(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024053180
(43)【公開日】2024-04-15
(54)【発明の名称】木造建築物の施工方法
(51)【国際特許分類】
E04G 21/14 20060101AFI20240408BHJP
E04B 1/35 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
E04G21/14
E04B1/35 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159264
(22)【出願日】2022-10-03
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】谷 敏光
【テーマコード(参考)】
2E174
【Fターム(参考)】
2E174AA04
2E174BA03
2E174CA02
2E174EA03
(57)【要約】
【課題】作業性および作業員の安全性が向上し、軸組の倒壊を防止できる木造建築物の施工方法を提供する。
【解決手段】木造建築物の柱11を立設する柱立設工程を有し、柱立設工程の前に、柱の柱頭部付近の高さに仮設床20を所定の施工領域全面に構築する仮設床構築工程と、仮設床における柱が立設される位置に開口部41を形成する開口部形成工程と、を備え、柱立設工程では、開口部の上方から柱を挿通させて該柱を立設させる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木造建築物の柱を立設する柱立設工程を有し、
前記柱立設工程の前に、前記柱の柱頭部付近の高さに仮設床を所定の施工領域全面に構築する仮設床構築工程と、
前記仮設床における前記柱が立設される位置に開口部を形成する開口部形成工程と、を備え、
前記柱立設工程では、前記開口部の上方から前記柱を挿通させて該柱を立設させることを特徴とする木造建築物の施工方法。
【請求項2】
前記仮設床は、前記柱頭部よりも高い位置に設ける請求項1に記載の木造建築物の施工方法。
【請求項3】
前記柱は、前記仮設床の下方に配される仮設材から支持を取る請求項1または請求項2に記載の木造建築物の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木造建築物の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、大規模木造建築物において、軸組の建方作業を行う際は、1本1本の柱位置それぞれに単独足場を設けて作業を行っていた(例えば、特許文献1参照。)。そうすると、足場が作業エリア内で飛び飛びに配設されることになってしまっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、単独足場を複数設けて軸組の建方作業を行うと、足場上の作業範囲が狭いため、吊荷が迫ってきた時に逃げ場がなく、また、作業がしづらく、作業員の安全性の面でも不安があった。また、柱の建込みごとに単独足場を所定位置に盛り替える作業が発生し、その際に、柱に接触して傷付けてしまう虞もあった。さらに、柱は基礎の上に置かれるだけで固定されるものではなく自立しないため、所定期間は控えを取る必要があるが、控えが邪魔になり作業性が低下したり、控えが外れて柱が倒壊したりする虞もあった。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、作業性および作業員の安全性が向上し、軸組の倒壊を防止できる木造建築物の施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る木造建築物の施工方法は、木造建築物の柱を立設する柱立設工程を有し、前記柱立設工程の前に、前記柱の柱頭部付近の高さに仮設床を所定の施工領域全面に構築する仮設床構築工程と、前記仮設床における前記柱が立設される位置に開口部を形成する開口部形成工程と、を備え、前記柱立設工程では、前記開口部の上方から前記柱を挿通させて該柱を立設させることを特徴とする。
【0007】
この発明によれば、木造の柱の立設(柱の建方)作業をする前に、柱の施工領域全面に仮設床を構築することで、作業員が広い仮設床上で安全に作業を行うことができる。また、柱を立設する際に、仮設床の所定の位置を開口させることで開口部を形成し、当該開口部の上方から柱を挿入することで柱を容易に所定位置に立設させることができる。結果として、作業性および作業員の安全性が向上し、かつ、柱などの軸組の倒壊を防止できる。
【0008】
また、本発明に係る木造建築物の施工方法は、前記仮設床が、前記柱頭部よりも高い位置に設けてもよい。
【0009】
この発明によれば、仮設床を柱頭部よりも高い位置に設けることにより、柱を立設させた際に柱頭部が仮設床から突出しない。そのため、立設した柱に付随した作業を行うまでは開口部を閉塞して仮設床を復帰させることができ、当該開口部から転落したりすることなく作業員が安全に作業することができる。
【0010】
また、本発明に係る木造建築物の施工方法は、前記柱が、前記仮設床の下方に配される仮設材から支持を取ってもよい。
【0011】
この発明によれば、柱を立設する際、仮設床を作るためにその下方には仮設材が組まれているため、当該仮設材から控えを取って柱を支持することができ、軸組が倒壊することを容易かつ確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、作業性および作業員の安全性が向上し、軸組の倒壊を防止できる木造建築物の施工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態に係る木造建築物の施工方法を説明する鉛直断面図である。
【
図3】柱の建方を説明する図であり、仮設床上方から柱を建込む状態を示す部分斜視図である。
【
図5】柱の建方を説明する図であり、下階の建方が完了した状態の斜視図である。
【
図6】柱の建方を説明する図であり、柱の頂部に大斗を取り付けた状態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態による木造建築物の施工方法について、
図1~
図6に基づいて説明する。なお、本実施形態では、多層構造の木造建築物の軸組の建方工事について説明する。
【0015】
図1に示すように、多層構造の木造建築物1の柱10は、下層階の木造の柱11と、上層階の木造の柱12と、を備えている。柱11は、基礎13の上に立設されている。基礎13は、コンクリート造でも木造でもよい。柱12は、柱11の上方に設けられた地垂木50の上面に取り付けられた柱盤51上に立設されている。また、柱11,11同士の間には、木造の梁15(
図5参照)が架設されている。
【0016】
次に、柱10の建方工事の方法について説明する。
図1に示すように、柱11(柱10)を立設する位置に基礎13を施工する。基礎13の施工が完了した後、柱10の建方工事を行う領域全面に仮設床20を設置する工事を行う(仮設床構築工程)。
【0017】
仮設床20を設置するには、まず、柱10の建方工事を行う領域全面に対応した位置に仮設材21を用いて仮設足場22を組み立てる。仮設足場22は、柱10の建方工事の際に作業員が配置する箇所に設置する。具体的には、柱10が立設される位置の側方の直近に設置する。
【0018】
仮設足場22を設置した後、仮設材21の上端に仮設床20を設置する。
図2に示すように、仮設床20は、柱10の建方工事を行う領域全面に設ける。仮設床20は、例えば作業員が乗っても問題無い強度を備えた木製の板材30を敷き詰めて構成する。板材30は、仮設床20を設置している間は固定されている固定床31と、柱10や梁15などの設置工事の際は着脱可能な着脱床32と、で構成されている。仮設床20は、柱11の上端よりもやや高い位置(本実施形態では、約50mm高い位置)に設置する。
【0019】
固定床31は、仮設床20の周縁部および着脱床32の周縁部に設置されている。着脱床32は、柱10や梁15などが設置される領域に設けられている。着脱床32は、固定床31に対して容易に着脱できるように構成されている。仮設床20の周縁部には、安全柵33を取り付ける。安全柵33は、例えば単管手摺とネットを仮設床20の周縁部に立設して構成する。
【0020】
仮設床20の設置が完了した後、下層階の柱11の建方工事を行う。
図3、
図4に示すように、下層階の柱11の建方工事を行う際は、まず、柱11を立設する位置に対応した着脱床32を一時的に取り外す。着脱床32が取り外された領域に開口部41が形成される(開口部形成工程)。開口部41が形成された後、開口部41の上方から柱11を挿通させる。柱11が開口部41から挿通されて、基礎13上に立設されたら、柱11の控え42を周囲の仮設材21から取る。控え42は、例えば、柱11の周縁を囲むように設けた柱支持部材と、該柱支持部材と仮設材21との間を連結する連結部材と、で構成される。柱支持部材および連結部材は、例えば、金属製のものであるが、材質はこだわらない。柱支持部材が金属製の場合は、柱支持部材と柱11との間にウレタンやスポンジなどの緩衝材を挟んでおくと、柱11に傷が付くのを防止できる。控え42を設けることで、一時的に柱11を支持固定し、柱11の倒壊を防止する。柱11が立設された後、取り外していた着脱床32を元の位置に復旧する。この柱11の立設作業を、全ての柱11について繰り返して行う(柱立設工程)。
【0021】
図5に示すように、全ての柱11が立設された後、梁15の取り付け作業を行う。まず、梁15を設置する領域の着脱床32を一時的に取り外す。着脱床32が取り外された領域に開口部43が形成された後、開口部43の上方から梁15を挿通させる。梁15が開口部43から挿通されて、隣り合う柱11,11間に嵌合させることで梁15の設置が完了する。梁15が取り付けられた後、取り外していた着脱床32を元の位置に復旧する。なお、柱11の頂部には、梁15と嵌合する切り欠きが形成されており、梁15は隣り合う柱11,11に両端部を嵌合させることで、柱11に梁15を支持固定させる。
【0022】
柱11および梁15の設置が完了した後、次に上層階の軸組の建方工事を行う。
図6に示すように、柱12などの軸組の建方工事を行う前に、柱11の頂部に大斗14を取り付ける。大斗14を設置するには、柱11の上方にある着脱床32を取り外し、当該柱11の頂部に大斗14を取り付ける。大斗14を取り付けたら、開口部41を塞ぐ着脱床45を設置する。なお、大斗14を取り付けると、仮設床20の上面よりも大斗14が突出するため、取り外した着脱床32とは異なる形状の着脱床45を設置する。
図6は、全ての柱11の頂部に大斗14を取り付けた状態である。
【0023】
全ての柱11の頂部に大斗14の取り付けが完了した後、上層階の組み物52および軸組53を取付け、さらに地垂木50上に柱盤51まで取り付けたら、上層階の柱12などの軸組の立設工事を行う。
【0024】
図1に示すように、大斗14の上方に連結して肘木や間斗束などの組み物52を取り付ける。さらに、天井格子、肘木、尾垂木、垂木掛け、隅木などの軸組53を取付けた後、地垂木50を取り付ける。続いて、地垂木50の上面に柱盤51を取り付ける。柱盤51まで取り付けた後、地垂木50上より建方を行う領域全面に対応した位置に仮設材21を用いて仮設足場22を組み立てる。仮設足場22は、柱12などの軸組の建方工事の際に作業員が配置する箇所などに設置する。具体的には、柱12が立設される位置の側方の直近に設置する。仮設足場22を設置した後、仮設材21の上端に上層階軸組建方用の仮設床60を設置する。
【0025】
上層階軸組建方用の仮設床60を設置した後、下層階の柱11の立設作業と同様の工程で柱12の立設工事を行う。その際、柱12の下端は柱盤51に連結するようにして設置する。柱12の立設作業を、全ての柱12について繰り返して行う。また、仮設床60の構造は、下層階の仮設床20と同様の構造を採用している。仮設床60の着脱床を適宜着脱させながら柱12の立設作業を行う。
【0026】
全ての柱・梁の設置が終了したら、仮設床20,60や仮設材21,仮設足場22を撤去することで工事が完了となる。なお、本実施形態では、上層階の柱12より上方の屋根部分の建方工事の説明は省略する。
【0027】
本実施形態では、木造建築物1の柱10を立設する柱立設工程を有し、柱立設工程の前に、柱11の柱頭部付近の高さに仮設床20を所定の施工領域全面に構築する仮設床構築工程と、仮設床20における柱11が立設される位置に開口部41を形成する開口部形成工程と、を備え、柱立設工程では、開口部41の上方から柱11を挿通させて該柱11を立設するように構成した。
【0028】
この発明によれば、木造の柱11の立設(柱の建方)作業をする前に、柱11の施工領域全面に仮設床20を構築することで、作業員が広い仮設床20上で安全に作業を行うことができる。また、柱11を立設する際に、仮設床20の所定の位置を開口させることで開口部41を形成し、当該開口部41の上方から柱11を挿入することで柱11を容易に所定位置に立設させることができる。結果として、作業性および作業員の安全性が向上し、かつ、柱11や梁15などの軸組の倒壊を防止できる。
【0029】
また、仮設床20を柱11の頂部よりも高い位置に設けたため、柱11を立設させた際に柱頭部が仮設床20から突出しない。そのため、立設した柱11に付随した作業を行うまでは開口部41を閉塞して仮設床20を復帰させることができ、当該開口部41から転落したりすることなく作業員が安全に作業することができる。また、仮設床20における柱11および梁15が配される位置を着脱床32として構成したため、必要なタイミングに必要か箇所のみ開口部を形成することができるため、作業員の安全性をより高めることができる。
【0030】
また、柱11を立設する際、仮設床20の下方に配される仮設材21から控え42を取って一時的に柱11を支持固定した。このように、柱11を立設する際、仮設床20を作るために該仮設床20の下方に設置した仮設材21に、容易に控え42を取り付けて柱11を支持することができる。結果として、柱11や梁15などの軸組が倒壊することを容易かつ確実に防止するとともに柱11の垂直精度を確保することができる。
【0031】
以上、本発明に係る木造建築物の施工方法の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0032】
例えば、本実施形態では、仮設床20の設置高さを下層階の柱11の頂部よりも約50mm高い位置に設置したが、仮設床20の設置高さは変えてもよく、柱11の頂部よりも若干低くてもいいし、頂部よりも高い場合でもその高さは50mmに限らず任意に設定できるものである。
【0033】
例えば、本実施形態では、柱11の控え42を近接する仮設材21に連結する構成を説明したが、控え42の設置方法はこれ以外の構成であってもよい。
【符号の説明】
【0034】
1…木造建築物
10(11,12)…柱
20,60…仮設床
41…開口部
43…開口部