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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053171
(43)【公開日】2024-04-15
(54)【発明の名称】加工装置および加工方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/4097 20060101AFI20240408BHJP
   G05B 19/4093 20060101ALI20240408BHJP
   B23Q 15/00 20060101ALI20240408BHJP
   B24B 17/06 20060101ALI20240408BHJP
   B23Q 35/128 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
G05B19/4097 C
G05B19/4093 H
B23Q15/00 305C
B23Q15/00 307Z
B24B17/06 A
B24B17/06 B
B23Q35/128 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159250
(22)【出願日】2022-10-03
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 浩一郎
【テーマコード(参考)】
3C049
3C269
【Fターム(参考)】
3C049AA02
3C049AA13
3C049AC02
3C049BA07
3C049BB02
3C049BC02
3C049CB01
3C269AB07
3C269BB01
3C269CC02
3C269EF02
3C269EF70
3C269JJ10
3C269JJ18
3C269JJ19
3C269MN09
3C269MN26
3C269MN42
(57)【要約】
【課題】低コストで高精度に加工する。
【解決手段】加工装置100は、マスターワークの表面形状および加工対象ワークの表面形状を計測する計測部110と、計測されたマスターワークの表面形状に基づき、工具130の基準加工軌道を補正して補正後加工軌道を生成し、補正後加工軌道と、計測された加工対象ワークの表面形状との差分を算出する演算部210と、算出された差分に基づいて加工条件を変更し、補正後加工軌道に基づいて加工対象ワークを工具130により加工する加工部220と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスターワークの表面形状および加工対象ワークの表面形状を計測する計測部と、
計測された前記マスターワークの表面形状に基づき、工具の基準加工軌道を補正して補正後加工軌道を生成し、前記補正後加工軌道と、計測された前記加工対象ワークの表面形状との差分を算出する演算部と、
算出された前記差分に基づいて加工条件を変更し、前記補正後加工軌道に基づいて前記加工対象ワークを前記工具により加工する加工部と、
を備える、加工装置。
【請求項2】
前記加工条件は、前記加工対象ワークへの前記工具の目標押し付け力を含む、請求項1に記載の加工装置。
【請求項3】
前記加工条件は、前記工具の送り速度を含む、請求項1に記載の加工装置。
【請求項4】
前記加工条件は、前記工具の実加工軌道を含む、請求項1に記載の加工装置。
【請求項5】
前記基準加工軌道および前記補正後加工軌道において、軌道上の各点に対して前記工具の押し付け方向および送り方向が設定されており、
前記演算部は、
前記基準加工軌道を前記マスターワークの表面形状に沿うように補正して前記補正後加工軌道を生成し、
前記補正後加工軌道上の各点の前記工具の押し付け方向を前記マスターワークの表面に直交するように設定し、
前記補正後加工軌道上の各点の前記工具の送り方向を前記マスターワークの表面に平行になるように設定する、請求項1から4のいずれか1項に記載の加工装置。
【請求項6】
マスターワークの表面形状および加工対象ワークの表面形状を計測し、
計測した前記マスターワークの表面形状に基づき、工具の基準加工軌道を補正して補正後加工軌道を生成し、
生成した前記補正後加工軌道と、計測した前記加工対象ワークの表面形状との差分を算出し、
算出した前記差分に基づいて加工条件を変更し、前記補正後加工軌道に基づいて前記加工対象ワークを前記工具により加工する、加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、加工装置および加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
加工装置において加工対象ワークの三次元形状を計測し、計測された三次元形状と、設計形状とを比較して、加工対象ワークに対し、切削、研磨等の加工を施す技術が広く利用されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-346899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来技術において、三次元形状の計測は、絶対位置決め精度に依存する。このため、加工精度を高くしようとすると、絶対位置決め精度の高い加工装置が必要となり、加工装置に要するコストが高くなるという問題が生じる。
【0005】
そこで、本開示は、このような課題に鑑み、低コストで高精度に加工することが可能な加工装置および加工方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る加工装置は、マスターワークの表面形状および加工対象ワークの表面形状を計測する計測部と、計測されたマスターワークの表面形状に基づき、工具の基準加工軌道を補正して補正後加工軌道を生成し、補正後加工軌道と、計測された加工対象ワークの表面形状との差分を算出する演算部と、算出された差分に基づいて加工条件を変更し、補正後加工軌道に基づいて加工対象ワークを工具により加工する加工部と、を備える。
【0007】
また、加工条件は、加工対象ワークへの工具の目標押し付け力を含んでもよい。
【0008】
また、加工条件は、工具の送り速度を含んでもよい。
【0009】
また、加工条件は、工具の実加工軌道を含んでもよい。
【0010】
また、基準加工軌道および補正後加工軌道において、軌道上の各点に対して工具の押し付け方向および送り方向が設定されており、演算部は、基準加工軌道をマスターワークの表面形状に沿うように補正して補正後加工軌道を生成し、補正後加工軌道上の各点の工具の押し付け方向をマスターワークの表面に直交するように設定し、補正後加工軌道上の各点の工具の送り方向をマスターワークの表面に平行になるように設定してもよい。
【0011】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る加工方法は、マスターワークの表面形状および加工対象ワークの表面形状を計測し、計測したマスターワークの表面形状に基づき、工具の基準加工軌道を補正して補正後加工軌道を生成し、生成した補正後加工軌道と、計測した加工対象ワークの表面形状との差分を算出し、算出した差分に基づいて加工条件を変更し、補正後加工軌道に基づいて加工対象ワークを工具により加工する。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、低コストで高精度に加工することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本実施形態に係る加工装置を説明する図である。
図2図2は、本実施形態に係る基準加工軌道を説明する図である。
図3図3は、演算部による補正処理の一例を説明する第1の図である。
図4図4は、演算部による補正処理の一例を説明する第2の図である。
図5図5は、演算部による差分算出処理の一例を説明する第1の図である。
図6図6は、演算部による差分算出処理の一例を説明する第2の図である。
図7図7は、演算部による差分算出処理の一例を説明する第3の図である。
図8図8は、本実施形態に係る加工方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について詳細に説明する。実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。また本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0015】
[加工装置100]
図1は、本実施形態に係る加工装置100を説明する図である。図1に示すように、加工装置100は、計測部110と、中央制御部120と、工具130とを含む。なお、図1において、破線の矢印は、信号の流れを示す。
【0016】
計測部110は、マスターワークの表面形状および加工対象ワークの表面形状を計測する。マスターワークは、設計形状との誤差が公差内であるワークである。つまり、マスターワークは、設計形状を有するワークとも言える。加工対象ワークは、加工装置100によって加工されるワークである。本実施形態において、加工対象ワークは、例えば、荒切削や溶接が為された後のワークである。
【0017】
計測部110は、例えば、三次元計測機である。計測部110は、接触式三次元計測機であってもよいし、非接触式三次元計測機であってもよい。接触式三次元計測機は、プローブをワークに接触させて、ワークの表面形状を三次元で計測する。非接触式三次元計測機は、レーザー等の光を照射して、ワークの表面形状を三次元で計測する。
【0018】
本実施形態において、計測部110は、複数の計測点それぞれの三次元位置座標を計測する。
【0019】
中央制御部120は、CPU(中央処理装置)を含む半導体集積回路で構成される。中央制御部120は、ROMからCPUを動作させるためのプログラムやパラメータ等を読み出す。中央制御部120は、ワークエリアとしてのRAMや他の電子回路と協働して加工装置100全体を管理および制御する。
【0020】
本実施形態において、中央制御部120は、演算部210、加工部220として機能する。
【0021】
演算部210は、加工対象ワークに対する加工軌道と、マスターワークと加工対象ワークとの差分(余肉)を演算する。加工部220は、演算部210によって演算された加工軌道および差分に基づいて、加工対象ワークを工具130により加工する。演算部210および加工部220の具体的な処理については、後述する。
【0022】
工具130は、加工部220による制御指令に基づいて、加工対象ワークを加工する。ここで、加工とは、例えば、切削、研磨等の仕上げ加工である。
【0023】
[演算部210および加工部220]
続いて、本実施形態に係る演算部210および加工部220について説明する。以下、演算部210による処理、および、加工部220による処理をこの順に説明する。
【0024】
[演算部210による処理]
まず、演算部210は、基準加工軌道を補正して補正後加工軌道を作成する補正後加工軌道生成処理を行う。そして、演算部210は、生成した補正後加工軌道と、計測部110によって計測された加工対象ワークの表面形状との差分を算出する差分算出処理を行う。
【0025】
[補正後加工軌道生成処理]
図2は、本実施形態に係る基準加工軌道RTを説明する図である。なお、本実施形態の図2図3図5では、垂直に交わるX軸、Y軸、Z軸を図示の通り定義している。
【0026】
演算部210は、まず、加工対象ワークTWにおける加工範囲MAを決定する。そして、図2に示すように、演算部210は、加工範囲MAを網羅する基準加工軌道RTを作成する。基準加工軌道RTは、加工範囲MAを一定の間隔で所定方向に移動する工具130の移動経路を示す。なお、本実施形態において、工具130は、図2中、X軸方向、または、Y軸方向に移動する。また、本実施形態において、工具130は、図2中、-Z軸方向に押し付けられる。
【0027】
基準加工軌道RTは、複数の点Rpからなり、各点Rpに対し、三次元位置座標Rs、工具130の押し付け方向Rv、および、工具130の送り方向Ruが設定されている。本実施形態において、押し付け方向Rvと、送り方向Ruとは直交関係にある。例えば、押し付け方向Rvは、図2中、-Z軸方向である。また、送り方向Ruは、図2中、X軸方向またはY軸方向である。また、後述する補正後加工軌道CTにおいて、補正後加工軌道CTの各点Cpに対し、三次元位置座標Cs、工具130の押し付け方向Cv、および、工具130の送り方向Cuが設定される。本実施形態において、押し付け方向Cvと、送り方向Cuとは直交関係にある。基準加工軌道RT、および、補正後加工軌道CTにおいて、押し付け方向Rv、Cvおよび送り方向Ru、Cuは、例えば、単位ベクトルで表される。
【0028】
基準加工軌道RTは、例えば、設計形状(CADモデル)に基づいて作成される。
【0029】
続いて、演算部210は、計測部110によって計測されたマスターワークMWの表面形状に基づき、基準加工軌道RTを補正して、補正後加工軌道CTを生成する。本実施形態において、演算部210は、基準加工軌道RTをマスターワークMWの表面形状に沿うように補正して補正後加工軌道CTを生成する。
【0030】
以下、演算部210による補正後加工軌道CTの生成処理の一例を説明する。本実施形態において、演算部210は、基準加工軌道RTを構成する複数の点Rpについて、下記に示す補正処理を施して、複数の点Cpからなる補正後加工軌道CTを生成する。基準加工軌道RTと同様に、補正後加工軌道CT上の複数の点Cpに対し、三次元位置座標Cs、工具130の押し付け方向Cv、および、工具130の送り方向Cuが設定される。
【0031】
[補正処理]
図3図4は、演算部210による補正処理の一例を説明する図である。
【0032】
本実施形態において、計測部110は、マスターワークMWの表面形状として、複数の計測点それぞれの三次元位置座標を取得する。なお、計測部110による計測点の間隔は、基準加工軌道RT上の各点Rpの間隔よりも狭い。
【0033】
図3に示すように、演算部210は、まず、マスターワークMWの複数の計測点のうち、基準加工軌道RTの点Rpの近傍の点群Pkを抽出する。演算部210は、例えば、仮想直線VL1との間の距離が所定距離以内の点群Pkを抽出する。仮想直線VL1は、基準加工軌道RTの点Rpを通り、点Rpに設定された押し付け方向Rv(図3中、Z軸方向)に延在する直線である。
【0034】
そして、図4に示すように、演算部210は、点群Pkが含まれる近似平面MPを算出する。近似平面MPは、マスターワークMWの表面を示す。例えば、演算部210は、点群Pkの代表点Pcを算出し、代表点Pcを通る平面を近似平面MPとする。代表点Pcは、近似平面MPに含まれる点群Pkの座標の平均値を有する点である。なお、近似平面MPの算出方法は、他の既存の様々な技術を利用してもよい。
【0035】
続いて、演算部210は、補正後加工軌道CT上の点Cpに設定される押し付け方向Cvとして、近似平面MPに直交する方向を設定する。
【0036】
また、演算部210は、近似平面MPと仮想直線VL2との交点の座標を、補正後加工軌道CT上の点Cpの三次元位置座標Csとして設定する。仮想直線VL2は、基準加工軌道RTの点Rpを通る、点Rpの押し付け方向Rvに延在する直線である。つまり、補正後加工軌道CT上の点Cpは、基準加工軌道RT上の点RpがマスターワークMW上に投影された点である。
【0037】
また、演算部210は、補正後加工軌道CT上の点Cpに設定される送り方向Cuとして、押し付け方向Cvと直交する方向を設定する。つまり、送り方向Cuは、近似平面MPと平行になるように設定される。
【0038】
このように、演算部210は、補正処理において、まず、基準加工軌道RTを構成する点Rp近傍の点群Pkの近似平面MPを算出する。そして、演算部210は、近似平面MPに直交する方向を押し付け方向Cvとする。また、演算部210は、押し付け方向Cvと直交する方向を送り方向Cuとする。さらに、演算部210は、近似平面MPと仮想直線VL2との交点の座標を三次元位置座標Csとする。そして、演算部210は、算出した押し付け方向Cv、送り方向Cu、および、三次元位置座標Csを補正後加工軌道CTの点Cpに設定する。こうして、演算部210は、基準加工軌道RTを構成する複数の点Rpそれぞれについて、上記に示す補正処理を施して、複数の点Cpからなる補正後加工軌道CTを生成する。
【0039】
[差分算出処理]
演算部210は、補正後加工軌道CTと、計測部110によって計測された加工対象ワークTWの表面形状との差分を算出する。
【0040】
本実施形態において、計測部110は、加工対象ワークTWの表面形状として、複数の計測点それぞれの三次元位置座標を取得する。なお、計測部110による計測点の間隔は、基準加工軌道RT上の各点Rpの間隔よりも狭い。
【0041】
図5図7は、演算部210による差分算出処理の一例を説明する図である。
【0042】
図5に示すように、演算部210は、まず、加工対象ワークTWの複数の計測点のうち、補正後加工軌道CTの点Cpの近傍の点群Hkを抽出する。演算部210は、例えば、仮想直線VL3との間の距離が所定距離以内の点群Hkを抽出する。仮想直線VL3は、補正後加工軌道CTの点Cpを通り、点Cpに設定された押し付け方向Cv(図5中、Z軸方向)に延在する直線である。
【0043】
そして、図6図7に示すように、演算部210は、点群Hkが含まれる近似平面TPを算出する。近似平面TPは、加工対象ワークTWの表面を示す。例えば、演算部210は、上記した近似平面MPの算出方法と同様に、点群Hkの代表点Hcを算出し、代表点Hcを通る平面を近似平面TPとする。代表点Hcは、近似平面TPに含まれる点群Hkの座標の平均値を有する点である。なお、近似平面TPの算出方法は、上記の補正処理で説明したように、他の既存の様々な技術を利用してもよい。
【0044】
続いて、演算部210は、補正後加工軌道CT上の各点Cpと、近似平面TPとの間の距離を差分wとして算出する。例えば、演算部210は、補正後加工軌道CT上の点Cpと、点Cpを近似平面TP上に投影した点Tpとの間の距離を差分wとして算出する。演算部210は、近似平面TPと仮想直線VL4との交点の座標を点Tpの三次元位置座標Tsとする。仮想直線VL4は、補正後加工軌道CTの点Cpを通る、点Cpの押し付け方向Cvに延在する直線である。
【0045】
[加工部220による処理]
加工部220は、補正後加工軌道CTと近似平面TPとの差分w、つまり、補正後加工軌道CTと加工対象ワークTWの表面形状との差分wに基づいて加工条件を変更し、補正後加工軌道CTに沿って加工対象ワークTWを工具130により加工する。
【0046】
本実施形態において、加工部220は、補正後加工軌道CT上の各点Cpにおいて、力制御および位置制御を行う。加工部220は、例えば、工具130に印加されるZ軸方向の反力を力センサで検出し、反力が目標押し付け力Fとなるように力制御する。また、加工部220は、補正後加工軌道CTの各点Cpに設定された三次元位置座標Csおよび送り方向Cuに基づいて、位置制御を行う。
【0047】
[加工条件変更処理]
また、本実施形態において、加工部220は、上記差分wに基づいて、加工条件を変更する加工条件変更処理を行う。加工条件は、加工対象ワークTWへの工具130の目標押し付け力F、工具130の送り速度V、または、実加工軌道である。以下、各加工条件の変更について具体的に説明する。
【0048】
[目標押し付け力F]
加工部220は、図6に示すように、点Cpと近似平面TPとの差分wが、正であり(w>0)、かつ、公差dより大きい場合、目標押し付け力Fを差分wに応じて変化させる。一方、点Cpと近似平面TPとの差分wが正である(w>0)ものの公差d以下である場合、もしくは、図7に示すように、点Cpと近似平面TPとの差分wが負である場合(w<0)、加工部220は、目標押し付け力Fをゼロに設定する。
【0049】
[送り速度V]
加工部220は、点Cpと近似平面TPとの差分wが正であり(w>0)、かつ、公差dより大きい場合、下記式(1)に示すように、送り速度Vを変更する。
V´ = V - K(w-d) …式(1)
上記式(1)において、Kは、ゲインである。
【0050】
加工部220が工具130の送り速度Vを、式(1)に示す送り速度V´とすることで、差分wが大きいほど送り速度Vを小さくでき、加工精度の低下を抑制することが可能となる。なお、送り速度Vは、公差dに応じて設定される上限速度以下としてもよい。これにより、加工対象ワークTWを削りすぎてしまうリスクを低減することができる。
【0051】
[実加工軌道]
上記では、加工部220が、実加工軌道として補正後加工軌道CTに沿って工具130を移動させる場合を例に挙げた。しかし、加工部220は、点Cpと近似平面TPとの差分wに基づいて、実加工軌道を変更してもよい。例えば、加工部220は、点Cpと近似平面TPとの差分wが正である場合(w>0)、補正後加工軌道CTよりも加工対象ワークTWに近い位置に実加工軌道を変更する。
【0052】
[加工方法]
続いて、上記加工装置100を用いた加工対象ワークTWの加工方法について説明する。図8は、本実施形態に係る加工方法の処理の流れを示すフローチャートである。図8に示すように、本実施形態に係る加工方法は、第1計測工程S110、補正後加工軌道生成工程S120、第2計測工程S130、差分算出工程S140、判定工程S150、加工工程S160を含む。以下、各工程について説明する。
【0053】
[第1計測工程S110]
計測部110は、マスターワークMWの表面形状を計測する。
【0054】
[補正後加工軌道生成工程S120]
演算部210は、第1計測工程S110において計測したマスターワークMWの表面形状に基づき、基準加工軌道RTを補正して補正後加工軌道CTを生成する。
【0055】
[第2計測工程S130]
計測部110は、加工対象ワークTWの表面形状を計測する。
【0056】
[差分算出工程S140]
演算部210は、補正後加工軌道生成工程S120において生成した補正後加工軌道CTと、第2計測工程S130において計測した加工対象ワークTWの表面形状(近似平面TP)との差分を算出する。
【0057】
[判定工程S150]
演算部210は、補正後加工軌道CT上のすべての点Cpと近似平面TPとの差分wが、正であり、かつ、公差d以内である(0<w≦d)か、もしくは、差分wが負である(w<0)か否かを判定する。その結果、差分wが、正であり、かつ、公差d以内である、もしくは、差分が負であると判定した場合(S150におけるYES)、演算部210は、当該加工方法を終了する。一方、補正後加工軌道CT上の点Cpと近似平面TPとの差分wのうち、公差d超である正の差分wがあると判定した場合(S150におけるNO)、演算部210は、加工工程S160に処理を移す。
【0058】
[加工工程S160]
加工部220は、差分算出工程S140において算出した差分に基づいて加工条件を変更し、補正後加工軌道CTに沿って加工対象ワークTWを工具130により加工する。そして、演算部210は、第2計測工程S130からの処理を繰り返す。
【0059】
以上説明したように、本実施形態に係る加工装置100およびこれを用いた加工方法は、計測部110および演算部210を備え、演算部210は、計測されたマスターワークMWの表面形状に基づき補正後加工軌道CTを生成する。これにより、演算部210は、補正後加工軌道CTを実際のマスターワークMWの表面形状に近づけることができる。
【0060】
そして、演算部210は、補正後加工軌道CTと、計測された加工対象ワークTWの表面形状との差分wを算出する。これにより、演算部210は、マスターワークMWの表面形状と、加工対象ワークTWの表面形状との差分wを把握することができる。したがって、計測部110の絶対位置決め精度が低い場合であっても、演算部210は、計測部110の繰り返し位置決め精度に応じた精度で、マスターワークMWの表面形状と、加工対象ワークTWの表面形状との差分wを把握することができる。
【0061】
なお、絶対位置決め精度は、アクチュエータを目標点で停止させる動作をさせた場合の、目標点と実際の停止位置との差の絶対値である。差の絶対値が小さいほど、絶対位置決め精度は高い。また、繰り返し位置決め精度は、アクチュエータを目標点で停止させる動作を複数回させた場合の、実際の停止位置のバラツキである。バラツキが小さいほど、繰り返し位置決め精度は高い。
【0062】
このため、計測部110に要求される絶対位置決め精度を低くすることができ、加工装置100は、マスターワークMWの表面形状と、加工対象ワークTWの表面形状との差分wを低コストで高精度に把握することが可能となる。
【0063】
また、上記したように、演算部210は、基準加工軌道RTをマスターワークMWの表面形状に沿うように補正して補正後加工軌道CTを生成する。これにより、演算部210は、マスターワークMWの表面形状と実質的に等しい補正後加工軌道CTを生成することができる。したがって、演算部210は、マスターワークMWの表面形状と、加工対象ワークTWの表面形状との差分wを高精度に把握することが可能となる。
【0064】
そして、加工部220は、算出された差分wに基づいて加工条件を変更し、補正後加工軌道CTに沿って加工対象ワークTWを工具130により加工する。計測部110と同様に、加工部220は、工具130の繰り返し位置決め精度に応じた精度で加工対象ワークTWを加工することができる。このため、工具130に要求される絶対位置決め精度を低くすることができ、加工装置100は、低コストで高精度に加工対象ワークTWを加工することが可能となる。例えば、工具130として、安価な垂直多関節型ロボットアームを採用することができる。
【0065】
また、上記したように、加工部220は、力制御を行う。これにより、加工部220は、工具130の絶対位置決め精度が低くても、反力に基づいて加工できるため、加工対象ワークTWの形状をマスターワークMWの形状に近づけることが可能となる。
【0066】
また、上記したように、演算部210は、補正後加工軌道CT上の各点Cpの工具130の押し付け方向Cvを加工対象ワークTWの表面に直交するように設定し、かつ、各点Cpの工具130の送り方向Cuを加工対象ワークTWの表面に平行になるように設定する。これにより、加工部220による力制御と位置制御との干渉を防止することができる。
【0067】
また、上記したように、加工部220は、差分wに基づいて加工対象ワークTWへの工具130の目標押し付け力Fを変更する。これにより、加工部220は、加工対象ワークTWの余肉を好適に除去することができる。
【0068】
また、上記したように、加工部220は、差分wに基づいて工具130の送り速度Vを変更する。これにより、加工部220は、加工対象ワークTWの余肉を好適に除去することができる。
【0069】
また、上記したように、加工部220は、差分wに基づいて実加工軌道を変更する。これにより、加工部220は、加工対象ワークTWの余肉を好適に除去することができる。
【0070】
以上、添付図面を参照しながら実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0071】
例えば、上記実施形態において、加工部220が、加工条件として、目標押し付け力F、送り速度V、または、実加工軌道を変更する場合を例に挙げた。しかし、加工部220は、目標押し付け力F、送り速度V、および、実加工軌道のうちの複数の加工条件を変更してもよい。
【符号の説明】
【0072】
100 加工装置
110 計測部
130 工具
210 演算部
220 加工部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8