IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 本田技研工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-プレス成形方法 図1
  • 特開-プレス成形方法 図2
  • 特開-プレス成形方法 図3
  • 特開-プレス成形方法 図4
  • 特開-プレス成形方法 図5
  • 特開-プレス成形方法 図6
  • 特開-プレス成形方法 図7
  • 特開-プレス成形方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052586
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】プレス成形方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 22/26 20060101AFI20240404BHJP
   B21D 24/04 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
B21D22/26 C
B21D24/04 B
B21D24/04 G
B21D22/26 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023159985
(22)【出願日】2023-09-25
(31)【優先権主張番号】202211209960.X
(32)【優先日】2022-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003683
【氏名又は名称】弁理士法人桐朋
(72)【発明者】
【氏名】松谷 健司
【テーマコード(参考)】
4E137
【Fターム(参考)】
4E137AA06
4E137BA01
4E137BA05
4E137BB01
4E137CA09
4E137CA25
4E137DA14
4E137EA02
4E137GA01
4E137GB02
4E137HA07
(57)【要約】      (修正有)
【課題】捨絞部の局所伸びの防止と皴の発生防止とを両立できるプレス成形方法を提供する。
【解決手段】プレス成形方法は、エッジ半径の大きな中間稜線部を有する中間成形体30を押圧して目標成形体を形成する成形工程を含み、上型48は製品部22と捨絞部24との境界部分に上型段部60を有し、中間成形体30の捨絞部24は、成形工程の初期において上型48から離間して捨絞部24に伸び代を提供する離間部56と、成形工程の初期において上型48と接触して皺の発生を阻止する第1接触部54及び第2接触部58と、を有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
製品部と、前記製品部の外周に位置し成形後に前記製品部から切り離される捨絞部と、を有する板材を、前記製品部に稜線部が含まれる目標成形体に形成するプレス成形方法であって、
前記稜線部のエッジ半径よりも大きいエッジ半径の中間稜線部を有する中間成形体を形成する第1工程と、
前記中間成形体から前記目標成形体を形成する第2工程と、を有し、
前記中間成形体の前記製品部は、前記目標成形体よりも前記稜線部のエッジ半径方向の内方に偏差した内側部と、前記目標成形体よりも前記エッジ半径方向の外方に偏差した弛み部と、を有し、
前記中間成形体の前記捨絞部は、前記第2工程の初期において前記第2工程の上型から離間して前記捨絞部に伸び代を提供する離間部と、前記第2工程の前記上型と接触して前記第2工程の初期において前記板材の移動を阻止する接触部と、を有する、プレス成形方法。
【請求項2】
請求項1記載のプレス成形方法であって、
前記第2工程の成形金型は、前記目標成形体の形状を有する前記上型と、前記上型に向かい合う下型と、前記下型の外周側に配置され、前記中間成形体の前記捨絞部を前記上型との間で挟持するブランクホルダと、を備え、
前記第2工程は、前記ブランクホルダと前記上型とで前記捨絞部を挟持するホールド工程と、
前記上型と前記下型とで、前記中間成形体を押圧して前記目標成形体に成形する成形工程と、を有し、
前記上型は前記製品部と前記捨絞部との境界部分に上型段部を有し、
前記中間成形体の前記離間部は、前記上型段部に向かい合う位置に配置されている、プレス成形方法。
【請求項3】
請求項2記載のプレス成形方法であって、前記中間成形体は、前記ブランクホルダ及び前記上型に挟まれる位置に、前記上型から離間して前記伸び代を提供する調整ビードを有する、プレス成形方法。
【請求項4】
請求項3記載のプレス成形方法であって、前記ブランクホルダは、前記調整ビードを収容して前記中間成形体を前記上型から離間させる調整凹部を有する、プレス成形方法。
【請求項5】
請求項3又は4記載のプレス成形方法であって、前記接触部は、前記調整ビードの内端部において前記上型に線接触する第1接触部と、前記上型段部に線接触する第2接触部とを有し、前記離間部は前記第1接触部と前記第2接触部との間に位置する、プレス成形方法。
【請求項6】
請求項5記載のプレス成形方法であって、前記成形工程において、前記中間成形体の前記離間部及び前記調整ビードが伸びることで、前記捨絞部が前記上型に密着する形状に変形する、プレス成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板材を所定形状に成形するためのプレス成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のボンネット、サイドパネル、及びドアパネルを初めとするアウタパネルは、一般に金属の板材をプレス成形して生産される。アウタパネルは、自動車の意匠を決定づける部位であり、キャラクタラインと呼ばれる小曲率半径の稜線部を有するデザインが採用されることがある。このような小曲率半径の稜線部をプレス成形するには、高度な技術が必要とされる。例えば、特許文献1には、小曲率半径の稜線部をプレスにより形成するプレス成形方法が開示されている。
【0003】
特許文献1に記載されたプレス成形方法は、稜線部よりも曲率半径の大きな中間稜線部を有する中間成形体を1回目のプレス工程で形成し、その後、2回目のプレス工程で中間稜線部を小曲率半径の稜線部に形成する。このプレス成形方法は、中間成形体に、中間稜線部の近傍で、目標とする成形体(目標成形体20)からずれるように弛み部分(外側領域)を設けておく。このような弛み部分は、小曲率半径の稜線部を形成する際の板材の伸び代となり、稜線部付近の亀裂を防ぎつつ、2回のプレス工程で小曲率半径の稜線部を形成可能とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2020/195591号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のプレス成形方法では、稜線部を挟む一対の平坦部分の角度(以下、挟み角θと呼ぶ。)が小さくなると、稜線部分の伸びが増大するため、より大きな伸び代が必要となる。上記のプレス成形方法は、稜線部分の伸び代を確保するべく、弛み部分を大きくすると、中間成形体を上型とブランクホルダとで挟持する際に、中間成形体が上型と干渉してしまう。その結果、従来のプレス成形方法は、挟み角θを小さくした場合に成形品に傷が生じるという問題がある。
【0006】
中間成形体と上型との干渉による傷の発生を防ぐために、上型の製品部と捨絞部との境界の段部の高さを増大させることが考えられる。このような上型を用いる場合には、プレスストローク方向により大きく膨らんだ弛み部を有する中間成形体と、上型との干渉を防止できる。
【0007】
ところが、上型の製品部と捨絞部との境界の段部の高さを大きくすると、捨絞部の伸びが増大してしまい、製品部と捨絞部との境界に局所伸びが発生してしまう。このような局所伸びを防ぐために、捨絞部に伸び代となる弛み部を設けることが考えられるが、捨絞部に弛み部を設けると、製品部と捨絞部との境界付近に皺が入ってしまうことが判明した。
【0008】
本発明は、上記した課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下の開示の一観点は、製品部と、前記製品部の外周に位置し成形後に前記製品部から切り離される捨絞部と、を有する板材を、前記製品部に稜線部が含まれる目標成形体に形成するプレス成形方法であって、前記稜線部のエッジ半径よりも大きいエッジ半径の中間稜線部を有する中間成形体を形成する第1工程と、前記中間成形体から前記目標成形体を形成する第2工程と、を有し、前記中間成形体の前記製品部は、前記目標成形体よりも前記稜線部のエッジ半径方向の内方に偏差した内側部と、前記目標成形体よりも前記エッジ半径方向の外方に偏差した弛み部と、を有し、前記中間成形体の前記捨絞部は、前記第2工程の初期において前記第2工程の上型から離間して前記捨絞部に伸び代を提供する離間部と、前記第2工程の前記上型と接触して前記第2工程の初期において前記板材の移動を阻止する接触部と、を有する、プレス成形方法にある。
【発明の効果】
【0010】
上記観点のプレス成形方法は、捨絞部の中間成形体に上型から離間した離間部を有することにより、捨絞部の伸び代を確保できる。また、上記のプレス成形方法は、捨絞部が上型に接触することで、成形工程の初期段階での過度な材料の供給を防いで皺の発生を防止できる。したがって、上記観点のプレス成形方法は、捨絞部の局所伸びの防止と皴の発生防止とを両立できる。
【0011】
上記の目的、特徴及び利点は、添付した図面を参照して説明される以下の実施形態の説明から容易に了解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施形態に係る目標成形体の斜視図である。
図2図2は、実施形態の中間成形体と、第2工程に使用する成形金型の断面図であり、図1のII-II線の位置に対応する断面を示す。
図3図3は、実施形態の第2工程のホールド工程における捨絞部付近の拡大断面図である。
図4図4Aは、中間成形体を第2工程の成形金型(図2の下型)に配置する工程の断面図であり、図4Bは、図4Aの捨絞部付近の拡大断面図である。
図5図5は、ホールド工程の断面図である。
図6図6Aは、上型と下型との間で中間成形体をプレスする工程(初期)の断面図であり、図6B図6Aの捨絞部付近の拡大断面図である。
図7図7Aは、上型と下型との間で中間成形体をプレスする工程(終期)の断面図であり、図7B図7Aの捨絞部付近の拡大断面図である。
図8図8は、比較例に係るプレス成形方法で中間成形体をプレス成形する際の成形工程の初期の変形を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態のプレス成形方法は、例えば、自動車のルーフパネルやトランク部分のアウタパネル10に適用される。このプレス成形方法は、例えば、スポイラ12等の90°以下の平坦部14に挟まれた稜線部16を有するアウタパネル10の成形に好適に用いられる。本実施形態は、図1に示す矩形状の板材18を成形する例について説明する。なお、図示の板材18は、プレス成形された後の目標成形体20の形状であり、トランク部分のアウタパネル10の形状を有する。なお、図1では、板材18は、幅方向の中央で切断した状態で示されている。
【0014】
目標成形体20は、製品部22に稜線部16を有する。稜線部16は、例えば2.5mm~9mmと小さな曲率半径(エッジ半径)を有しており、鋭い刃状の外観を呈する。稜線部16は、例えばスポイラ12の部分であり、アウタパネル10と一体的に形成される。目標成形体20は、稜線部16の一方の側部に第1斜面14aを有し、稜線部16の他方の側部に第2斜面14bを有する。稜線部16は、第1斜面14aと、第2斜面14bとに挟まれる。第1斜面14aと第2斜面14bとの角度を挟み角θと呼ぶ。本実施形態のプレス成形方法は、挟み角θが例えば30°~90°と比較的小さな目標成形体20を形成できる。
【0015】
本実施形態のプレス成形方法に使用される板材18は、例えば厚さが0.3mm~3mmの鋼やアルミニウム合金等の金属製の薄板からなる。板材18は、製品部22と、捨絞部24とを有する。製品部22は、板材18の中央側に位置し、製品形状に成形される部分である。捨絞部24は、板材18の周辺部に位置し、製品部22の周囲を囲む帯状の部分である。
【0016】
捨絞部24は、板材18の周辺部に位置し、製品部22の外側を取り囲む。捨絞部24は、図2に示されるように、中間成形体30をプレス成形する際に、ブランクホルダ44で保持される第1領域26と、上型48の上型段部60に向かい合う第2領域28とを有する。捨絞部24は、本実施形態のプレス成形方法の完了後に、製品部22から切り離される。
【0017】
本実施形態のプレス成形方法は、第1工程と第2工程とを有する。第1工程は、平板状の板材18を、図2に示される中間成形体30に形成する工程である。第1工程は、プレス成形(絞り成形)であってもよいし、プレス成形以外の方法であってもよい。
【0018】
以下、中間成形体30について説明する。中間成形体30は、中間稜線部32と、段部36と、固定構造38と、を有する。このうち、中間稜線部32は、製品部22に位置し、内側部33と弛み部34とを有する。一方、段部36と固定構造38とは、捨絞部24に位置する。
【0019】
中間稜線部32は、目標成形体20の稜線部16が形成される部分に設けられる稜線状の部分であり、稜線部16のエッジ半径よりも大きなエッジ半径を有する。中間稜線部32の内側部33は、目標成形体20の形状よりも下方に偏差する。弛み部34は、内側部33の側部(第2斜面14b側)に位置し、内側部33と滑らかなエッジ半径で連続的につながっている。弛み部34は、目標成形体20の第2斜面14bに対してエッジ半径の外方(上方)に膨出するように偏差する。中間成形体30の中間稜線部32以外の製品部22は、目標成形体20の形状と一致する一致部35となっている。一致部35は、中間稜線部32の両側部に現れる。
【0020】
図3に拡大して示すように、段部36は、捨絞部24の製品部22との境界部分に位置する。段部36は製品部22の第1斜面14a及び第2斜面14bに対して下方に向けて急角度で傾斜している。段部36の一部は、上型48及び下型64に挟まれて成形される。固定構造38は、段部36の外周側に隣接して位置する。固定構造38は、屈曲部38aを通じて段部36とつながっている。本実施形態の固定構造38は、段部36よりも傾斜が小さい。
【0021】
固定構造38は、ロックビード40と、調整ビード42とを有する。ロックビード40及び調整ビード42は、板材18の外周に沿って溝状に延在する。このうち、調整ビード42は内周側に位置し、ロックビード40は外周側に位置する。ロックビード40は、ブランクホルダ44のロック凹部46と、上型48のロック凸部50とに挟まれることで、板材18の位置ずれを防止する。ロックビード40は、ホールド工程においてブランクホルダ44と上型48とによって矩形の凹形状に変形する。特に限定されないが、ロックビード40は、上側が凹の半円形状に調整された丸ビードとすることができる。
【0022】
調整ビード42は、ロックビード40と段部36との間に位置する。調整ビード42は、上型48から離れた部分を形成するべく、上側が凹の半円形状の断面形状を有する。調整ビード42は、ブランクホルダ44の調整凹部52に収容される。調整ビード42は、中間成形体30に現れるが、目標成形体20では消失する。調整ビード42は、第2工程において、捨絞部24の伸び代となる。第2工程が終了した時点で、調整ビード42は、伸びきって上型48に沿った目標成形体20の形状に変形する。
【0023】
調整ビード42の内周側の端部(内端部)は、図3のホールド工程において、ブランクホルダ44と上型48とに線接触する第1接触部54となっている。第1接触部54よりも内周側の部分は、ホールド工程において中間成形体30が上型48から離間する離間部56となっている。離間部56は、段部36の途中の第2接触部58まで延在する。離間部56は、中間成形体30において上型48よりも弛んだ部分であり、第2工程の伸び代となる。
【0024】
第2接触部58は、図示のように、ホールド工程において上型48の上型段部60に線接触する部分である。第1接触部54及び第2接触部58は、ホールド工程から成形工程の初期段階において、捨絞部24の移動を摩擦力によって阻止する。これにより、第1接触部54及び第2接触部58は、伸び代の過剰供給を防止して、皺31の発生を防止する。
【0025】
第2工程は、第1工程の後に行われる工程であり、上記の中間成形体30を目標成形体20にプレス成形する工程である。図2に示されるように、第2工程は、成形金型62を用いて行われる。成形金型62は、ブランクホルダ44と、上型48と、下型64と、を有する。以下、成形金型62について説明する。
【0026】
ブランクホルダ44は、板材18の捨絞部24の固定構造38を下方から支持する。ブランクホルダ44は、板材18の外周に沿って環状に延びている。ブランクホルダ44は、上面44aに、ロック凹部46と調整凹部52とを有する。ロック凹部46は、中間成形体30のロックビード40を収容する凹状の溝である。ロック凹部46は、ロックビード40に対応する位置に配置され、平面視で環状に延在する。ロック凹部46は、ホールド工程以降、上型48のロック凸部50に嵌合する。ロック凹部46は、ロック凸部50との間で中間成形体30のロックビード40を挟み込んで保持する。
【0027】
調整凹部52は、中間成形体30の調整ビード42を収容する凹状の溝である。調整凹部52は、ロック凹部46の内周側に位置する。調整凹部52は、調整ビード42に対応する位置に配置され、平面視で環状に延在する。調整凹部52は、断面が半円形状であり、中間成形体30の半円形状の調整ビード42と同じ形状を有している。図3に示されるように、ホールド工程において、調整凹部52は、調整ビード42を収容する。
【0028】
ブランクホルダ44は、昇降可能であり、第2工程のホールド工程において、上型48の下降に伴って中間成形体30を上型48と挟持する。ブランクホルダ44は、上型48で下方に押圧されると、上型48と共に下降する。ホールド工程において、調整ビード42の内側の端部の第1接触部54は、ブランクホルダ44の調整凹部52の縁によって上型48に押さえつけられる。ブランクホルダ44は、調整凹部52よりも内周側に案内部53を有する。案内部53は、調整ビード42を調整凹部52に導く傾斜を有する。案内部53は、ホールド工程において上型48から離間する。案内部53は、第2工程において、捨絞部24の伸び代が変位可能な間隙を形成する。
【0029】
図2に示されるように、下型64は、ブランクホルダ44の内側に位置し、ブランクホルダ44に囲まれる。下型64は、上型48の下方に配置され、上型48と向かい合う。下型64は、上部に成形面66を有する。下型64の成形面66は目標成形体20の形状と一致する。下型64の成形面66は、成形工程において、中間成形体30の第2領域28を押圧して、中間成形体30を目標成形体20に成形する。図3に示すように、下型64は、外周側の周縁部68に下型段部70を有する。下型段部70は、板材18の捨絞部24に当接する部分であり、中間成形体30の段部36に当接する。下型段部70は、第1斜面14a及び第2斜面14bよりも下方に向けて急角度で傾斜する。
【0030】
図2に示されるように、上型48は、ブランクホルダ44及び下型64の上方に配置される。上型48は、ブランクホルダ44の上面44a及び下型64の成形面66に向かい合う成形面72(下面)を有する。成形面72は、目標成形体20と同一の形状を有する。成形面72は、外周部に上型段部60を有する。上型段部60は、中間成形体30の段部36に当接する部分であり、下型段部70と同一形状を有する。上型段部60は、そのストローク方向の高さが、中間成形体30の段部36のストローク方向の高さよりも大きい。このような上型段部60は、中間成形体30を上型48の成形面72からより離れた位置で保持することを可能とする。したがって、本実施形態の上型48は、ホールド工程において中間成形体30の弛み部34との接触を防止できる。
【0031】
上型48は、上型段部60の外周側に、ブランクホルダ44との間で板材18を挟んで挟持する挟持部74を有する。挟持部74は、ロック凸部50を有する。ロック凸部50は、ブランクホルダ44のロック凹部46に対応する部位に位置し、ロック凹部46に嵌合する凸形状を有する。ロック凸部50は、ロック凹部46との間で中間成形体30のロックビード40を挟み込む。ロック凸部50及びロック凹部46は、中間成形体30の上型48に対する変位を阻止する。なお、上型48は、ブランクホルダ44の調整凹部52の上方の部分が平坦に形成されている。
【0032】
以下、本実施形態のプレス成形方法の第2工程の具体的な工程について説明する。
【0033】
まず、図4A及び図4Bに示されるように、ブランクホルダ44及び下型64の上に、中間成形体30が配置される。ブランクホルダ44は、初期状態において上端位置で停止している。ブランクホルダ44は、初期状態において、下型64よりも所定高さ、プレスストローク方向の上方に突出している。中間成形体30は、その捨絞部24がブランクホルダ44に重なるように配置され、製品部22が下型64の上方に重なるように配置される。中間成形体30の中間稜線部32は、下型64の稜線部16aとその近傍の上方に重なる。図4Bに示されるように、中間成形体30のロックビード40はブランクホルダ44のロック凹部46に嵌合し、中間成形体30の調整ビード42は、ブランクホルダ44の調整凹部52に嵌合する。
【0034】
次に、図5に示されるように、上型48が下降していくと、上型48が中間成形体30の固定構造38をブランクホルダ44に押しつける(ホールド工程)。その結果、図3に示されるように、中間成形体30は、ブランクホルダ44と上型48とで挟持される。ロックビード40は、上型48のロック凸部50と下型64のロック凹部46とに挟まれて上型48とブランクホルダ44とで挟持される。ロックビード40は、ロック凸部50及びロック凹部46の形状に塑性変形する。調整ビード42よりも中央側の中間成形体30は、調整ビード42の内側の第1接触部54と、段部36の第2接触部58のみで上型48と接触する。中間成形体30の第1接触部54及び第2接触部58以外の部分は、上型48の成形面72から離間している。中間成形体30の一致部35は、上型48との間にストローク方向に距離H2nd離間する。
【0035】
図2に示されるように、中間成形体30と目標成形体20(図2では下型64の成形面66)とを重ね合わせると、弛み部34は、目標成形体20の形状に対して上方に膨らむように弛んだ形状を有する。弛み部34は、中間成形体30を目標成形体20に成形する際に、内側部33の伸び代となることで、稜線部16の張力を抑制して、稜線部16のひび割れを防止する。
【0036】
稜線部16に隣接する第1斜面14aと第2斜面14bとの挟み角θが小さくなるにしたがって、稜線部16を成形する際の伸び代が増大する。挟み角θが小さくなるほど、弛み部34の膨らみを大きくする必要がある。ところが、弛み部34の膨らみが大きいと、ブランクホルダ44で中間成形体30を上型48にホールドした際に、弛み部34が上型48と干渉し、中間成形体30に傷や凹みが入ってしまう。
【0037】
そこで、本実施形態では、上記のように、中間成形体30の段部36の高さよりも、大きな上型段部60を有する上型48を用いる。このような上型48は、中間成形体30の一致部35と上型48との距離H2ndを大きくすることができる。このため、本実施形態のプレス成形方法では、より大きく膨らんだ弛み部34を有する中間成形体30を、上型48と干渉することなく上型48に固定できる。
【0038】
ところで、中間成形体30の段部36の高さを上型段部60の高さよりも小さくすると、中間成形体30と目標成形体20との間で、捨絞部24の長さの差が大きくなる。
【0039】
図3を参照しつつ説明したように、本実施形態のプレス成形方法は、中間成形体30の捨絞部24に離間部56と調整ビード42とを有している。これらの部位は、目標成形体20に対して弛んでいる。したがって、離間部56と調整ビード42は、成形工程において消失する際に、捨絞部24の伸び代を提供することができる。
【0040】
次に、第2工程は、図6Aに示されるように、上型48が下降して、成形工程に進む。上型48と共に、中間成形体30が下降する。ブランクホルダ44は、上型48によって下方に押し下げられつつ、中間成形体30を上型48に挟んだ状態を維持する。下型64と上型48とのストローク方向の間隙が距離H2ndを下回ると、中間成形体30は、上型48と下型64との間に挟まれて変形し始める。中間稜線部32の内側部33及び弛み部34が徐々に変形する。
【0041】
成形工程の初期段階において、中間成形体30の捨絞部24では、離間部56や調整ビード42も変形する。その結果、捨絞部24において、成形面66の方向の板材18の移動が生じる。その際に、第1接触部54及び第2接触部58は、捨絞部24の皺31の発生を防止する。
【0042】
図8に示す比較例のプレス成形方法は、中間成形体30Aの捨絞部24に、第1接触部54及び第2接触部58が設けられていない例を示す。この比較例では、成形工程の初期段階において、第1領域26から製品部22に向けて板材18の移動が生じる。比較例では、第1接触部54及び第2接触部58によって板材18の移動を妨げる構造を有しないため、中心側に向けた過剰な板材18の供給が生じる。その結果、図8において二点鎖線で示されるように板材18が弛むように変形し、捨絞部24に皺31が発生する。
【0043】
これに対し、図6Bに示されるように、本実施形態のプレス成形方法では、中間成形体30の捨絞部24の板材18の移動を、第1接触部54及び第2接触部58とで抑制する。第1接触部54及び第2接触部58は、上型48との摩擦力により中間成形体30の捨絞部24の移動を抑制することで、板材18の過剰供給を防いで、皺31の発生を阻止する。
【0044】
次に、図7Aに示されるように、成形工程が進み、上型48と下型64とにより中間成形体30が押圧される。その結果、中間成形体30が目標成形体20に成形される。内側部33が、稜線部16に成形される際の板材18の伸びは、図2に示される弛み部34の板材18が稜線部16に向けて移動することで補われる。したがって、本実施形態のプレス成形方法は、稜線部16のクラックを防止できる。
【0045】
図7Bに示されるように、捨絞部24では、上型段部60と下型段部70との間に挟まれて目標成形体20が捨絞部24の形状に成形される。離間部56及び調整ビード42が伸びて消失する際に、捨絞部24の伸びを補うことができる。したがって、本実施形態のプレス成形方法は、捨絞部24の過大な張力発生を防止できる。
【0046】
以上の工程により、板材18が目標成形体20に成形されて本実施形態のプレス成形方法が完了する。上記のように、本実施形態のプレス成形方法によれば、挟み角θの小さな稜線部16を有する目標成形体20を、2段階の成形工程で効率よく製造できる。また、中間成形体30の弛み部34と上型48との干渉を防ぐことができるため、製品部22の傷を防ぐことができ、意匠性に優れた成形品を製造できる。さらに、このプレス成形方法は、捨絞部24の局所伸びや皺31の発生を防ぐことができ、捨絞部24に由来する製品部22の品質低下を防止できる。
【0047】
以上の開示に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0048】
(付記1)
一観点は、製品部(22)と、前記製品部の外周に位置し成形後に前記製品部から切り離される捨絞部(24)と、を有する板材(18)を、前記製品部に稜線部(16)が含まれる目標成形体(20)に形成するプレス成形方法であって、前記稜線部のエッジ半径よりも大きいエッジ半径の中間稜線部(32)を有する中間成形体(30)を形成する第1工程と、前記中間成形体から前記目標成形体を形成する第2工程と、を有し、前記中間成形体の前記製品部は、前記目標成形体よりも前記稜線部のエッジ半径方向の内方に偏差した内側部(33)と、前記目標成形体よりも前記エッジ半径方向の外方に偏差した弛み部(34)と、を有し、前記中間成形体の前記捨絞部は、前記第2工程の初期において前記第2工程の上型(48)から離間して前記捨絞部に伸び代を提供する離間部(56)と、前記第2工程の前記上型と接触して前記第2工程の初期において前記板材の移動を阻止する接触部(54、58)と、を有する。
【0049】
上記のプレス成形方法は、捨絞部の中間成形体に上型から離間した離間部を有することにより、捨絞部の伸び代を確保できる。また、上記のプレス成形方法は、捨絞部が上型に接触することで、成形工程の初期段階での過度な材料の供給を防いで皺の発生を防止できる。したがって、上記観点のプレス成形方法は、捨絞部の局所伸びの防止と皴の発生防止とを両立できる。
【0050】
(付記2)
付記1記載のプレス成形方法であって、前記第2工程の成形金型(62)は、前記目標成形体の形状を有する前記上型と、前記上型に向かい合う下型(64)と、前記下型の外周側に配置され、前記中間成形体の前記捨絞部を前記上型との間で挟持するブランクホルダ(44)と、を備え、前記第2工程は、前記ブランクホルダと前記上型とで前記捨絞部を挟持するホールド工程と、前記上型と前記下型とで、前記中間成形体を押圧して前記目標成形体に成形する成形工程と、を有し、前記上型は前記製品部と前記捨絞部との境界部分に上型段部(60)を有し、前記中間成形体の前記離間部は、前記上型段部に向かい合う位置に配置されてもよい。このプレス成形方法は、捨絞部に伸び代を設けると共に、板材の内方への移動(過剰供給)による皺の発生を防止できる。
【0051】
(付記3)
付記2記載のプレス成形方法であって、前記中間成形体は、前記ブランクホルダ及び前記上型に挟まれる位置に、前記上型から離間して前記伸び代を提供する調整ビード(42)を有してもよい。このプレス成形方法は、中間成形体が捨絞部の伸び代として調整ビードをさらに有することで、捨絞部の局所伸びによる過剰な張力を緩和できる。
【0052】
(付記4)
付記3記載のプレス成形方法であって、前記ブランクホルダは、前記調整ビードを収容して前記中間成形体を前記上型から離間させる調整凹部(52)を有してもよい。このプレス成形方法は、伸び代をブランクホルダに当接する部分に設けることで、狭いスペースに大きな伸び代を設けることを可能とする。
【0053】
(付記5)
付記3又は4記載のプレス成形方法であって、前記接触部は、前記調整ビードの内端部において前記上型に線接触する第1接触部(54)と、前記上型段部に線接触する第2接触部(58)とを有し、前記離間部は前記第1接触部と前記第2接触部との間に位置してもよい。このプレス成形方法は、調整ビードと上型との第1接触部と、段部と上型との第2接触部とで、成形工程の初期段階における材料の移動を防ぐことができる。その結果、このプレス成形方法は、捨絞部の皺の発生を防止できる。
【0054】
(付記6)
付記5記載のプレス成形方法であって、前記成形工程は、前記中間成形体の前記離間部及び前記調整ビードが伸びることで、前記捨絞部が前記上型に密着する形状に変形させてもよい。このプレス成形方法は、成形工程において離間部及び調整ビードが上型に密着するように伸びることで、捨絞部の過度な張力発生を抑制できる。
【0055】
なお、本発明は、上記した開示に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得る。
【符号の説明】
【0056】
16、16a…稜線部 18…板材
20…目標成形体 22…製品部
24…捨絞部 30、30A…中間成形体
32…中間稜線部 33…内側部
34…弛み部 36…段部
42…調整ビード 44…ブランクホルダ
48…上型 52…調整凹部
54…第1接触部 56…離間部
58…第2接触部 60…上型段部
62…成形金型 64…下型
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8