスペーサJsが配置される。また、
図2(C)に示すように、下治具Jdには、基板Sの外縁よりも外側に、磁石Jmが埋め込まれており、磁力により上治具Juを吸着することにより、スペーサJsと基板Sが上治具Juと下治具Jdとの間に挟み込まれるようになっている。これにより、治具Jからの基板Sの外れが防止されている。また、上治具Ju、下治具Jd、スペーサJsには、それぞれに対応する位置に複数の貫通孔が形成されており、この貫通孔にピンJpが挿入されることにより、位置ずれが防止されている。なお、以下の説明では、基板Sを装着した治具Jを、単にワークWと呼ぶ。
【0019】
[チャンバ]
チャンバ2は、内部を真空とすることが可能な容器である。本実施形態のチャンバ2は、直方体形状の箱形であり、設置面側が底板21、反対側が蓋板22となっている(
図4、
図5参照)。チャンバ2は、箱形の架台24上に設けられている。チャンバ2には、チャンバ排気部23が設けられている。本実施形態のチャンバ排気部23は、チャンバ2の底板21に形成された開口に接続された配管を有する。チャンバ排気部23は、図示しない空気圧回路を含み構成され、排気処理によるチャンバ2内の真空引きを可能としている。
【0020】
[回転テーブル]
回転テーブル3は、
図1、
図3(C)、
図4、
図5に示すように、チャンバ2内において、後述する自公転ユニット42とともに、ワークWを搭載したトレイ41を、成膜部100に対向する位置に搬送する搬送体である。回転テーブル3は、円形の板体であり、駆動源3aによって、シャフト31を中心に間欠回転する。回転テーブル3には、貫通孔である複数の開口32が形成されている。複数の開口32は、回転テーブル3の回転の中心から等間隔となる位置に、周方向に等間隔で設けられている。本実施形態の開口32は、間欠回転の停止ポジションに対応して、90°間隔で4つ設けられている。このうちの3つのポジションが、成膜部100、反転部200、搬入搬出部300に対向する。開口32の上縁部には、自公転ユニット42を支持する支持部33が設けられている。つまり、複数の自公転ユニット42は、回転テーブル3の回転の中心から等間隔となる位置に、周方向に等間隔で搭載される。回転テーブル3の間欠回転によって、ワークWをトレイ41に搭載した自公転ユニット42を、成膜室110に対応する位置に位置づけた時、後述する回転体421の軸部420が、回転ユニット44の接続部44cに対向する位置に来る。
【0021】
[ワーク回転部]
ワーク回転部4は、
図4、
図5に示すように、成膜室110においてワークWを自転及び公転させることにより、各基板Sの膜厚分布を均一にする。ワーク回転部4は、トレイ41、自公転ユニット42、プッシャユニット43、回転ユニット44を有する。
【0022】
トレイ41は、ワークWが搭載される部材である。トレイ41は、円形の板体であり、その上面が、ワークWが搭載されるワーク当接面41aとなっている。ワーク当接面41aの外径は、ワークWの外径よりも大きい。ワーク当接面41aのワークWが載置される位置には、ワークWが収容される窪みが形成されている。ワークWが複数搭載可能となるように、トレイ41は複数設けられている。本実施形態のトレイ41は、三つ設けられている。
【0023】
自公転ユニット42は、軸部420を中心にトレイ41を公転させるとともに、軸部420の回転に従って、トレイ41を支持する支持軸422を中心にトレイ41を自転させる。自公転ユニット42は、トレイ41にワークWを載置した状態で、チャンバ2内の回転テーブル3に対して搬入、搬出可能に設けられている。自公転ユニット42は、軸部420、回転体421、支持軸422、変換機構423を有する。軸部420は、ワークWの公転の軸となる円柱形状の部材である。ここでいう公転とは、ワークWが、軸部420の周りを、軸部420を中心とする円周の軌跡で移動することをいう。軸部420の下端には、後述する回転軸44bの先端に設けられた接続部44cが接続される接続穴420aが設けられている。回転体421は、軸部420の上端に、軸部420と同軸に設けられ、軸部420とともに回転可能に設けられた円形の板体である。回転体421の下面の縁部は、回転テーブル3の支持部33によって支持される。
【0024】
支持軸422は、トレイ41を支持する。支持軸422はトレイ41の下面の中心に取り付けられた鉛直方向の部材であり、トレイ41に支持されたワークWの自転の中心となる。ここでいう自転とは、ワークWが自らの中心を軸に回転することをいう。各支持軸422は、回転体421に設けられたベアリングを介して回転体421を回動可能に貫通して下方に延びている。自公転ユニット42は、軸部420を中心に、複数のトレイ41を公転させるとともに、軸部420の回転に従って、トレイ41を支持する支持軸422を中心に、トレイ41を自転させる。
【0025】
変換機構423は、軸部420の回転を、支持軸422の回転に変換する。変換機構423は、軸部420の回転を伝達する伝達部と、伝達部により軸部420の回転が伝達されて支持軸422を回転させる回転部材を有する。本実施形態の伝達部は固定ギヤ423aであり、回転部材は遊星ギヤ423bである。固定ギヤ423aは、軸部420と同心に設けられているが、軸部420の外周を囲む支持筒433に固定されており、軸部420の回転によっては回転しない円板ギヤである。遊星ギヤ423bは、各支持軸422の下端に固定され、固定ギヤ423aの外周のギヤ溝に噛み合っている。
図5に示すように、回転体421の回転に従って、トレイ41とともに支持軸422が公転すると、固定ギヤ423aの周りを遊星ギヤ423bが回りながら自転するので、支持軸422を中心としてトレイ41も自転する(
図3(A)参照)。ここでいう公転とは、トレイ41、支持軸422及び遊星ギヤ423bが、軸部420の周りを、軸部420を中心とする円周の軌跡で移動することをいう。ここでいう自転とは、トレイ41及び遊星ギヤ423bが、支持軸422を中心に回転することをいう。
【0026】
プッシャユニット43は、自公転ユニット42を成膜室110に向かって進退させる機構である。プッシャユニット43は、自公転ユニット42に接離可能に設けられている。プッシャユニット43は、自公転ユニット42に接して付勢することにより、自公転ユニット42を回転テーブル3から分離させて、ワークWを搭載したトレイ41を成膜室110に収容する収容位置と、自公転ユニット42から離れることにより、自公転ユニット42を回転テーブル3に搭載させて、成膜室110から離隔させる離隔位置との間で移動させる。収容位置は、ワークWを搭載したトレイ41が成膜室110内にあって、ワークWに対して成膜処理が可能となる処理位置でもある。離隔位置は、自公転ユニット42が成膜室110から離隔する位置でもある。プッシャユニット43は、自公転ユニット42から離れた離隔位置から、回転テーブル3の回転を阻害しない待機位置(ホームポジション:チャンバ2の底板21と回転テーブル3との間)まで下降する。待機位置は、後述する接続板434がチャンバ2の底板21に近接するか、接触する位置である。回転テーブル3は、プッシャユニット43が待機位置にある状態で間欠回転し、自公転ユニット42が収容位置に対向する位置で停止する。
【0027】
プッシャユニット43は、シリンダ431、収容体432、支持筒433、接続板434を有する。シリンダ431は、回転体421及びトレイ41を昇降させるための駆動源であり、架台24の底面に固定されている。収容体432は、シリンダ431の駆動軸に支持され、後述する回転ユニット44を収容する筒体である。
【0028】
支持筒433は、回転軸44bが挿入された筒体である。支持筒433の下端は、収容体432の上部に固定されている。支持筒433は、チャンバ2の底板21を上下に摺動可能に貫通している。接続板434は、支持筒433の上端に固定された板体である。接続板434は、固定ギヤ423aに接離可能に設けられている。接続板434及び固定ギヤ423aは、嵌合部424を有する。嵌合部424は、接続板434に設けられた嵌合凸部424a、固定ギヤ423aに設けられた嵌合凹部424bを有し、嵌合凸部424aと嵌合凹部424bが嵌合することにより、固定ギヤ423aが回動しないように固定される。
【0029】
回転ユニット44は、軸部420を回転させる機構である。回転ユニット44は、モータ44a、回転軸44b、接続部44cを有する。モータ44aは、収容体432に収容された駆動源である。モータ44aのシャフトは回転軸44bの下端に連結されている。これにより、モータ44aの回転によって、回転軸44bを回転させる。回転軸44bの上端は、接続板434に設置されたベアリングを介して回転可能に貫通している。接続部44cは、回転軸44bの上端の側面から突出した突起であり、軸部420の接続穴420aに嵌ることにより、回転軸44bの回転が軸部420に伝達可能となる。プッシャユニット43が、自公転ユニット42を収容位置に位置させ、ワークWを搭載したトレイ41を成膜室110に収容させた状態で、回転ユニット44で軸部420を回転させることにより、複数のトレイ41が公転するとともに、それぞれのトレイ41が自転する。
【0030】
[成膜部]
成膜部100は、
図4、
図5に示すように、成膜室110、スパッタ源120、電源部130、スパッタガス導入部140、排気部150を有する。
【0031】
(成膜室)
成膜室110は、スパッタリングにより成膜が行われる空間である。成膜室110は、
図4、
図5に示すように、開口111、スペーサ112、蓋体113によって構成されている。開口111は、チャンバ2の蓋板22に設けられた貫通孔である。スペーサ112は、チャンバ2の蓋板22の外部側に、開口111を囲うように設けられた角筒形状の部材である。スペーサ112によって成膜室110の側壁が構成される。蓋体113は、スペーサ112の上部を封止する箱状体である。蓋板22、スペーサ112、蓋体113の間は、Оリング等の封止材によって封止されている。
【0032】
(スパッタ源)
スパッタ源120は、ワークWにスパッタリングにより成膜材料を堆積させて成膜する成膜材料の供給源である。スパッタ源120は、ターゲット10、バッキングプレート121、電極122を有する。
【0033】
本実施形態では、
図1に示すように、2つのターゲット10を有する。この2つのターゲット10、すなわち、ターゲット10A、10Bは、ワークWに堆積されて膜となる成膜材料によって形成された部材である。ターゲット10A、10Bにおけるスパッタリングにより削られていくスパッタ面は、ワークWに対向する位置にワークWに対して傾斜して配置されている。
【0034】
成膜材料としては、例えば、Cr、Auなどを使用する。但し、スパッタリングにより成膜できる材料であれば、種々の材料を適用可能である。ターゲット10Aとターゲット10Bを、共通の材料としても、異種の材料としてもよい。例えば、ターゲット10A、10B共に同じCrからなるターゲットとしてもよいし、ターゲット10A、10B共に同じAuからなるターゲットとしてもよい。また、ターゲット10AはCrからなるターゲットとし、ターゲット10BはAuからなるターゲットとして、ターゲット10Aとターゲット10Bとで異なるターゲットとしてもよい。
【0035】
バッキングプレート121は、各ターゲット10A、10Bを個別に保持する保持部材である。電極122は、チャンバ2の外部から各ターゲット10A、10Bに個別に電力を印加するための導電性の部材である。なお、スパッタ源120には、図示はしないがマグネット、冷却機構などが具備されている。つまり、本実施形態の成膜部100は、マグネトロンスパッタ装置として構成される。
【0036】
(電源部)
電源部130は、各ターゲット10A、10Bに電力を印加する構成部である。この電源部130によってターゲット10に電力を印加することにより、後述するスパッタガスGをプラズマ化させ、成膜材料を、ワークWに堆積させることができる。各ターゲット10A、10Bに印加する電力は、個別に変えることができる。本実施形態においては、電源部130は、例えば、高周波電圧を印加するRF電源である。なお、DC電源とすることもできる。
【0037】
(スパッタガス導入部)
本実施形態のプラズマ処理においては、スパッタガスGが用いられる。スパッタガスGは、電力の印加により生じるプラズマにより、発生するイオンをターゲット10A、10Bに衝突させて、ターゲット10A、10Bの材料を基板Sの表面に堆積させるためのガスである。例えば、アルゴンガス等の不活性ガスを、スパッタガスGとして用いることができる。
【0038】
スパッタガス導入部140は、スパッタガスGを導入する配管を有する。スパッタガス導入部140は、図示しないガス供給回路を含み構成され、供給源からのスパッタガスGを成膜室110内に導入することを可能とする。
【0039】
(排気部)
排気部150は、スペーサ112に形成された開口に接続された配管を有する。排気部150は、図示しない排気回路を含み構成され、排気処理による成膜室110内の真空引きを可能としている。
【0040】
[反転部]
反転部200は、図示しない反転機構を有し、ワークWを反転させる。本実施形態の反転機構は、プッシャユニット43によって分離位置にある3つのワークWを自公転ユニット42から個別に把持して持ち上げて、180°回転させてから、下降してワークWを自公転ユニット42に載置する。
【0041】
[搬入搬出部]
搬入搬出部300は、ワークWが搭載された自公転ユニット42をチャンバ2に搬入、搬出する装置である。搬入搬出部300は、
図6に示すように、搬送部310、載置台Tを有する。載置台Tには、成膜装置1の外部から、搭載装置によって、成膜前のワークWが搭載された状態の自公転ユニット42が載置される。搬送部310は、載置台Tに載せられた成膜前のワークWが搭載された自公転ユニット42をピックアップして、チャンバ2に構成されたロードロック室25に搬入する。搭載装置は、外部からワークWを載置した自公転ユニット42を搬入搬出部300に搬送する装置である。また、搬送部310は、成膜済のワークWが搭載された自公転ユニット42をロードロック室25から受け取って載置台Tに載せる。搭載装置は、載置台Tに載せられた成膜済のワークWが搭載された自公転ユニット42を、成膜装置1の外部へ搬送する。
【0042】
搬送部310は、アーム311、閉塞部312を有する。アーム311は、載置台Tとチャンバ2との間に、回転テーブル3の平面と平行に設けられた長尺の部材である。アーム311は、図示しない駆動機構によって、回転テーブル3のシャフト31と平行な軸を中心に180°ずつ間欠的に回動可能に、且つこの軸に沿って移動可能に設けられている。閉塞部312は、アーム311の両端に設けられ、チャンバ2に設けられた開口2aを封止する部材である。開口2aは、チャンバ2上面の蓋板22に設けられたチャンバ2内と外部とをつなぐための開口で、ロードロック室25の外部側の端部である。閉塞部312には、Oリング等の封止部材312aが設けられている。
【0043】
閉塞部312には、保持部312bが設けられている。保持部312bは、自公転ユニット42を保持する部材である。保持部312bは、メカチャック等の保持機構によって、自公転ユニット42を保持する。なお、載置台Tには、図示しない駆動機構によって移動することにより、ワークWを搭載した自公転ユニット42を、載置台Tと保持部312bとの間で移動させるプッシャPが設けられている。
【0044】
ロードロック部320は、ロードロック室321、プッシャ322、排気ライン323、ベントライン324を有する。ロードロック室321は、チャンバ2の蓋板22に形成された貫通孔である開口2aの内側面に囲まれ、保持部312bが保持した自公転ユニット42を収容して密閉可能な空間である。ロードロック室321の開口2aにおいて、チャンバ2の外部側にある端部は、閉塞部312によって封止される。
【0045】
プッシャ322は、駆動機構322aによって、支持部33を駆動する部材である。プッシャ322は、支持部33を、回転テーブル3の開口32とロードロック室321との間で、ロードロック室321の開口2aの外部側とは反対の端部に接離させる方向に移動させる。プッシャ322には、支持部33との間を封止するOリング等の封止部材322bが設けられている。プッシャ322によって付勢された支持部33は、プッシャ322とともに、ロードロック室321の開口2aの外部側とは反対の端部を封止する。このように、閉塞部312、支持部33及びプッシャ322によって封止されることにより、ロードロック室321が形成される。
【0046】
排気ライン323は、図示しない空気圧回路に接続され、封止されたロードロック室321を減圧するための経路である。ベントライン324は、図示しない弁等に接続され、ロードロック室321の真空破壊を行うための経路である。
【0047】
閉塞部312によって開口2aを封止して、排気ライン323を介して真空引きされたロードロック室321内で、保持部312bに保持された自公転ユニット42が支持部33に受け渡される。プッシャ322が下降することにより、ロードロック室321から自公転ユニット42が排出され、支持部33とともに回転テーブル3の開口32に載置される。プッシャ322は、さらに下降して、回転テーブル3から退避する。また、プッシャ322は、成膜済のワークWを載置した自公転ユニット42を、支持部33とともに押し上げてロードロック室25を封止し、閉塞部312の保持部312bに自公転ユニット42を受け渡す。自公転ユニット42を受け取った閉塞部312は、ベントライン324を介してロードロック室321が大気開放された後に、上昇して自公転ユニット42を排出させる。
【0048】
[制御装置]
制御装置50は、
図1に示すように、成膜装置1の各部を制御する装置である。この制御装置50は、例えば、専用の電子回路若しくは所定のプログラムで動作するコンピュータ等によって構成できる。つまり、チャンバ2の排気の制御、成膜室110へのスパッタガスGの導入及び排気の制御、電源部130の電力の制御、回転テーブル3の回転の制御、反転部200の反転機構の制御、搬入搬出部300の搬入、搬出の制御、プッシャユニット43の駆動制御、回転ユニット44の回転制御などに関しては、その制御内容がプログラムされており、PLCやCPUなどの処理装置により実行されるものであり、多種多様な成膜処理の仕様に対応可能である。
【0049】
具体的に制御される対象としては、回転テーブル3の駆動源3aの間欠動作タイミング、成膜装置1の初期排気圧力、ターゲット10への印加電力、スパッタガスG及びの流量、種類、導入時間及び排気時間、表面処理及び成膜処理の時間などが挙げられる。
【0050】
特に、本実施形態では、制御装置50は、ターゲット10A、10Bへ印加する電力、スパッタガス導入部140によるスパッタガスGの供給量を制御することにより、成膜レートを制御する。また、制御装置50は、プッシャユニット43のシリンダ431の作動を制御することにより、自公転ユニット42を昇降させる。また、制御装置50は、回転ユニット44のモータ44aを制御することにより、回転軸44bに接続された軸部420を回転させて、複数のトレイ41を公転させるとともに、各トレイ41を自転させる。
【0051】
さらに、制御装置50には、図示しない入力装置、出力装置が接続されている。入力装置は、オペレータが、制御装置50を介して成膜装置1を操作するためのスイッチ、タッチパネル、キーボード、マウス等の入力手段である。出力装置は、装置の状態を確認するための情報を、オペレータが視認可能な状態とするディスプレイ、ランプ、メータ等の出力手段である。
【0052】
[成膜処理]
以上のような本実施形態による成膜装置1によって、ワークWに成膜する処理を説明する。
【0053】
まず、搬入搬出部300によって、3つのワークWを搭載した自公転ユニット42を、チャンバ2内に搬入して、回転テーブル3の開口32に載置する。そして、
図4に示すように、回転テーブル3が間欠回転して、成膜室110の開口111の直下に、自公転ユニット42を位置づける。
【0054】
次に、
図5に示すように、プッシャユニット43のシリンダ431が作動して、接続板434及び回転軸44bを上昇させることにより、接続板434の嵌合凸部424aを固定ギヤ423aの嵌合凹部424bに嵌合する。これにより、回転軸44bの接続部44cが、軸部420の接続穴420aに嵌る。さらに、接続板434及び回転軸44bが上昇することにより、自公転ユニット42が回転テーブル3の支持部33から離れ、離隔位置から収容位置へと上昇する。これにより、トレイ41上のワークWが成膜室110内に収容される。
【0055】
この状態で、スパッタガス導入部140によって、スパッタガスGを成膜室110内に導入するとともに、排気部150により排気することによって、成膜処理に最適な所定の圧力に制御される。そして、回転ユニット44のモータ44aが作動して、回転軸44bを回転させることにより、軸部420とともに回転体421が回転する。回転体421は、固定ギヤ423aの周囲に沿って遊星ギヤ423bが回りながら自転することにより、支持軸422を中心としてトレイ41が自転する。これにより、三つのトレイ41上のワークWが公転するとともに自転する。なお、回転体421は、所定の回転速度(単位時間当たりの回転数)、所定の回転時間で回転する。なお、回転中に成膜が行われるため、回転時間は成膜時間とほぼ同じである。回転体421の回転速度や回転時間等は、予め実験等で求められた最適な回転速度及び回転時間とする。
【0056】
電源部130により各ターゲット10A、10Bに電力を印加する。すると、スパッタガスGがプラズマ化して発生するイオンが、ターゲット10A、10Bに衝突する。ターゲット10A、10Bを構成する成膜材料は、イオンによりターゲット10A、10Bから叩き出される。そして、トレイ41により公転するとともに自転するワークWの成膜対象面に堆積する。
【0057】
所定時間の成膜処理後、ターゲット10への電力印加を停止する。その後、排気部150からの排気によりスパッタガスGを成膜室110から排出して、成膜室110の圧力をチャンバ2と同等とする。そして、自公転ユニット42の向き(三つのワークWの位置)が初期状態に位置付けられるようにモータ44aを停止して、
図4に示すように、シリンダ431によって、接続板434及び回転軸44bを下降させると、自公転ユニット42が離隔位置に戻り、回転テーブル3の支持部33に支持される。さらに、接続板434の嵌合凸部424aが、固定ギヤ423aの嵌合凹部424bから外れるとともに、回転軸44bの接続部44cが、軸部420の接続穴420aから外れる。加えて、接続板434が回転テーブル3の開口2aの下方に移動し、待機位置(ホームポジション)まで下降して停止する。
【0058】
回転テーブル3を間欠回転させることにより、自公転ユニット42を反転部200に移動させて、反転させる。回転テーブル3を間欠回転させることにより、自公転ユニット42を再度成膜部100に移動させて、ワークWの他方の成膜対象面に上記と同様の成膜を行う。自公転ユニット42の向き(三つのワークWの位置)は初期状態に位置付けられる。その後、回転テーブル3の間欠回転により、開口2aの直下に、成膜済みのワークWを搭載した自公転ユニット42を移動させて、搬入搬出部300によって、チャンバ2外に搬出する。
【0059】
[効果]
(1)以上のような本実施形態の成膜装置1は、ターゲット10を有する成膜室110において、トレイ41に載置されたワークWに対して、スパッタリングにより成膜を行う成膜部100と、軸部420を中心にトレイ41を公転させるとともに、軸部420の回転に従って、トレイ41を支持する支持軸422を中心にトレイ41を自転させる自公転ユニット42と、自公転ユニット42とともに、ワークWを搭載したトレイ41を、成膜部100に対向する位置に搬送する搬送体と、を有する。
【0060】
さらに、自公転ユニット42に接離可能に設けられ、自公転ユニット42に接して付勢することにより、自公転ユニット42を搬送体から分離させて、ワークWを搭載したトレイ41を成膜室110に収容する収容位置と、自公転ユニット42から離れることにより、自公転ユニット42を搬送体に搭載させて、成膜室110から離隔させる離隔位置との間で移動させるプッシャユニット43と、ワークWを搭載したトレイ41を成膜室110に収容した状態で、軸部420を回転させることにより、トレイ41を公転させるとともに自転させる回転ユニット44と、を有する。
【0061】
このため、成膜中にワークWが公転しながら自転するので、ターゲット10に対する複数のワークWの位置が公転により変化するとともに、各ワークWのターゲット10に対する位置も自転により変化するので、成膜材料の堆積に偏在が生じることが防止され、複数のワークW同士及び個々のワークW内の膜厚分布を均一にすることができる。
【0062】
また、本実施形態では、成膜中に複数のワークWが公転しながら自転するので、ターゲット10に対する複数のワークWの位置が公転により変化するとともに、各ワークWのターゲット10に対する位置も自転により変化するので、成膜材料の堆積に偏在が生じることが防止され、複数のワークW同士及び個々のワークW内の膜厚分布を均一にすることができる。
【0063】
(2)自公転ユニット42は、軸部420の回転を、支持軸422の回転に変換する変換機構423を有する。このため、軸部420の回転によって、ワークWの公転及び自転を行うことができ、支持軸422を直接回転させる駆動源を設ける必要がない。つまり、軸部420が支持軸422の回転駆動源の役割を担っているため、軸部420が回転するだけで支持軸422を回転させることができる。これにより、装置を簡素化できるとともに、支持軸422を回転させるモータなどの駆動源を必要としないため、変換機構423自体の重量を軽量化でき、回転体421を回転させる軸部420に対する負荷を軽減できる。
【0064】
(3)搬送体は、自公転ユニット42を載置した状態で間欠回転可能に設けられ、自公転ユニット42を収容位置に位置づける際に停止する回転テーブル3を有する。回転テーブル3には、複数の自公転ユニット42が、回転の中心から等間隔となる位置に、周方向に等間隔で搭載される。このため、比較的重量が重くなる自公転ユニット42であっても、バランスがとれて、回転テーブル3の姿勢が安定し、回転が安定する。さらに、本実施形態では、自公転ユニット42とプッシャユニット43及び回転ユニット44とが分離している。特に、プッシャユニット43及び回転ユニット44だけが成膜装置1側に設置されているので、構造が複雑にならない。また、
図4、
図5からわかるように、回転テーブル3の下方は、支持筒433及び回転軸44bだけが昇降する動作だけであるため、回転テーブル3とチャンバ2の底板21との間の空間に、自公転ユニット42を設けるスペースを作る必要がなく、その空間自体を小さくすることができる。これにより、チャンバ2内の全体の空間を広くする必要がないため、チャンバ2内の圧力調整等(所定の圧力に減圧するときに係る時間や所定の圧力に維持すること等)を行うときの影響を少なくすることができる。
【0065】
[変形例]
本実施形態は、上記の態様には限定されず、以下のような変形例も含む。
(1)成膜部100におけるターゲット10の数は、上記の実施形態で例示した数には限定されない。ターゲット10を単数又は3つ以上としてもよい。ターゲット10の数を多くすることにより、成膜レートを向上させることができる。
【0066】
複数のターゲット10は、共通の成膜材料であっても、異種の成膜材料であってもよい。共通の成膜材料を用いることによって成膜レートを向上させることができる。異なる種類の成膜材料を用いて、同時或いは順々に成膜することにより、複数の成膜材料の層から成る膜を形成することもできる。
【0067】
(2)成膜部100の数は、複数であってもよい。つまり、搬送体の複数の停止ポジションに成膜部100を設けてもよい。共通の成膜材料を用いる成膜部100の数を増やすことによって、成膜レートを向上させることができる。複数の成膜部100に互いに異なる種類の成膜材料を用いて、同時或いは順々に成膜することにより、複数の成膜材料の層から成る膜を形成することもできる。成膜部100においてプラズマを発生させる構成は特定の種類には限定されない。
【0068】
(3)成膜部100に加えて、いずれかの停止ポジションに、プラズマによるエッチング、アッシング、その他の表面改質、クリーニング、化合物膜の生成等を行う処理部を設けてもよい。処理部においてプラズマを発生させる構成は特定の種類には限定されない。
【0069】
(4)成膜対象物の形状も、上記の実施形態で示したものには限定されない。成膜対象面が平坦なものに最も適しているが、平坦でない成膜対象面に対しても、成膜領域に均等に成膜材料を堆積させることができる。
【0070】
(5)治具Jは、基板Sを装着可能な形状を有する円形のリングとして説明したが、円形に限られず、矩形や多角形形状のリングでもよい。また、基板Sを載置可能な形状を有する板体であってもよい。また、基板Sの載置位置に、基板Sが収容される窪みが形成されていてもよい。また、自公転ユニット42に載置できるワークW(治具Jに搭載された基板S)の数は、上記の態様には限定されない。また、基板Sは治具Jに装着、搭載されていなくてもよい。つまり、治具Jを用いなくてもよい。この場合、ワークWは成膜対象物である基板Sのみとなり、ワーク当接面41aは基板Sの裏面に当接する。また、上治具Ju、下治具Jd、スペーサJsの材料は適宜選択できる。例えば、上治具Ju、下治具Jd、スペーサJsの一部またはすべてを磁性体とすることができる。これらの部材の一部を磁性体とする場合、磁石Jmが設けられている領域に対向する一部の領域を磁性体とし、他の領域を非磁性体の金属とすることができる。
【0071】
(6)搬送装置は回転テーブル3には限定されない。回転中心から放射状に延びたアームに支持部や自公転ユニット42を保持して回転する回転体であってもよい。搬送装置によって搬送されて同時に処理されるワークWを搭載する自公転ユニット42の数、これを支持する支持部の数は、上記の態様には限定されない。
【0072】
(7)成膜部100は、チャンバ2の設置面側にあっても、これと反対側にあっても、側面側にあってもよい。自公転ユニット42を成膜室110、処理室に出し入れする方向も、成膜室110の設置面側からでも、これと反対側からでもよく、側面からでもよい。
【0073】
(8)上記の実施形態では、重力に従う方向を下方、これとは逆に重力に抗する方向を上方としている。この場合の昇降は、上下方向の動作となる。但し、成膜装置1の配置方向は、これには限定されず、例えば、回転テーブル3と、成膜室110との上下関係が逆となっていてもよい。また、回転テーブル3は、水平に限らず垂直の配置でも傾斜した配置でもよい。成膜装置1の設置面は、床面であっても、天井であっても、側壁面であってもよい。
【0074】
(9)成膜部100による成膜は、ワークWの片面に対してのみ行ってもよい。つまり、反転部200による反転を行わなくてもよいし、反転部200が無い装置であってもよい。
【0075】
(10)変換機構423は、上記の態様には限定されない。例えば、伝達部、回転部材として、互いに接触する部分が平坦面を有する一対のローラ(例えば、フッ素系樹脂)を用いてもよい。また、固定の伝達部をフランジとして、回転する回転部材を、フランジの外周に接する溝を有するプーリとしてもよい。また、このような伝達部は、回転部材に対して回転を伝達するタイミングベルトを含み、タイミングベルトを介して軸部420と支持軸422の回転を同期させてもよい。伝達部は固定には限定されず、軸部420とともに回転してもよい。
【0076】
(11)上記の態様では、自公転ユニット42は、ワークWを複数搭載可能に設けられ、回転ユニット44は、複数のワークWを成膜室110に収容した状態で、軸部420を回転させることにより、複数のトレイ41を公転させるとともに、それぞれのトレイ41を自転させていた。つまり、上記の態様では、自公転ユニット42に複数枚のワークWを搭載して自公転させながら成膜していたが、自公転ユニット42に1枚のワークWを搭載して成膜してもよい。また、自公転ユニット42が、1枚のワークWのみを搭載可能で、このワークWを自公転させながら成膜できる装置であってもよい。この場合であっても、自公転による膜厚均等の効果を得ることができる。
【0077】
(12)搭載装置が、ワークWを載置台Tに載置された自公転ユニット42に供給排出してもよい。例えば、搭載装置が、載置台T上の自公転ユニット42のトレイ41上に、ワークWを順次あるいは同時に載置してもよい。また、搭載装置が、載置台T上の自公転ユニット42のトレイ41から、ワークWを順次あるいは同時に搬出してもよい。これにより、重量、サイズが大きい自公転ユニット42の数、移動量を抑えることができる。なお、ワークWは、図示しない別ユニットによって治具Jに基板Sがセットされ、搭載装置に供給される。複数のワークWを収容するストッカが設けられていてもよい。ワークWをセットするための別ユニット(場所)を、ストッカで代用してもよい。
【0078】
また、載置台T上の自公転ユニット42のトレイ41上に残っている下治具Jd及びスペーサJsに、基板Sを順次あるいは同時に載置して、基板S上に上治具Juを順次あるいは同時に載置してもよい。また、載置台T上の自公転ユニット42のトレイ41上の上治具Juを順次あるいは同時に取り外して、下治具Jd及びスペーサJsから基板Sを順次あるいは同時に取り出してもよい。複数の治具J及び基板Sのストッカを有していてもよい。
【0079】
[他の実施形態]
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0080】
1 成膜装置
2 チャンバ
2a 開口
3 回転テーブル
3a 駆動源
4 ワーク回転部
10、10A、10B ターゲット
21 底板
22 蓋板
23 チャンバ排気部
24 架台
25 ロードロック室
31 シャフト
32 開口
33 支持部
33a 封止部材
41 トレイ
41a ワーク当接面
42 自公転ユニット
43 プッシャユニット
44 回転ユニット
44a モータ
44b 回転軸
44c 接続部
50 制御装置
100 成膜部
110 成膜室
111 開口
112 スペーサ
113 蓋体
120 スパッタ源
121 バッキングプレート
122 電極
130 電源部
140 スパッタガス導入部
150 排気部
200 反転部
300 搬入搬出部
310 搬送部
311 アーム
312 閉塞部
312a 封止部材
312b 保持部
320 ロードロック部
321 ロードロック室
322 プッシャ
322a 封止部材
323 排気ライン
324 ベントライン
420 軸部
420a 接続穴
421 回転体
422 支持軸
423 変換機構
423a 固定ギヤ
423b 遊星ギヤ
424 嵌合部
424a 嵌合凸部
424b 嵌合凹部
431 シリンダ
432 収容体
433 支持筒
434 接続板
G スパッタガス
J 治具
Ju 上治具
Jd 下治具
Js スペーサ
Jp ピン
Jm 磁石
S 基板
T 載置台
W ワーク