(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052607
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】ポリマーを含有する改質材が添加された除染土壌の放射性物質濃度低減方法
(51)【国際特許分類】
G21F 9/10 20060101AFI20240404BHJP
G21F 9/28 20060101ALI20240404BHJP
G21F 9/06 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
G21F9/10 B
G21F9/28 Z
G21F9/06 551Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023168418
(22)【出願日】2023-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2022157712
(32)【優先日】2022-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(71)【出願人】
【識別番号】519287297
【氏名又は名称】松蔵技建株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松方 正彦
(72)【発明者】
【氏名】山崎 淳司
(72)【発明者】
【氏名】正田 武則
(72)【発明者】
【氏名】相川 光明
(72)【発明者】
【氏名】松原 岩夫
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 勝利
(57)【要約】 (修正有)
【課題】除染土壌から効率よくポリマー成分を除去し、土壌中の放射性物質濃度を低減するとともに、ポリマー成分、土壌有機物の除去により土壌の脱水性を改善することのできる新規の方法を提供する。
【解決手段】ポリマーを含有する改質材が添加された除染土壌のスラリーを調製する調製工程と、調製工程で得られたスラリーを加圧浮上処理する処理工程と、処理工程で分離されたポリマーを含有する浮上物を回収する回収工程とを備えた。好ましくは、調製工程において、固形分濃度5~30質量%のスラリーを調製し、処理工程における固形分濃度が1~7質量%である。また、加圧浮上処理が行われる槽内の水流の線速度が0.3cm/秒以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーを含有する改質材が添加された除染土壌のスラリーを調製する調製工程と、この調製工程で得られたスラリーを加圧浮上処理する処理工程と、この処理工程で分離されたポリマーを含有する浮上物を回収する回収工程とを備えたことを特徴とするポリマーを含有する改質材が添加された除染土壌の放射性物質濃度低減方法。
【請求項2】
前記調製工程において、固形分濃度5~30質量%のスラリーを調製することを特徴とする請求項1に記載のポリマーを含有する改質材が添加された除染土壌の放射性物質濃度低減方法。
【請求項3】
前記処理工程における固形分濃度が1~7質量%であることを特徴とする請求項2に記載のポリマーを含有する改質材が添加された除染土壌の放射性物質濃度低減方法。
【請求項4】
前記処理工程において注入される加圧水の注入圧力は0.3~0.8MPa、注入速度は加圧浮上処理が行われる槽の容量に対して0.1~0.5体積%/分であることを特徴とする請求項3に記載のポリマーを含有する改質材が添加された除染土壌の放射性物質濃度低減方法。
【請求項5】
前記処理工程において加圧浮上処理が行われる槽内の水流の線速度が0.3cm/秒以上であることを特徴とする請求項3に記載のポリマーを含有する改質材が添加された除染土壌の放射性物質濃度低減方法。
【請求項6】
前記処理工程における滞留時間は1~10分であることを特徴とする請求項4に記載のポリマーを含有する改質材が添加された除染土壌の放射性物質濃度低減方法。
【請求項7】
前記調製工程において、酸化剤を添加すること、あるいは除染土壌のスラリーを酸化装置により処理することを特徴とする請求項2に記載のポリマーを含有する改質材が添加された除染土壌の放射性物質濃度低減方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか記載のポリマーを含有する改質材が添加された除染土壌の放射性物質濃度低減方法による、除染土壌に含まれるポリマー成分、有機物の除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加圧浮上法による除染土壌の放射性物質濃度低減、および除染土壌に含まれる有機物質、ポリマー成分の除去による土壌改質に関する。
【背景技術】
【0002】
東京電力福島第一原子力発電所事故により放出された放射性物質は、広い地域に拡散して環境汚染を引き起こし、平成24年には16万人以上の市民が避難を行った。放射能汚染による環境被害を修復するために、これまで福島県内では除染作業が行われてきた。
【0003】
除染等で生じた除去土等については、中間貯蔵施設に一定期間保管した後、30年以内に福島県外で最終処分を行うことが定められている。除染作業から発生した除染土壌等の量は、1,400万m3と膨大な量になると推定されている。このため、環境省は除染土壌を放射性物質濃度範囲で区分し、処理方法、貯蔵方法を検討している。そして、除染土壌のうち放射性物質濃度15,000~62,000Bq/kgの範囲の土壌について、土壌Cという名が付けられており、物量134万m3が存在する。土壌Cについては、湿式分級処理により減容化処理を行い、放射性物質濃度を低減した粒径75μm~2mmの範囲の砂質土については、公共事業などで再生利用し、また、濃縮した細粒土を中間貯蔵する方針が発表されている。このような背景により、経済性と安全性に優れた除染土の減容化処理技術が求められている。
【0004】
一方、最近では、中間貯蔵施設内で20mmの乾式分級により、除染土壌から草木、枝葉、石などの異物除去処理が行われている。乾式分級では、除染土壌が高含水であれば土壌が団結して異物に付着するために処理が困難となる。この問題を解消するため、現在、ほとんどの除染土壌に、高吸水性ポリマー(SAP)、あるいは高分子凝集剤などのポリマー成分を含む改質材が添加されている。
【0005】
すなわち、改質材を除染土壌に加えることで、土壌中の水分を改質材に含まれるポリマー成分に吸着させることにより、団結して粘性の高い土壌が流動性の良い土壌に改質される。中間施設では、改質材を添加し、土を改質した後に乾式分級処理が行われている。
【0006】
前記のとおり、土壌Cの除染土壌については、湿式分級により減容化処理を行う方針となっているが、改質材が添加された除染土壌は湿式分級が難しくなる。すなわち、ポリマー成分を含む改質材を加えた土壌は粘着質で容易に凝集するため、無添加の土壌と比べて75μmサイズのふるいを通過することが困難になる。また、改質材を添加された除染土壌は、分級処理後の土にもポリマー成分が残留し、これに放射性物質を保持する細粒土粒子が付着するために放射性物質濃度が高くなる。発明者らの試験によれば、改質材を添加した除染土壌は、改質材を添加しない土壌に比べて、湿式分級処理後の土の放射性物質濃度が高く、さらに高含水となり軟弱化する傾向が認められた。
【0007】
改質材が加えられた除染土壌は、前記のように湿式分級後も放射性物質濃が残留し、さらに高含水となるために締固め強度の不足を引き起こし、再生利用を行うための障害となる。また、土壌中に残存した有機物は、セメントなどのアルカリ固化材による強度改良の阻害要因となる。これらの問題を解決するには、除染土壌から有機物質、ポリマー成分と、これに付着する放射性物質を保持した微細土を除去すれば良いと考えられる。
【0008】
除染土壌から、ポリマーを除去するためには、土壌とポリマーとの比重差が大きいことから、湿式比重選別法を用いることが好適であると考えられる。湿式比重選別法にはジグ選別、薄流選別、WILFLEYテーブルなどの手法がある。これらの手法はおもに鉱業分野で開発・実用化され、現在では、リサイクル分野でも活用されている。しかしながら、これらの手法は適用できる粒径範囲が0.5~1mm以上となり、この1/10レベルの粒径の土の比重選別が必要となる除染土壌の処理に利用することは困難である。
【0009】
ここで、特許文献1には、粒径10~50μmのマイクロバブルを利用した放射性セシウムを含有する汚染スラリーの浮選による処理方法について記載されている。この文献に記載された方法では、マイクロバブルによる浮選時に、処理水にゼオライト、カオリンなどのセシウム捕捉剤を添加し、さらに起泡剤として低級アルコールを使用する。これにより処理コストが高価になってしまう課題がある。
【0010】
また、特許文献2には、最頻粒子径が500nm以下のナノバブル水を用いた放射性物質汚染物の汚染除去方法について記載されている。この文献では、放射性物質が表面に付着して汚染された放射性物質汚染物を前記ナノバブル水に浸漬して放射性物質を溶出し、若しくは、放射性物質汚染物の表面に前記ナノバブル水を流動させて放射性物質を洗浄する方法が示されている。しかし、原発事故後10年以上を経過した現在では、放射性セシウムは粘土の細孔に吸着されており、汚染土壌の除染への適用は困難であると思われる。
【0011】
また、特許文献3には、マイクロバブルを用いた、放射能汚染土の処理方法の記載がされている。この文献ではマイクロバブルを含んだ水を洗浄水として用いる湿式分級処理方法が示されている。この方法では、マイクロバブルがマイナスに帯電し、また、この優れた浸透性を生かし、プラス帯電のセシウムと接触して反応し、除染効果が向上する作用を期待している。
【0012】
さらに、特許文献4には、微細な気泡を含む加圧水を、放射性物質で汚染した表土に散水し、集水路・池を通じて集水回収した放射性物質を含む汚染水を加圧浮上処理、あるいは凝集沈澱で処理する方法が示されている。しかし、この方法は広範囲な表土、草木堆積物に加圧水を散水し、浮き上がった微細な無機粒子、有機物を回収して除去する除染方法を示したものであり、土壌中に含まれる放射性物質や有機物質を除去処理するものではない。
【0013】
このように、上記4件の特許文献には、様々な処理方法が開示されているものの、改質材が添加され、湿式分級により放射性物質濃度の低減が困難となった除染土壌壌の処理方法に関する記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2013-250261号公報
【特許文献2】特開2013-140096号公報
【特許文献3】特開2013-164379号公報
【特許文献4】特開2013-83616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、除染土壌から効率よくポリマー成分、有機物質を除去し、土壌中の放射性物質濃度を低減するとともに、土壌を改質することのできる新規の方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を行い、有機物質の排水処理に利用されている加圧浮上法を除染土壌の処理に応用し、除染土壌を含む濃厚なスラリーを直接、加圧浮上槽に投入して気泡の浮上による比重分離処理を行うことで、土壌そのものを浄化することができることを見出し、本発明に想到した。
【0017】
すなわち、本発明のポリマーを含有する改質材が添加された除染土壌の放射性物質濃度低減方法は、ポリマーを含有する改質材が添加された除染土壌のスラリーを調製する調製工程と、この調製工程で得られたスラリーを加圧浮上処理する処理工程と、この処理工程で分離されたポリマーを含有する浮上物を回収する回収工程とを備えたことを特徴とする。
【0018】
また、前記調製工程において、固形分濃度5~30%のスラリーを調製することを特徴とする。
【0019】
また、前記処理工程における固形分濃度が1~7質量%であることを特徴とする。
【0020】
また、前記処理工程において注入される加圧水の注入圧力は0.3~0.8MPa、注入速度は加圧浮上処理が行われる槽の容量に対して0.1~0.5体積%/分であることを特徴とする。
【0021】
また、前記処理工程において加圧浮上処理が行われる槽内の水流の線速度が0.3cm/秒以上であることを特徴とする。
【0022】
また、前記処理工程における滞留時間は1~10分であることを特徴とする。
【0023】
さらに、前記調製工程において、酸化剤を添加すること、あるいは除染土壌のスラリーを酸化装置により処理することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明のポリマーを含有する改質材が添加された除染土壌の放射性物質濃度低減方法によれば、除染土壌から効率よくポリマー成分を除去し、土壌中の放射性物質濃度を低減するとともに、ポリマー成分の除去により土壌の脱水性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明のポリマーを含有する改質材が添加された除染土壌の放射性物質濃度低減方法を実施するための装置の構成の一例を示すベンチスケール試験装置の概略図である。
【
図2】本発明のポリマーを含有する改質材が添加された除染土壌の放射性物質濃度低減方法を実施するための装置の構成の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、有機物質の排水処理に利用されている加圧浮上法を除染土壌に含まれる放射性物質、有機物質の分離処理に利用するものである。
【0027】
加圧浮上法は、空気と水を共存させた状態で数気圧以上に加圧して、水に空気を過飽和溶解させ、その後減圧することで、大量の微細気泡が発生する現象を利用する。圧力の開放により発生する直径100μm程度の気泡を利用して、比重の小さい有機物などを浮上させ分離する原理である。加圧浮上法は、下水道、食品製造業における排水中の有機物質分離等に利用されている。排水処理は主に有機排水処理分野で多くの実績をもつが、これまで土壌処理に用いられたことはない。
【0028】
ここで、気泡を利用する環境浄化技術として、ファインバブル、マイクロバブル、ナノバブルを利用する技術がある。
【0029】
ファインバブルは、50~100μmオーダーの気泡サイズであり、本発明で使用する加圧浮上法で利用されている。
【0030】
一方、マイクロバブルは、10~50μm以下の気泡のことをいう。マイクロバブルは、コロイドとしての性質をもつ。マイクロバブルの高い気体の溶解性、帯電する性質を利用して、水質浄化、種々の化学処理の利用が検討されている。マイクロバブルは浮上速度が遅く、本発明のような有機物質の浮上分離に使用することは困難となる。マイクロバブルを浮上分離に利用する場合には気泡剤が必要となる。また、ナノバブルは、数十~数百nm程度の気泡を意味する。ナノバブルは、水中に数週間~1か月間消失せず、水中に滞留しフリーラジカルの物理化学的特性を有することが知られている。本発明のような有機物質の浮上分離に使用することは困難となる。
【0031】
加圧浮上法の優位性は、比重分離処理のために気泡剤、界面活性剤などの薬品を使用しないことである。このため、経済性が高く、また、処理水は、加圧水、土壌をスラリー化する用水として循環利用できる。そして、加圧水注入により微細な土粒子の沈降速度以上の上方流速を与えることで、微細な土粒子を浮上分離することができる。
【0032】
すなわち加圧槽内の上方流速を0.4cm/秒以上とすると、粒径75μm未満の粘土、シルトに吸着した放射性物質を泥水中から浮上分離処理することができる。これにより、沈殿物の放射性物物質、有機物を好適に分離除去することができる。
【0033】
土壌中の有機物は、セメント、石灰などのアルカリ固化材による強度改良における阻害要因となる。このため、土壌中の有機物を除去することより、セメントなどアルカリ材による固化処理を経済的に行うことができる。
【0034】
加圧浮上法では土壌中に含む有機物を除去することができる。公知の浮沈分離処理と組合せて土壌の処理を行えば、比重1以下の有機物質を浮沈分離で、比重1を超える有機物質を加圧浮上で除去することができ、効率的に有機物処理を行うことができる。
【0035】
本発明では、下記の方法により、ポリマーを含有する改質材が添加された除染土壌から効率よく、ポリマー成分を除去し、これに付着した放射性物質を保持した粘土など微細土も除去できるため、土壌中の放射性物質濃度を効率よく低減することが可能である。
【0036】
(1)除染土壌に水を加えて、好ましくは固形分濃度5~30質量%、より好ましくは固形分濃度10~20質量%のスラリーを作成し、加圧浮上槽に投入する。また、スラリーを加圧水と混合した後に加圧水槽に注入しても良い。このときの加圧浮上槽内の固形分濃度が1~7質量%となるように調整するのが好ましく、1~5質量%となるように調整するのがより好ましい。
【0037】
(2)加圧浮上法による一般的な排水処理では、固形分濃度は1mg/L程度に調整されるが、本発明では、この10~数十倍レベルの固形分濃度で、土壌中に含まれるポリマー成分の分離処理を行う。
【0038】
(3)加圧浮上槽へ加圧水の注入圧力は0.3~0.8MPa、注入速度は加圧浮上槽の容量に対して0.1~0.5体積%/分とするのが好ましい。
【0039】
(4)加圧浮上槽内の水流の線速度は0.3cm/秒以上とするのが好ましく、さらには0.4~1.0cm/秒の範囲とすることが好ましい。
【0040】
(5)加圧浮上による土壌中のポリマー成分の比重分離に要する処理時間は、通常、1~10分程度である。
【0041】
(6)加圧浮上処理後の浮上物は、スキマー等を使用して回収する。浮上物は放射性物質濃度が高くなるため、脱水後に高濃度廃棄物として処理を行う。
【0042】
(7)加圧浮上処理後の沈殿物は、吸引ポンプ、あるいはスクリューコンベアで回収する。水切り、脱水して再生土として利用することができる。
【0043】
(8)加圧槽から排出した懸濁水は、細粒土を含むため、好ましくは公知の凝集沈澱処理、凝集後に加圧浮上処理を行い、微細土を分離してSS濃度数百mg/L、好ましくは100mg/L以下に調整し、加圧水として循環利用する。
【0044】
また懸濁水に含まれる微細土放射性物質濃度が高いため、回収して脱水後に高濃度廃棄物として処理を行う。
【0045】
つぎに、上記の本発明の方法を実施するための装置の構成の一例をベンチスケール試験装置として
図1、フロー図として
図2に示す。
【0046】
図1の試験装置では、放射性物質を含む汚染土壌を含むスラリーは加圧水と合流した後に加圧水整流板を通して容量62Lの加圧浮上槽に導入される。浮上物はオーバーフロー採取管、懸濁物は懸濁液排出管を通じて排出される。また、沈殿物は、沈殿物採取管を通じて、試験後に排出、採取する。
【0047】
図2を参照すると、ホッパー1に収容された除染土壌がスクリュー2によってスラリー槽3に送られる。スラリー槽3では、除染土壌に水が加えられてスラリーが調製される。一方で、加圧水タンク4では、加圧水ポンプ5から導入された水と、空気流量計6を経由して導入された圧縮空気により、加圧水が生成される。そして、スラリー槽3からのスラリーと、加圧水タンク4からの加圧水が加圧浮上槽7に送られる。
【0048】
加圧浮上槽7では、加圧浮上処理が行われ、浮上物はスキマー8によって集められて回収される。沈殿物は、スクリュー9によって回収される。あるいは、沈殿物は、ポンプで排出してもよい。処理水の一部は、加圧水ポンプ5に向けて送られ、加圧水として再利用される。
【0049】
なお、除染土壌のスラリーを調整する際に、次亜塩素酸ナトリウム、過酸化水素水、塩素酸塩、次亜塩素酸塩などの公知の酸化剤を添加して、ポリマー成分により生成した凝集フロックのサイズを小さくすることで、加圧浮上処理の効率を上げることが可能である。あるいは、除染土壌のスラリーをオゾン、UVなど公知の酸化装置を用いて処理し、凝集フロックのサイズを小さくすることで、加圧浮上処理の効率を上げることが可能である。
【0050】
以下の実施例に基づいて本発明についてより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例0051】
除染土壌(礫混じり粘土)にテクニカ合同(株)製改質材を3重量%添加し、この土壌を高圧洗浄して振動ふるいにより分級して粒径75μm~2mmの洗浄土を得た。また、改質材を添加しない土壌にも同様の処理を行なった。この処理で得られた洗浄土、原土の特性について表1に示した。
【0052】
高吸水ポリマー、高分子凝集剤などのポリマー成分を含む改質材を添加した洗浄土については、未添加の洗浄土と比べて高含水となり、また放射性物質濃度も高くなる。
【0053】
前記の改質材を添加した洗浄土を加圧浮上処理し、分離された浮上物、沈殿物の特性を測定した。このときの加圧浮上処理の条件は下記のとおりであった。ここで、固形分濃度は、加圧浮上槽容量に対して添加した除染土壌の有姿重量の割合を示す。
試験条件:加圧浮上槽容量40L、圧力0.4MPa、固形分濃度3質量%、加圧水流量4L/分、除染土壌添加スラリー濃度20%、加圧水注入率10体積%/分、運転時間5分、加圧浮上槽断面積394cm2、線速度=0.16cm/秒
加圧浮上処理により得られた浮上物は強熱減量が大きく、ポリマー成分、土壌中の有機物が分離されたと推察できる。また、放射性物質濃度も大きな特性を示している。一方、沈殿物の放射性物質濃度は処理前の土壌から37%減少し、強熱減量も低下している。湿式分級では除去できなかった放射性物質を本発明の加圧浮上処理により除去することができた。
本実施例では、放射性物質を保持するのが粒径が小さい粘土であり、また、この含有分が少ないため、水流の線速度が比較的小さい条件でも、放射性物質濃度の低下が可能であったと思われる。