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特開2024-52646ミズワタクチビルケイソウの特異的検出
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052646
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】ミズワタクチビルケイソウの特異的検出
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/11 20060101AFI20240404BHJP
   C12Q 1/6888 20180101ALI20240404BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20240404BHJP
【FI】
C12N15/11 Z
C12Q1/6888 Z ZNA
C12Q1/686 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023170652
(22)【出願日】2023-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2022158624
(32)【優先日】2022-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和5年度、水産庁・効果的な外来魚等抑制管理技術開発事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【弁理士】
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】鵜木(加藤) 陽子
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ09
4B063QQ54
4B063QR08
4B063QR42
4B063QR62
4B063QR66
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】環境DNAからの迅速・高感度なミズワタクチビルケイソウの検出法の開発。
【解決手段】特定の塩基配列のうち、90番目のアデニンを含み、且つ連続する少なくとも14塩基からなる塩基配列又はそれに相補的な塩基配列を含む核酸、当該核酸を含む、ミズワタクチビルケイソウの検出用マーカー、プライマー、又はプローブ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1で示される塩基配列のうち、90番目のアデニンを含み、且つ連続する少なくとも14塩基からなる塩基配列又はそれに相補的な塩基配列を含む核酸。
【請求項2】
請求項1の核酸を含む、ミズワタクチビルケイソウの検出用マーカー、プライマー、又はプローブ。
【請求項3】
以下の(1)~(4)からなる群から選択される、いずれかのプライマーセット:
(1)配列番号2に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号3に示される塩基配列からなるプライマーとからなるプライマーセット;
(2)配列番号2に示される塩基配列の5’末端側10塩基からなる塩基配列において、1個又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列からなるプライマーと、配列番号3に示される塩基配列からなるプライマーとからなるプライマーセットであって、遺伝子増幅法により配列番号1の配列を含むミズワタクチビルケイソウ(Cymbella janischii)の28S rRNA遺伝子またはその転写産物由来のDNA断片を特異的に増幅できる、プライマーセット;
(3)配列番号2に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号3に示される塩基配列の5’末端側10塩基からなる塩基配列において、1個又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列からなるプライマーとからなるプライマーセットであって、遺伝子増幅法により配列番号1の配列を含むミズワタクチビルケイソウの28S rRNA遺伝子またはその転写産物由来のDNA断片を特異的に増幅できる、プライマーセット;及び
(4)配列番号2に示される塩基配列の5’末端側10塩基からなる塩基配列において、1個又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列からなるプライマーと、配列番号3に示される塩基配列の5’末端側10塩基からなる塩基配列において、1個又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列からなるプライマーとからなるプライマーセットであって、遺伝子増幅法により配列番号1の配列を含むミズワタクチビルケイソウの28S rRNA遺伝子またはその転写産物由来のDNA断片を特異的に増幅できる、プライマーセット。
【請求項4】
請求項1の核酸を含む、ミズワタクチビルケイソウの検出用プライマー、若しくはプローブ、又は請求項3に記載のプライマーセットを含有する、ミズワタクチビルケイソウの検出用キット。
【請求項5】
配列番号1の配列を含むミズワタクチビルケイソウの28S rRNA遺伝子の全長DNA若しくはその断片及び/又は配列番号5の配列を含むCymbella mexicanaの28S rRNA遺伝子の全長DNA若しくはその断片を対照試料として含む、請求項4に記載のキット。
【請求項6】
3’末端ミスマッチ伸長の高度選択性を有するDNAポリメラーゼを更に含む、請求項5に記載のキット。
【請求項7】
請求項2に記載のマーカー、プライマー、又はプローブ、或いは請求項3に記載のプライマーセットを用いて、環境試料からミズワタクチビルケイソウの28S rRNA遺伝子又はその転写産物を検出することを特徴とする、ミズワタクチビルケイソウの検出方法。
【請求項8】
配列番号6に示される塩基配列を含む核酸と、配列番号7に示される塩基配列を含む核酸と、配列番号8に示される塩基配列を含む核酸の組合わせ物。
【請求項9】
請求項8記載の組合わせ物を含有する、ミズワタクチビルケイソウの検出用キット。
【請求項10】
配列番号1の配列を含むミズワタクチビルケイソウの28S rRNA遺伝子の全長DNA若しくはその断片及び/又は配列番号5の配列を含むCymbella mexicanaの28S rRNA遺伝子の全長DNA若しくはその断片を対照試料として含む、請求項9に記載のキット。
【請求項11】
請求項8に記載の組合せ物を用いて、環境試料からミズワタクチビルケイソウの28S rRNA遺伝子又はその転写産物を検出することを特徴とする、ミズワタクチビルケイソウの検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミズワタクチビルケイソウ(Cymbella janischii)の特異的検出を可能にするプライマー等に関し、より詳しくは、ミズワタクチビルケイソウの28S rRNA遺伝子またはその転写産物由来のDNA断片を特異的に増幅できる、プライマー等、該プライマー等を含むキット、及び該プライマー等を用いるミズワタクチビルケイソウの検出方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
ミズワタクチビルケイソウは近年日本に侵入した外来珪藻であり、国内の分布を急速に拡大している(非特許文献1)。大量発生すると川底の石を覆い尽くすことから、景観を損なうだけでなくアユの漁場被害が報告されるなど、河川生態系への影響が懸念されている(非特許文献2)。ミズワタクチビルケイソウの同定は、現在、形態的特徴に基づく顕微観察で行われているが、珪藻の形態分類の専門家を必要とする事、目視観察では群生形成前の初期侵入時の検出が難しいなどの問題があり、環境DNAによる迅速・高感度な検出系の開発が望まれている。珪藻は世界に約20万種存在していると言われるが(非特許文献3)、その遺伝子情報は全世界から登録が進むrbcLのメタバーコーディング領域においてもわずか約1500種であり、全体の1%にも満たない(https://www6.inrae.fr/carrtel-collection_eng/Barcoding-database/Description)。ミズワタクチビルケイソウとその近縁種の遺伝子配列はNakovら(非特許文献4)によって登録されているが、サンプルは主にアメリカの種に限られているために種内変異の情報が乏しく、また国内に侵入した本種および国内近縁種の配列は不明であった。また、C.janischiiに最も近縁なCymbella mexicanaは、C.janischiiとの配列間距離(p-disdance)が登録遺伝子領域で最も変異が高い遺伝子(28S)でも0.035であることから、従来法(プローブ法)による設計は困難が予想された。遺伝子による特異的検出は主に蛍光プローブ法で行われるが、種間変異の少ない領域では特異性を出せないために設計領域はかなり限られる。また、割高な蛍光プローブと蛍光を検出する高価なリアルタイムPCR装置が必要になることから、開発コストとランニングコストの面でデメリットがある。遺伝子変異の高い領域にはITS領域があるが、本種と近縁種にはこのITS領域の配列情報がない。ITS領域で設計するためには、海外を含めたサンプルを収集し、新たに配列を取得する必要が生じるため、労力・時間の面で現実的ではなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】BioInvasions Rec.2022;11:409-415.
【非特許文献2】Bull Yamanashi Prefect Fish Technol Cent.2019;46:34-38.
【非特許文献3】Front Mar Sci.2021;8:698331.
【非特許文献4】Phycologia.2014;53:359-373.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、環境DNAからの迅速・高感度なミズワタクチビルケイソウの検出法の開発である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、先行研究で近縁種の配列情報が充実している既存の領域で国内本種の配列(rbcL、psaB、psbA、18S、28Sの部分配列)を決定した後、28S rRNAの配列に対して、限られた領域の中で本種を特異的に検出するジェノタイピングを開発した。
【0006】
ミズワタクチビルケイソウ(C.janischiiの国内種)の28S rRNAの部分配列とBLAST Searchでヒットした類似の他種(アメリカのC.janischiiを含む)の89配列とのアラインメント結果によると、配列番号1の90番目の塩基はアデニンであるが、上記89配列では、配列データが表示されない場合を除き、すべてチミンであった。この発見により、本願発明によるC.janischiiの国内種の高度に特異的な検出が可能になった。
【0007】
即ち、本発明は以下のとおりである。
[1] 配列番号1で示される塩基配列のうち、90番目のアデニンを含み、且つ連続する少なくとも14塩基からなる塩基配列又はそれに相補的な塩基配列を含む核酸。
[2] [1]の核酸を含む、ミズワタクチビルケイソウの検出用マーカー、プライマー、又はプローブ。
[3] 以下の(1)~(4)からなる群から選択される、いずれかのプライマーセット:
(1)配列番号2に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号3に示される塩基配列からなるプライマーとからなるプライマーセット;
(2)配列番号2に示される塩基配列の5’末端側10塩基からなる塩基配列において、1個又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列からなるプライマーと、配列番号3に示される塩基配列からなるプライマーとからなるプライマーセットであって、遺伝子増幅法により配列番号1の配列を含むミズワタクチビルケイソウの28S rRNA遺伝子またはその転写産物由来のDNA断片を特異的に増幅できる、プライマーセット;
(3)配列番号2に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号3に示される塩基配列の5’末端側10塩基からなる塩基配列において、1個又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列からなるプライマーとからなるプライマーセットであって、遺伝子増幅法により配列番号1の配列を含むミズワタクチビルケイソウの28S rRNA遺伝子またはその転写産物由来のDNA断片を特異的に増幅できる、プライマーセット;及び
(4)配列番号2に示される塩基配列の5’末端側10塩基からなる塩基配列において、1個又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列からなるプライマーと、配列番号3に示される塩基配列の5’末端側10塩基からなる塩基配列において、1個又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列からなるプライマーとからなるプライマーセットであって、遺伝子増幅法により配列番号1の配列を含むミズワタクチビルケイソウの28S rRNA遺伝子またはその転写産物由来のDNA断片を特異的に増幅できる、プライマーセット。
[4] [1]の核酸を含む、ミズワタクチビルケイソウの検出用プライマー、若しくはプローブ、又は[3]に記載のプライマーセットを含有する、ミズワタクチビルケイソウの検出用キット。
[5] 配列番号1の配列を含むミズワタクチビルケイソウの28S rRNA遺伝子の全長DNA若しくはその断片及び/又は配列番号5の配列を含むC.mexicanaの28SrRNA遺伝子の全長DNA若しくはその断片を対照試料として含む、[4]に記載のキット。
[6] 3’末端ミスマッチ伸長の高度選択性を有するDNAポリメラーゼを更に含む、[4]又は[5]に記載のキット。
[7] [2]に記載のマーカー、プライマー、又はプローブ、或いは[3]に記載のプライマーセットを用いて、環境試料からミズワタクチビルケイソウの28S rRNA遺伝子又はその転写産物を検出することを特徴とする、ミズワタクチビルケイソウの検出方法。
[8] 配列番号6に示される塩基配列を含む核酸と、配列番号7に示される塩基配列を含む核酸と、配列番号8に示される塩基配列を含む核酸の組合わせ物。
[9] [8]記載の組合わせ物を含有する、ミズワタクチビルケイソウの検出用キット。
[10] 配列番号1の配列を含むミズワタクチビルケイソウの28S rRNA遺伝子の全長DNA若しくはその断片及び/又は配列番号5の配列を含むCymbella mexicanaの28S rRNA遺伝子の全長DNA若しくはその断片を対照試料として含む、[9]に記載のキット。
[11] [8]に記載の組合せ物を用いて、環境試料からミズワタクチビルケイソウの28S rRNA遺伝子又はその転写産物を検出することを特徴とする、ミズワタクチビルケイソウの検出方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、環境試料からミズワタクチビルケイソウの存在を特異的に、迅速・高感度に検出することができる。本検出法はPCR産物のバンドの有無だけでも在・不在を推定できることから、汎用のPCR装置で安価に実施できる。さらに、リアルタイムPCRを伴う本発明の実施形態によれば、感度・特異性の面で難易度が高い河川水サンプルからもミズワタクチビルケイソウの存在を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、水底のミズワタクチビルケイソウの群体(左)及びミズワタクチビルケイソウの個体の顕微鏡写真(右)である。
図2図2は、ミズワタクチビルケイソウ及びその最も近縁なケイソウを含む3つの28S rRNA遺伝子部分配列間の比較を示す図である。下から順に、それぞれ、最も近縁なC.mexicana、米国内のC.janischii、日本国内で採取されたミズワタクチビルケイソウの28S rRNA遺伝子部分配列を示す。最上段の配列は次世代配列決定(NGS)により同定された日本国内で採取されたミズワタクチビルケイソウの28S rRNAの部分配列を示す。P2-F及びP2-Rは本発明のプライマー(それぞれ配列番号2及び3)の配列を示す。
図3図3は、ミズワタクチビルケイソウ検出のワークフローを示す図である。
図4図4は、本発明のプライマーを用いたPCRによるミズワタクチビルケイソウの28S rRNA遺伝子部分配列の増幅における反応液組成(左)及びプロトコル(右)の例を示す。
図5図5は、実施例1の実験手順を示す図である。
図6図6は、実施例1の結果を示す図である。本発明のプライマーセットを用いたPCRによるミズワタクチビルケイソウの28S rRNA遺伝子部分配列の増幅は定量PCR(qPCR)により検出した。
図7図7は、本発明のプライマーセットを用いたPCRによるミズワタクチビルケイソウの28S rRNA遺伝子部分配列の増幅をアガロースゲル電気泳動法により検出した結果を示す図である。
図8図8は、各プライマーセット(P2-FとP2-R、P1-FとP1-R)及びP1-プローブの位置関係を示す図である。
図9図9は、実施例1で設計したプライマーセット(P2)と実施例2で設計したプライマーセット(P1)の検出感度を比較した結果を示す図である。
図10図10は、P1プローブを用いる場合と用いない場合の検出感度の比較を示す図である。
図11図11は、P1プローブの特異性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.核酸
本発明は、配列番号1で示される塩基配列のうち、90番目のアデニンを含み、且つ連続する少なくとも14塩基からなる塩基配列又はそれに相補的な塩基配列を有する核酸を提供する。配列番号1は、ミズワタクチビルケイソウの28S rRNA遺伝子の断片を表す。
【0011】
本明細書において、「ミズワタクチビルケイソウ」とは、特に断りのない限り、日本国内で採取されたCymbella janischiiを指す。或いは、本明細書において、「ミズワタクチビルケイソウ」とは、特に断りのない限り、日本国内に生息するミズワタクチビルケイソウであって、28S rRNA遺伝子の部分配列として配列番号1の核酸配列を有する、ミズワタクチビルケイソウを意味するものとする。
【0012】
本発明の核酸は、DNA分子、RNA分子、RNAとDNAのキメラ核酸(以下、キメラ核酸と称する)分子またはハイブリッド核酸であり得る。ここでキメラ核酸とは、一本鎖または二本鎖の核酸において一本の核酸の中にRNAとDNAを含むことをいい、ハイブリッド核酸とは、二本鎖において、一方の鎖がRNA分子またはキメラ核酸でもう一方の鎖がDNA分子またはキメラ核酸である核酸をいう。
【0013】
本発明の核酸は、一本鎖または二本鎖である。二本鎖の態様には、二本鎖RNA分子、二本鎖DNA分子、RNA/DNAハイブリッド核酸、RNA/キメラ核酸ハイブリッド核酸、キメラ核酸/キメラ核酸ハイブリッド核酸およびキメラ核酸/DNAハイブリッド核酸が含まれる。
【0014】
本発明の核酸の長さは、特に限定されないが、10塩基以上、11塩基以上、12塩基以上、13塩基以上、14塩基以上、15塩基以上、16塩基以上、17塩基以上、18塩基以上、19塩基以上、20塩基以上、21塩基以上、22塩基以上、23塩基以上、24塩基以上、25塩基以上、26塩基以上、27塩基以上、28塩基以上、29塩基以上又は、30塩基以上である。本発明の核酸分子の長さは、合成の容易さ等の問題から、通常1000塩基以下、900塩基以下、800塩基以下、700塩基以下、600塩基以下、500塩基以下、400塩基以下、300塩基以下、200塩基以下、150塩基以下、100塩基以下、90塩基以下、80塩基以下、70塩基以下、60塩基以下、50塩基以下、又は40塩基以下である。
【0015】
なお、本明細書においてヌクレオチド配列は、別段にことわりのない限りDNAの配列として記載するが、核酸がRNAである場合は、チミン(T)をウラシル(U)に適宜読み替えるものとする。
【0016】
2.マーカー
一実施形態において、本発明の核酸は、ミズワタクチビルケイソウのゲノムDNAを用いて製造され得る。微量のミズワタクチビルケイソウのゲノムDNAから製造する場合は、好ましくは、PCR(Polymerase Chain Reaction)法又はRT-PCR法、並びに、その他のICAN(Isothermal and chimeric primer-initiated amplification of nucleic acids)法、NASBA(Nucleic acid sequence based amplification)法、TMA(Transcription-mediated amplification)法およびSDA(Strand Displacement Amplification)法等の当業者に公知の任意の遺伝子増幅法により適当な量に増幅することができる。
【0017】
このような遺伝子増幅法には各種プライマーが用いられ、一実施形態においては、それらは、検出対象となる本発明の核酸の塩基配列を含む適当な長さ(百数十~数百bp)のDNA断片(遺伝子又はその一部を含む)が増幅されるように、公知技術に基づいて適切に調製することができる。これらプライマーの長さは、通常、数十bp程度、例えば、10~30bpの長さを有する。
【0018】
本発明の核酸は、ミズワタクチビルケイソウの28S rRNA遺伝子の、配列番号1で示される塩基配列の90番目のアデニンを含む、及び/又はそれに相補的な塩基配列を有するため、ミズワタクチビルケイソウの特異的な検出用マーカーとなり得る。例えば、適切なプライマーを用いて、環境試料中のDNA(又はRNAから逆転写されたDNA)から増幅されたDNA断片が、配列番号1で示される塩基配列の90番目に相当する位置のアデニン及び/又はそれに相補的な塩基配列における対応するチミンを含む場合、当該試料中からミズワタクチビルケイソウの28S rRNA遺伝子、ひいてはミズワタクチビルケイソウが検出されたと判定することができる。
【0019】
当該DNA断片の配列番号1で示される塩基配列の90番目に相当する位置のアデニン及び/又はそれに相補的な塩基配列における対応するチミンの検出は、例えば、直接的な配列決定により行うことができる。また、当該塩基は制限酵素XbaIの制限酵素部位(5’TCTGA3’)やXspI(BfaI、MaeI)の制限酵素部位(5’CTG3’)を構成することから、これらの酵素で本発明の核酸を切断し、生じた制限断片を電気泳動等で確認することでも検出できる。
【0020】
3.プライマー又はプローブ
本発明は、本発明の核酸を含む、ミズワタクチビルケイソウの検出用プライマー又はプローブを提供する。本発明のプライマー又はプローブは、配列番号1で示される塩基配列のうち、90番目のアデニンを含むか、又はその相補的な塩基配列のチミンを含むため、ミズワタクチビルケイソウの検出のために用いることができる。当該90番目のアデニンか、又はその相補的な塩基のチミンの検出は、例えば、PCR-SSCP、PCR-RFLP、PCR-SSO、PCR-ASP、TaqMan PCR法、サイクリングプローブ法、スマートアンプ法、モレキュラービーコン法、インベーダー法、LAMP法、SNaPshot法、ダイレクトシークエンス法、Sniper法、MALDI-TOF/MS法、マイクロアレイ法、DOL法、TDI法等により行うことができる。
【0021】
本発明のプライマー又はプローブは、当業者に周知の任意の化学合成法により作製することができ、例えばヌクレアーゼ等の酵素を用いて作製することもできるし、市販のDNA/RNA自動合成機(アプライド・バイオシステムズ社、ベックマン社等)を用いて作製することもできる。これらのプライマー又はプローブは、構成する核酸にさらに任意の修飾が施されたものでもよい。例えば本発明のプライマー又はプローブは、その5’末端又は3’末端に当該プライマー又はプローブの検出や増幅を容易にするための標識物質(例えば、蛍光分子、色素分子、放射性同位元素、ジゴキシゲニンやビオチン等の有機化合物など)及び/又は付加配列(LAMP法で用いるループプライマー又はプローブ部分等)を含んでいてもよい。本発明のプライマー又はプローブは、5’末端でリン酸化又はアミン化されていてもよい。また、本発明のプライマー又はプローブは、天然塩基のみを含んでもよいし、修飾塩基を含んでもよい。修飾塩基としては、デオキシイノシン、デオキシウラシル、S化塩基などが挙げられるが、これらに限定されない。さらに、本発明のプライマー又はプローブは、ホスホロチオエート結合やホスホロアミデート結合などを含む任意の誘導体オリゴヌクレオチドを含むものであってもよいし、ペプチド核酸結合を含むペプチド-核酸(PNA)を含んでいてもよい。
【0022】
本発明のプライマー又はプローブの長さは、特に限定されないが、10塩基以上、11塩基以上、12塩基以上、13塩基以上、14塩基以上、15塩基以上、16塩基以上、17塩基以上、18塩基以上、19塩基以上、20塩基以上、21塩基以上、22塩基以上、23塩基以上、24塩基以上、25塩基以上、26塩基以上、27塩基以上、28塩基以上、29塩基以上又は、30塩基以上であり得る。また、本発明のプライマー又はプローブの長さは、通常100塩基以下、90塩基以下、80塩基以下、70塩基以下、60塩基以下、50塩基以下、又は40塩基以下であり得る。
【0023】
本発明のプライマー又はプローブは、単離又は精製されていることが好ましい。「単離又は精製」とは、天然あるいは合成された状態から目的とする成分以外の成分を除去する操作が施されていることを意味する。単離又は精製されたプライマー又はプローブの純度(全核酸中に含まれる目的とするプライマー又はプローブの割合)は、(w/w)%の場合には、通常50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上(例えば100%)である。プライマー又はプローブの純度は、溶媒及び固体・液体の状態によって適宜変更することができる。また、純度の単位は、(w/v)%、(v/v)%であってもよく、上記(w/w)%の場合の純度の規定を参酌し、適宜望ましい純度を算定することができる。
【0024】
これらのプライマー又はプローブは、乾燥した状態又はアルコール沈澱の状態で、固体として提供することもできるし、水又は適当な緩衝液(例:TE緩衝液等)中に溶解した状態で提供することもできる。
【0025】
本発明のプライマーは、該本発明のプライマーを含む本発明のプライマーセットを用いて、PCR法等の方法により、ミズワタクチビルケイソウの28S rRNA遺伝子又はその転写産物を特異的に検出することができる。好ましくは、本発明のプライマーは、その3’末端に、配列番号1で示される塩基配列の90番目のアデニン又はその相補的な塩基配列のチミンを含む。該本発明のプライマーは、該本発明のプライマーを含む本発明のプライマーセットを用いて、例えば、PCR法により、試料中のミズワタクチビルケイソウの28S rRNA遺伝子又はその転写産物由来の鋳型から、配列番号1で示される塩基配列の90番目のアデニン又はその相補的な塩基配列のチミンを含むアンプリコンを特異的に増幅させることによって、ミズワタクチビルケイソウの28S rRNA遺伝子を特異的に検出することができる。ミズワタクチビルケイソウ以外の鋳型に対しては、本発明のプライマーの3’末端がミスマッチとなり、アンプリコンを増幅させることができないか、又はアンプリコンの増幅が著しく抑制される。なお、本発明のプライマーセット中のもう一方のプライマーは、ミズワタクチビルケイソウの28S rRNA遺伝子の配列に基づいて、PCRプライマー設計ツール(例:Primer3等)を用いて公知技術により適宜設計、製造することができる。当該もう一方のプライマーとしては、好ましくは、配列番号2で示されるプライマーが挙げられる。配列番号2で示されるプライマーは、3’末端に配列番号1で示される塩基配列の26番目のシトシンを含み、且つ連続する21塩基からなる核酸である。当該シトシンは、ミズワタクチビルケイソウ及びアメリカのC.janischiiに共通するが、BLAST Searchでヒットした類似の他種の88配列とはすべて異なっていた。配列番号2に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号3に示される塩基配列からなるプライマーとからなるプライマーセットを用いることにより、ミズワタクチビルケイソウの高度に特異的な検出が可能になる。
【0026】
好ましくは、本発明のプライマーセットは、以下の(1)~(4)からなる群から選択される、いずれかのプライマーセットである;
(1)配列番号2に示される塩基配列からなるプライマー(5’-tgggaaaaaatttgtttttactgc-3’)と、配列番号3に示される塩基配列からなるプライマー(5’-aactccttggtccgtgtttct-3’)とからなるプライマーセット;
(2)配列番号2に示される塩基配列の5’末端側10塩基からなる塩基配列において、1個又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列からなるプライマーと、配列番号3に示される塩基配列からなるプライマーとからなるプライマーセットであって、遺伝子増幅法により配列番号1の配列を含むミズワタクチビルケイソウの28S rRNA遺伝子またはその転写産物由来のDNA断片を特異的に増幅できる、プライマーセット;
(3)配列番号2に示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号3に示される塩基配列の5’末端側10塩基からなる塩基配列において、1個又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列からなるプライマーとからなるプライマーセットであって、遺伝子増幅法により配列番号1の配列を含むミズワタクチビルケイソウの28S rRNA遺伝子またはその転写産物由来のDNA断片を特異的に増幅できる、プライマーセット;及び
(4)配列番号2に示される塩基配列の5’末端側10塩基からなる塩基配列において、1個又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列からなるプライマーと、配列番号3に示される塩基配列の5’末端側10塩基からなる塩基配列において、1個又は2個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列からなるプライマーとからなるプライマーセットであって、遺伝子増幅法により配列番号1の配列を含むミズワタクチビルケイソウの28S rRNA遺伝子またはその転写産物由来のDNA断片を特異的に増幅できる、プライマーセット。
【0027】
「特異的に増幅できる」とは、配列番号1の配列を含むミズワタクチビルケイソウの28S rRNA遺伝子またはその転写産物由来のDNA断片を、ある特定の反応条件下(例、同一反応条件下)で、他の増幅産物と比較して10倍以上、100倍以上、1,000倍以上、10,000倍以上、100,000倍以上、又は1,000,000倍以上の量増幅できることを意味する。反応条件は、鋳型としてミズワタクチビルケイソウのゲノムDNAまたはその転写産物由来のDNA及び他の生物種由来のDNAの混合物が同一反応溶液中で用いられる条件であっても、鋳型としてミズワタクチビルケイソウのゲノムDNAまたはその転写産物由来のDNA及び他の(複数の)生物種由来のDNAが、それぞれ別個の反応溶液中で用いられる条件であってもよい。
【0028】
前記配列番号2又は3で表される塩基配列において、欠失、置換、挿入、もしくは付加されるヌクレオチドの数は、結果として遺伝子増幅法により配列番号1の配列を含むミズワタクチビルケイソウの28S rRNA遺伝子またはその転写産物由来のDNA断片を特異的に増幅できる限り、特に限定されないが、通常1個または2個、好ましくは1個である。
【0029】
前記配列番号2又は3で表されるヌクレオチド配列において、置換される塩基の位置は、5’末端から10塩基以内、好ましくは9、8、7、6、5、4、3、2もしくは1塩基以内である。
【0030】
前記配列番号2又は3で表されるヌクレオチド配列において、欠失される塩基の位置は、5’末端から10塩基以内、好ましくは9、8、7、6、5、4、3、2もしくは1塩基以内である。
【0031】
前記配列番号2又は3で表されるヌクレオチド配列において、挿入される塩基の位置は、5’末端から10塩基と9塩基の間、9塩基と8塩基の間、8塩基と7塩基の間、7塩基と6塩基の間、6塩基と5塩基の間、5塩基と4塩基の間、好ましくは4塩基と3塩基の間、3塩基と2塩基の間、もしくは2塩基と1塩基の間である。
【0032】
前記配列番号2又は3で表されるヌクレオチド配列において、塩基が付加される位置は、5’末端から1塩基である。
【0033】
PCRの鋳型とするDNAは、環境試料から調製することができる。環境試料としては、特に限定されないが、例えば、河川、湖沼、用水路、人工池等やそれらの付近から採取した水、土壌、珪藻自体(河床等に付着している群体等)を挙げることができる。
【0034】
試料中のDNAの調製は、プロテイナーゼK/フェノール抽出法、フェノール/クロロホルム抽出法、アルカリ溶解法、ボイリング法など公知の手法を用いて行うことができるが、市販のDNA/RNA抽出用キットを用いて、微量試料から迅速且つ簡便に高純度のDNAを調製することができる。かかる抽出キットとしては、例えば、PowerSoil DNA Isolation Kit(QIAGEN)が挙げられる。
【0035】
本発明のプライマーセットを用いた、ミズワタクチビルケイソウに対するPCRの反応条件として、例えば以下の条件が挙げられる。
熱変性ステップ(例:92~98℃)(10~20秒)
アニーリングステップ(例:55~72℃)(5~15秒)
伸長ステップ(例:65~80℃)(10~30秒)
【0036】
上記PCRは、アニーリングステップと伸長ステップを1つのステップとして行ってもよく(シャトル法)、又はアニーリング温度を高めに設定し、サイクルごとに徐々に温度を下げていく方法(タッチダウン法)により行ってもよい。あるいは、それらを組み合わせて行ってもよい。シャトル法を行う場合には、アニーリングステップと伸長ステップの温度は、典型的には65~72℃である。
【0037】
DNAポリメラーゼは、市販品であってもよく、このようなDNAポリメラーゼとしては、例えばmyPOLS Biotec社製のHiDi DNA polymerase、TaKaRa社製のPrimeSTAR GXL DNA Polymerase、Tks Gflex DNA Polymerase、TaKaRa LA Taq、Thermo SCIENTIFIC社製のLong PCR Enzyme Mixが挙げられるが、これらに限定されない。
【0038】
DNAポリメラーゼとしては、好ましくは、3’末端ミスマッチ伸長の高度選択性を有するDNAポリメラーゼが挙げられる。これはTaq DNAポリメラーゼのKlenowフラグメントの、プライマーのリン酸骨格に直接接触し得る塩基性アミノ酸に変異を有するバリアントであり(PLoS One.2014;9:e96640)、例えば、myPOLS Biotec社製のHiDi DNA polymeraseは、10,000超の野生型コピーのバックグラウンドから10コピー未満の変異体を検出できるとされる。
【0039】
本発明のプライマー及び/又はプライマーセットを用いて増幅した増幅産物は、その配列に基づいて適切に設計されたプローブを用いて検出されてもよい。
【0040】
本発明のプローブは、例えば、Taqmanプローブ、モレキュラービーコン、Scorpionプローブ、およびEclispeプローブ等として製造することができる。また、本発明のプローブは、適切なプライマーを用いて、配列番号1で示される塩基配列の90番目に相当する位置のアデニン及び/又はそれに相補的な塩基配列における対応するチミンを含む増幅産物を得て、該増幅産物中の該アデニン又はチミンの検出に用いることができる。本発明のプローブは、例えば、以下の方法において用いることができる。
【0041】
TaqMan PCR法
TaqMan PCR法は、蛍光標識したアレル特異的オリゴヌクレオチド(TaqManプローブ)とTaq DNAポリメラーゼによるPCRとを利用した方法である。TaqManプローブは、その5’末端がFAMやVICなどの蛍光色素で、3’末端がTAMRAなどのクエンチャー(消光物質)でそれぞれ標識されており、そのままの状態ではクエンチャーが蛍光エネルギーを吸収するため蛍光は検出されない。また、TaqManプローブからのPCR伸長反応が起こらないように3’末端はリン酸化されている。TaqManプローブとハイブリダイズする領域を含むゲノムDNAの断片を増幅するように設計されたプライマーおよびTaq DNAポリメラーゼとともにPCRを行うと、TaqManプローブが鋳型DNAとハイブリダイズし、同時にPCRプライマーからの伸長反応が起こるが、伸長反応が進むとTaq DNAポリメラーゼの5’ヌクレア-ゼ活性によりハイブリダイズしたTaqManプローブが切断され、蛍光色素が遊離してクエンチャーの影響を受けなくなり、蛍光が検出される。鋳型の増幅により蛍光強度は指数関数的に増大する。
【0042】
4.キット
本発明はまた、本発明のプライマー若しくはプローブ、又は本発明のプライマーセットを用いた検出において使用され得るキットを提供する。本発明のキットは、上記本発明のプライマー若しくはプローブ、又は本発明のプライマーセットに加えて、遺伝子増幅に必要な他の試薬を含んでいてもよい。前記試薬が、本発明のプライマーセットと共存状態で保存することにより反応に悪影響を及ぼさない試薬である場合には、プライマーセットと混合してキットに含めることができる。あるいは、前記試薬と本発明のプライマーセットとは混合せずに別個で提供されてもよい。前記試薬としては、DNA抽出用試薬、DNAポリメラーゼ、dNTP、反応緩衝液、遺伝子増幅のコントロールとなる標的配列を含むDNA分子、説明書などが挙げられる。前記DNAポリメラーゼは、市販品であってもよく、このようなDNAポリメラーゼとしては、例えばmyPOLS Biotec社製のHiDi DNA polymerase若しくはHiDi Taq DNA polymerase、TaKaRa社製のPrimeSTAR GXL DNA Polymerase、Tks Gflex DNA Polymerase、TaKaRa LA Taq、Thermo SCIENTIFIC社製のLong PCR Enzyme Mixが挙げられるが、これらに限定されない。本発明のキットは、配列番号1の配列を含むミズワタクチビルケイソウの28S rRNA遺伝子の全長DNA若しくはその断片及び/又は配列番号5の配列を含むC.mexicanaの28S rRNA遺伝子の全長DNA若しくはその断片を対照試料としてさらに別の容器に含んでいてもよい。また、本発明のキットは、3’末端ミスマッチ伸長の高度選択性を有するDNAポリメラーゼを更に含んでいてもよい。
【0043】
5.検出方法
本発明はまた、本発明のマーカー、プライマー、若しくはプローブ、又は本発明のプライマーセットを用いて、環境試料からミズワタクチビルケイソウの28S rRNA遺伝子又はその転写産物を検出することを特徴とする、ミズワタクチビルケイソウの検出方法を提供する。本発明の方法は、遺伝子増幅法を用いて行われ得る。遺伝子増幅法は、プライマーセット、DNAポリメラーゼ、dNTP、反応緩衝液、試料由来のDNA鋳型又は遺伝子増幅のコントロールとなる標的配列を含むDNA分子を含む反応液中で行われ得る。前記DNAポリメラーゼは、市販品であってもよく、このようなDNAポリメラーゼとしては、例えばmyPOLS Biotec社製のHiDi DNA polymerase若しくはHiDi Taq DNA polymerase(これらは3’末端ミスマッチ伸長の高度選択性を有するDNAポリメラーゼである)、TaKaRa社製のPrimeSTAR GXL DNA Polymerase、Tks Gflex DNA Polymerase、TaKaRa LA Taq、Thermo SCIENTIFIC社製のLong PCR Enzyme Mixが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の方法においては、遺伝子増幅のコントロールとなる標的配列を含むDNA分子として、配列番号1の配列を含むミズワタクチビルケイソウの28S rRNA遺伝子の全長DNA若しくはその断片及び/又は配列番号5の配列を含むC.mexicanaの28S rRNA遺伝子の全長DNA若しくはその断片が用いられてもよい。
【0044】
6.核酸の組合せ物
本発明はまた、配列番号6に示される塩基配列を含む核酸と、配列番号7に示される塩基配列を含む核酸と、配列番号8に示される塩基配列を含む核酸の組合わせ物(以下、「本発明の組合せ物」と称することがある)を提供する。
【0045】
本発明の組合せ物の一態様において、配列番号6に示される塩基配列を含む核酸および配列番号7に示される塩基配列を含む核酸は、プライマーセットであり得、且つ、配列番号8に示される塩基配列を含む核酸は、プローブであり得る。尚、本発明の組合せ物において、核酸、プライマー、プローブ等は上述したものと同様であってもよく、また、本発明の所望の効果が得られる限り、必要に応じて変更が加えられていてもよい。
【0046】
尚、配列番号6に示される塩基配列を含む核酸と、配列番号7に示される塩基配列を含む核酸とをプライマーセットとして用いる場合、以下の実施例において実証する通り、このプライマーセットを用いたミズワタクチビルケイソウの検出感度は、上述の本発明のプライマーセット(即ち、配列番号2及び3で示されるプライマーセット)と同等であり、極めて検出感度の高いプライマーセットである。
【0047】
本発明の組合せ物においては、配列番号6と配列番号7で示される塩基配列を含む核酸をプライマーセットに合わせて、配列番号8に示される塩基配列を含む核酸をプローブとして利用して定量PCR(例、リアルタイムPCR等)を行うことで、極めて高い検出感度で環境試料中のミズワタクチビルケイソウを特異的に検出することができることを特徴とする。尚、上述した通り、プローブは、必要に応じて蛍光等の修飾を施すことができる。
【0048】
本発明の組合せ物を用いて定量PCRを行う際の反応条件は、ミズワタクチビルケイソウの特異的検出が達成できる限り特に限定されず、如何なる条件を用いてもよい。一例としては、市販の定量PCRプレミクスチャーに本発明の組合せ物をそれぞれ終濃度0.2μMとなるように混合し、例えば、(25℃、10分)→(95℃、30秒)→(95℃、5秒→57℃、30秒)を50サイクルで定量PCR反応を行うことができるが、これに限定されない。当業者であれば、使用するリアルタイムPCR装置や試薬に即して、適宜最適な条件を決定することができる。
【0049】
7.組合せ物を含むキット
本発明はまた、組合わせ物を含有する、ミズワタクチビルケイソウの検出用キット(以下、「本発明の組合せ物を含むキット」と称することがある)を提供する。
【0050】
本発明の組合せ物を含むキットは、本発明の組合せ物(即ち、プライマーセットおよびプローブ)を含有することを特徴とする。また、一態様において、本発明の組合せ物を含むキットは、本発明の組合せ物以外のその他の物を含有していてもよい。かかるその他の物としては、上述した本発明のキットと同様である。本発明の組合せ物を含むキットの好ましい一態様において、該キットは、配列番号1の配列を含むミズワタクチビルケイソウの28S rRNA遺伝子の全長DNA若しくはその断片及び/又は配列番号5の配列を含むCymbella mexicanaの28S rRNA遺伝子の全長DNA若しくはその断片を対照試料として含み得る。
【0051】
8.組合せ物を用いた検出方法
本発明はまた、本発明の組合せ物を用いて、環境試料からミズワタクチビルケイソウの28S rRNA遺伝子又はその転写産物を検出することを特徴とする、ミズワタクチビルケイソウの検出方法(以下、「本発明の組合せ物を用いた検出方法」と称することがある)を提供する。
【0052】
本発明の組合せ物を用いた検出方法は、本発明の組合せ物をプライマーセットおよびプローブとして用いること以外は、本発明の検出方法と実質的に同様である。
【実施例0053】
[実施例1]
プライマー設計の詳細及び検出方法
日本国内のミズワタクチビルケイソウの遺伝子配列(rbcL,psaB,psbA,18S,28Sの部分配列計6,526bp;BioInvasions Rec.2022;11:409-415)の内、種間変異の高い28Sをターゲット遺伝子に選定し、図2に示すように、プライマーの3’末端配列が最も近縁なC.mexicanaと異なる特異的なプライマーセット(P2-F,P2-R)を設計した。リバース側のプライマーP2-Rは既存配列内で設計できなかったため、NGS(次世代配列決定)で新たに取得したWhole genome dataを基に不足部分の配列を確認して設計した。
【0054】
3’末端配列の違いによる特異的な検出ができていることを確認するために、コントロール遺伝子としてC.janischiiとC.mexicanaの配列を持つ人工遺伝子(GeneArt High-Q Strings(Thermo Fisher Scientific))を作製し、それぞれの増幅の有無をPCR毎に確認した。PCR組成とPCR条件は以下により行った。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
結果
本検出法は偽陽性なくミズワタクチビルケイソウを特異的に検出し(図6、左下(qPCR))、日本国内12河川の付着珪藻由来の環境DNAからは、増幅された遺伝子の量と顕微観察の結果が有意な正の相関を示した(p<0.002;図6、右)。顕微観察で検出されなかったeY3では、後の追加の観察でミズワタクチビルケイソウの殻が検出されるなど、本法の感度の良さが示された。
【0058】
[実施例2]
プライマーおよびプローブ設計
実施例1において設計した(P2-F,P2-R)の近傍ではあるが別の領域にプライマーセット(P1-F(配列番号6),P1-R(配列番号7))を設計し、さらに、当該プライマーセットの間の領域にP1-プローブ(配列番号8)を設計した(これらの位置関係を図8に示す)。
【0059】
[実施例3]
P2プライマーセットとP1プライマーセットの検出感度における比較検討
実施例1において設計したP2プライマーセットと、実施例2において設計したプライマーセットの検出感度を比較した。具体的には、以下の実験手順に基づき、両プライマーセットの検出感度を比較した。
【0060】
3’末端配列の違いによる特異的な検出ができるポリメラーゼ(HiDi DNA plolymerase)を用いて、以下のPCR組成とPCR条件により行った。
3’末端配列の違いによる特異的な検出ができていることの確認は、C.janischiiとC.mexicanaの配列を持つ人工遺伝子(GeneArt High-Q Strings(Thermo Fisher Scientific))をコントロール遺伝子として用いて実施した。
【0061】
【表3】
【0062】
【表4】
【0063】
結果を図9に示す。図9に示される通り、プライマーセットP1とP2は顕微鏡観察の結果と正に相関し、且つ、両者の検出感度に有意差はなかった(p>0.05;HiDi DNA polymerase使用時)。
【0064】
[実施例4]
P1プローブ併用時の検出感度の検討
実施例2で設計したプライマーセットP1とP1-プローブについて、プローブを用いずにプライマーセットのみでの検出を行った場合(従来法)と、プローブを併用した場合とでの検出感度について比較検討した。
【0065】
プローブを併用した場合の実験は、Probe用の一般的なポリメラーゼ(Takara Probe qPCR Mix, with UNG)を用いて、以下のPCR組成とPCR条件により行った。
3’末端配列の違いによる特異的な検出ができていることの確認は、同様にC.janischiiとC.mexicanaの配列を持つ人工遺伝子(GeneArt High-Q Strings(Thermo Fisher Scientific))をコントロール遺伝子として用いて実施した。
【0066】
【表5】
【0067】
【表6】
【0068】
結果を図10に示す。図10に示される通り、P1-プローブの併用により、検出感度が飛躍的に高まり、従来法では検出することが難しかった河川水サンプルからの検出が可能となった。
【0069】
[実施例5]
P1-プローブの特異性の確認
実施例2で設計したプライマーセットP1及びP1-プローブについて、日本に生息するミズワタクチビルケイソウの特異的検出ができることを検証した。
【0070】
上述の実施例4と同様の実験手順でリアルタイムPCRを行い、PCR後、PCR産物1μLをアガロースゲル電気泳動にかけて増幅されたDNA断片の有無の確認を行った。
【0071】
結果を図11に示す。図11に示される通り、P1プライマーセットは最も近縁なC.mexicanaのゲノムは増幅せずに日本に生息するC.janischiiのゲノム配列を増幅した(図中結果1)。さらに、P1-プローブは、日本に生息するC.janischiiのゲノム配列を検出したが、C.mexicanaのゲノムおよび非特異的な増幅産物(ここではプライマーダイマー)は検出しなかった(図中結果2)。以上より、P1プライマーセット及びP1-プローブを用いることで、日本に生息するC.janischiiを特異的に検出することが可能であることが実証された。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明によれば、環境試料からミズワタクチビルケイソウの存在を特異的に、迅速・高感度に検出することができる。ミズワタクチビルケイソウは外来種であり、河川生態系への影響が懸念されているため、本発明の方法により該種が検出された場合、水質浄化(駆除)等の対策を侵入の初期段階で行うことが可能になる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
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