(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053140
(43)【公開日】2024-04-15
(54)【発明の名称】焼入装置、および焼入方法
(51)【国際特許分類】
C21D 9/32 20060101AFI20240408BHJP
C21D 1/62 20060101ALI20240408BHJP
C21D 1/10 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
C21D9/32 B
C21D1/62
C21D1/10 A
C21D1/10 P
C21D1/10 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159195
(22)【出願日】2022-10-03
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】竹田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】金池 幸倫
(72)【発明者】
【氏名】播 佳伸
(72)【発明者】
【氏名】河上 剛
【テーマコード(参考)】
4K042
【Fターム(参考)】
4K042AA19
4K042BA10
4K042DA01
4K042DB01
4K042DC05
4K042DD04
4K042DE02
4K042EA01
4K042EA02
4K042EA03
(57)【要約】
【課題】焼き入れ後のワークの歪みを小さくする。
【解決手段】機械加工部210を一部有するワーク200の焼入装置100であって、ワーク200の一部である固定部220を固定する固定手段110と、高周波によって機械加工部210に焼き入れを実行する焼入手段120と、ワーク200の変位部230を変位させる変位装置130と、変位装置130を制御する制御装置140と、を備え、制御装置140は、焼き入れ前のワーク200の歪み量を取得するデータ取得部141と、取得した歪み量に基づいて、変位装置130による変位部230の変位位置を決定する位置決定部142と、焼入手段120による焼き入れ中に変位装置130を制御して変位部230を変位させる変位制御部143と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械加工が施された機械加工部を一部に有するワークに対し焼き入れを実行する焼入装置であって、
前記ワークの一部である固定部を固定する固定手段と、
高周波によって前記機械加工部に焼き入れを実行する焼入手段と、
前記ワークの前記固定部とは異なる部分である変位部を変位させる変位装置と、
前記変位装置を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
焼き入れ前の前記ワークの歪み量を取得するデータ取得部と、
前記歪み量に基づいて、前記変位装置による前記変位部の変位位置を決定する位置決定部と、
前記焼入手段による焼き入れ中に前記変位装置を制御して前記変位部を変位させる変位制御部と、を備える
焼入装置。
【請求項2】
前記機械加工部を形成することにより生じた前記ワークの歪み量を測定する測定装置を備え、
前記データ取得部は、前記測定装置から前記ワークの歪み量を取得する
請求項1に記載の焼入装置。
【請求項3】
前記ワークの焼入箇所を移動させる移動手段を備え、
前記位置決定部は、
前記焼入箇所に応じた複数の変位位置を決定し、
前記変位制御部は、
前記焼入箇所に応じて前記変位部の変位位置を変化させる
請求項1または2に記載の焼入装置。
【請求項4】
機械加工が施された機械加工部を一部に有するワークの焼入方法であって、
焼き入れ前の前記ワークの歪み量を取得し、
前記ワークの一部である固定部を固定手段により固定し、
前記ワークの前記固定部とは異なる部分である変位部の変位位置を、前記歪み量に基づいて決定し、
焼入手段により前記機械加工部に対し高周波焼き入れを実行し、
前記変位部を、変位装置を用いて前記変位位置に変位させる
焼入方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一部に機械加工が施されたワークを高周波加熱により焼き入れを行う焼入装置、および焼入方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ワークに対して部分的に高周波焼き入れを行う装置が存在している。特許文献1には、このような焼入装置において、焼き入れ後のワークの歪み量に基づき、焼き入れが実行されているワークの一部分に所定の方向から圧力を付与することで、焼き入れによる歪みの発生を抑制する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、ワークの焼き入れ後の歪みを小さくするために焼入時のワークに部分的に加える圧力の大きさや方向は、焼入後のワークの歪み量により決定される。歪み量の決定には作業者の経験値などが必要となる。この結果、焼き入れ後のワーク間の歪み量には大きなバラツキが発生する。歪み量のバラツキが大きくなると、焼き入れ後に歪取り工程が必要になったり、焼き入れ時に付与する圧力などをこまめに調整したりする必要がある。
【0005】
本願発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、焼き入れ後のワークの歪み量のバラツキを抑えることができる焼入装置、および焼入方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の1つである焼入装置は、機械加工が施された機械加工部を一部に有するワークに対し焼き入れを実行する焼入装置であって、前記ワークの一部である固定部を固定する固定手段と、高周波によって前記機械加工部に焼き入れを実行する焼入手段と、前記ワークの前記固定部とは異なる部分である変位部を変位させる変位装置と、前記変位装置を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、焼き入れ前の前記ワークの歪み量を取得するデータ取得部と、前記歪み量に基づいて、前記変位装置による前記変位部の変位位置を決定する位置決定部と、前記焼入手段による焼き入れ中に前記変位装置を制御して前記変位部を変位させる変位制御部と、を備える。
【0007】
また、上記目的を達成するために、本発明の他の1つである焼入方法は、機械加工が施された機械加工部を一部に有するワークの焼入方法であって、焼き入れ前の前記ワークの歪み量を取得し、前記ワークの一部である固定部を固定手段により固定し、前記ワークの前記固定部とは異なる部分である変位部の変位位置を、前記歪み量に基づいて決定し、焼入手段により前記機械加工部に対し高周波焼き入れを実行し、前記変位部を、変位装置を用いて前記変位位置に変位させる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、焼き入れ後のワーク間の歪み量のバラツキを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】制御装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図4】制御装置の機能構成の別例を示すブロック図である。
【
図5】複数箇所に機械加工部を備えたワークの焼き入れ状態を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る焼入装置、焼入方法の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を説明するために一例を挙示するものであり、本発明を限定する主旨ではない。例えば、以下の実施の形態において示される形状、構造、材料、構成要素、相対的位置関係、接続状態、数値、数式、方法における各段階の内容、各段階の順序などは、一例であり、以下に記載されていない内容を含む場合がある。また、平行、直交などの幾何学的な表現を用いる場合があるが、これらの表現は、数学的な厳密さを示すものではなく、実質的に許容される誤差、ずれなどが含まれる。また、同時、同一などの表現も、実質的に許容される範囲を含んでいる。
【0011】
また、図面は、本発明を説明するために適宜強調、省略、または比率の調整を行った模式的な図となっており、実際の形状、位置関係、および比率とは異なる。また、図中に示す場合があるX軸、Y軸、Z軸は、図の説明のために任意に設定した直交座標を示している。つまりZ軸は、鉛直方向に沿う軸とは限らず、X軸、Y軸は、水平面内に存在するとは限らない。
【0012】
また、以下では複数の発明を一つの実施の形態として包括的に説明する場合がある。また、以下に記載する内容の一部は、本発明に関する任意の構成要素として説明している。
【0013】
図1は、焼入装置100を模式的に示す図である。焼入装置100の焼き入れの対象であるワーク200は、一部に機械加工が施された機械加工部210を有するワーク200であれば特に限定されるものではない。ここで、機械加工部210は、ワーク200に所定の軸を仮想的に設定した場合、当該軸を含む所定の面の一方側、つまり片側に配置される。本実施の形態の場合、ワーク200は、長尺棒状の部材であり、長手方向(図中Z軸方向)に延在する中心軸を含む面(図中YZ平面)の片側であって、長手方向の一端部に機械加工が施されている。具体的に例えば、ワーク200は、ステアリング装置に用いられるラックバー(ラックシャフト)であり、少なくとも一端部の片側にラック歯が機械加工により設けられている。機械加工部210を形成する機械加工の種類は、特に限定されるものではなく、ブローチ加工などの切削加工、研削加工、塑性加工などを含んでいる。また、放電加工、レーザー加工、溶接なども機械加工に含まれる。なお、本実施の形態の場合、ワーク200の両端面にはワーク200の中心軸に延在するネジ穴(不図示)が設けられている。
【0014】
焼入装置100は、ワーク200の機械加工部210に対して焼き入れを実行する装置であって、固定手段110と、焼入手段120と、変位装置130と、制御装置140と、を備えている。
【0015】
固定手段110は、ワーク200の一部である固定部220を固定する。固定手段110が固定する固定部220の場所は、焼入手段120に干渉しない機械加工部210以外の部分であれば特に限定されるものではない。例えば固定手段110は、本実施の形態のように、長尺のワーク200に対し、機械加工部210が設けられている端部とは反対側の端部を固定している。固定手段110は、ワーク200の複数箇所(本実施の形態の場合は二箇所)を固定しても構わない。具体的に固定手段110は、ワーク200の端面に設けられたネジ穴に一部を挿入することによりワーク200を固定する円錐状の第一固定手段111を備えている。また、固定手段110は、第一固定手段111から所定距離離れた箇所の周面を当接状態で固定するいわゆるクランプなどの第二固定手段112を備えている。本実施の形態の場合、第二固定手段112は、ワーク200の長手方向の中央部よりもやや第一固定手段111側に配置されている。固定手段110は、長尺のワーク200の長手方向が鉛直方向(図中Z軸方向)に沿うように、固定手段110が機械加工部210より下方に配置されるようにワーク200を保持している。このように固定手段110が複数箇所でワーク200を固定することにより、変位装置130によるワーク200の一部の変位に抗して固定部220の位置を強固に維持することができる。
【0016】
焼入手段120は、高周波によってワーク200の機械加工部210の焼き入れを実行する装置である。本実施の形態の場合、焼入手段120は、誘導子121と、冷却ジャケット122と、移動手段123と、を備えている。
【0017】
誘導子121は、機械加工部210に高周波を印加するコイル状の部材であり、機械加工部210の周囲を囲むように配置される。本実施の形態の場合、誘導子121は、長手方向において機械加工部210の一部を誘導加熱により加熱する。
【0018】
冷却ジャケット122は、誘導子121によって加熱されたワーク200を冷却して焼き入れを完了させるための部材である。本実施の形態の場合、冷却ジャケット122は、ワーク200の周囲を覆っており、ワーク200の周面に向けてポリマー入りの冷却液が吐出される。誘導子121により加熱されたワーク200は、冷却ジャケット122から吐出される冷却液により冷却され、焼き入れが実行される。冷却ジャケット122の形状は、ワーク200の周囲を覆うものに限定されず、ワーク200に対向して配置されるものでもよい。
【0019】
移動手段123は、ワーク200において、焼入手段120により焼き入れを実行される箇所(以下、「焼入箇所」と言う)を移動させる装置である。本実施の形態の場合、移動手段123は、焼入手段120に備えられ、焼入手段120の誘導子をワーク200の延在方向(図中Z軸方向)に移動させることで、ワーク200における焼入箇所を移動させることができる。移動手段123は、ワーク200の長手方向において、機械加工部210の一端から他端にまで誘導子121を移動させることができる。移動手段123は、さらに、冷却ジャケット122を、誘導子121とともにワーク200の長手方向に移動させることができる。移動手段123は、制御装置140により制御されている。
【0020】
変位装置130は、ワーク200の固定部220とは異なる部分である変位部230を変位させる装置である。変位装置130の構造は、限定されるものではないが、本実施の形態の場合、変位部230を拘束する拘束部材131と、拘束部材131を変位させる変位手段132と、を備えている。変位装置130は、変位手段132によって拘束部材131を所定の座標に移動させることにより変位部230を変位させている。具体的には、第一固定手段111が挿入されるワーク200の端面と反対側に設けられたネジ穴に円錐状の拘束部材131を挿入することにより変位部230を拘束している。ワーク200の長手方向に直交する面内(図中XY面内)において、変位部230を拘束した拘束部材131をX方向、およびY方向に任意に移動させることができる変位手段132によって所定の位置座標に移動させることで変位部230を変位させている。変位手段131としては、送りねじの回転により拘束部材131を直交する方向に任意に変位させるいわゆるXYテーブルを例示することができる。
【0021】
図2は、制御装置140の機能構成を示すブロック図である。制御装置140は、機械加工により機械加工部210を形成した後であって、焼き入れ前のワーク200の歪み量に基づき変位装置130を制御する装置である。制御装置140は、プロセッサを備え、プログラムをプロセッサに実行させることにより実現される処理部として、データ取得部141と、位置決定部142と、変位制御部143と、を備えている。
【0022】
データ取得部141は、機械加工後であって焼き入れ前のワーク200の歪み量を取得する。歪み量の取得先は特に限定されるものではなく、例えば、ワーク200の歪み量を測定する測定装置によりワーク200の歪み量を測定し、測定された歪み量を手入力、可搬メモリなどを介して取得しても構わない。本実施の形態の場合、焼入装置100は、測定装置150を備えている。データ取得部141は、機械加工後であって焼き入れ前のワーク200の歪み量を測定した測定装置150から通信により歪み量を取得する。
【0023】
本実施の形態の場合、データ取得部141が取得する歪み量とは、ワーク200の機械加工部210の機械加工前後でのズレ量である。本実施の形態の場合、ワーク200がラックバーであり、機械加工部210であるラック歯部の歪み量が測定される。ワーク200がラックバーである場合、ラックバーの非機械加工部である軸部の中心軸に対するラック歯部の中心軸のズレ量を測定し、ラック歯部に形成される複数のラック歯の歯先が並ぶ面において歯が並ぶ方向(ワーク200の長手方向)に直交する方向(図中Y軸方向)の歪み量である横歪み量と、歯先が並ぶ面と直交する方向(図中X軸方向)の歪み量である縦歪み量を取得する。
【0024】
位置決定部142は、データ取得部141が取得したワーク200の歪み量に基づいて、変位装置130による変位部230の変位位置を決定する。ここで、発明者は、機械加工により発生したワーク200の歪み量をパラメータとする所定の計算式(所定の関数)により、焼き入れ後のワーク200の歪み量を所定の範囲内に収めることができる変位量を導出できることを見いだしている。これは、機械加工後のワーク200の曲がり量(歪み量)が残留応力と相関があるとの発明者の知見に基づく。また、変位させる方向は、最も歪み量が大きい方向の反対側であることも見いだしている。ワーク200がラックバーである場合、データ取得部141が取得した横歪み量に基づき算出された横変位量(図中Y軸方向の変位量)、および縦歪み量に基づき算出された縦変位量(図中X軸方向の変位量)に基づき位置決定部142は、変位部230の変位位置を決定する。
【0025】
なお、位置決定部142は、計算式に基づき変位部230の変位位置を決定するのではなく、歪み量と変位量とが関係づけられたテーブルに基づき変位位置を決定しても構わない。
【0026】
変位制御部143は、焼入手段120による焼き入れ中に変位装置130を制御し、位置決定部142により決定された変位量となるように変位部230を変位させる。本実施の形態の場合、変位量と変位方向は、ワーク200の延在方向に直交する面における変位部230の座標として決定されており、変位制御部143は、取得した座標に変位装置130の拘束部材131が位置するように変位手段132を制御する。
【0027】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、本明細書において記載した構成要素を任意に組み合わせて、また、構成要素のいくつかを除外して実現される別の実施の形態を本発明の実施の形態としてもよい。また、上記実施の形態に対して本発明の主旨、すなわち、請求の範囲に記載される文言が示す意味を逸脱しない範囲で当業者が思いつく各種変形を施して得られる変形例も本発明に含まれる。
【0028】
例えば、固定手段110は、
図1に示すように変位装置130に対して片側に配置されるのではなく、
図3に示すように、変位装置130の一方に配置した第一固定手段111によりワーク200の固定部220を固定し、変位装置130の他方(第一固定手段111の反対側)に配置した第二固定手段112によりワーク200の固定部220を固定しても構わない。つまり、ワーク200の対向する両端部である固定部220を固定手段110によりそれぞれ固定し、二つの固定部220の間に配置される変位部230を変位装置130により変位させても構わない。
【0029】
また、移動手段123は、ワーク200に対して焼入手段120(誘導子121)を移動させるのではなく、焼入手段120に対してワーク200を移動することにより、ワーク200の焼入箇所を移動させてもよい。この場合、移動手段123は、ワーク200の固定手段110に設けられ、固定手段110がワーク200を固定した状態で、固定手段110をワーク200の延在方向(図中Z軸方向)に移動させることで、ワーク200における焼入箇所を移動させることができる。
【0030】
また、位置決定部142は、焼入手段120により焼き入れるワーク200の焼入箇所に応じた複数の変位位置を決定しても構わない。つまりワーク200に対して焼入手段120の誘導子121を移動させる場合、移動手段123により移動する誘導子121のワーク200に対する位置に応じた複数の変位位置を決定しても構わない。また、焼入手段120に対してワーク200を移動する場合、移動手段123により移動する固定手段110の焼入手段120に対する位置に応じた複数の変位位置を決定しても構わない。制御装置140は、
図4に示すように移動手段123を制御する移動制御部144を処理部として備え、変位制御部143は、移動制御部144から取得する誘導子121または固定手段110の位置情報に基づき、ワーク200の焼入箇所に応じて変位部230を予め決定した変位位置に変位させてもよい。具体的には、ワーク200に対して焼入手段120の誘導子121を移動させる場合、誘導子121が移動する区間を複数区間設定し、区間1に対応する第一変位位置、区間2に対応する第二変位位置などを決定し、誘導子121が該当区間を通過する際は、対応する変位位置に変位部230を変位させてもよい。また、焼入手段120に対してワーク200を移動する場合、固定手段110が移動する区間を複数区間設定し、区間1に対応する第一変位位置、区間2に対応する第二変位位置などを決定し、固定手段110が該当区間を通過する際は、対応する変位位置に変位部230を変位させてもよい。
【0031】
また、ワーク200は、複数箇所に機械加工部210を備えても構わない。この場合、それぞれの機械加工部210に対して別々に焼き入れを実行し、それぞれの焼入工程において機械加工部210に応じた変位部230を変位させても構わない。例えば、
図5に示すように、ワーク200の延在方向の両端部に第一機械加工部211と第二機械加工部212とがそれぞれ設けられている場合、第一機械加工部211、および第二機械加工部212を焼き入れる前にワーク200の第一機械加工部211における歪み量を測定し、当該歪み量に基づき第一機械加工部211に対応する変位部230を所定位置に変位させながら焼入を行う。次に、ワーク200の第二機械加工部212における歪み量を測定し、当該歪み量に基づき第二機械加工部212に対応する変位部230を所定位置に変位させながら焼入を実行しても構わない。
【0032】
また、焼入手段120は、誘導子121を移動させることなく機械加工部210全体を覆う大きさ(長さ)の誘導子により一括して加熱するものでも構わない。
【0033】
上記実施の形態に係る焼入装置100は、一部に機械加工が施された機械加工部210を有するワーク200に対し焼き入れを実行する焼入装置100であって、ワーク200の一部である固定部220を固定する固定手段110と、高周波によって機械加工部210に焼き入れを実行する焼入手段120と、ワーク200の固定部220とは異なる部分である変位部230を変位させる変位装置130と、変位装置130を制御する制御装置140と、を備え、制御装置140は、焼き入れ前のワーク200の歪み量を取得するデータ取得部141と、前記歪み量に基づいて、変位装置130による変位部230の変位位置を決定する位置決定部142と、焼入手段120による焼き入れ中に変位装置130を制御して変位部230を変位させる変位制御部143と、を備える。
【0034】
この焼入装置100によれば、機械加工の実施後、焼き入れ前のワーク200のそれぞれの歪み量を取得することにより、機械加工によりワーク200に生じた残留応力を推定することができるため、取得した歪み量に応じて焼入時にワーク200の変位部230を拘束して変位させることができる。これにより、材料ロットの変化等、ワーク200の個々の歪み量のバラツキに対してきめ細かな拘束条件で焼き入れを実行することができ、焼き入れ後のワーク200間の歪みのバラツキを可及的に小さく収めることができる。また、焼き入れ後にワーク200の歪みを除去する歪取り工程を省略することも可能となる。
【0035】
また、変位部230の変位位置を予め定められた計算式(関数)、またはテーブルに基づき決定することができるため、熟練した技術を要することなく焼き入れ後のワーク200の歪みを安定して抑制できる。
【0036】
また、焼入装置100は、機械加工部210を形成することにより生じたワーク200の歪み量を測定する測定装置150を備えてもよい。この場合、データ取得部141は、測定装置150からワーク200の歪み量を直接取得しても構わない。
【0037】
これによれば、ワーク200の歪み量の測定と焼き入れとを一連の作業で実行することができ、ワーク200の取り違え、歪み量の入力ミスなどを防止することができる。
【0038】
また、ワーク200の焼入箇所を移動させる移動手段123を備え、位置決定部142は、前記焼入箇所に応じた複数の変位位置を決定し、変位制御部143は、前記焼入箇所に応じて変位部230の変位位置を変化させても構わない。
【0039】
これによれば、移動手段123と変位装置130とを同期させることによりワーク200の残留応力の状態に対応して変位部230を変位させることができ、焼き入れ後のワーク200の歪みを小さく抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本願発明は、部分的に機械加工が施されたワークの機械加工部を焼き入れする際に利用可能である。
【符号の説明】
【0041】
100 焼入装置
110 固定手段
111 第一固定手段
112 第二固定手段
120 焼入手段
121 誘導子
122 冷却ジャケット
123 移動手段
130 変位装置
131 拘束部材
132 変位手段
140 制御装置
141 データ取得部
142 位置決定部
143 変位制御部
144 移動制御部
150 測定装置
200 ワーク
210 機械加工部
211 第一機械加工部
212 第二機械加工部
220 固定部
230 変位部