IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日東電工株式会社の特許一覧

特開2024-52711偏光子の製造方法および偏光板の製造方法
<>
  • 特開-偏光子の製造方法および偏光板の製造方法 図1
  • 特開-偏光子の製造方法および偏光板の製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052711
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】偏光子の製造方法および偏光板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20240404BHJP
【FI】
G02B5/30
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024028589
(22)【出願日】2024-02-28
(62)【分割の表示】P 2021195644の分割
【原出願日】2021-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 健剛
(72)【発明者】
【氏名】嶋津 亮
(72)【発明者】
【氏名】南川 善則
(57)【要約】
【課題】画像表示装置における表示ムラを抑制できる偏光子および偏光板を製造する方法を提供すること。
【解決手段】本発明の実施形態による偏光子の製造方法は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性物質で染色する染色工程と;染色工程後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸水溶液に接触させる架橋工程と;架橋工程後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを延伸浴中で延伸する延伸工程と;を含む。染色工程後かつ架橋工程前のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの波長580nmにおける直交吸光度A580_bに対する、架橋工程後かつ延伸工程前のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの波長580nmにおける直交吸光度A580_cの比率が、0.91以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性物質で染色する染色工程と、
前記染色工程後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸水溶液に接触させる架橋工程と、
前記架橋工程後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを延伸浴中で延伸する延伸工程と、を含み、
前記染色工程後かつ前記架橋工程前のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの波長580nmにおける直交吸光度A580_bに対する、前記架橋工程後かつ前記延伸工程前のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの波長580nmにおける直交吸光度A580_cの比率が、0.91以上である、偏光子の製造方法。
【請求項2】
単体透過率が42%以上45%以下の偏光子を製造する、請求項1に記載の偏光子の製造方法。
【請求項3】
ポリビニルアルコール系樹脂とハロゲン化物とを含む塗布液を長尺状の熱可塑性樹脂基材上に塗布して、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムとしてのポリビニルアルコール系樹脂層と前記熱可塑性樹脂基材とを備える積層体を作製する積層体作製工程と、
前記積層体を空中延伸する補助延伸工程と、
前記染色工程と、
前記架橋工程と、
前記延伸工程と、
前記延伸工程後のポリビニルアルコール系樹脂層を、長尺方向に搬送しながら前記長尺方向と直交する幅方向に収縮させる乾燥収縮工程と、をこの順に含む、請求項1または2に記載の偏光子の製造方法。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂基材は、ポリエチレンテレフタレートフィルムである、請求項3に記載の偏光子の製造方法。
【請求項5】
厚みが12μm以下である偏光子を製造する、請求項3または4に記載の偏光子の製造方法。
【請求項6】
前記延伸浴が、ホウ酸水溶液である、請求項1~5のいずれか一項に記載の偏光子の製造方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の偏光子の製造方法によって製造される偏光子に、保護フィルムを貼り合わせることを含む、偏光板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光子の製造方法および偏光板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
画像表示装置には、代表的には偏光子が用いられている。そのような偏光子は、例えば、樹脂基材上にポリビニルアルコール系樹脂層を生成した後、樹脂基材とポリビニルアルコール系樹脂層とを備える積層体をホウ酸水溶液に浸漬して、ポリビニルアルコール系樹脂層を不溶化した後、そのポリビニルアルコール系樹脂層を二色性物質で染色し、その後、積層体をホウ酸水溶液中で延伸することにより、樹脂基材上に形成される(例えば、特許文献1)。
近年、偏光子を用いた画像表示装置の高精細化が求められており、画像表示装置の表示ムラのますますの低減が望まれている。しかし、特許文献1に記載の偏光子を備える画像表示装置では、表示ムラの低減に改善の余地が残されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2010/100917号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的とするところは、画像表示装置における表示ムラを抑制できる偏光子および偏光板を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態による偏光子の製造方法においては、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性物質で染色する染色工程と;前記染色工程後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸水溶液に接触させる架橋工程と;前記架橋工程後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを延伸浴中で延伸する延伸工程と;を含む。前記染色工程後かつ前記架橋工程前のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの波長580nmにおける直交吸光度A580_bに対する、前記架橋工程後かつ前記延伸工程前のポリビニルアルコール系樹脂フィルムの波長580nmにおける直交吸光度A580_cの比率が、0.91以上である。
1つの実施形態においては、単体透過率が42%以上45%以下の偏光子を製造する。
1つの実施形態においては、上記偏光子の製造方法は、ポリビニルアルコール系樹脂とハロゲン化物とを含む塗布液を長尺状の熱可塑性樹脂基材上に塗布して、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムとしてのポリビニルアルコール系樹脂層と前記熱可塑性樹脂基材とを備える積層体を作製する積層体作製工程と;前記積層体を空中延伸する補助延伸工程と;前記染色工程と;前記架橋工程と;前記延伸工程と;前記延伸工程後のポリビニルアルコール系樹脂層を、長尺方向に搬送しながら前記長尺方向と直交する幅方向に収縮させる乾燥収縮工程と;をこの順に含む。
1つの実施形態においては、上記熱可塑性樹脂基材は、ポリエチレンテレフタレートフィルムである。
1つの実施形態においては、厚みが12μm以下である偏光子を製造する。
1つの実施形態においては、上記延伸浴が、ホウ酸水溶液である。
本発明の別の局面による偏光板の製造方法は、上記偏光子の製造方法によって製造される偏光子に、保護フィルムを貼り合わせることを含む。
【発明の効果】
【0006】
本発明の実施形態によれば、画像表示装置における表示ムラを抑制できる偏光子および偏光板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、本発明の1つの実施形態による偏光子の製造方法を説明するための概略図である。
図2図2(a)は、図1に示すポリビニルアルコール系樹脂フィルムの1つの実施形態の概略断面図である。図2(b)は、図1に示すポリビニルアルコール系樹脂フィルムの別の実施形態の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の代表的な実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0009】
A.偏光子の製造方法の概要
本発明の1つの実施形態による偏光子の製造方法は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルム(以下、PVA系樹脂フィルムとする。)を二色性物質で染色する染色工程と;染色工程後のPVA系樹脂フィルムをホウ酸水溶液に接触させる架橋工程と;架橋工程後のPVA系樹脂フィルムを延伸浴中で延伸する延伸工程と;を含む。染色工程後かつ架橋工程前のPVA系樹脂フィルムの波長580nmにおける直交吸光度A580_bに対する、架橋工程後かつ延伸工程前のPVA系樹脂フィルムの波長580nmにおける直交吸光度A580_cの比率(A580_c/A580_b)が、0.91以上、好ましくは0.92以上、より好ましくは0.97以上、とりわけ好ましくは0.99以上である。
二色性物質で染色された偏光子を用いる画像表示装置では、偏光子における染色の不均一性が、画像表示装置の表示ムラの原因となり得る。そこで、本発明者らは、偏光子における染色の均一性の向上について鋭意検討したところ、架橋工程前後における直交吸光度の比率を特定範囲に調整すると、偏光子において生じ得るスジ状の染色ムラを抑制でき、偏光子における染色の均一性を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。より詳しくは、上記したA580_c/A580_bが上記下限以上であると、偏光子における染色ムラを顕著に抑制できる。
1つの実施形態において、A580_c/A580_bの上限は、代表的には2.5以下であり、好ましくは1.50以下、より好ましくは1.15以下である。A580_c/A580_bが上記上限以下であると、偏光子における染色ムラをより一層顕著に抑制できる。
また、直交吸光度は、後述する直交透過率Tcに基づいて、下記式により求められる。
直交吸光度=log10(100/Tc)
【0010】
1つの実施形態において、PVA系樹脂フィルムは、染色工程の前にホウ酸水溶液と接触することなく、染色工程において染色浴(染色液)と接触する。PVA系樹脂フィルムをホウ酸水溶液と接触させると、ホウ酸が架橋を形成してPVA系樹脂フィルムに耐水性が付与される。そのため、偏光子の製造方法では、一般に、染色工程の前にPVA系樹脂フィルムをホウ酸水溶液と接触させ、染色液に対するPVA系樹脂フィルムの溶解を抑制する。
しかし、PVA系樹脂フィルムを予めホウ酸水溶液に接触させると、染色工程において、PVA系樹脂フィルムからホウ酸が脱離して染色液に溶出するので、染色工程で形成される二色性物質とPVA系樹脂との錯体の分布に影響する可能性がある。そのため、偏光子における染色の均一性に悪影響を与えると推察される。
一方、PVA系樹脂フィルムを、染色工程の前にホウ酸水溶液と接触させることなく染色液に接触させると、二色性物質とPVA系樹脂との錯体を均一に分布させることができ、偏光子における染色ムラを安定して抑制できる。
【0011】
1つの実施形態において、偏光子の製造方法は、積層体作製工程と;補助延伸工程と;上記した染色工程と;上記した架橋工程と;上記した延伸工程と;乾燥収縮工程と;をこの順に含む。積層体作製工程では、PVA系樹脂とハロゲン化物とを含む塗布液を長尺状の熱可塑性樹脂基材上に塗布して、PVA系樹脂フィルムとしてのPVA系樹脂層と熱可塑性樹脂基材とを備える積層体を作製する。補助延伸工程では、積層体を空中延伸する。乾燥収縮工程では、延伸工程後のPVA系樹脂層を、長尺方向に搬送しながら長尺方向と直交する幅方向に収縮させる。
このような方法によれば、厚みが低減された偏光子であって、優れた光学特性を有する偏光子を提供することができる。すなわち、補助延伸工程を導入することにより、熱可塑性樹脂上にPVA系樹脂を塗布する場合でも、PVA系樹脂の結晶性を高めることが可能となり、高い光学特性を達成することが可能となる。また、同時にPVA系樹脂の配向性を事前に高めることで、後の染色工程で液体に浸漬された時に、PVA系樹脂の配向性の低下や溶解などの問題を防止することができ、高い光学特性を達成することが可能になる。また、架橋工程において、PVA系樹脂層をホウ酸水溶液に接触させるので、PVA系樹脂層に耐水性を付与でき、次の延伸工程で延伸浴にPVA系樹脂層が溶解することを抑制できる。また、PVA系樹脂層を液体に浸漬した場合において、PVA系樹脂層がハロゲン化物を含まない場合に比べて、PVA系樹脂分子の配向の乱れ、および配向性の低下が抑制され得る。これにより、染色工程および延伸工程など、積層体を液体に浸漬して行う処理工程を経て得られる偏光子の光学特性を向上し得る。さらに、乾燥収縮工程によりPVA系樹脂フィルムを幅方向に収縮させることにより、偏光子の光学特性を向上させることができる。
【0012】
上記した偏光子の製造方法は、色相調整工程を含んでいてもよい。
色相調整工程では、代表的には、延伸工程後のPVA系樹脂フィルム(好ましくは、延伸工程後かつ乾燥収縮工程前のPVA系樹脂フィルム)を色相調整浴に浸漬させる。これによって、該PVA系樹脂フィルムを洗浄でき、偏光子が所望の色相を有するように調整できる。
【0013】
B.偏光子の製造方法の詳細
図1は、本発明の1つの実施形態による偏光子の製造方法を説明するための概略図である。図示例の偏光子の製造方法では、上記した染色工程、架橋工程、延伸工程、色相調整工程および乾燥収縮工程が、連続的に実施される。
より具体的には、長尺状のPVA系樹脂フィルム1が、原反ロール21から巻取ロール22に向かって搬送され、原反ロール21と巻取ロール22との間において、染色工程、架橋工程、延伸工程、色相調整工程および乾燥収縮工程が、PVA系樹脂フィルム1に対して順に実施される。1つの実施形態では、PVA系樹脂フィルム1は、複数のローラ24によって、染色浴2B(染色液)、架橋浴2C(架橋液)、延伸浴2D(延伸液)、および、色相調整浴2E(色相調整液)に、この順に浸漬された後、加熱乾燥部23を通過するように搬送される。なお、詳しくは後述するがPVA系樹脂フィルムが積層体に含まれるPVA系樹脂層である場合、PVA系樹脂層を含む積層体を上記の各浴(各液体)に浸漬させることで、PVA系樹脂層を各浴(各液体)と接触させる。
【0014】
B-1.PVA系樹脂フィルム
原反ロール21では、上記した各工程が実施される前のPVA系樹脂フィルム1(以下、原反フィルム11とする。)がロール状に巻回されている。
原反フィルム11におけるPVA系樹脂の結晶化指数は、例えば1.6以上、好ましくは1.8以上である。PVA系樹脂の結晶化指数がこのような下限以上であれば、たとえPVA系樹脂フィルムがホウ酸水溶液と接触することなく染色浴に浸漬されても、PVA系樹脂フィルムが染色液に溶解することを抑制できる。PVA系樹脂の結晶化指数は、代表的には3.0以下である。PVA系樹脂の結晶化指数は、フーリエ変換赤外分光光度計を用い、ATR法により測定することができる。
原反フィルム11は、図2(a)に示すように単層の樹脂フィルムであってもよく、図2(b)に示すように、熱可塑性樹脂基材12(以下、樹脂基材12とする。)に積層されていてもよい。
【0015】
単層の樹脂フィルムの具体例としては、PVA系フィルム、部分ホルマール化PVA系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルム、PVAの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等のポリエン系配向フィルムが挙げられる。
原反フィルム11が単層の樹脂フィルムである場合、その厚みは、例えば20μm以上、好ましくは30μm以上であり、例えば65μm以下、好ましくは60μm以下である。
なお、原反フィルム11が単層の樹脂フィルムあるいは樹脂基材に支持される樹脂フィルムである場合、染色工程の前にホウ酸水溶液と接触させて、PVA系樹脂フィルムに耐水性を付与する不溶化工程を実施することもできる。ホウ酸水溶液におけるホウ酸の含有割合は、水100質量部に対して、例えば1質量部以上10質量部以下である。ホウ酸水溶液の温度は、例えば10℃以上60℃以下である。PVA系樹脂フィルムとホウ酸水溶液との接触時間は、例えば10秒以上200秒以下である。また、不溶化工程において、PVA系樹脂フィルムを延伸することもできる。
原反フィルムが単層の樹脂フィルム/樹脂基材に支持される樹脂フィルムである場合には不溶化処理を実施しても、A580_c/A580_bを上記の範囲に安定して調整することができ、偏光子における染色の均一性を実用レベルに確保し得る。但し、上記のように、染色工程の前にホウ酸水溶液と接触させないことが、偏光子における染色ムラをより低減できるので好ましい。
【0016】
原反フィルム11が熱可塑性樹脂基材12に積層されている場合、原反フィルム11は、樹脂基材12に支持されるPVA系樹脂フィルムであってもよく、樹脂基材12に塗布形成されるPVA系樹脂層13であってもよい。
原反フィルム11が樹脂基材12に塗布形成されるPVA系樹脂層13である場合、PVA系樹脂層13は、樹脂基材12上に形成される。
より具体的には、PVA系樹脂とハロゲン化物とを含む塗布液を、長尺状の樹脂基材12上に、任意の適切な方法で塗布し、必要に応じて、例えば50℃以上で乾燥させることにより、PVA系樹脂層13と樹脂基材12とを備える積層体10を作製する。
【0017】
樹脂基材12の構成材料は、任意の適切な材料を採用し得る。樹脂基材は、代表的には、ポリエチレンテレフタレートフィルムである。その構成材料として、例えば、非晶質の(結晶化していない)ポリエチレンテレフタレート系樹脂が挙げられ、好ましくは、非晶性の(結晶化しにくい)ポリエチレンテレフタレート系樹脂が挙げられる。非晶性のポリエチレンテレフタレート系樹脂の具体例としては、ジカルボン酸としてイソフタル酸をさらに含む共重合体や、グリコールとしてシクロヘキサンジメタノールをさらに含む共重合体が挙げられる。
樹脂基材のガラス転移温度(Tg)は、例えば170℃以下、好ましくは120℃以下である。樹脂基材のTgが上記上限以下であると、PVA系樹脂層の結晶化を抑制できながら、積層体の延伸性を十分に確保することができる。また、樹脂基材のガラス転移温度(Tg)は、代表的には、60℃以上である。これにより、塗布液を樹脂基材に塗布および乾燥するときに、樹脂基材が変形(例えば、凹凸やタルミ、シワの発生)するなどの不具合を抑制できる。なお、ガラス転移温度(Tg)は、JIS K 7121に準じて測定される。
樹脂基材の延伸前の厚みは、例えば20μm以上、好ましくは50μm以上であり、例えば300μm以下、好ましくは200μm以下である。
樹脂基材の表面は、任意の適切な表面処理(例えば、コロナ処理)が施されていてもよく、易接着層が形成されていてもよい。これによって、樹脂基材とPVA系樹脂層との密着性を向上できる。
【0018】
塗布液は、代表的には、PVA系樹脂とハロゲン化物とを溶媒に溶解した溶液である。
PVA系樹脂は、任意の適切な樹脂を採用し得る。例えば、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体が挙げられる。ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルをケン化することにより得られる。エチレン-ビニルアルコール共重合体は、エチレン-酢酸ビニル共重合体をケン化することにより得られる。PVA系樹脂のケン化度は、通常85モル%~100モル%であり、好ましくは95.0モル%~99.95モル%、より好ましくは99.0モル%~99.93モル%、さらに好ましくは99.0モル%~99.5モル%である。ケン化度は、JIS K 6726-1994に準じて測定できる。このようなケン化度のPVA系樹脂を用いることによって、耐久性に優れた薄型偏光膜が得られ得る。ケン化度が高すぎる場合には、ゲル化してしまうおそれがある。
【0019】
PVA系樹脂の平均重合度は、目的に応じて適切に選択し得る。平均重合度は、例えば1000以上、好ましくは1500以上、より好ましくは2000以上、さらに好ましくは3000以上であり、例えば10000以下、好ましくは6000以下、さらに好ましくは4300以下である。なお、平均重合度は、JIS K 6726-1994に準じて測定できる。
【0020】
PVA系樹脂は、1つの実施形態においては、アセトアセチル変性PVAを含んでいてもよい。PVA系樹脂におけるアセトアセチル変性PVAの含有割合は、例えば5質量%以上、好ましくは8質量%以上であり、例えば20質量%以下、好ましくは12質量%以下である。PVA系樹脂がアセトアセチル変性PVAを含んでいれば、偏光子の機械強度の向上を図ることができる。
【0021】
塗布液におけるPVA系樹脂の含有割合は、溶媒100質量部に対して、例えば3質量部~20質量部である。このような樹脂濃度であれば、樹脂基材に密着した均一な塗布膜を形成することができる。
【0022】
ハロゲン化物としては、任意の適切なハロゲン化物が採用され得る。ハロゲン化物として、代表的にはヨウ化物および塩化ナトリウムが挙げられる。ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、および、ヨウ化リチウムが挙げられ、好ましくは、ヨウ化カリウムが挙げられる。
塗布液におけるハロゲン化物の含有割合は、PVA系樹脂100質量部に対して、例えば5質量部以上、好ましくは10質量部以上であり、例えば20質量部以下、好ましくは15質量部以下である。ハロゲン化物の含有割合がこのような範囲であると、最終的に得られる偏光子が白濁することを抑制できる。
【0023】
溶媒としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドN-メチルピロリドン、各種グリコール類、トリメチロールプロパン等の多価アルコール類、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等のアミン類が挙げられる。これらは単独でまたは組み合わせて使用できる。溶媒のなかでは、好ましくは、水が挙げられる。
塗布液には、添加剤を配合してもよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、界面活性剤が挙げられる。可塑剤としては、例えば、エチレングリコールやグリセリン等の多価アルコールが挙げられる。界面活性剤としては、例えば、非イオン界面活性剤が挙げられる。
【0024】
このような塗布液から形成されるPVA系樹脂層の延伸前の厚みは、例えば3μm以上、好ましくは5μm以上であり、例えば40μm以下、好ましくは30μm以下である。
【0025】
また、PVA系樹脂層13と樹脂基材12とを備える積層体10は、好ましくは、予め長尺方向に所定の延伸倍率で空中延伸される。すなわち、補助延伸工程は、積層体作製工程後かつ染色工程前に実施される。
補助延伸工程における延伸温度は、代表的には、PVA系樹脂のガラス転移温度(Tg)以上であり、例えば95℃以上、好ましくは120℃以上である。補助延伸工程における延伸温度は、代表的には150℃以下である。
補助延伸工程における積層体の延伸倍率は、2.1倍以上、好ましくは2.3倍以上である。積層体の延伸倍率がこのような下限以上であれば、積層体が含むPVA系樹脂層の配向性の向上を図ることができ、PVA系樹脂層が染色液に溶けることを安定して抑制できる。なお、補助延伸工程における積層体の延伸倍率の上限は、代表的には4倍以下である。
補助延伸工程における空中延伸方法は、固定端延伸(例えば、テンター延伸機を用いて延伸する方法)であってもよく、自由端延伸(例えば、周速の異なるロール間に積層体を通して一軸延伸する方法)であってもよい。
【0026】
B-2.染色工程
染色工程では、PVA系樹脂フィルム1(原反フィルム11)を二色性物質で染色する。具体的には、PVA系樹脂フィルム1に、染色液を接触させて二色性物質を吸着させる。二色性物質は、PVA系樹脂と錯体を形成する。図示例の染色工程では、PVA系樹脂フィルム1を、染色浴(染色液)に浸漬させている。以下では、染色工程後かつ架橋工程前のPVA系樹脂フィルムを、染色フィルム1bとする。
【0027】
二色性物質としては、例えば、ヨウ素、有機染料が挙げられる。二色性物質は、単独でまたは組み合わせて使用できる。二色性物質のなかでは、好ましくは、ヨウ素が挙げられる。
染色液は、代表的にはヨウ素水溶液である。染色液におけるヨウ素の含有割合は、水100質量部に対して、例えば0.05質量部以上、好ましくは0.5質量部以上であり、例えば3質量部以下である。
染色液は、好ましくは、ヨウ素化合物をさらに含有している。染色液がヨウ素化合物を含有すると、ヨウ素の水に対する溶解度の向上を図ることができる。
ヨウ素化合物として、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタンが挙げられる。ヨウ素化合物は、単独でまたは組み合わせて使用できる。ヨウ素化合物のなかでは、好ましくはヨウ化カリウムが挙げられる。
染色液におけるヨウ素とヨウ素化合物との質量比(ヨウ素:ヨウ素化合物)は、例えば1:5~1:20であり、好ましくは1:5~1:10である。これにより、偏光子に優れた光学特性を付与し得る。
また、染色液は、ホウ酸を含有することもできる。染色液におけるホウ酸の濃度は、例えば1.0質量%以下、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.45質量%以下、とりわけ好ましくは0.30質量%以下であり、例えば0質量%以上、好ましくは0.1質量%以上である。染色液におけるホウ酸の濃度が上記範囲であれば、偏光子における染色ムラをより一層安定して抑制できる。
【0028】
染色浴の温度は、例えば10℃以上、好ましくは20℃以上であり、例えば50℃以下、好ましくは40℃以下である。染色工程における浸漬時間は、例えば5秒以上、好ましくは30秒以上であり、例えば300秒以下、好ましくは90秒以下、より好ましくは60秒以下である。
なお、染色工程における二色性物質の吸着方法は、上記した浸漬に限定されない。例えば、上記染色液を原反フィルムに塗工してもよく、上記染色液を原反フィルムに噴霧してもよい。
また、原反フィルムが単層の樹脂フィルムあるいは樹脂基材に支持される樹脂フィルムである場合、染色工程において、PVA系樹脂フィルムを延伸してもよい。
【0029】
B-3.架橋工程
架橋工程では、染色フィルム1bを架橋液としてのホウ酸水溶液に接触させる。代表的には、染色フィルム1bをホウ酸水溶液(架橋浴)に浸漬する。以下では、架橋工程後かつ延伸工程前のPVA系樹脂フィルムを、架橋フィルム1cとする。
染色フィルムをホウ酸水溶液に接触させると、ホウ酸が、水溶液中でテトラヒドロキシホウ酸アニオンを生成してPVA系樹脂と水素結合することによる架橋や、PVA系樹脂のヒドロキシル基と脱水縮合してホウ酸エステルを形成することによる架橋を形成し得る。これによって、PVA系樹脂および二色性物質(好ましくはヨウ素)が溶出することを抑制できる。そのため、染色フィルム1bの波長580nmにおける直交吸光度A580_bに対する、架橋フィルム1cの波長580nmにおける直交吸光度A580_cの比率(A580_c/A580_b)を、上記下限以上に調整することができる。
【0030】
また、1つの実施形態において、染色フィルム1bの波長480nmにおける直交吸光度A480_bに対する、架橋フィルム1cの波長480nmにおける直交吸光度A480_cの比率(A480_c/A480_b)は、代表的には1.10以上、好ましくは1.20以上、さらに好ましくは1.24以上である。なお、A480_c/A480_bの上限は、代表的には2.5以下であり、好ましくは2.1以下、より好ましくは1.50以下である。上記したA580_c/A580_bが上記下限以上であり、かつ、上記したA480_c/A480_bが上記下限以上および/または上記上限以下であると、偏光子における染色ムラをより一層顕著に抑制できる。
【0031】
架橋液におけるホウ酸の含有割合は、水100質量部に対して、例えば1質量部以上、好ましくは3質量部以上であり、例えば10質量部以下、好ましくは8質量部以下である。
架橋液は、好ましくは、上記したヨウ素化合物をさらに含有している。架橋液がヨウ素化合物を含有すると、染色フィルムに吸着させたヨウ素が溶出することを抑制できる。
架橋液におけるヨウ素化合物の含有割合は、水100質量部に対して、例えば0.1質量部以上、好ましくは1質量部以上であり、例えば8質量部以下、好ましくは5質量部以下である。架橋液におけるヨウ素化合物とホウ酸との質量比(ヨウ素化合物:ホウ酸)は、例えば1:1~1:3であり、好ましくは1:1.5~1:2である。
架橋浴の温度は、例えば20℃以上、好ましくは30℃以上であり、例えば60℃以下、好ましくは50℃以下である。架橋工程における浸漬時間は、例えば5秒以上、好ましくは10秒以上であり、例えば200秒以下、好ましくは60秒以下である。
また、原反フィルムが単層の樹脂フィルムあるいは樹脂基材に支持される樹脂フィルムである場合、架橋工程において、PVA系樹脂フィルムを延伸してもよい。
【0032】
B-4.延伸工程
延伸工程では、架橋フィルム1cを、延伸浴(延伸液)中で、長尺方向に延伸する。以下では、延伸工程後のPVA系樹脂フィルムを、延伸フィルム1dとする。
延伸工程における延伸倍率は、原反フィルムに対する補助延伸工程の実施の有無に応じて異なる。原反フィルムに対して補助延伸工程が実施されていない場合(すなわち、原反フィルムが、単層の樹脂フィルムあるいは樹脂基材に支持される樹脂フィルムである場合)、延伸工程における延伸倍率は、例えば4.5倍以上7倍以下であり、好ましくは5倍以上6.5倍以下である。なお、染色工程および/または架橋工程(さらに必要に応じて不溶化工程)においてPVA系樹脂フィルムが延伸されている場合、延伸工程における延伸倍率は、それら工程における延伸倍率との積が上記範囲となるように調整される。
原反フィルムに対して補助延伸工程が実施されている場合(すなわち、原反フィルムが樹脂基材上に塗布形成されるPVA系樹脂層である場合)、延伸工程における延伸倍率は、例えば1.5倍以上4倍以下であり、好ましくは1.5倍以上3倍以下である。また、補助延伸工程における延伸倍率と、延伸工程における延伸倍率との積が、例えば4.5倍以上7倍以下であり、好ましくは5倍以上6.5倍以下である。
上記のような延伸倍率で延伸することにより、偏光子に極めて優れた光学特性を付与することができる。
【0033】
延伸液は、代表的にはホウ酸水溶液である。延伸液(ホウ酸水溶液)におけるホウ酸の含有割合は、水100質量部に対して、例えば1質量部以上、好ましくは3質量部以上であり、例えば10質量部以下、好ましくは8質量部以下である。
延伸液は、好ましくは、上記したヨウ素化合物をさらに含有している。延伸液がヨウ素化合物を含有すると、架橋フィルムに吸着させたヨウ素が溶出することを抑制できる。
延伸液におけるヨウ素化合物の含有割合は、水100質量部に対して、例えば0.1質量部以上、好ましくは1質量部以上であり、例えば10質量部以下、好ましくは6質量部以下である。延伸液におけるホウ酸とヨウ素化合物との質量比(ホウ酸:ヨウ素化合物)は、例えば1:0.5~1:1.2であり、好ましくは1:0.6~1:1である。
延伸浴の温度は、例えば40℃以上、好ましくは60℃以上であり、例えば85℃以下、好ましくは80℃以下である。延伸工程における浸漬時間は、例えば15秒以上300秒以下である。
【0034】
B-5.色相調整工程
色相調整工程では、代表的には、延伸フィルム1dを、色相調整浴(色相調整液)に浸漬する。以下では、延伸フィルムのうち色相調整工程が実施されたものを、色相調整フィルム1eとする。
色相調整液は、代表的にはヨウ素化合物水溶液である。ヨウ素化合物水溶液は、上記したヨウ素化合物が水に溶解された溶液である。ヨウ素化合物水溶液は、ホウ酸を実質的に含有しない。色相調整液におけるヨウ素化合物の含有割合は、水100質量部に対して、例えば0.5質量部以上、好ましくは2質量部以上であり、例えば10質量部以下、好ましくは6質量部以下である。
色相調整浴の温度は、例えば0℃以上、好ましくは10℃以上であり、例えば40℃以下、好ましくは30℃以下である。色相調整工程における浸漬時間は、例えば5秒以上、好ましくは10秒以上であり、例えば200秒以下、好ましくは60秒以下である。
【0035】
B-6.乾燥収縮工程
乾燥収縮工程では、代表的には、延伸フィルム1d(好ましくは色相調整フィルム1e)を、長尺方向に搬送しながら加熱する。以下では、延伸フィルムのうち乾燥収縮工程が実施されたものを、乾燥収縮フィルム1fとする。
図示例では、乾燥収縮工程は、加熱乾燥部23によって実施される。加熱乾燥部は、加熱乾燥部の内部全体が加熱されるゾーン加熱方式であってもよく、搬送ロールが加熱される加熱ロール乾燥方式であってもよい。加熱乾燥部は、好ましくは、その両方を用いる。
加熱乾燥部の内温は、例えば70℃以上、好ましくは80℃以上であり、例えば120℃以下、好ましくは100℃以下である。
加熱ロールの表面温度は、例えば60℃以上、好ましくは70℃以上であり、例えば100℃以下、好ましくは80℃以下である。
加熱ロールを用いて乾燥させることにより、効率的に延伸フィルム(積層体)の加熱カールを抑制して、外観に優れた偏光子を効率よく製造することができる。また、乾燥収縮工程において、延伸フィルムは、加熱ロールと接触することにより、長尺方向と直交する幅方向に収縮される。
乾燥収縮工程における延伸フィルムの幅方向の収縮率は、例えば2%以上、好ましくは4%以上である。幅方向の収縮率がこのような下限以上であれば、PVAおよびPVA/二色性物質錯体(ヨウ素錯体)の配向性の向上を図ることができ、偏光子の光学特性の向上を図ることができる。
延伸フィルムの幅方向の収縮率は、代表的には10%以下、好ましくは8%以下、より好ましくは6%以下である。幅方向の収縮率がこのような上限以下であれば、偏光子にシワなどの外観不良が生じることを抑制できる。
その後、延伸フィルム1d(好ましくは乾燥収縮フィルム1f)は、必要に応じてロール状に巻き取られて、巻取ロール22を構成する。
【0036】
C.偏光子
以上によって、偏光子が製造される。より詳しくは、原反フィルムが単層の樹脂フィルムである場合、単層の偏光子が製造され、原反フィルムが樹脂基材に積層されている場合、偏光子/樹脂基材の構成を有する偏光板が製造される(すなわち、樹脂基材が偏光子の保護層として用いられる)。
偏光子の厚みは、例えば80μm以下、好ましくは15μm以下であり、より好ましくは12μm以下、さらに好ましくは8μm以下である。原反フィルムが樹脂基材に塗布形成されるPVA系樹脂層である場合、偏光子(すなわちPVA系樹脂層)の厚みを12μm以下、好ましくは8μm以下とすることができる。なお、偏光子の厚みは、代表的には1μm以上、好ましくは3μm以上である。
【0037】
偏光子は、好ましくは、波長380nm~780nmのいずれかの波長で吸収二色性を示す。このような偏光子は、優れた単体透過率および偏光度を有する。偏光子の単体透過率は、例えば41.0%以上46.0%以下であり、好ましくは42.0%以上45.0%以下である。偏光子の偏光度は、好ましくは97.0%以上であり、より好ましくは99.0%以上であり、さらに好ましくは99.5%以上である。上記した偏光子の製造方法によれば、単体透過率および偏光度のそれぞれが上記範囲である偏光子において、染色ムラを顕著に抑制できる。
【0038】
また、上記のように製造された偏光子に、目的に応じた任意の適切な保護フィルムを貼り合わせて偏光子を製造することもできる。なお、偏光子が樹脂基材に積層されている場合、偏光子から樹脂基材を剥離し、その剥離面に保護フィルムを貼り合わせてもよい。
保護フィルムの主成分となる材料の具体例としては、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系樹脂や、ポリエステル系、ポリビニルアルコール系、ポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリエーテルスルホン系、ポリスルホン系、ポリスチレン系、ポリノルボルネン系、ポリオレフィン系、(メタ)アクリル系、アセテート系等の透明樹脂等が挙げられる。また、(メタ)アクリル系、ウレタン系、(メタ)アクリルウレタン系、エポキシ系、シリコーン系等の熱硬化型樹脂または紫外線硬化型樹脂等も挙げられる。なお、「(メタ)アクリル系樹脂」とは、アクリル系樹脂および/またはメタクリル系樹脂をいう。この他にも、例えば、シロキサン系ポリマー等のガラス質系ポリマーも挙げられる。また、特開2001-343529号公報(WO01/37007)に記載のポリマーフィルムも使用できる。このフィルムの材料としては、例えば、側鎖に置換または非置換のイミド基を有する熱可塑性樹脂と、側鎖に置換または非置換のフェニル基ならびにニトリル基を有する熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物が使用でき、例えば、イソブテンとN-メチルマレイミドからなる交互共重合体と、アクリロニトリル・スチレン共重合体とを有する樹脂組成物が挙げられる。当該ポリマーフィルムは、例えば、上記樹脂組成物の押出成形物であり得る。
【実施例0039】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。各特性の測定方法は以下の通りである。
【0040】
(1)PVA系樹脂フィルムにおける直交吸光度の測定
各実施例および各比較例において、染色工程後かつ架橋工程前、および、架橋工程後かつ延伸工程前のPVA系樹脂フィルムについて、紫外可視分光光度計(日本分光製 V-7100)を用いて、直交透過率Tcを測定した。Tcは、JIS Z8701の2度視野(C光源)により測定して視感度補正を行なったY値である。
また、表1に示す波長での測定されたTcを用いて、下記式により直交吸光度を求めた。その結果を表1に示す。
直交吸光度=log10(100/Tc)
【0041】
(2)単体透過率の測定
各実施例および各比較例で得られた偏光子単膜の単体透過率(Ts)を、紫外可視分光光度計(日本分光社製、製品名「V7100」)を用いて測定した。その結果を表1に示す。なお、偏光子が偏光板に含まれる場合、事前に、偏光板(試験片)の樹脂基材を偏光子から剥離した。
【0042】
(3)結晶化指数の測定
各実施例および各比較例において、PVA系樹脂層(PVA系樹脂フィルム)の結晶化指数を、フーリエ変換赤外分光光度計を用い、ATR法により測定した。具体的には、偏光を測定光として測定を実施し、得られたスペクトルの1141cm-1の強度(IC)および1440cm-1の強度(IR)を用いて、下記式(1)に従って結晶化指数を算出した。
結晶化指数=(IC/IR)・・・(1)
【0043】
(4)染色ムラの評価
各実施例および各比較例で得られた偏光子の染色ムラ(スジムラ)の状態を、垂線方向において50mm離れた状態から目視で観察して、下記の基準で評価した。その結果を表1に示す。
A:ムラが見えない。
B:ムラが僅かに見える。
C:ムラが見える。
【0044】
<<実施例1~6>>
熱可塑性樹脂基材として、長尺状で、Tg約75℃である、非晶質のイソフタル共重合ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み:100μm)を用い、樹脂基材の片面に、コロナ処理を施した。
ポリビニルアルコール(重合度4200、ケン化度99.2モル%)およびアセトアセチル変性PVA(日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマー」)を9:1で混合したPVA系樹脂100質量部に、ヨウ化カリウム13質量部を添加したものを水に溶かし、PVA水溶液(塗布液)を調製した。
樹脂基材のコロナ処理面に、上記PVA水溶液を塗布して60℃で乾燥することにより、厚み13μmのPVA系樹脂層を形成し、積層体を作製した(積層体作製工程)。
得られた積層体を、130℃のオーブン内で縦方向(長手方向)に、2.4倍の補助延伸倍率で一軸延伸した(補助延伸工程)。なお、補助延伸後かつ染色工程前の積層体に含まれるPVA系樹脂層を、上記した結晶化指数の測定に供した。PVA系樹脂層の結晶化指数は、1.82であった。
次いで、積層体を、液温30℃の染色浴(水100質量部に対して、ヨウ素とヨウ化カリウムを1:7の質量比で配合して得られたヨウ素水溶液)に、60秒間浸漬させた(染色工程)。なお、実施例2~6では、染色浴は、ホウ酸を含有していた。表1に、染色液におけるホウ酸濃度を示す。
次いで、積層体を、液温40℃の架橋浴(水100質量部に対して、ヨウ化カリウムを3質量部配合し、ホウ酸を5質量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(架橋工程)。
なお、積層体に含まれるPVA系樹脂層を、染色工程後かつ架橋工程前、および、架橋工程後かつ延伸工程前のそれぞれにおいて、上記した直交吸光度の測定に供した。
その後、積層体を、液温70℃の延伸浴(水100質量部に対して、ヨウ化カリウムを5質量部配合し、ホウ酸を4質量部配合して得られたホウ酸水溶液)に浸漬させながら、周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に総延伸倍率が5.5倍となるように一軸延伸を行った(延伸工程)。
その後、積層体を、液温20℃の色相調整浴(水100質量部に対して、ヨウ化カリウムを4質量部配合して得られた水溶液)に浸漬させた(色相調整工程)。
その後、積層体を、約90℃に保たれたオーブン中で乾燥しながら、表面温度が約75℃に保たれたSUS製の加熱ロールに接触させた(乾燥収縮工程)。
このようにして、樹脂基材上に厚み約5μmの偏光子を形成し、偏光子/樹脂基材の構成を有する偏光板を得た。当該偏光板に含まれる偏光子を、上記した単体透過率の測定に供した。また、当該偏光子の染色ムラ(スジムラ)を、上記のように評価した。
【0045】
<<実施例7>>
単体透過率が44%になるように水の割合を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、偏光子/樹脂基材の構成を有する偏光板を得た。当該偏光板に含まれる偏光子を、上記した単体透過率の測定に供した。また、当該偏光子の染色ムラ(スジムラ)を、上記のように評価した。
【0046】
<<実施例8>>
原反フィルムとして、厚さ30μmのポリビニルアルコール系フィルム(PVA系樹脂フィルム)を用いた。当該PVA系樹脂フィルムに、下記の順番にて下記各工程を施した。
(不溶化工程)不溶化浴の処理液としては、4質量%のホウ酸水溶液を用いた。上記PVA系樹脂フィルムを不溶化浴(ホウ酸水溶液)に搬送し、30℃に調整したホウ酸液中に60秒間浸漬し、膨潤させ、さらに延伸倍率1.6倍に一軸延伸した。
(染色工程)染色浴の処理液としては、ヨウ素:ヨウ化カリウム(質量比=0.5:8)の濃度0.3質量%のヨウ素染色溶液を用いた。上記不溶化処理されたPVA系樹脂フィルムを染色浴に搬送し、30℃に調整したヨウ素染色溶液に、60秒間浸漬しながら、元長に対して延伸倍率2.4倍まで、一軸延伸しながら、染色した。
(架橋工程)架橋浴の処理液としては、ホウ酸を5質量%、ヨウ化カリウムを3質量%含有するホウ酸水溶液を用いた。上記染色処理されたPVA系樹脂フィルムを架橋浴に搬送し、40℃に調整したホウ酸水溶液に、45秒間浸漬しながら、元長に対して総延伸倍率3.3倍まで、一軸延伸しながら、ホウ酸により架橋した。
なお、当該PVA系樹脂フィルムを、染色工程後かつ架橋工程前、および、架橋工程後かつ延伸工程前のそれぞれにおいて、上記した直交吸光度の測定に供した。
(延伸工程)延伸浴の処理液としては、ホウ酸を4質量%、ヨウ化カリウムを5質量%含有するホウ酸水溶液を用いた。上記架橋処理されたPVA系樹脂フィルムを延伸浴に搬送し、60℃に調整したホウ酸水溶液に、30秒間浸漬しながら、元長に対して総延伸倍率6倍まで、一軸延伸した。
(色相調整工程)色相調整浴の処理液としては、ヨウ化カリウムを3質量%含有する水溶液を用いた。上記延伸処理されたPVA系樹脂フィルムを色相調整浴に搬送し、27℃に調整した当該水溶液に、10秒間浸漬した。
(乾燥収縮工程)次いで、上記色相調整処理されたPVA系樹脂フィルムを、60℃のオーブンで4分間乾燥して偏光子を得た。
このようにして、PVA系樹脂フィルムからなる偏光子を得た。当該偏光子を、上記した単体透過率の測定に供した。また、当該偏光子の染色ムラ(スジムラ)を、上記のように評価した。
【0047】
<<実施例9>>
不溶化工程を実施せずに、補助延伸工程後の積層体を染色工程に供したこと以外は、実施例8と同様にして、偏光子を得た。当該偏光子を上記した単体透過率の測定に供した。また、当該偏光子の染色ムラ(スジムラ)を、上記のように評価した。
【0048】
<<比較例1>>
補助延伸後かつ染色工程前に、積層体を液温40℃の不溶化浴(水100質量部に対して、ホウ酸を4質量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(つまり不溶化工程を実施した)こと以外は、実施例1と同様にして、偏光子/樹脂基材の構成を有する偏光板を得た。当該偏光板に含まれる偏光子を、上記した単体透過率の測定に供した。また、当該偏光子の染色ムラ(スジムラ)を、上記のように評価した。
【0049】
<<比較例2>>
補助延伸後かつ染色工程前に、積層体を液温40℃の不溶化浴(水100質量部に対して、ホウ酸を4質量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(つまり不溶化工程を実施した)こと以外は、実施例7と同様にして、偏光子/樹脂基材の構成を有する偏光板を得た。当該偏光板に含まれる偏光子を、上記した単体透過率の測定に供した。また、当該偏光子の染色ムラ(スジムラ)を、上記のように評価した。
【0050】
【表1】
【0051】
[評価]
表1から明らかなように、染色工程後かつ架橋工程前のPVA系樹脂フィルムの直交吸光度A580_bに対する、架橋工程後かつ延伸工程前のPVA系樹脂フィルムの直交吸光度A580_cの比率(A580_c/A580_b)が0.91以上であると、染色ムラが抑制された偏光子の製造を実現し得る。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の実施形態による製造方法は、画像表示装置に適用される偏光子および偏光板の製造に好適に用いられ得る。
【符号の説明】
【0053】
1 PVA系樹脂フィルム
10 積層体
12 熱可塑性樹脂基材
図1
図2