(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005272
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】繊維およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 6/48 20060101AFI20240110BHJP
D01F 6/12 20060101ALI20240110BHJP
D01D 5/04 20060101ALI20240110BHJP
D04H 1/728 20120101ALI20240110BHJP
【FI】
D01F6/48 B
D01F6/12
D01D5/04
D04H1/728
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022105365
(22)【出願日】2022-06-30
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、「研究成果展開事業」「感染リスクを低減した安心・安全な環境を実現するエアロゾル高捕集エレクトレット不織布の開発」、委託研究、産業技術力強化法17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 聡
(72)【発明者】
【氏名】吉田 澪
【テーマコード(参考)】
4L035
4L045
4L047
【Fターム(参考)】
4L035BB02
4L035BB06
4L035DD13
4L035DD18
4L035EE12
4L035FF05
4L035LA04
4L035MH00
4L045AA01
4L045AA08
4L045BA20
4L045BA53
4L045DB01
4L045DC01
4L047AA15
4L047AA25
4L047AA27
4L047AB08
4L047CC12
(57)【要約】
【課題】繊維に付与されたエレクトレット効果を長時間持続させる。
【解決手段】第1相と、第2相と、を含む微細ファイバを含み、第1相は、常誘電体の第1ポリマーを含み、第2相は、常誘電体以外の第2ポリマーを含み、第2相の少なくとも一部が、第1相に内包されている、繊維。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1相と、第2相と、を含む微細ファイバを含み、
前記第1相は、常誘電体の第1ポリマーを含み、
前記第2相は、常誘電体以外の第2ポリマーを含み、
前記第2相の少なくとも一部が、前記第1相に内包されている、繊維。
【請求項2】
前記微細ファイバに含まれる前記第2相の含有率が、5質量%~50質量%である、請求項1に記載の繊維。
【請求項3】
前記微細ファイバにおいて、前記第1相と前記第2相とが海島構造を形成しており、
前記第1相のマトリックスに前記第2相が島状に分布している、請求項1に記載の繊維。
【請求項4】
前記第1ポリマーの破断伸び率が、前記第2ポリマーの破断伸び率よりも大きい、請求項1に記載の繊維。
【請求項5】
前記第2ポリマーが、ハロゲン系ポリマーであり、
前記ハロゲン系ポリマーは、ポリフッ化ビニリデン、ポリトリフロロエチレン、ポリ塩化ビニリデンおよびこれらのポリマーを構成するモノマー単位の2種以上の共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の繊維。
【請求項6】
第1ポリマーが、ポリウレタン、ゴム、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリエステル、アクリル系ポリマー、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニルおよびこれらのポリマーを構成するモノマー単位の2種以上の共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の繊維。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の繊維を含む、糸、織物、編物、織布または不織布。
【請求項8】
常誘電体の第1ポリマーと、常誘電体以外の第2ポリマーと、を含むエマルジョン溶液を調製する第1工程と、
微細ファイバ形成空間において、前記エマルジョン溶液から静電気力により微細ファイバを生成させる第2工程と、を含み、
前記第1ポリマーと前記第2ポリマーとが、前記微細ファイバ中で、第1ポリマーを含む第1相と第2ポリマーを含む第2相とに相分離する性質を有し、
前記第2相の少なくとも一部が、前記第1相に内包されている、繊維の製造方法。
【請求項9】
前記エマルジョン溶液に含まれる前記第1ポリマーと前記第2ポリマーとの合計に占める前記第2ポリマーの割合が、5質量%~50質量%である、請求項8に記載の繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細ファイバを含む繊維およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維は、衣料、マスク、フィルタ、分離膜、圧電素子などの様々な分野で利用されている。繊維に所望の機能を持たせる検討が成されている。例えば、繊維に含まれる誘電体を分極させてエレクトレット(電石)繊維とすることが検討されている。例えば、エレクトレット繊維で形成された不織布は、マスク、フィルタ、分離膜などに利用されている。
【0003】
特許文献1は、「芯部と、前記芯部の少なくとも一部の表面を覆う鞘部とを含むナノファイバを含み、前記芯部は、第1ポリマーを含み、前記鞘部は、第2ポリマーを含み、前記第2ポリマーは、前記第1ポリマーよりも極性が小さい、不織布。」を提案している。
【0004】
非特許文献1は、全ポリマーのポリスチレンとポリフッ化ビニリデンとのハイブリッド(PS/PVDF)エレクトレットファイバを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Chemical Engineering Journal,398,2020年,125626
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、繊維に付与された機能を長時間持続させることは困難である。例えば、エレクトレット繊維が水濡れした場合、誘電分極により引き出される効果(エレクトレット効果)は容易に失われる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面は、第1相と、第2相と、を含む微細ファイバを含み、前記第1相は、常誘電体の第1ポリマーを含み、前記第2相は、常誘電体以外の第2ポリマーを含み、前記第2相の少なくとも一部が、前記第1相に内包されている、繊維に関する。
【0009】
本発明の別の側面は、上記繊維を含む糸、織物、編物、織布または不織布に関する。
【0010】
本発明の更に別の側面は、常誘電体の第1ポリマーと、常誘電体以外の第2ポリマーと、を含むエマルジョン溶液を調製する第1工程と、微細ファイバ形成空間において、前記エマルジョン溶液から静電気力により微細ファイバを生成させる第2工程と、を含み、前記第1ポリマーと前記第2ポリマーとが、前記微細ファイバ中で、第1ポリマーを含む第1相と第2ポリマーを含む第2相とに相分離する性質を有し、前記第2相の少なくとも一部が、前記第1相に内包されている、繊維の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、繊維に付与されたエレクトレット効果を長時間持続させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示の一実施形態に係る繊維(微細ファイバ)の内部構造を概略的に示す図である。
【
図2】電界紡糸装置の一例の構成を示す概念図である。
【
図3】実施例および比較例の繊維のFTIRスペクトルであるU70-F30-CNFのスペクトルとU100のスペクトルとの差分スペクトル(1900~700cm
-1)である。
【
図4】実施例および比較例の繊維のWAXDスペクトルであるU70-F30-CNFのスペクトルとU100のスペクトルとの差分スペクトルである。
【
図5】実施例および比較例の繊維の水に浸漬する前後の電荷量を対比して示す表である。
【
図6】実施例および比較例の繊維の引張強度(Tensile Strength)および靭性(Toughness)を対比して示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施形態について例を挙げて説明するが、本開示は以下で説明する例に限定されない。以下の説明では、具体的な数値、材料等を例示する場合があるが、本開示の効果が得られる限り、他の数値、材料等を適用してもよい。なお、本開示に特徴的な部分以外の構成要素には、公知の構成要素を適用してもよい。この明細書において、「数値A~数値Bの範囲」という場合、当該範囲には数値Aおよび数値Bが含まれる。
【0014】
以下の説明において、特定の物性や条件などに関する数値の下限と上限とを例示した場合、下限が上限以上とならない限り、例示した下限のいずれかと例示した上限のいずれかを任意に組み合わせることができる。複数の材料が例示される場合、特に言及しない限り、その中から1種を選択して単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
以下の説明において、「~を含有する」もしくは「~を含む」という用語は、「~を含有する(もしくは含む)」、「実質的に~からなる」および「~からなる」を包含する表現である。
【0016】
また、本開示は、添付の特許請求の範囲に記載の複数の請求項から任意に選択される2つ以上の請求項に記載の事項の組み合わせを包含する。つまり、技術的な矛盾が生じない限り、添付の特許請求の範囲に記載の複数の請求項から任意に選択される2つ以上の請求項に記載の事項を組み合わせることができる。
【0017】
本開示は、第1相と、第2相と、を含む微細ファイバ(以下、「微細ファイバf」とも称する。)を含む繊維(以下、「繊維F」とも称する。)に関する。繊維Fの形態は、特に限定されない。繊維Fは、例えば、糸、織物、編物、織布、不織布などに含まれていてもよい。微細ファイバfを含む繊維Fおよび繊維Fを含む糸、織物、編物、織布または不織布は、他の微細ファイバや繊維を含んでもよい。微細ファイバf中では、第1相と第2相とが互いに相分離している。
【0018】
微細ファイバfとは、例えば、平均直径(平均繊維径)が20μm以下のファイバ、平均直径が5μm以下のマイクロファイバ、平均直径が1μm以下のナノファイバなどを包含する。微細ファイバfの長さは、特に限定されない。
平均直径とは、例えば、10本の任意の微細ファイバfについてそれぞれ1箇所の直径を計測し、これらの平均値として求められる。微細ファイバfの直径とは、微細ファイバfの長さ方向に対して垂直な断面の直径である。
【0019】
第1相は、常誘電体の第1ポリマーを含む。第2相は、常誘電体以外の第2ポリマーを含む。常誘電体の第1ポリマーは、導電性よりも誘電性が優位なポリマーである。第2ポリマーは、常誘電体以外の誘電体であり、誘電分極においてヒステリシス(履歴)を有する。すなわち、第2相は、誘電分極においてヒステリシスを有する第2ポリマーを含んでもよい。その結果、分極電荷が形成される。第2ポリマーは、分極電荷が形成されるものであればよく、例えば、圧電体、焦電体などでもよい。すなわち、第2相は、第2ポリマーとして圧電体ポリマーおよび焦電体ポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。「第2相」を、例えば「圧電体の相」もしくは「焦電体の相」と言い換えてもよい。中でも、第2ポリマーは、強誘電体ポリマー、反強誘電体ポリマーおよびフェリ誘電体ポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。すなわち、第2相は、第2ポリマーとして強誘電体ポリマー、反強誘電体ポリマーおよびフェリ誘電体ポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。常誘電体以外の誘電体は、電界強度を強めていくときと、その後、弱めていくときとで、分極の大きさに違いを生じる。中でも、強誘電体は、大きな分極電荷を保持し得る。一方、常誘電体は、誘電分極においてヒステリシスを有さない。
【0020】
第1相は、1種の第1ポリマーのみを含んでもよく、2種以上の第1ポリマーを含んでもよい。第1相が2種以上の第1ポリマーを含む場合、第1ポリマー同士が第1相内で相分離していてもよく、相分離せずに均質な第1相を形成していてもよい。第1相は、第1ポリマーのみで構成されていてもよいが、第1ポリマー以外の成分(例えば、第1ポリマーもしくは微細ファイバfを製造する際に用いられる添加剤)を含み得る。第1ポリマー以外の成分の含有率は、第1相の50質量%以下が望ましい。
【0021】
第2相は、1種の第2ポリマーのみを含んでもよく、2種以上の第2ポリマーを含んでもよい。第2相が2種以上の第2ポリマーを含む場合、第2ポリマー同士が第2相内で相分離していてもよく、相分離せずに均質な第2相を形成していてもよい。第2相は、第2ポリマーのみで構成されていてもよいが、第2ポリマー以外の成分(例えば、第2ポリマーもしくは微細ファイバを製造する際に用いられる添加剤)を含み得る。第2ポリマー以外の成分の含有率は、第2相の50質量%以下が望ましい。
【0022】
第2ポリマーとして、具体的にはハロゲン系ポリマーを挙げることができる。ハロゲン系ポリマーは、誘電分極しやすく、誘電分極した状態で結晶化し得る。ハロゲン系ポリマーは、誘電分極においてヒステリシスを有する。よって、ハロゲン系ポリマーは、圧電体、焦電体のいずれかを構成し得る。さらに、ハロゲン系ポリマーは、強誘電体、反強誘電体、フェリ誘電体のいずれかを構成し得る。ハロゲン系ポリマーはハロゲン原子を含むモノマー単位で構成されている。ハロゲン系ポリマーは、例えば、水素原子とハロゲン原子とを含むモノマー単位で構成されている。なお、ハロゲン系ポリマーは、ハロゲン原子を含まないモノマー単位を、例えば50モル%以下の含有率で含んでもよい。
【0023】
第2相の少なくとも一部は、第1相に内包されている。つまり、分極電荷を持った状態の第2相を、常誘電体の第1相が囲んでいる。第1相は、第2相の分極電荷が形成する電界によって誘電分極するため、結果として微細ファイバfは表面電荷を有するようになる。表面電荷は、その微細ファイバfを含む組織を含んだ糸、織物、織布、不織布などのエレクトレット効果を向上させる。具体的に例示すると、それらを用いたマスク、フィルタ、分離膜などの静電吸着機能を向上させるのに利用される。また、微細ファイバfの表面が水に濡れるなどして表面電荷が一時的に失われた場合でも、第2相の分極電荷により第1相が再び誘電分極するため、表面電荷は容易に回復する。つまり、エレクトレット効果が失われにくく、長時間持続し得る。
【0024】
仮に、第2相が第1相に内包されず、外部に露出している場合、第2相が外部電荷の影響を受けやすくなる。水濡れなどにより第2相に電荷が注入され、分極電荷が減少もしくは消失すると、第1相は誘電分極しなくなり、エレクトレット効果も減少もしくは消失する。
【0025】
微細ファイバfは、第1相および第2相の他に、更なる1種以上の相を含んでもよい。例えば、微細ファイバfは、ポリマー以外から構成された相(非ポリマー相)を含み得る。非ポリマー相を構成し得る材料としては、微細ファイバfを製造する際に用いられる添加剤、無機フィラー、顔料、撥水化剤、親水化剤、防炎剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、接触冷感剤、吸湿発熱剤、防汚加工剤などが挙げられる。これらの材料が第1相および第2相から相分離した場合には非ポリマー相を構成する。
【0026】
微細ファイバfを製造する際に用いられる添加剤としては、セルロースナノファイバ(CNF)が望ましい。CNFは、微細ファイバfの機械的強度を高める補強材として作用する。また、微細ファイバfを電界紡糸法(もしくは静電紡糸法)で製造する場合、原料液であるエマルジョン溶液の均一性もしくは安定性を高める役割を有する。なお、エマルジョン溶液の均一性もしくは安定性を高める目的では、CNFに限らず、両親媒性を有する界面活性剤を用いてもよい。
【0027】
微細ファイバfに含まれるCNFの含有率は、例えば、0.01質量%~10質量%であってもよく、0.1質量%~5質量%であってもよく、0.1質量%~2質量%であってもよい。上記範囲内の場合、CNFの凝集が生じにくく、微細ファイバfの機械的強度を高める効果や、電界紡糸法で微細ファイバfを製造する場合のエマルジョン溶液の均一性もしくは安定性を高める効果が顕著に発揮される。
【0028】
CNFの平均直径は、例えば3nm~50nmであり、アスペクト比は、例えば100以上である。
【0029】
微細ファイバfにおいて、第1相と第2相とが海島構造を形成していてもよい。できるだけ多くの第2相が第1相に内包されていることが望ましい。よって、第1相のマトリックスに第2相が島状に分布している海島構造が望ましい。
【0030】
図1に、海島構造を有する微細ファイバの内部構造を概略的に示す。
図1(a)は、直径Dを有する微細ファイバf(微細ファイバ10)の一部を示している。
図1(b)は、微細ファイバ10の直径Dに沿った断面を示している。
図1(c)は、微細ファイバ10の直径Dに沿った断面の一部を拡大して更に概念化した図である。
【0031】
図1(b)に示すように、微細ファイバ10の内部では、分極電荷を持った状態の第2相12が、常誘電体の第1相11のマトリックスで囲まれている。第2相12同士は、分離状態で第1相に閉じ込められている。すなわち、第1相のマトリクスに第2相が島状に分布する海島構造が形成されている。その結果、
図1(b)に示すように、第1相11は、第2相12の分極電荷が形成する電界によって誘電分極している。この状態は、微細ファイバ10の表面が水濡れなどした場合でも維持されるため、エレクトレット効果が長時間持続し得る。
【0032】
微細ファイバfに含まれる第2相の含有率は、例えば、5質量%~50質量%であってもよく、7質量%~50質量%であってもよい。なお、微細ファイバfに含まれる第2ポリマーの含有率は、微細ファイバfに含まれる第2相の含有率と見なしてよい。微細ファイバfに含まれる第2相の含有率は、10質量%~49質量%でもよく、15質量%~45質量%でもよく、15質量%~40質量%でもよい。この場合、エレクトレット効果が大きく、かつ機械的強度に優れた微細ファイバfが形成されやすい。また、微細ファイバfにおいて、第1相のマトリックスに第2相が島状に分布する海島構造が形成されやすい。
【0033】
微細ファイバfに含まれる第2相の含有率PC2は、微細ファイバfに含まれる第1相の含有率PC1よりも少なくてもよい。なお、微細ファイバfに含まれる第1ポリマーの含有率は、微細ファイバfに含まれる第1相の含有率と見なしてよい。PC2/PC1は、0.95以下でもよく、0.8以下でもよく、0.6以下でもよい。PC2/PC1は、0.1以上でもよく、0.2以上でもよい。PC2/PC1がこのような範囲内の場合、微細ファイバfにおいて、第1相のマトリックスに第2相が島状に分布する海島構造が形成されやすい。
【0034】
第1ポリマーは、常誘電体を形成し得るポリマーであればよい。第1ポリマーの比誘電率は、周波数106Hzにおいて、例えば、10以下であり、5以下であってもよい。
【0035】
第1ポリマーの重量平均分子量Mwは、ポリマーの種類にもよるが、例えば、30000~800000であり、50000~500000であってもよい。
なお、本明細書中、ポリマーの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフにより測定される分子量分布から求められる値である。
【0036】
第1ポリマーは、例えば、ポリウレタン、ゴム、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリエステル、アクリル系ポリマー、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニルおよびこれらのポリマーを構成するモノマー単位の2種以上の共重合体からなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。ゴムとしては、例えば、天然ゴム、ポリイソプレン、ポリブタジエンなどが挙げられる。ポリオレフィンとしては、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。アクリル系ポリマーとしては、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸エステルおよびこれらのポリマーを構成するモノマー単位の2種以上の共重合体が挙げられる。ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネートなどが挙げられる。
【0037】
第2ポリマーは、例えば、常誘電体以外の誘電体を形成し得るハロゲン系ポリマーであればよい。
【0038】
第2ポリマーの重量平均分子量Mwは、ポリマーの種類にもよるが、例えば、30000~1000000であり、50000~500000であってもよい。
【0039】
第2ポリマーは、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリトリフロロエチレン、ポリ塩化ビニリデンおよびこれらのポリマーを構成するモノマー単位の2種以上の共重合体からなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。ただし、ここで例示した第2ポリマーは、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレンおよび塩化ビニリデン以外のモノマー単位を、例えば50モル%以下の含有率で含んでよい。
【0040】
できるだけ多くの第2相を第1相に内包させる場合(例えば、第1相のマトリックスに第2相が島状に分布する海島構造を形成する場合)、第1相は十分な柔軟性を有することが望ましい。すなわち、第1ポリマーの破断伸び率は、第2ポリマーの破断伸び率よりも大きいことが望ましい。そのような第1ポリマーと第2ポリマーとの組み合わせとしては、例えば、第1ポリマーがポリウレタン、ゴム、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリ塩化ビニルおよびポリフッ化ビニルからなる群より選択される少なくとも1種であり、第2ポリマーが既述のハロゲン系ポリマーである組み合わせが挙げられる。
【0041】
本開示に係る微細ファイバfもしくは繊維Fを含む不織布は、例えば、以下の例に示すような電界紡糸法もしくは静電紡糸法(エレクトロスピニング法)により製造することができる。以下の例に示すような電界紡糸法は、第1工程と第2工程を有する。
【0042】
第1工程では、常誘電体の第1ポリマーと、常誘電体以外の第2ポリマーと、を含むエマルジョン溶液を調製する。ここでは、エマルジョン溶液という用語を、分散液、コロイド溶液、溶液と分散液の中間の液体、完全にポリマーが溶解した溶液なども含む広い概念として用いる。
【0043】
エマルジョン溶液は、例えば、2つ以上の前駆液を混合して調製してもよい。具体的には、第1ポリマーを含み第2ポリマーを含まない第1のエマルジョン溶液(第1液)を調製し、別途、第2ポリマーを含み第1ポリマーを含まない第2のエマルジョン溶液(第2液)を調製する。次に、第1液と第2液とを混合してエマルジョン溶液としてもよい。
【0044】
エマルジョン溶液に含まれる第1ポリマーと第2ポリマーとの合計に占める第2ポリマーの割合は、例えば、7質量%~50質量%、10質量%~49質量%、15質量%~45質量%、もしくは15質量%~40質量%であってもよい。
【0045】
第1液と第2液とが均一に混合されにくい場合には、エマルジョン溶液に、所定量のCNFもしくは界面活性剤を添加してもよい。CNFもしくは界面化成剤は、第1液および第2液の少なくとも一方に、予め添加しておいてもよい。
【0046】
第1液は、第1ポリマー(またはその前駆体)を第1溶媒に分散または溶解させることにより調製できる。第1溶媒は、安定な第1液を得ることができれば特に制限されず、第1ポリマーの種類、分子量などに応じて適宜選択すればよい。
【0047】
第2液は、第2ポリマー(またはその前駆体)を第2溶媒に分散または溶解させることにより調製できる。第2溶媒は、安定な第2液を得ることができれば特に制限されず、第2ポリマーの種類、分子量などに応じて適宜選択すればよい。
【0048】
第1ポリマーおよび第2ポリマーの前駆体を用いる場合には、前駆体を溶媒中で重合させればよい。前駆体は、第1ポリマーまたは第2ポリマーを構成するモノマー単位に対応するモノマーもしくはオリゴマーを含み得る。
【0049】
第1溶媒および第2溶媒の候補としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノールなどのアルコール(C2-4アルコールなど);エチレングリコール;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン;アセトニトリルなどのニトリル;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などのアミド(鎖状または環状アミドなど);ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド;ジクロロメタン、二塩化エチレン、クロロホルムなどのハロゲン化アルカン;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル;酢酸エチルなどのエステル;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどのシクロアルカン;n-ヘキサンなどのアルカン;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;ジイソプロピルエーテルなどの対称エーテル;四塩化炭素などが挙げられる。これらの溶媒は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
第2工程では、微細ファイバ形成空間において、エマルジョン溶液から静電気力により微細ファイバを生成させる。このとき、生成した微細ファイバを所定の基材上に堆積させて不織布を形成してもよい。
【0051】
電界紡糸法では、静電延伸現象により微細ファイバが生成する。例えば、電界が印加された空間中に微小な内径を有するノズルからエマルジョン溶液を流出させる。流出したエマルジョン溶液からは、電界を飛行中に徐々に溶媒が蒸発していく。飛行中のエマルジョン溶液の体積が溶媒の飛散により徐々に減少するにつれ、エマルジョン溶液中の電荷密度が高まり、電荷の反発によるクーロン力がエマルジョン溶液の表面張力を超えると、エマルジョン溶液が爆発的に線状に延伸され、微細ファイバf(特にナノファイバ)が生成する。
【0052】
電界紡糸法では、電界中で微細ファイバfを生成させる際、第1ポリマーと第2ポリマーは相分離し、微細ファイバf中に第1ポリマーを含む第1相と第2ポリマーを含む第2相が形成される。このような相分離は、第1ポリマーと第2ポリマーとの極性の違いにより促進されると考えられる。相分離後に、強誘電体の第2ポリマーは、電界により誘電分極し、その状態で、第2相を形成し、その少なくとも一部(例えば50体積%以上)が第1相に内包されると考えられる。また、電界紡糸法では、電界によってポリマーが牽引されることにより、分子配向が促進する。その際、第2相内にβ相の結晶が多く形成される。これらの結果により、エレクトレット効果が向上する。
【0053】
図2は、電界紡糸法により微細ファイバfを製造する装置の一例の構成を示す概念図である。電界紡糸装置20は、エマルジョン溶液を吐出するためのシリンジ(ノズル)21と、シリンジ21に溶液を送るシリンジポンプ22と、シリンジ21を帯電させる電圧印加装置(帯電手段)23と、微細ファイバを堆積させる回転体24(コレクタ部)とを具備する。回転体24は接地されている。電圧が印加されているシリンジ21と接地された回転体24との間の空間には電界が形成されている。この空間で微細ファイバfが生成し、回転する回転体24にシート状の不織布として巻き取られる。
【0054】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
《実施例1》
(1)第1液の調製
第1ポリマーとして、周波数106Hzでの比誘電率が5.0で、重量平均分子量161000のポリウレタン(PU)を用いた。PUを溶媒であるジメチルホルムアミド(DMF)とテトラヒドロフラン(THF)の等量混合物(DMF/THF=1:1)に分散させ、PUを16質量%の濃度で含む第1液を調製した。PUは常誘電体である。
【0056】
(2)第2液の調製
第2ポリマーとして、重量平均分子量275000のポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いた。PVDFを溶媒であるDMFとTHFの等量混合物(DMF/THF=1:1)に分散させ、PVDFを4質量%の濃度で含む第2液を調製した。PVDFは強誘電体である。
【0057】
(3)エマルジョン溶液の調製
第1液と第2液とを、第1ポリマー(PU)と第2ポリマー(PVFD)とが体積比1:1となるような割合で混合し、ミキサで攪拌して、エマルジョン溶液を調製した。エマルジョン溶液にはCNF(平均直径27nm)を0.1質量%の割合で含ませた。
【0058】
(4)電界紡糸
図2に示すような製造装置により、得られたエマルジョン溶液を用いて、下記の条件で、電界紡糸法によりアルミニウム箔の表面に微細ファイバfを堆積させ、実施例1の不織布(U80-F20-CNF)を作製した。得られた不織布(U80-F20-CNF)において、微細ファイバの平均直径は697nm、不織布の単位面積当たりの質量は4.64g/m
2であった。また、微細ファイバ(不織布)に含まれるCNFの含有率は1質量%である。
【0059】
<電界紡糸条件>
印加電圧:25kV
エマルジョン溶液の吐出量: 0.7mL/h
温度:25±3℃
湿度:40±9%RH
ノズルと回転体との距離:12cm
【0060】
《実施例2》
エマルジョン溶液の調製において、第1液と第2液に、第1ポリマー(PU)と第2ポリマー(PVFD)濃度がそれぞれ14%と6%のものを用いたこと以外、実施例1と同様の手順で、実施例2の不織布(U70-F30-CNF)を作製した。得られた不織布(U70-F30-CNF)において、微細ファイバの平均直径は490nm、不織布の単位面積当たりの質量は6.60g/m2であった。また、微細ファイバ(不織布)に含まれるCNFの含有率は1質量%である。
【0061】
《実施例3》
エマルジョン溶液の調製において、第1液と第2液に、第1ポリマー(PU)と第2ポリマー(PVFD)濃度がそれぞれ12%と8%のものを用いたこと以外、実施例1と同様の手順で、実施例3の不織布(U60-F40-CNF)を作製した。得られた不織布(U60-F40-CNF)において、微細ファイバの平均直径は448nm、不織布の単位面積当たりの質量は5.33g/m2であった。また、微細ファイバ(不織布)に含まれるCNFの含有率は1質量%である。
【0062】
《比較例1》
第1液のみを実施例1と同じ条件で電界紡糸した。得られた不織布(U100)において、不織布の単位面積当たりの質量は3.83g/m2であった。
【0063】
《比較例2》
第2液のみを実施例1と同じ条件で電界紡糸した。得られた不織布(F100)において、不織布の単位面積当たりの質量は9.64g/m2であった。
【0064】
(5)評価
(5-1)ATR-FTIRスペクトル
実施例2の不織布(U70-F30-CNF)、比較例1の不織布(U100)、比較例2の不織布(F100)のATR-FTIRスペクトルを測定した。U70-F30-CNFのスペクトルとU100のスペクトルとの差分スペクトルを
図3に示す。解像度は4cm
-1、積算回数は64である。
【0065】
図3より、U70-F30-CNFが、U100およびF100と同じ相を有すること、すなわち、PUの第1相とPVDFの第2相とが相分離していることが示唆される。また、
図3から、U70-F30-CNFがPVDFのβ相の結晶を有することがわかる。β相はPVDFの中でも比誘電率が大きい強誘電体である。電界紡糸法では、電界によりポリマーが牽引されることにより分子配向が促進されるため、不織布に含まれる繊維中の第2相内にβ相の結晶が多く形成されたと考えられる。
【0066】
(5-2)WAXDスペクトル
実施例2の不織布(U70-F30-CNF)、比較例1の不織布(U100)、比較例2の不織布(F100)のWAXDスペクトルを測定した。回折角2θ=5°~55°のU70-F30-CNFのスペクトルとU100のスペクトルとの差分スペクトルを
図4に示す。スキャンレートは0.5°/minである。
図4からも、U70-F30-CNFがPVDFのβ相の結晶を有することがわかる。
【0067】
(5-3)電荷量(エレクトレット効果)
市販のクーロンメータを用いて、21℃、湿度31%の雰囲気中で、各不織布が有する電荷量を測定した。次に、不織布を純水に1時間浸漬し、乾燥後、12時間静置した。その後、再度、各不織布が有する電荷量(浸漬後)を測定した。結果の表を
図5示す。
図5には市販のポリプロピレン(PP)製のエレクトレットマスクについて同様の測定を行った結果も示す。
【0068】
図5より、実施例1~3の不織布(U80-F20-CNF、U70-F30-CNF、U60-F40-CNF)では、水に浸漬する前後で、電荷量に大差がなく、エレクトレット効果が持続していることがわかる。また、β相が多く存在することにより、高いエレクトレット特性を示したと考えられる。一方、比較例2の不織布(F100)は、初期には多くの電荷を有するものの、水に浸漬後では電荷がほとんど失われている。また、市販のポリプロピレン(PP)製のエレクトレットマスクでは、初期は実施例1~3と同程度の電荷を有するものの、水に浸漬後では電荷がほとんど失われている。
【0069】
(5-4)引張強度および靭性
市販の測定装置を用いて、引張速度0.05mm/sec、試験数3の条件で、各不織布の引張強度(破断強度)を測定するとともに、不織布の靭性を求めた。引張強度および靭性の結果の表を
図6に示す。
【0070】
図5、6より、PUとPVDFとを相分離させることで、PUまたはPVDF単独の場合よりも、機械的強度が高められ得ることがわかる(特に、PU60-F40-CNF)。PUは破断伸び率が大きいため、PUのマトリックスに、弾性率の大きいPVDFを相分離させた状態で分散させたことで、丈夫で伸縮性に富んだ繊維が得られたものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本開示は、例えば、繊維にエレクトレット効果を付与する場合に適用できる。また、本開示に係る繊維は、圧電繊維材料や焦電繊維材料として利用できる。
【符号の説明】
【0072】
10 微細ファイバ
11 第1相
12 第2相
20 電界紡糸装置
21 シリンジ(ノズル)
22 シリンジポンプ
23 電圧印加装置(帯電手段)
24 回転体(コレクタ部)
【手続補正書】
【提出日】2023-05-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0057
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0057】
(3)エマルジョン溶液の調製
第1液と第2液とを、第1ポリマー(PU)と第2ポリマー(PVDF)とが体積比1:1となるような割合で混合し、ミキサで攪拌して、エマルジョン溶液を調製した。エマルジョン溶液にはCNF(平均直径27nm)を0.1質量%の割合で含ませた。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0060
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0060】
《実施例2》
エマルジョン溶液の調製において、第1液と第2液に、第1ポリマー(PU)と第2ポリマー(PVDF)濃度がそれぞれ14%と6%のものを用いたこと以外、実施例1と同様の手順で、実施例2の不織布(U70-F30-CNF)を作製した。得られた不織布(U70-F30-CNF)において、微細ファイバの平均直径は490nm、不織布の単位面積当たりの質量は6.60g/m2であった。また、微細ファイバ(不織布)に含まれるCNFの含有率は1質量%である。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0061
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0061】
《実施例3》
エマルジョン溶液の調製において、第1液と第2液に、第1ポリマー(PU)と第2ポリマー(PVDF)濃度がそれぞれ12%と8%のものを用いたこと以外、実施例1と同様の手順で、実施例3の不織布(U60-F40-CNF)を作製した。得られた不織布(U60-F40-CNF)において、微細ファイバの平均直径は448nm、不織布の単位面積当たりの質量は5.33g/m2であった。また、微細ファイバ(不織布)に含まれるCNFの含有率は1質量%である。