(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005275
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】筒形防振装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/08 20060101AFI20240110BHJP
F16F 1/38 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
F16F15/08 K
F16F1/38 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022105373
(22)【出願日】2022-06-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 販売日:令和3年12月1日 販売場所:住友理工株式会社(愛知県小牧市東三丁目1番地)
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】弁理士法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】大坪 繁宏
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 友祐
【テーマコード(参考)】
3J048
3J059
【Fターム(参考)】
3J048AA01
3J048BA19
3J048EA15
3J059AB11
3J059BA42
3J059BC06
3J059BD06
3J059GA01
(57)【要約】
【課題】こじり方向の入力に対する優れた耐久性を実現することができる、新規な構造の筒形防振装置を提供する。
【解決手段】筒形防振装置10であって、インナ軸部材12には外周へ突出する膨出部22が設けられており、インナ軸部材12の外周面に開口して周方向に延びるインナ凹溝24が膨出部22の軸方向両外側に設けられて、本体ゴム弾性体16の充填部40がインナ凹溝24内に充填されており、本体ゴム弾性体16の軸方向両端面に開口して周方向に延びるゴム凹溝42が設けられて、ゴム凹溝42の開口端がインナ凹溝24よりも軸方向外方に位置し、且つ、ゴム凹溝42がインナ凹溝24の少なくとも一部と軸直角方向の投影で重なっており、ゴム凹溝42の底面48がそれぞれ曲面とされた中間曲部50と内周曲部52と外周曲部54とによって構成されており、中間曲部50の曲率半径が内周曲部52及び外周曲部54の曲率半径よりも大きくされている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナ軸部材とアウタ筒部材が本体ゴム弾性体によって連結された筒形防振装置であって、
前記インナ軸部材には外周へ突出する膨出部が設けられており、
該インナ軸部材には外周面に開口して周方向に延びるインナ凹溝が該膨出部の軸方向両外側に設けられて、前記本体ゴム弾性体の充填部が該インナ凹溝内に充填されており、
該本体ゴム弾性体の軸方向両端面に開口して周方向に延びるゴム凹溝が設けられて、該本体ゴム弾性体における該ゴム凹溝の開口端が該インナ凹溝よりも軸方向外方に位置しており、且つ、該ゴム凹溝が該インナ凹溝の少なくとも一部と軸直角方向の投影で重なっており、
該ゴム凹溝の底面はそれぞれ曲面とされた中間曲部と内周曲部と外周曲部とによって構成されており、
該中間曲部の曲率半径が該内周曲部及び該外周曲部の曲率半径よりも大きくされている筒形防振装置。
【請求項2】
インナ軸部材とアウタ筒部材が本体ゴム弾性体によって連結された筒形防振装置であって、
前記本体ゴム弾性体の軸方向両端面に開口して周方向に延びるゴム凹溝が設けられており、
前記インナ軸部材には外周へ突出する膨出部が設けられており、
該インナ軸部材には外周面に開口して周方向に延びるインナ凹溝が該膨出部の軸方向両外側にそれぞれ設けられて、該本体ゴム弾性体の充填部が該インナ凹溝内に充填されており、
該本体ゴム弾性体における該ゴム凹溝の開口端が該インナ凹溝よりも軸方向外方に位置しており、且つ、該ゴム凹溝が該インナ凹溝の少なくとも一部と軸直角方向の投影で重なっており、
該インナ軸部材には該インナ凹溝よりも軸方向両外側へ突出する取付部が設けられており、
該インナ軸部材における該取付部と該インナ凹溝との軸方向間には、該取付部よりも外周側へ突出した突出部が周方向に延びて設けられており、
該本体ゴム弾性体における該ゴム凹溝よりも内周側の軸方向端が該突出部の外周面上に位置して該充填部よりも薄肉とされている筒形防振装置。
【請求項3】
インナ軸部材とアウタ筒部材が本体ゴム弾性体によって連結された筒形防振装置であって、
前記インナ軸部材には外周へ突出する膨出部が設けられており、
該膨出部の表面が縦断面において円弧状とされて、該膨出部の該表面の曲率中心が該インナ軸部材の中心に対して該膨出部の突出先端側へずれており、
該インナ軸部材には外周面に開口して周方向に延びるインナ凹溝が該膨出部の軸方向両外側にそれぞれ設けられて、前記本体ゴム弾性体の充填部が該インナ凹溝内に充填されており、
該本体ゴム弾性体の軸方向端面に開口して周方向に延びるゴム凹溝が該膨出部の軸方向両外側にそれぞれ設けられて、該本体ゴム弾性体における該ゴム凹溝の開口端が該インナ凹溝よりも軸方向外方に位置しており、且つ、該ゴム凹溝が該インナ凹溝の少なくとも一部と軸直角方向の投影で重なっている筒形防振装置。
【請求項4】
前記インナ凹溝の全体が前記アウタ筒部材の軸方向端よりも軸方向内側に位置している請求項1~3の何れか一項に記載の筒形防振装置。
【請求項5】
前記本体ゴム弾性体の内周端部が、軸方向において前記インナ凹溝よりも外側且つ前記アウタ筒部材の軸方向端よりも内側に位置している請求項4に記載の筒形防振装置。
【請求項6】
前記本体ゴム弾性体における前記充填部よりも軸方向内側には、該充填部の最大厚さ寸法よりも厚さ寸法が小さい薄肉部が設けられている請求項1~3の何れか一項に記載の筒形防振装置。
【請求項7】
前記アウタ筒部材は、前記インナ軸部材の前記膨出部と軸直角方向で対向する部分が軸方向両端部よりも内径寸法の大きい大径筒部を備えている請求項1~3の何れか一項に記載の筒形防振装置。
【請求項8】
前記アウタ筒部材における前記大径筒部の軸方向両側には、内周へ向けて突出するように厚肉とされて該大径筒部よりも内径寸法が小さくされた小径筒部がそれぞれ設けられて、該小径筒部が前記インナ凹溝と径方向で対向して該インナ凹溝の外周に位置している請求項7に記載の筒形防振装置。
【請求項9】
前記ゴム凹溝は軸直角方向の溝幅寸法が軸方向の溝深さ寸法よりも大きくされている請求項1~3の何れか一項に記載の筒形防振装置。
【請求項10】
前記ゴム凹溝の底面がそれぞれ曲面とされた中間曲部と内周曲部と外周曲部とによって構成されており、
該内周曲部の曲率半径が該外周曲部の曲率半径以下とされている請求項1~3の何れか一項に記載の筒形防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば鉄道用車両の台車等に用いられる筒形防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、鉄道用車両の台車等には、例えば特表2008-509344号公報(特許文献1)のようなエラストメリック・ベアリングが用いられている。エラストメリック・ベアリングは、インナ軸部材とアウタ筒部材の径方向間に複数の非弾性積層材と複数の弾性積層材とが交互に積層配置された構造を有しており、ねじり方向の柔らかいばねを得ながら、こじり方向の入力に対する耐久性を確保することが期待されている。
【0003】
また、構造が複雑なエラストメリック・ベアリングに代えて、筒形防振装置を適用することも検討されている。筒形防振装置は、例えば特開2020-067157号公報(特許文献2)に示された防振ブッシュのように、インナ軸部材とアウタ筒部材が本体ゴム弾性体によって連結された構造を有しており、複数の非弾性積層材と複数の弾性積層材とが交互に積層配置されたエラストメリック・ベアリングに比して、構造を簡略にすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008-509344号公報
【特許文献2】特開2020-067157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、例えば鉄道用車両の台車や自動車のサスペンション機構に筒形防振装置を適用する場合などには、こじり方向において繰り返し入力される荷重に耐え得る耐久性が求められる。例えば、特許文献2の防振ブッシュは、本体ゴム弾性体の軸方向端部の形状によってこじり入力に対する耐久性の向上が図られている。
【0006】
しかしながら、例えば鉄道用車両の台車のようなこじり方向の入力荷重が特に大きい部位に筒形防振装置を適用する場合において、自動車のサスペンション機構への適用を主とする特許文献2のような従来構造の筒形防振装置では、こじり方向の入力に対する耐久性が未だ不十分であった。
【0007】
本発明の解決課題は、こじり方向の入力に対する優れた耐久性を実現することができる、新規な構造の筒形防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、本発明を把握するための好ましい態様について記載するが、以下に記載の各態様は、例示的に記載したものであって、適宜に互いに組み合わせて採用され得るだけでなく、各態様に記載の複数の構成要素についても、可能な限り独立して認識及び採用することができ、適宜に別の態様に記載の何れかの構成要素と組み合わせて採用することもできる。それによって、本発明では、以下に記載の態様に限定されることなく、種々の別態様が実現され得る。
【0009】
第一の態様は、インナ軸部材とアウタ筒部材が本体ゴム弾性体によって連結された筒形防振装置であって、前記インナ軸部材には外周へ突出する膨出部が設けられており、該インナ軸部材には外周面に開口して周方向に延びるインナ凹溝が該膨出部の軸方向両外側に設けられて、前記本体ゴム弾性体の充填部が該インナ凹溝内に充填されており、該本体ゴム弾性体の軸方向両端面に開口して周方向に延びるゴム凹溝が設けられて、該本体ゴム弾性体における該ゴム凹溝の開口端が該インナ凹溝よりも軸方向外方に位置しており、且つ、該ゴム凹溝が該インナ凹溝の少なくとも一部と軸直角方向の投影で重なっており、該ゴム凹溝の底面はそれぞれ曲面とされた中間曲部と内周曲部と外周曲部とによって構成されており、該中間曲部の曲率半径が該内周曲部及び該外周曲部の曲率半径よりも大きくされているものである。
【0010】
本態様に従う構造とされた筒形防振装置によれば、インナ軸部材に膨出部が設けられていることによって、こじり方向の入力(インナ軸部材とアウタ筒部材とを相対傾動させる入力)時に本体ゴム弾性体に作用する引張応力の低減による耐久性の確保を図りながら、膨出部の外周において本体ゴム弾性体の軸直角方向の厚さを制限することにより、軸直角方向のばねを硬く設定することができる。
【0011】
膨出部の軸方向両外側にインナ凹溝が設けられて、インナ凹溝に固着される本体ゴム弾性体(充填部)の厚さが確保されていることにより、こじり方向の入力時に本体ゴム弾性体の歪が充填部において低減されて、本体ゴム弾性体の耐久性の向上が図られる。
【0012】
本体ゴム弾性体の軸方向端面に開口するゴム凹溝が設けられていることによって、こじり方向の入力時に本体ゴム弾性体の軸方向端部に作用する圧縮力と引張力が低減されて耐久性の向上が図られる。
【0013】
ゴム凹溝の少なくとも一部がインナ凹溝と軸直角方向の投影において重なっていることから、こじり方向の入力がインナ凹溝内の充填部に直接的に作用せずに、ゴム凹溝よりも軸方向内側の本体ゴム弾性体の変形が充填部まで伝達されることによって、本体ゴム弾性体の歪が低減される。
【0014】
ゴム凹溝の底面の径方向中間部分を構成する中間曲部の曲率半径が、ゴム凹溝の底面の内周端部及び外周端部を構成する内周曲部及び外周曲部の曲率半径よりも大きくされていることによって、本体ゴム弾性体の軸方向寸法を確保しながら、ゴム凹溝の溝幅寸法を大きく設定することができる。それゆえ、ゴム凹溝の内面において本体ゴム弾性体の自由表面が大きく確保されて、本体ゴム弾性体の耐久性の向上が図られる。
【0015】
第二の態様は、インナ軸部材とアウタ筒部材が本体ゴム弾性体によって連結された筒形防振装置であって、前記本体ゴム弾性体の軸方向両端面に開口して周方向に延びるゴム凹溝が設けられており、前記インナ軸部材には外周へ突出する膨出部が設けられており、該インナ軸部材には外周面に開口して周方向に延びるインナ凹溝が該膨出部の軸方向両外側にそれぞれ設けられて、該本体ゴム弾性体の充填部が該インナ凹溝内に充填されており、該本体ゴム弾性体における該ゴム凹溝の開口端が該インナ凹溝よりも軸方向外方に位置しており、且つ、該ゴム凹溝が該インナ凹溝の少なくとも一部と軸直角方向の投影で重なっており、該インナ軸部材には該インナ凹溝よりも軸方向両外側へ突出する取付部が設けられており、該インナ軸部材における該取付部と該インナ凹溝との軸方向間には、該取付部よりも外周側へ突出した突出部が周方向に延びて設けられており、該本体ゴム弾性体における該ゴム凹溝よりも内周側の軸方向端が該突出部の外周面上に位置して該充填部よりも薄肉とされているものである。
【0016】
本態様に従う構造とされた筒形防振装置によれば、インナ軸部材に膨出部が設けられていることによって、こじり方向の入力(インナ軸部材とアウタ筒部材とを相対傾動させる入力)時に本体ゴム弾性体に作用する引張応力の低減による耐久性の確保を図りながら、膨出部の外周において本体ゴム弾性体の軸直角方向の厚さを制限することにより、軸直角方向のばねを硬く設定することができる。
【0017】
膨出部の軸方向両外側にインナ凹溝が設けられて、インナ凹溝に固着される本体ゴム弾性体(充填部)の厚さが確保されていることにより、こじり方向の入力時に本体ゴム弾性体の歪が充填部において低減されて、本体ゴム弾性体の耐久性の向上が図られる。
【0018】
本体ゴム弾性体の軸方向端面に開口するゴム凹溝が設けられていることによって、こじり方向の入力時に本体ゴム弾性体の軸方向端部に作用する圧縮力と引張力が低減されて耐久性の向上が図られる。
【0019】
ゴム凹溝の少なくとも一部がインナ凹溝と軸直角方向の投影において重なっていることから、こじり方向の入力がインナ凹溝内の充填部に直接的に作用せずに、ゴム凹溝よりも軸方向内側の本体ゴム弾性体の変形が充填部まで伝達されることによって、本体ゴム弾性体の歪が低減される。
【0020】
インナ凹溝の軸方向外側に突出部が設けられていることにより、こじり方向の入力によって本体ゴム弾性体が軸方向外側へ押し出されるように変形する際に、インナ凹溝内に固着されて厚肉とされた充填部の軸方向外側への変形が突出部によって制限される。これにより、厚肉とされることで変形量が大きくなり易い充填部において、過度な変形による歪の増加および亀裂の発生等が防止されて、耐久性の向上が図られる。
【0021】
また、本体ゴム弾性体の内周端部の軸方向端が充填部よりも薄肉とされており、本体ゴム弾性体の内周端部の軸方向端における変形量が充填部に比して小さくなることから、こじり方向の入力時に本体ゴム弾性体の内周端部の軸方向端面が膨らむような変形を生じ難く、本体ゴム弾性体の耐久性の向上が図られる。
【0022】
第三の態様は、インナ軸部材とアウタ筒部材が本体ゴム弾性体によって連結された筒形防振装置であって、前記インナ軸部材には外周へ突出する膨出部が設けられており、該膨出部の表面が縦断面において円弧状とされて、該膨出部の該表面の曲率中心が該インナ軸部材の中心に対して該膨出部の突出先端側へずれており、該インナ軸部材には外周面に開口して周方向に延びるインナ凹溝が該膨出部の軸方向両外側にそれぞれ設けられて、前記本体ゴム弾性体の充填部が該インナ凹溝内に充填されており、該本体ゴム弾性体の軸方向端面に開口して周方向に延びるゴム凹溝が該膨出部の軸方向両外側にそれぞれ設けられて、該本体ゴム弾性体における該ゴム凹溝の開口端が該インナ凹溝よりも軸方向外方に位置しており、且つ、該ゴム凹溝が該インナ凹溝の少なくとも一部と軸直角方向の投影で重なっているものである。
【0023】
本態様に従う構造とされた筒形防振装置によれば、インナ軸部材に膨出部が設けられていることによって、こじり方向の入力(インナ軸部材とアウタ筒部材とを相対傾動させる入力)時に本体ゴム弾性体に作用する引張応力の低減による耐久性の確保を図りながら、膨出部の外周において本体ゴム弾性体の軸直角方向の厚さを制限することにより、軸直角方向のばねを硬く設定することができる。
【0024】
膨出部の軸方向両外側にインナ凹溝が設けられて、インナ凹溝に固着される本体ゴム弾性体(充填部)の厚さが確保されていることにより、こじり方向の入力時に本体ゴム弾性体の歪が充填部において低減されて、本体ゴム弾性体の耐久性の向上が図られる。
【0025】
本体ゴム弾性体の軸方向端面に開口するゴム凹溝が設けられていることによって、こじり方向の入力時に本体ゴム弾性体の軸方向端部に作用する圧縮力と引張力が低減されて耐久性の向上が図られる。
【0026】
ゴム凹溝の少なくとも一部がインナ凹溝と軸直角方向の投影において重なっていることから、こじり方向の入力がインナ凹溝内の充填部に直接的に作用せずに、ゴム凹溝よりも軸方向内側の本体ゴム弾性体の変形が充填部まで伝達されることによって、本体ゴム弾性体の歪が低減される。
【0027】
円弧状とされた膨出部の表面の曲率中心が、インナ軸部材の中心に対して膨出部の突出先端側へずれていることにより、膨出部の表面の曲率中心がインナ軸部材の中心と一致する場合に比して、膨出部の外周への突出寸法を同じにしながら、膨出部の曲率半径を小さくして軸方向寸法を小さくすることができる。その結果、径方向のばね定数を適切に設定しながら、膨出部の軸方向両外側にインナ凹溝やゴム凹溝を設けるスペースを確保することができる。
【0028】
第四の態様は、第一~第三の何れか1つの態様に記載された筒形防振装置において、前記インナ凹溝の全体が前記アウタ筒部材の軸方向端よりも軸方向内側に位置しているものである。
【0029】
本態様に従う構造とされた筒形防振装置によれば、例えば、インナ軸部材におけるアウタ筒部材よりも軸方向外側に突出した部分が取付対象部材への取付部とされる場合等において、取付部の形状がインナ凹溝の形成によって制限されるのを回避することができる。
【0030】
第五の態様は、第四の態様に記載された筒形防振装置において、前記本体ゴム弾性体の内周端部が、軸方向において前記インナ凹溝よりも外側且つ前記アウタ筒部材の軸方向端よりも内側に位置しているものである。
【0031】
本態様に従う構造とされた筒形防振装置によれば、例えば、インナ軸部材におけるアウタ筒部材よりも軸方向外側に突出した部分が取付対象部材への取付部とされる場合等において、取付対象部材への取付構造が本体ゴム弾性体の固着によって制限されるのを回避することができる。
【0032】
第六の態様は、第一~第五の何れか1つの態様に記載された筒形防振装置において、前記本体ゴム弾性体における前記充填部よりも軸方向内側には、該充填部の最大厚さ寸法よりも厚さ寸法が小さい薄肉部が設けられているものである。
【0033】
本態様に従う構造とされた筒形防振装置によれば、ゴム凹溝よりも軸方向内側における本体ゴム弾性体の変形が充填部へ伝達される際に、ゴム凹溝よりも軸方向内側における本体ゴム弾性体の変形が薄肉部によって拘束されて、充填部に伝達される変形量が薄肉部によって調節される。それゆえ、本体ゴム弾性体の過度な変形による損傷が防止されて、耐久性の向上が図られる。
【0034】
第七の態様は、第一~第六の何れか1つの態様に記載された筒形防振装置において、前記アウタ筒部材は、前記インナ軸部材の前記膨出部と軸直角方向で対向する部分が軸方向両端部よりも内径寸法の大きい大径筒部を備えているものである。
【0035】
本態様に従う構造とされた筒形防振装置によれば、膨出部とアウタ筒部材の大径筒部との径方向間において本体ゴム弾性体のゴムボリュームを調節することができる。それゆえ、例えば、軸直角方向のばね特性と、こじり方向の入力に対する本体ゴム弾性体の耐久性とのバランスを適切に設定し易くなる。
【0036】
第八の態様は、第七の態様に記載された筒形防振装置において、前記アウタ筒部材における前記大径筒部の軸方向両側には、内周へ向けて突出するように厚肉とされて該大径筒部よりも内径寸法が小さくされた小径筒部がそれぞれ設けられて、該小径筒部が前記インナ凹溝と径方向で対向して該インナ凹溝の外周に位置しているものである。
【0037】
本態様に従う構造とされた筒形防振装置によれば、大径筒部において本体ゴム弾性体のゴムボリュームを確保しつつ、小径筒部においてばね特性を調節することができる。特に、本体ゴム弾性体の軸方向端部は、小径筒部の内周に位置することで径方向幅寸法が小さくされており、アウタ筒部材を縮径加工する場合に圧縮率が高くなることから、引張荷重の入力に対する本体ゴム弾性体の耐久性の向上が図られる。
【0038】
第九の態様は、第一~第八の何れか1つの態様に記載された筒形防振装置において、前記ゴム凹溝は軸直角方向の溝幅寸法が軸方向の溝深さ寸法よりも大きくされているものである。
【0039】
本態様に従う構造とされた筒形防振装置によれば、ゴム凹溝の溝深さ寸法が小さくされていることで、本体ゴム弾性体のゴムボリュームが確保されて、軸直ばねの設定等が可能となると共に、ゴム凹溝の溝幅寸法が大きくされていることで、本体ゴム弾性体の軸方向端の自由長が確保されて、こじり入力時の耐久性の向上が図られる。
【0040】
第十の態様は、第一~第九の何れか1つの態様に記載された筒形防振装置において、前記ゴム凹溝の底面がそれぞれ曲面とされた中間曲部と内周曲部と外周曲部とによって構成されており、該内周曲部の曲率半径が該外周曲部の曲率半径以下とされているものである。
【0041】
本態様に従う構造とされた筒形防振装置によれば、ゴム凹溝の深さを深くすることなくゴム凹溝の内周曲部を局所的にインナ軸部材に接近させ易くなることから、内周曲部のインナ軸部材への接近部分において本体ゴム弾性体の変形量を調節することができて、本体ゴム弾性体の耐久性の向上が図られる。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、筒形防振装置において、こじり方向の入力に対する優れた耐久性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】本発明の第一実施形態としての筒形防振装置を示す断面図であって、
図2のI-I断面に相当する図
【
図5】本発明の第二実施形態としての筒形防振装置を示す断面図であって、
図6のV-V断面に相当する図
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0045】
図1~
図4には、本発明の第一実施形態として、鉄道用車両の台車に用いられる筒形防振装置10が示されている。筒形防振装置10は、インナ軸部材12とアウタ筒部材14が本体ゴム弾性体16によって弾性連結された構造を有している。以下の説明において、原則として、上下方向とは
図1中の上下方向を、左右方向とは
図2中の上下方向を、前後方向とは軸方向である
図1中の左右方向を、それぞれ言う。また、周方向とは、原則として、インナ軸部材12及びアウタ筒部材14の周方向を言う。
【0046】
インナ軸部材12は、金属等で形成された高剛性の部材であって、全体として円柱形状とされた中央部18と、中央部18から軸方向の両外側へ突出する一対の取付部20,20とを備えている。
【0047】
中央部18は、外周へ向けて突出する膨出部22を備えている。膨出部22は、円弧を中心軸回りで回転させた回転体形状の表面を有しており、外周へ向けて軸方向の長さ寸法が徐々に小さくなっている。
図1,
図2に示すように、縦断面において、膨出部22の表面は円弧状とされており、膨出部22の表面の曲率中心C1は、インナ軸部材12における膨出部22が設けられた部分の中心C0(以下、インナ軸部材12の中心C0)を通るインナ中心軸に対して、膨出部22の突出先端側へ距離dだけずれた位置に設定されている。インナ軸部材12の中心C0を通るインナ中心軸と膨出部22の表面の曲率中心C1との距離dは、特に限定されないが、例えば、膨出部22の表面の曲率半径よりも小さいことが望ましく、これによって膨出部22の表面の曲率半径が過度に小さくなるのを防ぐことができる。なお、膨出部22の表面の曲率中心C1は、軸方向においてインナ軸部材12の中心C0と同じ位置に設定されている。膨出部22の表面の曲率中心C1は、インナ軸部材12の中心C0を中心とする円弧状に周方向で連続しており、
図1,
図2にも示すように、縦断面においてインナ軸部材12の中心C0に対する径方向両側に位置している。
【0048】
中央部18における膨出部22の軸方向両側には、それぞれインナ凹溝24が設けられている。インナ凹溝24は、中央部18の外周面に開口しながら、中央部18の周方向の全周に亘って連続して延びている。インナ凹溝24は、溝内面が凹状の湾曲断面形状とされており、溝幅方向(軸方向)の中間に向けて深くなっている。インナ凹溝24は、湾曲面で構成された滑らかな内面形状を有しており、軸方向内側の端部が膨出部22の表面に滑らかに連続していると共に、軸方向外側の端部が後述する突出部26の表面に滑らかに連続している。
【0049】
中央部18におけるインナ凹溝24,24よりも軸方向外側には、外周へ突出する突出部26がそれぞれ設けられている。突出部26は、軸方向内側の端面がインナ凹溝24の溝内面と連続する湾曲面とされていると共に、軸方向外側の端面が軸直角方向に広がる段差状面28とされている。突出部26の突出先端面は、軸方向にストレートに延びる筒状先端面30とされている。突出部26は、周方向の全周に亘って略一定の断面形状で連続的に設けられている。突出部26の外周への突出高さは、膨出部22の外周への突出高さよりも小さくされており、例えばインナ凹溝24の深さ寸法以下とされている。尤も、突出部26の外周への突出高さは、インナ凹溝24の深さ寸法より大きくされていてもよい。
【0050】
中央部18における突出部26,26よりも軸方向外側には、円柱形状の接続部32がそれぞれ設けられている。接続部32は、突出部26よりも外径寸法が小さくされており、突出部26の接続部32側の軸方向端面が段差状面28とされている。
【0051】
取付部20は、略矩形板状とされており、
図3に示すように、厚さ方向(左右方向)の両面が平面とされて二面幅を構成すると共に、幅方向(上下方向)の両面が周方向に広がる湾曲面とされている。取付部20には、厚さ方向に貫通する円形のボルト孔34が形成されている。取付部20は、インナ凹溝24よりも軸方向外側に設けられており、インナ凹溝24と取付部20との間に、取付部20よりも外周へ突出する突出部26が周方向に延びて設けられている。
【0052】
アウタ筒部材14は、略円筒形状とされており、
図1,
図2に示すように、内径寸法がインナ軸部材12の最大外径寸法である膨出部22の最大外径寸法よりも大きくされている。アウタ筒部材14は、外周面が軸方向の全長に亘って軸方向にストレートに延びる円筒面とされている。アウタ筒部材14は、内周面の軸方向中央部分が内周へ向けて開口する凹状面35とされている。凹状面35は、縦断面において、軸方向両端部が軸方向内側へ向けて外周へ傾斜するテーパー状とされていると共に、軸方向中央部分が軸方向にストレートに延びる円筒面とされている。凹状面35は、略一定の断面形状で周方向の全周に亘って連続して延びている。凹状面35の軸方向寸法は、インナ軸部材12における膨出部22の軸方向寸法以上とされている。尤も、凹状面35の軸方向寸法は、インナ軸部材12における膨出部22の軸方向寸法以下であってもよい。
【0053】
アウタ筒部材14の軸方向中央部分は、凹状面35が設けられていることによって、軸方向端部よりも内径寸法が大きくされた大径筒部36とされている。大径筒部36は、軸方向端部(後述する小径筒部38)に比して、径方向で薄肉とされている。アウタ筒部材14における凹状面35よりも軸方向外側は、大径筒部36に対して相対的に内周側へ突出して厚肉とされた小径筒部38とされている。小径筒部38の内周面は、軸方向にストレートに延びる円筒面とされている。
【0054】
インナ軸部材12の中央部18とアウタ筒部材14は軸方向の中央及び径方向の中央が相互に一致するように配されており、インナ軸部材12がアウタ筒部材14に挿通されている。インナ軸部材12は、突出部26,26がアウタ筒部材14の軸方向端よりも内側に位置していると共に、接続部32がアウタ筒部材14の軸方向端よりも外側に位置している。インナ軸部材12の膨出部22は、アウタ筒部材14の凹状面35に対して内周側に離隔して対向配置されており、膨出部22の軸方向中央と凹状面35の軸方向中央とが軸方向において略同じ位置となっている。膨出部22の表面は、凹状面35に対して軸方向中央で最接近しており、軸方向外側へ向けて離隔距離が次第に大きくなっている。アウタ筒部材14の小径筒部38は、インナ凹溝24と径方向で対向して、インナ凹溝24に対して外周側に離隔配置されている。インナ凹溝24,24は、全体がアウタ筒部材14の軸方向端よりも軸方向内側に位置している。なお、インナ軸部材12の中央部18の中央とアウタ筒部材14の中央とは、軸方向と径方向の少なくとも一方において相互にずれていてもよく、例えば、本体ゴム弾性体16の加硫成形後の熱収縮やアウタ筒部材14の絞り加工によって、それら中央が相互にずれる場合もある。また、突出部26,26は、アウタ筒部材14の軸方向端よりも軸方向外側に位置していてもよい。
【0055】
インナ軸部材12とアウタ筒部材14の径方向間には、本体ゴム弾性体16が配されている。本体ゴム弾性体16は、略円筒形状とされており、内周面がインナ軸部材12の中央部18の外周面に固着されていると共に、外周面がアウタ筒部材14の内周面に固着されている。そして、インナ軸部材12とアウタ筒部材14が本体ゴム弾性体16によって相互に弾性連結されている。本体ゴム弾性体16は、例えば、インナ軸部材12とアウタ筒部材14を備える一体加硫成形品として形成されている。本体ゴム弾性体16の加硫成形後の熱収縮による引張応力を緩和するために、本体ゴム弾性体16の成形後にアウタ筒部材14を縮径加工(絞り加工)することが望ましい。アウタ筒部材14の縮径加工において、例えば、アウタ筒部材14が軸方向全長に亘って略一定の量だけ縮径されてもよいし、アウタ筒部材14の軸方向両端部が軸方向中央部よりも大きく縮径されるなど、アウタ筒部材14の縮径変形量が軸方向で異なっていてもよい。
【0056】
本体ゴム弾性体16の内周端部は、インナ軸部材12に対して、膨出部22の表面と、インナ凹溝24の溝内面と、突出部26の表面とにおいて固着されている。本体ゴム弾性体16の内周端部の軸方向両端は、突出部26,26の筒状先端面30,30上に位置しており、突出部26,26の段差状面28,28が本体ゴム弾性体16に覆われることなく露出している。本体ゴム弾性体16の内周端部の軸方向端は、アウタ筒部材14の軸方向端よりも軸方向内側に位置していることが望ましい。本体ゴム弾性体16におけるインナ凹溝24への固着部分は、本体ゴム弾性体16の内周端部の軸方向端よりも厚肉の充填部40とされている。充填部40は、インナ凹溝24の全体に充填されていると共に、インナ凹溝24の開口端よりも外周側まで設けられている。なお、段差状面28,28及び接続部32,32の外周面は、本体ゴム弾性体16から延び出した薄肉のゴムによって覆われる場合もある。本体ゴム弾性体16の内周端部の軸方向端は、アウタ筒部材14の軸方向端と同じ位置まで延びていてもよいし、アウタ筒部材14の軸方向端よりも軸方向外側まで突出していてもよい。
【0057】
本体ゴム弾性体16の外周端部は、アウタ筒部材14に対して、凹状面35よりも軸方向外側まで延び出していると共に、アウタ筒部材14の軸方向端よりも軸方向内側に位置しており、軸方向両端が小径筒部38の内周面上に位置している。本実施形態では、本体ゴム弾性体16の内周端部と外周端部の各軸方向端の軸方向位置が、互いに略同じとされている。なお、本体ゴム弾性体16の外周端部は、アウタ筒部材14の軸方向端と同じ位置まで延びていてもよいし、アウタ筒部材14の軸方向端よりも軸方向外側まで突出していてもよい。
【0058】
本体ゴム弾性体16の軸方向両端部には、ゴム凹溝42がそれぞれ形成されている。ゴム凹溝42は、本体ゴム弾性体16の軸方向端面に開口して、周方向全周に亘って略一定の断面形状で延びている。ゴム凹溝42の溝内面は、
図1に拡大して示すように、それぞれ軸方向にストレートに延びる内周側面44及び外周側面46と、それら内外周側面44,46をつなぐ底面48とを、有している。ゴム凹溝42は、径方向の溝幅寸法が軸方向に溝深さ寸法よりも大きくされた溝断面形状を有している。ゴム凹溝42の内周側面44を有する内周側壁部が、本体ゴム弾性体16の内周側の軸方向端部とされて、インナ軸部材12に固着されていると共に、ゴム凹溝42の外周側面46を有する外周側壁部が、本体ゴム弾性体16の外周側の軸方向端部とされて、アウタ筒部材14に固着されている。ゴム凹溝42の内周側壁部である本体ゴム弾性体16の内周側の軸方向端部は、軸方向内側部分がインナ凹溝24に固着された充填部40とされていると共に、軸方向外側部分が突出部26の筒状先端面30に固着されて、充填部40よりも薄肉とされている。本体ゴム弾性体16の内周側の軸方向端は、軸方向において、インナ凹溝24よりも軸方向外側、且つアウタ筒部材14の軸方向端よりも軸方向内側に位置している。ゴム凹溝42の外周側壁部である本体ゴム弾性体16の外周側の軸方向端部は、略全体がアウタ筒部材14の小径筒部38に固着されて、略一定の厚さとされている。
【0059】
ゴム凹溝42の開口の軸方向位置は、インナ凹溝24よりも軸方向外側に位置しており、突出部26の外周側とされている。ゴム凹溝42は、インナ凹溝24と軸直角方向の投影において重なっており、ゴム凹溝42の底面48は、軸方向において、インナ軸部材12のインナ凹溝24にまで達している。ゴム凹溝42は、アウタ筒部材14の凹状面35と軸直角方向の投影において重なっており、ゴム凹溝42の底面48は、アウタ筒部材14の凹状面35にまで達している。
【0060】
ゴム凹溝42の底面48は、中間曲部50と、内周曲部52と、外周曲部54とによって構成された湾曲面とされている。中間曲部50は、本実施形態では凹状湾曲面であって、縦断面における曲率半径がRaとされた円弧状の縦断面形状を有している。本実施形態の中間曲部50は、内周端と外周端が軸方向において略同じ位置とされており、曲率中心が径方向の略中央に位置している。内周曲部52は、内周側面44と中間曲部50とをつなぐ凹状湾曲面であって、縦断面における曲率半径がRbとされた円弧状の縦断面形状を有している。外周曲部54は、外周側面46と中間曲部50とをつなぐ凹状湾曲面であって、縦断面における曲率半径がRcとされた円弧状の縦断面形状を有している。
【0061】
中間曲部50の曲率半径Raは、内周曲部52の曲率半径Rb及び外周曲部54の曲率半径Rcよりも大きくされている。また、内周曲部52の曲率半径Rbは、外周曲部54の曲率半径Rcよりも小さくされている。本実施形態では、中間曲部50の曲率半径Raは、内周曲部52の曲率半径Rbと外周曲部54の曲率半径Rcの合計よりも大きくされている。例えば、中間曲部50の曲率半径Raは、内周曲部52の曲率半径Rbの1.4倍~100倍の範囲であることが望ましい。また、外周曲部54の曲率半径Rcは、内周曲部52の曲率半径Rbの1.1倍~10倍の範囲であることが望ましい。
【0062】
本体ゴム弾性体16は、ゴム凹溝42の底面48とインナ軸部材12の膨出部22との間において、部分的に薄肉となっている。この薄肉部56は、厚さ寸法tが充填部40の最大厚さ寸法Tよりも小さくされている。従って、充填部40の両側には、充填部40の最大厚さ寸法Tよりも薄肉とされた部分がそれぞれ設けられている。
【0063】
かくの如き構造とされた筒形防振装置10は、例えば、インナ軸部材12の取付部20,20がボルト孔34,34に挿通される図示しないボルトによって図示しない鉄道の台車、車体、軸箱等に取り付けられると共に、アウタ筒部材14が図示しない鉄道用台車のリンクやダンパ類の端部に設けられた筒状部に圧入固定される。
【0064】
このような鉄道用台車への装着状態において、筒形防振装置10は、インナ軸部材12とアウタ筒部材14の相対傾動によるこじり方向の入力(こじり入力)に対して、高い耐久性が求められる。
【0065】
そこで、本実施形態の筒形防振装置10は、インナ軸部材12に膨出部22が設けられており、こじり入力時に本体ゴム弾性体16が主としてせん断変形を生じることから、過度な引張による本体ゴム弾性体16の亀裂の発生等が回避される。本実施形態では、アウタ筒部材14における膨出部22との対向面が凹状面35とされていることから、こじり入力時の歪の低減がより効果的に実現され得る。なお、こじり方向の入力に対する本体ゴム弾性体16の亀裂等の損傷は、本体ゴム弾性体16の軸方向端部や本体ゴム弾性体16のインナ軸部材12及びアウタ筒部材14への接合面、本体ゴム弾性体16の内部等において発生し得るが、本実施形態に係る筒形防振装置10によれば、それら損傷の発生が想定される部位の何れにおいても、損傷抑制効果が発揮され得る。
【0066】
本体ゴム弾性体16の軸方向端部にゴム凹溝42が設けられており、こじり入力時に本体ゴム弾性体16の軸方向端部がインナ軸部材12とアウタ筒部材14の間で大きく圧縮変形又は引張変形し難くなっている。これにより、こじり入力に際して、本体ゴム弾性体16の軸方向端部における亀裂の発生などが回避される。
【0067】
ゴム凹溝42の底面48は、曲率半径の大きい中間曲部50と、中間曲部50よりも曲率半径の小さい内周曲部52及び外周曲部54とを備えている。これにより、ゴム凹溝42の底面48の径方向幅が大きく確保されており、ゴム凹溝42の径方向での自由長の確保によって耐久性の向上が図られている。本実施形態のゴム凹溝42は、深さ寸法Dよりも幅寸法Wが大きくされた扁平な溝断面形状を有しており、深さを過度に深く設定することなく径方向の自由長を確保することができる。
【0068】
インナ軸部材12における膨出部22の軸方向両側には、それぞれインナ凹溝24が設けられており、インナ凹溝24内に本体ゴム弾性体16の充填部40が配されている。充填部40はインナ凹溝24内に設けられることで比較的に厚肉とされており、こじり入力時に充填部40が変形することによって、本体ゴム弾性体16の歪、更には本体ゴム弾性体16の内周側の軸方向端部における歪が低減される。
【0069】
ゴム凹溝42がインナ凹溝24に対して軸直角方向の投影において重なる深さで設けられていることにより、本体ゴム弾性体16における充填部40よりも軸方向内側に薄肉部56が設けられている。これにより、本体ゴム弾性体16における薄肉部56よりも軸方向内側部分(インナ軸部材12の膨出部22に固着された軸方向中央部分)と充填部40との間での変形伝達率が、薄肉部56で調節されて、充填部40の過度な変形による損傷が防止される。
【0070】
本実施形態のゴム凹溝42は、底面48において内周曲部52の曲率半径Rbが外周曲部54の曲率半径Rcよりも小さくされていることから、ゴム凹溝42をインナ軸部材12に対して狭い範囲で局所的に接近させ易く、本体ゴム弾性体16のゴムボリュームを確保しながら、充填部40の変形を制限することができる。
【0071】
インナ軸部材12の膨出部22の曲率中心C1が、インナ軸部材12の中心C0に対して、膨出部22の突出先端側にずれている。これにより、膨出部22は、インナ軸部材12の中心C0を曲率中心とする球状表面を有する場合に比して、表面の曲率半径が小さくされて、外周端の位置が同じであれば、軸方向の長さ寸法が小さくなっている。それゆえ、軸直角方向のばね特性を適切に設定しながら、膨出部22の軸方向両外側においてアウタ筒部材14の軸方向端よりも内側にインナ凹溝24やゴム凹溝42等の形成スペースを確保することができる。
【0072】
本体ゴム弾性体16の軸方向端面は、膨出部22よりも軸方向の外側に位置していることによって、径方向の自由長が大きく確保されている。これにより、ねじり方向の入力に対する耐久性の向上が図られる。また、膨出部22の外周側では本体ゴム弾性体16の径方向の厚さ寸法が小さくなることから、本体ゴム弾性体16の軸直方向のばねを硬く設定することができる。
【0073】
本体ゴム弾性体16におけるゴム凹溝42よりも内周側の軸方向端部が、充填部40よりも軸方向外側でインナ軸部材12の突出部26に固着されており、充填部40よりも径方向で薄肉とされている。これにより、本体ゴム弾性体16の変形に際して、本体ゴム弾性体16の内周の軸方向端面が過度に変形し難く、軸方向端面の損傷が防止される。インナ軸部材12への固着による拘束力が大きく作用する薄肉の軸方向端部が、比較的に厚肉とされた充填部40の軸方向外側に設けられていることにより、充填部40が変形する際にも、本体ゴム弾性体16の内周部分における軸方向端面の変形が抑制される。
【0074】
図5,
図6には、本発明の第二実施形態としての筒形防振装置60が示されている。筒形防振装置60は、インナ軸部材12とアウタ筒部材62が本体ゴム弾性体64によって連結された構造を有している。以下の説明において、第一実施形態と実質的に同一の部材及び部位については、図中に同一の符号を付すことにより、説明を省略する。
【0075】
アウタ筒部材62は、内周面が軸方向に直線的に延びる円筒面とされており、内周面に凹状面35を備えておらず、軸方向の全長に亘って略一定の厚さ寸法とされている。
【0076】
本体ゴム弾性体64は、軸方向の両端部にそれぞれゴム凹溝66を備えている。ゴム凹溝66は、
図5に拡大して示すように、底面48を構成する中間曲部50の曲率半径Raが内周曲部52の曲率半径Rb及び外周曲部54の曲率半径Rcよりも大きくされていると共に、内周曲部52の曲率半径Rbと外周曲部54の曲率半径Rcとが同じ大きさとされている。また、中間曲部50の曲率中心は、径方向において、ゴム凹溝66の内周側面44よりも外周側面46に近い位置に設定されており、ゴム凹溝66の最深部がゴム凹溝42の幅方向中央よりも外周側に位置している。従って、ゴム凹溝66は、内周端部の深さ寸法が外周端部の深さ寸法よりも小さくされている。
【0077】
このような本実施形態の筒形防振装置60によっても、各方向でのばね特性を適切に設定しながら、こじり方向の入力に対する耐久性の向上が図られる。
【0078】
なお、第一実施形態の本体ゴム弾性体16と第二実施形態のアウタ筒部材62を組み合わせて採用することもできるし、第二実施形態の本体ゴム弾性体64と第一実施形態のアウタ筒部材14とを組み合わせて採用することもできる。
【0079】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、ゴム凹溝42は、インナ凹溝24よりも軸方向内側まで達する深さとされていてもよく、底面48が膨出部22の外周側に位置し得る。
【0080】
ゴム凹溝の底面を構成する中間曲部は、必ずしも凹状湾曲面に限定されない。例えば、凸状湾曲面や曲率半径が無限大の曲面である平面を少なくとも一部に有する形態等とされていてもよい。中間曲部が凸状湾曲面や平面とされている場合にも、中間曲部の曲率半径が内周曲部の曲率半径及び外周曲部の曲率半径よりも大きくされる。
【0081】
中間曲部は、予め凹状湾曲面として成形されていてもよいし、平面又は凸状湾曲面として成形された後、絞り加工によって凹状湾曲面となるようにしてもよい。同様に、中間曲部は、予め凸状湾曲面として成形されていてもよいし、平面又は凹状湾曲面として成形された後、絞り加工によって凸状湾曲面となるようにしてもよい。
【0082】
中間曲部と内周曲部と外周曲部は、全体に亘って曲率半径が一定とされた円弧状湾曲面に限定されない。特に、絞り加工後には、各曲部においてそれぞれ曲率半径が一定とならない場合もある。各曲部の曲率半径が一定ではない場合に、前記第一の態様に係る筒形防振装置は、中間曲部の曲率半径の最大値が、内周曲部の曲率半径の最大値及び外周曲部の曲率半径の最大値よりも大きくされていればよい。
【0083】
前記実施形態では、周方向の全周に亘って一定の溝断面形状で延びるゴム凹溝42(66)を例示したが、ゴム凹溝の溝断面形状は周方向で変化していてもよい。例えば、ゴム凹溝の溝幅寸法と溝深さ寸法の少なくとも一方が周方向で変化していてもよいし、ゴム凹溝の溝幅寸法と溝深さ寸法を維持しながら断面形状が変化していてもよい。
【0084】
ゴム凹溝は、必ずしも全周に亘って連続して延びる環状の溝に限定されず、例えば、周方向で部分的に設けられていてもよい。より具体的には、例えば、本体ゴム弾性体16の径方向両側にそれぞれ半周に満たない長さで周方向に延びるゴム凹溝を設けてもよい。また、例えば、ゴム凹溝は、軸方向視でC字環状とされて一周に満たない長さで周方向に延びる1つが設けられていてもよいし、周方向で3つ以上が設けられていてもよい。
【0085】
インナ軸部材12の取付部20の構造は、あくまでも一例であって、取付対象の構造に応じて適宜に変更され得る。具体的には、例えば、取付部の正面視の外形が台形状や半円形状等、矩形以外の形状とされていてもよいし、板状に限定されることなくロッド状等であってもよい。また、一対の取付部を相互に異なる形状や大きさとすることもできるし、それら一対の取付部の各連結構造を相互に異ならせることもできる。また、取付部の取付対象に対する連結構造は、ボルト固定に限定されず、ピン固定、嵌合、圧入、或いはそれらの複合構造などであってもよい。このことからも分かるように、前記実施形態において取付部20に設けられていたボルト孔34は必須ではなく、取付対象との連結構造に応じて適宜に変更される。更に、ボルト孔を長穴として、取付部の取付対象に対する相対的な位置の誤差を許容可能とすることもできる。更にまた、一対の取付部に設けられるボルト孔を相互に異なる直径とすることで、筒形防振装置の取付対象に対する取付方向を規定することもできる。
【0086】
インナ軸部材12の接続部32は、必須ではなく、例えば、突出部26が設けられた部分の軸方向外側に取付部20が直接つながって設けられていてもよい。また、接続部32の具体的な形状は特に限定されず、例えば、軸方向視の外形が板状などの円柱以外の形状であってもよい。
【0087】
また、インナ軸部材12の膨出部22の表面形状は、例えば、縦断面においてインナ軸部材12の中心C0に対する径方向外側に焦点を有する楕円形とされていてもよい。このことからも分かるように、膨出部22の表面の曲率は、一定でなくてもよく、例えば軸方向外側へ向けて小さく又は大きくなるように徐々に又は段階的に変化し得る。また、縦断面において軸方向に直線的に延びる筒状面を膨出部22の突出先端に設定することもできる。また、膨出部22は、縦断面において台形状等であってもよく、円弧状の表面を有するものに限定されない。
【0088】
インナ凹溝は、周方向の全周に亘って一定の溝断面形状に限定されず、周方向で溝断面形状が変化していてもよい。また、インナ凹溝は、必ずしもインナ軸部材の全周に亘って設けられていなくてもよく、周方向で部分的に設けられ得る。更に、周方向で部分的なインナ凹溝を周方向で相互に離れた状態で複数設けることも可能であり、複数のインナ凹溝の溝形状は、相互に同じであってもよいし、相互に異なっていてもよい。
【0089】
前記実施形態のアウタ筒部材14の外周面は、ストレートな円筒形状に限定されず、例えば、内周面の凹状面35と対応する凸状の湾曲面とされていてもよいし、軸方向端部がテーパー状に縮径されて圧入時の案内面とされていてもよい。
【0090】
本発明に係る筒形防振装置は、例示した鉄道用台車に適用される他、例えば、自動車のサスペンションブッシュ、トルクロッドブッシュ、エンジンマウント等にも適用され得る。
【符号の説明】
【0091】
10 筒形防振装置(第一実施形態)
12 インナ軸部材
14 アウタ筒部材
16 本体ゴム弾性体
18 中央部
20 取付部
22 膨出部
24 インナ凹溝
26 突出部
28 段差状面
30 筒状先端面
32 接続部
34 ボルト孔
35 凹状面
36 大径筒部
38 小径筒部
40 充填部
42 ゴム凹溝
44 内周側面
46 外周側面
48 底面
50 中間曲部
52 内周曲部
54 外周曲部
56 薄肉部
60 筒形防振装置(第二実施形態)
62 アウタ筒部材
64 本体ゴム弾性体
66 ゴム凹溝