(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052584
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】プレス成形方法
(51)【国際特許分類】
B21D 22/26 20060101AFI20240404BHJP
【FI】
B21D22/26 C
B21D22/26 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023159972
(22)【出願日】2023-09-25
(31)【優先権主張番号】202211209997.2
(32)【優先日】2022-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003683
【氏名又は名称】弁理士法人桐朋
(72)【発明者】
【氏名】松谷 健司
(72)【発明者】
【氏名】高橋 純輝
【テーマコード(参考)】
4E137
【Fターム(参考)】
4E137AA07
4E137BA01
4E137BA05
4E137BB01
4E137CA09
4E137CA24
4E137DA14
4E137EA02
4E137GA01
4E137GB02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】中間成形体と上型との干渉を抑制する。
【解決手段】板材をプレスして、目標成形体20の稜線部16のエッジ半径よりも大きいエッジ半径の中間稜線部30を有する中間成形体32を形成する第1工程と、中間成形体32をプレスして、稜線部16を含む目標成形体20を形成する第2工程を有するプレス成形方法において、稜線部16の延在方向に直交する方向の断面で、中間成形体32に、目標成形体20の稜線部16を挟む第1辺及び第2辺の角度を二等分する挟み角中心線の両側に、目標成形体20よりもエッジ半径の外方に膨出した第1弛み部46及び第2弛み部48を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板材をプレスして、目標成形体の稜線部のエッジ半径よりも大きいエッジ半径の中間稜線部を有する中間成形体を形成する第1工程と、
前記中間成形体をプレスして、前記稜線部を含む前記目標成形体を形成する第2工程を有するプレス成形方法であって、
前記稜線部の延在方向に直交する方向の断面において、前記中間成形体は、前記目標成形体の前記稜線部を挟む第1辺及び第2辺の角度を二等分する挟み角中心線の両側に、前記目標成形体よりもエッジ半径の外方に膨出した第1弛み部及び第2弛み部を有する、プレス成形方法。
【請求項2】
請求項1記載のプレス成形方法であって、前記中間成形体は、前記挟み角中心線に隣接する部位に前記目標成形体よりもエッジ半径の内方に偏差した内側領域を有し、前記内側領域における前記中間成形体と前記目標成形体とのプレスストローク方向の第1の最大偏差Haが、前記第1弛み部及び前記第2弛み部における前記中間成形体と前記目標成形体とのプレスストローク方向の第2の最大偏差Hb1、Hb2よりも大きい、プレス成形方法。
【請求項3】
請求項2記載のプレス成形方法であって、さらに前記中間成形体の形状を決定する形状決定工程を有し、前記形状決定工程は、
前記目標成形体の前記稜線部を挟む前記第1辺及び第2辺の角度を二等分する位置に前記挟み角中心線を引くステップと、
前記目標成形体を前記第1の最大偏差Haだけプレスストローク方向の上方にオフセットさせた仮想上型線を引くステップと、
前記挟み角中心線と前記第1辺及び第2辺との交点から、前記仮想上型線の第1方向の側辺に接する第1接線と、前記仮想上型線の第2方向の側辺に接する第2接線を引くステップと、
前記交点から前記第1の最大偏差Haだけプレスストローク方向の下方の位置で前記挟み角中心線と直交する仮想線を引くステップと、
前記第1接線及び前記仮想線に内接する第1円弧と、前記仮想線及び前記第2接線に内接する第2円弧とを求めるステップと、
前記第1円弧の前記第1方向の端部と前記目標成形体の形状と一致する前記第1方向の一致領域とを繋ぐ第3円弧を求めるステップと、
前記第2円弧の前記第2方向の端部と前記目標成形体の形状と一致する前記第2方向の前記一致領域とを繋ぐ第4円弧を求めるステップと、を有する、プレス成形方法。
【請求項4】
請求項3記載のプレス成形方法であって、前記中間成形体は、ブランクホルダと上型とで挟持される捨絞部を有し、前記中間成形体を前記ブランクホルダと前記上型とで挟持したときの前記一致領域と前記上型とのプレスストローク方向の離間距離H2ndは、前記第1の最大偏差Haと同じである、プレス成形方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のプレス成形方法であって、前記中間成形体の前記中間稜線部の最大傾斜角θ0は、前記目標成形体の最大傾斜角θr1よりも小さい、プレス成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板材を所定形状に成形するためのプレス成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のアウタパネルは、一般に金属よりなる板材のプレス成形によって生産されている。プレス成形で、金属の板材に小曲率半径の稜線部を形成すると、皺やクラックが発生するため、高度な技術が必要とされる。例えば、特許文献1は、稜線部のエッジ半径よりも大きい半径の中間成形体を成形する第1工程と、中間成形体から目標成形体を形成する第2工程とで、小曲率半径が小さい稜線部を形成するプレス成形方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のプレス成形方法では、予め目標成形体の外側に膨出するように中間成形体を設けることにより、稜線部を形成する際の伸び代を予め確保する。ところが、稜線部に隣接する平面の角度(挟み角θ)が、小さくなると、稜線部の近傍の伸びがさらに増大し、中間成形体の膨らみをより大きくする必要がある。ところが、中間成形体の膨らみが大きくなりすぎると、中間成形体を上型とブランクホルダとで挟持する際に、中間成形体が上型と接触してしまい、上型とブランクホルダとで中間成形体を挟持することが困難になるとともに、成形品に傷が入ることが判明した。
【0005】
本発明は、上記した課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下の開示の一観点は、板材をプレスして、目標成形体の稜線部のエッジ半径よりも大きいエッジ半径の中間稜線部を有する中間成形体を形成する第1工程と、前記中間成形体をプレスして、前記稜線部を含む前記目標成形体を形成する第2工程を有するプレス成形方法であって、前記稜線部の延在方向に直交する方向の断面において、前記中間成形体は、前記目標成形体の前記稜線部を挟む第1辺及び第2辺の角度を二等分する挟み角中心線の両側に、前記目標成形体よりもエッジ半径の外方に膨出した第1弛み部及び第2弛み部を有する、プレス成形方法にある。
【発明の効果】
【0007】
上記観点のプレス成形方法は、中間成形体に、挟み角中心線の両側に弛み部を設けることにより、目標成形体と中間成形体の弛み部とのストローク方向の最大偏差を抑制することができ、中間成形体と上型との干渉を抑制できる。
【0008】
上記の目的、特徴及び利点は、添付した図面を参照して説明される以下の実施形態の説明から容易に了解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施形態のプレス成形方法によって成形される目標成形体の斜視図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る中間成形体の断面図である。
【
図3】
図3Aは、実施形態に係る
図2の中間成形体の形状の決定方法を示す説明図(その1)であり、
図3Bは実施形態に係る
図2の中間成形体の形状の決定方法を示す説明図(その2)である。
【
図4】
図4は、実施形態に係る中間成形体の形状の決定方法を示す説明図(その3)である。
【
図5】
図5Aは、第2工程の成形金型に
図3Aの中間成形体を配置する工程の説明図であり、
図5Bは
図5Aの中間成形体をブランクホルダと上型とで挟持する工程の説明図である。
【
図6】
図6Aは、上型を下型に向けて下降させる途中の説明図であり、
図6Bは、
図6Aの中間成形体の一致領域が下型に当接した状態の説明図である。
【
図7】
図7Aは、比較例に係る中間成形体の断面図であり、
図7Bは
図7Aの中間成形体と成形金型(比較例)との干渉を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に説明されるプレス成形方法は、例えば
図1に示されるような、自動車のルーフパネルやトランク部分のアウタパネル10の製造に適用される。このプレス成形方法は、例えばスポイラ12等の90°以下の平坦部14に挟まれた稜線部16を有するアウタパネル10の成形に好適である。本実施形態は、
図1に示される矩形状の板材18を成形する例について説明する。図示の板材18は、プレス成形された後の目標成形体20の形状であり、トランク部分のアウタパネル10である。なお、
図1では目標成形体20は、車幅方向の中央のII-II線部分で半分に切断された状態で示されている。
【0011】
目標成形体20は、製品部22と捨絞部24とを有する。製品部22は、製品として使用される部分であり、捨絞部24はプレス成形の後に切断して除去される部分である。捨絞部24は、板材18の周縁部に位置し、製品部22の周囲を囲む帯状の部分である。製品部22は、稜線部16を有する。稜線部16は、例えば、2.5mm~9mmと小さな曲率半径(エッジ半径)を有しており、鋭い刃状の外観を呈する。稜線部16は、例えばアウタパネル10と一体的に形成されるスポイラ12である。目標成形体20は、稜線部16の一方の側部に第1斜面26を有し、他方の側部に第2斜面28を有する。稜線部16は、第1斜面26と第2斜面28とに挟まれる。第1斜面26と第2斜面28とが稜線部16を挟む角度である挟み角θは、例えば30°~90°である。
【0012】
本実施形態のプレス成形方法に用いられる板材18は、例えば、厚さが0.3mm~3mmの鋼板又はアルミニウム合金板等の金属板である。本実施形態のプレス成形方法は、鋼板やアルミニウム合金板等の板材18をプレスして、曲率半径の小さな稜線部16を有する目標成形体20を形成する。このような目標成形体20を成形するために、本実施形態に係るプレス成形方法は、第1工程と第2工程との2回のプレス成形工程を有する。
【0013】
第1工程は、例えば、プレス成形(絞り加工)によって行われる。第1工程は、平板状の板材18を成形して、
図2に示されるように、中間成形体32を形成する。
【0014】
図2に示される中間成形体32は、中間稜線部30と、一致領域34と、捨絞部24とを有する。このうち中間稜線部30は、内側領域36と、弛み部38とを有する。内側領域36は、目標成形体20とのプレスストローク方向に最大偏差Haだけ下方に偏差する。この最大偏差Haの値は、中間成形体32から目標成形体20に成形する際の捨絞部24の伸び率Lに応じて設定された値であり、後述するホールド工程での一致領域34と上型42との離間距離H
2ndと等しい。
【0015】
弛み部38は、内側領域36の第1方向の側部及び第2方向の側部にそれぞれ配置される。弛み部38は、内側領域36と滑らかな曲面で繋がる。一致領域34は、中間稜線部30の周囲を取り囲む部分に位置する。すなわち、弛み部38は、内側領域36の第1方向の側部に位置する第1弛み部46と、内側領域36の第2方向の側部に位置する第2弛み部48とを有する。
【0016】
第1弛み部46及び第2弛み部48は、目標成形体20よりもエッジ半径の外方に膨出するように湾曲する。このうち、第1弛み部46は、目標成形体20の第1斜面26に対して外方に偏差する。第1弛み部46は、内側領域36と滑らかな円弧で繋がる。第1弛み部46の中で、第1斜面26からプレスストローク方向に最も離れた部分の離間距離を最大偏差Hb1とよぶ。第1弛み部46の最大偏差Hb1は、内側領域36と目標成形体20との最大偏差Haの値よりも小さな値に設定される。
【0017】
第1弛み部46は、最大偏差Hb1を示す位置から一致領域34に近づくにつれて目標成形体20との偏差が徐々に減少する。第1弛み部46は、製品部22の外周付近において、目標成形体20の形状と一致する一致領域34と繋がる。第1弛み部46は、一致領域34を介して捨絞部24と繋がる。
【0018】
第2弛み部48は、目標成形体20の第2斜面28に対して外方に偏差する。第2弛み部48は、内側領域36と滑らかな円弧で繋がる。第2弛み部48において、目標成形体20の第2斜面28に対してプレスストローク方向に最も離れた部分の離間距離を第2弛み部48の最大偏差Hb2とよぶ。第2弛み部48の最大偏差Hb2は、第1弛み部46の最大偏差Hb1と同じ値に設定される。
【0019】
第2弛み部48は、最大偏差Hb2を示す位置から一致領域34に近づくにつれて目標成形体20との偏差が徐々に減少する。第2弛み部48は、製品部22の外周付近において、目標成形体20の形状と一致する一致領域34と繋がる。
【0020】
第1弛み部46の最大傾斜角θ1は、目標成形体20の第1斜面26の最大傾斜角θr1よりも小さい。また、第2弛み部48の最大傾斜角θ2は、目標成形体20の第2斜面28の最大傾斜角θr2よりも小さい。そのため、中間成形体32は、第1工程(プレス成形)において、第1弛み部46及び第2弛み部48の伸びを抑制でき、張力や厚さの減少を抑制した状態で、中間成形体32を成形できる。
【0021】
一致領域34は、中間稜線部30の外周を囲む部分に位置する。一致領域34は、製品部22において、目標成形体20と同様の形状を有する領域である。中間稜線部30は、一致領域34を介して捨絞部24に繋がる。
【0022】
捨絞部24は、製品部22の外周側に位置する。捨絞部24は、
図5Bに示されるように、第2工程においてブランクホルダ40と上型42とで挟持される部分である。
図2に示されるように、捨絞部24は、一致領域34の外側に位置し、一致領域34の周囲を取り囲む。
【0023】
捨絞部24は、段部52と、固定構造54とを有する。段部52は、製品部22の外側に隣接する。段部52は、第1斜面26及び第2斜面28よりも急角度で下方に向けて傾斜する。段部52の上端は捨絞部24の上端を構成する。段部52の上端は製品部22の一致領域34と繋がる。
【0024】
固定構造54は、ホールド工程において、ブランクホルダ40と上型42とに挟まれる部分である。固定構造54は、段部52の外側に隣接する。固定構造54は、段部52よりも小さい傾斜角で外方に伸び出る。固定構造54は、製品部22の外周を取り囲む。固定構造54は、溝状のロックビード56が形成されている。特に限定されないが、第1工程に投入される際のロックビード56は、断面形状が上に凹の半円形状の丸ビードでもよい。ロックビード56は、ブランクホルダ40のロック凹部58と上型42のロック凸部60とに係合することで、板材18の成形面方向の移動を阻止する。
【0025】
以下、
図2の中間成形体32の具体的な形状の決定方法について説明する。
【0026】
中間稜線部30の形状は、
図3Aに示される目標成形体20の断面形状に基づいて決定される。まず、図示のように、目標成形体20について、稜線部16の延在方向と直交する方向の断面62が切り出される。次に、断面62において、稜線部16に最も近接する部分の第1斜面26の接線が第1辺64として求められる。また、稜線部16に最も近接する部分の第2斜面28の接線が第2辺66として求められる。第1辺64と第2辺66とは、稜線部16の上方で交差する。第1辺64と第2辺66との為す角度が挟み角θである。
【0027】
次に、第1辺64と第2辺66との交点68を通過し、かつ挟み角θを二等分する直線が挟み角中心線50として求められる。
【0028】
次に、
図3Bに示されるように、ホールド工程での一致領域34と上型42との離間距離H
2ndが決定される。離間距離H
2ndは、その値が大きい程、第1弛み部46及び第2弛み部48の最大偏差Hb1、Hb2を大きくすることができる。ただし、過大な離間距離H
2ndは、目標成形体20を成形する際に、捨絞部24の段部52の伸びが増大し、アウタパネル10の品質を損なう。したがって、離間距離H
2ndは、捨絞部24の伸びによる肉厚変化が例えば20%以下となる範囲で設定される。
【0029】
次に、
図3Bに示されるように、交点68からプレスストローク方向の上方に離間距離H
2ndだけオフセットさせた目標成形体20の断面形状が仮想上型線70として設定される。また、仮想線76を求める。仮想線76は、交点68からプレスストローク方向の下方に離間距離H
2ndの位置で挟み角中心線50と垂直に交わる直線である。
【0030】
次に、
図4に示されるように、交点68を通り、仮想上型線70と接する又は交差する第1接線72及び第2接線74とが設定される。第1接線72は、仮想上型線70の第1方向の側辺と一点で接する又は交差する直線(接線)であり、第2接線74は仮想上型線70の第2方向の側辺と一点で接する又は交差する直線(接線)である。
【0031】
次に、仮想線76及び第1接線72に接する第1円弧78と、仮想線76及び第2接線74に接する第2円弧80とを求める。第1円弧78は、仮想線76との接点を一方の端部とし、第1接線72との接点を他方の端部とする。第1円弧78の曲率半径R1は、第1工程をプレス成形で行う場合において、製品品質(線ずれ)が担保される範囲から設定される。この曲率半径R1は、目標成形体20の稜線部16のエッジ半径よりも大きな値となる。より好ましくは、曲率半径R1は、第1円弧78の仮想線76との接点が挟み角中心線50の近傍に位置し、第1円弧78の第1接線72との接点が第1接線72と仮想上型線70との接点の近傍に位置するように設定されることが好ましい。
【0032】
第2円弧80は、仮想線76との接点を一方の端部とし、第2接線74との接点を他方の端部とする。第2円弧80の曲率半径R2は、第1工程をプレス成形で行う場合において、製品品質(線ずれ)が担保される範囲から設定される。曲率半径R2は、目標成形体20の稜線部16のエッジ半径よりも大きな値となる。より好ましくは、曲率半径R2は、第2円弧80の仮想線76との接点が挟み角中心線50の近傍に位置し、第2円弧80の第2接線74との接点が第2接線74と仮想上型線70との接点の近傍に位置するように設定されることが好ましい。
【0033】
第1円弧78と第2円弧80とが接続されることで、内側領域36と、第1弛み部46の一部及び第2弛み部48の一部の形状が求められる。
【0034】
次に、第1接線72と、上方にオフセットさせた目標成形体20(仮想上型線70)とが交差する第2交点82を求める。そして第2交点82と、第1円弧78とを滑らかに結ぶ第3円弧84を求める。第3円弧84の曲率中心は目標成形体20の外方に位置している。第3円弧84は、目標成形体20の内方に向けて凸の曲線となる。第3円弧84の曲率半径R3は、第3円弧84が第1円弧78と第1斜面26の一致領域34とを滑らかに結ぶように設定される。
【0035】
また、第2接線74の延長線と、上方にオフセットさせた目標成形体20(仮想上型線70)とが交差する第3交点86を求める。そして、第3交点86と、第2円弧80とを滑らかに結ぶ第4円弧88を求める。第4円弧88の曲率中心は目標成形体20の外側に位置する。第4円弧88は、目標成形体20の内方に向けて凸の曲線となる。第4円弧88の曲率半径R4は、第4円弧88が第2円弧80と第2斜面28の一致領域34とを滑らかに結ぶように設定することが好ましい。
【0036】
上記の第1円弧78、第2円弧80、第3円弧84、及び第4円弧88を繋ぐことで中間稜線部30の形状が決定される。その後、中間稜線部30の外側に、目標成形体20の製品部22の形状と一致する一致領域34の形状を設定し、一致領域34と中間稜線部30とを接続する。さらに一致領域34の外側に捨絞部24の形状を設定する。捨絞部24の形状は、仮想上型線70の捨絞部24と一致させる。
【0037】
以上の工程(形状決定工程)により、中間稜線部30の断面形状が求められる。以上のような中間稜線部30の断面形状を、稜線部16に沿って順次求め、これらの断面形状をつなぐことで中間成形体32の全体の形状が決定される。
【0038】
次に、本実施形態に係るプレス成形方法の第2工程について説明する。
【0039】
第2工程は、
図5A~
図6Bに示されるように、中間成形体32をプレス成形して目標成形体20を成形する工程である。第2工程は、エッジ半径が比較的大きな中間稜線部30を、より小さなエッジ半径を有する稜線部16に成形する。
【0040】
まず、
図5Aに示されるように、中間成形体32は、第2工程の成形金型90に搬入される。成形金型90は、下型44と、上型42と、ブランクホルダ40とを有する。中間成形体32は、製品部22が下型44の上に配置され、捨絞部24がブランクホルダ40の上に配置される。
【0041】
次に、
図5Bに示されるように、中間成形体32を、上型42とブランクホルダ40とで挟持するホールド工程が行われる。ホールド工程は、ブランクホルダ40及び上型42によって行われる。上型42は、ブランクホルダ40に向けて下降する。上型42の下降により、中間成形体32の捨絞部24がブランクホルダ40に押し付けられる。その結果、中間成形体32は、ブランクホルダ40と上型42とで挟持される。
【0042】
ところで、
図7Aに示される比較例に係る中間成形体32Aは、内側領域36Aの片側にのみ弛み部38Aを有する。挟み角θが小さくなった場合には、中間成形体32Aは、弛み部38Aをより大きく膨出させる必要がある。
【0043】
このような中間成形体32Aは、弛み部38Aの最大傾斜角θ0(
図4)が、目標成形体20の第2斜面28の最大傾斜角θr2よりも大きくなる。そのため、比較例の中間成形体32Aは、第1工程における、中間成形体32Aの伸び率L及び張力の増大(厚みの変化)を生じてしまう。
【0044】
また、
図7Bに示されるように、大きな弛み部38Aを有する中間成形体32Aは、ホールド工程において上型42と干渉してしまう。そして、第2工程において、中間成形体32Aが上型42と接触した状態で滑ることで、弛み部38Aに傷が入ってしまう。
【0045】
これに対し、
図5Bに示されるように、本実施形態の中間成形体32の第1弛み部46及び第2弛み部48は、それぞれの最大偏差Hb1、Hb2が一致領域34と上型42との離間距離H
2ndよりも小さく設定されている。したがって、本実施形態のプレス成形方法によれば、ホールド工程において中間成形体32と上型42との干渉を防ぐことができ、中間成形体32への傷や凹みの発生を防止できる。
【0046】
その後、
図6Aに示されるように、中間成形体32を上型42と下型44とで押圧するプレス成形工程が行われる。上型42は、下型44に向けてプレスストローク方向(下方)に向けて変位する。中間成形体32は、上型42と下型44とによって押圧されて、徐々に変形する。中間稜線部30の変形に伴う伸びに応じて、第1弛み部46及び第2弛み部48から、内側領域36に向けて板材18が移動する。稜線部16の両側部に位置する第1弛み部46及び第2弛み部48から十分な量の板材18が供給される。その結果、
図6Bに示されるように、目標成形体20が形成され、挟み角θが鋭角な稜線部16が形成される。本実施形態のプレス成形方法は、稜線部16のクラックや板厚減少を防止できる。
【0047】
以上の開示に関し、更に以下の付記を開示する。
【0048】
(付記1)
一観点は、板材(18)をプレスして、目標成形体(20)の稜線部(16)のエッジ半径よりも大きいエッジ半径の中間稜線部(30、30A)を有する中間成形体(32、32A)を形成する第1工程と、前記中間成形体(32)をプレスして、前記稜線部(16)を含む前記目標成形体(20)を形成する第2工程を有するプレス成形方法であって、前記稜線部(16)の延在方向に直交する方向の断面(62)において、前記中間成形体(32)は、前記目標成形体(20)の前記稜線部(16)を挟む第1辺(64)及び第2辺(66)の角度を二等分する挟み角中心線(50)の両側に、前記目標成形体(20)よりもエッジ半径の外方に膨出した第1弛み部(46)及び第2弛み部(48)を有する、プレス成形方法にある。
【0049】
上記のプレス成形方法によれば、挟み角中心線(50)の両側に、目標成形体(20)よりもエッジ半径の外方に膨出した弛み部(46、48)を設けることで、ストローク方向の偏差を抑制しつつ大きな伸び代を確保できる。したがって、上型(42)と中間成形体(32)との干渉を避けつつ、稜線部(16)に亀裂を発生させることなく、また、面歪みを発生させることなく鮮鋭な稜線を備えた目標成形体(20)を形成できる。
【0050】
(付記2)
付記1記載のプレス成形方法において、前記中間成形体(32)は、前記挟み角中心線(50)に隣接する部位に前記目標成形体(20)よりもエッジ半径の内方に偏差した内側領域(36、36A)を有し、前記内側領域(36)における前記中間成形体(32)と前記目標成形体(20)とのプレスストローク方向の第1の最大偏差(Ha)が、前記第1弛み部(46)及び前記第2弛み部(48)における前記中間成形体(32)と前記目標成形体(20)とのプレスストローク方向の第2の最大偏差(Hb1、Hb2)よりも大きくてもよい。このプレス成形方法は、弛み部(46、48)の膨出を抑制することで、上型(42)と中間稜線部(30)との干渉を防止できる。そのため、このプレス成形方法は、中間稜線部(30)が上型(42)と接触した状態で滑ることによって生じる傷の発生を防止でき、傷の無い目標成形体(20)を形成できる。
【0051】
(付記3)
付記2記載のプレス成形方法において、さらに前記中間成形体(32)の形状を決定する形状決定工程を有し、前記形状決定工程は、前記目標成形体(20)の前記稜線部(16)を挟む前記第1辺(64)及び第2辺(66)の角度を二等分する位置に前記挟み角中心線(50)を引くステップと、前記目標成形体(20)を前記第1の最大偏差(Ha)だけプレスストローク方向の上方にオフセットさせた仮想上型線(70)を引くステップと、前記挟み角中心線(50)と前記第1辺(64)及び第2辺(66)との交点(68)から、前記仮想上型線(70)の第1方向の側辺に接する第1接線(72)と、前記仮想上型線(70)の第2方向の側辺に接する第2接線(74)を引くステップと、前記交点(68)から前記第1の最大偏差(Ha)だけプレスストローク方向の下方の位置で前記挟み角中心線(50)と直交する仮想線(76)を引くステップと、前記第1接線(72)及び前記仮想線(76)に内接する第1円弧(78)と、前記仮想線(76)及び前記第2接線(74)に内接する第2円弧(80)とを求めるステップと、前記第1円弧(78)の前記第1方向の端部と前記目標成形体(20)の形状と一致する前記第1方向の一致領域(34)とを繋ぐ第3円弧(84)を求めるステップと、前記第2円弧(80)の前記第2方向の端部と前記目標成形体(20)の形状と一致する前記第2方向の一致領域(34)とを繋ぐ第4円弧(88)を求めるステップと、を有してもよい。このプレス成形方法は、稜線部(16)の伸び率(L)の抑制と、中間稜線部(30)と上型(42)との干渉の防止とを両立できる。
【0052】
(付記4)
付記3記載のプレス成形方法において、前記中間成形体(32)は、ブランクホルダ(40)と上型(42)とで挟持される捨絞部(24)を有し、前記中間成形体(32)を前記ブランクホルダ(40)と前記上型(42)とで挟持したときの前記一致領域(34)と前記上型(42)とのプレスストローク方向の離間距離(H2nd)は、前記第1の最大偏差(Ha)と同じであってもよい。このプレス成形方法は、第2工程における中間成形体(32)の成形面方向の変位(線ずれ)を抑制できる。
【0053】
(付記5)
付記1~4のいずれか1つに記載のプレス成形方法において、前記中間成形体(32)の前記中間稜線部(30)の最大傾斜角(θ0)は、前記目標成形体(20)の最大傾斜角(θr1)よりも小さくてもよい。このプレス成形方法は、第1工程で中間成形体(32)に生じる張力を抑制できる。
【0054】
なお、本発明は、上記した開示に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得る。
【符号の説明】
【0055】
16…稜線部 18…板材
20…目標成形体 24…捨絞部
30、30A…中間稜線部 32、32A…中間成形体
34…一致領域 36、36A…内側領域
38、38A…弛み部 40…ブランクホルダ
42…上型 46…第1弛み部
48…第2弛み部 50…挟み角中心線
64…第1辺 66…第2辺
68…交点 70…仮想上型線
72…第1接線 74…第2接線
76…仮想線 78…第1円弧
80…第2円弧 84…第3円弧
88…第4円弧 H2nd…離間距離
Ha…最大偏差(第1の最大偏差)
Hb1、Hb2…最大偏差(第2の最大偏差)
θ…挟み角
θ0、θ1、θ2、θr1、θr2…最大傾斜角