IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大正製薬株式会社の特許一覧

特開2024-53080ケラチノサイトの増殖促進剤、及び発育毛関連因子調節剤
<>
  • 特開-ケラチノサイトの増殖促進剤、及び発育毛関連因子調節剤 図1
  • 特開-ケラチノサイトの増殖促進剤、及び発育毛関連因子調節剤 図2
  • 特開-ケラチノサイトの増殖促進剤、及び発育毛関連因子調節剤 図3
  • 特開-ケラチノサイトの増殖促進剤、及び発育毛関連因子調節剤 図4
  • 特開-ケラチノサイトの増殖促進剤、及び発育毛関連因子調節剤 図5
  • 特開-ケラチノサイトの増殖促進剤、及び発育毛関連因子調節剤 図6
  • 特開-ケラチノサイトの増殖促進剤、及び発育毛関連因子調節剤 図7
  • 特開-ケラチノサイトの増殖促進剤、及び発育毛関連因子調節剤 図8
  • 特開-ケラチノサイトの増殖促進剤、及び発育毛関連因子調節剤 図9
  • 特開-ケラチノサイトの増殖促進剤、及び発育毛関連因子調節剤 図10
  • 特開-ケラチノサイトの増殖促進剤、及び発育毛関連因子調節剤 図11
  • 特開-ケラチノサイトの増殖促進剤、及び発育毛関連因子調節剤 図12
  • 特開-ケラチノサイトの増殖促進剤、及び発育毛関連因子調節剤 図13
  • 特開-ケラチノサイトの増殖促進剤、及び発育毛関連因子調節剤 図14
  • 特開-ケラチノサイトの増殖促進剤、及び発育毛関連因子調節剤 図15
  • 特開-ケラチノサイトの増殖促進剤、及び発育毛関連因子調節剤 図16
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053080
(43)【公開日】2024-04-12
(54)【発明の名称】ケラチノサイトの増殖促進剤、及び発育毛関連因子調節剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/63 20060101AFI20240405BHJP
   A61Q 7/00 20060101ALI20240405BHJP
   A61K 31/19 20060101ALI20240405BHJP
   A61P 17/14 20060101ALI20240405BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240405BHJP
【FI】
A61K8/63
A61Q7/00
A61K31/19
A61P17/14
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024035789
(22)【出願日】2024-03-08
(62)【分割の表示】P 2020026085の分割
【原出願日】2020-02-19
(71)【出願人】
【識別番号】000002819
【氏名又は名称】大正製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】弁理士法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新井 良平
(72)【発明者】
【氏名】谷 優治
(72)【発明者】
【氏名】榊原 佳
(57)【要約】
【課題】毛包を成長期に誘導し、その状態を維持することにより、毛髪の成長を促すケラチノサイトの増殖促進剤を提供すること及びミノキシジルをより強い活性体であるミノキシジルサルフェートへの変換を促進するミノキシジル活性化剤を提供すること。
【解決方法】グリチルレチン酸類有効成分とする、ミノキシジル活性化剤。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリチルレチン酸類を有効成分とする、ミノキシジルの代謝活性化剤。
【請求項2】
ミノキシジルサルフェートへの変換促進作用に基づくものである、請求項1に記載のミノキシジルの代謝活性化剤。
【請求項3】
スルホトランスフェラーゼの産生促進作用に基づくものである、請求項1に記載のミノキシジルの代謝活性化剤。
【請求項4】
SULT1A1の産生促進作用に基づくものである、請求項1に記載のミノキシジルの代謝活性化剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミノキシジルの代謝活性化剤、ケラチノサイトの増殖促進剤及び発育毛関連因子調節剤に関する。
【背景技術】
【0002】
毛包は、主に外胚葉由来の上皮系細胞と中胚葉由来の間葉系細胞より構成されており、これらの細胞の相互作用により発生と再生が起こる。毛周期と呼ばれる再生と退縮のプロセスを生涯繰り返す器官である。休眠中の毛包幹細胞が活性化することで、成長期(anagen)が始まる。成長期には、間葉系の毛乳頭細胞や上皮系細胞からの発毛シグナルとなる成長因子(VEGF、HGF、IGF-1、FGF7、Wnt、Nogginなど)の産生が盛んになり、毛(毛幹)の材料となる毛母細胞などの上皮系細胞の分裂が活発化し、毛が伸長する。成長期の最後になると毛乳頭や皮下脂肪などの間葉系細胞より脱毛シグナルとなる成長因子(BMP、TGF-β等)の産生が盛んになり、毛包が退行期(catagen)に移行する。退行期には毛母が細胞分裂を停止し、アポトーシスにより細胞数が減少する。その後、休止期(telogen)を経て、再度成長期に移行する(非特許文献1)。つまり、毛の成長を促すためには、毛の材料となる毛包の上皮系細胞(ケラチノサイト)の増殖を直接的に活性化することや、発毛シグナルとなる成長因子の産生を高め、あるいは脱毛シグナルとなる成長因子の産生を低下させて毛包の成長期を誘導・維持することが重要である。
【0003】
ミノキシジルは、男性型脱毛症をはじめとして、種々の脱毛症の治療に用いられる発育毛成分である。ミノキシジルはそれ自体でも活性を示すが、毛包の上皮系細胞、特に下部外毛根鞘細胞を中心に存在するスルホトランスフェラーゼにより代謝され、硫酸化体であるミノキシジルサルフェートに変換される(非特許文献2)。ミノキシジルサルフェートは、ミノキシジルよりも毛包に対する強い活性を示すことから、ミノキシジルの活性本体であると考えられる(非特許文献3)。スルホトランスフェラーゼには複数のサブタイプが存在するが、毛組織でのミノキシジルの変換には、それらのサブタイプのうちSULT1A1が大きく関与しており、その活性とミノキシジルによる脱毛症の治療効果が相関することが明らかになっている(非特許文献4、5)。ミノキシジルやミノキキシジルサルフェートは、毛乳頭細胞の細胞膜に存在するスルホニルウレア受容体(SUR)や、各種細胞のミトコンドリアに存在するSURに作用することで、KATPチャネルを開放し、発毛シグナルの産生を高めたり、細胞増殖を活発化・細胞死を抑制し、発育毛作用を示す(非特許文献6)。つまり、毛包組織で局所的にSULT1A1の量や活性を高めること、また受容体であるSURの量を高めることで、全身的な副作用の増強なしに、ミノキシジルの発育毛作用を向上させることができ、いわゆるミノキシジルノンレスポンダー(ミノキシジルによる脱毛症治療効果が十分に現れない人)に対して治療効果を発揮させることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-121134号公報
【特許文献2】特開2007-022919号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】荒瀬誠治ら著「アンチエイジングシリーズ1 白髪・脱毛・育毛の実際」エヌ・ティー・エス、2005年7月4日、p.1-34,65-77
【非特許文献2】Dooley TP, Walker CJ, Hirshey SJ, Falany CN, Diani AR, Localization of minoxidil sulfotransferase in rat liver and the outer root sheath of anagen pelage and vibrissa follicles, J Invest Dermatol. 1991;96(1):65-70.
【非特許文献3】Buhl AE, Waldon DJ, Baker CA, Johnson GA, Minoxidil sulfate is the active metabolite that stimulates hair follicles, J Invest Dermatol. 1990;95(5):553-7.
【非特許文献4】Goren A, Castano JA, McCoy J, Bermudez F, Lotti T, Novel enzymatic assay predicts minoxidil response in the treatment of androgenetic alopecia, Dermatol Ther. 2014;27(3):171-3.
【非特許文献5】Gamage N, Barnett A, Hempel N, Duggleby RG, Windmill KF, Martin JL, McManus ME, Human sulfotransferases and their role in chemical metabolism, Toxicol Sci. 2006;90(1):5-22.
【非特許文献6】小友進,ミノキシジルの発毛作用について,日薬理誌.2002;119,167-174.
【非特許文献7】Plikus MV, Mayer JA, de la Cruz D, Baker RE, Maini PK, Maxson R, Chuong CM,Cyclic dermal BMP signalling regulates stem cell activation during hair regeneration, Nature. 2008;451(7176):340-4.
【非特許文献8】Lim X, Tan SH, Yu KL, Lim SB, Nusse R, Axin2 marks quiescent hair follicle bulge stem cells that are maintained by autocrine Wnt/β-catenin signaling, Proc Natl Acad Sci U S A. 2016;113(11):E1498-505.
【非特許文献9】Endou M, Aoki H, Kobayashi T, Kunisada T, Prevention of hair graying by factors that promote the growth and differentiation of melanocytes, J Dermatol. 2014;41(8):716-23.
【非特許文献10】Tanimura S, Tadokoro Y, Inomata K, Binh NT, Nishie W, Yamazaki S, Nakauchi H, Tanaka Y, McMillan JR, Sawamura D, Yancey K, Shimizu H, Nishimura EK, Hair follicle stem cells provide a functional niche for melanocyte stem cells, Cell Stem Cell. 2011;8(2):177-87.
【非特許文献11】Matsumura H, Mohri Y, Binh NT, Morinaga H, Fukuda M, Ito M, Kurata S, Hoeijmakers J, Nishimura EK, Hair follicle aging is driven by transepidermal elimination of stem cells via COL17A1 proteolysis, Science. 2016;351(6273):aad4395.
【非特許文献12】Liu N, Matsumura H, Kato T, Ichinose S, Takada A, Namiki T, Asakawa K, Morinaga H, Mohri Y, De Arcangelis A, Geroges-Labouesse E, Nanba D, Nishimura EK, Stem cell competition orchestrates skin homeostasis and ageing, Nature. 2019;568(7752):344-350.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、生体内において、ミノキシジルからより強い活性体であるミノキシジルサルフェートへの変換を促進することにより、ミノキシジルの発育毛作用が十分に現れない状態を改善するミノキシジルの代謝活性化剤を提供すること並びに毛髪の成長を促すケラチノサイト増殖活性化剤及び発育毛関連因子調節剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで発明者らは鋭意検討した結果、ジフェンヒドラミン、グリチルレチン酸類及びヒノキチオールに、スルホトランスフェラーゼであるSULT1A1の産生促進作用に基づき、ミノキシジルからより強い活性体であるミノキシジルサルフェートへの変換を促進する作用を有すること、さらにケラチノサイトの増殖を直接的に活性化したり、様々な発育毛関連因子を制御する作用を有することを解明し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)グリチルレチン酸類を有効成分とする、ミノキシジルの代謝活性化剤、
(2)ミノキシジルサルフェートへの変換促進作用に基づくものである、(1)記載のミノキシジルの代謝活性化剤、
(3)スルホトランスフェラーゼの産生促進作用に基づくものである、(1)記載のミノキシジルの代謝活性化剤、
(4)SULT1A1の産生促進作用に基づくものである、(1)に記載のミノキシジルの代謝活性化剤、
(5)ジフェンヒドラミン又はその塩、グリチルレチン酸類及びヒノキチオールからなる群から選択される、少なくとも1種を有効成分とする、ケラチノサイトの増殖促進剤、
(6)ジフェンヒドラミン又はその塩、グリチルレチン酸類及びヒノキチオールからなる群から選択される、少なくとも1種を有効成分とする、BMPシグナルの抑制剤、
(7)有効成分がジフェンヒドラミン又はその塩及びグリチルレチン酸類からなる群から選択される、少なくとも1種であって、FSTの産生促進作用に基づくものである(6)記載のBMPシグナルの抑制剤、
(8)有効成分がヒノキチオールであって、NOGの産生促進作用に基づくものである(6)記載のBMPシグナルの抑制剤、
(9)有効成分がグリチルレチン酸類及びヒノキチオールからなる群から選択される、少なくとも1種であって、BMP2の産生抑制作用に基づくものである(6)記載のBMPシグナルの抑制剤、
(10)ジフェンヒドラミン又はその塩、グリチルレチン酸類及びヒノキチオールからなる群から選択される、少なくとも1種を有効成分とする、WNTシグナルの活性化剤、
(11)有効成分がグリチルレチン酸類及びヒノキチオールからなる群から選択される、少なくとも1種であって、LEF1の産生促進作用に基づくものである(10)記載のWNTシグナルの活性化剤、
(12)有効成分がグリチルレチン酸類及びヒノキチオールからなる群から選択される、少なくとも1種であって、AXIN2の産生促進作用に基づくものである(10)記載のWNTシグナルの活性化剤、
(13)有効成分がジフェンヒドラミン又はその塩及びヒノキチオールからなる群から選択される、少なくとも1種であって、DKK1の産生抑制作用に基づくものである(10)記載のWNTシグナルの活性化剤、
(14)ジフェンヒドラミン又はその塩、グリチルレチン酸類及びヒノキチオールからなる群から選択される、少なくとも1種を有効成分とする、FGF2の産生促進剤、
(15)グリチルレチン酸類及びヒノキチオールからなる群から選択される、少なくとも1種を有効成分とする、FGF7の産生促進剤、
(16)ジフェンヒドラミン又はその塩及びヒノキチオールからなる群から選択される、少なくとも1種を有効成分とする、VEGFAの発現促進剤、
(17)グリチルレチン酸類及びヒノキチオールからなる群から選択される、少なくとも1種を有効成分とする、VCANの産生促進剤、
(18)ジフェンヒドラミン又はその塩、グリチルレチン酸類及びヒノキチオールからなる群から選択される、少なくとも1種を有効成分とする、KITLの産生促進剤、
(19)ジフェンヒドラミン又はその塩及びヒノキチオールからなる群から選択される、少なくとも1種を有効成分とする、COL17A1の産生促進剤、
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のミノキシジルの代謝活性化剤は、ミノキシジルからより強い活性体であるミノキシジルサルフェートへの変換を促進する作用により、ミノキシジルノンレスポンダーに対しても発育毛効果を発揮し得る。また本発明のケラチノサイト増殖促進剤及び各発育毛関連因子調節剤は、これを頭髪に適用することにより、様々な機序を介して、発毛、育毛、白髪の予防・改善等において優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、試験例1において、各化合物のケラチノサイト増殖に及ぼす影響を評価した結果を示すグラフである。
図2図2は、試験例2において、ケラチノサイトにおける各化合物のSULT1A1発現に及ぼす影響を評価した結果を示すグラフである。
図3図3は、試験例2において、ケラチノサイトにおける各化合物のFST発現に及ぼす影響を評価した結果を示すグラフである。
図4図4は、試験例2において、ケラチノサイトにおける各化合物のLEF1発現に及ぼす影響を評価した結果を示すグラフである。
図5図5は、試験例2において、ケラチノサイトにおける各化合物のAXIN2発現に及ぼす影響を評価した結果を示すグラフである。
図6図6は、試験例2において、ケラチノサイトにおける各化合物のFGF2発現に及ぼす影響を評価した結果を示すグラフである。
図7図7は、試験例2において、ケラチノサイトにおける各化合物のKITL発現に及ぼす影響を評価した結果を示すグラフである。
図8図8は、試験例2において、ケラチノサイトにおける各化合物のCOL17A1発現に及ぼす影響を評価した結果を示すグラフである。
図9図9は、試験例3において、毛乳頭細胞における各化合物のNOG発現に及ぼす影響を評価した結果を示すグラフである。
図10図10は、試験例3において、毛乳頭細胞における各化合物のBMP2発現に及ぼす影響を評価した結果を示すグラフである。
図11図11は、試験例3において、毛乳頭細胞における各化合物のFGF2発現に及ぼす影響を評価した結果を示すグラフである。
図12図12は、試験例3において、毛乳頭細胞における各化合物のFGF7発現に及ぼす影響を評価した結果を示すグラフである。
図13図13は、試験例3において、毛乳頭細胞における各化合物のVEGFA発現に及ぼす影響を評価した結果を示すグラフである。
図14図14は、試験例3において、毛乳頭細胞における各化合物のVCAN発現に及ぼす影響を評価した結果を示すグラフである。
図15図15は、試験例3において、毛乳頭細胞における各化合物のDKK1発現に及ぼす影響を評価した結果を示すグラフである。
図16図16は、試験例3において、毛乳頭細胞における各化合物のDKK1発現に及ぼす影響を評価した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において、有効成分としてジフェンヒドラミン又はその塩、グリチルレチン酸類及びヒノキチオールを用いる。これらの化合物は、既知の合成法で製造可能であり、また市販品を用いてもよい。
【0012】
ジフェンヒドラミンとは、2-ジフェニルメトキシ-N,N-ジメチルエチルアミンで表される化合物である。ジフェンヒドラミンの塩としては、薬学的に許容されるものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩などが挙げられる。これらの中でも、塩酸塩の形態(塩酸ジフェンヒドラミン、ジフェンヒドラミン塩酸塩)が好ましい。
【0013】
本発明においてグリチルレチン酸類には、3β-ヒドロキシ-11-オキソオレアナ-12-エン-30-酸で表される化合物であるグリチルレチン酸及びその誘導体並びにそれらの塩が含まれる。グリチルレチン酸は、甘草から得られるグリチルリチン酸の加水分解によって得られる化合物であるところ、グリチルレチン酸類には、甘草やその抽出物、加水分解物等の非精製物も包含される。グリチルレチン酸類の具体例としては、グリチルリチン酸、グリチルリチン酸ジカリウム、グリチルレチン酸ステアリル、サクシニルグリチルレチン酸2ナトリウムなどが挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0014】
ヒノキチオールは、2-ヒドロキシ-4-イソプロピルシクロヘプタ-2,4,6-トリエン-1-オンで表される化合物である。ヒノキチオールは、シダーやヒバ等の植物に含まれる化合物であるため、これらの植物の抽出物等の非精製物を用いてもよい。また、薬学的に許容な塩であってもよい。
【0015】
上記ジフェンヒドラミン又はその塩、グリチルレチン酸類及びヒノキチオールは、生体内においてミノキシジルの代謝活性化作用を有する。ミノキシジルは、6-ピペリジン-1-イルピリミジン-2,4-ジアミン-3-オキシドや2,6-ジアミノ-4-ピペリジノピリミジン1-オキシドで表される化合物であり、ミノキシジルサルフェートとは、その硫酸塩であり、硫酸ミノキシジル、ミノキシジル硫酸塩、活性型ミノキシジルなどと呼ばれる。毛包において、ミノキシジルは、スルホトランスフェラーゼの作用によって硫酸化されミノキシジルサルフェートへ変換される。スルホトランスフェラーゼとは、薬物代謝酵素の一種であり、スルフリル基の移転反応、つまり硫酸抱合を触媒し、硫酸(基)移転酵素とも呼ばれる。スルホトランスフェラーゼの一種に、SULT1A1(スルホトランスフェラーゼ1A1(Sulfotransferase 1A1))があり、毛包においてミノキシジルからミノキシジルサルフェートへの変換等を担っている。本発明のミノキシジルの代謝活性化剤において、有効成分であるジフェンヒドラミン又はその塩、グリチルレチン酸類及びヒノキチオールは、SULT1A1の産生促進作用を有するため、ミノキシジルからミノキシジルサルフェートへの変換を促進し、ミノキシジルを活性化させる。
【0016】
また上記ジフェンヒドラミン又はその塩、グリチルレチン酸類及びヒノキチオールは、ケラチノサイト増殖促進作用を有する他、発育毛関連因子を制御する作用を有する。ケラチノサイトとは、毛包や皮膚組織等を構成する上皮系細胞の総称である。毛包のケラチノサイトの増殖を直接的に活性化したり、発毛シグナルである成長因子(VEGF、HGF、IGF-1、FGF7、Wnt、Nogginなど)の活性化又は脱毛シグナルである成長因子(BMP、TGF-β等)の抑制によって、毛包の成長期を誘導・維持すること等により、毛の成長が促進される。
【0017】
毛包において、BMPシグナルは毛包幹細胞の休眠状態の維持に関与していることが解明されている。BMPシグナルとは、分泌タンパクである骨形成タンパク質(Bone Morphogenetic Protein, BMP)群による生体内シグナルであり、胚発生等の種々の局面で重要な役割を示すことが知られている。リガンドであるBMPが細胞膜上のBMP受容体に結合すると、Smadを通じてそのシグナルが細胞内に伝達され、種々の標的遺伝子の転写を調節する。休止期において、毛包幹細胞自身や間葉系細胞(毛乳頭細胞、線維芽細胞及び皮下脂肪細胞)が産生するBMPにより毛包幹細胞の休眠状態が保たれている。
【0018】
一方、WNTシグナルは毛包幹細胞の活性化に関与することが解明されている。WNTシグナルとは、分泌タンパクであるWNT群による生体内シグナルであり、発生における多種多様な生物学的プロセスに重要な役割を示すことが知られている。リガンドであるWNTが細胞膜上のWNT受容体(LPRやFZD等)に結合することで活性化される。WNTシグナルは、大きく分けてWNT/βカテニン経路(古典的WNT経路)、PCP経路及びWnt/Ca2+の3経路が知られる。WNT/βカテニン経路のシグナル伝達においては、リガンドであるWNTが受容体に結合すると、細胞内でβカテニンが安定化・蓄積し、核に移行する。核内でβカテニンは、TCF/LEFファミリーと結合し、標的遺伝子の転写活性化が起こる。
【0019】
毛包の休止期において、BMPの阻害タンパクが発現しBMPシグナルが阻害され、またWNTリガンドが発現してWNT/βカテニンシグナルが活性化すると、毛包幹細胞が活性化して毛包は成長期に移行し、毛の伸長が始まる(非特許文献7)。つまり、BMPシグナルを抑制し、WNTシグナルを活性化することが発育毛に重要である。
【0020】
BMPの作用を阻害するタンパク質として、FST(フォリスタチン(Follistatin))、NOG(ノギン(Noggin))が挙げられる。ジフェンヒドラミン又はその塩、グリチルレチン酸類は、FSTの産生促進作用を有し、ヒノキチオールはNOGの産生促進作用を有するため、これらの作用を介してBMPシグナルを抑制し、毛包を成長期に誘導することができる。一方、BMPリガンドとして、BMP2(骨形成タンパク質2(Bone Morphogenetic Protein 2))が挙げられる。グリチルレチン酸類及びヒノキチオールは、BMP2産生抑制作用を有するため、BMPシグナルを抑制し、毛包幹細胞を活性化させる。
【0021】
WNTシグナルの活性化に関わるタンパク質として、LEF1が挙げられる。LEF1とは、TCF/LEFファミリーの一種、リンパ系エンハンサー結合因子1(Lymphoid enhancer-binding factor 1)であり、WNT/βカテニンシグナルの伝達(標的遺伝子の転写活性化)を促進する。また、WNTシグナルの活性化の指標となるタンパクとしてAXIN2が挙げられる。AXIN2とは、WNT/βカテニンシグナルの転写標的遺伝子の一種Axis inhibition protein 2であり、WNT/βカテニンシグナル活性化の指標とされる(非特許文献8)。グリチルレチン酸類及びヒノキチオールは、LEF1及びAXIN2の産生促進作用を有するため、WNTシグナルを活性化し、毛包を成長期に移行させ、その状態を維持する。一方、WNTシグナルの阻害タンパク質としてDKK1 (Dickkopf-related protein 1)が挙げられる。ジフェンヒドラミン又はその塩及びヒノキチオールは、DKK1の産生抑制作用を有するため、WNTシグナルを活性化し、ケラチノサイトの増殖を促進させる。
【0022】
本明細書において、ケラチノサイトには、例えば、毛母細胞、外毛根鞘細胞、内毛根鞘細胞、毛包幹細胞及び表皮角化細胞などが含まれる。また、HaCaT細胞のような不死化細胞でもよく、動物種は問わない。3次元培養皮膚のようなケラチノサイトを材料としたオルガノイドや、生体より採取したケラチノサイトを含む組織の培養系(毛包や皮膚等)でもよい。
【0023】
発育毛に寄与する成長因子として、Wntの他に、FGF2、FGF7、VEGFA等が挙げられる(非特許文献1)。このうち、FGF2の産生を高める物質は、白髪の予防・改善にも有効である(特許文献1)。FGF2は、線維芽細胞増殖因子2(Fibroblast growth factor 2)であり、塩基性線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor,bFGF)とも呼ばれる。FGF7は、線維芽細胞増殖因子7(Fibroblast growth factor 7)であり、ケラチノサイト増殖因子(Keratinocyte growth factor,KGF)とも呼ばれる。VEGFAは、血管内皮細胞増殖因子(Vascular endothelial growth factor A)であり、単にVEGFとも呼ばれる。ジフェンヒドラミン又はその塩、グリチルレチン酸類及びヒノキチオールはFGF2の産生促進作用、グリチルレチン酸類及びヒノキチオールはFGF7の産生促進作用、ジフェンヒドラミン又はその塩及びヒノキチオールはVEGFAの産生促進作用をそれぞれ有するため、毛包の成長期を誘導・維持する。
【0024】
VCAN(バーシカン(Versican))は、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの一種であり、毛乳頭細胞特異的に発現している。VCANの発現を促進する物質は、発育毛効果を有する(特許文献2)。KITL(KITリガンド(c-Kit ligand))は、幹細胞因子(Stem Cell Factor)とも呼ばれ、ケラチノサイトにおいて、KITLの発現を促進することが、白髪の予防・改善に有効である(非特許文献9)。COL17A1は、17型コラーゲンのα鎖を構成する因子である。17型コラーゲンとは、毛包幹細胞並びに毛包及び皮膚の角化細胞を基底膜につなぎとめるヘミデスモソーム構造の構成に寄与する釣鐘型コラーゲンであり、COL17A1の産生を高めることで、加齢による脱毛・白髪・皮膚の老化を防ぐことができる(非特許文献10、11、12)。グリチルレチン酸類及びヒノキチオールはVCANの産生促進作用、ジフェンヒドラミン又はその塩、グリチルレチン酸類及びヒノキチオールはKITLの産生促進作用、ジフェンヒドラミン又はその塩及びヒノキチオールはCOL17A1の産生促進作用をそれぞれ有するため、これらの作用を介して、発毛、育毛、白髪の予防・改善等の効果を得ることができる。
【0025】
以上のように、本発明は、ジフェンヒドラミン又はその塩、グリチルレチン酸類、ヒノキチオールを有効成分とするケラチノサイト増殖促進剤を含む。また本発明は、ジフェンヒドラミン又はその塩、グリチルレチン酸類、ヒノキチオールを有効成分とするFST、NOGの産生促進作用又はBMP2の産生抑制作用に基づくBMPシグナルの抑制剤;LEF1、AXIN2の産生促進作用又はDKK1の産生抑制作用に基づくWNTシグナルの活性化剤;FGF2、FGF7、VEGFA、VCAN、KITL及びCOL17A1の産生促進剤、さらに上記各作用を直接の用途とするFST産生促進剤、NOG産生促進剤、BMP2産生抑制剤、LEF1産生促進剤、AXIN2産生促進剤、BMP2産生抑制剤などの発育毛関連因子調節剤を含む。
【0026】
本発明のミノキシジルの代謝活性化剤、ケラチノサイト増殖促進剤及び発育毛関連因子調節剤は、化粧品、医薬部外品、医薬品又は飲食品等として提供することができる。その他、試薬(陽性対照等)として用いることも可能である。投与形態としては、特に限定されるものではないが、外用や内服が挙げられ、好ましくは頭皮を含む皮膚に適用する外用であり、特に頭皮ないし頭髪に適用する頭髪用剤が好適である。外用で適用する場合の剤形としては、例えば、ローション剤、液剤、クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤、スプレー剤、シャンプー、コンディショナー、石鹸等が挙げられ、内服で適用する場合の剤形としては、錠剤、粉末剤、散剤、顆粒剤、液剤、カプセル剤、ドライシロップ剤、ゼリー剤、液状食品、半固形食品、固形食品等が挙げられる。これらは、公知の方法で製造することができる。製造に際しては、本発明の効果を損なわない範囲で、化粧品、医薬部外品、医薬品、飲食品又は試薬に含有可能な種々の添加物を配合することができる。これらの化粧品、医薬部外品、医薬品、飲食品又は試薬には、有効成分としてジフェンヒドラミン又はその塩、グリチルレチン酸類及びヒノキチオールからなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含有するものであり、その配合量は特に制限されるものではないが、例えば、組成物全体に対して合計で0.000001~20質量%、好ましくは0.0001~10質量%、より好ましくは0.01~1質量%である。
【0027】
本発明の頭髪用剤は、上記有効成分の他、さらに、ミノキシジル、センブリエキス、ニンジンエキス、トウガラシチンキ、ショウキョウチンキ、ビワ葉エキス、パントテン酸、パンテノール、ビタミンE及びその誘導体、サリチル酸、ピロクトンオラミン、アデノシン、t-フラバノン、サイトプリン、ペンタデカン酸グリセリド、アラントイン、ニコチン酸アミドをはじめとした発育毛物質と組み合わせて使用することもできる。これらの中でも、ミノキシジルを併用すると、ジフェンヒドラミン又はその塩、グリチルレチン酸類、ヒノキチオールのミノキシジルサルフェートへの変換促進作用によって、ミノキシジルの育毛・発毛効果が十分に現れないノンレスポンダーに対して、効果を発揮させることができる。
ミノキシジルノンレスポンダーとは、ミノキシジル製剤を一定期間以上使用しても発毛効果が十分に得られない人のことをいう。期間は、例えば外用剤の1%製剤であれば6ヶ月、5%製剤であれば4ヶ月程度が目安となる。また、抜去毛を用いてSULT1A1活性を測定することで、レスポンダーかノンレスポンダーかを事前に予測することも可能であり(非特許文献4)、海外では測定キットも販売されている。
【0028】
また本発明の頭髪用剤は、これを含む製品(化粧品、医薬部外品、医薬品、飲食品、又は試薬等)又はその説明書に、ケラチノサイトの増殖促進、ミノキシジルの活性化、スルホトランスフェラーゼの産生促進、SULT1A1の発現促進、BMPシグナルの抑制、WNTシグナルの活性化、又は、VEGFAの発現促進など上記したそれぞれの作用ないし用途を目的とするために用いられる旨の表示を付することができる。ここで、「製品またはその説明書に表示を付した」とは、製品の本体、容器、包装などに表示を付したこと、あるいは製品の情報を開示する説明書、添付文書、宣伝物、申請資料、その他の印刷物又は広告などに表示を付したことを意味する。また、これら表示においては、ケラチノサイトの増殖低下、ミノキシジルの活性化の不十分、スルホトランスフェラーゼの産生の低下、SULT1A1の発現の低下、BMPシグナルの抑制、WNTシグナルの活性化、又は、VEGFAの発現の低下等に起因する疾患や症状の予防又は治療のために用いられることに関する情報を含むことができる。
【実施例0029】
以下に実施例及び試験例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されない。
【0030】
(試験例1)各物質がケラチノサイト増殖に及ぼす影響
<試験方法>
ヒト毛包ケラチノサイト(ScienCell Research Laboratories)を96穴プレートに4.3×10cells/wellの細胞密度で播種し、CO2インキュベーター(CO濃度5%、温度37℃)中で培養した。培地には、Humedia-KG2(倉敷紡績)を用いた。1日間培養した後、各物質を目的濃度含有したHumedia-KG2に交換し、さらに2日間培養した。その後、Cell Counting Kit-8含有培地(Humedia-KG2に対し1/10容のCell Counting Kit-8(同人化学研究所)を混合したもの)に交換して、2時間培養し、マイクロプレートリーダー(Enspire、パーキンエルマー)で450nmの吸光度を測定し、そこからブランク穴の吸光度を引いた補正値を細胞数の指標とした。統計解析には、等分散性を確認した上で、パラメトリックDunnet検定を用いた。
<試験結果>
各群の450nm吸光度補正値の測定結果を図1に示す。ジフェンヒドラミン塩酸塩、グリチルレチン酸又はヒノキチオール添加により吸光度の増加が見られ、ケラチノサイトの増殖が確認された。このことから、ジフェンヒドラミン塩酸塩、グリチルレチン酸及びヒノキチオールにケラチノサイト増殖促進作用があることが確認された。
【0031】
(試験例2)各物質がケラチノサイトの遺伝子発現に及ぼす影響
<試験方法>
ヒト毛包ケラチノサイト(ScienCell Research Laboratories)を24穴プレートに2.5×10 cells/wellの細胞密度で播種し、CO2インキュベーター(CO2濃度5%、温度37℃)中で培養した。培地には、Humedia-KG2(倉敷紡績)を用いた。1日間培養した後、各物質を目的濃度含有したHumedia-KG2に交換し、さらに1又は2日間培養した。その後、RNeasy Mini Kit(キアゲン)を用いて、キット指定のプロトコールに従い、細胞からRNAを回収した。本RNAを鋳型として、Prime Script RT Master mix(タカラバイオ)を用いた逆転写反応によりcDNAを合成した。合成したcDNAから、リアルタイムPCRシステム(Step One Plus、サーモフィッシャーサイエンティフィック)により、標的遺伝子のmRNAの発現量をTB Green Premix Ex Taq II(タカラバイオ)を用いてSYBR Green法で測定した。そして標的遺伝子の発現量を同様に測定した内部標準遺伝子であるGAPDHの発現量により補正した。統計解析には、等分散性を確認した上で、studentのt検定を用いた。等分散性が確認できなかった群間(図8におけるコントロール群とジフェンヒドラミン塩酸塩群)の比較には、welchのt検定を用いた。試験例2及び3で使用したプライマーの情報は下記表1に示す通りである。
【0032】
【表1】
【0033】
<試験結果>
各化合物の毛包ケラチノサイトにおける、SULT1A1発現に及ぼす影響を評価した結果を図2に示す。ジフェンヒドラミン塩酸塩、グリチルレチン酸又はヒノキチオール添加によりSULT1A1の発現増加が確認された。このことから、これらの化合物にSULT1A1産生促進作用、毛包組織におけるスルホトランスフェラーゼ産生促進作用及びミノキシジルの代謝活性化作用があることが確認された。
【0034】
各化合物の毛包ケラチノサイトにおける、FST発現に及ぼす影響を評価した結果を図3に示す。ジフェンヒドラミン塩酸塩又はグリチルレチン酸の添加により、FSTの発現増加が確認された。このことから、これらの化合物にFST産生促進作用、BMPシグナルの抑制作用があることが確認された。
【0035】
各化合物の毛包ケラチノサイトにおける、LEF1発現に及ぼす影響を評価した結果を図4に示す。グリチルレチン酸又はヒノキチオールの添加により、LEF1の発現増加が確認された。このことから、これらの化合物にLEF1産生促進作用があることが確認された。
各化合物の毛包ケラチノサイトにおける、AXIN2発現に及ぼす影響を評価した結果を図5に示す。グリチルレチン酸又はヒノキチオールの添加により、AXIN2の発現増加が確認された。このことから、これらの化合物にAXIN2産生促進作用があることが確認された。
LEF1及びAXIN2の結果から、グリチルレチン酸及びヒノキチオールには、WNTシグナルの活性化作用があることが確認された。
【0036】
各化合物の毛包ケラチノサイトにおける、FGF2発現に及ぼす影響を評価した結果を図6に示す。ジフェンヒドラミン塩酸塩、グリチルレチン酸又はヒノキチオールの添加により、FGF2の発現増加が確認された。このことから、これらの化合物にFGF2産生促進作用があることが確認された。
【0037】
各化合物の毛包ケラチノサイトにおける、KITL発現に及ぼす影響を評価した結果を図7に示す。ジフェンヒドラミン塩酸塩、グリチルレチン酸又はヒノキチオールの添加により、KITLの発現増加が確認された。このことから、これらの化合物にKITL産生促進作用があることが確認された。
【0038】
各化合物の毛包ケラチノサイトにおける、COL17A1発現に及ぼす影響を評価した結果を図8に示す。ジフェンヒドラミン塩酸塩又はヒノキチオールの添加により、COL17A1の発現増加が確認された。このことから、これらの化合物にCOL17A1産生促進作用があることが確認された。
【0039】
(試験例3)各物質が毛乳頭細胞の遺伝子発現に及ぼす影響
<試験方法>
ヒト毛乳頭細胞(Cell Applications)を6穴プレートに播種し、CO2インキュベーター(CO2濃度5%、温度37℃)中で培養した。培地には、12%FBS(サーモフィッシャーサイエンティフィック)及び規定量のペニシリン・ストレプトマイシン(サーモフィッシャーサイエンティフィック)を含むMEM(ナカライテスク)を用いた。60~70%コンフルエントになるまで培養した後、各物質を目的濃度含有したMEM培地に交換し、さらに1日間培養した。また、一部実験については、紫外線による影響も評価した。その場合は、各物質を目的濃度に含有したMEMに交換した20時間後から、紫外線(UVA、365nm)を5J/cm照射する操作を追加した。いずれの場合も培地交換から24時間後に、RNeasy Mini Kit(キアゲン)を用いて、キット指定のプロトコールに従い、細胞からRNAを回収した。本RNAを鋳型として、Prime Script RT Master mix(タカラバイオ)を用いた逆転写反応によりcDNAを合成した。合成したcDNAから、リアルタイムPCRシステム(Step One Plus又は7500Fast、いずれもサーモフィッシャーサイエンティフィック)により、標的遺伝子のmRNAの発現量をFast SYBR Green Master Mix(サーモフィッシャーサイエンティフィック)を用いてSYBR Green法で測定した。そして標的遺伝子の発現量を同様に測定した内部標準遺伝子であるTBPの発現量により補正した。統計解析には、等分散性を確認した上で、studentのt検定を用いた。
【0040】
<試験結果>
各化合物の毛乳頭細胞における、NOG発現に及ぼす影響を評価した結果を図9に示す。ヒノキチオールの添加により、NOGの発現増加が確認された。また、紫外線の照射によりNOGの発現が低下すること、紫外線照射下においてヒノキチオールの添加によるNOGの発現増加はより顕著になることが確認された。このことから、ヒノキチオールにNOG産生促進作用があることが確認された。
各化合物の毛乳頭細胞における、BMP2発現に及ぼす影響を評価した結果を図10に示す。グリチルレチン酸の添加により、BMP2の発現低下が確認された。また、紫外線の照射によりBMP2の発現が増加すること、紫外線照射下においては、グリチルレチン酸の添加によるBMP2の発現低下はより顕著になること、さらにヒノキチオールによってもBMP2の発現低下が起こることが確認された。このことから、グリチルレチン酸及びヒノキチオールに、BMP2産生抑制作用があることが確認された。
NOG及びBMP2結果から、グリチルレチン酸及びヒノキチオールに、BMPシグナルの抑制作用があることが確認された。
【0041】
各化合物の毛乳頭細胞における、FGF2発現に及ぼす影響を評価した結果を図11に示す。グリチルレチン酸又はヒノキチオールの添加により、FGF2の発現増加が確認された。このことから、これらの化合物にFGF2産生促進作用があることが確認された。
各化合物の毛乳頭細胞における、FGF7発現に及ぼす影響を評価した結果を図12に示す。グリチルレチン酸又はヒノキチオールの添加により、FGF7の発現増加が確認された。このことから、これらの化合物にFGF7産生促進作用があることが確認された。
各化合物の毛乳頭細胞における、VEGFA発現に及ぼす影響を評価した結果を図13に示す。ジフェンヒドラミン塩酸塩又はヒノキチオールの添加によりVEGFA発現増加が確認された。このことから、これらの化合物に、VEGFA発現促進作用があることが確認された。各化合物の毛乳頭細胞における、VCAN発現に及ぼす影響を評価した結果を図14に示す。グリチルレチン酸又はヒノキチオールの添加により、VCANの発現増加が確認された。また、紫外線の照射によりVCANの発現が低下すること、紫外線照射下においてグリチルレチン酸の添加によるVCANの発現増加はより顕著になることが確認された。このことから、グリチルレチン酸及びヒノキチオールにVCAN産生促進作用があることが確認された。
各化合物の毛乳頭細胞における、DKK1発現に及ぼす影響を評価した結果を図15及び16に示す。ジフェンヒドラミン塩酸塩又はヒノキチオールの添加により、DKK1の発現低下が確認された。このことから、これらの化合物にDKK1産生抑制作用があること、WNTシグナルの活性化作用があることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の頭髪用剤は、ケラチノサイトの増殖促進、ミノキシジルの代謝活性化等を介して、発育毛を促進したり、そのサポートをするための化粧品、医薬部外品、医薬品又は飲食品の分野に利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16