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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052654
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】軟カプセル剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/48 20060101AFI20240404BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20240404BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20240404BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20240404BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20240404BHJP
   A61K 31/375 20060101ALI20240404BHJP
   A61K 31/714 20060101ALI20240404BHJP
   A61K 31/164 20060101ALI20240404BHJP
   A61K 31/197 20060101ALI20240404BHJP
   A23L 33/00 20160101ALI20240404BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20240404BHJP
【FI】
A61K9/48
A61K47/44
A61K47/42
A61K47/14
A61K47/24
A61K31/375
A61K31/714
A61K31/164
A61K31/197
A23L33/00
A23L5/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023171375
(22)【出願日】2023-10-02
(31)【優先権主張番号】P 2022158897
(32)【優先日】2022-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000115991
【氏名又は名称】ロート製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森川 早紀
(72)【発明者】
【氏名】巽 一憲
(72)【発明者】
【氏名】古川 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】吉村 昌徳
(72)【発明者】
【氏名】山田 泰規
(72)【発明者】
【氏名】菅谷 知広
(72)【発明者】
【氏名】山下 達也
(72)【発明者】
【氏名】和田 伸行
【テーマコード(参考)】
4B018
4B035
4C076
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018LE02
4B018MD08
4B018MD10
4B018MD14
4B018MD19
4B018MD20
4B018MD23
4B018MD25
4B018MD46
4B018MD48
4B018MD61
4B018MD70
4B018MD94
4B018ME13
4B018MF02
4B018MF04
4B018MF06
4B018MF08
4B035LC05
4B035LE07
4B035LG04
4B035LG08
4B035LG12
4B035LG13
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4B035LG42
4B035LK13
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4C076AA56
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4C076FF28
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4C086AA02
4C086BA18
4C086DA39
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA37
4C086MA52
4C086ZC24
4C086ZC28
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA51
4C206GA03
4C206GA25
4C206MA03
4C206MA05
4C206MA57
4C206MA72
4C206NA03
4C206ZC22
4C206ZC24
4C206ZC28
(57)【要約】
【課題】常温・長期間の保存で減少しやすい水溶性成分(特定水溶性成分)の長期保存安定性に優れた軟カプセル剤を簡便に得る手段を提供する。
【解決手段】水分含有量が10質量%以下のカプセル皮膜と、(A)特定水溶性成分及び(B)油分を含有する内容物とを有し、
前記(A)成分の遮光下25℃における残存率が56%以上である期間が2年を超える、軟カプセル剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分含有量が10質量%以下のカプセル皮膜と、(A)特定水溶性成分及び(B)油分を含有する内容物とを有し、
前記(A)成分の遮光下25℃における残存率が56%以上である期間が2年を超える、軟カプセル剤。
【請求項2】
皮膜水分量が10質量%を超える以外は前記軟カプセル剤と同じ処方の軟カプセル剤において、(A)成分の遮光下25℃における前記期間経過時の残存率が56%未満である、請求項1に記載の軟カプセル剤。
【請求項3】
前記(A)成分が、ビタミンB類、ビタミンC類、セラミド類及びγ-アミノ酪酸(GABA)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載の軟カプセル剤。
【請求項4】
水分含有量が10質量%以下のカプセル皮膜と、(A)特定水溶性成分及び(B)油分を含有する内容物とを有する軟カプセル剤を含み、
前記(A)成分の遮光下25℃における含有量が、前記(A)成分の栄養成分表示の表示量に対して、100%以上である期間が2年を超える、食品組成物。
【請求項5】
水分含有量が10質量%以下のカプセル皮膜と、(A)特定水溶性成分及び(B)油分を含有する内容物とを有する軟カプセル剤を含み、
賞味期限が2年を超える、(A)成分が栄養強調表示された、食品組成物。
【請求項6】
(A)特定水溶性成分及び(B)油分を含有する内容物をカプセル皮膜で被覆する工程、及び
前記工程を経たカプセル皮膜の水分含有量を10質量%以下に調整する工程を含む、軟カプセル剤の製造方法。
【請求項7】
カプセル皮膜と、(A)特定水溶性成分及び(B)油分を含有する内容物とを有する軟カプセル剤において、カプセル皮膜の水分含有量を10質量%以下に調整することを含む、特定水溶性成分の安定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟カプセル剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軟カプセル剤は、その表面を被覆するカプセル皮膜と、内容物(芯剤とも呼ばれる)とから構成され、密閉性が高く、内容物として液体を封入するのに特に適した剤形として、医薬品、サプリメント等の食品等に広く使用されている。
【0003】
軟カプセル剤は、その密閉性の高さから、通常の硬カプセル剤等に比べて内容物の成分の保存安定性にも優れることが知られているが、それでも配合する成分によっては成分の保存安定性が不十分であるという課題があった。
【0004】
これまでに、水溶性機能性原料を安定化し、軟カプセルに充填した場合でも保存中の減少を抑えることができる手段として、例えば、特許文献1には、内側から順に、難水溶性被覆層と、水溶性被覆層とを有することを特徴とする水溶性機能性原料含有組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-095566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記手段は製造方法が煩雑であることが推察される。そして、常温・長期間の保存で減少しやすい水溶性成分(本明細書中「特定水溶性成分」と呼ぶ。)の保存安定性を保つには、未だ改善の余地があった。
【0007】
本発明は、特定水溶性成分の長期保存安定性に優れた軟カプセル剤を簡便に得る手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが鋭意検討した結果、水分含有量が10質量%以下のカプセル皮膜と、特定水溶性成分及び油分を含有する内容物とを有する軟カプセル剤が、簡便に調製可能でかつ前記特定水溶性成分の長期保存安定性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、下記の軟カプセル剤を提供する。
項1.水分含有量が10質量%以下のカプセル皮膜と、(A)特定水溶性成分及び(B)油分を含有する内容物とを有し、
前記(A)成分の遮光下25℃における残存率が56%以上である期間が2年を超える、軟カプセル剤。
項2.
皮膜水分量が10質量%を超える以外は前記軟カプセル剤と同じ処方の軟カプセル剤において、(A)成分の遮光下25℃における前記期間経過時の残存率が56%未満である、項1に記載の軟カプセル剤。
項3.
前記(A)成分が、ビタミンB類、ビタミンC類、セラミド類及びγ-アミノ酪酸(GABA)からなる群より選ばれる少なくとも1種である、項1又は2に記載の軟カプセル剤。
【0010】
また、本発明は、下記の軟カプセル剤を含有する食品組成物を提供する。
項4.
水分含有量が10質量%以下のカプセル皮膜と、(A)特定水溶性成分及び(B)油分を含有する内容物とを有する軟カプセル剤を含み、
前記(A)成分の遮光下25℃における含有量が、前記(A)成分の栄養成分表示の表示量に対して、100%以上である期間が2年を超える、食品組成物。
項5.
水分含有量が10質量%以下のカプセル皮膜と、(A)特定水溶性成分及び(B)油分を含有する内容物とを有する軟カプセル剤を含み、
賞味期限が2年を超える、(A)成分が栄養強調表示された、食品組成物。
【0011】
また、本発明は、下記の軟カプセル剤の製造方法を提供する。
項6.
(A)特定水溶性成分及び(B)油分を含有する内容物をカプセル皮膜で被覆する工程、及び
前記工程を経たカプセル皮膜の水分含有量を10質量%以下に調整する工程を含む、軟カプセル剤の製造方法。
【0012】
さらに、本発明は、下記の特定水溶性成分の安定化方法を提供する。
項7.
カプセル皮膜と、(A)特定水溶性成分及び(B)油分を含有する内容物とを有する軟カプセル剤において、カプセル皮膜の水分含有量を10質量%以下に調整することを含む、特定水溶性成分の安定化方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の軟カプセル剤は、簡便に調製可能でかつ特定水溶性成分の長期保存安定性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において、化合物の「塩」とは、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。具体的には、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等の無機塩基との塩、有機塩基との塩等の塩基性塩があり、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウム、又はジエタノールアミン、エチレンジアミン等との塩が挙げられる。また、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、N,N-ビス(ヒドロキシエチル)ピペラジン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、エタノールアミン、N-メチルグルカミン、L-グルカミン等のアミンの塩;リジン、δ-ヒドロキシリジン、アルギニン等の塩基性アミノ酸との塩等であってもよい。さらに、上記塩は、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸との塩;メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、酢酸、プロピオン酸、酒石酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、シュウ酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸、マンデル酸、ケイ皮酸、乳酸、グリコール酸、グルクロン酸、アスコルビン酸、ニコチン酸、サリチル酸、グルコン酸、パルミチン酸等の有機酸との塩;アスパラギン酸、グルタミン酸等の酸性アミノ酸との塩であってもよい。上記「塩」には、塩の溶媒和物及び水和物が含まれる。
【0015】
[軟カプセル剤]
本発明は、水分含有量が10質量%以下のカプセル皮膜と、(A)特定水溶性成分及び(B)油分を含有する内容物とを有するカプセル剤を含む。
【0016】
(カプセル皮膜)
本明細書において、カプセル皮膜とは、軟カプセル剤に用いられ、有効成分等の内容物を内部に閉じ込めたまま保持することが可能な軟性の皮膜をいう。カプセル皮膜は、本発明の効果を奏する限りにおいて、内容物の少なくとも一部を被覆するものであればよいが、本発明の効果をより顕著に奏する観点から、内容物の全部を被覆することが好ましい。
【0017】
カプセル皮膜の水分含有量は、内容物の水分含有量、特定水溶性成分の種類及び量、必要とする保存安定性の程度によって適宜設定し得る。カプセル皮膜の水分含有量は、本発明の効果をより顕著に奏する観点から、皮膜の総質量に対して、好ましくは9.8質量%以下、より好ましくは9.6質量%以下、さらに好ましくは9.4質量%以下、さらにより好ましくは9質量%以下、特に好ましくは8.7質量%以下、特により好ましくは8.5質量%以下である。カプセル皮膜の水分含有量は、皮膜の総質量に対して、例えば、4質量%以上、5質量%以上、5.5質量%以上又は6質量%以上とすることができる。
【0018】
本明細書において、カプセル皮膜の水分含有量は、皮膜内部に内容物を含む軟カプセルが形成された後の皮膜の水分含有量であり、具体的には、第十八改正日本薬局方の一般的試験法の項の「2.41 乾燥減量試験法」に記載された方法により測定されたものとする。
【0019】
カプセル皮膜の水分含有量を上記の値とすることにより、軟カプセル剤において、保存安定性が悪い特定水溶性成分の保存安定性を高めることができる。メカニズムは明らかではないが、実施例の結果から、皮膜の水分含有量を所定の値以下に調整した場合は、カプセル皮膜から放出される水分の量が流入する水分の量を上回りにくくなり、長期間にわたってカプセル皮膜の水分含有量が低いまま維持される。そして、水分含有量が低いカプセル皮膜は、皮膜を経由したカプセル外からの物質(例えば、酸素、水分)の流入又は放出、物理的作用(光線、熱等)の影響等を何らかの形で低減する結果、内容物の水溶性成分の保存安定性を改善するものと推察される。一方、カプセル皮膜の水分含有量が10質量%を超える場合は、カプセル皮膜の水分含有量が経時的に増加しやすく、保存安定性が悪化していくため、好ましくない。
【0020】
カプセル皮膜の主成分である基剤は、例えば、ゼラチン、ゼラチンの分解物又は修飾物(フタル化ゼラチン、コハク化ゼラチン等)、セルロース類(カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等)、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール、デンプン、加工デンプン及びプルランからなる群より選ばれる1種単独又は2種以上の組み合わせが挙げられる。中でも基剤としては、本発明の効果をより顕著に奏する観点から、ゼラチン、コハク化ゼラチン、並びにデンプンからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、ゼラチン及びコハク化ゼラチンからなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
【0021】
ゼラチンは、例えば、ウシ、ブタ、ニワトリ、魚類(サケ等)の骨、軟骨、皮、腱等に由来するものを1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0022】
カプセル皮膜がゼラチンを含有する場合、ゼラチンの含有量は、本発明の効果をより顕著に奏する観点から、カプセル皮膜の総質量に対して、好ましくは20~99.5質量%、より好ましくは30~95質量%、さらに好ましくは50~90質量%、さらにより好ましくは60~80質量%である。
【0023】
カプセル皮膜がゼラチンを含有する場合、ゼラチンの含有量は、水分1質量部に対して、5~25質量部であることが好ましく、6~20質量部であることがより好ましく、6.5~15質量部であることがさらに好ましく、7~15質量部であることがさらにより好ましい。
【0024】
カプセル皮膜には、本発明の効果を損なわない範囲内で、可塑剤、ゲル化剤、ゲル化助剤、着色剤、防腐剤、芳香剤、pH調整剤、界面活性剤等を含有させてもよい。可塑剤としては、グリセリン、マンニトール、ソルビトール、ショ糖、果糖、プロピレングリコール、マクロゴール、ポリビニルピロリドン等を用いることができる。ゲル化剤としては、アラビアガム、アルギン酸、カラギーナン、寒天、キサンタンガム、グァーガム、グルコマンナン、ジェランガム、タマリンドガム、ファーセレラン、ペクチン等を用いることができる。ゲル化助剤としては、塩化アンモニウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、リン酸カリウム、乳酸カルシウム等を用いることができる。着色剤としては、酸化チタン、タール色素、カラメル、植物色素(カカオ色素等)などを用いることができる。防腐剤としては、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン等を用いることができる。芳香剤としては、メントール等を用いることができる。界面活性剤としては、ポリソルベート80、ポリオキシル35ヒマシ油等を用いることができる。これらは1種単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0025】
カプセル皮膜は、本発明の効果をより顕著に奏する観点から、基剤としてゼラチンを含有する場合は、可塑剤としてグリセリンを含有することが好ましい。
【0026】
カプセル皮膜が可塑剤を含有する場合、その含有量は、本発明の効果をより顕著に奏する観点から、カプセル皮膜の総質量に対して、好ましくは1~70質量%、より好ましくは5~60質量%、さらに好ましくは10~50質量%である。
【0027】
カプセル皮膜が可塑剤を含有する場合、その含有量は、本発明の効果をより顕著に奏する観点から、カプセル皮膜の基剤100質量部に対して、好ましくは1~70質量部、より好ましくは5~60質量部、さらに好ましくは10~50質量部である。
【0028】
カプセル皮膜が可塑剤を含有する場合、その含有量は、水分1質量部に対して、可塑剤が0.1~18質量部、0.5~12質量部又は1~10質量部であることが好ましい。
【0029】
カプセル皮膜の厚さは、本発明の効果を奏する限りにおいて特に限定されないが、例えば、0.001~2mmとすることができ、0.005~1.8mmであることが好ましく、0.005~1.5mmであることがより好ましく、0.01~1.5mmであることがさらに好ましく、0.01~1.2mmであることがさらにより好ましく、0.01~0.9mmであることが特に好ましい。
【0030】
(内容物)
本発明の軟カプセル剤は、皮膜に被覆される内容物(芯剤)として、(A)特定水溶性成分及び(B)油分を少なくとも含有する。
【0031】
(A)成分の特定水溶性成分は、常温・長期間(例えば1年以上、好ましくは2年間、より好ましくは3年間)の保存で減少しやすい水溶性成分であれば特に限定されない。(A)成分としては、本発明の効果をより顕著に奏する観点から、ビタミンB類、ビタミンC類、セラミド類及びγ-アミノ酪酸(GABA)からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、ビタミンB類、ビタミンC類又はそれらの組み合わせがより好ましく、少なくともビタミンB類を含有することがさらに好ましく、ビタミンB類及びビタミンC類の両方を含有することがさらにより好ましい。
【0032】
ビタミンB類としては、ビタミンB類〔チアミン、チアミン誘導体(例えば、チアミンジスルフィド、チアミンジセチル、オクトチアミン、シコチアミン、セトチアミン、ビスイブチアミン、ビスベンチアミン、フルスルチアミン、プロスルチアミン、ベンフォチアミン、及びフルスルチアミン等)又はそれらの塩〕;ビタミンB類〔リボフラビン、リボフラビン誘導体(リボフラビンリン酸エステル、リボフラビン酪酸エステル等のリボフラビンエステル、フラビンアデニンジヌクレオチド等)又はそれらの塩(リボフラビンリン酸エステルナトリウム、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム等)等〕;ビタミンB類〔ピリドキシン、ピリドキサール、ピリドキサミン若しくはそれらの誘導体(ピリドキサールリン酸等)、又はそれらの塩(ピリドキシン塩酸塩、ピリドキサールリン酸エステル水和物等)等〕;ビタミンB12類〔シアノコバラミン、メコバラミン(メチルコバラミン)、ヒドロキソコバラミン、又はそれらの塩(塩酸ヒドロキソコバラミン、ヒドロキソコバラミン酢酸塩等)等〕;ナイアシン(ニコチン酸、ニコチン酸アミド等);パントテン酸類〔パントテン酸、パンテノール、又はそれらの塩(パントテン酸カルシウム、パントテン酸ナトリウム等)等〕;ビオチン;並びに葉酸からなる群より選ばれる1種単独又は2種以上の組み合わせが挙げられる。中でもビタミンB類としては、本発明の効果をより顕著に奏する観点から、少なくともビタミンB12類を含有することが好ましく、少なくともシアノコバラミンを含有することがより好ましい。
【0033】
ビタミンC類としては、例えば、アスコルビン酸及びアスコルビン酸の塩から選ばれる1種単独又は2種以上の組み合わせが挙げられる。
【0034】
セラミド類としては、スフィンゴシン、フィトスフィンゴシン、スフィンゴシンに脂肪酸がアミド結合したセラミド、セラミドに糖が結合したスフィンゴ糖脂質(代表的には、セレブロシド)、セラミドにリン酸と塩基が結合したスフィンゴリン脂質(代表的には、スフィンゴミエリン)、セラミドに類似した構造を有する合成セラミド(N-(ヘキサデシロキシヒドロキシプロピル)-N-ヒドロキシエチルヘキサデカナミド、ヘキサデシロキシPGヒドロキセチルヘキサデカナミド、セチルPGヒドロキシエチルパルミタミドなど)、酵母などによる発酵によって得られるヒト型セラミド(例えば、セラミド2、セラミド3、発酵セラミド)、動物の脊髄や脳などから抽出した動物由来セラミド、米、大豆、トウモロコシ、小麦などから抽出した植物由来セラミド、並びにセラミド1~10からなる群より選ばれる1種単独又は2種以上の組み合わせが挙げられる。
【0035】
本発明によれば、(A)成分に固形成分等による被覆がない場合でも(A)成分の安定性が高められる。したがって、成分の被覆による製造コストの増加を抑える観点から、(A)成分は固形成分により被覆されていないことが好ましい。ここで、被覆に使用される固形成分は、例えば、難水溶性物質(例えば、ゼイン、グルテン等のアルコール可溶性タンパク質、増粘安定剤、ゲル化剤等)、融点40℃以上の油脂(例えば、菜種油、パーム油等)、マグネシウム若しくはカルシウムの乳酸塩又は炭酸塩(例えば、乳酸カルシウム等)及び中性の賦形剤(例えば、軽質無水ケイ酸等)からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられ、例えば、ゼイン、菜種油及びパーム油の組み合わせなど、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0036】
内容物中の(A)成分の含有量は、本発明の効果をより顕著に奏する観点から、内容物の総質量に対して、好ましくは90質量%以下、より好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは45質量%以下、さらにより好ましくは30質量%以下である。また、内容物中の(A)成分の含有量は、内容物の総質量に対して、例えば、0.00001質量%以上、0.0000625質量%以上、0.0002質量%以上とすることができる。
【0037】
(A)成分としてビタミンB12を含有する場合、内容物中のビタミンB12の含有量は、本発明の効果をより顕著に奏する観点から、内容物の総質量に対して、好ましくは0.01質量%以下、より好ましくは0.005質量%以下、さらに好ましくは0.0025質量%以下である。また、内容物中のビタミンB12の含有量は、内容物の総質量に対して、例えば、0.00001質量%以上、0.0000625質量%以上又は0.0002質量%以上とすることができる。
【0038】
(A)成分としてビタミンCを含有する場合、内容物中のビタミンCの含有量は、本発明の効果をより顕著に奏する観点から、内容物の総質量に対して、好ましくは90質量%以下、より好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは45質量%以下、さらにより好ましくは30質量%以下である。また、内容物中のビタミンCの含有量は、内容物の総質量に対して、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上、さらにより好ましくは10質量%以上とすることができる。
【0039】
(B)成分の油分は、50℃(好ましくは37℃、さらに好ましくは20℃)において液体であれば特に限定されない。油分としては、例えば、植物油、動物油、鉱物油、高級脂肪酸、脂肪酸トリグリセリド類(例えば、長鎖脂肪酸トリグリセリド、中鎖脂肪酸トリグリセリド)、からなる群より選ばれるいずれか1種単独、又は2種以上の組み合わせが挙げられる。
【0040】
本明細書において、「中鎖脂肪酸」は炭素数6~12の脂肪酸(例、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸)を表し、「高級脂肪酸」は炭素数13以上の脂肪酸を表す。
【0041】
植物油とは、植物を原料とする油であれば特に限定されず、その誘導体であってもよい。植物油は、トリグリセリドを含有することが好ましい。植物油は、例えば、サフラワー油、ゴマ油、ヒマシ油、ダイズ油、ラッカセイ油、アルモンド油、小麦胚芽油、ツバキ油、トウモロコシ油、ナタネ油、ヒマワリ油、綿実油、オリーブ油、及びこれらの誘導体等が挙げられる。植物油は、いずれも市販のものを利用することもできる。
【0042】
動物油とは、動物を原料とする油であれば特に限定されず、これらの誘導体であってもよい。動物油は、例えば、スクワラン、ラノリン、オレンジラフィー油、馬油、魚油、鯨油、肝油、ミンク油、卵黄油、牛脂、乳脂、豚油等が挙げられる。
【0043】
鉱物油とは、天然の石油由来の炭化水素油で、精製されて得られる液状及びグリース状の化学物質をいう。鉱物油は、例えば、パラフィン油、流動パラフィン、ワセリン等が挙げられる。
【0044】
高級脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、リシノール酸、エイコセン酸、エルカ酸、リノール酸、リノレン酸(γ-リノレン酸、α-リノレン酸等)、プニカ酸、ステアドリン酸、アラキドン酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、イソヘキサデカン酸、イソステアリン酸、ウンデシレン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、長鎖分岐脂肪酸、ダイマー酸、水素添加ダイマー酸等が挙げられる。
【0045】
中でも、油分は、好ましくは植物油、動物油、鉱物油及び高級脂肪酸からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくは動植物油、高級脂肪酸又はそれらの組み合わせである。
【0046】
(B)成分の含有量は、内容物の総質量に対して、99.9質量%以下、99質量%以下、90質量%以下又は80質量%以下であってもよい。また、(B)成分の含有量は、内容物の総質量に対して、例えば、30質量%以上、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上又は80質量%以上とすることができる。
【0047】
内容物中の(B)成分1質量部に対する(A)成分の含有量は、本発明の効果をより顕著に奏する観点から、好ましくは2質量部以下、より好ましくは1質量部以下、さらに好ましくは0.5質量部以下、さらにより好ましくは0.2質量部以下である。内容物中の(B)成分1質量部に対する(A)成分の含有量は、0.0004質量部以下、0.0002質量部以下又は0.0001質量部以下とすることができる。また、内容物中の(B)成分1質量部に対する(A)成分の含有量は、例えば、0.0000001質量部以上、0.000000625質量部以上、0.000001質量部以上又は0.000002質量部以上とすることができる。
【0048】
内容物がビタミンB12を含有する場合、内容物中の(B)成分1質量部に対するビタミンB12の含有量は、本発明の効果をより顕著に奏する観点から、好ましくは0.0004質量部以下、より好ましくは0.0002質量部以下、さらに好ましくは0.0001質量部以下、さらにより好ましくは0.00005質量部以下である。また、内容物中の(B)成分1質量部に対するビタミンB12の含有量は、例えば、0.0000001質量部以上、0.000000625質量部以上、0.000001質量部以上又は0.000002質量部以上とすることができる。
【0049】
内容物がビタミンCを含有する場合、内容物中の(B)成分1質量部に対するビタミンCの含有量は、本発明の効果をより顕著に奏する観点から、好ましくは2質量部以下、より好ましくは1質量部以下、さらに好ましくは0.5質量部以下、さらにより好ましくは0.2質量部以下である。また、内容物中の(B)成分1質量部に対するビタミンCの含有量は、例えば、0.0001質量部以上、0.001質量部以上、0.01質量部以上、0.05質量部以上又は0.1質量部以上とすることができる。
【0050】
内容物は、(A)成分及び(B)成分以外に、薬理活性成分又は生理活性成分として、例えば、生薬、動植物エキス類(チキンエキス、ビルベリーエキス、ジンジャーエキス等)、ユビキノン(コエンザイムQ10)、ビタミンD類、ビタミンA類、ビタミンE類、ナイアシン、タウリン、カルノシン、アンセリン、バレニン、シトルリン、バリン、ロイシン、イソロイシン、グリシン、アルギニン、オルニチン、カルニチン、グルタミン酸、グルタミン、クレアチン、カルニチン、ルテオリン、ケルセチン、ゲニスチン、シアニジン、レスベラトロール、ジオスゲニン、イソフラボンアグリコン、リポ酸、亜鉛、鉄、カルシウム、セレン、カロテノイド(ゼアキサンチン、ルテイン、アスタキサンチン、βカロテン、リコピン、β-クリプチキサンチン、カプサンチン、フコキサンチン等)、ピクノジェノール等を、1種単独又は2種以上を組み合わせて含有してもよい。
【0051】
上記の(A)成分及び(B)成分及びにそれ以外の成分の少なくとも一部は、固形成分として軟カプセル剤に含有されていてもよい。内容物が固形成分を含有する場合、その総含有量は、製剤の総質量に対して、例えば、80%以下、60%以下、50%以下又は45%以下であってもよく、また、1%以上、5%以上又は10%以上であり得る。
【0052】
また内容物は、(A)成分及び(B)成分の他に、水性基剤(例えば、マクロゴール400、水)、ゲル基剤(例えば、カルボキシビニルポリマー、ガム質など)、界面活性剤(例えば、ポリソルベート80、硬化ヒマシ油、セスキオレイン酸ソルビタンなど)、懸濁化剤(例えば、サラシミツロウや各種界面活性剤、大豆レシチンなど)、乳化剤(大豆レシチンなど)、多価アルコール、分散剤、安定化剤、緩衝剤、溶解補助剤、pH調整剤、防腐剤(保存剤)、抗酸化剤、甘味剤、酸味剤、着色剤、香料、呈味剤からなる群より選ばれる成分を1種単独で、又は2種以上を組み合わせて含有してもよい。
【0053】
乳化剤としては、例えば、大豆レシチン、プロピレングリコール脂肪酸エステル類、ショ糖脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類及びグリセリン脂肪酸エステルが挙げられる。限定はされないがこの中でもグリセリン脂肪酸エステルが好ましい。
【0054】
乳化剤は内容物全量に対して、0.1~80質量%、好ましくは1~60質量%、より好ましくは2~40質量%、特に好ましくは4~20質量%とすることができる。(B)成分の総量1質量部に対して、乳化剤の総量が、0.003~100質量部、好ましくは、0.005~10質量部、より好ましくは、0.01~2質量部、さらに好ましくは、0.04~0.5質量部とすることができる。
【0055】
多価アルコールは内容物全量に対して、0.1~80質量%、好ましくは1~60質量%、より好ましくは2~40質量%、特に好ましくは4~20質量%とすることができる。(B)成分の総量1質量部に対して、乳化剤の総量が、0.003~100質量部、好ましくは、0.005~10質量部、より好ましくは、0.01~2質量部、さらに好ましくは、0.04~0.5質量部とすることができる。
【0056】
内容物の水分含有量は、本発明の効果をより顕著に奏する観点から、内容物の総質量に対して、好ましくは0~30質量%、より好ましくは0~20質量%、さらに好ましくは0~15質量%、さらにより好ましくは0~10質量%、特に好ましくは0~5質量%である。内容物の水分含有量は、内容物をカプセル皮膜と分離したうえで、カールフィッシャー法によって測定することができる。具体的な方法は、第十八改正日本薬局方(令和3年6月7日厚生労働省告示第220号)記載の方法を使用することができる。
【0057】
内容物のpHは、本発明の効果をより顕著に奏する観点から、例えば2~6、好ましくは3~5、より好ましくは3.5~4.5である。
【0058】
(軟カプセル剤の形態・用途)
本発明の軟カプセル剤の体積は、特に限定されないが、体積が大きいほど本発明の効果を高めることができる。軟カプセル剤の体積は、例えば、100~9500mm、130~8500mm、又は160~7800mmであり得る。
【0059】
本発明の軟カプセル剤は、例えば、医薬製剤、医薬部外品製剤、特定保健用食品、栄養機能食品、老人用・介護用食品、特別用途食品、機能性表示食品、健康補助食品(サプリメント)、食品用製剤等に使用することができる。
【0060】
(効果:保存安定性)
本発明の軟カプセル剤は、常温で長期間安定である。例えば、本発明の軟カプセル剤において、(A)成分である特定水溶性成分は、製造直後品を遮光下25℃条件下にて保管開始時から、1年以上、2年以上又は3年以上安定であり得る。より具体的には、本発明の軟カプセル剤の(A)成分について、遮光下25℃における残存率が56%以上である第1の期間が、好ましくは2年を超え、より好ましくは少なくとも2年1ヶ月、さらに好ましくは少なくとも2.5年、さらにより好ましくは少なくとも3年である。
【0061】
皮膜水分量が10質量%を超える以外は本発明の軟カプセル剤と同じ処方の軟カプセル剤において、(A)成分の遮光下25℃における上記第1の期間が経過した時の残存率は、例えば、56%未満であり得る。
【0062】
本発明の軟カプセル剤において、例えば遮光下25℃における(A)成分の2年後残存率は、56%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらにより好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上とすることができる。
本発明の軟カプセル剤において、例えば遮光下25℃における(A)成分の2.1年後残存率は、56%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらにより好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上とすることができる。
本発明の軟カプセル剤において、例えば遮光下25℃における(A)成分の2.5年後残存率は、56%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらにより好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上とすることができる。
本発明の軟カプセル剤において、例えば遮光下25℃における(A)成分の3年後残存率は、56%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらにより好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上とすることができる。
【0063】
本明細書において、(A)成分の「残存率」は、製造直後品を保存試験した際の保存試験前の(A)成分の量に対する保存試験後の(A)成分の量の割合を表す。ここで、(A)成分の量とは、製剤の単位質量当たりの(A)成分の含有量を表す。
【0064】
本明細書において、(A)成分の遮光下25℃における特定の期間経過時の残存率は、実際に遮光下で25℃において当該特定の期間保存したときの残存率の実測値であってもよい。
【0065】
あるいは、本明細書において、(A)成分の遮光下25℃における特定の期間経過時の残存率は、遮光下で温度及び/又は期間の異なる複数の条件で保存試験を行った際の(A)成分の残存率のデータをもとに、アレニウスの式(式I)に基づいて求められる推定値であってもよい。
k=Aexp(-Ea/RT) (I)
(k:反応速度定数、A:頻度因子、Ea:活性化エネルギー:R:気体定数、T:温度(K))
【0066】
即ち、まず各保存試験条件(合計n個の条件とする)について、(A)成分がアレニウスの式に従って指数関数的に減少すると仮定して、各温度での保存試験結果からそれぞれ反応速度定数k、k、・・・kを求め、絶対温度の逆数1/Tを横軸、反応速度定数kの自然対数lnkを縦軸として、(1/T,lnk)、(1/T,lnk)・・・(1/T,lnk)をプロットする(アレニウスプロット)。そして、得られたプロットの単回帰直線(条件が2つのみの場合は、それらを結ぶ直線)を25℃に外挿して、25℃における反応速度定数の推定値を得る。この推定値から、上記特定の期間経過時の残存率を計算することができる。
【0067】
本明細書において、上記アレニウスプロットによる推定値の計算には、遮光下において、
(1)40℃で5ヶ月まで1ヶ月ごと及び50℃で2ヶ月まで1ヶ月ごとの計7条件での保存試験;
(2)40℃で1.5ヶ月、50℃で1.5ヶ月及び25℃で2ヶ月の3条件での保存試験;又は、
(3)40℃で0.5か月、1.5ヶ月及び50℃で0.5ヶ月、1.5ヶ月の計4条件での保存試験;のいずれかのデータを上記アレニウスプロットに使用するものとする。
本明細書において、保存試験中の相対湿度(RH%)は50~80RH%とする。
【0068】
本発明の軟カプセル剤において、例えば遮光下40℃における(A)成分の5ヶ月後の残存率は、好ましくは50%以上、より好ましくは55%以上、さらに好ましくは60%以上、さらにより好ましくは70%以上とすることができる。
本発明の軟カプセル剤において、例えば遮光下50℃における(A)成分の2ヶ月後の残存率は、好ましくは47%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは55%以上とすることができる。
【0069】
(容器・包装及び収容態様)
本発明の軟カプセル剤の包装は、(A)成分の種類、目的とする保存期間、保存温度等に応じて適宜選択し得る。本発明の軟カプセル剤は、例えば、1個又は複数のカプセル剤をPTP包装、SP包装、ピロー包装、スティック包装等により個包装されてもよい。また、(A)成分の種類によっては、個包装を行わずにアルミパウチ、瓶(ガラス、プラスチック等)などに包装しても、特定水溶性成分の長期間の安定性を実現することができる。
【0070】
本発明の軟カプセル剤の包装は、未開封時には日光、照明等の光線が軟カプセル剤に直射しないよう構成されることが好ましい。
【0071】
(製造方法)
本発明は、(A)特定水溶性成分及び(B)油分を含有する内容物をカプセル皮膜で被覆する工程、及び前記工程を経たカプセル皮膜の水分含有量を10質量%以下に調整する工程(水分調整工程)を含む、軟カプセル剤の製造方法を含む。
【0072】
内容物を被覆する工程には、特に限定されず、例えば、ロータリー方式、シームレス方式などの当該技術分野で用いられる通常の方法を使用することができる。
【0073】
ロータリー方式(打ち抜き法)の製造は、シート状のカプセル皮膜が、流動する充填用の内容物を挟み込み、回転する円筒型の金型の穴に沿ってカプセル形状に形成する。一方で、シームレス方式(滴下法)の製造は、同心円の多重ノズルからカプセル皮膜組成物と内容物が同時に吐出され、継ぎ目の無いカプセル形状に形成される。
【0074】
上記の水分調整工程は、カプセル皮膜用の混合物の調製段階に行われてもよい。また、水分調整工程は、例えばロータリー方式であれば、カプセル皮膜の調整段階、内容物の挟み込み段階、カプセル形成後において、シームレス方式であればカプセル形成後において乾燥させることにより行うこともできるが、好ましくはカプセル形成後における乾燥の段階である。
【0075】
上記の乾燥には、風乾又は乾燥機(回転乾燥機、熱風乾燥機等)を使用して行うことができる。乾燥時の温度は、好ましくは10~50℃、より好ましくは20~30℃である。
乾燥時の相対湿度は、好ましくは10~50%RH、より好ましくは20~30RH%である。
【0076】
水分調整工程において、カプセル皮膜の水分含有量は、本発明の効果を顕著に奏する観点から、皮膜の総質量に対して、好ましくは9.8質量%以下、より好ましくは9.6質量%以下、さらに好ましくは9.4質量%以下、さらにより好ましくは9質量%以下、特に好ましくは8.7質量%以下、特により好ましくは8.5質量%以下である。カプセル皮膜の水分含有量は、皮膜の総質量に対して、例えば、4質量%以上、5質量%以上、5.5質量%以上又は6質量%以上とすることができる。
【0077】
カプセル皮膜の水分含有量は、例えば、カプセル皮膜用のフィルム調製時や内容物の被覆、封入時の加熱又は乾燥の温度、時間等を変更することによって調整することができる。カプセル皮膜の水分含有量の調整は、予めカプセル皮膜の水分含有量を上記の値とするための条件が決定されていれば、製造の都度皮膜の水分含有量を測定しなくてもよい。
【0078】
本発明の軟カプセル剤の製造方法は、その他工程として、カプセル皮膜用混合物の調整工程、(A)成分及び(B)成分を含有する内容物の調製工程、混合工程、濾過工程、殺菌工程、包装工程等を適宜含んでもよい。これらの工程では、その技術分野において通常用いられる方法を使用することができる。
【0079】
[特定水溶性成分の安定化方法]
本発明は、カプセル皮膜と、(A)特定水溶性成分及び(B)油分を含有する内容物とを有する軟カプセル剤において、カプセル皮膜の水分含有量を10質量%以下に調整することを含む、特定水溶性成分の安定化方法を含む。
【0080】
カプセル皮膜、その水分含有量、(A)成分及び(B)成分その他の成分、軟カプセル剤の形態、並びにその他の具体的態様は、上記[軟カプセル剤]の項に記載したものと同じである。
【0081】
一般消費者向け加工食品について、食品表示法により食品表示基準(内閣府令第10号)で定める栄養成分の量及び熱量の表示(「栄養成分表示」と呼ぶ)が義務表示又は任意表示とされている。そして、栄養成分表示に表示された栄養成分の量(表示量)に対して許容差の範囲が規定されており、例えば水溶性ビタミン類については表示量-20%~+80%である。そのため、食品中の栄養成分の含有量は、増し仕込みにより最大で表示量の180%とすることができる。また、ある特定の水溶性ビタミン類(成分Xとする)について栄養強調表示(食品表示基準別表第11の規定に基づく栄養機能食品など、栄養成分表示枠外での訴求、表示を指すもの)を行うには、成分Xは、25℃条件で設定された賞味期限経過時に、表示量の100%以上である必要がある。したがって、成分Xを規制上可能な範囲(表示量の180%以下)で配合して栄養強調表示を行う場合、賞味期限経過時に成分Xは出荷時の配合量から56%以上残存する必要があることになる。
【0082】
本発明の軟カプセル剤を含む食品組成物は、(A)成分の遮光下25℃における含有量が、(A)成分の栄養成分表示の表示量に対して100%以上である期間が、好ましくは2年間を超え、より好ましくは少なくとも2年1ヶ月、さらに好ましくは少なくとも2.5年間、さらにより好ましくは少なくとも3年間であり得る。
【0083】
本発明の軟カプセル剤を含む食品組成物は、(A)成分が栄養強調表示されている場合は、賞味期限が、好ましくは2年を超える期間であり、より好ましくは2年1ヶ月以上、さらに好ましくは2.5年以上、さらにより好ましくは3年以上であり得る。
【0084】
本発明の安定化方法において、特定水溶性成分の安定化は、より具体的には、特定水溶性成分を遮光下25℃において、1年以上、2年以上又は3年以上安定とすることを表す。特定水溶性成分の安定化は、例えば、遮光下25℃における(A)成分の残存率を、好ましくは2年経過後、より好ましくは2年1ヶ月経過後、さらに好ましくは2.5年経過後、さらにより好ましくは3年経過後において、56%以上とすることを表す。特定水溶性成分の安定化は、例えば、遮光下25℃における(A)成分の3年後残存率を56%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらにより好ましくは80%以上とすること;又は、遮光下25℃における(A)成分の2年後残存率を、56%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらにより好ましくは80%以上とすることを表す。あるいは、特定水溶性成分の安定化は、例えば、遮光下40℃における(A)成分の5ヶ月後の残存率を50%以上、好ましくは55%以上、より好ましくは60%以上とすることを表す。あるいは、特定水溶性成分の安定化は、例えば、遮光下50℃における(A)成分の2ヶ月後の残存率を、好ましくは47%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは55%以上とすることができる。各残存率の具体的な態様は、上記[軟カプセル剤]の項に記載したとおりである。
【実施例0085】
次に、実施例や試験例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例や試験例に限定されるものではない。なお、表における各成分の量の単位は、特段の記載がない限り、質量部である。
【0086】
[試験例1~4共通の方法]
(軟カプセル剤の調製)
下記手順により、軟カプセル剤を調製した。成分の処方量、pHは各試験例に記載した。
(1)サフラワー油を68~73℃まで加熱し、グリセリン及び乳化剤を加え、さらに残りの内容物成分を加えて均一になるまで混合し、コロイドミルを用いて得られた混合物を乳化処理した。そして、pH調整を行って、下記組成の内容物を調製した。
(2)皮膜基剤の豚ゼラチンをグリセリン、カカオ色素と混合して、皮膜原液を調製した。
(3)上記(1)、(2)の原料及びロータリー方式の成形装置を用いて軟カプセル剤を調製した。即ち、皮膜原液からつくられた2枚のフィルムにより(1)で得られた内容物を挟んで成形・ヒートシールすることにより、軟カプセル剤を調製した(1カプセル当たりの重量は150mg)。皮膜の水分含有量は、調製時に水分を飛ばす量を変えることによって調整した。
(4)調整後の軟カプセル剤のカプセル皮膜の総質量に対する水分含有量(質量%)を測定した。
【0087】
(保存安定性試験)
下記手順により、各難カプセル剤中の特定水溶性成分の保存安定性を評価した。
(1)得られた各軟カプセル剤について、相対湿度75%RHにおいてアルミパウチ袋に入れて密封し、恒温器注にて遮光下で各試験例の表に記載した温度・期間で保存試験を行った。
(2)保存前後の軟カプセル剤から内容物を分離した。
(3)各試験例に記載の方法により、特定水溶性成分量を定量した。
(4)下記式により、それぞれの条件における特定水溶性成分の残存率を求めた。
特定水溶性成分の残存率=保存後の特定水溶性成分の含有量/保存前の特定水溶性成分の含有量
(5)得られた残存率から各温度の反応速度定数を求め、アレニウスプロットに基づいて、25℃で、各試験例で設定した期間経過後の残存率の推定値を求めた。使用した保存試験の温度、期間は各試験例の表に記載した。
(6)(5)で得られた推定値に基づいて、保存安定性を評価した。保存安定性は×<〇<◎の順に、より良好であることを意味する。×は保存安定性が悪く、上記設定した期間保存した場合に成分量が著しく減少するために、製品として不適であることを意味する。
<保存安定性の評価>
×:残存率の推定値が56%未満
〇:残存率の推定値が56%以上70%未満
◎:残存率の推定値が70%以上
【0088】
(皮膜の水分含有量の測定方法)
皮膜の水分含有量の測定方法は、第十八改正日本薬局方の一般的試験法の項の「2.41 乾燥減量試験法」に記載された方法を用いた。
【0089】
[試験例1.軟カプセル剤の調製と保存安定性の検証]
下記の内容物及びカプセル皮膜の組成の軟カプセル剤を調製した。比較例1-1と実施例1-1、比較例1-2と実施例1-2の各組み合わせの間では、内容物(芯剤)の組成は同じであるが、表1に記載の通り皮膜の水分量のみが異なる。
<内容物組成>
固形成分(チキンエキス、ビルベリーエキス、
ジンジャーエキス、ビタミンC類) 27.1質量部
ビタミンB12(0.1%水溶液) 2.8質量部
ビタミン類(ビタミンA類、E類) 7.0質量部
油分(DHA、サフラワー油) 136.1質量部
乳化剤(大豆レシチン、グリセリン脂肪酸エステル) 24.5質量部
ルテイン(20質量%) 52.5質量部
全量 250.0質量部
<皮膜原液組成>
豚ゼラチン 102.8質量部
グリセリン 42.1質量部
カカオ色素 5.1質量部
全量 150.0質量部
【0090】
得られた軟カプセル剤について、特定水溶性成分としてビタミンB12(本実施例中、「VB12」と記載する場合がある)の保存安定性試験を行った。本試験例において、ビタミンB12の測定は、消費者庁通知「食品表示基準について(平成27年3月30日消食表第139号)」の別添「栄養成分等の分析方法」に記載の微生物学的定量法により行った。
【0091】
保存安定性試験の結果を表1に示した。実施例の軟カプセル剤は、いずれもビタミンB12の保存安定性が良好であった。一方、比較例の軟カプセル剤のビタミンB12の保存安定性は不十分であった。
【0092】
【表1】
【0093】
さらに、実施例のカプセル皮膜の水分含有量は、驚くべきことに、保存後も低い水分含有量を維持していた。一方、比較例では水分含有量が増加又は高い状態を維持した。このことから、カプセル皮膜の初期の水分含有量を所定の値以下に調整することによって、保存中もカプセル皮膜の水分含有量が低いまま維持され、特定水溶性成分の保存安定性が維持されることが明らかとなった。
【0094】
[試験例2.異なる組成の軟カプセル剤の調製と保存安定性の検証(1)]
表2の組成の軟カプセル剤を調製した。比較例2-2と実施例2-2は、それぞれ内容物(芯剤)の組成は同じであるが、表2に記載の通り皮膜の水分量のみが異なる。得られた軟カプセル剤について、特定水溶性成分としてビタミンB12の保存安定性試験を行った。本試験例において、ビタミンB12の測定は高速液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析計(LC-MS/MS)を用いて行った。
【0095】
結果を表2に示した。実施例の軟カプセル剤は、いずれもビタミンB12の保存安定性が良好であった。一方、比較例の軟カプセル剤のビタミンB12の保存安定性は不十分であった。
【0096】
【表2】
【0097】
[試験例3 ビタミンCの保存安定性の検証]
表3の組成の軟カプセル剤を調製した。比較例2-2と実施例2-2は、それぞれ内容物(芯剤)の組成は同じであるが、表2に記載の通り皮膜の水分量のみが異なる。得られた軟カプセル剤について、特定水溶性成分としてビタミンCの保存安定性試験を行った。ビタミンCの測定は液体クロマトグラフィー法により行った。
【0098】
結果を表3に示した。実施例の軟カプセル剤は、いずれもビタミンCの保存安定性が良好であった。一方、比較例の軟カプセル剤のビタミンCの保存安定性は不十分であった。
【0099】
【表3】
【0100】
[試験例4.異なる組成の軟カプセル剤の調製と保存安定性の検証(2)]
表4の組成の軟カプセル剤を調製した。比較例4-1と実施例4-1は、それぞれ内容物(芯剤)の組成は同じであるが、表2に記載の通り皮膜の水分量のみが異なる。得られた軟カプセル剤について、特定水溶性成分としてビタミンB12の保存安定性試験を行った。本試験例において、ビタミンB12の測定は高速液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析計(LC-MS/MS)を用いて行った。
【0101】
結果を表4に示した。実施例4-1(実施例2-1と同じ処方)の軟カプセル剤は、ビタミンB12の保存安定性が良好であった。一方、比較例4-1の軟カプセル剤のビタミンB12の保存安定性は不十分であった。
【0102】
【表4】
【0103】
試験例1~4の結果から、カプセル皮膜の水分含有量が10質量%以下になると保存安定性が顕著に向上することが明らかとなった。
【0104】
[製造例]
軟カプセル剤の製造例を表5に示す。これらは公知の製造技術を用いて製造することができる。
【0105】
【表5】