(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005312
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】低層建物の固有周期推定方法
(51)【国際特許分類】
G01M 7/02 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
G01M7/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022105442
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】近藤 貴士
(57)【要約】
【課題】構造計算を不要として、簡易かつ高精度に低層建物の固有周期を推定することのできる、低層建物の固有周期推定方法を提供すること。
【解決手段】鉄骨造の低層建物10の固有周期を推定する、低層建物の固有周期推定方法であり、低層建物10の固有周期:Tを以下の推定式(A)を用いて推定する。
【数1】
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄骨造の低層建物の固有周期を推定する、低層建物の固有周期推定方法であって、
前記低層建物の固有周期:Tを以下の推定式(A)を用いて推定することを特徴とする、低層建物の固有周期推定方法。
【数1】
【請求項2】
鉄骨造の低層建物の固有周期を推定する、低層建物の固有周期推定方法であって、
前記低層建物の固有周期:Tを以下の推定式(B)を用いて推定することを特徴とする、低層建物の固有周期推定方法。
【数2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低層建物の固有周期推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物(もしくは建築物)には、常時においては、地球自体の微動、鉄道を含む車両の走行による交通振動や工場設備等の稼働時の振動、風荷重による振動などのいわゆる環境振動に起因する常時微動が生じ、地震時においては、地震動の規模に応じて常時微動よりも振幅の大きな振動が一般に生じる。建物の建設においては、地震時の建物振動の検討もさることながら、上記する常時の微動レベルにおける建物障害の有無や住環境への影響を検討することも重要であり、その際に、建物の(水平)一次固有周期(もしくは固有周期)の算定が必要になる。建物の立設する地盤は、この環境振動によって地盤固有の周期で振動し易いことから、地盤の固有周期と建物の固有周期をずらすような設計を行うことができれば、環境振動に起因する建物の常時微動の共振を避けることができ、常時微動を可及的に低減することが可能になる。
【0003】
ところで、中高層建物、超高層建物等に関して、微動レベルにおける建物の固有周期は、構造計算によって算定される固有周期にほぼ等しくなることが一般的である。この構造計算では、まず、コンピュータ内において中高層建物等に関する二次元モデルや三次元モデルを作成し、この解析モデルに対して様々な静的荷重や動的荷重を載荷して解析モデルの構造安定性を検証していくことになる。このような構造計算に供される解析モデルは、構造躯体である柱や梁(これらは、構造躯体を構成する構造部材や一次部材などと称される)が、剛性や重量を備えた梁部材として連結されることにより形成される。すなわち、例えば6階以上の中高層建物や超高層建物の設計では、一般に解析結果が構造躯体によって支配されることから、外壁や間仕切壁(界壁を含む)、間柱等の二次部材(一次部材以外の部材、非構造部材などとも称される)が解析モデルに含まれることは一般にない。
【0004】
しかしながら、例えば5階建て以下等の低層建物(例えば一般の戸建て住宅や、低層マンションなど)では、構造躯体以外の二次部材が建物全体の剛性に与える影響が大きくなり、建物仕様によっては建物の剛性が二次部材によって支配され、むしろ構造躯体の剛性を無視できるものもあることが本発明者等によって特定されている。
【0005】
建築基準法には、一次固有周期に関する推定式(平成19年国土交通省告示第597号)が規定されており、当該推定式は、建築物の高さと、建築物の構造仕様(鉄骨造、鉄筋コンクリート造等)を変数とする式であり、具体的には、固有周期:T=h(0.02+0.01α)で、hは建物の高さ、αは鉄骨造で1、鉄筋コンクリート造で0といった式である。また、その他、日本建築学会(AIJ:Architectural Institute of Japan)により提案される一次近似式:T=0.0202h等も存在する。
【0006】
これらの推定式は、低層建物から高層建物まで一律に適用されているが、本発明者等によれば、大地震時における振動が顕著な高層建物の固有周期の推定にはおよその妥当性を示す一方で、常時微動における振動が顕著な低層建物の固有周期に関しては改善の余地があることもまた特定されている。
【0007】
このような低層建物の固有振動数(固有周期の逆数)の推定(予測)方法に関し、建物の構造計算の結果に基づいて建物の躯体の地震時の固有振動数Vaを算出し、建物の外形と建物の一階部分の開口部の量とに基づいて補正係数Cを算出し、建物の躯体に関する地震時の固有振動数Va及び補正係数Cに基づいて建物の微小振動時の固有振動数Vbを算出する予測方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の建物の固有振動数予測方法は、構造計算を前提とする予測方法であることから、固有振動数の予測に手間と時間を要する。
【0010】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、構造計算を不要として、簡易かつ高精度に低層建物の固有周期を推定することのできる、低層建物の固有周期推定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成すべく、本発明による低層建物の固有周期推定方法の一態様は、
鉄骨造の低層建物の固有周期を推定する、低層建物の固有周期推定方法であって、
前記低層建物の固有周期:Tを以下の推定式(A)を用いて推定することを特徴とする。
【0012】
【0013】
本態様によれば、鉄骨造の低層建物の高さと外形寸法の一部のみを設定することにより、従来一般に適用されている、高層建物の固有周期の推定に妥当性を有している建築基準法に規定される一次固有周期の推定式に代わり、鉄骨造の低層建物の固有周期を高精度に推定することができる。ここで、建築物の一次固有振動数は一次固有周期の逆数であることから、建築物の一次固有振動数も同様に、建築物の高さと外形寸法の一部のみにより決定されることになる。
【0014】
本発明者等は、低層建物に関しては上記するように二次部材の影響が大きく、中でも外壁による付加剛性の影響が大きいことに着目し、低層建物の高さに加えて、外壁の要素を固有振動方向の建物長さによって表し、これら2つの変数を設定することにより、高精度でかつ簡易に鉄骨造の低層建物の固有周期を推定することとした。ここで、「固有振動方向の建物長さ」に関し、低層建物の固有振動方向に沿う複数の建物長さがある場合は、最も長い建物長さが適用される。
【0015】
上記推定式(A)により、鉄骨造の低層建物の固有周期(もしくは固有振動数)を高い精度で推定できることが実証されている。このように、本態様の低層建物の固有周期推定方法によれば、鉄骨造の低層建物の固有周期の推定に当たり、コンピュータを用いた建物の構造計算を一切不要としながら、鉄骨造の低層建物の固有周期を精度よく推定することができる。
【0016】
尚、本態様の低層建物の固有周期推定方法は、新規の低層建物をデザインする段階のさらに初期の段階、例えばラフなスケッチのみがある段階において、迅速かつ簡易に低層建物の固有周期の推定を可能にする。この段階で低層建物の固有周期を推定でき、例えば低層建物が建設される地盤の固有周期(もしくは固有振動数)が特定されていれば、双方の一致度を短時間に確認でき、双方が一致しないようにして(共振しないようにして)低層建物の初期のデザインを行うことができる。すなわち、過去の推定方法や予測方法のように、低層建物のデザインが決定し、これをコンピュータ内でモデル化して構造計算を実行し、計算結果に基づく固有周期と地盤の固有周期を比較し、仮に双方の固有周期が一致する場合は低層建物のデザインを見直し、再度の構造計算を行って固有周期の確認を行うといった手間のかかる方法とは明らかに異なる方法となる。
【0017】
また、本発明による低層建物の固有周期推定方法の他の態様は、
鉄骨造の低層建物の固有周期を推定する、低層建物の固有周期推定方法であって、
前記低層建物の固有周期:Tを以下の推定式(B)を用いて推定することを特徴とする。
【0018】
【0019】
本態様によれば、推定式(A)における固有振動方向の建物長さに代えて、固有振動方向に対して水平面上で直交する方向の建物長さを変数とした推定式(B)によっても、鉄骨造の低層建物の固有周期を高精度に推定することができる。ここで、「固有振動方向に対して水平面上で直交する方向の建物長さ」に関し、低層建物の固有振動方向に対して水平面上で直交する方向に沿う複数の建物長さがある場合は、最も長い建物長さが適用される。
【発明の効果】
【0020】
以上の説明から理解できるように、本発明の低層建物の固有周期推定方法によれば、構造計算を不要として、簡易かつ高精度に低層建物の固有周期を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施形態に係る固有周期推定方法が適用される、低層建物の一例の斜視図である。
【
図2】実施形態に係る固有周期推定方法が適用される、低層建物の他の例の斜視図である。
【
図3A】建築基準法に規定される固有周期の推定式(告示式)による推定固有周期と実測固有周期の相関性を示すグラフである。
【
図3B】AIJによる固有周期の推定式(提案式)による推定固有周期と実測固有周期の相関性を示すグラフである。
【
図4A】推定式(A)でα=0.02のときの、推定固有周期と実測固有周期の相関性を示すグラフである。
【
図4B】推定式(A)でα=0.025のときの、推定固有周期と実測固有周期の相関性を示すグラフである。
【
図4C】推定式(A)でα=0.035のときの、推定固有周期と実測固有周期の相関性を示すグラフである。
【
図5A】推定式(B)でα=0.02のときの、推定固有周期と実測固有周期の相関性を示すグラフである。
【
図5B】推定式(B)でα=0.025のときの、推定固有周期と実測固有周期の相関性を示すグラフである。
【
図5C】推定式(B)でα=0.035のときの、推定固有周期と実測固有周期の相関性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、実施形態に係る低層建物の固有周期推定方法について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0023】
[実施形態に係る固有周期推定方法]
はじめに、
図1乃至
図3を参照して、実施形態に係る固有周期推定方法について説明する。ここで、
図1と
図2はいずれも、実施形態に係る固有周期推定方法が適用される、低層建物の一例の斜視図である。また、
図3は、建築基準法に規定される固有周期の推定式(告示式)と、AIJによる固有周期の推定式(提案式)を示すグラフに対して、低層建物の固有周期の実測値をプロットした図である。
【0024】
実施形態に係る固有周期推定方法は、鉄骨造であってかつ5階以下の低層建物の固有周期の推定に適用されるが、6階以上の中高層建物への適用を何等排除するものではない。しかしながら、以下で説明するように、低層建物に適用した際に推定される固有周期の精度が非常に高いことから、実施形態に係る固有周期推定方法は低層建物に適用されるのが望ましい。
図1と
図2はいずれも、実施形態に係る固有周期推定方法が適用される5階以下の鉄骨造の低層建物の一例として、3階建ての低層建物を例示する。ここで、
図1と
図2は、低層建物の概略的なプロポーションを説明するための図であり、ドアや窓、屋根、バルコニー等の図示は省略している。
【0025】
図1に示す鉄骨造の低層建物10は、平面視矩形で、高さHの3階建ての低層建物である。一方、
図2に示す鉄骨造の低層建物20は、平面視L型で、高さHの3階建ての低層建物である。各図ともに、低層建物10、20の平面視において、建物の一辺に沿う長さが固有振動方向の建物長さ:Wpであり、これに対して水平面上で直交する建物の他の辺の長さが固有振動方向に対して水平面上で直交する方向の建物長さ:Woである。図示例において、WpとWoの設定は逆に設定されてもよい。ここでは、2種類の代表的な平面視形状の低層建物を例示しているが、平面視形状がコの字型等、その他の平面視形状の建物も推定式の適用対象となる。
【0026】
ここで、
図3Aと
図3Bを参照して、告示式とAIJ提案式による推定固有周期と実測固有周期の相関性に関して考察する。ここで、
図3Aは、建築基準法に規定される固有周期の推定式(告示式)による推定固有周期と実測固有周期の相関性を示すグラフであり、
図3Bは、AIJによる固有周期の推定式(提案式)による推定固有周期と実測固有周期の相関性を示すグラフである。実測値は、平面視形状が矩形やL型の低層建物10,20を主として含む、鉄骨造の低層建物の固有周期である。
図3Aと
図3Bにおいて、45度方向のグラフ(Y=Xのグラフ)は100%の相関があることを意味しており、その周辺にあるドット(推定値と実測値の結果)に基づいて誤差範囲を示している。尚、告示式とAIJ提案式に関して算出した決定係数はいずれも0.433であり、相関係数はいずれも0.658である。
【0027】
図3Aより、告示式による推定固有周期は、実測固有周期に対して-50%~+30%程度の範囲に誤差が分散していることが分かる。一方、
図3Bより、AIJ提案式による推定固有周期は、実測固有周期に対して-30%~+50%を大きく超える範囲に誤差が分散していることが分かる。
【0028】
このように、一般に適用されている告示式とAIJ提案式はいずれも、低層建物(鉄骨造の低層建物)の固有周期を高い精度で推定しているとは言い難いことから、本発明者等は、低層建物の固有周期に関して、二次部材の影響が大きく、中でも外壁による付加剛性の影響が大きいことに着目し、外壁により規定される平面形状や平面寸法による影響について検証することとした。
【0029】
告示式とAIJ提案式はいずれも、建築物の高さのみにより決定されることになるが、実際には、建築物の固有周期は、以下の式(C)より、建築物の質量の平方根に比例し、剛性の平方根に反比例するという関係性が一般に知られている。
【0030】
【0031】
ここで、
図1に示す低層建物10を例に式(C)を検証する。質量は、建物の体積に係数pを乗じた値とすると、M=p×Wp×Wo×Hとなる。また、剛性を建物のせん断剛性とした場合、このせん断剛性は、係数qを含んで、K=q×Wp×Wo×1/Hとなり、これらを式(C)に代入することにより、以下の推定式(D)が導出される。
【0032】
【0033】
推定式(D)は建築物の高さのみにより決定される式であり、αの値により、告示式とAIJ提案式が導出されることになる。
【0034】
ここで、推定式(D)を導く過程で、建物のせん断剛性は一様な材を想定している。しかしながら、実際の建物は、断面に一様な剛性を有しておらず、特に低層建物においては、上記するように外壁による付加剛性の影響が大きいことから、固有振動方向の固有周期の検討の際のせん断剛性は、K=q'×Wo×1/Hとし、固有振動方向に対して水平面上で直交する方向の固有周期の検討の際のせん断剛性は、K=q'×Wp×1/Hとすると、それぞれの式を展開することにより、以下の推定式(A)、(B)が導出される。
【0035】
【0036】
【0037】
本発明者等によれば、固有振動方向の建物長さを変数とする推定式(A)と、固有振動方向に対して水平面上で直交する方向の建物長さを変数とする推定式(B)とは、第2係数のβとγが若干相違するものの、第1変数のαはいずれも同様の範囲内で式を規定することができ、いずれも高い精度で低層建物の固有周期を推定できることを特定している。
【0038】
推定式(A)、(B)はいずれも、告示式とAIJ提案式のように高さHのみを変数とするものでなく、高さHに加えて低層建物の一方向の長さWh,Woを変数としており、低層建物の一方向の長さWh、Woの変数が告示式とAIJ提案式の補正要素になっていることが分かる。そして、建物の一方向の長さWh、Woは、上記するように、低層建物の固有周期に影響する二次部材である外壁の長さの一部であり、低層建物の固有周期の推定式の補正にとって好適な要素と言える。
【0039】
また、推定式(A)、(B)のいずれを適用する場合でも、低層建物の高さ:Hと、固有振動方向の建物長さ:Wpもしくは固有振動方向に対して水平面上で直交する方向の建物長さ:Woの2つの要素が設定されることで、低層建物の固有周期を簡易かつ速やかに推定することができる。従って、地盤の固有周期が既に特定されている場合には、低層建物のデザインの初期段階で地盤の固有周期と共振しない形態の低層建物の概略形状等を設定することができる。
【0040】
以下で詳説する、本発明者等による検証の結果、推定式(A)、(B)を適用することにより、鉄骨造の低層建物に関しては、従来一般に適用されている、告示式とAIJ提案式に基づいて算定される固有周期よりも、高い精度で低層建物の固有周期を特定できることが実証されている。
【0041】
尚、上記推定式(A)、(B)をコンピュータに格納し、コンピュータに推定式(A)、(B)を実行させるプログラムを作動することにより、鉄骨造の低層建物の固有周期を迅速に算定することが可能になる。図示を省略するが、このコンピュータは、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disc Drive)、NVRAM(Non-Volatile RAM)、入力装置、表示装置等を有し、これら各部が通信可能にバスにて接続されている。ROMには、各種のプログラムやプログラムによって利用されるデータ等が記憶されている。RAMは、プログラムをロードするための記憶領域や、ロードされたプログラムのワーク領域として用いられる。CPUは、RAMにロードされたプログラムを処理することにより、各種の機能を実現する。HDDには、プログラムやプログラムが利用する各種のデータ等が記憶される。NVRAMには、各種の設定情報等が記憶される。
【0042】
例えば、設計者が入力装置に低層建物の各種条件(建物の高さ:H、固有振動方向の建物長さ:Wpもしくは固有振動方向に対して水平面上で直交する方向の建物長さ:Wo)を入力すると、ROMに格納されている推定式(A)、(B)がRAMに読み出される。これらの入力条件等に基づいてCPUにより推定式(A)、(B)がRAMに読み出され、推定式による算定が実行されることにより、対象となる鉄骨造の低層建物の固有周期が算定される。
【0043】
[推定式(A)、(B)の精度を検証した実験とその結果]
本発明者等は、既述する推定式(A)、(B)を多数の既存の低層建物に適用して固有周期を算定するとともに、既存の低層建物における固有周期を実測にて求め、これら推定固有周期と実測固有周期の相関を検証する実験を行った。本実験において、検証対象の建物はいずれも鉄骨造であり、3階建て乃至5階建ての低層建物である。また、検証対象の建物の形状は概ね、
図1と
図2に示す低層建物10,20の形状である。
【0044】
図4A乃至
図4Cはいずれも、推定式(A)による推定固有周期と実測固有周期の相関性を示すグラフであり、それぞれ、α=0.02、0.025、0.035のときのグラフである。一方、
図5A乃至
図5Cはいずれも、推定式(B)による推定固有周期と実測固有周期の相関性を示すグラフであり、それぞれ、α=0.02、0.025、0.035のときのグラフである。既に説明している通り、
図4と
図5において、45度方向のグラフ(Y=Xのグラフ)は100%の相関があることを意味しており、その周辺にあるドット(推定値と実測値の結果)に基づいて誤差範囲を示している。尚、推定式(A)、(B)に関して算出した決定係数はそれぞれ、0.610、0.497であり、相関係数はそれぞれ、0.781、0.705である。
【0045】
図4A乃至
図4Cより、α=0.02の場合は+30%当たりに誤差が集中し、α=0.035の場合は-30%当たりに誤差が集中し、α=0.025の場合は±10%当たりに誤差が集中することが特定されている。
【0046】
従って、いずれも、
図3Aと
図3Bに示す告示式やAIJ提案式による推定固有周期と比べて小さな誤差範囲となっており、α=0.025当たりで誤差が最小になっていることから、推定式(A)において、αの範囲を0.02乃至0.035の範囲に設定する。
【0047】
一方、
図5A乃至
図5Cより、α=0.02の場合は+30%当たりに誤差が集中し、α=0.035の場合は-30%当たりに誤差が集中し、α=0.025の場合は±10%当たりに誤差が集中することが特定されている。
【0048】
従って、いずれも、
図3Aと
図3Bに示す告示式やAIJ提案式による推定固有周期と比べて小さな誤差範囲となっており、α=0.025当たりで誤差が最小になっていることから、推定式(B)においも推定式(A)と同様に、αの範囲を0.02乃至0.035の範囲に設定する。
【0049】
本実験結果より、鉄骨造の低層建物の固有周期の推定においては、推定式(A)もしくは(B)を適用することにより、高い精度で、かつ迅速に固有周期の推定が実現できることが実証されている。
【0050】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、また、本発明はここで示した構成に何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0051】
10,20:低層建物