(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052831
(43)【公開日】2024-04-12
(54)【発明の名称】発泡性飲料用容器および発泡性飲料用容器の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/00 20060101AFI20240405BHJP
A47G 19/00 20060101ALI20240405BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240405BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240405BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20240405BHJP
C08K 3/26 20060101ALI20240405BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20240405BHJP
【FI】
B29C45/00
A47G19/00 A
C08L101/00
C08K3/04
C08K3/34
C08K3/26
C08L1/02
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024026177
(22)【出願日】2024-02-26
(62)【分割の表示】P 2021180680の分割
【原出願日】2021-11-04
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 展示日:令和3年9月8日~10日 展示名:第64回インターナショナルプレミアム・インセンティブショー秋2021 開催場所:東京池袋サンシャインシティ・コンベンションセンター文化会館4F
(71)【出願人】
【識別番号】521484590
【氏名又は名称】株式会社山佳化成
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山佳 慶秀
(57)【要約】
【課題】泡立ちや泡持ちの良い発泡性飲料用容器およびその製造方法を提供する。
【解決手段】
発泡性飲料用容器は、合成樹脂を100重量部と、目開き100μmのメッシュを通過する寸法を有する木炭粉末を25~200重量部とを含む原料樹脂を成形することによって発泡性飲料用容器を成形する成形工程を含む。また、発泡性飲料用容器は、木炭粉末と合成樹脂とを含む発泡性飲料用容器であって、前記合成樹脂100重量部に対して、前記木炭粉末を25~200重量部含む。これにより、泡立ちや泡持ちの良い発泡性飲料用容器を提供することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1μm以上100μm以下の粒子径を有する竹炭粉末と合成樹脂とを含む発泡性飲料用容器であって、前記合成樹脂100重量部に対して、前記竹炭粉末を80~120重量部含み、
前記合成樹脂は、180℃~230℃の射出成形温度を有する樹脂であり、
1μm以上5μm以下の粒子径を有するタルクを、前記合成樹脂100重量部に対して5~15重量部の割合でさらに含む、発泡性飲料用容器。
【請求項2】
前記発泡性飲料用容器の内周面の十点表面粗さが0.9μm以上1.9μm以下である、請求項1に記載の発泡性飲料用容器。
【請求項3】
1μm以上100μm以下の粒子径を有する竹炭粉末と合成樹脂とを含む発泡性飲料用容器であって、前記合成樹脂100重量部に対して、前記竹炭粉末を80~120重量部含み、
前記合成樹脂は、180℃~230℃の射出成形温度を有する樹脂であり、
前記発泡性飲料用容器の内周面の十点表面粗さが0.9μm以上1.9μm以下であり、
タルク、炭酸カルシウムおよびセルロースファイバーの少なくとも一方を、前記合成樹脂100重量部に対して5~15重量部の割合でさらに含む、発泡性飲料用容器。
【請求項4】
前記竹炭粉末の粒子径は、1μm以上46μm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の発泡性飲料用容器。
【請求項5】
合成樹脂を100重量部と、目開き100μmのメッシュを通過する寸法を有する竹炭粉末を80~120重量部と、目開き5μmのメッシュを通過する寸法を有するタルクを5~15重量部とを含む原料樹脂を、80℃~110℃の温度で、2時間~8時間、加熱乾燥する予備乾燥工程と、
前記予備乾燥工程後の前記原料樹脂を成形することによって発泡性飲料用容器を成形する成形工程とを含み、
前記合成樹脂は、180℃~230℃の射出成形温度を有する樹脂である、発泡性飲料用容器の製造方法。
【請求項6】
前記竹炭粉末を、80℃~110℃の温度で、2時間~8時間、加熱乾燥する前乾燥工程と、
前記加熱乾燥された前記竹炭粉末と、前記合成樹脂と、前記タルクとを配合して前記原料樹脂を調製する工程とをさらに含む、請求項5に記載の発泡性飲料用容器の製造方法。
【請求項7】
合成樹脂を100重量部と、目開き100μmのメッシュを通過する寸法を有する竹炭粉末を80~120重量部と、目開き100μmのメッシュを通過する寸法を有するタルク、炭酸カルシウムおよびセルロースファイバーの少なくとも一方を5~15重量部とを含む原料樹脂を、80℃~110℃の温度で、2時間~8時間、加熱乾燥する予備乾燥工程と、
前記予備乾燥工程後の前記原料樹脂を成形することによって、内周面の十点表面粗さが0.9μm以上1.9μm以下である発泡性飲料用容器を成形する成形工程とを含み、
前記合成樹脂は、180℃~230℃の射出成形温度を有する樹脂である、発泡性飲料用容器の製造方法。
【請求項8】
前記竹炭粉末として、目開き46μmのメッシュを通過する寸法を有する竹炭粉末が使用される、請求項5~7のいずれか一項に記載の発泡性飲料用容器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、木炭粉末を含有する発泡性飲料用容器およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチック成形品の外観的な特徴として、視覚的な模様を外表面に有するプラスチック成形品が提案されている。たとえば、特許文献1は、セルロースファイバーおよび合成樹脂を含み、当該セルロースファイバーと合成樹脂との合計100重量部中、セルロースファイバーが50~85重量部を占める、セルロースファイバー含有組成物を含む単一層構造体である、ビールタンブラーを開示している。このビールタンブラーの外周面には、木目を模した筋状隆起部が形成されている。
【0003】
一方、プラスチック成形品の内部的な特徴として、内部に気泡を有するプラスチック成形品が提案されている。たとえば、特許文献2は、ポリプロピレン100重量部と竹炭粒子10重量部となるように配合し、二軸混練押出機を用いて溶融混練し、竹炭粒子を含む熱可塑性樹脂組成物を調製し、当該樹脂組成物を湿度90%、温度23℃の雰囲気中で5時間放置した後、シリンダー内温度200℃の二軸混練押出機からTダイを介して押出成形することによって、厚み1.0mmのフィルムを形成する方法を開示している。このフィルムでは、竹炭中に吸着された水分によりポリプロピレン中に気泡が分散して存在しており、これにより熱伝導性を低減するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-158751号公報
【特許文献2】特開2014-185204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、セルロースファイバーおよび合成樹脂を含む樹脂組成物でビールタンブラーを製造することによって、泡立ちおよび泡持ちに優れたビールタンブラーを提供している。一方で、プラスチック製品の意匠性に関連して、たとえば、黒色のプラスチック製品は、デザインの汎用性の高さから、様々な工業製品に幅広く使用されている。
【0006】
そこで、たとえば特許文献2で使用された竹炭粒子を、泡立ちおよび泡持ちに優れる黒色のビールタンブラーを提供するためにポリプロピレンに配合することが考えられる。しかしながら、適切な大きさの竹炭粒子を適切な量で配合しないと、泡立ちや泡持ちの良い発泡性飲料用容器を提供できるとは言えない。たとえば、特許文献2の製法において、竹炭粒子の量を増やしすぎると、竹炭粒子が吸着している水分の蒸発によって発生する気泡の量が過大となって外表面に露出し、逆に意匠性を損なうおそれがある。さらに、プラスチック製品の原料樹脂の内部に多数の気泡が生じると、成形性が低下する結果、成形品の歩留まりが低下する可能性もある。また、シルバーストリーク、フローマークといった射出成形品特有の表面欠陥が生じる場合もある。
【0007】
そこで、本開示の一実施形態は、泡立ちや泡持ちの良い発泡性飲料用容器およびその製造方法を提供する。
【0008】
また、本開示の一実施形態は、意匠性に優れ、かつ成形性の良い発泡性飲料用容器およびその製造方法を提供してもよい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一実施形態に係る発泡性飲料用容器は、木炭粉末と合成樹脂とを含む発泡性飲料用容器であって、前記合成樹脂100重量部に対して、前記木炭粉末を25~200重量部含む。
【0010】
本開示の一実施形態に係る発泡性飲料用容器は、前記合成樹脂100重量部に対して、前記木炭粉末を40~120重量部含んでいてもよい。
【0011】
本開示の一実施形態に係る発泡性飲料用容器は、前記合成樹脂100重量部に対して、5~30重量部のタルクをさらに含んでいてもよい。
【0012】
本開示の一実施形態に係る発泡性飲料用容器は、ビールタンブラーであってもよい。
【0013】
本開示の一実施形態に係る発泡性飲料用容器では、前記木炭粉末が、竹炭粉末であってもよい。
【0014】
本開示の一実施形態に係る発泡性飲料用容器では、前記合成樹脂は、ポリプロピレン樹脂を含んでいてもよい。
【0015】
本開示の一実施形態に係る発泡性飲料用容器の製造方法は、合成樹脂を100重量部と、目開き100μmのメッシュを通過する寸法を有する木炭粉末を25~200重量部とを含む原料樹脂を成形することによって発泡性飲料用容器を成形する成形工程を含む。
【0016】
本開示の一実施形態に係る発泡性飲料用容器の製造方法では、前記原料樹脂は、前記合成樹脂100重量部に対して、目開き100μmのメッシュを通過する寸法を有する5~30重量部のタルク、炭酸カルシウムおよびセルロースファイバーの少なくとも一方をさらに含んでいてもよい。
【0017】
本開示の一実施形態に係る発泡性飲料用容器の製造方法は、前記成形工程に先立って、前記原料樹脂を強制的に乾燥する予備乾燥工程をさらに含んでいてもよい。
【0018】
本開示の一実施形態に係る発泡性飲料用容器の製造方法では、前記予備乾燥工程は、80℃~110℃の温度で、2時間~8時間、前記原料樹脂を加熱乾燥する工程を含んでいてもよい。
【0019】
本開示の一実施形態に係る発泡性飲料用容器の製造方法では、前記発泡性飲料用容器が、ビールタンブラーであってもよい。
【0020】
本開示の一実施形態に係る発泡性飲料用容器の製造方法では、前記木炭粉末が、竹炭粉末であってもよい。
【0021】
本開示の一実施形態に係る発泡性飲料用容器の製造方法では、前記合成樹脂は、ポリプロピレン樹脂を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本開示の一実施形態に係る発泡性飲料用容器によれば、泡立ちや泡持ちの良い発泡性飲料用容器を提供することができる。したがって、この発泡性飲料用容器に発泡性飲料(ビール、発泡酒等の発泡性酒類の他、ビールテイスト飲料(ノンアルコールビール)、炭酸飲料等、炭酸ガスを含む発泡性の飲料)を注ぐことによって、一般的な合成樹脂製のタンブラーやガラスコップ(ガラスジョッキ)に比べて、きめ細やかでクリーミーな泡を発生させることができる。その結果、やわらかい口当たりで、かつ、のど越しの良い感覚を味わうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係るビールタンブラーの概略図である。
【
図2】
図2は、サンプルAのビールタンブラーの泡の経時的な変化を示す図である。
【
図3】
図3は、サンプルBのビールタンブラーの泡の経時的な変化を示す図である。
【
図4】
図4は、サンプルCのビールタンブラーの泡の経時的な変化を示す図である。
【
図5】
図5は、サンプルDのビールタンブラーの泡の経時的な変化を示す図である。
【
図6】
図6は、サンプルEのビールタンブラーの泡の経時的な変化を示す図である。
【
図7】
図7は、サンプルFのビールタンブラーの泡の経時的な変化を示す図である。
【
図8】
図8は、サンプルGのビールタンブラーの泡の経時的な変化を示す図である。
【
図9】
図9は、サンプルAのビールタンブラーの表面状態を示す電子顕微鏡の画像である。
【
図10】
図10は、サンプルBのビールタンブラーの表面状態を示す電子顕微鏡の画像である。
【
図11】
図11は、サンプルCのビールタンブラーの表面状態を示す電子顕微鏡の画像である。
【
図12】
図12は、サンプルDのビールタンブラーの表面状態を示す電子顕微鏡の画像である。
【
図13】
図13は、サンプルEのビールタンブラーの表面状態を示す電子顕微鏡の画像である。
【
図14】
図14は、サンプルAのビールタンブラーの表面粗さプロファイルである。
【
図15】
図15は、サンプルBのビールタンブラーの表面粗さプロファイルである。
【
図16】
図16は、サンプルDのビールタンブラーの表面粗さプロファイルである。
【
図17】
図17は、サンプルFのビールタンブラーの表面粗さプロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本開示の実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0025】
本開示の一実施形態に係るビールタンブラー1は、特に発泡性飲料用のコップとして適しており、発泡性飲料を注ぐことによって、きめ細やかな泡立ちや泡持ちを良くすることができる。注がれる発泡性飲料としては、コップに注いだ時に泡が発生する発泡性飲料であれば特に制限されず、たとえば、ビール、発泡酒等の発泡性酒類の他、ビールテイスト飲料(ノンアルコールビール)、炭酸飲料(たとえば、こどもびいる(登録商標)等の子供向けビール風飲料)等、炭酸ガスを含む発泡性の飲料が挙げられる。
【0026】
ビールタンブラー1は、その領域ごとに、胴部2、底壁3および口縁4(飲み口)に区別することができる。胴部2はさらに、ビールタンブラー1の内側であり、飲料が注がれて飲料に直接的に接する内周面5と、ビールタンブラー1の外側であり、手で把持される外周面6とを含んでいる。ビールタンブラー1は、底壁3から口縁4まで、胴部2全体にわたって木炭粉末が分散して含有され、分散した木炭粉末によって全体的に黒色が付与された合成樹脂製の成形品である。
【0027】
ビールタンブラー1の構成材料は、主に、合成樹脂、木炭粉末およびタルクである。なお、タルクは構成材料の必須材料ではなく任意材料であるため、含有されていなくてもよい。
【0028】
合成樹脂は、ビールタンブラー1のベース樹脂であり、たとえば、一般的に成形品の材料として使用される熱可塑性樹脂を使用することができる。熱可塑性樹脂としては、たとえば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、メタクリル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリアリレート樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、単独使用してもよいし、二種以上併用してもよい。この実施形態では、ポリプロピレン樹脂を単独使用している。
【0029】
木炭粉末は、ビールタンブラー1のベース樹脂(合成樹脂)に混合して含有された添加剤であり、たとえば、竹炭を使用することができる。竹炭の材料となる竹の種類としては、たとえば、孟宗竹、真竹、淡竹等が挙げられる。また、木炭粉末として、竹炭以外に、たとえば、白炭、黒炭、備長炭、オガ炭等の木炭を含有していてもよい。竹炭および木炭は、それぞれ単独使用してもよいし、二種以上併用してもよい。
【0030】
また、木炭粉末の寸法(粒子径)は、たとえば、粉体選別用のメッシュを用いて定義することができる。この実施形態では、木炭粉末の寸法(粒子径)は、たとえば、目開き100μm、好ましくは45μm、さらに好ましくは20μmのメッシュを通過する寸法を有していてもよい。より具体的には、木炭粉末の寸法(粒子径)は、1μm~100μmであり、好ましくは1μm~45μmであり、さらに好ましくは1~20μmであってもよい。ビールタンブラー1の成形の前後で木炭粉末の寸法はそれほど変化しないので、木炭粉末の寸法は、たとえば、ビールタンブラー1の原料樹脂を調製する際に使用した木炭粉末の寸法と同等と定義してもよい。
【0031】
タルクとしては、人が口にする発泡性飲料を入れるビールタンブラー1に使用する観点から、たとえば、一般的に食品添加物用タルクとして知られているタルクを使用することが好ましい。タルクの寸法(粒子径)は、たとえば、粉体選別用のメッシュを用いて定義することができる。この実施形態では、タルクの寸法(粒子径)は、たとえば、目開き100μm、好ましくは45μm、さらに好ましくは5μmのメッシュを通過する寸法を有していてもよい。より具体的には、タルクの寸法(粒子径)は、1μm~100μmであり、好ましくは1μm~45μmであり、さらに好ましくは1~5μmであってもよい。なお、ビールタンブラー1には、タルクに代えて、またはタルクと共に、上記のメッシュを通過する寸法を有する炭酸カルシウム、セルロースファイバーが含有されていてもよい。
【0032】
合成樹脂と木炭粉末とタルク(炭酸カルシウム、セルロースファイバー)との混合割合は、たとえば、合成樹脂100重量部に対して、木炭粉末が25~200重量部であり、好ましくは木炭粉末が40~200重量部または40~120重量部であり、さらに好ましくは、合成樹脂100重量部に対して、木炭粉末が80~120重量部であり、最も好ましくは、合成樹脂100重量部に対して、木炭粉末が90~110重量部である。合成樹脂と木炭粉末の重量割合がこの範囲であれば、ビールタンブラー1の質感を、黒色の陶器製や磁器製のビールグラスの質感に近づけることができる。また、木炭粉末に起因する凹凸がビールタンブラー1の内周面5に均等に形成されるため、発泡性飲料を内周面5のどの部分に沿わせて注いでも、泡立ちおよび泡持ちを良くすることができる。
【0033】
また、合成樹脂100重量部に対して、たとえば、タルク(炭酸カルシウム、セルロースファイバー)が5~30重量部であり、好ましくは、合成樹脂100重量部に対して、タルクが5~20重量部であり、さらに好ましくは、合成樹脂100重量部に対して、タルクが5~15重量部である。
【0034】
そして、ビールタンブラー1は、ビールタンブラー1の原料樹脂を成形することによって得ることができる。ビールタンブラー1を成形する場合、まず、成形用の原料樹脂ペレット(木炭粉末含有ペレット)が調製される。原料樹脂ペレットは、前述の合成樹脂、木炭粉末およびタルク(その他、炭酸カルシウム、セルロースファイバーも可能)、ならびに少量の添加剤を溶融混練することによって調製することができる。原料樹脂ペレットは、たとえば、公知の押出機を利用して調製されてもよい。押出機は、たとえば、材料を投入するホッパーと、ホッパーに投入された材料を溶融混練するシリンダーおよびスクリューと、溶融混練された原料樹脂を押し出すダイスと、押し出された原料樹脂を冷却する水槽と、冷却後の樹脂をカットするペレタイザーとを主に備えていてもよい。
【0035】
原料樹脂ペレットの調製に先立って、木炭粉末に含有される水分を低減するための前乾燥工程が行われてもよい。この乾燥工程は、たとえば、加熱乾燥工程、真空乾燥工程、除湿乾燥工程のいずれであってもよいが、この実施形態では、加熱乾燥工程が行われる。加熱乾燥工程には、たとえば、一般的な産業用乾燥機を利用してもよい。より具体的には、木炭粉末が竹炭粉末である場合、80℃~110℃の温度に設定した炉内で、2時間~8時間、竹炭粉末を加熱して乾燥してもよい。これにより、たとえば8%~12%の竹炭粉末の含水率を、数%まで低減することができる。乾燥後の木炭粉末(竹炭粉末)は、周囲の湿気を再び吸収しないように、防湿容器に保管するか、もしくは速やかに使用することが好ましい。
【0036】
次に、乾燥後の木炭粉末、合成樹脂、タルクおよび添加剤をホッパーに投入する。合成樹脂は、ペレットを使用してもよいし、廃棄プラスチックが粉砕された状態の再生プラスチックを使用してもよい。添加剤としては、たとえば、分散剤、離型剤、酸化防止剤、難燃剤、紫外線吸収剤、抗菌剤、相溶化剤、充填剤、アルカリ改質剤、フッ素改質剤等、合成樹脂ペレットの調製時に添加される一般的な添加剤が挙げられる。添加剤は、必要に応じて種類および配合量を選択すればよい。
【0037】
そして、たとえば、内部温度が150℃~250℃に設定されたシリンダー内で、投入された原料が加熱され、溶融混練される。溶融混練された原料は、スクリューによってダイスからストランド状に押し出され、水槽で冷却される。そして、ストランド状の原料樹脂がペレタイザーでカットされることによって、ビールタンブラー1の成形用の原料樹脂ペレットが得られる。
【0038】
次の工程は、当該原料樹脂ペレットをビールタンブラー1に成形する工程である。成形方法としては、たとえば、射出成形、ブロー成形、押出成形、インフレーション成形、真空成形等の一般的な成形方法を適用できる。成形方法は、最終製品の形状等に合わせて適宜選択すればよい。この実施形態では、ビールタンブラー1は、射出成形によって製造される。
【0039】
ビールタンブラー1は、たとえば、公知の射出成形機を利用して調製されてもよい。射出成形機は、たとえば、材料を投入するホッパーと、ホッパーに投入された材料を溶融混練するシリンダーおよびスクリューと、溶融混練された原料樹脂を押し出すノズルと、押し出された原料樹脂の形状を整える金型と、金型の開閉を制御する型締め装置とを主に備えていてもよい。
【0040】
ビールタンブラー1の成形に先立って、原料樹脂ペレットに含有される水分を低減するための予備乾燥工程が行われてもよい。原料樹脂ペレットは、前述のように、ペレタイザーでのカット前に冷却用の水に晒されるため、当該水分を原料樹脂ペレットが吸収している場合がある。特に、ペレット中の竹炭粉末は高い吸湿性を有するため、ベース樹脂が、一般的に予備乾燥が不要であると分類されているようなポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂であっても、予備乾燥工程を行うことが好ましい。
【0041】
この乾燥工程は、たとえば、加熱乾燥工程、真空乾燥工程、除湿乾燥工程のいずれであってもよいが、この実施形態では、加熱乾燥工程が行われる。加熱乾燥工程には、たとえば、一般的な産業用乾燥機を利用してもよい。より具体的には、木炭粉末が竹炭粉末である場合、80℃~110℃の温度に設定した炉内で、2時間8時間、原料樹脂ペレットを加熱して乾燥してもよい。乾燥後の原料樹脂ペレットは、周囲の湿気を再び吸収しないように、防湿容器に保管するか、もしくは速やかに使用することが好ましい。
【0042】
次に、乾燥後の原料樹脂ペレットをホッパーに投入する。そして、たとえば、内部温度が150℃~250℃に設定されたシリンダー内で、投入された原料が加熱され、溶融混練される。溶融混練された原料は、スクリューによってノズルから金型内に射出される。その後、所定の圧力を加えておくことによって金型を型締めし、キャビティ内で樹脂が冷却されて固化した後、金型を開いて成形品(ビールタンブラー1)が取り出される。
【0043】
得られたビールタンブラー1は、その表面全体にわたって、原料樹脂が露出している。特に、ビールタンブラー1の内周面5は、発泡性飲料に直接的に接して、きめ細やかな泡立ちを発生させる部分であるから、内周面5の全体にわたって金型から取り出し後の状態を維持することが好ましい。一方、ビールタンブラー1の外周面4には、必要に応じて加工を施してもよい。たとえば、外周面4をマット調(艶消し)に加工してもよいし、外周面4にイラストや文字を印字してもよい。また、上記のように得られたビールタンブラー1をインサート品とし、当該インサート品の周り(この実施形態では、外周面4および底壁2の外面)に別の樹脂を充填してもよい。
【0044】
以上、このビールタンブラー1によれば、成形前の原料樹脂ペレットを予備乾燥するので、原料樹脂ペレットの含水率(たとえば、竹炭粉末に吸着された水分量)を低減することができる。そのため、成形時、水分の蒸発によって原料樹脂ペレットの内部に発生し得る気泡の量を低減することができる。これにより、緻密で意匠性に優れ、成形性の良いビールタンブラー1を製造することができる。さらに、木炭粉末が竹炭粉末であれば、ビールタンブラー1に抗菌性を付与することもできる。
【0045】
また、ビールタンブラー1に木炭粉末が含有されているので、泡立ちや泡持ちの良いビールタンブラーを提供することができる。たとえば、ビールタンブラー1の内周面5に沿ってビールを注ぐことによって、一般的な合成樹脂製のタンブラーやガラスコップ(ガラスジョッキ)に比べて、きめ細やかでクリーミーな泡を発生させることができる。その結果、やわらかい口当たりで、かつ、のど越しの良い感覚を味わうことができる。
【0046】
さらに、ビールタンブラー1の樹脂内部に気泡が少なく緻密であることから、内部に気泡が多数存在するタンブラーに比べて、タンブラーの熱伝導率が高い。そのため、ビールタンブラー1に注がれた冷たいビールの温度が外周面6に伝わりやすく、冷涼感や爽快感を楽しむこともできる。たとえば、緻密なビールタンブラー1の比重は、1~1.4であってもよい。
【0047】
本開示の実施形態について説明したが、本開示は他の形態で実施することもできる。
【0048】
たとえば、前述の実施形態では、木炭粉末を含有する合成樹脂製の食品用器具の一例としてビールタンブラー1を取り上げたが、本開示の食品用器具は、その他の食器、食品包装容器等、食品が直接的に接触する器具であってもよい。食器は、たとえば、茶わん、丼、皿、箸、スプーン、ナイフ、フォーク、コップ等を含んでいてもよい。食品包装容器は、たとえば、精肉用トレー、弁当容器、惣菜容器等を含んでいてもよい。
【0049】
本開示の実施形態は、すべての点において例示であり限定的に解釈されるべきではなく、すべての点において変更が含まれることが意図される。
【実施例0050】
次に、本開示を実施例に基づいて説明するが、本開示は下記の実施例によって限定されるものではない。
【0051】
[実施例の概要]
以下では、ポリプロピレン樹脂をベース樹脂として、当該ベース樹脂に竹炭粉末およびタルク粉末を混合してビールタンブラーを射出成形し、評価項目ごとに互いに比較して検証した。
【0052】
[サンプルA~F]
1.使用原料
サンプルで使用した原料は、次の通りである。
ベース樹脂1-1:ポリプロピレン樹脂(サンアロマー株式会社製「PMB60W」)
粉末2-1:竹炭粉末(近江通商株式会社製「竹炭パウダー300メッシュ」目開き46μmのメッシュ通過の粉末)使用前に、設定温度100℃の乾燥機で4時間、加熱乾燥済み。
粉末2-2:タルク(白石カルシウム株式会社製「823tp」目開き5μmのメッシュ通過の粉末)
添加剤3-1:相溶化剤(三洋化成工業株式会社製「ユーメックス(登録商標)1001」)
添加剤3-2:分散剤(NIケミテック株式会社製 ステアリン酸カルシウム NS-A)
【0053】
2.原料樹脂ペレットの調製
以下の表1に示す配合比でベース樹脂1-1、粉末2-1~2-2、および添加剤3-1~3-2を、押出機のホッパーに投入し、150℃~200℃に設定したシリンダーで溶融混合して押し出した後、ペレタイザーでペレットにした。これにより得られた樹脂ペレットをサンプルA~Fの原料樹脂とする。なお、サンプルGとして、市販のガラスコップを準備した。
【0054】
【0055】
3.ビールタンブラーの成形
サンプルA~Fで得られた樹脂ペレットを、設定温度100℃の乾燥機で4時間乾燥した後、射出成形機のホッパーに投入し、180℃~230℃に設定したシリンダーで溶融混合して同じ金型に射出した。金型温度は70℃~90℃に設定され、1100MPa~1450MPaの圧力を負荷した。その後、固化を確認してビールタンブラー成形品を取り出した。
【0056】
4.評価
[泡立ち・泡持ち]
冷蔵庫で冷却した350ml缶入りのビール(キリンビール株式会社製「一番搾り(登録商標)」)およびノンアルコールビール(アサヒビール株式会社製「ドライゼロ(登録商標)」)を、それぞれ、上記各ビールタンブラーの内周面に沿わせて注ぎ、350ml全てを注ぎ切った。その後、泡持ちの状態を目視で観察した。注いでからビールの液面をビールタンブラーの上から目視で確認できるまでの時間を泡持ち時間とした。サンプルA~Gのビールおよびノンアルコールビールを注いだ直後の泡の状態、および経過時間ごとの泡の状態を
図2~
図8に示す。
【0057】
図2~
図6を参照して、ビールタンブラーに竹炭粉末が含有されているサンプルA~Eでは、ビールおよびノンアルコールビールを注いでから10分経過後にも液面の泡が保持されており、液面の色を確認できるまでに至らなかった。
【0058】
また、竹炭粉末の配合量が40重量部以上のサンプルA~D(
図2~
図5)では、40重量部未満のサンプルE(
図6)に比べて、ノンアルコールビールを注いだ直後の泡立ちが良く、その後の泡持ちも十分であった。注いだ直後の泡立ちについては、泡の上面からビールタンブラーの口縁からまでにビールタンブラーの内周面がどの程度視認できるかで判断した。サンプルA~DとサンプルEとを比較すると、サンプルEではノンアルコールビールを注いだ直後、泡の上側にビールタンブラーの内周面が1cm程度視認できた。これに対し、サンプルDでは内周面が約5mm現れる程度であり、サンプルA~Cについてはビールタンブラーの内周面が全て隠れるほど泡が立っていた。
【0059】
さらに、
図2~
図4のサンプルA~Cでは、
図5のサンプルDとは異なり、ビールおよびノンアルコールビールのどちらを注いだ場合でも泡がビールタンブラーの口縁に達するほどの泡立ちがあり、しかもビールを注いだ場合には、泡が口縁よりも高く盛り上がっていた。特に、タルクが含有されたサンプルA(
図2)およびサンプルC(
図4)では、ビールおよびノンアルコールビールのどちらの場合にも、注いだ直後にビールタンブラーの口縁が泡で覆われて隠れるほどであった。
【0060】
これに対し、サンプルF(
図7)では、ビールを注いだ直後は液面を隠す程度の泡立ちがあったものの、1分経過後には、すでに液面が視認できるほど泡が消失していた。また、ノンアルコールビールの評価については、注いだ直後から泡がほとんど立たず、液面が視認できた。また、サンプルG(
図8)では、ビールおよびノンアルコールビールのどちらを注いだ場合でも、注いだ直後にほとんどの泡が消失してしまって液面を確認できた。
【0061】
[表面状態]
サンプルA~Eのビールタンブラーの一部を観察用サンプルとして切り出し、各ビールタンブラーの内周面の表面状態を電子顕微鏡で観察した。得られた電子顕微鏡の画像を
図9~
図13に示す。
図9~
図13から、サンプルA~Eのいずれにおいても、ビールタンブラーの内周面が粗くなっていることが分かった。特に、竹炭粉末が比較的多く含有されているサンプルA~Dにおいて非常に粗くなっていた。また、目視では、竹炭粉末に加えてタルクが含有されているサンプルA(
図9)およびサンプルC(
図11)のビールタンブラーの内周面の表面状態が最も粗いように感じられた。
【0062】
[表面粗さ]
サンプルA、サンプルB、サンプルDおよびサンプルFの各ビールタンブラーから試験片を切り出し、JIS B0601:2001に準拠して各ビールタンブラーの内周面の表面粗さを測定した。測定装置は、株式会社ミツトヨ社製の表面性状測定器(品番:SV-C3200S4)を用いた。各サンプルの表面粗さプロファイルを
図14~
図17に示し、表面粗さの測定結果を以下の表2に示す。
【0063】
【0064】
図14~
図17および表2の結果から、竹炭粉末の配合量の増加に伴って十点表面粗さおよび算術平均粗さが増加しており、ビールタンブラーの内周面が粗く形成される傾向がみられた。
【0065】
[比重]
竹炭粉末の含有量とビールタンブラーの比重との関係を調べるため、サンプルA~Fと同様の方法により、竹炭粉末を含有するビールタンブラーの比重測定用サンプルH~Lを作製した。なお、サンプルH~Lには、タルク等の添加物は配合しなかった。比重は、各サンプルの製品重量を体積(42.82cm3)で除することによって算出した。比重の測定結果を以下の表3に示す。また、表3では、サンプルH~Lの結果から予測されるサンプルMおよびサンプルNの比重の予測値も示している。
【0066】
【0067】
表3の結果から、竹炭粉末の配合量の増加に伴って比重が増加している傾向がみられた。また、サンプルI~Nでは、全てのサンプルで比重が1を超えていた。これは、原料樹脂ペレット調製前の竹炭粉末の前乾燥処理、およびビールタンブラー成形前のペレットの予備乾燥処理が行われている結果、竹炭粉末に含有された水分が十分に除去され、ビールタンブラーの成形品中の気泡が少なくなったためであると考えられる。