(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052578
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】コンクリート組成物とその製造方法、および、コンクリート硬化体
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20240404BHJP
C04B 14/04 20060101ALI20240404BHJP
C04B 24/26 20060101ALI20240404BHJP
C04B 38/08 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B14/04 C
C04B24/26 E
C04B38/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023156359
(22)【出願日】2023-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2022159005
(32)【優先日】2022-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】593089046
【氏名又は名称】青木あすなろ建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】517005020
【氏名又は名称】ティエムファクトリ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(72)【発明者】
【氏名】田端 勇人
(72)【発明者】
【氏名】岡 流聖
(72)【発明者】
【氏名】落合 裕正
(72)【発明者】
【氏名】村田 康平
(72)【発明者】
【氏名】橘 弘一郎
【テーマコード(参考)】
4G019
4G112
【Fターム(参考)】
4G019DA04
4G019LA06
4G019LC13
4G112MD01
4G112PA03
(57)【要約】
【課題】流動性および充填性に優れ、かつ、硬化後の断熱性にも優れたコンクリート組成物とその製造方法、および硬化体を提供すること。
【解決手段】水硬性セメント、水、骨材、混和剤およびエアロゲルを含むコンクリート組成物であって、前記骨材は、粗骨材を含み、前記混和材料の主原料は、高性能AE減水剤または高性能減水剤のうちの少なくともいずれかであり、コンクリート組成物中のエアロゲルの含有量が10~45体積%である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水硬性セメント、水、骨材、混和剤および粒子状のエアロゲルを含むコンクリート組成物であって、
前記骨材は、粗骨材を含み、
前記混和剤の主原料は、高性能AE減水剤または高性能減水剤のうちの少なくともいずれかであり、
コンクリート組成物中のエアロゲルの含有量が10~45体積%である
ことを特徴とするコンクリート組成物。
【請求項2】
前記エアロゲルは、平均粒径が1μm~10mmである
ことを特徴とする請求項1のコンクリート組成物。
【請求項3】
前記エアロゲルは、タップ密度が0.03g/cm3~0.20g/cm3である
ことを特徴とする請求項1のコンクリート組成物。
【請求項4】
前記粗骨材の含有量が、500~1000kg/m3であることを特徴とする請求項1のコンクリート組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかのコンクリート組成物の硬化体である
ことを特徴とするコンクリート硬化体。
【請求項6】
かさ密度が0.89(g/cm3)以上であり、熱伝導率が1.0W/(m・K)未満である
ことを特徴とする請求項5のコンクリート硬化体。
【請求項7】
コンクリート組成物の製造方法であって、
水硬性セメント、水、骨材、混和剤および粒子状のエアロゲルを混合する工程を含み、
前記骨材は、粗骨材を含み、
前記混和剤の主原料は、高性能AE減水剤または高性能減水剤のうちの少なくともいずれかであり、
コンクリート組成物中のエアロゲルの含有量が10~45体積%である
ことを特徴とするコンクリート組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート組成物とその製造方法、および、コンクリート硬化体に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは、水硬性の無機系結合剤と、骨材、水、その他混和材料からなる複合体である。コンクリートは、建設分野で広く使用され、従来、その断熱性を向上させる試みがなされている。
【0003】
具体的には、例えば、コンクリート組成物中に中空を有する粒子状物質、例えば、発泡樹脂の小片や合成樹脂のチップ、あるいは無機系断熱材の小包などの断熱材を混合する方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
一方、近年、新規材料として、固体として最も優れた断熱性と、疎水性を有するエアロゲルの開発が進められている。本出願人の一は、優れた軽量性、断熱性および疎水性を有する新規なエアロゲルおよびエアロゲル複合体、それらの製造方法について提案している(特許文献2-4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60-016880号公報
【特許文献2】特許第6677849号公報
【特許文献3】特許第6683870号公報
【特許文献4】特許第6764050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法の場合、材料の混練時に、断熱材が破損したり、吸水したりする虞がある。このため、コンクリート組成物の流動性や充填性が低下するという問題や、硬化後のコンクリートの断熱性を確保することが難しいという問題がある。
【0007】
一方、例えば、特許文献2-4で提案されているようなエアロゲルの粒子は、その表面に多数の凹凸を有し、比表面積が非常に大きい。このため、例えば、エアロゲルを断熱材としてコンクリート組成物中に配合した場合、混錬後のコンクリート組成物の粘度が著しく増加し、流動性および充填性が低下してしまう虞があると考えられた。また、エアロゲルを配合したコンクリート組成物の硬化体の断熱性については、これまで十分な検討がなされてこなかった。
【0008】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、流動性および充填性に優れ、かつ、硬化後の断熱性にも優れたコンクリート組成物とその製造方法およびコンクリート硬化体を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明のコンクリート組成物、コンクリート硬化体、および、コンクリート組成物の製造方法は、以下のことを特徴としている。
[1]水硬性セメント、水、骨材、混和剤および粒子状のエアロゲルを含むコンクリート組成物であって、
前記骨材は、粗骨材を含み、
前記混和剤の主原料は、高性能AE減水剤または高性能減水剤のうちの少なくともいずれかであり、
コンクリート組成物中のエアロゲルの含有量が10~45体積%である
ことを特徴とするコンクリート組成物。
[2]前記エアロゲルは、平均粒径が1μm~10mmである
ことを特徴とする前記[1]のコンクリート組成物。
[3]前記エアロゲルは、タップ密度が0.03g/cm3~0.20g/cm3であることを特徴とする前記[1]または[2]のコンクリート組成物。
[4]前記粗骨材の含有量が、500~1000kg/m3である
ことを特徴とする前記[1]から[3]のコンクリート組成物。
[5]前記[1]から[4]のいずれかのコンクリート組成物の硬化体である
ことを特徴とするコンクリート硬化体。
[6]かさ密度が0.89(g/cm3)以上であり、熱伝導率が1.0W/(m・K)未満である
ことを特徴とする前記[5]のコンクリート硬化体。
[7]コンクリート組成物の製造方法であって、
水硬性セメント、水、骨材、混和剤および粒子状のエアロゲルを混合する工程を含み、
前記骨材は、粗骨材を含み、
前記混和剤の主原料は、高性能AE減水剤または高性能減水剤のうちの少なくともいずれかであり、
コンクリート組成物中のエアロゲルの含有量が10~45体積%である
ことを特徴とするコンクリート組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のコンクリート組成物は、流動性および充填性に優れ、かつ、硬化後の断熱性にも優れている。本発明のコンクリート硬化体は、断熱性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のコンクリート組成物およびコンクリート硬化体の一実施形態について説明する。
【0012】
本発明のコンクリート組成物は、水硬性セメント(B)、水(W)、骨材(粗骨材G)、混和剤(AD)およびエアロゲル(A)を含む。本発明のコンクリート組成物は、これらを含む材料を、例えば、ミキサーなどを用いて混練して得られる混合物である。
【0013】
(水硬性セメント)
水硬性セメント(B)は特に限定されないが、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメントなどの各種ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカフュームセメント、アルミナセメントなどの各種混合セメントなどのうちの1種または2種以上を例示することができる。また、水硬性セメント(B)は、コンクリート組成物の製造時に、各種の混和材料(混和材)を、単体で、または組み合わせて加えることができる。このような混和材料としては、例えば、フライアッシュ、シリカフューム、高炉スラグ微粉末、膨張材などを例示することができる。
【0014】
コンクリート組成物中の水硬性セメントの含有量は特に限定されないが、例えば、270~900kg/m3であることが好ましく、350~800kg/m3の範囲を例示することができる。
【0015】
(水)
水(W)の配合量は特に限定されないが、コンクリート組成物中の単位水量は、150~175kg/m3であることが好ましく、150~170kg/m3であることがより好ましい。また、コンクリート組成物の流動性および充填性の観点から、水硬性セメント(B)に対する水(W)の質量比(W/B)は、15~50であることが好ましく、20~35であることがより好ましい。
【0016】
(骨材)
骨材は、粗骨材(G)を含む。粗骨材(G)は、5mm網ふるいに質量で85%以上とどまる骨材である(JIS A 0203:2019)。具体的には、粗骨材(G)は、例えば、川砂利、山砂利、海砂利等の天然骨材、砂岩、硬質石灰岩、玄武岩、安山岩等の砕石等の人工骨材、スラグ粗骨材、再生骨材、軽量骨材などを例示することができる。粗骨材(G)の最大寸法は、25、20、もしくは15mmから選択することができ、コンクリート組成物の流動性および充填性の観点から、20mmが好ましく、15mmがより好ましい。
【0017】
本発明のコンクリート組成物は、粗骨材(G)を含むことで、コンクリート組成物の硬化時の発熱が抑制され、さらに収縮を拘束することで、硬化体のひび割れが抑制される。この観点から、本発明のコンクリート組成物中の粗骨材(G)の含有量(単位容積質量)は特に限定されないが、500~1000kg/m3の範囲であることが好ましい。
【0018】
さらに、本発明のコンクリート組成物には、細骨材(S)を配合することができる。細骨材(S)は、10mm網ふるいを全部通り、5mm網ふるいを質量で85%以上通る骨材である(JIS A 0203:2019)。具体的には、細骨材(S)は、例えば、川砂、陸砂、海砂、砕砂、高炉スラグ細骨材、軽量骨材などを例示することができる。
【0019】
本発明のコンクリート組成物中の細骨材(S)の含有量(単位容積質量)は、0~800kg/m3の範囲を例示することができる。
【0020】
(混和剤)
本発明のコンクリート組成物に使用される混和剤(AD)の主原料は、高性能AE減水剤(標準形、遅延形)、高性能減水剤のうちの少なくともいずれかである。ここで、「主原料」とは、2種以上の混和剤(減水剤)を含む場合は、混和剤を構成する材料のうち、50質量%以上を占める材料を言う。この場合、主原料は、混和剤を構成する材料のうち80質量%以上を占めることが好ましく、90質量%以上を占めることがより好ましい。
【0021】
高性能AE減水剤は、空気連行性能をもち、AE減水剤よりも高い減水性能及び良好なスランプ保持性能をもつ混和剤である(JIS A 0203:2019、JIS 6204:2011)。高性能減水剤は、所要のスランプを得るのに必要な単位水量を大幅に減少させるか、又は単位水量を変えることなくスランプを大幅に増加させる混和剤である(JIS A 0203:2019、JIS 6204:2011)。高性能AE減水剤および高性能減水剤は、市販のものを使用することもできる。
【0022】
本発明のコンクリート組成物中の混和剤(AD)である高性能AE減水剤または高性能減水剤の含有量は、例えば、水硬性セメント(B)の含有量(kg/m3)に対する比(AD/B)で、0.5~10.0、好ましくは、1.1~5.0の範囲を例示することができる。高性能AE減水剤または高性能減水剤の含有量がこの範囲であると、コンクリート組成物の流動性および充填性が良好になり、コンクリート硬化体の均一性も良好になる。
【0023】
また、混和剤(AD)は、上記の高性能AE減水剤および高性能減水剤の他に、空気連行剤(空気連行成分)、消泡剤(消泡成分、制泡成分)、起泡剤、減水剤(標準形、遅延形、促進形)、AE減水剤、保水剤、防水剤、撥水剤、硬化促進剤、流動化剤(標準形、遅延形)、収縮低減剤、凝結遅延剤、凝結促進剤、急結剤、耐寒促進剤、付着モルタル安定剤、黒ずみ抑制剤、増粘剤、分離低減剤、防錆剤、顔料などを必要に応じて併用することができる。
【0024】
(エアロゲル)
エアロゲル(A)は、ゲル中に含まれる溶媒を気体に置換して得られる多孔質体である。エアロゲル(A)の平均粒径、密度、比表面積は一定の相関関係にある。エアロゲル(A)は、超撥水に近い性質をもつ。エアロゲル(A)は、例えば超臨界乾燥法、常圧乾燥法などの、公知の製造方法で製造することができる。
【0025】
エアロゲル(A)は、粒子状(粒状または粉末状)である。エアロゲル(A)の粒子の形状は、特に限定されず、種々の形状であってよい。例えば、粒子が、角張った岩石状といった不定形の形状を有してもよい。粒子が、球状、ラグビーボール状、パネル状、フレーク状、繊維状といった形状を有してもよい。
【0026】
エアロゲル(A)の粒子の平均粒径は特に限定されないが、例えば、1μm~10mmであることが好ましく、10μm~5mmであることがより好ましい。エアロゲル(A)の粒子の平均粒径がこの範囲であると、コンクリート組成物の流動性および充填性が良好になり、コンクリート硬化体の断熱性も良好になる。なお、平均粒径は、例えば、レーザー回折・散乱法等によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径をいう。
【0027】
エアロゲル(A)の比表面積は特に限定されないが、例えば、500~1000m2/gの範囲を例示することができる。
【0028】
また、エアロゲル(A)は、シリカエアロゲル、カーボンエアロゲル、アルミナエアロゲルなどであってよく、なかでも、シリカエアロゲルであることが好ましい。例えば、エアロゲル(A)は、特許文献2-4に記載されているシラン化合物の加水分解縮合物からなるものを例示することができる。具体的には、シラン化合物が、4官能シラン化合物、3官能シラン化合物および2官能シラン化合物の質量百分率をそれぞれQx、Tx、Dxとするとき、0<Qx<50、50≦Tx<100、0≦Dx<30(ただしQx+Tx+Dx=100)であるエアロゲル複合体を好ましく例示することができる。
【0029】
エアロゲル(A)は、良好な疎水性を有していることが好ましい。具体的には、エアロゲル(A)は、接触角が120~140°であることが好ましく、130~140°であることがより好ましい。エアロゲルの接触角がこの範囲であると、コンクリート組成物中のエアロゲルが安定して存在でき、コンクリート硬化体の断熱性も良好になる。
【0030】
また、同様の観点から、エアロゲル(A)のタップ密度は、0.03~0.20g/cm3であることが好ましく、0.06~0.09g/cm3であることがより好ましい。タップ密度は、公知の方法で測定することができる。
【0031】
エアロゲル(A)は、熱伝導率が0.025W/(m・K)以下であることが好ましく、0.020W/(m・K)以下であることがより好ましい。エアロゲル(A)の熱伝導率がこの範囲であると、コンクリート組成物の硬化体(コンクリート硬化体)の断熱性が良好になる。
【0032】
また、コンクリート組成物中のエアロゲル(A)の含有量は、10~45体積%であり、15~40体積%であることが好ましい。コンクリート組成物中のエアロゲル(A)の含有量がこの範囲であると、コンクリート組成物の硬化体(コンクリート硬化体)の断熱性が良好になり、また、粗骨材(G)の含有量を適切な範囲に調整できるため、コンクリート組成物の硬化時の収縮を抑制することができる。
【0033】
(その他)
本発明のコンクリート組成物には、上記の材料の他に、コンクリート組成物に配合可能な公知の材料を含むことができる。
【0034】
(コンクリート組成物およびコンクリート硬化体)
本発明のコンクリート組成物は、水硬性セメント(B)、水(W)、骨材、混和剤(AD)およびエアロゲル(A)を含む。骨材は粗骨材(G)を含み、混和剤の主成分は、高性能AE減水剤または高性能減水剤であり、コンクリート組成物中のエアロゲル(A)の含有量が10~45体積%である。
【0035】
また、本発明のコンクリート組成物の硬化体(コンクリート硬化体)は、かさ密度が0.89(g/cm3)以上2.5以下(g/cm3)であることが好ましい。また、本発明のコンクリート硬化体は、熱伝導率が1.0W/(m・K)未満であることが好ましく、0.6W/(m・K)未満であることがより好ましい。本発明のコンクリート硬化体は、エアロゲル(A)による断熱性が維持されているとともに、強度も、建築物の壁材や、建築物の壁・天井部・基礎部の仕上材として十分な強度を有している。本発明のコンクリート硬化体は、例えば、耐火性や耐熱性が求められる各種の建材、低温保管機能が求められる輸送コンテナや恒温容器などに好適に利用することができる。建材としては、具体的に、床材、壁材、天井材、間仕切り壁、カーテンウォールなどが挙げられる。
【0036】
(製造方法)
また、本発明のコンクリート組成物の製造方法は、上述した材料(水硬性セメント、水、骨材、混和剤および粒子状のエアロゲル)を混合する工程を含む。すなわち、本発明のコンクリート組成物の製造方法においては、骨材は、粗骨材を含み、混和剤の主原料は、高性能AE減水剤または高性能減水剤のうちの少なくともいずれかであり、コンクリート組成物中のエアロゲルの含有量が10~45体積%である。
【0037】
本発明のコンクリート組成物、コンクリート硬化体およびコンクリート組成物の製造方法は、以上の実施形態に何ら限定されるものではない。
【実施例0038】
以下、本発明のコンクリート組成物、コンクリート硬化体およびコンクリート組成物の製造方法について、実施例とともに説明するが、本発明のコンクリート組成物、コンクリート硬化体およびコンクリート組成物の製造方法は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0039】
<1>コンクリート組成物および硬化体の作製および評価1
(使用材料および作製方法)
以下の材料を混錬して、コンクリート組成物(比較例1)を作製した。各材料の含有量や配合比は、以下の表1に示している。表1に示す配合割合を用いて、20℃の室内環境にて、練り上がりが約30Lとなるように計量、混合して作製した。混練には、強制二軸ミキサーを用いた。
・エアロゲル(A1):粉末状エアロゲル(タップ密度:0.07g/cm3、粒径:30μm~5mm、比表面積:800~1000m2/g、接触角:140°)
・水(W1):上水道水(茨城県つくば市)
・水硬性セメント(B1):普通ポルトランドセメント(3種等量(太平洋セメント社製、宇部三菱セメント社製、住友大阪セメント社製)、密度:3.16g/cm3)
・細骨材(S1):山砂(静岡県掛川市産、表乾密度:2.57g/cm3)
・粗骨材(G1):砕石(岩瀬産、最大寸法:20mm、表乾密度:2.66g/cm3)
・混和剤(AD1):AE減水剤(商品名「SV10H」、フローリック社製、主成分:ポリカルボン酸系化合物、密度1.02~1.10g/cm3)
【0040】
なお、粉末状エアロゲルのタップ密度は、目盛り付きの透明容器に規定量の粉末を入れ、タップ装置(今回は手動)を使用して、粉末の体積がそれ以上減少しないところまでタップし、粉末の質量をタップ後の粉末体積で除し、タップ密度とした。また、タップ密度の測定は、以下の測定条件で行った。
(測定条件)
100cm3の目盛り付き樹脂製容器(メスシリンダー)を用い、およそ5gのエアロゲル粉末を計り取る。
容器を水平台の上に置き、およそ1cmの高さから200回タップする。
タップ後、粉末の体積を読み取り、以下の式に従ってタップ密度を算出する。
・タップ密度pt(g/cm3)=m/v
m=粉末質量(g)
v=タップ後の粉末体積(cm3)
【0041】
【0042】
(硬化体の定義)
硬化体は、混練後に温度20℃、相対湿度60%の室内で28日間以上放置養生したものと定義した。以下の実施例および比較例においても同様である。
【0043】
(測定方法・評価方法)
<スランプの測定方法・混錬直後の流動性および充填性の評価方法>
混練直後(混練後約30分経過するまで)のコンクリート組成物の評価項目として、スランプは、JIS A1101に準拠して求めた。一般的に8~21cmの範囲の中で、施工条件によってその設計値を設定する。スランプが8cm以上であった場合は、流動性および充填性があると判断し(評価:〇)、8cm未満であった場合は流動性および充填性が十分でない(評価:×)と判断した。
<かさ密度の測定方法>
(円柱のかさ密度)
JISA 1132に「コンクリートの強度試験用供試体の作り方」に準拠し、円柱の試験体を作成した。円柱の試験体のかさ密度は、ノギス等を用いて上面と下面の面積、および高さから求めた体積と、電子ばかりにて測定した質量とを用いて求めた。以下の実施例および比較例においても同様である。
<硬化体の充填性の評価方法>
硬化体の充填性の評価は、充填率90%以上を合格(評価:〇)とした。
<熱伝導率の測定方法>
熱伝導率の測定方法は、JIS A1412-2「熱絶縁材の熱抵抗及び熱伝導率の測定方法-第2部:熱流計法(HFM法)」に準拠し、35℃および15℃のプレートで、混練直後に幅10cm×奥行2cm×高さ10cmの型枠に充填し、硬化後に脱型した平板の試験体を挟み込み、定常状態となった際の熱流を測定し、熱伝導率を求めた。
【0044】
比較例1の評価結果を表2に示す。
【0045】
【0046】
表2に示したように、エアロゲル(A1)を16体積%含有する比較例1は、混和剤(AD1)としてAE減水剤が使用されていることで、混練直後のコンクリート組成物の流動性および充填性が低く、熱伝導率の測定に使用する平板の試験体の充填性が低かったため、硬化体の断熱性については評価不能であった。
【0047】
<2>コンクリート組成物および硬化体の作製および評価2
(使用材料および作製方法)
練り上がりが約35Lとなるように計量、混合した以外は、材料を上記<1>と同様の方法で混錬して、コンクリート組成物を作製した。各材料の含有量や配合比は、以下の表3に示している。
・エアロゲル(A2):粉末状エアロゲル(タップ密度:0.07g/cm3、粒径:30μm~5mm、比表面積:800~1000m2/g)
・水(W2):上水道水(茨城県つくば市)
・水硬性セメント:高炉セメントB種(太平洋セメント社製、密度:3.04g/cm3)
・細骨材(S2):山砂(静岡県掛川市産、表乾密度:2.58g/cm3)
・粗骨材(G2):砕石(青梅産、最大寸法:15mm、表乾密度:2.65g/cm3)
・混和剤(AD2):高性能AE減水剤(商品名「SF500S」、フローリック社製、主成分:ポリカルボン酸系化合物、密度1.02~1.10g/cm3)
【0048】
【0049】
(測定方法・評価方法)
かさ密度、熱伝導率および断熱性の測定方法は、上記<1>と同様の方法で行った。
<スランプフローの測定方法>
混練直後の組成物のスランプフローは、JIS A1150に準拠して求めた。
<U形充填の測定・評価方法>
U形充填は、JSCE-F511-2018に準拠して、障害R2に設定した試験を行い、充填高さが300mm以上であった場合を合格とし、300mmに到達しなかった場合を不合格とした。
<混錬直後の流動性および充填性の評価>
流動性および充填性の評価は、混練直後(混練後約30分経過するまで)のコンクリート組成物について、スランプフローが50cm以上であり、U形充填の評価に合格したものを合格(評価:○)とした。
<硬化体の充填性の評価方法>
硬化体の充填性の評価は、充填率90%以上を合格(評価:〇)とした。
<硬化体の断熱性の評価>
硬化体の熱伝導率が、熱伝導率0.6(W/(m・K)未満の場合を合格(評価:◎)とし、熱伝導率0.6(W/(m・K)以上1.0(W/(m・K)未満の場合を合格(評価:○)とし、熱伝導率1.0(W/(m・K))以上の場合を不合格(評価:×)とした。
<総合評価>
◎:混練直後(流動性・充填性)および硬化体(充填性・断熱性)の評価が、全て〇または◎である(◎が1以上ある)
〇:混練直後(流動性・充填性)および硬化体(充填性・断熱性)の評価が、全て〇である
×:混練直後(流動性・充填性)および硬化体(充填性・断熱性)の評価において、×がある
【0050】
比較例2および実施例1-3の評価結果を表4に示す。
【0051】
【0052】
表4に示したように、エアロゲル(A2)を含まず、かつ、高性能AE減水剤(混和剤(AD2))を含む比較例2では、流動性と充填性は確保できるものの、硬化体の断熱性が十分でないことが確認された。
【0053】
一方、コンクリート組成物全体に対して10~40体積%のエアロゲル(A2)を含み、かつ、高性能AE減水剤(混和剤(AD2))を含む実施例1-4では、コンクリート組成物の流動性と充填性に優れ、硬化体は、軽量であり、かつ断熱性(熱伝導率)にも優れていることが確認された。また、高性能AE減水剤は、一般的にセメント粒子を分散させる効果を有するが、それだけでなく、エアロゲルを含むコンクリート組成物(実施例1-4)の流動性および充填性を維持させることができることが確認された。
【0054】
一方、コンクリート組成物中のエアロゲルの含有量が10体積%よりも小さい場合、コンクリート硬化体の熱伝導率が十分に低下しないと考えられる。また、例えば、コンクリート組成物中に、エアロゲルを45体積%より多く含むように調製するためには、実施例4と比べてセメントまたは粗骨材の単位容積質量をより小さくすることになる。この場合、例えば、セメントの単位容積質量が500kg/m3よりも小さくなると、コンクリート硬化体の構造を充分に保つことができず、粗骨材の単位容積質量が500kg/m3よりも小さくなると、コンクリート組成物の硬化時における収縮を拘束する効果を確保することが難しい。したがって、コンクリート組成物中のエアロゲルの含有量の上限は、約45体積%である。
【0055】
<3>コンクリート組成物および硬化体の作製および評価3
(使用材料および作製方法)
以下の材料を上記<1><2>と同様の方法で混錬して、コンクリート組成物を作製した。各材料の含有量や配合比は、以下の表5に示している。
・エアロゲル(A3):粉末状エアロゲル(タップ密度:0.07g/cm3、粒径:30μm~3mm、比表面積:800~1000m2/g)
・水(W3):上水道水(茨城県つくば市)
・水硬性セメント(B3):商品名「シリカフュームプレミックスセメント」(太平洋セメント社製、密度:3.04g/cm3)
・細骨材(S3):山砂(静岡県掛川市産、表乾密度:2.58g/cm3)
・粗骨材(G3):砕石(青梅産、最大寸法:15mm、表乾密度:2.66g/cm3)
・混和剤(AD3):高性能減水剤(非AE)、商品名「SF500U」、株式会社フローリック社製、主成分:ポリカルボン酸系化合物、密度1.03~1.11g/cm3)
【0056】
【0057】
(測定方法)
スランプフロー、かさ密度、熱伝導率および断熱性の測定方法は、上記<1><2>と同様の方法で行った。
<圧縮強度>
硬化体の圧縮強度は、JISA 1108「コンクリートの圧縮強度試験方法」に準拠して求めた。
(評価方法)
以下の評価基準で評価を行った。
<コンクリート組成物の流動性・充填性>
〇:スランプフローが50cm以上80cm未満
△:スランプフローが50cm未満、または80cm以上
<硬化体の充填性>
硬化体の充填性の評価は、充填率90%以上を合格(評価:〇)とした。
<硬化体の断熱性>
◎:熱伝導率が0.6W/(m・K)未満
○:熱伝導率が0.6W/(m・K)以上1.0W/(m・K)未満
×:熱伝導率が1.0W/(m・K)以上
<総合評価>
◎:混練直後(流動性・充填性)および硬化体(充填性・断熱性)の評価が、全て〇または◎である
〇:混練直後(流動性・充填性)および硬化体(充填性・断熱性)の評価が、それぞれ〇または△である
×:混練直後(流動性・充填性)および硬化体(充填性・断熱性)の評価において、×がある
【0058】
比較例3、4および実施例6-13の評価結果を表6に示す。
【0059】
【0060】
表6に示したように、エアロゲル(A2)を含まず、かつ、高性能減水剤(混和剤(AD2))を含む比較例3、4では、混錬直後のコンクリート組成物の流動性と充填性は確保できるものの、硬化体の断熱性が十分でないことが確認された。
【0061】
一方、シリカフュームセメントを用いたコンクリート組成物は、セメントの単位容積質量が大きく、セメント(B)に対する水(W)の質量比(W/B)が小さいため、流動性の確保が難しいが、コンクリート組成物全体に対して10~35体積%のエアロゲル(A3)を含み、かつ、AE効果を有さない高性能減水剤(混和剤(AD3))を含む実施例6-9では、コンクリート組成物の流動性と充填性が良好であることが確認された。また、実施例6-9のコンクリート組成物の硬化体は、軽量であり、かつ、断熱性(熱伝導率)にも優れていることが確認された。さらに、コンクリート組成物全体に対して10~45体積%のエアロゲル(A3)を含み、かつ、AE効果を有さない高性能減水剤(混和剤(AD3))を含む実施例10-13では、コンクリート組成物の流動性と充填性が良好であることが確認された。また、実施例10-13のコンクリート組成物の硬化体は、軽量であり、かつ、断熱性(熱伝導率)にも優れていることが確認された。
実施例13について、かさ密度が1.45g/cm3、理論密度が1.32g/cm3であるが、本発明では粗骨材として軽量骨材を使用することもでき、その場合のかさ密度は、0.89g/cm3程度となることを確認している。
また、実施例6-9および実施例10-13のコンクリート硬化体の強度は、例えば建築物の壁材や、建築物の壁・天井部・基礎部の仕上材として利用することができる程度に優れていることが確認された。