(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052874
(43)【公開日】2024-04-12
(54)【発明の名称】紫外線硬化型インクジェットクリアインク組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 11/30 20140101AFI20240405BHJP
【FI】
C09D11/30
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024028381
(22)【出願日】2024-02-28
(62)【分割の表示】P 2020042235の分割
【原出願日】2020-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】原田 雄二郎
(72)【発明者】
【氏名】上野 浩明
(57)【要約】
【課題】印刷面の光沢に優れ、低粘度であり、硬化性にも優れたクリアインク組成物を提供すること。
【解決手段】5~15mPa・sの25℃における粘度を有し、クリアインク組成物100重量部に対して1~15重量部の脂環式二官能モノマー、1~10重量部の三官能以上の多官能モノマー、及び10~20重量部の光重合開始剤を含有する、紫外線硬化型インクジェットクリアインク組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
5~15mPa・sの25℃における粘度を有し、クリアインク組成物100重量部に対して1~15量部の脂環式二官能モノマー、1~10重量部の三官能以上の多官能モノマー、及び10~20重量部の光重合開始剤を含有する、紫外線硬化型インクジェットクリアインク組成物。
【請求項2】
前記脂環式二官能モノマーが、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート及びシクロヘキサンジメタノールジアクリレートから成る群から選択される少なくとも一種である、請求項1に記載のクリアインク組成物。
【請求項3】
前記三官能以上の多官能モノマーが、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート及びトリメチロールプロパントリアクリレートから成る群から選択される少なくとも一種である、請求項1又は2に記載のクリアインク組成物。
【請求項4】
前記光重合開始剤が、アシルホスフィン系光重合開始剤である、請求項1~3のいずれか一項に記載のクリアインク組成物。
【請求項5】
0℃以下のガラス転移温度(Tg)を有する複素環式単官能モノマーをクリアインク組成物100重量部に対して19~50重量部の量で更に含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のクリアインク組成物。
【請求項6】
前記複素環式単官能モノマーはテトラヒドロフルフリルアクリレートである、請求項5に記載のクリアインク組成物。
【請求項7】
クリアインク組成物100重量部に対して0.1~40重量部の脂環式単官能モノマーを更に含有する、請求項1~6のいずれか一項に記載のクリアインク組成物。
【請求項8】
前記脂環式単官能モノマーは、イソボルニル(メタ)アクリレート、3,3,5-トリメチルシクロヘキシルアクリレート及び4-tert-ブチルシクロヘキシルアクリレートからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項7に記載のクリアインク組成物。
【請求項9】
アミン系モノマーを含有しない、請求項1~8のいずれか一項に記載のクリアインク組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線硬化型インクジェットクリアインク組成物に関し、特に低粘度の紫外線硬化型インクジェットクリアインク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷方式は、インクヘッドノズルから液状のインクを吐出し、被印刷基材に印刷する方式である。インクジェット印刷方式で用いられるインクには、紫外線硬化型インクジェットインク組成物がある。紫外線硬化型インクジェットインク組成物は、インクヘッドノズルから吐出された後、紫外線照射によりインク中の重合性化合物が架橋することで硬化し、硬化被膜を形成する。
【0003】
紫外線硬化型インクジェットインクは、インクヘッドノズルから吐出できる程度の粘度を有する必要があり、小さいサイズの液滴を安定して吐出できるよう、低粘度であることが要求される。
【0004】
近年、紫外線硬化型インクジェットインクの中でも、印刷されたカラーインク上に被覆される、実質的に無色透明なインクが提案されている。かかるインクは、カラーインク層と被印刷基材とのの反射率差に起因する光沢ムラの解消、カラーインク層表面の平滑化による光沢性の付与等を目的とし、一般にクリアインクと呼ばれている。
【0005】
特許文献1には、光重合性モノマーとして、アミド基又はおよびアミノ基を有する光重合性モノマー(以下「アミン系光重合性モノマー」という。)を含む、UV-LED硬化型インクジェット印刷用クリアインク組成物が記載されている。
【0006】
特許文献2には、重合性化合物として、単官能モノマーと、アクリル当量が150より大きく、且つ、一分子中にエチレン性二重結合を2個以上有する第一の多官能モノマーと、アクリル当量150以下、且つ、一分子中にエチレン性二重結合を2個以上有する第二の多官能モノマーとを有するインクジェットインク組成物が記載されている。特許文献2のインクジェットインク組成物は、低粘度であり、且つ、硬化性及び延伸性に優れたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016-20457号公報
【特許文献2】特開2018-65911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載のクリアインク組成物は、UV-LEDによる硬化性を実現するために、アミン系光重合性モノマーを含有する。一方で、アミン系光重合性モノマーは高粘度である。それゆえ、特許文献1に記載のクリアインク組成物は、インクヘッドノズルからの吐出安定性を更に向上させるために、より低粘度化することが困難である。また、アミン系光重合性モノマーを含む硬化被膜は、経時的に黄変し易いという問題もある。
【0009】
特許文献2のインクジェットインク組成物はアミン系光重合性モノマーを含まず、低粘度であり、硬化性にも優れている。しかしながら、特許文献2では、インクジェットインク組成物をカラーインクとして使用している。そのため、特許文献2のインクジェットインク組成物は、印刷されたカラーインク層の光沢ムラを解消し、印刷面の光沢を向上させるという、インクジェットクリアインク組成物としての性能が不明である。
【0010】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、印刷面の光沢に優れ、低粘度であり、硬化性にも優れた紫外線硬化型インクジェットクリアインク組成物を提供することにある。以下、紫外線硬化型インクジェットクリアインク組成物を「クリアインク組成物」と呼ぶことがある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、5~15mPa・sの25℃における粘度を有し、クリアインク組成物100重量部に対して1~15重量部の脂環式二官能モノマー、1~10重量部の三官能以上の多官能モノマー、及び10~20重量部の光重合開始剤を含有する、紫外線硬化型インクジェットクリアインク組成物を提供する。
【0012】
ある一形態においては、前記脂環式二官能モノマーが、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート及びシクロヘキサンジメタノールジアクリレートから成る群から選択される少なくとも一種である。
【0013】
ある一形態においては、前記三官能以上の多官能モノマーが、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート及びトリメチロールプロパントリアクリレートから成る群から選択される少なくとも一種である。
【0014】
ある一形態においては、前記光重合開始剤が、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドである。
【0015】
ある一形態においては、上記いずれかのクリアインク組成物は、0℃以下のガラス転移温度(Tg)を有する複素環式単官能モノマーをクリアインク組成物100重量部に対して19~50重量部の量で更に含有する。
【0016】
ある一形態においては、前記複素環式単官能モノマーはテトラヒドロフルフリルアクリレートである。
【0017】
ある一形態においては、上記いずれかのクリアインク組成物は、クリアインク組成物100重量部に対して0.1~40重量部の脂環式単官能モノマーを更に含有する。
【0018】
ある一形態においては、前記脂環式単官能モノマーは、イソボルニル(メタ)アクリレート、3,3,5-トリメチルシクロヘキシルアクリレート及び4-tert-ブチルシクロヘキシルアクリレートからなる群から選択される少なくとも一種である。
【0019】
ある一形態においては、上記いずれかのクリアインク組成物は、アミン系モノマーを含有しない。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、印刷面の光沢に優れ、低粘度であり、硬化性にも優れた紫外線硬化型インクジェットクリアインク組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の紫外線硬化型インクジェットクリアインク組成物は、光重合性化合物として脂環式二官能モノマー、及び三官能以上の多官能モノマー、及び光重合開始剤を含有し、要すれば、任意の他の添加剤等を更に含有する。
【0022】
本発明の紫外線硬化型インクジェットクリアインク組成物は溶剤を実質的に含有しない。ここで、溶剤を実質的に含有しないとは、希釈溶剤を含有する必要はないが、例えば、工業製品使用時にインクに希釈溶剤が不可避的に混入する場合等があり、この場合にクリアインク組成物の全重量に対して含有される溶剤の含有量が3重量%以下であることを意味する。溶剤は、例えば、アルコール、エーテル、ケトン等といった脂肪族系溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレン等といった芳香族系溶剤等の公知の各種溶剤を含む。本発明のクリアインク組成物は無溶剤系であることから、インク層中に揮発性の溶剤の残留が無く、揮発性有機化合物フリーの観点から好ましい。
【0023】
本明細書中において、光重合性化合物とは、紫外線照射により光重合反応を開始し、硬化する化合物を指す。光重合性化合物のうち、光重合性単官能モノマーとは、一分子中にエチレン性二重結合1個を有し、光重合性二官能モノマーとは、一分子中にエチレン性二重結合2個を有し、非仮需合成多官能モノマーとは、一分子中にエチレン性二重結合を3個以上有する化合物を指す。本明細書において、エチレン性二重結合を有することは、(メタ)アクリロイル基(アクリロイル基及び/又はメタクリロイル基)を有することを意味する。
【0024】
<1.光重合性化合物>
<1-1.光重合性単官能モノマー>
本発明のクリアインク組成物は、光重合性単官能モノマーを含有する。該光重合性単官能モノマーとしては、例えば、アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル-ジグリコール(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、ネオペンチルグリコール(メタ)アクリル酸安息香酸エステル、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシ-ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ-トリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ-ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシ-ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2-(2-エトキシエトキシエチルアクリレート)ノニルフェノールエチレンオキシド付加物(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、3,5,5-トリメチルシクロヘキシルアクリレート、4-tert-ブチルシクロヘキシルアクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-コハク酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-フタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチル-フタル酸、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート、エトキシ化ノニルフェニルアクリレート等が挙げられる。これらの光重合性単官能モノマーは、単独で又は2種以上を混合して使用してよい。
【0025】
光重合性単官能モノマーは、好ましくは、25℃で25mPa・s以下の粘度を有するものを使用する。光重合性単官能モノマーの粘度がこの範囲にある場合には、使用量を調節することで、クリアインク組成物の粘度を低く調節することが可能になる。光重合性単官能モノマーの粘度は、好ましくは15mPa・s以下、より好ましくは10mPa・s以下である。
【0026】
光重合性単官能モノマーの中でも、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニルアクリレート、3,5,5-トリメチルシクロヘキシルアクリレート(TMCHA)、4-tert-ブチルシクロヘキシルアクリレート(TBCHA)、2-(2-エトキシエトキシエチルアクリレート)、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等は、25℃での粘度が10mPa・s未満と低粘度であるため、好ましい。
【0027】
光重合性単官能モノマーの中でも、脂環式構造を有する、イソボルニルアクリレート、3,5,5-トリメチルシクロヘキシルアクリレート及び4-tert-ブチルシクロヘキシルアクリレートは、希釈性に優れ、得られる硬化被膜のタックフリー性が向上するから特に好ましい。
【0028】
脂環式単官能モノマーの使用量は、クリアインク組成物100重量部に対して、好ましくは、0.1~40重量部である。脂環式単官能モノマーをこの範囲の量で使用することで、クリアインク組成物の粘度を低く調節し易くなる。脂環式単官能モノマーの使用量は、クリアインク組成物100重量部に対して、より好ましくは5~35重量部、更に好ましくは10~30重量部である。
【0029】
光重合性単官能モノマーは、0℃以下のガラス転移温度(Tg)を有する複素環式単官能モノマーを使用することが好ましい。0℃以下のTgを有する複素環式単官能モノマーの使用量は、クリアインク組成物100重量部に対して、好ましくは19~50重量部である。そのことで、硬化被膜に適度な硬さとインク層(インク塗膜)の延伸性が付与される。
【0030】
<1-2.光重合性二官能モノマー>
本発明のクリアインク組成物は、光重合性二官能モノマーを含有する。光重合性二官能モノマーは、単官能モノマーよりも反応性が高く、三官能以上の多官能モノマーよりも反応性が低い。光重合性二官能モノマーは、三官能以上の多官能モノマーの粘度希釈剤としての機能を果たす一方、単官能モノマーの反応性を補い、クリアインク組成物全体を低粘度に保ちながらも硬化被膜に、硬さ及び被印刷基材に対する密着性を付与する。
【0031】
前記光重合性二官能モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリルヒドロキシピバレートジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート)、2,メチル-1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、3,メチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール#200ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール#400ジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール#400ジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(#700)ジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール#600ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール#1000ジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ポリプロピレングリコール#700ジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート等が挙げられる。これらの光重合性二官能モノマーは、単独で又は2種以上を混合して使用してよい。二官能モノマーの中でも、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレートといった脂環式二官能モノマーは、硬化被膜の強度を向上させる観点から、好ましい。
【0032】
光重合性二官能モノマーは、好ましくは、25℃で180mPa・s以下の粘度を有するものを使用する。光重合性二官能モノマーの粘度がこの範囲にある場合には、使用量を調節することで、クリアインク組成物の粘度を低く調節することが可能になる。光重合性二官能モノマーの粘度は、好ましくは150mPa・s以下、より好ましくは130mPa・s以下である。
【0033】
使用される複数の光重合性二官能モノマーのうち一方の粘度が高い場合には、他方を25℃で10mPa・s未満の低粘度の光重合性二官能モノマーを併用して用いることで、クリアインク組成物の粘度を低く調節することができる。このような低粘度光重合性二官能モノマーとしては、例えば、脂肪族二官能モノマーである、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0034】
脂肪族二官能モノマーの中でも、脂環式構造を有する、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレートは、硬化被膜のタックフリー性及び強度を向上させるから特に好ましい。
【0035】
脂環式二官能モノマーの使用量は、クリアインク組成物100重量部に対して、1~15重量部である。脂環式二官能モノマーがこの範囲の量で使用されることで、クリアインク組成物の硬化性を維持しながら、粘度を低く調節することができる。脂環式二官能モノマーの使用量は、クリアインク組成物の100重量部に対して、好ましくは3~15重量部、より好ましくは3~10重量部である。
【0036】
<1-3.光重合性多官能モノマー>
本発明のクリアインク組成物は、光重合性多官能モノマーを含有する。該光重合性多官能モノマーとしては、例えば、エトキシ化(20)トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシ化(3)トリメチロールプロパントリアクレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート(TMPTA)、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート(PETA)、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、グリセリルトリ(メタ)アクリレート、及びこれらのエチレンオキシド変性体、プロピレンオキシド変性体、カプロラクトン変性体等が挙げられる。これらの光重合性多官能モノマーは、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0037】
前記光重合性多官能モノマーの中でも、エトキシ化(20)トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシ化(3)トリメチロールプロパントリアクレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート(TMPTA)は比較的低粘度であるために好ましく、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート(PETA)は塗膜の硬化性を向上させる観点から好ましい。これらの光重合性多官能モノマーと前記単官能モノマー及び二官能モノマーとを適宜組み合わせることで、クリアインク組成物全体を低粘度に保ちながらも硬化性に優れたクリアインク組成物を得ることができる。
【0038】
光重合性多官能モノマーの使用量は、クリアインク組成物100重量部に対して、1~10重量部である。光重合性多官能モノマーがこの範囲の量で使用されることで、クリアインク組成物の硬化性を維持しながら、粘度を低く調節することができる。光重合性多官能モノマーの使用量は、クリアインク組成物の100重量部に対して、好ましくは3~10重量部である。
【0039】
<2.光重合開始剤>
本発明のクリアインク組成物は、光重合開始剤としてアルキルフェノン系化合物、チオキサントン系化合物のうちの少なくとも1つを含有する。これにより、紫外線照射によりクリアインク組成物の光重合反応を開始させることができる。
【0040】
前記アルキルフェノン系化合物としては、例えば、α-アミノアルキルフェノン系又はベンジルメチルケタール系が挙げられ、具体的には、2-メチル-1[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)ブタノン-1、2-メチル-1-[4-(メトキシチオ)-フェニル]-2-モルホリノプロパン-2-オン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を混合して使用することができる。市場で入手可能なアルキルフェノン系化合物としては、チバ社製のIrgacure369、Irgacure907、Irgacure651等が挙げられる。
【0041】
前記チオキサントン系化合物としては、例えば、チオキサントン、2-メチルチオキサントン、2-エチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、4-イソプロピルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン,2,4-ジクロロチオキサントン、1-クロロ-4-プロポキシチオキサントン等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を混合して使用することができる。市場で入手可能なチオキサントン系化合物としては、日本化薬社製のKAYACUREDETX-S、ダブルボンドケミカル社製のChivacureITX等が挙げられる。
【0042】
本発明によるクリアインク組成物は、前記以外に、アシルホスフィンオキシド系化合物、アリールアルキルケトン、オキシムケトン、アシルホスフィンオキシド、アシルホスホナート、チオ安息香酸S-フェニル、チタノセン、芳香族ケトン、ベンジル、キノン誘導体、ケトクマリン類等の従来公知の光重合開始剤を更に含有してもよい。
【0043】
前記光重合開始剤としては、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキシド(TPO)、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシド、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン1,2-オクタンジオン-[4-(フェニルチオ)-2-(o-ベンゾイルオキシム)]、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ホスフィンオキシド等が挙げられる。
【0044】
これらの中でも2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキシド(TPO)及びビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシド等のアシルホスフィンオキシド系化合物は、硬化被膜が黄変し難くなるため、特に好ましい。
【0045】
本発明によるクリアインク組成物中における光重合開始剤の使用量は、形成される塗膜の硬化性を考慮して、クリアインク組成物100重量部に対して、10~20重量部、より好ましくは10~13重量部である。
【0046】
<3.添加剤>
<3-1.重合禁止剤>
重合禁止剤として、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、ハイドロキノンモノアルキルエーテル等を更に含有してもよい。このような重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ハイドロキノン、t-ブチルカテコール、ピロガロール等が挙げられる。
【0047】
<3-2.表面調整剤>
本発明のクリアインク組成物は、表面調整剤として、ポリジメチルシロキサン構造を有するシリコーン系化合物を更に含有することもできる。前記重合性化合物とともに、表面調整剤としてシリコーン系化合物を使用することで、インクの表面張力等の液物性をインクジェット印刷方式に適した範囲に調整することができる。
【0048】
前記シリコーン系化合物としては、例えば、ビックケミー社製のBYK-UV3500、BYK-UV3510、BYK-UV3570、デグサ社製のTego-Rad2100、Tego-Rad2200N、Tego-Rad2250、Tego-Rad2300、Tego-Rad2500、Tego-Rad2600、Tego-Rad2700、共栄社化学社製のUCR-L72、UCR-L93が挙げられる。これらは、分子内にエチレン性二重結合を有するポリジメチルシロキサン構造を含んでいるため、さらに密着性を向上させることできる。
【0049】
<3-3.その他添加剤>
本発明によるクリアインク組成物は、要すれば界面活性剤、レベリング剤、消泡剤、酸化防止剤、pH調整剤、電荷付与剤、殺菌剤、防腐剤、防臭剤、電荷調整剤、湿潤剤、皮はり防止剤、香料等の公知の一般的な添加剤を更に含んでもよい。
【0050】
<4.製造方法について>
本発明のクリアインク組成物の製造方法としては、従来から公知の工程を使用することができる。
【0051】
例えば、前記各種光重合性化合物、光重合開始剤、重合禁止剤、及び表面調整剤、要すれば他の添加剤を添加し、撹拌機を用いて均一に混合する。撹拌機としては、例えば、スリーワンモーター、マグネチックスターラー、ディスパ、ホモジナイザー等が挙げられる。又、ラインミキサー等の混合機を用いて、クリアインク組成物を混合してもよい。更に、クリアインク組成物中の粒子をより微細化する目的でビーズミルや高圧噴射ミル等の分散機を用いて、クリアインク組成物を混合してもよい。
【0052】
本発明のクリアインク組成物は、5~15mPa・sの25℃における粘度を有する。クリアインク組成物の粘度が5mPa・s未満であると、吐出安定性が低下し、15mPa・sを超えると印刷面の光沢が低下する。クリアインク組成物の粘度は、好ましくは6~12mPa・s、より好ましくは7~10mPa・sである。クリアインク組成物の粘度は、成分の粘度及び使用量を考慮して、調節することができる。
【0053】
<5.硬化被膜の製造方法>
クリアインク組成物の硬化被膜は、例えば、インクジェット方式を使用して被印刷基材の表面に塗膜を形成し、次いで、紫外線を照射してその塗膜を硬化させることで製造される。塗膜に紫外線を照射する手段としては、水銀灯やメタルハライドランプ等が挙げられる。
【実施例0054】
以下、実施例に基づき更に具体的に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例の数値は特に示さない限り重量基準である。また、粘度は25℃における値である。
【0055】
本発明のクリアインク組成物に使用した原料は次のとおりである。
<光重合性化合物>
(複素環式単官能モノマー)
THFA:テトラヒドロフルフリルアクリレート(アルケマ社製「サートマーSR285」(商品名)、粘度:6cps、Tg:-12℃)
(脂環式単官能モノマー)
IBXA:イソボルニルアクリレート(大阪有機化学工業社製「IBXA」(商品名)、粘度:9cps、Tg:97℃)
TMCHA:3,3,5-トリメチルシクロヘキシルアクリレート(アルケマ社製「サートマーSR420」(商品名)、粘度:2.7、Tg:43℃)
TBCHA:4-tert-ブチルシクロヘキシルアクリレート(アルケマ社製「サートマーSR217」(商品名)、粘度:4.6、Tg:65℃)
(脂環式二単官能モノマー)
DCPDA:トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(アルケマ社製「サートマーSR833」(商品名)、粘度:130、Tg:180℃)
CHDMDA:シクロヘキサンジメタノールジアクリレート(アルケマ社製「サートマーCD406」(商品名)、粘度:25、Tg:21℃)
(脂肪族二官能モノマー)
HDDA:1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(アルケマ社製「サートマーSR238」(商品名)粘度:9、Tg:43℃)
(その他二官能モノマー)
GC1100Z:アミン変性オリゴマー(Qualipoly Chemical社製「GC1100Z」(商品名)、粘度:1000、Tg:-25℃)
(多官能モノマー)
PETA:トリメチロールプロパントリアクリレート(アルケマ社製「サートマーSR444」(商品名)、粘度:520、Tg:103℃)
TMPTA:ペンタエリスリトールトリアクリレート(アルケマ社製「サートマーSR351」(商品名)、粘度:106、Tg:62℃)
<光重合開始剤>
TPO:2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド(BASF社製「IRGACURE TPO」(商品名))
<重合禁止剤>
HTEMPO:2,2,6,6-テトラメチルピペリジノオキシ(エボニック デグサ ジャパン社製「HYDROXY-TEMPO」(商品名))
<表面調整剤>
BYK-UV3500:ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(ビックケミー社製「BYK-UV3500」(商品名))
【0056】
(実施例1~22及び比較例1~13)
〔クリアインク組成物の製造〕
100ccのプラスチック製ビンに、光重合性単官能モノマー、光重合性二官能モノマー、光重合性多官能モノマー、光重合開始剤、重合禁止剤、及び表面調整剤を表1~3に示す配合量で計り取り、マグネチックスターラーにより混合物を30分撹拌した。撹拌後、グラスフィルター(桐山製作所製)を用いて、混合物を吸引ろ過し、クリアインク組成物を製造した。尚、比較例5~7では、アミン変性オリゴマーを更に加えてクリアインク組成物を製造した。
【0057】
各実施例及び比較例で用いたクリアインク組成物の成分、及び配合比を表1~4に示す。
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
〔クリアインク組成物の評価〕
得られた各クリアインク組成物に対して、以下のとおり、各種評価を行った。結果は表1~4中に示してある。
【0063】
[粘度]
製造した各実施例及び比較例のクリアインク組成物について、粘度を測定した。粘度は、粘度計(東機産業社製社製「R100型粘度計」(商品名))を用いて、25℃、コーンの回転数20rpmの条件で測定した。測定した粘度を以下の基準で評価した。
【0064】
◎:10mPa・s未満、〇:12mPa・s未満、△:15mPa・s未満、×:15mPa・s以上
【0065】
次に、白色ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを準備し、白色層の表面上にクリアインク組成物を適量載せ、バーコーターを用いて塗膜を形成した。この塗膜に対し、照射手段として紫外線LEDランプ(日亜化学工業社製「NCCU001E」)を用いて、波長:365nm、積算光量:200mJ/cm2、16passの条件下で光照射を行い、硬化させた。
【0066】
得られた硬化被膜について、硬化性、タックフリー性、光沢度(60°)、黄変(目視)、黄変(b*)の評価を行った。
【0067】
[硬化性]
硬化被膜について、綿棒で力を入れず印刷部分端まで擦り、硬化性を以下の基準で評価した。
S(特に良好):インクが綿棒に全くつかず、塗膜に擦過痕が残らない。
A(良好):インクが綿棒に全くつかず、塗膜に擦過痕がわずかに残る。
B(良) :インクが綿棒に一部わずかにつく。
C(不良):インクが綿棒につく。
【0068】
[タックフリー性]
硬化被膜を指で触り、以下の基準で評価した。
S(特に良好):塗膜が全くべたつかない。
A(良好):塗膜がわずかにべたつかない。
B(良) :塗膜がわずかに一部べたつく。
C(不良):粘着シートを貼り付けた部分の塗膜の全面がべたつく。
【0069】
[光沢度(60°)]
硬化被膜の光沢度を光沢度計(BYKガードナー社製「micro-TRI-gloss」(商品名))を用いて60°光沢を測定し、以下の基準で評価した。
◎:98以上、〇:95以上、△:90以上、×:90未満
【0070】
[黄変性]
紫外線LEDランプを照射し塗膜を硬化させた3時間後の硬化被膜の色味を、目視ないしb*測定により確認した。目視評価の基準は以下のとおりである。〇(良好)、および△(良)の評価は、黄変が実用上問題のない水準と判断した。
○:初期状態と比較して黄変が認められない場合
△:初期状態と比較して黄変がわずかしか認められない場合
×:初期状態と比較して黄色いと感ぜられた場合
【0071】
次いで、黄変の程度(b*値)を測色計(X-Rite社製「X-Rite939」(商品名))を使用して光源D65/10℃視野にて測定した。
【0072】
表1、2の実施例1~22から示されるように、本発明による脂環式二官能モノマー及び三官能モノマーを含有するクリアインク組成物は、25℃で12mPa・s未満と低粘度である。又、いずれも良好な光沢度を示す。このため、本実施例のクリアインク組成物は吐出安定性に優れ、光沢に優れた印刷面を提供する。
【0073】
脂環式単官能モノマー(イソボルニルアクリレート(IBXA))の配合比を減らすとクリアインク組成物のタックフリー性の多少の低下がみられた(実施例1、比較例1)。複素環式単官能モノマー(テトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA))の配合比を減らし、脂環式単官能モノマー(イソボルニルアクリレート(IBXA))の配合比を増やしていくと光沢度が向上した(実施例1~3)。脂環式単官能モノマーをイソボルニルアクリレート(IBXA)から3,3,5-トリメチルシクロヘキシルアクリレート(TMCHA)とすると、タックフリー性がより向上した(実施例5~8)。4-tert-ブチルシクロヘキシルアクリレート(TBCHA)とすると、光沢性は多少低下したが、硬化性は向上した(実施例9~11)。
【0074】
複素環式単官能モノマー(テトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA))の配合比を減らし、脂環式二官能モノマー(トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート(DCPDA))の配合比を増やすとタックフリー性及び光沢度が向上した(実施例12~14)。シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート(CHDMDA)の配合比を増やした場合も同様であった(実施例15~17)。
【0075】
複素環式単官能モノマー(テトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA))の配合比を減らし、多官能モノマーの配合比を増加させた場合も光沢度は良好であった(実施例18~22)。しかしながら、配合比が大きい場合、多官能モノマーの粘度のため、タックフリー性は大きく低下し、又、黄変(b*)の値は悪くなった。
【0076】
複素環式単官能モノマー(テトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA))の配合比を増加させ、脂環式二官能モノマー(トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート(DCPDA))の配合比を減少させると硬化性が低下した(実施例2、比較例2)。これは、複素環式単官能モノマー(テトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA))の配合比を増加させ、多官能モノマー(ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート(PETA))の配合比を減少させた場合も同様であった(実施例2、比較例3)。複素環式単官能モノマー(テトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA))の配合比の配合比を減らし、多官能モノマー(ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート(PETA))の配合比を増加させる硬化性が低下し、黄変(b*)の値も悪くなった(実施例2、比較例4)。
【0077】
複素環式単官能モノマー(テトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA))の配合比を減らし、アミン変性オリゴマーの配合比を増加させると、粘度が増加し、黄変も見られた(実施例2、比較例5~7)。
【0078】
光重合開始剤として、チオキサントン系光重合増感剤を使用した場合は、黄変が顕著であった(実施例2、比較例8、9)。
【0079】
複素環式単官能モノマー(テトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA))を全く含まず、代わりに脂肪族二官能モノマー(1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート(HDDA))の配合比を増加させると、硬化性は低下した(実施例2、比較例10)。逆に、複素環式単官能モノマー(テトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA))の配合比を増加させ、脂肪族二官能モノマー(1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート(HDDA))の配合比を減少させると、硬化性は良好のままであったが、タックフリー性は低下した(実施例2、比較例11)。
【0080】
特許文献3の実施例1、4に記載のクリアインク組成物の各評価を、各々、比較例12、13として示す(比較例12、13)。これらと比較して、本発明によるクリアインク組成物は、粘度、硬化性、光沢度の点で優れた効果を示すことがわかる。