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  • 特開-人工皮革 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052600
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】人工皮革
(51)【国際特許分類】
   D06N 3/14 20060101AFI20240404BHJP
【FI】
D06N3/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023167598
(22)【出願日】2023-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2022157506
(32)【優先日】2022-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】▲吉▼富 大浩
(72)【発明者】
【氏名】萩原 達也
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 智
【テーマコード(参考)】
4F055
【Fターム(参考)】
4F055AA01
4F055BA02
4F055DA07
4F055DA13
4F055EA04
4F055EA11
4F055EA12
4F055EA24
4F055EA34
4F055FA15
4F055FA40
4F055GA02
4F055GA09
4F055HA03
4F055HA11
4F055HA22
(57)【要約】
【課題】
簡略なプロセスによって、メランジ調の外観と良好なタッチ感を有し、優れた摩擦堅牢度や実使用に耐えうる強度を併せ持つ人工皮革を提供すること。
【解決手段】
極細繊維からなる不織布を構成要素として含む繊維絡合体と、高分子弾性体とで構成されてなる、少なくとも一方の表面に立毛を有する人工皮革であって、前記極細繊維はポリエステル樹脂を主成分としてなり、前記極細繊維の平均単繊維直径が0.01μm以上10.0μm以下であり、前記高分子弾性体はポリウレタン樹脂を主成分としてなり、前記高分子弾性体が黒色顔料を0.1質量%以上5.0質量%以下含み、前記人工皮革が、その表面に0.10mm以上0.60mm以下の非立毛被覆部分を20個/cm以上50個/cm以下有する、人工皮革。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
極細繊維からなる不織布を構成要素として含む繊維絡合体と、高分子弾性体とで構成されてなる、少なくとも一方の表面に立毛を有する人工皮革であって、前記極細繊維はポリエステル樹脂を主成分としてなり、前記極細繊維の平均単繊維直径が0.01μm以上10.0μm以下であり、前記高分子弾性体はポリウレタン樹脂を主成分としてなり、前記高分子弾性体が黒色顔料を0.1質量%以上5.0質量%以下含み、前記人工皮革が、その表面に0.10mm以上0.60mm以下の非立毛被覆部分を20個/cm以上50個/cm以下有する、人工皮革。
【請求項2】
前記人工皮革の平均立毛長が200μm以上600μm以下である、請求項1に記載の人工皮革。
【請求項3】
前記人工皮革の立毛長の変動係数が30%以上100%以下である、請求項1または2に記載の人工皮革。
【請求項4】
前記非立毛被覆部分の、前記人工皮革の表面に占める面積の割合が1.0%以上30.0%以下である、請求項1または2に記載の人工皮革。
【請求項5】
前記高分子弾性体の前記繊維絡合体に対する質量が20質量%以上50質量%以下である、請求項1または2に記載の人工皮革。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極細繊維からなる不織布を構成要素として含む繊維絡合体と高分子弾性体とからなる人工皮革に関する。
【背景技術】
【0002】
主として極細繊維からなる不織布を構成要素として含む繊維絡合体と高分子弾性体とからなる天然皮革調の人工皮革は、耐久性の高さや品質の均一性などの天然皮革対比で優れた特徴を有しており、人工皮革の種類は、表面を起毛したスエード調の人工皮革や、表層に高分子弾性体を付与した銀付きの人工皮革など、用途に合わせて多種多様化している。
【0003】
スエード調の人工皮革は、表面起毛部による均一な手触り感や光沢感が高品位として評価され、自動車内装材、家具、雑貨、衣料用途など幅広い用途に使用されている。
【0004】
一方で、単に均一な外観だけでなく、様々な色調や新規な外観への要求が強くなってきており、いわゆるメランジ調と呼ばれる、異色効果を表現できるような人工皮革の需要が高まりつつある。
【0005】
これまでに、メランジ調人工皮革を製造する方法として、染着性の異なる2種類以上の繊維を適当な比率で混合してなるシートを染色する方法や、シートをバフィングして起毛させる際に、研削量を少量に抑えることで、表層における立毛部と高分子弾性体露出部の境界を明瞭化させる方法が開示されている(例えば、特許文献1および2を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-133256号公報
【特許文献2】特開2013-44073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された技術においては、染着性の異なる2種類以上の繊維を適当な比率で混合してなるシートを染色することで、異色の繊維が混在した人工皮革表面を作り出すことができ、メランジ調の外観を達成している。しかし、この手法では、異種繊維の混綿工程が必須であり、工程が複雑化するという問題がある。
【0008】
特許文献2に開示された技術においては、シートをバフィングして起毛させる際に、研削量を少量に抑えることで、分散していない短い立毛繊維束を表層に発生させ、表層における極細繊維からなる立毛部と高分子弾性体露出部の境を明瞭化し、メランジ調の外観を達成している。しかし、この手法では研削量が少なく、分散していない短い立毛繊維束が表層に多数存在するため、凸凹が増え、表面が粗くなるため、タッチ感が悪くなるという問題がある。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、簡略なプロセスによって、メランジ調の外観と良好なタッチ感を有し、優れた摩擦堅牢度や実使用に耐えうる強度を併せ持つ人工皮革を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するべく、鋭意検討を重ねた結果、完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
【0011】
[1] 極細繊維からなる不織布を構成要素として含む繊維絡合体と、高分子弾性体とで構成されてなる、少なくとも一方の表面に立毛を有する人工皮革であって、前記極細繊維はポリエステル樹脂を主成分としてなり、前記極細繊維の平均単繊維直径が0.01μm以上10.0μm以下であり、前記高分子弾性体はポリウレタン樹脂を主成分としてなり、前記高分子弾性体が黒色顔料を0.1質量%以上5.0質量%以下含み、前記人工皮革が、その表面に0.10mm以上0.60mm以下の非立毛被覆部分を20個/cm以上50個/cm以下有する、人工皮革。
【0012】
[2] 前記人工皮革の平均立毛長が200μm以上600μm以下である、上記[1]に記載の人工皮革。
【0013】
[3] 前記人工皮革の立毛長の変動係数が30%以上100%以下である、上記[1]または[2]に記載の人工皮革。
【0014】
[4] 前記非立毛被覆部分の、前記人工皮革の表面に占める面積の割合が1.0%以上30.0%以下である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の人工皮革。
【0015】
[5] 前記高分子弾性体の前記繊維絡合体に対する質量が20質量%以上50質量%以下である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の人工皮革。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、簡略なプロセスによって、メランジ調の外観および良好なタッチ感を有し、優れた摩擦堅牢度や実使用に耐えうる強度を併せ持つ人工皮革を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の人工皮革にかかる平均立毛長の測定方法を説明するための断面概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、これらの構成要素について詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する範囲にのみ限定されるものではない。
【0019】
本発明の人工皮革は、極細繊維からなる不織布を構成要素として含む繊維絡合体と、高分子弾性体とからなる人工皮革である。
【0020】
[繊維絡合体]
前記極細繊維はポリエステル樹脂を主成分としてなる。本発明において、「ポリエステル樹脂を主成分としてなる」とは、その構成成分の50質量%以上100質量%以下がポリエステル樹脂であることを指すこととする。
【0021】
前記ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレートに加え、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレ-ト、およびポリエチレン-1,2-ビス(2-クロロフェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボキシレート等が挙げられる。中でも最も汎用的に用いられているポリエチレンテレフタレート、または主としてエチレンテレフタレート単位を含むポリエステル共重合体が好適に使用される。
【0022】
また、前記ポリエステル樹脂として、単一のポリエステル樹脂を用いても、異なる2種以上のポリエステル樹脂を用いてもよいが、異なる2種以上のポリエステル樹脂を用いる場合には、2種以上の成分の相溶性の観点から、用いるポリエステル樹脂の固有粘度(IV値)差は0.50以下であることが好ましく、0.30以下であることがより好ましい。
【0023】
本発明において、固有粘度は以下の方法により算出されるものとする。
(1) オルソクロロフェノール10mL中に試料ポリマーを0.8g溶かす。
(2) 25℃の温度においてオストワルド粘度計を用いて相対粘度ηを下式により算出し、小数点以下第三位で四捨五入する。
η=η/η=(t×d)/(t×d
固有粘度(IV値)=0.0242η+0.2634
ここで、
η:ポリマー溶液の粘度
η:オルソクロロフェノールの粘度
t:溶液の落下時間(秒)
d:溶液の密度(g/cm
:オルソクロロフェノールの落下時間(秒)
:オルソクロロフェノールの密度(g/cm)。
【0024】
前記ポリエステル樹脂は、種々の目的に応じ、本発明の目的を阻害しない範囲で、黒色顔料や有彩色微粒子酸化物顔料、酸化チタン粒子等の無機粒子、潤滑剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、導電剤、蓄熱剤および抗菌剤等を含んでいてもよい。
【0025】
前記極細繊維の断面形状としては、加工操業性の観点からは、丸断面にすることが好ましいが、所望する特性に合わせて楕円、扁平および三角などの多角形、扇形および十字型、中空型、Y型、T型、およびU型などの異形断面の断面形状を採用することもできる。
【0026】
前記極細繊維の平均単繊維直径は、0.01μm以上10.0μm以下である。前記極細繊維の平均単繊維直径を、0.01μm以上、好ましくは1.0μm以上とすることにより、染色後の発色性や耐光および摩擦堅牢性、紡糸時の安定性に優れた効果を奏する。一方、極細繊維の平均単繊維直径を10.0μm以下、好ましくは7.0μm以下、より好ましくは5.0μm以下とすることにより、緻密でタッチ感に優れた人工皮革が得られる。
【0027】
本発明において、極細繊維の平均単繊維直径とは、人工皮革断面の走査型電子顕微鏡(SEM、例えば、株式会社キーエンス製「VHX-D500/D510」など)写真を撮影し、円形または円形に近い楕円形の極細繊維をランダムに10本選び、単繊維直径を測定して10本の算術平均値(μm)を計算して、小数点以下第二位で四捨五入することにより算出されるものとする。ただし、異型断面の極細繊維を採用した場合には、まず単繊維の断面積を測定し、当該断面を円形と見立てた場合の直径を算出することによって単繊維の直径を求めるものとする。
【0028】
前記繊維絡合体は、前記極細繊維からなる前記不織布を構成要素として含む。前記繊維絡合体が不織布を構成要素として含むことにより、表面を起毛した際に均一で優美な外観や風合いを得ることができる。
【0029】
前記不織布の形態としては、主としてフィラメントから構成される長繊維不織布と、主として100mm以下の繊維から構成される短繊維不織布がある。前記短繊維不織布を使用する場合は、前記長繊維不織布を使用する場合に比べて人工皮革の厚さ方向に配向する繊維を多くすることができ、起毛させた際の人工皮革の表面に高い緻密感と良好なタッチ感を有させることができる。
【0030】
前記短繊維不織布を用いる場合の前記極細繊維の繊維長は、好ましくは25mm以上95mm以下である。繊維長を95mm以下、より好ましくは85mm以下、さらに好ましくは75mm以下とすることにより、良好な品位と風合いとなる。他方、繊維長を25mm以上、より好ましくは35mm以上、さらに好ましくは40mm以上とすることにより、耐摩耗性に優れた人工皮革とすることができる。
【0031】
前記繊維絡合体の目付は、50g/m以上600g/m以下であることが好ましい。前記繊維絡合体の目付を、50g/m以上、より好ましくは80g/m以上とすることで、充実感のある、風合いの優れた人工皮革とすることができる。一方、前記の繊維絡合体の目付を、600g/m以下、より好ましくは400g/m以下とすることで、成型性に優れた、柔軟な人工皮革とすることができる。
【0032】
本発明において、前記不織布の目付は以下の方法により算出されるものとする。
(1)人工皮革の任意の部分から、かみそり刃を用いて25cm×20cmの長方形を3枚採取する。
(2)採取した人工皮革をジメチルホルムアミド等に浸漬させることで、人工皮革中に含有される高分子弾性体を溶解して除去し、繊維絡合体を得る。
(3)前記繊維絡合体の目付を、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.2 単位面積当たりの質量(ISO法)」で測定する。
【0033】
前記繊維絡合体においては、本発明の人工皮革の強度や形態安定性を向上させる目的で、前記の不織布内部もしくは片側に織物を積層し絡合一体化させてもよい。
【0034】
前記織物を構成する繊維の種類としては例えば、フィラメントヤーン、紡績糸、フィラメントヤーンと紡績糸の混合複合糸などを用いることが好ましく、耐久性、特には機械的強度等の観点から、ポリエステル樹脂やポリアミド樹脂からなるマルチフィラメントを用いることがより好ましい。
【0035】
前記織物を構成する繊維の平均単繊維直径としては1.0μm以上、50.0μm以下が好ましい。当該平均単繊維直径を50.0μm以下、より好ましくは15.0μm以下、さらに好ましくは13.0μm以下とすることにより、柔軟性に優れた人工皮革が得られるだけでなく、人工皮革の表面に織物の繊維が露出した場合でも、染色後に顔料を含有する極細繊維との色相差が小さくなるため、表面の色相の均一性を損なうことがない。一方、当該平均単繊維直径を好ましくは1.0μm以上、より好ましくは8.0μm以上、さらに好ましくは9.0μm以上とすることにより、人工皮革としての製品の形態安定性が向上する。
【0036】
本発明において織物を構成する繊維の平均単繊維直径は、人工皮革断面の走査型電子顕微鏡(SEM、例えば、株式会社キーエンス製「VHX-D500/D510」など)写真を撮影し、織物を構成する繊維をランダムに10本選び、その繊維の単繊維直径を測定して10本の算術平均値を計算して、小数点以下第二位で四捨五入することにより算出することができる。
【0037】
前記織物を構成する繊維がマルチフィラメントである場合、そのマルチフィラメントの繊度は、30dtex以上170dtex以下とすることが好ましい。前記マルチフィラメントの繊度を170dtex以下とすることにより、柔軟性に優れた人工皮革が得られる。一方、前記マルチフィラメントの繊度を30dtex以上とすることにより、人工皮革としての製品の形態安定性が向上するだけでなく、不織布と織物をニードルパンチ等で絡合一体化させる際に、織物を構成する繊維が人工皮革の表面に露出しにくくなるため好ましい。
【0038】
前記織物の経糸と緯糸のマルチフィラメントの繊度は同じ繊度とすることが好ましい。
【0039】
本発明においてマルチフィラメントの繊度は、JIS L1013:2021「化学繊維フィラメント糸試験方法」の「8.3 繊度」の「8.3.1 正量繊度 b) B法(簡便法)」で測定することができる。
【0040】
前記織物を構成する糸条には、撚数1000T/m以上4000T/m以下の撚りが施されていることが好ましい。撚数を4000T/m以下、より好ましくは3500T/m以下、さらに好ましくは3000T/m以下とすることにより、柔軟性に優れた人工皮革が得られる。また、撚数を1000T/m以上、より好ましくは1500T/m以上、さらに好ましくは2000T/m以上とすることにより、不織布と織物をニードルパンチ等で絡合一体化させる際に、織物を構成する繊維の損傷を防ぐことができ、人工皮革の機械的強度が優れたものとなる。
【0041】
前記繊維絡合体としては、前記不織布の単体からなるものや前述のように不織布と織物とが絡合一体化されてなるものの他、不織布と織物以外の基材とが絡合一体化されてなるものであってもよい。
【0042】
[高分子弾性体]
前記高分子弾性体は、ポリウレタン樹脂を主成分としてなる。本発明において、「ポリウレタン樹脂を主成分としてなる」とは、その構成成分の50質量%以上99.9質量%未満がポリウレタン樹脂であることを指すこととする。前記高分子弾性体は前記極細繊維を把持するバインダーであるため、前記高分子弾性体にポリウレタン樹脂を主成分として用いることで、柔軟な風合いを有する人工皮革とすることができる。なお、後述するもの以外で、ポリウレタン樹脂以外に高分子弾性体に含ませることができる樹脂としては、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)およびアクリル樹脂等が挙げられる。
【0043】
前記ポリウレタン樹脂には、有機溶剤に溶解した状態で使用する有機溶剤系ポリウレタンと、水に分散した状態で使用する水分散型ポリウレタンのどちらも採用することができる。
【0044】
また、前記ポリウレタンとしては、ポリマージオールと有機ジイソシアネートと鎖伸長剤との反応により得られるポリウレタンが好ましく用いられる。
【0045】
前記ポリマージオールとしては例えば、ポリカーボネート系ジオール、ポリエステル系ジオール、ポリエーテル系ジオール、シリコーン系ジオールおよびフッ素系ジオールを採用することができ、これらを組み合わせた共重合体を用いることもできる。中でも、耐加水分解性、耐摩耗性の観点からは、ポリカーボネート系ジオールを用いることが好ましい。
【0046】
前記ポリカーボネート系ジオールは、アルキレングリコールと炭酸エステルのエステル交換反応、あるいはホスゲンまたはクロル蟻酸エステルとアルキレングリコールとの反応などによって製造することができる。
【0047】
また、前記アルキレングリコールとしては例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオールなどの直鎖アルキレングリコールや、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオールおよび2-メチル-1,8-オクタンジオールなどの分岐アルキレングリコール、1,4-シクロヘキサンジオールなどの脂環族ジオール、ビスフェノールAなどの芳香族ジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、およびペンタエリスリトールなどが挙げられる。本発明では、それぞれ単独のアルキレングリコールから得られるポリカーボネート系ジオールでも、2種類以上のアルキレングリコールから得られる共重合ポリカーボネート系ジオールのいずれも採用することができる。
【0048】
また、前記ポリエステル系ジオールとしては、各種の低分子量ポリオールと多塩基酸とを縮合させて得られるポリエステルジオールを挙げることができる。
【0049】
前記低分子量ポリオールとしては例えば、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,8-オクタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、シクロヘキサン-1,4-ジオール、およびシクロヘキサン-1,4-ジメタノールからなる群より選ばれる一種または二種以上を使用することができる。また、ビスフェノールAに各種アルキレンオキサイドを付加させた付加物も使用可能である。
【0050】
前記多塩基酸としては例えば、コハク酸、マレイン酸、アジピン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、およびヘキサヒドロイソフタル酸からなる群より選ばれる一種または二種以上が挙げられる。
【0051】
前記ポリエーテル系ジオールとしては例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、およびそれらを組み合わせた共重合ジオールを挙げることができる。
【0052】
前記ポリマージオールの数平均分子量は、ポリウレタン系エラストマーの分子量が一定の場合、500以上4000以下の範囲内であることが好ましい。当該数平均分子量を好ましくは500以上、より好ましくは1500以上とすることにより、本発明の人工皮革が硬くなることを防ぐことができる。また、当該数平均分子量を好ましくは4000以下、より好ましくは3000以下とすることにより、ポリウレタンとしての強度を維持することができる。
【0053】
前記有機ジイソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の脂肪族系ジイソシアネートや、ジフェニルメタンジイソシアネート、およびトリレンジイソシアネート等の芳香族系ジイソシアネートが挙げられる。また、これらを組み合わせて用いることもできる。
【0054】
前記鎖伸長剤としては、好ましくはエチレンジアミンやメチレンビスアニリン等のアミン系の鎖伸長剤、およびエチレングリコール等のジオール系の鎖伸長剤を用いることができる。また、ポリイソシアネートと水とを反応させて得られるポリアミンを前記鎖伸長剤として用いることもできる。
【0055】
前記ポリウレタン樹脂には、耐水性、耐摩耗性および耐加水分解性等を向上させる目的で架橋剤を併用することができる。前記架橋剤は、ポリウレタンに対し、第3成分として添加する外部架橋剤でもよく、またポリウレタン分子構造内に予め架橋構造となる反応点を導入する内部架橋剤でもよい。ポリウレタンの分子構造内により均一に架橋点を形成することができ、柔軟性の減少を軽減できるという観点から、内部架橋剤を用いることが好ましい。
【0056】
前記架橋剤としては、イソシアネート基、オキサゾリン基、カルボジイミド基、エポキシ基、メラミン樹脂、およびシラノール基などを有する化合物を用いることができる。
【0057】
前記高分子弾性体は、前記黒色顔料を含有する。このことにより、本発明の人工皮革において、濃色で均一な発色性を両立させることができる。
【0058】
前記黒色顔料としては、カーボンブラックや黒鉛などの炭素系黒色顔料や四酸化三鉄、銅およびクロムの複合酸化物などの酸化物系黒色顔料を用いることができる。細かい粒子径の黒色顔料が得られやすく、またポリマーへの分散性に優れる観点から、前記黒色顔料がカーボンブラックであることが好ましい。
【0059】
前記黒色顔料の平均粒子径は0.05μm以上0.20μm以下である。ここでいう黒色顔料の平均粒子径とは、黒色顔料が高分子弾性体中に存在している状態での平均粒子径のことであり、一般に二次粒子径とよばれるもののことをいう。前記黒色顔料の平均粒子径を0.05μm以上、好ましくは0.07μm以上とすることにより、前記黒色顔料が前記高分子弾性体の内部に把持されるため前記黒色顔料の高分子弾性体からの脱落が抑制される。また、平均粒子径を0.20μm以下、好ましくは0.18μm以下、より好ましくは0.16μm以下とすることにより、高分子弾性体を含浸付与する際に分散性に優れたものとなる。
【0060】
前記黒色顔料の粒子径の変動係数(CV)は75%以下であることが好ましい。
当該変動係数(CV)が75%以下、好ましくは65%以下、より好ましくは60%以下、さらに好ましくは55%以下、さらに好ましくは50%以下であることで、粒子径の分布が小さくなり、小さい粒子の前記高分子弾性体表面からの脱落や著しく凝集した粒子の含浸槽への沈殿等が抑制される。なお、本発明における当該変動係数の下限は特に制限されないが、前記高分子弾性体を含浸付与する際の操業性の観点から0.1%以上が好ましい。
【0061】
前記黒色顔料の平均粒子径および変動係数(CV)は以下の方法により算出されるものとする。
(1) 人工皮革の長手方向に垂直な面の断面方向に厚さ5~10μmの超薄切片を作製する。
(2) 透過型電子顕微鏡(TEM、例えば、日立ハイテクノロジーズ製「H7700型」など)にて超薄切片中の高分子弾性体の断面を10000倍で観察する。
(3) 画像解析ソフト(例えば、三谷商事株式会社製「WinROOF」など)を使用して、観察像の2.3μm×2.3μmの視野の中に含まれる黒色顔料の粒子径の円相当径を20点測定する。2.3μm×2.3μmの視野の中に含まれる黒色顔料の粒子が20点未満しか存在しない場合には、存在する黒色顔料の粒子径の円相当径をすべて測定する。
(4) 測定した20点の粒子径について、平均値(算術平均)と変動係数(CV)を算出する。本発明において、変動係数は以下の式により算出されるものとする
粒子径の変動係数(%)=[(粒子径の標準偏差)/(粒子径の算術平均)]×100。
【0062】
前記高分子弾性体に含まれる前記黒色顔料の含有量は、前記高分子弾性体の質量に対して0.1質量%以上5.0質量%以下である。前記黒色顔料の含有量を0.1質量%以上、好ましくは1.0質量%以上とすることにより、濃色の発色性に優れる人工皮革となる。前記黒色顔料の含有量を5.0質量%以下、好ましくは4.5質量%以下、より好ましくは4.0質量%以下とすることにより、強度などの物理特性の高い人工皮革とすることができる。
【0063】
本発明において、前記黒色顔料の含有量は以下の方法により算出されるものとする。
(1) フェノールとテトラクロロエタンの混合液に人工皮革を浸漬させ極細繊維を溶解し、高分子弾性体を採取する。
(2) 採取した高分子弾性体を、ジメチルホルムアミド等を用いて溶液化させ、黒色顔料(b)のみを抽出する。
(3) 抽出した黒色顔料について発生ガス分析を実施し、黒色顔料由来の発生ガスについての検量線を作成する。
(4) 人工皮革に含まれる高分子弾性体を、ジメチルホルムアミド等を用いて溶液化したのち、ジメチルホルムアミド等を取り除くことで、再度、高分子弾性体を固化させる。
(5) (4)で得られた高分子弾性体について発生ガス分析を実施し、黒色顔料由来の発生ガス検出強度と(3)で作成した検量線から、人工皮革を構成する高分子弾性体に含まれる黒色顔料の含有量を算出する。
【0064】
また、前記高分子弾性体には、目的に応じて各種の添加剤、例えば、
無機系や酸化物系などの顔料、
リン系、ハロゲン系および無機系などの難燃剤、
フェノール系、イオウ系およびリン系などの酸化防止剤、
ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系、シアノアクリレート系およびオキザリックアシッドアニリド系などの紫外線吸収剤、
ヒンダードアミン系やベンゾエート系などの光安定剤、
ポリカルボジイミドなどの耐加水分解安定剤、
可塑剤、耐電防止剤、界面活性剤、凝固調整剤および染料などを含有させることができる。
【0065】
一般に、人工皮革における高分子弾性体の含有量は、使用する高分子弾性体の種類、高分子弾性体の製造方法および風合や物性を考慮して、適宜調整することができるが、本発明においては、前記高分子弾性体の含有量は、前記繊維絡合体の質量に対して20質量%以上50質量%以下であることが好ましい。前記高分子弾性体の含有量を好ましくは20質量%以上、より好ましくは23質量%以上とすることで、人工皮革表面から高分子弾性体が露出しやすく、優れたメランジ調の外観を得ることができる。一般的に高分子弾性体が表面から露出していると、人工皮革の耐摩耗性は低下する傾向にあるが、高分子弾性体の含有率を上記の範囲とすることで、繊維間の高分子弾性体による結合を強めることができ、人工皮革の耐摩耗性を向上させることができる。一方、前記高分子弾性体の含有量を好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下とすることで、人工皮革をより柔軟性の高いものとすることができる。
【0066】
本発明において、繊維絡合体に対する高分子弾性体の含有量は以下の方法により算出されるものとする。
(1) 人工皮革の任意の部分から、20gの試料を採取する。
(2) フェノールとテトラクロロエタンの混合液に採取した試料を浸漬させて極細繊維を溶解し、高分子弾性体を採取する。
(3) 極細繊維を溶解する前の溶解前の試料の質量と採取した高分子弾性体の質量との差分から極細繊維の質量を求め、繊維絡合体に対する高分子弾性体の含有量を以下の式を用いて算出する。
繊維絡合体に対する高分子弾性体の含有量(%)=100×(高分子弾性体の質量)/(極細繊維の質量) 。
【0067】
[人工皮革]
本発明の人工皮革は、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.1 厚さ(ISO法)」の「6.1.1 A法」で測定される厚みが、0.2mm以上1.2mm以下であることが好ましい。前記人工皮革の厚みを、0.2mm以上、より好ましくは0.3mm以上、さらに好ましくは0.4mm以上とすることで、製造時の加工性に優れるだけでなく、充実感のある、風合いに優れたものとなる。一方、厚みを1.2mm以下、より好ましくは1.1mm以下、さらに好ましくは1.0mm以下とすることで、成型性に優れた、柔軟な人工皮革とすることができる。
【0068】
本発明の人工皮革は、JIS L0849:2013「摩擦に対する染色堅ろう度試験方法」の「9.1 摩擦試験機I型(クロックメータ)法」で測定される摩擦堅牢度およびJIS L0843:2006「キセノンアーク灯光に対する染色堅ろう度試験方法」の「7.2 露光方法 a) 第1露光法」で測定される耐光堅牢度がそれぞれ3級以上であることが好ましい。摩擦堅牢度および耐光堅牢度が3級以上であることで、実使用時に色落ちや衣服等への汚染を防ぐことができる。なお、それぞれの級数の判定には、人工皮革の摩擦堅牢度については、JIS L0805:2005「汚染用グレースケール」に規定の汚染用グレースケールを用いることとし、人工皮革の耐光堅牢度については、JIS L0804:2004「変退色用グレースケール」に規定の変退色用グレースケールを用いることとする。
【0069】
また、本発明の人工皮革はJIS L1096:2010「織物及び編物の生地試験方法」の「8.19 摩耗強さ及び摩擦変色性」の「8.19.5 E法(マーチンデール法)」で測定される耐摩耗試験において、押圧荷重を12.0kPaとし、20000回の回数を摩耗した後の人工皮革の質量減が15mg以下であることが好ましく、10mg以下であることがより好ましく、8mg以下であることがさらに好ましい。質量減が15mg以下であることで、実使用時の毛羽落ちによる汚染を防ぐことができる。
【0070】
さらに、本発明の人工皮革は、表面の明度(L値)が35以上70以下であることが好ましくい。表面の明度(L値)が35以上70以下、より好ましくは45以上60以下であることで、立毛部と非立毛被覆部分のコントラストによる異色効果が得やすくなり、優れたメランジ調の外観の人工皮革を得ることができる。
【0071】
表面の明度とは、人工皮革の立毛を有する面を測定面として、リントブラシ等を用いて立毛を寝かせた状態で、JIS Z8781-4:2013「測色-第4部:CIE1976L色空間」の「3.3 CIE1976 明度指数」で規定されるL値のことを指す。本発明において、L値の計測は分光測色計を用いて10回測定し、その測定結果の算術平均を人工皮革のL値として採用する。
【0072】
また、本発明の人工皮革は、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.3.1 引張強さ及び伸び率(ISO法)」で測定される引張強さが任意の測定方向について200N/cm以上400N/cm以下であることが好ましい。当該引張強さが200N/cm以上、より好ましくは250N/cm以上、さらに好ましくは270N/cm以上であることで、人工皮革の形態安定性や耐久性に優れるため、好ましい。また、引張強さが400N/cm以下、より好ましくは370N/cm以下、さらに好ましくは350N/cm以下であることで、成型性に優れた人工皮革となる。
【0073】
本発明の人工皮革は、少なくとも一方の表面に立毛を有する。立毛は人工皮革の片側表面のみに有していてもよく、両面に有することも許容される。立毛形態は、意匠効果の観点から指でなぞったときに立毛の方向が変わることで跡が残る、いわゆるフィンガーマークが発する程度の立毛長と方向柔軟性を備えていることが好ましい。
【0074】
より具体的には、本発明の人工皮革の平均立毛長は200μm以上600μm以下であることが好ましい。平均立毛長を好ましくは200μm以上、より好ましくは250μmとすることで、人工皮革の表面平滑性が向上し、タッチ感に優れた人工皮革を得ることができる。一方、平均立毛長を好ましくは600μm以下、より好ましくは500μm以下とすることで、意匠効果と摩擦堅牢度・耐摩耗性に優れる人工皮革を得ることができる。本発明の人工皮革の平均立毛長は、後述の起毛処理において、起毛面における研削厚みおよび、使用するサンドペーパーやロールサンダーの粒度を変更することで調整できる。
【0075】
また、本発明の人工皮革の立毛長の変動係数は、30%以上100%以下であることが好ましく、50%以上100%以下であることがより好ましい。平均立毛長を上記の範囲内としかつ立毛長の変動係数を好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上とすることで、人工皮革表面の原着ポリウレタンを含む非立毛被覆部分が人工皮革表面に万遍なく分布し、立毛部と非立毛被覆部分とのコントラストによる異色効果が得やすくなり、簡略なプロセスによって、優れたメランジ調の外観の人工皮革を得ることができる。さらに、立毛長の変動係数を上記の範囲内とすることで、立毛による凹凸が人工皮革表面に形成されやすくなり、独特のモトリング感を有する人工皮革を得ることができる。モトリング感は、立毛の方向や傾きが部分的に不均一であることにより生じる、人工皮革の表面の明暗の視覚効果である。モトリング感は人工皮革の用途や使用者の嗜好により要望され、立毛長の変動係数を上記の範囲内とすることで、熟練者の多くが自然で好ましいと感じるモトリング感を後述するような加工により得やすくすることができる。一方、人工皮革の立毛長の変動係数を好ましくは100%以下、より好ましくは80%以下とすることで、立毛に緻密感が得られ、タッチ感に優れた人工皮革を得ることができる。本発明の人工皮革の立毛長の変動係数は、後述の起毛処理において、起毛処理の前に付与するシリコーン系滑剤の量をシート状物の質量に対して適宜調整し、多段バフィングを適用してバフィング処理を行うことが好ましく、バフロール/シート速度比を変更することで調整できる。
【0076】
本発明において、人工皮革の立毛長および変動係数は以下の方法により算出されるものとする。
(1) リントブラシ等を用いて人工皮革の立毛を逆立てた状態で人工皮革の長手方向に垂直な面の断面方向に厚さ1mmの薄切片を作製する。
(2) 走査型電子顕微鏡(SEM、例えば、株式会社キーエンス製「VHX-D500/D510」など)にて人工皮革の断面を90倍で撮影する。
(3) 撮影したSEM画像において、図1に示す人工皮革の断面の模式図に従って、人工皮革の底面(図1中L)に対して平行な線(図1中L)上に200μm間隔で垂線を引く。
(4)立毛部と後述する基体部の境界線(L)上に点P~P10をマークする。
(5)点P~P10からそれぞれ立毛部方向に垂線を引き、立毛層の先端と交わる点Q~Q10をマークする。
(6)点PとQの距離Rとし、同様にR10まで求め、その平均値(算術平均)および変動係数を算出する。
【0077】
ここで、本発明の人工皮革は、繊維絡合体に高分子弾性体が含浸されており、繊維絡合体の少なくとも一方の表面側に、一定の立毛長を有する立毛部(図中2)とそれ以外の部分である基体部(図中3)とを有する。なお、図1は平均立毛長の測定方法を説明するためのものであり、図1には本願発明に係る非立毛被覆部分を図示していない。
【0078】
本発明の人工皮革において、0.10mm以上0.60mm以下の非立毛被覆部分の単位面積当たりの個数(以下、非立毛被覆部分の個数と略記することがある。)は、20個/cm以上50個/cm以下である。ここでいう非立毛被覆部分とは、人工皮革表面に露出した高分子弾性体、立毛が疎な部分から覗く下地の高分子弾性体、および立毛が疎な部分から覗く下地の繊維絡合体を指す。前記非立毛被覆部分の個数を20個/cm以上、より好ましくは25個/cm以上とすることにより、立毛部と非立毛被覆部分のコントラストによる異色効果が得やすくなり、優れたメランジ調の外観を得ることができる。一方、前記非立毛被覆部分の個数を、50個/cm以下、より好ましくは40個/cm以下とすることで、タッチ感に優れた人工皮革とすることができる。本発明の人工皮革において、非立毛被覆部分の個数は、前述の人工皮革における高分子弾性体の含有量を前述の範囲内とし、後述の起毛処理において、起毛処理の前にシリコーン系滑剤をシート状物の質量に対して後述の量付与し、多段バフィングを適用してバフィング処理を行うことが好ましく、起毛面における研削厚み、使用するサンドペーパーやロールサンダーの粒度、およびバフロール/シート速度比を後述の範囲内とすることで上記の範囲内とすることができる。
【0079】
本発明の人工皮革において、非立毛被覆部分の前記人工皮革表面に占める割合(以下、非立毛被覆部分の割合と略記することがある。)は、1.0%以上30.0%以下であることが好ましい。当該割合を、好ましくは1.0%以上、より好ましくは2.0%以上とすることで、立毛部と非立毛被覆部分のコントラストによる異色効果が得やすくなり、優れたメランジ調の外観の人工皮革を得ることができる。一方、当該割合を、好ましくは30.0%以下、より好ましくは15%以下とすることで、タッチ感に優れた人工皮革とすることができる。なお、下記の条件のとおり、非立毛被覆部分の前記人工皮革表面に占める割合においては、300μm未満の独立した非立毛被覆部分は計上されない。本発明の人工皮革において、非立毛被覆部分の前記人工皮革表面に占める割合は、前述の人工皮革における高分子弾性体の含有量を変化させ、後述の起毛処理において、起毛面における研削厚み、使用するサンドペーパーやロールサンダーの粒度、およびバフロール/シート速度比を変化させることで調整できる。
【0080】
本発明において、非立毛被覆部分の前記人工皮革表面に占める割合と0.10mm以上0.60mm以下の非立毛被覆部分の単位面積当たりの個数は以下の方法により算出されるものとする。
(1) 人工皮革から15cm×15cmの試験片を10枚採取する。
(2) リントブラシ等を用いて試験片の立毛を寝かせる。
(3) デジタルマイクロスコープ(例えば、株式会社キーエンス製「VHX-5000」など)にて、落射照明(上記の株式会社キーエンス製「VHX-5000」であれば、出力設定範囲0~255に対して255に設定する)を試験片に照射しながら、試験片の表面を20倍で撮影し、得られたマイクロスコープ画像を、観察像の視野が12.9mm×17.2mm(面積221.5mm)になるようトリミングし、解像度が130dpiとなるよう、この画像をJPG形式で保存する。
(4) 画像分析ソフトウェア「ImageJ」を用いて、(3)で得られた画像に下記の通り閾値を設定して2値化処理する。人工皮革表面の明度(L値)が40未満である場合、閾値を90に設定して2値化処理する。人工皮革表面の明度(L値)が40以上50未満である場合、閾値を105に設定して2値化処理する。人工皮革表面の明度(L値)が50以上70以下である場合、閾値を120に設定して2値化処理する。なお、2値化処理する前に、(3)で得られた画像の縮尺に合わせて、画像分析ソフトウェア「ImageJ」にて縮尺の設定を行う。
(5) (4)で得られた画像に、縮尺の表示がある場合、背景色(白もしくは黒)に合わせて塗り潰しする。
(6) 画像分析ソフトウェア「ImageJ」の「Analyze Particles」の機能を用いて、以下の条件で(5)で得られた画像中に存在する黒色の部分を前記の非立毛被覆部分、すなわち、人工皮革表面に露出した高分子弾性体、立毛が疎な部分から覗く下地の高分子弾性体、および、立毛が疎な部分から覗く下地の繊維絡合体であるとみなし、その個数と面積を解析する。
Size:300-300000μm
真円度:0-1の条件
show:Masks
Exclude on edges。
(7) (6)の解析で得られた非立毛被覆部分の個数と1つ1つの面積および、観察像の視野面積から、非立毛被覆部分の前記人工皮革表面に占める割合と0.10mm以上0.60mm以下の非立毛被覆部分の単位面積当たりの個数を求める。
非立毛被覆部分の前記人工皮革表面に占める割合(%)=100×(非立毛被覆部分の面積の総和)/(観察像の視野面積)
0.10mm以上0.60mm以下の非立毛被覆部分の単位面積当たりの個数(個/cm)=(0.10mm以上0.60mm以下の非立毛被覆部分の個数)/(観察像の視野面積) 。
【0081】
画像分析システムとしては、前記の画像分析ソフトウェア「ImageJ」が例示されるが、画像分析システムは、規定の画素の面積比率を計算する機能を有する画像処理ソフトからなるものであれば、画像分析ソフトウェア「ImageJ」に限らない。なお、画像分析ソフトウェア「「ImageJ」が通用のソフトウェアであり、アメリカ国立衛生研究所により開発された。該画像処理ソフトウェア「ImageJ」は、取り込んだ画像に対し、必要な領域を特定し、画素分析を行う機能を有している。
【0082】
[人工皮革の製造方法]
さらに、本発明の人工皮革の製造方法の例について説明する。
【0083】
(極細繊維発現型繊維を主構成成分とする繊維絡合体を製造する工程)
まず、極細繊維発現型繊維を製造する。本発明において、極細繊維発現型繊維としては、溶剤溶解性の異なる熱可塑性樹脂を海部(易溶解性ポリマー)と島部(難溶解性ポリマー)とし、前記の海部を、溶剤などを用いて溶解除去することによって島部を極細繊維とする海島型複合繊維を用いる。海島型複合繊維を用いることによって、海部を除去する際に島部間、すなわち、繊維束内部の極細繊維間に適度な空隙を付与することができるため、人工皮革の風合いや表面品位の観点から好ましい。
【0084】
海島型複合構造を有する極細繊維発現型繊維を紡糸する方法としては、海島型複合繊維用口金を用い、海部と島部を相互配列して紡糸する高分子相互配列体を用いる方式が、均一な単繊維繊度の極細繊維が得られるという観点から好ましい。
【0085】
海島型複合繊維の海部としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナトリウムスルホイソフタル酸やポリエチレングリコールなどを共重合した共重合ポリエステル、およびポリ乳酸などを用いることができる。製糸性や易溶出性等の観点から、ポリスチレンや共重合ポリエステルが好ましく用いられる。
【0086】
本発明の人工皮革の製造方法において、海島型複合繊維を用いる場合には、その島部の引張強度(極細繊維の引張強度)が、2.2cN/dtex以上である海島型複合繊維を用いることが好ましい。島部の引張強度が2.2cN/dtex以上、より好ましくは2.5cN/dtex以上、さらに好ましくは3.0cN/dtex以上であることによって、人工皮革の耐摩耗性が向上するとともに繊維の脱落に伴う摩擦堅牢度の低下を抑制することができる。
【0087】
本発明において、海島型複合繊維の島部の引張強度(極細繊維の引張強度)は以下の方法により算出されるものとする。
(1) 長さ20cmの海島型複合繊維を10本束ねる。
(2) (1)の試料から海部を溶解除去したのちに、風乾する。
(3) JIS L1013:2010「化学繊維フィラメント糸試験方法」の「8.5 引張強さ及び伸び率」の「8.5.1 標準時試験」にて、つかみ長さ5cm、引張速度5cm/分、荷重2Nの条件にて10回試験する(N=10)。
(4) (3)で得られた試験結果の算術平均値(cN/dtex)を小数点以下第二位で四捨五入して得られる値を、海島型複合繊維の島部の引張強度、そして、極細繊維の引張強度とする。
【0088】
そして、本工程では、紡出された前記の極細繊維発現型繊維を開繊したのちにクロスラッパー等により繊維ウェブとし、絡合させることにより不織布を得る。繊維ウェブを絡合させ不織布を得る方法としては、ニードルパンチ処理やウォータージェットパンチ処理等を用いることができる。
【0089】
不織布の形態としては、前述のように短繊維不織布でも長繊維不織布でも用いることができるが、短繊維不織布であると、人工皮革の厚さ方向を向く繊維が長繊維不織布に比べて多くなり、起毛した際の人工皮革の表面に高い緻密感を得ることができる。
【0090】
不織布として短繊維不織布とする場合には、得られた極細繊維発現型繊維に、好ましくは捲縮加工を施し、所定長にカット加工して原綿を得たのちに、開繊、積層、絡合させることで短繊維不織布を得る。捲縮加工やカット加工は、公知の方法を用いることができる。
【0091】
さらに、人工皮革が織物を含む場合には、得られた不織布と織物を積層し、そして絡合一体化させる。不織布と織物の絡合一体化には、不織布の片面もしくは両面に織物を積層するか、あるいは複数枚の不織布ウェブの間に織物を挟んだ後に、ニードルパンチ処理やウォータージェットパンチ処理等によって不織布と織物の繊維同士を絡ませることができる。
【0092】
ニードルパンチ処理あるいはウォータージェットパンチ処理後の極細繊維発現型繊維からなる不織布の見掛け密度は、0.15g/cm以上0.45g/cm以下であることが好ましい。見掛け密度を好ましくは0.15g/cm以上とすることにより、人工皮革が十分な形態安定性と寸法安定性が得られる。一方、見掛け密度を好ましくは0.45g/cm以下とすることにより、高分子弾性体を付与するための十分な空間を維持することができる。
【0093】
前記の不織布には、繊維の緻密感向上のために、温水やスチームによる熱収縮処理を施すことも好ましい態様である。
【0094】
次に、前記の不織布に水溶性樹脂の水溶液を含浸し、乾燥することにより水溶性樹脂を付与することもできる。不織布に水溶性樹脂を付与することにより、繊維が固定されて寸法安定性が向上される。
【0095】
(極細繊維発現型繊維から極細繊維を形成する工程)
本工程では、得られた繊維絡合体を溶剤で処理して、平均単繊維直径が0.01μm以上10.0μm以下の極細繊維を発現させる。
【0096】
極細繊維の発現処理は、溶剤中に海島型複合繊維からなる不織布を浸漬させて、海島型複合繊維の海部を溶解除去することなどにより行うことができる。
【0097】
極細繊維発現型繊維が海島型複合繊維の場合、海部を溶解除去する溶剤としては、海部がポリエチレン、ポリプロピレンまたはポリスチレンの場合には、トルエンやトリクロロエチレンなどの有機溶剤を用いることができる。また、海部が共重合ポリエステルやポリ乳酸の場合には、水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液を用いることができる。また、海部が水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系樹脂の場合には、熱水を用いることができる。
【0098】
(高分子弾性体を付与する工程)
本工程では、極細繊維または極細繊維発現型繊維を主構成成分とする繊維絡合体に高分子弾性体の前駆体の溶液を含浸し、固化して、高分子弾性体を付与する。ここで、高分子弾性体の前駆体とは、後述する凝固や固化などの手段によって高分子弾性体となる前駆体(以下、単に「前駆体」と略記することがある)のことを言う。本発明の人工皮革の構成要素として含まれる高分子弾性体は、ポリウレタン樹脂であるが、ポリウレタン樹脂の各反応成分、すなわち、ポリマージオール、有機ジイソシアネート、鎖伸長剤などの混合物が高分子弾性体の前駆体である。
【0099】
本発明において、さらに濃色で均一な発色性を両立することを目的として、黒色顔料を含む高分子弾性体を不織布に固定することもできる。その方法としては、黒色顔料を含む高分子弾性体の前駆体の溶液を不織布(繊維絡合体)に含浸させた後、湿式凝固または乾式凝固する方法があり、使用する高分子弾性体の種類により適宜これらの方法を選択することができる。使用する黒色顔料としては、一次粒子径の数平均が0.01μm以上0.05μm以下であり、変動係数(CV)が0.1%以上30%以下であることが好ましい。一次粒子径が上記の範囲内の黒色顔料を使用することで高分子弾性体中の粒子径(二次粒子径)と変動係数(CV)を適切な範囲とすることができる。
【0100】
高分子弾性体としてポリウレタンを繊維絡合体に付与させる際に用いられる溶媒としては、N,N’-ジメチルホルムアミドやジメチルスルホキシド等が好ましく用いられる。また、ポリウレタンを水中にエマルジョンとして分散させた水分散型ポリウレタン液を用いてもよい。
【0101】
なお、繊維絡合体への高分子弾性体の付与は、極細繊維発現型繊維から極細繊維を発生させる前に付与してもよいし、極細繊維発現型繊維から極細繊維を発生させる後に付与してもよい。
【0102】
(仕上げ工程)
本工程においては、前記の工程を終えて得られたシートを研削する工程を行う。
【0103】
この研削に先立って、高分子弾性体が付与されてなるシートを、製造効率の観点から、厚み方向に半裁して2枚のシートとすることも好ましい態様である。
【0104】
そして、前記の高分子弾性体が付与されたシートあるいは前記の半裁された高分子弾性体が付与されてなるシートの、半裁した側の表面に、起毛処理を施すことが好ましい。起毛処理は、サンドペーパーやロールサンダーなどを用いて、研削する方法などにより施すことができる。起毛処理は、シートの片側表面のみに施しても、両面に施すこともできる。
【0105】
起毛処理を施す場合には、起毛処理の前にシリコーンエマルジョンなどのシリコーン系滑剤をシート状物の表面へ付与することができる。人工皮革の立毛長の変動係数を30%以上100%以下とし、メランジ効果を得るためには、シリコーン系滑剤はシート状物の質量に対し0.01質量%以上1.0質量%以下付与することが好ましい。一般的に、後述する立毛層の形成工程時に高分子弾性体と極細繊維の離型性を向上し、極細繊維を分散させ、均一な立毛層を形成するためには、シリコーン系滑剤を0.01質量%以上3.0質量%付与することが好ましい様態である。その中でも、シリコーン系滑剤の付与量を1.0質量%以下とすることで、後述する立毛層の形成工程時に立毛長のバラツキを程よく制御することができる。シリコーン系滑剤は、例えば、東レコーテックス社製「SM7036EX」などを用いることができる。
【0106】
シリコーン系滑剤の付与方法は、シリコーンオイル液にシートを含浸する方法や、スプレーによって噴射して付与する方法があるが、より均一に付与するためにはシリコーンオイル液にシートを含浸して付与する方法が好ましい。また、シリコーンオイルは高分子弾性体の凝固後、すぐに付与することが好ましい。
【0107】
また、起毛処理の前に帯電防止剤を付与することで、研削によってシート状物から発生した研削粉がサンドペーパー上に堆積しにくくなる。
【0108】
起毛面における研削厚みは、100μm以上400μm以下であることが好ましい。ここでいう研削厚みとは、研削前後における立毛部を除いた厚みの差分の、幅方向の平均値のことである。研削厚みを100μm以上好ましくは150μm以上とすることで、表層に多く存在する高分子弾性体から極細繊維を掘り起こすことができ、分散した立毛を発現させることが可能であるため、優れたタッチを有する人工皮革となる。一方、400μm以上研削すると、表層部の高分子弾性体も除去されてしまう。研削厚みを400μm以下、好ましくは350μm以下とすることで、表層部に高分子弾性体を多く残すことができるため、表面から高分子弾性体が露出しやすくなり、染色した際に優れたメランジ調の外観を得ることができる。さらに、表層に高分子弾性体が多く残るため、耐摩耗性に優れた人工皮革となる。
【0109】
使用するサンドペーパーやロールサンダーの粒度は、JIS R6610:2000「研磨布用研磨材の粒度」で規定の100番以上400番以下の範囲とすることが好ましい。一般的に、サンドペーパーやロールサンダーの粒度が粗い程、繊維は切断されやすくなる傾向であり、立毛長は長くなる。つまり、100番以上、好ましくは150番以上の粒度のサンドペーパーなどを用いることで、人工皮革表面の緻密感が向上し良好なタッチを達成できる。一方、400番以下、好ましくは300番以下のサンドペーパーなどを用いることで、立毛感を感じられる触感の人工皮革を得ることができる。
【0110】
シートの研削において、シートが受ける研削負荷を低減するためには、バフロール速度は、200~1500m/分であることが好ましく、より好ましくは300~1000m/分である。バフロール速度は、バフロールの回転速度と周長から算出される周速のことである。
【0111】
シートの研削において、シートが受ける研削負荷を低減するためには、バフィング処理回数を少なくとも2回以上、好ましくは3回以上の多段バフィングを適用することが好ましく、さらに各段に使用するサンドペーパーの番手を段階的に細かくするか、または少なくとも同じにすることが好ましい様態である。
【0112】
バフロールに供給するシートの速度は、生産性の点から、0.1m/分以上であることが好ましく、より好ましくは1.0m/分以上である。立毛状態の安定性からは20m/分以下が好ましく、より好ましくは10m/分以下、さらに好ましくは8m/分以下である。
【0113】
人工皮革の立毛長の変動係数を30%以上100%以下とするためには、バフロール/シート速度比を、40以上200以下とすることが好ましい態様である。バフロール/シート速度比とは、バフロール速度を、バフロールに供給するシートの速度で除した値である。バフロール/シート速度比を40以上とすることで、人工皮革表面の研削状態を細かくし、良好なタッチ感を効果的に得ることができる。一方、バフロール/シート速度比を200以下とすることで、人工皮革表面の研削状態と立毛長に程良い不均一性を与え、良好なメランジ感を効果的に得ることができる。
【0114】
(染色工程)
さらに、上記のシート状物に対し、染色処理を施して人工皮革とすることが好ましい。この染色処理としては、例えば、ジッガー染色機や液流染色機を用いた液流染色処理、連続染色機を用いたサーモゾル染色処理等の浸染処理、あるいはローラー捺染、スクリーン捺染、インクジェット方式捺染、昇華捺染および真空昇華捺染等による立毛面への捺染処理等を用いることができる。中でも、染液中でのシートの揉み効果により、メランジ感が強調されることや、モトリング感および柔軟な風合いが得られること等から、品質や品位面から液流染色機を用いることが好ましい。液流染色機での染色において、シートの反始と反末とはループ状に結反されており、シートを染液と同時にノズルから射出しながら染色機内を循環させる。そうすることで、シートに揉み効果を与えながら染液をシート内部まで浸透させて染色を行うことができる。
【0115】
液流染色機での揉み処理条件としては、ノズル圧および浴比を調整すると良い。ここで、ノズル圧とは、染色時にノズルから染液とシートを射出する際にノズルにかかる圧力のことである。また、浴比とは、染色機内の染液の質量に対するシートの質量の比のことである。
【0116】
ノズル圧は5000Pa以上30000Pa以下であることが好ましい。ノズル圧を5000Pa以上、より好ましくは24000Pa以上とすることで、生地への揉み効果が高くなり、人工皮革表面の極細繊維がさばけやすくなり、立毛部と非立毛被覆部分のコントラストによる異色効果が得やすくなり、より優れたメランジ調の外観を得ることができる。一方で、ノズル圧を30000Pa以下とすることで、揉みによるシート中の高分子弾性体の脱落によるシートの損傷や物性低下を防ぐことができる。
【0117】
浴比は1/40以上1/10以下であることが好ましい。浴比を1/40以上、より好ましくは1/20以上とすることで、染液に対してシートが多く詰め込まれ、染色機内でシートを循環させる際にシートどうしが強く擦れ合い、人工皮革表面の極細繊維がさばけやすくなり、立毛部と非立毛被覆部分のコントラストによる異色効果が得やすくなり、優れたメランジ調の外観を得ることができる。一方で、浴比を1/10以下とすることで、染液がシート内部まで十分に浸透することができ、極細繊維に染めムラを生じさせることなく染色することができる。特に、浴比を1/20以上1/10以下とすることで、染色機にシートが多量に詰め込まれ、起毛処理で生じた立毛が圧縮され、立毛の方向が部分的に不均一となり、独特のモトリングを形成させることができる。
【0118】
また、必要に応じて、染色後に各種の樹脂仕上げ加工を施すことができる。
【0119】
上記のシート状物には、必要に応じてその表面に意匠性を施すことができる。例えば、パーフォレーション等の穴開け加工、エンボス加工、レーザー加工、ピンソニック加工およびプリント加工等の後加工処理を施すこともできる。
【0120】
以上に例示された製造方法によって得られる本発明の人工皮革は、メランジ調の外観と良好なタッチ感を有し、モトリングの強さも適宜調整でき、さらに優れた耐摩耗性を併せ持つことから、家具、椅子および車両内装材から衣料用途まで幅広く用いることができるが、特にその優れた耐光堅牢度から車両内装材に好適に用いられる。
【実施例0121】
次に、実施例を用いて本発明の人工皮革についてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。次に、実施例で用いた評価法とその測定条件について説明する。ただし、各物性の測定において、特段の記載がないものは、前記の方法に基づいて測定を行ったものである。
【0122】
[測定方法および評価用加工方法]
(1)極細繊維の平均単繊維直径(μm)
極細繊維の平均単繊維直径の測定においては、走査型電子顕微鏡(株式会社キーエンス製VHX-D500/D510)型を用いて極細繊維を観察し、平均単繊維直径を算出した。
【0123】
(2)極細繊維の引張強度(cN/dtex)
極細繊維の引張強度の測定においては、テンシロン万能材料試験機(株式会社エー・アンド・デイ製RTC-1350A)を用いて、前記の方法で測定・算出した。
【0124】
(3)黒色顔料の粒子径の平均および変動係数(CV)
シート状物の長手方向に垂直な面の断面方向の超薄切片は、ウルトラミクロトーム(Sorvall社製MT6000型)を用いて作製した。得られた切片は、透過型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製H7700型)を用いて観察・撮影した。得られた写真から、黒色顔料の粒子径を、画像解析ソフト(三谷商事株式会社製“WinROOF”)を用いて測定した。
【0125】
(4)人工皮革の摩擦堅牢度
JIS L0849:2013「摩擦に対する染色堅ろう度試験方法」の「9.1 摩擦試験機I型(クロックメータ)法」による摩擦試験後のサンプルの汚染度合いをJIS L0805:2005「汚染用グレースケール」に規定の汚染用グレースケールで判定し、4級以上(L表色系による色差ΔE abが4.5±0.3以下)を合格とした。
【0126】
(5)人工皮革の耐光堅牢度
JIS L0843:2006「キセノンアーク灯光に対する染色堅ろう度試験方法」の「7.2 露光方法 a) 第1露光法」によるキセノンアーク灯光照射後サンプルの変退色度合いをJIS L0804:2004「変退色用グレースケール」に規定の変退色用グレースケールを用いて級判定し、4級以上(L表色系による色差ΔE abが1.7±0.3以下)を合格とした。
【0127】
(6)人工皮革の耐摩耗性(mg)
摩耗試験器としてJames H. Heal & Co.Ltd.製「Model 406」を、標準摩擦布として同社の「Abrastive CLOTH SM25」を用いてJIS L1096:2010「織物及び編物の生地試験方法」の「8.19 摩耗強さ及び摩擦変色性」の「8.19.5 E法(マーチンデール法)」による耐摩耗試験を行い、人工皮革の摩耗減量が10mg以下であった人工皮革を合格とした。
【0128】
(7)人工皮革の明度(L値)
分光測色計を用いて、JIS Z8781-4:2013「測色-第4部:CIE1976L色空間」の「3.3 CIE1976 明度指数」で規定されるL値を計測した。計測はコニカミノルタ株式会社製「CM-M6」によって、10回測定し、その平均を人工皮革のL値とした。
【0129】
(8)人工皮革の引張強さ(N/cm)
人工皮革の任意の方向について2cm×20cmの試験片を2枚採取し、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.3.1 引張強さ及び伸び率(ISO法)」で規定される引張強さ(N/cm)を測定した。測定は2枚の平均を人工皮革の引張強さとした。なお、測定には、シングルコラム卓上型試験機(インストロン社製3343)を用いた。
【0130】
(9)0.10mm以上0.60mm以下の非立毛被覆部分の単位面積当たりの個数(個/cm)、非立毛被覆部分の前記人工皮革表面に占める割合(%)
0.10mm以上0.60mm以下の非立毛被覆部分の単位面積当たりの個数および、非立毛被覆部分の前記人工皮革表面に占める割合の測定においては、マイクロスコープとして、株式会社キーエンス製「VHX-5000」を、画像解析ソフトとして、「ImageJ」を用いた。なお、デジタルマイクロスコープの落射照明は、出力設定範囲0~255に対して255に設定した。
【0131】
(10)人工皮革の立毛長(μm)、立毛長の変動係数(%)
人工皮革の立毛長の測定および、立毛長の変動係数の算出において、走査型電子顕微鏡として、株式会社キーエンス製「VHX-D500/D510」を用いた。
【0132】
(11)メランジ感
人工皮革の官能評価に熟練した者11名の官能検査により評価した。下記のように評価し、評価した人数が最も多いレベルを人工皮革のメランジ感とした。評価した人数が最も多いレベルが同数となった場合は、選択肢を同数であったレベルに限定して再度対象者11名での官能検査を実施し、これを最終的な評価が決定するまで繰り返した。本発明においてAおよびBを合格レベルとした。
A:非立毛被覆部分が人工皮革表面に万遍なく分布し、かつ、立毛部と非立毛被覆部分に十分な色彩コントラストが感じられ、良好なメランジ感である。
B:非立毛被覆部分が人工皮革表面に万遍なく分布し、かつ、立毛部と非立毛被覆部分にわずかな色彩コントラストが感じられ、良好なメランジ感である。
C:立毛部と非立毛被覆部分に色彩コントラストが全く感じられず、あるいは、立毛部と非立毛被覆部分が人工皮革表面に均一に分布しておらず、不良なメランジ感である。
【0133】
(12)タッチ感
人工皮革の官能評価に熟練した者11名の官能検査により評価した。下記のように評価し、評価した人数が最も多いレベルを人工皮革のタッチ感とした。評価した人数が最も多いレベルが同数となった場合は、選択肢を同数であったレベルに限定して再度対象者11名での官能検査を実施し、これを最終的な評価が決定するまで繰り返した。本発明においてAおよびBを合格レベルとした。
A:十分な立毛感が感じられ良好なタッチ感である。
B:わずかに立毛感が感じられ良好なタッチ感である。
C:立毛感が感じづらく不良なタッチ感である。
D:立毛感が全く感じられず不良なタッチ感である。
【0134】
(13)モトリング感
人工皮革の官能評価に熟練した者11名の官能検査により評価した。下記のように評価し、評価した人数が最も多いレベルを人工皮革のモトリング感とした。下記のうち「1」を、モトリング感として自然であり好ましいと熟練者が感じるレベルとして評価した。評価した人数が最も多いレベルが同数となった場合は、選択肢を同数であったレベルに限定して再度対象者11名での官能検査を実施し、これを最終的な評価が決定するまで繰り返した。
0:モトリングは見えない。
1:コントラストが弱いモトリングが人工皮革表面全体に分布している。
2:コントラストが強いモトリングが人工皮革表面全体に分布している。
【0135】
(14)表面状態
人工皮革の官能評価に熟練した者11名の官能検査により評価した。下記のように評価し、評価した人数が最も多いレベルを表面状態とした。評価した人数が最も多いレベルが同数となった場合は、選択肢を同数であったレベルに限定して再度対象者11名での官能検査を実施し、これを最終的な評価が決定するまで繰り返した。
○:人工皮革の染めムラ、下地の高分子弾性体の過度な露出、およびシートの損傷のいずれも無く、良好な表面状態である。
×:人工皮革の染めムラ、下地の高分子弾性体の過度な露出、およびシートの損傷のいずれかが見られ、不良な表面状態である。
【0136】
[実施例1]
(原綿を製造する工程)
島成分と海成分からなる海島型複合構造を有する極細繊維発現型繊維からなる未延伸糸を、以下の条件で溶融紡糸した。
・島成分: 固有粘度(IV値)が0.73のポリエチレンテレフタレート
・海成分: MFR(メルトフローレート、ISO 1133:1997に規定の試験方法で測定)が65g/10分のポリスチレン
・口金: 島数が16島/ホールの海島型複合繊維用口金
・紡糸温度: 285℃
・島部/海部 質量比率: 80/20
・吐出量: 1.2g/(分・ホール)
・紡糸速度: 1100m/分。
【0137】
次いで、90℃とした紡糸用油剤液浴中で上記未延伸糸を2.7倍に延伸した。そして、押し込み型捲縮機を用いて捲縮加工処理した後、51mmの長さにカットし、単繊維繊度が4.2dtexの海島型複合繊維の原綿を得た。この海島型複合繊維から得られる極細繊維の平均単繊維直径は4.4μm、極細繊維の強度は3.7cN/dtexであった。
【0138】
(繊維質基材を製造する工程)
上記の原綿を用いて、カードおよびクロスラッパー工程を経て積層ウェブを形成した。そして、2500本/cmのパンチ本数でニードルパンチ処理して、厚みが2.4mm、目付が549g/mで、見掛け密度が0.233g/cmの繊維絡合シートを得た。
【0139】
(水溶性樹脂を付与する工程)
上記の繊維絡合シートを、96℃の温度の熱水で収縮させた後、この繊維絡合シートに対して、ポリビニルアルコール(以下、PVAと略記することがある)の質量濃度が12%の水溶液を含浸させ、温度130℃の熱風で10分間乾燥することにより、繊維絡合シートの質量に対するPVA質量が26質量%のシート状物を得た。
【0140】
(極細繊維発現型繊維から極細繊維を形成する工程)
前の工程で得られたシート状物を、トリクロロエチレン中に浸漬して海成分を溶解除去し、ポリエチレンテレフタレートからなる平均単繊維直径が4.4μmの極細繊維からなる繊維絡合シートを得た。
【0141】
(高分子弾性体を付与する工程)
ジメチルホルムアミド(DMF)に、ポリウレタンを溶解させ、黒色顔料としてカーボンブラック(一次粒子径の平均:0.02μm、粒子径の変動係数(CV):20%)を分散させた。ここで、ポリウレタンに対して、カーボンブラックが1.5質量%となるようにカーボンブラックの配合量を調整した。また、カーボンブラックを含むポリウレタンからなる固形分の濃度が13%となるように調製し、カーボンブラック入りポリウレタンのDMF溶液とした。次いで上記の繊維絡合シートを、上記のカーボンブラック入りポリウレタンのDMF溶液に浸漬した。続いて、浸漬後の繊維絡合シートをDMFと水の混合液中に移し、ポリウレタンを凝固させた。その後、ポリウレタンが凝固したシート中のPVAおよび残存するDMFを熱水で除去した。次いで、PVAおよびDMFが除去されたシートに濃度1.0質量%に調整したシリコーンオイルエマルジョン液を含浸させ、繊維とポリウレタンの合計質量に対し、シリコーン系滑剤付与量が0.5質量%になるように付与した。続いて、110℃の温度の熱風で10分間乾燥することにより、繊維絡合シート質量に対しポリウレタン質量が33質量%のシート状物を得た。
【0142】
(仕上げ工程)
得られたシート状物を厚みがそれぞれ1/2ずつとなるように厚み方向に半裁した。続いて、バフロールに供給するシートの速度を15m/minとし、バフロール速度を1000m/minとし、サンドペーパー番手180番のエンドレスサンドペーパーを用い、表1のバフィング条件で、半裁面の表層部を研削厚み300μmで研削し、立毛面を形成させ、厚み0.60mmのシート状物を得た。
【0143】
(染色工程)
さらに、得られたシート状物を、分散染料を用いて液流染色機を用いて、表2に示すとおり、ノズル圧28000Pa、浴比1/30、また120℃の温度条件下で、収縮処理と染色を同時に行った後に、乾燥機で乾燥を行い、人工皮革を得た。
【0144】
得られた人工皮革は、非立毛被覆部分が人工皮革表面に万遍なく分布し、かつ、立毛部と非立毛被覆部分に十分な色彩コントラストが感じられ、良好なメランジ感を有していた。また、十分な立毛感が感じられ良好なタッチ感であった。また、人工皮革の染めムラ、下地の高分子弾性体の過度な露出、およびシートの損傷のいずれも無く、良好な表面状態であった。また、モトリングは見えなかった。結果を表3および4に示す。
【0145】
[実施例2]
仕上げ工程において、起毛面における研削厚みを200μmとしたこと以外は実施例1と同様にして、人工皮革を得た。
【0146】
得られた人工皮革は、非立毛被覆部分が人工皮革表面に万遍なく分布し、かつ、立毛部と非立毛被覆部分に十分な色彩コントラストが感じられ、良好なメランジ感を有していた。また、わずかに立毛感が感じられ良好なタッチ感であった。また、人工皮革の染めムラ、下地の高分子弾性体の過度な露出、およびシートの損傷のいずれも無く、良好な表面状態であった。また、モトリングは見えなかった。結果を表3および4に示す。
【0147】
[実施例3]
高分子弾性体を付与する工程において、繊維絡合シート質量に対しポリウレタン質量が45質量%となるように調整したこと以外は実施例1と同様にして、人工皮革を得た。
【0148】
得られた人工皮革は、非立毛被覆部分が人工皮革表面に万遍なく分布し、かつ、立毛部と非立毛被覆部分に十分な色彩コントラストが感じられ、良好なメランジ感を有していた。また、十分な立毛感が感じられ良好なタッチ感であった。また、人工皮革の染めムラ、下地の高分子弾性体の過度な露出、およびシートの損傷のいずれも無く、良好な表面状態であった。また、モトリングは見えなかった。結果を表3および4に示す。
【0149】
[実施例4]
高分子弾性体を付与する工程において、繊維絡合シート質量に対しポリウレタン質量が45質量%となるように調整したことと、仕上げ工程にて、サンドペーパー番手100番のエンドレスサンドペーパーを用いたこと以外は実施例1と同様にして、人工皮革を得た。
【0150】
得られた人工皮革は、非立毛被覆部分が人工皮革表面に万遍なく分布し、かつ、立毛部と非立毛被覆部分に十分な色彩コントラストが感じられ、良好なメランジ感を有していた。また、十分な立毛感が感じられ良好なタッチ感であった。また、人工皮革の染めムラ、下地の高分子弾性体の過度な露出、およびシートの損傷のいずれも無く、良好な表面状態であった。また、コントラストが弱いモトリングが人工皮革表面全体に分布していた。結果を表3および4に示す。
【0151】
[実施例5]
高分子弾性体を付与する工程において、繊維絡合シート質量に対しポリウレタン質量が45質量%となるように調整したことと、仕上げ工程にて、バフロールに供給するシートの速度を5m/minとしたこと以外は実施例1と同様にして、人工皮革を得た。
【0152】
得られた人工皮革は、非立毛被覆部分が人工皮革表面に万遍なく分布し、かつ、立毛部と非立毛被覆部分に十分な色彩コントラストが感じられ、良好なメランジ感を有していた。また、十分な立毛感が感じられ良好なタッチ感であった。また、人工皮革の染めムラ、下地の高分子弾性体の過度な露出、およびシートの損傷のいずれも無く、良好な表面状態であった。また、モトリングは見えなかった。結果を表3および4に示す。
【0153】
[実施例6]
高分子弾性体を付与する工程において、繊維絡合シート質量に対しポリウレタン質量が45質量%となるように調整したことと、仕上げ工程にて、サンドペーパー番手100番のエンドレスサンドペーパーを用い、起毛面における研削厚みを250μmとしたこと以外は実施例1と同様にして、人工皮革を得た。
【0154】
得られた人工皮革は、非立毛被覆部分が人工皮革表面に万遍なく分布し、かつ、立毛部と非立毛被覆部分に十分な色彩コントラストが感じられ、良好なメランジ感を有していた。また、十分な立毛感が感じられ良好なタッチ感であった。また、人工皮革の染めムラ、下地の高分子弾性体の過度な露出、およびシートの損傷のいずれも無く、良好な表面状態であった。また、コントラストが弱いモトリングが人工皮革表面全体に分布していた。結果を表3および4に示す。
【0155】
[実施例7]
原綿を製造する工程において、島成分と海成分からなる海島型複合構造を有する極細繊維発現型繊維からなる未延伸糸を、以下の条件で溶融紡糸した。
・島成分:固有粘度(IV値)が0.73のポリエチレンテレフタレート
・海成分: MFR(メルトフローレート、ISO 1133:1997に規定の試験方法で測定)が65g/10分のポリスチレン
・口金: 島数が16島/ホールの海島型複合繊維用口金
・紡糸温度: 285℃
・島部/海部 質量比率: 55/45
・吐出量: 1.0g/(分・ホール)
・紡糸速度: 1100m/分。
【0156】
次いで、90℃とした紡糸用油剤液浴中で上記未延伸糸を3.4倍に延伸した。そして、押し込み型捲縮機を用いて捲縮加工処理した後、51mmの長さにカットし、海島型複合繊維の原綿を得た。
【0157】
また、高分子弾性体を付与する工程において、繊維絡合シート質量に対しポリウレタン質量が45質量%となるように調整した。
【0158】
上記以外は実施例1と同様にして、人工皮革を得た。
【0159】
得られた人工皮革は、非立毛被覆部分が人工皮革表面に万遍なく分布し、かつ、立毛部と非立毛被覆部分に十分な色彩コントラストが感じられ、良好なメランジ感を有していた。また、十分な立毛感が感じられ良好なタッチ感であった。また、人工皮革の染めムラ、下地の高分子弾性体の過度な露出および、シートの損傷のいずれも無く、良好な表面状態であった。また、モトリングは見えなかった。結果を表3および4に示す。
【0160】
[実施例8]
高分子弾性体を付与する工程において、繊維絡合シート質量に対しポリウレタン質量が55質量%となるように調整したこと以外は実施例1と同様にして、人工皮革を得た。
【0161】
得られた人工皮革は、非立毛被覆部分が人工皮革表面に万遍なく分布し、かつ、立毛部と非立毛被覆部分に十分な色彩コントラストが感じられ、良好なメランジ感を有していた。また、わずかに立毛感が感じられ良好なタッチ感であった。また、人工皮革の染めムラ、下地の高分子弾性体の過度な露出、およびシートの損傷のいずれも無く、良好な表面状態であった。また、モトリングは見えなかった。結果を表3および4に示す。
【0162】
[実施例9]
染色工程において、液流染色機のノズル圧を19000Paとしたたこと以外は実施例1と同様にして、人工皮革を得た。
【0163】
得られた人工皮革は、非立毛被覆部分が人工皮革表面に万遍なく分布し、かつ、立毛部と非立毛被覆部分に十分な色彩コントラストが感じられ、良好なメランジ感を有していた。また、わずかに立毛感が感じられ良好なタッチ感であった。また、人工皮革の染めムラ、下地の高分子弾性体の過度な露出、およびシートの損傷のいずれも無く、良好な表面状態であった。また、モトリングは見えなかった。結果を表3および4に示す。
【0164】
[実施例10]
高分子弾性体を付与する工程において、繊維絡合シート質量に対しポリウレタン質量が45質量%となるように調整し、仕上げ工程にて、サンドペーパー番手100番のエンドレスサンドペーパーを用い、染色工程において、液流染色機のノズル圧を19000Paとしたこと以外は実施例1と同様にして、人工皮革を得た。
【0165】
得られた人工皮革は、非立毛被覆部分が人工皮革表面に万遍なく分布し、かつ、立毛部と非立毛被覆部分にわずかな色彩コントラストが感じられ、良好なメランジ感を有していた。また、十分な立毛感が感じられ良好なタッチ感であった。また、人工皮革の染めムラ、下地の高分子弾性体の過度な露出、およびシートの損傷のいずれも無く、良好な表面状態であった。また、コントラストが弱いモトリングが人工皮革表面全体に分布していた。結果を表3および4に示す。
【0166】
[実施例11]
高分子弾性体を付与する工程において、繊維絡合シート質量に対しポリウレタン質量が45質量%となるように調整したことと、仕上げ工程において、サンドペーパー番手100番のエンドレスサンドペーパーを用い、起毛面における研削厚みを250μmとしたことと、染色工程において、液流染色機のノズル圧を19000Paとしたこと以外は実施例1と同様にして、人工皮革を得た。
【0167】
得られた人工皮革は、非立毛被覆部分が人工皮革表面に万遍なく分布し、かつ、立毛部と非立毛被覆部分にわずかな色彩コントラストが感じられ、良好なメランジ感を有していた。また、十分な立毛感が感じられ良好なタッチ感であった。また、人工皮革の染めムラ、下地の高分子弾性体の過度な露出、およびシートの損傷のいずれも無く、良好な表面状態であった。また、コントラストが弱いモトリングが人工皮革表面全体に分布していた。結果を表3および4に示す。
【0168】
[実施例12]
染色工程において、液流染色機での浴比を1/15としたこと以外は実施例1と同様にして、人工皮革を得た。
【0169】
得られた人工皮革は、非立毛被覆部分が人工皮革表面に万遍なく分布し、かつ、立毛部と非立毛被覆部分に十分な色彩コントラストが感じられ、良好なメランジ感を有していた。また、わずかに立毛感が感じられ良好なタッチ感であった。また、人工皮革の染めムラ、下地の高分子弾性体の過度な露出、およびシートの損傷のいずれも無く、良好な表面状態であった。また、コントラストが強いモトリングが人工皮革表面全体に分布していた。結果を表3および4に示す。
【0170】
[実施例13]
仕上げ工程において、起毛面における研削厚みを200μmとしたことと、染色工程において、液流染色機での浴比を1/15としたこと以外は実施例1と同様にして、人工皮革を得た。
【0171】
得られた人工皮革は、非立毛被覆部分が人工皮革表面に万遍なく分布し、かつ、立毛部と非立毛被覆部分に十分な色彩コントラストが感じられ、良好なメランジ感を有していた。また、わずかに立毛感が感じられ良好なタッチ感であった。また、人工皮革の染めムラ、下地の高分子弾性体の過度な露出、およびシートの損傷のいずれも無く、良好な表面状態であった。また、コントラストが強いモトリングが人工皮革表面全体に分布していた。結果を表3および4に示す。
【0172】
【表1】
【0173】
【表2】
【0174】
【表3】
【0175】
【表4】
【0176】
[比較例1]
仕上げ工程において、サンドペーパー番手500番のエンドレスサンドペーパーを用いたこと以外は実施例1と同様にして、人工皮革を得た。
【0177】
得られた人工皮革は、十分な立毛感が感じられ良好なタッチ感であった。また、人工皮革の染めムラ、下地の高分子弾性体の過度な露出、およびシートの損傷が無く良好な表面状態であった。しかし、立毛部と非立毛被覆部分に色彩コントラストが全く感じられず、不良なメランジ感であった。また、モトリングは見えなかった。結果を表7および8に示す。
【0178】
[比較例2]
高分子弾性体を付与する工程において、繊維絡合シート質量に対しポリウレタン質量が45質量%となるように調整したこと、仕上げ工程において、バフロール速度を500m/minとしたこと以外は実施例1と同様にして、人工皮革を得た。
【0179】
得られた人工皮革は、非立毛被覆部分が人工皮革表面に万遍なく分布し、かつ、立毛部と非立毛被覆部分にわずかな色彩コントラストが感じられ、良好なメランジ感を有していた。しかし、立毛感が全く感じられず不良なタッチ感であった。また、下地の高分子弾性体の過度な露出が見られ不良な表面状態であった。また、コントラストが弱いモトリングが人工皮革表面全体に分布していた。結果を表7および8に示す。
【0180】
[比較例3]
高分子弾性体を付与する工程において、繊維絡合シート質量に対しポリウレタン質量が55質量%となるように調整したこと、仕上げ工程において、起毛面における研削厚みを500μmとなるようにしたこと以外は実施例1と同様にして、人工皮革を得た。
【0181】
得られた人工皮革は、非立毛被覆部分が人工皮革表面に万遍なく分布し、かつ、立毛部と非立毛被覆部分にわずかな色彩コントラストが感じられ、良好なメランジ感を有していた。また、人工皮革の染めムラ、下地の高分子弾性体の過度な露出、およびシートの損傷のいずれも無く、良好な表面状態であった。しかし、立毛感が全く感じられず不良なタッチ感であった。また、コントラストが弱いモトリングが人工皮革表面全体に分布していた。結果を表7および8に示す。
【0182】
[比較例4]
高分子弾性体を付与する工程において、繊維絡合シート質量に対しポリウレタン質量が50質量%となるように調整したこと、仕上げ工程において、起毛面における研削厚みを50μmとしたこと以外は実施例1と同様にして、人工皮革を得た。
【0183】
得られた人工皮革は、立毛部と非立毛被覆部分に色彩コントラストが全く感じられず、また、立毛部と非立毛被覆部分が人工皮革表面に均一に分布しておらず、不良なメランジ感であった。また、立毛感が全く感じられず不良なタッチ感であった。また、下地の高分子弾性体の過度な露出が見られ不良な表面状態であった。また、コントラストが弱いモトリングが人工皮革表面全体に分布していた。結果を表7および8に示す。
【0184】
[比較例5]
染色工程において、液流染色機のノズル圧を44000Paとしたこと以外は実施例1と同様にして、人工皮革を得た。
【0185】
得られた人工皮革は、非立毛被覆部分が人工皮革表面に万遍なく分布し、かつ、立毛部と非立毛被覆部分にわずかな色彩コントラストが感じられ、良好なメランジ感を有していた。しかし、立毛感が全く感じられず不良なタッチ感であった。また、下地の高分子弾性体の過度な露出、およびシートの損傷が見られ不良な表面状態であった。また、モトリングは見えなかった。結果を表7および8に示す。
【0186】
【表5】
【0187】
【表6】
【0188】
【表7】
【0189】
【表8】
【0190】
表1~表4に示すように、実施例1~13の人工皮革は、ある一定以上の面積の人工皮革表面の原着ポリウレタンを含む非立毛被覆部分を人工皮革表面に万遍なく分布させ、繊維部分と原着ポリウレタンの色のコントラストを強調できたため、メランジ調の外観と良好なタッチ感を有し、優れた摩擦堅牢度や実使用に耐えうる強度を併せ持つ人工皮革を得られた。
【0191】
一方、比較例1の人工皮革のように、0.10mm以上0.60mm以下の非立毛被覆部分の単位面積当たりの個数が少なく、規定の範囲外である場合は、繊維部分と原着ポリウレタンの色のコントラストが強調されず、メランジ感の不良な人工皮革となった。
【0192】
また、比較例2、3、4、5の人工皮革のように、0.10mm以上0.60mm以下の非立毛被覆部分の単位面積当たりの個数が多く、規定の範囲外である場合は、メランジ感が不良、立毛感が感じづらくタッチ感が不良、あるいは、下地の高分子弾性体の過度な露出、シートの損傷が見られ表面状態が不良な人工皮革となった。
【符号の説明】
【0193】
1 繊維絡合体
2 立毛部
3 基体部
図1