(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052964
(43)【公開日】2024-04-12
(54)【発明の名称】防音材
(51)【国際特許分類】
B29C 44/56 20060101AFI20240405BHJP
B29C 44/00 20060101ALI20240405BHJP
B29C 44/12 20060101ALI20240405BHJP
B29C 39/10 20060101ALI20240405BHJP
B29C 39/22 20060101ALI20240405BHJP
【FI】
B29C44/56
B29C44/00 A
B29C44/12
B29C39/10
B29C39/22
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024032634
(22)【出願日】2024-03-05
(62)【分割の表示】P 2020149510の分割
【原出願日】2020-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100112472
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100202223
【弁理士】
【氏名又は名称】軸見 可奈子
(72)【発明者】
【氏名】中根 和靖
(57)【要約】
【課題】防音性能を向上可能な防音材とその製造方法の提供。
【解決手段】防音材10は、吸音用のポリウレタンフォーム11を含む。この防音材10は、前記ポリウレタンフォームの表面に、通気性を有する表皮材が一体化され、発泡成形されたポリウレタンフォーム11の表面から内部へと表皮材を通して圧縮ガスを吹き込むブロー処理を行ってポリウレタンフォーム11に含まれる複数の発泡セル30のセル膜31に破断孔32Yを追加工することで製造される。
【選択図】
図17
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタンフォームを含む防音材の製造方法であって、
前記ポリウレタンフォームを1対の通気性を有する表皮材で挟む配置となるように前記ポリウレタンフォームと前記1対の表皮材とを一体化し、
発泡成形された前記ポリウレタンフォームの内部へと前記表皮材を通して圧縮ガスを吹き込むブロー処理を行って、前記ポリウレタンフォームに含まれる複数の発泡セルのセル膜に破断孔を追加工する防音材の製造方法。
【請求項2】
前記ブロー処理は、前記圧縮ガスを噴出するノズルの先端面を前記表皮材の表面に接触又は近接させて行われる、請求項1に記載の防音材の製造方法。
【請求項3】
前記圧縮ガスの動圧は、0.1~1MPaである、請求項2に記載の防音材の製造方法。
【請求項4】
前記ブロー処理の前に、前記表皮材を通して前記ポリウレタンフォームの表面に複数の針又は刃物の突先を突き刺す突き刺し処理を行う、請求項1から3の何れか1の請求項に記載の防音材の製造方法。
【請求項5】
ポリウレタンフォームを含む防音材であって、
前記ポリウレタンフォームが1対の通気性を有する表皮材で挟まれるように前記ポリウレタンフォームと前記1対の表皮材とが一体化され、
前記ポリウレタンフォームに含まれる複数の発泡セルのセル膜に形成された破断孔を備え、
前記発泡セルのうちクローズドセルの数が、前記ポリウレタンフォームの内部より前記表皮材が一体化した表面に近いほど少ない防音材。
【請求項6】
ポリウレタンフォームを含む防音材であって、
前記ポリウレタンフォームが1対の通気性を有する表皮材で挟まれるように前記ポリウレタンフォームと前記1対の表皮材とが一体化され、
前記ポリウレタンフォームに含まれる複数の発泡セルのセル膜に形成された破断孔を備え、
前記ポリウレタンフォームの通気量が、前記ポリウレタンフォームの前記内部より前記表皮材が一体化した表面に近いほど大きい防音材。
【請求項7】
前記ポリウレタンフォームは、扁平形状をなし、その表裏の両面に前記表皮材が一体化し、
前記ポリウレタンフォームの厚み方向の中央部における単位断面積当たりのクローズドセルの数に対する、前記ポリウレタンフォームの表裏の両面からそれぞれ深さ3mmまでの表層部における単位断面積当たりの前記クローズドセルの数の比が0.7以下になっている、請求項5又は6に記載の防音材。
【請求項8】
前記発泡セルの合計数に対する、オープンセルの数の割合が、前記ポリウレタンフォームの前記内部より前記表皮材が一体化した前記表面に近いほど多い、請求項5から7の何れか1の請求項に記載の防音材。
【請求項9】
前記破断孔は、前記表皮材を通して前記ポリウレタンフォームの内部へと吹き込まれた圧縮ガスの風圧で前記セル膜を破断してなる、請求項5から8の何れか1の請求項に記載の防音材。
【請求項10】
JIS K6400-2:2012のE法に基づく前記ポリウレタンフォームの50%圧縮硬さが、500N~3000Nである、請求項5から9の何れか1の請求項に記載の防音材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、発泡体を含む防音材とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、連続気泡を有するポリウレタンフォームを含む防音材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実全昭49-081516号(明細書第2頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の防音材に対して、防音性能の向上が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためになされた発明の第1態様は、ポリウレタンフォームを含む防音材の製造方法であって、前記ポリウレタンフォームを1対の通気性を有する表皮材で挟む配置となるように前記ポリウレタンフォームと前記1対の表皮材とを一体化し、発泡成形された前記ポリウレタンフォームの内部へと前記表皮材を通して圧縮ガスを吹き込むブロー処理を行って、前記ポリウレタンフォームに含まれる複数の発泡セルのセル膜に破断孔を追加工する防音材の製造方法である。
【0006】
発明の第2態様は、前記ブロー処理は、前記圧縮ガスを噴出するノズルの先端面を前記表皮材の表面に接触又は近接させて行われる、第1態様に記載の防音材の製造方法である。
【0007】
発明の第3態様は、前記圧縮ガスの動圧は、0.1~1MPaである、第2態様に記載の防音材の製造方法である。
【0008】
発明の第4態様は、前記ブロー処理の前に、前記表皮材を通して前記ポリウレタンフォームの表面に複数の針又は刃物の突先を突き刺す突き刺し処理を行う、第1態様から第3態様の何れか1の態様に記載の防音材の製造方法である。
【0009】
発明の第5態様は、ポリウレタンフォームを含む防音材であって、前記ポリウレタンフォームが1対の通気性を有する表皮材で挟まれるように前記ポリウレタンフォームと前記1対の表皮材とが一体化され、前記ポリウレタンフォームに含まれる複数の発泡セルのセル膜に形成された破断孔を備え、前記発泡セルのうちクローズドセルの数が、前記ポリウレタンフォームの内部より前記表皮材が一体化した表面に近いほど少ない防音材である。
【0010】
発明の第6態様は、ポリウレタンフォームを含む防音材であって、前記ポリウレタンフォームが1対の通気性を有する表皮材で挟まれるように前記ポリウレタンフォームと前記1対の表皮材とが一体化され、前記ポリウレタンフォームに含まれる複数の発泡セルのセル膜に形成された破断孔を備え、前記ポリウレタンフォームの通気量が、前記ポリウレタンフォームの前記内部より前記表皮材が一体化した表面に近いほど大きい防音材である。
【0011】
発明の第7態様は、前記ポリウレタンフォームは、扁平形状をなし、その表裏の両面に前記表皮材が一体化し、前記ポリウレタンフォームの厚み方向の中央部における単位断面積当たりのクローズドセルの数に対する、前記ポリウレタンフォームの表裏の両面からそれぞれ深さ3mmまでの表層部における単位断面積当たりの前記クローズドセルの数の比が0.7以下になっている、第5態様又は第6態様に記載の防音材である。
【0012】
発明の第8態様は、前記発泡セルの合計数に対する、オープンセルの数の割合が、前記ポリウレタンフォームの前記内部より前記表皮材が一体化した前記表面に近いほど多い、第5態様から第7態様の何れか1の態様に記載の防音材である。
【0013】
発明の第9態様は、前記破断孔は、前記表皮材を通して前記ポリウレタンフォームの内部へと吹き込まれた圧縮ガスの風圧で前記セル膜を破断してなる、第5態様から第8態様の何れか1の態様に記載の防音材である。
【0014】
発明の第10態様は、JISK6400-2:2012のE法に基づく前記ポリウレタンフォームの50%圧縮硬さが、500N~3000Nである、第5態様から第9態様の何れか1の態様に記載の防音材である。
【発明の効果】
【0015】
発明の第1態様では、ポリウレタンフォームを1対の通気性を有する表皮材で挟むようにポリウレタンフォームと1対の表皮材とを一体化する。そして、ポリウレタンフォームの内部へと圧縮ガスを吹き込むブロー処理を表皮材を通して行って、複数の発泡セルのセル膜に破断孔を追加工する。これにより、ポリウレタンフォームのうち表皮材が一体化した表面側の発泡セルが連通し易くなり、ポリウレタンフォームの内部まで音(空気)を進入させ易くなる。これにより、ポリウレタンフォームを表皮材で保護しつつ、ポリウレタンフォームの吸音性能を向上させることが可能となり、防音材の防音性能を向上させることが可能となる。
【0016】
発明の第2態様では、ブロー処理が、圧縮ガスを噴出するノズルの先端面を、表皮材の表面に接触又は近接させて行われる。従って、ポリウレタンフォームに圧縮ガスを吹き込み易くなると共に、圧縮ガスの吹込み量のばらつきを抑えることが可能となる。この場合、圧縮ガスの動圧を0.1~1MPaとすることで(発明の第3態様)、ポリウレタンフォームの内部までの破断孔の形成が容易となる。
【0017】
発明の第4態様では、ブロー処理の前に、表皮材を通してポリウレタンフォームの表面に針又は刃物の突先を突き刺すので、圧縮ガスをその刺し痕を通してポリウレタンフォームの内部側に吹き込み易くすることができる。
【0018】
発明の第5態様の防音材では、ポリウレタンフォームが1対の通気性を有する表皮材で挟まれるようにポリウレタンフォームと1対の表皮材とが一体化される。また、ポリウレタンフォームの発泡成形時にセル膜に形成される発泡孔を備え、発泡セルのうちクローズドセルの数が、ポリウレタンフォームの内部より、表皮材が一体化した表面に近いほど少ない。これにより、破断孔等により連通したオープンセルを、ポリウレタンフォームの内部より表面に近いほど多くすることが可能となる。また、発明の第6態様の防音材では、ポリウレタンフォームの通気量が、ポリウレタンフォームの内部より表皮材が一体化した表面に近いほど大きい。これらの構成によれば、ポリウレタンフォームの表面側の部分の通気性を高めることが可能となり、ポリウレタンフォームの該表面側からの音に対する吸音性能を高めることが可能となり、その結果、防音材の防音性能を向上させることが可能となる。
【0019】
発明の第7態様では、ポリウレタンフォームが扁平形状をなすと共にその表裏の両面に表皮材が一体化し、ポリウレタンフォームの厚み方向の中央部における単位断面積当たりのクローズドセルの数に対する、ポリウレタンフォームの表裏の両面からそれぞれ深さ3mmまでの表層部における単位断面積当たりのクローズドセルの数の比が、0.7以下になっている。この構成によれば、ポリウレタンフォームの吸音性能を特に向上させることが可能となる。
【0020】
発明の第8態様では、発泡セルの合計数に対する、オープンセルの数の割合が、ポリウレタンフォームの内部より表皮材が一体化した表面に近いほど多い。この構成によれば、ポリウレタンフォームの表面側の通気性を高めてポリウレタンフォームの内部まで通気させ易くなり、ポリウレタンフォームの吸音性能をより向上させることが可能となる。
【0021】
発明の第9態様のように、ポリウレタンフォームの破断孔は、表皮材を通してポリウレタンフォームの内部へと吹き込まれる圧縮ガスの風圧でセル膜を破断することで、容易に形成することができる。
【0022】
発明の第10態様では、ポリウレタンフォームの50%圧縮硬さが500~3000Nとなっているので、剛性を確保することが可能となる。これにより、ポリウレタンフォームの形状の安定性を図ることが可能となる。なお、50%圧縮硬さが上記範囲のポリウレタンフォームでは、例えばロールクラッシングによってセル膜に破断孔を形成すると、つぶれて復元しないため寸法精度が低くなったり、しわが入って外観が悪くなり易くなるが、本発明の構成では、ロールクラッシングの必要がなくなるので、ポリウレタンフォームの寸法精度の低下や外観の悪化を抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図2】防音材のポリウレタンフォームの拡大側断面図
【
図3】ポリウレタンフォームの発泡セルの拡大側断面図
【
図7】防音材のポリウレタンフォームの拡大側断面図
【
図8】ポリウレタンフォームの発泡セルの拡大側断面図
【
図9】(A)型開き状態の成形型と成形型に固定された表皮材の側断面図、(B)型開き状態で原料が注入されているときの成形型と表皮材の側断面図
【
図10】(A)型閉じされて原料が発泡開始するときの成形型と表皮材の側断面図、(B)成形型内で発泡成形されたポリウレタンフォームと表皮材の側断面図
【
図11】ポリウレタンフォームの表面からブロー処理が行われている防音材の側断面図
【
図12】表皮材側からブロー処理が行われている防音材の側断面図
【
図15】(A)型開き状態の成形型と成形型に固定された表皮材の側断面図、(B)型開き状態で原料が注入されているときの成形型と表皮材の側断面図
【
図16】(A)型閉じされて原料が発泡開始するときの成形型と表皮材の側断面図、(B)成形型内で発泡成形されたポリウレタンフォームと表皮材の側断面図
【
図17】表皮材側からブロー処理が行われている防音材の側断面図
【
図20】第5実施形態に係る防音材の(A)側断面図、(B)底面図
【
図21】露出面側から突き刺し処理が行われるポリウレタンフォームの側断面図
【
図22】表皮材側から突き刺し処理が行われるポリウレタンフォームの側断面図
【
図23】ポリウレタンフォームの外周面における発泡セルの拡大画像
【発明を実施するための形態】
【0024】
[第1実施形態]
図1に示されるように、第1実施形態に係る防音材10は、ポリウレタンフォーム11からなる。本実施形態では、ポリウレタンフォーム11は、扁平形状をなすと共に、連続気泡(オープンセル)を有し、吸音性を有する。なお、扁平形状としては、板状その他の平たい形状が挙げられ、扁平形状には表面又は裏面に凹凸が形成された形状も含まれる。本実施形態では、ポリウレタンフォーム11は平板状をなしている。
【0025】
なお、ポリウレタンフォーム11としては、半硬質ポリウレタンフォームが好ましい。軟質ポリウレタンフォームは柔らかく剛性が低く、硬質ポリウレタンフォームは硬度が高く剛性が高過ぎるため、適度な剛性を有する半硬質ポリウレタンフォームがより好ましい。半硬質ポリウレタンフォームとしては、例えば、JIS K6400-2:2012のE法に基づく50%圧縮硬さが、500~3000Nであるものが好ましい。
【0026】
また、ポリウレタンフォーム11の見掛け密度(JIS K7222:2005に基づく。)は、30~90kg/m3であることが好ましい。見掛け密度が40kg/m3以上であると、ポリウレタンフォーム11の遮音性が特に向上し、見掛け密度が60kg/m3以下であると、ポリウレタンフォーム11の軽量化の点で特に好ましい。ポリウレタンフォーム11の厚みは、例えば1~50mmである。
【0027】
図3に示されるように、ポリウレタンフォーム11では、発泡セル30が密集している。発泡セル30としては、オープンセル30Aとクローズドセル30Bが設けられている。オープンセル30Aは、発泡セル30を区切るセル膜31を貫通したセル孔32で、互いに連通している。クローズドセル30Bは、セル孔32が設けられていないセル膜31に囲まれていて、他の発泡セル30と連通していない。ここで、本開示では、ポリウレタンフォーム11を顕微鏡(例えばSEM等)で35倍に拡大した画像において、セル孔32の有無を判断し、発泡セル30を囲むセル膜31にセル孔32が視認されない場合には、その発泡セル30をクローズドセル30Bとする。なお、例えば、ポリウレタンフォーム11には、発泡セル30が20~150個/25mm含まれている。
【0028】
図1及び
図2に示されるように、ポリウレタンフォーム11は、ポリウレタンフォーム11内へ音(空気)を進入させる吸音面11Mと、その吸音面11Mからポリウレタンフォーム11の内部に連通する吸音経路33と、が設けられた吸音構造40を有する。詳細には、
図3に示されるように、吸音面11Mは、ポリウレタンフォーム11の表面のうち発泡セル30のオープンセル30Aが開口した面である。また、吸音経路33は、吸音面11Mからポリウレタンフォーム11の内部に向かって連通した複数のオープンセル30Aにより構成される。なお、ポリウレタンフォーム11の吸音面11Mにはスキン層が形成されていなくてもよいし、通気性を有するスキン層が形成されていてもよい。ここで、本開示において、スキン層とは、それよりもポリウレタンフォーム11の内側の部分に対して見掛け密度が高くなった表面層のことであり、例えば、ポリウレタンフォーム11の表面から深さ0.5~1mmまでの部分である。例えば、
図23では、ポリウレタンフォーム11の表面が上側に示されていて、スキン層は符号16で示されている。
【0029】
ここで、上述のセル孔32としては、ポリウレタンフォーム11の発泡成形時に形成された発泡孔32Xと、発泡成形の後にセル膜31が破断されて形成された破断孔32Yとが、設けられている。具体的には、後述するように、破断孔32Yは、ポリウレタンフォーム11の表面(吸音面11M)から内部へと吹き込まれた圧縮ガスの風圧でセル膜31が破断されてなる。なお、例えば、破断孔32Yの開口縁には、破断したセル膜31が付着している場合もある。
【0030】
本実施形態では、ポリウレタンフォーム11の吸音構造40は、発泡孔32Xと破断孔Yとを含むセル孔32の合計開口面積が、ポリウレタンフォームの内部より吸音面11Mに近いほど大きくなった構造となっている。また、吸音構造40では、ポリウレタンフォーム11の通気量が、ポリウレタンフォーム11の内部より吸音面11Mに近いほど大きくなっている。これらの構成によれば、ポリウレタンフォーム11の吸音面11M側の部分の通気性が高まることとなり、吸音面11M側からの音に対するポリウレタンフォーム11(即ち、防音材10)の吸音性能を向上させることが可能となる。また、ポリウレタンフォーム11のうち吸音面11M側の部分よりも内部の方が通気性が低くなるので、ポリウレタンフォーム11の遮音性を向上させることも可能となる。なお、上記の合計開口面積の比較は、例えば、ポリウレタンフォーム11の切断面の所定領域(例えば、
図2に示す表面側領域S,中央領域D)の拡大画像に写ったセル孔32の面積を面積計算ソフト等で算出して、それらを吸音面11Mからの深さの異なる箇所で比較することで行うことができる。詳細には、セル孔32のあいた方向は、ランダムで全体としては等方的であるので、任意の向きの切断面の所定領域におけるセル孔32の平面的な合計面積を測定して、それらを深さの異なる箇所で比較すればよい。また、ポリウレタンフォーム11の通気量は、例えば、ポリウレタンフォーム11を厚み方向に3等分して、厚み方向の中央部分と吸音面11M側の部分との通気量(JIS K6400-7 B法:2012に基づく。)を測定することで比較することができる。
【0031】
また、ポリウレタンフォーム11の吸音構造40では、クローズドセル30Bの数が、ポリウレタンフォーム11の内部より吸音面11Mに近いほど少なくなっている。具体的には、ポリウレタンフォーム11のうち厚み方向の中央部における単位断面積当たりのクローズドセル30Bの数に対する、吸音面11Mから深さ3mmまでの表層部10Sにおける単位断面積当たりのクローズドセル30Bの数の比であるクローズドセル比が、0.7以下であることが好ましい。ここで、ポリウレタンフォーム11の厚み方向の中央部とは、表層部10Sより内側に配置されてポリウレタンフォーム11の厚み方向の中央位置10D(本実施形態の例では、吸音面11Mからの深さが10mmの位置)を含む領域(例えば、
図2に示す中央領域D等)である。クローズドセル比が0.7以下の構成によれば、ポリウレタンフォーム11の吸音性能を特に向上させることが可能となる。このクローズドセル比は、0.65以下であることがより好ましく、0.6以下であることがさらに好ましい。また、本実施形態では、吸音構造40において、発泡セル30の合計数に対する、オープンセル30Aの数の割合が、ポリウレタンフォーム11の内部より吸音面11Mに近いほど多くなっている。この構成によっても、ポリウレタンフォーム11の吸音面11M側の部分の通気性を高めてポリウレタンフォーム11の内部まで通気させ易くなり、ポリウレタンフォームの吸音性能をより向上させることが可能となる。なお、クローズドセル30Bとオープンセル30Aの数は、例えば、ポリウレタンフォーム11の切断面のうち表層部10Sに含まれる所定面積の表面側領域Sと、中央位置10Dを含む所定面積の中央領域D(
図2参照)の拡大画像(例えばSEM画像等)に写ったクローズドセル30Bとオープンセル30Aの個数を数えれば得ることができる。そして、それらの数をポリウレタンフォーム11のうち吸音面11Mからの深さの異なる上記領域同士で比較すれば、クローズドセル比等を得ることができる。
【0032】
また、防音材10のポリウレタンフォーム11では、厚み方向の中央部(中央領域D)における発泡セル30のセル形状の長径と短径の比(長径/短径比)が、1~1.5であることが好ましい。この長径は、発泡セル30のうち最も長くなった部分の長さであり、短径は、発泡セル30のうち最も小さくなった部分の長さである。長径と短径の方向は、発泡セル30毎に異なるが、概ね、長径方向は厚み方向と略直交する方向となり、短径方向は厚み方向と略同じとなっている。この長径/短径比は、例えば上記中央領域D(
図2参照)の拡大画像に写った発泡セル30のうち、最も大きい発泡セル30と、最も小さい発泡セル30と、その他の任意の3個の発泡セル30と、の合計5個の発泡セルの平均長径及び平均短径の比から算出できる。
【0033】
本実施形態では、ポリウレタンフォーム11の表裏の両面が吸音面11Mとなっていて、表裏の両側に上記吸音構造40が備えられている。吸音面11Mは、ポリウレタンフォーム11の外面全体に配置されていてもよし、表裏の一方側にのみ配置されてもよい。
【0034】
また、本実施形態では、ポリウレタンフォーム11の外周面11Eは、スキン層が形成されていない切断面となっている。そして、外周面11Eでは、セル膜31のうちセル孔32のあいていない部分は、光を反射して光り易くなっている。即ち、クローズドセル30Bが多いと光り易い部分が多い。一方、セル膜31のうちセル孔32の合計開口面積が大きい部分は、光り難くなっている。そのため、本実施形態のポリウレタンフォーム11の外周面11Eを見ると、厚み方向の中央部から表裏の吸音面11Mに近づくほど光難くなっている。本実施形態では、表裏の吸音面11Mを構成する表層部10Sが、それよりさらに深い部分に比べて光り難くなった層状の領域となっていて、この層状の領域に破断孔32Yが偏在している。
【0035】
防音材10は、例えば以下のようにして製造される。防音材10を製造するには、まず、ポリウレタンフォーム11を成形型内で発泡成形により得る(即ち、モールド成形により得る)。なお、ポリウレタンフォーム11は、スラブ成形によって形成してもよい。
【0036】
ポリウレタンフォーム11を発泡成形する際には、離型剤として、例えば、直鎖状炭化水素ワックスを使用することが好ましい。これにより、ポリウレタンフォーム11の表面に、オープンセル30Aを含む発泡セル30が開口したオープンセル面11MA(即ち、通気する面)を形成することが容易となる。具体的には、発泡成形用の成形型のうちオープンセル面11MAを成形する成形面に、直鎖状炭化水素ワックスを塗布してから、成形型内にポリウレタン原料を注入し、それを発泡硬化させてポリウレタンフォーム11を成形すればよい。
【0037】
上述の直鎖状炭化水素ワックスとしては、例えば、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス、サゾールワックス等が挙げられ、有機溶剤に分散させた溶剤系離型剤、乳化剤を用いて水に分散させた水系離型剤等を使用することができる。また、分岐鎖状炭化水素ワックスとしては、例えば、マイクロクリスタリンワックス、変性ポリエチレンワックス等が挙げられ、溶剤系離型剤や水系離型剤等を使用することができる。
【0038】
ポリウレタンフォーム11は、成形後に適宜カットされ、その後、
図4に示されるようにブロー処理が行われる。ブロー処理では、ポリウレタンフォーム11内に圧縮ガスを吹き込み、ポリウレタンフォーム11の発泡セル30のセル膜31を破断して破断孔32Yを形成する追加工を行う。
【0039】
具体的には、ブロー処理では、ポリウレタンフォーム11の表裏のオープンセル面11MAから圧縮ガス(例えば空気)が吹き込まれる。詳細には、
図4に示されるように、ブロー処理は、ブローガンのうち圧縮ガスを噴出するノズルNの先端面を(即ち、噴出口の開口縁を)、ポリウレタンフォーム11のオープンセル面11MAに接触させて行われる。なお、ブロー処理を、ノズルNをオープンセル面11MAに対して近接させて(例えば、2mm以内の距離で離して)行ってもよい。これらの方法によれば、ポリウレタンフォーム11に圧縮ガスを吹き込み易くなると共に、圧縮ガスの吹込み量のばらつきを抑えることが可能となる。また、この場合、ポリウレタンフォーム11に吹き込む圧縮ガスの動圧を0.1~1.0MPaとすることが好ましい。これにより、ポリウレタンフォーム11の内部までの吸音経路の形成が容易となる。ブロー処理で使用される圧縮ガスは、空気以外に、例えば、窒素、アルゴン、等の不活性ガスであってもよい。
【0040】
ブロー処理が行われると、ポリウレタンフォーム11のうち特にオープンセル面11MA近くの部分において、発泡成形時に形成された発泡孔32Xの合計開口面積が大きくなると共に、ポリウレタンフォーム11に破断孔32Yが形成されて吸音経路33が追加される。これにより、吸音構造40が形成される。なお、このとき、オープンセル面11MAから吸音面11Mが形成される。
【0041】
本実施形態では、ブロー処理は、ポリウレタンフォーム11の表裏両面の全体にわたって行われるが、一部にのみ行われてもよく、例えば、表裏の一方の面全体にのみ行われてもよいし、表裏の少なくとも一方の面の一部にのみ行われてもよい。また、例えば、ブロー処理で使用するブローガンのノズルNをT字状等の形状にすれば、ノズルNにおける圧縮ガスの噴出口を幅広くすることで、ブロー処理を効率良く行うことができる。なお、ポリウレタンフォーム11を送給しながらブロー処理を行ってもよい。この場合、ブロー処理を、ポリウレタンフォーム11にノズルNを当接させずに近接させた状態で行うことが好ましい。また、この場合、ポリウレタンフォーム11よりも広幅なT字状のノズルNを用いることで、効率良くブロー処理を行うことができる。
【0042】
なお、ブロー処理の前に、ポリウレタンフォーム11のオープンセル面11MAに、複数の針又は刃物の突先を突き刺す突き刺し処理を行ってもよい。これにより、突き刺し処理で形成された穿孔を通して、圧縮ガスをポリウレタンフォーム11の内部側に吹き込み易くすることが可能となる。また、ブロー処理の前に、吸音面11Mに、カッターで切り込みを入れる切り込み処理を行ってもよい。この処理を行うことによっても、圧縮ガスを切り込みからポリウレタンフォーム11の内部側に吹き込み易くすることが可能となる。これら突き刺し処理や切り込み処理は、ポリウレタンフォーム11のうちスキン層が形成された表面にブロー処理を行う場合には、特に有効である。この場合、穿孔や切り込みを、ポリウレタンフォーム11を貫通しない深さでかつスキン層よりも深く形成することで、ポリウレタンフォーム11の内部に圧縮ガスを吹き込み易くすることができる。穿孔や切り込みをポリウレタンフォーム11の表裏の両面に形成する場合、穿孔や切り込みを厚み方向から見て重ならない位置に形成することが好ましい。このようにすれば、ポリウレタンフォーム11の剛性の低下を抑制することができる。
【0043】
上述のブロー処理を終えると、
図1に示される防音材10が完成する。このように、本実施形態では、ポリウレタンフォーム11の表面にブロー処理を行って、発泡セル30同士を破断孔32Yにより連通させることで、内部より該表面に近づくほど、通気量が大きい及びセル孔32の合計開口面積が大きい吸音構造を付与することが可能となる。
【0044】
なお、ポリウレタンフォーム11の原料の詳細は、以下のようになっている。
【0045】
ポリオール成分は、ポリウレタンフォームの製造に用いられる公知のエーテル系ポリオール、エステル系ポリオール、エーテルエステル系ポリオール、ポリマーポリオール等を単独であるいは複数組み合わせて使用することができる。エーテル系ポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン等の多価アルコール、またはその多価アルコールにエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加したポリエーテルポリオールを挙げることができる。また、エステル系ポリオールとしては、マロン酸、コハク酸、アジピン酸等の脂肪族カルボン酸やフタル酸等の芳香族カルボン酸と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等の脂肪族グリコール等とから重縮合して得られたポリエステルポリオールを挙げることできる。さらにポリオール中にエーテル基とエステル基の両方を含むエーテルエステル系ポリオールやエーテル系ポリオール中でエチレン性不飽和化合物等を重合させて得られるポリマーポリオールを使用することもできる。
【0046】
ポリイソシアネート成分は、芳香族系、脂環式系、脂肪族系の何れでもよく、また、1分子中に2個のイソシアネート基を有する2官能のイソシアネートであっても、あるいは1分子中に3個以上のイソシアネート基を有する3官能以上のイソシアネートであっても、それらの変性体(例えば、ウレタン変性、アロファネート変性、ビューレット変性等種々の変性がなされたもの)であってもよく、それらを単独であるいは複数組み合わせて使用することができる。2官能のイソシアネートとしては、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4'-MDI)、2,4'-ジフェニルメタンジアネート、2,2'-ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族系のもの、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂環式系のもの、ブタン-1,4-ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンイソシアネート等の脂肪族系のものを挙げることができる。また、3官能以上のイソシアネートとしては、1-メチルベンゾール-2,4,6-トリイソシアネート、1,3,5-トリメチルベンゾール-2,4,6-トリイソシアネート、ポリメリックMDI(ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート)等を挙げることができる。
【0047】
発泡剤は、特に限定されないが、水が好ましい。また、二酸化炭素ガス、ペンタン、ハイドロフルオロオレフィン(HFO)等を発泡助剤として、発泡剤である水と併用してもよい。
【0048】
触媒は、ポリウレタンフォームの製造に用いられる公知のものを使用することができる。例えば、ジエタノールアミン、トリエチレンジアミン、ビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテル、N,N,N′,N″,N″-ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルグアニジン、イミダゾール系化合物等のアミン触媒や、スタナスオクトエート等の錫触媒やフェニル水銀プロピオン酸塩あるいはオクテン酸鉛等の金属触媒(有機金属触媒とも称される。)を挙げることができる。触媒は複数を組み合わせて使用してもよい。
【0049】
なお、ポリウレタンフォーム11の原料には、整泡剤が含まれていてもよい。整泡剤としては、ポリウレタンフォームの製造に用いられる公知のものを使用することができ、例えば、シリコーン系整泡剤、非シリコーン系の界面活性剤等が挙げられる。
【0050】
ポリウレタンフォーム11の原料は、ポリオール成分、発泡剤、触媒等を配合してなるA液と、ポリイソシアネート成分を含むB液と、に分けて用意される。なお、ポリウレタンフォーム11の原料が整泡剤を含む場合には、これらはA液に配合される。
【0051】
本実施形態の防音材10の製造方法では、ポリウレタンフォーム11のオープンセル面11MAから内部へと圧縮ガスを吹き込むブロー処理を行って複数の発泡セル30のセル膜31に破断孔32Yを追化工し、ポリウレタンフォーム11の吸音面11Mから内部まで連通する吸音経路33が追加される。従って、ポリウレタンフォーム11の吸音性能を向上させることができ、防音材10の吸音性能を向上させることが可能となる。
【0052】
本実施形態では、ブロー処理により圧縮ガスの風圧でセル膜を破断することで、ポリウレタンフォーム11の破断孔32Yを容易に形成することができる。
【0053】
本実施形態の防音材10では、ポリウレタンフォーム11の発泡成形時にセル膜31に形成される発泡孔32Xと、破断孔32Yとを含むセル孔32の合計開口面積が、ポリウレタンフォーム11の内部より表面(吸音面11M)に近いほど大きい。また、ポリウレタンフォーム11の通気量が、ポリウレタンフォーム11の内部より吸音面11Mに近いほど大きい。これらの構成によれば、ポリウレタンフォーム11の吸音面11M側の部分の通気性を高めることが可能となり、ポリウレタンフォーム11の吸音面11M側からの音に対する吸音性能を高めることが可能となり、その結果、防音材10の防音性能を向上させることが可能となる。また、ポリウレタンフォームのうち吸音面11M側の部分よりも内部で通気性を低くすることができるので、ポリウレタンフォーム11の遮音性も向上させることが可能となる。しかも、ポリウレタンフォーム11の内部まで音(空気)を進入させ易くすることで、吸音面11Mに入射した音が外部へ反射することを抑制することが可能となる。これらにより、防音材10の防音性を向上させることが可能となる。
【0054】
また、ポリウレタンフォーム11では、セル膜31にセル孔32を有しないクローズドセル30Bの数が、ポリウレタンフォーム11の内部よりも吸音面11Mに近いほど少ない。従って、発泡セル30のうちセル孔32で連通したオープンセル30Aを多くすることが可能となり、ポリウレタンフォーム11の内部より吸音面11Mに近いほど通気性を高めることが可能となる。これにより、ポリウレタンフォーム11の吸音性能のさらなる向上を図ることが可能となる。
【0055】
さらに、ポリウレタンフォーム11の厚み方向の中央部における単位断面積当たりのクローズドセル30Bの数に対する、吸音面11Mから深さ3mmまでの表層部10Sにおける単位断面積当たりのクローズドセルの数の比が、0.7以下になっていることで、ポリウレタンフォーム11の吸音性能を特に向上させることが可能となる。
【0056】
また、ポリウレタンフォームの50%圧縮硬さを500~3000Nとすることで、ポリウレタンフォーム11の剛性を確保することが可能となり、ポリウレタンフォーム11の形状の安定性を図ることが可能となる。なお、50%圧縮硬さが上記範囲のポリウレタンフォーム11では、例えばロールクラッシングによってセル膜31に破断孔32Yを形成すると、つぶれて復元しないため寸法精度が低くなったり、しわが入って外観が悪くなり易くなるが、本実施形態によれば、ロールクラッシングの必要がなくなるので、ポリウレタンフォーム11の寸法精度の低下や外観の悪化を抑えることが可能となる。
【0057】
本実施形態の防音材10では、吸音面11M及び吸音経路33が、扁平形状をなすポリウレタンフォーム11の厚さ方向の両面側に配置されるので、両面側からの音の吸音性能を向上させることができる。
【0058】
図5には、本実施形態の防音材10の使用例が示されている。本例では、防音材10は、建物や乗り物の防音構造に備えられる。具体的には、この防音構造では、防音材10は、1対の板状の遮音材71,72に、密着状態又は離間して挟まれる。密着状態とする場合、防音材10を、例えば遮音材71,72に非接着状態で密着させてもよい。遮音材71,72としては、例えば、鉄板、石膏ボード、コンクリート等の遮音性を有するものからなり、建物の二重床、二重壁、二重天井等や、車両等の乗り物のボディパネルとそれに重ねられる遮音マット、等が挙げられる。このように、1対の遮音材71,72の間に本実施形態の防音材10を配置した防音構造によれば、吸音性能及び遮音性能を向上させることが可能となる。
【0059】
[第2実施形態]
図6に示されるように、第2実施形態に係る防音材10Vは、ポリウレタンフォーム11の表面の一部に表皮材20が一体化してなる。本実施形態の防音材10Vでは、ポリウレタンフォーム11は、扁平形状をなし、その表裏の一方側の面にのみ表皮材20が一体化している。なお、扁平形状としては、例えば、板状その他の平たい形状が挙げられ、扁平形状には表面又は裏面に凹凸が形成された形状も含まれる。本実施形態では、ポリウレタンフォーム11は平板状をなしている。
【0060】
本実施形態では、表皮材20は、通気性を有している。具体的には、表皮材20は、繊維シート21からなると共に、表皮材20には、繊維シート21にポリウレタンフォーム11の原料11Gが含浸硬化してなる含浸層22が形成され、この含浸層22を含む表皮材20が、通気性を有する。含浸層22を含む表皮材20のJIS K6400-7 B法:2012に基づく通気量は、3~90ml/cm2/sであることが好ましく、5~80ml/cm2/sであることがより好ましい。なお、表皮材20は、非通気性のものであってもよく、例えば、繊維シート21に含浸層22が含浸することで非通気性となったものや、樹脂フィルム等であってもよい。
【0061】
詳細には、本実施形態の表皮材20は、2枚重ねの繊維シート21,21からなる。含浸層22は、ポリウレタンフォーム11側に配置される内側の繊維シート21Aと略同じ厚みで形成されている。また、本実施形態では、内側の繊維シート21Aよりも、外側の繊維シート21Bの方が、繊維径と目付量が大きい構成となっている。なお、例えば、内側の繊維シート21Aと外側の繊維シート21Bとは、ニードルパンチにより一体化されている。
【0062】
本実施形態の防音材10Vのポリウレタンフォーム11は、上記第1実施形態の防音材10のポリウレタンフォーム11と同様の吸音面11Mと吸音経路33を有するフォーム構造を備えている。具体的には、このフォーム構造を、ポリウレタンフォーム11のうち表皮材20の表裏の両面に備えていて、両面が吸音面11Mとなっている。ここで、ポリウレタンフォーム11のうち表皮材20と反対側(
図6の下側)の吸音面11Mを有するフォーム構造は、上記第1実施形態と同じクローズドセル比を有しているが、表皮材20に覆われた吸音面11Mを有するフォーム構造でも、クローズドセル比が0.7以下となっていることが好ましい。本実施形態では、表皮材20側の吸音面11Mでもクロードセル比が0.7以下となっているので、表皮材20側からの音に対するポリウレタンフォーム11の吸音性能を特に向上させることが可能となる。ここで、クローズドセル比とは、ポリウレタンフォーム11のうち厚み方向の中央部(即ち、表皮材20に覆われた吸音面11Mからの深さが10mmの中央位置10D(
図7)を含む部分)における単位断面積当たりのクローズドセル30B(
図8)の数に対する、吸音面11Mから深さ3mmまでの表層部10S(
図7)における単位断面積当たりのクローズドセル30Bの数の比のことである。クローズドセル比は、表皮材20側の音に対する吸音性能向上の観点から、0.65以下であることがより好ましく、0.60以下であることがさらに好ましい。
【0063】
なお、表皮材20の詳細は、以下のようになっている。繊維シート21を構成する繊維としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維、ビニロン繊維、ポリウレタン繊維(スパンデックス)、ガラス繊維、炭素繊維、天然繊維(例えば、羊毛、コットン、セルロースナノファイバー等)、ザイロン(登録商標)等が挙げられる。また、繊維シート21の形態としては、不織布、織物、編み物等が挙げられる。不織布としては、例えば、スパンレース不織布、スパンボンド不織布、ニードルパンチ不織布等が挙げられる。
【0064】
繊維シート21の繊維径としては、2~10デニール(d)であることが好ましく、2~8デニールであることがより好ましい。また、繊維シート21の目付量としては、70~500g/m2であることが好ましく、90~500g/m2であることがより好ましい。このように繊維径の細い繊維で繊維シート21を構成すると、細い各繊維同士の距離を近くして繊維を緻密な状態とすることができるため、ポリウレタンフォーム11の原料11Gが繊維シート21(表皮材20)から染み出し難くすることができる。
【0065】
繊維シート21には、アクリル酸エチル等のアクリル酸エステル系樹脂やスチレン・ブタジエンゴム(SBR)等のゴム系樹脂等、ポリウレタン系樹脂以外の樹脂が35~100g/m2付着していることが好ましい。繊維シート21にポリウレタン系樹脂以外の樹脂が付着することにより、繊維間にポリウレタン系樹脂以外の樹脂が介在し、ポリウレタンフォーム11の原料11Gが繊維シート21(表皮材20)を通過し難くなり、原料11Gを更に染み出し難くすることができる。ポリウレタン系以外の樹脂は、繊維シート21の表面に付着していてもよいし、繊維シート21の内部の繊維に付着していてもよい。例えば、後者の場合、含浸層22を構成するポリウレタン系樹脂は、繊維に付着したポリウレタン系以外の樹脂を覆っていてもよい。なお、ポリウレタン系樹脂以外の樹脂を繊維シート21に付着させるには、エマルジョンを繊維シート21の表面に塗布したり、繊維シート21にエマルジョンを含浸させたり、パウダーを繊維シート21の表面に散布して熱ローラや熱風を当てたりすること等により行えばよい。
【0066】
表皮材20は、繊維シート21を構成する繊維の種類、繊維径、目付量、アクリル酸エステル系樹脂等のポリウレタン系樹脂以外の樹脂の付着量等を調整することにより、含浸層22の通気性を調整することができる。
【0067】
内側の繊維シート21Aは、細い繊維が密になっており、かつ、アクリル酸エステル系樹脂が含浸しているため、原料11Gの含浸(染み込み)量を制限することができる。これにより、表皮材20の通気性を確保することができる。一方、外側の繊維シート21Bは、繊維径を内側の繊維シート21Aよりも大きくすることで、例えば、5デニール以上とすることで、防音材10Vの耐摩耗性を向上させることができる。なお、
図6等において、含浸層22は、灰色で示されている。
【0068】
次に、本実施形態の防音材10Vの製造方法について説明する。防音材10Vを製造するには、まず、ポリウレタンフォーム11の原料11G(
図9(B)参照)と、表皮材20とが用意される。具体的には、ポリウレタンフォーム11の原料11Gとして、ポリオール成分、ポリイソシアネート成分、発泡剤、及び触媒等を含んだものが用意されると共に、各表皮材20(繊維シート21A,21Bがニードルパンチにより一体化される。)が用意される。
【0069】
ポリウレタンフォーム11の原料11Gとしては、上記第1実施形態の防音材10のポリウレタンフォーム11の原料として例示したものと同様のものを用いることができる。
【0070】
ポリウレタンフォーム11の原料11Gは、ポリオール成分、発泡剤、触媒等を配合してなるA液と、ポリイソシアネート成分を含むB液と、に分けて用意される。なお、原料11Gが整泡剤を含む場合には、これらはA液に配合される。
【0071】
図9(A)に示されるように、防音材10を成形するための成形型50は、キャビティを挟んで対向する下型51と上型52とからなる。そして、例えば、表皮材20が、上型52の成形面52Mに、固定される。詳細には、このとき、内側の繊維シート21Aとなる繊維シート21がキャビティ側を向くように配置される。また、例えば、予めアクリル酸エステル系樹脂を、内側の繊維シート21Aにのみ含浸しておく。
【0072】
次に、
図9(B)に示されるように、A液とB液が混合された原料11Gが、下型51の成形凹部51U内に注入された後、成形型50が型閉じされ(
図10(A)参照)、原料11Gが発泡硬化し、ポリウレタンフォーム11が成形される(
図10(B)参照)。このとき、原料11Gが、表皮材20(詳細には、内側の繊維シート21A)に含浸して硬化することで含浸層22が形成されると共に、ポリウレタンフォーム11と表皮材20とが接着一体化される。
【0073】
成形型50が型開きされて、一体化したポリウレタンフォーム11と表皮材20とが成形型50から取り外される。
【0074】
次に、ポリウレタンフォーム11が適宜カットされ、その後、
図11に示されるように、上記第1実施形態と同様にして、ポリウレタンフォーム11のオープンセル面11MAからブロー処理が行われる。これにより、ポリウレタンフォーム11のセル膜31が破断されて破断孔32Yが形成されて、吸音構造40が形成される。
【0075】
図12に示されるように、本実施形態では、ポリウレタンフォーム11に一体化された表皮材20側からも、ブロー処理が行われる。即ち、表皮材20の外側からポリウレタンフォーム11の内部に圧縮ガスが吹き込まれ、セル膜31が破断されて破断孔32Yが形成されて吸音経路33が追加され、吸音構造40が形成される。また、
図12に示されるように、このブロー処理も、ブローガンのうち圧縮ガスを噴出するノズルNの先端面を(即ち、噴出口の開口縁を)、表皮材20に接触させて行われる。なお、ブロー処理を、ノズルNを表皮材20に対して近接させて(例えば、2mm以内の距離で離して)行ってもよい。これらの方法によれば、ポリウレタンフォーム11に圧縮ガスを吹き込み易くなると共に、圧縮ガスの吹込み量のばらつきを抑えることが可能となる。また、この場合、吹き込む圧縮ガスの動圧を0.1~1.0MPaとすることが好ましい。これにより、ポリウレタンフォーム11の内部までの吸音経路の形成が容易となる。なお、表皮材20側からのブロー処理も、表皮材20の全体にわたって行われるが、表皮材20の一部にのみ行われてもよい。
【0076】
ブロー処理が終わると、
図6に示される防音材10Vが完成する。
【0077】
本実施形態の防音材10Vによっても、上記第1実施形態の防音材10と同様の効果を奏することができる。また、本実施形態では、ポリウレタンフォーム11の片面が表皮材20で覆われるので、表皮材20による遮音効果又は吸音効果により防音材10Vの防音性能を向上させることが可能となる。また、表皮材20に含浸層が設けられることで、防音材10Vの遮音性能を向上させることが可能となると共に、防音材10Vの剛性を向上させることも可能となる。さらに、ポリウレタンフォーム11のうち表皮材20と対向する側と反対側との両方に、吸音構造40が備えられるので、ポリウレタンフォーム11の表裏の両側からの音に対する吸音性能を向上させることが可能となる。
【0078】
また、
図13に示されるように、本実施形態の防音材10Vも、建物や乗り物の防音構造に用いることができ、例えば、このような防音構造として、上記第1実施形態と同様に、1対の遮音材71,72に密着状態又は離間した状態で防音材10Vを挟んだ構造が挙げられる。このように、1対の遮音材71,72の間に防音材10Vを配置した防音構造によれば、吸音性能及び遮音性能を向上させることが可能となる。
【0079】
[第3実施形態]
図14に示されるように、第2実施形態に係る防音材10Wは、ポリウレタンフォーム11を1対の表皮材20で挟んだ構成となっている。具体的には、ポリウレタンフォーム11の表裏の両面に表皮材20が一体化されている。
【0080】
本実施形態では、ポリウレタンフォーム11は、上記第2実施形態における表皮材20側と同様の吸音構造40を、表裏の両側に備えている。また、表裏の表皮材20は、含浸層22を有すると共に、通気性を有している。ポリウレタンフォーム11と表皮材20としては、上記第1実施形態と第2実施形態で例示したものと同様の材料からなるものや同様の特性のものを用いることができる。なお、本実施形態では、1対の表皮材20同士の構成が同じになっているが、異なっていてもよい。この場合、例えば、含浸層22が、一方の表皮材20にのみ設けられていてもよい。また、含浸層22は、何れの表皮材20にも設けられていなくてもよい。
【0081】
本実施形態の防音材10Wは、例えば以下のようにして製造される。まず、
図15及び
図16に示されるように、上記第2実施形態と同様にしてポリウレタンフォーム11を形成する。本実施形態では、表皮材20を、上型52と下型51の両方の成形面にセットする。なお、このとき、これら1対の表皮材20の内側の繊維シート21A同士をキャビティ側を向いて対向するように配置する(
図15(A))。
【0082】
次に、A液とB液が混合された原料11Gが、下型51の成形凹部51U内に注入された後(15(B))、成形型50が型閉じされ(
図16(A))、原料11Gが発泡硬化し、ポリウレタンフォーム11が形成される(
図16(B)参照)。このとき、原料11Gが、1対の表皮材20(詳細には、内側の繊維シート21A)に含浸して硬化することで含浸層22が形成されると共に、ポリウレタンフォーム11と1対の表皮材20とが接着一体化される。
【0083】
次に、一体化したポリウレタンフォーム11と表皮材20とが成形型50から取り外されると、ブロー処理が行われる。具体的には、本実施形態では、上記第2実施形態と同様にして、表皮材20を通してポリウレタンフォーム11にブロー処理が行われ、このブロー処理は、ポリウレタンフォーム11の表裏から行われる。これにより、ポリウレタンフォーム11の表裏に破断孔32Yが形成されると共に吸音経路33が追加され、吸音構造40が形成される。なお、この際、
図17に示されるように、上記第2実施形態と同様にして、このブロー処理も、ブローガンのうち圧縮ガスを噴出するノズルNの先端面を、表皮材20に接触させて行われる。なお、ブロー処理を、上記第2実施形態と同様にノズルNの先端面を表皮材20に近接させて行ってもよい。
【0084】
本実施形態の防音材10Wでは、ポリウレタンフォーム11の表裏の吸音構造40によって、ポリウレタンフォーム11の吸音性能を向上させることが可能となり、防音材10Wの防音性能を向上させることが可能となる。また、防音材10Wは、含浸層22を有する表皮材20がポリウレタンフォーム11の表裏の両方に配置されているので、防音材10を反り難くすることができる。
【0085】
なお、本実施形態において、吸音構造40が、ポリウレタンフォーム11の表裏の一方側にのみ備えられていてもよい。また、1対の表皮材20のうち一方の表皮材20のみが通気性を有していてもよい。この場合、他方の表皮材20は、含浸層22により非通気となった繊維シートであってもよいし、非通気性の樹脂フィルムであってもよい。
【0086】
また、
図18に示されるように、本実施形態の防音材10Wも、建物や乗り物の防音構造に用いることができ、例えば、このような防音構造として、上記第1実施形態と同様に、1対の遮音材71,72に密着状態又は離間した状態で防音材10Wを挟んだ構造が挙げられる。このように、1対の遮音材71,72の間に防音材10Wを配置した防音構造によれば、吸音性能及び遮音性能を向上させることが可能となる。
【0087】
[第4実施形態]
図19に示されるように、第4実施形態に係る防音材10Xは、扁平形状をなすポリウレタンフォーム11のうち表裏の一方の面(オープンセル面11MA)に、切り込みが形成されている。具体的には、ポリウレタンフォーム11の一方の面には、直線状の切り込み15が複数形成され、これら直線状の切り込み15からなる平行線状切り込み14が互いに直交することで格子状の切り込み13を形成している。なお、本実施形態では、各直線状の切り込み15は、ポリウレタンフォーム11の一側辺に平行に配置されると共に、ポリウレタンフォーム11の端から端まで延びている。また、格子状の切り込み13は、ポリウレタンフォーム11の一方の面の全体に広がっている。
【0088】
直線状の切り込み15(即ち、格子状の切り込み13)の切り込み深さは、ポリウレタンフォーム11の厚み方向の中央まででもよいし、ポリウレタンフォーム11の表裏の一方の面寄り又は他方の面寄りの位置までであってもよい。例えば、本実施形態では、ポリウレタンフォーム11の他方の面に、表皮材20が一体化している。この場合、上記切り込み深さは、ポリウレタンフォーム11のうち前記表皮材20との境界まで深くてもよい。また、例えば、ポリウレタンフォーム11の成形がモールド成形により行われる場合には、ポリウレタンフォーム11の表面にスキン層が形成され易い。この場合、上記切り込み深さをポリウレタンフォーム11のスキン層よりも深くすることが好ましい。これにより、ポリウレタンフォーム11のうちスキン層よりも深い位置まで通気させ易くすることができる。なお、ポリウレタンフォーム11のスキン層は、通気性を有するもの、即ち、オープンセル30Aが表面に開口したものであることが好ましく、このようなスキン層は、上記第1実施形態で説明したように、ポリウレタンフォーム11の発泡成形時の離型剤に直鎖状炭化水素ワックスを使用することで形成を容易にすることが可能となる。
【0089】
本実施形態の防音材10Xは、例えば以下のようにして製造される。まず、上記第2実施形態と同様にして、扁平形状のポリウレタンフォーム11の表裏の上記他方の面に、表皮材20を一体に形成する。次に、ポリウレタンフォーム11のうち表裏の一方の面(露出面)に、格子状切り込み13を入れる。具体的には、ポリウレタンフォーム11のうち表皮材20とは反対側の面を上側に配置し、その面に格子状のカッターを有する押し型を上側から押し付ける。これにより、ポリウレタンフォーム11に格子状切り込み13が形成される。
【0090】
次に、ポリウレタンフォーム11の露出面から圧縮ガスを吹き込むブロー処理が行われる。ここで、上述のようにポリウレタンフォーム11の露出面には切り込み13が形成されているので、ブローガンからの圧縮ガスを切り込み13を通してポリウレタンフォーム11の内部に吹き込むことが容易となり、破断孔32Yを形成し易くなる。なお、ポリウレタンフォーム11(特に軟質ポリウレタンフォーム)は高い復元性を有するため、切り込み13を上述のようにして形成した後、切り込み13が閉じる場合もあるが、この場合でも、圧縮ガスで切り込み13を開いて、切り込み13からポリウレタンフォーム11の内部に圧縮ガスを吹き込み易くすることができる。
【0091】
以上により、防音材10Xが得られる。なお、本実施形態において、ブロー処理を行わなくてもよい。また、表皮材20を設けず、防音材10Xをポリウレタンフォーム11のみで構成してもよい。
【0092】
本実施形態では、ポリウレタンフォーム11に切り込み13が形成されることで、ポリウレタンフォーム11の内部まで音(空気)が入り易くなり、ポリウレタンフォーム11の内側部分での吸音性を向上させることが可能となり、防音材10Xの防音性の向上を図ることが可能となる。また、ポリウレタンフォーム11に切り込み13が設けられることで、ポリウレタンフォーム11の内部への圧縮ガスの吹き込みを、切り込み13を通して行うことができる。これにより、破断孔32Yの形成が容易となり、ポリウレタンフォーム11の吸音性をより向上させることができる。また、このような切り込みを、ポリウレタンフォーム11のうちスキン層よりも深い位置まで入れることで、スキン層よりも深い位置まで通気させ易くすることができ、ポリウレタンフォーム11の吸音性を向上させることが可能となる。
【0093】
[第5実施形態]
図20(A)及び
図20(B)に示されるように、第5実施形態に係る防音材10Yでは、ポリウレタンフォーム11に針又は刃物の突先が突き刺されてなる刺し痕18が複数形成されている。具体的には、ポリウレタンフォーム11は扁平形状をなし、その表裏の一方の面(オープンセル面11MA)から、刺し痕18がポリウレタンフォーム11の途中まで延びていて、これら刺し痕18は、所定の間隔をあけた格子状(例えば、正方格子状や千鳥配列等)に配置されている。なお、複数の刺し痕18は、ランダムな配置になっていてもよい。
【0094】
本実施形態の防音材10Yの例では、ポリウレタンフォーム11のうち刺し痕18が形成された一方の面は、露出していて、他方の面には、表皮材20が一体化しているが、刺し痕18が、他方の面側に形成され、表皮材20を通してポリウレタンフォーム11の途中まで延びていてもよい。また、防音材10Yが、ポリウレタンフォーム11のみから構成されていてもよいし、防音材10Yが、ポリウレタンフォーム11の表裏の両面にそれぞれ表皮材20が一体化した構成であってもよい。これらの場合、刺し痕18が、ポリウレタンフォーム11の何れか一方の面側にのみ形成されていてもよいし、両面側に形成されていてもよい。ポリウレタンフォーム11の表裏の両側に刺し痕18が形成される場合、ポリウレタンフォーム11の表裏の針の刺し痕18同士が、ポリウレタンフォーム11の厚み方向で重ならないように、ずれた配置となっていることが好ましい。これにより、ポリウレタンフォーム11の剛性の低下を抑制することができる。
【0095】
刺し痕18の深さは、ポリウレタンフォーム11の厚み方向の中央まででもよいし、ポリウレタンフォーム11の表裏の一方の面寄り又は他方の面寄りの位置までであってもよい。また、例えば、ポリウレタンフォーム11の成形がモールド成形により行われる場合には、ポリウレタンフォーム11の表面にスキン層が形成され易い。この場合、刺し痕18の深さをポリウレタンフォーム11のスキン層よりも深い位置までとすることが好ましい。これにより、ポリウレタンフォーム11のうちスキン層より深い位置まで通気させ易くすることができる。なお、ポリウレタンフォーム11のスキン層は、通気性を有するもの、即ち、オープンセル30Aが表面に開口したものであることが好ましく、このようなスキン層は、上記第1実施形態で説明したように、ポリウレタンフォーム11の発泡成形時の離型剤に直鎖状炭化水素ワックスを使用することで形成を容易にすることが可能となる。
【0096】
本実施形態では、刺し痕18の幅(詳細には、突き刺し方向に見たときの最大の大きさ)は、発泡セル30のセル径(詳細には、最も長い部分の長さである長径)以上となっている。なお、刺し痕18の太さが、発泡セル30のセル径より大きくなっていてもよいし、小さくなっていてもよい。
【0097】
本実施形態の防音材10Yは、例えば以下のようにして製造される。まず、上記第1実施形態と同様にして、扁平状をなして一方の面に表皮材20が一体化したポリウレタンフォーム11を得る。次に、
図21に示されるように、ポリウレタンフォーム11のうち表裏の一方の面(露出面)に、針の刺し痕18を複数形成する。具体的には、ポリウレタンフォーム11のうち表皮材20とは反対側の面を上側に配置し、その面に、複数の(例えば格子状等の)針58が下面に突設された押し型57(例えば、剣山等であってもよい。)を上側から押し付ける。このようにして、ポリウレタンフォーム11に途中まで針58が突き刺さる突き刺し処理(詳細には針58が突き刺されてから抜かれる突き刺し処理)が行われ、格子状に並んだ針の刺し痕18が形成される。ここで、ポリウレタンフォーム11(特に、軟質のポリウレタンフォーム)は、高い復元性を有するため、押し型57を戻したときに、刺し痕18が閉じることがあるが、この場合でも、例えば、ポリウレタンフォーム11の切断面を顕微鏡等で拡大してみるとで、刺し痕18を確認することができる。
【0098】
なお、本実施形態の例では、押し型57の針58は、例えば、以下のようになっている。針58は、円筒状をなして基端側となる胴体部と、三角錐形状の先端部とからなる。針58の胴体部の直径は1.35mmであり、胴体部の軸長は9mmである。針58の先端部の軸長は、4mmである。また、針58は、正方格子状に配置され、その格子間隔(隣接する針58の中心軸同士の間隔)は、3.65mmである。また、本実施形態では、例えば、押し型57の押し付けを、針58の先端部のみがポリウレタンフォーム11に突き刺さる程度とした。なお、針58の形状や配置は、この例に限定されるものではない。また、複数の針58が設けられた押し型57を用いずに、同じ針58を複数個所に突き刺して突き刺し処理を行ってもよい。
【0099】
突き刺し処理が終わると、次に、ポリウレタンフォーム11のうち刺し痕18が形成された面から、上記第1実施形態と同様のブロー処理が行われる。本実施形態では、ブロー処理におけるポリウレタンフォーム11の内部への圧縮ガスの吹き込みを、刺し痕18を通して行うことができるので、ポリウレタンフォーム11の内部へ圧縮ガスを吹き込み易くすることができる。なお、本実施形態において、ブロー処理を行わなくてもよい。
【0100】
なお、刺し痕18は、ポリウレタンフォーム11に一体化した表皮材20を貫通していてもよい。この場合、ポリウレタンフォーム11の他方の面に表皮材20が一体化され、当該他方の面から針58が突き刺さることで刺し痕18が形成されてもよい(
図22参照)。この場合、刺し痕18は、ポリウレタンフォーム11の表裏の一方の面(露出面)側に設けられてもよいし、設けられていなくてもよい。
【0101】
また、針の刺し痕18を形成する突き刺し処理が、ポリウレタンフォーム11の表裏の一方側から行われた場合に、上記第4実施形態と同様の切り込み13を入れる切り込み処理が、ポリウレタンフォーム11の表裏の他方の面側から行われてもよい。この場合、この切り込みは、直線状、平行線状、又は、格子状をなしていてもよく、ポリウレタンフォーム11の厚み方向から見て刺し痕18と重ならない配置となることが好ましい。これにより、ポリウレタンフォーム11の剛性の低下を抑制することができる。
【0102】
本実施形態では、ポリウレタンフォーム11に針の刺し痕18が形成されることで、ポリウレタンフォーム11の内部まで音(空気)が入り易くなり、ポリウレタンフォーム11の内側部分での吸音性を向上させることが可能となり、防音材10Yの防音性の向上を図ることが可能となる。また、ポリウレタンフォーム11に刺し痕18が設けられることで、ポリウレタンフォーム11の内部への圧縮ガスの吹き込みを、刺し痕18を通して行うことができる。これにより、破断孔32Yの形成が容易となり、ポリウレタンフォーム11の吸音性をより向上させることができる。また、このような刺し痕18を、ポリウレタンフォーム11のうちスキン層よりも深い位置まで形成することで、スキン層よりも深い位置まで通気させ易くすることができ、ポリウレタンフォーム11の吸音性を向上させることが可能となる。なお、刺し痕18は、刃物の突先が、ポリウレタンフォーム11の途中まで突き刺されることで形成されてもよい。このような刺し痕18を有する防音材10Yによっても、吸音性を向上させることが可能となる。
【0103】
[他の実施形態]
(1)ポリウレタンフォーム11は、扁平形状をなしていたが、これに限定されるものではなく、例えば、立方体状等のブロック状をなしていてもよい。
【0104】
(2)上記実施形態では、表皮材20が、ポリウレタンフォーム11の発泡成形によってポリウレタンフォーム11と一体化していたが、表皮材20が、発泡成形されたポリウレタンフォーム11に後から積層されてもよい。この場合、ポリウレタンフォーム11のうちブロー処理が行われた面に、表皮材20が積層されてもよい。
【0105】
(3)上記第3実施形態の防音材10Wは、以下のような製造ラインにより製造されてもよい。具体的には、この製造ラインには、長尺状の表皮材20を、上下に対向配置した状態で、長手方向に搬送する搬送手段(例えば、コンベア)が備えられている。そして、表皮材20を搬送しながらそれら表皮材20の間にポリウレタンフォーム11の原料11Gを吐出して、原料11Gを発泡硬化させることにより、ポリウレタンフォーム11を形成する。このとき、ポリウレタンフォーム11の原料11Gが1対の表皮材20に含浸し、各表皮材20に含浸層22が形成される。その後、表皮材20がポリウレタンフォーム11と共にカッターにより所定長さに切断されて、防音材10Wが得られる。なお、防音材10Wの幅方向の端部において、ポリウレタンフォーム11が表皮材20からはみ出した場合には、そのはみ出し部分が適宜トリミングされる。また、搬送手段の搬送経路の途中に加熱炉を設けておけば、ポリウレタンフォーム11の原料11Gの発泡硬化が促進され、防音材10の成形性を向上させることができる。
【0106】
(4)上記第2実施形態の防音材10Vを、上記他の実施形態(3)の製造ラインで製造してもよい。この場合、上記他の実施形態(3)の製造ラインにおいて搬送する1対の長尺状の表皮材20のうち下側の表皮材20のみを本実施形態では搬送することとし、その下側の表皮材20の上にポリウレタンフォーム11の原料11Gを吐出して発泡硬化させればよい。
【0107】
(5)上記第2及び第3実施形態において、表皮材20を繊維シート21で構成する場合、表皮材20は、1枚の繊維シート21からなっていてもよいし、3枚以上の繊維シート21からなっていてもよい。
【0108】
(6)上記第2及び第3実施形態において、通気性を有する表皮材20としては、網状のものであってもよいし、多数の孔が貫通したものであってもよい。
【0109】
(7)上記第4実施形態において、突き刺し処理も行われてもよい。突き刺し処理は、ブロー処理を行う場合には、ブロー処理の前に行うことが好ましい。また、上記第5実施形態において、切り込み処理も行われてもよい。切り込み処理は、ブロー処理を行う場合には、ブロー処理の前に行うことが好ましい。
【実施例0110】
以下、実施例及び比較例によって上記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明の防音材は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0111】
1.防音材の構成及び製造方法
【0112】
実施例1~4、比較例1,2では、上述の実施形態の製造方法のように、A液とB液を混合した原料11Gを反応させてポリウレタンフォーム11(半硬質ポリウレタンフォーム)を発泡成形すると共に表皮材20をポリウレタンフォーム11の両面のみに一体化させることで、500mm×500mm×20mm(厚み)のサイズの防音材を得た。そして、実施例1~4、比較例2では、そのサイズの防音材に後述の追加工を行った。なお、ポリウレタンフォーム11の厚みは16mm、各表皮材20の厚みは2mmである実施例1~4、比較例1,2は、ポリウレタンフォーム11に対する追加工の有無又は追加工の種類が互いに異なっていて、ポリウレタンフォーム11の原料11Gや表皮材20は同じである。
【0113】
なお、実施例1~4、比較例1,2では、発泡成形時の離型剤としては、コニシ株式会社製の直鎖状炭化水素ワックス「URM-520」を用いた。
【0114】
1)ポリウレタンフォーム
各実施例、各比較例では、ポリウレタンフォーム11の原料11Gは同じである。原料11Gの組成の詳細は、以下の通りである。
【0115】
<A液>
ポリオール1;ポリエーテルポリオール(30重量部、数平均分子量:5500、官能基数:3.6、水酸基価:31.5mgKOH/g)
ポリオール2;ポリマーポリオール(70重量部、数平均分子量:5000、官能基数:3、水酸基価25mgKOH/g、固形分濃度:30%)
発泡剤;水(4.35重量部)
アミン触媒1;昭和化学株式会社製の「ジエタノールアミン」(2.50重量部)
アミン触媒2;エボニックジャパン株式会社製の「DABCO BL-11」(0.37重量部)
整泡剤;エボニックジャパン株式会社製の「TEGOSTAB B8715LF2」(0.50重量部)
添加剤;ポリエーテルポリオール(1.85重量部、数平均分子量:5000、官能基数:3、水酸基価34mgKOH/g)
<B液>
ポリイソシアネート;ポリメリックMDI(NCO価31.5%)
【0116】
なお、イソシアネートインデックスは、105とした。イソシアネートインデックスとは、ポリイソシアネートのイソシアネート基のモル数を、ポリオール、発泡剤(水)等の全活性水素基のモル数で除した値に100をかけた値である。
【0117】
2)表皮材
実施例4、比較例3,4では、表皮材20を繊維シート21,21(内側の繊維シート21A及び外側の繊維シート21B)の2枚重ね構成とした。内側の繊維シート21Aは、繊維径が3デニールのPET繊維からなり、目付量は100g/m2である。外側の繊維シート21Bは、繊維径が6デニールのPET繊維からなり、目付量は150g/m2である。なお、表皮材20では、内側の繊維シート21Aのみに、アクリル酸エステル系樹脂が含浸されていて、その含浸量は、50g/m2となっている。
【0118】
3)追加工の種類
実施例、比較例の防音材を製造する際に行った追加工の詳細は以下の通りである。
【0119】
(1)ブロー処理
ブロー処理では、圧縮空気を、防音材の表面にブローガンのノズルNの先端面を接触させた状態で吹き込んだ。このブロー処理は、防音材の表裏の少なくとも一方の面に対して行い、その面の全体に行った(以下、適宜、ブロー処理を行った面をブロー処理面という)。使用したブローガンのノズルNにおける圧縮空気の噴出口の直径は1.6mmであり、防音材に吹き込む圧縮空気の動圧は0.6MPaである。
【0120】
(2)突き刺し処理
突き刺し処理では、上記第5実施形態と同様に、針58を防音材の複数箇所に突き刺して厚み方向でポリウレタンフォーム11の途中まで延びる複数の刺し痕18を形成した。詳細には、針58は、円筒状をなして基端側となる胴体部と、三角錐形状の先端部とからなる。針58の胴体部の直径は1.35mmであり、胴体部の軸長は9mmである。針58の先端部の軸長は、4mmである。また、針58の刺し痕18は、正方格子状に配置され、その格子間隔(隣接する針58の中心軸同士の間隔)は、3.65mmである。また、針58の防音材への突き刺し深さは、4.0mmである。
【0121】
(4)ロールクラッシング
ロールクラッシングでは、ポリウレタンフォーム11を搬送して1対の回転ロールの間に通し、ポリウレタンフォーム11の全体をクラッシングした。回転ロールの軸方向の長さは500mmより長く、回転ロールの直径は200mmであり、1対の回転ロールの間のクリアランスは9mmであり、ポリウレタンフォーム11の搬送スピードは70.5mm/秒である。また、比較例2,4において、ロールクラッシングは8回行った(即ち、ポリウレタンフォーム11を1対の回転ロール間に8回通した)。詳細には、ロールクラッシングを、ポリウレタンフォーム11の各辺がそれぞれ回転ローラと平行となりかつ搬送方向の先頭となる4つの配置で(即ち、90度ずつ回転した配置で)各1回ずつ、合計4回行った。さらに、ポリウレタンフォーム11をひっくり返してから同様の合計4回のロールクラッシングを行った。
【0122】
4)各実施例と各比較例の追加工の詳細
各実施例と各比較例の追加工の詳細は、以下のとおりである。なお、以下及び
図24では、防音材の表裏の何れか一方の面を第1面、他方の面を第2面と適宜いうこととする。
【0123】
<実施例1>
第1面と第2面の両方に(表裏の両面に)ブロー処理のみを行った。
<実施例2>
第1面にはブロー処理のみを行い、第2面には突き刺し処理のみを行った。
<実施例3>
第1面にはブロー処理のみを行い、第2面には追加工を行わなかった。
<実施例4>
第1面にはブロー処理のみを行い、第2面には突き刺し処理を行ってからブロー処理を行った。
<実施例5>
第1面には突き刺し処理のみを行い、第2面には突き刺し処理を行ってからブロー処理を行いました。
<実施例6>
第1面には追加工を行わず、第2に面には突き刺し処理を行ってからブロー処理を行った。
<実施例7>
第1面と第2面の両方に、突き刺し処理を行ってからブロー処理を行った。
<比較例1>
防音材に追加工を行っていない。そのため、破断孔32Yが形成されていない。
<比較例2>
ロールクラッシングのみを行った。
【0124】
2.評価
各実施例と各比較例について、外観、クローズドセル比、硬さ、残響室法吸音率、透過損失等を評価した。測定項目の測定方法は以下の通りである。
【0125】
<測定方法>
(1)密度
JIS K7222:2005に基づいてポリウレタンフォーム11の見掛け密度を測定した。具体的には、500mm×500mm×20mm(厚み)のテストピースを100mm×100mm×20mm(厚み)に裁断して測定を行った。
【0126】
(2)通気量
JIS K6400-7 B法:2012に基づいて通気量を測定した。具体的には、防音材をポリウレタンフォーム11を厚さ方向に分割するようにスライスして得た3つのスライスサンプル(100mm角)について、空気を下面から上面に通過させて測定した。詳細には、ポリウレタンフォーム11のうち厚み方向中央の厚み4mmの部分(中央部スライスサンプル)と、第1面側の表皮材20と、第2面側の表皮材20と、をスライスサンプルとした。そして、中央部スライスサンプル(ポリウレタンフォーム11)については、第2面側から通気させ(第2面側を下側に配置し)、後者2つのスライスサンプル(表皮材20)については、含浸層22側から通気させて(含浸層22側を下側に配置して)測定した。
【0127】
(3)クローズドセル比
走査型電子顕微鏡(SEM:日本電子株式会社製)にて、ポリウレタンフォーム11の外周面11Eのうち中央部と表層部10Sにおける所定面積の領域(
図2の中央領域D,表面側領域S)を観察し、その所定面積の領域におけるクローズドセル30Bの個数を数えた。そして、に対しての表面側領域Sのクローズドセル30Bの個数の比をクローズドセル比とした。なお、中央領域Dは、ポリウレタンフォーム11の厚み方向の中央位置が中央領域Dの中央となるように決定し、表面側領域Sは、ポリウレタンフォーム11の厚み方向において表面から深さ3mmまでの範囲内に収まるように決定した。また、中央領域D,表面領域SにおいてSEMで観察した上記所定面積は、2.5mm×2.5mmである。なお、クローズドセル比が低いということは、ポリウレタンフォーム11の内部よりも表面側の方がクローズドセルの数が少ないということである。なお、SEMの拡大倍率を35倍とした。
【0128】
クローズドセル比は、0.7以下の場合には◎、0.7より大きくかつ1.0以下の場合には○、1.0より大きい場合には×、と評価した。
【0129】
(4)セル径
走査型電子顕微鏡(SEM:日本電子株式会社製)にて、ポリウレタンフォーム11の外周面11Eにおける厚み方向の中央部(中央領域D(
図2参照))の拡大画像に写った発泡セル30のうち、最も大きい発泡セル30と、最も小さい発泡セル30と、その他の任意の3個の発泡セル30と、の合計5個の発泡セルの平均長径及び平均短径から、それら平均長径と平均短径の比(長径/短径)を算出した。発泡セル30の長径とは、SEMで確認した各発泡セル30において、最も長くなった部分の長さであり、発泡セル30の短径とは、SEMで確認した各発泡セル30において、最も短くなった部分の長さである。なお、SEMの拡大倍率を35倍とした。
【0130】
発泡セル30の上記した長径/短径の値は、1以上で1.5以下の場合には◎、1.5より大きい場合には×、と評価した。
【0131】
(5)追加工による変形
追加工の前後での防音材の変形を確認した。具体的には、追加工の前後におけるテストピースの厚みを測定し、その変化を確認した。なお、テストピースの厚みは、テストピースの4辺部のそれぞれについて3か所(両端部、中央部)ずつ厚みを測定し、それら12箇所の厚みの平均値とした。
【0132】
追加工後の防音材の厚みは、19mm以上である場合には◎、18mm以上で19mm未満である場合には○、18mm未満である場合には×、と評価した。なお、上述したように、追加工前の防音材の厚みは、20mmである。
【0133】
(6)硬さ
JIS K6400-2 E法:2012に基づいてポリウレタンフォーム11の硬さを測定した。具体的には、500mm×500mm×20mmのテストピースを200mm×200mm×20mmにカットし、圧縮治具(押圧面が直径80mmの円形になっている。)によって上方から圧縮スピード50mm/minで、テストピースを厚み方向の変形量がテストピースのもとの厚みの80%となるまで圧縮し、その際の50%圧縮時の荷重(50%圧縮硬さ)を測定した。なお、防音材は、第1面が上向きになるように配置した。
【0134】
50%圧縮硬さは、500N以上の場合には◎、500N未満の場合には×、と評価した。
【0135】
(7)透過損失
JIS A1441-1:2007に基づいて透過損失を測定した。具体的には、鉄板(500mm×500mm×0.8mm(厚み)の上にテストピースを重ね、さらにその上にゴム板(500mm×500mm×1.0mm(厚み))を重ねたものを測定サンプルとした。なお、防音材は、第1面が上向きとなるように配置した。
【0136】
透過損失は、50dB以上の場合には◎、48dB以上で50dB未満の場合には○、48dB未満の場合には×、と評価した。
【0137】
(8)残響室法吸音率
JIS A1409:1998に基づいて、防音材のテストピースの残響室法吸音率を測定した。具体的には、500mm×500mm×20mm(厚み)のサイズのテストピースを4枚、残響室の床面に敷き詰めたものを、1m×1m×20mmのサイズの測定サンプルとして、各周波数における残響室法吸音率を測定した。この際、測定サンプルの外周をアルミ製の固定具で覆い、テストピース同士、テストピースと固定具の隙間をアルミテープでシールした。そして、周波数500、630、800、1000、1250、1600、2000、2500、3150、4000、5000、6300Hzにおける吸音率を、第1面を上向きにした配置と第2面を上向きにした配置との両方で測定し、それら全ての測定値の平均値を、そのテストピースの残響室法吸音率とした。
【0138】
残響室法吸音率は、0.50以上の場合には◎、0.45以上で0.50未満の場合には○、0.45未満の場合には×、と評価した。
【0139】
上記した評価項目が、全て◎の場合を総合評価「◎」、○があるが×がない場合を総合評価「○」、×が1つでもある場合を総合評価「×」、とした。
【0140】
<評価結果>
図24に示されるように、追加工としてブロー処理が行われた実施例1~7では、追加工が行われていない比較例1,3に比べて、残響室法吸音率が大幅に向上することが確認できた(評価◎)。実施例1~7では、比較例1,3に対して透過損失も良好となっている(評価○以上)。また、実施例1と実施例3との比較からわかるように、ブロー処理は、防音材の片面からだけよりも両面から行った方が残響室法吸音率の向上が大きくなることがわかった。また、実施例1と実施例4との比較、実施例1と実施例7との比較からわかるように、追加工として、ブロー処理のみを行った場合よりも、突き刺し処理の後にブロー処理を行った場合の方が、残響室法吸音率が大きくなることがわかる。
【0141】
また、追加工としてロールクラッシングが行われた比較例2では、追加工をしていない比較例1に比べて、残響室吸音率及び透過損失が向上しているものの、ロールクラッシングによるポリウレタンフォーム11の変形が大きかった。具体的には、ロールクラッシングによりポリウレタンフォーム11がつぶれて、ポリウレタンフォーム11の厚みが薄くなった(追加工後の厚みを参照)。また、比較例2では、比較例1との50%圧縮硬さの比較からわかるように、硬くなっている。従って、ロールクラッシングを行うと、防音材が復元し難くなり、寸法精度が低くなることがわかる。なお、セル径の長径/短径比からわかるように、比較例2では、実施例1~7及び比較例1に比べて、発泡セル30が長くなっている。これは、ロールクラッシングによって発泡セル30がつぶれたためと考えられる。
【0142】
これに対し、ロールクラッシングを行わずにブロー処理を行った実施例1~7では、追加工を行っていない比較例1に対しても、ポリウレタンフォーム11の変形が確認されず、また、ポリウレタンフォーム11の硬さもほぼ同じであった(追加工後の厚み、50%圧縮硬さ、共に評価◎)。このように、実施例1~7の防音材では、追加工による寸法精度の悪化を防ぎつつ、吸音性を向上させることが可能であることがわかった。
【0143】
以上のように、ブロー処理を行った実施例1~7の防音材では、比較例1,2の防音材に比べて、寸法精度の低下を防ぎつつ吸音性を向上可能であることが確認できた(総合評価が○以上)。