(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053017
(43)【公開日】2024-04-12
(54)【発明の名称】正極活物質およびこれを含むリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20240405BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240405BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240405BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024033791
(22)【出願日】2024-03-06
(62)【分割の表示】P 2022576482の分割
【原出願日】2021-06-11
(31)【優先権主張番号】10-2020-0071473
(32)【優先日】2020-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】517113750
【氏名又は名称】エコプロ ビーエム カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ECOPRO BM CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(72)【発明者】
【氏名】コン,ボ ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ムン ホ
(72)【発明者】
【氏名】ユ,ヒョン ジョン
(72)【発明者】
【氏名】キム,キュン グ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ス ジン
(72)【発明者】
【氏名】ジョ,ミン ス
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヨン ヒー
(72)【発明者】
【氏名】シン,ジョン スン
(72)【発明者】
【氏名】ユン,ジン キョウン
(72)【発明者】
【氏名】クア,ワン ウ
(57)【要約】
【課題】相互トレードオフ関係にある電気化学的特性および安定性を同時に向上させることが可能なリチウム二次電池用正極活物質を提供すること。
【解決手段】リチウムのインターカレーションおよびデインターカレーションが可能なリチウム複合酸化物を含む正極活物質であって、前記リチウム複合酸化物は、階段状構造(step structure)の表面部を有する、正極活物質である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムのインターカレーションおよびデインターカレーションが可能なリチウム複合酸化物を含む正極活物質であって、
前記リチウム複合酸化物は、階段状構造(step structure)の表面部を有する、正極活物質。
【請求項2】
前記リチウム複合酸化物は、少なくともニッケルおよびコバルトを含む、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
前記リチウム複合酸化物は、マンガンおよびアルミニウムから選ばれる少なくとも1つをさらに含む、請求項2に記載の正極活物質。
【請求項4】
前記リチウム複合酸化物の表面部に形成された前記階段状構造は、前記リチウム複合酸化物に対する(003)結晶面の延長方向と交差するように設けられる、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項5】
前記リチウム複合酸化物の表面部に形成された前記階段状構造は、前記リチウム複合酸化物の表面部に存在する結晶面のうち{01x}、{02y}および{03z}面の族から選ばれる少なくとも1つの面の族に属する任意の結晶面が隣接する他の結晶面と所定の二面角を有するように形成された、請求項1に記載の正極活物質。
(ここで、x、yおよびzは、それぞれ独立して、0~12の間の整数である)
【請求項6】
{01x}、{02y}および{03z}面の族から選ばれる少なくとも1つの面の族に属する任意の結晶面が隣接する他の結晶面に対して有する二面角は、90°以上である、請求項5に記載の正極活物質。
【請求項7】
前記リチウム複合酸化物の表面部には、前記リチウム複合酸化物の表面部に存在する結晶面のうち{01x}、{02y}および{03z}面の族から選ばれる少なくとも1つの面の族に属する任意の結晶面が隣接する他の結晶面と所定の二面角を有するように形成された構造が周期的に繰り返される、請求項5に記載の正極活物質。
【請求項8】
前記階段状構造は、テラス-ステップ-キンク構造である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項9】
前記リチウム複合酸化物は、下記の化学式1で表される、請求項1に記載の正極活物質。
[化学式1]
LiwNi1-(x+y+z)CoxM1yM2zO2
(ここで、
M1は、MnおよびAlから選ばれる少なくとも1つであり、
M2は、Mn、Ba、Ce、Hf、Ta、Cr、F、Mg、Al、Cr、V、Ti、Fe、Zr、Zn、Si、Y、Nb、Ga、Sn、Mo、W、P、Sr、Ge、Nd、Gd、BおよびCuから選ばれる少なくとも1つであり、
M1とM2は、互いに異なる元素であり、
0.5≦w≦1.5、0≦x≦0.50、0<y≦0.20、0≦z≦0.20である)
【請求項10】
前記正極活物質は、一次粒子である前記リチウム複合酸化物が複数個凝集して形成された二次粒子を含み、
前記一次粒子および前記二次粒子の表面のうち少なくとも一部に下記の化学式2で表される酸化物を含むコーティング層が形成された、請求項1に記載の正極活物質。
[化学式2]
LiaM3bOc
(ここで、
M3は、Ni、Mn、Co、Fe、Cu、Nb、Mo、Ti、Al、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、B、P、Eu、Sm、W、Ce、V、Ba、Ta、Sn、Hf、GdおよびNdから選ばれる少なくとも1つであり、
0≦a≦8、0<b≦8、2≦c≦13である)
【請求項11】
前記酸化物は、下記の化学式3で表されるボロン含有酸化物を含む、請求項10に記載の正極活物質。
[化学式3]
LidBeOf
(ここで、
0≦d≦8、0<e≦8、2≦f≦13である)
【請求項12】
正極集電体と、
前記正極集電体上に形成され、請求項1から11のいずれか一項に記載の正極活物質を含む正極活物質層と、
を含む正極。
【請求項13】
請求項12に記載の正極を使用するリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質を構成するリチウム複合酸化物の表面部に階段状構造(step structure)を導入することによって、相互トレードオフ関係にある電気化学的特性および安定性を同時に向上させることが可能なリチウム二次電池用正極活物質およびこれを含むリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電池は、正極と負極に電気化学的反応が可能な物質を用いることによって電力を貯蔵する。前記電池の代表的な例としては、正極および負極においてリチウムイオンがインターカレーション/デインターカレーションされるときの化学電位(chemical potential)の差によって電気エネルギーを貯蔵するリチウム二次電池がある。
【0003】
前記リチウム二次電池は、リチウムイオンの可逆的なインターカレーション/デインターカレーションが可能な物質を正極と負極活物質として用い、前記正極と負極との間に有機電解液またはポリマー電解液を充填させて製造する。
【0004】
リチウム二次電池の正極活物質に用いられる代表的な物質としては、リチウム複合酸化物がある。前記リチウム複合酸化物は、LiCoO2、LiMn2O4、LiNiO2、LiMnO2または韓国特許公開第10-2015-0069334号公報(2015年06月23日公開)に開示されたように、Ni、Co、MnまたはAlなどが複合化された酸化物などがある。
【0005】
前記正極活物質のうちLiCoO2は、寿命特性および充放電効率に優れていて、最も多く用いられているが、原料に用いられるコバルトの資源的限界に起因して高価であるため、価格競争力に限界があるという短所を有している。
【0006】
LiMnO2、LiMn2O4などのリチウムマンガン酸化物は、熱的安全性に優れており、価格が安いという長所があるが、容量が小さく、高温特性に劣るという問題点がある。また、LiNiO2系正極活物質は、高い放電容量の電池特性を示しているが、Liと遷移金属間のカチオン混合(cation mixing)問題により合成が難しく、それによって、レート特性において大きな問題点がある。
【0007】
また、このようなカチオン混合の深化度合いに応じて多量のLi副産物が発生することになる。前記Li副産物の大部分は、LiOHおよびLi2CO3を含み、正極ペーストの製造時にゲル(gel)化を引き起こしたり、電極製造後に繰り返される充放電によってガスを発生させる原因となり得る。また、前記Li副産物のうち残留Li2CO3は、セルのスウェリング現象を増加させて寿命特性を低下させる原因として作用する。
【0008】
このような短所を補うために、二次電池の正極活物質としてNi含有量が50%以上のhigh-Niタイプの正極活物質の需要が増加し始めた。しかしながら、このようなhigh-Niタイプの正極活物質は、高容量特性を示すのに対して、正極活物質中のNi含有量が増加することによりLi/Ni cation mixingによる構造的不安定性がもたらされるという問題点がある。このような正極活物質の構造的不安定性により、高温だけでなく、常温でもリチウム二次電池が急激に劣化することがある。
【0009】
したがって、このようなhigh-Ni正極活物質の問題点を補完するための正極活物質の開発が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
リチウム二次電池用正極活物質において正極活物質の電気化学的特性を示す一部指標と安定性を示す一部指標の間には、所定のトレードオフ関係が成立することができる。したがって、正極活物質の容量特性を過度に向上させる場合、反対に正極活物質を構成する粒子の安定性が低下することにより、安定した充放電性能を発揮しないおそれがある。
【0011】
これによって、本発明の目的は、従来リチウム二次電池用正極活物質、特にhigh-Niタイプの正極活物質の高い電気化学的特性を維持すると同時に、低い構造的安定性を解消することが可能な正極活物質を提供することにある。
【0012】
特に、本発明の目的は、正極活物質を構成するリチウム複合酸化物の表面部に階段状構造(step structure)を導入することによって、相互トレードオフ関係にある電気化学的特性および安定性を同時に向上させることが可能なリチウム二次電池用正極活物質を提供することにある。
【0013】
また、本発明の他の目的は、本願で定義されたリチウム複合酸化物を含む正極を使用するリチウム二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
従来正極活物質のうち軽元素(light element)、代表的にボロンのような元素が酸化物形態で存在するようにして、正極活物質の表面副反応を減らして安定性を向上させる技術が提案されている。
【0015】
しかしながら、前記軽元素は、正極活物質の表面副反応を減らすことはできるが、反対に、存在様態によって表面中にリチウム含有不純物の含有量を増加させて、正極活物質の電気化学的特性を低下させる原因としても作用する。
【0016】
このような状態の下で、本発明者らは、リチウムのインターカレーションおよびデインターカレーションが可能なリチウム複合酸化物の表面部に階段状構造(step structure)を導入する場合、相互トレードオフ関係にある電気化学的特性および安定性を同時に向上させることができることを確認するに至った。
【0017】
これによって、本発明の一態様によれば、リチウムのインターカレーションおよびデインターカレーションが可能なリチウム複合酸化物を含む正極活物質として、前記リチウム複合酸化物が階段状構造(step structure)の表面部を有する正極活物質が提供される。
【0018】
この際、前記リチウム複合酸化物の表面部に形成された階段状構造は、テラス-ステップ-キンク(terrace-step-kink)構造であってもよい。
【0019】
一実施例において、前記リチウム複合酸化物は、少なくともニッケルおよびコバルトを含むリチウム複合酸化物であり、マンガンおよびアルミニウムから選ばれる少なくとも1つをさらに含んでもよい。
【0020】
また、前記リチウム複合酸化物は、下記の化学式1で表され得る。
[化学式1]
LiwNi1-(x+y+z)CoxM1yM2zO2
【0021】
(ここで、
M1は、MnおよびAlから選ばれる少なくとも1つであり、
M2は、Mn、Ba、Ce、Hf、Ta、Cr、F、Mg、Al、Cr、V、Ti、Fe、Zr、Zn、Si、Y、Nb、Ga、Sn、Mo、W、P、Sr、Ge、Nd、Gd、BおよびCuから選ばれる少なくとも1つであり、
M1とM2は、互いに異なる元素であり、
0.5≦w≦1.5、0≦x≦0.50、0<y≦0.20、0≦z≦0.20である)
【0022】
また、前記正極活物質は、一次粒子として前記リチウム複合酸化物が複数個凝集して形成された二次粒子を含み、前記一次粒子および前記二次粒子の表面のうち少なくとも一部に下記の化学式2で表される酸化物を含むコーティング層が形成されてもよい。
[化学式2]
LiaM3bOc
【0023】
(ここで、
M3は、Ni、Mn、Co、Fe、Cu、Nb、Mo、Ti、Al、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、B、P、Eu、Sm、W、Ce、V、Ba、Ta、Sn、Hf、GdおよびNdから選ばれる少なくとも1つであり、
0≦a≦8、0<b≦8、2≦c≦13である)
【0024】
前記一次粒子および前記二次粒子の表面のうち少なくとも一部に下記の化学式2で表される酸化物を含むコーティング層が形成された場合であっても、前記コーティング層は、前記リチウム複合酸化物と同様に、階段状構造の表面部を有していてもよい。また、前記コーティング層の表面部に形成された階段状構造は、テラス-ステップ-キンク構造であってもよい。
【0025】
また、本発明の他の態様によれば、上述のような正極活物質を含む正極が提供される。
【0026】
また、本発明のさらに他の態様によれば、上述のような正極を使用するリチウム二次電池が提供される。
【発明の効果】
【0027】
本発明による正極活物質を構成するリチウム複合酸化物は、ほとんどが球状に近い表面部を有する従来のリチウム複合酸化物とは異なって、表面部に階段状構造(step structure)を有しており、前記階段状構造は、前記リチウム複合酸化物を構造的に安定化させると同時に、電解液との副反応を抑制させることができる。
【0028】
特に、上述のようなリチウム複合酸化物の表面部にコーティング層が形成されることによって、リチウムのデインターカレーションによる充電量の減少を抑制し、電解液との副反応の可能性を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の一実施例による正極活物質に含まれたリチウム複合酸化物の表面部に階段状構造(step structure)が導入される過程を概略的に示す図である。
【
図2】実施例1による正極活物質に含まれたリチウム複合酸化物の表面部を撮影したSEM画像である。
【
図3】比較例1による正極活物質に含まれたリチウム複合酸化物の表面部を撮影したSEM画像である。
【
図4】実施例3による正極活物質に含まれたリチウム複合酸化物の表面部を撮影したSEM画像である。
【
図5】比較例2による正極活物質に含まれたリチウム複合酸化物の表面部を撮影したSEM画像である。
【
図6】実施例4による正極活物質に含まれたリチウム複合酸化物の表面部を撮影したSEM画像である。
【
図7】比較例3による正極活物質に含まれたリチウム複合酸化物の表面部を撮影したSEM画像である。
【
図8】比較例4による正極活物質に含まれたリチウム複合酸化物の表面部を撮影したSEM画像である。
【
図9】実施例5による正極活物質に含まれたリチウム複合酸化物の表面部を撮影したSEM画像である。
【
図10】比較例5による正極活物質に含まれたリチウム複合酸化物の表面部を撮影したSEM画像である。
【
図11】比較例6による正極活物質に含まれたリチウム複合酸化物の表面部を撮影したSEM画像である。
【
図12】実施例1による正極活物質に含まれたリチウム複合酸化物の表面部を撮影したTEM画像であり、前記リチウム複合酸化物の表面部を成している各結晶面を示す図である。
【
図13】実施例1による正極活物質に含まれたリチウム複合酸化物のXPS depth profileを示すグラフである。
【
図14】
図13のXPS depth profileでボロン(B)が検出された領域に対するB1s XPS spectrumを示すグラフである。
【
図15】実施例1による正極活物質に含まれたリチウム複合酸化物のTEM画像においてA領域およびB領域での結晶面の面間距離を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の様々な実施例による正極活物質およびこれを含むリチウム二次電池についてより詳細に説明する。
【0031】
正極活物質
本発明の一態様による正極活物質は、リチウムのインターカレーションおよびデインターカレーションが可能であり、階段状構造(step structure)の表面部を有するリチウム複合酸化物を含む。
【0032】
前記リチウム複合酸化物は、リチウムの他に、少なくとも1つの遷移金属を含む層状構造の酸化物であり、前記リチウム複合酸化物は、少なくともニッケルおよびコバルトを含んでもよい。また、前記リチウム複合酸化物は、ニッケルおよびコバルトに加えて、マンガンおよびアルミニウムから選ばれる少なくとも1つをさらに含んでもよい。
【0033】
前記リチウム複合酸化物は、下記の化学式1で表され得る。
[化学式1]
LiwNi1-(x+y+z)CoxM1yM2zO2
【0034】
(ここで、
M1は、MnおよびAlから選ばれる少なくとも1つであり、
M2は、Mn、Ba、Ce、Hf、Ta、Cr、F、Mg、Al、Cr、V、Ti、Fe、Zr、Zn、Si、Y、Nb、Ga、Sn、Mo、W、P、Sr、Ge、Nd、Gd、BおよびCuから選ばれる少なくとも1つであり、
M1とM2は、互いに異なる元素であり、
0.5≦w≦1.5、0≦x≦0.50、0<y≦0.20、0≦z≦0.20である)
【0035】
前記化学式1で表されたように、前記リチウム複合酸化物は、ニッケル、コバルト、マンガンおよび/またはアルミニウムに加えて、ドーパントをさらに含んでもよい。前記化学式1において、前記ドーパントは、M2で表示され、M2は、M1と異なる元素である。すなわち、M1がMnである場合、M2は、Mn以外の少なくとも1つのドーパントであり、M1がAlである場合、M2は、Al以外の少なくとも1つのドーパントであり、M1がMnおよびAlである場合、M2は、MnおよびAl以外の少なくとも1つのドーパントである。
【0036】
また、前記化学式1で表される前記リチウム複合酸化物は、Ni含有量が50%以上、好ましくは、60%以上、より好ましくは、80%以上であるhigh-Niタイプのリチウム複合酸化物であってもよい。前記リチウム複合酸化物中Ni含有量は、下記の式1によって計算することができ、前記化学式1の「1-(x+y+z)」で表され得る。例えば、前記リチウム複合酸化物がNCM811で表記されるリチウム複合酸化物である場合、前記化学式1の「1-(x+y+z)」は、0.80である。
[式1]
Ni含有量=[Ni(mol%)/Ni(mol%)+Co(mol%)+M1(mol%)+M2(mol%)]*100
【0037】
前記正極活物質は、一次粒子である前記リチウム複合酸化物が複数個凝集して形成された二次粒子を含んでもよい。
【0038】
ここで、前記一次粒子は、1つの結晶粒(grain or crystallite)を意味し、二次粒子は、複数の一次粒子が凝集して形成された凝集体を意味する。前記一次粒子は、棒状、楕円状および/または不定形の形状を有していてもよい。前記二次粒子を構成する前記一次粒子の間には、空隙および/または結晶粒界(grain boundary)が存在していてもよい。
【0039】
例えば、前記一次粒子は、前記二次粒子の内部で隣接する一次粒子から離隔して内部空隙を形成することができる。また、前記一次粒子は、隣接する一次粒子と互いに接して結晶粒界を形成せず、内部空隙と接することによって、前記二次粒子の内部に存在する表面を形成することができる。一方、前記二次粒子の最表面に存在する前記一次粒子が外気に露出した面は、前記二次粒子の表面を形成する。
【0040】
ここで、前記一次粒子の平均長軸径は、0.1μm~5μm、好ましくは、0.1μm~2μmの範囲内に存在することによって、本発明の様々な実施例による正極活物質を使用して製造された正極の最適密度を具現することができる。また、二次粒子の平均粒径は、凝集した一次粒子の数によって異なるが、1μm~30μmであってもよい。
【0041】
一方、本発明の一実施例による正極活物質に含まれた前記リチウム複合酸化物の表面部には、階段状構造(step structure)が存在する。この際、前記階段状構造は、前記一次粒子および/または前記二次粒子の表面部に存在していてもよく、より好ましくは、前記二次粒子の表面部に存在していてもよい。
【0042】
前記リチウム複合酸化物の表面部に形成された前記階段状構造は、単に前記リチウム複合酸化物の表面部に存在する空隙または前記リチウム複合酸化物が複数凝集することにより形成された表面部の屈曲を称するものではなく、前記一次粒子および/または前記二次粒子の表面部に全体的に形成された階段状構造として理解しなければならない。
【0043】
前記階段状構造は、テラス-ステップ(terrace-step)構造と定義されることもできる。この際、前記テラス-ステップ構造は、キンク構造をさらに含んでもよい。
【0044】
図1は、本発明の一実施例による正極活物質に含まれたリチウム複合酸化物の表面部に階段状構造(step structure)が導入される過程を概略的に示す図である。
【0045】
前記階段状構造は、前記一次粒子および/または前記二次粒子の表面部に対して水平であるか、水平に近い平面が複数積層されて形成された構造であり、前記一次粒子および/または前記二次粒子の表面部に相対的に近い部分から遠い部分に向かって平面の面積が減少することにより複数の平面が積層された構造は、階段状構造を形成することができる。
【0046】
図1を参照すると、前記階段状構造を構成するテラスtとステップsは、周期的に繰り返されてもよく、前記一次粒子および/または前記二次粒子の表面部に近いテラスtに比べて、前記表面部から遠いテラスtの表面積が小さく形成されることによって、前記一次粒子および/または前記二次粒子の表面部に前記階段状構造が設けられる。
【0047】
すなわち、前記テラスtと前記ステップsが周期的に繰り返されることにより、前記一次粒子および/または前記二次粒子の表面部にいわゆる階段形状に近い構造物が存在していてもよい。前記一次粒子および/または前記二次粒子の表面部から前記テラスtと前記ステップsが周期的に繰り返される方向は、前記リチウム複合酸化物の長短軸方向に従うか、または、無指向性を示すことができる。
【0048】
また、
図1に示されたように、前記階段状構造は、キンクkをさらに含んでもよい。前記キンクkは、テラス-ステップ構造のうち前記テラスtおよび/または前記ステップsが凹設または突出した領域を称するものであり、前記テラスtおよび/または前記ステップsに前記キンクkが形成される位置および方向も、無指向性を示すことができる。
【0049】
上述のような前記階段状構造は、相互トレードオフ関係にある電気化学的特性および安定性を同時に向上させるか、少なくとも電気化学的特性の低下を最小としつつ、安定性を向上させるか、安定性の低下を最小としつつ、電気化学的特性を向上させるのに寄与することができる。
【0050】
以下では、前記リチウム複合酸化物の結晶学的構造とともに、前記リチウム複合酸化物の表面に形成された前記階段状構造の方向性について説明する。
【0051】
本発明の一実施例による正極活物質に含まれたリチウム複合酸化物の表面部を撮影したTEM画像を示す
図12を参照すると、前記一次粒子および/または前記二次粒子の表面部に形成された前記階段状構造は、前記リチウム複合酸化物に対する(003)結晶面の延長方向と交差するように設けられ得る。
【0052】
前記(003)結晶面は、前記リチウム複合酸化物に起因する特異的な結晶面であり、前記リチウム複合酸化物の内部に一方向に沿って形成されるところ、前記リチウム複合酸化物の表面部に存在する前記階段状構造は、前記(003)結晶面の延長方向と交差するように形成される。
【0053】
この際、前記階段状構造が前記(003)結晶面の延長方向と交差するように設けられるというのは、少なくとも前記階段状構造が前記(003)結晶面の延長方向に対して垂直または垂直に近い方向に交差するように存在することを意味する。
【0054】
このように、前記階段状構造が前記リチウム複合酸化物の(003)結晶面の延長方向と交差するように形成されることにより、前記リチウム複合酸化物を媒介とするリチウムイオンの拡散能を向上させるのに寄与することができる。
【0055】
また、前記リチウム複合酸化物の表面部に形成された前記階段状構造は、前記リチウム複合酸化物の表面部に存在する結晶面のうち{01x}、{02y}および{03z}面の族から選ばれる少なくとも1つの面の族に属する結晶面の延長方向に沿って形成されたり、前記延長方向に平行するかまたは平行に近い平面に沿って形成されてもよい(ここで、x、yおよびzは、それぞれ独立して、0~12の間の整数である)。
【0056】
この際、前記階段状構造が特定結晶面の延長方向に沿って形成されるというのは、前記階段状構造のテラス-ステップが前記リチウム複合酸化物の表面部に形成された特定結晶面の延長方向に沿って形成されたり、特定結晶面の延長方向に対して成す二面角が90°以上の二面角を成して形成されることを意味する。
【0057】
すなわち、前記階段状構造は、前記リチウム複合酸化物の表面部に存在する結晶面のうち{01x}、{02y}および{03z}面の族から選ばれる少なくとも1つの面の族に属する任意の結晶面が隣接する他の結晶面と所定の二面角を有するように形成されてもよい。この際、{01x}、{02y}および{03z}面の族から選ばれる少なくとも1つの面の族に属する任意の結晶面が隣接する他の結晶面に対して有する二面角は、90°以上であってもよい。
【0058】
例えば、{01x}面の族に属する結晶面としては、(011)、(012)、(014)結晶面などがあり、{02y}面の族に属する結晶面としては、(021)、(022)結晶面などがあり、{03z}面の族に属する結晶面としては、(003)、(030)結晶面などがある。
【0059】
参考として、本願に具体的に明示されていない面の族および結晶面であるとしても、前記リチウム複合酸化物の表面部で本願に定義された階段状構造を形成することができる。
【0060】
一方、前記リチウム複合酸化物の表面部に形成された前記階段状構造は、周期的に繰り返される形状を有していてもよい。具体的には、前記リチウム複合酸化物に対する{01x}、{02y}および{03z}面の族から選ばれる少なくとも1つの結晶面から所定の二面角を成す階段構造が周期的に繰り返されるように形成されてもよい(ここで、x、yおよびyは、それぞれ独立して、0~12の間の整数である)。
【0061】
同様に、本願に具体的に明示されていない面の族および結晶面であるとしても、前記階段状構造は、前記リチウム複合酸化物の表面部に主に形成された面の族および結晶面から所定の二面角を成す階段構造が周期的に繰り返されて形成されてもよい。
【0062】
正極活物質を構成するリチウム複合酸化物内リチウムイオン拡散経路が(003)結晶面の延長方向に平行な方向に形成されると同時に、前記リチウム複合酸化物の内部から外部へのリチウムイオンの拡散および脱離が相対的に自由な(012)、(014)および(022)結晶面などを指向する場合、前記リチウム複合酸化物を含む正極活物質の電気化学的特性の向上を期待することができる。
【0063】
一方、設けられた前記階段状構造は、前記リチウム複合酸化物の内部および表面部から測定される結晶面の方向性と関係なく、無指向性で形成されることもできる。
【0064】
さらなる実施例において、前記一次粒子および/または前記二次粒子の表面のうち少なくとも一部に下記の化学式2で表される酸化物を含むコーティング層が形成されてもよい。
[化学式2]
LiaM3bOc
【0065】
(ここで、
M3は、Ni、Mn、Co、Fe、Cu、Nb、Mo、Ti、Al、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、B、P、Eu、Sm、W、Ce、V、Ba、Ta、Sn、Hf、GdおよびNdから選ばれる少なくとも1つであり、
0≦a≦8、0<b≦8、2≦c≦13である)
【0066】
前記コーティング層は、前記一次粒子および/または前記二次粒子の表面のうち少なくとも一部に選択的に存在し、前記コーティング層は、前記一次粒子および/または前記二次粒子の表面中、前記化学式2で表される酸化物が存在する領域と定義することができる。
【0067】
前記コーティング層は、前記一次粒子および/または前記二次粒子の表面のうち少なくとも一部を連続的または不連続的にコートすることができ、前記コーティング層が不連続的に存在する場合、アイランド(island)形態で存在していてもよい。また、前記コーティング層は、前記一次粒子および/または前記二次粒子と境界を形成しない固溶体形態で存在することもできるが、必ずしもそうではない。
【0068】
一方、前記リチウム複合酸化物の表面部に前記コーティング層が存在する場合であっても、前記リチウム複合酸化物の表面部に存在する前記階段状構造はそのまま維持されることが好ましい。
【0069】
もし前記リチウム複合酸化物の表面に前記コーティング層が存在する場合、前記コーティング層も、階段状構造の表面部を有していてもよい。この際、前記階段状構造は、前記リチウム複合酸化物の表面部に存在する階段状構造に従う。
【0070】
同様に、前記リチウム複合酸化物の表面部に存在する前記階段状構造がキンク構造をさらに含むテラス-ステップ-キンク構造である場合、前記コーティング層の表面部も、テラス-ステップ-キンク構造を有する。
【0071】
一方、前記コーティング層に含まれた酸化物のうち少なくとも1種は、borate系化合物またはLBO(lithium borate)系化合物のようなボロン含有酸化物であってもよい。前記ボロン含有酸化物は、下記の化学式3で表され得る。
[化学式3]
LidBeOf
【0072】
(ここで、
0≦d≦8、0<e≦8、2≦f≦13である)
【0073】
前記ボロン含有酸化物の非制限的な例としては、B2O3、Li2O-B2O3、LiBO2、Li3BO3、Li3BO5、Li2B4O7、Li2B2O7、Li2B8O13、Li6B4O9などがある。
【0074】
前記ボロン含有酸化物は、前記リチウム複合酸化物に対する表面保護効果を提供して、表面副反応を抑制することにより、正極活物質の安定性を向上させることができる。前記コーティング層は、ボロン含有酸化物を除いたさらなる酸化物をさらに含むことによって、前記リチウム複合酸化物の表面に存在するリチウム含有不純物を低減させると同時に、リチウムイオンの移動経路(diffusion path)として作用することによって、前記正極活物質の電気化学的特性を向上させることができる。
【0075】
前記酸化物は、リチウムとM3で表される元素が複合化された酸化物であるか、または、M3の酸化物であり、前記酸化物は、例えば、LiaWbOc、LiaZrbOc、LiaTibOc、LiaNibOc、LiaCobOc、LiaAlbOc、CobOc、AlbOc、WbOc、ZrbOcまたはTibOcなどであってもよいが、上述のような例は、理解を助けるために便宜上記載したものに過ぎず、本願で定義された前記酸化物は、上述のような例に限定されない。
【0076】
また、前記酸化物は、リチウムとM3で表される少なくとも2種の元素が複合化された酸化物であるか、または、リチウムとM3で表される少なくとも2種の元素が複合化された酸化物をさらに含んでもよい。リチウムとM3で表される少なくとも2種の元素が複合化された酸化物は、例えば、Lia(W/Ti)bOc、Lia(W/Zr)bOc、Lia(W/Ti/Zr)bOc、Lia(W/Ti/B)bOcなどであってもよいが、必ずこれに限定されるものではない。
【0077】
リチウム二次電池
本発明の他の態様によれば、正極集電体と、前記正極集電体上に形成された正極活物質層とを含む正極を提供することができる。ここで、前記正極活物質層は、正極活物質として上述した本発明の様々な実施例によるリチウム複合酸化物を含んでもよい。
したがって、リチウム複合酸化物に関する具体的な説明を省略し、以下では、残りの前述しない構成のみについて説明する。また、以下では、便宜上、上述したリチウム複合酸化物を正極活物質と称することとする。
【0078】
前記正極集電体は、電池に化学的変化を誘発せず導電性を有するものであれば特に制限されるものではなく、例えば、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素又はアルミニウムやステンレススチールの表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したものなどが用いられてもよい。また、前記正極集電体は、通常3~500μmの厚さを有してもよく、前記集電体の表面上に微細な凹凸を形成して正極活物質の接着力を高めることもできる。例えば、フィルム、シート、ホイル、ネット、多孔質体、発泡体、不織布などの様々な形態で使用されてもよい。
【0079】
前記正極活物質層は、前記正極活物質とともに導電材及び必要に応じて選択的にバインダーを含む正極スラリー組成物を前記正極集電体に塗布して製造されてもよい。
【0080】
このとき、前記正極活物質は、正極活物質層の総重量に対して80~99wt%、より具体的には、85~98.5wt%の含量で含まれてもよい。前記含量範囲に含まれるとき、優れた容量特性を示すことができるが、必ずしもこれに制限されるものではない。
【0081】
前記導電材は、電極に導電性を付与するために使用されるものであり、構成される電池において、化学変化を引き起こすことなく電子伝導性を有するものであれば、特に制限なく使用可能である。具体例としては、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、炭素繊維などの炭素系物質、銅、ニッケル、アルミニウム、銀などの金属粉末または金属繊維、酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー、酸化チタンなどの導電性金属酸化物、またはポリフェニレン誘導体などの伝導性高分子などが挙げられ、これらのうち1種単独または2種以上の混合物が用いられてもよい。前記導電材は、正極活物質層の総重量に対して0.1~15重量%で含まれてもよい。
【0082】
前記バインダーは、正極活物質粒子間の付着及び正極活物質と集電体との接着力を向上させる役割を果たす。具体例としては、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF-co-HFP)、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化-EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、またはこれらの多様な共重合体などが挙げられ、これらのうち、1種単独または2種以上の混合物が用いられてもよい。前記バインダーは、正極活物質層の総重量に対して0.1~15重量%で含まれてもよい。
【0083】
前記正極は、前記正極活物質を用いることを除いては、通常の正極製造方法によって製造されてもよい。具体的には、前記正極活物質及び選択的に、バインダー及び導電材を溶媒中に溶解又は分散させて製造した正極スラリー組成物を正極集電体上に塗布した後、乾燥及び圧延することにより製造してもよい。
【0084】
前記溶媒としては、当該技術分野で一般的に使用される溶媒であってよく、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide、DMSO)、イソプロピルアルコール(isopropyl alcohol)、N-メチルピロリドン(NMP)、アセトン(acetone)または水などが挙げられ、これらのうち1種単独または2種以上の混合物が用いられてもよい。前記溶媒の使用量は、スラリーの塗布厚さ、製造収率を考慮して、前記正極活物質、導電材及びバインダーを溶解又は分散させ、その後、正極製造のための塗布時に優れた厚さ均一度を示すことができる粘度を持たせる程度であれば十分である。
【0085】
また、他の実施例において、前記正極は、前記正極スラリー組成物を別途の支持体上にキャストした後、この支持体から剥離して得られたフィルムを正極集電体上にラミネーションすることによって製造されてもよい。
【0086】
また、本発明のさらに他の態様によれば、前述の正極を含む電気化学素子が提供されてもよい。前記電気化学素子は、具体的には、電池、キャパシタなどであってもよく、より具体的には、リチウム二次電池であってもよい。
【0087】
前記リチウム二次電池は、具体的には、正極、前記正極と対向して位置する負極、及び前記正極と前記負極との間に介在する分離膜及び電解質を含んでもよい。ここで、前記正極は、前述の通りであるので、便宜上、具体的な説明を省略し、以下では、前述しない残りの構成についてのみ具体的に説明する。
【0088】
前記リチウム二次電池は、前記正極、前記負極及び前記分離膜の電極組立体を収納する電池容器及び前記電池容器を封止する封止部材を選択的にさらに含んでもよい。
【0089】
前記負極は、負極集電体及び前記負極集電体上に位置する負極活物質層とを含んでもよい。
【0090】
前記負極集電体は、電池に化学的変化を誘発することなく高い導電性を有するものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、銅、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、銅やステンレススチールの表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したもの、アルミニウム-カドミウム合金などが用いられてもよい。また、前記負極集電体は、通常、3μm~500μmの厚さを有してもよく、正極集電体と同様に、前記集電体の表面に微細な凹凸を形成して負極活物質の結合力を強化させることもできる。例えば、フィルム、シート、ホイル、ネット、多孔質体、発泡体、不織布などの様々な形態で使用されてもよい。
【0091】
前記負極活物質層は、前記負極活物質とともに導電材及び必要に応じて選択的にバインダーとを含む負極スラリー組成物を前記負極集電体に塗布して製造されてもよい。
【0092】
前記負極活物質としては、リチウムの可逆的なインターカレーション及びデインターカレーションが可能な化合物が使用されてもよい。具体例としては、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化炭素繊維、非晶質炭素などの炭素質材料、Si、Al、Sn、Pb、Zn、Bi、In、Mg、Ga、Cd、Si合金、Sn合金またはAl合金などのリチウムと合金化が可能な金属質化合物、SiOβ(0<β<2)、SnO2、バナジウム酸化物、リチウムバナジウム酸化物のようにリチウムをドープ及び脱ドープ可能な金属酸化物、またはSi-C複合体またはSn-C複合体のように前記金属質化合物と炭素質材料を含む複合物などが挙げられ、これらのいずれか1つまたは2つ以上の混合物が使用されてもよい。また、前記負極活物質として金属リチウム薄膜が用いられてもよい。また、炭素材料としては、低結晶炭素及び高結晶性炭素などがすべて用いられてもよい。低結晶性炭素としては、軟化炭素(soft carbon)及び硬化炭素(hard carbon)が代表的であり、高結晶性炭素としては無定形、板状、鱗片状、球状又は繊維状の天然黒鉛又は人造黒鉛、キッシュ黒鉛(Kish graphite)、熱分解炭素(pyrolytic carbon)、液晶ピッチ系炭素繊維(mesophase pitch based carbon fiber)、炭素微小球体(meso-carbon microbeads)、液晶ピッチ(Mesophase pitches)及び石油と石炭系コークス(petroleum or coal tar pitch derived cokes)などの高温焼成炭素が代表的である。
【0093】
前記負極活物質は、負極活物質層の全重量を基準に80~99wt%で含まれてもよい。
【0094】
前記バインダーは、導電材、活物質及び集電体間の結合に助力する成分として、通常、負極活物質層の全重量を基準に0.1~10wt%で添加されてもよい。このようなバインダーの例としては、ポリビニリデンフルオリド(PVDF)、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化-EPDM、スチレン-ブタジエンゴム、ニトリル-ブタジエンゴム、フッ素ゴム、これらの多様な共重合体などが挙げられる。
【0095】
前記導電材は、負極活物質の導電性をさらに向上させるための成分として、負極活物質層の全重量を基準に10重量%以下、好ましくは、5重量%以下で添加されてもよい。このような導電材は、当該電池に化学的変化を誘発することなく導電性を有するものであれば特に制限されるものではなく、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック、炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維、フッ化カーボン、アルミニウム、ニッケル粉末などの金属粉末、酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウイスキー、酸化チタンなどの導電性金属酸化物、ポリフェニレン誘導体などの導電性材料などが用いられてもよい。
【0096】
一実施例において、前記負極活物質層は、負極集電体上に負極活物質、及び選択的にバインダー及び導電材を溶媒中に溶解又は分散させて製造した負極スラリー組成物を塗布して乾燥することにより製造されるか、または前記負極スラリー組成物を別途の支持体上にキャスティングした後、この支持体から剥離して得られたフィルムを負極集電体上にラミネーションすることにより製造されてもよい。
【0097】
一方、前記リチウム二次電池において、分離膜は、負極と正極を分離してリチウムイオンの移動通路を提供するもので、通常、リチウム二次電池において分離膜として使用されるものであれば、特に制限なく使用可能であり、特に電解質のイオン移動に対して低抵抗であるとともに電解液含湿能力に優れていることが好ましい。具体的には、多孔性高分子フィルム、例えば、エチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレン/ブテン共重合体、エチレン/ヘキセン共重合体及びエチレン/メタクリレート共重合体などのポリオレフィン系高分子で製造した多孔性高分子フィルムまたはこれらの2層以上の積層構造体が用いられてもよい。また、通常の多孔性不織布、例えば、高融点のガラス繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などからなる不織布が用いられてもよい。また、耐熱性または機械的強度を確保するため、セラミック成分または高分子物質が含まれたコーティングされた分離膜が使用されてもよく、選択的に単層または多層構造として使用されてもよい。
【0098】
また、本発明で用いられる電解質としては、リチウム二次電池の製造時に使用可能な有機系液体電解質、無機系液体電解質、固体高分子電解質、ゲル状高分子電解質、固体無機電解質、溶融型無機電解質などが挙げられ、これらに限定されるものではない。
【0099】
具体的には、前記電解質は、有機溶媒及びリチウム塩を含んでもよい。
【0100】
前記有機溶媒としては、電池の電気化学的反応に関与するイオンが移動可能な媒質の役割を果たすものであれば、特に制限なく使用されてもよい。具体的には、前記有機溶媒としては、メチルアセテート(methyl acetate)、エチルアセテート(ethyl acetate)、γ-ブチロラクトン(γ-butyrolactone)、ε-カプロラクトン(ε-caprolactone)などのエステル系溶媒、ジブチルエーテル(dibutyl ether)またはテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)などのエーテル系溶媒、シクロヘキサノン(cyclohexanone)などのケトン系溶媒、ベンゼン(benzene)、フルオロベンゼン(fluorobenzene)などの芳香族炭化水素系溶媒、ジメチルカーボネート(dimethylcarbonate、DMC)、ジエチルカーボネート(diethylcarbonate、DEC)、メチルエチルカーボネート(methylethylcarbonate、MEC)、エチルメチルカーボネート(ethylmethylcarbonate、EMC)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate、EC)、プロピレンカーボネート(propylene carbonate、PC)などのカーボネート系溶媒、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒、R-CN(Rは、炭素数2~20の直鎖状、分岐状または環構造の炭化水素基であり、二重結合芳香環またはエーテル結合を含んでもよい。)などのニトリル類、ジメチルホルムアミドなどのアミド類、1,3-ジオキソランなどのジオキソラン類、またはスルホラン(sulfolane)類などが使用されてもよい。これらの中でもカーボネート系溶媒が好ましく、電池の充放電性能を高めることができる高いイオン伝導度及び高誘電率を有する環状カーボネート(例えば、エチレンカーボネートまたはプロピレンカーボネートなど)と、低粘度の線状カーボネート系化合物(例えば、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート又はジエチルカーボネートなど)の混合物がより好ましい。この場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートは、約1:1~約1:9の体積比で混合して使用すると電解液の性能が優秀になりうる。
【0101】
前記リチウム塩は、リチウム二次電池において使用されるリチウムイオンを提供できる化合物であれば、特に制限なく使用されてもよい。具体的には、前記リチウム塩は、LiPF6、LiClO4、LiAsF6、LiBF4、LiSbF6、LiAlO4、LiAlCl4、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiN(C2F5SO3)、LiN(C2F5SO2)2、LiN(CF3SO2)2、LiCl、LiI、またはLiB(C2O4)2などが使用されてもよい。前記リチウム塩の濃度は、0.1~2.0M範囲内で使用することが好ましい。リチウム塩の濃度が前記範囲に含まれると、電解質が適切な伝導度及び粘度を有するため、優れた電解質性能を示すことができ、リチウムイオンが効果的に移動しうる。
【0102】
前記電解質には、前記電解質構成成分の他に、電池の寿命特性向上、電池容量の減少抑制、電池の放電容量の向上などを目的として、例えば、ジフルオロエチレンカーボネートなどのハロアルキレンカーボネート系化合物、ピリジン、トリエチルホスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n-グライム(glyme)、ヘキサリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン染料、N-置換オキサゾリジノン、N,N-置換イミダゾリジン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ピロール、2-メトキシエタノールまたは三塩化アルミニウムなどの添加剤がさらに1種以上含まれてもよい。このとき、前記添加剤は、電解質の総重量に対して0.1~5重量%で含まれてもよい。
【0103】
前記のように本発明による正極活物質を含むリチウム二次電池は、優れた放電容量、出力特性及び寿命特性を安定的に示すため、携帯電話、ノートパソコン、デジタルカメラなどの携帯用機器、及びハイブリッド電気自動車(hybrid electric vehicle、HEV)などの電気自動車分野などに有用である。
【0104】
本発明によるリチウム二次電池の外形は、特に制限がないが、缶を用いた円筒状、角状、ポーチ(pouch)状またはコイン(coin)状などであってもよい。また、リチウム二次電池は、小型デバイスの電源として使用される電池セルに使用できるだけでなく、複数の電池セルを含む中大型電池モジュールに単位電池としても好ましく使用されてもよい。
【0105】
本発明のさらに他の態様によれば、前記リチウム二次電池を単位セルとして含む電池モジュール及び/又はこれを含む電池パックを提供しうる。
【0106】
前記電池モジュールまたは前記電池パックは、パワーツール(Power Tool)と、電気自動車(Electric Vehicle、EV)、ハイブリッド電気自動車、及びプラグインハイブリッド電気自動車(Plug-in Hybrid Electric Vehicle、PHEV)を含む電気自動車と、または電力貯蔵用システムのいずれか1つ以上の中大型デバイスの電源として利用できる。
【0107】
製造例1.正極活物質の製造
実施例1
硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンが98:1:1のモル比で混合された前駆体水溶液を使用してNi0.98Co0.01Mn0.01(OH)2のニッケル複合前駆体を製造した。
【0108】
前記ニッケル複合前駆体とLiOH(Li/metal ratio=1.06)を混合した後、焼成炉でO2雰囲気を維持しつつ、790℃まで毎分2℃昇温して10時間一次焼成し、解砕して、リチウム複合酸化物を得た。
【0109】
次に、前記リチウム複合酸化物を3mol%のCo(OH)2を含む蒸留水で洗浄した後、ろ過し、乾燥させた。
【0110】
次に、乾燥したリチウム複合酸化物とLiOHおよびH3BO3を混合した後、焼成炉でO2雰囲気を維持しつつ、720℃まで毎分4℃昇温して10時間二次焼成した後、自然冷却して、最終産物である正極活物質を得た。
【0111】
二次焼成前に、LiOHは、全体組成物中、4mol%、H3BO3は、全体組成物中、0.1mol%となるように混合した。
【0112】
実施例2
二次焼成前に、H3BO3の含有量が全体組成物中、0.3mol%となるように混合したことを除いて、実施例1と同様に正極活物質を製造した。
【0113】
比較例1
二次焼成前に、リチウム複合酸化物とLiOHおよびH3BO3を混合する代わりに、リチウム複合酸化物とLiOHを混合したことを除いて、実施例1と同様に正極活物質を製造した。二次焼成前に、LiOHは、全体組成物中、4mol%となるように混合した。
【0114】
実施例3
硫酸ニッケルおよび硫酸コバルトが96.0:4.0のモル比で混合された前駆体水溶液を使用してNi0.96Co0.04(OH)2のニッケル複合前駆体を製造した。
【0115】
前記ニッケル複合前駆体とLiOH(Li/metal ratio=1.04)および1.4mol%のAl(OH)3を混合した後、焼成炉でO2雰囲気を維持しつつ、720℃まで毎分2℃昇温して10時間一次焼成し、解砕して、リチウム複合酸化物を得た。
【0116】
次に、前記リチウム複合酸化物を3mol%のCo(OH)2を含む蒸留水で洗浄した後、ろ過し、乾燥させた。
【0117】
次に、乾燥したリチウム複合酸化物とLiOHおよびH3BO3を混合した後、焼成炉でO2雰囲気を維持しつつ、720℃まで毎分4℃に昇温して10時間二次焼成した後、自然冷却して、最終産物である正極活物質を得た。
【0118】
二次焼成前に、LiOHは、全体組成物中、5mol%、H3BO3は、全体組成物中、0.25mol%となるように混合した。
【0119】
比較例2
二次焼成前に、リチウム複合酸化物とLiOHおよびH3BO3を混合する代わりに、リチウム複合酸化物とLiOHを混合したことを除いて、実施例3と同様に正極活物質を製造した。二次焼成前に、LiOHは、全体組成物中、5mol%となるように混合した。
【0120】
実施例4
硫酸ニッケルおよび硫酸コバルトが92.0:8.0のモル比で混合された前駆体水溶液を使用してNi0.92Co0.08(OH)2のニッケル複合前駆体を製造した。
【0121】
前記ニッケル複合前駆体とLiOH(Li/metal ratio=1.04)および1.4mol%のAl(OH)3を混合した後、焼成炉でO2雰囲気を維持しつつ、750℃まで毎分2℃昇温して10時間一次焼成し、解砕して、リチウム複合酸化物を得た。
【0122】
次に、リチウム複合酸化物とLiOH、Co3O4およびH3BO3を混合した後、焼成炉でO2雰囲気を維持しつつ、720℃まで毎分4℃昇温して10時間二次焼成した後、自然冷却して、最終産物である正極活物質を得た。
【0123】
二次焼成前に、LiOHは、全体組成物中、4mol%、Co3O4は、全体組成物中、3mol%、H3BO3は、全体組成物中、0.25mol%となるように混合した。
【0124】
比較例3
二次焼成前に、リチウム複合酸化物とLiOH、Co3O4およびH3BO3を混合する代わりに、リチウム複合酸化物とLiOHおよびH3BO3を混合したことを除いて、実施例4と同様に正極活物質を製造した。
【0125】
比較例4
二次焼成前に、リチウム複合酸化物とLiOH、Co3O4およびH3BO3を混合する代わりに、リチウム複合酸化物とLiOHおよびCo3O4を混合したことを除いて、実施例4と同様に正極活物質を製造した。
【0126】
実施例5
硫酸ニッケルおよび硫酸コバルトが92.0:8.0のモル比で混合された前駆体水溶液を使用してNi0.92Co0.08(OH)2のニッケル複合前駆体を製造した。
【0127】
前記ニッケル複合前駆体とLiOH(Li/metal ratio=1.04)および1.4mol%のAl(OH)3を混合した後、焼成炉でO2雰囲気を維持して750℃まで毎分2℃昇温して10時間一次焼成し、解砕して、リチウム複合酸化物を得た。
【0128】
次に、リチウム複合酸化物とCo3O4およびH3BO3を混合した後、焼成炉でO2雰囲気を維持しつつ、720℃まで毎分4℃昇温して10時間二次焼成した後、自然冷却して、最終産物である正極活物質を得た。
【0129】
二次焼成前に、Co3O4は、全体組成物中、3mol%、H3BO3は、全体組成物中、0.25mol%となるように混合した。
【0130】
比較例5
二次焼成前に、リチウム複合酸化物とCo3O4およびH3BO3を混合する代わりに、リチウム複合酸化物とH3BO3を混合したことを除いて、実施例5と同様に正極活物質を製造した。
【0131】
比較例6
二次焼成前に、リチウム複合酸化物とCo3O4およびH3BO3を混合する代わりに、リチウム複合酸化物とCo3O4を混合したことを除いて、実施例5と同様に正極活物質を製造した。
【0132】
製造例2.リチウム二次電池の製造
製造例1によって製造されたそれぞれの正極活物質94wt%、人造黒鉛3wt%、PVDFバインダー3wt%をN-メチル-2ピロリドン(NMP)3.5gに分散させて、正極スラリーを製造した。前記正極スラリーを厚さ20μmの正極集電体であるアルミニウム(Al)薄膜に塗布および乾燥し、ロールプレス(roll press)を実施して、正極を製造した。正極のローディングレベルは、7mg/cm2であり、電極密度は、3.2g/cm3であった。
【0133】
前記正極に対してリチウムホイルを対電極(counter electrode)とし、多孔性ポリエチレン膜(Celgard 2300、厚さ:25μm)を分離膜とし、エチレンカーボネートおよびエチルメチルカーボネートが3:7の体積比で混合された溶媒にLiPF6が1.15Mの濃度で存在する液体電解液を使用して通常知られている製造工程によってコイン電池を製造した。
【0134】
実験例1.正極活物質の構造分析
(1)正極活物質の断面SEM分析
FE-SEM装備を用いて製造例1によって製造された正極活物質に含まれたリチウム複合酸化物に対するSEM画像を得た。
【0135】
図2および
図3は、それぞれ実施例1および比較例1による正極活物質に含まれたリチウム複合酸化物の表面部を撮影したSEM画像であり、
図4および
図5は、それぞれ実施例3および比較例2による正極活物質に含まれたリチウム複合酸化物の表面部を撮影したSEM画像であり、
図6~
図8は、それぞれ実施例4、比較例3および比較例4による正極活物質に含まれたリチウム複合酸化物の表面部を撮影したSEM画像であり、
図9~
図11は、それぞれ実施例5、比較例5および比較例6による正極活物質に含まれたリチウム複合酸化物の表面部を撮影したSEM画像である。
【0136】
全般的に、実施例1~実施例5による正極活物質に含まれたリチウム複合酸化物の表面部には、階段状構造が導入されたことを確認することができる。また、前記リチウム複合酸化物の表面部に導入された前記階段状構造は、単に二次粒子の表面部に存在する一次粒子によって形成された屈曲によるものではないことを確認することができる。
【0137】
実施例1~実施例5による正極活物質に含まれたリチウム複合酸化物の表面部に導入された前記階段状構造は、テラス-ステップ構造とも見ることができ、部分的にキンクが形成されたテラス-ステップ-キンク構造を確認することができる。
【0138】
一方、比較例1~比較例6による正極活物質に含まれたリチウム複合酸化物の表面部には、階段状構造がほとんど存在しないことを確認することができる。
【0139】
(2)正極活物質のTEM分析
製造例1において実施例1による正極活物質に含まれたリチウム複合酸化物に対するTEM画像を得た後、前記TEM画像から前記リチウム複合酸化物内形成されたリチウムイオン拡散経路の方向性を確認した。
【0140】
また、HR-TEM画像のFFT(fast fourier transform)で得られた回折パターンをindexingして、前記リチウム複合酸化物内形成されたリチウムイオン拡散経路が指向する前記リチウム複合酸化物の結晶面を確認した。
【0141】
図12は、実施例1による正極活物質に含まれたリチウム複合酸化物の表面部を撮影したTEM画像であり、前記リチウム複合酸化物の表面部を成している各結晶面を示す図である。
【0142】
図12を参照すると、実施例1による正極活物質に含まれたリチウム複合酸化物の表面部に形成された階段状構造は、{01x}、{02y}および{03z}面の族に属する特定結晶面が隣接する他の結晶面と90度以上の二面角を有する階段状構造を形成したことを確認することができる。
【0143】
また、正極活物質を構成するリチウム複合酸化物内リチウムイオン拡散経路が(003)結晶面の延長方向に平行な方向に形成されると同時に、前記リチウム複合酸化物の内部から外部へのリチウムイオンの拡散および脱離が相対的に自由な(012)、(014)および(022)結晶面などを指向する場合、前記リチウム複合酸化物を含む正極活物質の電気化学的特性の向上を期待することができる。
【0144】
(3)表面コーティング層の分析
実施例1による正極活物質に対してXPS分析を行うことによって、リチウム複合酸化物の表面部の組成を分析した。XPS分析は、Quantum 2000(Physical Electronics.Inc.)(加速電圧:0.5~15keV、300W、エネルギー分解能:約1.0eV、最小分析領域:10micro、Sputter rate:0.1nm/min)を用いて行われた。
【0145】
図13は、実施例1による正極活物質に含まれたリチウム複合酸化物のXPS depth profileを示すグラフであり、
図13を参照すると、前記リチウム複合酸化物(二次粒子)の最表面部に限定されてボロン(B)が検出されたことを確認することができる。
【0146】
図13のXPS depth profileでボロン(B)が検出された領域に対するB1s XPS spectrumを示すグラフである
図14を参照すると、約191.4eVの領域でlithium borateに特異的なB1sピークが検出されたことを確認することができる。
【0147】
さらに、実施例1による正極活物質に含まれたリチウム複合酸化物のTEM画像においてA領域およびB領域での結晶面の面間距離を示す
図15を参照すると、A領域では、一般的なNCAまたはNCMタイプのリチウム複合酸化物の(003)結晶面の面間距離に該当する4.729Åが測定された。
【0148】
一方、前記リチウム複合酸化物の最表面に対応するB領域では、A領域(すなわち、(003)結晶面の面間距離)と異なる約2.570Åの面間距離が測定された。
【0149】
図13および
図14の結果から、前記リチウム複合酸化物の最表面には、Bを含有する任意の酸化物が存在することを確認することができる。この際、Bを含有する酸化物のうち結晶面の面間距離が約2.570Åである化合物は、LiBO
2、Li
3BO
5およびLi
2B
4O
7であるから、前記リチウム複合酸化物の最表面には、LiBO
2、Li
3BO
5および/またはLi
2B
4O
7が存在すると予想することができる。
【0150】
一方、実施例2~実施例5による正極活物質に対しても同じ実験結果、前記正極活物質に含まれたリチウム複合酸化物の最表面にlithium borateを含むコーティング層が形成されたことを確認することができた。
【0151】
実験例2.リチウム二次電池の電気化学的特性の評価
製造例2で製造されたリチウム二次電池(コインセル)に対して電気化学分析装置(Toyo、Toscat-3100)を用いて25℃、電圧範囲3.0V~4.3V、0.1C~5.0Cの放電率を適用した充放電実験を通じて充電容量、放電容量および充放電効率を測定した。
【0152】
また、同じリチウム二次電池に対して25℃、3.0V~4.4Vの駆動電圧の範囲内で1C/1Cの条件で50回充放電を実施した後、初期容量に比べて、50サイクル目の放電容量の割合(サイクル容量保持率;capacity retention)を測定した。
【0153】
前記測定結果は、下記の表1に示した。
【0154】
【0155】
前記表1の結果を参照すると、相互対応する実施例と比較例の結果を参照すると、表面部に階段状構造が形成されたリチウム複合酸化物を含む正極活物質を使用した実施例の充放電効率およびサイクル容量保持率が全般的に比較例より高いことを確認することができる。
【0156】
以上、本発明の実施例について説明したが、当該技術分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された本発明の思想を逸脱しない範囲内で、構成要素の付加、変更、削除又は追加などにより本発明を多様に修正及び変更させることができ、これも、本発明の権利範囲内に含まれると言える。
【手続補正書】
【提出日】2024-03-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムのインターカレーションおよびデインターカレーションが可能なリチウム複合酸化物を含む正極活物質であって、
前記リチウム複合酸化物は、階段状構造(step structure)の表面部を有し、
前記リチウム複合酸化物の表面部に形成された前記階段状構造は、前記リチウム複合酸化物に対する(003)結晶面の延長方向と交差するように設けられる、正極活物質。
【請求項2】
前記リチウム複合酸化物は、少なくともニッケルおよびコバルトを含む、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
前記リチウム複合酸化物は、マンガンおよびアルミニウムから選ばれる少なくとも1つをさらに含む、請求項2に記載の正極活物質。
【請求項4】
前記リチウム複合酸化物の表面部に形成された前記階段状構造は、前記リチウム複合酸化物の表面部に存在する結晶面のうち{01x}、{02y}および{03z}面の族から選ばれる少なくとも1つの面の族に属する任意の結晶面が隣接する他の結晶面と所定の二面角を有するように形成された、請求項1に記載の正極活物質。
(ここで、x、yおよびzは、それぞれ独立して、0~12の間の整数である)
【請求項5】
{01x}、{02y}および{03z}面の族から選ばれる少なくとも1つの面の族に属する任意の結晶面が隣接する他の結晶面に対して有する二面角は、90°以上である、請求項4に記載の正極活物質。
【請求項6】
前記リチウム複合酸化物の表面部には、前記リチウム複合酸化物の表面部に存在する結晶面のうち{01x}、{02y}および{03z}面の族から選ばれる少なくとも1つの面の族に属する任意の結晶面が隣接する他の結晶面と所定の二面角を有するように形成された構造が周期的に繰り返される、請求項4に記載の正極活物質。
【請求項7】
前記階段状構造は、テラス-ステップ-キンク構造である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項8】
前記リチウム複合酸化物は、下記の化学式1で表される、請求項1に記載の正極活物質。
[化学式1]
LiwNi1-(x+y+z)CoxM1yM2zO2
(ここで、
M1は、MnおよびAlから選ばれる少なくとも1つであり、
M2は、Mn、Ba、Ce、Hf、Ta、Cr、F、Mg、Al、Cr、V、Ti、Fe、Zr、Zn、Si、Y、Nb、Ga、Sn、Mo、W、P、Sr、Ge、Nd、Gd、BおよびCuから選ばれる少なくとも1つであり、
M1とM2は、互いに異なる元素であり、
0.5≦w≦1.5、0≦x≦0.50、0<y≦0.20、0≦z≦0.20である)
【請求項9】
前記正極活物質は、一次粒子である前記リチウム複合酸化物が複数個凝集して形成された二次粒子を含み、
前記一次粒子および前記二次粒子の表面のうち少なくとも一部に下記の化学式2で表される酸化物を含むコーティング層が形成された、請求項1に記載の正極活物質。
[化学式2]
LiaM3bOc
(ここで、
M3は、Ni、Mn、Co、Fe、Cu、Nb、Mo、Ti、Al、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、B、P、Eu、Sm、W、Ce、V、Ba、Ta、Sn、Hf、GdおよびNdから選ばれる少なくとも1つであり、
0≦a≦8、0<b≦8、2≦c≦13である)
【請求項10】
前記酸化物は、下記の化学式3で表されるボロン含有酸化物を含む、請求項9に記載の正極活物質。
[化学式3]
LidBeOf
(ここで、
0≦d≦8、0<e≦8、2≦f≦13である)
【請求項11】
正極集電体と、
前記正極集電体上に形成され、請求項1から10のいずれか一項に記載の正極活物質を含む正極活物質層と、
を含む正極。
【請求項12】
請求項11に記載の正極を使用するリチウム二次電池。