(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052642
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】複合材料製の炉用支持具、複合材、その製造方法並びにその使用
(51)【国際特許分類】
C04B 35/14 20060101AFI20240404BHJP
C04B 35/64 20060101ALI20240404BHJP
C03B 8/00 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
C04B35/14
C04B35/64
C03B8/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】25
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023170488
(22)【出願日】2023-09-29
(31)【優先権主張番号】10 2022 125 253.1
(32)【優先日】2022-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】504299782
【氏名又は名称】ショット アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】SCHOTT AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr. 10, 55122 Mainz, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マンフレッド-ヨゼフ ボーレンス
(72)【発明者】
【氏名】フランク ユルゲン ドルシュケ
(72)【発明者】
【氏名】ペーター フランケ
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル ブーク
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン クーネアト
(72)【発明者】
【氏名】ゲラルド ヴァーゼム
(72)【発明者】
【氏名】ヨアヒム ディートリッヒ ケール
【テーマコード(参考)】
4G014
【Fターム(参考)】
4G014AG00
(57)【要約】
【課題】高温に対して、殊に750℃を上回る温度に対して、構造安定性および形状安定性であり、且つ相応の炉用支持具の製造のために適した材料を提供する。
【解決手段】本発明は、ベーススラリーと、石英ガラス粒子と、結晶化可能なまたは少なくとも部分的に結晶化した多成分ガラス製の粒子とを含む調製物、殊に板および成形体を製造するために使用可能な調製物に関する。前記ベーススラリーは分散媒体として水を30~50質量%の割合で含有し、そこに有利にはコロイド状に分散されたSiO
2微粒子を50~70質量%の割合で含有する。前記調製物中の石英ガラス粒子の割合は40~70質量%の範囲であり、且つ結晶化可能なまたは少なくとも部分的に結晶化した多成分ガラスの割合は5~37質量%の範囲である。さらに、本発明は、殊に上述の調製物から製造可能な複合材料、並びに前記複合材料製の炉用支持具に関する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベーススラリーと、石英ガラス粒子と、結晶化可能なまたは少なくとも部分的に結晶化した多成分ガラス製の粒子とを含む調製物、殊に板および成形体を製造するために使用可能な調製物であって、前記ベーススラリーの割合が15~45質量%であり、前記ベーススラリーは、分散媒体としての水を30~50質量%の含有率で含有し、そこに有利にはコロイド状に分散したSiO2微粒子を50~70質量%の割合で含有し、前記調製物中の石英ガラス粒子の割合は40~70質量%であり、結晶化可能なまたは少なくとも部分的に結晶化した多成分ガラスの割合は0.5~37質量%である、前記調製物。
【請求項2】
前記石英ガラス粒子が30μm~500の範囲、好ましくは63μm~250μmの範囲の粒径分布D50および/または3.0mm未満、好ましくは2.0mm未満、および特に好ましくは1.0mm未満の粒径分布D99を有する、請求項1に記載の調製物。
【請求項3】
石英ガラス製の粒子、多成分ガラス製の粒子、および/またはガラスセラミック粒子の粒径分布が多峰性、好ましくは二峰性または三峰性である、請求項1または2に記載の調製物。
【請求項4】
前記調製物中に存在する粒子全体の径分布が、分布係数q<0.3未満、好ましくは<0.25を有するアンドレアゼン式
【数1】
に相応する、請求項1から3までのいずれか1項に記載の調製物。
【請求項5】
ガラス粒子が少なくとも部分的に、シリケートに基づくガラスセラミック、好ましくはMASガラスセラミック、ZASガラスセラミックまたはLASガラスセラミックに変換され得る、請求項1から4までのいずれか1項に記載の調製物。
【請求項6】
前記ガラスセラミック粒子またはグリーンガラス粒子が10μm~100μmの範囲の中央粒径D50を有する、請求項1から5までのいずれか1項に記載の調製物。
【請求項7】
結晶化可能な多成分ガラスおよび/またはガラスセラミックの割合が、0.5~20質量%、有利には0.5~5質量%、または1~20質量%、特に好ましくは1~10質量%の範囲である、請求項1から6までのいずれか1項に記載の調製物。
【請求項8】
前記結晶化可能な多成分ガラスが1200℃未満、好ましくは1100℃未満、および特に好ましくは950℃未満のセラミック化温度Tセラミック化を有する、請求項1から7までのいずれか1項に記載の調製物。
【請求項9】
焼結された石英ガラスマトリックスと、その中の少なくとも1つのガラスセラミック相とを含む、複合材料、殊に請求項1から8までのいずれか1項に記載の調製物を用いて製造されたかまたは製造可能な複合材料であって、前記複合材料における前記ガラスセラミック相の割合が0.5~30体積%である、前記複合材料。
【請求項10】
個々のガラスセラミック粒子が10μm~100μmの範囲の径D50を有する、請求項9に記載の複合材料。
【請求項11】
前記複合材料における前記ガラスセラミック相の割合が1~20体積%、好ましくは1~10体積%である、請求項9または10に記載の複合材料。
【請求項12】
前記ガラスセラミック相がLASガラスセラミック、MASガラスセラミック、および/またはZASガラスセラミックを含む、請求項9から11までのいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項13】
前記複合材料が0.01×10-6~1.0×10-6/K、好ましくは0.02×10-6~0.6×10-6/Kの範囲の熱膨張係数α20-300℃を有する、請求項9から12までのいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項14】
前記ガラスセラミックが20%~90%、好ましくは少なくとも30%の範囲の結晶化度を有し、且つその結晶相が好ましくはキータイトを含有することを特徴とする、請求項9から13までのいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項15】
前記複合材料が、5mmの深さまで、好ましくは10mmの深さまでの表面近傍領域において、1体積%まで、好ましくは0.05体積%より多くのクリストバライトを含有する、請求項9から14までのいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項16】
前記複合材料が、6~12体積%の範囲、好ましくは8~10体積%の範囲の気孔率を有する、請求項9から15までのいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項17】
前記複合材料が、室温で18~33GPaの範囲の弾性率を有する、請求項9から16までのいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項18】
前記複合材料が、好ましくは穿孔プロセス、鋸引きプロセス、または研削プロセスによって、機械的に後加工され得る、請求項9から17までのいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項19】
少なくとも以下の段階:
a) 請求項1から8までのいずれか1項に記載の調製物を鋳込み材料として準備する段階、
b) 鋳込み型、好ましくは多孔質壁を有する鋳込み型、特に好ましくは石膏型を準備する段階、
c) 段階a)において準備された調製物を、段階b)において準備された鋳込み型に注入する段階であって、前記壁が前記調製物中に存在する水を吸収し、形状安定なグリーン体が形成される、前記段階、
d) 前記グリーン体を前記型から取り出す段階、
e) 段階c)において作製されたグリーン体を1000~1200℃の範囲の温度T焼結に加熱する段階であって、SiO2粒子がグリーンガラス粒子と共に焼結され、且つ結晶化可能な多成分ガラスの粒子が温度Tセラミック化で少なくとも部分的にガラスセラミック相に変換され、且つ温度Tセラミック化<T焼結が該当する、前記段階
を含む方法によって製造されたかまたは製造可能である複合材料。
【請求項20】
前記複合材料が、段階e)に後続する段階f)において機械的に加工され、好ましくは穿孔、フライス加工、または研削される、請求項19に記載の複合材料。
【請求項21】
段階a)において準備された調製物がガラスセラミック粒子、有利にはLASガラスセラミック、MASガラスセラミック、またはZASガラスセラミックの粒子を含有する、請求項20に記載の複合材料。
【請求項22】
敷板としての、殊にグリーンガラス製の物品をセラミック化するかまたはガラスセラミック製の物品を後処理するための形状安定な高温体または炉用支持具としての、請求項9から21までのいずれか1項に記載の複合材料の使用。
【請求項23】
殊に、請求項9から21までのいずれか1項に記載の複合材料製の敷板または敷棒の形態での炉用支持具。
【請求項24】
前記炉用支持具が平坦な敷板として形成されており、圧力方向に対して直交して敷板の長さ200mmにわたって0.5N/mm2の曲げ応力で、12時間の時間にわたり1130℃で温度負荷をかけた後に、最大永久たわみ5mm未満、好ましくは3mm未満、および特に好ましくは1mm未満を有する、請求項23に記載の炉用支持具。
【請求項25】
請求項9から21までのいずれか1項に記載の複合材料製の敷板または敷棒と、グリーンガラスまたはガラスセラミック物品、好ましくはグリーンガラス板またはガラスセラミック板とを含む複合体であって、前記敷板または敷棒の少なくとも部分的な領域と、前記ガラスセラミック物品の少なくとも部分的な領域とが共通の界面を有し、且つ、前記敷板または敷棒の複合材料のガラスセラミック相の組成と、ガラスセラミック物品の組成とは、個々の成分の含有率に関して最大10質量%異なり、10質量%未満の含有率を有するガラス成分またはガラスセラミック成分については最大2倍異なり、且つ/または両方の組成は最大10質量%の異なる成分を有し、好ましくは前記複合材料と前記ガラスセラミック物品とが同じ組成を有する、前記複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
一般に本発明は、特に高温成形プロセスにおける炉用支持具として使用するために適している複合材料に関する。殊に本発明は高い形状安定性および形状精度を有する焼結された複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばガラスまたはガラスセラミックの多数の後加工プロセスについて、搬送のためにも、相応のプロセスの実施のためにも、成形および/または支持用下敷きが必要であり、つまりいわば炉用支持具として用いられる。この際、ここで使用される材料は苛酷なプロセス条件に曝露されることがある。例えば、それらの材料は、グリーンガラス物品からガラスセラミック物品へのセラミック化に際し、数時間から数日の比較的長い時間間隔にわたって高温に曝露される。炉用支持具は繰り返し使用されるので(それぞれの炉用支持具およびプロセスに応じて数百回まで用いられる)、炉用支持具には高い要件が課される。これは例えばグリーンガラスを曲げてセラミック化する成形プロセスにも該当する。セラミックの製造プロセスおよび加工プロセス、またはガラス物品を製造するための溶融プロセスにおいても、相応の炉用支持具の必要性がある。
【0003】
現在、このために炉用支持具として多くの場合、スリップキャストSiO2材料もしくは石英材、およびそれらから製造された部品が使用されている。しかしながら、殊に750℃を上回るプロセス温度での炉用支持具の持続的な負荷によって、並びに殊に加熱の際の部分的な短い熱サイクルおよび/またはプロセスを実施する間の冷却を含む温度変化によっても、相応の材料は、使用期間が長くなるにつれてその形状に関するずれを示す。これによって、相応の形状の寸法安定性が確保されず、そのことは例えばその炉用支持具を用いて製造されるもしくは加工されるガラスまたはガラスセラミック製品の品質に悪影響を及ぼす。さらに、炉用支持具とガラスまたはガラスセラミック製品との接触面も変化することがある。これは例えば、ガラス製品またはガラスセラミック製品の起伏および表面欠陥を引き起こすことがあり、同様に製品の品質に悪影響を及ぼすことがある。
【0004】
これらの不利な変化の原因は、一方では焼結後のプロセス、並びに殊に先述の熱負荷による、炉用支持具に用いられた材料の材料構造における変化である。例えば、高温によって石英ガラス相が少なくとも部分的に結晶構造に変換されることがある。この際、殊にクリストバライトの形成が関係する。1200℃を上回ると石英ガラスはクリストバライトに変換し、それは体積の増加を伴う。材料における体積変化によって炉用支持具の変形が生じることがあり、それはさらにガラスまたはガラスセラミック製品の寸法安定性に影響を及ぼす。クリストバライト形成のさらなる欠点は、200℃未満でさらにクリストバライト相の変換が生じて体積が増加し、それはクラックの形成、剥離、炉、炉用支持具自体、並びに製品の相応する汚染、または炉用支持具の破損さえもみちびきかねないことである。
【0005】
本質的に純粋な石英に基づくSiO2材料製の炉用支持具の使用は、この際、殊に1000℃を上回る温度でのプロセスの際に問題となり得る。例えば750℃よりも高い高温領域における持続的な負荷の場合、構造が変化する傾向がある。これらの変化は、焼結後のプロセス、および例えばガラス相から結晶構造への変換、結晶相の変換、または残留気孔率の減少による、材料構造の変換の結果である。これらの変化は体積変化を伴い、従って形状変化をみちびくことがあるので、稼働期間の間の寸法安定性が確保されない。さらに、ガラス製品に対する接触面の変化が生じることもある。これはガラス製造もしくはセラミック化(即ちガラスからガラスセラミックへの変換の場合)における品質低下をみちびきかねない。
【0006】
これらの欠点を回避するために、従来技術においては、例えば炭化ケイ素(SiC)製の炉用支持具が記載されており、それは上述の変化に対してあまり影響されない。しかしながら、相応の構造部材が非常に高価であり、用途に応じて1~数m2の必要な形状および大きさで入手可能ではないことが多いのが欠点である。さらに、三次元の型および下敷きを製造するための大部分の削る加工(例えば研削)は、殊に非常に高い寸法要件および狭い許容差の場合、非常に困難、煩雑で且つ費用がかかる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の課題は、高温に対して、殊に750℃を上回る温度に対して、構造安定性および形状安定性であり、且つ相応の炉用支持具の製造のために適した材料を提供することである。上述の要件を備える炉用支持具を提供すること、並びに前記材料もしくは炉用支持具を製造するための相応の調製物および製造方法を提供することが本発明のさらなる課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の説明
本発明の課題は、独立請求項の対象によって既に解決される。有利な態様およびさらなる構成は、従属請求項の対象である。
【0009】
本発明の1つの態様によれば、殊に板および成形体を製造するために適しており且つ鋳込み可能である調製物が提供される。
【0010】
前記調製物はベーススラリーと、石英ガラス粒子と、殊に結晶化可能なまたは少なくとも部分的に結晶化した多成分ガラスもしくはグリーンガラスまたはガラスセラミックを含む添加物質の粒子とを含む。
【0011】
前記ベーススラリーは、分散媒体としての水を30~50質量%、好ましくは35~45質量%、最も好ましくは38~42質量%の割合で含み、そこに分散されたSiO2微粒子もしくはSiO2微細粒を50~70質量%、好ましくは55~65質量%、最も好ましくは58~62質量%の割合で含む。SiO2微粒子は分散媒体中で有利にはコロイド状に分散しており、以下でコロイド状SiO2とも称される。1つの実施態様によれば、SiO2微粒子は1~3μm、好ましくは1~2μmの範囲の粒径分布D50および/または5μm未満、好ましくは4μm未満の粒径分布D90を有する。
【0012】
前記調製物はベーススラリーを15~45質量%、好ましくは20~40質量%、最も好ましくは20~35質量%の割合で、石英ガラス粒子を40~70質量%、好ましくは50~60質量%の割合で、少なくとも1つのグリーンガラスまたはガラスセラミックを含む添加物質の粒子を0.5~37質量%、例えば5~37質量%、好ましくは7~25質量%、最も好ましくは9~21質量%の割合で含有する。グリーンガラスまたはガラスセラミックの特に適した割合は、0.5~20質量%、より好ましくは1~20質量%、なおもさらに好ましくは1~10質量%、または0.5~5質量%の範囲である。意外なことに、複合材中のこの少ない割合のグリーンガラスもしくはガラスセラミックで既に、構造安定性および形状安定性に関して明らか且つ十分な効果を有する。
【0013】
1つの実施態様によれば、調製物中の水の割合は6~18質量%である。相応の含水率は、可能な限り高い固形物割合で調製物の良好な流動性もしくは鋳込み性を可能にする。
【0014】
1つの実施態様は、調製物の組成物が、SiO2微粒子を7.5~32質量%、好ましくは11~26質量で、石英ガラス粒子を40~70質量%、好ましくは50~60質量%の割合で、および少なくとも1つのグリーンガラスまたはガラスセラミックを含む添加物質の粒子を0.5~37質量%、有利には0.5~20質量%、殊に1~20質量%、特に好ましくは1~10質量%、殊に0.5~5質量%、または5~37質量%、好ましくは7~25質量%、最も好ましくは9~21質量%の割合で、および水を6~18質量%の範囲の割合で含有することを意図する。
【0015】
本発明の有利な態様によれば、石英ガラス粒子は、前記石英ガラス粒子が30μm~500の範囲、好ましくは63μm~250μmの範囲の粒径分布D50および/または3.0mm未満、好ましくは2.0mm未満、および特に好ましくは1.0mm未満の粒径分布D99を有する、粒子径分布を有する。
【0016】
添加物質として、多成分ガラス製の結晶化可能なガラス粒子または少なくとも部分的に結晶化したガラス粒子が前記調製物に添加される。多成分ガラスとは、本発明の意味においてSiO2以外に少なくとも1つのさらなるガラス形成成分を有するガラスと理解される。グリーンガラスとも称される結晶化可能なガラス、またはガラスセラミックとも称される少なくとも部分的に結晶化したガラスの粒子を添加することによって、高温でも、前記調製物を用いて製造された板または相応の成形体の安定化が生じる。
【0017】
本開示の意味における結晶化可能なガラスは、殊に、マトリックスガラスの転位温度より低い、好ましくは少なくとも100K低い範囲の温度処理によって、最長24時間後に、75%より多く結晶相に変換され得るガラスである。シリカガラスマトリックスの場合、マトリックスガラスの転移温度、ひいては温度処理のための上限は1130℃である。慣用のホウケイ酸ガラス、殊に「DIN/ISO 3585に準拠するホウケイ酸ガラス3.3」など、例えば商品名DURANまたはPYREXとして販売されているガラスはこの条件を満たさない。
【0018】
1つの実施態様は、多成分ガラス製の粒子が10μm~100μmの範囲の中央粒径D50を有する、有利には15~40μmの範囲の中央粒径D50を有する粒子径分布を有することを意図する。相応の粒径分布は、前記調製物の良好な加工性、殊に良好な鋳込み性および均質化性を確保する。同時に、そのように成形体に形成されたガラスセラミック相は、石英ガラス骨格に安定化効果を及ぼすために十分に大きなサイズを有する。
【0019】
前記調製物はSiO2微粒子、および分散媒体としての水を含有する。SiO2微粒子は分散媒体中で有利にはコロイド状に分散しており、以下でコロイド状SiO2とも称される。1つの実施態様によれば、調製物中の水の割合は6~20質量%、有利には10~20質量%である。相応の含水率は、可能な限り高い固形物割合で調製物の良好な流動性および鋳込み性を可能にする。1つの実施態様によれば、SiO2微粒子は1~3μmの範囲の粒径分布D50および/または5μm未満、好ましくは4μm未満の粒径分布D90を有する。
【0020】
石英ガラス粒子、並びに添加物質としての結晶化可能なまたは少なくとも部分的に結晶化した多成分ガラス製の粒子がベーススラリーに添加される。1つの実施態様によれば、ベーススラリーへの添加物における石英ガラス粒子および添加物質の割合は70~99.5質量%、好ましくは80~99質量%、特に好ましくは90~99質量%である。
【0021】
本発明の有利な態様によれば、石英ガラス粒子は、前記石英ガラス粒子が30μm~500の範囲、好ましくは63μm~250μmの範囲の粒径分布D50および/または3.0mm未満、好ましくは2.0mm未満、および特に好ましくは1.0mm未満の粒径分布D99を有する、粒子径分布を有する。
【0022】
添加物質として、多成分ガラス製の結晶化可能なガラス粒子または少なくとも部分的に結晶化したガラス粒子が前記調製物に添加される。多成分ガラスとは、本発明の意味においてSiO2以外に少なくとも1つのさらなるガラス形成成分を有するガラスと理解される。1つの実施態様によれば、前記調製物における結晶化可能なまたは結晶化されたガラス粒子の割合は、0.5~37質量%、有利には0.5~20質量%、殊に0.5~5質量%、またはさらに5~37質量%、好ましくは7~25質量%、最も好ましくは9~21質量%である。グリーンガラスとも称される結晶化可能なガラス、またはガラスセラミックとも称される少なくとも部分的に結晶化したガラス製の粒子を添加することによって、高温でも、前記調製物で製造された板または相応の成形体の安定化が生じる。
【0023】
1つの実施態様は、前記調製物中に含有される多成分ガラスの粒子が少なくとも部分的に結晶化していることを意図する。少なくとも部分的に結晶化したガラス粒子は、高い温度安定性を有し、従って石英ガラス骨格の安定性もみちびき、この骨格もしくはこのマトリックスは、前記調製物を用いて製造された成形体において石英ガラス以外に結晶部分も含み得る。セラミックの添加物質とは異なり、以下でガラスセラミック粒子とも称される多成分ガラス製の部分的に結晶化したガラス粒子は、ガラス質の残留相を含有する。このガラス質の残留相によって、部分的に結晶化したガラス粒子が石英マトリックスに結合することが可能になり、それは相応の成形体の安定性に有利な影響を及ぼす。
【0024】
さらなる好ましい実施態様によれば、前記調製物は、結晶化したガラス粒子の代替的または追加的に、結晶化可能なガラスもしくはグリーンガラス製の粒子を含有する。これらは成形体の製造に際し、in situでガラスセラミック粒子に変換され、石英骨格の安定化もみちびく。この際、ガラス粒子が、まず前記粒子のガラス質の性質によって石英骨格中に特に良好に組み込まれることができ、続いてガラス粒子のガラスセラミック粒子への変換が生じることが有利である。しかしながら、調製物からの成形体の製造の間にin situで生じるガラスセラミックへの変換は、殊に温度管理に関して、既に部分的に結晶化したガラス粒子を有する調製物からの成形体の製造よりも煩雑な製造プロセスを意味する。
【0025】
さらなる実施態様において、結晶化可能なおよび/または少なくとも部分的に結晶化したガラス粒子が用いられ、それらは好ましくは同じかまたは類似の組成を有し、且つ/またはそれぞれ用いられた結晶化したガラス粒子中にも存在するものと少なくとも部分的に類似または同じ結晶相を形成するような結晶化可能なガラスが用いられることが意図される。ただし、前記調製物に添加される結晶化したガラス粒子と、前記調製物に添加される結晶化可能なガラス粒子から得られる少なくとも部分的に結晶化したガラス粒子とは、互いに異なっていてもよく、つまり、殊に異なる組成を有してもよい。これは例えば複合材料、つまり調製された鋳込み材料から製造された成形体の熱機械的特性(例えば熱膨張、熱伝導率または熱容量、または剛性(弾性率))または化学的特性を適合させるために行われる。
【0026】
石英ガラス粒子および/または多成分ガラスの粒子の粒径分布が多峰性である場合、可能な限り高い固形分含有率で、特に良好な作業性、殊に高い流動性を有する調製物を得ることができる。1つの実施態様によれば、石英ガラス粒子、結晶化可能なガラス粒子、および/または結晶化したガラス粒子は二峰性、またはさらには三峰性の粒子径分布を有する。1つの実施態様は、SiO2微粒子が単峰性の粒子径分布を有することを意図する。
【0027】
さらなる構成は、調製物の粒子全体の径分布のアンドレアゼン(Andreassen)式が0.1~0.3の範囲のq値を有することを意図する。1つの実施態様によれば、q値は<0.3または<0.25である。アンドレアゼンモデルは、空間が可能な限り密に球状粒子によって満たされることができ、残りの中空部が可能な限り小さくなるが、それでも混合物は流動性である可能性を記述する。広い粒子径分布を有する粒子を使用することによって、この条件下で、ある体積が、狭い粒子分布を有する粒子またはさらには単分散の粒子を使用する場合よりも明らかに高い充填度で、つまり体積あたりより多くの粒子で充填され得る。例えば、広い粒子分布を有する粒子の場合、より小さい粒子は、より大きな粒子間に形成される中空部に入ることができるので、空間をより良好に利用できる。アンドレアゼンモデルはここで、混合物の流動性と共に、球状粒子による空間の最大充填度が達成され得る理想的な粒子径分布を規定する:
【数1】
【0028】
その際、粒子径「d」は以下のように特定される: 粉末の個々の粒子はその現実の形状とは無関係に、等価体積を有する球の直径(等体積球相当径)によって異なる画分に区分される。粒子分布Qを調べるために、粉末内で相応の画分のそれぞれの数が特定される。アンドレアゼン式において、それぞれの画分の体積から計算される粒子分布Q3(d)が使用される。
【0029】
q値は両対数プロットでアンドレアゼン式の傾きを表す。q値の変化によって、理想的なモデル粒子からの現実の粒子のずれが考慮される。このずれは例えば理想的な球からずれた粒子の形状、または粒子同士または粒子と分散媒体との相互作用によって発生し得る。
【0030】
分散相との相互作用に基づき凝集傾向のある粒子は、q値が小さい場合、粗悪なレオロジー特性を示し、つまり粒子径分布が広い場合、高い充填度を有する。そのため、ここでは高いq値が有利であることができる。しかしながら、q値の増加に伴って混合物は粗くなり、加工性が悪化する。対照的に、高い微細度を有する混合物は低いq値を有する。
【0031】
本発明者らは、意外なことに、q値の選択によって鋳込み材料の調製物中でのより高い充填度を達成できることを見出した。ガラス粒子径分布のアンドレアゼン式は、0.1~0.3の範囲のq値を有する。特に高い最大体積充填度は、アンドレアゼン式が0.1~0.25の範囲のq値を有するスラリーにおいて達成される。
【0032】
添加剤について、全ての結晶化可能なガラス系、殊にシリカに基づくもの、例えばMgO-Al2O3-nSiO2(MAS)、ZnO-Al2O3-nSiO2(ZAS)またはLi2O-Al2O3-nSiO2(LAS)製の粉末が適している。この際、添加剤が種類に特異的である、つまり炉用支持具上で、または炉用支持具を用いて製造可能な、製造されるべき、または製造された製品と類似または同じである場合が特に有利である。従って、例えばLAS型のガラスセラミックのグリーンガラスを熱的に後処理、殊にセラミック化すべき場合、好ましくは関連するLAS型がグリーンガラスとして、またはガラスセラミック粒子として添加剤として用いられる。
【0033】
本発明のさらなる態様は、成形体の製造方法に関する。この際、まず上述の調製物を準備する。これは例えば、石英ガラス粒、並びに結晶化可能なおよび/または少なくとも部分的に結晶化した多成分ガラス製の粒子をベーススラリーに添加することによって得ることができる。そのように得られる調製物を、次の段階において、多孔質の壁を有する型、有利には石膏型に注入し、そこで乾燥させる。この際、多孔質の壁を有する型を使用することにより、前記型によって、調製物中に含有される水を吸着により吸収することが可能になる。調製物中の比較的低い含水率に関連して、短い乾燥時間を実現できる。さらに、可能な限り低い含水率を有する調製物の使用は、乾燥の間の収縮の減少をみちびく。
【0034】
少なくとも部分的に乾燥させた後、グリーン体を型から取り出し、場合によりさらに乾燥させ、1000℃~1200℃、有利には1030℃~1180℃の範囲の温度範囲T焼結で焼結する。焼結プロセスの間に、SiO2粒子が、調製物中に含有されるグリーンガラスまたは部分的に結晶化したガラス粒子と共に焼結される。グリーンガラス粒子を用いる実施態様の場合、これらはセラミック化温度Tセラミック化での焼結プロセスの間に少なくとも部分的に結晶化し、ガラスセラミック相に移行する。セラミック化温度Tセラミック化はそれぞれのグリーンガラスの組成に依存するが、焼結温度T焼結よりは低いので、Tセラミック化<T焼結が該当する。形成されるかもしくは形成された石英ガラスマトリックスのクリストバライトへの変換が回避されるように、焼結温度T焼結は、1200℃未満、有利には最高1030℃である。
【0035】
上述の方法を用いて、焼結された石英ガラスマトリックスと、そこに分散された少なくとも部分的に結晶化した、多成分ガラスを含むガラス粒子とを有する複合材料が得られる。その際、複合材料は形状安定性であるので、機械的に後処理されることができる。従って、本発明の実施態様は、焼結後のさらなる成形プロセスを意図する。この際、それは殊に研削プロセス、フライスプロセスまたは穿孔プロセスであることができる。
【0036】
前記複合材料の少なくとも部分的に結晶化したガラス粒子は、少なくとも1つのガラスセラミック相を形成し、前記複合材料におけるガラスセラミック相の割合は0.5~30体積%、好ましくは1~20体積%である。石英ガラス中に分散した少なくとも部分的に結晶化したガラス粒子によって、高温であってもガラスマトリックスの安定化が生じる。従って、1つの実施態様によれば、前記複合材料は、その複合材料が変形することなく、純粋な石英マトリックスよりも高い温度に曝露されることができる。
【0037】
1つの実施態様によれば、複合材料中の少なくとも部分的に結晶化したガラス粒子は、10μm~100μmの範囲、有利には10μm~40μmの範囲の径D50を有する。相応の径分布によって、一方では石英ガラスマトリックス中で、少なくとも部分的に結晶化したガラス粒子が均質に分布することが可能になる。他方では、少なくとも部分的に結晶化したガラス粒子はそのサイズによって十分に大きなガラス質相を有し、それが石英ガラス粒子およびスラリー中に含有されるSiO2と共に焼結され得る。これは、少なくとも部分的に結晶化したガラス粒子が、複合材料のSiO2マトリックス中に良好に結合されることをみちびく。
【0038】
ガラスセラミック相として、殊にリチウムアルミニウムシリケートガラスセラミック(LAS)、マグネシウムアルミニウムシリケートガラスセラミック(MAS)、および亜鉛アルミニウムシリケートガラスセラミック(ZAS)が判明している。本発明の好ましい実施態様によれば、前記複合材料はLASガラスセラミック相を有する。
【0039】
ガラスセラミック相が20~90体積%まで結晶質である複合材料が特に有利であると判明している。この結晶化度は、ガラスセラミック相の複合材料中への組み込みに関しても、ガラスセラミック相の安定化作用に関しても、特に有利であると判明している。ガラスセラミック相のガラス質の部分は、石英ガラスと共に焼結されることができ、それによってガラスセラミック相の石英マトリックス中への良好な組み込みをみちびく。
【0040】
高い結晶化度は、複合材料の耐熱性および機械的耐性に有利な影響を及ぼす。従って、1つの実施態様によれば、ガラスセラミック相は少なくとも30%の結晶化度を有する。
【0041】
ガラスセラミックの結晶相は、高温に対しても安定であるので、殊に結晶相の他の変態への変換が生じない。この際、キータイトがガラスセラミックの結晶相として特に有利であると判明している。
【0042】
使用されるガラスセラミックは有利には低い熱膨張係数を有する。それによって、低い熱膨張係数を有する複合材料を得ることができる。これは殊に前記複合材料を炉用支持具として使用する場合に有利である。1つの実施態様によれば、前記複合材料は0.02×10-6~0.6×10-6/Kの範囲の熱膨張係数α20-300℃を有する。
【0043】
前記複合材料は殊に表面近傍領域において少量のクリストバライトを含有し得る。しかしながら、このクリストバライト部分は体積の増加をみちびかず、複合材料を270℃未満に冷却する際のクリストバライトの有害な相変換も生じない。少量のクリストバライトはガラスセラミック相によって安定化されると考えられる。1つの実施態様によれば、前記複合材料は5mmの深さまで、有利には10mmの深さまでの表面近傍領域において、1体積%まで、有利には0.05体積%より多くのクリストバライトを含有する。
【0044】
前記複合材料は多孔質である。殊に前記複合材料は6~12体積%の範囲、有利には8~10体積%の範囲の気孔率を有する。前記複合材料は、ガラスセラミックと焼結された石英ガラスとの結合によって特に高い全体的な剛性を有する。従って、好ましい実施態様によれば、室温での弾性率は18~33GPaの範囲である。この値は、耐火製品について室温での曲げ強さを特定するための曲げ試験から得られる。高い剛性は良好な形状安定性を可能にする。型および下敷きに高重量の荷重がかかる場合であっても、変形は顕著ではない。さらに、高い弾性率によって、高い形状安定性は同じであるままで、板または成形体の壁厚を減少することができる。このことは、板または成形体を製造する際の材料の消費に関してのみ重要であるわけではない。例えば、前記複合材料を炉用支持具として用いる場合、壁厚もしくは厚さの減少、つまり体積の減少は、少なくとも類似または改善した特性で、加熱の際に必要とされるエネルギーが少ないことをみちびく。従って、より少ない壁厚は、殊に、ガラスまたはガラスセラミックの製造などの高温プロセスの場合に、よりエネルギー効率の良いプロセスに貢献できる。従って、前記複合材料製の、より薄い炉用支持具、例えば支持板が可能になり、ひいては炉のより高い占有密度、またはプロセス時間の短縮も可能になることができる。
【0045】
従って、前記複合材料は殊に、グリーンガラス製の物品をセラミック化するための、形状安定な高温体または炉用支持具として使用するために適している。その際、相応の炉用支持具は敷板または敷棒(Unterlegleiste)の形態で存在し得る。
【0046】
1つの実施態様によれば、前記複合材料は、グリーンガラス物品のセラミック化に際する敷板または敷棒として使用される。この際、複合材料中のガラスセラミック相が、セラミック化されるべきグリーンガラスと本質的に同じ組成を有する場合、特に有利であると判明している。このような組成は、グリーンガラスからガラスセラミックへのセラミック化の場合のみではなく、熱による他の後処理プロセス、例えば既にセラミック化したグリーンガラス、つまりガラスセラミックの成形または装飾の場合にも有利であることが証明されている。その際、炉用支持具が、熱処理されるべき材料の種類に特異的な成分を含む場合が有利である。
【0047】
本発明によるこのような複合材料は、炉用支持具として、既に上記で挙げられたグリーンガラスからガラスセラミックへのセラミック化の際の敷板としての用途の他に、既にセラミック化した状態でも、型および/または装飾として成形の際に使用され得る。使用温度もしくは焼成温度に応じて、そのような炉用支持具はセラミック産業でも、成形もしくは変形、および/またはガラスとガラスまたは他の材料との結合のためのプロセス、例えばガラス融着においても用いられ得る。一般に、前記複合材料は温度約1200℃までの熱プロセスにおいて使用するために適している。炉用支持具上に載置されたセラミック化したグリーンガラスは炉用支持具と共に複合体を形成する。一般に、本開示は、本開示による複合材料製の敷板または敷棒と、グリーンガラス物品またはガラスセラミック物品、好ましくはグリーンガラス板またはガラスセラミック板とを含む複合体を意図し、ここで、前記敷板または敷棒の少なくとも部分的な領域と、前記物品の少なくとも部分的な領域とは共通の界面を有し、且つ、前記敷板または敷棒の複合材料のガラスセラミック相の組成と、ガラスセラミック物品の組成とは、個々の成分の含有率に関して最大10質量%異なり、10質量%未満の含有率を有するガラス成分またはガラスセラミック成分については最大2倍異なり、且つ/または両方の組成は最大10質量%の異なる成分を有し、好ましくは前記複合材料とガラスセラミック物品とは同じ組成を有する。相応の複合体はまた、前記複合材料と、その上に載置された、例えばセラミック化されるべきグリーンガラスとで形成される。
【0048】
本発明による複合材料はガラス溶融および/または関連する熱間成形の分野においても用いられ得る。さらに、かかる複合材料を、金属の溶融においてまたは金属の溶融の際に、ガラス溶融およびその後加工と類似して用いることも考えられる。
【0049】
高い荷重に基づく、または自重による弾性変形に対する上述の高い剛性の他に、高温での塑性変形に対する耐性が重要である。1つの実施態様は、前記複合材料製の炉用支持具であって、前記炉用支持具が平坦な敷板または敷棒として形成されており、且つ曲げ荷重0.5N/mm2の下で、圧力方向に対して直交する敷板の長さ200mmにわたって、12時間にわたって同時に1130℃の温度負荷をかけた場合、最大たわみが、5mm未満、好ましくは3mm未満、および特に好ましくは2mm未満である、前記炉用支持具を意図する。
【0050】
詳細な説明
以下で本発明を
図1~7を用いて、並びに実施例を用いてより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図3】
図3は敷棒の形態での炉用支持具の模式図を示す。
【
図4】
図4は敷板の形態での炉用支持具の模式図を示す。
【
図6】
図6はたわみ試験を実施した後の比較例の写真を示す。
【
図7】
図7はたわみ試験を実施した後の実施例の写真を示す。
【
図8】
図8は負荷後の本発明による炉用支持具のたわみが、純粋な石英材に基づく従来の材料に比して少ないことを具体的に示すグラフを示す。
【実施例0052】
図1は第1の実施例による調製物1の模式図を示す。調製物1はベーススラリー、石英ガラス粒子、および結晶化可能な多成分ガラス製の粒子を含む。ベーススラリーは分散媒体としての水を30~50質量%、好ましくは35~45質量%、最も好ましくは38~42質量%の含有率で含み、そこに有利にはコロイド状に分散したSiO
2微粒子を50~70質量%、好ましくは55~65質量%、最も好ましくは58~62質量%の割合で含む。結晶化可能なガラス3は、多成分ガラス、有利には、リチウムアルミニウムシリケート(LAS型)製の、グリーンガラスとも称される結晶化可能なガラスである。結晶化可能なガラスの中央粒子径D
50は、
図1に示された実施例において20~35μmの範囲である。石英ガラス粒子は63μm~250μmの範囲の中央粒子径D
50を有する。有利には、グリーンガラスおよび石英ガラスの粒子径分布は、混合物が0.3未満のq値を有するアンドレアゼン式によって定義されるように選択される。
【0053】
グリーンガラス3は1200℃未満のセラミック化温度を有する。従って、グリーンガラス3のセラミック化温度は、石英ガラス粒子を焼結するための焼結温度を下回る。これは、石英ガラス部分の焼結の間にグリーンガラス3がセラミック化することを可能にする。この際、ガラスセラミック領域のガラス質相が石英ガラスと共に焼結されることができるので、焼結石英材マトリックスとそこに分散されたガラスセラミック相との間で特に安定な結合が達成され得る。この際、調製物は少なくとも、調製物1から得られる炉用支持具が用いられるべき温度に相応する温度に加熱される。
図1に示された実施例の場合、相応の炉用支持具を製造するために調製物1を多孔質の壁を有する型に注入する。多孔質の壁を通じて、調製物の水分が吸収されることができるので、安定なグリーン体が得られる。グリーン体は焼結のために少なくとも、相応の炉用支持具が用いられるべき温度に相応する温度に加熱される。
【0054】
図1に示された調製物の焼成によって製造された複合材料4を、
図2に模式的に示す。焼結により、石英ガラス粒子3およびスラリーが石英マトリックス30に変換された。グリーンガラス粒子2はガラスセラミック相20に変換された。従って、複合材料4は焼結石英材マトリックス30によって形成され、そこにガラスセラミック相20が分散されている。
図2に示された例において、複合材料4は5~30体積%の範囲のガラスセラミック相20の割合を有する。ガラスセラミック相20はLASガラスセラミックである。ガラスセラミック相20は、少なくとも30体積%の結晶化度、好ましくは60~90体積%の範囲の結晶化度を有し、その結晶相はキータイトとして存在する。この際、キータイトは高温、つまり1180℃を上回る温度でも安定である。これによって、焼結石英材マトリックス30は高温で安定化されることができ、焼結石英材マトリックスのクリストバライトへの変換が防がれるか、または少なくとも低減される。有利には複合材料は5体積%未満のクリストバライトの割合を有する。複合材料4は孔を有し得るが、それは
図2には示されていない。
【0055】
炉用支持具10、11としての複合材料4の使用を
図3および4に示す。
図3に示された炉用支持具10は幅Bおよび長さLを有する棒として形成され、ここで長さLは幅Bよりも大きい。炉用支持具10は炉の底部6上に配置され、グリーンガラス板5のための支持体として役立つ。この際、グリーンガラス板5はその縁領域においてのみ棒10の上に載っている。
図4は炉用支持具11が板として形成されている実施態様を示す。ここで、グリーンガラス板5は全面的に板11上に載っている。有利には、グリーンガラス板5は、炉用支持具10、11のガラスセラミック相と同じ組成を有する。本発明による炉用支持具は高い形状精度を示す。
【0056】
図5は、炉用支持具10の熱機械的負荷による永久変形を調べるための模式的な構造を示す。この際、例えば炉用支持具材料10の200mm長の片を2つの耐火性スペーサー7上に載置し、ここで炉用支持具10の縁領域のみがスペーサー7上に載っている。炉用支持具10の中央に重り8を配置し、それによって炉用支持具10に最大曲げ応力0.5N/mm
2で負荷をかける。
図5に示された構成を5日間、1130℃で保管する。引き続き、炉用支持具10の永久たわみを調べる。同じ寸法を有するが、純粋な焼結石英材製、つまりガラスセラミック相を有さない炉用支持具のたわみも比較例として特定した。
【0057】
図6は上述の曲げ試験後の本質的に純粋な焼結石英材の棒9の写真を示す。石英棒の明らかなたわみが肉眼で既にわかる。
図7は、
図6に示された焼結石英材の棒と同じ条件に供された、本発明による複合材料製の3つの棒10を示す。3つの棒のいずれも明らかな形状の変化を示さない。むしろ、棒10は200mmあたり2mm未満のたわみを有する。
【0058】
図8はたわみの曲げ応力依存性を示す。試料14、15は本質的に純粋な石英材製の比較例であり、試料16、17、18は本発明による炉用支持具の実施例である。全ての試料は1130℃で12時間、曲げ応力0.5N/mm
2で負荷をかけられた。その際、試料16は10体積%のガラスセラミック相を含有し、試料17は15体積%のガラスセラミック相を含有し、且つ試料18は20体積%のガラスセラミック相を含有する。
【0059】
図8から、比較例14および15は著しいたわみを有することが明らかである。この際、曲げ応力の増加に伴ってたわみが増加する。焼結石英材の棒の場合、棒内の個々のシリカガラス粒の間のガラス質の、従って粘性の結合位置のゆっくりとした変形が生じると考えられる。これに対し、ガラスセラミック相と組み合わせることによって、この結合位置に好ましくは結晶相が組み込まれる。これは粘性ではないので、相応の棒16、17、18は温度処理の際に変形を示さない。さらなる方向付け試験において、非常に小さな割合のガラスセラミック相も、純粋な焼結石英材に対して、熱機械的負荷に際する変形を明らかに低減することが示された。