(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052631
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】水中のトリハロメタン濃度低減方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/72 20230101AFI20240404BHJP
【FI】
C02F1/72 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023170029
(22)【出願日】2023-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2022158240
(32)【優先日】2022-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000154727
【氏名又は名称】株式会社片山化学工業研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】藤戸 洸太
【テーマコード(参考)】
4D050
【Fターム(参考)】
4D050AA01
4D050AA02
4D050AA03
4D050AA04
4D050AA06
4D050AB19
4D050BB09
4D050BB20
(57)【要約】
【課題】原水中のトリハロメタン濃度を効果的に低減させることができる水中のトリハロメタン濃度低減方法を提供する。
【解決手段】トリハロメタンを含む原水中に過酢酸及び/又は過酸化水素を含有する薬剤を添加する工程を有することを特徴とする水中のトリハロメタン濃度低減方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリハロメタンを含む原水中に過酢酸及び/又は過酸化水素を含有する薬剤を添加する工程を有することを特徴とする水中のトリハロメタン濃度低減方法。
【請求項2】
前記原水に対する前記薬剤の過酢酸濃度が0.01~10mg/Lである請求項1記載の水中のトリハロメタン濃度低減方法。
【請求項3】
前記原水に対する前記薬剤の過酸化水素濃度が0.01~10mg/Lである請求項1又は2記載の水中のトリハロメタン濃度低減方法。
【請求項4】
前記原水中のトリハロメタン濃度が0.001mg/L以上である請求項1又は2記載の水中のトリハロメタン濃度低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中のトリハロメタン濃度低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般の水道水では、浄水場や下水処理場で消毒のため添加される塩素が、水中に存在するフミン質などの有機化合物と反応することにより、発ガン性物質であるトリハロメタンが生成されるという問題があった。
また、発電所、製鉄所、石油化学プラントなどでは、工業用の冷却水として海水が多量に使用されており、海水取水路壁や配管内および熱交換器内には、ムラサキイガイなどのイガイ類やフジツボ類やコケムシ類などの海生生物種が多量に付着して、様々な障害を惹き起こす。これら海生生物種の密集着生(付着)を防止するために、従来から工業用の冷却水に塩素(次亜塩素酸ナトリウム、電解塩素もしくは塩素ガスなどの塩素発生剤)の添加が行われているが、発ガン性物質で環境への影響が大きいトリハロメタンが生成されるという問題があった。
【0003】
このような水中に生成するトリハロメタンの問題に対し、例えば、特許文献1には、過酸によって飲料水の原水中のトリハロメタン等の消毒副産物の前駆体を低減するための方法および組成物が開示されており、過酸として過酢酸が明記されている。
また、例えば、特許文献2には、飲用水にトリハロメタン等の有害な消毒副生成物を生じない消毒剤の一例として過酢酸が開示されている。
また、例えば、特許文献3には、生成してしまったトリハロメタンの分解除去に、オゾンガスと紫外線とが有効である旨が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2018/045035号
【特許文献2】中国特許出願公開第107821433号明細書
【特許文献3】特開平04-363190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、請求項1に記載の通り、まず原水と過酸を接触させ、(後工程で塩素を添加した際に)トリハロメタン等の消毒副産物の生成を低減するものであり、既に生成してしまった原水中のトリハロメタンの濃度を低減する方法とは明確に異なり、特許文献2に記載の方法も既に生成してしまった原水中のトリハロメタンの濃度の低減に過酢酸が有効である旨は一切開示されていない。
更に、特許文献3に記載の技術は、オゾンガス発生装置や紫外線発生装置が必要であるため経済的な課題や設置場所の確保が必要といった課題があり、また、照射する紫外線が行き渡りにくい水(例えば懸濁物質の多い水)や箇所では効果が充分に発揮されないことなどが推測される。
【0006】
本発明は、このような従来の課題に鑑み、原水中のトリハロメタン濃度を効果的に低減させることができる水中のトリハロメタン濃度低減方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討した結果、過酢酸及び/又は過酸化水素は、原水中に含まれるトリハロメタンを効果的に除去することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
(1)本発明は、トリハロメタンを含む原水中に過酢酸及び/又は過酸化水素を含有する薬剤を添加する工程を有することを特徴とする水中のトリハロメタン濃度低減方法である。
(2)本発明は、上記原水に対する上記薬剤の過酢酸濃度が0.01~10mg/Lである上記(1)記載の水中のトリハロメタン濃度低減方法である。
(3)本発明は、上記原水に対する上記薬剤の過酸化水素濃度が0.01~10mg/Lである上記(1)又は(2)記載の水中のトリハロメタン濃度低減方法である。
(4)また、本発明は、上記原水中のトリハロメタン濃度が0.001mg/L以上である上記(1)~(3)のいずれかに記載の水中のトリハロメタン濃度低減方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、原水に含まれるトリハロメタン濃度を効果的に低減させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の水中のトリハロメタン濃度低減方法(以下、本発明の方法ともいう)は、トリハロメタンを含む原水中に過酢酸及び/又は過酸化水素を含有する薬剤を添加する工程を有することを特徴とする。
本発明の発明者らは、環境への影響を考慮して、水中のトリハロメタン濃度の低減方法を検討するために実験を重ねた。その結果、本発明者らは、水中に生成したトリハロメタンに対し過酢酸及び/又は過酸化水素を含有する薬剤を添加することで効果的にトリハロメタン濃度を低減させることができることを見出した。
従来、過酸(過酢酸等)を使用して飲料水中にトリハロメタンが生成されることを防止する技術は、特許文献1、2に記載のように種々検討されていたが、これらの技術は、本発明のように原水中に既に生成されたトリハロメタンを除去するものではなかった。
また、特許文献3に記載の技術は、紫外線照射とオゾン添加とを組み合わせることで水中のトリハロメタンの除去を図ることができるが、過酢酸や過酸化水素を含有する薬剤を用いて水中に含まれるトリハロメタンの分解除去を行うことは記載も示唆もされていない。また、特許文献3に記載の技術は、上記の通りオゾンガス発生装置や紫外線発生装置が必要であるため経済的な課題や設置場所の確保が必要といった課題があり、また、照射する紫外線が行き渡りにくい水(例えば懸濁物質の多い水)や箇所では効果が充分に発揮されないという課題があるが、本発明の方法は、原水に直接薬剤を添加するだけで実施でき、新たな装置・設備を必要とせず、懸濁物質の多い水や、紫外線の行き届かない箇所でも効果を発揮できる。
【0011】
本発明の方法において、上記原水に対する上記薬剤の過酢酸濃度が0.01~10mg/Lであることが好ましい。言い換えると、上記原水に対し、過酢酸濃度が0.01~10mg/Lとなるように上記薬剤を添加することが好ましい。上記過酢酸濃度が0.01mg/L未満であると、原水中のトリハロメタンの分解が不充分となることがあり、10mg/Lを超えると、添加量に応じたトリハロメタン濃度低減効果が期待できず、経済的な面から好ましくなく、また、例えば、処理後の水系においてスライムのような生物付着による障害が発生しやすくなる。
薬剤添加量をより少なくできる観点から上記過酢酸のより好ましい濃度範囲は0.02~1.0mg/L、更に好ましい範囲は0.05~0.5mg/L、より更に好ましい範囲は0.07~0.3mg/L、特に好ましい範囲は0.1~0.2mg/Lである。言い換えると、上記原水に対し、過酢酸濃度が0.02~1.0mg/Lとなるように上記薬剤を添加することがより好ましく、過酢酸濃度が0.05~0.5mg/Lとなるように上記薬剤を添加することが更に好ましく、過酢酸濃度が0.07~0.3mg/Lとなるように上記薬剤を添加することがより更に好ましく、また、過酢酸濃度が0.1~0.2mg/Lとなるように上記薬剤を添加することが特に好ましい。
なお、本明細書において、例えば、「1~10」のように記載されている数値範囲は、1以上10以下を意味しており、数値範囲の下限として「1」を含み、上限として「10」を含むという意味である。そのため、各数値範囲の記載はそれぞれ下限と上限の記載として、他の数値範囲の下限及び上限と組み合わせて新たな数値範囲とすることもできる。
【0012】
本発明の方法において、上記原水中のトリハロメタン濃度が0.001mg/L以上であることが好ましい。0.001mg/L未満の濃度はそもそも定量できないため、薬剤添加の効果を確認することができない。本発明では上記原水中にトリハロメタンが含まれていれば所望の効果を奏する。すなわち、本発明では上記原水中にトリハロメタンが含まれていることが重要であるため、上記原水中のトリハロメタン濃度の上限は特に限定されない。
【0013】
本発明の方法において、上記原水中のトリハロメタン濃度が比較的低濃度である場合、例えば、0.001mg/L以上0.020mg/L未満である場合、上記原水中の過酢酸濃度の相違がトリハロメタンの除去効果にほとんど影響を及ぼさない。一方、上記原水中のトリハロメタン濃度が例えば、0.020mg/L以上0.100mg/L以下程度と比較的高い場合、上記原水中の過酢酸濃度の相違がトリハロメタンの除去効果に影響を及ぼす傾向にある。よってこの場合、上記原水中の過酢酸濃度は0.07~0.3mg/L程度であることが好ましく、0.1~0.2mg/L程度であることがより好ましい。すなわち、上記原水中のトリハロメタン濃度が0.020~0.100mg/Lである場合、上記原水に対し、過酢酸濃度が0.07~0.3mg/Lとなるように上記薬剤を添加することが好ましく、過酢酸濃度が0.1~0.2mg/Lとなるように上記薬剤を添加することがより好ましい。さらに、この場合の上記原水が海水であることが好ましい。
【0014】
本発明の方法において、上記原水に対する上記薬剤の過酸化水素濃度が0.01~10mg/Lであることが好ましい。言い換えると、上記原水に対し、過酸化水素濃度が0.01~10mg/Lとなるように上記薬剤を添加することが好ましい。上記過酸化水素濃度が0.01mg/L未満であると、原水中のトリハロメタンの分解が不充分となることがあり、10mg/Lを超えると、添加量に応じたトリハロメタン濃度低減効果が期待できず、経済的な面から好ましくない。
薬剤添加量をより少なくできる観点から上記過酸化水素のより好ましい濃度範囲は0.02~8.0mg/L、更に好ましい範囲は0.05~5.0mg/L、より更に好ましい範囲は0.07~3.0mg/L、特に好ましい範囲は0.1~2.0mg/Lである。言い換えると、上記原水に対し、過酸化水素濃度が0.02~8.0mg/Lとなるように上記薬剤を添加することがより好ましく、過酸化水素濃度が0.05~5.0mg/Lとなるように上記薬剤を添加することが更に好ましく、過酸化水素濃度が0.07~3.0mg/Lとなるように上記薬剤を添加することがより更に好ましく、また、過酸化水素濃度が0.1~2.0mg/Lとなるように上記薬剤を添加することが特に好ましい。
【0015】
[過酢酸及び/又は過酸化水素を含有する薬剤1]
一実施形態における本発明の方法において、過酢酸及び/又は過酸化水素を含有する薬剤は、過酢酸を含有していればよく、工業用として市販されている過酢酸溶液や、オンサイト(本発明の方法が使用される場所)で合成した過酢酸溶液を用いることができ、特に限定されるものではない。例えば、過酢酸及び/又は過酸化水素を含有する薬剤は、水溶液中で過酸化水素と酢酸との平衡反応によって製造されたものであってよく、このような平衡反応により製造された過酢酸溶液を、過酢酸及び/又は過酸化水素を含有する薬剤として用いることが好ましい。平衡反応により製造された過酢酸溶液は、過酸化水素と、過酢酸と、酢酸とを含有する。過酢酸溶液中の過酢酸濃度、酢酸濃度及び過酸化水素濃度(すなわち、過酢酸及び/又は過酸化水素を含有する薬剤中の過酢酸濃度、酢酸濃度、過酸化水素濃度)は、公知の測定方法(例えば滴定法)によって測定することができる。
なお、過酢酸及び/又は過酸化水素を含有する薬剤を合成する場合に用いられる酢酸は、酢酸又はその塩であってよく、工業用に市販されている酢酸溶液を用いてもよい。
また、過酢酸及び/又は過酸化水素を含有する薬剤を合成する場合に用いられる過酸化水素は、工業用に市販されている過酸化水素、過酸化水素発生源(過酢酸を除く)を用いてもよい。
【0016】
[過酢酸及び/又は過酸化水素を含有する薬剤2]
一実施形態における本発明の方法において、過酢酸及び/又は過酸化水素を含有する薬剤は、過酸化水素を含有していればよく、工業用として市販されている過酸化水素溶液を用いても良く、工業用に市販されている過酸化水素、過酸化水素発生源(過酢酸を除く)を用いて上記薬剤を調製してもよい。
【0017】
[過酢酸及び/又は過酸化水素を含有する薬剤3]
一実施形態における本発明の方法において、過酢酸及び/又は過酸化水素を含有する薬剤は、過酢酸及び過酸化水素を含有してもよく、工業用に市販されている過酢酸溶液及び過酸化水素溶液を用いて、上記薬剤を調製してもよく、また、公知の方法を用いて得た過酢酸溶液及び過酸化水素溶液を混合することにより調製してもよい。また、例えば、上述したような水溶液中で過酸化水素と酢酸との平衡反応によって製造されたものは、過酸化水素と、過酢酸と、酢酸とを含有し、過酢酸及び過酸化水素を含有する薬剤にも該当する。
【0018】
本発明の方法において、過酢酸及び/又は過酸化水素を含有する薬剤の添加方法は特に限定されないが、一又は複数の実施形態において、配管に接続された配管からポンプ等により送液することにより行うことが挙げられる。添加においては、海水や淡水で薬剤を適宜希釈してもよい。
【0019】
また、本発明の方法において、上記過酢酸及び/又は過酸化水素を含有する薬剤の添加場所としては、原水にトリハロメタンが存在する箇所、又は、原水においてトリハロメタンが生成され得る箇所の後段であれば特に限定されない。
【0020】
本発明の方法では、本発明の効果を阻害しない範囲において、当該技術分野で公知の他の添加剤が上記原水に添加されていてもよく、該添加剤が上記薬剤を添加した後の原水に添加されてもよい。
上記添加剤としては、例えば、海生生物付着防止剤(環境への影響が生じない程度の低濃度のハロゲン系薬剤(例えば、次亜塩素酸、次亜臭素酸、海水電解液、モノクロラミン等の結合塩素や結合臭素、N-クロロスルファマート等の安定化塩素や安定化臭素、二酸化塩素等)、過酸化水素、ジアルキルジチオカルバミン酸塩、カチオン系界面活性剤等);金属腐食防止剤;消泡剤;スケール分散剤;殺菌剤;凝集剤等が挙げられる。
【0021】
本発明の方法において、原水中の成分濃度(過酢酸濃度、酢酸濃度及び過酸化水素濃度等)は、公知の方法により測定することができる。
【0022】
本発明の方法が用いられる、トリハロメタンを含む原水は、トリハロメタンを含む水であれば特に限定されず、例えば、海水、河川水、湖沼水、工業用水、水道水、下水処理水等が挙げられる。なお、トリハロメタンは、メタンの3つの水素原子がハロゲンで置換されたものであり、水中に含まれるフミン質等の有機物(以下、トリハロメタン前駆体という。)と塩素等のハロゲン化合物が反応して生成する。本発明の方法が用いられる対象である、トリハロメタンを含む原水は、本発明の方法が用いられる際にトリハロメタンを含んでいればよい。すなわちトリハロメタン前駆体を含有する原水にハロゲン化合物が添加されると、該原水中でトリハロメタンが生成され、トリハロメタンを含む原水になるため、本発明の方法はこれを対象とすることができる。これらのトリハロメタンを含む原水は、他の有機物及び/又は無機物を含んでいてもよい。
【0023】
また、本発明の方法において、トリハロメタン濃度は、総トリハロメタン濃度を意味する。総トリハロメタン濃度は、水質基準に関する省令の規定に基づき厚生労働大臣が定める方法(平成15年厚生労働省告示第261号)に則り測定することができる。
【0024】
本発明の方法において、過酢酸及び/又は過酸化水素を含有する薬剤が酢酸を含む場合、原水に添加される酢酸の積算濃度が1日当たり70mg/L以下であることが好ましい。酢酸は原水中の微生物に利用され、水中の酢酸量が増加すると微生物量が増加する傾向があるためである。原水に添加される酢酸の積算濃度は、1日当たり50mg/L以下がより好ましい。
【0025】
本発明の方法において、原水に含まれるトリハロメタンの50%以上がブロモホルムであり、ブロモホルムが0.02mg/L以上含まれる場合、上記原水中の過酢酸濃度は0.1~0.6mg/Lであることが好ましく、0.1~0.5mg/Lであることがより好ましく、0.13~0.5mg/Lであることが更に好ましい。すなわち、原水に含まれるトリハロメタンの50%以上がブロモホルムであり、ブロモホルムが0.020mg/L以上含まれる場合、上記原水に対し、過酢酸濃度が0.1~0.6mg/Lとなるように上記薬剤を添加することが好ましく、過酢酸濃度が0.1~0.5mg/Lとなるように上記薬剤を添加することがより好ましく、過酢酸濃度が0.13~0.5mg/Lとなるように上記薬剤を添加することが更に好ましい。原水に含まれるトリハロメタンのうち、ブロモホルムは過酢酸濃度の相違がブロモホルムの除去効果に影響を及ぼす傾向にあるためである。さらに、この場合の上記原水は海水を含まないことが好ましい。
【0026】
以下、実施例を用いて本開示をさらに説明する。ただし、本開示は以下の実施例に限定して解釈されない。
【実施例0027】
[試験例1]
国内某所で採取した海水を原水とし、下記表1に示した各薬剤を表1に示した添加濃度となるように原水中に添加した。
その後、室温で1時間攪拌して攪拌後の原水に含まれるトリハロメタン濃度を平成15年の厚生労働省告示第261号に記載されているヘッドスペースGC/MS分析法を用いて測定した。
なお、下記の表中に示す項目の「総トリハロメタン」は、クロロホルム、ブロモジクロロメタン、ジブロモクロロメタンおよびブロモホルムの4物質を意味するが、本試験において定量下限値未満であった物質は表中に記載されていない。
【0028】
(過酢酸及び/又は過酸化水素を含有する薬剤の調製)
下記手順で過酢酸及び/又は過酸化水素を含有する薬剤を調製した。
45%過酸化水素45%、酢酸36%、水17.5%、硫酸0.5%、60%HEDP(1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸)水溶液1%となるよう混合し、室温で2日間放置することで過酢酸溶液を調製した。
調製した過酢酸溶液の過酸化水素及び総過酸化物濃度を、従来公知の滴定法によって測定し、得られた結果から組成を算出したところ、過酸化水素15.7%、過酢酸10.1%、酢酸28.1%であった。
調製した過酢酸溶液(過酢酸及び過酸化水素を含有)は、適宜純水で希釈することで調整され、過酢酸が表1に示した添加濃度となるように原水中に添加された。
次に、実施例4に係る薬剤として、過酸化水素として45%過酸化水素溶液を用い、これを適宜純水で希釈することで調整し、過酸化水素が表1に示した添加濃度となるように原水中に添加した。
また、比較例2、3に係る薬剤として、有効塩素濃度12%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を用い、これを適宜純水で希釈することで調整し、遊離残留塩素濃度が表1に示した添加濃度となるように原水に添加した。
【0029】
【0030】
表1に示したように、原水中に過酢酸を含む薬剤を添加した実施例1~3は、薬剤を添加しなかった比較例1と比較してトリハロメタン濃度が明らかに低減した。
また、原水中に過酸化水素を含む薬剤を添加した実施例4は、薬剤無添加の比較例1と比べ、トリハロメタン濃度の低減効果が認められた。
なお、実施例1~3で使用された薬剤における過酸化水素の含有率は15.7%であることから、実施例3(過酢酸の添加濃度0.1mg/L)における過酸化水素の添加濃度は0.16mg/Lであり、実施例4における過酸化水素の添加濃度0.35mg/Lに対し約半分である。しかしながら、実施例3で得られたトリハロメタン濃度の低減効果は、実施例4で得られたトリハロメタン濃度の低減効果よりも優れたものであった。そのため、過酢酸によるトリハロメタン濃度の低減効果は過酸化水素によるトリハロメタン濃度の低減効果よりも高いものであり、実施例1~3に係るトリハロメタン濃度低減効果は、主に過酢酸による効果であることを確認した。
なお、実施例1~3及び実施例4から、過酢酸によるトリハロメタン濃度低減効果を確認できたため、過酢酸を含有し過酸化水素を含有しない過酢酸溶液を用いた場合も、実施例1~3で確認されたトリハロメタンの濃度低減効果に準じた効果が得られると考えられる。
そのため、本明細書の実施例において用いられる過酢酸溶液は、過酢酸と過酸化水素とを含むものであるが、いずれの試験についても、過酢酸を含有し過酸化水素を含有しない過酢酸溶液を用いた場合にも同様の結果が得られるものと考えられる。
【0031】
[試験例2]
国内某所で採取した海水を原水とし、1mg/mLブロモホルム標準液を原水中のブロモホルム濃度が0.1mg/Lとなるよう添加した後、下記表2に示した薬剤を表2に示した濃度となるように原水中に添加した。
その後、室温で1時間攪拌して攪拌後の原水に含まれるトリハロメタン(ブロモホルム)濃度をヘッドスペースGC/MS分析法を用いて測定した。
なお、薬剤を添加しなかった比較例4にかかる試験では、ブロモホルム濃度0.1mg/Lの原水を、室温で1時間攪拌して、攪拌後の原水に含まれるトリハロメタン(ブロモホルム)濃度を測定した。
【0032】
(過酢酸及び/又は過酸化水素を含有する薬剤の調製)
試験例1と同様にして過酢酸及び/又は過酸化水素を含有する薬剤として、過酢酸溶液(過酢酸及び過酸化水素を含有)を調製した。
調製した過酢酸溶液の過酸化水素及び総過酸化物濃度を、従来公知の滴定法によって測定し、得られた結果から組成を算出したところ、過酸化水素15.7%、過酢酸10.1%、酢酸28.1%であった。
調製した過酢酸溶液を適宜純水で希釈することで調整し、過酢酸が表2に示した添加濃度となるように原水中に添加した。
【0033】
【0034】
表2に示したように、過酢酸及び/又は過酸化水素を含む薬剤として過酢酸溶液を添加した実施例5~8は、薬剤を添加しなかった比較例4と比較してトリハロメタン濃度が明らかに低減した。また、総トリハロメタンが0.02mg/L以上0.100mg/L以下である原水(薬剤無添加の比較例4に係る試験水と同様)について、過酢酸の添加濃度が0.2mg/Lである実施例6及び過酢酸の添加濃度が0.1mg/Lである実施例7におけるトリハロメタン濃度が0.05mg/L未満となっており、トリハロメタン濃度の低減効果が特に優れていた。
なお、比較例4におけるトリハロメタン濃度が、0.071mg/Lであり、試験前の原水中のブロモホルム濃度0.1mg/Lよりも低下していた。これは、1時間の攪拌中に、原水中のブロモホルムが自然揮発したためと考えられる。
【0035】
[試験例3]
国内某所で採取した海水に代えて、純水を原水とし、1mg/mLブロモホルム標準液を原水に添加して調製されたブロモホルム濃度が0.1mg/Lの試験水に、下記表3に示した薬剤を表3に示した濃度となるように添加した。
その後、室温で1時間攪拌して攪拌後の試験水に含まれるトリハロメタン(ブロモホルム)濃度を試験例1と同様にヘッドスペースGC/MS分析法を用いて測定した。
なお、薬剤を添加しなかった比較例5にかかる試験では、ブロモホルム濃度0.1mg/Lの試験水を、室温で1時間攪拌して、攪拌後の試験水に含まれるトリハロメタン(ブロモホルム)濃度を測定した。
【0036】
(過酢酸及び/又は過酸化水素を含有する薬剤の調製)
試験例1と同様にして過酢酸及び/又は過酸化水素を含有する薬剤として、過酢酸溶液(過酢酸及び過酸化水素を含有)を調製した。
調製した過酢酸溶液の過酸化水素及び総過酸化物濃度を、従来公知の滴定法によって測定し、得られた結果から組成を算出したところ、過酸化水素15.7%、過酢酸10.1%、酢酸28.1%であった。
調製した過酢酸溶液を適宜純水で希釈することで調整し、過酢酸が表3に示した添加濃度となるように原水中に添加した。
【0037】
【0038】
表3に示したように、過酢酸を含む薬剤を添加した実施例9~12は、薬剤を添加しなかった比較例5と比較してトリハロメタン濃度が明らかに低減した。また、過酢酸の添加濃度が0.2mg/Lである実施例10のトリハロメタン濃度の低減効果が特に優れていた。
【0039】
[試験例4]
試験例3と同様に純水を原水とし、1mg/mLブロモジクロロメタン標準液を原水に添加して調製されたブロモジクロロメタン濃度が0.1mg/Lの試験水に、下記表4に示した薬剤を表4に示した濃度となるように添加した。
その後、室温で1時間攪拌して攪拌後の試験水に含まれるトリハロメタン(ブロモジクロロメタン)濃度をヘッドスペースGC/MS分析法を用いて測定した。
なお、薬剤を添加しなかった比較例6にかかる試験では、ブロモジクロロメタン濃度0.1mg/Lの試験水を、室温で1時間攪拌して、攪拌後の試験水に含まれるトリハロメタン(ブロモジクロロメタン)濃度を測定した。
【0040】
(過酢酸及び/又は過酸化水素を含有する薬剤の調製)
試験例1と同様にして過酢酸及び/又は過酸化水素を含有する薬剤として、過酢酸溶液(過酢酸及び過酸化水素を含有)を調製した。
調製した過酢酸溶液の過酸化水素及び総過酸化物濃度を、従来公知の滴定法によって測定し、得られた結果から組成を算出したところ、過酸化水素15.7%、過酢酸10.1%、酢酸28.1%であった。
調製した過酢酸溶液を適宜純水で希釈することで調整し、過酢酸が表4に示した添加濃度となるように原水中に添加した。
【0041】
【0042】
表4に示したように、過酢酸を含む薬剤を添加した実施例13~16は、薬剤を添加しなかった比較例6と比較してトリハロメタン濃度が明らかに低減した。
【0043】
[試験例5]
試験例3と同様に純水を原水とし、1mg/mLクロロホルム標準液を原水に添加して調製されたクロロホルム濃度が0.2mg/Lの試験水に、下記表5に示した薬剤を表5に示した濃度となるように添加した。
その後、室温で1時間攪拌して攪拌後の試験水に含まれるトリハロメタン(クロロホルム)濃度をヘッドスペースGC/MS分析法を用いて測定した。
なお、薬剤を添加しなかった比較例7にかかる試験では、クロロホルム濃度0.2mg/Lの試験水を、室温で1時間攪拌して、攪拌後の試験水に含まれるトリハロメタン(クロロホルム)濃度を測定した。
【0044】
(過酢酸及び/又は過酸化水素を含有する薬剤の調製)
試験例1と同様にして過酢酸及び/又は過酸化水素を含有する薬剤として、過酢酸溶液(過酢酸及び過酸化水素を含有)を調製した。
調製した過酢酸溶液の過酸化水素及び総過酸化物濃度を、従来公知の滴定法によって測定し、得られた結果から組成を算出したところ、過酸化水素15.7%、過酢酸10.1%、酢酸28.1%であった。
調製した過酢酸溶液を適宜純水で希釈することで調整し、過酢酸が表5に示した添加濃度となるように原水中に添加した。
【0045】
【0046】
表5に示したように、過酢酸を含む薬剤を添加した実施例17~20は、薬剤を添加しなかった比較例7と比較してトリハロメタン濃度が明らかに低減した。
【0047】
なお、過酢酸を含む薬剤については、試験例1及び2において、海水を原水として用いたトリハロメタン低減効果の確認を行い、試験例3~5において、純水を原水として用い、ブロモホルム標準液、ブロモジクロロメタン標準液、クロロホルム標準液を添加し、所望の濃度とした各試験水に対するトリハロメタン低減効果の確認を行った。原水として純水を用いた湖沼を模した試験においては、他のトリハロメタンとして、ジブロモクロロメタンを対象とする試験についても同様にトリハロメタン低減効果が得られると考えられる。
【0048】
[試験例6]
試験例1と同様に国内某所で採取した海水を原水とし、1mg/mLブロモホルム標準液を原水に添加して調製されたブロモホルム濃度が0.1mg/Lの試験水に、下記表6に示した薬剤を表6に示した濃度となるように添加した。
その後、室温で1時間攪拌して攪拌後の試験水に含まれるトリハロメタン(ブロモホルム)濃度をヘッドスペースGC/MS分析法を用いて測定した。
なお、薬剤を添加しなかった比較例8にかかる試験では、ブロモホルム濃度0.1mg/Lの試験水を、室温で1時間攪拌して、攪拌後の試験水に含まれるトリハロメタン(ブロモホルム)濃度を測定した。
【0049】
(過酢酸及び/又は過酸化水素を含有する薬剤)
試験例1における実施例4と同様にして、過酢酸及び/又は過酸化水素を含有する薬剤として過酸化水素のみを含有する45%過酸化水素溶液を用い、これを適宜純水で希釈することで調整し、過酸化水素が表6に示した添加濃度となるように試験水に添加した。
【0050】
【0051】
表6に示したように、過酸化水素を含む薬剤を添加した実施例21~23は、薬剤を添加しなかった比較例8と比較してトリハロメタン濃度が明らかに低減した。なかでも、過酸化水素の添加濃度が1.0mg/Lであった実施例22は、トリハロメタン濃度の低減効果が高かった。
なお、過酸化水素を含む薬剤については、試験例1及び試験例6にて、海水を原水として用いて、ブロモホルム濃度が0.1mg/Lの試験水に対するトリハロメタン低減効果の確認を行い、トリハロメタン低減効果を確認した。他のトリハロメタンとして、ジブロモクロロメタン、ブロモジクロロメタン、クロロホルムなどを対象とする試験、他の原水として純水を用いて湖沼を模した試験についても同様にトリハロメタン低減効果が得られると考えられる。