(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053149
(43)【公開日】2024-04-15
(54)【発明の名称】ドラムブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
F16D 65/09 20060101AFI20240408BHJP
F16D 51/22 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
F16D65/09 Z
F16D51/22 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159213
(22)【出願日】2022-10-03
(71)【出願人】
【識別番号】000000516
【氏名又は名称】曙ブレーキ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒木 健
【テーマコード(参考)】
3J058
【Fターム(参考)】
3J058AA03
3J058AA08
3J058AA17
3J058AA24
3J058AA28
3J058AA30
3J058AA33
3J058AA37
3J058BA48
3J058CA07
3J058CC66
3J058DA18
3J058DD06
3J058DD21
3J058FA07
(57)【要約】
【課題】支持ピンの軸部がウェブ孔及びレバー孔から抜け出ることを防止できる、ドラムブレーキ装置を提供する。
【解決手段】ブレーキシュー2aのウェブ7aにパーキングレバーキ3を回動可能に支持する支持ピン4として、ウェブ孔17及びレバー孔18のそれぞれにウェブ孔17側から挿通された軸部21と、該軸部21と一体に構成され、ウェブ孔17の内径よりも大きな外径を有し、かつ、ウェブ7aに対向配置された頭部22とを有するものを使用し、軸部21を、ウェブ孔17に遊嵌された遊嵌部23と、レバー孔18に圧入された圧入部24とを有するものとする。パーキングレバー3の回動時における、ウェブ孔17及び遊嵌部23の当接位置(X)と、パーキングレバー3及びストラット5の当接位置(R)とは、支持ピン4の軸方向にずれて配置される。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェブをそれぞれ有する1対のブレーキシューと、
前記1対のブレーキシューのうちの一方のブレーキシューの前記ウェブに対して、回動可能に支持されたパーキングレバーと、
前記一方のブレーキシューの前記ウェブに対し前記パーキングレバーを回動可能に支持した支持ピンと、
前記1対のブレーキシューのうちの他方のブレーキシューと前記パーキングレバーとの間に掛け渡されたストラットと、を備え、
前記一方のブレーキシューの前記ウェブは、ウェブ孔を有し、
前記パーキングレバーは、レバー孔を有し、
前記支持ピンは、前記ウェブ孔及び前記レバー孔のそれぞれに前記ウェブ孔側から挿通された軸部と、該軸部と一体に構成され、前記ウェブ孔の内径よりも大きな外径を有し、かつ、前記一方のブレーキシューの前記ウェブに対向配置された頭部とを有し、
前記軸部は、前記ウェブ孔に遊嵌された遊嵌部と、前記レバー孔に圧入された圧入部とを有し、
前記パーキングレバーの回動時における、前記ウェブ孔及び前記遊嵌部の当接位置と、前記パーキングレバー及び前記ストラットの当接位置とが、前記支持ピンの軸方向にずれて配置されている、
ドラムブレーキ装置。
【請求項2】
前記遊嵌部は、前記圧入部の外径よりも大きな外径を有しており、
前記遊嵌部の外周面と前記圧入部の外周面とは、前記レバー孔に前記圧入部を圧入する際にストッパとして機能する段差面を介してつながっている、
請求項1に記載したドラムブレーキ装置。
【請求項3】
前記遊嵌部の外径は、前記ウェブ孔の内径よりも少しだけ小さく、
前記遊嵌部の軸方向寸法は、前記一方のブレーキシューの前記ウェブの板厚よりも少しだけ大きい、
請求項1又は請求項2に記載したドラムブレーキ装置。
【請求項4】
前記軸部は、軸方向に関して前記頭部の反対側に、前記レバー孔から突出した突出端部を有し、
前記突出端部には、前記軸部が前記レバー孔及び前記ウェブ孔から抜け出ることを防止する抜け止め部材が取り付けられている、
請求項1に記載したドラムブレーキ装置。
【請求項5】
前記突出端部は、前記抜け止め部材を係止するための括れ部を有する、請求項4に記載したドラムブレーキ装置。
【請求項6】
前記パーキングレバー及び前記一方のブレーキシューの前記ウェブのそれぞれは、前記ストラットに備えられた係合凹部に係合している、請求項1に記載したドラムブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ドラムブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ドラムブレーキ装置は、自己倍力作用を発揮して大きな制動力を得られるなどの理由から、自動車用の制動装置として広く使用されている。
【0003】
ドラムブレーキ装置には、ブレーキペダルによる走行中のブレーキ操作とは別に、自動車を停止状態に維持するために、パーキングブレーキ機構が組み込まれている。
【0004】
パーキングブレーキ機構としては、例えば特開2012-251626号公報(特許文献1)に開示されるように、パーキングケーブルなどを利用してパーキングレバーを回動させることで、1対のブレーキシューを拡開して制動力を得るものが知られている。
【0005】
具体的には、1対のブレーキシューのうちの一方のブレーキシューに対して支持ピンにより回動可能に支持されたパーキングレバーを、パーキングケーブルの牽引などにより回動させる。これにより、ストラットを介して1対のブレーキシューのうちの他方のブレーキシューをブレーキドラムの内周面に押し付けるとともに、支持ピンを介して一方のブレーキシューをブレーキドラムの内周面に押し付ける。
【0006】
図7は、パーキングレバー100の支持構造の従来例を示している。
【0007】
図示の例では、パーキングレバー100の端部とブレーキシュー101を構成するウェブ102の端部とを重ね合わせた状態で、支持ピン103により、パーキングレバー100をウェブ102に対して回動可能に支持している。
【0008】
パーキングレバー100は、支持ピン103を挿通するためのレバー孔104を端部に有している。ウェブ102は、支持ピン103を挿通するためのウェブ孔105を端部に有している。
【0009】
支持ピン103は、軸部106と頭部107とからなる。そして、このうちの軸部106を、レバー孔104及びウェブ孔105のそれぞれに、レバー孔104側(
図7の下側)から挿通し、レバー孔104に対して軸部106を圧入するとともに、ウェブ孔105に対して軸部106を遊嵌している。このため、図示の例では、支持ピン103は、パーキングレバー100と一体になって、ウェブ102に対して相対回動する。
【0010】
頭部107は、軸部106の基端側(
図7の下側)に備えられており、レバー孔104の内径よりも大きな外径を有している。このため、頭部107は、軸部106をレバー孔104及びウェブ孔105のそれぞれにレバー孔104側から挿通した際にも、レバー孔104及びウェブ孔105に挿通されず、パーキングレバー100のうちでウェブ102とは反対側を向いた面(
図7の下側面)に対向配置されている。
【0011】
軸部106のうちで、ウェブ孔105から突出した先端側部分には、Eリングなどの抜け止め部材108が係止されている。抜け止め部材108は、自動車の走行時に加わる振動などによって、軸部106がウェブ孔105及びレバー孔104から抜け出ることを防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前記
図7に示した従来例においては、ブレーキシュー101をブレーキドラムの内周面に押し付けた際に、抜け止め部材108がウェブ102に強く押し付けられて損傷し、軸部106がウェブ孔105及びレバー孔104から抜け出る可能性がある。
【0014】
すなわち、前記
図7に示した従来例では、支持ピン103を構成する軸部106を、ウェブ孔105に遊嵌している。このため、ブレーキシュー101をブレーキドラムの内周面に押し付けた際にウェブ102から軸部106への反力(FP)の入力位置となる、ウェブ孔105と軸部106との当接位置(X)と、パーキングレバー100の回動支点となるパーキングレバー100と図示しないストラットとの当接位置(R)とが、支持ピン103の軸方向にずれて(HPだけオフセットして)配置されている。
【0015】
これにより、支持ピン103には、ウェブ102から軸部106に作用する反力(FP)によって、軸部106の先端側部分(
図7の上側部分)をウェブ孔105に引き込むようなモーメント(MP=FP・HP)が作用することになる。この結果、軸部106の先端側部分に係止した抜け止め部材108がウェブ102に強く押し付けられて損傷する可能性があり、軸部106がウェブ孔105及びレバー孔104から抜け出る可能性がある。
【0016】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものであって、支持ピンの軸部がウェブ孔及びレバー孔から抜け出ることを防止できる、ドラムブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本開示の一態様にかかるドラムブレーキ装置は、1対のブレーキシューと、パーキングレバーと、支持ピンと、ストラットと、を備える。
前記1対のブレーキシューのそれぞれは、ウェブを有している。
前記パーキングレバーは、前記1対のブレーキシューのうちの一方のブレーキシューの前記ウェブに対して、回動可能に支持されている。
前記支持ピンは、前記一方のブレーキシューの前記ウェブに対し前記パーキングレバーを回動可能に支持している。
前記ストラットは、前記1対のブレーキシューのうちの他方のブレーキシューと前記パーキングレバーとの間に掛け渡されている。
【0018】
前記一方のブレーキシューの前記ウェブは、ウェブ孔を有している。
前記パーキングレバーは、レバー孔を有している。
前記支持ピンは、前記ウェブ孔及び前記レバー孔のそれぞれに前記ウェブ孔側から挿通された軸部と、該軸部と一体に構成され、前記ウェブ孔の内径よりも大きな外径を有し、かつ、前記一方のブレーキシューの前記ウェブに対向配置された頭部とを有している。
前記軸部は、前記ウェブ孔に遊嵌された遊嵌部と、前記レバー孔に圧入された圧入部とを有している。
また、前記パーキングレバーの回動時における、前記ウェブ孔及び前記遊嵌部の当接位置と、前記パーキングレバー及び前記ストラットの当接位置とが、前記支持ピンの軸方向にずれて配置されている。
【0019】
本開示の一態様にかかるドラムブレーキ装置では、前記遊嵌部を、前記圧入部の外径よりも大きな外径を有するものとし、前記遊嵌部の外周面と前記圧入部の外周面とを、前記レバー孔に前記圧入部を圧入する際にストッパとして機能する段差面を介してつなげることができる。
本開示の一態様にかかるドラムブレーキ装置では、前記遊嵌部を、前記圧入部の外径と同じ大きさの外径を有するものとしても良いし、前記圧入部の外径よりも小さな外径を有するものとしても良い。
また、本開示の一態様にかかるドラムブレーキ装置では、前記遊嵌部の外径を、前記ウェブ孔の内径よりも少しだけ小さくし、前記遊嵌部の軸方向寸法を、前記一方のブレーキシューの前記ウェブの板厚よりも少しだけ大きくすることができる。
【0020】
本開示の一態様にかかるドラムブレーキ装置では、前記軸部を、軸方向に関して前記頭部の反対側に、前記レバー孔から突出した突出端部を有するものとし、前記突出端部に、前記軸部が前記レバー孔及び前記ウェブ孔から抜け出ることを防止する抜け止め部材を取り付けることができる。
この場合には、前記突出端部を、前記抜け止め部材を係止するための括れ部を有するものとすることができる。
あるいは、本開示の一態様にかかるドラムブレーキ装置では、前記軸部が前記レバー孔及び前記ウェブ孔から抜け出ることを、前記レバー孔と前記圧入部との圧入のみによって防止することもできる。この場合には、前記突出端部及び前記抜け止め部材を省略することもできるし、前記抜け止め部材のみを省略することもできる。
【0021】
本開示の一態様にかかるドラムブレーキ装置では、前記パーキングレバー及び前記一方のブレーキシューの前記ウェブのそれぞれを、前記ストラットに備えられた係合凹部に係合させることができる。
【発明の効果】
【0022】
本開示の一態様にかかるドラムブレーキ装置によれば、支持ピンの軸部がウェブ孔及びレバー孔から抜け出ることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、実施の形態の第1例にかかるドラムブレーキ装置を、軸方向外側(車両の外側)から見た部分切断正面図である。
【
図3】
図3は、実施の形態の第1例にかかるディスクブレーキ装置のうちホイールシリンダを含む範囲を、バッキングプレートを省略して、軸方向内側(車両の幅方向中央側)から見た背面図である。
【
図4】
図4は、実施の形態の第1例のディスクブレーキ装置からパーキングレバー及び支持ピンを取り出して示す模式図である。
【
図7】
図7は、支持ピンによるパーキングレバーの支持構造の従来例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[実施の形態の第1例]
実施の形態の第1例について、
図1~
図6を用いて説明する。
【0025】
本例では、リーディングトレーリング式のドラムブレーキ装置1に、本開示の技術思想を適用した場合について説明する。ただし、本開示の技術思想は、リーディングトレーリング式に限らず、デュオサーボ式など、その他の形式のドラムブレーキ装置に適用することができる。
【0026】
本例のドラムブレーキ装置1は、1対のブレーキシュー2a、2bと、パーキングレバー3と、支持ピン4と、ストラット5とを有する。1対のブレーキシュー2a、2b、パーキングレバー3、支持ピン4、及びストラット5は、パーキングブレーキ機構6を構成する。
【0027】
〈ブレーキシュー〉
ブレーキシュー2a、2bのそれぞれは、円弧板形状をなすウェブ7a、7bと、ウェブ7a、7bの外周縁に沿って固定された部分円筒形状をなすリム8a、8bと、リム8a、8bの外周面に固定されたライニング9a、9bとから構成されている。
【0028】
1対のブレーキシュー2a、2bは、自動車の前後方向(
図1の左右方向)に離間して配置され、バッキングプレート10の外側面(車両の幅方向に関して外側を向いた面、
図2の上側面)に対し、シューホールド部材11a、11bを利用して、拡開可能に支持されている。ライニング9a、9bのそれぞれの外周面は、部分円筒面状に湾曲しており、車輪とともに回転する図示しないブレーキドラムの内周面に沿って配置される。
【0029】
ウェブ7a、7bの一方側(
図1の上側)の端部同士の間には、バッキングプレート10の外側面に固定されたホイールシリンダ12が配置されている。ウェブ7a、7bのそれぞれの一方側の端部は、ホイールシリンダ12に嵌装されたピストン13の先端部に突き当てられている。
【0030】
これに対し、ウェブ7a、7bの他方側(
図1の下側)の端部同士の間には、バッキングプレート10の外側面に固定されたアンカ14が配置されている。ウェブ7a、7bのそれぞれの他方側の端部は、アンカ14の側面に係合している。
【0031】
本例のドラムブレーキ装置1は、サービスブレーキを作動させる際に、マスタシリンダからホイールシリンダ12にブレーキオイルを供給することで、ホイールシリンダ12に嵌装された1対のピストン13により、ウェブ7a、7bの一方側の端部を互いに離れる方向に押動する。そして、1対のブレーキシュー2a、2bを、アンカ14との当接部を起点として回動させる。これにより、ライニング9a、9bを、ブレーキドラムの内周面に押し付け、サービスブレーキによる制動力を得る。
【0032】
また、ウェブ7a、7bの一方側部分同士の間には、リターンスプリング15が掛け渡されている。リターンスプリング15は、ブレーキドラムの内周面からライニング9a、9bを離間させるように、ウェブ7a、7bの一方側部分に引張方向の弾力を付与する。
【0033】
これに対し、ウェブ7a、7bの他方側の端部同士の間には、引張コイルスプリング16が掛け渡されている。引張コイルスプリング16は、アンカ14の側面からウェブ7a、7bのそれぞれの他方側の端部が離間しないように、ウェブ7a、7bの他方側の端部に引張方向の弾力を付与する。
【0034】
1対のブレーキシュー2a、2bのうち、一方のブレーキシュー2aのウェブ7aは、支持ピン4を挿通するためのウェブ孔17を一方側の端部に有する。ウェブ孔17は、ウェブ7aを板厚方向に貫通した円形状の貫通孔である。なお、一方のブレーキシュー2aは、自動車の前進時にトレーリングシューとして機能するブレーキシューである。
【0035】
〈パーキングレバー〉
パーキングレバー3は、一方のブレーキシュー2aのウェブ7aとバッキングプレート10との間に配置されており、ウェブ7aの一方側の端部に対し、支持ピン4を利用して回動可動に支持されている。
【0036】
パーキングレバー3は、プレス加工や鍛造加工などにより造られた金属製のレバーである。また、本例では、パーキングレバー3は、ウェブ7aの板厚t7よりも大きな板厚t3を有している(t3>t7)。ただし、パーキングレバー3の板厚は、ウェブ7aの板厚よりも小さくても良いし、ウェブ7aの板厚と同じでも良い。
【0037】
パーキングレバー3は、ホイールシリンダ12の近傍に配置される一方側の端部(
図1の上側端部)に、支持ピン4を挿通するためのレバー孔18を有する。レバー孔18は、パーキングレバー3を板厚方向に貫通した円形状の貫通孔である。本例では、レバー孔18の内径d
18は、ウェブ孔17の内径d
17よりも小さい(d
18<d
17)。
【0038】
パーキングレバー3は、アンカ14の近傍に配置される他方側の端部(
図1の下側端部)に、パーキングケーブル19の端部を係合するための係合部20を有する。係合部20は、パーキングレバー3の他方側の端部を、パーキングレバー3の板厚方向(
図1の裏面側)に略U字状に折り曲げて構成されている。パーキングケーブル19は、パーキングブレーキを作動させる際に、
図4の左向きに牽引される。パーキングケーブル19の牽引方式は、特に問わず、手動式でも良いし、電動式でも良い。
【0039】
〈支持ピン〉
支持ピン4は、一方のブレーキシュー2aのウェブ7aに対してパーキングレバー3を回動可能に支持している。
【0040】
支持ピン4は、金属製で、軸部21と、該軸部21の基端側部分につながった頭部22とからなる。軸部21と頭部22とは、一体に構成されている。
【0041】
軸部21は、ウェブ孔17及びレバー孔18のそれぞれに、ウェブ孔17側(本例では車両の幅方向に関して外側、
図6の上側)から挿通されている。別の言い方をすれば、軸部21は、先端側部分をバッキングプレート10の外側面に向けて、ウェブ孔17及びレバー孔18に挿通されている。
【0042】
軸部21は、ウェブ7aの板厚t7とパーキングレバー3の板厚t3の合計(t7+t3)よりも大きい軸方向寸法L21を有している(L21>t7+t3)。このため、軸部21の先端側部分は、レバー孔18から軸方向に突出している。
【0043】
本例では、軸部21は、段付形状を有している。軸部21の外径は、後述する括れ部27が形成された部分を除いて、基端側から先端側(車両の幅方向に関して外側から内側)に向かうにつれて段階的に小さくなる。具体的には、軸部21の外径は、括れ部27が形成された部分を除いて、3段階に変化している。
【0044】
軸部21は、基端側から順に、遊嵌部23、圧入部24、及び突出端部25を有している。このため、遊嵌部23、圧入部24、突出端部25の順に、それぞれの外径が段階的に小さくなる(遊嵌部の外径D23>圧入部24の外径D24>突出端部25の外径D25)。ただし、遊嵌部の外径と圧入部の外径を互いに同じとしても良いし、遊嵌部の外径を圧入部の外径よりも小さくしても良い。
【0045】
遊嵌部23は、軸部21の基端側部分に備えられており、頭部22につながっている。このような遊嵌部23は、ウェブ孔17に遊嵌されている。つまり、遊嵌部23は、ウェブ孔17に緩く内嵌されている。このため、遊嵌部23の外径D23は、ウェブ孔17の内径d17よりも少しだけ小さい(D23>d17)。また、遊嵌部23の軸方向寸法L23は、ウェブ7aの板厚t7よりも少しだけ大きい(L23>t7)。
【0046】
圧入部24は、軸部21の中間部に備えられており、レバー孔18に圧入されている。このため、圧入部24の外径D24は、レバー孔18の内径d18よりも少しだけ大きい(D24>d18)。また、圧入部24の軸方向寸法L24は、パーキングレバー3の板厚t3よりも少しだけ大きい(L24>t3)。このため、圧入部24の先端部は、レバー孔18から突出している。ただし、圧入部の軸方向寸法は、パーキングレバーの板厚よりも小さくしても良いし、パーキングレバーの板厚と同じとしても良い。なお、本例では、圧入部の外周面を円筒面状とした場合について説明したが、圧入部の外周面は、円筒面状に限定されず、例えば鋸歯状のセレーションとしても良い。圧入部の外周面を鋸歯状のセレーションとした場合には、支持ピンの圧入部をレバー孔に圧入した際に、圧入部の外周面のセレーションをレバー孔の内周面に食い込ませることができるため、パーキングレバーに対する支持ピンの相対回転を、圧入だけ行う場合に比べてより有効に防止できる。
【0047】
本例では、圧入部24の外径D
24を遊嵌部23の外径D
23よりも小さくしている(D
24<D
23)。このため、遊嵌部23の外周面と圧入部24の外周面とは、円輪状の段差面26を介してつながっている。段差面26は、圧入部24をレバー孔18に圧入した際に、パーキングレバー3のウェブ7a側を向いた面(本例では車両の幅方向に関して外側を向いた面、
図6の上側面)のうちレバー孔18の開口縁部に突き当たり、圧入部24がレバー孔18にそれ以上押し込まれることを防止する、ストッパ面として機能する。
【0048】
突出端部25は、軸方向に関して頭部22の反対側に位置する、軸部21の先端側部分に備えられており、レバー孔18から突出している。
【0049】
突出端部25は、圧入部24につながった基端側部分に括れ部27を有する。括れ部27の外径は、突出端部25のうちで括れ部27から軸方向に外れた部分(先端側部分)の外径よりも小さい。
【0050】
括れ部27には、抜け止め部材28が取り付けられている。本例では、括れ部27に、Cクリップ(リテーナ)やEリングなどの抜け止め部材28が係止されている。これにより、軸部21が、レバー孔18及びウェブ孔17から、
図6の上側に抜け出ることを防止している。なお、
図3には、抜け止め部材28として、Cクリップを使用した場合を示している。
【0051】
頭部22は、軸部21と一体に備えられており、円板形状を有している。頭部22は、軸部21よりも大きな外径D22を有している。具体的には、頭部22は、軸部21のうちで最も外径の大きい遊嵌部23の外径D23よりも十分に大きな外径D22を有している(D22>D23)。
【0052】
また、頭部22は、ウェブ孔17の内径d
17よりも大きな外径D
22を有している(D
22>d
17)。このため、頭部22は、軸部21をウェブ孔17及びレバー孔18それぞれにウェブ孔17側から挿通する際にも、ウェブ孔17及びレバー孔18に挿通されず、ウェブ7aのうちでパーキングレバー3とは反対側を向いた面(本例では車両の幅方向に関して外側を向いた面、
図6の上側面)に対向配置されている。
【0053】
頭部22の外径D22及び頭部22の板厚t22のそれぞれの具体的な値については、支持ピン4を構成する金属材料の種類、ウェブ7aから遊嵌部23に加わる反力(FP)の大きさ、ウェブ孔17及び遊嵌部23の当接位置(X)とパーキングレバー3及びストラット5の当接位置(R)とのオフセット量(HP)などに応じて、適宜決定することができる。なお、頭部22の形状は、円板形状に限らず、ウェブ孔17に挿通不能であれば、その他の形状を採用することもできる。
【0054】
〈ストラット〉
ストラット5は、他方のブレーキシュー2bを構成するウェブ7bとパーキングレバー3との間に掛け渡されている。具体的には、ストラット5は、ホイールシリンダ12の近傍に配置され、ウェブ7bの一方側部分とパーキングレバー3の一方側部分との間に掛け渡されている。
【0055】
ストラット5は、一方側の端部(
図2の右側の端部)に第1係合凹部29を有し、他方側の端部(
図2の左側の端部)に第2係合凹部30を有する。
【0056】
本例では、第1係合凹部29には、パーキングレバー3の一方側部分の内周側部が係合するだけでなく、ウェブ7aの一方側部分の内周側部が係合する。このため、第1係合凹部29は、ウェブ用凹部31とレバー用凹部32とから構成されている。第2係合凹部30には、ウェブ7bの一方側部分の内周側部が係合する。
【0057】
本例では、ストラット5は、ライニング9a、9bの摩耗に応じてブレーキシュー2a、2bの位置を自動調整する、自動隙間調整機能を備えている。このため、ストラット5は、複数の部材から構成されている。具体的には、ストラット5は、第1係合凹部29を備えたアジャスタソケット33と、第2係合凹部30を備えたアジャスタナット34と、該アジャスタナット34と螺合し、かつ、歯車部を備えたアジャスタスクリュ35とからなる。
【0058】
ストラット5は、1対のブレーキシュー2a、2bの拡開時に、アジャスタスクリュ35の歯車部と、他方のブレーキシュー2bのウェブ7bに支持されたアジャスタレバー36との係合に基づいて、アジャスタスクリュ35をアジャスタナット34に対して相対回転させ、全長を伸長させる。これにより、ライニング9a、9bとブレーキドラムの内周面との間の隙間を調整する。ただし、ストラットとして、自動隙間調整機能を備えないものを使用することもできる。
【0059】
本例では、パーキングブレーキを作動させる際に、パーキングケーブル19を牽引し、パーキングレバー3を、支持ピン4を中心に
図1の時計方向に回動させる。これにより、ストラット5を介して、他方のブレーキシュー2bを拡開させ、ライニング9bの外周面をブレーキドラムの内周面に押し付ける。パーキングケーブル19を更に牽引すると、パーキングレバー3は、パーキングレバー3とストラット5との当接部を支点に回動する。具体的には、パーキングレバー3の一方側部分の内周側部とストラット5に備えられた第1係合凹部29のレバー用凹部32の底部との当接位置(R)を支点として回動する。これにより、一方のブレーキシュー2aを拡開させ、ライニング9aの外周面をドラムブレーキの内周面に押し付ける。なお、パーキングレバー3とストラット5との当接位置(R)は、支持ピン4の軸方向に関して、パーキングレバー3の板厚の範囲内に存在する。
【0060】
本例では、支持ピン4を構成する遊嵌部23をウェブ孔17に遊嵌しているため、パーキングブレーキを作動させて、一方のブレーキシュー2aのライニング9aをブレーキドラムの内周面に押し付けた際に、ウェブ孔17と遊嵌部23との当接位置(X)に、ウェブ7aから遊嵌部23に反力(FP)が入力される。このため、パーキングレバー3の回動時における、パーキングレバー3及びストラット5の当接位置(R)と、ウェブ孔17及び遊嵌部23の当接位置(X)とは、支持ピン4の軸方向にずれて(HP分だけオフセットして)配置されている。
【0061】
本例のドラムブレーキ装置1の場合にも、パーキングレバー3とストラット5との当接位置(R)と、ウェブ孔17と遊嵌部23との当接位置(X)とが、支持ピン4の軸方向にずれて配置されているため、支持ピン4には、ウェブ7aから遊嵌部23に作用する反力(FP)によってモーメント(MP=FP・HP)が作用する。
【0062】
ただし、本例のドラムブレーキ装置1では、軸部21と一体に構成され、ウェブ孔17の内径よりも大きな外径を有する頭部22を、ウェブ7aに対向配置しているため、前記モーメント(MP)が作用した場合に、ウェブ7aに対し、軸部21に対して係止した抜け止め部材28ではなく、頭部22が押し付けられる。このため、抜け止め部材28の損傷を防止することができ、軸部21がレバー孔18及びウェブ孔17から抜け出ることを有効に防止できる。
【0063】
また、本例では、遊嵌部23の外周面と圧入部24の外周面とを、円輪状の段差面26を介してつなげている。このため、圧入部24をレバー孔18に圧入する際に、段差面26を、圧入部24がレバー孔18にそれ以上押し込まれることを防止する、ストッパ面として機能させることができる。したがって、治具などを使用せずに、レバー孔18に対する圧入部24の圧入量を適正にできるため、組立工数の低減を図ることができる。
【0064】
さらに、本例では、ストラット5の一方側の端部に備えられた第1係合凹部29に、パーキングレバー3の一方側部分の内周側部、及び、ウェブ7aの一方側部分の内周側部を、それぞれ係合させている。このため、ウェブ7a及びパーキングレバー3が相対的に傾くことを、第1係合凹部29によって抑制することができる。したがって、前記モーメント(MP)によって、頭部22がウェブ7aに押し付けられる力を小さく抑えることができる。これにより、頭部22の直径や厚さを小さくすることが可能になる。
【0065】
また、本例では、軸部21の突出端部25に抜け止め部材28を取り付けているため、自動車の走行時に加わる振動などによって、軸部21がウェブ孔17及びレバー孔18から抜け出ることを防止できる。さらに本例では、抜け止め部材28を突出端部25に設けた括れ部27に係止する構成を採用しているため、抜け止め部材28の取付作業の作業性を向上できるとともに、抜け止め部材28が突出端部25から軸方向に脱落することを有効に防止できる。
【0066】
以上、本開示の実施の形態について説明したが、本開示の技術思想は、実施の形態の構造に限定されず、適宜変更することができる。例えば、パーキングレバーやストラットの構造及び形状は、実施の形態で示した構造及び形状に限定されず、適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 ドラムブレーキ装置
2a、2b ブレーキシュー
3 パーキングレバー
4 支持ピン
5 ストラット
6 パーキングブレーキ機構
7a、7b ウェブ
8a、8b リム
9a、9b ライニング
10 バッキングプレート
11a、11b シューホールド部材
12 ホイールシリンダ
13 ピストン
14 アンカ
15 リターンスプリング
16 引張コイルスプリング
17 ウェブ孔
18 レバー孔
19 パーキングケーブル
20 係合部
21 軸部
22 頭部
23 遊嵌部
24 圧入部
25 突出端部
26 段差面
27 括れ部
28 抜け止め部材
29 第1係合凹部
30 第2係合凹部
31 ウェブ用凹部
32 レバー用凹部
33 アジャスタソケット
34 アジャスタナット
35 アジャスタスクリュ
36 アジャスタレバー
100 パーキングレバー
101 ブレーキシュー
102 ウェブ
103 支持ピン
104 レバー孔
105 ウェブ孔
106 軸部
107 頭部
108 抜け止め部材