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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052641
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】防汚塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/10 20060101AFI20240404BHJP
   C09D 5/16 20060101ALI20240404BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20240404BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240404BHJP
【FI】
C09D133/10
C09D5/16
C09D7/63
C09D7/61
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023170334
(22)【出願日】2023-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2022158186
(32)【優先日】2022-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】501481724
【氏名又は名称】関西ペイントマリン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000001409
【氏名又は名称】関西ペイント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100139022
【弁理士】
【氏名又は名称】小野田 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100192463
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 剛規
(74)【代理人】
【識別番号】100169328
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 健治
(72)【発明者】
【氏名】松原 寛
(72)【発明者】
【氏名】池田 創
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 淳
(72)【発明者】
【氏名】河合 弘幸
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CG141
4J038GA15
4J038HA216
4J038JC38
4J038KA06
4J038KA08
4J038KA10
4J038MA13
4J038MA14
4J038NA05
4J038NA11
4J038PB07
(57)【要約】
【課題】水浸漬後、低温の空気環境下に置かれてもクラックが発生しにくい塗膜を形成する防汚塗料組成物を提案する。
【解決手段】シリルポリマー(A)及びロジン(B)を含み、上記シリルポリマー(A)が、トリイソプロピルシリルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート及びメトキシエチルアクリレートを含むモノマー成分に由来する構成単位を含有する共重合体であり、前記シリルポリマー(A)が、トリイソプロピルシリルメタクリレートに由来する構成単位を、30~70質量%含有し、かつ前記シリルポリマー(A)が、メトキシエチルメタクリレート及びメトキシエチルアクリレートに由来する構成単位を、20~40質量%含有する、防汚塗料組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリルポリマー(A)及びロジン(B)を含む、防汚塗料組成物であって、
前記シリルポリマー(A)が、トリイソプロピルシリルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート及びメトキシエチルアクリレートを含むモノマー成分に由来する構成単位を含有する共重合体であり、
前記シリルポリマー(A)が、前記トリイソプロピルシリルメタクリレートに由来する構成単位を、30~70質量%含有し、かつ
前記シリルポリマー(A)が、前記メトキシエチルメタクリレート及び前記メトキシエチルアクリレートに由来する構成単位を、合計20~40質量%含有する、
防汚塗料組成物。
【請求項2】
前記シリルポリマー(A)が、前記トリイソプロピルシリルメタクリレート及び前記メトキシエチルメタクリレートに由来する構成単位を、前記トリイソプロピルシリルメタクリレート及び前記メトキシエチルメタクリレートの合計質量を100として、トリイソプロピルシリルメタクリレート/メトキシエチルメタクリレート質量比で10/90~99/1の範囲内で含む、請求項1に記載の防汚塗料組成物。
【請求項3】
前記シリルポリマー(A)が、前記メトキシエチルメタクリレート及び前記メトキシエチルアクリレートに由来する構成単位を、前記メトキシエチルメタクリレート及び前記メトキシエチルアクリレートの合計質量を100として、メトキシエチルメタクリレート/メトキシエチルアクリレート質量比で1/99~90/10の範囲内で含む、請求項1又は2に記載の防汚塗料組成物。
【請求項4】
前記モノマー成分が、メチルメタクリレートをさらに含む、請求項1又は2に記載の防汚塗料組成物。
【請求項5】
前記モノマー成分が、トリイソプロピルシリルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート、メトキシエチルアクリレート、及びメチルメタクリレート以外の重合性不飽和モノマーをさらに含む、請求項4に記載の防汚塗料組成物。
【請求項6】
前記モノマー成分が、トリイソプロピルシリルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート、メトキシエチルアクリレート、及びメチルメタクリレート以外の重合性不飽和モノマーを実質的に含まない、請求項4に記載の防汚塗料組成物。
【請求項7】
亜酸化銅、酸化亜鉛、銅ピリチオン及び亜鉛ピリチオンから選ばれる少なくとも1種の防汚剤をさらに含む、請求項1又は2に記載の防汚塗料組成物。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の防汚塗料組成物からなる塗膜を有する塗装物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
船体は鉄鋼構造であり常に海浜環境に曝されていることから、主要部分に対しては通常、下地に錆止め塗料を塗装し、その上に仕上げ用の上塗り塗料を塗り重ねる施工がされている。
しかしながら、船体の中でも船底部分、つまり海水に直接接触する喫水線付近から下の部分に対しては、下地の錆止め塗料を塗装した後、上塗りとして防汚塗料組成物[AF(Anti-Fouling)塗料]と呼ばれる特殊な塗料が塗装されている。
このような防汚塗料組成物を塗装する理由は、船が港などに停泊している間に、カキやフジツボなどの貝類や海藻類などの水中生物が船底に付着して水中抵抗が増加するため、船体のスピードや燃料効率の低下を抑制するために、船底部分の表面はこれら水中生物が付着しにくい性質であることが必要となるためである。
【0003】
防汚塗料組成物として近年、加水分解型防汚塗料組成物が種々開発されてきた。例えば、特許文献1には、トリイソプロピルシリルメタクリレートに由来する構成単位(a1)を45~75質量%、2-メトキシエチルアクリレートに由来する構成単位(a2)を15~35質量%、及びその他のエチレン性不飽和モノマーに由来する構成単位(a3)を0~35質量%含有するシリルメタクリレート系共重合体(A)、銅ピリチオン(B)、酸化亜鉛(C)、及びロジン化合物(D)を含有する防汚塗料組成物が開示されている。
【0004】
特許文献2には、単量体(a)と、前記単量体(a)以外の重合性不飽和単量体(b)との混合物を共重合して得られる防汚塗料組成物用共重合体であって、前記単量体(a)は、一般式(1)(略)で表され、前記単量体(b)がメタクリル酸2-メトキシエチルを含有し、前記単量体(a)の含有量が前記単量体(a)と前記単量体(b)の合計質量のうち5~45質量%を占め、前記メタクリル酸2-メトキシエチルの含有量が前記単量体(a)と前記単量体(b)の合計質量のうち55~95質量%を占める、防汚塗料組成物用共重合体が開示されている。
【0005】
特許文献3には、単量体(a)と、単量体(b)と、単量体(c)とで構成される単量体混合物を共重合して得られる防汚塗料組成物用共重合体Aであって、
前記単量体(a)は、一般式(略)で表され、
前記単量体(b)は、一般式(略)で表され、
前記単量体(c)は、前記単量体(a)及び前記単量体(b)以外の、前記単量体(a)及び前記単量体(b)と共重合可能な単量体であり、
前記単量体混合物中の前記単量体(a)の割合は、25~60質量%であり、
前記共重合体は、分子量分布(Mw/Mn)が5.0以上であり、
前共重合体は、硫黄原子を含まない、防汚塗料組成物用共重合体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2017/164283号
【特許文献2】国際公開第2019/203154号
【特許文献3】国際公開第2022/102493号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1、2及び3に記載されているような従来の防汚塗料組成物は防汚性を主眼に置かれて設計されているために、塗膜の耐水性が十分でなく、クラックや剥がれを起こしやすいという問題がある。特に、水浸漬後の塗膜が低温の空気環境下に急に曝された場合にクラックが発生しやすい場合があり、その改善が求められている。
【0008】
本発明の目的は、貯蔵安定性が良好であり、防汚塗料組成物として求められる防汚性能を維持したまま、消耗維持性及び耐クラック性に優れ、そして水浸漬後、低温環境下に置かれてもクラックが発生しにくい塗膜を形成する防汚塗料組成物を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記した課題について鋭意検討した。その結果、特定組成のシリルポリマーによって緻密な塗膜が形成され、水浸漬後に低温環境下におかれるという厳しい条件においてもクラックが発生しにくい塗膜が得られることがわかった。
【0010】
すなわち、本発明は
項1
シリルポリマー(A)及びロジン(B)を含む、防汚塗料組成物であって、
上記シリルポリマー(A)が、トリイソプロピルシリルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート及びメトキシエチルアクリレートを含むモノマー成分に由来する構成単位を含有する共重合体であり、
前記シリルポリマー(A)が、上記トリイソプロピルシリルメタクリレートに由来する構成単位を、30~70質量%含有し、かつ
前記シリルポリマー(A)が、上記メトキシエチルメタクリレート及び上記メトキシエチルアクリレートに由来する構成単位を、合計20~40質量%含有する、防汚塗料組成物。
項2
前記シリルポリマー(A)が、上記トリイソプロピルシリルメタクリレート及び上記メトキシエチルメタクリレートの質量比が、前記トリイソプロピルシリルメタクリレート及び前記メトキシエチルメタクリレートの合計質量を100として、トリイソプロピルシリルメタクリレート/メトキシエチルメタクリレート質量比で10/90~99/1の範囲内である、項1に記載の防汚塗料組成物。
項3
前記シリルポリマー(A)が、上記メトキシエチルメタクリレート及び上記メトキシエチルアクリレートの質量比が、前記メトキシエチルメタクリレート及び前記メトキシエチルアクリレートの合計質量を100として、メトキシエチルメタクリレート/メトキシエチルアクリレート質量比で1/99~90/10の範囲内である、項1又は2に記載の防汚塗料組成物。
項4
上記モノマー成分が、メチルメタクリレートをさらに含む、項1~3のいずれか1項に記載の防汚塗料組成物。
項5-1
上記モノマー成分が、トリイソプロピルシリルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート、及びメトキシエチルアクリレート以外の重合性不飽和モノマーをさらに含む、項1~3のいずれか1項に記載の防汚塗料組成物。
項5-2
上記モノマー成分が、トリイソプロピルシリルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート、メトキシエチルアクリレート、及びメチルメタクリレート以外の重合性不飽和モノマーをさらに含む、項4に記載の防汚塗料組成物。
項6-1
上記モノマー成分が、トリイソプロピルシリルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート、及びメトキシエチルアクリレート以外の重合性不飽和モノマーを実質的に含まない、項1~3のいずれか1項に記載の防汚塗料組成物。
項6-2
上記モノマー成分が、トリイソプロピルシリルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート、メトキシエチルアクリレート、及びメチルメタクリレート以外の重合性不飽和モノマーを実質的に含まない、項4に記載の防汚塗料組成物。
項7
亜酸化銅、酸化亜鉛、銅ピリチオン及び亜鉛ピリチオンから選ばれる少なくとも1種の防汚剤をさらに含む、項1~6のいずれか1項に記載の防汚塗料組成物。
項8
項1~7のいずれか1項に記載の防汚塗料組成物からなる塗膜を有する塗装物品。
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の防汚塗料組成物は、貯蔵安定性が良好であり、防汚塗料組成物として求められる防汚性能を維持したまま、消耗維持性及び耐クラック性に優れ、そして水浸漬後に低温環境に曝してもクラックが発生しにくい塗膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳述するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものであり、本発明はこれらの内容に特定されるものではない。
【0013】
[シリルポリマー(A)]
本発明の防汚塗料組成物に含まれるシリルポリマー(A)は、トリイソプロピルシリルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート及びメトキシエチルアクリレートを含むモノマー成分に由来する構成単位を含有する共重合体であり、前記シリルポリマー(A)が、トリイソプロピルシリルメタクリレートに由来する構成単位を、30~70質量%含有し、かつ前記シリルポリマー(A)が、メトキシエチルメタクリレート及びメトキシエチルアクリレートに由来する構成単位を、20~40質量含有する、ポリマーである。
【0014】
トリイソプロピルシリルメタクリレートに由来する構成単位が30質量%未満では、海水浸漬時の塗膜消耗率が低下し、防汚性が不十分であり好ましくない。一方、70質量%を超えると、海水浸漬した塗膜にクラックが発生することがあり、好ましくない。
【0015】
上記トリイソプロピルシリルメタクリレートに由来する構成単位は、シリルポリマー(A)中に、50質量%より大きく、65質量%以下であることが好ましい。
【0016】
本発明ではシリルポリマー(A)を製造するためのモノマー成分に含まれるメトキシエチルメタクリレート及びメトキシエチルアクリレートの合計量も重要である。シリルポリマー(A)がメトキシエチルメタクリレート及びメトキシエチルアクリレートを共に共重合成分とし、且つ、メトキシエチルメタクリレート及びメトキシエチルアクリレートの合計量が上述範囲内にあることによって、本発明防汚塗料組成物から形成された塗膜を水浸漬した後、低温で乾燥させたときに発生するクラックを抑制する効果がある。今後この効果を水浸漬後の低温雰囲気での耐クラック性と記する。メトキシエチルメタクリレート及びメトキシエチルアクリレートの合計量が20質量%未満では、海水浸漬時の塗膜消耗量が少なく、防汚性が不十分であり、一方、メトキシエチルメタクリレート及びメトキシエチルアクリレートの合計量が40質量%を超えると、海水浸漬時の塗膜消耗量が多すぎて防汚持続性が不十分となることがあり、好ましくない。
メトキシエチルメタクリレート及びメトキシエチルアクリレートの合計量の好ましい使用割合としては例えば、モノマー成分中、25質量%以上、35質量%以下であることが好ましい。
【0017】
また、本発明においては、水浸漬後の低温雰囲気での耐クラック性の点から、シリルポリマー(A)に含まれるトリイソプロピルシリルメタクリレート及びメトキシエチルメタクリレートに由来する構成単位の質量比が、トリイソプロピルシリルメタクリレート/メトキシエチルメタクリレート質量比で例えば10/90~99/1、好ましくは46/54~97/3の範囲内であり、メトキシエチルメタクリレート及びメトキシエチルアクリレートに由来する構成単位の質量比が、メトキシエチルメタクリレート/メトキシエチルアクリレート質量比で、例えば1/99~90/10、好ましくは3/97~49/51の範囲内である。
【0018】
本発明において上記シリルポリマー(A)は、防汚性の点から、上記モノマー成分が、トリイソプロピルシリルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート及びメトキシエチルアクリレートに加えてメチルメタクリレートをさらに含むことが好ましい。シリルポリマー(A)は、メチルメタクリレートに由来する構成単位を、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、そして好ましくは35質量%以下、より好ましくは20質量%以下の範囲内で含む。
【0019】
また、上記シリルポリマー(A)は、防汚性、耐クラック性などの点から、モノマー成分がトリイソプロピルシリルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート、メトキシエチルアクリレート及びメチルメタクリレート以外の重合性不飽和モノマーをさらに含んでいてもよい。
【0020】
本発明において、重合性不飽和モノマーとは、1個以上(例えば、1~4個)の重合性不飽和基を有するモノマーを示す。重合性不飽和基とは、ラジカル重合しうる不飽和基を意味する。かかる重合性不飽和基としては、例えば、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリルアミド基、ビニルエーテル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、マレイミド基等が挙げられる。「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味し、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を意味する。また、「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイル及び/又はメタクリロイルを意味し、「(メタ)アクリルアミド」は、アクリルアミド及び/又はメタクリルアミドを意味する。
【0021】
重合性不飽和モノマーとしては、例えば、
メチルアクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート及びシクロヘキシル(メタ)アクリレート並びにこれらの組み合わせ;等のアルキル(メタ)アクリレート;
スチレン、ビニルトルエン及びα-メチルスチレン並びにこれらの組み合わせ等の芳香族ビニル化合物;
2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸と炭素数2~8の2価アルコールとのモノエステル化物のε-カプロラクトン変性体、アリルアルコ-ル及び分子末端が水酸基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレート並びにこれらの組み合わせ等の水酸基含有重合性不飽和モノマー;
(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、クロトン酸及び(メタ)アクリル酸β-カルボキシエチル並びにこれらの組み合わせ;等のカルボキシル基含有重合性不飽和モノマー;
メトキシプロピル(メタ)アクリレート、メトキシブチル(メタ)アクリレート及びエトキシエチル(メタ)アクリレート並びにこれらの組み合わせ等のメトキシエチル(メタ)アクリレート以外のアルコキシ(メタ)アクリレート;
イソプロピルシリルアクリレート、4-ペンテン酸トリイソプロピルシリル、マレイン酸ビス(トリイソプロピルシリル)、マレイン酸メチルトリイソプロピルシリル、マレイン酸エチルトリイソプロピルシリル、マレイン酸n-ブチルトリイソプロピルシリル、マレイン酸イソブチルトリイソプロピルシリル、マレイン酸t-ブチルトリイソプロピルシリル、マレイン酸n-ペンチルトリイソプロピルシリル、マレイン酸イソペンチルトリイソプロピルシリル、マレイン酸2-エチルヘキシルトリイソプロピルシリル、マレイン酸シクロヘキシルトリイソプロピルシリル、フマル酸ビス(トリイソプロピルシリル)、フマル酸メチルトリイソプロピルシリル、フマル酸エチルトリイソプロピルシリル、フマル酸n-ブチルトリイソプロピルシリル、フマル酸イソブチルトリイソプロピルシリル、フマル酸n-ペンチルトリイソプロピルシリル、フマル酸イソペンチルトリイソプロピルシリル、フマル酸2-エチルヘキシルトリイソプロピルシリル、フマル酸シクロヘキシルトリイソプロピルシリル等のトリイソプロピルシリルメタクリレート以外のシリル基含有重合性不飽和モノマー;
片方の分子末端がアルコキシ基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレート、片方の分子末端がアルコキシ基であるポリオキシプロピレン鎖を有する(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸プロピレングリコールモノメチル等の(メタ)アクリル酸アルキレングリコールアルキル化合物;
(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-アルコキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、グリシジル(メタ)アクリレートとアミン化合物との付加物等の窒素含有重合性不飽和モノマー;
ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸芳香族化合物;
塩化ビニル、塩化ビニリデン、(メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニル、ブチルビニルエーテル、ラウリルビニルエーテル、N-ビニルピロリドン、プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル等のビニル化合物;
グリシジル(メタ)アクリレート、β-メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルプロピル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有重合性不飽和モノマー;
2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート及びこれらのナトリウム塩又はアンモニウム塩等のスルホン酸基含有重合性不飽和モノマー;
2-(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート等のリン酸基含有重合性不飽和モノマー;
アクロレイン、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、4~7個の炭素原子を有するビニルアルキルケトン(例えば、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルブチルケトン)等のカルボニル基含有重合性不飽和モノマー;及びこれらの組み合わせを挙げることができる。重合性不飽和モノマーとしてはアルキル(メタ)アクリレート及び芳香族ビニル化合物から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、長期防汚性の点から、n-ブチルアクリレートが特に好ましい。
【0022】
本発明の態様1としては、シリルポリマー(A)が、トリイソプロピルシリルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート、メトキシエチルアクリレート、及びメチルメタクリレート以外の重合性不飽和モノマーに由来する構成単位を、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、そして好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下の範囲内で含む態様である。
【0023】
本発明の態様2としては、シリルポリマー(A)が、トリイソプロピルシリルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート、メトキシエチルアクリレート、及びメチルメタクリレート以外の重合性不飽和モノマーに由来する構成単位を、実質的に含まない態様である。ここで、シリルポリマー(A)が上記以外の重合性不飽和モノマーを実質的に含まない態様とは、上記以外の重合性不飽和モノマーに由来する構成単位が、シリルポリマー(A)中に、例えば5.0質量%以下、好ましくは3.0質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下、特に好ましくは0.1質量%以下、そして例えば0質量%以上であってもよい。
尚、「上記以外の重合性不飽和モノマー」には不可避的不純物は含まないものとする。前記不可避的不純物としては例えば、トリイソプロピルシリルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート、メトキシエチルアクリレート、及びメチルメタクリレートの製造において生成される重合性不飽和基を有する副反応生成物、トリイソプロピルシリルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート、メトキシエチルアクリレート、及びメチルメタクリレートとして市販品を使用する場合、当該市販品に含まれる重合性不飽和基を有する不純物等が挙げられる。
【0024】
本発明において、シリルポリマー(A)は、態様1及び態様2のいずれの場合においても、貯蔵安定性、防汚性及び耐クラック性、水浸漬後の低温雰囲気での耐クラック性の点から、溶解性パラメータ(Solubility Parameter、「SP値」とも記載する)が、例えば8.0以上、好ましくは8.5以上、そして例えば11.0以下、好ましくは10.5以下である。
【0025】
シリルポリマー(A)は、態様1及び態様2のいずれの場合においても、貯蔵安定性、防汚性、耐クラック性、水浸漬後の低温雰囲気での耐クラック性の点から、ガラス転移温度(Tgとも記載する)が、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上、そして好ましくは60℃以下、より好ましくは50℃以下である。
【0026】
本発明においては、シリルポリマー(A)の溶解性パラメータ及び/又はガラス転移温度が上記範囲となるように、シリルポリマー(A)の重合に使用される重合性不飽和モノマー成分の種類と量を選択することが好ましい。
【0027】
溶解性パラメータは、一般に液体分子の分子間相互作用の尺度を表すものであり、ポリマーのSP値も種々の計算方法が知られている。本明細書においてシリルポリマー(A)のSP値は下記式により計算して求めるものとする。
SP値=SP×fw+SP×fw+.........+SP×fw
上記式中、SP、SP、.........SPは、各重合性不飽和モノマーのホモポリマーのSP値を表し、fw、fw、.........fwは、各重合性不飽和モノマーのモノマー総量に対する質量分率を表す。
【0028】
ここで、重合性不飽和モノマーのホモポリマーのSP値は、該モノマーのホモポリマーを重量平均分子量が50,000程度になるようにして合成した試料の濁点滴定法によるSP値とする。濁点滴定法はポリマーのSP値を測定できる方法の一つとして知られており、例えばK.W.Suh, J.M.Corbett:J.Apply Polym.Sci.,12〔10〕,p.2359-2370(1968)に記載されている。本発明では、真空吸引により揮発成分を除去した試料0.5gを100mlビーカーに秤量し、アセトン10mlを加え、マグネティックスターラーにより溶解し、これに対して測定温度20°Cで、高SP貧溶媒又は低SP貧溶媒を別々に滴下し、濁りが生じた点を各貧溶媒の滴下量(体積)とし、下記式から試料のSP値を求める。ここで貧溶媒には、高SP貧溶媒としてイオン交換水(SP値23.4)を用い、低SP貧溶媒としてn-ヘキサン(SP値7.3)を使用する。
δ=(Vml1/2・δml+Vmh1/2・δmh)/(Vml1/2+Vmh1/2
Vml,Vmh:それぞれSP値の低い貧溶媒と高い貧溶媒の滴下量
δml,δmh:それぞれSP値の低い貧溶媒と高い貧溶媒のSP値
δ:試料のSP値
【0029】
また、ガラス転移温度(T)は以下のようにして算出する。
1/T(K)=W/T+W/T+・・・W/T
(℃)=Tg(K)-273
式中、W、W、・・・Wは各モノマーの質量分率であり、T、T・・・Tは各重合性不飽和モノマーのホモポリマーのガラス転移温度T(K)である。
なお、各重合性不飽和モノマーのホモポリマーのガラス転移温度は、該モノマーのホモポリマーを重量平均分子量が50,000程度になるようにして合成したときの静的ガラス転移温度とする。
静的ガラス転移温度は、例えば、示差走査熱量計「DSC-50Q型」(島津製作所製、商品名)を用い、真空吸引により揮発成分を除去した試料を用いて、3℃/分の昇温速度で-100℃~+100℃の範囲で熱量変化を測定し、低温側の最初のベースラインの変化点を観察することにより決定される。
【0030】
上記シリルポリマー(A)は、例えば、ラジカル重合開始剤の存在下、上記重合性不飽和モノマーを共重合させることにより得られる。上記の共重合反応において使用されるラジカル重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビス-2-メチルブチロニトリル、ジメチル-2,2’-アゾビスイソブチレート等のアゾ化合物;ジベンゾイルパーオキサイド、ジ(3-メチルベンゾイル)パーオキサイド、ベンゾイル(3-メチルベンゾイル)パーオキサイド、ジラウリルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド化合物;ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t-ブルパーオクトエート等のt-ブチルパーオキサイド化合物;t-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-アミルパーオキシアセテート、t-アミルパーオキシイソノナノエート、t-アミルパーオキシベンゾエート、t-アミルパーオキシアセテート、ジ(t-アミルパーオキサイド)、1,1-ジ(t-アミルパーオキシ)シクロヘキサン等のt-アミルパーオキサイド化合物;t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、t-ヘキシルパーオキシ-イソプロピルモノカーボネート、t-ヘキシルパーオキシピバレート、t-ヘキシルパーオキシネオデカノエート等のt-ヘキシルパーオキサイド化合物などが挙げられる。これらの重合開始剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0031】
シリルポリマー(A)を得るための重合方法としては、例えば、溶液重合法、塊状重合法、乳化重合法、懸濁重合法などが挙げられる。これらの中でも、上記シリルポリマー(A)を簡便に、かつ、精度良く合成できるという点で、溶液重合法が特に好ましい。
上記の共重合反応においては、必要に応じて重合溶媒として有機溶剤を用いてもよい。そのような有機溶剤としては、例えば、キシレン、トルエン等の芳香族炭化水素系溶剤;ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸メトキシプロピル等のエステル系溶剤;イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール系溶剤;ジオキサン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、及びこれらの組み合わせなどが挙げられる。上記共重合反応における反応温度は、重合開始剤の種類等に応じて適宜設定すればよく、通常は70~160℃の範囲内の温度、好ましくは80~140℃の範囲内の温度である。上記共重合反応における反応時間は、反応温度や重合開始剤の種類等に応じて適宜設定すればよく、通常4~8時間程度である。
【0032】
本発明において、シリルポリマー(A)は、ランダム共重合体、グラフト共重合体、傾斜構造型共重合体、ブロック共重合体等いずれのタイプの共重合体であってもよい。
【0033】
シリルポリマー(A)の分子量分布は、例えば1.0以上、好ましくは1.5以上、そして例えば10.0以下、好ましくは5.0未満である。本明細書においてシリルポリマー(A)の分子量分布は、重量平均分子量/数平均分子量によって算出される。重量平均分子量と数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)を用いて測定した保持時間(保持容量)を、同一条件で測定した分子量既知の標準ポリスチレンの保持時間(保持容量)によりポリスチレンの分子量に換算して求めた値である。具体的には、ゲルパーミエーションクロマトグラフとして、「HLC8120GPC」(商品名、東ソー社製)を使用し、カラムとして、「TSKgel G-4000HXL」、「TSKgel G-3000HXL」、「TSKgel G-2500HXL」及び「TSKgel G-2000HXL」(商品名、いずれも東ソー社製)の4本を使用し、移動相テトラヒドロフラン、測定温度40℃、流速1mL/min及び検出器RI(示差屈折計)の条件下で測定することができる。
【0034】
防汚塗料組成物におけるシリルポリマー(A)の不揮発分含有量は、防汚性、耐クラック性の点から、防汚塗料組成物中の樹脂(シリルポリマー(A)+ロジン(B))の不揮発分を基準として、例えば10質量%以上、好ましくは20質量%以上、そして例えば90質量%以下、好ましくは80質量%以下である。本明細書において不揮発分は有機溶剤などの揮発成分を除いた残渣であり、JIS K 5601 1-2(2008)の規格(加熱温度:125℃、加熱時間:60分)に従い測定することができる。
【0035】
[ロジン(B)]
また、本発明の防汚塗料組成物は、防汚性、塗膜消耗性、消耗維持性の点からロジン(B)を含む。ロジンとは松から採取される天然樹脂であり、樹脂酸の混合物である。ロジンは製法によってガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジンなどの種類がある。上記樹脂酸としては、例えば、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、パラストリン酸、ピマール酸、イソピマール酸、サンダラコピマール酸、レボピマール酸などが挙げられる。
【0036】
防汚塗料組成物におけるロジン(B)の不揮発分含有量は、防汚性、耐クラック性の点から、防汚塗料組成物中の樹脂(シリルポリマー(A)+ロジン(B))の不揮発分を基準として、例えば10質量%以上、好ましくは20質量%以上、そして例えば90質量%以下、好ましくは80質量%以下である。
【0037】
[防汚剤]
本発明では必要に応じて、防汚剤を含むことができる。防汚剤としては、従来より公知のもの、例えば、無機化合物、金属を含む有機化合物及び金属を含まない有機化合物などが挙げられる。
【0038】
上記無機化合物としては、例えば、亜酸化銅、銅粉、チオシアン酸第一銅、炭酸銅、塩化銅、硫酸銅等の銅化合物;硫酸亜鉛、酸化亜鉛等の亜鉛化合物;硫酸ニッケル、銅-ニッケル合金等のニッケル化合物;などが挙げられる。
【0039】
上記金属を含む有機化合物としては、例えば、有機銅系化合物、有機ニッケル系化合物、有機亜鉛系化合物などを用いることができ、その他、マンネブ、マンセブ、プロピネブなども用いることができる。上記有機銅系化合物としては、例えば、オキシン銅、銅ピリチオン、ノニルフェノールスルホン酸銅、カッパービス(エチレンジアミン)-ビス(ドデシルベンゼンスルホネート)、酢酸銅、ナフテン酸銅、ビス(ペンタクロロフェノール酸)銅等が挙げられる。上記有機ニッケル系化合物としては、例えば、酢酸ニッケル、ジメチルジチオカルバミン酸ニッケル等が挙げられる。上記有機亜鉛系化合物としては、例えば、酢酸亜鉛、カルバミン酸亜鉛、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、亜鉛ピリチオン、エチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛等が挙げられる。
【0040】
上記金属を含まない有機化合物としては、例えば、及び4-ブロモ-2-(4-クロロフェニル)-5-(トリフルオロメチル)-1H-ピロール-3-カルボニトリル、N-トリハロメチルチオフタルイミド、ジチオカルバミン酸、N-アリールマレイミド、3-置換化アミノ-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン、ジチオシアノ系化合物、トリアジン系化合物等が挙げられる。上記N-トリハロメチルチオフタルイミドとしては、例えば、N-トリクロロメチルチオフタルイミド、N-フルオロジクロロメチルチオフタルイミド等が挙げられる。上記ジチオカルバミン酸としては、例えば、ビス(ジメチルチオカルバモイル)ジスルフィド、N-メチルジチオカルバミン酸アンモニウム、エチレンビス(ジチオカルバミン酸)アンモニウム、ミルネブ等が挙げられる。
【0041】
上記N-アリールマレイミドとしては、例えば、N-(2,4,6-トリクロロフェニル)マレイミド、N-4-トリルマレイミド、N-3-クロロフェニルマレイミド、N-(4-n-ブチルフェニル)マレイミド、N-(アニリノフェニル)マレイミド、N-(2,3-キシリル)マレイミド、2,3-ジクロロ-N-(2’,6’-ジエチルフェニル)マレイミド、2,3-ジクロロ-N-(2’-エチル-6’-メチルフェニル)マレイミド等が挙げられる。上記3-置換化アミノ-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオンとしては、例えば、3-ベンジリデンアミノ-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン、3-(4-メチルベンジリデンアミノ)-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン、3-(2-ヒドロキシベンジリデンアミノ)-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン、3-(4-ジメチルアミノベンジリデンアミノ)-1,3-チアゾリン-2,4-ジオン、3-(2,4-ジクロロベンジリデンアミノ)-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン等が挙げられる。
【0042】
上記ジチオシアノ系化合物としては、例えば、ジチオシアノメタン、ジチオシアノエタン、2,5-ジチオシアノチオフエン等が挙げられる。上記トリアジン系化合物としては、例えば、2-メチルチオ-4-t-ブチルアミノ-6-シクロプロピルアミノ-s-トリアジン等が挙げられる。また、上記金属を含まない有機化合物としては、上記に例示した有機化合物のほか、例えば、2,4,5,6-テトラクロロイソフタロニトリル、N,N-ジメチルジクロロフェニル尿素、2-オクチル-4,5-ジクロロ-4-イソチアゾリン-3-オン、N,N-ジメチル-N’-フェニル-(N-フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド、テトラメチルチウラムジスルフィド、3-ヨード-2-プロピニルブチルカルバメート、2-(メトキシカルボニルアミノ)ベンズイミダゾール、2,3,5,6-テトラクロロ-4-(メチルスルホニル)ピリジン、ジヨードメチルパラトリルスルホン、ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメート、フェニル(ビスピリジン)ビスマスジクロライド、2-(4-チアゾリル)ベンズイミダゾール、トリフェニルボロンピリジン・アミン錯体、ジクロロ-N-((ジメチルアミノ)スルフォニル)フルオロ-N-(p-トリル)メタンスルフェンアミド、クロロメチル-n-オクチルジスルフィド等が挙げられる。
【0043】
上記防汚剤としては、特に安定した防汚性能を発揮するという観点から、亜酸化銅、酸化亜鉛、銅ピリチオン及び亜鉛ピリチオンから選ばれる少なくとも1種を使用することが好ましい。
【0044】
これら防汚剤を使用する場合の合計含有量としては、塗料中のシリルポリマー(A)及びロジン(B)の不揮発分合計量を基準として、例えば75質量%以上、好ましくは100質量%以上、そして例えば400質量%以下、好ましくは375質量%以下である。
上記亜酸化銅を使用する場合の含有量としては、塗料中のシリルポリマー(A)及びロジン(B)の不揮発分合計量を基準として、例えば100質量%以上、好ましくは150質量%以上、そして例えば300質量%以下、好ましくは250質量%以下である。
上記酸化亜鉛を使用する場合の含有量としては、塗料中のシリルポリマー(A)及びロジン(B)の不揮発分合計量を基準として、例えば5質量%以上、好ましくは10質量%以上、そして例えば100質量%以下、好ましくは50質量%以下である。
上記銅ピリチオンを使用する場合の含有量としては、塗料中のシリルポリマー(A)及びロジン(B)の不揮発分合計量を基準として、例えば1質量%以上、好ましくは2質量%以上、そして例えば30質量%以下、好ましくは20質量%以下である。
上記亜鉛ピリチオンを使用する場合の含有量としては、塗料中のシリルポリマー(A)及びロジン(B)の不揮発分合計量を基準として、例えば1質量%以上、好ましくは2質量%以上、そして例えば30質量%以下、好ましくは20質量%以下である。
【0045】
[防汚塗料組成物]
本発明の防汚塗料組成物には、上記シリルポリマー(A)及びロジン(B)の他に、顔料、可塑剤、粘性調整剤、消泡剤、酸化防止剤、シリルポリマー(A)以外の樹脂、溶剤などの一般的な塗料組成物に用いられている各種成分を、必要に応じて配合することができる。これらの成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0046】
上記顔料としては、例えば、ベンガラ、酸化チタン、黄色酸化鉄、酸化カルシウム、カーボンブラック、ナフトールレッド、フタロシアニンブルー等の着色顔料;タルク、シリカ、マイカ、クレー、炭酸カルシウム、カオリン、アルミナホワイト、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、硫化亜鉛等の体質顔料;及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0047】
本発明の防汚塗料組成物中の上記顔料の含有量は、シリルポリマー(A)及びロジン(B)の不揮発分合計量を基準として、例えば1質量%以上、好ましくは5質量%以上、そして例えば100質量%以下、好ましくは50質量%以下の範囲内である。
【0048】
上記可塑剤としては、例えば、トリクレジルフォスフェート、ジオクチルフタレート、塩素化パラフィン、流動パラフィン、n-パラフィン、ポリブテン、テルペンフェノール、トリクレジルフォスフェート(TCP)及びポリビニルエチルエーテル並びにこれらの組み合わせ等が挙げられる。
【0049】
なお、本発明の防汚塗料組成物に可塑剤を配合する場合には、可塑剤の含有量は、シリルポリマー(A)及びロジン(B)の不揮発分合計量を基準として、例えば0.5質量%以上、好ましくは1質量%以上、そして例えば30質量%以下、好ましくは20質量%以下の範囲内である。
【0050】
上記粘性調整剤としては、例えば、有機系ワックス(ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、ポリアマイドワックス、アマイドワックス、水添ヒマシ油ワックス等)、有機粘土系化合物(Al、Ca、Znのアミン塩、ステアレート塩、レシチン塩、アルキルスルホン酸塩等)、ベントナイト、合成微粉シリカ等が挙げられる。これらの粘性調整剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0051】
防汚塗料組成物中に上記粘性調整剤を配合する場合には、粘性調整剤の含有量は、シリルポリマー(A)及びロジン(B)不揮発分合計量を基準として、例えば0.25質量%以上、好ましくは0.3質量%以上、そして例えば50質量%以下、好ましくは20質量%以下である。
【0052】
本発明の防汚塗料組成物に必要に応じて配合される上記シリルポリマー(A)以外の樹脂としては、例えば、防汚塗料用基体樹脂として広く使用されている金属カルボキシレート構造を有する樹脂、アクリルシリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、ポリブテン樹脂、シリコーンゴム、ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル系共重合樹脂、塩化ゴム、塩素化オレフィン樹脂、スチレン・ブタジエン共重合樹脂、ケトン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、塩化ビニル樹脂、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、クマロン樹脂、テルペンフェノール樹脂、石油樹脂等が挙げられる。また、シリルポリマー(A)以外のシリルポリマーも併用して使用可能である。
【0053】
また、本発明ではロジン(B)を必須成分とするが、これに加えて、ロジン誘導体、ロジン金属塩等も併用して使用可能である。上記ロジン誘導体としては、例えば、水添ロジン、ロジンとマレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、(メタ)アクリル酸等の不飽和カルボン酸を反応させた不飽和カルボン酸変性ロジン、ロジンを重合してなる重合ロジン等が挙げられる。ロジン金属塩としては、例えば、亜鉛ロジネート、カルシウムロジネート、銅ロジネート、マグネシウムロジネート等の金属化合物とロジンとの反応物等が挙げられる。
【0054】
本発明の防汚塗料組成物は、防汚塗料用の溶剤として一般的な有機溶剤を用いることができる。有機溶剤の具体例としてはシリルポリマー(A)の重合溶媒として例示した有機溶剤と同様の化合物を例示することができる。有機溶剤の配合量は適宜調整することができるが、例えば、防汚塗料組成物の全不揮発分率が好ましくは20~90質量%の範囲内となるような割合であり、塗装作業性に応じて塗装時にさらに添加してもよい。
【0055】
本発明の防汚塗料組成物は、公知の防汚塗料組成物と同様の方法により調製することができる。例えば、シリルポリマー(A)及びロジン(B)及び必要に応じて上記添加剤や有機溶剤等を、攪拌槽に一度に又は順次添加して、撹拌、混合して製造できる。
【0056】
本発明の塗装物品は、本発明の防汚塗料組成物によって基材の表面が被覆されてなる物品である。上記塗装物品は、基材の表面に、上記防汚塗料組成物を1回~複数回塗布あるいは含浸させる工程、及び上記防汚塗料組成物を乾燥させることにより得られる。
【0057】
上記基材としては、例えば、海水又は真水と(例えば、常時又は断続的に)接触する基材、具体的には、水中構造物、船舶外板又は船底、発電所の導水管や冷却管、養殖用又は定置用の漁網、漁具、これらに用いられる浮き子、ロープ等の漁網付属具、漁具付属具等が挙げられる。なお、本発明の防汚塗料組成物から得られる塗膜の膜厚は、塗膜の消耗速度等を考慮して適宜調整することができるが、例えば、好ましくは30~250μm/回、より好ましくは75~150μm/回とすればよく、必要に応じて2回以上塗り重ねてもよい。
【0058】
本発明では、上記基材の表面にプライマー又は錆止め塗料、及び必要に応じてバインダー塗料を塗装した表面に、刷毛塗り、吹付け塗り、ローラー塗り、浸漬等の手段で本発明の防汚塗料組成物を塗装してもよい。また、本発明の防汚塗料組成物は、既存の防汚塗膜表面に重ね塗りしてもよい。塗膜の乾燥は常温で行なうことができるが、必要に応じて約100℃までの温度で加熱乾燥を行なってもよい。
【実施例0059】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。なお、下記実施例中の「部」及び「%」は、それぞれ「質量部」及び「質量%」を意味する。
【0060】
[シリルポリマー(A)の製造]
製造例1
攪拌機付きのフラスコに、キシレン40部を仕込んだ後、液相温度を100℃に維持し、メチルメタクリレート15部、スチレン5部、メトキシエチルアクリレート23部、メトキシエチルメタクリレート5部、トリイソプロピルシリルメタクリレート52部、キシレン68部、「パーブチルO」(商品名、日本油脂社製、t-ブチルパーオキシオクトエート)1.0部の混合溶液を、フラスコの中へ3時間かけて滴下した。滴下終了後、同温度で30分間保持した。次いでキシレン10部と「パーブチルO」(商品名、日本油脂社製、t-ブチルパーオキシオクトエート)0.5部との混合物を20分間で滴下し、同温度で2時間攪拌を続けてから、液相の冷却を開始した。生成した樹脂の不揮発分濃度が50質量%となるように、フラスコの中にキシレンを加えて樹脂溶液を調製し、シリルポリマー(A-1)の樹脂溶液を得た。シリルポリマー(A-1)のTgは44℃であり、SP値は9.4であり、分子量分布は4.7であった。
【0061】
製造例2~33
製造例1において各成分の配合量を表1のとおりとする以外は製造例1と同様にしてシリルポリマー(A-2)~(A-33)の樹脂溶液を得た。
【0062】
【表1】
【0063】
なお、表1中のモノマー成分の略称は、以下の通りである。
MMA:メチルメタクリレート
St:スチレン
n-BMA:n‐ブチルメタクリレート
i-BMA:i-ブチルメタクリレート
t-BMA:t‐ブチルメタクリレート
EA:エチルアクリレート
n-BA:n‐ブチルアクリレート
i-BA:i-ブチルアクリレート
2EHA:2-エチルヘキシルアクリレート
CHA:シクロヘキシルアクリレート
2EHMA:2-エチルヘキシルアクリレート
CHMA:シクロヘキシルメタクリレート
SLMA:ラウリルメタクリレート
HEMA:ヒドロキシエチルメタクリレート
HEA:ヒドロキシエチルアクリレート
MEA:メトキシエチルアクリレート
MEMA:メトキシエチルメタクリレート
Tis-M:トリイソプロピルシリルメタクリレート。
【0064】
[防汚塗料組成物の製造]
実施例1~38及び比較例1~9
シリルポリマー(A-1)~(A-33)の樹脂溶液、ガムロジンのキシレン溶液、各種防汚剤、酸化チタン、タルク、塩素化パラフィン等を、表2~4に示す配合組成にて配合し、ホモミキサーを用いて約2,000rpmの攪拌速度により混合分散した。分散後、20%粘性調整剤「ディスパロンA630-20XN」(商品名、楠本化成社製、ポリアミドワックス、20%キシレン希釈品)及びキシレンを添加し、ディスパー撹拌して防汚塗料組成物(X-1)~(X-47)を調製した。調製した各防汚塗料組成物を、下記試験に供した。これらの各試験の結果も表2~4に併せて示す。
表2~4中、シリルポリマー/(シリルポリマー+ロジン)[%]は、シリルポリマー(A)+ロジン(B))の不揮発分を基準とするシリルポリマーの不揮発分の質量割合(%)を意味する。
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】
【0067】
【表4】
【0068】
(注1):シーナイン211、2-オクチル-4,5-ジクロロ-4-イソチアゾリン-3-オン。
【0069】
[評価試験]
<貯蔵安定性試験>
実施例及び比較例で得られた各防汚塗料組成物を密閉容器内に50℃で6ヶ月間貯蔵し、下記基準にて評価した。
◎:わずかに粘度変化があった。
〇:使用上問題ないがわずかに増粘した。
△:使用上支障がある程度に増粘した。
×:分離した。
【0070】
<防汚性能試験>
サンドブラスト処理鋼板(100mm×300mm×2mm)の両面に、エポキシ系錆止め塗料を200μmの乾燥膜厚となるようにスプレー塗装し、さらに、エポキシ系バインダーコートを、乾燥膜厚が100μmとなるように塗装した。この塗装板の両面に、各防汚塗料組成物を、乾燥膜厚が片面400~450μmとなるようにスプレー塗装により塗装し、温度23℃、湿度75%の恒湿室にて1週間乾燥させて、試験片を作製した。この試験片を用いて三重県五ヶ所湾にて24ケ月の海水浸漬を行い、6ヶ月後、12ヶ月後、24ヶ月後の試験片上の付着生物の占有面積の割合(付着面積)を測定した。
◎:付着生物が観察されなかった。
○:付着生物の占有面積が5%未満であった。
△:付着生物の占有面積が5%以上、30%未満であった。
×:付着生物の占有面積が30%以上であった。
【0071】
<消耗膜厚>
各防汚塗料組成物を、あらかじめ錆止め塗料が塗布されたブラスト板に乾燥膜厚が300μmとなるように夫々塗布し、2昼夜室内に放置することにより乾燥させて、防汚塗膜を有する試験板を得た。この試験板を直径750mm、長さ1200mmの円筒側面に貼り付け、海水中、周速15ノットで12ヶ月間、さらに24か月間回転させ、試験板の塗膜消耗量(塗膜厚みの累積減少量[μm])を測定した。表における「消耗膜厚」の数値が大きいほど防汚塗膜が消耗されており、塗膜の更新速度が速いことを示す。その初期から12か月間の消耗膜厚(A)と12か月から24か月間(B)との消耗膜厚の比率(B)/(A)を計算して、消耗維持率(%)を算出し消耗維持性を評価した。その数値が高いほど塗膜消耗の維持性が高く塗膜更新性が良好な塗膜を示す。
【0072】
<耐クラック性試験>
上記防汚性能試験に供した試験片にて、その塗膜を浸漬引上げ直後に目視観察し、12ヶ月後、24ヶ月後のクラックの発生の有無を調べた。
◎:クラックが観察されなかった。
○:微細なクラックが塗膜表面の一部の範囲で観察された。
△:微細又は明確なクラックが塗膜表面の広い範囲で観察された。
×:下地に至るクラックが観察された。
【0073】
<浸漬後、低温乾燥での耐クラック性>
各防汚塗料組成物を、あらかじめ錆止め塗料が塗布されたブラスト板に乾燥膜厚が300μmとなるように夫々塗布し、2昼夜室温が20℃の室内に放置することにより乾燥させて、防汚塗膜を有する試験板を得た。
実験室で、40℃水道水に各試験板を一定期間(6ヶ月、12ヶ月)浸漬した後、試験板を引上げ直後に5℃の室内で3日間乾燥を行い、クラックの発生の有無を調べた。
◎:クラックが観察されなかった。
○:微細なクラックが塗膜表面の一部の範囲で観察された。
△:明確なクラックが塗膜表面の広い範囲で観察された。
×:明確なクラックが発生し、一部で塗膜の剥離が観察された。
【0074】
表2及び3に示すように、実施例1~38の防汚塗料組成物はいずれも優れた貯蔵安定性、防汚性、消耗維持性、耐クラック性を示すとともに、水浸漬後の低温雰囲気での耐クラック性も良好であった。一方、表4に示すように、比較例1~9はいずれも実施例と比して防汚性、消耗維持性、耐クラック性及び水浸漬後の低温雰囲気での耐クラック性のいずれかが低かった。比較例1~2はモノマー成分中のトリイソプロピルシリルメタクリレートの含有量が本発明の範囲外である例である。比較例3はモノマー成分中にメトキシエチルメタクリレートを含有していない例である。比較例4~7は、モノマー成分中のメトキシエチルアクリレート及びメトキシエチルメタクリレートの合計量が本発明範囲外である例である。比較例8はロジンを含まない例である。比較例9はロジンを含まずロジンに替えて亜鉛ロジネートを使用した例である。