IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大和ハウス工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-パーティションと空間区画構造 図1
  • 特開-パーティションと空間区画構造 図2
  • 特開-パーティションと空間区画構造 図3
  • 特開-パーティションと空間区画構造 図4
  • 特開-パーティションと空間区画構造 図5
  • 特開-パーティションと空間区画構造 図6
  • 特開-パーティションと空間区画構造 図7
  • 特開-パーティションと空間区画構造 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005313
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】パーティションと空間区画構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 2/74 20060101AFI20240110BHJP
   E04B 1/82 20060101ALI20240110BHJP
   G10K 11/16 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
E04B2/74 551E
E04B1/82 M
G10K11/16 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022105443
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】玄 晴夫
【テーマコード(参考)】
2E001
5D061
【Fターム(参考)】
2E001DF04
2E001FA07
2E001GA28
2E001GA81
2E001HA33
2E001HD01
5D061CC20
5D061DD06
(57)【要約】
【課題】パーティションの厚みを厚くすることなく、遮音性能に優れているパーティションと、このパーティションにより形成される空間区画構造を提供すること。
【解決手段】室内空間60の床61と天井62の間に配設される、パーティション50であり、床61の上に立設されて室内空間60を区画する、隔壁10と、隔壁10の上方から側方に張り出す、張り出し片20とを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
室内空間の床と天井の間に配設される、パーティションであって、
前記床の上に立設されて前記室内空間を区画する、隔壁と、
前記隔壁の上方から側方に張り出す、張り出し片とを有することを特徴とする、パーティション。
【請求項2】
前記張り出し片の上に、吸音材が設置されていることを特徴とする、請求項1に記載のパーティション。
【請求項3】
前記張り出し片の少なくとも一部が、上方に傾斜している、もしくは、上方に湾曲している、もしくは上方に屈曲していることにより、該張り出し片の内部に前記吸音材が収容されることを特徴とする、請求項2に記載のパーティション。
【請求項4】
前記張り出し片が、前記隔壁から左右の2方向に張り出していることを特徴とする、請求項3に記載のパーティション。
【請求項5】
前記吸音材の厚みが、15cm乃至70cmの範囲にあることを特徴とする、請求項2に記載のパーティション。
【請求項6】
室内空間がパーティションによって複数の区間に区画される、空間区画構造であって、
前記室内空間の床の上に、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のパーティションが設置され、
前記室内空間の天井と前記パーティションの天端との間に、排煙上有効な開放高さが確保されていることを特徴とする、空間区画構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーティションと空間区画構造に関する。
【背景技術】
【0002】
事務所やオフィス、店舗等においては、フロアを複数のブースに分けるパーティションが設置され、各ブースにおける会話が他のブースに漏れない、もしくは漏れ難くする措置が講じられる場合がある。パーティションには、床面に固定される形態の他、キャスターを備えて移動自在な形態もあるが、いずれの形態であっても、パーティションを適用することにより、複数のブースが様々な態様で配置された空間区画構造をフロアに提供することができる。また、各パーティションを移動させることにより、フロアの模様替えも比較的容易に行うことが可能になる。
【0003】
従来のパーティションにおいては、音漏れ軽減性能もしくは遮音性能を高めるために、その内部もしくは表面に吸音材が設けられているものが提案されている。例えば、特許文献1に記載されるパーティションは、平板状の本体部を備え、本体部は、第1の領域と、第1の領域よりも高い吸音率を有して、床面に立設された際に第1の領域よりも床面に近くなる位置に設けられた第2の領域とを備えている。本体部は、吸音材と、吸音材を挟持する一対の表面部材とを有し、表面部材にはスチール板やパンチングメタル等が適用され、吸音材にはグラスウールが適用され、表面部材を透過した音を吸音材にて吸音するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-188904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のパーティションをはじめとして、従来のパーティションは、平板状の芯材に吸音材が適用されていたり、平板状の芯材の表面に吸音材が設けられている形態が一般的である。ところで、音声の音域は一般に125Hz乃至500Hz程度と言われており、低音域に属しているが、従来一般に適用される厚み(せいぜい5cm程度)の吸音材では、会話の音声領域の吸音性能が高いとは言えない。そこで、低音域の音声を十分に吸音できる厚みの吸音材をパーティションに適用しようとすると、今度は、パーティションの厚みが厚くなり過ぎ、ブースのスペースに影響を及ぼし得ることから好ましくない。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、パーティションの厚みを厚くすることなく、遮音性能に優れているパーティションと、このパーティションにより形成される空間区画構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成すべく、本発明によるパーティションの一態様は、
室内空間の床と天井の間に配設される、パーティションであって、
前記床の上に立設されて前記室内空間を区画する、隔壁と、
前記隔壁の上方から側方に張り出す、張り出し片とを有することを特徴とする。
【0008】
本態様によれば、床の上に立設される隔壁の上方から側方に張り出す張り出し片を有することにより、隔壁の一方側(のブース等)から発せられた音声がパーティションの上方から隔壁の他方側(のブース等)へ伝搬する際の伝搬経路長さ(もしくは、回り込み長さ)を長くすることができる。このように、音声の伝搬経路長さが長くなることにより、音声(もしくは音量)を低減することが可能になる。すなわち、本態様のパーティションは、吸音材にて音声を吸音して遮音性能を高める技術思想を転換して、音声が可及的に長い伝搬経路を伝搬する過程で音声を低減して遮音性能を高める技術思想である。
【0009】
ここで、「パーティションの上方から側方に張り出す」とは、パーティションの上端から側方に張り出し片が張り出す形態の他にも、パーティションの上端から下方に下がった位置(隔壁の上方の途中位置)から張り出し片が側方に張り出す形態を含んでいる。
【0010】
また、例えば、隔壁の広幅面の一方側へ1つの張り出し片が張り出す形態の他にも、複数(例えば2つ)の張り出し片が上下方向に間隔を置いて側方に張り出す形態であってもよい。例えば上下関係にある2つ(2段)の張り出し片が側方へ張り出す形態では、音声の伝搬経路長さがさらに長くなり、遮音性能が一層高められる。
【0011】
パーティションを構成する隔壁は、例えば平板状を呈しているが、安定した立設姿勢を確保する観点から、脚部が床面に向かって広がっていてもよい。また、隔壁の下端にキャスター等が設けられている、移動式の形態であってもよいが、隔壁の下端に隙間があると、この隙間を介して音漏れが生じることから、キャスターは隔壁の下端から内部に回転自在に埋め込まれ、キャスターの一部が僅かに下方に露出することにより、音漏れを抑制しながら移動自在とするのが望ましい。
【0012】
また、本発明によるパーティションの他の態様は、
前記張り出し片の上に、吸音材が設置されていることを特徴とする。
【0013】
本態様によれば、張り出し片の上に吸音材が設置されていることにより、張り出し片による音声の伝搬経路長さが長くなることによる音声低減効果に加えて、吸音材による音声吸音効果が付加され、遮音性能をより一層高めることができる。また、側方に張り出す張り出し片の上方に吸音材を載置できることから、吸音材が隔壁の厚みを増加させて、ブースのスペースに影響を及ぼすといった恐れは生じない。吸音材は、張り出し片の上方に単に載置される形態であってもよいが、張り出し片の天端に対して接着剤等を介して固定される形態や、張り出し片の天端から上方に突出する突き刺し部材等に吸音材が突き刺されることにより固定される形態であると、張り出し片の天端における吸音材の位置ずれや天端からの落下を防止できることから好ましい。
【0014】
また、本発明によるパーティションの他の態様は、
前記張り出し片の少なくとも一部が、上方に傾斜している、もしくは、上方に湾曲している、もしくは上方に屈曲していることにより、該張り出し片の内部に前記吸音材が収容されることを特徴とする。
【0015】
本態様によれば、張り出し片の少なくとも一部が上方に傾斜している等、吸音材を収容する形状を呈していることにより、張り出し片の収容空間に吸音材を収容することができるため、吸音材の位置ずれや落下等を防止して、安定した状態で張り出し片の上方に吸音材を載置することができる。
【0016】
また、本発明によるパーティションの他の態様は、
前記張り出し片が、前記隔壁から左右の2方向に張り出していることを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、張り出し片が隔壁から左右の2方向に張り出していることにより、張り出し片が隔壁から左右のいずれか一方の1方向に張り出している形態に比べて、音声の伝搬経路長さがより一層長くなることから、遮音性能が一層高められる。
【0018】
例えば、2方向の斜め上方に傾斜した張り出し片により、断面が三角形の収容空間が形成されることから、この三角形の収容空間に収容される三角柱状の吸音材が適用できる。また、2方向に水平に張り出し片が延びている、上方が開放した箱型の形態では、横長の四角柱状の吸音材が適用できる。
【0019】
また、本発明によるパーティションの他の態様は、
前記吸音材の厚みが、15cm乃至70cmの範囲にあることを特徴とする。
【0020】
本態様によれば、吸音材の厚みが15cm乃至70cmの範囲にあることにより、音声を吸音材にて効果的に吸収することができる。吸音材の厚みが15cm乃至70cmの範囲であることから、従来一般の吸音材に比べて厚みが格段に厚くなっているものの、張り出し片の上方に吸音材が載置されることから、吸音材が隔壁の厚みを増加させて、ブースのスペースに影響を及ぼすといった恐れは生じない。
【0021】
また、本発明による空間区画構造の一態様は、
室内空間がパーティションによって複数の区間に区画される、空間区画構造であって、
前記室内空間の床の上に、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のパーティションが設置され、
前記室内空間の天井と前記パーティションの天端との間に、排煙上有効な開放高さが確保されていることを特徴とする。
【0022】
本態様によれば、室内空間の床の上に本発明のパーティションが設置され、室内空間の天井とパーティションの天端との間に排煙上有効な開放高さが確保されていることにより、法律上の防煙区画を形成しながら、遮音性能の高い空間区画構造を形成できる。例えば、建築基準法施工令第126条の2第1項の規定によれば、間仕切壁の上部が排煙上有効に開放されている条件を満たすものとして、間仕切壁の上部が天井面から50cm以下までの部分が常時開放されていることが規定されている。そこで、例えば、「排煙上有効な開放高さ」として50cm(以上)を規定できる。また、その他、消防法にも同様の規定があることから、例えば、建築基準法と消防法の双方の基準に基づいて「排煙上有効な開放高さ」を設定するのが好ましい。
【0023】
本態様では、張り出し片の上に吸音材が載置されていない形態では、張り出し片の上面と天井面との間に排煙上有効な開放高さが確保されるように、張り出し片の設置位置が設定される。一方、張り出し片の上に吸音材が載置される形態では、吸音材の上面と天井面との間に排煙上有効な開放高さが確保されるように、張り出し片の設置位置や吸音材の厚みが設定される。
【発明の効果】
【0024】
以上の説明から理解できるように、本発明のパーティションと空間区画構造によれば、パーティションの厚みを厚くすることなく、遮音性能に優れているパーティションと空間区画構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】第1実施形態に係るパーティションの一例の斜視図である。
図2】第1実施形態に係るパーティションの他の例の斜視図である。
図3】第1実施形態に係るパーティションのさらに他の例の斜視図である。
図4】第2実施形態に係るパーティションの一例の斜視図である。
図5】吸音材の厚みの設定方法を説明するための、音波の波形を示す図である。
図6】(a)、(b)、(c)はいずれも、第2実施形態に係るパーティションの他の例の正面図である。
図7】第1実施形態に係る空間区画構造の一例の側面図である。
図8】第2実施形態に係る空間区画構造の一例の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、各実施形態に係るパーティションと空間区画構造について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0027】
[実施形態に係るパーティション]
<第1実施形態>
はじめに、図1乃至図3を参照して、第1実施形態に係るパーティションの複数例について説明する。ここで、図1乃至図3はいずれも、第1実施形態に係るパーティションの一例の斜視図である。
【0028】
図1に示すパーティション50は、室内空間の床と天井の間に配設される、パーティションであり、床の上に立設されて室内空間を区画する隔壁10と、隔壁10の上方13から側方に張り出す張り出し片20とを有する。パーティション50において、隔壁10の上方とは上端であるが、上端から下方に下がった位置から張り出し片が側方に張り出す形態であってもよい。
【0029】
隔壁10は、その広幅面11A、11Bの平面視形状が矩形を呈し、各広幅面11A側と広幅面11B側に個別のブースを形成する壁である。隔壁10は、音声を伝搬させ難い無垢の壁であり、無機系ボードや木質系ボード、金属ボード、樹脂ボード等が適用できる。
【0030】
無機系ボードには、石膏ボードやケイ酸カルシウム板、セメント板等が含まれる。木質系ボードには、構造用合板や無垢材、集成材、単板積層材(LVL:Laminated Veneer Lumber)、CLT(Cross Laminated Timber)等が含まれる。金属ボードには、アルミニウム板やスチール板等が含まれる。樹脂ボードには、ポリエチレンやポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリウレタン、熱可塑性エラストマー、合成ゴム等からなるボードが含まれる。また、無機系ボードと木質系ボード、金属ボード、樹脂ボードのうちの2種以上が板厚方向に積層されたハイブリッドボードであってもよい。いずれの素材が適用される場合でも、隔壁10の厚みは、音声が伝搬しない、もしくは伝搬し難い厚みに設定されればよく、過度に厚い厚みが設定される必要はない。
【0031】
一方、張り出し片20も、隔壁10と同素材の板材により形成されてよい。図示を省略するが、隔壁10の上端に対して張り出し片20が載置され、ビスや釘、ネジ、ボルト等により固定されてもよいし、例えば張り出し片20と隔壁10が同素材の金属や樹脂からなる場合は、一体成形によりパーティション50の全体が製作されてもよい。
【0032】
パーティション50では、隔壁10の上端13に対して1枚の張り出し片20が左右の2方向に均等に張り出す態様で固定されており、正面視Tの字状を呈している。隔壁10の高さがt1、張り出し片20のうち、隔壁10の上端13から2方向へ張り出す張り出し長さがt3である。また、室内空間が隔壁10の広幅面11A側と広幅面11B側に2つの空間(ブース)に分割された際に、一方側の空間における高さ位置P1は、複数のブース利用者の会話位置(音声の発信位置)であり、他方側の空間における高さ位置P2は、当該ブースにてデスクワークを行う利用者の位置である。ここで、張り出し片20の左右の張り出し長さが相違する形態であってもよい。
【0033】
従来一般のパーティションは、隔壁のみを有し、図1に示すような張り出し片20を備えていない。そのため、一方側の空間における高さ位置P1で発せられた音声は、隔壁を水平方向に伝播しないとした場合、隔壁の上端を回り込んで他方側の空間における高さ位置P2に到達する、点線で示すX0の伝搬経路を辿り、その伝搬経路長さは2×t2となる。
【0034】
これに対して、パーティション50では、隔壁10の上端13に2方向に張り出す張り出し片20があることにより、音声の伝搬経路は、隔壁10の上端13で方向を変え、張り出し片20の下面から天端21へ回り込み、天端21の幅:2×t3を経て他方側の空間における高さ位置P2に到達する、実線で示すX1の伝搬経路を辿る。この伝搬経路長さは、2×t2+3×t3程度となり、少なくとも、張り出し片20の張り出し長以上の長さ分だけ、伝搬経路長さが長くなる。尚、実際には、以下の図7図8で示すように、天井と張り出し片の間で音声が交互に反射しながら伝搬されることから、伝搬経路長さはさらに長くなる。
【0035】
このように、音声の伝搬経路長さが長くなることにより、音声(もしくは音量)を低減することが可能になる。すなわち、パーティション50は、吸音材にて音声を吸音するパーティションと異なり、音声が可及的に長い伝搬経路を伝搬する過程で音声を低減して遮音性能を発揮するパーティションである。また、パーティション50においては、隔壁10の厚みは、透過する音声を遮蔽できる程度の厚みに設定されていればよく、過度に厚くする必要はないことから、隔壁の厚みが過度に厚くなって、ブースのスペースに影響を及ぼすといった恐れもない。
【0036】
ここで、パーティション50は、隔壁10の左右に張り出す1枚(1段)の張り出し片20を有しているが、例えば、張り出し片20の下方に、2段目の別途の張り出し片が隔壁10の左右の双方もしくはいずれか一方に固定されている形態(図示せず)であってもよい。この形態によれば、音声の伝搬経路長さをより一層長くすることが可能になる。
【0037】
図2に示すパーティション50Aは、パーティション50に比べて、張り出し長さが相対的に長い張り出し片20Aを有する。
【0038】
このように、張り出し長さの長い張り出し片20Aを有することにより、一方のブースから他方のブースへの音声の伝搬経路長さをより一層長くすることができ、遮音性能をより一層高めることができる。
【0039】
図3に示すパーティション50Bは、隔壁10の上端13から、左右の一方側のみに張り出している張り出し片20Bを有する。
【0040】
パーティション50Bによれば、一方のブースから他方のブースへの音声の伝搬経路長さはパーティション50に比べて短くなるものの、従来一般の隔壁のみを有するパーティションに比べて音声の伝搬経路長さを長くできることに加えて、パーティション50に比べて張り出し片20Bの寸法が1/2であることから、材量コストを削減でき、パーティションの製作コストの低減を図ることができる。
【0041】
<第2実施形態>
次に、図4乃至図6を参照して、第2実施形態に係るパーティションの複数例について説明する。ここで、図4は、第2実施形態に係るパーティションの一例の斜視図である。また、図5は、吸音材の厚みの設定方法を説明するための、音波の波形を示す図であり、図6(a)、(b)、(c)はいずれも、第2実施形態に係るパーティションの他の例の正面図である。
【0042】
図4に示すパーティション50Cは、図1に示すパーティション50の張り出し片20の天端21に吸音材30が載置されている点においてパーティション50と相違する。以下、図4乃至図6に示す各パーティションは、張り出し片によって音声の伝搬経路長さを長くすることに加えて、吸音材による吸音性能が付加されたパーティションである。
【0043】
パーティション50Cでは、張り出し片20の天端21に吸音材30が単に載置される形態であってもよいが、吸音材の横ずれや落下を防止する観点から、張り出し片20の天端21と吸音材30を接着剤や両面テープを介して固定する形態、張り出し片20の天端21から上方に突起が突出し、突起に吸音材30を突き刺して固定する形態等が好ましい。
【0044】
吸音材30には、グラスウールの他、ウレタンやポリウレタンフォーム、メラミンフォーム、スポンジ、フェルト、不織布(ポリプロピレン不織布等)といった多孔質吸音材や繊維質吸音材等が適用できる。
【0045】
吸音材30の厚み:t4は、会話の音声の音域である、125Hz乃至500Hzの低音域を吸音材30が効果的に吸収可能な厚みに設定する。
【0046】
周波数:fは、音速:vを340m/秒として、波長:λは、λ=v/fの関係より、125Hzの場合の図5に示す1波長の長さは、340÷125=2.72mとなり、500Hzの場合の1波長の長さは、340÷600=0.68mとなる。
【0047】
音圧ゼロの地点から音のピークまでを吸音材にて吸収するとした場合、音のピークまでの長さである、1/4波長の厚みを備えていればよいとして、125Hzの場合は272cm÷4=68cmとなり、500Hzの場合は68cm÷4=17cmとなる。
【0048】
そこで、パーティション50Cでは、吸音材30の厚み:t4を、15cm乃至70cmの範囲に設定する。尚、従来のパーティションに適用されている吸音材の厚みがせいぜい5cm程度であることを勘案すると、吸音材30の厚みは格段に厚くなる。
【0049】
しかしながら、パーティション50Cでは、吸音材30が張り出し片20の天端21に載置されることから、吸音材が隔壁の厚みを増加させて、ブースのスペースに影響を及ぼすといった恐れは生じない。
【0050】
パーティション50Cによれば、張り出し片20の上に吸音材30が設置されていることにより、張り出し片20による音声の伝搬経路長さが長くなることによる音声低減効果に加えて、吸音材30による音声吸音効果が付加され、遮音性能をより一層高めることができる。
【0051】
図6には、3種のパーティションを示している。これらのパーティションはいずれも、張り出し片の形状を改良することにより、張り出し片の内部に吸音材を収容できるようにしたものである。
【0052】
図6(a)に示すパーティション50Dは、隔壁10の上端から左右の2方向へ上方に傾斜している張り出し片20Cを備え、張り出し片20Cにより形成される正面視三角形の収容空間に、相補的な正面視形状を備えた三角柱状の吸音材30Aが収容されている。
【0053】
ここで、例えば吸音材30Aの中央の厚み:t5が、15cm乃至70cmの範囲に設定される。
【0054】
パーティション50Dによれば、張り出し片20Cの上に吸音材30Aを単に載置した状態であっても、吸音材30Aの横ずれや張り出し片20Cからの落下を抑止できる。
【0055】
図6(b)に示すパーティション50Eは、隔壁10の上端に、正面視形状が上方に開放した半円形の張り出し片20Dを備え、張り出し片20Dにより形成される半円形の収容空間に、相補的な正面視形状を備えた半円柱状の吸音材30Bが収容されている。
【0056】
ここで、例えば吸音材30Bの半径の厚み:t6が、15cm乃至70cmの範囲に設定される。
【0057】
パーティション50Eによっても、張り出し片20Dの上に吸音材30Bを単に載置した状態にて、吸音材30Bの横ずれや張り出し片20Dからの落下を抑止できる。
【0058】
図6(c)に示すパーティション50Fは、隔壁10の上端に、正面視形状が上方に開口したコの字状の張り出し片20Eを備え、張り出し片20Eにより形成されるコの字状の収容空間に、相補的な正面視形状を備えた四角柱状の吸音材30Cが収容されている。
【0059】
ここで、例えば吸音材30Cの厚み:t7が、15cm乃至70cmの範囲に設定される。
【0060】
パーティション50Fによっても、張り出し片20Eの上に吸音材30Cを単に載置した状態にて、吸音材30Cの横ずれや張り出し片20Eからの落下を抑止できる。
【0061】
各パーティション50D,50E,50Fによっても、各張り出し片20C,20D,20Eによる音声の伝搬経路長さが長くなることによる音声低減効果に加えて、各音材30A,30B,30Cによる音声吸音効果が付加され、遮音性能をより一層高めることができる。
【0062】
[実施形態に係る空間区画構造]
<第1実施形態>
次に、図7を参照して、第1実施形態に係る空間区画構造の一例について説明する。ここで、図7は、第1実施形態に係る空間区画構造の一例の側面図である。
【0063】
オフィスビルの任意階にある床61と天井62の間には、室内空間60が形成されている。この室内空間60が、図2に示すパーティション50Aによって左右の2つのブース60B,60Aに区画されることにより、空間区画構造70が形成される。ここで、室内空間60には、2つ以上のパーティション50Aが設置されて、3つ以上のブースが形成されてもよいし、図1及び図3に示すパーティション50,50Bが適用されてもよいし、パーティション50,50A,50Bの2種以上が同じフロアに設置されてもよい。
【0064】
張り出し片20Aの天端21と天井62との間には、排煙上有効な開放高さ:t8が確保されている。排煙上有効な開放高さ:t8としては、建築基準法(建築基準法施工令等を含む)や消防法の規定に基づき、開放高さ:t8は50cm以上に設定される。
【0065】
例えば、ブース60Aにおいて複数人(図示例は2人)が会話をしており、その際に発せられる音声が、パーティション50Aを隔てたブース60Bにいる人に伝播される状況について説明する。
【0066】
ブース60Aにより発せられた音声は、張り出し片20Aを回り込み、天井62と張り出し片20Aの天端21の間の空間に伝播される。この空間では、音声は天井62と天端21に対して交互に反射する伝搬経路X2を経て空間を抜け、ブース60Bにいる人に伝播される。
【0067】
空間区画構造70では、パーティション50Aの張り出し片20Aにより、音声の伝搬経路長さが長くなることで音声が効果的に低減される。従って、空間区画構造70は、法律上の防煙区画を形成しながら、遮音性能の高い空間区画構造となる。
【0068】
<第2実施形態>
次に、図8を参照して、第2実施形態に係る空間区画構造の一例について説明する。ここで、図8は、第2実施形態に係る空間区画構造の一例の側面図である。
【0069】
空間区画構造70Aは、空間区画構造70を構成するパーティション50Aの張り出し片20Aの天端21に吸音材30Dが載置されている、パーティション50Gを有する点において、空間区画構造70と相違する。
【0070】
吸音材30Dの天端31と天井62との間には、排煙上有効な開放高さ:t9が確保されている。排煙上有効な開放高さ:t9は、既述するように50cm以上に設定される。
【0071】
ブース60Aにより発せられた音声は、張り出し片20Aと吸音材30Dを回り込み、天井62と吸音材30Dの天端31の間の空間に伝播される。この空間では、音声は天井62と天端31に対して交互に反射する伝搬経路X3を経て空間を抜け、ブース60Bにいる人に伝播される。
【0072】
空間区画構造70Aでは、パーティション50Gの張り出し片20Aにより、音声の伝搬経路長さが長くなることに加えて、吸音材30Dによって音声が吸音されることにより、音声が効果的に低減される。従って、空間区画構造70Aは、法律上の防煙区画を形成しながら、遮音性能の高い空間区画構造となる。
【0073】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0074】
10:隔壁
11A、11B:広幅面
12:脚部
13:上端(上方)
20,20A,20B,20C,20D,20E:張り出し片
21:天端
30,30A,30B,30C,30D:吸音材
31:天端
50,50A,50B,50C,50D,50E,50F,50G:パーティション
60:室内空間
61:床
62:天井
60A,60B:ブース
70,70A:空間区画構造
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8