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特開2024-52606高分子量化合物およびこれらを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052606
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】高分子量化合物およびこれらを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子
(51)【国際特許分類】
   C08G 61/12 20060101AFI20240404BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20240404BHJP
   H10K 50/15 20230101ALI20240404BHJP
   H10K 50/18 20230101ALI20240404BHJP
   H10K 50/17 20230101ALI20240404BHJP
   H10K 59/00 20230101ALI20240404BHJP
   H10K 85/10 20230101ALI20240404BHJP
【FI】
C08G61/12
H10K50/10
H10K50/15
H10K50/18
H10K50/17
H10K59/00
H10K85/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023168375
(22)【出願日】2023-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2022157451
(32)【優先日】2022-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005315
【氏名又は名称】保土谷化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】富樫 和法
(72)【発明者】
【氏名】篠田 美香
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 由香
(72)【発明者】
【氏名】北原 秀良
【テーマコード(参考)】
3K107
4J032
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107CC03
3K107CC04
3K107CC21
3K107DD71
3K107DD79
3K107FF18
4J032BA15
4J032BB06
4J032BB09
4J032CA03
4J032CA14
4J032CA32
4J032CA43
4J032CB04
4J032CB12
4J032CC01
4J032CC02
4J032CD02
4J032CD07
4J032CE03
4J032CG01
4J032CG03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明の目的は、正孔の注入・輸送性能に優れ、電子阻止能力を有し、薄膜状態での安定性が高い高分子材料を提供すること、更に、上記高分子材料により形成された有機層(薄膜)を有しており、発光効率が高く、長寿命な有機EL素子を提供することにある。
【解決手段】N,N-ジフェニル-9,9-ジアルキルフルオレニルアミンまたはその誘導体のフェニル基とベンゼンもしくはその誘導体が炭素炭素結合で連結してなり、ポリスチレン換算で10,000以上1,000,000未満の重量平均分子量を有する高分子量化合物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるトリアリールアミン構造単位、及び、下記一般式(2)で表される連結構造単位からなる、下記一般式(3)で表される構造単位を含み、ポリスチレン換算で10,000以上1,000,000未満の重量平均分子量を有する高分子量化合物。
【化1】
【化2】
【化3】
式中、
は、水素原子、重水素原子、シアノ基、ニトロ基;ハロゲン原子;それぞれ、炭素数が40以下である、アルキル基、シクロアルキル基、アルキルオキシ基、シクロアルキルオキシ基、アルケニル基、またはアリールオキシ基を示す。
は炭素数が3~40である、アルキル基、シクロアルキル基、またはアルキルオキシ基を示す。
Xは、水素原子、アミノ基、アリール基、またはヘテロアリール基を示す。
Lは、フェニレン基を示し、nは0~3の整数を示す。
また、上記式中、a、bは、以下の整数である。
a=0,1,2または3
b=0,1,2,3または4
【請求項2】
前記一般式(1)、(2)および(3)において、Rが水素原子である請求項1に記載の高分子量化合物。
【請求項3】
前記一般式(1)および(3)において、Rが炭素数3~40のアルキル基である請求項1または請求項2に記載の高分子量化合物。
【請求項4】
前記一般式(2)および(3)において、Xが水素原子である請求項1または請求項2に記載の高分子量化合物。
【請求項5】
前記一般式(2)および(3)において、Xがジフェニルアミノ基、フェニル基、ナフチル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基、フェナントレニル基、フルオレニル基、カルバゾリル基、インデノカルバゾリル基、アクリジニル基である請求項1または請求項2に記載の高分子量化合物。
【請求項6】
下記一般式(4)で表される熱架橋性構造単位Qを有する繰り返し構造単位を含む、請求項1または請求項2に記載の高分子量化合物。
【化4】
式中、
、X、aは、いずれも一般式(3)で示したものと同一である。
【請求項7】
前記一般式(4)において、前記熱架橋性構造単位Qが下記一般式(5a)~(5af)に示す構造である請求項6に記載の高分子量化合物。
【化5】

【化6】
式中、
R、R、aおよびbは、いずれも一般式(1)で示したものと同じ定義である。
【請求項8】
一対の電極とその間に挟まれた有機層とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記有機層が、請求項1または請求項2に記載の高分子量化合物を構成材料として用いたものである有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
前記有機層が正孔輸送層である、請求項8に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項10】
前記有機層が電子阻止層である、請求項8に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項11】
前記有機層が正孔注入層である、請求項8に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項12】
前記有機層が発光層である、請求項8に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の表示装置に好適な自発光素子である有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)に適した高分子量化合物とこれらを用いた該素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は自己発光性素子であるため、液晶素子にくらべて明るく視認性に優れ、鮮明な表示が可能であるため、活発な研究がなされてきた。
【0003】
有機EL素子は、有機化合物の薄膜(有機層)を、陽極と陰極に挟んだ構成を有している。薄膜の形成方法としては、真空蒸着法と塗布法に大別される。真空蒸着法は、主に低分子化合物を用い、真空中で基板上に薄膜を形成する手法であり、既に実用化されている技術である。一方、塗布法は、主に高分子化合物を用い、インクジェットや印刷など、溶液を用いて基板上に薄膜を形成する手法であり、材料の使用効率が高く、大面積化、高精細化に適しており、今後の大面積有機ELディスプレイには不可欠の技術である。
【0004】
低分子材料を用いた真空蒸着法は、材料の使用効率が極端に低く、大型化すればシャドーマスクのたわみが大きくなり、大型基板への均一な蒸着は困難となる。また製造コストも高くなるといった問題も抱えている。
【0005】
一方、高分子材料は、有機溶剤に溶解させたその溶液を塗布することにより、大型基板でも均一な膜を形成することが可能であり、これを利用してインクジェット法や印刷法に代表される塗布法を用いることができる。そのため、材料の使用効率を高めることが可能となり、素子作製にかかる製造コストを大幅に削減することができる。
【0006】
これまで、高分子材料を用いた有機EL素子が、種々検討されてきたが、発光効率や寿命などの素子特性は必ずしも十分でなく、これらの特性をより向上することができる高分子材料が求められている。(例えば、特許文献1~特許文献5参照)。
【0007】
また、これまで高分子材料を用いた有機EL素子における代表的な正孔輸送材料としては、TFBと呼ばれるフルオレンポリマーが知られていた(特許文献6~特許文献7参照)。しかしながら、TFBは正孔輸送性が不十分であり、かつ電子阻止性が不十分であるため、電子の一部が発光層を通り抜けてしまい、発光効率の向上が期待できないという問題があった。また、隣接層との膜密着性が低いことから、素子の長寿命化も期待できないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005-272834号公報
【特許文献2】特開2007-119763号公報
【特許文献3】特開2007-162009号公報
【特許文献4】特開2007-177225号公報
【特許文献5】国際公開第2005/049546号
【特許文献6】特許第4375820号公報
【特許文献7】国際公開第2005/059951号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、正孔の注入・輸送性能に優れ、電子阻止能力を有し、薄膜状態での安定性が高い高分子材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らはフルオレン構造を含むトリアリールアミン構造単位を含む高分子量化合物が高い正孔注入・輸送能力を有し、さらにワイドギャップ化も期待できることに着目し、種々のフルオレン構造を含むトリアリールアミン構造単位を含む高分子量化合物を合成して検討した結果、正孔注入・輸送能力に加え、ワイドギャップ且つ優れた耐熱性と薄膜安定性を有する新規な構造の高分子量化合物を見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下に記載する通りである。
【0012】
[1]下記一般式(1)で表されるトリアリールアミン構造単位、及び、下記一般式(2)で表される連結構造単位からなる、下記一般式(3)で表される構造単位を含み、ポリスチレン換算で10,000以上1,000,000未満の重量平均分子量を有する高分子量化合物。
【0013】
【化1】
【0014】
【化2】
【0015】
【化3】
【0016】
前記一般式(1)~(3)の式中、
は、水素原子、重水素原子、シアノ基、ニトロ基;ハロゲン原子;それぞれ、炭素数が40以下である、アルキル基、シクロアルキル基、アルキルオキシ基、シクロアルキルオキシ基、アルケニル基、またはアリールオキシ基を示す。
は炭素数が3~40である、アルキル基、シクロアルキル基、またはアルキルオキシ基を示す。
Xは、水素原子、アミノ基、アリール基、またはヘテロアリール基を示す。
Lは、フェニレン基を示し、nは0~3の整数を示す。
また、上記式中、a、bは、以下の整数である。
a=0,1,2または3
b=0,1,2,3または4
【0017】
[2]更に、本発明において、前記一般式(1)、(2)および(3)において、Rが水素原子である[1]に記載の高分子量化合物。
【0018】
[3]また、本発明は前記一般式(1)および(3)において、Rが炭素数3~40のアルキル基である[1]または[2]に記載の高分子量化合物である。
【0019】
[4]前記一般式(2)および(3)において、Xが水素原子である[1]または[2]に記載の高分子量化合物。
【0020】
[5]前記一般式(2)および(3)において、Xがジフェニルアミノ基、フェニル基、ナフチル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基、フェナントレニル基、フルオレニル基、カルバゾリル基、インデノカルバゾリル基、アクリジニル基である[1]または[2]に記載の高分子量化合物。
【0021】
[6]下記一般式(4)で表される熱架橋性構造単位Qを有する繰り返し構造単位も含む、[1]または[2]に記載の高分子量化合物。
【0022】
【化4】
【0023】
式中、
、X、aは、いずれも一般式(3)で示したものと同一である。
【0024】
[7]前記一般式(4)において、前記熱架橋性構造単位Qが下記一般式(5a)~(5af)に示す構造である[6]に記載の高分子量化合物。
【0025】
【化5】
【0026】
【化6】
【0027】
一般式(5a)~(5af)の式中、
、R、aおよびbは、いずれも一般式(1)で示したものと同じ定義である。
【0028】
[8] 一対の電極とその間に挟まれた有機層とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記有機層が、[1]または[2]に記載の高分子量化合物を構成材料として用いたものである有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0029】
[9]前記有機層が正孔輸送層である、[8]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0030】
[10]前記有機層が電子阻止層である、[8]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0031】
[11]前記有機層が正孔注入層である、[8]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0032】
[12]前記有機層が発光層である、[8]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、上記一般式(1)で表されるトリアリールアミン構造単位及び一般式(2)で表される連結構造単位からなる、一般式(3)で表される繰り返し単位を含む高分子量化合物が提供される。
【0034】
上述した一般式(1)で表されるトリアリールアミン構造単位(2価の基)及び一般式(2)で表される連結構造単位(2価の基)を有する本発明の高分子量化合物は、
(1)正孔の注入特性が良い、
(2)正孔の移動度が大きい、
(3)ワイドギャップであり、電子阻止能力に優れる、
(4)薄膜状態が安定である、
(5)耐熱性に優れている、
という特性を有している。
【0035】
このような物性を持つ高分子量化合物により形成された有機層は、有機EL素子の正孔輸送層、電子阻止層、正孔注入層或いは発光層とすることが好適であり、対の電極間に形成されている有機EL素子は、
(1)発光効率および電力効率が高い、
(2)実用駆動電圧が低い、
(3)長寿命である、
という利点を有している。
【0036】
すなわち、本発明の高分子量化合物は、正孔輸送能力が高く、電子阻止能力に優れているため、塗布型有機EL素子用の化合物として優れている。該化合物を用いて塗布型有機EL素子を作製することにより、高い発光効率および電力効率を得ることができると共に、耐久性を改善させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明の一般式(3)で表される繰り返し構造単位として好適な例示の構造単位1-1~1-6の化学構造
図2】本発明の一般式(3)で表される繰り返し構造単位として好適な例示の構造単位1-7~1-12の化学構造
図3】本発明の一般式(3)で表される繰り返し構造単位として好適な例示の構造単位1-13~1-18の化学構造
図4】本発明の一般式(3)で表される繰り返し構造単位として好適な例示の構造単位1-19~1-24の化学構造
図5】本発明の一般式(3)で表される繰り返し構造単位として好適な例示の構造単位1-25~1-30の化学構造
図6】本発明の一般式(3)で表される繰り返し構造単位として好適な例示の構造単位1-31~1-36の化学構造
図7】本発明の一般式(2)、一般式(3)、一般式(4)の置換基Xとして好適な例示の置換基1~24の化学構造
図8】本発明の一般式(2)、一般式(3)、一般式(4)の置換基Xとして好適な例示の置換基25~48の化学構造
図9】本発明の有機EL素子が有する層構成の一例
図10】本発明の実施例1で得た高分子量化合物(化合物A)のH-NMRチャート
【発明を実施するための形態】
【0038】
<トリアリールアミン構造単位及び連結構造単位>
本発明の高分子量化合物は、前記の一般式(1)で表されるトリアリールアミン構造単位、及び、前記の一般式(2)で表される連結構造単位を含む。
【0039】
前記一般式(1)および(2)において、Rは、水素原子、重水素原子、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、炭素数が1ないし8のアルキル基もしくはアルキルオキシ基、炭素数5ないし10のシクロアルキル基もしくはシクロアルキルオキシ基、炭素数2ないし6のアルケニル基、またはアリールオキシ基を示す。
【0040】
前記一般式(1)および(2)中のRで表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子等が挙げられる。
【0041】
かかるRにおいて、上記のアルキル基、アルキルオキシ基、シクロアルキル基、シクロアルキルオキシ基、アルケニル基、及びアリールオキシ基としては、以下の基を例示することができる。
アルキル基(炭素数が1~8);
メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、イソへキシル基、ネオへキシル基、n-ヘプチル基、イソへプチル基、ネオへプチル基、n-オクチル基、イソオクチル基、ネオオクチル基等。
アルキルオキシ基(炭素数が1~8);
メチルオキシ基、エチルオキシ基、n-プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n-ブチルオキシ基、tert-ブチルオキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基等。
シクロアルキル基(炭素数が5~10);
シクロペンチル基、シクロヘキシル基、1-アダマンチル基、2-アダマンチル基等。
シクロアルキルオキシ基(炭素数が5~10);
シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、シクロヘプチルオキシ基、シクロオクチルオキシ基、1-アダマンチルオキシ基、2-アダマンチルオキシ基等。
アルケニル基(炭素数が2~6);
ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、2-ブテニル基等。
アリールオキシ基(炭素数が6~10);
フェニルオキシ基、トリルオキシ基等。
【0042】
本発明の高分子量化合物においては、合成が容易であるため、前記一般式(1)中のRと前記一般式(2)中のRとが同じ基であることが好ましい。
また、前記一般式(1)および(2)中のRが、水素原子及び重水素原子であることが好ましく、全て水素原子であることがより好ましい。
【0043】
前記一般式(1)において、Rは炭素数が3~40である、アルキル基、シクロアルキル基、またはアルキルオキシ基を示す。
【0044】
かかるRにおいて、上記のアルキル基、アルキルオキシ基、シクロアルキル基、シクロアルキルオキシ基の例としては、Rにおいて示した基と同様の基である。
【0045】
本発明の高分子量化合物においては、上記のRは、溶解性を高めるため、Rが炭素数3~40のアルキル基であることが好ましく、炭素数3~10のアルキル基であることがより好ましく、n-ヘキシル基またはn-オクチル基であることが最も好適である。
【0046】
前記一般式(1)および(2)において、aおよびbは、以下の整数を示す。
a=0,1,2または3
b=0,1,2,3または4
【0047】
前記一般式(2)において、Xは水素原子、アミノ基、1価のアリール基、または1価のヘテロアリール基を示す。
【0048】
かかるXにおいて、1価のアリール基、1価のヘテロアリール基としては、以下の基を例示することができる。
アリール基;
フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、フルオレニル基、インデニル基、ピレニル基、ペリレニル基、フルオランテニル基等。
ヘテロアリール基;
ピリジル基、ピリミジニル基、トリアジニル基、フリル基、ピロリル基、チエニル基、キノリル基、イソキノリル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、インドリル基、カルバゾリル基、インデノカルバゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、キノキサリニル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基、ナフチリジニル基、フェナントロリニル基、アクリジニル基、カルボリニル基等。
【0049】
また、上記のアミノ基、アリール基およびヘテロアリール基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、重水素原子、シアノ基、ニトロ基などに加え、以下の基を挙げることができる。
ハロゲン原子、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子;
アルキル基、特に炭素数が1~8のもの、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、イソへキシル基、ネオへキシル基、n-ヘプチル基、イソへプチル基、ネオへプチル基、n-オクチル基、イソオクチル基、ネオオクチル基;
アルキルオキシ基、特に炭素数1~8のもの、例えば、メチルオキシ基、エチルオキシ基、プロピルオキシ基;
アルケニル基、例えば、ビニル基、アリル基;
アリールオキシ基、例えば、フェニルオキシ基、トリルオキシ基;
アリール基、例えば、フェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、フルオレニル基、インデニル基、ピレニル基、ペリレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基;
ヘテロアリール基、例えば、ピリジル基、ピリミジニル基、トリアジニル基、チエニル基、フリル基、ピロリル基、キノリル基、イソキノリル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、インドリル基、カルバゾリル基、インデノカルバゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、キノキサリニル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基、カルボリニル基;
アリールビニル基、例えば、スチリル基、ナフチルビニル基;
アシル基、例えば、アセチル基、ベンゾイル基;
【0050】
また、これらの置換基は、上記で例示した置換基をさらに有していてもよい。
さらに、これらの置換基は、それぞれ独立して存在していることが好ましいが、これらの置換基同士が、単結合、置換基を有していてもよいメチレン基、酸素原子または硫黄原子を介して、互いに結合して環を形成していてもよい。
【0051】
例えば、上記のアリール基やヘテロアリール基は、置換基としてフェニル基を有していてもよく、このフェニル基は、さらに置換基としてフェニル基を有していてもよい。即ち、アリール基を例に取ると、このアリール基は、ビフェニリル基、ターフェニリル基、トリフェニレニル基であってもよい。
【0052】
本発明において、上述した一般式(2)で表される連結構造単位が有する置換基Xの具体例を、図7図8に、置換基1~48として示した。尚、図7図8に示された化学式において、波線は連結構造単位への結合位置を示し、環から延びている先端がフリーの実線は、そのフリーの先端がメチル基であることを示している。置換基Xとして、好ましい具体例を示したが、本発明で用いられる置換基Xはこれらの置換基に限定されるものではない。
本発明の高分子量化合物においては、前記一般式(2)中のXが全て水素原子であることがより好ましい。
【0053】
前記一般式(1)中のLで表されるフェニレン基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、上述のXが有していてもよい置換基と同様の基が挙げられ、これらの置換基はさらに置換基を有していてもよい。
【0054】
前記一般式(1)中のnはLの数を示す。本発明の高分子量化合物においては、正孔の注入・輸送性能、電子阻止能力および薄膜の安定性の点から、nが0または1であることが好ましい。
【0055】
<高分子量化合物>
上述した一般式(1)で表されるトリアリールアミン構造単位及び一般式(2)で表される連結構造単位からなる、一般式(3)で表される繰り返し構造単位を含む本発明の高分子量化合物は、正孔の注入特性、正孔の移動度、電子阻止能力、薄膜安定性、耐熱性等の特性が優れているものであるが、これらの特性をより高め且つ成膜性を確保するという観点から、上記構造単位を繰り返し単位として有するポリマーであることが好ましく、例えば、GPCで測定したポリスチレン換算での重量平均分子量が10,000以上1,000,000未満であることが好ましく、10,000以上500,000未満であることがより好ましく、10,000以上300,000未満の範囲であることがさらに好ましい。
【0056】
また、本発明の高分子量化合物は、例えばコーティングにより有機EL素子中の有機層の形成に適用した場合の塗布性や他の層との密着性、耐久性を確保するために、他の構造単位との共重合体であることが好ましい。このような他の構造単位としては、例えば熱架橋性を高めるための構造単位や一般式(1)とは異なるトリアリールアミン構造単位がある。
【0057】
本発明の高分子量化合物は、熱架橋性を高めるため、下記一般式(4)で表される、熱架橋性構造単位Qを有する繰り返し単位を含むことが好ましい。
【0058】
【化7】
式中、
、Xおよびaは、いずれも一般式(1)で示したものと同じ定義である。
【0059】
本発明の高分子量化合物においては、合成が容易であるため、前記一般式(4)中のRは、前記一般式(2)中のRと同じ基であることが好ましく、また前記一般式(4)中のXは、前記一般式(2)中のXと同じ基であることが好ましい。
【0060】
熱架橋性構造単位Qの具体例としては、下記一般式(5a)~(5af)に示す構造が挙げられる。
【0061】
尚、上記式(5a)~(5af)において、破線は、隣接する構造単位への結合手を示し、環から延びている先端がフリーの実線は、その先端がメチル基であることを示している。
【0062】
また、上記式(5a)~(5af)中、a、bはRの数であり、以下の整数である。
a=0,1,2または3
b=0,1,2,3または4
【0063】
また、式(5a)~(5af)において、RとRは、一般式(1)で示した基と同様の基を示す。
【0064】
本発明の高分子量化合物において、一般式(1)で表されるトリアリールアミン構造単位を構造単位A、一般式(2)で表される連結構造単位を構造単位B、熱架橋性を高めるための熱架橋性構造単位を構造単位Qで表したとき、構造単位Aを1モル%以上、特に20モル%以上含んでいることが好ましく、このような量で構造単位Aを含んでいることを条件として、構造単位Bを1モル%以上、特に30~70モル%の量で含み、さらには、構造単位Qを1モル%以上、特に5~20モル%の量で含んでいることが好ましく、このような条件を満足するように構造単位A,B及びQを含む高分子量化合物であることが、有機EL素子の有機層を形成する上で最も好適である。
【0065】
このような本発明の高分子量化合物は、スズキ重合反応やHARTWIG-BUCHWALD重合反応により、それぞれC-C結合或いはC-N結合を形成して各構造単位を連鎖することにより合成される。即ち、各構造単位を有する単位化合物を用意し、この単位化合物を適宜ホウ酸エステル化或いはハロゲン化し、適宜の触媒を使用して重縮合反応することにより、本発明の高分子量化合物を合成することができる。
【0066】
例えば、一般式(1)で表される構造単位Aを40モル%、一般式(2)で表される連結構造単位Bを50モル%、熱架橋性を高めるための構造単位Q(式(5e))を10モル%で含む共重合体は下記に示す一般式(6)で表される。
【0067】
【化8】
【0068】
但し、構造単位Aと構造単位Qを導入するための中間体がホウ酸エステル化体であり、これに対し、構造単位Bを導入するための中間体がハロゲン化体である。または、構造単位Aと構造単位Qを導入するための中間体がハロゲン化体であり、これに対し、構造単位Bを導入するための中間体がホウ酸エステル化体である。つまり、ハロゲン化体とホウ酸エステル化体のモル比率は等しくなければならない。
【0069】
上述した本発明の高分子量化合物は、ベンゼン、トルエン、キシレン、アニソールなどの芳香族系有機溶媒に溶解させて塗布液を調製し、この塗布液を所定の基材上にコーティングし、加熱乾燥することにより、正孔注入性、正孔輸送性、電子阻止性などの特性に優れた薄膜を形成することができる。得られる薄膜は耐熱性も良好であり、さらには他の層との密着性も良好である。
【0070】
本発明の上記高分子量化合物は、有機EL素子の正孔注入層および/または正孔輸送層の構成材料として使用することができる。本発明の高分子量化合物により形成された正孔注入層或いは正孔輸送層は、従来の材料で形成されたものに比して、正孔の注入性が高く、移動度が大きく、電子阻止性が高く、発光層内で生成した励起子を閉じ込めることができ、さらに正孔と電子が再結合する確率を向上させ、高発光効率を得ることができると共に、駆動電圧が低下して、有機EL素子の耐久性が向上するという利点を実現できる。
【0071】
また、上記のような電気特性を有する本発明の高分子量化合物は、従来の材料よりもワイドギャップであり、励起子の閉じ込めに有効なため、当然、電子阻止層や発光層にも好適に使用することができる。
【0072】
<有機EL素子>
上述した本発明の高分子量化合物を用いて形成される有機層を備えた有機EL素子は、例えば図9に示す構造を有している。即ち、ガラス基板1(透明樹脂基板など、透明基板であってもよい)の上に、透明陽極2、正孔注入層3、正孔輸送層4、電子阻止層5、発光層6、電子輸送層7及び陰極8が設けられている。
【0073】
勿論、本発明の高分子量化合物が適用される有機EL素子は、上記の層構造に限定されるものではなく、発光層6と電子輸送層7との間に正孔阻止層を設けることができ、さらには、陰極8と電子輸送層7の間に電子注入層を設けることもできる。さらに、いくつかの層を省略することもできる。例えば、基板1上に、陽極2、正孔輸送層4、発光層6
、電子輸送層7及び陰極8を設けたシンプルな層構造とすることもできる。また、同一の機能を有する層を重ねた2層構造とすることも可能である。
【0074】
本発明の高分子量化合物は、その正孔注入性や正孔輸送性などの特性を活かして、上記の陽極2と陰極8との間に設けられる有機層(例えば、正孔注入層3、正孔輸送層4、電子阻止層5或いは発光層6)の形成材料として好適に使用される。
【0075】
上記の有機EL素子において、透明陽極2は、それ自体公知の電極材料で形成されていてよく、ITOや金のような仕事関数の大きな電極材料を基板1(ガラス基板等の透明基板)の上に蒸着することにより形成される。
【0076】
また、透明陽極2上に設けられている正孔注入層3は、本発明の高分子量化合物を、例えばトルエン、キシレン、アニソールなどの芳香族系有機溶媒に溶解させた塗布液を用いて形成することができる。即ち、この塗布液を、スピンコート、インクジェットなどにより、透明陽極2上にコーティングすることにより、正孔注入層3を形成することができる。
【0077】
また、本発明の高分子量化合物を用いて形成される有機層を備えた有機EL素子において、上記の正孔注入層3は本発明の高分子量化合物を用いずに、従来公知の材料、例えば以下の材料を用いて形成することもできる。
銅フタロシアニンに代表されるポルフィリン化合物;
スターバースト型のトリフェニルアミン誘導体;
単結合またはヘテロ原子を含まない2価基で連結した構造を有するアリールアミン(例えば、トリフェニルアミン3量体及び4量体);
ヘキサシアノアザトリフェニレンのようなアクセプター性の複素環化合物;
塗布型の高分子材料、例えばポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリ(スチレンスルフォネート)(PSS)等。
【0078】
このような材料を用いての層(薄膜)の形成は、蒸着法や、スピンコート法やインクジェット法などによるコーティングにより成膜することができる。これらは、他の層についても同様であり、膜形成材料の種類に応じて、蒸着法やコーティング法により成膜が行われる。
【0079】
上記の正孔注入層3の上に設けられている正孔輸送層4も、正孔注入層3と同様、本発明の高分子量化合物を用いてのスピンコートやインクジェットなどによるコーティングによって形成することができる。
【0080】
また、本発明の高分子量化合物を用いて形成される有機層を備えた有機EL素子において、従来公知の正孔輸送材料を用いて正孔輸送層4を形成することもできる。このような正孔輸送材料として代表的なものは、次のとおりである。
ベンジジン誘導体、例えば、
N,N’-ジフェニル-N,N’-ジ(m-トリル)ベンジジン
(以下、TPDと略す);
N,N’-ジフェニル-N,N’-ジ(α-ナフチル)ベンジジン
(以下、NPDと略す);
N,N,N’,N’-テトラビフェニリルベンジジン;
アミン系誘導体、例えば、
1,1-ビス[4-(ジ-4-トリルアミノ)フェニル]シクロヘキサン
(以下、TAPCと略す);
種々のトリフェニルアミン3量体および4量体;
正孔注入層用としても使用される塗布型高分子材料;
【0081】
上述した正孔輸送層の化合物は、本発明の高分子量化合物を含め、それぞれ単独で成膜してもよいが、2種以上混合して成膜することもできる。また、上記化合物の1種または複数種を用いて複数の層を形成し、このような層が積層された多層膜を正孔輸送層とすることもできる。
【0082】
また、図9示す本発明の高分子量化合物を用いて形成される有機層を備えた有機EL素子において、正孔注入層3と正孔輸送層4とを兼ねた層とすることもでき、このような正孔注入・輸送層は、PEDOTなどの高分子材料を用いてコーティングにより形成することができる。
【0083】
尚、正孔輸送層4(正孔注入層3も同様)において、該層に通常使用される材料に対し、さらにトリスブロモフェニルアミンヘキサクロルアンチモンやラジアレン誘導体(例えば、WO2014/009310参照)などをPドーピングしたものを使用することができる。また、TPD基本骨格を有する高分子化合物などを用いて正孔輸送層4(或いは正孔注入層3)を形成することができる。
【0084】
さらに、図9に示すように、正孔輸送層と発光層との間に、電子阻止層を設けることができ、本発明の高分子量化合物を用いてスピンコートやインクジェットなどによるコーティングによって形成することができる。
【0085】
また、本発明の高分子量化合物を用いて形成される有機層を備えた有機EL素子において、電子阻止作用を有する公知の電子阻止性化合物、例えば、カルバゾール誘導体や、トリフェニルシリル基を有し且つトリアリールアミン構造を有する化合物などを用いて電子阻止層を形成することもできる。カルバゾール誘導体及びトリアリールアミン構造を有する化合物の具体例は、以下の通りである。
カルバゾール誘導体の例
4,4’,4’’-トリ(N-カルバゾリル)トリフェニルアミン
(以下、TCTAと略す);
9,9-ビス[4-(カルバゾール-9-イル)フェニル]
フルオレン;
1,3-ビス(カルバゾール-9-イル)ベンゼン
(以下、mCPと略す);
2,2-ビス(4-カルバゾール-9-イルフェニル)アダマンタン
(以下、Ad-Czと略す);
トリアリールアミン構造を有する化合物の例
9-[4-(カルバゾール-9-イル)フェニル]-9-[4-(トリフェニルシリル)フェニル]-9H-フルオレン;
【0086】
電子阻止層も、本発明の高分子量化合物を含め、それぞれ単独で成膜してもよいが、2種以上混合して成膜することもできる。また、上記化合物の1種または複数種を用いて複数の層を形成し、このような層が積層された多層膜を電子阻止層とすることもできる。
【0087】
本発明の高分子量化合物を用いて形成される有機層を備えた有機EL素子において、発光層6は、Alqをはじめとするキノリノール誘導体の金属錯体の他、亜鉛やベリリウム、アルミニウムなどの各種の金属錯体、アントラセン誘導体、ビススチリルベンゼン誘導体、ピレン誘導体、オキサゾール誘導体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体などの発光材料を用いて形成することができる。
【0088】
また、発光層6をホスト材料とドーパント材料とで構成することもできる。この場合のホスト材料として、上記の発光材料に加え、チアゾール誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、ポリジアルキルフルオレン誘導体などを使用することができ、さらに、前述した本発明の高分子量化合物を使用することもできる。ドーパント材料としては、キナクリドン、クマリン、ルブレン、ペリレンおよびそれらの誘導体、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、アミノスチリル誘導体などを用いることができる。
【0089】
このような発光層6も、各発光材料の1種或いは2種以上を用いた単層構成とすることもできるし、複数の層を積層した多層構造とすることもできる。
【0090】
さらに、発光材料として燐光発光材料を使用して発光層6を形成することもできる。燐光発光材料としては、イリジウムや白金などの金属錯体の燐光発光体を使用することができる。例えば、Ir(ppy)などの緑色の燐光発光体、FIrpic、FIr6などの青色の燐光発光体、BtpIr(acac)などの赤色の燐光発光体などを用いることができ、これらの燐光発光材料は、正孔注入・輸送性のホスト材料や電子輸送性のホスト材料にドープして使用される。
【0091】
尚、燐光性の発光材料のホスト材料へのドープは濃度消光を避けるため、発光層全体に対して1~30重量パーセントの範囲で、共蒸着によってドープすることが好ましい。
【0092】
また、発光材料としてPIC-TRZ、CC2TA、PXZ-TRZ、4CzIPNなどのCDCB誘導体などの遅延蛍光を放射する材料を使用することも可能である。(Appl.Phys.Let.,98,083302(2011)、Chem.Comumm.,48,11392(2012)、Nature,492,234(2012)参照)。
【0093】
本発明の高分子量化合物を、ドーパントと呼ばれている蛍光発光体や燐光発光体もしくは遅延蛍光を放射する材料を担持させて発光層6を形成することにより、駆動電圧が低下し、発光効率が改善された有機EL素子を実現できる。
【0094】
本発明の高分子量化合物を用いて形成される有機層を備えた有機EL素子において、正孔注入・輸送性のホスト材料としては、本発明の高分子量化合物を用いることができる。その他に、4,4’-ジ(N-カルバゾリル)ビフェニル(以後、CBPと略称する)、TCTA、mCPなどのカルバゾール誘導体などを用いることもできる。
【0095】
また、本発明の高分子量化合物を用いて形成される有機層を備えた有機EL素子において、電子輸送性のホスト材料としては、p-ビス(トリフェニルシリル)ベンゼン(以後、UGH2と略称する)や2,2’,2’’-(1,3,5-フェニレン)-トリス(1-フェニル-1H-ベンズイミダゾール)(以後、TPBIと略称する)などを用いることができる。
【0096】
本発明の高分子量化合物を用いて形成される有機層を備えた有機EL素子において、発光層6と電子輸送層7との間に設ける正孔阻止層(図9では示されていない)としては、それ自体公知の正孔阻止作用を有する化合物を用いて形成することができる。このような正孔阻止作用を有する公知化合物の例としては、以下のものをあげることができる。
バソクプロイン(以後、BCPと略称する)などのフェナントロリン誘導体;
アルミニウム(III)ビス(2-メチル-8-キノリナート)-4-フェニルフェノレート(以後、BAlqと略称する)などのキノリノール誘導体の金属錯体;
各種希土類錯体;
トリアゾール誘導体;
トリアジン誘導体;
オキサジアゾール誘導体。
【0097】
これらの材料は、以下に述べる電子輸送層7の形成にも使用することができ、さらには、正孔阻止層兼電子輸送層7として使用することもできる。
【0098】
このような正孔阻止層も、単層或いは多層の積層構造とすることができ、各層は、上述した正孔阻止作用を有する化合物の1種或いは2種以上を用いて成膜される。
【0099】
本発明の高分子量化合物を用いて形成される有機層を備えた有機EL素子において、電子輸送層7は、それ自体公知の電子輸送性の化合物、例えば、Alq、BAlqをはじめとするキノリノール誘導体の金属錯体のほか、各種金属錯体、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、カルボジイミド誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体、シロール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体などを用いて形成される。
【0100】
この電子輸送層7も、単層或いは多層の積層構造とすることができ、各層は、上述した電子輸送性化合物の1種或いは2種以上を用いて成膜される。
【0101】
さらに、本発明の高分子量化合物を用いて形成される有機層を備えた有機EL素子において、必要に応じて設けられる電子注入層(図9では示されていない)も、それ自体公知のもの、例えば、フッ化リチウム、フッ化セシウムなどのアルカリ金属塩、フッ化マグネシウムなどのアルカリ土類金属塩、酸化アルミニウムなどの金属酸化物、リチウムキノリンなどの有機金属錯体などを用いて形成することができる。
【0102】
本発明の高分子量化合物を用いて形成される有機層を備えた有機EL素子の陰極8としては、アルミニウムのような仕事関数の低い電極材料や、マグネシウム銀合金、マグネシウムインジウム合金、アルミニウムマグネシウム合金のような、より仕事関数の低い合金が電極材料として用いられる。
【0103】
以上に述べたように、本発明の高分子量化合物を用いて、正孔注入層、正孔輸送層、電子阻止層、及び発光層の少なくとも何れかの層を形成することにより、発光効率および電力効率が高く、実用駆動電圧が低く、発光開始電圧も低く、極めて優れた耐久性を有する有機EL素子が得られる。特に、この有機EL素子では、高い発光効率を有しながら、駆動電圧が低下し、電流耐性が改善されて、最大発光輝度が向上している。
【実施例0104】
以下、本発明を次の実験例により説明する。
尚、以下の説明において、本発明の高分子量化合物が有する一般式(1)で表される構造単位を「構造単位A」、一般式(2)で表される連結構造単位を「構造単位B」、熱架橋性を高めるために導入される構造単位を「構造単位Q」として示した。
【0105】
また、合成された化合物の精製は、カラムクロマトグラフによる精製、溶媒による晶析法によって行った。化合物の同定は、NMR分析によって行った。
【実施例0106】
本発明の高分子量化合物を製造するために、以下の中間体1~6合成した。
【0107】
<中間体1の合成>
下記の成分を、窒素置換した反応容器に加え、60℃で30分撹拌した。
2-アミノ-4’-ブロモベンゾフェノン:55.0g
95%硫酸:200ml
次いで、反応容器を5℃まで冷却し、亜硝酸ナトリウム:17.9gを溶解させた水溶液35mlを滴下しながら加え、2時間撹拌した。その後、反応容器を60℃までゆっくりと加熱し、2時間撹拌した。室温まで冷却した後、反応溶液を氷水1Lに少しずつ加え、ろ過することで粗製物を得た。粗製物メタノールで洗浄することによって、中間体1の橙色固体34.6g(収率67%)を得た。
【0108】
【化9】
【0109】
<中間体2の合成>
下記の成分を、窒素置換した反応容器に加え、95℃まで加熱撹拌した。
ヨウ素:82.2g
酢酸:350ml
次いで、50wt%次亜リン酸42.8gを滴下しながら加え、1時間撹拌した。その後、中間体1:34.4gを加えて昇温し、105℃で4時間撹拌した。室温まで冷却した後、水350mlを加えてろ過し、中間体2の淡黄色固体30.1g(収率92%)を得た。
【0110】
【化10】
【0111】
<中間体3の合成>
下記の成分を、窒素置換した反応容器に加え、室温で撹拌した。
中間体2:34.2g
ナトリウム-t-ブトキシド:40.2g
N,N-ジメチルホルムアミド:340ml
次いで、1-ヨードオクタン:80.4gを滴下しながら加え、35℃で5時間撹拌した。室温まで冷却した後、水350mlを加え、さらにトルエン300mlを加え、分液操作を行うことによって有機層を採取した。この有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水した後、減圧下で濃縮することによって粗製物を得た。粗製物をカラムクロマトグラフ(n-ヘキサン)で精製することによって中間体3の黄色オイル55.0g(収率84%)を得た。
【0112】
【化11】
【0113】
<中間体4の合成>
下記の成分を、窒素置換した反応容器に加え、30分間窒素ガスを通気した。
ジフェニルアミン:10.5g
中間体3:29.7g
ナトリウム-t-ブトキシド:8.9g
トルエン:100ml
次いで、酢酸パラジウム(II)0.3g、トリ-t-ブチルホスフィン:1.0gを加えて加熱し、90℃で3時間撹拌した。
室温まで冷却した後、反応液を濾過し、濾液を減圧下で濃縮することによって粗製物を得た。粗製物をカラムクロマトグラフ(n-ヘキサン)で精製することによって中間体4の黄色オイル32.3g(収率93%)を得た。
【0114】
【化12】
【0115】
<中間体5の合成>
下記の成分を、窒素置換した反応容器に加え、中間体4を溶解させた。
中間体4:32.2g
テトラヒドロフラン:150ml
次いで、N-ブロモスクシンイミド:20.5gを加え、室温で5時間撹拌した。
水300ml、トルエン200mlを加え、分液操作を行うことによって有機層を採取した。この有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水した後、減圧下で濃縮することによって粗製物を得た。粗製物をメタノールにより再結晶することによって、中間体5の白色粉体41.3g(収率100%)を得た。
【0116】
【化13】
【0117】
<中間体6の合成>
下記の成分を、窒素置換した反応容器に加え、30分間窒素ガスを通気した。
中間体5:41.2g
ビス(ピナコラト)ジボロン:30.7g
酢酸カリウム:17.0g
1,4-ジオキサン:200ml
次いで、{1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン}パラジウム(II)ジクロリドのジクロロメタン付加物0.5gを加えて加熱し、95℃で4時間撹拌した。室温まで冷却した後、飽和食塩水とトルエンを加え、分液操作を行うことによって有機層を採取した。この有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水した後、減圧下で濃縮することによって粗製物を得た。粗製物を酢酸エチル/メタノール=1/1により再結晶することによって、中間体6の類白色粉体35.4g(収率76%)を得た。
【0118】
【化14】
【0119】
<中間体7の合成>
下記の成分を、窒素置換した反応容器に加え、30分間窒素ガスを通気した。
N,N-ビス(4-ブロモフェニル)-N-(ベンゾシクロブテン-4-イル)-アミン:8.0g
ビス(ピナコラト)ジボロン:9.9g
酢酸カリウム:4.6g
1,4-ジオキサン:80ml
次いで、{1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン}パラジウム(II)ジクロリドのジクロロメタン付加物0.3gを加えて加熱し、90℃で11時間撹拌した。室温まで冷却した後、市水とトルエンを加え、分液操作を行うことによって有機層を採取した。この有機層を無水硫酸マグネシウムで脱水した後、減圧下で濃縮することによって粗製物を得た。粗製物をトルエン/メタノール=1/2により再結晶することによって、中間体7の白色粉体3.4g(収率35%)を得た。
【0120】
【化15】
【0121】
<高分子量化合物Aの合成>
下記の成分を、窒素置換した反応容器に加え、30分間窒素ガスを通気した。
中間体6(構造単位Aに相当):2.7g
1,3-ジブロモベンゼン:0.9g
中間体7(構造単位Qに相当):0.2g
リン酸三カリウム:3.7g
トルエン:7ml
水:4ml
1,4-ジオキサン:21ml
【0122】
次いで、酢酸パラジウム(II)を1.5mg、及びトリ-o-トリルホスフィン12.4mgを加えて加熱し、85℃で11.5時間撹拌した。この後、フェニルボロン酸を95mg加えて2時間撹拌し、次いでブロモベンゼン1.3gを加えて2時間撹拌した。トルエン25ml、5wt%N,N-ジエチルジチオカルバミド酸ナトリウム水溶液25mlを加えて加熱し、還流下で2時間撹拌した。室温まで冷却した後、分液操作を行うことによって有機層を採取し、飽和食塩水で3回洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水した後、減圧下で濃縮することによって粗ポリマーを得た。粗ポリマーをトルエンに溶解させ、シリカゲルを加えて吸着精製を行い、ろ過してシリカゲルを除去した。得られた濾液を減圧下で濃縮し、乾固物にトルエン50mlを加えて溶解させ、n-ヘキサン200ml中に滴下し、得られた沈殿物を濾取した。また、得られた沈殿物をテトラヒドロフラン50mlに溶解させ、メタノール100ml中に滴下し、得られた沈殿物を濾取し、乾燥させることにより高分子量化合物Aを710mg(収率32%)得た。
【0123】
高分子化合物AのGPCで測定した平均分子量、分散度は、以下の通りであった。
数平均分子量Mn(ポリスチレン換算):32,000
重量平均分子量Mw(ポリスチレン換算):80,000
分散度(Mw/Mn):2.5
【0124】
また、高分子化合物AについてNMR測定を行った。H-NMR測定結果を図10に示した。化学組成式は下記の通りであった。
【0125】
【化16】
【0126】
上記化学組成から理解されるようにこの高分子化合物Aは、一般式(1)で表される構造単位Aを45モル%含み、一般式(2)で表される連結構造単位Bを50モル%含み、熱架橋性を高めるために導入される構造単位Qを5モル%の量で含有していた。
【実施例0127】
実施例1で合成された高分子量化合物Aを用いて、ITO基板の上に膜厚80nmの塗布膜を作製して、イオン化ポテンシャル測定装置(住友重機械工業株式会社製、PYS-202型)で仕事関数を測定した。その結果は以下の通りであった。
仕事関数
高分子量化合物A(ポリマー) 5.65eV
【0128】
本発明の高分子量化合物Aは、NPD、TPDなどの一般的な正孔輸送材料がもつ仕事関数5.4eVと比較して、好適なエネルギー準位を示しており、良好な正孔輸送能力を有していることが分かる。
【実施例0129】
<有機EL素子の作製>
図9に示す層構造の有機EL素子を、以下の手法により作製した。
具体的には、膜厚50nmのITOを成膜したガラス基板1を有機溶媒で洗浄した後に、UV/オゾン処理にてITO表面を洗浄した。このガラス基板1に設けられている透明陽極2(ITO)を覆うように、PEDOT/PSS(Ossila製)をスピンコート法により50nmの厚みで成膜し、ホットプレートの上に200℃で10分間乾燥して正孔注入層3を形成した。
【0130】
下記構造式の高分子量化合物(HTM-1)を、トルエンに0.4wt%溶解して塗布液を調製した。上記のようにして正孔注入層3が形成されている基板を、乾燥窒素にて置換したグローブボックス内に移し、ホットプレートの上に230℃で10分間乾燥した後に、正孔注入層3の上に、前記の塗布液を用いてスピンコート法により15nmの厚みの塗布層を形成し、さらに、ホットプレートの上に220℃で30分間乾燥して正孔輸送層4を形成した。
【0131】
【化17】
【0132】
実施例1で得られた高分子量化合物Aを、トルエンに0.4wt%溶解して塗布液を調製した。上記のようにして形成された正孔輸送層4の上に、前記の塗布液を用いてスピンコート法により15nmの厚みの塗布層を形成し、さらに、ホットプレートの上に220℃で30分間乾燥して電子阻止層5を形成した。
【0133】
上記のようにして電子阻止層5が形成されている基板を、真空蒸着機内に取り付け0.001Pa以下まで減圧した。電子阻止層5の上に、青色発光材料(EMD-1)とホスト材料(EMH-1)との二元蒸着により、膜厚34nmの発光層6を形成した。尚、二元蒸着では、蒸着速度比を、EMD-1:EMH-1=4:96とした。
【0134】
【化18】
【0135】
上記で形成された発光層6の上に、下記の電子輸送材料(ETM-1)および(ETM-2)を用いての二元蒸着により、膜厚20nmの電子輸送層7を形成した。
尚、二元蒸着では、蒸着速度比を、ETM-1:ETM-2=50:50とした。
【0136】
【化19】
【0137】
最後に、アルミニウムを膜厚100nmとなるように蒸着して陰極8を形成した。
このように、透明陽極2、正孔注入層3、正孔輸送層4、電子阻止層5、発光層6、電子輸送層7及び陰極8が形成されているガラス基板を、乾燥窒素にて置換したグローブボックス内に移動し、UV硬化樹脂を用いて封止用の他のガラス基板を貼り合わせ、有機EL素子とした。作製した有機EL素子について、大気中、常温で特性測定を行った。また、作製した有機EL素子に直流電圧を印加したときの発光特性を測定した。前記の測定結果は、表1に示した。
【0138】
<比較例1>
高分子量化合物Aに代えて、TFB(正孔輸送性ポリマー)をトルエンに0.4wt%溶解させて調製された塗布液を用いて電子阻止層5を形成した以外は、実施例3と全く同様にして有機EL素子を作製した。
【0139】
【化20】
【0140】
TFB(正孔輸送性ポリマー)は、ポリ[(9,9-ジオクチルフルオレニル-2,7-ジイル)-co-(4,4’-(N-(4-sec-ブチルフェニル))ジフェニルアミン](American Dye Source社製、Hole Transport Polymer ADS259BE)である。この比較例1の有機EL素子について、実施例1と同様に各種特性を評価し、その結果を表1に示した。
【0141】
尚、各種特性の評価において、電圧、輝度、発光効率および電力効率は、電流密度10mA/cmの電流を流したときの値である。また、素子寿命は、発光開始時の発光輝度(初期輝度)を700cd/mとして定電流駆動を行った時、発光輝度が560cd/m(初期輝度を100%とした時の80%に相当:80%減衰)に減衰するまでの時間として測定した。
【0142】
【表1】
【0143】
表1に示すように、電流密度10mA/cmの電流を流したときの発光効率は、比較例1の有機EL素子の4.48cd/Aに対して、実施例3の有機EL素子では6.40cd/Aと高効率であった。また、素子寿命(80%減衰)においては、比較例1の有機EL素子の5時間に対して、実施例3の有機EL素子では46時間と長寿命であった。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明の高分子量化合物は、正孔輸送能力が高く、電子阻止能力に優れているため、塗布型有機EL素子用の化合物として優れている。該化合物を用いて塗布型有機EL素子を作製することにより、高い発光効率および電力効率を得ることができると共に、耐久性を改善させることができる。例えば、家庭電化製品や照明の用途への展開が可能となった。
【符号の説明】
【0145】
1・・・ガラス基板
2・・・透明陽極
3・・・正孔注入層
4・・・正孔輸送層
5・・・電子阻止層
6・・・発光層
7・・・電子輸送層
8・・・陰極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10