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特開2024-53065レンズユニットおよびカメラモジュール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053065
(43)【公開日】2024-04-12
(54)【発明の名称】レンズユニットおよびカメラモジュール
(51)【国際特許分類】
   G02B 7/02 20210101AFI20240405BHJP
   G03B 17/08 20210101ALI20240405BHJP
   G03B 30/00 20210101ALI20240405BHJP
【FI】
G02B7/02 D
G02B7/02 E
G03B17/08
G03B30/00
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024035513
(22)【出願日】2024-03-08
(62)【分割の表示】P 2022111871の分割
【原出願日】2019-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2018099530
(32)【優先日】2018-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104547
【弁理士】
【氏名又は名称】栗林 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100206612
【弁理士】
【氏名又は名称】新田 修博
(74)【代理人】
【識別番号】100209749
【弁理士】
【氏名又は名称】栗林 和輝
(74)【代理人】
【識別番号】100217755
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 淳史
(72)【発明者】
【氏名】平田 弘之
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 章
(72)【発明者】
【氏名】石崎 修
(57)【要約】
【課題】サイズの大型化を招くことなく、融雪機能を備えたレンズユニットを提供する。
【解決手段】レンズユニット100は、円筒状の鏡筒10と、鏡筒10の内周側に、鏡筒10の軸方向に沿って並べて配置された複数のレンズ1~4とを備え、鏡筒10の最も物体側に配置されるレンズ1のフランジ部(平坦部)1bと、レンズ1に隣接するレンズ2のフランジ部(平坦部)2bと間に、通電により発熱するヒータ部40が設けられている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の鏡筒と、前記鏡筒の内周側に、前記鏡筒の軸方向に沿って並べて配置された複数のレンズとを備えるレンズユニットであって、
前記複数のレンズのうち最も物体側に配置される第1レンズの像側面と、前記第1レンズの像側に隣接する第2レンズの物体側面とには、それぞれ平坦面が設けられ、
前記第1レンズの前記平坦面と、前記第2レンズの前記平坦面との間に、通電により発熱するヒータ部が設けられ、
前記ヒータ部の外周側の端部には、前記ヒータ部に電気的に接続し、前記ヒータ部に電力を供給する配線部が設けられ、
前記鏡筒の内周側には、前記第1レンズの前記平坦面と対向する位置に、前記鏡筒の軸方向に対する段差面となる段差部が設けられ、
前記鏡筒の内周面と前記第1レンズと前記段差部とにより空間が形成され、
前記空間に第1のOリングが配置され、
前記ヒータ部と前記配線部の接続部は、前記第1のOリングよりも径方向内側に設けられており、
前記配線部は、前記空間を通り前記鏡筒の像側へ導かれる
ことを特徴とするレンズユニット。
【請求項2】
前記ヒータ部は、自己温度制御機能および遮光機能を有する導電性カーボン膜と、前記導電性カーボン膜を通電する回路パターンとを備える
ことを特徴とする請求項1に記載のレンズユニット。
【請求項3】
前記回路パターンは、径方向に向かって突出し、周方向に沿って等間隔に配置された複数の突出部を備えるくし形状である
ことを特徴とする請求項2に記載のレンズユニット。
【請求項4】
前記ヒータ部は、ヒータ回路が形成されたフレキシブル基板と、前記フレキシブル基板に実装され、自己温度制御機能を有するサーミスタとを備える
ことを特徴とする請求項1に記載のレンズユニット。
【請求項5】
前記ヒータ部は、フレキシブル基板と、前記フレキシブル基板に形成され、自己温度制御機能および遮光機能を有する導電性カーボン膜と、前記フレキシブル基板と電気的に接続され、前記導電性カーボン膜を通電する回路パターンとを備える
ことを特徴とする請求項1に記載のレンズユニット。
【請求項6】
前記回路パターンは、径方向に向かって突出し、周方向に沿って等間隔に配置された複数の突出部を有するくし形状である
ことを特徴とする請求項5に記載のレンズユニット。
【請求項7】
前記ヒータ部は、自己温度制御機能を有するセラミックスである
ことを特徴とする請求項1に記載のレンズユニット。
【請求項8】
前記ヒータ部は、PTC特性を有し、キュリー点の温度が80℃以上120℃以下となっている
ことを特徴とする請求項7に記載のレンズユニット。
【請求項9】
前記ヒータ部は環状に形成され、前記ヒータ部の像側の面の内周部および内周の側面に沿って設けられた内周側電極パターンと、前記ヒータ部の像側の面の外周部および外周の側面に沿って設けられた外周側電極パターンとを備え、前記内周側電極パターンの端部および前記外周側電極パターンの端部には、それぞれ前記配線部としての導線が接着されている
ことを特徴とする請求項7または請求項8に記載のレンズユニット。
【請求項10】
前記鏡筒は、前記ヒータ部に接続された前記配線部としての導線を、前記鏡筒の外周面に設けられた開口を介して前記鏡筒の外部に引き出す貫通孔を有し、
前記導線は、前記鏡筒の外周面側の開口部に、接着または固定部材により固定されている
ことを特徴とする請求項7から請求項9のいずれか1項に記載のレンズユニット。
【請求項11】
前記貫通孔は、2箇所に設けられ、それぞれの前記貫通孔に前記導線が1本ずつ挿通されている
ことを特徴とする請求項10に記載のレンズユニット。
【請求項12】
前記固定部材は、略円筒状に形成され、前記導線を内側に挿通させた状態で前記開口部に挿入される
ことを特徴とする請求項10または請求項11に記載のレンズユニット。
【請求項13】
前記固定部材は、弾性変形可能な部材により、一端から他端に向かうほど外径が小さくなるようにテーパー状に形成されており、外径が小さい側の端部から前記開口部に挿入されるとともに、前記開口部に挿入された状態で内径が小さくなる
ことを特徴とする請求項12に記載のレンズユニット。
【請求項14】
前記ヒータ部の厚さは、前記第1レンズの前記平坦面と、前記第2レンズの前記平坦面との間の距離が0.5mm以下となる厚さとなっており、
複数の前記レンズは、水平画角が180°を超える超広角レンズを構成している
ことを特徴とする請求項1から請求項13のいずれか1項に記載のレンズユニット。
【請求項15】
請求項1から請求項14のいずれか1項に記載のレンズユニットと、前記レンズユニットで結像された画像を撮像する撮像素子とを備える
ことを特徴とするカメラモジュール。
【請求項16】
請求項10から請求項13のいずれか1項に記載のレンズユニットと、
前記レンズユニットで結像された画像を撮像する撮像素子と、
前記レンズユニットの物体側の端部を露出させつつ、前記レンズユニットの周囲を覆うカメラケースとを備え、
前記カメラケースと、前記鏡筒の外周面に形成された鍔状のフランジ部との間に第2のOリングが配置されてシール部が形成され、
前記貫通孔における前記鏡筒の外周面側の開口は、前記鏡筒の軸方向において、前記シール部より像側に設けられている
ことを特徴とするカメラモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズユニットおよびカメラモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
監視カメラ、車載カメラ等、屋外に設置されるカメラが知られている。そのような屋外に設置されるカメラでは、降雪時にレンズ前面に氷雪が付着することがある。また、外気温が氷点下以下になった場合に、レンズ前面が凍結し霜が付着することがある。その場合、レンズ前面への付着物によって撮像画像が不鮮明となり、カメラの撮像性能が低下してしまう。
【0003】
近年、車両にカメラ(車載カメラ)が搭載されるようになっており、車載カメラが撮像した画像は、自動ブレーキ機能、自動運転機能等の機能に利用されている。それらの機能は車両の走行を制御する機能であり、車載カメラの撮像機能の低下は、事故等の発生につながってしまう虞がある。そのため、レンズ前面に付着した付着物を融かす融雪機能を備えたカメラの開発が求められている。融雪機能を備えたカメラの一例として、例えば特許文献1に開示されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-10983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されたカメラの内部には、作動時に熱を発生するCCD、回路素子等が実装されている。当該カメラは、カメラの内部の空気を循環させるファンを備え、レンズ前に設置されているカバーガラスの結露を防止するというものである。しかし、当該カメラはファンを備えているものであり、サイズが大型化してしまうという問題があった。そのため、特に車両等、搭載スペースが限られている場合には、当該カメラは搭載することができないものであった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、サイズの大型化を招くことなく、融雪機能を備えたレンズユニットおよびカメラモジュールを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明のレンズユニットは、
円筒状の鏡筒と、前記鏡筒の内周側に、前記鏡筒の軸方向に沿って並べて配置された複数のレンズとを備えるレンズユニットであって、
前記鏡筒の最も物体側に配置される第1レンズの平坦部と、前記第1レンズに隣接する第2レンズの平坦部と間に、通電により発熱するヒータ部が設けられていることを特徴とする。
【0008】
このような構成によれば、第1レンズの平坦部と第2レンズの平坦部との間にヒータ部が設けられているため、サイズの大型化を招くことなく、融雪機能を備えたレンズユニットを実現することができる。
【0009】
また、本発明の前記構成において、前記ヒータ部は、自己温度制御機能および遮光機能を有する導電性カーボン膜と、前記導電性カーボン膜を通電する回路パターンとを備えることを特徴とする。このような構成によれば、自己温度制御機能および遮光機能を有するヒータ部を備えたレンズユニットを、サイズの大型化を招くことなく実現することができる。
【0010】
また、本発明の前記構成において、前記回路パターンは、径方向に向かって突出し、周方向に沿って等間隔に配置された複数の突出部を備えるくし形状であることを特徴とする。このような構成によれば、ヒータ部全体が均一に発熱するため、偏りのない融雪機能を実現することができ、撮像性能の低下をより確実に防ぐことができる。
【0011】
また、本発明の前記構成において、前記ヒータ部は、ヒータ回路が形成されたフレキシブル基板と、前記フレキシブル基板に実装され、自己温度制御機能を有するサーミスタとを備えることを特徴とする。このような構成によれば、自己温度制御機能を有するヒータ部を備えたレンズユニットを、サイズの大型化を招くことなく実現することができる。
【0012】
また、本発明の前記構成において、前記ヒータ部は、フレキシブル基板と、前記フレキシブル基板に形成され、自己温度制御機能および遮光機能を有する導電性カーボン膜と、前記フレキシブル基板と電気的に接続され、前記導電性カーボン膜を通電する回路パターンとを備える。このような構成によれば、自己温度制御機能および遮光機能を有するヒータ部を備えたレンズユニットを、サイズの大型化を招くことなく実現することができる。
【0013】
また、本発明の前記構成において、前記回路パターンは、径方向に向かって突出し、周方向に沿って等間隔に配置された複数の突出部を有するくし形状であることを特徴とする。このような構成によれば、ヒータ部全体が均一に発熱するため、偏りのない融雪機能を実現することができ、撮像性能の低下をより確実に防ぐことができる。
【0014】
また、本発明の前記構成において、前記ヒータ部は、自己温度制御機能を有するセラミックスであることを特徴とする。このような構成によれば、自己温度制御機能を有するヒータ部を備えたレンズユニットを、サイズの大型化を招くことなく実現することができる。
【0015】
また、本発明の前記構成において、前記ヒータ部は、PTC特性を有し、キュリー点の温度が80℃以上120℃以下となっていることを特徴とする。キュリー点の温度が80℃以上120℃以下となっているため、ヒータ部の物体側に位置する第1レンズを通電開始から短時間で加熱し、融雪を実現することができる。また、ヒータ部が高温となることに起因し、ヒータ部の像側に位置する第2レンズが変形してしまうのを防止できる。これにより、第2レンズの変形に伴う光学性能の低下を防止できる。
【0016】
また、本発明の前記構成において、前記ヒータ部は環状に形成され、前記ヒータ部の像側の面の内周部および内周の側面に沿って設けられた内周側電極パターンと、前記ヒータ部の像側の面の外周部および外周の側面に沿って設けられた外周側電極パターンとを備え、前記内周側電極パターンの端部および前記外周側電極パターンの端部には、それぞれ導線が接着されていることを特徴とする。このような構成によれば、電極パターンとヒータ部との接触面積を増大させることができる。これにより、ヒータ部をより効率よく加熱できる。
【0017】
また、本発明の前記構成において、前記鏡筒は、前記ヒータ部に接続された導線を、前記鏡筒の外周面に設けられた開口を介して前記鏡筒の外部に引き出す貫通孔を有し、前記導線は、前記鏡筒の外周面側の開口部に、接着または固定部材により固定されていることを特徴とする。導線が接着または固定部材により開口部に固定されているため、導線が引っ張られた場合でも、導線とヒータ部との接合部に力が加わるのを防止でき、導線の引っ張りに対する耐性を向上させることができる。これにより、カメラモジュールの製造工程で導線が引っ張られた場合でも、導線がヒータ部から外れてしまうのを防止できる。
【0018】
また、本発明の前記構成において、前記貫通孔は、2箇所に設けられ、それぞれの前記貫通孔に前記導線が1本ずつ挿通されていることを特徴とする。このような構成によれば、貫通孔を2箇所に設けているため、レンズが配置される鏡筒の外周面が径方向外側に撓みやすくなるのを防止できる。これにより、例えば貫通孔を1箇所のみの長孔とした場合に、鏡筒の外周面が径方向外側に撓みやすくなって、鏡筒の内部に水等が浸入するという問題が生じるのを防止できる。
【0019】
また、本発明の前記構成において、前記固定部材は、略円筒状に形成され、前記導線を内側に挿通させた状態で前記開口部に挿入されることを特徴とする。略円筒状の固定部材を用いることで、導線として例えばPTFE等のフッ素樹脂電線を用いる場合でも、導線を固定することができる。
【0020】
また、本発明の前記構成において、前記固定部材は、弾性変形可能な部材により、一端から他端に向かうほど外径が小さくなるようにテーパー状に形成されており、外径が小さい側の端部から前記開口部に挿入されるとともに、前記開口部に挿入された状態で内径が小さくなることを特徴とする。このようにテーパー状に形成され、弾性変形可能な固定部材を用いることで、固定部材を開口部に挿入した際に、内径が小さくなって導線が締め付けられる。これにより、導線を確実に固定することができ、導線がヒータ部から外れてしまうのを防止できる。
【0021】
また、本発明の前記構成において、前記ヒータ部の厚さは、前記第1レンズの平坦部と、前記第2レンズの平坦部との間の距離が0.5mm以下となる厚さとなっており、複数の前記レンズは、水平画角が180°を超える超広角レンズを構成していることを特徴とする。このような構成によれば、融雪機能を備え、かつ水平画角が180°を超える高性能な超広角レンズを実現することができる。
【0022】
本発明のカメラモジュールは、前記構成のレンズユニットと、前記レンズユニットで結像された画像を撮像する撮像素子とを備えることを特徴とする。このような構成によれば、カメラモジュールは、上述の本発明のレンズユニットと同様の効果を奏することができる。
【0023】
また、本発明のカメラモジュールは、前記構成のレンズユニットと、前記レンズユニットで結像された画像を撮像する撮像素子と、前記レンズユニットの物体側の端部を露出させつつ、前記レンズユニットの周囲を覆うカメラケースとを備え、前記カメラケースと、前記鏡筒の外周面に形成された鍔状のフランジ部との間にOリングが配置されてシール部が形成され、前記貫通孔における前記鏡筒の外周面側の開口は、前記鏡筒の軸方向において、前記シール部より像側に設けられていることを特徴とする。このような構成によれば、貫通孔における鏡筒の外周面側の開口をシール部より像側としているため、当該開口の位置は気密性が確保されたカメラケースの内部となる。このため、当該開口を介して鏡筒の内部に水が浸入することがなく、ヒータ部を絶縁する必要がない。これにより、低コスト化や生産性の向上を実現することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、サイズの大型化を招くことなく、融雪機能を備えたレンズユニットおよびカメラモジュールを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の第1実施形態に係るレンズユニットを示す断面図である。
図2】同、(a)はヒータ部について説明するための図である。(b)はPTC機能について説明するための図である。
図3】同、配線部の変形例を示す図である。
図4】(a)は本発明の第2実施形態に係るレンズユニットを示す断面図である。(b)(c)は鏡筒内部の孔と配線との関係について説明するための図である。
図5】同、ヒータ部について説明するための図である。
図6】本発明の第3実施形態に係るレンズユニットを示す断面図である。
図7】同、ヒータ部について説明するための図である。
図8】本発明の第4実施形態に係るレンズユニットを示す断面図である。
図9】第1実施形態から第4実施形態に係るレンズユニットにおいて、キャップを用いた場合の変形例を示す断面図である。
図10】本発明の第5実施形態に係るレンズユニットを示す断面図である。
図11】同、ヒータ部を示すもので、(a)は像側から見た図であり、(b)は(a)に示すG-G線の断面図である。
図12】同、ヒータ部のキュリー点が80℃、常温環境下での、ヒータ部に供給する電流値と、通電開始からの経過時間と、PTCヒータとレンズの表面温度との関係を示すグラフである。
図13】同、ヒータ部のキュリー点が80℃、-30℃環境下での、ヒータ部に供給する電流値と、通電開始からの経過時間と、PTCヒータとレンズの表面温度との関係を示すグラフである。
図14】同、ヒータ部のキュリー点が120℃、常温環境下での、ヒータ部に供給する電流値と、通電開始からの経過時間と、PTCヒータとレンズの表面温度との関係を示すグラフである。
図15】同、ヒータ部のキュリー点が120℃、-30℃環境下での、ヒータ部に供給する電流値と、通電開始からの経過時間と、PTCヒータとレンズの表面温度との関係を示すグラフである。
図16】同、レンズユニットを備えるカメラモジュールの軸方向断面図を示すもので、(a)は第1の貫通孔を通過する面における断面図、(b)は第2の貫通孔を通過する面における断面図である。
図17】同、(a)は物体側から見た鏡筒の一部を示す図である。(b)は鏡筒を側面から見た図である。
図18】同、導線が引き出された状態のレンズユニットを側面から見た図である。
図19】同、鏡筒の貫通孔の開口に固定部材が挿入された状態のレンズユニットの軸方向断面図である。
図20】同、固定部材を示すもので、(a)は固定部材の第1の例を示す図である。(b)は固定部材の第2の例を示す図である。(c)は固定部材の第3の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しながら本発明の第1実施形態について説明する。
図1は、第1実施形態に係るレンズユニット100の軸方向断面図である。図1では、断面であることを示すハッチングを省略している。レンズユニット100は、物体の像を像側に形成するものであり、例えば、車載カメラ等に用いられている。車載カメラには、例えば、車両のサイドミラーに搭載され、車両の後方を撮像するものがある。図1に示すように、レンズユニット100は、カメラケース201、Oリング202等とともにカメラモジュール200を構成している。
【0027】
図1に示すように、レンズユニット100は、レンズ1~4、鏡筒10、光学フィルタ20、Oリング30、ヒータ部40、および配線部50等を備えている。
【0028】
鏡筒10内には、鏡筒10の軸方向に沿って1つのレンズ群を構成するレンズ1~4が並べて配置されている。レンズ1~4は、それぞれの光軸を一致させた状態で、かつ光軸に沿って並べられた状態で配置されている。このとき、鏡筒10の軸とレンズ群の光軸(光軸OAとする)とは、略一致するようになっている。以下、光軸OAという場合に、各レンズ1~4の光軸を指すとともにレンズ群の光軸を指すものとする。
【0029】
鏡筒10は、軸方向における一方の端部が、像側として撮像素子91を向くようにして配置され、軸方向における他方の端部が、物体側として撮像対象を向くようにして配置されている。本実施形態では、レンズ4側が像側であり、レンズ1側が物体側である。
【0030】
レンズ1~4は、鏡筒10の内部に、物体側から像側に向かって、レンズ1、レンズ2、レンズ3、レンズ4の順で配置されている。光学フィルタ20は、レンズ1~4が像を結ぶ側(像側)の端部に配置されている。光学フィルタ20は、特定の周波数成分を除去する目的で配置されている。
【0031】
鏡筒10は、円筒状である。鏡筒10は、樹脂製である。なお、鏡筒10を金属製とする場合については後述する。鏡筒10は、その内径が物体側から像側に向かって段階的に小さくなっている。ここで、鏡筒10における内周面を、物体側から像側に向かって内周面A、内周面B、内周面C、内周面D、内周面Eとする。内周面Eにおける像側の部分には、内径が小さくなるように径方向内側に向かって突出した部位である支持部11が形成されている。支持部11は、レンズ4におけるフランジ部の像側の面と当接するようになっている。フランジ部とは、レンズ有効径の外周側に形成された部位であり、平面部を備えている。
【0032】
鏡筒10は、物体側の端部に形成され、レンズ1における物体側の面の外周部に当接する保持部12を備えている。保持部12は、鏡筒10の内部に部品が収容された後、カシメにより形成されている部位である。保持部12の内径は、レンズ1の外径より小さくなっている。鏡筒10の内部に収容される部品は、支持部11と保持部12との間に挟まれるようにして支持されている。換言すると、鏡筒10の内部に収容される部品は、保持部12によって支持部11側に向かって押し付けられた状態で保持されている。これにより、各部品の間に隙間が形成されないようになっている。
【0033】
レンズ1~4は、鏡筒10に嵌入される円形状のレンズである。レンズ1はガラス製であり、レンズ2~4は樹脂製である。レンズ1~4は、その外周面が鏡筒10の内周面に当接することで、光軸OA方向と直交する方向に対して位置決めされている。
【0034】
レンズ1の外周面のうち像側の部分には、他の部分より径を絞って形成された部位である縮径部1cが形成されている。縮径部1cと鏡筒10の内周面Aとの間には、Oリング30が配置されている。Oリング30はゴム製であり、隙間を封止し、鏡筒10の内部に水や埃等が侵入するのを防いでいる。
【0035】
鏡筒10の外周面には、径方向外側に向かって突出した板状の部位であるフランジ部13が形成されている。カメラケース201は、上カメラケース201aと下カメラケース201bとからなり、円形状の開口を介してレンズユニット100の物体側端部を外部に露出させつつ、レンズユニット100のその他の部分を覆うような形状を有している。Oリング202はゴム製であり、カメラケース201の内部の気密性を確保するために、鏡筒10の外周面と、鏡筒10のフランジ部13と、カメラケース201の内周面との間に配置されている。
【0036】
レンズ1(第1レンズ)は、レンズ部1aとフランジ部1bとを備えている。フランジ部(平坦部)とは、レンズ有効径の外周側に形成された部位であり、平面部を備えている。フランジ部1bは、像側に平面部を備えている。
レンズ2(第2レンズ)は、レンズ部2aとフランジ部2bとを備えている。フランジ部2bは、物体側および像側に平面部を備えている。
レンズ1のフランジ部1bの像側の面には、後述するヒータ部40が設けられている。また、ヒータ部40は、像側の面の一部が、レンズ2のフランジ部2bの物体側の面と当接するようになっている。すなわち、ヒータ部40は、レンズ1のフランジ部1bと、レンズ2のフランジ部2bとの間となる位置に設けられている。なお、ヒータ部40は、レンズユニット100の撮像性能に影響を及ぼすことのない位置に設けられている。
【0037】
図2(a)は、ヒータ部40について説明するための図である。
ヒータ部40は、導電性カーボン膜41と回路パターン42とからなる。導電性カーボン膜41は、レンズ1のフランジ部1bの像側に塗布されている。なお、導電性カーボン膜41は、当該箇所に印刷されているものであってもよい。
【0038】
回路パターン42は、レンズ1のフランジ部1b上の導電性カーボン膜41の上に、印刷されて形成されている。当該印刷は、例えば、スクリーン印刷機によって行われる。回路パターン42は、円形状に形成された電極であり、外周側回路パターン43と、内周側回路パターン44とを備えている。回路パターン42は、導電性カーボン膜41を通電する。外周側回路パターン43は、径方向内側に向かって突出する複数の突出部43aを備え、くし形状に形成されている。内周側回路パターン44は、径方向外側に向かって突出する複数の突出部44aを備え、くし形状に形成されている。複数の突出部43aと複数の突出部44aとは、周方向に沿って交互に、等間隔に形成されている。外周側回路パターン43と、内周側回路パターン44とは、電極間の距離が一定となるように形成されている。このため、全面にわたって電流値が等しくなる。これにより、導電性カーボン膜41の発熱時における温度ムラの発生が抑制され、温度分布が均一となる。導電性カーボン膜41の発熱時における温度ムラの発生は光学性能の対称性に影響を及ぼし光学性能の劣化をもたらすため、回路パターン42の端部を除いて対称形状であることが好ましい。
【0039】
ヒータ部40は、次のように形成される。
まず、酢酸ビニル含有量が17wt%であるEVA(酢酸ビニルとポリエチレン共重合体)60wt%と、カーボンブラック40wt%とを、温度120℃に加熱しながら約10分間混錬し、混合物Xを得る。当該混錬には、例えば、プラネタリーミキサーを用いる。
【0040】
次に、混合物Xを、テトラリン溶媒を用いて分散、攪拌し、溶媒粘土が3500センチポイズとなるように希釈したインクYを得る。
【0041】
次に、ガラスレンズ用の墨塗り機を用いてレンズ1を回転させながら、インクYを、レンズ1のフランジ部1bの像側に、厚みが15μmとなるように塗布する。塗布後、インクYを乾燥させる。これにより、導電性カーボン膜41が形成される。
【0042】
次に、レンズ1の墨塗り面(導電性カーボン膜41)を下地とし、スクリーン印刷機を用いて、銀ペーストをくし形パターンとなるように印刷し、くし形電極である回路パターン42を形成する。
【0043】
導電性カーボン膜41は、導電性機能を有しており、通電により発熱する。すなわち、導電性カーボン膜41はヒータ機能を有している。また、導電性カーボン膜41は、遮光機能を有しており、ゴースト、フレアの原因となる不要光の鏡筒10の内部への侵入を防いでいる。
【0044】
また、導電性カーボン膜41は、PTC(Positive Temperature Coefficient)機能、すなわち自己温度制御機能を有している。このため、加熱温度が一定に保たれるようになっている。
図2(b)は、PTC機能について説明するための図である。通常温度(低温時を含む)では、カーボンブラックが密に接触した状態であり低抵抗であるため、電流がスムーズに流れる。一方、温度が上昇した場合には、EVAが膨張し、カーボンブラック同士が分離・非接触の状態となるため、抵抗が増大して電流が流れにくくなり、温度上昇が停止する。上昇した温度が低下し、高温状態から通常温度に戻ると、EVAが収縮し、電流が元のように流れる。この繰り返しによって、加熱温度が一定に保たれるようになっている。PTC機能を有するPTC材料としては、図2(b)に示される有機系材料に限らず、例えばチタン酸バリウムに希土類元素などの添加物を加えたセラミックスなどの無機系材料を用いてもよい。
PTC機能のある材料は、抵抗値が室温(25℃)から開始して温度がある一定値以上に上昇すると急激に抵抗値が増加する。この増加に転ずる温度をキュリー温度(Tc)と呼び、25℃時の抵抗の2倍になる温度で定義される。
【0045】
図1に戻り、配線部50について説明する。
配線部50は、ヒータ部40に電力を供給するために設けられている。配線部50は、ばね部材51と導線52とからなる。本実施形態では、2つのばね部材51が用いられており、ばね部材51は、図2に示す外周側回路パターン43の端部43bと、内周側回路パターン44の端部44bとにそれぞれ接続されるようになっている。
【0046】
ばね部材51は、りん青銅で構成されており、導電性を有している。また、ばね部材51は、弾性力を有している。ばね部材51における回路パターン42との接続側とは反対側の端部は、導線52(図1に示す)に接続されるようになっている。導線52は、電流を流すための金属線であり、PVC(ポリ塩化ビニル)で被覆されている。なお、この被覆材料は耐熱性に優れるPTFE(フッ素樹脂)でもよい。
【0047】
次に、配線部50の配線について説明する。
鏡筒10の内周面Aと内周面Bとの境界部分には、軸方向に対する段差面である段差部15が形成されている。鏡筒10の段差部15には、鏡筒10の内部と鏡筒10の外部とを連通する孔14が、鏡筒10の軸方向と平行に設けられている。孔14は、導線52を鏡筒10の内部に導くために設けられている。
【0048】
孔14における鏡筒10の外部側の開口は、鏡筒10の軸方向において、カメラケース201とOリング202とのシール部より像側となる位置に設けられている。カメラケース201の内部は気密性が確保されているため、孔14を介して鏡筒10の内部に水が浸入することはない。これにより、ヒータ部40を絶縁する必要がない。
【0049】
導線52は、孔14を介して鏡筒10の外部から鏡筒10の内部へと導かれ、一端がばね部材51に接続されている。また、図示は省略しているが、導線52の他端は、ヒータ部40への電力供給回路を備える配線基板92に接続されている。配線基板92は、カメラケース201側に設けられている構成である。
【0050】
組立時には、レンズ2~4を鏡筒10の内部に挿入し、次いでヒータ部40が形成されたレンズ1を鏡筒10内に組み込む。鏡筒10には、レンズ1のヒータ部40と電気的に接続するばね部材51が埋め込まれている。ばね部材51は導線52と連結された状態となっており、導線52は鏡筒10の孔14を介して鏡筒10の外部に導出されている。これにより、鏡筒10の内部と外部とが電気的に接続されるようになっている。
レンズ1を鏡筒10に組み込んだ際に、ばね部材51とレンズ1のヒータ部40とが機械的に接触し電気的に導通する。このため、煩わしい導線の接続作業が不要となり、組立性が向上する。
【0051】
上記では、回路パターン42と導線52との接続に、ばね部材51を用いる場合について説明した。換言すると、配線部50がばね部材51と導線52とからなる場合について説明した。ただし、これに限定されるものではなく、配線部50は導線52のみからなるものであってもよい。図3(a)および図3(b)は、配線部50が導線52のみからなる場合を示した図である。この場合、回路パターン42の端部43b,44bと導線52とをはんだ付け、またはACF(Anisotropic Conductive Film)により接続する。
【0052】
カメラモジュール200は、レンズユニット100、カメラケース201、Oリング202、撮像素子91(イメージセンサ)、配線基板92、信号処理回路、フレキシブル配線シート、およびコネクタ等を備えている。なお、カメラモジュール200とは、少なくともレンズユニット100と撮像素子91とを備えたものをいう。撮像素子91は、カメラケース201側に設けられている構成である。撮像素子91は、レンズユニット100の像側に配置され、レンズユニット100で結像される画像を撮像するようになっている。
【0053】
カメラモジュール200は次のように動作する。物体側から入射する光は、レンズユニット100のレンズ群を介して撮像素子91に入射する。撮像素子91は、入射した像を電気信号に変換する。信号処理回路は、撮像素子91からの電気信号に対して信号処理(A/D変換、画像補正処理等)を行う。信号処理回路から出力される電気信号は、フレキシブル配線シートおよびコネクタを介して外部の電子機器に接続される。
【0054】
ヒータ部40は、配線部50を介して電力が供給されると、通電により発熱する。ヒータ部40の熱は、レンズ1およびレンズ2に伝わる。レンズ1の温度が上昇すると、レンズ1の物体側の面(レンズ1の前面)に付着した氷雪または霜が融ける。
レンズ1はガラス製であり、熱伝導率が0.5(W・m-1・K-1)以上1.5(W・m-1・K-1)以下である。一方、レンズ2はプラスチック製であり、熱伝導率が0.5(W・m-1・K-1)未満である。すなわち、レンズ1は、レンズ2に比べて熱伝導率が高くなるように構成している。ヒータ部40は、物体側に効率的に熱を伝え、レンズ1に付着した氷雪や霜を効率よく融かすことができる。
【0055】
本実施形態によれば、鏡筒10の内部である、レンズ1のフランジ部1bとレンズ2のフランジ部2bとの間に通電により発熱するヒータ部40を設けたため、レンズユニット100(カメラモジュール200)のサイズの大型化を招くことなく、融雪機能を実現することができる。
【0056】
また、レンズ1への雪等の付着によって撮像画像が不鮮明となることがないため、レンズユニット100の撮像性能の低下を防ぐことができる。このため、例えば、レンズユニット100を車載カメラに用いた場合に、レンズ1の前面に付着した雪等が、車両の自動ブレーキ機能、自動運転機能等に影響を与えるのを防ぐことができる。これにより、運転者に快適な運転を提供することができるとともに、乗員の安全を確保することができる。
【0057】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
図4(a)は、第2実施形態に係るレンズユニット300の軸方向断面図である。なお、図4(a)では、断面であることを示すハッチングを一部省略している。以下、第1実施形態で説明した構成と同一または相当する機能を有する構成については、同一の符号を付し、その説明を省略または簡略化する。
【0058】
レンズユニット300は、ヒータ部60を備えている。ヒータ部60は、レンズ1とレンズ2の間に挟み込まれている。
【0059】
図5(a)および図5(b)は、ヒータ部60について説明するための図である。ヒータ部60は、FPC(Flexible printed circuits)61と、サーミスタ62とを備えている。FPC61は、フレキシブル基板である。FPC61の材質は、PETフィルムまたはポリイミドフィルムである。FPC61は、フィルムに電気回路が配線されたものである。
【0060】
図5(b)に示すように、FPC61は、環状部61A、直線部61B、およびFPCコネクタ部61Cを備えている。環状部61Aと直線部61Bには、ヒータ回路63とサーミスタ回路64が形成されている。ヒータ回路63およびサーミスタ回路(配線)64は、所定の抵抗値を有する材料であり、通電すると発熱する機能を有する。本実施例では、ヒータ回路63およびサーミスタ回路64は、銀ペーストを、スクリーン印刷機を用いて印刷することで、形成されている。環状部61Aのヒータ回路63はヒータとして機能させるためにパターンの線幅を狭くして抵抗値が増すように形成され、一方、直線部61Bのヒータ回路は線幅を広くして抵抗値を下げ、発熱量を抑えるように形成されている。本実施例では、材料として銀ペーストを採用したが、カーボンペーストでもよい。また、回路パターンの精度を向上させるために、例えばポリイミドフィルムに銅箔、アルミ箔、ステンレス箔等を接合させた複合フィルムを、所望の回路パターンにエッチングを施して形成してもよい。
このような形態のヒータ部60のキュリー温度は、ヒータ回路63およびサーミスタ回路(配線)64とサーミスタ62の全体として、定義されるものとする。すなわち、抵抗値が室温(25℃)から開始して温度がある一定値以上に上昇すると急激に抵抗値が増加に転じ、25℃時の抵抗の2倍になる温度がキュリー温度と定義される。
【0061】
サーミスタ62は、PTC機能を有する電子部品であり、温度の上昇により電気抵抗が急増して正の温度係数を示す素子である。サーミスタ62は、室温付近では略一定の抵抗値であるが、一定の温度を超えると抵抗値が急上昇する。サーミスタ62は、一般的に、チタン酸バリウムに微量の輝土類元素を添加することでこのような特性を得ている。
【0062】
サーミスタ62には、チップタイプのものが広く使用されている。サーミスタ62は周囲の温度を検知し、特定の温度に到達すると、抵抗が急激に増加し、ヒータ回路63を流れる電流を小さくする。本特性を持つサーミスタ62は、定温発熱体、ヒータ等に利用されている。サーミスタ62は、ON/OFF制御を要することなく、一定温度を保つことを可能にする。例えば、ヒータ回路63に、直列にサーミスタ62を入れることで、制御回路不要でヒータ回路63に流れる電流を制御することができる。本実施例においては、適切な温度管理のために、サーミスタ62は、環状部61Aに配置され、サーミスタ回路(配線)64に実装されている。
また、別の方法として、サーミスタ62間の電圧をモニター回路によりモニターして、制御回路でモニター回路の出力をA/D変換し内部のマイコンに入力し、ヒータ回路63に印加すべき電圧を制御する方式も可能である。これにより、高精度の温度管理を行うことができる。なお、デジタル回路ではなくアナログ回路で制御回路を構成するものであってもよい。このようなモニター回路と制御回路で構成する実施形態においては、所定温度以下とする温度管理の所定温度をキュリー温度とみなす。
【0063】
本実施形態では、配線部50は、FPC61の直線部61Bによって構成されている。鏡筒10の外部に露出することとなるFPC61の端部には、FPCコネクタ部61Cが設けられている。FPCコネクタ部61Cは、カメラケース201側に構成されているヒータ制御部(不図示)に接続されている。ヒータ回路63およびサーミスタ回路64には、FPCコネクタ部61Cを介して電力が供給される。
【0064】
図4(a)に戻り、配線部50の配線について説明する。
鏡筒10における段差部15には、鏡筒10の内部と鏡筒10の外部とを連通する孔16が、鏡筒10の軸方向と平行に設けられている。孔16は、薄く平らなフィルム状のFPC61を鏡筒10の内部に導くために設けられている。孔16における鏡筒10の外部側の開口は、鏡筒10の軸方向において、カメラケース201とOリング202とのシール部より像側となる位置に設けられている。カメラケース201の内部は気密性が確保されているため、孔16を介して鏡筒10の内部に水が浸入することはない。これにより、ヒータ部60を絶縁する必要がない。
【0065】
図4(b)および図4(c)は、孔16とFPC61との関係について説明するための図である。孔16は、互いに平行な第1平面部16aおよび第2平面部16bを備えている。ここで、図4(b)に示すように、段差部15の面上の点であって、第1平面部16aの幅方向中央の点を点Mとする。第1平面部16aは、段差部15の面上において、鏡筒10の中心と点Mとを結んだ線分に対して垂直となるように形成されている。
また、孔16の幅は、配線部50(FPC61)の幅に合わせて決定されている。これにより、孔16は、FPC61を挿通させることができるようになっている。
【0066】
FPC61を孔16に通す際は、鏡筒10の第1平面部16aおよび第2平面部16bに沿ってFPC61を通し、第1平面部16aの端部でFPC61を略直角に折り曲げる。FPC61は、第1平面部16aの端部に当接して、略直角に折り曲げられ、孔16を介して鏡筒10の内部と外部とを電気的に接続する。孔16を設けることで、スペースのない鏡筒10の内部に、FPC61を介して電力を供給することができる。このように構成することで、鏡筒10に最小のスペースでFPC61を通すことができ、小型化を実現できる。また、レンズ1の外周部と鏡筒10の内周面との間には、Oリング30が配置されており、Oリング30が径方向に圧縮されることで気密性が確保されているが、孔16を最小サイズとすることで、鏡筒10の内径がOリング30の反発力によって拡大することを防ぐことができ、気密性能を維持することができる。
【0067】
次に、サーミスタ62の実装箇所について説明する。
図5(a)に示すように、サーミスタ62は、FPC61における環状部61Aの像側の面に実装されている。図4(a)に示すように、サーミスタ62の径方向に対する位置は、レンズ1の外径より内側となる位置であり、かつレンズ2の外径より外側となる位置となっている。なお、レンズ2の径は、レンズ1の径より小さい。サーミスタ62の軸方向に対する位置は、レンズ2の厚さの幅の範囲内の位置となっている。
【0068】
図4(b)に示すように、サーミスタ62と対向する位置の鏡筒10には、サーミスタ62を収容するための凹形状である凹部17が設けられている。サーミスタ62は、鏡筒10と干渉することなく凹部17の内部に収容されるようになっている。これにより、鏡筒10のサイズを大きくすることなく、省スペースでサーミスタ62を実装することができる。すなわち、凹部17を設けサーミスタ62を収容する本構成は、レンズユニット300およびカメラモジュール200の小型化の実現に寄与している。
【0069】
超広角レンズにおいて、180°を超える水平画角を確保する場合、レンズ1のフランジ部1bとレンズ2のフランジ部2bとの間の距離(隙間)は、0.05mm以上0.5mm以下とするのが好ましい。当該距離が0.5mmを超える場合、水平画角が180°未満となり、超広角を実現することが困難となる。一方、当該距離が0.05mm未満である場合、ヒータ部60をレンズ1とレンズ2の間に挟み込むことが困難となる。本実施形態では、ヒータ部60の軸方向に対する厚さは約0.2mmであり、当該距離は0.5mm以下であるため、180°を超える水平画角が確保されるようになっている。
【0070】
ヒータ部60は、レンズ1およびレンズ2に接触している。ヒータ部60は、配線部50を介して電力が供給されると、通電により発熱する。ヒータ部60の熱は、レンズ1およびレンズ2に伝わる。レンズ1の温度が上昇すると、レンズ1の物体側の面(レンズ1の前面)に付着した氷雪または霜が融ける。
【0071】
本実施形態では、レンズ1のフランジ部1bにおける像側の面には、遮光機能を実現するための墨塗りが施されている。墨塗りには、例えば、黒色塗料が用いられる。
【0072】
なお、上記では、ヒータ部60がレンズ1とレンズ2の間に挟まれているものとしたが、ヒータ部60は、熱伝導性の高い接着剤等を介してレンズ1に貼り付けられているものであってもよい。
【0073】
本実施形態によれば、第1実施形態と同様に、レンズユニット300(カメラモジュール200)のサイズの大型化を招くことなく、融雪機能を実現することができる。また、レンズ1への雪等の付着によって撮像画像が不鮮明となることがないため、レンズユニット300の撮像性能の低下を防ぐことができる。また、鏡筒10の内部に、サーミスタ62を備えるヒータ部60を構成することで、サイズの大型化を招くことなく、PTC機能を有するヒータ部60を実現できる。ヒータ部60は、当該PTC機能を有しているため、特別な制御を必要とせずに通電のみで一定温度に制御される。
【0074】
また、レンズ1とレンズ2の間に位置するヒータ部60の厚さを0.5mm以下としているため、ヒータ部60を備えつつ、水平画角が180°を超える超広角レンズを実現することができる。
【0075】
次に、本発明の第3実施形態について説明する。
図6は、第3実施形態に係るレンズユニット400の軸方向断面図である。なお、図6では、断面であることを示すハッチングを一部省略している。以下、第1実施形態および第2実施形態で説明した構成と同一または相当する機能を有する構成については、同一の符号を付し、その説明を省略または簡略化する。
【0076】
レンズユニット400は、ヒータ部70を備えている。ヒータ部70は、レンズ1とレンズ2の間に挟み込まれている。
【0077】
図7(a)および図7(b)は、ヒータ部70について説明するための図である。
ヒータ部70は、PETフィルムで構成されているFPC61と、導電性カーボン膜41と、回路パターン42とを備えている。FPC61は、環状部61A、直線部61B、FPCコネクタ部61Cとからなる。環状部61Aには、導電性カーボン膜41が印刷され、さらに導電性カーボン膜41の上に、くし形状の回路パターン42が印刷されている。導電性カーボン膜41は、遮光機能およびPTC機能を有している。また、本実施形態では、配線部50は、FPC61の直線部61Bによって構成されている。なお、導電性カーボン膜41と回路パターン42は、第1実施形態と同様の技術で製作可能である。
【0078】
FPC61の直線部61Bには、導電回路(不図示)が形成されており、当該導電回路と、回路パターン42の端部43b,44bとは電気的に接続されている。当該導電回路には、FPCコネクタ部61Cを介して電力が供給される。
【0079】
本実施形態では、ヒータ部70の軸方向に対する厚さは、約0.215mmとなっている。このため、180°を超える水平画角が確保されるようになっている。
【0080】
本実施形態によれば、第1実施形態および第2実施形態と同様に、レンズユニット400(カメラモジュール200)のサイズの大型化を招くことなく、融雪機能を実現することができる。また、レンズ1への雪等の付着によって撮像画像が不鮮明となることがないため、レンズユニット400の撮像性能の低下を防ぐことができる。また、サイズの大型化を招くことなく、PTC機能を有するヒータ部70を実現できる。ヒータ部70は、当該PTC機能を有しているため、特別な制御を必要とせずに通電のみで一定温度に制御される。
【0081】
また、レンズ1とレンズ2の間に位置するヒータ部70の厚さを0.5mm以下としているため、ヒータ部70を備えつつ、水平画角が180°を超える超広角レンズを実現することができる。
【0082】
次に、本発明の第4実施形態について説明する。
図8は、第4実施形態に係るレンズユニット500の軸方向断面図である。なお、図8では、断面図であることを示すハッチングを一部省略している。以下、第1実施形態から第3実施形態で説明した構成と同一または相当する機能を有する構成については、同一の符号を付し、その説明を省略または簡略化する。
【0083】
レンズユニット500は、ヒータ部80を備えている。ヒータ部80は、レンズ1とレンズ2の間に挟み込まれている。
【0084】
ヒータ部80は、チタン酸バリウムを主成分とするセラミックスで構成されており、PTC機能を有している。当該セラミックスは、キュリー温度(キュリー点)を有しており、温度がキュリー温度を超えると、結晶系がそれまでの正方晶系から立方晶系へと相転移し、電気抵抗値が急上昇する。ヒータ部80は、周囲温度を検知し、温度がキュリー温度を超えると、抵抗が急激に増加し、流れる電流を小さくする。このため、ON/OFF制御を要することなく、一定温度を保つことが可能である。キュリー温度(キュリー点)は25℃における抵抗値の2倍の抵抗値となる温度として定義される。
【0085】
また、ヒータ部80のレンズ1側(ガラスレンズ側)の面に、電極(片面電極)を形成してもよい。当該電極は、例えば、図2(a)に示した櫛形状の回路パターン42とすることができる。換言すると、回路パターン42を、チタン酸バリウムを主成分とするセラミックスの上に形成し、ヒータ部80としてもよい。
電極形成面と反対側の面にも熱が伝わり昇温するが、レンズ1側を加熱することで、レンズ2側の温度上昇を抑えることができる。つまり加熱が必要なレンズ1側のみ効率良く加熱をすることができる。また、片面のみに電極を形成するため、ヒータ部80の厚みを薄くすることができ、180°を超える水平画角の確保に最適となる。
【0086】
本実施形態では、配線部50は、導線52で構成されている。導線52と、ヒータ部80とは、例えば、はんだ付けにより接着され、電気的に接続されている。
【0087】
また、本実施形態では、レンズ1のフランジ部1bにおける像側の面には、遮光機能を実現するための墨塗りが施されている。墨塗りには、例えば、黒色塗料が用いられる。
【0088】
本実施形態では、ヒータ部80の軸方向に対する厚さは0.5mmとなっている。このため、180°を超える水平画角が確保されるようになっている。
【0089】
本実施形態によれば、第1実施形態から第3実施形態と同様に、レンズユニット500(カメラモジュール200)のサイズの大型化を招くことなく、融雪機能を実現することができる。また、レンズ1への雪等の付着によって撮像画像が不鮮明となることがないため、レンズユニット500の撮像性能の低下を防ぐことができる。また、サイズの大型化を招くことなく、PTC機能を有するヒータ部80を実現できる。ヒータ部80は、当該PTC機能を有しているため、特別な制御を必要とせずに通電のみで一定温度に制御される。
【0090】
また、レンズ1とレンズ2の間に位置するヒータ部80の厚さを0.5mm以下としているため、ヒータ部80を備えつつ、水平画角が180°を超える超広角レンズを実現することができる。
【0091】
また、第1実施形態から第4実施形態によれば、レンズ1と接触する位置にヒータ部40,60,70,80を設けているため、鏡筒10の外部にヒータ部やファンを設けた場合に比べ、消費電力を抑えることができる。
【0092】
また、第1実施形態から第4実施形態では、鏡筒10を樹脂製とし、鏡筒10がカシメによって形成される保持部12を備えるものとした。ここで、鏡筒10を金属製とする場合について説明する。鏡筒10は、例えば、アルミニウムで構成されている。
【0093】
図9は、金属製の鏡筒10と、キャップ90とを備えるレンズユニット600の断面図である。キャップ90は、金属製であり、例えばアルミニウムで構成されている。
鏡筒10における物体側の端部の外周には、雄ねじ部が形成されている。雄ねじ部には、キャップ90が取り付けられるようになっている。
【0094】
キャップ90は環状であり、キャップ90の内周側には、鏡筒10の雄ねじ部と螺合する雌ねじ部が形成されている。キャップ90におけるレンズ1の物体側の面と当接する部位の内径は、レンズ1の外径より小さくなっている。
【0095】
鏡筒10の内部に収容される部品は、支持部11とキャップ90との間に挟まれるようにして支持されている。換言すると、鏡筒10の内部に収容される部品は、キャップ90によって支持部11側に向かって押し付けられた状態で保持されている。これにより、各部品の間に隙間が形成されないようになっている。
【0096】
また、第2実施形態から第4実施形態において、ヒータ部60,70,80と、レンズ1との間に、一般的に空気層が介在するとヒータ部60,70,80からレンズ1への熱伝導率が悪化してしまう。このため、双方の間に熱伝導シートや熱伝導粘着材を介在させることで、効率よくヒータ部60,70,80の熱をレンズ1へ伝えることができる。
【0097】
次に、本発明の第5実施形態について説明する。
図10は、第5実施形態に係るカメラモジュール200の軸方向断面図である。なお、図10では、断面図であることを示すハッチングを一部省略している。以下、第1実施形態から第3実施形態で説明した構成と同一または相当する機能を有する構成については、同一の符号を付し、その説明を省略または簡略化する。
【0098】
本実施形態に係るレンズユニット700は、第4実施形態と同様にヒータ部(ドーナツ形セラミックヒータ)80を備えている。本実施形態に係るヒータ部80には、電極81(図11に示す)が形成されている。また、電極81には、導線52(図8に示す)が例えばはんだ付けにより接着固定されている。
【0099】
図11(a)は、ヒータ部80を像側から見た図であり、図11(b)は、図11(a)に示すG-G線の切断部端面図である。
電極81は、内周側電極パターン81aと外周側電極パターン81bとからなり、例えば内周側電極パターン81aが正極であり、外周側電極パターン81bが負極である。内周側電極パターン81aは、ヒータ部80の像側の面の内周部および内周側面に沿って、環状に設けられている。また、外周側電極パターン81bは、ヒータ部80の像側の面の外周部および外周側面に沿って、環状に設けられている。内周側電極パターン81aの端部および外周側電極パターン81bの端部には、それぞれ導線52がはんだ付け等により接着されている。
このように電極81をヒータ部80の側面にも設けることで、電極81(内周側電極パターン81aおよび外周側電極パターン81b)とヒータ部80との接触面積が増大し、両者の接着性がより向上する。また、電極81の面積が大きくなるため、通電時に電極81での抵抗が大きくなり過ぎるのを抑制できる。また、ヒータ部80(セラミックヒータ)の小型化を実現し、より効率よくヒータ部80の全面を加熱することができる。
【0100】
ヒータ部80は、既述のとおり、チタン酸バリウムを主成分とするセラミックスで構成されており、PTC機能(PTC特性)を有している。当該セラミックスは、キュリー温度(キュリー点)を有しており、温度がキュリー点を超えると、抵抗値が急上昇する。キュリー点は、常温(25℃)における抵抗値の2倍の抵抗値となる温度として定義される。
なお、PTC(Positive Temperature Coefficient)は、温度の増加により電気抵抗が増す(すなわち正の温度係数を示す)特性である。一般的に、チタン酸バリウムに微量の希土類元素を添加することでPTC特性を得ることができる。PTC特性は、周囲の温度を検知し、特定の温度(検知温度)になると、抵抗値が急激に増加し、流れる電流を小さくする特性である。この特性により、ON/OFF制御を要することなく、一定の温度を保つことができる。
【0101】
ヒータ部80のキュリー点は、80℃から120℃の範囲内であることが好ましい。すなわち、ヒータ部80は、80℃から120℃の間で電気抵抗値が急上昇するようになっていることが好ましい。このように構成することで、ヒータ部80の物体側に位置するレンズ1(ガラス製)を、通電開始から短時間で加熱し、融雪を実現することができる。また、ヒータ部80の温度が高くなり過ぎないため、ヒータ部80の像側に位置するレンズ2(プラスチックレンズ)の変形を防ぐことができ、レンズ2の変形に伴うレンズユニットの光学性能の低下を防止できる。なお、プラスチックレンズの耐熱性は、110℃前後であり、プラスチックレンズの温度が110℃より高くなると変形が生じ、レンズユニットの光学性能が低下する虞がある。
【0102】
また、キュリー点が80℃より低いと、融雪に時間がかかってしまい、ヒータ部80への通電開始後、短時間で鮮明な画像を取得することができない。融雪の効果は、融雪開始(ヒータ部80への通電開始)から30秒後には、人間が視覚的に確認できる程度に表れることが要求される。また、融雪の効果は、融雪開始から60秒後には、十分に表れていることが要求される。この60秒という時間は、十分な融雪前に車両を発進させてしまうことによる危険運転を抑制するために必要となる平均時間とされている。この観点からキュリー点は80℃以上であることが好ましい。
【0103】
また、キュリー点が120℃より高いと、融雪までの時間的効果は極めて高くなるが、レンズ(特にヒータ部80の像側に隣接するプラスチック製のレンズ2)や鏡筒10に好ましくない影響を及ぼしてしまう。好ましくない影響とは、具体的には、レンズ2の変形、鏡筒10の変形、レンズ2の表面にコーティングされた反射防止膜のクラック発生等であり、これらによってレンズユニットの光学性能が低下してしまう。また、キュリー点を120℃より高くする場合、消費電力が大きくなり、ヒータ部80に供給する電圧を大きくする必要があるが、車両のようにバッテリ容量が制限された環境では、他の機器との関係で電圧を大きくすることができず、電圧を大きくした場合、電圧降下を招く虞がある。
【0104】
図12は、常温(25℃)環境下でキュリー点が80℃のヒータ部を通電した場合における、ヒータ部80に供給する電流値[mA]と、通電開始からの経過時間[sec]と、ヒータ部80とレンズ1の表面温度[℃]との関係を示すグラフである。なお、レンズ1の表面温度とは、レンズ1(ガラス製)の物体側の面であり、車外に露出する面である。
【0105】
図12に示すように、キュリー点80℃、常温環境の場合、レンズ1の表面温度は、30秒後に約52℃に到達し、60秒後に約60℃に到達する。また、通電開始から約150秒が経過すると、電流値は略一定となり、レンズ1の表面温度の上昇が抑制され、約73℃で一定となる。
【0106】
図13は、-30℃の環境下でキュリー点が80℃のヒータ部80を通電した場合における、ヒータ部80に供給する電流値[mA]と、通電開始からの経過時間[sec]と、ヒータ部80とレンズ1の表面温度[℃]との関係を示すグラフである。
図13に示すように、キュリー点80℃、-30℃環境の場合、レンズ1の表面温度は、30秒後に約13℃に到達し、60秒後に約33℃に到達する。また、通電開始から約150秒が経過すると、電流値は略一定となり、レンズ1の表面温度の上昇が抑制され、約50℃で一定となる。
【0107】
図14は、常温(25℃)環境下でキュリー点が120℃のヒータ部80を通電した場合における、ヒータ部80に供給する電流値[mA]と、通電開始からの経過時間[sec]と、ヒータ部80とレンズ1の表面温度[℃]との関係を示すグラフである。
図14に示すように、キュリー点120℃、常温環境の場合、レンズ1の表面温度は、30秒後に約80℃に到達し、60秒後に約96℃に到達する。また、通電開始から約150秒が経過すると、電流値は略一定となり、レンズ1の表面温度の上昇が抑制され、約109℃で一定となる。
【0108】
図15は、-30℃の環境下でキュリー点が120℃のヒータ部80を通電した場合における、ヒータ部80に供給する電流値[mA]と、通電開始からの経過時間[sec]と、ヒータ部80とレンズ1の表面温度[℃]との関係を示すグラフである。
図15に示すように、キュリー点120℃、-30℃環境の場合、レンズ1の表面温度は、30秒後に約55℃に到達し、60秒後に約82℃に到達する。また、通電開始から約150秒が経過すると、電流値は略一定となり、レンズ1の表面温度の上昇が抑制され、約92℃で一定となる。
【0109】
このように、ヒータ部80のキュリー点を80℃から120℃の範囲内とすることで、物体側に隣接するレンズ1の表面温度を60秒以内に融雪可能な温度とし、融雪を実現できるとともに、像側に隣接するプラスチック製のレンズ2が110℃以上の温度となることはないため、レンズ2の変形に伴う光学性能の低下を防ぐことができる。
【0110】
なお、ヒータ部80に印加する電圧は例えば、6[V]となっている。仮に、ヒータ部80により高電圧を印加すると、キュリー点に到達するのに要する時間は短くなり、それに伴い融雪が完了するまでの時間を短縮できるが、車両の場合、他の機器との関係で電圧を大きくすることが困難であり、電圧を大きくした場合、電圧降下を招く虞がある。また、ヒータ部80に印加する電圧をより低電圧とした場合、キュリー点に到達せず、融雪時間が長くなってしまう虞がある。
【0111】
次に、導線(リード線)52の鏡筒10からの引き出し方について説明する。
図16(a)は、後述する貫通孔111を通過する面におけるカメラモジュール200の軸方向断面図であり、図16(b)は、後述する貫通孔112を通過する面におけるカメラモジュール200の軸方向断面図である。
鏡筒10におけるレンズ1とレンズ2の境界となる部分には、軸方向に対して垂直な面である段差部15が形成されている。
また、図17(a)は、物体側から見た鏡筒10の一部を示す図であり、図17(b)は、鏡筒10を側面から見た図である。段差部15には、導線52を鏡筒10の外部に導く(引き出す)ための2箇所の貫通孔111,112が設けられている。一方の貫通孔は正極用であり、他方の貫通孔は負極用となっている。貫通孔111,112は、略楕円形状に形成されている。なお、貫通孔111,112の形状はこれに限らず、例えば円形状としてもよい。
【0112】
図16に示すように、貫通孔111,112は、軸方向に沿って設けられている部分と、径方向に沿って設けられている部分とが互いに直交するように設けられ、断面が略L字状となっている。
図18は、導線52が引き出された状態のレンズユニットを側面から見た図である。導線52は、貫通孔111,112に1本ずつ挿通されている。
図16(a)に示すように、1本の導線52は、一端がヒータ部80に接続され、他端が貫通孔111を介して外部に引き出されている。また、図16(b)に示すように、1本の導線52は、一端がヒータ部80に接続され、他端が貫通孔112を介して外部に引き出されている。
以下、図16に示すように、貫通孔111,112の開口のうち、鏡筒10の外周面側に設けられている開口を開口111a,112aとする。また、貫通孔111,112の内部空間における開口111a,112a側の部分を、導線引き出し部(開口部)111b,112bとする。
【0113】
図16に示すように、カメラケース201と、鏡筒10の外周面に形成された鍔状のフランジ部13との間には、Oリング202が配置され、シール部が形成されている。このとき、開口111a,112aは、鏡筒10の軸方向において、カメラケース201とOリング202とのシール部より像側となる位置に設けられている。開口111a,112aの位置をこの位置とすれば、カメラケース201の内部(内側)は気密性が確保されているため、鏡筒10の外周側の開口111a,112aを介して鏡筒10の内部に水が浸入することはない。これにより、ヒータ部80を絶縁する必要がない。また、ヒータ部80を絶縁する必要がないため、低コスト化を実現できる。
【0114】
また、仮に、貫通孔111,112を、図17(a)に示すように軸方向物体側から見て並列した丸孔となるように形成せずに、それぞれの丸孔が鏡筒10の内側の空間と連通する溝形状(軸方向物体側から見てU字状の形状の溝)とした場合や、2箇所の貫通孔を近接させて結合して1箇所の長孔とした場合には、鏡筒10の剛性が低下する。すなわち、鏡筒10の内部はOリング30(図16参照)により径方向外側に向かう力を常に受けているが、この力を受けた場合に、鏡筒10の外周面が径方向外側に撓みやすくなる。そして、鏡筒10の外周面が径方向外側に撓んだ場合、シール部(Oリング30)の気密性が低下し、鏡筒10の内部に水等が浸入してしまうという問題が生じるおそれがある。これに対して、貫通孔を略丸孔とし、離間した2箇所に設けた場合(すなわち貫通孔111,112を設けた場合)、貫通孔と鏡筒10の内部空間との間、および貫通孔同士の間に、それらを隔てる形状が存在するため、鏡筒10の剛性が低下しない。これにより、上記のような問題の発生を防ぐことができる。
【0115】
また、導線52とヒータ部80との接合強度が低い場合、カメラモジュールの製造工程で導線52が引っ張られた場合に、導線52がヒータ部80から外れてしまうおそれがある。そこで、導線引き出し部111b,112bに固定部材としての接着剤(例えば紫外線硬化樹脂等)を充填し、導線52を接着固定する。これにより、導線52が引っ張られた場合でも、導線52とヒータ部80との接合部に直接力が加わるのを防止でき、導線52とヒータ部80との接合部の接合強度を高めることなく、導線52の引っ張りに対する耐性を向上させることができる。すなわち、導線52が引っ張られた場合でも、導線52がヒータ部80から外れてしまうのを防止できる。
【0116】
また、導線52として、PTFE等のフッ素樹脂電線が用いられることがある。このフッ素樹脂電線は、はんだ耐熱性に優れているが、耐薬品性にも優れているため、接着が困難となる。そこで、導線52としてフッ素樹脂電線を用いる場合、図19に示すように、円筒状の固定部材120を用いて導線52を導線引き出し部111b,112bに固定する。
【0117】
ここで、図20を用いて固定部材120について説明する。図20(a)は、固定部材120を示す図であり、図20(b)および図20(c)は固定部材120の変形例を示す図である。
図20(a)に示す固定部材120は、略円筒状に形成され、貫通孔111,112に挿入可能な外径で形成されている。また、固定部材120の内径は、導線52を挿通させることが可能な径となっている。固定部材120の材質は、樹脂製の鏡筒10の材質と同一であることが好ましい。樹脂は、例えばPA、PPS等であり、鏡筒10と溶着、接着できる材質である。導線52を固定部材120に挿通させ、固定部材120を貫通孔111,112に挿入した状態で、固定部材120を鏡筒10に溶着または接着することで、導線52を確実に固定することができる。これにより、導線52が引っ張られた場合でも、導線52がヒータ部80から外れてしまうのを防止できる。
【0118】
図20(b)に示す固定部材120は、一端から他端に向かうにつれて外径が徐々に小さくなるようにテーパー状に形成されている。この固定部材120は、例えばゴム等の弾性変形可能な材料で構成されており、外径が小さい側の端部から貫通孔111,112に挿入される。固定部材120の外周面をテーパー状とすることで、より確実に貫通孔111,112に押し込むことができるようになる。
固定部材120を貫通孔111,112に押し込むと、外径が締め付けられ(径方向内側に向かう力が作用し)、内径がより小さくなって、導線52が締め付けられるようになっている。これにより、導線52を確実に固定することができ、導線52が引っ張られた場合でも、導線52がヒータ部80から外れてしまうのを防止できる。なお、固定部材120の外径が大きい部分ほど、貫通孔111,112に挿入した際に内径がより小さくなり、導線52を締め付ける力がより大きくなる。また、固定部材120を弾性変形可能な材料で構成する場合、接着または溶着の工程は任意的となる。
【0119】
図20(c)に示す固定部材120は、図20(b)に示した固定部材120に、さらに軸方向に沿ってスリット121を設けたものである。このようにスリット121を設けることで、より外径が締め付けられやすくなり、スリット幅の分、内径が小さくなるため、導線52がより締め付けられやすくなる。
【0120】
なお、図16に示すカメラモジュール200では、レンズ1はガラスレンズとなっており、レンズ2はプラスチックレンズとなっている。レンズ2におけるフランジ部2bの物体側の端部には、像側外周面より径を絞って形成された縮径部2cが設けられている。換言すると、レンズ2の物体側の面がフランジ部2bの物体側の面から段差をもって突出して設けられている。そして、ヒータ部80の内径は、縮径部2c(レンズ2の物体側の面の突出部)と嵌合可能な径となっている。このようにヒータ部80と縮径部2cを嵌合させることで、レンズ1とレンズ2との面間距離を維持したまま、ヒータ部80を配置することができる。これにより、より広い画角を確保することができる。
【0121】
また、レンズ1の像側の面とヒータ部80との間に少なくともレンズ1より熱伝導率の高い熱伝導シートを介在させてもよい。熱伝導シートの熱伝導率は0.5[W/m・K]以上5.0[W/m・K]以下であることが好ましい。熱伝導シートを介在させることで、レンズ1の像側の面とヒータ部80との熱伝導性が向上する。また、レンズ1とヒータ部80と間に空間が発生することを抑制するために、熱伝導シートは少なくともショアA硬さが10以上であることが好ましい。また、あまりにも柔らかいと光軸方向の寸法精度が出ないのでショアA硬さが50以下であることが好ましい。このような柔らかさを有する熱伝導シートをレンズ1とレンズ2の間に介在させることで、車両走行時等にレンズ1に衝突する小石の衝撃によるレンズ1の割れを抑制することもできる。また、熱伝導シートとレンズ1の間には、粘着力のある両面テープを介在させて接着するのが、生産性向上の観点からは好ましい。両面テープの材質はアクリル製等のように、高温時にガスが出ない材料であることが好ましい。
一方、レンズ2の物体側の面とヒータ部80との間には、レンズ2の熱伝導率より熱伝導率の低い断熱シートを介在させてもよい。断熱シートを介在させることで、例えばレンズ2にARコート(反射防止膜)が施されている場合、ヒータ部80の熱によりARコートにクラックが発生するのを防止できる。あるいは、ヒータ部80と接するレンズ2の物体側の面(レンズ2のフランジ部)にシボ面を形成したり、細かい凹凸形状を形成したりして粗面化することにより、ヒータ部80と接するレンズ2の接触面積を減少させ、ヒータ部80の熱のレンズ2への伝導を抑制することができる。さらに断熱シートを併用してもよい。
【0122】
第5実施形態において、ヒータ部80のキュリー点は、80℃から120℃の範囲内であることが好ましいとしたが、もちろん本発明のすべての実施形態においても同様である。また、第5実施形態で説明した導線(リード線)52の鏡筒10からの引き出し方についても本発明のすべての実施形態に適用可能である。
【符号の説明】
【0123】
1,2,3,4 レンズ
10 鏡筒
40,60,70,80 ヒータ部
41 導電性カーボン膜
42 回路パターン
61 フレキシブル基板
62 サーミスタ
100,300,400,500 レンズユニット
200 カメラモジュール
52 導線
81a 内周側電極パターン
81b 外周側電極パターン
111,112 (鏡筒の)貫通孔
111a,112a (鏡筒の)開口
111b,112b (鏡筒の)導線引き出し部(開口部)
120 固定部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
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