(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052670
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】熱伝導性シート
(51)【国際特許分類】
H01L 23/36 20060101AFI20240404BHJP
H01L 23/373 20060101ALI20240404BHJP
C09K 5/14 20060101ALI20240404BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20240404BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20240404BHJP
B24B 29/00 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
H01L23/36 D
H01L23/36 M
C09K5/14 E
C08J5/18 CFH
H05K7/20 F
B24B29/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024002661
(22)【出願日】2024-01-11
(62)【分割の表示】P 2023562862の分割
【原出願日】2023-03-28
(31)【優先権主張番号】P 2022054382
(32)【優先日】2022-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】313001332
【氏名又は名称】積水ポリマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】黒尾 健太
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 弘通
(72)【発明者】
【氏名】工藤 大希
(57)【要約】
【課題】放熱体と発熱体の間に使用される熱伝導性シートにおいて、熱抵抗値を十分に低くできる熱伝導性シートを提供することを課題とする。
【解決手段】バインダーと、前記バインダーに分散される熱伝導性充填材とを含み、発熱体と放熱体とに挟まれて使用される熱伝導性シートであって、前記発熱体又は前記放熱体に接触する前記熱伝導性シートの表面の反射率が0.30%以上である、熱伝導性シート。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダーと、前記バインダーに分散される熱伝導性充填材とを含み、発熱体と放熱体とに挟まれて使用される熱伝導性シートであって、
前記発熱体又は前記放熱体に接触する前記熱伝導性シートの表面の反射率が0.30%以上である、熱伝導性シート。
【請求項2】
0~100℃において流動性を有しない、請求項1に記載の熱伝導性シート。
【請求項3】
前記熱伝導性充填材が、前記熱伝導性シートの厚み方向に配向している異方性充填材を含む、請求項1又は2に記載の熱伝導性シート。
【請求項4】
前記熱伝導性充填材が黒鉛材料を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
【請求項5】
前記反射率が0.45%以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
【請求項6】
前記バインダーが架橋シリコーンを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
【請求項7】
相変化材料を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
【請求項8】
前記相変化材料の含有量が、前記バインダー100質量部あたり2~30質量部である、請求項7に記載の熱伝導性シート。
【請求項9】
前記相変化材料がアルキルシリコーンである、請求項7又は8に記載の熱伝導性シート。
【請求項10】
前記反射率が0.30%以上である表面がスライス面である、請求項1~9のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
【請求項11】
前記熱伝導性シートのE硬度が10~80である、請求項1~10のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の熱伝導性シートの製造方法であって、
バインダーと、バインダーに分散される熱伝導性充填材とを含む成形体の表面を研磨する工程を含む、熱伝導性シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ、自動車部品、携帯電話等の電子機器では、半導体素子や機械部品等の発熱体から生じる熱を放熱するためにヒートシンクなどの放熱体が一般的に用いられる。放熱体への熱の伝熱効率を高める目的で、発熱体と放熱体の間には、熱伝導性シートが配置されることが知られている。熱伝導性シートは、電子機器内部に配置させるとき圧縮して用いられることが一般的であり、そのため高い柔軟性が必要とされ、さらに放熱性を高めるため、熱伝導率を高くする必要がある。
【0003】
熱伝導性シートは、伝導効率をより一層高めるために発熱体、放熱体に対する追従性が求められる。したがって、加熱により軟化ないし溶融する、いわゆるフェーズチェンジシートと呼ばれる相変化型の熱伝導性シートが検討されている。例えば、特許文献1では、アルキル基導入シリコーンオイルと、α-オレフィンと、熱伝導性フィラーとを少なくとも含み、常温ではパテ状であり、加熱により軟化し流動化する放熱シートが開示されている。
また、熱伝導性シートとしては、CPAOを高充填した熱伝導性シートも知られている。例えば、特許文献2には、CPAO及び熱硬化性樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物及びそのシート成型品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-331835号公報
【特許文献2】特開2010-185052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、例えば、半導体の分野では、機器の小型化、半導体の性能の向上、半導体の高集積化につれ、これまで以上に、機器内部の発熱密度が大きくなってきている。そのため、機器内部で生じる熱の放熱にもさらなる効率化が望まれている。こうしたニーズを受け、熱伝導性シートによる放熱の効率化が試みられているところであるが、その手段としては、例えば、熱伝導率を高くすること、接触熱抵抗を小さくすること、実質的な厚みを薄くすることなどが考えられる。
【0006】
ここで、熱伝導性シートの高熱伝導率化という観点では、熱伝導率の高い黒鉛材料を、発熱体から放熱体に向かう厚み方向に配向させる技術が採用されている。また、接触熱抵抗を小さくする観点からは、表面粗さを小さくことすることがある。しかしながら、一定の水準まで表面粗さを小さくすると、それ以上表面粗さを小さくすることが困難であると共に、必ずしも表面粗さを小さくすれば熱抵抗値を低くできるわけではないという問題もある。
【0007】
そこで、本発明は、放熱体と発熱体の間に使用される熱伝導性シートにおいて、熱抵抗値を十分に低くできる熱伝導性シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、バインダーと熱伝導性充填材とを含有する熱伝導性シートであって、少なくとも一方の表面の反射率が0.30%以上である熱伝導性シートにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[12]を提供する。
【0009】
[1]バインダーと、前記バインダーに分散される熱伝導性充填材とを含み、発熱体と放熱体とに挟まれて使用される熱伝導性シートであって、前記発熱体又は前記放熱体に接触する前記熱伝導性シートの表面の反射率が0.30%以上である、熱伝導性シート。
[2]0~100℃において流動性を有しない、[1]に記載の熱伝導性シート。
[3]前記熱伝導性充填材が、前記熱伝導性シートの厚み方向に配向している異方性充填材を含む、[1]又は[2]に記載の熱伝導性シート。
[4]前記熱伝導性充填材が黒鉛材料を含む、[1]~[3]のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
[5]前記反射率が0.45%以上である、[1]~[4]のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
[6]前記バインダーが架橋シリコーンを含む、[1]~[5]のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
[7]相変化材料を含む、[1]~[6]のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
[8]前記相変化材料の含有量が、前記バインダー100質量部あたり2~30質量部である、[7]に記載の熱伝導性シート。
[9]前記相変化材料がアルキルシリコーンである、[7]又は[8]に記載の熱伝導性シート。
[10]前記反射率が0.30%以上である表面がスライス面である、[1]~[9]のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
[11]前記熱伝導性シートのE硬度が10~80である、[1]~[10]のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
[12][1]~[11]のいずれか1項に記載の熱伝導性シートの製造方法であって、バインダーと、バインダーに分散される熱伝導性充填材とを含む成形体の表面を研磨する工程を含む、熱伝導性シートの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、熱抵抗値が十分低くできる熱伝導性シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【発明を実施するための形態】
【0012】
[熱伝導性シート]
以下、本発明の実施形態に係る熱伝導性シートについて詳しく説明する。
本発明の熱伝導性シートは、バインダーと、バインダーに分散される熱伝導性充填材とを含み、発熱体と放熱体とに挟まれて使用される熱伝導性シートである。
【0013】
<反射率>
本発明の熱伝導性シートは、発熱体と放熱体とに挟まれて使用される場合において、発熱体又は放熱体に接触する表面の反射率(以下、単に「反射率」ともいう)が0.30%以上である。反射率が0.30%未満であると、熱伝導性シートの熱抵抗値が増大したり、熱伝導性シートの放熱体や発熱体に対する密着力が損なわれ、発熱体や放熱体と、熱伝導性シートとの隙間が発生したりして、熱伝導性シートが熱伝導性を十分発揮することができない。
本発明においては、熱伝導性シートの表面のうち、発熱体と接触する表面、及び放熱体と接触する表面の少なくとも一方の反射率が0.30%以上であればよいが、両表面が0.30%以上であることが好ましい。両表面が0.30%以上であると、放熱体及び発熱体の両方に密着させることができ、熱伝導性シートの熱抵抗値をより一層低くすることができる。
本発明においては、密着性を高め、かつ熱抵抗値をより効果的に低くする観点から、反射率は、0.45%以上であることが好ましく、0.50%以上であることがより好ましく、0.55%以上であることがさらに好ましい。反射率が高くなると熱伝導性が良好となる原理は定かではないが、単に熱伝導性シートの表面の平滑性が高まるということではなく、樹脂と熱伝導性充填材とで研磨されやすさが異なることからそれらの割合が変化することや表面に倒れるように配置される異方性充填材が増加すること、表面に倒れるように配置されている異方性充填材の側面(長軸の側面)も研磨されることなど、複数の要因により、発熱体又は放熱体との密着力が大きくなり、熱抵抗値が小さくなるためと推定される。
また、反射率の上限は、特に限定されないが、実用的には例えば4.0%以下、好ましくは3.5%以下、より好ましくは2.0%以下である。
なお、反射率は、後述する実施例に記載する測定方法により得ることができる。
【0014】
<流動性>
本発明の熱伝導性シートは、0~100℃において流動性を有しないものであることが好ましい。ここで、流動性を有しないとは、熱伝導性シートを0℃から100℃まで加熱した場合においても、熱伝導性シートを構成する成分が、熱伝導性シートの外部に流れ出ないことを意味し、熱伝導性シートは、100℃まで加熱した場合においても、その形状を維持できるとよい。この場合において、熱伝導性シートは、加熱されて少し変形することはあるが、実質上、弾性変形にとどまり、冷却後は元の形状に戻ることができる。熱伝導性シートがこのような物性を有していると、熱伝導性シートを放熱体と発熱体との間に挟んで使用した場合において、発熱体が発する熱によって熱伝導性シートの成分が流れ出ずに、熱伝導性シートの形状を実質上維持することができる。そのため、良好な熱伝導性を発揮することができる。
なお、後述するように熱伝導性シートが相変化材料を含む場合には、相変化材料の融点よりも高い温度に熱伝導性シートを加熱した状態でも、熱伝導性シートの形状が維持されるとよい。すなわち、相変化材料自体は、融解することがあるが、その融解した相変化材料が外部に流れ出なければよい。
【0015】
<バインダー>
本発明の熱伝導性シートにおいて使用されるバインダーは、エラストマーやゴム等の高分子化合物であり、好ましくは主剤と硬化剤のような混合系からなる液状の高分子組成物(硬化性高分子組成物)を硬化して形成したものを使用するとよい。硬化性高分子組成物は、例えば、未架橋ゴムと架橋剤からなるものであってもよいし、モノマー、プレポリマーなどと硬化剤などを含むものであってもよい。また、上記硬化反応は常温硬化であっても、熱硬化であっても良い。硬化性高分子組成物から形成されるバインダーは、架橋構造を有する架橋マトリクスであることが好ましい。また、バインダーは、好ましくはシリコーンマトリクスが例示される。
【0016】
(シリコーンマトリクス)
シリコーンマトリクスは、室温(23℃)及び高温下(80℃)のいずれにおいても流動性を有しないシリコーンであるとよい。シリコーンマトリクスは、流動性を有しないので、常温及び高温下において熱伝導性シートの保形性を確保できる。
また、本発明のシリコーンマトリクスとしては、例えばシリコーンゴムを使用すればよい。シリコーンゴムを使用することで圧縮変形が容易となり、発熱体と放熱体の間に組み付けやすくなる。また、熱伝導性シートに一定の圧縮特性を付与できるので、信頼性を高めることができる。
【0017】
シリコーンマトリクスに使用するシリコーンとしては、縮合反応型、付加反応型のいずれでもよいが、熱伝導性充填材を高充填し易く、また触媒等により硬化温度を容易に調整できることから、付加反応型が好ましい。シリコーンマトリクスは、例えば、硬化性シリコーン組成物を硬化することで得ることができる。硬化性シリコーン組成物は、例えば主剤と硬化剤からなるとよい。
【0018】
硬化性シリコーン組成物は、付加反応型の場合、熱伝導性充填材を高充填し易いという観点から、主剤としてのアルケニル基含有オルガノポリシロキサンと硬化剤としてのハイドロジェンオルガノポリシロキサンとを含有することが好ましい。
なお、硬化性シリコーン組成物は、硬化前は液状であることが好ましい。硬化性シリコーン組成物は、硬化前に液状であることで、熱伝導性充填材を高充填しやすくなる。なお、本明細書において液状とは、常温(23℃)、1気圧下で液体のものをいう。
【0019】
また、シリコーンマトリクスは、熱伝導性シートの保形性を確保できるようにするために、架橋シリコーンを使用することが好ましく、3次元架橋しているシリコーンマトリクスを使用することがより好ましい。そのためには、例えば付加反応型の場合、1分子中にアルケニル基を少なくとも3以上有するアルケニル基含有オルガノポリシロキサン、またはケイ素原子に付加する水素を少なくとも3以上有するハイドロジェンオルガノポリシロキサンを含有する硬化性シリコーン組成物を硬化させればよい。
【0020】
シリコーンマトリクスの含有量は、熱伝導性シート全量に対して、例えば5~50質量%程度であればよく、好ましくは8~35質量%、より好ましくは12~25質量%である。
【0021】
(相変化材料)
熱伝導性シートにおいて、バインダー成分には、相変化材料を含有することが好ましい。熱伝導性シートは、相変化材料を含有することにより、加熱時に柔軟性を高めることができ、発熱体又は放熱体に対する密着性を大幅に高めやすくなる。また、熱伝導性シートの表面の反射率を向上させやすくなる。
なお、密着力を高めた熱伝導性シートは、以下のような用途で有益である。例えば、小型化や高集積化した半導体において基板は薄型であることから、基板が薄くなるにつれて発熱に伴う基板の反りが生じやすくなっている。一方で、熱伝導性シートは、一般的に反発弾性を有することから、ある程度の厚みを有することで厚み変化を吸収しやすく、基板の反りが生じても隙間なく好適に使用されていた。しかし、熱伝導性シートは、上記の通りに厚みを薄くすると、圧縮して使用される場合に、厚み変化が吸収しにくくなるという問題もある。そのため、基板などの反りが生じても、放熱体と発熱体の間を隙間なく埋めることができるように、放熱体又は発熱体に対する密着性を高める必要が生じてきている。
相変化材料は、加熱により固体から液状に変化する材料である。相変化材料は、室温(23℃)で液状、あるいは、一定の温度(例えば、23℃より高く80℃以下の温度)に加熱することで溶融する化合物を使用すればよいが、加熱されたときに柔軟性を高めやすい観点から、室温、1気圧下で固体状であることが好ましい。したがって、相変化材料の融点は常温(23℃)より高いことが好ましく、30℃以上であることがより好ましく、35℃以上であることがさらに好ましい。
相変化材料の融点は、高温(例えば、80℃)加熱時に溶融できる観点から、好ましくは80℃以下であるが、より好ましくは70℃以下、さらに好ましくは60℃以下、よりさらに好ましくは50℃以下である。
なお、相変化材料の融点は、熱重量示差熱分析(TGDTA)を用い昇温速度1℃/minで測定したDTA曲線の吸熱ピークの温度である。また、アルキルシリコーンが混合物である場合は、融点は上記温度範囲の中の最大の吸熱ピークとする。
【0022】
相変化材料の具体例としては、流動パラフィン、パラフィンワックス、ワセリン、ポリアルファオレフィン(PAO)、アルキルシリコーン、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスなどが挙げられる。なお、ワセリンは、半固形状炭化水素系化合物であり、イソパラフィン、シクロパラフィン、ナフテンなどの複数の炭化水素系化合物の混合物である。また、ワセリンとしては例えば日本薬局方に定義される白色ワセリンを例示できる。
これらの中では、熱伝導性シートの表面の反射率を有効に高める観点から、パラフィンワックス、ワセリン、ポリアルファオレフィン(PAO)、アルキルシリコーン、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスが好ましく、ポリアルファオレフィン(PAO)、アルキルシリコーンがより好ましい。
【0023】
相変化材料としてポリアルファオレフィン(PAO)を使用する場合は、結晶性を有する結晶性ポリアルファオレフィン(CPAO)がより好ましい。ポリアルファオレフィンは、α-オレフィンの重合体である。α-オレフィンの種類に特に制限はなく、直鎖であっても、分岐鎖を有してもよく、また、環状構造を有してもよい。ポリアルファオレフィンは、例えば炭素数2~30、好ましくは炭素数6~20のα-オレフィンの重合体である。結晶性ポリアルファオレフィンは、例えばα-オレフィンの炭素数を大きくして、側鎖結晶性ポリアルファオレフィンとしてもよい。
ポリアルファオレフィンは、単一のα-オレフィンの重合体であってもよいし、2種以上のα-オレフィンの共重合体であってもよい。
【0024】
アルキルシリコーンとしては、主鎖にポリシロキサン骨格を有し、かつアルキル基を有する化合物が挙げられる。該アルキル基はケイ素原子に結合したアルキル基であり、炭素数は8以上であるアルキル基を含むことが好ましい。中でも、アルキルシリコーンとしては、下記式(1)で示されるアルキルシリコーンが好ましい。
【0025】
【化1】
ここで、Rは炭素数8以上のアルキル基を示し、mとnはm:nが100:0~50:50の範囲となる整数である。また、m及びnの合計は、20以上1000以下である。
炭素数8以上のアルキル基は、直鎖状のアルキル基であってもよいし分岐状のアルキル基であってもよいが、直鎖状のアルキル基であることが好ましい。
【0026】
ここで、前記アルキル基の炭素数は8~26の範囲が好ましく、炭素数12~22の範囲がより好ましい。Rが炭素数8以上のアルキル基の場合にはアルキルシリコーンの融点が低くなりすぎることを防止することができる。一方、Rが炭素数26以下のアルキル基の場合には、80℃以下の融点のアルキルシリコーンが得やすくなる。
【0027】
Rは、特に限定されないが、好ましくは、ドデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘニコシル基、ドコシル基などであり、より好ましくはオクタデシル基である。
【0028】
また、m:nは100:0の場合には、アルキルシリコーンが融点以下の温度において、いわゆる硬質樹脂に近い性状になり、m:nが50:50に近づくほどワックスのような性状になる。換言すれば、m:nが100:0のアルキルシリコーンを適量用いることで熱伝導性シートが一定程度硬くなり取り扱い性を改善しやすくなる。
前記アルキルシリコーンは、特に好ましくはポリオクタデシルメチルシロキサン(R=18、m:n=100:0)である。
なお、アルキルシリコーンとしては、上記した式(1)で表される化合物以外のものでもよく、例えば、アルキル基以外の置換基を有するアルキルシリコーンであってもよい。
ポリアルファオレフィン(PAO)、アルキルシリコーンとして、上記物質を使用することで、熱伝導性シートの表面の反射率をより有効に高くすることができる。
なお、相変化材料は、1種を単独で含有してもよいし、2種以上を併用して含有してもよい。
【0029】
相変化材料の含有量は、バインダー100質量部に対して、1~45質量部が好ましく、2~30質量部がより好ましく、5~20質量部がさらに好ましい。相変化材料の含有量が上記下限値以上であることにより、熱伝導性シートの表面の反射率を効果的に向上させることができる。また、相変化材料の含有量が上記上限値以下であることにより、バインダー成分の含有割合を一定以上とし、熱伝導性シートの密着力が高められることで、反射率も効果的に向上させることができる。
【0030】
<熱伝導性充填材>
本発明の熱伝導性シートにおいて、熱伝導性充填材は、バインダー中に分散され、かつバインダーに保持されるとよい。
熱伝導性充填材は、異方性充填材であってもよいし、非異方性充填材であってもよいし、これらの両方を併用してもよい。熱伝導性充填材は、少なくとも異方性充填材を含有することが好ましく、異方性充填材と非異方性充填材の両方を含有することがより好ましい。熱伝導性シートは、異方性充填材を含有することで、熱伝導性を高めやすくなる。
【0031】
異方性充填材は、一方向に配向することが好ましく、具体的には、熱伝導性シートの厚さ方向に配向することが好ましい。異方性充填材が厚さ方向に配向することで、厚さ方向の熱伝導性を高めやすくなる。
なお、異方性充填材は、厚さ方向に配向する場合、その長軸方向が厳密に厚さ方向に平行である必要はなく、長軸方向が多少厚さ方向に対して傾いていても厚さ方向に配向するものとする。具体的には、長軸方向が20°未満程度傾いているものも厚さ方向に配向する異方性充填材とし、そのような異方性充填材が、熱伝導性シートにおいて、大部分であれば(例えば、全異方性充填材の数に対して60%超、好ましくは80%超)、厚さ方向に配向するものとする。
また、以上の説明では、異方性充填材は、厚さ方向に配向される例も前提に説明したが、他の方向に配向される場合も同様である。
【0032】
熱伝導性シートは、黒鉛材料を含むことが好ましい。黒鉛材料を含むことで熱伝導性をより一層高めやすくなる。また、黒鉛材料を含むと、黒鉛材料を含まないものと比較して一般的に反射率は低くなる傾向にあるが、本発明では、黒鉛材料を含む熱伝導性シートにおいても、上記の通りに反射率を一定値以上とすることで、密着力及び熱伝導性を高めやすくなる。黒鉛材料は、異方性充填材であってもよいし、非異方性材料であってもよいが、異方性充填材であることが好ましい。
【0033】
熱伝導性充填材の含有量は、バインダー100質量部に対して、好ましくは150~3000質量部、より好ましくは200~2000質量部、さらに好ましくは300~1000質量部である。熱伝導性充填材を150質量部以上とすることで、一定の熱伝導性を熱伝導性シートに付与できる。また、3000質量部以下とすることで、熱伝導性シートの反射率を一定以上とすることができる。また、熱伝導性シートにおけるバインダーの割合を一定以上にでき、熱伝導性シートの密着力が増して熱抵抗値を小さくすることができる。
【0034】
(異方性充填材)
異方性充填材は、形状に異方性を有する充填材であり、配向が可能を充填材である。異方性充填材としては、繊維材料、鱗片状材料などが挙げられる。異方性充填材は、アスペクト比が高いものであり、具体的にはアスペクト比が2を越えるものであり、アスペクト比は5以上であることが好ましい。アスペクト比を2より大きくすることで、異方性充填材を厚さ方向などの一方向に配向させやすくなり、熱伝導性シートの厚さ方向などの一方向の熱伝導性を高めやすい。また、アスペクト比の上限は、特に限定されないが、実用的には100である。
なお、アスペクト比とは、異方性充填材の短軸方向の長さに対する長軸方向の長さの比であり、繊維材料においては、繊維長/繊維の直径を意味し、鱗片状材料においては鱗片状材料の長軸方向の長さ/厚さを意味する。
【0035】
熱伝導性シートにおける異方性充填材の含有量は、バインダー100質量部に対して10~500質量部であることが好ましく、30~300質量部であることがより好ましく、50~250質量部であることがさらに好ましい。
異方性充填材の含有量を10質量部以上とすることで、熱伝導性を高めやすくなる。また、500質量部以下とすることで、後述する混合組成物の粘度が適切になりやすく、異方性充填材の配向性が良好となる。さらに、バインダーにおける異方性充填材の分散性も良好になる。
【0036】
異方性充填材は、繊維材料である場合、その平均繊維長が、好ましくは10~500μm、より好ましくは20~350μm、さらに好ましくは50~300μmである。平均繊維長を10μm以上とすると、熱伝導性シート内部において、異方性充填材同士が適切に接触して、熱の伝達経路が確保され、熱伝導性シートの熱伝導性が良好になる。
一方、平均繊維長を500μm以下とすると、異方性充填材の嵩が低くなり、バインダー成分中に高充填できるようになる。
また、繊維材料の平均繊維長は、熱伝導性シートの厚さよりも短いことが好ましい。厚さよりも短いことで、繊維材料が熱伝導性シートの表面から必要以上に突出したりすることを防止する。
なお、上記の平均繊維長は、異方性充填材を顕微鏡で観察して算出することができる。より具体的には、例えば電子顕微鏡や光学顕微鏡を用いて、任意の異方性充填材50個の繊維長を測定して、その平均値(相加平均値)を平均繊維長とすることができる。
【0037】
また、異方性充填材が鱗片状材料である場合、その平均粒径は、10~400μmが好ましく、15~300μmがより好ましく、20~200μmがさらに好ましい。平均粒径を10μm以上とすることで、熱伝導性シートにおいて異方性充填材同士が接触しやすくなり、熱の伝達経路が確保され、熱伝導性シートの熱伝導性が良好になる。一方、平均粒径を400μm以下とすると、熱伝導性シートの嵩が低くなり、バインダー成分中に異方性充填材を高充填することが可能になる。
なお、鱗片状材料の平均粒径は、異方性充填材を顕微鏡で観察して長径を直径として算出することができる。より具体的には、例えば電子顕微鏡や光学顕微鏡を用いて、任意の異方性充填材50個の長径を測定して、その平均値(相加平均値)を平均粒径とすることができる。
【0038】
異方性充填材は、熱伝導性を有する公知の材料を使用すればよいが、後述するように磁場配向により配向する場合には、反磁性を備えるとよい。一方で、流動配向により配向し、あるいは、異方性充填材を配向しない場合には反磁性を備えなくてもよい。
異方性充填材の具体例としては、炭素繊維、又は鱗片状炭素粉末で代表される炭素系材料、金属繊維で代表される金属材料や金属酸化物、窒化ホウ素や金属窒化物、金属炭化物、金属水酸化物、ポリパラフェニレンベンゾオキサゾール繊維等が挙げられる。これらの中では、炭素系材料は、比重が小さく、バインダー成分中への分散性が良好なため好ましく、中でも熱伝導率の高い黒鉛材料がより好ましい。黒鉛材料は、グラファイト面が所定方向に揃うことで反磁性を備える。
また、異方性充填材としては、窒化ホウ素も好ましい。窒化ホウ素は、特に限定されないが、鱗片状材料として使用されることが好ましい。鱗片状の窒化ホウ素は、凝集されてもよいし、凝集されていなくてもよいが、一部又は全部が凝集されていないことが好ましい。なお、窒化ホウ素なども、結晶面が所定方向に揃うことで反磁性を備える。
【0039】
また、異方性充填材は、特に限定されないが、異方性を有する方向(すなわち、長軸方向)に沿う熱伝導率が、一般的に30W/m・K以上であり、好ましくは60W/m・K以上であり、より好ましくは100W/m・K以上、さらに好ましくは200W/m・K以上である。異方性充填材の熱伝導率は、その上限が特に限定されないが、例えば2000W/m・K以下である。熱伝導率は、レーザーフラッシュ法などにより測定できる。
【0040】
異方性充填材は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。例えば、異方性充填材として、少なくとも2つの互いに異なる平均粒径または平均繊維長を有する異方性充填材を使用してもよい。大きさの異なる異方性充填材を使用すると、相対的に大きな異方性充填材の間に小さな異方性充填材が入り込むことにより、異方性充填材をバインダー成分中に高密度に充填できるとともに、熱の伝導効率を高められると考えられる。
【0041】
異方性充填材として用いる炭素繊維は、黒鉛化炭素繊維が好ましい。また、鱗片状炭素粉末としては、鱗片状黒鉛粉末が好ましい。異方性充填材としては、黒鉛化炭素繊維と鱗片状黒鉛粉末を併用することも好ましい。
黒鉛化炭素繊維は、グラファイトの結晶面が繊維軸方向に連なっており、その繊維軸方向に高い熱伝導率を備える。そのため、その繊維軸方向を所定の方向に揃えることで、特定方向の熱伝導率を高めることができる。また、鱗片状黒鉛粉末は、グラファイトの結晶面が鱗片面の面内方向に連なっており、その面内方向に高い熱伝導率を備える。そのため、その鱗片面を所定の方向に揃えることで、特定方向の熱伝導率を高めることができる。黒鉛化炭素繊維および鱗片状黒鉛粉末は、高い黒鉛化度をもつものが好ましい。
また、鱗片状黒鉛粉末を添加すると、研磨工程において表面近傍にある鱗片状黒鉛粉末の鱗片面が研磨面に沿うように研磨される。その結果、熱抵抗が低くなるとともに反射率を高くすることができる。
【0042】
上記した黒鉛化炭素繊維、鱗片状黒鉛粉末などの黒鉛材料としては、以下の原料を黒鉛化したものを用いることができる。例えば、ナフタレン等の縮合多環炭化水素化合物、PAN(ポリアクリロニトリル)、ピッチ等の縮合複素環化合物等が挙げられるが、特に黒鉛化度の高い黒鉛化メソフェーズピッチやポリイミド、ポリベンザゾールを用いることが好ましい。例えばメソフェーズピッチを用いることにより、後述する紡糸工程において、ピッチがその異方性により繊維軸方向に配向され、その繊維軸方向へ優れた熱伝導性を有する黒鉛化炭素繊維を得ることができる。
黒鉛化炭素繊維におけるメソフェーズピッチの使用態様は、紡糸可能ならば特に限定されず、メソフェーズピッチを単独で用いてもよいし、他の原料と組み合わせて用いてもよい。ただし、メソフェーズピッチを単独で用いること、すなわち、メソフェーズピッチ含有量100%の黒鉛化炭素繊維が、高熱伝導化、紡糸性及び品質の安定性の面から最も好ましい。
【0043】
黒鉛化炭素繊維は、紡糸、不融化及び炭化の各処理を順次行い、所定の粒径に粉砕又は切断した後に黒鉛化したものや、炭化後に粉砕又は切断した後に黒鉛化したものを用いることができる。黒鉛化前に粉砕又は切断する場合には、粉砕で新たに表面に露出した表面において黒鉛化処理時に縮重合反応、環化反応が進みやすくなるため、黒鉛化度を高めて、より一層熱伝導性を向上させた黒鉛化炭素繊維を得ることができる。一方、紡糸した炭素繊維を黒鉛化した後に粉砕する場合は、黒鉛化後の炭素繊維が剛いため粉砕し易く、短時間の粉砕で比較的繊維長分布の狭い炭素繊維粉末を得ることができる。
【0044】
黒鉛化炭素繊維の平均繊維長は、上記したとおり、好ましくは10~500μm、より好ましくは20~350μm、さらに好ましくは50~300μmである。また、黒鉛化炭素繊維のアスペクト比は上記したとおり2を超えており、好ましくは5以上である。黒鉛化炭素繊維の熱伝導率は、特に限定されないが、繊維軸方向における熱伝導率が、好ましくは400W/m・K以上、より好ましくは800W/m・K以上である。
【0045】
熱伝導性シートは、異方性充填材を含有する場合、異方性充填材はシート表面において露出していてもよいし、露出していなくてもよいが、露出することが好ましい。熱伝導性シートのシート表面は、異方性充填材が露出することで、非粘着面とすることができる。熱伝導性シートは、シートの主面となるものであり、シートの両表面のうち、いずれか一方のみに異方性充填材が露出していてもよいし、両方に異方性充填材が露出していてもよい。熱伝導性シートは、シート表面が非粘着であることで、電子機器などに組み付けるときに摺動などさせることが可能になり、組み付け性が向上する。
【0046】
(非異方性充填材)
非異方性充填材は、単独で、あるいは、異方性充填材とともに熱伝導性シートに熱伝導性を付与する材料である。非異方性充填材は、特に、一方向に配向した異方性充填材と併用することで、配向した異方性充填材の間の隙間に介在し、熱伝導性をより一層高くできる。非異方性充填材は、形状に異方性を実質的に有しない充填材であり、後述する磁力線発生下又は剪断力作用下など、異方性充填材が所定の方向に配向する環境下においても、その所定の方向に配向しない充填材である。
【0047】
非異方性充填材は、そのアスペクト比が2以下であり、1.5以下であることが好ましい。このようにアスペクト比が低い非異方性充填材は、異方性充填材と併用する場合、異方性充填材の隙間に配置されやすくなり、熱伝導率を向上させやすくなる。また、アスペクト比を2以下とすることで、後述する混合組成物の粘度が上昇するのを防止して、高充填にすることが可能になる。
【0048】
非異方性充填材の具体例は、例えば、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属水酸化物、炭素材料、金属以外の酸化物、窒化物、炭化物などが挙げられる。また、非異方性充填材の形状は、球状、不定形の粉末などが挙げられる。
非異方性充填材において、金属としては、アルミニウム、銅、ニッケルなど、金属酸化物としては、アルミナに代表される酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛など、金属窒化物としては窒化アルミニウムなどを例示することができる。金属水酸化物としては、水酸化アルミニウムが挙げられる。さらに、炭素材料としては球状黒鉛などが挙げられる。金属以外の酸化物、窒化物、炭化物としては、石英、窒化ホウ素、炭化ケイ素などが挙げられる。
これらの中でも、酸化アルミニウムやアルミニウムは、熱伝導率が高く、球状のものが入手しやすい点で好ましく、アルミニウムがより好ましい。
非異方性充填材は、上記したものを1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0049】
非異方性充填材の平均粒径は、例えば0.1~200μmである。例えば異方性充填材と併用する場合には、非異方性充填材の平均粒径は0.1~50μmであることが好ましく、0.5~35μmであることがより好ましく、1~15μmであることがさらに好ましい。平均粒径を50μm以下とすることで、異方性充填材と併用しても、異方性充填材の配向を乱すなどの不具合が生じにくくなる。また、平均粒径を0.1μm以上とすることで、非異方性充填材の比表面積が必要以上に大きくならず、多量に配合しても混合組成物の粘度は上昇しにくく、非異方性充填材を高充填しやすくなる。
非異方性充填材は、例えば、非異方性充填材として、少なくとも2つの互いに異なる平均粒径を有する非異方性充填材を使用してもよい。
【0050】
また、熱伝導性充填材として非異方性充填材を単独で用いる場合には、前記平均粒径は0.1~200μmであることが好ましく、0.5~100μmであることがより好ましく、1~70μmであることがさらに好ましい。また、この場合、熱伝導性シートの熱伝導性を高める観点から、平均粒径の異なる2種以上の非異方性充填材を併用することが好ましく、平均粒径0.1μm以上5μm以下の小粒径熱伝導性充填剤と、平均粒径5μm超200μm以下の大粒径熱伝導性充填剤を併用することが好ましい。小粒径熱伝導性充填剤と大粒径熱伝導性充填剤を併用する場合は、これらの質量比(大粒径熱伝導性充填剤/小粒径熱伝導性充填剤)は、好ましくは0.1~10であり、より好ましくは0.3~7であり、さらに好ましくは1~5である。
なお、非異方性充填材の平均粒径は、電子顕微鏡等で観察して測定できる。より具体的には、例えば電子顕微鏡や光学顕微鏡を用いて、任意の非異方性充填材50個の粒径を測定して、その平均値(相加平均値)を平均粒径とすることができる。
【0051】
非異方性充填材の含有量は、バインダー100質量部に対して、50~2500質量部であることが好ましく、100~1500質量部であることがより好ましく、200~750質量部であることがさらに好ましい。50質量部以上とすることで、熱伝導性シートの熱伝導性を良好にできる。一方で、1500質量部以下とすることで、非異方性充填材がバインダー成分中に適切に分散して、含有量に応じた熱伝導性を高める効果を得ることができる。また、混合組成物の粘度が必要以上に上昇することも防止できる。
【0052】
(添加剤)
本発明の熱伝導性シートには、さらに熱伝導性シートとしての機能を損なわない範囲で種々の添加剤を配合させてもよい。添加剤としては、例えば、分散剤、カップリング剤、粘着剤、難燃剤、酸化防止剤、着色剤、沈降防止剤などから選択される少なくとも1種以上が挙げられる。また、後述するように硬化性シリコーン組成物などの高分子組成物を硬化させる場合には、添加剤として硬化を促進させる硬化触媒などが配合されてもよい。硬化触媒としては、硬化性シリコーン組成物の場合には、白金系触媒が挙げられる。
また、後述するように混合組成物には、相溶性物質が配合されることがある。相溶性物質は、熱伝導性シートを製造する過程で揮発し熱伝導性シートには残存しなくてもよいが、配合された相溶性物質の少なくとも一部が残存してもよい。
【0053】
[熱伝導性シートの物性その他の特徴]
熱伝導性シートは、反射率が0.30%以上となる表面がスライス面であることが好ましい。すなわち、本発明では、熱伝導性シートの放熱体又は発熱体と接触する表面がスライス面となることが好ましい。このような表面がスライス面であることで、反射率を効果的に高くすることができる。熱伝導性シートは、一方の面がスライス面であってもよいし、両面がスライス面であってもよい。
なお、スライス面とは、後述する通り、せん断刃やレーザーなどにより切断して形成された面である。スライス面は、切断された後、さらに研磨などの表面処理がなされてもよい。
【0054】
(密着力)
本発明の熱伝導性シートは、密着力が0.1MPa以上であることが好ましく、0.45MPa以上であることがより好ましく、1.0MPa以上であることがさらに好ましい。密着力が上記下限値以上であることで、熱伝導性シートの、発熱体又は放熱体に対する密着性が十分なものとなり、発熱体又は放熱体との隙間が生じにくくなるため、優れた熱伝導性を得ることができる。また、密着力の上限は、特に限定されないが、発熱体と放熱体との間に熱伝導性シートを一度配置した後に熱伝導性シートの位置を修正しやすくする観点から、8MPa以下であることが好ましく、5MPa以下であることがより好ましく、3MPa以下であることがさらに好ましい。
なお、密着力は、実施例に記載の測定方法により得ることができる。
【0055】
(熱抵抗値)
本発明の熱伝導性シートは、熱抵抗値が0.18℃/W以下であることが好ましく、0.14℃/W以下であることがより好ましく、0.106℃/W以下であることがさらに好ましい。熱抵抗値が上記上限値以下であると、熱伝導性シートを介した発熱体から放熱体への熱移動の効率が向上し、優れた熱伝導性を得ることができる。本発明では、熱抵抗値は低ければ低い程よく、0℃/W以上であればよいが、実用的には、例えば0.01℃/W以上、好ましくは0.05℃/W以上である。
なお、熱抵抗値は、実施例に記載の測定方法により得ることができる。
【0056】
(E硬度)
本発明の熱伝導性シートは、JIS K6253で規定するタイプE硬度(以下、「E硬度」ともいう)が10~80であることが好ましく、20~70であることがより好ましく、30~65であることがさらに好ましい。E硬度が上記下限値以上であると、後述する工程(B)において、熱伝導性シートの研磨がしやすくなり、熱伝導性シートの表面の反射率が0.30%以上にしやすくなる。また、E硬度が上記上限値以下であると、熱伝導性シートに一定の柔軟性が付与され、熱伝導性シートの密着力を高くしやすくなる。
【0057】
(厚さ)
本発明の熱伝導性シートは、特に限定されず、熱伝導性シートが搭載される電子機器の形状や用途に応じて、適宜設定されるとよいが、好ましくは0.05~5mm、より好ましくは0.1~3mm、さらに好ましくは0.15~2mmである。
【0058】
[熱伝導性シートの製造方法]
本発明の熱伝導性シートは、例えば、以下の工程(A)、及び(B)を備える方法により製造できる。
工程(A):バインダーと、バインダーに分散される熱伝導性充填材とを含む成形体を得る工程
工程(B):成形体の表面を研磨する工程
以下、各工程について、より詳細に説明する。
【0059】
<工程(A)>
工程(A)では、熱伝導性シートにおいて厚さ方向となる一方向に沿って、異方性充填材が配向された配向成形体を得て、その配向成形体を切断してシート状にして、シート状成形体を得ることが好ましい。そして、シート状成形体を工程(B)にて研磨することが好ましい。
また、成形体は、高分子組成物と、相変化材料と、熱伝導性充填材とを少なくとも混合させて混合組成物を得て、混合組成物を硬化することにより得るとよいが、混合組成物にはさらに相溶性物質を混合させることが好ましい。
以下、工程(A)の好ましい態様について詳細に説明する。
【0060】
上記のとおり、成形体を得るための混合組成物は、好ましくは、高分子組成物と、相変化材料と、熱伝導性充填材と相溶性物質を混合させて得る。相溶性物質は、相変化材料に溶解し、かつ硬化性シリコーン組成物などの高分子組成物に対して相溶する物質である。相変化材料は、硬化性シリコーン組成物などの高分子組成物に対する相溶性が低いことがあるが、相溶性物質を使用することで、高分子組成物中に均一に混合できる。そのため、相溶性物質は、高分子組成物を硬化して得られるシリコーンマトリクスなどのバインダーにおいても均一に混ざっている。
【0061】
上記各成分の混合方法は、上記各成分を混合して、混合組成物を得ることができる限り、その混合方法や混合順は特に限定されず、高分子組成物、相変化材料、熱伝導性充填材、相溶性物質、及び必要に応じて任意で添加されるその他の成分を任意の順番で適宜混合して、混合組成物を得るとよい。
ただし、相変化材料は、相溶性物質に溶解させたうえで、高分子組成物(より詳細には、高分子組成物を構成する主剤、硬化剤など)や、その他の成分と混合させることが好ましい。
この場合、相変化材料と相溶性物質の混合物、高分子組成物(あるいは、主剤及び硬化剤)、熱伝導性充填材、及び必要に応じて任意で添加されるその他の成分を任意の順番で混合して、混合組成物を得るとよい。
このように、工程(A)において相変化材料を相溶性物質に溶解させておくと、相変化材料は、バインダーにおいてより一層均一に混合できる。
なお、相変化材料を相溶性物質に溶解させる場合、適宜加熱してもよい。このとき加熱温度は、相変化材料の融点より高い温度まで加熱することが好ましく、例えば40℃以上に加熱して溶解してもよい。また、加熱温度の上限は、主剤と硬化剤とに混合する場合、混合の過程で高分子組成物が実質的に硬化しない温度とすることができる。
【0062】
(相溶性物質)
相溶性物質は、相変化材料に溶解し、かつ硬化性シリコーン組成物などの高分子組成物に対して相溶する物質であるとよい。相溶性物質は、硬化時などの加熱により揮発する成分であるとよい。
相溶性物質としては、アルコキシシラン化合物を使用することが好ましい。アルコキシシラン化合物を使用することで、硬化により得られた熱伝導性シートの表面に気泡などが見られず外観が良好となる。
相溶性物質として使用されるアルコキシシラン化合物は、ケイ素原子(Si)が持つ4個の結合のうち、1~3個がアルコキシ基と結合し、残余の結合が有機置換基と結合した構造を有する化合物である。
アルコキシシラン化合物の有するアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロトキシ基、ブトキシ基、ペントキシ基、及びヘキサトキシ基が挙げられる。アルコキシシラン化合物は、高分子組成物中に二量体として含有されていてもよい。
【0063】
アルコキシシラン化合物の中でも、入手容易性の観点から、メトキシ基及びエトキシ基の少なくともいずれかを有するアルコキシシラン化合物が好ましい。アルコキシシラン化合物の有するアルコキシ基の数は、高分子組成物との相溶性、溶解性などの観点から、2又は3であることが好ましく、3であることがより好ましい。アルコキシシラン化合物は、具体的にはトリメトキシシラン化合物、トリエトキシシラン化合物、ジメトキシシラン化合物、ジエトキシシラン化合物から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0064】
アルコキシシラン化合物が有する有機置換基に含まれる官能基としては、例えば、アクリロイル基、アルキル基、カルボキシル基、ビニル基、メタクリル基、芳香族基、アミノ基、イソシアネート基、イソシアヌレート基、エポキシ基、ヒドロキシル基、及びメルカプト基が挙げられる。ここで、高分子組成物の硬化触媒として白金触媒を用いる場合、オルガノポリシロキサンの硬化反応に影響を与え難いアルコキシシラン化合物を選択して用いることが好ましい。具体的には、白金触媒を利用した付加反応型のオルガノポリシロキサンを用いる場合、アルコキシシラン化合物の有機置換基は、アミノ基、イソシアネート基、イソシアヌレート基、ヒドロキシル基、又はメルカプト基を含まないことが好ましい。
【0065】
アルコキシシラン化合物は、ケイ素原子に結合したアルキル基を有するアルキルアルコキシシラン化合物、すなわち、有機置換基としてアルキル基を有するアルコキシシラン化合物を含むことが好ましい。したがって、ジアルキルジアルコキシシラン化合物、アルキルトリアルコキシシラン化合物が好ましく、中でもアルキルトリアルコキシシラン化合物が好ましい。
ケイ素原子に結合したアルキル基の炭素数は、例えば1~16であるとよい。また、トリメトキシシラン化合物、トリエトキシシラン化合物などのトリアルコキシシラン化合物においては、上記アルキル基の炭素数が6以上であることが好ましく、8以上であることがさらに好ましく、また、炭素数が12以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。
一方で、ジメトキシシラン化合物、トリエトキシシラン化合物などのジアルコキシシラン化合物においては、上記アルキル基の炭素数は1以上であればよく、また、炭素数10以下が好ましく、6以下がより好ましく、4以下がさらに好ましい。
【0066】
アルキル基含有アルコキシシラン化合物としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、ジ-n-プロピルジメトキシシラン、ジ-n-プロピルジエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリエトキシシラン、メチルシクロヘキシルジメトキシシラン、メチルシクロヘキシルジエトキシシラン、n-オクチルトリメトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、n-デシルトリメトキシシラン、n-デシルトリエトキシシランなどが挙げられる。
アルキル基含有アルコキシシラン化合物の中でも、n-デシルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシランがさらに好ましく、n-デシルトリメトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシランがよりさらに好ましい。
【0067】
相溶性物質として使用されるアルコキシシロキサン化合物は、二つ以上のシロキサン結合を有し、少なくとも一つのケイ素原子にアルコキシ基が結合した構造を有する。アルコキシシロキサン化合物は、シロキサン結合を構成するケイ素原子のうち、少なくとも一つのケイ素原子に有機置換基が結合した構造を有する。
アルコキシシロキサン化合物の有するアルコキシ基及び有機置換基としては、上記アルコキシシラン化合物の説明で例示したものを挙げることができ、少なくともアルキル基を有することが好ましい。
【0068】
アルコキシシロキサン化合物としては、例えば、メチルメトキシシロキサンオリゴマー、メチルフェニルメトキシシロキサンオリゴマー、メチルエポキシメトキシシロキサンオリゴマー、メチルメルカプトメトキシシロキサンオリゴマー、及びメチルアクリロイルメトキシシロキサンオリゴマーなどが挙げられる。
アルコキシシロキサン化合物は、一種類又は二種類以上を使用することができる。
【0069】
相溶性物質として使用される炭化水素系溶媒としては、芳香族炭化水素系溶媒が挙げられる。中でも高分子組成物との相溶性の観点から芳香族炭化水素系溶媒が好ましい。芳香族炭化水素系溶媒としては、炭素数6~10程度の芳香族炭化水素系溶媒が挙げられ、例えば、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、ブチルベンゼン、t-ブチルベンゼンなどが挙げられ、好ましくはトルエン、キシレンなどである。
【0070】
相溶性物質の含有量は、高分子組成物(シリコーンを使用する場合には、硬化性シリコーン組成物)100質量部に対し、10~50質量部であることが好ましく、15~40質量部であることがより好ましく、20~35質量部であることがさらに好ましい。相溶性物質の含有量が上記下限値以上であると、熱伝導性充填材を高分子組成物中に分散させやすくなる。また、相溶性物質の含有量が上記上限値以下であると、相溶性物質の使用量に見合った効果を得ることができる。
【0071】
工程(A)では、上記の通り、混合組成物から配向成形体を成形することが好ましい。混合組成物は、好ましくは硬化して配向成形体とする。配向成形体は、より具体的には磁場配向製法、流動配向製法により得ることができるが、これらの中では、磁場配向製法が好ましい。
【0072】
(磁場配向製法)
磁場配向製法では、硬化後にシリコーンマトリクスとなる液状の硬化性シリコーン組成物などの高分子組成物と、少なくとも異方性充填材を含む熱伝導性充填材とを含む混合組成物を金型などの内部に注入したうえで磁場に置き、異方性充填材を磁場に沿って配向させた後、高分子組成物を硬化させることで配向成形体を得る。配向成形体としてはブロック状のものとすることが好ましい。
また、金型内部において、混合組成物に接触する部分には、剥離フィルムを配置してもよい。剥離フィルムは、例えば、剥離性の良い樹脂フィルムや、片面が剥離剤などで剥離処理された樹脂フィルムが使用される。剥離フィルムを使用することで、配向成形体が金型から離型しやすくなる。
【0073】
磁場配向製法において使用する混合組成物の粘度は、磁場配向させるために、10~300Pa・sであることが好ましい。10Pa・s以上とすることで、異方性充填材や非異方性充填材が沈降しにくくなる。また、300Pa・s以下とすることで流動性が良好になり、磁場で異方性充填材が適切に配向され、配向に時間がかかりすぎたりする不具合も生じない。なお、粘度とは、回転粘度計(ブルックフィールド粘度計DV-E、スピンドルSC4-14)を用いて25℃において、回転速度10rpmで測定された粘度である。
ただし、沈降し難い異方性充填材や非異方性充填材を用いたり、沈降防止剤等の添加剤を組合せたりする場合には、混合組成物の粘度は、10Pa・s未満としてもよい。
【0074】
磁場配向製法において、磁力線を印加するための磁力線発生源としては、超電導磁石、永久磁石、電磁石等が挙げられるが、高い磁束密度の磁場を発生することができる点で超電導磁石が好ましい。これらの磁力線発生源から発生する磁場の磁束密度は、好ましくは1~30テスラである。磁束密度を1テスラ以上とすると、炭素材料などからなる上記した異方性充填材を容易に配向させることが可能になる。また、30テスラ以下にすることで、実用的に製造することが可能になる。
硬化性シリコーン組成物などの高分子組成物の硬化は、加熱により行うとよいが、例えば、50~150℃程度の温度で行うとよい。また、加熱時間は、例えば10分~3時間程度である。
【0075】
(流動配向製法)
流動配向製法では、混合組成物に剪断力をかけて、面方向に異方性充填材が配向された予備的シートを製造し、これを複数枚積層して積層ブロックを製造して、その積層ブロックを配向成形体とするとよい。
より具体的には、流動配向製法では、まず、上記で説明したとおりに、少なくとも高分子組成物と、異方性充填材を少なくとも含む熱伝導性充填材とを含有する混合組成物を調製する。ここで、高分子組成物に使用する高分子化合物は、常温(23℃)で液状の高分子化合物を含むものであってもよいし、常温で固体状の高分子化合物を含むものであってもよい。
混合組成物は、シート状に伸長させるときに剪断力がかかるように比較的高粘度であり、混合組成物の粘度は、具体的には3~50Pa・sであることが好ましい。混合組成物は、上記粘度を得るために、溶剤が配合されることが好ましい。
【0076】
次に、混合組成物に対して剪断力を付与しながら平たく伸長させてシート状(予備的シート)に成形する。剪断力をかけることで、異方性充填材を剪断方向に配向させることができる。シートの成形手段として、例えば、バーコータやドクターブレード等の塗布用アプリケータ、もしくは、押出成形やノズルからの吐出等により、基材フィルム上に混合組成物を塗工し、その後、必要に応じて乾燥したり、混合組成物を半硬化させたりするとよい。予備的シートの厚さは、50~250μm程度とすることが好ましい。予備的シートにおいて、異方性充填材はシートの面方向に沿う一方向に配向している。
次いで、予備的シートを、配向方向が同じになるように複数枚重ねて積層した後、加熱、紫外線照射などにより混合組成物を必要に応じて硬化させつつ、熱プレス等により予備的シートを互いに接着させることで積層ブロックを形成し、その積層ブロックを配向成形体とするとよい。
【0077】
次に、上記で得られた配向成形体を、異方性充填材が配向する方向に対して垂直に、スライスなどにより切断して、シート状成形体を得る。スライスは、例えばせん断刃やレーザーなどで行うとよい。
【0078】
<工程(B)>
工程(B)では、工程(A)で得られたシート状成形体などの成形体を研磨する。成形体は、通常、上記の通りシート状成形体であり、シート状成形体は、一方又は両方の面が研磨されるとよい。
表面の研磨は、例えば、研磨紙や研磨フィルム、研磨布、研磨ベルト等を使用して行うとよい。本製造方法では、シート状成形体の表面を研磨することより、放熱体又は発熱体と接触する表面の反射率を0.30%以上とすることができる。
研磨紙の性状としては、含有する砥粒の平均粒径(D50)が0.1~100μmのものが好ましく、9~60μmのものがより好ましい。平均粒径0.1μm以上の研磨紙を使用することで、シート表面の反射率を0.30%以上することが可能になる。また、平均粒径100μm以下の研磨紙を使用することで、熱伝導性シートの表面に実用的に問題となる傷が付いたりすることを防止する。また、上記と同様な理由で、例えば研磨紙の砥粒の粒度としては、♯120~20000であることが好ましく、♯300~15000であることが好ましく、♯320~6000であることがより好ましい。
研磨方法は、熱伝導性シートの表面に対して、例えば研磨紙を同一直線方向に連続して当接し研磨するほか、一定距離を往復して研磨したり、同一方向に回転して研磨をしたり、様々な方向に当接して研磨したり、といった方法を用いることができる。
また、研磨の程度は、例えば、表面状態を観察しながら行えばよいが、例えば往復研磨の場合は、10~500回の往復が好ましく、30~300回がより好ましく、55~150回がさらに好ましく、具体的には、熱伝導性シートの表面の反射率が0.30%以上になる程度に研磨することが好ましい。
【0079】
熱伝導性シートの表面の研磨は、2回の研磨工程に分けて行うことが好ましい。この場合、1回目の研磨工程で使用する研磨紙の平均粒径は、2回目の研磨工程で使用する研磨紙の平均粒径よりも3~40μm大きいことが好ましく、5~30μm大きいことがより好ましく、10~25μm大きいことがさらに好ましい。
また、1回目の研磨工程と、2回目の研磨工程とで、研磨紙の粒度が異なることが好ましい。研磨紙の粒度は、1回目の研磨工程における研磨紙の粒度が、2回目の研磨工程における研磨紙の粒度よりも大きいことがより好ましい。1回目の研磨工程における研磨紙の粒度は、2回目の研磨工程における研磨紙の粒度より♯500~8000大きいことが好ましく、♯800~5000大きいことがより好ましく、♯1000~3500大きいことがさらに好ましい。
さらに、1回目の研磨工程における研磨回数は、2回目の研磨工程における研磨回数よりも3~120回多いことが好ましく、5~100回多いことがより好ましく、8~80回多いことがさらに好ましい。
以上のように、2回の研磨工程に分けると、1回目の工程で粗めの研磨を行い、2回目の工程で繊細な研磨を行うこととなり、表面の反射率を0.30%以上にしやすくなる。
【0080】
[熱伝導性シートの使用方法]
本発明の熱伝導性シートは、電子機器内部などにおいて使用される。具体的には、熱伝導性シートは、発熱体と放熱体の間に介在させられ、発熱体からと放熱体に熱を伝導させるために使用される。具体的には、熱伝導性シートは、発熱体と放熱体との間に介在させられ、発熱体で発した熱を熱伝導して放熱体に移動させ、放熱体から放熱させる。ここで、発熱体としては、電子機器内部で使用されるCPU、パワー半導体、電源などの各種の電子部品が挙げられる。また、放熱体は、ヒートシンク、ヒートポンプ、電子機器の金属筐体などが挙げられる。熱伝導性シートは、両表面それぞれが、発熱体及び放熱体それぞれに密着し、かつ圧縮して使用されるとよい。
【実施例0081】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0082】
[物性]
熱伝導性の各物性は、以下の方法により測定した。
<反射率>
以下の測定機器を用い、以下の測定条件に準拠して、反射率を測定した。
・測定機器:島津製作所社製「UV-1900i」
・測定条件:高原550nm、入射角5度、標準鏡(銀めっき同板)の反射率を100%としたときの、各実施例及び比較例で作製した試験片の正反射を測定した。
【0083】
<E硬度>
各実施例及び比較例で得られた熱伝導性シートを、試験片を厚さ10mmになるまで重ねて測定サンプルとした。測定サンプルのE硬度を日本工業規格であるJIS K 6253に基づき、タイプEデュロメータを用いて測定した。
【0084】
<熱抵抗値>
熱抵抗値は、
図1に示すような熱抵抗測定機を用い、以下に示す方法で測定した。
具体的には、各試料について、本試験用に大きさが30mm×30mmで、厚さが1mmの試験片Sを作製した。そして各試験片Sを、測定面が25.4mm×25.4mmで側面が断熱材21で覆われた銅製ブロック22の上に貼付し、上方の銅製ブロック23で挟み、ロードセル26によって荷重をかけて、厚さが元の厚さの90%となるように設定した。ここで、下方の銅製ブロック22はヒーター24と接している。また、上方の銅製ブロック23は、断熱材21によって覆われ、かつファン付きのヒートシンク25に接続されている。次いで、ヒーター24を発熱量25Wで発熱させ、温度が略定常状態となる10分後に、上方の銅製ブロック23の温度(θ
j0)、下方の銅製ブロック22の温度(θ
j1)、及びヒーターの発熱量(Q)を測定し、以下の式(1)から各試料の熱抵抗値を求めた。
熱抵抗=(θ
j1-θ
j0)/Q ・・・ 式(1)
式(1)において、θ
j1は下方の銅製ブロック22の温度、θ
j0は上方の銅製ブロック23の温度、Qは発熱量である。
【0085】
<密着力>
密着力(引張せん断強さ)は、JIS K6850:1999の引張せん断試験に準拠して測定した。
各実施例及び比較例の方法で作製した熱伝導性シート(縦20mm、横20mm、厚さ0.2mm)を、2枚のアルミニウムシート(縦30mm、横100mm、厚み0.012mm)の間に挟み込みんだ。このとき、アルミニウムシートの先端同士が25mm×25mmの長さで重なる状態で配置した。そして、温度80℃、圧力20psiの条件で3分間圧着させて、試験サンプルを作製した。該試験サンプルを25℃まで自然冷却し、引張試験機(東洋精機製作所製)を用いて、室温25℃、引張速度500mm/minの条件で引張試験を行い、密着力(引張せん断強さ)を測定した。
【0086】
<表面粗さ(算術平均高さSa)>
実施例1、5、9、比較例7において、以下の方法で表面粗さ(算術平均高さSa)を測定して、表面粗さの影響を評価した。
各実施例及び比較例の熱伝導性シートについて、レーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製、VK-X150)を用いた表面性状解析により、ISO25178に準拠して行った。具体的には、レンズ倍率10倍で、表面積1000μm×1000μmの二次元領域の表面プロファイルを、レーザー法により測定した。同一サンプルに対して3か所測定したときの平均値を算術平均高さ(Sa)とした。
【0087】
[実施例1]
まず、以下(1)~(5)の材料を、表1に記載の配合で混合して混合組成物を得た。なお、混合組成物を得る際には、成分(3)を成分(2)に溶解させたうえで、他の成分に混合させた。
(1)硬化性シリコーン組成物:アルケニル基含有オルガノポリシロキサンとハイドロジェンオルガノポリシロキサン(合計で100質量部)
(2)相溶性物質:n-デシルトリメトキシシラン32質量部
(3)相変化材料1:ポリオクタデシルメチルシロキサン(融点50℃)18質量部
(4)異方性充填材:炭素繊維1(平均繊維長100μm、アスペクト比10、繊維軸方向に熱伝導率500W/m・Kの黒鉛化炭素繊維)187質量部、炭素繊維2(平均繊維長150μm、アスペクト比15、繊維軸方向に熱伝導率500W/m・Kの黒鉛化炭素繊維)12質量部、鱗片状黒鉛粉末(平均粒径130μm、アスペクト比10、熱伝導率550W/m・K)23質量部
(5)非異方性充填材:アルミナ(球状、平均粒径3μm、アスペクト比1.0)が35質量部、アルミニウム粉末(不定形、平均粒径3μm)285質量部
続いて、熱伝導性シートよりも充分に大きな厚さに設定された金型に上記混合組成物を注入し、8Tの磁場を厚さ方向に印加して炭素繊維を厚さ方向に配向した後に、80℃で60分間加熱することでマトリクスを硬化して、ブロック状の配向成形体を得た。
次に、せん断刃を用いて、ブロック状の配向成形体を厚さ1mm及び0.2mmのシート状にスライスし、シート状成形体を得た。
続いて、シート状成形体の両表面を、砥粒の平均粒径(D50)が20μmである粗目の研磨紙A(粒度#800)により25回往復研磨し、その後さらに、砥粒の平均粒径(D50)が3μmである粗目の研磨紙B(粒度#4000)により10回往復研磨して、さらに150℃で2時間加熱することで熱伝導性シートを得た。
【0088】
[実施例2~5]
混合組成物の配合を表1の通りに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で熱伝導性シートを得た。
なお、相変化材料2は、以下の通りである。
相変化材料2:側鎖結晶性ポリアルファオレフィン(CPAO、融点42℃)
【0089】
【0090】
[実施例6~17]
混合組成物の配合、及び往復研磨の回数を表2及び3の通りに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で熱伝導性シートを得た。
【0091】
【0092】
【0093】
[比較例1~7]
混合組成物の配合、及び往復研磨の回数を表4の通りに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で熱伝導性シートを得た。
【0094】
【0095】
以上の実施例から明らかなように、本発明の要件を満たす熱伝導性シートは、発熱体及び放熱体との密着力が高く、熱抵抗値が低かったため、熱伝導性が良好であることが分かった。また、特に相変化材料を含むものを研磨した表面は密着力の向上が際立っていた。
これに対し、比較例で作製した熱伝導性シートは、上記密着力が無く、熱抵抗値が高いものであり、良好な熱伝導性を得ることができなかった。
【0096】
なお、表面粗さ(算術平均高さSa)についての測定及び考察の結果は以下の通りである。
実施例1では6.9μm、実施例5は5.5μm、実施例9は5.6μm、比較例7は10.1μmであった。
ここで、実施例1と比較例7とを対比すると、Saが小さくなり、熱抵抗値も小さくなっていることがわかるが、実施例1と実施例5、9とを対比すると、Saが小さくなっても必ずしも熱抵抗値が小さくなるわけではないことがわかった。また、実施例5と実施例9との対比ではSaは同程度であるにも関わらず、熱抵抗値は実施例5で0.125℃/W、実施例9が0.100℃/Wと、0.025℃/Wの差があった。
一方、実施例1、5、9、比較例7で作製した熱伝導性シートについては、反射率と熱抵抗値の間に相関が見られる。
以上のことから、熱抵抗値が極めて小さい領域においては、必ずしも表面粗さを低くすれば熱抵抗値が下がるというわけではないことがわかった。