(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052644
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】キャスティング用素地、複合材および安定化作用を示すキャスティング用素地を有する流路システム
(51)【国際特許分類】
C03B 8/00 20060101AFI20240404BHJP
C03B 5/43 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
C03B8/00 Z
C03B5/43
【審査請求】未請求
【請求項の数】26
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023170537
(22)【出願日】2023-09-29
(31)【優先権主張番号】10 2022 125 252.3
(32)【優先日】2022-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】504299782
【氏名又は名称】ショット アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】SCHOTT AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr. 10, 55122 Mainz, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】フランク ユルゲン ドルシュケ
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ-ディーター ヴェルナー
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン クーネアト
(72)【発明者】
【氏名】ペーター フランケ
(72)【発明者】
【氏名】マンフレッド-ヨゼフ ボーレンス
(72)【発明者】
【氏名】フランツ-ペーター エッケス
【テーマコード(参考)】
4G014
【Fターム(参考)】
4G014AG00
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ガラス融液用の流路システムを製造するためのキャスティング用素地および複合材を提供する。
【解決手段】流し込み用素地として使用可能である調製物において、前記調製物は、18~36重量%の割合のベーススラリーと、40~70重量%の割合の石英ガラス粒子と、10~40重量%の割合の少なくとも1つの複成分ガラスを含む混和材の粒子とを含み、前記ベーススラリーは、分散媒としての30~50重量%の含有量の水と、その中にコロイド状に分散した50~70重量%の含有量のSiO
2微粒子とを含み、調製物中の水の総割合は、10~20体積%である、調製物を提供する。本発明はさらに、大部分が結晶性であるSiO
2マトリックスとその中に埋め込まれた多成分ガラスの粒子とを有する複合材、ならびに該複合材を含む、特にガラス融液の搬送に適した装置を提供する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
調製物であって、特に流し込み用素地として使用可能である調製物において、前記調製物は、18~36重量%の割合のベーススラリーと、40~70重量%の割合の石英ガラス粒子と、10~40重量%の割合の少なくとも1つの複成分ガラスを含む混和材の粒子とを含み、前記ベーススラリーは、分散媒としての30~50重量%の含有量の水と、その中にコロイド状に分散した50~70重量%の含有量のSiO2微粒子とを含む、調製物。
【請求項2】
前記石英ガラス粒子が、150μm~1000μmの範囲、好ましくは200~700μmの範囲の粒度分布D50および/または3000μm未満、好ましくは1000μm未満、特に好ましくは800μm未満の粒度分布D99を有する、請求項1記載の調製物。
【請求項3】
前記石英ガラス粒子および/または多成分ガラスの前記粒子の前記粒度分布が、多峰性であり、有利には二峰性または三峰性である、請求項1または2記載の調製物。
【請求項4】
前記多成分ガラスの前記ガラス粒子が、40~150μmの範囲、好ましくは50~120μmの範囲、特に好ましくは60~105μmの範囲の粒径分布D50を有し、かつ/または前記粒径分布D99が、100μm未満、好ましくは80μm未満、特に好ましくは70μm未満である、請求項1から3までのいずれか1項記載の調製物。
【請求項5】
前記多成分ガラスが、ホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸ガラスまたはソーダ石灰ガラスを含む、請求項1から4までのいずれか1項記載の調製物。
【請求項6】
前記ガラス粒子のサイズ分布について、アンドレアゼン式
Q3(d)=(d/D)q
d:粒径
D:最大粒径
q:分布係数
が成り立ち、ここで、分布係数q<0.3、好ましくは<0.25である、請求項1から5までのいずれか1項記載の調製物。
【請求項7】
前記多成分ガラスが、<800℃、好ましくは<750℃、特に好ましくは<600℃の転移温度Tgおよび/または>700℃、好ましくは>900℃、特に好ましくは>1150℃の加工温度TVAを有する、請求項1から6までのいずれか1項記載の調製物。
【請求項8】
前記調製物が、室温でレオペクシーである、請求項1から7までのいずれか1項記載の調製物。
【請求項9】
前記キャスティング用素地に対する多成分ガラスから構成される前記ガラス粒子の割合が、10~40重量%、好ましくは15~30重量%である、請求項1から8までのいずれか1項記載の調製物。
【請求項10】
複合材、特に請求項1から8までのいずれか1項記載の調製物を用いて製造されたまたは製造可能である複合材において、前記複合材は、焼結SiO2マトリックスと、その中に分散した多成分ガラスのガラス質相とを含み、前記ガラス質相の割合は、18~42体積%であり、前記ガラスが104dPasの粘度を有する際の温度である前記ガラスの加工温度TVAが、>700℃、好ましくは>900℃、好ましくは>1150℃であり、前記ガラスの転移温度TGが、<800℃、好ましくは<750℃、特に好ましくは<600℃である、複合材。
【請求項11】
前記SiO2マトリックスの大部分が結晶性であり、前記SiO2マトリックス中の前記ガラス質相の前記割合が、実質的に前記多成分ガラスによって形成されており、前記割合が、10~40体積%、好ましくは18~25体積%である、請求項10記載の複合材。
【請求項12】
前記焼結SiO2マトリックスが、クリストバライトを含み、好ましくは前記SiO2マトリックスの少なくとも60体積%、特に好ましくは前記SiO2の少なくとも75体積%がクリストバライトとして存在する、請求項10または11記載の複合材。
【請求項13】
前記多成分ガラスの前記ガラス粒子が、40~150μmの範囲、好ましくは50~120μmの範囲、特に好ましくは60~105μmの範囲の粒径分布D50を有し、かつ/または粒径分布D99が、100μm未満、好ましくは80μm未満、特に好ましくは70μm未満である、請求項10から12までのいずれか1項記載の複合材。
【請求項14】
前記複合材の少なくとも1つの外側領域における前記ガラス質相の割合が、前記複合材の内側領域よりも高い、請求項10から13までのいずれか1項記載の複合材。
【請求項15】
前記複合材が、前記多成分ガラスの軟化温度を上回る温度で粘弾特性を示す、請求項10から14までのいずれか1項記載の複合材。
【請求項16】
装置であって、特にガラス融液搬送用の流路システムまたは供給システムとしての装置において、前記装置は、複合材と、貴金属製または耐熱性金属製の内部および外部側面を有する金属製部材とを備え、前記複合材は、焼結SiO2マトリックスと、その中に分散した多成分ガラスのガラス質相とを含み、前記ガラス質相の割合は、18~42体積%であり、前記ガラスの加工温度TVAは、>700℃であり、かつ/または前記ガラスの転移温度TGは、<800℃であり、前記焼結SiO2マトリックスは、クリストバライトを含み、前記金属製部材は、前記複合材中に収容されており、前記金属製部材の前記外部側面は、完全に濡れており、かつ形状接続されており、複合物体と金属製部材との界面にガラス質層が形成されている、装置。
【請求項17】
前記金属製部材が、少なくとも1つの貴金属、好ましくは白金、金、イリジウム、ロジウムもしくはそれらの合金、または少なくとも1つの耐熱性金属、好ましくはモリブデン、タングステンおよび/もしくはそれらの合金を含む、請求項16記載の装置。
【請求項18】
前記金属製部材が、流路または管として形成されている、請求項16または17記載の装置。
【請求項19】
前記装置が、液体ガラスを搬送するための流路システムまたは供給システムの一部である、請求項18記載の装置。
【請求項20】
前記多成分ガラスの組成と前記金属製部材内のガラス融液の組成とが相溶性であり、好ましくは、前記多成分ガラスの前記ガラス成分の含有量と前記ガラス融液の前記ガラス成分の含有量との差は、最大でも10%であり、前記多成分ガラスの前記ガラス成分の含有量および前記ガラス融液の前記ガラス成分の含有量は、前記ガラス組成に対する割合が10重量%未満である含有量については、これらの互いの差が、最大でも2倍であり、かつ/または前記多成分ガラスの前記組成に含まれる、前記ガラス融液の前記組成と異なる成分は、最大でも10%であり、特に好ましくは、前記多成分ガラスの前記組成が、同一の組成を有する、請求項19記載の装置。
【請求項21】
前記複合材が、前記SiO2マトリックス中の前記ガラス質相の分布に関して勾配を示し、前記ガラス質相の濃度は、前記金属製部材から離れた領域よりも、前記金属製部材との界面においてより高くなっている、請求項16から20までのいずれか1項記載の装置。
【請求項22】
前記複合材の前記SiO2マトリックス中のクリストバライトの割合が、少なくとも60~90体積%、好ましくは75~82体積%であり、特に好ましくは、前記SiO2マトリックスは、実質的にクリストバライトからなる、請求項16から21までのいずれか1項記載の装置。
【請求項23】
請求項16から22までのいずれか1項記載の装置の製造方法であって、前記方法は、少なくとも以下の工程:
a)請求項1から9までのいずれか1項記載の調製物を提供する工程、
b)セラミック鋳型を提供する工程、
c)貴金属製または耐熱性金属製の部材を提供する工程、
d)工程c)で提供された前記部材を、工程b)で提供された前記鋳型内に配置する工程、
e)工程a)で提供されたキャスティング用素地を前記鋳型に流し込み、工程c)で提供された前記部材の外部側面を前記キャスティング用素地で完全に覆う工程、
f)工程b)で提供された前記セラミック鋳型の壁を通じた吸水により、工程e)で流し込みを行った前記鋳型を乾燥させる工程、
g)乾燥した前記装置を1100℃~1560℃の範囲の温度に加熱する工程
を含み、
前記SiO2マトリックスを焼結させ、複合材と金属製部材との界面に前記ガラス相を蓄積させ、その結果、ガラス質層が形成され、前記ガラス質層が、前記金属製部材の前記外部側面を完全に濡らす、方法。
【請求項24】
工程b)で提供された前記鋳型が、スリップキャストシリカをベースとするまたはセラミック繊維をベースとする壁を含み、かつ/または工程g)において前記鋳型と前記SiO2マトリックスとを前記界面で一緒に焼結させる、請求項23記載の方法。
【請求項25】
請求項10から15までのいずれか1項記載の複合材を製造するための、請求項1から9までのいずれか1項記載のキャスティング用素地の使用。
【請求項26】
流路システムまたは供給システムにおけるガラス融液の搬送方法であって、前記ガラス融液を、請求項16から22までのいずれか1項記載の装置により搬送し、前記ガラス融液の組成と前記装置の前記多成分ガラスの組成とが相溶性であり、前記多成分ガラスの前記ガラス成分の含有量と前記ガラス融液の前記ガラス成分の含有量との差は、最大でも10%であり、前記多成分ガラスの前記ガラス成分の含有量および前記ガラス融液の前記ガラス成分の含有量は、前記ガラス組成に対する割合が10重量%未満である含有量については、これらの互いの差が、最大でも2倍であり、かつ/または前記多成分ガラスの前記組成に含まれる、前記ガラス融液の前記組成と異なる成分は、最大でも10%であり、特に好ましくは、前記多成分ガラスの前記組成が、前記ガラス融液と同一の組成を有する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は総じて、キャスティング用素地、該素地から製造可能である複合材、および安定化作用を示すキャスティング用素地を有する流路システムに関する。詳細には、本発明は、特にガラス融液用の流路システムを製造するためのキャスティング用素地および複合材に関する。
【0002】
先行技術
ガラス製造では、溶融槽または溶融るつぼから液状ガラスを搬送するために耐熱性流路システムが必要とされる。加えて、ガラスは、さらなる加工に向けて流路システム内で状態調節される。例えば、加熱または冷却プロセスによる加工温度の調整や、ガラスのさらなる均質化を行うことができる。ここで、運転温度は、800℃~1700℃の範囲である。さらに、ガラス融液は、流路システムに直に接する。このため、使用される流路材料は、ガラス融液に対しても、また高い運転温度に対しても、不活性であるかまたは少なくとも大幅に不活性である必要性が生じる。先行技術から知られている流路システムは、例えば白金合金などの特殊金属合金やセラミック系から製造されている。この場合、このような流路システムのセラミック系や材料、そして特にまた金属との組み合わせも、例えば、酸化アルミニウムおよび/または酸化ジルコニウムのような純粋なセラミック材料からなり、さらにまた純粋に石英またはSiO2をベースとする材料、例えばいわゆる石英ガラスをも含む。
【0003】
運転温度が高い場合、金属製コンポーネントの機械的耐久性は非常に低いため、金属製流路を備えた流路システムは、追加の支持構造を有する。この場合、この構造には複数の各種要件が課される。例えば、使用される金属の熱膨張係数が比較的高いために発生する金属製流路の膨張が外部構造体によって相殺または補償されるように、外部構造体の材料を選択しなければならない。加えて、外部構造体は、流路の損傷およびそれに起因する漏出が発生した場合にガラスの流出を阻止するとともに、可能な限り少なくとも限られた期間で、流路システムを用いた製造の継続を可能にしなければならない。
【0004】
外部構造体はさらに、例えば温度測定用設備や加熱用設備などの必要な技術コンポーネントを外部構造体内に収容することによって、金属製流路の安定化以外の役割をも果たす。
【0005】
外部構造体に対するもう1つの要件は、例えばガラス溶融プラントなどの使用箇所に直接設置されるシンプルかつフレキシブルな構造である。理想的には、外部構造体はさらに、流路の金属壁を通じたガス交換を抑制することが望ましい。特に、しばしば使用される貴金属合金の水素透過性は、多くのガラスにおいて、流路内での気泡形成、ひいてはガラス品質の著しい低下を招く。
【0006】
現在、外部構造体として主にセラミック製のキャスティング用素地やバルク材が使用されている。これらは、確かに流路システムの十分な機械的安定化をもたらすが、貴金属壁を通じた水素透過は避けられない。一方では、これは素地やバルク材の多孔質構造に起因し得る。他方では、使用されるセラミック素地において、高い運転温度では通常は後焼結が生じる。焼結プロセスの過程で生じる焼結収縮によってさらに、セラミック型枠と金属流路との間に間隙が形成される。この間隙により、環境とのガス交換が生じかねず、これによってさらに、ガラス中で気泡が形成されるおそれがある。
【0007】
焼結収縮に加え、運転温度が高い場合の金属の熱膨張係数とセラミックの熱膨張係数との相違も、流路とセラミックとの間での間隙形成を招く。
【0008】
確かに、この間隙に例えば水蒸気などのガスを意図的に注入することによってガス交換を抑制することは可能ではあるが、このようなシステムの構築および安全な運転に必要な全体的なコストは非常に高くなる。
【0009】
さらに、間隙の形成やセラミックの残留気孔によって、貴金属製コンポーネントの耐用年数が著しく短くなる。一方では、貴金属は周囲の酸素と反応する。生じる酸化物が蒸発し、それにより部材の壁厚が減少する。これは部材の機械的な脆弱化につながり、その結果、プラントの耐用年数が短くなる。
【0010】
入手可能なセラミック製キャスティング用素地、あるいは該素地から製造されたセラミック耐熱性材料もしくは構造物では、貴金属製の壁が損傷した場合のフェールセーフ特性が提供されない。流出したガラスは、セラミックの成分を溶解し、これらの成分が、異物やセラミック粒子として被加工ガラス中に蓄積される。
【0011】
貴金属製流路を通じたガス透過、およびその結果生じるガラス中の気泡形成を防ぐ方法の1つでは、貴金属製流路のグレージングが提供される。この場合、流路が、溶融ガラスから構成される浴中に収容される。この場合、ガラスが常に流路と密着しているため、このようにしてガス交換を防ぐことができる。しかし、この方法では、垂直方向の流路セクションを埋め込むことができない。この方法では水平方向のシステムを構築することができるが、その場合は、流路を機械的に安定化させるための追加措置を講じる必要がある。さらに、流路の始動時にグレージングに必要となるコストが非常に高い。流路壁の外側にある粘性ガラスによる高い外圧は、流路の凹みを招くおそれがある。この設計のもう1つの欠点は、このようなシステムではガラスの種類を変更することがほぼ不可能であることであり、なぜならば、このためには、流路を完全に空にし、その後すぐに貴金属製コンポーネントを押し込まなければならないためである。
【0012】
発明の課題
したがって、本発明の1つの課題は、上述の欠点を有しないガラス加工用装置を提供することである。もう1つの課題は、対応する装置および複合材を製造するためのキャスティング用素地を提供することである。
【0013】
課題の解決
本発明の課題は、既に独立請求項の主題によって解決される。有利な実施形態および発展形態は、従属請求項の主題である。
【0014】
発明の説明
本発明は、ベーススラリーと、石英粒子と、特に複成分ガラスを含む混和材の粒子とを含む調製物に関し、該調製物は、特にキャスティング用素地あるいは流し込み用素地として使用可能である。
【0015】
ベーススラリーは、分散媒としての30~50重量%、好ましくは35~45重量%、最も好ましくは38~42重量%の含有量の水と、その中にコロイド状に分散した50~70重量%、好ましくは55~65重量%、最も好ましくは58~62重量%の割合のSiO2微粒子あるいはSiO2細粒とを含む。SiO2微粒子は、分散媒中にコロイド状に分散しており、以下ではコロイダルSiO2とも称される。一実施形態によれば、SiO2微粒子は、1~3μm、好ましくは1~2μmの範囲の粒度分布D50および/または5μm未満、好ましくは4μm未満の粒度分布D90を有する。
【0016】
調製物は、18~36重量%、好ましくは20~30重量%の割合のベーススラリーと、40~70重量%、好ましくは50~60重量%の割合の石英ガラス粒子と、10~40重量%、好ましくは20~30重量%の割合の少なくとも1つの複成分ガラスを含む混和材の粒子とを含む。
【0017】
一実施形態によれば、調製物中の水の割合は、5~15重量%である。対応する水の含有量によって、可能な限り高い固形分で調製物の良好な流動性あるいはキャスティング性が可能となる。
【0018】
本発明の有利な一構成によれば、石英ガラス粒子は、粒度分布を有し、ここで、石英ガラス粒子は、30μm~500μmの範囲、好ましくは63μm~250μmの範囲の粒度分布D50および/または3.0mm未満、好ましくは2.0mm未満、特に好ましくは1.0mm未満の粒度分布D99を有する。
【0019】
さらなる混和材として、多成分あるいは複成分ガラスが調製物に添加される。本発明の趣意において、多成分ガラスとは、SiO2に加えて少なくとも1つのさらなるガラス形成性成分を含むガラスであると理解される。
【0020】
一実施形態では、多成分ガラスから構成される粒子が、10μm~100μmの範囲の平均粒度D50、有利には15μm~40μmの範囲の平均粒度D50を有する粒径分布を有することが提供される。対応する粒度分布により、調製物の良好な加工性、特に良好なキャスティング性および均質性が保証される。
【0021】
本発明は、水と、SiO2微粒子と、石英ガラス粒子と、多成分ガラスの粒子とを含む調製物に関する。この調製物は特に、流し込み用素地として使用可能である。一実施形態では、調製物が、5~18重量%、好ましくは7~16重量%の範囲の割合の水と、9~26重量%、好ましくは11~20重量%の含有量のSiO2微粒子と、10~40重量%、好ましくは20~30重量%の範囲の含有量の複成分ガラスと、40~70重量%、好ましくは50~60重量%の範囲の含有量の石英ガラス粒子とを含むことが提供される。SiO2微粒子あるいはSiO2細粒とは特に、0.5~5μmの範囲の平均粒径を有するSiO2粒子であると理解される。SiO2微粒子は、調製物中で特に水中にコロイド状に分散したSiO2粒子として存在し、以下ではコロイダルSiO2とも称される。
【0022】
一実施形態によれば、SiO2微粒子は、1~3μmの範囲の粒度分布D50および/または5μm未満、好ましくは4μm未満の粒度分布D90を有する。
【0023】
調製物中の水の総割合は、10~20体積%、有利には15体積%未満である。さらに、調製物は、さらなる成分として、50~70体積%の石英ガラス粒子と、15~35体積%の多成分ガラスの粒子とを含む。ここで、多成分ガラスとは、SiO2に加えて少なくとも1つのさらなるガラス形成性成分を含むガラスであると理解される。
【0024】
一実施形態によれば、石英ガラス粒子は、150μm~1000μmの範囲、好ましくは200~700μmの範囲の粒度分布D50および/または3.0mm未満、好ましくは1.0mm未満、特に好ましくは800μm未満の粒度分布D99を有する。
【0025】
代替的または付加的に、多成分ガラスのガラス粒子は、40~150μmの範囲、好ましくは50~120μmの範囲、特に好ましくは60~105μmの範囲の粒径分布D50を有する。有利には、粒径分布D99は、100μm未満、好ましくは80μm未満、特に好ましくは70μm未満である。
【0026】
一実施形態では、石英ガラス粒子および/または多成分ガラスの粒子の粒度分布は、多峰性であり、有利には二峰性または三峰性である。SiO2微粒子は特に、単峰性の粒度分布で存在することができる。
【0027】
一発展形態では、石英ガラス、SiO2微粒子および多成分ガラスの粒子のサイズ分布のアンドレアゼン式が、0.1~0.3の範囲のq値を有することが提供される。一実施形態によれば、q値は、0.3未満または0.25未満である。アンドレアゼンモデルは、残りの空隙が可能な限り小さくなるが、それでも依然として混合物が流動性であるように、空間を球状粒子で可能な限り密に充填することができる方法を記述するものである。広い粒径分布を有する粒子を使用することにより、狭い粒子分布を有する粒子、またはさらには単分散性粒子を使用した場合よりも、この条件下で体積を著しく高い充填度で、すなわち単位体積当たりにより多くの粒子で充填することができる。よって、広い粒子分布を有する粒子の場合、小さな粒子は、大きな粒子の間に形成される空隙に入ることができ、したがって空間をより有効に利用することができる。ここで、アンドレアゼンモデルは、混合物の流動性を維持しつつ球状粒子による空間の最大充填度を達成することができる、理想化された粒径分布を定めるものである:
Q3(d)=(d/D)q
d:粒径
D:最大粒径
q:分布係数
ここで、粒径「d」は、以下のように求められる:粉末の個々の粒子は、その実際の形状に関係なく、等価体積を有する球の直径(体積等価球径)に基づいて異なる画分に分割される。粒子分布Qを求めるために、粉末内の対応する画分のそれぞれの数を求める。アンドレアゼン式では、それぞれの画分の体積から算出される粒子分布Q3(d)が使用される。
【0028】
q値は、両対数プロットにおけるアンドレアゼン式の傾きを表す。q値の変化により、理想的なモデル粒子からの実粒子の偏差が考慮される。このような偏差は、例えば、理想的な球体から逸脱した粒子の形状や、粒子同士または分散媒との相互作用によって生じ得る。
【0029】
分散相との相互作用により凝集しやすい粒子は、q値が低い場合、すなわち高充填度を示すような広い粒径分布の場合には、比較的劣悪なレオロジー特性を示す。したがって、ここではq値が高いほど有利となり得る。しかし、q値が大きくなると、混合物の粒度が粗くなり、加工が困難となる。一方で、微粉含有量の多い混合物は、低いq値を有する。
【0030】
本発明者らは、q値を選択することにより、キャスティング用素地においてより高い充填度を達成できることを見出した。一実施形態によれば、調製物におけるガラス粒径分布のアンドレアゼン式は、0.1~0.3の範囲のq値を有する。特に高い最大体積充填度は、アンドレアゼン式が0.1~0.25の範囲のq値を有するガラスペーストにおいて達成される。
【0031】
多成分ガラスは特に、ホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸ガラスまたはソーダ石灰ガラスを含むことができる。添加されるガラスの種類、量および粒度により、その後の製造プロセスにおける素地の特性を調整することができる。例えば、添加される多成分ガラスによって、特に、調製物および調製物から製造可能な複合材の熱膨張係数、熱伝導率または軟化温度などの特性に影響を与えることができる。ここで、有利には、対応する複合材のその後の運転温度において可能な限り高い粘度を有するガラスが選択される。好ましくは、ガラスは、<800℃、好ましくは<750℃、特に好ましくは<600℃の転移温度TGおよび/または700℃を超える、好ましくは900℃を超える、特に好ましくは1150℃を超える加工温度TVAを有する。
【0032】
それぞれの多成分ガラスは、要求される粒度分布が得られるか否かが選択基準となり得る。後に流路システムで使用される複合材を製造するための調製物を使用する場合、多成分ガラスが、流路システムを使用して製造または加工されるガラスと組成が相溶性であると特に有利であることが判明した。好ましい一実施形態によれば、多成分ガラスは、製造すべきガラスと同一または少なくとも類似の化学組成を有する。例えば、デュラン(Duran)ガラス、あるいは例えば本出願人のガラスタイプ8330のようなホウケイ酸ガラス3.3は、多成分ガラスとして、ホウケイ酸ガラスの製造に適している。したがって、例えば無アルカリガラスの製造では、好ましくは無アルカリの、少なくとも低アルカリのガラスも、キャスティング用素地あるいは複合材にも使用される。それに応じて、グリーンガラス、すなわち結晶化可能なガラスであって、その溶融後、あるいはその後に狙いどおりの熱的後処理によってガラスセラミックに変換することができるものの製造では、同様に、同一あるいは同種類のガラス、場合によってはグリーンガラスがキャスティング用素地に添加される。加熱時および/または例えば流路システムの運転中に、これらのガラスが少なくとも部分的に結晶化あるいはセラミック化することにより、部材の機械的安定性にさらに有利な効果をもたらすことができる。このような結晶化可能な複成分ガラスまたは少なくとも部分的に結晶化した複成分ガラスを含むキャスティング用素地は、例えば、ガラス溶融槽および/またはそれに関連する熱間成形部の構造体を安定化させるための、例えばブロック、プレートまたは支柱の一種としての成形体の材料または複合材として使用することもできる。さらに、溶融および/または熱間成形の場所的および/または時間的に下流にある熱プロセス、例えば成形またはセラミック化にも使用することができる。
【0033】
複合材の有利な実施形態およびそれを含む装置において、ガラス融液の組成と多成分ガラスの組成とは相溶性であり、好ましくは、多成分ガラスのガラス成分の含有量とガラス融液のガラス成分の含有量との差は、最大でも10%であり、多成分ガラスのガラス成分の含有量およびガラス融液のガラス成分の含有量は、ガラス組成に対する割合が10重量%未満である含有量については、これらの互いの差が、最大でも2倍であり、かつ/または多成分ガラスの組成に含まれる、ガラス融液の組成と異なる成分は、最大でも10%であり、特に好ましくは、多成分ガラスの組成は、ガラス融液と同一の組成を有する。
【0034】
さらに、ガラス融液およびその後加工に関するものと同様に、キャスティング用素地、または該素地から構成される複合材を金属溶融中またはその際に使用することも考えられる。
【0035】
本発明のさらなる一態様は、複合材であって、特に開示された調製物を用いて製造されたまたは製造可能である複合材に関する。複合材は、焼結SiO2マトリックスと、その中に分散した多成分ガラスのガラス質相とを含む。ガラス質相の割合は、18~42体積%である。ガラスは、ガラスが>700℃、好ましくは>900℃、好ましくは>1150℃の104dPasの粘度を有する際の温度である加工温度TVAと、<800℃、好ましくは<750℃、特に好ましくは<600℃のガラスの転移温度TGとを有する。好ましくは、SiO2マトリックスは、大部分が結晶性であり、SiO2マトリックス中のガラス質相の割合は、実質的に多成分ガラスによって形成される。一実施形態によれば、ガラス質相の割合は、10~40体積%、好ましくは18~25体積%である。
【0036】
本発明のさらなる一態様は、上記の調製物からガラス搬送用装置、特に流路システムまたは供給システムを製造する方法に関する。本方法は、少なくとも以下の工程a)~g):
a)上記の調製物を提供する工程、
b)セラミック鋳型を提供する工程、
c)貴金属製または耐熱性金属製の部材を提供する工程、
d)工程c)で提供された部材を、工程b)で提供された鋳型内に配置する工程、
e)工程a)で提供されたキャスティング用素地を鋳型に流し込み、工程c)で提供された部材の外部側面をキャスティング用素地で完全に覆う工程、
f)工程b)で提供されたセラミック鋳型の壁を通じた吸水により、工程e)で流し込みを行った鋳型を乾燥させる工程、
g)乾燥した装置を1100℃~1700℃の範囲、有利には1100℃~1560℃の範囲の温度に加熱する工程
を含む。
【0037】
工程b)で提供されたセラミック鋳型内に、特に管または流路の形態の金属製部材が配置される。この鋳型は特に、セラミック製の壁を有する流路枠である。ここで、鋳型のセラミック材料は、キャスティング用素地中に存在する水分に対して良好な吸収能力を有する。壁の高い吸収性により、大部分の水分がキャスティング用素地から除かれ、安定した未焼結体を得ることができる。特に、わずかな残留気孔を有する細粒セラミック、有利にはスリップキャストシリカをベースとするプレートあるいは成形部材が、鋳型の材料として適していることが判明したが、なぜならば、これらは、工程g)においてキャスティング用素地と共に良好に焼結可能であるためである。セラミック繊維をベースとするプレートも、同様に適している。これらは、加工し易いという利点がある。
【0038】
工程d)で金属製部材を鋳型内に配置した後、鋳型内の中間空間あるいは自由空間を、工程e)で上記のキャスティング用素地により充填する。ここで、金属製部材の外部側面をキャスティング用素地で完全に覆う。
【0039】
乾燥プロセスの際に、水分が鋳型のセラミック壁に素早く吸収され、素地が固化する。これにより、系全体が装填可能な状態となり、搬送や始動の準備が整う。
【0040】
始動は、工程g)において、鋳型内でのキャスティング用素地の焼結に伴って行われる。したがって、工程g)は、装置の始動時の加熱プロセスに相当する。工程g)において、スラリーのコロイダルSiO2および石英ガラス粒子を1100℃~1700℃の範囲、有利には1100℃~1560°の範囲の温度で焼結させて、SiO2マトリックスを形成する。この過程で、安定したセラミックシリカ骨格が形成される。セラミック骨格は、少なくとも部分的にクリストバライトとして存在する。これにより、高い機械的安定性を達成することができる。一実施形態によれば、SiO2マトリックスの60~90体積%、有利には75~82体積%が、クリストバライトの形態で存在する。
【0041】
セラミック骨格は細孔を有し、これらの細孔は、多成分ガラスで充填される。多成分ガラスは、このようにして生じる複合材においてガラス相を形成する。ここで、ガラス相は、SiO2マトリックス全体に均一に分散しているわけではなく、複合材と金属製部材との界面に蓄積する。こうして、工程c)で提供された部材の外部側面にガラス質層が形成され、これが部材の外部側面を濡らす。
【0042】
これは、流路の金属材料の熱伝導率が高いため、多成分ガラスが有利には流路の外部側面で軟化して、この外部側面を密に包み込むということにより説明できる。こうして、強靭で粘性のある素地の皮膜が金属製部材の表面に形成される。したがって、複合材は、少なくとも1つの外側領域において、内側領域よりも高い割合のガラス質相を有する。
【0043】
驚くべきことに、このガラス皮膜は完全に連続しているため、そのようにしてガス交換、特に水素透過が防止される。したがって、本発明による複合材によって、寸法的に安定で気密性の高い外部構造体の構築が可能となる。ここで、複合材あるいはそれにより形成された外部構造体は、驚くべきことに、セラミック製の外部構造体およびガラスベースの外部構造体のそれぞれの利点を有する。
【0044】
しかし、工程g)で1100℃未満の温度に加熱することも可能である。この温度では、クリストバライトへの変態は起こらないため、複合材は、多成分ガラスのガラス相が中に分散した石英ガラスマトリックスから構成されている。対応する複合材は、例えば、通常は1100℃未満の温度で製造される光学ガラスの製造で使用することができる。有利には、その場合にも、キャスティング用素地中のガラスの混和材も同様に、いわば同種類のものが、すなわち、少なくともまたも溶融あるいは製造されるガラスと同様の組成のものが選択される。
【0045】
工程g)は、始動時に、例えば流路を設置した状態で製造ユニット内または製造ユニットに隣接した場所で直接実施することができるが、代替的に、すべてまたは一部を事前に、すなわち設置および始動の前に、別の熱処理工程で実施することもできる。
【0046】
多成分ガラスの軟化点を上回る温度では、複合材は、粘弾性挙動を示す。これにより、安定化作用を示す外装材料としての複合材と金属製部材とを備えた対応する装置において、例えば金属の熱膨張係数と焼結複合材の熱膨張係数との大きな差により発生する応力を緩和することができる。特に、金属製部材の外部側面のガラス質皮膜によって、この膨張の差を相殺することができる。
【0047】
このような挙動にもかかわらず、セラミックマトリックスのクリストバライト骨格により、加工温度が高くても複合材は安定したままである。これは、複合材、ひいては装置にも高い機械的安定性を与えるだけでなく、ガラス皮膜が流れ落ちるのを防ぐ。このガラス皮膜の安定化により、本発明による複合材は、垂直方向に延在する素子を備えた装置も製造することができる。
【0048】
本発明者らはまた、驚くべきことに、多孔質のクリストバライト骨格がさらに、金属製部材の損傷時に、金属製部材の漏出部から流出する製造ガラスを吸収することもできることを見出した。したがって、漏出部は自然に閉じ、製造されるガラスの品質に悪影響を及ぼすことなく、製造プロセスを継続することができる。
【0049】
純粋なSiO2材料と比較した、開示された複合材のもう1つの利点は、複合材を備えた装置が損傷を受けることなく275℃以下の温度まで冷却可能であることである。したがって、これらの装置、例えば流路は、製造が中断された場合にさらに加熱する必要がない。これとは対照的に、外部構造体に純粋なSiO2材料を有する装置は、製造が中断された場合にも、275℃を超える温度まで加熱しなければならない。この理由は、クリストバライトが275℃以下の温度に冷却されると別の結晶形態へと変態するという特性にある。「クリストバライトジャンプ」と呼ばれるこのプロセスは、非常に強い体積減少を伴う。これは、外部構造体でのクラック形成を招くことがある。
【0050】
開示された複合材は、ガラス相に基づき粘弾性を示す。したがって、ガラス相は、上述の相ジャンプの影響を低減し、体積が著しく減少した場合でも複合材の凝集力を保証する。
【0051】
本発明のさらなる一態様は、特に流路システムまたは供給システムの形態のガラス加工用装置を提供することである。ここで、対応する装置は、複合材を含み、複合材は、大部分が結晶性である焼結SiO2マトリックスと、外部構造体としての多成分ガラスのガラス質相とを含む。この外部構造体には、特に管または流路の形態の金属製部材が入っており、金属製部材の外部側面は、複合材で完全に濡れており、かつこれと形状接続されており、複合物体と金属製部材との界面にガラス質層が形成されている。金属として、貴金属、有利には白金、金、イリジウム、ロジウムまたはそれらの合金が特に有利であることが判明した。代替的または付加的に、耐熱性金属、特にモリブデン、タングステンまたはそれらの合金を使用することもできる。
【0052】
複合材は、クリストバライトを含む焼結SiO2マトリックスと、このSiO2マトリックス中に分散した多成分ガラスのガラス質相とを含み、ガラス質相の割合は、18~42体積%であり、ガラスの加工温度TVAは、>700℃であり、かつ/またはガラスの転移温度TGは、<800℃であり、ここで、焼結SiO2マトリックスは、クリストバライトを含む。
【0053】
金属製部材の外部側面は、複合材で完全に覆われる。ここで、金属製部材の領域でガラス質相の蓄積が起こる。こうして、金属製部材の外部側面は、薄いガラス皮膜で覆われる。
【0054】
一実施形態によれば、本装置は、液体ガラスを搬送するための流路システムまたは供給システムの一部である。
【0055】
詳細な説明
本発明を、
図1~
図4を参照して以下にさらに詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【0057】
図1は、第1の実施形態例によるキャスティング用素地1の概略図である。調製物は、18~36重量%の割合のベーススラリーと、40~70重量%の割合の石英ガラス粒子と、10~40重量%の割合の少なくとも1つの複成分ガラスを含む混和材の粒子とを含む。
【0058】
ベーススラリーは、分散媒としての30~50重量%の水と、その中にコロイド状に分散した50~70重量%、好ましくは55~65重量%、最も好ましくは58~62重量%の割合のSiO2微粒子あるいはSiO2細粒とを含む。
【0059】
調製物中の水の総割合は、10~20重量%である。
図1に示す実施形態では、多成分ガラス2としてホウケイ酸ガラスが用いられている。多成分ガラス2の平均粒径D
50は、
図1に示す実施形態例では60~105μmの範囲である。石英ガラス粒子は、200μm~700μmの範囲の平均粒径D
50を有する。有利には、多成分ガラス2および石英ガラス3の粒径分布は、混合物が0.3未満のq値のアンドレアゼン式で記述できるように選択される。多成分ガラス2は、<800℃、好ましくは<750℃、特に好ましくは<600℃のガラス転移温度T
Gおよび/または>700℃、好ましくは>900℃、特に好ましくは>1150℃の加工温度T
VAを有する。一実施形態では、多成分ガラス2が630~800℃の範囲のガラス転移温度T
Gを有することが提供される。
【0060】
図2では、
図1に示した調製物を焼結して製造された複合材5が概略的に示されている。ここで、複合材5は、細孔を有することができる(
図2には図示せず)。焼結により、石英ガラス粒子3およびコロイド状に分散したSiO
2 4は、石英マトリックス6に変換された。石英マトリックス6は、少なくとも部分的に結晶性を有し、結晶構造としてクリストバライト構造を有する。石英マトリックス6中のクリストバライトの割合は、
図2に示す実施形態例では75~82体積%である。石英マトリックス6中には、ガラス相2が分散している。ガラス相2は、石英マトリックス6に取り込まれ、その際に石英マトリックス6の細孔を満たす。ここで、例えばガラス融液用装置に複合材5が使用される場合には、多成分ガラス2の軟化点は、複合材5が使用される温度以下であることが好ましい。このように適切に使用される際に粘性であるガラス相2によって、複合材5は運転温度で粘弾性特性を示す。このような粘弾性特性により、金属製部材を備えた装置に複合材5を使用した場合に、使用される材料の熱膨張係数の相違により生じる機械的応力を効果的に緩和することができる。
【0061】
熱伝導率の高い部材、例えば金属製部材と接触した状態でキャスティング用素地1を焼結させることによって複合材5を製造した場合、複合材5は、ガラス相2の不均一な分散を示し得る。これを
図3に概略的に示す。ここで、
図3は、金属製部材7が埋め込まれた複合材5の断面を示す。
図3に示す実施形態例では、金属製部材7は、外部側面70を有する貴金属管である。この外部側面70は、複合材5で完全に包囲されている。ここで、複合材5は、ガラス相の含有量が異なる領域を有する。ガラス相の含有量の相違は、個々の領域51,50および30によって表される。ここで、複合材は、金属管7の側面70と接触している領域において、外側領域51よりも高い含有量のガラス相を有する。したがって、
図3に示す実施形態例は、ガラス相の含有量に関して勾配を示す。これは、
図3では矢印13で表されており、矢印13は、ガラス相の含有量が高い方向を示している。複合材5と金属管7の外部側面70との界面には、連続したガラス皮膜30が形成される。これに複合材5の領域50が隣接しており、この領域50は、領域51と比較してガラス相濃度が増加している。領域50および領域51は、共通の界面を有することができる。また、2つの領域50,51が連続的に混ざり合うことも可能である。
【0062】
図4は、一実施形態例に基づくガラス融液搬送用の流路システムまたは供給システムの形態の装置12を概略的に示す。装置12は、複合材5と、複合材5に埋め込まれた金属管7とを備えている。金属管7を通るガラスの流れが、矢印8で示されている。複合材5は、装置12の支持構造を形成している。複合材5の機械的安定性が高いことにより、垂直方向に延在する部分を備えた構造も実現できる。さらに、測定素子や加熱素子のようなさらなる素子を複合材5内に収容することができる。
図4に示す実施形態例では、複合材5には温度センサ10および撹拌るつぼ11も収容されている。さらに、断熱性を向上させるために、装置12はさらに、複合材の外側を包囲する断熱層9を備えている。
【符号の説明】
【0063】
1 キャスティング用素地、 2 多成分ガラス、 3 石英ガラス粒子、 4 コロイド状に分散したSiO2、 5 複合材、 6 石英マトリックス、 7 金属製部材、 8 ガラスの流れ、 9 断熱層、 10 温度センサ、 11 撹拌るつぼ、12 装置、 13 ガラス相の含有量に関する勾配、 30 連続したガラス皮膜、 50 領域、 51 外側領域、 70 外部側面
【外国語明細書】