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特開2024-52986分泌型のβ-ガラクトシダーゼの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024052986
(43)【公開日】2024-04-12
(54)【発明の名称】分泌型のβ-ガラクトシダーゼの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/26 20060101AFI20240405BHJP
   C12P 19/00 20060101ALI20240405BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20240405BHJP
   C12N 15/56 20060101ALN20240405BHJP
   C12N 1/15 20060101ALN20240405BHJP
【FI】
C12N9/26 Z ZNA
C12P19/00
C12N15/31
C12N15/56
C12N1/15
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024033065
(22)【出願日】2024-03-05
(62)【分割の表示】P 2020555578の分割
【原出願日】2019-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2018212757
(32)【優先日】2018-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006884
【氏名又は名称】株式会社ヤクルト本社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】弁理士法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 英司
(72)【発明者】
【氏名】池田 雅和
(72)【発明者】
【氏名】安部 美南子
(72)【発明者】
【氏名】籏野 博
(57)【要約】
【課題】ガラクトオリゴ糖の製造への利用が容易なβ-ガラクトシダーゼを製造する方法を提供する。
【解決手段】 シグナル配列と、スポロボロマイセス・シンギュラリス由来のβ-ガラクトシダーゼをコードする配列とを、アスペルギルス・オリゼーに組み込み、これをCDD培地で培養して分泌型のβ-ガラクトシダーゼを産生させる分泌型のβ-ガラクトシダーゼの製造方法であって、
シグナル配列と、スポロボロマイセス・シンギュラリス由来のβ-ガラクトシダーゼをコードする配列が、配列番号1、3または5に記載の配列であることを特徴とする分泌型のβ-ガラクトシダーゼの製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シグナル配列と、スポロボロマイセス・シンギュラリス由来のβ-ガラクトシダーゼをコードする配列とを、アスペルギルス・オリゼーに組み込み、これをCDD培地で培養して分泌型のβ-ガラクトシダーゼを産生させる分泌型のβ-ガラクトシダーゼの製造方法であって、
シグナル配列と、スポロボロマイセス・シンギュラリス由来のβ-ガラクトシダーゼをコードする配列が、配列番号1、3または5に記載の配列であることを特徴とする分泌型のβ-ガラクトシダーゼの製造方法。
【請求項2】
シグナル配列が、アスペルギルス・オリゼーの分泌シグナル配列である請求項1記載の分泌型のβ-ガラクトシダーゼの製造方法。
【請求項3】
CDD培地での培養を30℃、144時間行うものである請求項1記載の分泌型のβ-ガラクトシダーゼの製造方法。
【請求項4】
少なくとも乳糖を含有する基質に、請求項1~3の何れかに記載の分泌型のβ-ガラクトシダーゼの製造方法で製造されたβ-ガラクトシダーゼを作用させることを特徴とするガラクトオリゴ糖の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラクトオリゴ糖の製造への利用が容易な分泌型のβ-ガラクトシダーゼの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
β-ガラクトシダーゼは、乳糖等のβ-D-ガラクトシド結合を加水分解する反応とともに、ガラクトシル基転移反応も触媒することが知られており、腸内で選択的にビフィズス菌を増殖させるガラクトオリゴ糖の製造に使用されている。
【0003】
これまで本出願人は、担子菌酵母であるスポロボロマイセス・シンギュラリスの高力価変異株由来のβ-ガラクトシダーゼを利用してガラクトオリゴ糖を製造する技術を報告している(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、この技術で用いられるβ-ガラクトシダーゼは非分泌型(細胞壁結合性)であるため、これを産生するスポロボロマイセス・シンギュラリスの菌体を含む菌体濃縮液として反応に用いる必要がある。
【0005】
この菌体濃縮液は、生菌なので変質しやすく、しかも、菌体を濃縮しただけなので比活性が低く、ガラクトオリゴ糖反応液に菌体内容物が漏出して精製コストが高くなる等の問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-223268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、上記問題点を解決した、ガラクトオリゴ糖の製造への利用が容易なβ-ガラクトシダーゼを製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、担子菌酵母由来の非分泌型のβ-ガラクトシダーゼ遺伝子を、アスペルギルス・オリゼーに組み込むことで、分泌型のβ-ガラクトシダーゼが産生されることおよびこれがガラクトオリゴ糖の製造への利用が容易であることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、担子菌酵母由来の非分泌型のβ-ガラクトシダーゼ遺伝子を、アスペルギルス・オリゼーに組み込み、分泌型のβ-ガラクトシダーゼを産生させることを特徴とする分泌型のβ-ガラクトシダーゼの製造方法である。
【0010】
また、本発明は、配列番号7、13、19に記載の配列である担子菌酵母由来の非分泌型のβ-ガラクトシダーゼ遺伝子である。
【0011】
更に、本発明は、担子菌酵母由来の非分泌型のβ-ガラクトシダーゼ遺伝子が、アスペルギルス・オリゼーに組み込まれ、分泌型のβ-ガラクトシダーゼを産生することを特徴とするアスペルギルス・オリゼーの形質転換体である。
【0012】
また更に、本発明は、少なくとも乳糖を含有する基質に、前記のβ-ガラクトシダーゼの製造方法で製造されたβ-ガラクトシダーゼを作用させることを特徴とするガラクトオリゴ糖の製造方法である。
【0013】
また、本発明は、担子菌酵母由来の非分泌型のβ-ガラクトシダーゼ遺伝子を、アスペルギルス・オリゼーに組み込み、これを培養することにより得られる分泌型のβ-ガラクトシダーゼである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の分泌型のβ-ガラクトシダーゼの製造方法は、担子菌酵母由来の非分泌型のβ-ガラクトシダーゼを、分泌型として得ることができる。
【0015】
そのため、本発明の分泌型のβ-ガラクトシダーゼの製造方法で得られるβ-ガラクトシダーゼは、β-ガラクトシダーゼ活性が高く、熱安定性も高く、更に、分離・精製が容易であり、ガラクトオリゴ糖の製造への利用が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】SsGal株を用いたSDS-PAGEおよび活性測定の結果を示す図である。
図2】SmGal株を用いたSDS-PAGEおよび活性測定の結果を示す図である。
図3】RmGal株を用いたSDS-PAGEおよび活性測定の結果を示す図である。
図4】SeGal株を用いたSDS-PAGEおよび活性測定の結果を示す図である。
図5】SsGal株を用いたSDS-PAGEおよび活性測定(熱失活)の結果を示す図である。
図6】SmGal株を用いたSDS-PAGEおよび活性測定(熱失活)の結果を示す図である。
図7】RmGal株を用いたSDS-PAGEおよび活性測定(熱失活)の結果を示す図である。
図8】SeGal株を用いたSDS-PAGEおよび活性測定(熱失活)の結果を示す図である。
図9】SeGal株と親株を用いた熱処理後の活性測定の結果を示す図である。
図10】SsGal株を用いたガラクトオリゴ糖製造における反応時間と溶液中の糖組成を示す図である。
図11】SmGal株を用いたガラクトオリゴ糖製造における反応時間と溶液中の糖組成を示す図である。
図12】SeGal株を用いたガラクトオリゴ糖製造における反応時間と溶液中の糖組成を示す図である。
図13】SeGal株を用いたガラクトオリゴ糖製造における反応時間と溶液中の糖組成を示す図である((a):70℃、(b):80℃)。
図14】SeGal株を用いたガラクトオリゴ糖製造における反応時間と溶液中の糖組成を示す図である((c):90℃)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の分泌型のβ-ガラクトシダーゼの製造方法(以下、「本発明製法」という)は、担子菌酵母由来の非分泌型のβ-ガラクトシダーゼ遺伝子を、アスペルギルス・オリゼーに組み込み、分泌型のβ-ガラクトシダーゼを産生させるものである。
【0018】
本発明製法に用いられる担子菌酵母由来の非分泌型のβ-ガラクトシダーゼ遺伝子は、担子菌酵母が産生する非分泌型のβ-ガラクトシダーゼをコードするものである。ここで非分泌型とは、細胞壁結合性を有するものであり、このことは活性染色等で確認することができる。
【0019】
また、非分泌型のβ-ガラクトシダーゼを産生する担子菌酵母は特に限定されないが、例えば、スポロボロマイセス・シンギュラリス(Sporobolomyces singularis)等のスポロボロマイセス属、シロバシジウム・マグナム(Sirobasidium magnum)等のシロバシジウム属、ロドトルラ・ミニュタ(Rodotorula minuta)等のロドトルラ属、ステリグマトマイセス・エルビアエ(Sterigmatomyces elviae)等のステリグマトマイセス属、クリプトコッカス・ローレンティ(Cryptococcus laurentii)等のクリプトコッカス属等に属する担子菌酵母が挙げられる。これらの担子菌酵母の中でもスポロボロマイセスもしくはステリグマトマイセス属に属するものが好ましく、スポロボロマイセス・シンギュラリスまたはステリグマトマイセス・エルビアエがより好ましい。
【0020】
更に、担子菌酵母が産生する非分泌型のβ-ガラクトシダーゼをコードする遺伝子としては、まず、上記した非分泌型のβ-ガラクトシダーゼを産生する担子菌酵母からPCR等の常法に従ってクローニングされた遺伝子が挙げられる。なお、この遺伝子は前記のようにして得られた遺伝子の情報から、宿主に合わせて全合成したものが好ましい。
【0021】
具体的には以下の遺伝子が挙げられる。なお、この遺伝子には、シグナル配列も含まれる。
【0022】
・配列番号1に記載の塩基配列からなるスポロボロマイセス・シンギュラリス由来のβ-ガラクトシダーゼ遺伝子(配列中1~57番がシグナル配列)
・配列番号7に記載の塩基配列からなるシロバシジウム・マグナム由来のβ-ガラクトシダーゼ遺伝子(配列中1~48番がシグナル配列)
・配列番号13に記載の塩基配列からなるロドトルラ・ミニュタ由来のβ-ガラクトシダーゼ遺伝子(配列中1~57番がシグナル配列)
・配列番号19に記載の塩基配列からなるステリグマトマイセス・エルビアエ由来のβ-ガラクトシダーゼ遺伝子(配列中1~57番がシグナル配列)
【0023】
また、上記遺伝子の好ましいものとしては、前記各担子菌酵母のシグナル配列を、アスペルギルス・オリゼーのシグナル配列に置換したものである。アスペルギルス・オリゼーのシグナル配列としては、例えば、アスペルギルス・オリゼーのα-アミラーゼ(Taka-amylase:TAA)の分泌シグナル (TAA signal)配列(Okazaki, F., Aoki, J., Tabuchi, S., Tanaka, T., Ogino, C., and Kondo, A., Efficient heterologous expression and secretion in Aspergillus oryzae of a llama variable heavy-chain antibody fragment V(HH) against EGFR. Appl Microbiol Biotechnol 96, 81-88 (2012).)、リゾパス・オリゼーのリパーゼの分泌シグナル(Hama, S., Tamalampudi, S., Shindo, N., Numata, T., Yamaji, H., Fukuda, H., and Kondo, A., Role of N-terminal 28-amino-acid region of Rhizopus oryzae lipase in directing proteins to secretory pathway of Aspergillus oryzae. Appl Microbiol Biotechnol 79, 1009-1018 (2008).)等が挙げられる。このようなシグナル配列の置換は、常法に従って行うことができる。
【0024】
このような前記各担子菌酵母のシグナル配列を、アスペルギルス・オリゼーのシグナル配列に置換したβ-ガラクトシダーゼ遺伝子のうち、好ましいものとしては以下の遺伝子が挙げられる。これらの配列は、アスペルギルス・オリゼーの分泌シグナル(TAA signal)配列とネイティブのβ-ガラクトシダーゼをコードする配列からなる。
【0025】
・配列番号3に記載の塩基配列からなるβ-ガラクトシダーゼ遺伝子(配列中1~63番が分泌シグナル配列)
・配列番号9に記載の塩基配列からなるβ-ガラクトシダーゼ遺伝子(配列中1~63番が分泌シグナル配列)
・配列番号15に記載の塩基配列からなるβ-ガラクトシダーゼ遺伝子(配列中1~63番が分泌シグナル配列)
・配列番号21に記載の塩基配列からなるβ-ガラクトシダーゼ遺伝子(配列中1~63番が分泌シグナル配列)
【0026】
上記遺伝子の中でも、β-ガラクトシダーゼのアミノ酸配列を変更しない範囲内でネイティブのβ-ガラクトシダーゼをコードする配列のコドンを変更したものが好ましい。このようなβ-ガラクトシダーゼ遺伝子としては以下の遺伝子が挙げられる。これらの配列は、アスペルギルス・オリゼーの分泌シグナル(TAA signal)配列とβ-ガラクトシダーゼのアミノ酸配列を変更しない範囲内でネイティブのβ-ガラクトシダーゼをコードする配列のコドンを変更した配列からなる。
【0027】
・配列番号5に記載の塩基配列からなるβ-ガラクトシダーゼ遺伝子(配列中1~63番が分泌シグナル配列)
・配列番号11に記載の塩基配列からなるβ-ガラクトシダーゼ遺伝子(配列中1~63番が分泌シグナル配列)
・配列番号17に記載の塩基配列からなるβ-ガラクトシダーゼ遺伝子(配列中1~63番が分泌シグナル配列)
・配列番号23に記載の塩基配列からなるβ-ガラクトシダーゼ遺伝子(配列中1~63番が分泌シグナル配列)
【0028】
上記遺伝子の中でも配列番号5、11、23に記載の塩基配列からなるβ-ガラクトシダーゼ遺伝子が好ましい。
【0029】
本発明製法に用いられる、上記β-ガラクトシダーゼ遺伝子を組み込まれるアスペルギルス・オリゼーは特に限定されないが、例えば、ATPスルフリラーゼ遺伝子(sC)および硝酸還元酵素遺伝子(niaD)のアスペルギルス・オリゼーNS4株(独立行政法人 酒類総合研究所 〒739-0046 広島県東広島市鏡山3-7-1より分譲可能)、アスペルギルス・オリゼーniaD300、アスペルギルス・オリゼーRIB40、アスペルギルス・オリゼーATCC11488が挙げられる。これらの中でもアスペルギルス・オリゼーNS4株が好ましい。
【0030】
本発明製法においては、上記遺伝子をアスペルギルス・オリゼーに組み込む方法は特に限定されないが、例えば、上記遺伝子を常法で発現ベクターに組み込めばよい。発現ベクターの種類は特に限定されないが、アスペルギルス・オリゼー由来の発現ベクターが好ましく、特に、アミラーゼ系遺伝子の発現制御に関与するシス・エレメント(Region III)を利用した改良プロモーター(シス・エレメント導入によるAspergillus oryzaeエノラーゼプロモーターの改良、Tsuboi, H. et al., Biosci. Biotechnol. Biochem.,69, 206-208 (2005))と、翻訳効率の高い5’UTR配列を含む高発現ベクター(特許第4413557号)が好ましい。更に、これらのベクターには、形質転換体の選択のためアンピシリン等の抗生物質の耐性遺伝子を組み込んだり、マーカーとしてATPスルフリラーゼ発現カセット等を組み込んだりしてもよい。
【0031】
上記発現ベクターは、上記文献に記載の方法に基づいて調製してもよいし、例えば、大関株式会社(〒663-8227 兵庫県西宮市今津出在家町4番9号)のタンパク質受託発現サービスで作製してもらってもよい。
【0032】
上記遺伝子を発現ベクターに組み込んだ後は、これをアスペルギルス・オリゼーに組み込んで形質転換させる。アスペルギルス・オリゼーを形質転換させる方法は特に限定されず、例えば、プロトプラスト-PEG法、エレクトロポレーション法等の常法で行えばよい。形質転換をした後は、常法に従って適宜、洗浄、選択、集菌等を行ってもよい。
【0033】
このようにして担子菌酵母由来の非分泌型のβ-ガラクトシダーゼ遺伝子を、アスペルギルス・オリゼーに組み込み、分泌型のβ-ガラクトシダーゼを産生するアスペルギルス・オリゼーの形質転換体を得ることができる。この形質転換体について適宜、DPY培地、CDD培地等で培養を行うことによりアスペルギルス・オリゼーから分泌型のβ-ガラクトシダーゼが産生される。
【0034】
上記で得られるβ-ガラクトシダーゼは分泌型であるため、精製は、例えば、培養後の培養液をろ過、遠心分離等して分離し、上清を採取するだけでよい。また、上清を限外ろ過膜などを用いて濃縮する事も可能である。このβ-ガラクトシダーゼはβ-ガラクトシダーゼの活性が高く、熱安定性も高く、不純物が少ないという特長がある。
【0035】
このような分泌型のβ-ガラクトシダーゼのアミノ酸配列の好ましいものとしては例えば以下の通りである。
・配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるスポロボロマイセス・シンギュラリス由来のβ-ガラクトシダーゼ(配列中1~575番)(配列番号4、6に記載のアミノ酸配列も同じ(配列中1~575番))
・配列番号8に記載のアミノ酸配列からなるシロバシジウム・マグナム由来のβ-ガラクトシダーゼ(配列中1~685番)(配列番号10、12に記載のアミノ酸配列も同じ(配列中1~685番))
・配列番号14に記載のアミノ酸配列からなるロドトルラ・ミニュタ由来のβ-ガラクトシダーゼ(配列中1~581番)(配列番号16、18に記載のアミノ酸配列も同じ(配列中1~581番))
・配列番号20に記載のアミノ酸配列からなるステリグマトマイセス・エルビアエ由来のβ-ガラクトシダーゼ(配列中1~581番)(配列番号22、24に記載のアミノ酸配列も同じ(配列中1~581番))
【0036】
上記β-ガラクトシダーゼの中でも、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるスポロボロマイセス・シンギュラリス由来のβ-ガラクトシダーゼ、配列番号8に記載のアミノ酸配列からなるシロバシジウム・マグナム由来のβ-ガラクトシダーゼ、配列番号20に記載のアミノ酸配列からなるステリグマトマイセス・エルビアエ由来のβ-ガラクトシダーゼが好ましい。
【0037】
このβ-ガラクトシダーゼは菌体外に分泌される他、β-ガラクトシダーゼの活性が長期保存しても低下せず、熱安定性や保存性が良いという性質を有する。なお、β-ガラクトシダーゼの活性は、後記する実施例に記載の方法で確認することができる。通常は、効率よくガラクトオリゴ糖を製造するために、複数のβ-ガラクトシダーゼを用いることがあるが、上記で得られるβ-ガラクトシダーゼは、単独でも効率よくガラクトオリゴ糖を製造できる。
【0038】
上記で得られたβ-ガラクトシダーゼは、従来公知のβ-ガラクトシダーゼと同様に、例えば、少なくとも乳糖を含有する基質にβ-ガラクトシダーゼを作用させてガラクトオリゴ糖を製造するのに利用することができる。なお、このβ-ガラクトシダーゼは分泌型であるため、ガラクトオリゴ糖の製造の際に、特に菌体の除去等を行う必要もない。
【0039】
具体的に、少なくとも乳糖を含有する基質に、上記で得られたβ-ガラクトシダーゼを作用させるには、少なくとも乳糖を含有する基質に、β-ガラクトシダーゼを添加し、所定の温度を維持すればよい。β-ガラクトシダーゼの添加量は特に限定されないが、例えば、乳糖100gに対して1~50U、好ましくは5~10Uである。更に、基質にβ-ガラクトシダーゼを作用させる温度は特に限定されないが、30~90℃、好ましくは60~90℃であり、維持時間は適宜設定すればよい。少なくとも乳糖を含有する基質には、ガラクトシル化される糖類を添加してもよい、このような糖類は、特に限定されず、例えば、ガラクトース、マンノース、リボース、キシロース、アラビノース、ラムノース、N-アセチルグルコサミン、α-メチルマンノシド、α-メチルガラクトシド、α-メチルグルコシド、2-デオキシグルコース、2-デオキシガラクトース等が挙げられる。
【0040】
上記のようにして製造されるガラクトオリゴ糖は、5糖以下のガラクトオリゴ糖、特に3糖のガラクトオリゴ糖が多く含まれる。
【0041】
また、上記のようにして製造されるガラクトオリゴ糖は、そのままでもよいが、一般的な精製手法を用いて分離精製してもよい。精製方法に特に制限は無いが、具体的にはイオン交換、ゲルろ過、活性炭、アフィニティクロマトグラフィー等の各種クロマトグラフィーにかけることにより精製できる。
【0042】
斯くして得られるガラクトオリゴ糖は、有用な食品素材や医薬品原料、試薬に利用できる。
【実施例0043】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0044】
これら実施例で使用した担子菌酵母の寄託番号は以下の通りである。
・スポロボロマイセス・シンギュラリス ATCC 24193
・ロドトルラ・ミニュタ CBS 319
・ステリグマトマイセス・エルビアエ IFO 1843
・シロバシジウム・マグナム CBS 6803
ATCC: 10801 University Boulevard Manassas, VA 20110 USA
CBS:Uppsalalaan 8, 3584 CT, Utrecht, The Netherlands
IFO:〒532-8686 大阪市淀川区十三本町2丁目17番85号
【0045】
実 施 例 1
スポロボロマイセス・シンギュラリス由来のβ-ガラクトシダーゼ遺伝子の取得:
スポロボロマイセス・シンギュラリスのβ-ガラクトシダーゼ遺伝子を文献(Ishikawa, E., Sakai, T., Ikemura, H., Matsumoto, K., and Abe, H., Identification, cloning, and characterization of a Sporobolomyces singularis beta-galactosidase-like enzyme involved in galacto-oligosaccharide production. J Biosci Bioeng 99, 331-339 (2005).)に基づいて得た(配列番号1)。この遺伝子は、シグナル配列とβ-ガラクトシダーゼをコードする配列からなる。この遺伝子のシグナル配列を、アスペルギルス・オリゼーのTAA signal配列に置換した配列(配列番号3)をコンピューター上で得て、更に、β-ガラクトシダーゼ遺伝子を、β-ガラクトシダーゼのアミノ酸配列を変更しない範囲内でネイティブのβ-ガラクトシダーゼをコードする配列のコドンを変更した配列(配列番号5)を得た(SsGal)。このSsGalをGenScript社に委託し全合成した。
【0046】
参 考 例 2
シロバシジウム・マグナム由来のβ-ガラクトシダーゼ遺伝子の取得:
保存領域から縮重プライマー(表1)(配列番号25~29)を設計し、Forward2種類×Reverse3種類、合計6通りの組み合わせでRT-PCRで部分配列をクローニングした。当該部分配列から、5’RACEおよび3’RACEを行い、完全長cDNAを取得した。
【0047】
【表1】
【0048】
上記完全長cDNAに基づき、上流域の開始コドン(ATG)から類推してシロバシジウム・マグナム由来のβ-ガラクトシダーゼ遺伝子を得た(配列番号7)。この遺伝子は、シグナル配列とβ-ガラクトシダーゼをコードする配列からなる。この遺伝子のシグナル配列を、アスペルギルス・オリゼーのTAA signal配列に置換した配列(配列番号9)をコンピューター上で得て、更に、β-ガラクトシダーゼ遺伝子を、β-ガラクトシダーゼのアミノ酸配列を変更しない範囲内でネイティブのβ-ガラクトシダーゼをコードする配列のコドンを変更した配列(配列番号11)を得た(SmGal)。このSmGalをGenScript社に委託し全合成した。
【0049】
参 考 例 3
ロドトルラ・ミニュタ由来のβ-ガラクトシダーゼ遺伝子の取得:
ロドトルラ・ミニュタのβ-ガラクトシダーゼ遺伝子をシロバシジウム・マグナム由来のβ-ガラクトシダーゼ遺伝子と同様の手法で得た(配列番号13)。この遺伝子は、シグナル配列とβ-ガラクトシダーゼをコードする配列からなる。この遺伝子のシグナル配列を、アスペルギルス・オリゼーのTAA signal配列に置換した配列(配列番号15)をコンピューター上で得て、更に、β-ガラクトシダーゼ遺伝子を、β-ガラクトシダーゼのアミノ酸配列を変更しない範囲内でネイティブのβ-ガラクトシダーゼをコードする配列のコドンを変更した配列(配列番号17)を得た(RmGal)。このRmGalをGenScript社に委託し全合成した。
【0050】
参 考 例 4
ステリグマトマイセス・エルビアエ由来のβ-ガラクトシダーゼ遺伝子の取得:
ステリグマトマイセス・エルビアエのβ-ガラクトシダーゼ遺伝子をシロバシジウム・マグナム由来のβ-ガラクトシダーゼ遺伝子と同様の手法で得た(配列番号19)。この遺伝子は、シグナル配列とβ-ガラクトシダーゼをコードする配列からなる。この遺伝子のシグナル配列を、アスペルギルス・オリゼーのTAA signal配列に置換した配列(配列番号21)をコンピューター上で得て、更に、β-ガラクトシダーゼ遺伝子を、β-ガラクトシダーゼのアミノ酸配列を変更しない範囲内でネイティブのβ-ガラクトシダーゼをコードする配列のコドンを変更した配列(配列番号23)を得た(SeGal)。このSeGalをGenScript社に委託し全合成した。
【0051】
実 施 例 5
SsGal形質転換体の取得:
実施例1で得たSsGalを、大関株式会社(〒663-8227 兵庫県西宮市今津出在家町4番9号)のタンパク質受託発現サービスに送り、発現ベクターに組み込んだ。
【0052】
形質転換用宿主にはアスペルギルス・オリゼー由来の硝酸還元酵素遺伝子(niaD)、ATPスルフリラーゼ遺伝子(sC)株であるNS4株(独立行政法人 酒類総合研究所 〒739-0046 広島県東広島市鏡山3-7-1より分譲)を用い、これに通常のプロトプラスト-PEG法にて発現ベクターを組み込み、形質転換体を得た(SsGal株)。なお、形質転換体の選抜はsCの形質の相補によって行った。
【0053】
参 考 例 6
SmGal形質転換体の取得:
参考例2で得たSmGalを用いる以外は、実施例5と同様に組み込んだ発現ベクターおよび形質転換体を得た(SmGal株)。
【0054】
参 考 例 7
RmGal形質転換体の取得:
参考例3で得たRmGalを用いる以外は、実施例5と同様に組み込んだ発現ベクターおよび形質転換体を得た(RmGal株)。
【0055】
参 考 例 8
SeGal形質転換体の取得:
参考例4で得たSeGalを用いる以外は、実施例5と同様に組み込んだ発現ベクターおよび形質転換体を得た(SeGal株)。
【0056】
実 施 例 9
形質転換体によるβ-ガラクトシダーゼ産生評価:
(1)活性測定
実施例5および参考例6~8で得た各形質転換体のうち、SsGal株はCDD培地(2% dextrin、0.2% glucose、0.2% NH4Cl、0.002% KCl、0.001% K2HPO4、0.0005% MgSO4・7H2O、2×10-5% CuSO4・5H2O、1×10-5% FeSO4・7H2O、1×10-6% ZnSO4・7H2O、1×10-6% MnSO4・5H2O、1×10-6% AlCl3、200 mM MOPS-NaOH buffer pH 7.0)にて30℃で144時間培養した(15 mL/100 mL 容三角フラスコスケール)。RmGal株は2×DPY培地(4% dextrin、2% hipolypepton、2% yeast extract、1% KH2PO4、0.1% MgSO4・7H2O)にて30℃で144時間培養した(150 mL/500 mL 容坂口フラスコスケール)。SmGal株は2×DPY培地にて30℃で168時間培養した(150 mL/500 mL 容坂口フラスコスケール)。SeGal株はDPY培地(2% dextrin、1% hipolypepton、1% yeast extract、0.5% KH2PO4、0.05% MgSO4・7H2O)にて30℃で168時間培養した。培養上清を回収し2×サンプルバッファー(125 mM Tris-HCl(pH 6.8)、20% グリセロール、0.01% ブロモフェノールブルー、4% SDS、200 mM DTT)と等量混合し、100℃、10分処理後、SDS-PAGE(CBB染色)に供した。
【0057】
また、ONPGを基質とした活性測定を以下の方法に従って実施した。50mMのクエン酸リン酸緩衝液(pH4.0)に12.5mMとなるように2-ニトロフェニル-β-ガラクトシド(ONPG)を加えた溶液を調製した。この溶液0.8mLに、50mMのクエン酸リン酸緩衝液(pH4.0)に420nmの吸光度が0.2~0.8となるよう希釈した上記β-ガラクトシダーゼを含有する培養上清0.2mLを添加し、30℃にて10分間反応させた(試験液)。0.25M炭酸ナトリウム溶液4mLを加えて反応を停止後、遠心分離(3,000g、10分)し、上清中に含まれる遊離した2-ニトロフェノール量を分光光度計にて420nmの吸光度を測定して定量した。一方、2-ニトロフェニル-β-ガラクトシド溶液に50mMのクエン酸リン酸緩衝液(pH4.0)を加えたものを試薬ブランクとし、予め炭酸ナトリウム溶液を添加しておき、上記β-ガラクトシダーゼを含有する培養上清を添加・混合すると同時に反応停止・発色を行ったものを反応初発液(盲検) とした。酵素活性1単位(U)は、この条件で1分間に1マイクロモルの2-ニトロフェノールを遊離する酵素量とし、以下の式にて算出した。
【0058】
【数1】
【0059】
SDS-PAGEおよび活性測定の結果を図1~4に示した。CBB染色により、RmGal株、SmGal株、SeGal株には親株にない特異的なバンドが検出され、これをそれぞれのβ-ガラクトシダーゼと推定した。SsGal株はDPY培地では特異的なバンドは見られなかったが、CDD(pH 7.0)培地で培養した際、親株にはない特異的なバンドが検出され、これをβ-ガラクトシダーゼと推定した。各β-ガラクトシダーゼの分泌生産性が高くなる培養条件を検討した。その結果、SsGal株はCDD (pH 7.0)培地にて30℃で144時間、RmGal株は2×DPY培地にて30℃で144時間、SmGal株は2×DPY培地にて30℃で168時間、SeGal株はDPY培地にて30℃で168時間の条件で活性が最大となった。また、SsGal株、RmGal株、SmGal株、SeGal株の生産性は、それぞれ約200mg/L、約200mg/L、約200mg/L、約1g/Lであると、SDS-PAGEのバンドの濃度より推定した。
【0060】
(2)コピー数推定
また、形質転換体に組み込まれた発現カセット数の推定をリアルタイムPCR法で行った。
【0061】
PCRの結果から、SsGal株、RmGal株、SmGal株は1コピー、SeGal株は2コピー発現カセットが挿入された株と推定された。
【0062】
(3)熱失活試験
(1)に記載した培養条件で培養した各形質転換体と親株(NS4株)の培養液1mLを、40℃、50℃、60℃、70℃、80℃で1時間ずつインキュベートし、酵素活性測定、およびSDS-PAGEを実施した。
【0063】
SDS-PAGEおよび活性測定の結果を図5~8に示した。SsGal株は40℃まで活性を保持していたが、50℃で1時間インキュベートすると活性が約70%減少し、70℃で活性は消失した。同条件で培養した親株の活性は60℃まで微量に検出され、70℃で消失した。RmGal株は50℃まで活性を保持していたが、60℃で1時間インキュベートすると活性は消失した。同条件で培養した親株の活性は70℃まで検出され、80℃で消失した。SmGal株は50℃まで活性を保持していたが、60℃で1時間インキュベートすると活性が約20%減少し、80℃で活性は消失した。同条件で培養した親株の活性は70℃まで検出され、80℃で消失した。SeGal株は70℃まで活性を保持していた。80℃で1時間インキュベートすると活性は約97%減少した。同条件で培養した親株の活性は40℃まで検出され、50℃で消失した。また、SeGalについては1時間よりもより短い時間(5分、10分、20分)で80℃処理を行った。その結果、80℃で5分間処理することにより活性は約37%減少し、20分間処理することにより約98%減少した。また、活性測定の結果、いずれも、40℃処理および50℃処理では親株よりも高い活性を示した。
【0064】
以上のことから、SeGal株は高温でも活性を保持できることがわかった。
【0065】
参 考 例 10
夾雑酵素の除去:
実施例9の(3)で示されたように、SeGal株は高温でも活性を保持できることがわかった。一方、SeGal株の親株であるアスペルギルス・オリゼー由来の夾雑酵素について実施例9の(3)と同様に熱失活試験をしたところ、70℃の熱処理により不活性化できた。そのため、SeGal株が産生するβ-ガラクトシダーゼは、熱処理により、精製をすることができることが分かった(図9)。
【0066】
参 考 例 11
ガラクトオリゴ糖の製造(1):
乳糖を66%(w/v)含有する溶液150mLに、実施例9で得たSsGal株、SmGal株、SeGal株の培養上清をそれぞれ10Uに相当する量を添加し、所定の温度および所定の時間反応させ、ガラクトオリゴ糖を製造した。糖組成と量は高速液体クロマトグラフィーで測定した。反応時間と溶液中の糖組成を図10~12に示した(図10:SsGal株、図11:SmGal株、図12:SeGal株)。
【0067】
図より、SsGal株、SmGal株、SeGal株が産生するβ-ガラクトシダーゼにより、乳糖から主に3糖のガラクトオリゴ糖が製造できることが分かった。
【0068】
また、SsGal株が産生するβ-ガラクトシダーゼを用いてガラクトオリゴ糖を製造した場合はガラクトオリゴ糖含量が56.0%、SmGal株が産生するβ-ガラクトシダーゼを用いてガラクトオリゴ糖を製造した場合はガラクトオリゴ糖含量が66.7%、SeGal株が産生するβ-ガラクトシダーゼを用いてガラクトオリゴ糖を製造した場合はガラクトオリゴ糖含量が68.5%であった。
【0069】
なお、上記β-ガラクトシダーゼは分泌型のため、ガラクトオリゴ糖を製造後、菌体の処理をする必要がなく、効率よくガラクトオリゴ糖を製造できた。
【0070】
参 考 例 12
ガラクトオリゴ糖の製造(2):
乳糖を66%(w/v)含有する溶液150mLに、実施例9で得たSeGal株の培養上清を1.0Uに相当する量を添加し、70℃、80℃、90度および所定の時間反応させ、ガラクトオリゴ糖を製造した。糖組成と量は高速液体クロマトグラフィーで測定した。反応時間と溶液中の糖組成を図13((a):70℃、(b):80℃)、図14((c):90℃)に示した。
【0071】
SeGal株由来のβ-ガラクトシダーゼは耐熱性が高く、70℃~90℃でGOS製造が可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
分泌型のβ-ガラクトシダーゼの製造方法で得られるβ-ガラクトシダーゼは、分離・精製が容易であり、ガラクトオリゴ糖の製造へ利用できる。
図1
図2
図3
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図5
図6
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図9
図10
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【配列表】
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