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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052591
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】センサー素子及びガスセンサー
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/12 20060101AFI20240404BHJP
   G01N 27/04 20060101ALI20240404BHJP
   G01N 27/00 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
G01N27/12 B
G01N27/12 C
G01N27/04 F
G01N27/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023162435
(22)【出願日】2023-09-26
(31)【優先権主張番号】P 2022157438
(32)【優先日】2022-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、防衛装備庁、安全保障技術研究推進制度、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】平井 孝佳
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 伸博
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 清一郎
【テーマコード(参考)】
2G046
2G060
【Fターム(参考)】
2G046AA10
2G046AA13
2G046BA01
2G046BA07
2G046BA09
2G046BB02
2G046BE03
2G046FA01
2G046FA03
2G046FA04
2G046FA05
2G046FA08
2G046FC07
2G046FE07
2G046FE10
2G046FE12
2G046FE17
2G046FE20
2G046FE21
2G046FE23
2G046FE25
2G046FE45
2G046FE48
2G060AA01
2G060AB07
2G060AB10
2G060AE19
2G060AF07
2G060AG03
2G060AG10
2G060BB08
2G060JA01
2G060KA01
(57)【要約】
【課題】物質を選択的に識別可能なセンサー素子、センシング材料、センサーを提供する。中でもガスセンサーを提供する。
【解決手段】基板と、第1電極と、第2電極と、前記第1電極および前記第2電極に接するナノカーボン材料を含有する抵抗体と、抵抗体と接した絶縁性の下地層を有し、下地層はドーパントを含むことを特徴とするセンサー素子。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、第1電極と、第2電極と、前記第1電極および前記第2電極に接するナノカーボン材料を含有する抵抗体と、抵抗体と接した絶縁性の下地層を有し、下地層はドーパントを含むセンサー素子。
【請求項2】
前記ドーパントがスルホン酸誘導体、または、アミン誘導体を含む請求項1に記載のセンサー素子。
【請求項3】
前記抵抗体の厚みが、0.3nm以上、12nm以下の範囲である請求項1に記載のセンサー素子。
【請求項4】
前記抵抗体がカーボンナノチューブであって、1μmあたりの前記カーボンナノチューブ総長さ(L)を前記第1電極と前記第2電極の間の距離である電極間距離(Lc)で割った値(L/Lc)が0.2≦L/Lc≦50である請求項1に記載のセンサー素子。
【請求項5】
前記L/Lcが0.2≦L/Lc≦5である、請求項4に記載のセンサー素子。
【請求項6】
前記ナノカーボン材料が半導体純度80wt%以上のカーボンナノチューブであり、共役系重合体を含有する請求項1に記載のセンサー素子。
【請求項7】
前記基板にヒーターが備え付けられた請求項1に記載のセンサー素子。
【請求項8】
前記第1電極および前記第2電極がソース電極およびドレイン電極であって、さらにゲート電極を備える請求項1に記載のセンサー素子。
【請求項9】
前記抵抗体がガスを検知する感ガス体である請求項1に記載のセンサー素子。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載のセンサー素子を用いてなるガスセンサー。
【請求項11】
請求項1~9のいずれかに記載のセンサー素子を複数備え、それぞれがガス応答性の異なる素子であって、混合ガスから任意のガスを特定できるガスセンサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサー素子及びガスセンサーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化学物質の微量検知技術は、地球温暖化に代表される環境問題や食の安全性、健康志向の高まりから、大気中のVOC(揮発性有機化合物)検出、食品流通時の鮮度管理、人体から発せられる皮膚ガス等の検知による体調管理・診断、飛行機・列車・自動車等の複数のユーザーが利用する空間の臭い検知による快適性向上、排泄物由来ガス検知による介護者の負担軽減や被介護者のQOL向上、有害ガス検知によるセキュリティー向上など、様々な展開が期待されている。
【0003】
特に需要増加が顕著な分野であるヘルスケア分野の中でも、呼気に含まれているガスの分析は、比較的単純な物質が多く、分析し易いため、簡便な検査による病気発見、体調管理に利用しやすくなるため近年注目されている。
【0004】
ガスをリアルタイムで高感度かつ選択的に検出する必要のあるガスセンサーの技術は、特に需要が増加している。また、ヘルスケア分野に限らず、需要増加傾向にある分野の多くが、ppbオーダーの高い検出感度と多種のガスからの選択的検知能がセンサーに求められている。
【0005】
しかしながら、市販されている主なガスセンサーは、検出感度がppmオーダーで感度が不十分であり、高い作動温度(200~500℃)により消費電力が高くなるとともに、劣化も早く、ガス種の識別能もほとんど無いなどの問題で、需要に応えられていない。そのため、現実には、研究所などで使用される一つの分野に特化した特殊な分析装置を組み込んだり、組み合わせたりした装置をセンサー代わりに使用することで対応する事が多く、非常に高額で汎用性がないことから、一部のごく限られた需要にしか対応出来ていない。
【0006】
ガスセンサーの検出感度不足に対しては、センサーに使用する材料をナノサイズ化することによって表面積を大きくする効果で微量分子を検出しやすくし、感度を向上する方法(特許文献1)や、複数の材料を組み合わせたハイブリッド化による信号強度増幅による感度向上が検討されている(非特許文献1)。
【0007】
また、高い作動温度(200~500℃)による高消費電力や劣化に対しては、ナノ炭素材料を用いることによって、低温駆動と高感度化を両立させる開発検討が行われている(特許文献1)。ナノカーボン材料を用いたガスセンサーは、検出対象物質がナノカーボン材料表面に付着することによる接触抵抗変化やキャリア注入によって起こる抵抗値変化に基づいて検出対象物質を検出する。そのため室温でも使用可能であり、検出に高温を必要とする既存の金属酸化物を用いたガスセンサーよりも優れている。
【0008】
更には、半導体純度の高いナノ炭素材料を使用することによってより感度が向上するとの報告もある(非特許文献2)。
【0009】
一方、現在汎用的に使用されている多くのガスセンサーは、いずれも、金属酸化物表面の酸素とガス分子が高温(200~500℃)で反応した際の、表面の電気的変化を検出する仕組みを利用しているため、酸化反応が起こるガス分子は全て検出してしまい、二酸化炭素の様な一部のガスを除いて、ガス選択性を有していない。
【0010】
そのため、現状は、加熱器の温度をコントロールして検出部表面の反応性を制御したり、フィルターによって検出対象外のガスを排除したり、異なるセンシング材料を組み合わせて、異なる検出波形を読み取る外部装置によってガス選別を行っているが、組み合わせに限りがあり、多種多様なガスに対する選択性を持たせることが困難である。このため、需要が最も多くなると予想されるヘルスケア分野などの夾雑ガスが多い用途に適用することが困難な状態である。また、フィルターを複数種組み合わせる等の工夫も技術的に可能ではあるが、検出感度の低下と高コスト化につながり現実的ではない。
【0011】
検出選択性を付与する技術としては、検出対象物質と相互作用する感ガス体としてカチオン性ポリマーを含む層と酸化グラフェン層とを積層させることによって検出選択性を付与する技術が提案されている(特許文献2)。また、ナノ炭素材料と酸化物半導体を組み合わせることによって、個々の材料単独では不可能であった選択的ガスセンシングを発現させる試みも進められている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008-185495号公報
【特許文献2】特開2020-134498号公報
【特許文献3】国際公開第2021-256384号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Sens.Actuat.B170,p.67-74(2012)
【非特許文献2】ASC Sens.3,p.79-86(2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
需要が増加しているセンシングデバイスの分野のセンシング材料には、物質を選択的に識別する材料が少ない。材料自体に物質(分子)選択性機能のあるもの少ないため、応答性の異なる複数のセンシング材料を組み合わせても、最も望まれている複雑な夾雑ガスが存在する医療分野では、組み合わせが少なすぎるためまったく対応しきれていない。
【0015】
また、特許文献1~3、及び非特許文献1~2のいずれの方法も、選択性の点においては、ガスの識別能がほとんどないという市販センサーに使用されているガスセンシング用材料の問題点をなんら解決できていない。
【0016】
特許文献2と、特許文献3では、ガス選択性のある感ガス体の例が示されているが、現状必要とされている無数の選択性をカバーするには十分とは言えない。
【0017】
本発明は、化学物質を選択的に識別可能な、新たなセンサー素子を提供することにある。特にガスセンサーの分野では、低温駆動、高感度、ガス分子に対する選択的検知能のある感ガス体として使用可能なセンシング材料、センサー素子、およびガスセンサーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
すなわち、本発明は、
(1)基板と、第1電極と、第2電極と、前記第1電極および前記第2電極に接するナノカーボン材料を含有する抵抗体と、抵抗体と接した絶縁性の下地層を有し、下地層はドーパントを含むセンサー素子。
(2)前記ドーパントがスルホン酸誘導体、または、アミン誘導体を含む(1)に記載のセンサー素子。
(3)前記抵抗体の厚みが、0.3nm以上、12nm以下の範囲である(1)または(2)に記載のセンサー素子。
(4)前記抵抗体がカーボンナノチューブであって、1μmあたりの前記カーボンナノチューブ総長さ(L)を前記第1電極と前記第2電極の間の距離である電極間距離(Lc)で割った値(L/Lc)が0.2≦L/Lc≦50である(1)~(3)のいずれかに記載のセンサー素子。
(5)前記L/Lcが0.2≦L/Lc≦5である、(4)に記載のセンサー素子。
(6)前記ナノカーボン材料が半導体純度80wt%以上のカーボンナノチューブであり、共役系重合体を含有する(1)~(5)のいずれかに記載のセンサー素子。
(7)前記基板にヒーターが備え付けられた(1)~(6)のいずれかに記載のセンサー素子。
(8)前記第1電極および第2電極がソース電極およびドレイン電極であって、さらにゲート電極を備える(1)~(7)のいずれかに記載のセンサー素子。
(9)前記抵抗体がガスを検知する感ガス体である(1)~(8)のいずれかに記載のセンサー素子。
(10)(1)~(9)のいずれかに記載のセンサー素子を用いてなるガスセンサー。
(11)(1)~(9)のいずれかに記載のセンサー素子を複数備え、それぞれがガス応答性の異なる素子であって、混合ガスから任意のガスを特定できるガスセンサー、
である。
【発明の効果】
【0019】
本発明のセンサー素子は、低温駆動、高感度、識別能のあるセンシング材料として使用可能である。特に検出対象物がガスである場合、100℃以下の低温で駆動が可能で、ppbスケールのガス検知感度を保ったまま、識別能のあるガスセンサー素子として使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明の実施形態に係るガスセンサーを示した模式断面図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係るガスセンサーを示した模式断面図である。
図3図3は、本発明の実施例においてガスの検出に用いた測定セットの構成を示す図である。
図4図4は、本発明の実施の形態に係るガスセンサーの構成を示すブロック図である。
図5図5は、本発明の実施の形態に係るセンサー素子でのアンモニアの検知結果を示す図である。
図6図6は、本発明の実施の形態に係るセンサー素子での一酸化窒素の検知結果を示す図である。
図7図7は、本発明の実施の形態に係るセンサー素子でのアンモニアの検知結果を示す図である。
図8図8は、本発明の実施の形態に係るセンサー素子での一酸化窒素の検知結果を示す図である。
図9図9は、比較例に係るセンサー素子でのアンモニアの検知結果を示す図である。
図10図10は、比較例に係るセンサー素子での一酸化窒素の検知結果を示す図である。
図11図11は、本発明の実施の形態に係るガスセンサーデバイスの1例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係るセンサー素子の好適な実施の形態を詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、目的や用途に応じて種々に変更して実施することができる。
【0022】
本発明の実施の形態に係るセンサー素子は、基板と、第1電極と、第2電極と、前記第1電極および前記第2電極に接するナノカーボン材料を含有する抵抗体と、抵抗体と接した絶縁性の下地層を有し、下地層はドーパントを含むセンサー素子である。
【0023】
ここで、素子とは、一般に、ある作用が効果を及ぼす事を期待して新しい装置を作ろうとした場合、その作用を実現しうる機能・特性を有した物体を、特性を発揮し得る形に加工された物体を「素子」と言い、素子を外周器に格納して保持器に保持させ、量産に利用できる状態にしたものは部品(コンポーネント)や装置(デバイス)、組み付け(アセンブリ)と呼んで区別される。また、多数の素子をひとつの物体の中に作成することも可能で、このような素子は「集積素子」と呼ばれ、集積回路が代表的な例となる。
【0024】
また、センサー素子とは、一般に、光、温度、音、形など種々のものを検知し測定する素子のことを示す。被検体が気体であれば、特にガスセンサー素子と表現する場合も多い。
【0025】
ガスセンサーとは、装置に相当し、特定の化学物質の存在を検出する一種の化学センサーであり、被検体が気体のもののことを指す。常温・常圧においてその最安定な相が気相でないような物質であっても、通常は一定の蒸気圧を有しており、気体試料中に含まれている。この場合、気体試料中の当該物質の量は微量であることがある。本発明の実施の形態に係るセンサー素子は、そのような微量の物質も検出対象とすることができる。
【0026】
検出対象物質の検出は、第1電極と第2電極の間に一定の電圧を印加し、そこへ検出対象物質を暴露した時に両電極間に流れる電流値の変化によって行ってもよいし、第1電極と第2電極の間に一定の電流を流し続け、そこへ検出対象物質を暴露した時の印加電圧の変化によって行ってもよい。また、これらの電圧-電流の値から抵抗値を算出し、その変化によって対象物質の検出を行ってもよい。
【0027】
<絶縁性の下地層>
下地層は絶縁性であり、単独の材料として電流が流れない材料であり、ドーパントを含有することにより、これと接する抵抗体の特性を改質する。ドーパントが抵抗体の特性を改質するメカニズムについては、まだ不明な点も存在するが、ドーパントが電子を直接受け取ったり(p型のドーパント)、渡したりする(n型のドーパント)場合と、直接電子を受け取ったり渡したりするわけではなく、対象物(ここでは抵抗体)が電子を他の物質に渡したり、受け取ったりすることを補助的に促す役割をする物質もドーパントと称し、後者は、化合物の双極子が影響して抵抗体中のキャリア密度および価電子帯/伝導帯の構造が変調を受けると考えられる。
【0028】
本発明において、下地層にドーパントを含む構成である理由の一つに、抵抗体への効果的且つ面均一なドーピング効果を付与する効果が挙げられる。ドーピング効果の付与だけであれば、抵抗体とドーパントを混合する方法や、抵抗体形成後にドープする方法などが考えられるが、混合する方法は、材料同士の相溶性の影響を受けて均一に混合できず、ドーピングが不均一となり、感応膜のセンサー精度が低下する問題が起きやすく、後でドーパントを塗布する場合は、感応膜表面がドーパントで覆われ、感度が低下する問題が生じやすい。一方、我々は、ドーパントを含む下地層にナノカーボンから成る抵抗体の層を接触させることによって、抵抗体が一定厚みまでは、検出対象物質に対しての識別能を失わない均一なドーピング効果が付与されることを発見した。通常の材料であれば、接触による物性の変化は接触面表層だけに留まるが、本発明における抵抗体は、ナノ物質の集合体であり、比表面積が通常の物質より遥かに大きいことが、ドーピングの効率に影響しているものと推定される。
【0029】
絶縁性の下地層としては、加工及び構造の安定性の点で、ポリマーを用いるのが好ましく、アクリル系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、アミド系ポリマー、ビニル系ポリマーなどは、溶液として加工、または熱溶融して加工などによって、基材上に容易に下地層として形成できる点で好ましい。中でも、ビニル系ポリマーは、ドーパントを官能基として有するモノマーから容易に合成しやすく、ポリマーとドーパントを混合することなくドーパントを含んだ下地層に加工できる点で好ましく、このようなポリマーとしては、ポリスチレンスルホン酸、ポリアニリン、ポリエチレンイミンなどが挙げられる。
【0030】
ポリマーとしては、中でも、エステル結合、カーボネート結合、エーテル結合、シロキサン結合、スルホニル基、クロロ基、ヒドロキシ基およびカルボキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。その理由は以下のように推定される。ドーパントとナノカーボンは電子的に相互作用し、互いに部分的に電荷を帯びる。そこで、ドーパントとナノカーボンとの周囲に極性を有するポリマー、つまり前述の官能基を含有するポリマーが存在することで、ドーパントとナノカーボンの相互作用が安定化される。また、前述の官能基を含有するポリマーはある程度の極性を有しており、ドーパントとの相溶性がよい。そのため、ドーパントがポリマー中に分布しやすく、ナノカーボンと相互作用するドーパントの量や強さを調整しやすい。上記のようなポリマーの作用により、前述のp型半導体特性、n型半導体特性の調整のしやすさ、及び下地層の加工性が向上する。
【0031】
特に、ポリマーとしては、エステル結合、カーボネート結合またはヒドロキシ基を有するポリマーであることが好ましい。これらの構造は前述の作用が特に高いためと推定される。このようなポリマーとしては、例えば、ポリエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリメチルメタクリレートやポリメチルアクリレートなどのエステル結合を有するアクリル樹脂、エチルセルロースなどのセルロース類などが挙げられる。
【0032】
ナノカーボンの状態を改質するという点のみに着目すると、ナノカーボンはカーボン以外の物質に接しているだけで、ある程度状態が変化する性質があるため、特許文献3に示される様な、n型半導体(金属酸化物の多くがn型半導体となる)と接触させてもある程度の改質は起こるが、例えば、下地層を酸化スズとして本発明の様な効果を得ようとした場合、金属酸化物は空気に曝した状態で放置すると、表面酸素の欠損や、湿度の影響で水酸基が導入されたりするため、時間とともに表面構造、n型半導体としての状態が変化してしまう。その結果、ナノカーボンの改質状態も変化するだけでなく、ナノカーボン層が酸化物半導体から部分的に剥離することもあり、実用的に使用できる素子の状態を保つのが難しい。したがって、これらの問題を解決するために、ナノカーボンの改質剤としてドーパントを用いて改質することが好ましい。
【0033】
下地層に含まれる、抵抗体と直接電子を受け渡しするドーパントとしては、一般的に、酸化剤と呼ばれる物質がp型のドーパントとして使用でき、還元剤とよばれる物質がn型のドーパントとして使用できる。無機化合物系、有機化合物系などがあり、下地層に含まれた状態で使用するには、固体状の物質が好適に使用でき、酸化剤としては次亜塩素酸塩、塩素酸塩、過塩素酸塩、硝酸塩、酸化クロム、クロム酸塩、二クロム酸塩、二酸化マンガン、過マンガン酸塩、マンガン酸塩、亜酸化バナジウム塩、酸化バナジウム塩、過酸化バナジウム塩など、亜酸化物、酸化物、過酸化物の塩が挙げられる。還元剤としてはアルカリ金属類、アルカリ土類金属が挙げられ、一般的にアルカリ金属の方がn型ドーピングの効果が高いが、ドーパント自体の安定性はアルカリ土類金属の方が安定で扱いやすい。効果と扱いやすさに応じて選択するのが良い。安定性の観点からより扱いやすいという点では、ドーパントが有機化合物であることがより好ましく、有機化合物としては、有機化合物を繰り返し構成単位として有するポリマーや、有機配位子を有する錯体、有機配位子を有する錯体から成るポリマーも含まれる。特に、n型ドーパントとしての有機化合物としては、炭化水素化合物、ヘテロ原子が環構造の一部である有機化合物、またはヘテロ原子が水素原子、アルキル基およびシクロアルキル基から選ばれる一種類以上の構造との結合を有する有機化合物であることがより好ましい。
【0034】
アルキル基とは、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基などの飽和脂肪族炭化水素基を示す。また、アルキル基の炭素数は特に限定されないが、入手の容易性やコストの点から、1以上20以下が好ましく、より好ましくは1以上8以下である。
【0035】
シクロアルキル基とは、例えば、シクロプロピル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、アダマンチル基などの飽和脂環式炭化水素基を示す。シクロアルキル基の炭素数は特に限定されないが、3以上20以下の範囲が好ましい。
【0036】
有機化合物が炭化水素化合物であることによりCNT、またはグラフェンへの電子的な相互作用がより強くなり、より安定なn型半導体特性が得られると考えられる。また、有機化合物が、ヘテロ原子が環構造の一部である有機化合物、またはヘテロ原子が水素原子、アルキル基およびシクロアルキル基から選ばれる一種類以上の構造との結合を有する有機化合物であることにより、有機化合物中のヘテロ原子がCNTに近接しやすく、電子的な相互作用が強くなり、より安定なn型半導体特性が得られると考えられる。
【0037】
この場合の有機化合物としては、例えば、ジメチルテトラフルバレン、テトラメチルチアフルバレン、ヘキサメチルテトラチアフルバレン、テトラチアナフタセン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,4-フェニレンジアミン、テトラフェニル[3,4-c]チエノチオフェン、フタロシアニン、クォテリレン、ヘキサメチルテトラセレナフルバレン、テトラベンゾペンタセン、4-[(E)-2-(4-メトキシフェニル)エテニル]-N,N-ジメチルアニリン、ビス(エチレンジチオロ)テトラチアフルバレン、テトラメチルテトラセレナフルバレン、テトラチオメトキシテトラセレナフルバレン、1,2,5,6-テトラメチル-6a-チア-1,6-ジアザペンタレン、テトラチアフルバレン、テトラフェニルポルフィリン、4-[(E)-2-(4-フルオロフェニル)エテニル]-N,N-ジメチルアニリン、N,N,N’,N’,4,5-ヘキサメチルベンゼンジアミン、ルブレン、ビオラントレンA、1,8-ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン、β-カロテン、テトラベンゾ[a,cd,j,lm]ペリレン、ペンタセンなどが挙げられる。
【0038】
また、n型ドーパントは、真空中のイオン化ポテンシャル(以下、「Ip」と記載する場合がある)が7.0eV以下である化合物であると、CNTまたはグラフェンへの電子供与性が強いと考えられ、通常はp型半導体特性を示すCNTまたはグラフェンを、安定なn型半導体特性を示す半導体へ転換できると推定される。
【0039】
「Ip」が7.0eV以下である化合物としては、例えば、デカメチルニッケロセン(Ip4.4、文献値)、テトラキス(ジメチルアミノ)エチレン(Ip5.36、文献値)、クロモセン(Ip5.50、文献値)、デカメチルフェロセン(Ip5.7、文献値)、ジメチルテトラフルバレン(Ip6.00、文献値)、テトラメチルチアフルバレン(Ip6.03、文献値)、ヘキサメチルテトラチアフルバレン(Ip6.06、文献値)、テトラチアナフタセン(Ip6.07、文献値)、4,4’-ビス(ジフェニルアミノ)ビフェニル(Ip6.09、計算値)、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,4-フェニレンジアミン(Ip6.1、文献値)、テトラフェニル[3,4-c]チエノチオフェン(Ip6.1、文献値)、フタロシアニン(Ip6.1、文献値)、銅フタロシアニン(Ip6.1、文献値)、クォテリレン(Ip6.11、文献値)、ヘキサメチルテトラセレナフルバレン(Ip6.12、文献値)、テトラベンゾペンタセン(Ip6.13、文献値)、4-[(E)-2-(4-メトキシフェニル)エテニル]-N,N-ジメチルアニリン(Ip6.16、文献値)、ニッケロセン(Ip6.2、文献値)、亜鉛テトラフェニルポルフィリン(Ip6.2、文献値)、ビス(エチレンジチオロ)テトラチアフルバレン(Ip6.21、文献値)、テトラメチルテトラセレナフルバレン(Ip6.27、文献値)、テトラチオメトキシテトラセレナフルバレン(Ip6.29、文献値)、1,2,5,6-テトラメチル-6a-チア-1,6-ジアザペンタレン(Ip6.30、文献値)、テトラチアフルバレン(Ip6.3、文献値)、テトラフェニルポルフィリン(Ip6.39、文献値)、4-[(E)-2-(4-フルオロフェニル)エテニル]-N,N-ジメチルアニリン(Ip6.4、文献値)、N,N,N’,N’,4,5-ヘキサメチルベンゼンジアミン(Ip6.4、文献値)、ルブレン(Ip6.41、文献値)、ビオラントレンA(Ip6.42、文献値)、1,8-ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン(Ip6.45、文献値)、β-カロテン(Ip6.5、文献値)、テトラベンゾ[a,cd,j,lm]ペリレン(Ip6.58、文献値)、ペンタセン(Ip6.58、文献値)、フェロセン(Ip6.6、文献値)、1,8-ジアミノナフタレン(Ip6.65、文献値)、ジュロリジン(Ip6.65、文献値)、ジベンゾテトラチアフルバレン(Ip6.68、文献値)、テトラセレナフルバレン(Ip6.68、文献値)、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,5-ナフタレンジアミン(Ip6.70、文献値)、1,5-ナフタレンジアミン(Ip6.74、文献値)、トリフェニルアミン(Ip6.75、文献値)、バナドセン(Ip6.75、文献値)、1-フェニルピロリジン(Ip6.8、文献値)、1-(2-メチルフェニル)ピロリジン(Ip6.8、文献値)、ヘキサメチレンテトラテルラフルバレン(Ip6.81、文献値)、フェノチアジン(Ip6.82、文献値)、1,4-フェニレンジアミン(Ip6.84、文献値)、オバレン(Ip6.86、文献値)、ナフタセン(Ip6.89、文献値)、1-(4,5-ジメトキシ-2-メチルフェニル)-2-プロパンアミン(Ip6.9、文献値)、2,4,6-トリ-tert-ブチルアニリン(Ip6.9、文献値)、ペリレン(Ip6.90、文献値)、N,N-ジメチル-p-トルイジン(Ip6.9、文献値)、N,N-ジエチルアニリン(Ip6.95、文献値)などが挙げられる。該化合物は単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
なお、本発明におけるIpは、アメリカ国立標準技術研究所のデータベース(NIST Chemistry WebBook)中の光電子分光測定値、および文献(Mol. Cryst.Liq.Cryst.1989,Vol.171,pp.255-270)記載のIg値(Gas phase ionazation energies)のうち、最小値を文献値として採用する。また、同データベースおよび文献にIpの記載の無いものは、Gaussian09にて、汎関数にはB3LYP、基底関数系には6-311G(d)(構造最適化計算)、6-311++G(d,p)(エネルギー計算)を用いて計算で求めた値を使用する。
【0041】
n型ドーパントとして、真空中のイオン化ポテンシャルが5.8eVより大きく7.0eV以下である化合物が、より好ましい。イオン化ポテンシャルを5.8eVより大きくすることにより、化合物の酸化に対する安定性が高くなり、CNTまたはグラフェンは、より安定なn型半導体特性を保持できるようになる。
【0042】
真空中のイオン化ポテンシャルは5.8eVより大きく6.6eV以下であることが更に好ましく、イオン化ポテンシャルを6.6eV以下にすることにより、CNTまたはグラフェンへの電子供与性がより強くなり、より安定なn型半導体特性が得られると考えられる。
【0043】
また、n型ドーパントは有機化合物であることがより好ましい。有機化合物は、金属や有機金属化合物に比べて化学安定性が高いため、周辺材料中の成分との副反応などが低減され、安定性が向上すると考えられる。
【0044】
また、p型の有機化合物系のドーパントとしては、その最低非占有分子軌道のエネルギー準位が-3.2eV以下であるものを用いるのも好ましい。このような化合物は、半導体層中のCNTまたはグラフェンと電子的に相互作用し、特にCNTまたはグラフェンに電子受容的に作用する。
【0045】
最低非占有分子軌道のエネルギー準位が-3.2eVより大きい場合、化合物の電子受容性が弱過ぎるために、CNTまたはグラフェンの価電子帯や伝導帯に与える影響が小さく、ガス選択性の明確性が低下する。
【0046】
p型の有機化合物系のドーパントとしの最低非占有分子軌道のエネルギー準位は、より好ましくは-3.7eV以下であり、特に好ましくは-4.1eV以下である。
【0047】
なお、本発明における最低非占有分子軌道のエネルギー準位は、Gaussian09にて、汎関数にはB3LYP、基底関数系には6-311G(d)(構造最適化計算)、6-311++G(d,p)(エネルギー計算)を用いて計算で求めた値を使用する。
【0048】
p型の有機化合物系のドーパントは、1つの炭素-炭素二重結合または1つの共役系に、ハロゲン原子、カルボニル基、シアノ基、ニトロ基、スルフィニル基、スルホニル基およびイミド基から選ばれる基が少なくとも2つ以上結合した構造を有することが好ましい。上述の構造は1つの炭素-炭素二重結合または1つの共役系のπ軌道の電子密度に大きく影響を与える。1つの炭素-炭素二重結合または1つの共役系といった構造は、CNTまたはグラフェンとπ-π相互作用や電荷移動相互作用をしやすいため、ドーパントはCNTまたはグラフェンと強く電子的に相互作用できると推定される。
【0049】
共役系とは、多重結合が2個あるいはそれ以上共役している系のことである。多重結合中のπ電子は単結合を通して相互作用し非局在化している。共役系の構造は、例えば、二重結合および/または三重結合が、単結合、非共有電子対を有する原子または空のp軌道を有する原子により連結された構造であり、具体例としては、一般式(11)~(13)にて示される。
【0050】
【化1】
【0051】
1つの共役系に、ハロゲン原子、カルボニル基、シアノ基、ニトロ基、スルフィニル基、スルホニル基およびイミド基から選ばれる基が少なくとも2つ以上結合した構造を有する化合物の例としては、例えば、式(14)で表される化合物が挙げられる。なお、この化合物においては、該当する1つの共役系を点線で囲んでいる。一方、式(15)で表される化合物は共役系を有しないため、1つの共役系に、ハロゲン原子、カルボニル基、シアノ基、ニトロ基、スルフィニル基、スルホニル基およびイミド基から選ばれる基が少なくとも2つ以上結合した構造を有する化合物に該当しない。
【0052】
【化2】
【0053】
【化3】
【0054】
ドーパントとして用いる化合物は、環構造を有することがより好ましい。これは、環構造を有することで化合物の平面性が上がり、1つの炭素-炭素二重結合または1つの共役系とCNTまたはグラフェンとが接近しやすくなり、相互作用しやすくなるためと推定される。
【0055】
ドーパントとして用いる化合物は、一般式(1)で表される化合物であることが特に好ましい。これは、一般式(1)で表される化合物の平面性が高く、化合物中の1つの炭素-炭素二重結合または1つの共役系とCNTまたはグラフェンとが接近しやすくなり、相互作用しやすいためと推定される。
【0056】
【化4】
【0057】
一般式(1)中、Xは、酸素原子またはジシアノメチレン基を示す。R1~R4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、アルキルチスルファニル基、アリールオキシ基、アリールスルファニル基、ヘテロアリールオキシ基、ヘテロアリールスルファニル基、シアノ基、ニトロ基、アルキルスルフィニル基、アルキルスルホニル基、カルボキシル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アミノカルボニル基、アルキルイミド基、アリールイミド基およびヘテロアリールイミド基から選ばれる構造を示す。また、R1~R4のうち任意の2つにより環構造が形成されていてもよい。
【0058】
アルケニル基とは、例えば、ビニル基、アリール基、ブタジエニル基などの、二重結合を含む不飽和脂肪族炭化水素基を示す。アルケニル基は、置換基を有していても有していなくてもよい。アルケニル基の炭素数は、特に限定されないが、2以上20以下の範囲が好ましい。
【0059】
シクロアルケニル基とは、例えば、シクロペンテニル基、シクロペンタジエニル基、シクロヘキセニル基などの、二重結合を含む不飽和脂環式炭化水素基を示す。シクロアルケニル基は、置換基を有していても有していなくてもよい。シクロアルケニル基の炭素数は、特に限定されないが、3以上20以下の範囲が好ましい。
【0060】
アルキニル基とは、例えば、エチニル基などの、三重結合を含む不飽和脂肪族炭化水素基を示す。アルキニル基は、置換基を有していても有していなくてもよい。アルキニル基の炭素数は、特に限定されないが、2以上20以下の範囲が好ましい。
【0061】
アリール基とは、例えば、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、アントラセニル基、フェナントリル基、ターフェニル基、ピレニル基などの芳香族炭化水素基を示す。アリール基は、置換基を有していても有していなくてもよい。アリール基の炭素数は、特に限定されないが、6以上40以下の範囲が好ましい。
【0062】
ヘテロアリール基とは、例えば、フラニル基、チオフェニル基、ベンゾフラニル基、ジベンゾフラニル基、ピリジル基、キノリニル基など、炭素以外の原子を一個または複数個環内に有する芳香族基を示す。ヘテロアリール基は、置換基を有していても有していなくてもよい。ヘテロアリール基の炭素数は特に限定されないが、2以上30以下の範囲が好ましい。
【0063】
アルコキシ基とは、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基など、エーテル結合の一方をアルキル基で置換した官能基を示す。アルコキシ基は、置換基を有していても有していなくてもよい。アルコキシ基の炭素数は特に限定されないが、1以上20以下の範囲が好ましい。
【0064】
アルキルスルファニル基とは、メチルスルファニル基、エチルスルファニル基、n-プロピルスルファニル基など、スルファニル基の一方を脂肪族炭化水素基で置換した官能基を示す。アルキルスルファニル基は、置換基を有していても有していなくてもよい。アルキルスルファニル基の炭素数は特に限定されないが、2以上20以下の範囲が好ましい。
【0065】
アリールオキシ基とは、例えば、フェノキシ基、ナフトキシ基など、エーテル結合の一方を芳香族炭化水素基で置換した官能基を示す。アリールオキシ基は、置換基を有していても有していなくてもよい。アリールオキシ基の炭素数は特に限定されないが、6以上40以下の範囲が好ましい。
【0066】
アリールスルファニル基とは、チオエーテル結合の一方を芳香族炭化水素基で置換した官能基を示す。アリールスルファニル基は、置換基を有していても有していなくてもよい。アリールスルファニル基の炭素数は特に限定されないが、6以上40以下の範囲が好ましい。
【0067】
ヘテロアリールオキシ基とは、エーテル結合の一方を複素芳香環基で置換した官能基を示す。ヘテロアリールオキシ基は、置換基を有していても有していなくてもよい。ヘテロアリールオキシ基の炭素数は特に限定されないが、2以上30以下の範囲が好ましい。
【0068】
ヘテロアリールスルファニル基とは、チオエーテル結合の一方を複素芳香環基で置換した官能基を示す。ヘテロアリールスルファニル基は、置換基を有していても有していなくてもよい。ヘテロアリールスルファニル基の炭素数は特に限定されないが、2以上30以下の範囲が好ましい。
【0069】
アルキルスルフィニル基とは、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、n-プロピルスルフィニル基など、スルフィニル基の一方を脂肪族炭化水素基で置換した官能基を示す。アルキルスルフィニル基は、置換基を有していても有していなくてもよい。アルキルスルフィニル基の炭素数は特に限定されないが、2以上20以下の範囲が好ましい。
【0070】
アルキルスルホニル基とは、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、n-プロピルスルホニル基など、スルホニル基の一方を脂肪族炭化水素基で置換した官能基を示す。アルキルスルホニル基は、置換基を有していても有していなくてもよい。アルキルスルホニル基の炭素数は特に限定されないが、2以上20以下の範囲が好ましい。
【0071】
アルキルカルボニル基とは、例えば、アセチル基、ヘキサノイル基など、カルボニル結合の一方を脂肪族炭化水素基で置換した官能基を示す。アルキルカルボニル基は、置換基を有していても有していなくてもよい。アルキルカルボニル基の炭素数は特に限定されないが、2以上20以下の範囲が好ましい。
【0072】
アルコキシカルボニル基とは、例えば、メトキシカルボニル基など、カルボニル結合の一方をアルコキシ基で置換した官能基を示す。アルコキシカルボニル基は、置換基を有していても有していなくてもよい。アルコキシカルボニル基の炭素数は特に限定されないが、2以上20以下の範囲が好ましい。
【0073】
アリールオキシカルボニル基とは、例えば、フェノキシカルボニル基など、カルボニル結合の一方をアリールオキシ基で置換した官能基を示す。アリールオキシカルボニル基は、置換基を有していても有していなくてもよい。アリールオキシカルボニル基の炭素数は特に限定されないが、6以上40以下の範囲が好ましい。
【0074】
アルキルカルボニルオキシ基とは、例えば、アセトキシ基など、エーテル結合の一方をアルキルカルボニル基で置換した官能基を示す。アルキルカルボニルオキシ基は、置換基を有していても有していなくてもよい。アルキルカルボニルオキシ基の炭素数は特に限定されないが、2以上20以下の範囲が好ましい。
【0075】
アリールカルボニルオキシ基とは、例えば、ベンゾイルオキシ基など、エーテル結合の一方をアリールカルボニル基で置換した官能基を示す。アリールカルボニルオキシ基は、置換基を有していても有していなくてもよい。アリールカルボニルオキシ基の炭素数は特に限定されないが、6以上40以下の範囲が好ましい。
【0076】
アミノカルボニル基とは、カルボニル結合の一方を、アミノ基で置換した官能基を示す。アミノカルボニル基は、置換基を有していても有していなくてもよい。アミノカルボニル基の炭素数は特に限定されないが、2以上20以下の範囲が好ましい。
【0077】
アルキルイミド基とは、イミド結合の一方を、アルキル基で置換した官能基を示す。アルキルイミド基は、置換基を有していても有していなくてもよい。アルキルイミド基の炭素数は特に限定されないが、2以上20以下の範囲が好ましい。
【0078】
アリールイミド基とは、イミド結合の一方を、アリール基で置換した官能基を示す。アリールイミド基は、置換基を有していても有していなくてもよい。アリールイミド基の炭素数は特に限定されないが、8以上20以下の範囲が好ましい。
【0079】
ヘテロアリールイミド基とは、イミド結合の一方を、ヘテロアリール基で置換した官能基を示す。ヘテロアリールイミド基は、置換基を有していても有していなくてもよい。ヘテロアリールイミド基の炭素数は特に限定されないが、8以上20以下の範囲が好ましい。
【0080】
~Rのうち任意の2つにより環構造が形成される場合とは、例えば、RとRとや、RとRとが互いに結合して、共役または非共役の環構造を形成する場合である。環構造の構成元素として、炭素原子以外に、窒素、酸素、硫黄、リン、ケイ素の各原子を含んでいてもよい。また、環構造が、さらに別の環と縮合した構造であってもよい。
【0081】
また、p型の有機化合物系のドーパントは、一般式(2)で表される化合物であることが好ましい。
【0082】
【化5】
【0083】
一般式(2)中、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、シアノ基、ニトロ基、アルキルスルフィニル基、アルキルスルホニル基、カルボキシル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アミノカルボニル基、アルキルイミド基、アリールイミド基およびヘテロアリールイミド基から選ばれる構造を示す。また、R~Rのうち任意の2つにより環構造が形成されていてもよい。
【0084】
中でも、RまたはRは一般式(3)で表される構造であることが好ましい。
【0085】
【化6】
【0086】
一般式(3)中、R~R10は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、シアノ基、ニトロ基、アルキルスルフィニル基、アルキルスルホニル基、カルボキシル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アミノカルボニル基、アルキルイミド基、アリールイミド基およびヘテロアリールイミド基からなる群より選ばれる構造を示す。ただし、R~R10の少なくとも1つは、ハロゲン原子、カルボニル基、シアノ基、ニトロ基、スルフィニル基、スルホニル基およびイミド基から選ばれる。また、R~R10のうち任意の2つにより環構造が形成されていてもよい。
【0087】
また、一般式(2)で表される化合物は、環構造を有することが好ましく、RとRとにより環構造が形成されていることが好ましい。一般式(2)で表される化合物は、中でも、一般式(4)で表される化合物であることが好ましい。
【0088】
【化7】
【0089】
一般式(4)中、R11~R15は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、シアノ基、ニトロ基、アルキルスルフィニル基、アルキルスルホニル基、カルボキシル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アミノカルボニル基、アルキルイミド基、アリールイミド基およびヘテロアリールイミド基からなる群より選ばれる構造を示す。ただし、R11~R15の少なくとも1つは、ハロゲン原子、カルボニル基、シアノ基、ニトロ基、スルフィニル基、スルホニル基およびイミド基から選ばれる。また、R11~R15のうち任意の2つにより環構造が形成されていてもよい。
【0090】
p型の有機化合物系のドーパントの具体例としては、例えば、1-クロロアントラキノン、2-メチル-4-ニトロピリジン-N-オキシド、2,6-ジメチル-p-ベンゾキノン、2,3-ジクロロナフトキノン、p-ベンゾキノン、p-クロラニル、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-p-ベンゾキノン、2,3,5,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタンなどが挙げられる。ドーパントとして用いる化合物は単独種で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0091】
また、その他のドーパントとして、p型の有機化合物系のドーパントとしては、例えば特開2022-108261号公報記載の化合物が好適に使用でき、n型のドーパントとしては国際公開第2020-195707号、国際公開第2020-195708号記載の化合物が好適に使用できる。これら無機化合物系、有機化合物系のドーパントは単独では周辺の材料と反応してドーパントとしての能力を失ってしまうことも多いため、ドーパントとしての活性を失う前に絶縁材に覆われた状態にして使用する必要がでてくる。抵抗体へのドーピング効果が得られる状態を保ったまま、周囲の材料とは反応しないようにするためには、絶縁材とドーパントの組み合わせが重要となるが、例えば、特開2022-108261号公報、国際公開第2020-195707号、国際公開第2020-195708号に記載のオーバーコート剤を下地層として使用することによって、本発明の用途にも使用することが可能である。
【0092】
下地層を形成する方法としては、ドーパントと高分子材料とを含有する溶液を塗布・乾燥する方法や、高分子材料のモノマーやプレポリマーとドーパントとを含有する融液、溶液または分散液を塗布し、モノマーやプレポリマーを重合し下地層とする方法などが挙げられる。
【0093】
本実施形態において、下地層中のドーパントとポリマーとの重量比は、ドーパント:ポリマー=1:99~30:70であることが好ましい。この範囲にあることで、ドーパントによるナノカーボンの改質が効果的に起こり、ガス選択性の効果が表れるようになる。
【0094】
下地層中のドーパントやポリマーの分析方法としては、下地層を構成する各成分を抽出するなどして得られたサンプルを核磁気共鳴(NMR)などで分析する方法や、下地層をXPSなどで分析する方法などが挙げられる。
【0095】
本実施形態において、下地層はドーパントやポリマー以外に他の化合物を含有していてもよい。他の化合物としては、例えば、下地層を塗布で形成する場合における、溶液の粘度やレオロジーを調節するための増粘剤やチクソ剤などが挙げられる。
下地層は単層でも複数層でもよい。複数層である場合、少なくともドーパントを含有する層がナノカーボンに接する。
【0096】
本発明の1つの実施形態にかかる素子おいて下地層は、ポリマー中にドーパントと同じ作用を奏する官能基を導入したポリマーを含む。そのようなポリマーとしては、ドーパントの構造から一部の原子を除いた残りの基をその分子構造中に含むポリマーを挙げることができる。ドーパントの構造から一部の原子を除いた残りの基とは、ポリマー構造中にドーパントが置換されるために、ドーパントの構造から少なくとも一つの原子が除かれた状態の基をいう。例えば、ドーパントが1-クロロアントラキノンである場合を例に挙げると、その構造から一部の原子を除いた残りの基とは、その2位に位置する水素原子が除かれた残りの基などのことを指す。
【0097】
なおここで、該ポリマーにあっても上記したドーパントにおける好ましい態様およびポリマーにおける好ましい態様を必要に応じて適用することが可能である。
【0098】
ナノカーボンを含む抵抗体の特性を効果的に改質するために、下地層中のドーパントの少なくとも一部が、抵抗体と接していることが好ましい。ドーパントによって、抵抗体に含まれるナノカーボン材料の特性が改質されたことは、抵抗体の仕事関数の変化として観測することができる。仕事関数は、センサー素子中の抵抗体と下地層が存在する領域の大気中光電子分光測定を実施することにより測定することができる。
【0099】
ドーパントと抵抗体との接触を安定的かつ効率的に形成させるために、下地層中でのドーパントは偏って存在しない方が好ましい。このような下地層中でのドーパントの偏りを防ぐために、下地層中の高分子材料とドーパントとの間で結合が形成されていることが好ましい。典型的にはドーパント同士の親和性によってドーパントが高分子材料中で凝集することがある。両者が結合によって分子レベルで繋ぎ留められていれば、このようなことは起こらない。
【0100】
十分な選択性および応答速度向上の効果を得る観点から、下地層中におけるドーパントの量は多い方が好ましい。一方で、ドーパントだけで下地層の層構造を維持できなければ、量を増やすことに限界が生じる。また、ドーパントは絶縁材で覆われていたとしても、元々反応性が高いドーパントを使用していた場合、ドーピング効果が出る程度に調整された下地層では、時間とともに徐々に周辺物や水蒸気、酸素などと反応して、ドーピング効果を失ってしまうことも多いため、高分子材料などの絶縁材で覆わなければ、ドーパントとしての機能を失ってしまう場合がある。
【0101】
高分子材料を、n型ドーパントを覆う絶縁材として用いる場合、高分子材料の吸水率は0.5wt%以下であることが好ましい。n型ドーパントが高分子材料中の水分によりプロトネーションされてしまうと、ドーパントの電子密度は低くなり、ドーパントとCNTとの電子的な相互作用が弱くなってしまうと考えられる。高分子材料中の水分が少ない、つまり高分子材料の吸水率が低い場合、そのような現象を避けられるため、CNTは安定なn型半導体特性を示すと推定される。高分子材料の吸水率は、より好ましくは0.3wt%以下、さらに好ましくは0.1wt%以下である。
【0102】
高分子材料の吸水率は、JIS K 7209 2000(プラスチック-吸水率の求め方)に基づき、23℃の水中に試験片を1週間浸漬し、その質量変化を測定して算出する。
【0103】
ドーパントの寿命の観点では、p型の絶縁性のドーパントとしては、酢酸誘導体、ホスホン酸誘導体、ホスフィン酸誘導体、スルフィン酸誘導体、スルホン酸誘導体を用いるのが好ましく、n型のドーパントとしては、ヒドラジン誘導体、アミジン誘導体、アミン誘導体が好適に使用できる。
【0104】
中でも、ドーパントとしての性能が安定且つ加工がしやすいという点で、スルホン酸誘導体とアミン誘導体を用いるのがより好ましい。中でも、スルホン酸誘導体、アミン誘導体は、安定な化合物であるという点でも好ましい。
【0105】
特に、スルホン酸誘導体、及びアミン誘導体は、ドーピング能力が高く、ポリマーの官能基として下地層に使用した場合、官能基の量調整によって下地層のドーピング性能を調性できる点でも好ましい。
【0106】
スルホン酸誘導体とは、スルホ基を有する化合物のことで、アルキルスルホン酸、アルケニルスルホン酸、シクロアルケニルスルホン酸、アルキニルスルホン酸、アリールスルホン酸、ヘテロアリールスルホン酸などがあげられる。
【0107】
アルキルスルホン酸とは、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基などの飽和脂肪族炭化水素基とスルホ基が結合した化合物である。アルキル基の炭素数は特に限定されないが、入手の容易性やコストの点から、1以上20以下が好ましく、より好ましくは1以上8以下である。
【0108】
アルケニルスルホン酸とは、ビニル基、アリール基、ブタジエニル基などの、二重結合を含む不飽和脂肪族炭化水素基にスルホ基が結合している化合物である。アルケニル基は、置換基を有していても有していなくてもよい。アルケニル基の炭素数は、特に限定されないが、2以上20以下の範囲が好ましい。
【0109】
シクロアルケニルスルホン酸とは、例えば、シクロペンテニル基、シクロペンタジエニル基、シクロヘキセニル基などの、二重結合を含む不飽和脂環式炭化水素基とスルホ基が結合した化合物である。シクロアルケニル基は、置換基を有していても有していなくてもよい。シクロアルケニル基の炭素数は、特に限定されないが、3以上20以下の範囲が好ましい。
【0110】
アルキニルスルホン酸とは、例えば、エチニル基などの、三重結合を含む不飽和脂肪族炭化水素基とスルホ基が結合した化合物である。アルキニル基は、置換基を有していても有していなくてもよい。アルキニル基の炭素数は、特に限定されないが、2以上20以下の範囲が好ましい。
【0111】
アリールスルホン酸とは、例えば、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、アントラセニル基、フェナントリル基、ターフェニル基、ピレニル基などの芳香族炭化水素基とスルホ基が結合した化合物である。アリール基は、置換基を有していても有していなくてもよい。アリール基の炭素数は、特に限定されないが、6以上40以下の範囲が好ましい。
【0112】
ヘテロアリール基スルホン酸とは、例えば、フラニル基、チオフェニル基、ベンゾフラニル基、ジベンゾフラニル基、ピリジル基、キノリニル基など、炭素以外の原子を一個または複数個環内に有する芳香族基とスルホ基が結合した化合物である。ヘテロアリール基は、置換基を有していても有していなくてもよい。ヘテロアリール基の炭素数は特に限定されないが、2以上30以下の範囲が好ましい。
【0113】
これらスルホ基を有するスルホン酸誘導体は、そのままドーパントとして使用しても良いが、重合可能な官能基を有するスルホン酸誘導体を重合させて、ドーパントを官能基として含むポリマーとすることによって下地層に使用すると、そのままドーパントを含む絶縁性の下地層となるため、加工の点でセンサー素子を作製し易く好ましい。
【0114】
アミン誘導体とは、アンモニアの水素原子を炭化水素基または芳香族原子団で置換した化合物群である。単純な構造の化合物としては、アンモニアの水素原子を置換した数が1つであれば第一級アミン、2つである第二級アミン、3つである第三級アミンがあり、置換する官能基としては、たとえばアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基からなる群より選ばれる官能基が可能である。置換している基が脂肪族炭化水素であれば、脂肪族アミンと呼ばれ、脂肪族アミンとしては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、アマンタジンなどが挙げられ、化合物内に窒素原子が2つ含まれるスペルミジン、化合物内に窒素原子が3つ含まれるスペルミンも脂肪族アミンの一種である。また、窒素原子に結合している部分が炭素数1つ以上の脂肪族炭化水素であれば、水酸基、カルボニル基、エーテル基、カルボキシル基、その他ヘテロ元素を含む官能基が含まれていても脂肪族アミンの一種とみなされ、例えばトリエタノールアミンも脂肪族アミンの一種である、芳香族官能基で置換された化合物は一般的に芳香族アミンと呼ばれ、芳香族アミンとしてはアニリン、トルイジン、ナフタレンアミンなどが挙げられ、芳香族官能基としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ピレン環などの他、フラン環、チオフェン環など、ヘテロ原子を含む複素環式化合物でも良い。
【0115】
複素環式化合物の内、窒素原子を含む化合物群は、一般に複素環式アミンと呼ばれ、複素環式アミンは、単純な構造のアミン誘導体と比較して安定性が高いことに由来して電子供与能が高く、n型ドーパントとしてのドーピング性能が高くなる。このような複素環式アミンの例としては、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、キヌクリジン、アザビシクロウンデセン(DBU)、ジアザビシクロノネン(DBN)ジアザビシクロオクタン(DABCO)、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、オキサゾール、チアゾール、4-ジメチルアミノピリジン、プリンなどがあげられる。
【0116】
複素環式化合物の内、アミジン構造を有するアミン誘導体は特に安定性が高く、構造上電子供与能が高いため、n型ドーパントとして特に好ましい。
【0117】
アミジン構造とは、1つの炭素に窒素原子が2つ結合しており、一方の窒素原子は二重結合で、もう一方の窒素原子は単結合で結合している、R-C(=NR)-NRで表される構造を持つも化合物群である。R、R、R、Rには、例えば、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、シアノ基、ニトロ基、アルキルスルフィニル基、アルキルスルホニル基、カルボキシル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アミノカルボニル基、アルキルイミド基、アリールイミド基およびヘテロアリールイミド基からなる群より選ばれる官能基が可能である。アミジン構造を有する複素環式アミンとしては、例えば、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、ジアザビシクロノネン(DBN)、ジアザビシクロオクタン(DABCO)が挙げられ、中でもジアザビシクロウンデセン(DBU)は入手の容易さと安定性の観点で好ましい。
【0118】
また、本発明における下地層は、ドーパントを官能基として含むポリマーを用いることによって、ドープ能を有する絶縁性の下地層として使用することも可能であり、ドーパントとポリマーを別途準備して混合する工程を要しないため、素子作製の工程が簡便になる点で、ドーパントを官能基として含むポリマーを使用するのが好ましい。この場合、ドーパントとしての能力、安定性は、ドーピング能を有する官能基に準じるため、単分子のドーパントを混合した場合に調整できる下地層のドーピング能力の調整と同等の調整をおこなう場合は、ポリマー中のドーパント能のある官能基量を調整することによって、下地層のドーパントとしてのドーピング能を調整できる。
【0119】
このようなポリマーとしては、p型のドーピング能を有するポリマーとしては、安定性と入手の容易性の点からスルホン酸誘導体の一種であるポリスチレンスルホン酸が挙げられ、n型のドーピング能を有するポリマーとしては、アミン誘導体の一種であるポリアニリン、ポリエチレンイミンなどが挙げられ、加工の容易性から、ポリエチレンイミンを用いるのが好ましい。
【0120】
抵抗体に含まれるナノカーボンは、ドーパントに接触していることによって状態が改質され、n型のドーパントに接すれは、n型半導体の性質が強まり、p型のドーパントに接すればp型の半導体の性質が強まる。接している量が多いほどn型またはp型としての半導体特性は強くなる。これは、ナノカーボン材料がバイポーラ―な性質があり、接しているドーパントの量が多いほど、キャリアの変化が大きくなることによると考えられる。このため、キャリアの変化の程度は、ドーパントの量の調整、ポリマーを直接下地層とするならば、ポリマーの官能基(例えばスルホン酸基、アミノ基)の量を調性することによって、キャリアの変化も調整できる。したがって、ドーパントの配合比や、下地層ドーパントポリマーの有機合成技術的官能基量調整によって、異なるドーピング度合いのセンサー素子が種々作製可能となり、応答信号の異なる感応膜を持ったセンサー素子を得ることができる。
【0121】
次に、電極とナノカーボン材料を含有する抵抗体と、絶縁性の下地層抵抗体とドーパントの配置について説明する。本発明の実施の形態に係るセンサー素子と、センサー素子をセンサーとして機能させる際の基本構造例について、その模式断面図を図1図2に示す。
【0122】
図1に示すセンサー10では、基板5の上にドーパントを含んでなる絶縁性の下地層4を有し、その上にナノカーボンを含む抵抗体3が存在し、第1電極2aおよび第2電極2bの間に抵抗体が形成される状態で上部に電極が設置されている。Vは電圧計を表し、第1電極と第2電極との間の電圧を測定する。Aは電流計を表し、第1電極と第2電極との間を流れる電流を測定する。また、第1電極、第2電極を含む回路には電圧を調整可能な電源も接続されている。本発明の実施の形態に係るセンサーを用いて検出対象物質を検出する方法としては、抵抗体を検出対象物質に暴露した際の、抵抗体の電圧値や電流値の変化によって検出してもよいし、それらの値から抵抗体の抵抗値やインピーダンスを算出し、その変化によって検出してもよい。
【0123】
図2に示すセンサー20では、基板5の上にドーパントを含んでなる絶縁性の下地層4が設置され、下地層の上に第1電極2aおよび第2電極2bを有する。そして、第1電極2aと第2電極2bの間の領域に、両電極に接するようにナノカーボンを含む抵抗体3が電極に接する形で存在する。すなわち、図1に示すセンサー10と比べると、ナノカーボンを含む抵抗体と電極の存在する場所が異なっている。その他の構成は図1に示すセンサー10と同様である。
【0124】
本発明の実施の形態に係るセンサーはいずれの構造をとっても良いが、構造のばらつき要因を減らす観点から、図1に示したような、ドーパントを含んでなる下地層上にナノカーボンを含む抵抗体が接した状態で抵抗体が均一にコートされているセンサーがより好ましい。図2に示した構成は、製造の容易さの点で好ましい。
【0125】
下地層と抵抗体との界面は平滑であってもよいし、どちらかの層に凹凸が存在することでどちらか一方の層がもう一方の層へ貫入したような形態や、相互に貫入した形態であってもよい。
【0126】
下地層の厚さは、下地層に形状を保つだけの自立性があるならば、特に制限はないが、一般的に、下地層は厚みが薄い方が表面粗さが小さくなる傾向があり、10nm以上、1000nm以下であることが好ましく、25nm以上、750nm以下がより好ましく、50nm以上、500nm以下が特に好ましい。この範囲の厚さにすることにより、均一な薄膜形成が容易になり、下地層に接する抵抗体の製造時のばらつき、すなわち抵抗特性のばらつきが低減する。下地層の厚さは、光干渉式膜厚測定装置により、基板上の面内10点以上を測定し、その算術平均から求めることができる。
【0127】
下地層は、単層でも複数層でもよい。また、1つの層を複数の絶縁性材料から形成してもよいし、複数の絶縁性材料を積層して複数からなる下地層を形成しても構わないが、ドーパントがナノカーボン材料を含有する抵抗体を改質できる程度に、ドーパントがナノカーボン材料と接していることが重要である。
【0128】
<ナノカーボン材料>
ナノカーボン材料としては、フラーレン、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」と呼ぶ)、グラフェン、カーボンナノホーンなどがあり、それぞれについて以下に述べる。本発明においては、ナノカーボン材料どうしを組み合わせて用いてもよい。組み合わせの例として、CNTの内側にフラーレンが内包された、ピーポッドが挙げられる。
【0129】
フラーレンは、炭素原子どうしがsp2混成軌道間相互作用によって結合している、多面体構造をした化合物である。多面体は、五員環と六員環とから構成される。多面体を構成する炭素数としては、60、70、74、76、78などがある。フラーレンは1分子で用いても良いし、複数のフラーレン分子が集合したフラーレンナノウィスカーや、フラーレンナノウィスカーが中空構造を形成したフラーレンナノファイバーの形態で用いても良い。
【0130】
グラフェンは、グラファイトシートとも呼ばれ、理想的には全ての炭素原子どうしがsp2混成軌道間相互作用で結合し、六角形格子構造をとった1枚のシート状化合物となる。グラフェンが多数積層されると、グラファイトとなる。グラフェンは、バンドギャップが存在しない特殊な半導体である。広義には、グラファイトシートを数層まで重ねたものも含めてグラフェンと呼ばれる。本発明で用いられるグラフェンは、炭素の層が10原子層以下であることが好ましく、3原子層以下であることがより好ましく、単原子層であることが特に好ましい。
【0131】
グラフェンの合成方法は、特に限定されないが、例えば機械剥離法、化学剥離法、炭化ケイ素加熱法、または熱化学気相成長法などが挙げられる。
【0132】
グラフェンが基板上に存在することは、簡易的に光学顕微鏡によって確認することができる。光学顕微鏡による観察は簡便な方法ではあるが、注意深く観察することで、単層、2層、3層のグラフェンを見分けることも可能である。より詳細な分析にはラマン分光法が用いられる。
【0133】
カーボンナノホーンは、グラフェンを円錐形に丸めた構造をしている。カーボンナノホーンは、室温下、アルゴンガス雰囲気中で、グラファイトに二酸化炭素レーザーを照射することで合成することができる。カーボンナノホーンの直径は、2nm以上5nm以下程度のものが好ましい。カーボンナノホーンは、分離工程を施さない場合は集合体を形成している。本発明では、集合体のまま用いてもよいし、一つ一つを分離して用いてもよい。
【0134】
CNTとしては、1枚の炭素膜(グラファイトシート)が円筒状に巻かれた単層CNT、2枚のグラファイトシートが同心円状に巻かれた2層CNT、複数のグラファイトシートが同心円状に巻かれた多層CNTなどが挙げられる。CNTは、アーク放電法、化学気相成長法(CVD法)、レーザー・アブレーション法等により得ることができる。
【0135】
本発明の実施形態によるセンサー素子の抵抗体に含まれるナノカーボン材料としては、上記の例が挙げられるが、生産タクトの観点、および物質吸着によって大きな抵抗変化を引き起こす電子構造を有することから、CNTが特に好ましい。CNTの中でも、検出対象物質の吸着による抵抗変化によって検出する原理のため、すべてのCNTに検出対象物質が接近できる形態が好ましい。すなわち、対象物質に接することができない内層が存在する多層CNTよりも、単層CNTを用いることが好ましい。
【0136】
単層CNTの中でも、炭素膜の巻き方により、金属的性質を示す金属型CNTと半導体的電気特性を示す半導体型CNTが存在する。本発明に係るセンサー素子の一形態として、検出対象物質の吸着による抵抗体の抵抗変化で検出するものが考えられる。この場合、CNTは、より半導体型CNTの比率が高い方が、検出シグナル強度が大きくなり好ましい。金属型でも検出対象物質の吸着によって抵抗変化は生じるが、バンドギャップの存在する半導体型の方が、対象物質の吸着による抵抗変化が大きく、検出シグナルが強くなる。
【0137】
一般的に入手できるCNTは66.7wt%が半導体型、33.3wt%が金属型の混合物であることが、通常である。金属型と半導体型では応答性に差があるため、半導体型と金属型が混合状態となっている場合は、異なる応答性を示すCNTが混在していることになるため、異なるシグナルが混ざり合って、結果として抵抗変化率などのシグナルの強度変化が小さくなり、応答感度の低いセンサー素子となってしまう。そのため、感度の観点でも半導体純度は高い方が好ましく、検出したい対象物が微量であるほど、半導体純度は高い方が好ましくなる。また、金属型CNTはバンドギャップが無いため、ドーパントによるドーピングによって、電流は流れやすくなるが、選択性が発現にくく、優先的に電流が流れる分、素子の抵抗膜内でガス応答性を強く示し、半導体型CNTの選択的応答のノイズとして強く働くためではないかと推察される。このため、ノイズの影響が表れにくくなる比率が、単層CNTのうち80wt%以上が半導体型となる比率であると考えられる。
【0138】
すなわち、抵抗体が複数の単層CNTを含有する場合は、本発明の効果を得るためには、該複数の単層CNTのうち、80wt%以上が半導体型であることが好ましく、より高感度で明確な選択性のある感応膜を得るには、90wt%以上であることが好ましく、金属型の影響を実質的に受けないレベルの感度という意味においては95wt%以上のものが半導体型単層CNTであることが好ましい。
【0139】
半導体型CNTの含有比率を測定する方法としては、可視-近赤外吸収スペクトルの吸収面積比から算出する方法や、ラマンスペクトルの強度比から算出する方法、可視-近赤外吸収スペクトルの吸収面積比から半導体型CNTの含有比率を算出する方法等を利用可能であるが、単一のスペクトル情報だけで判断すると、扱っているCNTの直径部分布によっては、2種以上の異なるカイラリティのスペクトルのピークが同一領域(または近い領域)に重なる場合もあるため、透過型電子顕微鏡などで、どの様な直径分布のCNTのスペクトルであるかを確認する必要がある。
【0140】
本発明における半導体型CNTの含有率は、ラマンスペクトルにおいて、金属型CNTのピーク面積と半導体型CNTのピーク面積との比から算出される値である。
【0141】
ドーパントによるキャリア密度および価電子帯/伝導帯の構造変調の度合いとして、金属型CNTよりも半導体型CNTの方が、物性変化の度合いが大きいため、異なるドーパントを使用した際の素子毎の物性に違いが生じやすい。一方、金属型CNTは、異なるドーパントを使用したセンサー素子でも、物性変化に差が生じにくい。
【0142】
ドーパントの種類の異なる複数のセンサー素子を同時に用いて対象物質の吸着による検出を行った場合、半導体型CNTの方が素子ごとの応答挙動の差が明確にことなるため、種類の異なる複数の対象物質が混合されていた場合でも、選択的に一つの対象物質の検知を判断することが可能となる。この場合にも、金属型の影響は小さい方が、複数素子の違いが明確になる点で、半導体型の比率が高い方が好ましい。
【0143】
一方、半導体型CNTの比率が高いということは、同一性質を有するCNT比率を高めることになり、CNT同士の相互作用が強くなり、CNTを一本一本にほぐして均一な分散体を作製することが難しくなり、加工性に難が生じることが多い。半導体性CNTの含有比率を高める工程でアモルファスカーボン等の不純物を低減することによっても、かかる課題が生じることが多い。
【0144】
この課題に対して、本発明ではCNTの表面の少なくとも一部に共役系重合体を付着させたCNT複合体(以下、単に「CNT複合体」という)を用いることによって、半導体性CNT含有比率の高いCNTの均一分散液を得ることが可能としている。これによって高い感度を有する感ガス体を得ることができ、その結果、高感度ガスセンサー素子を得ることが可能である。
【0145】
<共役系重合体>
共役系重合体とは、モノマーユニット内において、またはモノマーユニット内および隣接するモノマーユニット間において、原子間の多重結合の共役系が連なっている重合体のことである。繰り返し単位が共役構造をとり、重合度が2以上の化合物を指す。
【0146】
共役系重合体としては、ポリチオフェン系重合体、ポリピロール系重合体、ポリアニリン系重合体、ポリアセチレン系重合体、ポリ-p-フェニレン系重合体、ポリ-p-フェニレンビニレン系重合体などが挙げられるが、特に限定されない。上述した重合体は単一のモノマーユニットが並んだものが好ましく用いられるが、異なるモノマーユニットをブロック共重合したもの、ランダム共重合したもの、グラフト共重合したものも用いられる。
【0147】
本発明において、CNTの表面の少なくとも一部に共役系重合体が付着した状態とは、CNTの表面の一部、あるいは全部を共役系重合体が被覆した状態を意味する。
【0148】
上述した重合体の中でも、共役系の電子軌道が大きく、半導体成分との相互作用が大きくなる観点から、繰り返し単位中に硫黄原子を含む複素環が存在する共役系重合体が好ましい。その中でも、半導体成分への付着が強固であり、電子伝導補助効果の高いため、繰り返し単位中にチオフェン環構造を有する共役系重合体が特に好ましい。共役系重合体がCNTを被覆できるのは、それぞれの共役系構造に由来するπ電子雲が重なることによって相互作用が生じるためと推測される。定量的にはX線光電子分光(XPS)などの元素分析によって、付着物の存在とCNTに対する付着物の重量比を同定することができる。
【0149】
共役系重合体の好ましい分子量は、数平均分子量で800以上100000以下である。また、上述した重合体は必ずしも高分子量である必要はなく、直鎖状共役系からなるオリゴマーであってもよい。
【0150】
本発明で用いられる共役系重合体は、公知の方法により合成することができる。モノマーを合成するには、例えば、チオフェンと、カルボキシ基を末端に有するアルキル基を導入したチオフェン誘導体とをカップリングする方法が挙げられる。その具体例として、ハロゲン化したチオフェン誘導体と、チオフェンボロン酸またはチオフェンボロン酸エステルとを、パラジウム触媒下でカップリングする方法、ハロゲン化したチオフェン誘導体と、チオフェングリニャール試薬とを、ニッケルまたはパラジウム触媒下でカップリングする方法などが挙げられる。このようなモノマーを用いて重合反応を行うことによって、側鎖としてカルボキシ基を末端に有するアルキル鎖を導入したポリチオフェン系重合体が得られる。また、チオフェン以外の共役系ユニットとチオフェンとを同様の方法でカップリングさせたものをモノマーユニットとすることもできる。そのようにして得られたモノマーユニットの末端に重合性置換基を導入し、パラジウム触媒やニッケル触媒下で重合を進行させることで、チオフェン以外の共役系ユニットを含む共役系重合体を得ることができる。
【0151】
本発明で用いられる共役系重合体からは、合成過程で使用した原料や副生成物などの不純物を除去することが好ましい。その方法として、例えば、シリカゲルカラムグラフィー法、ソックスレー抽出法、濾過法、イオン交換法、キレート法などを用いることができる。これらの方法を2種以上組み合わせてもよい。
【0152】
電荷キャリアの受け渡しを補助する目的から、共役系重合体はナノカーボン材料の少なくとも一部に付着していることが好ましく、ナノカーボン材料がCNTやカーボンナノホーンの場合、それらの側壁に付着していることがより好ましい。共役系重合体がナノカーボン材料に付着していることを確認する手段としては、反射スペクトルを測定し、ナノカーボン単独のスペクトルから変化していることを確認する方法がある。フラーレン、CNT、カーボンナノホーンといった、細い形状のナノカーボン材料ならば、AFMによって、ナノカーボン材料に共役系重合体が付着している様子を直接観測することもできる。
【0153】
ここで言う「付着」とは、異種の物質が互いに接触し、分子間相互作用によって容易に離れなくなることを指す。このような分子間相互作用としては、疎水性相互作用、π-π電子相互作用、カチオン-π相互作用、複数の静電相互作用、または複数の水素結合などが挙げられる。
【0154】
CNTの表面の少なくとも一部に共役系重合体を付着させることにより、CNTの保有する高い電気的特性を損なうことなくCNTを溶液中に均一に分散することが可能になる。
【0155】
CNTの表面の少なくとも一部に共役系重合体を付着させる方法としては、(I)溶融した共役系重合体中にCNTを添加して混合する方法、(II)共役系重合体を溶媒中に溶解させ、この中にCNTを添加して混合する方法、(III)CNTをあらかじめ超音波等で予備分散させておき、そこへ共役系重合体を添加し混合する方法、(IV)溶媒中に共役系重合体とCNTをいれ、この混合系へ超音波を照射して混合する方法などが挙げられる。本発明では、いずれの方法を用いてもよく、いずれかの方法を組み合わせてもよい。
【0156】
本発明に用いられる共役系重合体としては、例えば国際公開第2009/139339号、国際公開第2020/066741号、特開2011-126727号公報に記載されているものも好ましい。
【0157】
<素子の構成>
CNTの長さは、電極間の距離よりも短いことが好ましい、CNTは導電性が高いため、電極間を半導体型CNT1本で接続された状態の感応膜は、電流が流れ過ぎて対y総物質が付着した際の電気的変化が相対的に小さくなり、感度が低下することがある。そのため、電極間は2本以上のCNTを介した状態で接続されていることが好ましい。
【0158】
ただし、CNTは、直径によっても若干異なるが、長さ1.0μm以上では、長くなるほど長さに応じて曲線状態をとり易くなり、長さ1.0μm未満では直線状態と成りやすい。そのため、電極間隔が1.0μm以上である素子を用いる場合は、電極間隔距離と同じ長さのCNTでも、1本で電極間を接続する状態にはなりにくい。
【0159】
本発明の効果を得やすいと言う観点での、CNTの長さの目安としては、0.4nm以上10μm以下であることが好ましい。CNTの長さの下限は0.5nm以上がより好ましい。また、CNTの長さの上限は5μm以下がより好ましく、2μm以下がさらに好ましく、1.5μm以下が特に好ましい。
【0160】
CNTの長さ調整の方法としては、CNTを溶媒中に均一分散させ、分散液をフィルターによってろ過する事によってフィルター孔径よりも小さいCNTを濾液として得ることができ、フィルター孔径よりも長いCNTを濾取物として取り出せる。この場合、フィルターとしてはメンブレンフィルターが好ましく用いられる。また、その他CNTを短小化する方法として、酸処理、凍結粉砕処理などが挙げられる。
【0161】
一般に、CNTは、太さ、及び、長さにばらつきがある状態で使用されることが多いが、太さ、長さは揃っているほど、感応膜(感ガス体など)として使用した際に感応膜の均一性が増すので、電流が均一に流れるようになり、感度が向上する。ネットワーク全体の電流が均一であれば、電極間でネットワーク構造である感応膜であるCNTが全体で同様の応答性を示すため、素子全体での変化が同時に積算され高感度となる。電流が不均一に流れていると、場所によって応答性が変わるため感度が低下しがちとなる。
【0162】
CNTがバンドル状態でも、1本の状態でも、電極間をつなぐネットワーク構造としては、同様の電流経路として働くが、バンドル部分は抵抗が高くなることが多く、電流がネットワーク全体を均一に流れる妨げとなることが多い。そのため、CNTを感応膜として使用する場合、感応膜を形成しているCNTのバンドルは少ないほど好ましく、最も好ましい形態は、電極間のネットワーク構造を形成しているCNTが単分散している状態である。また、バンドルがネットワーク構造の一部に混ざっている場合は、バンドルの直径は、小さいほど、ネットワーク構造全体の電流ばらつきが小さくなるため好ましい。
【0163】
CNT複合体を利用することによって良好な応答性を示すセンシング材料となる明確なメカニズムが全て明らかになっているわけではないが、非共役系重合体をCNT表面に付着させたものを用いる場合、CNTを通常の界面活性剤により分散させたものを用いる場合と比較して、CNT同士の接点における電流の流れ等の、電気的特性を阻害しないことが特長としてあげられる。従って、CNT複合体を感応膜として電極間にネットワーク構造を形成した場合、CNT間の電気的特性を阻害する分散剤(ヒドロキシプロピルセルロース)を高温焼成によって取り除く工程を経ずとも、CNT複合体のまま高感度な感応膜として使用することができる。
【0164】
また、CNT複合体では、共役系重合体がCNTの電気的特性を阻害しにくいため、CNT複合体がバンドルを組んでしまった場合でも、抵抗の上昇が小さい。そのため、電極間で形成されたCNT複合体のネットワーク構造を流れる電流が均一になりやすいので、電極間をつなぐCNTのネットワークにバンドルが混入してしまっても比較的簡便に高感度な感応膜を形成しやすく、素子作製工程での汎用性が高くなる。
【0165】
CNTの太さは、共役系重合体との複合体を形成できる太さであれば制限は無いが、通常、平均直径が0.6nm~2.5nmの範囲であれば、複合体としての種々の効果が得られる。CNTの平均直径は、下限としてはより好ましくは0.8nm以上であり、さらに好ましくは1.0nm以上である。また、上限としてはより好ましくは2.0nm以下であり、さらに好ましくは1.8nm以下である。CNTの直径が太すぎると、CNT形状が円形から楕円形にゆがんだ形になりやすく、感応膜として使用した際に、対象物質が付着する場所によって応答性が変わるため、膜全体として信号にムラが生じるので、感度が低下するため、2.0nm以下が好ましい。CNTの直径が細いと、CNT1本あたりの比表面積が大きくなることによるセンサーとしての効果が増す反面、チューブ形をしているCNT表面の曲率が大きくなるため、構造上、共役系重合体のπ電子雲とCNTのπ電子雲が重なりにくくなり、複合体としての上記種々の効果が得にくくなる。CNTの直径が太いと、CNT自体のガスセンサーとしての感度は比表面積が低下する影響を受けるが、共役系重合体のπ電子雲とCNTのπ電子雲が重なりやすくなり、複合体としての上記種々の効果を得られるため、総合的には1.2nm~1.7nmがバランスが取れていて感応膜としては高感度となり好ましい。
【0166】
また、通常、CNTの長さを調整したり、分散強化でバンドル量を減らしたりする処理を行うと、CNTが欠損を生じて劣化する事が多い。一方でそれらの処理条件を弱めると、CNT長さが揃わなかったり、バンドルが多数混入したりする。このようなトレードオフ関係の中では、上記の処理条件を都合の良いあたりに調整するしか無く、中途半端な状態でCNTを使用する事も多い。
【0167】
CNTの80wt%以上が半導体型CNTであるCNT複合体を用いることは、上記問題を解決し、センサー素子を形成した際、非常に高感度なセンサー素子となる。均質に半導体型CNTを分散して均質な感応膜を形成できるだけで無く、感応膜であるCNT複合体のネットワーク構造の容易な制御が可能となることも、本発明の特長である。
【0168】
CNT領域を形成する方法としては、抵抗加熱蒸着、電子線ビーム、スパッタリング、CVDなど乾式の方法を用いることも可能であるが、製造コストや大面積への適合の観点から塗布法を用いることが好ましく、本発明では、CNT複合体を使用することによって、塗布以外の特別な処理をしなくとも、高感度なセンサーを作製可能であり、検出対象物質がガスである場合、高感度なガスセンサーを作製可能である。具体的には、スピンコート法、ブレードコート法、スリットダイコート法、スクリーン印刷法、バーコーター法、鋳型法、印刷転写法、浸漬引き上げ法、インクジェット法などを好ましく用いることができ、塗膜厚み制御や配向制御など、得ようとする塗膜特性に応じて塗布方法を選択できる。また、形成した塗膜に対して、大気下、減圧下または窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下でアニーリング処理を行ってもよい。
【0169】
CNT領域の1μmあたりのCNT総長さ(L)を電極間距離(Lc)で割った値(L/Lc)は0.2≦L/Lc≦50であることが好ましく、0.2≦L/Lc≦10がより好ましく、0.2≦L/Lc≦5がさらに好ましい。これらの式は、電極間距離が長くなるほどCNT総長さが長くなるよう調整することを意味し、CNT総長さがこれらの範囲であると、外部対象物質が拡散によって感応膜(抵抗体)と触れさた際の、センサー素子としての感度がより向上し、特にガスセンサーとして使用する際の感度が向上する。
【0170】
ここで、CNT領域の1μmあたりのCNT総長さとは、原子間力顕微鏡を用いてCNT領域の1μmの視野角を観察した際の、当該視野角に存在するCNTの長さの合計量をいう。CNT総長さの算出においては、この観察を10箇所の視野角で行い、各視野角で測定されたCNTの総長さを平均した値を採用する。
【0171】
より詳細には、対向電極の電極間距離によってCNT総長さを調整するのが好ましい。調整の方向としては、対向電極の電極間隔が小さくなるほどCNT総長さを小さくし、対向電極の電極間隔が大きくなるほどCNT長く調整するのが好ましい。CNT総長さは、塗布するCNT複合体の量を変えるか、濃度を調整することによって変えることができる。
【0172】
<電極>
本発明に係るセンサー素子の電極材料は、一般的に電極として使用されうる導電性材料であれば、いかなるものでもよい。そのような導電性材料としては、例えば、酸化錫、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)などの導電性金属酸化物が挙げられる。また、白金、金、銀、銅、鉄、錫、亜鉛、アルミニウム、インジウム、クロム、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、カルシウム、マグネシウム、パラジウム、モリブデン、アモルファスシリコンやポリシリコンなどの金属、これらの中から選択される複数の金属の合金、ヨウ化銅、硫化銅などの無機導電性物質が挙げられる。また、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸との錯体、ヨウ素などのドーピングによって導電率を向上させた導電性ポリマーが挙げられる。さらには、炭素材料、有機成分と導電体とを含有する材料などが挙げられる。
【0173】
有機成分と導電体とを含有する材料は、電極の柔軟性が増し、屈曲時にも密着性が良く電気的接続が良好となる。有機成分としては、特に制限はないが、モノマー、オリゴマーもしくはポリマー、光重合開始剤、可塑剤、レベリング剤、界面活性剤、シランカップリング剤、消泡剤、顔料などが挙げられる。電極の折り曲げ耐性向上の観点からは、オリゴマーもしくはポリマーが好ましい。しかし、電極の導電性材料は、これらに限定されるものではない。これらの導電性材料は、単独で用いてもよいが、複数の材料を積層または混合して用いてもよい。
【0174】
また、電極の幅、厚み、および各電極間の間隔は任意である。具体的には、電極の幅は5μm以上、1mm以下であることが好ましく、電極の厚みは0.01μm以上、100μm以下であることが好ましく、対向電極の電極間距離は1μm以上、500μm以下であることが好ましく、混入している金属型CNTが短絡しにくく、且つ、高感度化を維持しやすいという点で、より好ましくは3μm以上100μm以下、用いるCNTによらず効果を得やすい汎用性の点で好ましい範囲は5μm50μm以下である。
【0175】
これらの寸法は、上記のものに限らないが、電極の構造は(「電極長さ」/「電極間距離」>1)の関係になることが好ましい。微量ガスを検出するためのガスセンサー素子は微量な変化を検出できることが重要であるが、電極の長さが長いということは、電極間がCNTのネットワークでつながっているため、電極間をつなぐ回路が並列で増えていくことに相当し、微量濃度のガスが付着した際の微量な電気的変化が積算されて読み取ることができることから、電極の長さは長い方が好ましい。電極間距離が長くなると、電極間をつなぐ回路が直列で増えていくことに相当するため、微量な電気的変化が伝わりにくくなる。ただし、単に、電極の長さを長くして、電極間隔を狭めれば良いというわけでは無い。電極構造として感度のみを増加しても、電気的ノイズも同時に増幅することになるため、電極構造のみでガスセンサーの感度が向上する訳では無い。CNTの80wt%以上が半導体型CNTであるようなCNT複合体が用いられる場合のバランスとして、電極の構造が(「電極長さ」/「電極間距離」>1)の関係が好ましい。
【0176】
電極をパターン状に形成する方法としては、特に制限されないが、例えば、上記方法で作製した電極薄膜を、公知のフォトリソグラフィー法などで所望の形状にパターン形成する方法が挙げられる。あるいは、電極および配線の導電性材料の蒸着やスパッタリング時に、所望の形状のマスクを介してパターン形成する方法が挙げられる。また、インクジェットや印刷法を用いて直接パターンを形成する方法も挙げられる。
【0177】
本発明に係るセンサー素子は、シグナル(S)とノイズ(N)の比S/N比が、ppbオーダーの微量化学物質検出の場合でもS/N=3~500が可能となる。
【0178】
また、本発明に係るセンサー素子は、対象分子の付着と脱離のみで電気的信号変化が読み取り可能であるため、繰り返し特性も良好である。繰り返し特性が良好となる温度帯は、検出する化学物質によってCNTへの吸着力が異なるため、何を検出するかによって変える必要があるが、主に、0℃~200℃以下の温度帯で良好な繰り返し特性を示す。また、対象分子の付着量に応じた電気的変化が生じるため、特に、対象物質がガスである場合は、酸素0vol%の環境下でも、ガスセンサーとしてガスの検出が可能であり、0vol%以上50vol%以下の範囲でも、酸素濃度によらず使用することが可能である。
【0179】
<基板>
基板に用いられる材料としては、特に制限はなく、例えば、シリコンウエハ、ガラス、アルミナ焼結体等の無機材料、脂肪族ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリパラキシレン、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリシロキサン、ポリビニルフェノール、ポリアラミド等の有機材料、または無機材料粉末と有機材料の混合物等が挙げられる。これらの材料は単独で用いてもよく、これらのうちの複数の材料を積層または混合して用いてもよい。
【0180】
本発明の実施の形態に掛かるセンサー素子において、基板、ドーパントを含む下地層、ナノカーボンを含む抵抗体の構成は、ナノカーボンが検知対象である外部物質(例えばガス分子など)と接触できるよう、最表面に設置されている構造となっていることが最も良い。センサー素子の構成要素は、それぞれ層構造となっていることが好ましい。製造の容易さの観点で平らであることが好ましいが、湾曲、または屈曲した状態で層構造を形成していても構わない。電極は、2つの電極の間にナノカーボンを含む抵抗体が存在する領域があるように、ナノカーボンに接する形で配置する。本発明に係るセンサー素子が層構造であることが好ましい理由は、本発明の効果に係る検知対象物質の選択性の効率に影響することが挙げられる。本発明の効果である検知対象物質の選択的検知は、ナノカーボンの状態が下地層に含まれるドーパントによって改質された結果生じる効果であるため、ナノカーボンが下地層のドーパントに接していることが重要である。一般的な方法で、基材上に最も単純な構成で素子を形成する場合、土台となる基材上に、ナノカーボンを含む抵抗体とナノカーボンを改質するためのドーパントが含まれる絶縁体(本発明においては、ドーパントを含む下地層)が接した状態で形成され、抵抗体が第一の電極と第二の電極の間に存在する領域が存在する形で抵抗体の上部、または、下部、または端部に設置されている状態となる。土台上に形成するため、ナノカーボンを含む抵抗体が検知対象物質と接する様に配置すると、最も単純な構造は層構造となるが、層構造にした場合、ナノカーボンを含む抵抗体の厚みは、0.3nm~12nmであることが好ましい。ここでいう、ナノカーボンを含む抵抗体の厚みとは、電極間をつないで電流を流すことのできる、ナノカーボンのネットワークの膜厚みのことで、抵抗体を形成している層(膜)に傷をつけてAFMで高さを測定するか、素子をレーザーなどで切断した断面を電子顕微鏡で測定することによって測定できる。ナノカーボンの厚みの計算方法としては、絶縁性の下地増の表層面を0とした際の、表層面からのナノカーボンの高さの平均値を厚みとして計算し、ナノカーボンが上に存在せず、下地層のみの部分については、計算に入れない。
【0181】
好ましい厚みが存在する理由は、前述の通り、ナノカーボンがドーパントに接していることによって、発明の効果が生じるため、厚みがあまりにも厚いと、積層したナノカーボンの最上部はドーパントと接していないため、ドーパントの改質効果が及ばなくなる。しかしながら、ドーパントに全てのナノカーボンが接していなくとも、ドーパントと接しているナノカーボンを媒介して、ドーパントと接していないナノカーボンへも改質効果は及ぶ。
【0182】
ナノカーボンは、例えば、カーボンナノチューブであれば、単層であっても色々な太さのチューブ径が存在し、実態としてはバンドルを形成してしまっている場合もある。平均径で太さを表すことが多く、グラフェンの場合は、1枚であっても官能基の存在で、実質的な厚みが変わり、実用的には数枚の薄層グラフェンとして使用する場合も多いため、やはり平均厚みで表現することもある。また、カーボンナノホーンも同様に製造の仕方で大きさがまちまちであるが、構造が異なるだけで、全て、カーボン材料であり、ドーパントによる改質のされ方に差はあるが、ドーピングの効果が及ぶ範囲は類似しているため、本発明で用いられるセンサー素子の、ナノカーボンの層の厚みは12nm以下となる。
【0183】
本発明では、感応膜として機能する抵抗体の状態は均質である方がセンサーとしての感度は良くなるため、抵抗体に含まれるナノカーボンは、全て、ドーパントに一様に接している方が好ましい。ドーパントが一様に接している形態として、抵抗体同士が重なり合う部分が少ない方が好ましい点で、抵抗体の厚みは薄い方が好ましく、グラファイトシートであれば、グラファイトシート一枚分の理想的な厚みである0.38nmが最も好ましいが、現実にはナノカーボン同士が重なりあった部分が存在する形で電極間を導通する形態になるため、本発明の効果が得られる範囲で好ましい厚みとしては0.6nm~12nmである。CNTであれば、1本分の厚みとなる0.8nmから12nm以下であることが好ましく、本発明の好ましいCNTの太さの範囲が1.2nm以上という点で、1.2nm~12nmが好ましい。重なり部分が生じたネットワーク構造でも本発明の効果が得られる範囲との点では、1.8nm~12nmが好ましい厚みの範囲である。カーボンナノホーンである場合はカーボンナノホーンの大きさ、形状によって変わるが、カーボンナノホーン1本分の厚み以上12nm以下が好ましい厚みの範囲である。
【0184】
抵抗体は部分的に絶縁性の下地層に埋没していてもかまわなく、部分的に埋没している際の厚みの測り方は、下地層再表面から露出している部分の高さを測定して厚みとする。抵抗体が部分的に埋没しているときの好ましい厚みとして、0.3nm~12nmである。応答強度(抵抗変化)を強くしたり、検知対象物質の選択性(検知時の信号強度の差)を強くしたい場合の好ましい厚みの目安は、0.3nm~6nmとなる。
【0185】
厚みの下限が存在する理由としては、ナノカーボンを層構造になるように使用した際、検知対象物質と接触することができる部分が存在する必要があるため、下地層に埋没せずに下地層界面から表面に露出している必要があるためである。また、抵抗体は、ナノ構造物であるため、電極間を1つだけの化合物で接続することは、現実的に難しい。そのため、無数のナノカーボンからなる膜によって電極をつなぐことになるが、ナノカーボン同士の接点をつくる必要があるため、接点ではナノカーボン同士の重なりが生じることになる。重なりの数が少なすぎると、電気的な接続箇所が少ない素子となるため、そのような素子は、センサーとして使用した際にノイズが多くなり、結果として十分なS/N比(シグナル/ノイズ比)をとることができず、応答感度の悪い素子となりがちである。そのため、感度の良い素子を得るためには、ナノカーボン同士の電気的な接続箇所がある程度必要で、抵抗体の厚みと接続箇所には相関があることから、必要な電気的接続を保つ意味でも厚みの下限が存在する。
【0186】
より好ましい抵抗体の厚みは、カーボンナノチューブであれば、使用するカーボンナノチューブの「(平均直径)×3」以下の平均厚み、グラフェンであれば使用するグラフェンの「(平均1枚厚み)×3」以下の平均厚み、カーボンナノホーンであれば使用するカーボンナノホーンの「(平均粒径)×3」以下の平均厚みになるように調整し、使用材料の構成単位の「膜化した時の厚み寄与する次元の平均値×3」以下に調整するのが好ましい。その理由の一つとして、厚みがある程度厚く、ドーパントから離れているナノカーボンにも、ドーパントと接しているナノカーボンを介してドーピングの効果は伝わるとはいえ、ドーパントから距離が離れたナノカーボンはドーピングの効果が弱まり、効果的にドーピングされたナノカーボンよりも改質の度合いが弱くなる。このことは、感応膜全体としては、選択性の明確さという観点では、感応膜全体として感度が低下するが、全てドーピングされたナノカーボンの感応膜とは異なる応答信号を得ることができるようになるため、異なる選択応答するセンサー素子として使用可能となる。しかしながら、選択性をコントロールするほどの膜厚調整を厳密に行うには、材料の特性(ナノ物質の凝集性、構成単位の不均一性)を考えると難易度が高いため、平均的な大きさ、厚みを調整の目安とし、より詳細なコントロールは、下地層に含まれるドーパントの量や、官能基の量(例えば、スルホン酸基、アミノ基)の数によってコントロールするのが実用的である。効果的にドーピングによるナノカーボンの改質を行える抵抗体の厚みの目安が前記厚みになるが、例えばカーボンナノチューブの例の場合、平均直径と平均厚みが同じであれば、理論上は、全てのカーボンナノチューブがドーパントを含む下地層に接しているため最も効率的ではあるが、実際の電極間をつなぐ膜(ナノカーボンのネットワーク構造体)は、ナノ物質が部分的に重なりあってネットワーク構造の膜を形成するため、重なり部分に直径以上の厚みが生じる(重なりが生じないように、電気的に電極間を電気的につながったナノ物質の単一層膜を作製するのは、技術的にかなりの困難を伴う)。また、前述の様に、実際にはナノカーボンの凝集物が混ざってしまい、平均膜厚を厚くしてしまうこともあるが、素子の感応膜としての均一性の観点では、平均厚みをできるだけ薄くし、前記厚みを目安にすれば良好なセンサー素子として使用できる。
【0187】
センサー素子の別の形態としては、ナノカーボンを含む抵抗体のナノカーボンが外部物質と接触できる構造であれば、抵抗体の一部は下地層に埋没していても構わない。その場合は、ドーパントが含まれる絶縁体の表面から露出している部分の厚みが12nm以下であることが好ましい。ナノカーボンが全て絶縁体に埋没していると、検知対象物質がナノカーボンに直接接触できないので、センサー感度が著しく低下するため、ナノカーボン部分は絶縁体から露出していることが好ましい。
【0188】
本発明の実施の形態にかかるセンサーにおいては、繰り返しガス検出をするために、基板にヒーターが備え付けられていることが好ましい。ガス検出後にヒーターによってガスセンサーを加熱することで、吸着したガス分子を脱着することができる。すなわち、センサーを再生(クリーニング)し、繰り返し使用することができる。用いるヒーターは、特に限定されないが、小型で低消費電力なMicro Electro Mechanical Systems(MEMS)ヒーターが好ましい。
【0189】
本発明に係るセンサー素子は、第1電極をソース電極(または、ドレイン電極)、第2電極をドレイン電極(またはソース電極)に見立てて、絶縁性の下地層の更に下(第1、第2電極と反対面側)に、ゲート電極を設け、ドレイン―ゲート電極間、またはソース―ゲート電極間に電圧を印加することによって、電界効果トランジスタと同様の効果で抵抗体のキャリア状態調整を行うことも可能である。ゲート電極の形状は、第1電極、第2電極と短絡してしまわなければ、絶縁性の下地層の下側一面にあっても良いが、低い電圧で効率よくキャリア調整の効果を得たい場合は、ドランジスタ構造のチャネルにあたる部分と同形状のゲート電極を絶縁性の下地層の下に設けるのが好ましい。
【0190】
<センサー>
図4は、本発明の実施の形態に係るセンサーの構成を示すブロック図である。本実施の形態に係るセンサーは、検知太陽物質が付着した際に抵抗変化が生じるナノカーボンを含む抵抗体を感応膜として損耐えたセンサー素子と、センサー素子の対向電極間に一定の電圧をかける電圧調整部と、センサー素子が検知対象物質を検知したときに変化する、抵抗値、電流、電圧等の電気特性の変化を検出する電気特性検出部と、検出された変化を解析する電気特性変化解析部からなる。検出する電気的変化は、抵抗、または電流、または電圧のいずれか一つで構わなく、検出精度を高くする場合は2つ以上組み合わせても構わない。また、センサー素子の対抗電極間に一定の電圧をかける部位は、センサー素子の感度と検出したい検知対象物質の種類、および使用環境によって使用の有無を切り替えることも可能である。高感度で検知対象物質のみを検出する場合(夾雑物質による誤差を減らしたい場合)は、絶縁性の下地層と電極の間に一定の電圧をかけてノイズを小さくすることによってセンサーの精度を上げることも可能である。
【0191】
また、ブロック図に示す様に、本実施の形態に係るセンサーは、加熱のための電力消費部位を組み込まなくともガスセンサーとして作動するため、余分な電力消費を抑えられる構成も可能である。
【0192】
本発明のセンサー、及びセンサー素子は、ppbスケールの低濃度ガスが検知対象物質であっても、効果的に選択的検知性能を発揮する。気体は液体と比べて密度が圧倒的に小さいため、扱いにくく、液中よりも気体中の方が低濃度物質を検知するのが難しい。本発明の効果物は、一般に広く普及している酸化物半導体の苦手とするppbスケールの検知でも効果的に、選択的に検知可能で、ヒーターによる200℃以下での加熱によって選択性の感度を調性可能であるが、酸化物半導体のようにガス検知のために300℃以上の高温にする必要はなく、ヒーター以外でも選択性の調整は可能であるため、ドーパントの調整、ナノカーボン膜厚の調整などで、室温でも使用可能となり、ガス分子が感応膜に付着するだけで検知可能であるため、氷点下でも使用可能である。
【0193】
また、本発明の素子は、MEMS(Micro Electro Mechanical System)の利用によって、ヒーターのヒート電力のパターンにプレヒート機能を付与したり、異なる複数の任意温度を組み合わせた測定にも使用可能である。
【0194】
本発明に係る素子は、デバイスに組み込んで使用するのも良い。ガスセンサー素子を組み込んだデバイスをパッケージ化し、デバイスを装置に組み込む形で使用することもできる。
【0195】
図11に示すガスセンサーデバイス40では、センサー素子6に電極配線を兼ねた支持体9が電気的に繋がるよう接続されており、全体をカバー7で覆われたパッケージ構成となっている。支持体9は、計測器と接続できるようにカバー、及び、支持体9の固定台8の外に突き出した構造をとっている。カバーは使い方次第で無くても構わなく、ガスが通るための多孔質の蓋でも良く、細孔や穴が開いた構造でも良い。また、カバー、及び、支持体9の固定台8もカバーが固定台を兼ねる場合など、使い方次第で無くても構わない。また、パッケージにガスの吸引機構を設け、外部ガスが素子と接触し易くする機構を設けることも好ましい。
【0196】
また、ドーパントや抵抗体の膜厚調整によって応答性の異なる感応膜及びセンサー素子を作製可能であるため、応答性の異なるセンサー素子を複数備えたセンサーを作製かのうである。このようなセンサーは、ナノカーボンが検知することのできる複数ガスが混在する混合ガス中で、それぞれのセンサー素子が異なる波形の応答信号を発信することから、信号解析によって任意のガスの存在を特定することが可能となる。
【実施例0197】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0198】
(1)抵抗体に使用するCNTの分散液の調製
ポリ-3-ヘキシルチオフェン(P3HT、Sigma-Aldrich社製、レジオレギュラー、数平均分子量(Mn):13000)0.10gをクロロホルム5mLの入ったフラスコの中に加え、超音波洗浄機(井内盛栄堂(株)製US-2、出力120W)中で超音波撹拌することによりP3HTのクロロホルム溶液を得た。次いでこの溶液を、メタノール20mLと0.1規定塩酸10mLの混合溶液の中に0.5mLずつ滴下して、再沈殿を行った。固体になったP3HTを0.1μm孔径のメンブレンフィルター(PTFE社製:4フッ化エチレン)によって濾別捕集し、メタノールでよくすすいだ後、真空乾燥により溶媒を除去した。さらにもう一度溶解と再沈殿を行い、90mgの再沈殿P3HTを得た。
【0199】
次に、NanoIntegris社製のIsoNanotubes-S(半導体純度99.9wt%)1.5mgをNMP5mLに入れ、超音波洗浄機で1時間超音波照射して解した。その後、0.1μm孔径のメンブレンフィルター(PTFE社製:4フッ化エチレン)によって濾別捕集し、クロロホルムで良くすすいだ後、真空乾燥によって溶媒を除去した。その後、上記P3HT4.5mgと併せて15mLのクロロホルム中に加え、氷冷しながら超音波ホモジナイザー(東京理化器械(株)製VCX-500)を用いて出力250Wで30分間超音波撹拌した。超音波照射を30分行った時点で一度照射を停止し、P3HTを1.5mg追加し、さらに1分間超音波照射した。さらに、メンブレンフィルター(孔径10μm、直径25mm、ミリポア社製オムニポアメンブレン)を用いてろ過を行い、長さ10μm以上のCNT複合体および凝集塊を除去した。得られたろ液5mLにジクロロベンゼン45mLを加え、P3HTが付着したCNT分散液A(溶媒に対するCNT複合体濃度0.1g/L)とした。
【0200】
また、NanoIntegris社製のIsoNanotubes-S(半導体純度90.0wt%)を用いた以外は、CNT分散液Aと全て同様に調製した溶液を、CNT分散液Bとした。
【0201】
また、NanoIntegris社製のSuper pure tubes(半導体純度66.7wt%)を用いた以外は、CNT分散液Aと全て同様に調製した溶液を、CNT分散液Cとした。
【0202】
更に、NanoIntegris社製のSuper pure tubes(半導体純度66.7wt%)を特開2012-36041号公報に記載の方法を用いて、半導体純度80.1wt%の半導体CNTとし、濾過、洗浄することによって、界面活性剤を取り除いた後、CNT分散液Aと全て同様に調製した溶液をCNT分散液Dとした。
【0203】
(2)下地層の準備
p型ドーパントの下地層用溶液
(p型下地層溶液-A)
ポリ(4-スチレンスルホン酸) 溶液(PSS:Sigma-Aldrich社製、Mw~57,000,18wt%水溶液)をイオン交換水で希釈し、4.5wt%の水溶液として準備した。
(p型下地層溶液-C)
ポリメチルメタクリレート(富士フィルム和光純薬株式会社製)1.35gをシクロヘキサノン15gに溶解し、ポリマー溶液を調製した。次に、1-クロロアントラキノン(東京化成工業株式会社製)0.15gを上記ポリマー溶液に添加し、ハイブリッドミキサーで処理することで準備した。
【0204】
n型ドーパントの下地層用溶液
(n型下地層溶液-B)
ポリエチレンイミン(エポミンSP-018:日本触媒(株)製、分子量(約1800))450mgをイオン交換水9.55gと混合して4.5wt%の水溶液として準備した。
(n型下地層溶液-D)
ポリメチルメタクリレート(富士フィルム和光純薬株式会社製)2.5gをN,N-ジメチルホルムアミド15gに溶解し、ポリマー溶液Aを調製した。次に、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(DBU)(富士フィルム和光純薬株式会社製)1gをN,N-ジメチルホルムアミド9.0gに溶解し、化合物溶液Bとした。ポリマー溶液B1.36gに化合物溶液A0.30gを添加し、n型下地層溶液-Bを得た。
(n型下地層溶液-E)
n型下地層溶液-Dの調製において、DBUの代わりにニッケロセン(東京化成工業株式会社製)を用いて、その他は全て同様に準備した。
【0205】
(センサー素子の作製)
<センサー素子1>
5cm×5cm(厚み0.5mm)の無アルカリガラスに700μLの(p型下地層溶液-A)を滴下し、3000rpm、30秒でスピンコート後、大気下150℃のホットプレート上で1分乾燥して下地層を形成後、CNT分散液Aをジクロロベンゼンで13倍に希釈して0.0075g/Lとした後、700μLを3000rpm、30秒で下地層の上部にスピンコートして大気下80℃のホットプレート上で乾燥することによってCNTからなる抵抗体を形成した。
【0206】
その後、真空蒸着機の中で、電極間距離(Lc)が100μm、電極幅(W)が1000μm(抵抗体の領域がLc/W=100μm/1000μm)、電極厚み100nm、電極自体の幅は1000μmとなる様に、金の電極をCNTの上に蒸着によって形成することによってセンサー素子1とした。AFMにて抵抗体(CNT)の平均厚みを測定したところ、厚みは2.0nmであった。また、L/Lcは、1.1であった。
【0207】
<センサー素子2>
5cm×5cm(厚み0.5mm)の無アルカリガラスに700μLの(n型下地層溶液-A)を滴下し、3000rpm、30秒でスピンコート後、大気下150℃のホットプレート上で1分乾燥して下地層を形成後、CNT分散液Aをジクロロベンゼンで4倍に希釈して0.025g/Lとした後、700μLを3000rpm、30秒で下地層の上部にスピンコートして大気下80℃のホットプレート上で乾燥することによってCNTからなる抵抗体を形成した。
【0208】
その後、真空蒸着機の中で、電極間距離(Lc)が100μm、電極幅(W)が1000μm(抵抗体の領域がLc/W=100μm/1000μm)、電極厚み100nm、電極自体の幅は1000μmとなる様に、金の電極をCNTの上に蒸着によって形成することによってセンサー素子2とした。AFMにて抵抗体(CNT)の平均厚みを測定したところ、厚みは2.6nmであった。また、L/Lcは、2.2であった。
【0209】
<センサー素子3>
5cm×5cm(厚み0.5mm)の無アルカリガラスに、CNT分散液Aをジクロロベンゼンで4倍に希釈して0.025g/Lとした後、700μLを3000rpm、30秒で下地層の上部にスピンコートして大気下80℃のホットプレート上で乾燥することによってCNTからなる抵抗体を形成した。
【0210】
その後、真空蒸着機の中で、電極間距離(Lc)が100μm、電極幅(W)が1000μm(抵抗体の領域がLc/W=100μm/1000μm)、電極厚み100nm、電極自体の幅は1000μmとなる様に、金の電極をCNTの上に蒸着によって形成することによってセンサー素子3とした。AFMにて抵抗体(CNT)の平均厚みを測定したところ、厚みは3.0nmであった。また、L/Lcは、2.5であった。
【0211】
<センサー素子4>
p型下地層溶液-Aの代わりに、p型下地層溶液-C1000μLを無アルカリガラス上に100μLのワイヤーバーコーターで塗布して120℃のホットプレートで乾燥して下地層とした以外は、センサー素子1と全て同様に作製した。AFMにて抵抗体(CNT)の平均厚みを測定したところ、厚みは2.4nmであった。また、L/Lcは、1.9であった。
【0212】
<センサー素子5>
p型下地層溶液-Aの代わりに、n型下地層溶液-D1000μLを無アルカリガラス上に100μLのワイヤーバーコーターで塗布して120℃のホットプレートで乾燥して下地層とした以外は、センサー素子2と全て同様に作製した。AFMにて抵抗体(CNT)の平均厚みを測定したところ、厚みは2.5nmであった。また、L/Lcは、2.0であった。
【0213】
<センサー素子6>
CNT分散液Aの濃度を0.015g/Lに調製した以外はセンサー素子1と全て同様に作製した。AFMにて抵抗体(CNT)の平均厚みを測定したところ、厚みは5.5nmであった。また、L/Lcは、13.6であった。
【0214】
<センサー素子7>
CNT分散液Aの濃度を0.045g/Lに調製した以外はセンサー素子2と全て同様に作製した。AFMにて抵抗体(CNT)の平均厚みを測定したところ、厚みは5.2nmであった。また、L/Lcは、13.3であった。
【0215】
<センサー素子8>
CNT分散液Aの濃度を0.06g/Lに調製した以外はセンサー素子1と全て同様に作製した。AFMにて抵抗体(CNT)の平均厚みを測定したところ、厚みは7.3nmであった。また、L/Lcは、25.4であった。
【0216】
<センサー素子9>
CNT分散液Aの濃度を0.06g/Lに調製した以外はセンサー素子2と全て同様に作製した。AFMにて抵抗体(CNT)の平均厚みを測定したところ、厚みは7.1nmであった。また、L/Lcは、24.6であった。
【0217】
<センサー素子10>
CNT分散液Aの濃度を0.1g/Lのまま使用した以外はセンサー素子1と全て同様に作製した。AFMにて抵抗体(CNT)の平均厚みを測定したところ、厚みは11.3nmであった。また、L/Lcは、46.5であった。
【0218】
<センサー素子11>
CNT分散液Aの濃度を0.1g/Lのまま使用した以外はセンサー素子2と全て同様に作製した。AFMにて抵抗体(CNT)の平均厚みを測定したところ、厚みは10.7nmであった。また、L/Lcは、45.8であった。
【0219】
<センサー素子12>
CNT分散液Aの代わりに、CNT分散液Bを用いた以外はセンサー素子1と全て同様に作製した。AFMにて抵抗体(CNT)の平均厚みを測定したところ、厚みは2.1nmであった。また、L/Lcは、1.8であった。
【0220】
<センサー素子13>
CNT分散液Aの代わりに、CNT分散液Bを用いた以外はセンサー素子2と全て同様に作製した。AFMにて抵抗体(CNT)の平均厚みを測定したところ、厚みは1.9nmであった。また、L/Lcは、1.8であった。
【0221】
<センサー素子14>
CNT分散液Aの代わりに、CNT分散液Dを用いた以外はセンサー素子1と全て同様に作製した。AFMにて抵抗体(CNT)の平均厚みを測定したところ、厚みは2.3nmであった。また、L/Lcは、2.2であった。
【0222】
<センサー素子15>
CNT分散液Aの代わりに、CNT分散液Dを用いた以外はセンサー素子2と全て同様に作製した。AFMにて抵抗体(CNT)の平均厚みを測定したところ、厚みは2.4nmであった。また、L/Lcは、2.3であった。
【0223】
<センサー素子16>
CNT分散液Aの代わりに、CNT分散液Cを用いた以外はセンサー素子1と全て同様に作製した。AFMにて抵抗体(CNT)の平均厚みを測定したところ、厚みは2.8nmであった。また、L/Lcは、2.4であった。
【0224】
<センサー素子17>
CNT分散液Aの代わりに、CNT分散液Cを用いた以外はセンサー素子2と全て同様に作製した。AFMにて抵抗体(CNT)の平均厚みを測定したところ、厚みは2.8nmであった。また、L/Lcは、2.4であった。
【0225】
<センサー素子18>
CNT分散液Aの濃度を0.1g/Lのまま使用し、CNT分散液A塗布時のスピンコーターの回転数を2000rpmにした以外はセンサー素子1と全て同様に作製した。AFMにて抵抗体(CNT)の平均厚みを測定したところ、厚みは13.9nmであった。また、L/Lcは、49.5であった。
【0226】
<センサー素子19>
CNT分散液Aの濃度を0.1g/Lのまま使用し、CNT分散液A塗布時のスピンコーターの回転数を2000rpmにした以外はセンサー素子2と全て同様に作製した。AFMにて抵抗体(CNT)の平均厚みを測定したところ、厚みは14.4nmであった。また、L/Lcは、49.6であった。
【0227】
<センサー素子20>
5cm×5cm(厚み0.5mm)の無アルカリガラスを真空蒸着機の中で、電極間距離(Lc)が100μm、電極幅(W)が1000μm(抵抗体の領域がLc/W=100μm/1000μmなる形状)、電極厚み100nmとなるように金の電極を蒸着によって形成した。その後、700μmの(p型下地層溶液-A)を滴下し、3000rpm、30秒でスピンコート後、大気下150℃のホットプレート上で1分乾燥して下地層を形成後、CNT分散液Aをジクロロベンゼンで13倍に希釈して0.0075g/Lとした後、700μLを3000rpm、30秒で下地層の上部にスピンコートして大気下80℃のホットプレート上で乾燥することによってCNTからなる抵抗体を形成したものをセンサー素子とした。AFMにて抵抗体(CNT)の平均厚みを測定したところ、厚みは2.6nmであった。また、L/Lcは、1.7であった。
【0228】
<センサー素子21>
5cm×5cm(厚み0.5mm)の無アルカリガラスを真空蒸着機の中で、電極間距離(Lc)が100μm、電極幅(W)が1000μm(抵抗体の領域がLc/W=100μm/1000μmなる形状)、電極厚み100nmとなるように金の電極を蒸着によって形成した。その後、700μmの(n型下地層溶液-B)を滴下し、3000rpm、30秒でスピンコート後、大気下150℃のホットプレート上で1分乾燥して下地層を形成後、CNT分散液Aをジクロロベンゼンで13倍に希釈して0.0075g/Lとした後、700μLを3000rpm、30秒で下地層の上部にスピンコートして大気下80℃のホットプレート上で乾燥することによってCNTからなる抵抗体を形成したものをセンサー素子とした。AFMにて抵抗体(CNT)の平均厚みを測定したところ、厚みは2.7nmであった。また、L/Lcは、1.8であった。
【0229】
<センサー素子22>
n型下地層溶液-Dの代わりにn型下地層溶液-Eを用いたこと以外は、センサー素子5と全て同様に作製した。
AFMにて抵抗体(CNT)の平均厚みを測定したところ、厚みは2.5nmであった。また、L/Lcは、2.1であった。
【0230】
(測定)
作製したセンサー素子1~3および図3に示す形状の石英管30を用いて、石英管30内に各センサー素子をセット後、酸素濃度が20vol%、相対湿度<5vol%の状態で、対象とする検知ガスが下記実施例に記載の濃度に調製されたサンプルガスに曝した際の、電極間の抵抗変化を50℃で測定した。結果を実施例及び、比較例に示す。
【0231】
ガスへの応答性と検出下限濃度は、センサー素子調製3日後に測定した結果と半年後に測定した結果を記した。
【0232】
(実施例)
センサー素子1およびセンサー素子2を用いて、アンモニア(NH)、及び、一酸化窒素(NO)の濃度を徐々に変化させながら、異なる濃度のガス曝した際の抵抗値の変化を50℃で測定し、各種濃度に曝した際の抵抗変化率の変化を測定し、変化率の変化をもってガスを検知したとみなした。結果を図5図6図7図8に示す。
【0233】
図5はセンサー素子1を用いた時のアンモニア(NH)への応答変化
図6はセンサー素子1を用いた時の一酸化窒素(NO)への応答変化
図7はセンサー素子2を用いた時のアンモニア(NH)への応答変化
図8はセンサー素子2を用いた時の一酸化窒素(NO)への応答変化。
【0234】
センサー素子1は図5に示すようにアンモニアへは応答するが、図6に示すように一酸化窒素へは応答を示さなかった。また、アンモニアの検出下限濃度は20ppbであった。
【0235】
センサー素子2は図7に示すようにアンモニアへは応答を示さないが、図8に示すように一酸化窒素へは応答を示す結果となった。また、アンモニアの検出下限濃度は30ppbであった。
【0236】
センサー素子4~22も同様に、アンモニア(NH)、及び、一酸化窒素(NO)の濃度を徐々に変化させながら、異なる濃度のガス曝した際の抵抗値の変化を50℃で測定し、各種濃度に曝した際の抵抗変化率の変化を測定し、変化率の変化をもってガスを検知したとみなした。測定結果は表1にまとめた。検出下限濃度は、信号対雑音比(Signal-toNoise Ratio,S/N比)を基準に、S/N比>3となる濃度を検出下限濃度の数字として記した。
【0237】
(比較例)
センサー素子3を使用して、実施例と同様のアンモニア(NH)、及び、一酸化窒素(NO)の濃度を徐々に変化させながら、異なる濃度のガス曝した際の抵抗値の変化を50℃で測定し、各種濃度に曝した際の抵抗変化率の変化を測定し、変化率の変化をもってガスを検知したとみなした。結果を図9図10に示す。
【0238】
下地層を形成していないセンサー素子3では、アンモニアと一酸化窒素の両方に応答性を示すため、本発明実施例と異なり、明確な選択性が現れないことが確認された。
【0239】
【表1】
【符号の説明】
【0240】
2 電極
3 半導体CNT/半導体ポリマー複合体
4 ドーパントを含む下地層
5 基材
6 センサー素子
7 カバー
8 固定台
9 支持体(兼電極配線)
10 センサー素子、及び、計測機器の配置
20 センサー素子、及び、計測機器の配置
30 石英管
40 センサー素子、デバイス、及び、計測機器の配置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11