(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052875
(43)【公開日】2024-04-12
(54)【発明の名称】有機溶媒ナノろ過のためのナノ選択性表面を有する高透過性複合膜
(51)【国際特許分類】
B01D 71/72 20060101AFI20240405BHJP
B01D 61/02 20060101ALI20240405BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20240405BHJP
【FI】
B01D71/72
B01D61/02 500
B01D69/00
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024028412
(22)【出願日】2024-02-28
(62)【分割の表示】P 2022543483の分割
【原出願日】2020-09-21
(31)【優先権主張番号】62/962,233
(32)【優先日】2020-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】391028362
【氏名又は名称】ダブリュ.エル.ゴア アンド アソシエイツ,インコーポレイティド
【氏名又は名称原語表記】W.L. GORE & ASSOCIATES, INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100144417
【弁理士】
【氏名又は名称】堂垣 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】ギャリー ハープ
(72)【発明者】
【氏名】スコット ゼロ
(57)【要約】
【課題】有機溶媒ナノろ過膜を提供すること。
【解決手段】少なくとも1つのポリマーでコーティングされた延伸ポリパラキシリレン(ePPX)膜を含む有機溶媒ナノろ過膜が提供される。基材/支持層は、ePPX膜の片側に配置されうる。幾つかの実施形態において、基材/支持層はePPX膜の間に挟まれている。そのような有機溶媒ナノろ過膜を製造及び使用するための方法も提供される。有機溶媒ナノろ過膜は、透過性のより高い低分子量有機溶媒を含む溶液から溶質を分離及び/又は濃縮することができる。ポリマーでコーティングされたePPX膜は、化学的攻撃に対する耐性、ガンマ線に対する耐性、熱安定性、生体適合性及び強度も備えていることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.少なくとも1つのポリマーコーティングを上に有する少なくとも1つの延伸ポリパラキシリレン(ePPX)膜を含んでなる有機溶媒ナノろ過(OSN)膜であって、前記ePPX膜はノード、フィブリル及び細孔を含む微細構造を有し、前記ノードは前記フィブリルによって相互接続され、前記細孔は前記ノードと前記フィブリルの間のボイド空間であり、前記少なくとも1つのポリマーコーティングは前記細孔を部分的に閉塞し、前記有機溶媒ナノろ過膜は0.1nm~5nmの平均細孔サイズを有する、有機溶媒ナノろ過(OSN)膜、及び、
b.(a)第一の分子量を有する少なくとも1つの溶質及び第二の分子量を有する少なくとも1つの有機溶媒を含む、通過される溶液、
を含んでなり、前記第二の分子量は前記第一の分子量より小さい、システム。
【請求項2】
前記溶質は、医薬分子、石油化学分子、植物抽出物、植物油、動物抽出物、細胞抽出物、タンパク質、酵素、脂質、有機触媒又は無機触媒である、請求項1記載のナノろ過システム。
【請求項3】
供給流体をろ過ハウジング内に導くように構成された少なくとも1つの流体入口と、前記ろ過ハウジングからろ液を導くように構成された少なくとも1つの流体出口とを含むろ過ハウジング、及び、
少なくとも1つのポリマーコーティングを上に有する少なくとも1つの延伸ポリパラキシリレン(ePPX)膜を含んでなる有機溶媒ナノろ過(OSN)膜であって、前記ePPX膜はノード、フィブリル及び細孔を含む微細構造を有し、前記ノードは前記フィブリルによって相互接続され、前記細孔は前記ノードと前記フィブリルの間のボイド空間であり、前記少なくとも1つのポリマーコーティングは前記細孔を部分的に閉塞し、前記有機溶媒ナノろ過膜は0.1nm~5nmの平均細孔サイズを有する、少なくとも1つの有機溶媒ナノろ過(OSN)膜、
を含む、ろ過デバイス。
【請求項4】
a)i)請求項3記載のろ過デバイス、及び、
ii)第一の分子量を有する少なくとも1つの溶質及び第二の分子量を有する少なくとも1つの有機溶媒を含む溶液、
を提供すること、及び、
b)前記溶液を前記ろ過デバイスに通すこと、
を含み、前記溶質の排除パーセントは少なくとも40%である、有機溶媒ナノろ過のための方法。
【請求項5】
前記溶質は、医薬分子、石油化学分子、植物抽出物、植物油、動物抽出物、細胞抽出物、タンパク質、酵素、脂質、有機触媒又は無機触媒である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記第一の分子量は少なくとも150g/モルである、請求項4又は5記載の方法。
【請求項7】
前記第二の分子量は450g/モル以下である、請求項4又は5記載の方法。
【請求項8】
前記第一の分子量は、前記第二の分子量よりも少なくとも100g/モル大きい、請求項4又は5記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に有機溶媒ナノろ過に関し、より具体的には、少なくとも1つのポリマーコーティングを上に有する延伸ポリパラキシリレン膜を含む有機溶媒ナノろ過膜に関する。延伸ポリパラキシリレン有機溶媒ナノろ過膜を製造及び使用するための方法も提供される。
【背景技術】
【0002】
化学及び製薬産業における有機合成は、しばしば有機溶媒中で行われる。有機溶媒からの可溶性生成物の分離は、しばしば、エネルギー集約的であり、総生産コストの有意な部分である(Marchettiら Chem. Rev. 114:10735-10806 (2014))。有機溶媒ナノろ過(OSN)は、蒸留などの従来の分離及び精製技術に代わる魅力的な技術になりつつある用途の広い技術である。
【0003】
ナノろ過は、細孔が一般に0.1nm~5nm、好ましくは0.5nm~5nmの範囲にあり、分子量カットオフ(MWCO)が200~2000Daの範囲にある膜を利用する膜プロセスである。膜のMWCOは、一般に、膜によるナノろ過を受けたときに少なくとも90%の排除率を示す分子の分子量として定義される。ナノろ過は、水性流体のろ過に広く適用されてきたが、適切な溶媒安定膜がないために、有機溶媒中の溶質の分離(すなわち、有機溶媒ナノろ過)への適用に制限されてきた。OSNには、溶媒交換、触媒の回収及びリサイクル、精製及び濃縮を含む、製造業における多くの潜在的な用途がある。OSN膜は1980年代から知られている。それにもかかわらず、市販されている商業用の膜の数はまだ非常に限られており、その大部分は架橋又は非架橋のポリイミド材料 (PI)に基づく。PI OSN膜を架橋すると、耐溶媒性が向上し、アセトン、テトラヒドロフラン及びジメチルホルムアミドを含む幾つかの極性非プロトン性溶媒中で長期安定性が付与されうる。しかしながら、そのような膜は、塩素化溶媒、強アミン、強酸又は強塩基中での使用には適さないことが多い。さらに、そのような膜の推奨される最大動作温度はわずか50℃であり、これは、例えば、触媒プロセスでOSNを実施する際に深刻な制限をもたらす。典型的に、このような触媒反応は、攻撃的な溶媒(例えば、ジメチルホルムアミド(DMF))の中で、高温(例えば、100℃以上)で、高濃度の強酸又は強塩基で行われ、つまり、最も安定したOSN膜のみが適切であることを意味する。セラミック膜は、有機溶媒及び高温に対してより高い耐性を有することが示されているが、脆い構造及び加工の難しさによって適合性が妨げられており、望ましいナノろ過特性を達成することが困難になっている。さらに、幾つかの大規模な産業プロセスOSN分離は、中空繊維又はらせん状に巻かれた膜カートリッジを含むモジュールを使用して、高い表面積を提供する。これらのモジュールは、典型的に、5~100barの高い差圧に加圧される。これらの高圧は、化学、溶媒、機械及び温度安定性が低いために、従来の膜が直面する問題をさらに悪化させる。
【0004】
多孔質ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、液体媒体から比較的に大きなナノ粒子(例えば、約20ナノメートル(nm)~約100nm)を分離するためのろ材として、例えば、半導体及び製薬業界での使用のための超純水を調製するために使用されてきた。多孔質PTFEは、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)としばしば呼ばれる膨張形態であることができ、これは、比較的に大きなナノ粒子ろ過のために小さい平均細孔サイズで作製されうる高度に多孔質のネットワークを提供するノード及びフィブリル微細構造を有する。しかしながら、有機溶媒のナノろ過において有効な使用のためのePTFE膜は特定されていない。
【0005】
有機溶媒ナノろ過膜及びそのような膜を製造する方法は当該技術分野で必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
1つの態様(「態様1」)によれば、有機溶媒ナノろ過(OSN)膜は、少なくとも1つのポリマーコーティングを上に有する少なくとも1つの延伸ポリパラキシリレン(ePPX)膜を含んでなり、ePPX膜はノード、フィブリル及び細孔を含む微細構造を有し、前記ノードは前記フィブリルによって相互接続され、前記細孔は前記ノードと前記フィブリルの間のボイド空間であり、前記ePPX膜は約0.1nm~約5nmの平均細孔サイズを有する。
【0007】
別の態様(「態様2」)によれば、態様1に加えて、前記ポリマーコーティングは前記ePPX膜の片側又は両側にある。
【0008】
別の態様(「態様3」)によれば、態様1及び2に加えて、前記ノード及びフィブリルは、前記ポリマーコーティングで少なくとも部分的にコーティングされている。
【0009】
別の態様(「態様4」)によれば、上述の態様のいずれかに加えて、前記ポリマーコーティングは架橋されている。
【0010】
別の態様(「態様5」)によれば、上述の態様のいずれかに加えて、前記少なくとも1つのポリマーコーティングは、ポリエチレンイミン(PEI)、枝分かれポリエチレンイミン(BPEI)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)、アモルファスペルフルオロポリマー、フッ素化エチレンプロピレン(FEP)及びそれらの組み合わせを含む。
【0011】
別の態様(「態様6」)によれば、上述の態様のいずれかに加えて、前記少なくとも1つのポリマーコーティングは架橋ポリマーコーティングである。
【0012】
別の態様(「態様7」)によれば、上述の態様のいずれかに加えて、前記少なくとも1つの延伸ePPX膜は、複合ePPX膜であり、前記ePPX膜を含む前記複合ePPX膜は、少なくとも1つの追加の多孔質基材に対して少なくとも片側に結合されている。
【0013】
別の態様(「態様8」)によれば、上述の態様のいずれかに加えて、前記追加の多孔質基材は多孔質ポリオレフィンである。
【0014】
別の態様(「態様9」)によれば、上述の態様のいずれかに加えて、前記追加の多孔質基材は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、変性PTFE又はテトラフルオロエチレン(TFE)を含む非溶融加工性コポリマー又はターポリマーを含む。
【0015】
別の態様(「態様10」)によれば、上述の態様のいずれかに加えて、前記追加の多孔質基材は延伸PTFE(ePTFE)膜である。
【0016】
別の態様(「態様11」)によれば、上述の態様のいずれかに加えて、前記有機溶媒ナノろ過膜は、ポリマーでコーティングされたePPX-ePTFE複合膜である。
【0017】
別の態様(「態様12」)によれば、上述の態様のいずれかに加えて、前記少なくとも1つのポリマーコーティングはポリパラキシリレンではない。
【0018】
別の態様(「態様13」)によれば、上述の態様のいずれかに加えて、ePPX膜は、PPX-N、PPX-AF4、PPX-VT4又はそれらの任意の組み合わせから選ばれるポリパラキシリレンポリマーを含む。
【0019】
別の態様(「態様14」)によれば、上述の態様のいずれかに加えて、少なくとも1つの多孔質支持体をさらに含む。
【0020】
別の態様(「態様15」)によれば、上述の態様のいずれかに加えて、前記多孔質支持体は、ステンレス鋼メッシュ、膜、織布又は不織布であって、架橋ポリイミド、ポリアミド、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、PTFE、架橋ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアラミド、無機シリカ又はそれらのコポリマーの任意の組み合わせから作られたものである。
【0021】
別の態様(「態様16」)によると、システムは、(1)上述のいずれかの態様の有機溶媒ナノろ過膜と、(2)(a)第一の分子量を有する少なくとも1つの溶質及び第二の分子量を有する少なくとも1つの有機溶媒を含む、通過される溶液とを含み、前記第二の分子量は前記第一の分子量より小さい。
【0022】
別の態様(「態様17」)によれば、態様16に加えて、前記溶質は、医薬分子、石油化学分子、植物抽出物、植物油、動物抽出物、細胞抽出物、タンパク質、酵素、脂質、有機触媒又は無機触媒である。
【0023】
別の態様(「態様18」)によれば、物品は、上述のいずれかの態様の有機溶媒ナノろ過膜を含む。
【0024】
別の態様(「態様19」)によると、ろ過デバイスは、(1)供給流体をろ過ハウジング内に導くように構成された少なくとも1つの流体入口と、前記ろ過ハウジングからろ液を導くように構成された少なくとも1つの流体出口とを含むろ過ハウジング、及び(2)上述のいずれかの態様の少なくとも1つの有機溶媒ナノろ過膜を含む。
【0025】
別の態様(「態様20」)によれば、有機溶媒ナノろ過のための方法は、(1)態様19に開示されるとおりのろ過ハウジング、及び、第一の分子量を有する少なくとも1つの溶質及び第二の分子量を有する少なくとも1つの有機溶媒を含む溶液を提供すること、及び、(2)前記溶液を前記ろ過デバイスに通すことを含み、前記溶質の排除パーセントは少なくとも40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%又は99%である。
【0026】
別の態様(「態様21」)によれば、態様20に加えて、前記溶質は、医薬分子、石油化学分子、植物抽出物、植物油、動物抽出物、細胞抽出物、タンパク質、酵素、脂質、有機触媒又は無機触媒である。
【0027】
別の態様(「態様22」)によれば、態様20又は21に加えて、前記第一の分子量は少なくとも150g/モル、好ましくは150g/モル~2500g/モルである。
【0028】
別の態様(「態様23」)によれば、態様20又は21に加えて、前記第二の分子量は450g/モル以下、好ましくは250g/モル未満、最も好ましくは100g/モル未満である。
【0029】
別の態様(「態様24」)によれば、態様20又は21に加えて、前記第一の分子量は、前記第二の分子量よりも少なくとも100g/モル、好ましくは少なくとも250g/モル、最も好ましくは少なくとも500g/モル大きい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
添付の図面は、本開示のさらなる理解を提供するために含まれ、本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成し、実施形態を示し、記載とともに本開示の原理を説明するのに役立つ。
【0031】
【
図1】
図1は、幾つかの実施形態による、有機溶媒ナノろ過膜を有するろ過デバイスの立面図である。
【0032】
【
図2】
図2は、幾つかの実施形態による、延伸ポリパラキシリレン(ePPX)膜にポリマーコーティングを適用するために使用されるシステムの概略図である。
【0033】
【
図3】
図3は、幾つかの実施形態による、ナノフィルタ攪拌セル試験装置の概略図である。
【0034】
【
図4】
図4は、幾つかの実施形態による、有機溶媒ナノろ過プロセスを示すフローチャートである。
【0035】
【
図5】
図5は、幾つかの実施形態による、例6に記載のように調製された有機溶媒ナノろ過膜の走査型電子顕微鏡写真(SEM)である。
【0036】
【
図6】
図6は、幾つかの実施形態による、例7に記載のように調製された有機溶媒ナノろ過膜のSEMである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
用語集
「PPX」という用語は、ポリパラキシリレン又はパリレンを指す。
【0038】
「PPXポリマー」という用語は、表1に示されるもの及びそれらの組み合わせを含むがこれらに限定されないPPXのすべての形態を含むことが意図される。
【表1】
【0039】
本明細書で使用されるときに、用語「PPXポリマーフィルム」は、下層の基材を含まない自立構成、又は、基材の1つ以上の面上の複合構成(例えば、PPXポリマーフィルム/基材、PPXポリマーフィルム/基材/PPXポリマーフィルム)のいずれかの非延伸PPXポリマーを表すことが意図される。
【0040】
本明細書で使用されるときに、用語「PPXポリマー膜」又は「延伸PPX膜」又は「ePPX膜」は、1つ以上の方向に延伸され、細孔を有するノード及びフィブリル微細構造を含むPPXポリマーフィルムを表すことが意図される。
【0041】
本明細書で使用されるときに、「ポリマーでコーティングされたePPX膜」、「少なくとも1つのポリマーコーティングを有するePPX膜」及び「コーティングされたePPX膜」という用語は、部分的に塞いで、有機溶媒ナノろ過に適した平均細孔サイズ範囲に平均細孔サイズを減少させる、又は代わりに、0.5nm~2nmなど、5nm未満の分子溶液寸法を有する溶質の溶質排除率を増加させる、ポリマーコーティングを適用したePPX膜を指す。ePPX膜は、部分的に塞いで、有機溶媒ナノろ過に適した範囲まで平均細孔サイズを減少させるポリマーコーティングの適用前の、ePTFE膜などの別の多孔質膨張ポリマー膜との複合構成(本明細書において「複合ePPX膜」と呼ぶ)であることができる。
【0042】
「複合ポリマーでコーティングされたePPX膜」及び「有機溶媒ナノろ過膜」という用語は、複合ePPX膜(すなわち、ノード及びフィブリル微細構造を有することができる少なくとも1つの追加の膨張ポリマー膜基材/支持層(ePTFE膜など)を有するePPX膜)を指し、ここで、複合ePPX膜は、部分的に塞ぎ、したがって複合ePPX膜の平均細孔サイズを減少させる少なくとも1つのポリマーでコーティングされている。
【0043】
本明細書で使用されるときに、「二軸」又は「二軸配向」という用語は、同時又は順次のいずれかで少なくとも2方向に延伸されたポリマー、膜、プリフォーム又は物品を記載することが意図される。直交する2つの方向(すなわち、長手方向/機械方向vs横断方向、x/y平面)のマトリックス引張強度(MTS)の比率を使用して、二軸配向膜の相対的な「バランス」を記載することができる。バランスの取れた膜は、典型的に、約2:1以下のMTS比を示す。
【0044】
本明細書で使用されるときに、「細孔を部分的に塞ぐ」という語句は、有機溶媒ナノろ過用途に適した範囲まで平均細孔サイズを効果的に減少させる、多孔質ePPX膜(又はePPX複合膜)へのポリマーコーティングの適用を指す。得られた複合材料が有機溶媒ナノろ過用途に適していないときに、ePPX膜の細孔を完全に閉塞する(完全に閉塞/ブロックする)ことのないように、適用されるポリマーコーティングの量を制御する。ポリマーコーティングの種類及びコーティングの相対的な厚さを調整して、有機溶媒ナノろ過性能を調整/調節することができる(例えば、パーミアンス/フラックス、溶質排除率、濃縮係数又はそれらの任意の組み合わせ)。
【0045】
「有機溶媒ナノろ過」又は「OSN」という用語は、少なくとも1つのナノ多孔質膜を使用して、1つ以上のかさ高い溶質(すなわち、分子量が約150g/モルを超え、約300g/モルを超え、約500g/モルを超え、約150g/モル~約2500g/モル、約300g/モル~約2500g/モルである溶質)を、より低い分子量の有機溶媒(すなわち、典型的に、450g/モル以下、250g/モル以下、150g/モル未満又は100g/モル以下の有機溶媒)から分離及び/又は濃縮するろ過プロセスを指す。。有機溶媒及び溶質は、ePPX膜がそれらをサイズによって選択的に分離できるように、分子量に相対的な差を有するべきである。1つの実施形態において、溶質は、有機溶媒の分子量よりも少なくとも100g/モル、少なくとも250g/モル又は少なくとも500g/モル高い分子量を有する。OSN膜を介した有機溶液のろ過は、有機溶媒が膜を優先的に通過することを可能にし(すなわち、ろ液/透過液)、一方、より大きな溶質分子は膜の保持物側で濃縮される。しばしば厳しいろ過条件 (溶媒、温度、圧力、紫外光など)のため、薄く、強く、化学的に不活性で及び/又は熱的に安定である膜を使用することが望ましい。
【0046】
本明細書で使用されるときに、「薄い」という用語は、約50ミクロン未満の厚さを記載することが意図される。
【0047】
詳細な説明
当業者は、意図された機能を発揮するように構成された任意の数の方法及び装置によって、本開示のさまざまな態様を実現できることを容易に理解するであろう。本明細書で参照される添付の図面は、必ずしも一定の縮尺で描かれているわけではなく、本開示の様々な態様を示すために誇張されていることがあり、その点で、図面は限定的であると解釈されるべきではないことにも留意されたい。「OSN」及び「有機溶媒ナノろ過」という用語は、本明細書で交換可能に使用できることを理解されたい。「基材/支持層」及び「支持層」という用語は、本明細書で交換可能に使用できることも理解されたい。本開示では、閉塞コーティングは細孔サイズに基づいて厳密に分離されないことがあることをさらに理解されたい。例えば、閉塞層は、細孔内で「非多孔性」(例えば、完全に閉塞されている)であることができ、溶液拡散によって分離しうる。
【0048】
最初に
図1を参照すると、有機溶媒ナノろ過(OSN)デバイス100の実施形態は、ろ過ハウジング104の内部体積内に配置されたOSN膜102とともに示されている。OSN膜102は、少なくとも1つのポリマーコーティングを上に有する多孔質延伸ポリパラキシリレン(ePPX)ポリマー膜を含む。例示的なOSN膜102は、第一のポリマーでコーティングされたePPX膜110、第二のポリマーでコーティングされたePPX膜112及び中間基材/支持層114を含む。幾つかの実施形態において、中間層は、ノード及びフィブリル微細構造を有するポリマー膜であり、例えば、限定するわけではないが、ePTFE膜である。幾つかの実施形態において、基材/支持層は多孔質であるが、ノード及びフィブリルの微細構造を有していなくてよいことを理解されたい。あるいは、OSN膜102は、複合ポリマーでコーティングされたePPX膜層110、複合ポリマーでコーティングされたePPX膜層112(複合ポリマーでコーティングされたePPX膜層110と同じであっても又は異なっていてもよい)、及び、中間基材/支持層114を含む複合構成を有することができる。1つの例として、有機溶媒ナノろ過膜102はディスク形状であってもよい。しかしながら、有機溶媒ナノろ過膜102のサイズ及び形状は、所望のろ過ハウジング104内に適合するように、及び/又は、意図された有機溶媒ナノろ過用途に適応するように変更することができる。例えば、有機溶媒ナノろ過膜102は、筒形状、プリーツカートリッジ形状、らせん巻き形状又は別の適切な形状を有することができる。
【0049】
ろ過ハウジング104は、ポリマーでコーティングされたePPX膜層110と流体連通する少なくとも1つの流体入口ポート120と、ポリマーでコーティングされたePPX膜層112と流体連通する少なくとも1つの流体出口ポート122とを有する。また、流体入口ポート120と流体出口ポート122との間のろ過ハウジング104内でOSN膜102を支持するように構成された、環状シェルフ106などの1つ以上の支持構造を含む。
【0050】
流体ろ過装置100の動作中に、有機溶媒中に少なくとも1つの溶質を有する溶液を含有する供給流体124は、流体入口ポート120を通って矢印A1によって示される方向でろ過ハウジング104内に供給される。供給流体124は、少なくとも1つの有機溶媒又はブレンド又は1つ以上の有機溶媒を含むことができる。供給流体124を、製薬、マイクロエレクトロニクス、化学及び/又は食品産業で使用することができる。特定の実施形態において、供給流体124は濃縮されていてよい。供給流体124中の溶質は有機溶媒より嵩高であり、それよりも大きな分子量を有する。使用中に、供給流体124は、ハウジング104を通ってOSN膜102に向かって矢印A2で示される方向に移動する。OSN膜102は、供給流体124から溶質を(少なくとも部分的に)分離し、有機溶媒126を含むろ液/透過液は、矢印A3で示される方向にハウジング104を通って移動し、ろ過ハウジング104から流体出口ポート122を通って矢印A4で示される方向に除去される。特定の実施形態において、ろ過デバイス100は、
図1に示されるように、矢印A5で示される方向に保持物129を除去する第二の流体出口ポート128を含む。他の実施形態において、ろ過デバイス100は第二の流体出口ポート128を欠いており、保持された溶質は有機溶媒ナノろ過膜102の上又はその中に残留する。
【0051】
OSN膜102のポリマーでコーティングされたePPX膜110、112のそれぞれはノード及びフィブリル微細構造を有する。少なくとも1つの実施形態において、ポリマーでコーティングされたePPX膜110、112の一方又は両方のフィブリルは、フィブリル軸に沿って配向されたPPXポリマー鎖を含む。
【0052】
図1に示されるように、有機溶媒ナノろ過膜102は、基材/支持層114の両側に2つのポリマーでコーティングされたePPX膜110、112を有する。しかしながら、OSN膜102が基材/支持層114の片面のみに単一のポリマーでコーティングされたePPX膜を含むことは、本開示の範囲内である。OSN膜102が2つを超えるポリマーでコーティングされたePPX膜層を含むことも本開示の範囲内である。
【0053】
有機溶媒ろ過膜102の基材/支持層114は、基材/支持層114が寸法的に安定している限り、特に限定されない。所望ならば、基材/支持層114は、ポリマーでコーティングされたePPX膜層110、112から除去可能であってよい。基材/支持層114がポリマーでコーティングされたePPX膜層110、112から除去されず、複合ろ過膜102の一部として残留するならば、基材/支持層114は、供給流体124が基材114の細孔を通過できるように多孔性とすべきである。基材/支持層114に適した多孔質材料の非限定的な例としては、ステンレス鋼メッシュ、膜、限外フィルタ、ナノフィルタ、織布又は不織布材料であって、架橋ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ガラス、亜鉛、ポリベンズイミダゾール(PBI)、PTFE、架橋ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアラミド、無機シリカ又はそれらのコポリマーの任意の組み合わせから作られたものが挙げられる。幾つかの実施形態において、基材/支持層114は、1つ以上の方向に実質的に変形することができ、部分的に延伸されたePTFEテープ又は膜から形成されうる。
図1の有機溶媒ナノろ過膜102は、単一の基材/支持層114を有するが、ろ過膜102が複数の基材/支持層を含むことも本開示の範囲内である。
【0054】
ろ過膜102のポリマーでコーティングされたePPX膜110、112のそれぞれ及び/又は基材/支持層114の様々な特性を最適化して、供給流体124から分離される特定の溶質に対する所望の透過性を有する所望のろ過性能を達成することができる。以下のパラグラフで論じられるように、最適化できる特性としては、例えば、厚さ、平均細孔サイズ、%多孔率、ポリマーコーティングのタイプ及びポリマーコーティングの厚さが挙げられる。最適化できる他の特性として、例えば、ノード及び/又はフィブリルの幾何形状、又はePPX膜のサイズ及び密度が挙げられる。
【0055】
上述のように、ポリマーでコーティングされたePPX膜110、112及び基材/支持層114の厚さは、所望の用途のために最適化することができる。有機溶媒ナノろ過膜102のポリマーでコーティングされたePPX膜110、112のそれぞれは、約50ミクロン未満、約40ミクロン未満、約30ミクロン未満、約20ミクロン未満、約10ミクロン未満、約5ミクロン未満、約3ミクロン未満、約2ミクロン未満又は約1ミクロン未満の公称厚さを有することができる。幾つかの実施形態において、ポリマーでコーティングされたePPX膜110、112のそれぞれは、約0.1ミクロン~約50ミクロン、約0.1ミクロン~約40ミクロン、約0.1ミクロン~約30ミクロン、約0.1ミクロン~約20ミクロン、約0.1ミクロン~約10ミクロン、約0.1ミクロン~約5ミクロン、約0.1ミクロン~約3ミクロン、約0.1ミクロン~約2ミクロン又は約0.1ミクロン~約1ミクロンの厚さを有する。比較すると、有機溶媒ナノろ過膜102の基材/支持層114は、比較的に厚くてよい(例えば、約50ミクロンよりも厚い)。
【0056】
さらに、ポリマーでコーティングされたePPX膜110、112及び基材/支持層114の多孔度を最適化することができる。有機溶媒ナノろ過膜102のポリマーでコーティングされたePPX膜110、112のそれぞれは、約3ナノメートル(nm)未満、約2nm未満、約1nm未満又は約0.5nm未満の比較的に小さな細孔サイズを有することができる。幾つかの実施形態において、ポリマーでコーティングされたePPX膜110、112のそれぞれは、約0.01nm~約5nm、約0.5nm~約5nm、約0.5nm~約3nm、約0.5nm~約2nm又は約0.5nm~約1nmの細孔を有することができる。また、ポリマーでコーティングされたePPX膜110、112のそれぞれは、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%又は約95%まで(及びそれを含む)の多孔率を有することができる。
【0057】
有機溶媒ナノろ過膜102は、1つ以上の異なる微細構造を有することができる。少なくとも1つの実施形態において、ポリマーでコーティングされたePPX膜110、112は、微細構造が互いに区別できないように、同じ微細構造又は実質的に同じ微細構造を共有する。別の実施形態において、ポリマーでコーティングされたePPX膜110は第一の微細構造を有し、そしてポリマーでコーティングされたePPX膜112は第一の微細構造とは異なる第二の微細構造を有する。ポリマーでコーティングされたePPX膜110、112の様々な微細構造間の差は、例えば、多孔度の差、ノード及び/又はフィブリルの幾何形状又はサイズの差及び/又は密度の差によって測定されることができる。
【0058】
なおも
図1を参照すると、ポリマーでコーティングされたePPXポリマー膜110、112の小さな細孔は、溶質が有機溶媒よりもかさばる/大きい限り、有機溶媒ナノろ過膜102が様々なタイプ及びサイズの溶質を分離及び保持することを可能にすることができる。比較的に大きな溶質を供給流体124から分離するときなどの特定の実施形態において、有機溶媒ナノろ過膜102は、各通過で、約40%以上、約60%以上、約80%以上又は約90%以上の溶質保持率を達成することができる。有機溶媒ろ過膜102は、PPXポリマー膜110、112の細孔のサイズに応じて、異なる程度のろ過を達成することができる。
【0059】
さらに、ポリマーでコーティングされたePPX膜110、112の薄い構造及び/又は基材/支持層114の比較的に大きな細孔は、透過性の高い(すなわち、流れに対する抵抗が低い)有機溶媒ナノろ過膜102を作り出し、それは所定の圧力で供給流体124の高流量に対応する。例えば、有機溶媒ナノろ過膜102は、少なくとも約100LMH/bar、少なくとも約20LMH/bar、少なくとも約10LMH/bar、少なくとも約1LMH/bar又は少なくとも約0.5LMH/barの透過性を有することができる。有機溶媒ナノろ過膜102はまた、化学的攻撃に対する耐性、ガンマ線に対する耐性、熱安定性、生体適合性、強固又はそれらの任意の組み合わせを備えることができる。
【0060】
有機溶媒ナノろ過膜102はまた、用途に応じて、1つ以上の支持層/バッカーを含むことができる。適切な支持体/バッカーの例としては、架橋ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、延伸PTFE(ePTFE)、架橋ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレン テレフタレート(PET)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、アラミド(例えば、KEVLAR(登録商標))などの材料で作られた膜、限外フィルタ、ナノフィルタ、織布又は不織布、ステンレス鋼メッシュ、無機シリカ膜又はそれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0061】
ここで
図2を参照すると、ポリマーコーティングをePPX膜に適用する方法(200)が示されている。溶解したポリマーを含む溶液(210)を、ガラス漏斗(220)内の支持体/基材(240)の上に配置された(フープ及び支持された)ePPX膜(230)と接触させて配置する(270)。ブフナーフラスコ(250)に適用される真空(295)は、支持されたePPX膜(230)を通してコーティング溶液(210)を引き、過剰なコーティング溶液(290)をフラスコの底(280)に回収する。ゴム栓(260)を使用して、ガラス漏斗(220)をフラスコ(250)の上に保持することができる。例示的な有機溶媒ナノろ過膜の走査型電子顕微鏡写真(SEM)を、
図5及び6として提供する。
【0062】
図3は、マグネチックスターラ(315)及びマグネチック撹拌板(317)を備えた加圧ナノろ過(NF)撹拌セル(Millipore/Amicon 8050)装置(310)を含む、膜性能を測定するために使用されるシステム(300)の図である。
図3において、有機溶媒ナノろ過膜(325)は、Oリング(322)に隣接して取り付けられ、流れの分配を高めるために不織布支持ディスク(320)を備えたガスケットを使用して製造業者の指示に従って撹拌セルの底部にシールされる。セルに装填溶媒/溶質を充填し、ガス圧を窒素源(330)によって供給し、圧力調整器(340)を介して圧力ゲージ(345)によって読みとられる所望の設定点圧力に調整して、試験のための設定圧力にする。液体は、攪拌セル内の液体リザーバからろ材を通ってフィルタの下流に押し出され、出口ポートを通ってチューブ(350)に入る。液体はチューブを出て、質量を時間の関数として記録するコンピュータデータ取得システム(380)に接続された電子秤(370)上のリザーバ(360)に回収される。
【0063】
次に
図4を参照すると、少なくとも1つの有機溶媒中に溶質を含む溶液(410)が有機溶媒ナノろ過膜(420)を通してろ過される(430)、一般的な有機溶媒ナノろ過プロセス(400)が示されている。有機溶媒(450)を含む流体ろ液/透過液が収集される。溶質の少なくとも一部は優先的に保持され、OSN膜(420)の保持物(440)側に濃縮される。
【0064】
ePPX膜に適用されるポリマーコーティング
【0065】
ePPX膜の細孔をコーティングし、部分的に閉塞するために、様々なポリマーを使用することができる。そのようなポリマーとしては、限定するわけではないが、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレンイミン(PEI)、枝分かれポリエチレンイミン(BPEI)、アモルファスペルフルオロポリマー、フッ素化エチレンプロピレン(FEP)及びそれらの組み合わせが挙げられる。1つの実施形態において、適用されるポリマーコーティングの量及び厚さを調整し、有機溶媒ナノろ過性能(選択性、透過性など)を最適化する。別の実施形態において、ポリマーコーティングを適切な架橋剤で架橋することができる。
【0066】
ポリマーコーティングは、化学気相堆積、原子層堆積、スパッタコーティング、溶媒コーティング/吸収、ナノ粒子分散コーティング及びそれらの任意の組み合わせなどの様々な技術を使用して適用することができる。ポリマーコーティングは、ePPX膜の片面(例えば、スロットダイを使用)又は両面(例えば、ディップコーティング)に適用することができる。1つの実施形態において、溶媒コーティングは、例に記載され、
図2に示されるプロセスに従う。
【0067】
ポリマーコーティングの厚さは、細孔が完全に塞がれていない(すなわち、有機溶媒の流れが完全に遮断されていない)が、有機溶媒からの溶質の選択的分離を依然として促進する限り、様々であることができる。1つの実施形態において、ポリマーコーティングの厚さは100nm~5μmの範囲である。
【0068】
最終的な平均細孔サイズ範囲(コーティング後)は、約0.1nm~約5nm、約0.5nm~約3nm、約0.5nm~約2nm、約0.5~約1.5nm又は約0.5nm~約1nmである。
【0069】
溶質
【0070】
本明細書に記載の組成物及び方法を使用して、少なくとも1つの有機溶媒を含む溶液から1つの溶質又は複数の溶質を選択的に分離及び/又は濃縮することができる。1つの実施形態において、本発明の有機溶媒ナノろ過膜は、流体マトリックス内の対応する有機溶媒よりも比較的に大きい/嵩高い溶質を分離する。1つの実施形態において、溶質は、約150g/モルより大きく、約300g/モルより大きく、約500g/モルより大きく、約150g/モル~約2500g/モル、約300g/モル~約2000g/モル、約500g/モル~約1000g/モルの分子量を有することができる。対応する有機溶媒は、溶質が流体マトリックス内の有機溶媒より大きい分子量を有する限り、約450g/モル以下、約250g/モル以下、約150g/モル以下又は約100g/モル以下の分子量を有することができる。
【0071】
1つの実施形態において、溶質は、幾つかを挙げると、医薬成分/中間体、高分子量/高沸点石油化学分子、食品産業分子、例えば、植物抽出物/油(例えば、植物油)、動物抽出物(例えば、油など)、細胞抽出物(生体分子、タンパク質、酵素、脂質など)、モノマー又は触媒である。
【0072】
別の実施形態において、ポリマーでコーティングされたePPX膜を使用して、石油化学精製に見られるような複雑な供給流から複数の溶質を選択的に分離することができる。例えば、溶質は、原油、又は、ビンカー油、ホワイトオイル又はワイドカットディーゼル燃料などの分留物であることができる。さらなる溶質は、様々な脂肪族、オレフィン、パラフィン及びナフタリン種のワイド又はヘビーカット炭化水素を含むことができ、溶媒は、例えば非限定的な意味で、BTEXシリーズ(例えば、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン及びキシレン)などの低沸点直鎖もしくは環式炭化水素の複雑な混合物を含むことができる。ポリマーでコーティングされたePPX膜は、これらを高分子量化合物から分離するか、又は、個々のファミリー内で分離することができる(例えば、キシレンからパラキシレン)。さらに、ポリマーでコーティングされたePPX膜は、異なる程度の酸化状態、キラリティー又は他の分子分別を有する成分の分離を達成することができる。そのような例としては、潤滑流体の脱ろうが挙げられる。
【0073】
典型的には、膜OSNに使用される圧力は、4~200バール、又は4~60バールを含むことができる。
【0074】
有機溶媒
【0075】
表2は、一般的な有機溶媒の非限定的なリストを、それぞれの分子量及び化学式とともに提供する。
【表2】
【0076】
有機溶媒ナノろ過プロセス条件
【0077】
典型的な有機溶媒ナノろ過(OSN)分離は、用途に応じて広く変化し、フラットディスクで数十cm2のフィルタ面積(例えば、パイロット攪拌タンク反応器からの医薬品の精製又は触媒のろ過において)~数千m2(石油化学産業の分離用)を使用することができる。利用される膜は、好ましくは、溶質の安定した排除、これらの溶質を濃縮する能力及び適切な速度で透過する能力を示す。
【0078】
1つの実施形態において、ポリマーでコーティングされたePPX膜による溶質のパーセント(%)排除率は、少なくとも約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%、約98%又は約99%である。さらなる実施形態において、%溶質排除率は、出発溶液体積の少なくとも75体積%が透過液中に収集された後に、13.4cm2の有効フィルタ面積で60psi(約413.7kPa)の差圧を使用して測定される。高いパーセント(%)排除率に加えて、ポリマーでコーティングされたePPX膜は、少なくとも約1、約5、約10、約15、約20、約50又は約100(リットル/m2/時)/barの透過率も有する。
【0079】
別の実施形態において、濃縮係数(CF;保持物中の溶質の増加倍率)は、少なくとも約1.1、約1.25、約1.5、約1.75、約2、約3、約4、約5、約10、約25、約50又は約100である。
【0080】
膜の性能はまた、膜が少なくとも90%排除率を有する最小の溶質分子量として定義される膜公称分子量カットオフ(MWCO)によって特性化されることができる。1つの実施形態において、ポリマーでコーティングされたePPXのMWCOは、約300、約400、約500、約600、約700、約800、約900、約1000、約1500又は約2000Daである。
【0081】
試験方法
特定の方法及び装置が以下に記載されているが、当業者によって適切であると判断された他の方法又は装置を代わりに利用できることを理解されたい。
【0082】
厚さ
【0083】
Keyence LS-7010Mデジタルマイクロメータ(Keyence Corporation、ベルギー、メヘレン)を使用して、サンプルの厚さを測定した。
【0084】
面積あたりの質量(質量/面積)
膜の質量/面積は、スケールを使用して膜サンプルの明確に規定された領域の質量を測定することによって計算された。サンプルは、ダイ又は任意の正確な切断器具を使用して、規定された領域に切断された。
【0085】
密度
【0086】
密度は、面積当たりの質量を厚さで割ることによって計算した。
【0087】
ローズベンガル染料を用いた有機溶媒ナノろ過性能の測定
【0088】
ローズベンガル染料(4,5,6,7-テトラクロロ-2',4',5',7'-テトラヨードフルオレセイン二ナトリウム塩;CAS 632-69-9;MW 1017.64g/モル)を含む有機溶液を使用して、様々なポリマーでコーティングされた延伸ポリパラキシリレン膜(ePPX)のナノろ過性能を測定した。ポリマーでコーティングされたePPX膜の調製は、Sbrigliaの米国特許公開番号第US2016/0032069号明細書に記載されている。コーティングされたePPX-PTFE膜サンプルを適切なサイズに打ち抜き、AMICON(登録商標)撹拌セル濃縮器/分離器 (Merck KGaA, DarmStadt, Germany) の不織布の上に取り付け、ローズベンガル染料溶液を使用して溶媒ナノろ過性能を試験した。ローズベンガル染料排除の量を記録し、平均エタノール-ローズベンガル染料透過性を測定した。試験を60psi[約413.7kPa] の一定の窒素圧で実施し、セルに5mg/Lの濃度のローズベンガル染料溶液20mLを充填し、特に断りのない限り、試験の終了時に15mLの流体を透過液として収集した。
【0089】
LMH/bar((リットル/メートル2/時間)/bar)での透過量を記録した。本明細書で使用されるときに、用語「透過量」は、材料が流体を透過させる程度の尺度として定義され、ろ過フラックスを試験圧力で割ったものとして計算される。本明細書で使用されるときに、「ろ過フラックス」は、有効ろ過面積で割ったリットル/時の単位の体積流量として定義される。体積流量(L/hr)は、収集によってろ過された液体の質量を校正されたスケールで測定し、これをエタノールの密度(20℃で約0.8g/cm3)を使用して体積に変換し、次いで、ろ過時間で割ることによって決定された。ろ過時間は、データロガーペンドテック(PendoTECH、Princeton, NJ)をコンピュータとともに使用するか、又はストップウォッチでろ過時間を記録する電子ロギングによって決定された。Millipore/Amicon 8050撹拌セル(Merck KGaA、上記)の撹拌セル製造業者によって指定されたように、有効フィルタ面積は13.4cm2であると決定された。圧力は圧力ゲージを使用して決定された。
【0090】
有機溶媒ナノろ過膜は、ローズベンガル染料などの溶質分子種を、エタノールなどの有機溶媒供給流から効率的に分離することができる。分離効率の1つの尺度は、フィルタの下流の溶質の濃度(Csolutedown)をフィルタの上流の溶質の濃度(Csoluteupstream) で割った値から1を引いた値に100をかけることに基づいて得られる%排除率を計算することである(式1)。
[数1]
式1:
%排除率=((Csolutedown/Csoluteupstream)-1)x100
【0091】
実際、有効な工業プロセスは、溶媒からの溶質%排除率が少なくとも60%、より好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも90%を可能にする効率的な分離膜を必要とする。さらに、多くの工業環境において、溶質を分離かつ濃縮することが望ましい。溶質の濃縮は、再循環クロスフローシステム又は本明細書で使用されるデッドエンド撹拌セルにおいてステージカットを変化させることによって達成されうる。濃縮の場合に、濃縮係数CFが保持物中のCsoluteinitial(upstream)/Csolutefinal(upstream)の比率として与えられる濃縮係数を計算することがしばしば便利である(式2)。
[数2]
式2:
CF=Csoluteinitial(upstream)/Csolutefinal(upstream)
【0092】
本明細書の例に使用されるデッドエンド撹拌セルの場合に、CF=CSolutefinal(upstream)/Csoluteinitial(upstream)であり、「initial」は時間=0での入力値を示し、「final」は有限体積の透過後の試験終了時の濃度を示す。例えば、希釈分子の濃度を、少なくとも1.5X、好ましくは少なくとも2X、より好ましくは3Xを超える濃縮係数に適用するのに有用な濃度まで増加させることが望ましいことがある。
【0093】
ローズベンガル染料濃度は、文献(Linden, S.M.及びD.C. Neckers,”TypeI and typeII sensitizers based on Rose Bengal onium salts”, Photochem. Photobiol.47, 543-550(1988))に記載されているように、分光光度法を使用して分析的に決定した。Agilent Cary UV-vis 分光光度計 (Agilent Technologies Inc., Santa Clara, CA)を石英キュベットとともに使用した。ベールの法則の検量線は、560nm でのピーク吸光度を使用してエタノール中で染料を連続希釈することによって作成した。次に、透過サンプルを収集し、必要に応じて希釈して、測定された吸光度をベールの法則曲線と比較して溶液濃度を計算した。
【実施例0094】
例
【0095】
本出願の発明を一般的に及び特定の実施形態に関して両方で記載してきた。当業者に、本開示の範囲から逸脱することなく、実施形態に様々な変形及び変更を加えることができることが明らかであろう。したがって、実施形態は、添付の特許請求の範囲及びそれらの均等形態の範囲内にある限り、本発明の変形及び変更を網羅することが意図されている。
【0096】
例1(比較)
【0097】
延伸ポリパラキシリレン(ePPX)膜-追加のポリマーコーティングなし
【0098】
Sbrigliaに対する米国特許出願公開第2016/0032069号明細書に記載された方法を使用して、1μmの公称厚さを有するポリパラキシリレン(PPX-AF4)のフィルムを、ブレンドされ、押出され、乾燥されたPTFEテープの両側に堆積した。このテープは、Goreの米国特許第3,953,566号明細書の教示に従って、市販の蒸着法(Specialty Coating Systems,7645 Woodland Drive, Indianapolis,IN46278)によって一般に製造される。次いで、コーティングされた物品を200mm×200mmの寸法に切断し、対流オーブンを備えたパンタグラフ型二軸バッチエキスパンダのグリップに配置した。コーティングされた物品(テープ)を350℃の一定温度に300秒間さらした。次いで、コーティングされたテープを、100パーセント(%)/秒の工学ひずみ速度(ESR)で、テープ機械方向(MD)に4:1及びテープ横断方向(TD)に4:1の延伸比まで同時に延伸した。延伸した物品(延伸した膜)を、パンタグラフ二軸エキスパンダグリップの拘束下で室温(約22℃)まで冷却した。冷却後に、延伸したポリパラキシリレン膜をエキスパンダグリップから取り外した。
【0099】
延伸ポリパラキシリレン膜は、>250ポンド/平方インチ(psi)(>1.72MPa)の気液バブルポイントを有していた。延伸ポリパラキシリレン膜をダイカットし、AMICON(登録商標)/Millipore Model 8050 撹拌セル濃縮器/分離器 (Merck KGaA, DarmStadt, Germany)中で、Typar(登録商標) 3151 ポリプロピレンスパンボンド不織布 (Typar Geosynthetics, Roseville, MN)の上に取り付け、ローズベンガルラクトン染料 (Santa Cruz Biotechnology, Dallas, Texas) (4,5,6,7-テトラクロロ-2',4',5',7'-テトラヨードフルオレセイン二ナトリウム塩; CAS11121-48-5; MW 1017.62g/モル))のエタノール中の溶液を使用して、溶媒ナノろ過性能について試験を行った。ローズベンガル染料の排除は観察されず(0%排除率)、235LMH/barの平均エタノール-ローズベンガルフラックスが記録された(表3)。
【0100】
例2(比較)
【0101】
市販のナノろ過膜
【0102】
DURAMEM(登録商標)500変性ポリイミド膜(分子量カットオフ(MWCO)500Da;Evonik Degussa Corp., Parsipany, NJ)をダイカットし、AMICON(登録商標)攪拌セル(Merck KGaA、上記)中で、Typar(登録商標)3151ポリプロピレンスパンボンド不織布(Typar Geosynthetics、上記)の上に取り付け、上記のように調製したローズベンガル及びエタノールの溶液を使用して、溶媒ナノろ過性能について試験した。供給装填物の75パーセント(75%)をろ過してろ液/透過液とした。ローズベンガル染料の排除が観察され(60%の排除率)、0.5LMH/barの平均エタノール-ローズベンガルフラックスが記録された(表3)。
【0103】
例3
【0104】
複合延伸ポリパラキシリレン膜上のポリビニルアルコール(PVA)コーティング
【0105】
Sbrigliaに付与された米国特許公開第2016/0032069号明細書に記載された方法を使用して、公称厚さ1μmのPPX-AF4のフィルムを、ブレンドされ、押し出され、乾燥されたPTFEテープの両側に堆積させた。このテープは、Goreの米国特許第3,953,566号明細書の教示に従って、市販の蒸着プロセス(Specialty Coating Systems、上記)により製造される。次に、複合ePPX膜を200mmx200mmの寸法に切断し、対流式オーブンを備えたパンタグラフ型二軸バッチエキスパンダのグリップに配置した。複合ePPX膜を350℃の一定温度に300秒間さらした。次いで、複合ePPX膜を、100%/秒の工学ひずみ速度(ESR)で、テープ機械方向に4:1及びテープ横断方向に4:1の延伸比まで同時に延伸した。延伸した複合ePPX膜を、パンタグラフ二軸エキスパンダグリップの拘束下で室温 (約22℃)まで冷却した。冷却後に、延伸複合ePPX膜をエキスパンダグリップから取り外した。
【0106】
延伸複合ePPX膜は、>250psi(>1.72MPa)の気液バブルポイントを有していた。延伸複合ePPX膜を10mLのイソプロパノールであらかじめ湿潤化させた。あらかじめ湿潤化させた延伸複合ePPX膜を、直径90mm又は150mmのガラス真空漏斗内のろ紙支持体上に取り付け、0.69mg/cm2のポリビニルアルコール ポリマーUSP(MW約100,000) (Spectrum Chemical, New Brunswick, NJ)の水中のコーティング溶液(ポリマーは、0.04モル濃度でホットプレート上で穏やかに加熱及び撹拌することにより逆浸透精製水に予めゆっくりと溶解し、次いで冷却し、0.004モル濃度に希釈した)を当業界で既知の方法で水中で投与した。PVA溶液は、膜の表面に液体が見えなくなるまで、15mmhg(約20ミリバール)で真空を介して延伸複合ePPX膜に引き込まれた。複合ポリマーでコーティングされたePPX膜(有機溶媒ナノろ過膜)を真空漏斗から取り出し、フープに拘束し、次いで、風乾した。乾燥した複合ポリマーでコーティングされたePPX膜をコーティングされた面を上にしてAMICON(登録商標)撹拌セル濃縮器/分離器(Merck KGaA、上記)に配置し、上記のように有機溶媒ナノろ過性能を試験した。供給装填物の75パーセント(75%)をろ過してろ液とした。濃縮係数CF=2.7X、平均排除率は57、平均透過量は15.4LMH/barであった(表3)。
【0107】
例4
【0108】
複合延伸ポリパラキシリレン膜上の枝分かれポリエチレンイミン(BPEI)-架橋コーティング
【0109】
Sbrigliaに対する米国特許公開第2016/0032069号明細書に記載された方法を使用して、1μmの公称厚さを有するポリパラキシリレン(PPX-AF4)のフィルムを、ブレンドされ、押出され、乾燥されたPTFEテープの両側に堆積した。このテープは、一般に、Goreの米国特許第3,953,566号明細書の教示に従って、市販の蒸着プロセス(Specialty Coating Systems、上記)により製造される。次に、複合ePPX膜を200mmx200mmの寸法に切断し、対流式オーブンを備えたパンタグラフ型二軸バッチエキスパンダのグリップに配置した。複合ePPX膜を350℃の一定温度に300秒間さらした。次いで、複合ePPX膜を、100%/秒の工学ひずみ速度(ESR)で、テープ機械方向に4:1及びテープ横断方向に4:1の延伸比まで同時に延伸した。パンタグラフ二軸エキスパンダグリップの拘束下で、延伸複合ePPX膜を室温 (約22℃)まで冷却させた。冷却後に、延伸複合ePPX膜をエキスパンダグリップから取り外した。延伸複合ePPX膜は、>250psi(>1.72MPa)の気液バブルポイントを有していた。次に、延伸複合ePPX膜を10mLのイソプロパノールであらかじめ湿潤化させた。あらかじめ湿潤化させた延伸複合ePPX膜を、直径90mm又は150mmのガラス真空漏斗内のろ紙支持体上に取り付け、0.05mg/cm2の枝分かれポリ(エチレンイミン)(BPEI)コーティング溶液(カタログ番号 181978、Sigma-Aldrich, St Louis, MO)を投与した。
【0110】
枝分かれポリ(エチレンイミン)溶液をイソプロパノール(Sigma Aldrich, St Loui, MO)に0.64mg BPEI/Lイソプロパノールの濃度で攪拌することにより溶解した。延伸複合ePPX膜の表面に液体が見えなくなるまで、15mmhg(約20ミリバール)で真空を介して延伸複合ePPX膜にBPEIコーティング溶液を引き込んだ。次に、延伸複合ePPX膜を、20mLのIPA中の0.1g多官能性グリシジル グリセロール-エーテル架橋性溶液(カタログ番号9221-50 Polysciences Inc, Warrington, PA)と、初期コーティング溶液と同様に、溶液を1分間延伸複合ePPX膜を通して真空ろ過することによって接触させ、次いで、コーティングプロセス中と同様に、40mLのIPA及び40mLの水で連続真空ろ過により連続的にすすいだ。BPEI架橋延伸PPX-PTFE膜(複合ポリマーでコーティングされたePPX膜)を真空漏斗から取り出し、フープに拘束し、空気乾燥させた。乾燥したPPX-PTFE膜を、AMICON(登録商標)撹拌セル濃縮器/分離器(Mark KGaA、上記)上に真空コーティング溶液面に面する上側を置き、上記のように有機溶媒ナノろ過性能について試験した。供給装填物の75パーセント(75%)をろ過してろ液/透過液とした。供給物濃度はCF=3.94Xに増加し、平均排除率は98%で、平均流束は23.2LMH/barであった(表3)。
【0111】
例5
【0112】
延伸PPX膜上のポリビニリデンジフルオリド(PVDF)コーティング
【0113】
Sbrigliaの米国特許公開第2016/0032069号明細書に記載された方法を使用して、1μmの公称厚さを有するポリパラキシリレン(PPX-AF4)のフィルムを、ブレンドされ、押出され、乾燥されたPTFEテープの両側に堆積した。このテープは、Goreの米国特許第3,953,566号明細書の教示に従って、市販の蒸着プロセス(Specialty Coating Systems、上記)によって一般的に作られる。次に、複合ePPX膜(テープ)を200mmx200mmの寸法に切断し、対流式オーブンを備えたパンタグラフ型二軸バッチエキスパンダのグリップに配置した。複合ePPX膜を350℃の一定温度に300秒間さらした。次いで、複合ePPX膜を、100%/秒の工学ひずみ速度(ESR)で、テープ機械方向に4:1及びテープ横断方向に4:1の延伸比まで同時に延伸した。パンタグラフ二軸エキスパンダグリップの拘束下で、延伸複合ePPX膜を室温 (約22℃)まで冷却させた。冷却後に、延伸複合ePPX膜をエキスパンダグリップから取り外した。延伸複合ePPX膜は、>250psi(>1.72MPa)の気液バブルポイントを有していた。延伸複合ePPX膜は、10mLのイソプロパノールであらかじめ湿潤化させた。あらかじめ湿潤化させた延伸複合ePPX膜を、直径90mm又は150mmのガラス真空漏斗内のろ紙支持体上に取り付け、70℃で熱で溶解したジメチルアセトアミド(DMAc)中の0.34mg/cm2のポリビニリデンジフルオリド(PVDF)コーティング溶液 (Arkema (Arkema Inc., King of Prussia, PA)のグレード955)を投与し、2.2g/Lで当該技術分野で知られている方法で一晩撹拌した。表面に液体が見えなくなるまで、15mmhg(約20ミリバール)で真空を介して 20mLのアセトンであらかじめ湿潤化された延伸複合ePPX膜中に室温のPVDF溶液を引き込んだ。これに続いて、初期コーティングと同じ圧力差での真空ろ過により、20mLの水及び20mLのイソプロピルアルコールですすいだ。PVDFコーティングされたePPX-PTFE膜(複合ポリマーでコーティングされたePPX膜)を真空漏斗から取り出し、フープに拘束し、次いで、空気乾燥させた。AMICON(登録商標)攪拌セル濃縮器/分離器(Merck KGaA、上記)において、乾燥したPVDFでコーティングされたePPX-PVDF膜を上に向けて配置し、上記のように有機溶媒ナノろ過性能について試験した。供給装填物の75パーセント(75%)をろ過してろ液/透過液とした。供給物濃度はCF=3.7Xに増加し、平均排除率は90%、平均透過量は24.7LMH/barであった(表3)。
【0114】
例6
【0115】
複合延伸PPX膜上のCYTOP(登録商標)A型アモルファスペルフルオロポリマーコーティング
【0116】
Sbrigliaに対する米国特許出願公開第2016/0032069号明細書に記載された方法を使用して、公称厚さ1μmを有するポリパラキシリレン(PPX-AF4)のフィルムを、ブレンドされ、押出され、乾燥されたPTFEの両側に堆積した。このテープは、市販の蒸着法(Specialty Coating Systems、上記)により、Goreの米国特許第3,953,566号明細書の教示に従って一般に製造される。次に、複合ePPX膜(テープ)を200mmx200mmの寸法に切断し、対流式オーブンを備えたパンタグラフ型二軸バッチエキスパンダのグリップに配置した。複合ePPX膜を350℃の一定温度に300秒間さらした。次いで、複合ePPX膜を、100%/秒の工学ひずみ速度(ESR)で、テープ機械方向に4:1及びテープ横断方向に4:1の延伸比まで同時に延伸した。パンタグラフ二軸エキスパンダグリップの拘束下で、延伸複合ePPX膜を室温 (約22℃)まで冷却した。冷却後に、延伸複合ePPX膜をエキスパンダグリップから取り外した。延伸複合ePPX膜は、>250psi(>1.72MPa)の気液バブルポイントを有していた。次に、延伸複合ePPX膜を10mLのイソプロパノールであらかじめ湿潤化させた。あらかじめ湿潤化させた延伸複合ePPX膜を、直径90mm又は150mmのガラス真空漏斗内のろ紙支持体上に取り付け、HFE-7500(3-エトキシル-1,1,1,2,3,4,4,5,5,6,6,6-ドデカフルオロ-2-トリフルオロメチルヘキサン(Novec 7500(商標)としても知られる;MW=414.1;3M Corporation, St Paul.,MN)中に溶解した0.05mg/cm
2のCYTOP(登録商標)アモルファスペルフルオロポリマーコーティング溶液(CYTOP(登録商標)ポリマータイプA; 標準分子量 250K~300K; AGC Chemicals Americas, Inc., Exton PA)を、当該技術分野で知られている方法により0.2質量パーセントで投与した。液体が表面に見えなくなるまで、15mmhg(約20ミリバール)で真空を介して延伸複合ePPX膜中にCYTOP(登録商標)コーティング溶液を引き込んだ。複合ポリマーでコーティングされたePPX膜を真空漏斗から取り出し、フープに拘束し、空気乾燥し、オーブンで360℃で10分間乾燥した。乾燥したCYTOP(登録商標)でコーティングされた複合ePPX膜を、AMICON(登録商標)撹拌セル濃縮器/分離器 (Merck KGaA、上記)に上に向けて配置し、上記のように有機溶媒ナノろ過性能について試験した。供給装填物の75パーセント(75%)をろ過してろ液/透過液とした。供給物濃度はCF=3.61Xに増加し、平均排除率は88%、平均透過量は100LMH/barであった。
図5は、CYTOP(登録商標)でコーティングされた延伸複合ePPX膜の走査型電子顕微鏡写真(SEM)である。
【0117】
例7
【0118】
複合延伸PPX膜上のフッ素化エチレンプロピレン(FEP)コーティング
【0119】
Sbrigliaの米国特許公開第2016/0032069号明細書に記載されている方法を使用して、公称厚さ1μmのポリパラキシリレン(PPX-AF4)のフィルムを、ブレンドされ、押出され、乾燥されたPTFEテープの両側に堆積した。このテープは、Goreの米国特許第3,953,566号明細書の教示に従って、市販の蒸着プロセス(Specialty Coating Systems、上記)によって一般的に作られる。次に、複合ePPX膜(テープ)を200mmx200mmの寸法に切断し、対流式オーブンを備えたパンタグラフ型二軸バッチエキスパンダのグリップに配置した。複合ePPX膜を350℃の一定温度に300秒間さらした。次いで、複合ePPX膜を、100%/秒の工学ひずみ速度(ESR)で、テープ機械方向に4:1及びテープ横断方向に4:1の延伸比まで同時に延伸した。パンタグラフ二軸エキスパンダグリップの拘束下で、延伸複合ePPX膜を室温 (約22℃) まで冷却させた。冷却後に、延伸複合ePPX膜をエキスパンダグリップから取り外した。延伸複合ePPX膜は、>250psi(>1.72MPa)の気液バブルポイントを有していた。次に、延伸複合ePPX膜を10mLのイソプロパノールであらかじめ湿潤化させた。次に、あらかじめ湿潤化させた延伸複合ePPX膜を、直径90mm又は150mmのガラス真空漏斗内のろ紙支持体上に取り付け、0.06mg/cm
2のFEPコーティング溶液(フッ素化エチレンプロピレン121 D 分散液 (The Chemours Company, Wilmington, DE)を、当該技術分野で知られている方法によってイソプロパノール中で0.25質量パーセント固形分濃度に希釈した)を投与した。液体が表面に見えなくなるまで、FEPコーティング溶液を15mmhg(約20ミリバール)の真空を介して延伸複合ePPX膜に引き込んだ。FEPコーティングされたePPX-PTFE膜を真空漏斗から取り出し、フープに拘束し、空気乾燥し、次いで、360℃のオーブンで10分間乾燥させた。オーブンで乾燥させた後に、ePPX-PTFE膜をAMICON(登録商標)撹拌セル濃縮器/分離器 (Merck KGaA、上記)に上に向けて置き、上記のようにナノろ過性能について試験した。供給装填物の75%(75%)をろ過してろ液/透過液とし、供給物濃度はCF=3.76Xに増加し、平均排除率は92%で、平均フラックスは1LMH/barであった(表3)。
図6はFEPでコーティングされた膜のSEM画像である。
【表3】
少なくとも1つのポリマーコーティングを上に有する少なくとも1つの延伸ポリパラキシリレン(ePPX)膜を含んでなる有機溶媒ナノろ過(OSN)膜であって、前記ePPX膜はノード、フィブリル及び細孔を含む微細構造を有し、前記ノードは前記フィブリルによって相互接続され、前記細孔は前記ノードと前記フィブリルの間のボイド空間であり、前記少なくとも1つのポリマーコーティングは前記細孔を部分的に閉塞し、前記有機溶媒ナノろ過膜は0.1nm~5nmの平均細孔サイズを有する、有機溶媒ナノろ過(OSN)膜。